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特開2022-31509アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物及びそれを含有する前立腺癌の医薬製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031509
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物及びそれを含有する前立腺癌の医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/121 20060101AFI20220210BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 31/4402 20060101ALI20220210BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220210BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220210BHJP
   A61P 5/28 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
A61K31/121
A61K31/381
A61K31/4402
A61P35/00
A61P13/08
A61P5/28
A61K9/08
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/06
A61K9/10
A61K9/14
A61K9/70 405
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212689
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2017062557の分割
【原出願日】2017-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2016063542
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】特許業務法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝上 敦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 享子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】泉 浩二
(57)【要約】
【課題】前立腺癌のために用いられ、アンドロゲン受容体の活性化を抑制し、アンドロゲン依存的又は非依存的な前立腺癌増殖の抑制に有効で、AR-V7が発現していてもその作用を抑制し、抗癌剤耐性の細胞株に対しても有効なアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物、及びそれを用いた前立腺癌の医薬製剤を提供する。
【解決手段】アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物は、化学式(1)
【化1】
(X-は炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基、Y1-及びY2-は両方又は一方が炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基で他方が水素原子、Z=は結合炭素原子と共にケトン基、チオケトン基、イミノ基、又はオキシム基を成し又は生成する原子若しくは官能基、Y3-は水素原子、パーハロゲノ炭化水素基等)で表わされるα,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体又はその薬学的に許容される塩を含む。前立腺癌の医薬製剤は、この組成物を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1’)
【化1】
(化学式(1’)中、X-は置換基を有していてもよい、ベンゼン環基である炭化水素芳香環基であり、Y-は水素原子、若しくは飽和又は不飽和のパーハロゲノ炭化水素基及び飽和又は不飽和のパーシャルハロゲノ炭化水素基から選ばれるハロゲノ炭化水素基であり、Y-及びY-は一方がX-と同一又は異なる前記炭化水素芳香環基(但し、Y-又はY-が当該炭化水素芳香環基で、かつY-が前記ハロゲノ炭化水素基である場合に限る)若しくは置換基を有していてもよい、ベンゾチオフェン環基である芳香族複素環基(但し、Y-又はY-が当該芳香族複素環基で、かつY-が水素原子である場合に限る)で他方が水素原子であり、Z=は結合炭素原子と共にケトン基を成す原子、若しくは結合炭素原子と共にチオケトン基、又はイミノ基を成す官能基である)で表わされるα,β-不飽和のケトン基含有化合物、若しくはその等価体であるチオケトン基含有化合物、又はイミノ基含有化合物とするケトン誘導体又はその薬学的に許容される塩を含むことを特徴とするアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用であってかつアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌の予防用、治療用、再発防止用、及び/又は再燃防止用のための組成物。
【請求項2】
前記ケトン誘導体が、Y-を、前記水素原子、若しくは炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和又は不飽和のパーフルオロ炭化水素基、炭素数1~14の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和又は不飽和のパーシャルフルオロ炭化水素基から選ばれる前記ハロゲノ炭化水素基とすることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ケトン誘導体が、下記化学式(2-1’)、又は化学式(2-2’)
【化2】
(化学式(2-1’)及び(2-2’)中、R-~R10-、及びR16-~R20-は、それぞれ同一又は異なり、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、水酸基、アミノ基、アンモニウム塩、モノ又はジアルキルアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基又はその塩、アシル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、モノ又はジアルキルアミド基、ハロゲノ基、ニトロ基、ニトリル基、スルホン酸基又はその塩、スルフィン酸又はその塩若しくはそのエステル、スルフェン酸又はその塩若しくはそのエステル、リン酸又はその塩若しくはそのエステルから選ばれる前記置換基、又は水素原子であり、Y-、及びZ-は前記と同じであり、Y-は前記芳香族複素環基である)で表わされることを特徴とする請求項1~2の何れかに記載の組成物。
【請求項4】
前記ケトン誘導体が、前記化学式(2-1’)で表わされ、Y-をC2n+1-(CH-(式中、nは1~12の数、mは0~2の数)で表される前記ハロゲノ炭化水素基とすることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ケトン誘導体が、前記化学式(2-1’)中のR-~R10-のうちR-及び/又はR10-と、前記化学式(2-2’)中のR16-~R20-のうちR16-及び/又はR20-とを水酸基とすることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記ケトン誘導体が、下記化学式で表される化合物[4]又は化合物[6]
【化2-2】
であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6の何れかの組成物を含有することを特徴とする前立腺癌の予防用、治療用、再発防止用、及び/又は再燃防止用である医薬製剤。
【請求項8】
エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏、懸濁剤、液剤、腸溶剤、乳剤、硬膏剤、坐剤、散剤、錠剤、シロップ剤、注射剤、トローチ剤、軟膏剤、ハップ剤、リニメント剤、リモナーデ剤、及びローション剤から選ばれる何れかの剤形であることを特徴とする請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
アンドロゲン受容体活性化の抑制用、アンドロゲン反応性の抑制用、アンドロゲン受容体発現の抑制用、アンドロゲン依存性前立腺癌の増殖抑制用、アンドロゲン非依存性前立腺癌の増殖抑制用、アンドロゲン受容体の転写活性化能の阻害用、AR-V7の抑制用、及び/又は抗癌剤耐性前立腺癌の抑制用であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌であることを特徴とする請求項7~9の何れかに記載の医薬製剤。
【請求項11】
賦型剤、分散剤、充填剤、担体、及び/又は溶剤を含有することを特徴とする請求項7~10の何れかに記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌を予防し又は治療し若しくは再発・再燃を予防するために用いられるものでアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物及びそれを含有する前立腺癌の医薬製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、男性ホルモンであるアンドロゲンが刺激になってアンドロゲン受容体(AR)活性化を介して分化・増殖するホルモン依存症の腫瘍である。
【0003】
前立腺癌の罹患患者は、1999年に約1万8千人であったが、食生活の欧米化や高齢者の増加により、また検査技術向上及び早期発見に伴い、急激な増加傾向にあり、2020年には約10万5千人となると見込まれている。
【0004】
アンドロゲンが減少すると前立腺癌が小さくなることが判って以来、前立腺癌の患者に対して、アンドロゲンを分泌する精巣を外科的に切除する去勢術が行われている。しかし、脳の視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモンと副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンとが分泌され、脳の下垂体に働きかけることにより、精巣でアンドロゲンの一種のテストステロンが多量に分泌され、一方、副腎でも少なからず副腎性アンドロゲンが分泌される。また前立腺癌組織の間質細胞でも副腎性アンドロゲンからテストステロンが合成される。従って去勢術を施しても幾ばくかのテストステロンや副腎性アンドロゲンが存在することから、アンドロゲン依存性の前立腺癌を完治することはできない。
【0005】
そこで、前立腺癌進行ステージが初期から中期である前立腺癌の患者の多くに、アンドロゲンの作用を抑える抗アンドロゲン薬が、去勢術と併用して施される。このようなホルモン療法は、アンドロゲン依存性前立腺癌がアンドロゲン受容体の活性化により異常増殖することから、アンドロゲンを遮断して前立腺癌細胞の増殖を抑制するためのものである。例えば、(1)精巣又は副腎からのテストステロンや副腎性アンドロゲンの分泌を抑制したり、(2)前立腺細胞内において、アンドロゲン依存性転写活性化因子であって、アンドロゲンが前立腺内で変換されたジヒドロテストステロンと結合するアンドロゲン受容体に、阻害剤が競合結合し拮抗作用を示したり、(3)アンドロゲン受容体タンパク質の核内移行を阻害してアンドロゲンの作用発現を抑えたりするものである。このホルモン療法は、よく奏功し、平均生存率は5年を超える。
【0006】
しかしながら、多くの場合、ホルモン療法を始めてから、数年もすると前立腺癌が去勢抵抗性・ホルモン療法抵抗性を持つ。治療開始時期や前立腺癌進行ステージによって個人差があるものの、短い患者で2~3年間、長い患者で7~8年間はホルモン療法が十分に効くが、やがて効かなくなる。そして、前立腺癌はアンドロゲン遮断への応答性を失い、持続的ホルモン療法や再発・再燃により、去勢抵抗性前立腺癌、ホルモン療法耐性癌が高頻度で生じる。この過程は、アンドロゲン受容体(AR)経路が強く関与している。
【0007】
これらの癌の多くは、変異を起こしたアンドロゲン受容体やアンドロゲン非依存的な増殖能を獲得した癌細胞により構成される。
【0008】
ホルモン療法が効かなくなる理由として、前立腺癌の発生や生育に不可欠なアンドロゲン受容体に、遺伝子変異が生じてわずかなアンドロゲンに反応したり、副腎や脂質や間質細胞などからアンドロゲンが生成したりすることが原因だと言われている。さらに、進行前立腺癌患者の血中循環腫瘍細胞におけるアンドロゲン受容体スプライスバリアント7のメッセンジャーRNA(mRNA)であるAR-V7の発現や、アンドロゲン非依存性癌細胞の増殖促進が原因とも言われている。
【0009】
とりわけAR-V7によってコードされるタンパク質は、ジヒドロテストステロンやアンドロゲン受容体阻害薬が結合できる部位が欠損しており、リガンド非依存性の転写因子として、アンドロゲン受容体が常に活性化された状態となっている。AR-V7は、さらにDNAの結合部位や転写活性化部位を有しているものである。そのためAR-V7が発現していると、実質的にアンドロゲン分泌抑制剤やアンドロゲン受容体阻害薬が効かない。
【0010】
このように、これらホルモン療法が効かない前立腺癌の多くは、男性ホルモン非依存的なアンドロゲン受容体の活性化が見られることから、既存の別なホルモン療法剤による抗癌効果は全く期待できない。このようなホルモン療法耐性前立腺癌は、転移性があり、悪性度が非常に高く、予後不良である。
【0011】
ホルモン療法の時点で、又はホルモン療法が効かなくなり前立腺癌が再発・再燃した時点で、去勢抵抗性前立腺癌には、化学療法としてタキサン系抗癌剤が使用される。このような抗癌剤は、アンドロゲン受容体を競合阻害するものでなく、また前立腺癌が抗癌剤耐性を獲得し易いものである。このような抗癌剤耐性は、p-糖蛋白質の発現上昇が主な原因と考えられている。
【0012】
本出願人は特許文献1に、また本発明者らは非特許文献1に、2’-ヒドロキシフラバノン(2’-HF)又はその誘導体を含むものであって、アンドロゲン受容体活性を抑制し、アンドロゲン反応性を抑制し、アンドロゲン受容体タンパク質の核内移行を阻害し、又はアンドロゲン受容体発現を阻害する組成物や、それを含む前立腺癌の予防・治療剤を、開示している。しかし、この2’-ヒドロキシフラバノン又はその誘導体はAR-V7を抑制しない。
【0013】
この2’-ヒドロキシフラバノンやその誘導体は、アンドロゲン受容体の働きを抑制し、アンドロゲン受容体が発現していなくても抗腫瘍効果を有する。しかし、前立腺癌細胞抑制強度がより一層高く、しかもAR-V7抑制を作用できる簡素な構造で製造し易く、低毒性で安全な薬物が望まれていた。さらに、2’-ヒドロキシフラバノンやその誘導体も、市販のアンドロゲン受容体阻害薬も、AR-V7発現が去勢抵抗性前立腺癌になる機序の一つであるにも関わらずAR-V7の働きを抑制できずAR-V7発現前立腺癌に有効でないことから、とりわけAR-V7に有効でしかも抗癌剤耐性を有しない薬物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2015-199692号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Ofude Mら、Anticancer Res.(アンチキャンサー リサーチ)、2013年、第33巻(第10号)、p.4453-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、前立腺癌のために用いることができ、アンドロゲン受容体の活性化を抑制し、アンドロゲン依存的又は非依存的な前立腺癌増殖の抑制に有効で、AR-V7が発現していてもその作用を抑制し、抗癌剤耐性の細胞株に対しても有効なアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物、及びそれを用いた前立腺癌の医薬製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物は、下記化学式(1)
【化1】
(化学式(1)中、X-は置換基を有していてもよい、炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基であり、Y-は水素原子、飽和又は不飽和の炭化水素基、飽和又は不飽和のパーハロゲノ炭化水素基、飽和又は不飽和のパーシャルハロゲノ炭化水素基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、アシル基、若しくは置換基を有していてもよい炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基であり、Y-及びY-は両方がX-と同一又は異なる炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基であり、若しくは一方がX-と同一又は異なる炭化水素芳香環基(但し、Y-が前記パーシャルハロゲノ炭化水素基である場合に限る)又は芳香族複素環基(但し、含窒素芳香族複素環基を除く)で他方が水素原子であり、Z=は結合炭素原子と共にケトン基、チオケトン基、イミノ基、又はオキシム基を成し又は生成する原子若しくは官能基である)で表わされるα,β-飽和又は不飽和のケトン基含有化合物、若しくはその等価体であるチオケトン基含有化合物、イミノ基含有化合物、又はオキシム基含有化合物とするケトン誘導体又はその薬学的に許容される塩を含むことを特徴とする。
【0018】
この組成物は、前記ケトン誘導体が、X-並びにY-、Y-及びY-中における前記炭化水素芳香環基の炭化水素芳香環をベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、又はアズレンとし、前記芳香族複素環基の芳香族複素環を、チオフェン、チアナフテン、ベンゾチオフェン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、インドール、イソインドール、インドリジン、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キノキサリン、フタラジン、ナフチリジン、キナゾリン、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、又はフラザンとするというものである。
【0019】
またはこの組成物は、例えば前記ケトン誘導体が、Y-を、無置換(即ち水素原子)、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和又は不飽和のパーフルオロ炭化水素基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、アシル基、若しくは置換基を有していてもよい炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基のような電子吸引基とするものであると好ましい。
【0020】
この組成物は、中でも、前記ケトン誘導体が、Y-を、水素原子、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の前記飽和又は不飽和の炭化水素基、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和又は不飽和のパーフルオロ炭化水素基、炭素数1~14の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和又は不飽和のパーシャルフルオロ炭化水素基、炭化水素芳香環基、若しくは芳香族複素環基とするというものであると、一層好ましい。
【0021】
この組成物は、前記ケトン誘導体が、例えば下記化学式(2-1)、又は化学式(2-2)
【化2】
(式中、R-~R10-、及びR16-~R20-は、それぞれ同一又は異なり、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、水酸基、アミノ基、アンモニウム塩、モノ又はジアルキルアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基又はその塩、アシル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、モノ又はジアルキルアミド基、ハロゲノ基、ニトロ基、ニトリル基、スルホン酸基又はその塩、スルフィン酸又はその塩若しくはそのエステル、スルフェン酸又はその塩若しくはそのエステル、リン酸又はその塩若しくはそのエステルから選ばれる前記置換基、又は水素原子であり、Y-、及びZ-は前記と同じであり、Y-は前記芳香族複素環基である)で表わされるものであり、例えばフェニル-スチリル-ケトン誘導体、フェニル-フェネチル-ケトン誘導体、フェニル-ヘテロアリールビニル-ケトン誘導体、又はフェニル-ヘテロアリールエチレン-ケトン誘導体であるというものである。
【0022】
この組成物は、前記ケトン誘導体が、前記化学式(2-1)又は前記化学式(2-2)で表わされ、Y-を水素原子又はC2n+1-(CH-(式中、nは1~12の数、mは0~2の数)とするものであると、一層好ましい。
【0023】
この組成物は、前記ケトン誘導体が、前記化学式(2-1)中のR-~R10-のうちR-及び/又はR10-と、前記化学式(2-2)中のR16-~R20-のうちR16-及び/又はR20-とを水酸基とすると、好ましい。
前記の目的を達成するためになされた本発明のアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物は、下記化学式(1’)
【化2-2】
(化学式(1’)中、X-は置換基を有していてもよい、ベンゼン環基である炭化水素芳香環基であり、Y-は水素原子、若しくは飽和又は不飽和のパーハロゲノ炭化水素基及び飽和又は不飽和のパーシャルハロゲノ炭化水素基から選ばれるハロゲノ炭化水素基であり、Y-及びY-は一方がX-と同一又は異なる前記炭化水素芳香環基(但し、Y-又はY-が当該炭化水素芳香環基で、かつY-が前記ハロゲノ炭化水素基である場合に限る)若しくは置換基を有していてもよい、ベンゾチオフェン環基である芳香族複素環基(但し、Y-又はY-が当該芳香族複素環基で、かつY-が水素原子である場合に限る)で他方が水素原子であり、Z=は結合炭素原子と共にケトン基を成す原子、若しくは結合炭素原子と共にチオケトン基、又はイミノ基を成す官能基である)で表わされるα,β-不飽和のケトン基含有化合物、若しくはその等価体であるチオケトン基含有化合物、又はイミノ基含有化合物とするケトン誘導体又はその薬学的に許容される塩を含むことを特徴とするアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用であってかつアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌の予防用、治療用、再発防止用、及び/又は再燃防止用のための組成物である。
この組成物は、例えば前記ケトン誘導体が、Y-を、前記水素原子、若しくは炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の前記飽和又は不飽和のパーフルオロ炭化水素基、炭素数1~14の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の前記飽和又は不飽和のパーシャルフルオロ炭化水素基から選ばれる前記ハロゲノ炭化水素基とすることを特徴とする。
この組成物は、例えば前記ケトン誘導体が、下記化学式(2-1’)、又は化学式(2-2’)
【化2-3】
(化学式(2-1’)及び(2-2’)中、R-~R10-、及びR16-~R20-は、それぞれ同一又は異なり、アルキル基、アルキルオキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アラルキルチオ基、水酸基、アミノ基、アンモニウム塩、モノ又はジアルキルアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基又はその塩、アシル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、モノ又はジアルキルアミド基、ハロゲノ基、ニトロ基、ニトリル基、スルホン酸基又はその塩、スルフィン酸又はその塩若しくはそのエステル、スルフェン酸又はその塩若しくはそのエステル、リン酸又はその塩若しくはそのエステルから選ばれる前記置換基、又は水素原子であり、Y-、及びZ-は前記と同じであり、Y-は前記芳香族複素環基である)で表わされることを特徴とする。
この組成物は、例えば前記ケトン誘導体が、前記化学式(2-1’)で表わされ、Y-をC2n+1-(CH-(式中、nは1~12の数、mは0~2の数)で表される前記ハロゲノ炭化水素基とすることを特徴とする。
この組成物は、例えば前記ケトン誘導体が、前記化学式(2-1’)中のR-~R10-のうちR-及び/又はR10-と、前記化学式(2-2’)中のR16-~R20-のうちR16-及び/又はR20-とを水酸基とすることを特徴とする。
この組成物は、例えば前記ケトン誘導体が、下記化学式で表される化合物[4]又は化合物[6]
【化2-4】
であることを特徴とする。
【0024】
また、前記の目的を達成するためになされた本発明の前立腺癌の予防用、治療用、再発防止用、及び/又は再燃防止用である医薬製剤は、前記のアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物を含有するというものである。
【0025】
この医薬製剤は、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏、懸濁剤、液剤、腸溶剤、乳剤、硬膏剤、坐剤、散剤、錠剤、シロップ剤、注射剤、トローチ剤、軟膏剤、ハップ剤、リニメント剤、リモナーデ剤、及びローション剤から選ばれる何れかの剤形として用いられる。
【0026】
この医薬製剤は、例えば、アンドロゲン受容体活性化の抑制用、アンドロゲン反応性の抑制用、アンドロゲン受容体発現の抑制用、アンドロゲン依存性前立腺癌の増殖抑制用、アンドロゲン非依存性前立腺癌の増殖抑制用、アンドロゲン受容体の転写活性化能の阻害用、AR-V7の抑制用、及び/又は抗癌剤耐性前立腺癌の抑制用である。
【0027】
この医薬製剤は、前記前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌とするものである。
【0028】
この医薬製剤は、さらに賦型剤、分散剤、充填剤、担体、及び/又は溶剤を含有するというものである。
【発明の効果】
【0029】
アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物、及びそれを含有する前立腺癌の医薬製剤は、化学式(1)で表わされるケトン誘導体を有効成分として有することにより、中でも、本発明のアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物、及びそれを含有する前立腺癌の医薬製剤は、化学式(1’)で表わされるケトン誘導体を有効成分として有することにより、ホルモン依存性即ちアンドロゲン依存性前立腺癌のみならず、アンドロゲン非依存性前立腺癌に対して、また従来治療が困難であった去勢抵抗性前立腺癌、ホルモン療法耐性前立腺癌に対して、極めて有効な抗癌剤となるものである。さらにAR-V7が発現していてもアンドロゲンの生成の有無に関わらず前立腺癌に対するアンドロゲン受容体の転写活性化能を強力に阻害する。さらに、ドセタキセルやカバジタキセル等のタキサン系のような前立腺癌治療剤に耐性のある抗癌剤抵抗性前立腺癌に対して極めて有効な抗癌剤となるものである。
【0030】
従って、化学式(1)・(1’)で表わされるケトン誘導体は、初期から後期のほぼ全てのステージでの前立腺癌を標的とした新薬の画期的なリード化合物、有効成分となる化合物である。このケトン誘導体を含有する医薬製剤は、前立腺癌の予防、治療、再発・再燃防止に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群(cont.)に対して、アンドロゲン非依存性DU145細胞の増殖阻害について検討した結果を示すグラフである。
図2】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群(0μM)に対して、アンドロゲン非依存性DU145細胞の増殖阻害について検討した別な結果を示すグラフである。
図3】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群(cont.)に対して、アンドロゲン非依存性PC-3細胞の増殖阻害について検討した結果を示すグラフである。
図4】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群(0μM)に対して、アンドロゲン非依存性PC-3細胞の増殖阻害について検討した別な結果を示すグラフである。
図5】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群(cont.)に対して、DHT共存下又は非共存下でのアンドロゲン依存性LNCaP細胞の増殖阻害について検討した結果を示すグラフである。
図6】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群(0μM)に対して、DHT共存下又は非共存下でのアンドロゲン依存性LNCaP細胞の増殖阻害について検討した別な結果を示すグラフである。
図7】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群に対して、DHT共存下又は非共存下でのアンドロゲン非依存性LNCaP-SF細胞の増殖阻害について検討した結果を示すグラフである。
図8】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群に対して、DHT共存下又は非共存下、PC-3への細胞強制発現野生型アンドロゲン受容体に対する転写活性化能の阻害について検討した結果を示すグラフである。
図9】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群に対して、DHT共存下又は非共存下、アンドロゲン依存性LNCaP細胞におけるアンドロゲン受容体活性阻害について検討した結果を示すグラフである。
図10】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群に対して、DHT共存下又は非共存下、アンドロゲン依存性変異AR(Thr877Ala)における転写活性化能阻害について検討した結果を示すグラフである。
図11】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群に対して、DHT共存下又は非共存下、アンドロゲン非依存性変異AR(AR-V7)における転写活性化能阻害について検討した結果を示すグラフである。
図12】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群に対して、ドタキセル耐性株(PC-3-TxRとDU145-TxR)と、それから樹立されたカバジタキセル耐性株(PC-3-TxR/CxRとDU145-TxR/CxR)の増殖阻害について検討した結果を示すグラフである。
図13】本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の試験サンプル群及び対照サンプル群に対して、アンドロゲン非依存性PC-3細胞の増殖阻害についてin vivoで検討した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の一態様は、下記化学式(1)
【化3】
で表わされるα,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体又はその薬学的に許容される塩を含むものである。
中でも、本発明のアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物の一態様は、下記化学式(1’)
【化3-2】
で表わされるα,β-不飽和のケトン誘導体又はその薬学的に許容される塩を含むものである。
【0034】
化学式(1)のα,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体には、X-とY-及びY-の少なくとも何れかとがベンゼン環基であってZ=がO=であるカルコン化合物の他、そのカルコン化合物のZ=がO=の等価体となったカルコン誘導体、そのカルコン誘導体の更に類縁体であってX-とY-及びY-がそのベンゼン環基を他の炭化水素芳香環基や芳香族複素環基で置換した別な誘導体を含む。Y-とY-との一方が炭化水素芳香環基や芳香族複素環基である場合、他方は水素原子である。
中でも、化学式(1’)のα,β-不飽和のケトン誘導体には、X-とY-及びY-の少なくとも何れかとがベンゼン環基であってZ=がO=であるカルコン化合物の他、そのカルコン化合物のZ=がO=の等価体となったカルコン誘導体、そのカルコン誘導体の更に類縁体であってX-とY-及びY-がそのベンゼン環基を他の炭化水素芳香環基や芳香族複素環基で置換した別な誘導体を含む。Y-とY-との一方が炭化水素芳香環基や芳香族複素環基である場合、他方は水素原子である。
【0035】
化学式(1)中、X-並びにY-及びY-は同一又は異なり、同一又は異なる置換基を夫々有していてもよく無置換であってもよいものである。例えば、X-並びにY-及びY-は、独立に、単環性又は縮環性の炭化水素芳香環基であってもよく、酸素、窒素及び/又は硫黄のようなヘテロ原子を有し単環性又は縮合性の芳香族複素環基であってもよい。
中でも、化学式(1’)中、X-並びにY-及びY-は同一又は異なり、同一又は異なる置換基を夫々有していてもよく無置換であってもよいものである。例えば、X-並びにY-及びY-は、独立に、単環性又は縮環性の炭化水素芳香環基であってもよく、硫黄のようなヘテロ原子を有し単環性又は縮合性の芳香族複素環基であってもよい。
【0036】
化学式(1)中、単環性炭化水素芳香環基の芳香環はベンゼンである。縮環性炭化水素芳香環基の芳香環は例えばナフタレン、アントラセン、フェナントレン、アズレンが挙げられる。単環性の芳香族複素環基の複素環は例えばチオフェン、フラン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール及びフラザンが挙げられる。縮合性の芳香族複素環基の複素環は例えばチアナフテン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、インドリジン、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、キノキサリン、フタラジン、ナフチリジン、キナゾリン及びシンノリンが挙げられる。
中でも、化学式(1’)中、単環性炭化水素芳香環基の芳香環はベンゼンである。縮環性炭化水素芳香環基の芳香環は例えばナフタレンが挙げられる。単環性の芳香族複素環基の複素環は例えばチオフェンが挙げられる。縮合性の芳香族複素環基の複素環は例えばベンゾチオフェンが挙げられる。
【0037】
化学式(1)・(1’)中、Z=がO=であることによりZ=とそれの結合炭素原子とで形成したケトン基(-CO-)の他、Z=がS=であることによりそのケトン基が硫黄で置換しそれの結合炭素原子とで形成したチオケトン基(-CS-)、加水分解してそのケトン基を生成するものでZ=がHN=又はRN=(但しRはアルキル基)であることによりそのケトン基に等価なイミノ基(-(C=NH)-)やZ=がHO-N=であることによりそのケトン基に等価なオキシム基(-(HO-N=C)-)のようなケトン等価基、又は加水分解してそれらの基を生成するように保護基で保護されたケタール基のようにケトン基(Z=がO=)を生成する原子若しくは官能基を有するケトン保護基である、α,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体が挙げられる。
【0038】
化学式(1)中、
【化4】
は、α,β-飽和若しくはシス及び/又はトランスのα,β-不飽和を表わしている。シス体のみ又はトランス体のみであってもよいが、シス体/トランス体の混合物であってもよい。具体的には、-CY=CY(Y)-で表わされるものでα,β-不飽和のビニレン基(YとYとのトランス体及び/又はYとYとのシス体、好ましくはYとYとの何れかが炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基でありYとY又はYとのトランス体又はシス体、より一層好ましくはさらにYが水素原子であり-CH=CHY-又は-CH=CHY-、若しくはYが非水素原子で-CY=CHY-又は-CY=CHY-)であってもよい。または、-CHY-CHY-で表わされるもので不斉炭素を有する場合に等比又は非等比のラセミ混合物、ジアステレオ混合物又はエナンチオ混合物、若しくは光学活性体であるα,β-飽和のエチレン基であってもよい。
中でも、化学式(1’)中、
【化4-2】
は、シス及び/又はトランスのα,β-不飽和を表わしている。シス体のみ又はトランス体のみであってもよいが、シス体/トランス体の混合物であってもよい。具体的には、-CY=CY(Y)-で表わされるものでα,β-不飽和のビニレン基(YとYとのトランス体及び/又はYとYとのシス体、好ましくはYとYとの何れかが炭化水素芳香環基又は芳香族複素環基でありYとY又はYとのトランス体又はシス体、より一層好ましくはさらにYが水素原子であり-CH=CHY-又は-CH=CHY-、若しくはYが非水素原子で-CY=CHY-又は-CY=CHY-)であってもよい。
【0039】
化学式(1)中、α,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体は、化学式(2-1)又は(2-2)で表わされるものが好ましい。
【化5】
中でも、化学式(1’)中、α,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体は、化学式(2-1’)又は(2-2’)で表わされるものが好ましい。
【化5-2】
【0040】
例えば、化学式(2-1)で表わされるフェニル-スチリル-ケトン誘導体又はフェニル-フェネチル-ケトン誘導体(式中、X-、Y-、Z-、R-~R10-は前記の通り)、若しくは化学式(2-2)で表わされるフェニル-ヘテロアリールビニレン-ケトン誘導体又はフェニル-ヘテロアリールエチレン-ケトン誘導体(式中、X-、Y-(Y-はY-又はY-を示す)、Z-、R16-~R20-は前記の通り)であると一層好ましい。化学式(2-1)で表わされるフェニル-スチリル-ケトン誘導体又は化学式(2-2)で表わされるフェニル-ヘテロアリールビニレン-ケトン誘導体中、Yの有する波線の結合は、Y又は-C(=Z)-の何れかに対してトランス体及び/又はシス体、好ましくはトランス体又はシス体とするというものである。中でも、ケトンに対してフェニル基又はヘテロアリール基がトランスであるα,β不飽和ケトンが好ましく、若しくはYがパーフルオロ炭化水素基でケトンに対してフェニル基又はヘテロアリール基がシスであるα,β不飽和ケトンであってもよい。
中でも、例えば、化学式(2-1’)で表わされるフェニル-スチリル-ケトン誘導体(式中、X-、Y-、Z-、R-~R10-は前記の通り)、若しくは化学式(2-2’)で表わされるフェニル-ヘテロアリールビニレン-ケトン誘導体(式中、X-、Y-(Y-はY-又はY-を示す)、Z-、R16-~R20-は前記の通り)であると一層好ましい。
【0041】
化学式(1)、(2-1)及び(2-2)、並びに(1’)、(2-1’)及び(2-2’)中、X-並びにY-、Y-、Y-及びY-が有していてもよい置換基、又は化学式(2-1)及び(2-2)のR-~R10-及びR16-~R20-の有していてもよい置換基は、同一又は異なり、炭素数1~20好ましくは炭素数1~8で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキル基、炭素数1~20好ましくは炭素数1~8で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキルオキシ基、炭素数6~20好ましくは炭素数6~14で例えばフェニル基・ナフチル基・アントラセニル基・フェナントリル基のようなアリール基、炭素数2~20でチオフェン環・フラン環・ピロール環・ピリジン環のような5員環又は6員環若しくはそれらの縮合環であるヘテロアリール基、ベンジル基・フェネチル基のような炭素数7~20のアラルキル基、ベンジルオキシ基・フェネチルオキシ基のような炭素数7~20のアラルキルオキシ基、同じく炭素数1~20好ましくは炭素数1~8で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキルを有するアルキルチオ基、同様な炭素数7~20のアラルキルチオ基、水酸基、アミノ基、アンモニウム塩、炭素数1~20のアルキルで置換されたモノ又はジアルキルアミノ基、メルカプト基、カルボキシル基又はその塩、炭素数2~20のアシル基、炭素数1~20のアルキルを有するエステル基、炭素数1~20のアルキルを有するチオエステル基、アミド基、炭素数1~20好ましくは炭素数1~8で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキルで置換されたモノ又はジアルキルアミド基、ハロゲノ基、ニトロ基、及びニトリル基、スルホン酸基又はその塩、スルフィン酸又はその塩若しくは炭素数1~20好ましくは炭素数1~8で直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状のアルキルで置換されたそのエステル、スルフェン酸又はその塩若しくは同様な炭素数1~20のアルキルで置換されたそのエステル、リン酸又はその塩若しくは同様な炭素数1~20のアルキルで置換されたそのエステルから選ばれる前記置換基が挙げられる。無置換であってもよい。
【0042】
中でも化学式(1)、とりわけ化学式(2-1)及び(2-2)、その中でも化学式(1’)、とりわけ化学式(2-1’)及び(2-2’)で示される化合物は、Z=がO=であって、R-及び/又はR10-の置換基は水酸基である誘導体であることが好ましく、R-又はR10-、R16-又はR20-の置換基は水酸基である誘導体であることが一層好ましく、R-又はR10-が水酸基である2-ヒドロキシフェニル-スチリル-ケトンであるカルコン誘導体であるとなお一層好ましい。
【0043】
α,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体の合成方法は、化学式(2-1)中でも化学式(2-1’)(式中、Z=がO=)で表わされるフェニル-スチリル-ケトン誘導体を例に説明すると、以下の通りである。置換基又はそれが保護された保護置換基を単数又は複数有していてもよいアセトフェノンと、同一又は異なる置換基又はそれが保護された保護置換基を単数又は複数有していてもよいベンズアルデヒドとを、塩基例えば水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基存在下、必要に応じ水溶液中又は不活性溶媒中で、アルドール反応し、必要に応じ保護基を開裂させると、得られる。化学式(2-1)で表わされるフェニルフェネチルケトン誘導体は、フェニルスチリルケトン誘導体を触媒存在下で接触水素添加による還元又はα,β-不飽和基の選択的還元剤による還元、例えばPd(OH)2,Pd/Cなどのパラジウム触媒、RuCl2(PPh3)3などのルテニウム触媒を用いた接触還元で、還元することにより得られる。
【0044】
なお、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされZ=がO=である他のα,β-飽和又は不飽和のケトン誘導体も同様にして合成することができる。例えば、化学式(2-2)で表わされるフェニル-ヘテロアリールビニレン-ケトン誘導体は、化学式(2-2)のフェニル-スチリル-ケトン誘導体でのアセトフェノンに代えてアセチル置換ヘテロアリール化合物を用いて、合成することができる。
【0045】
また、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされZ=がS=のチオケトン基である誘導体は、Z=がO=のケトン基をローソン試薬との反応や酸触媒存在下での硫化水素との反応でチオケトン基に誘導して得られる。化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされZ=がHN=、又はRN=(但しRは炭素数1~20のアルキル基)である誘導体は、Z=がO=のケトン基をアミンと縮合させシッフ塩基を形成させてイミン基に誘導して得られる。化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされZ=がHO-N=のオキシム基である誘導体は、Z=がO=のケトン基をヒドロキシアミンと酸触媒存在下で縮合させて誘導して得られる。これらは生体内又は溶液中でケトン基を復元するケトン等価基又はケトン保護基である。Z=がO=のケトン基をケタールにして保護していてもよい。
【0046】
化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされるケトン誘導体が、Y-を、水素原子(即ち、無置換)とするものであってもよいが、炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の前記飽和又は不飽和の炭化水素基とするものであってもよい。またはC2n+1-(CH-(式中、nは1~12の数、mは0~2の数)で例示される炭素数1~12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和又は不飽和のパーフルオロ炭化水素基、炭素数1~14の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の飽和又は不飽和のパーシャルフルオロ炭化水素基であってもよい。さらに、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、若しくはアセチル基のような脂肪族カルボニル基やベンジル基のような芳香族カルボニル基で例示されるアシル基であってもよい。または前記Z-、Y-、及びY-で例示した炭化水素芳香環基、若しくは芳香族複素環基であってもよい。中でも、Y-は水素原子、若しくはパーフルオロアルキル基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、アシル基、炭化水素芳香環基、又は芳香族複素環基のような電子吸引基であると一層好ましい。これらは、前記同様アルドール反応やクライゼン反応によって得られるものであってもよく、それら官能基を事後的に導入するものであってもよい。官能基を事後的に導入する一例として、Y-をCF-とする場合、1-トリフルオロメチル-1,2-ベンゾヨードキソール-3-(1H)-オンが挙げられる。
【0047】
アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物中、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされるケトン誘導体は、薬学的に許容されるアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩であってもよく、塩酸塩・硫酸塩・硝酸塩・酢酸塩・クエン酸塩・酒石酸塩・メタンスルホン酸塩・トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩、アミノ酸との塩であってもよい。
【0048】
この組成物は、アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞を直接的に、又は間接的に抑制する有効成分として、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされるケトン誘導体を含んでいる。
【0049】
本発明の前立腺癌の医薬製剤は、アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物を含有するもので、アンドロゲン受容体に起因する前立腺癌細胞の増殖を抑制したり、アンドロゲン受容体に起因しない前立腺癌細胞の増殖を抑制したりして、前立腺癌の予防用剤、治療用剤、再発防止用剤、再燃防止用剤として、用いられる。
【0050】
この前立腺癌の医薬製剤は、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされるケトン誘導体をアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の有効成分として含有し、必要に応じ、非毒性で不活性の薬学的に許容しうる賦形剤、例えば固体状、半固体状もしくは液状の希釈剤、分散剤、充填剤及び担体と混合することにより、製剤化されている。さらに安定剤、保存剤、pH調整剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料防腐剤、媒質、生理食塩水、別な薬効を有する薬剤が添加剤として含まれていてもよい。
【0051】
この前立腺癌の医薬製剤の剤形は、例えばエリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、軟膏、懸濁剤、液剤、腸溶剤、乳剤、硬膏剤、坐剤、散剤、錠剤、シロップ剤、注射剤、トローチ剤、軟膏剤、ハップ剤、リニメント剤、リモナーデ剤、ローション剤が挙げられる。液状媒体に溶解させてもよく懸濁させてもよく、固体状媒体に分散させたものであってもよい。
【0052】
この前立腺癌の医薬製剤は、経口で投与してもよく、静脈注射・点滴で投与してもよく、皮膚に塗布乃至貼付して経皮吸収させてもよい。
【0053】
この前立腺癌の医薬製剤中、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされるケトン誘導体を、0.001~99質量%含んでいる。この前立腺癌の医薬製剤中、ケトン誘導体を患者の体重に対し、0.001~100mg/kg含んでいることが好ましい。
【0054】
この前立腺癌の医薬製剤の投与量、用量は、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で表わされるケトン誘導体である有効成分の有効性、投与の形態・経路、前立腺癌の進行ステージ、患者の体型・体重・年齢、併用する他の疾患の治療薬の種類や量に応じ、適宜選択される。その投与は、1日1~5回毎日投与してもよく、1日~14日おきに又は2~6週間おきに間欠的に投与してもよい。
【0055】
この前立腺癌の医薬製剤の効能は、以下のように説明される。
(1)前立腺癌培養細胞に対する顕著な抗腫瘍効果を示す。
(2)アンドロゲン受容体が無く増殖が最も早いアンドロゲン非依存性DU145細胞やアンドロゲン受容体が無い別なアンドロゲン非依存性PC-3のようなアンドロゲン非依存性細胞の増殖を抑制する。何れもIC50は、10μM以下であって、0.1~10μM程度又はそれ未満である。
(3)アンドロゲンで増殖が促進されるアンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞株であるLNCaP細胞に対して、アンドロゲンの有無に関わらず細胞増殖を抑える。
(4-1)アンドロゲン依存性(野生型)のアンドロゲン受容体(AR)の活性化を強力に阻害する。
(4-2)それのみならず、ミューテーションのある非依存性(AR-V7やAR877変異型)のアンドロゲン受容体(AR)の活性化を強力に阻害する。
(5)ドセタキセルやカバジタキセル等のタキサン系薬物耐性株に対しても、有効な抗腫瘍効果を示す。
【0056】
このことは、化学式(1)若しくは(2-1)又は(2-2)或いは(1’)若しくは(2-1’)又は(2-2’)で示されるケトン誘導体は、
(A)ホルモン依存性の前立腺癌だけではなく、
(B)去勢抵抗性(ホルモン非依存性)前立腺癌に対しても有望であり、
(C)P-糖タンパクの過剰発現した多剤耐性癌細胞にも効果を示し、
(D)進行度の違うあらゆるタイプの前立腺癌に有効な化学療法剤の有効成分であることを示唆している。
【実施例0057】
以下に、本発明を適用するアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物に相当する前立腺癌の医薬製剤を調製し、その有効性について検討した。なお本発明を適用外の対照薬を用いた組成物に相当する製剤を調製し、その有効性を比較検討した。
【0058】
先ず、その組成物中の有効成分であるα,β-不飽和ケトン誘導体を合成した。
【0059】
(合成例1)
【化6】
サリチルアルデヒド(150mg,1.2mmol)を8.5%水酸化ナトリウム水溶液(0.6mL)に溶解し、40℃に加熱した。その混合物に、硫酸ジメチル(127mg,1.0mmol)を加え、40℃で攪拌した。2時間攪拌した後、8.5%ナトリウム水溶液(0.3mL)と硫酸ジメチル(65mg,0.5mmol)とを反応混合物に加えた。反応が完了したら、反応混合物をアルカリ条件で2時間攪拌し、残存する硫酸ジメチルを除去した。その後、反応混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサン-酢酸エチル(5:1)の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、o-アニスアルデヒド(141mg,0.94mmol)が、無色液状物として76%の収率で得られた。
【0060】
【化7】
o-アニスアルデヒド(30mg,0.2mmol)と5’-ブロモ-2’-ヒドロキシアセトフェノン(43mg,0.2mmol)とのエタノール(0.2mL)の溶液に40%水酸化カリウム水溶液(0.2mL)を加え、混合物を室温で攪拌した。反応が完了したら、反応混合物に氷冷水を加え、1N塩酸で中和した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をメタノールから再結晶したところ、化合物[1](52mg,0.16mmol)が黄色固形物として78%の収率で得られた。化合物[1]の1H核磁気共鳴スペクトル法(1H NMR)及び高分解能質量分析(HRMS)の結果を以下に示す。
【0061】
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ 12.88 (s, 1H, OH), 8.26 (d, J = 15.6 Hz, 1H, CH=CHAr), 8.01 (d, J = 2.4 Hz, 1H, H-Ar), 7.68 (d, J = 15.6 Hz, 1H, CH=CHAr), 7.68 (dd, J = 8.4, 2.4 Hz, 1H, H-Ar), 7.56 (dd, J = 8.4, 2.4 Hz, 1H, H-Ar), 7.43 (ddd, J = 7.8, 7.8, 1,2 Hz, 1H, H-Ar), 7.04 (dd, J = 7.2, 7.2 Hz, 1H, H-Ar), 6.98 (d, J = 8.4 Hz, 1H, H-Ar), 6.94 (d, J = 9.0 Hz, 1H, H-Ar), 3,96 (s, 3H, OCH3).
HRMS (m/z): [M+H]+ 理論値, C16H14BrO3, 333.0126; 実測値, 333.0129.
これらの理化学分析の結果は、化合物[1]の構造を支持する。
【0062】
(合成例2)
【化8】
サリチルアルデヒド(900mg,7.37mmol)の塩化メチレン(10mL)溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.9g,22.1mmol)とクロロメチル メチル エーテル(890mg,11.1mmol)とを加え、混合物を室温で1時間攪拌した。反応混合物を塩化メチレンで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサン-酢酸エチル(10:1)の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、2-(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(1.18g,7.13mmol)が無色液状物として97%の収率で得られた。
【0063】
【化9】
2-(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(50mg,0.3mmol)と、5’-クロロ-2’-ヒドロキシアセトフェノン(51mg,0.3mmol)とのエタノール(0.3mL)の溶液に、40%水酸化カリウム水溶液(0.3mL)を加え、混合物を室温で攪拌した。反応が完了したら、反応混合物に氷冷水を加えた。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサン-酢酸エチル(10:1)の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、カルコン中間体(72mg,0.16mmol)が黄色固形物として76%の収率で得られた。
【0064】
【化10】
このカルコン中間体(50mg,0.16mmol)の酢酸(3mL)溶液に、濃塩酸を1滴加え、反応混合物を室温で1時間攪拌した。反応が完了したら、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサン-酢酸エチル(3:1)の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、化合物[2](43mg,0.16mmol)が緑色固形物として99%の収率で得られた。化合物[2]の1H NMR及びHRMSの結果を以下に示す。
【0065】
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ 12.84 (s, 1H, OH), 8.18 (d, J = 15.6 Hz, 1H, CH=CHAr), 7.88 (d, J = 2.4 Hz, 1H, H-Ar), 7.79 (d, J = 15.6 Hz, 1H, CH=CHAr), 7.63 (dd, J = 7.8, 0.9 Hz, 1H, H-Ar), 7.44 (dd, J = 9.0, 2.4 Hz, 1H, H-Ar), 7.32 (ddd, J = 7.8, 7.8, 1,8 Hz, 1H, H-Ar), 7.03 (dd, J = 7.8, 7.8 Hz, 1H, H-Ar), 6.99 (d, J = 9.0 Hz, 1H, H-Ar), 6.85 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H-Ar), 5.44 (s, 1H, OH).
HRMS (m/z): [M+H]+ 理論値, C15H12ClO3, 275.0475;実測値, 275.0477.
これらの理化学分析の結果は、化合物[2]の構造を支持する。
【0066】
(合成例3)
【化11】
2-ピリジンカルボアルデヒド(30mg,0.28mmol)と5’-クロロ-2’-ヒドロキシアセトフェノン(48mg,0.28mmol)とのエタノール(0.2mL)の溶液に、40%水酸化カリウム水溶液(0.2mL)を加え、混合物を室温で1時間攪拌した。反応混合物に氷冷水を加え、1N塩酸で中和した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサン-酢酸エチル(10:1)の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、化合物[3] (45mg,0.17mmol)が、黄色固形物として62%の収率で得られた。化合物[3]の1H NMR及びHRMSの結果を以下に示す。
【0067】
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ 12.67 (s, 1H, OH), 8.74 (d, J = 3.6 Hz, 1H, H-Ar), 8.19 (d, J = 14.4 Hz, 1H, CH=CHAr), 8.01 (d, J = 2.4 Hz, 1H, H-Ar), 7.89 (d, J = 15.0 Hz, 1H, CH=CHAr), 7.79 (ddd, J = 7.2, 7.2, 1.2 Hz, 1H, H-Ar), 7.51 (d, J = 7.8 Hz, 1H, H-Ar), 7.46 (dd, J = 9.0, 2.4 Hz, 1H, H-Ar), 7.35 (ddd, J = 7.8, 4.8, 1.2 Hz, 1H, H-Ar), 7.00 (d, J = 8.4 Hz, 1H, H-Ar).
HRMS (m/z): [M+H]+ 理論値, C14H11ClNO2, 260.0478; 実測値, 260.0474.
これらの理化学分析の結果は、化合物[3]の構造を支持する。
【0068】
(合成例4)
【化12】
5’-クロロ-2’-ヒドロキシアセトフェノン(50mg,0.29mmol)のエタノール(1.5mL)の溶液に、50%水酸化カリウム水溶液(1.5mL)とチアナフテン-3-カルボアルデヒド(57mg,0.35mmol)とを加え、混合物を室温で攪拌した。反応が完了したら、反応混合物を2N塩酸で中和した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残査をヘキサン-塩化メチレン(5:1)、塩化メチレン及び酢酸の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、目的物を含有するフラクションを集めて溶媒を減圧留去し、次いでメタノールから再結晶したところ、化合物[4] (14mg,0.043mmol)が黄色固形物として15%の収率で得られた。化合物[4]の1H NMR及びHRMSの結果を以下に示す。
【0069】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 12.80 (s, 1H, OH), 8.26 (d, J = 15.6 Hz, 1H, CH=CHAr), 8.11 (d, J = 8.4 Hz, 1H, H-Ar), 8.04 (s, 1H, H-Ar), 7.94 (d, J = 8.0 Hz, 1H, H-Ar), 7.89 (d, J = 2.8 Hz, 1H, H-Ar), 7.67 (d, J = 14.8 Hz, 1H, CH=CHAr), 7.55 (dd, J = 7.2, 7.2 Hz, 1H, H-Ar), 7.49-7.45 (m, 2H, H-Ar), 7.02 (d, J = 9.2 Hz, 1H, H-Ar).
HRMS (m/z): [M+H]+ 理論値, C17H12ClO2S, 315.0247; 測定値, 315.0255.
これらの理化学分析の結果は、化合物[4]の構造を支持する。
【0070】
(合成例5)
【化13】
ベンズアルデヒド(88mg, 0.83mmol)とアセトフェノン(100mg, 0.83mmol)とのエタノール(0.5mL)の溶液に、40%水酸化カリウム水溶液(0.5mL)を加え、混合物を室温で撹拌した。反応終了後、反応混合物に氷冷水を加え、1N塩酸で中和した。反応混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をヘキサン-酢酸エチル(10:1)の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、化合物[5]で表わされるカルコン中間体(68mg, 0.33mmol)が、黄色固形物として39%の収率で得られた。化合物[5]の1H NMRの結果を以下に示す。
1H NMR (400MHz, CDCl3):δ 8.04-8.02 (m, 2H), 7.82 (d, J = 15.6 Hz, 1H, CH=CHAr), 7.67-7.65 (m, 2H), 7.62-7.50 (m, 4H), 7.44-7.42 (m, 2H).
この理化学分析の結果は、化合物[5]の構造を支持する。
【0071】
(合成例6)
【化14】
1-トリフルオロメチル-1,2-ベンゾヨードキソール-3-(1H)-オン(60%珪藻土含有)の(170mg, 0.22mmol)とヨウ化銅(2.7mg, 0.014mmol)と化合物[5]で表わされるカルコン中間体(30mg, 0.14mmol)との0.4mLのDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)懸濁液を窒素雰囲気下、80℃で撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾別し、残渣を塩化メチレンで洗浄した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣を、ヘキサン-酢酸エチル(50:1)の流出溶媒でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、次いで石油エーテル-酢酸エチル(50:1)の展開溶媒でプレパラティブ薄層クロマトグラフィーにより精製したところ、化合物[6](9.4mg,0.034mmol)が無色油状物として24%の収率で得られた。化合物[6]の1H NMR及び13C NMRの結果を以下に示す。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ 7.90-7.89 (m, 2H), 7.52-7.50 (m, 2H), 7.38-7.35 (m, 2H), 7.25-7.18 (m, 5H).
13C NMR (150 MHz, CDCl3): δ 192.7, 136.9 (q, J = 5.7 Hz), 135.4, 134.3, 132.0, 130.1, 129.6, 129.5, 128.8, 128.7, 123.2 (q, J = 273.0 Hz).
この理化学分析の結果は、化合物[6]の構造を支持する。
【0072】
これらの化合物及び比較対照化合物を使用し、アンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物及びそれを用いた前立腺癌の医薬製剤を調製し、前立腺癌細胞株に対する効果を以下のようにして検討した。
【0073】
(材料及び方法)
本発明を適用する組成物及び医薬製剤の効果を検討するために使用した材料及び方法は、以下の通りである。
【0074】
(細胞系と細胞増殖アッセイ)
アンドロゲンで増殖が促進されるアンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞株のLNCaP細胞とアンドロゲン受容体が無いアンドロゲン非依存性ヒト前立腺癌細胞株のDU145細胞(ATCC社製)をそれぞれ、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S、インヴィトロゲン社製)と5%牛胎仔血清(FBS、シグマ-アルドリッチ社製)とが添加されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、培養した。
【0075】
LNCaP細胞をアンドロゲン除去培地で長期間培養したものでアンドロゲンにより増殖が抑制されるアンドロゲン非感受性のヒト前立腺癌細胞株LNCaP-SF細胞を、1%P/Sと5%活性炭処理ウシ胎仔血清(CCS、サーモ サイエンティフィック ハイクローン社製)とが添加されたDMEM中で、培養した。
【0076】
アンドロゲン非依存性ヒト前立腺癌細胞株PC-3細胞(ATCC社製)を、1%P/Sと5%FBSが添加されたRPMI1640培地(シグマ社製)で培養した。
【0077】
カバジタキセル(cabazitaxel)抵抗性のヒト前立腺癌細胞株PC-3細胞及びDU145細胞(PC-3-TxR/CxR及びDU145-TxR/CxR)は、ドセタキセル(docetaxel)抵抗性ヒト前立腺癌細胞株PC-3-TxR細胞及びDU145-TxR細胞を樹立したのと同様な手法(Prostate(プロステート)、2007年、第67巻(第9号)、p.955-967参照)に従って、PC-3-TxR細胞及びDU145-TxR細胞から樹立した。
【0078】
5×104個の各細胞をそれぞれDMEM-5%CCSの入った12ウェルプレートに播種し24時間後、各細胞をDMEM-5%CCS中、所定濃度の処理すべき各サンプル(例えば化合物[1]・[2]及び比較対照化合物)をDHT(ジヒドロテステロン)共存下又は非共存下で処理し、培地を2日置きに交換した。各実験中、各細胞を、処理の4日後に採取し、3回ずつ、血球計数器を用いてその細胞数を計測した。データは、3回の平均値で示した。
【0079】
(遺伝子組み換えプラスミドの構築)
先端が欠損したAR cDNAであってアンドロゲン非依存で構造的に活性化したバリアントAR(AR-V7)は、LNCaP-SF細胞RNAから分子生物学的手法により作製された。完全長ワイルドタイプARを発現している遺伝子組み換えプラスミドpEGFP-ARと、緑色蛍光タンパク質(GFP)と結合した遺伝子組み換えプラスミドpEGFP-AR-V7とは、SV40プロモーター(開始コドンの24~3110bp)で誘導されたpSGAR2の完全長AR cDNAとAR-V7 cDNAとをそれぞれ、pEGFP-C1(インヴィトロゲン社製)に挿入することによって構築した(Endocrinol Jpn.(エンドクリノール ジャパン) 1992年、第39巻(第3号)、p.235-243参照)。ARとAR-V7 cDNAとの挿入構造は、配列分析によって確認した。
【0080】
アンドロゲン受容体の活性を調べるために、ルシフェラーゼアッセイを行った。このアッセイにはルシフェラーゼレポーターpGL3PSAp-5.8(Mizokami-A et al. Journal of Urology(ザ ジャーナル オブ ウロロジー)、2000年、第164巻(第3号)、p.800-5)を使用した。pGL3PSAp-5.8はアンドロゲン応答遺伝子である前立腺特異抗原(PSA)のプロモーターにルシフェラーゼが融合したプラスミドで、活性化されたアンドロゲン受容体がプロモーターに結合するとルシフェラーゼ活性が高まるものである。5×104個のPC-3細胞をDMEM-5%CCSの入った12ウェルプレートに播種し、1日後にpEGFP-ARとpGL3PSAp-5.8をトランスフェクション試薬リポフェクタミンLTX(インヴィトロゲン社製)試薬を用いて導入した。さらに翌日1nM DHTを培地に加え、24時間後にルシフェラーゼアッセイを行った。
【0081】
AR(Thr877Ala)は、LNCaP細胞のAR(既にThr877Alaの突然変異を保持している)cDNA遺伝子からPCRで増幅し、分子生物学的手法を用いてpCMVプラスミド(サイトメガロウイルスプロモーターの下流に結合させたもの)に組み込んだプラスミドpCMV-ARmutをpEGFP-ARの代わりに使用したものである。
【0082】
(ルシフェラーゼアッセイ)
AR転写活性を評価するため、5×104個の細胞をDMEM-5%CCSの入った12ウェルプレートに播種し24時間後、LNCaP細胞又はPC-3細胞は、0.5μgのルシフェラーゼ レポーター プラスミド、5.8kb PSAプロモーターで誘導されたpGL3PSAp-5.8を使用し、リポフェクタミン トランスフェクション反応(LTX、インヴィトロゲン社)を用いて、それぞれトランスフェクションした(The Journal of Urology(ザ ジャーナル オブ ウロロジー)、2000年、第164巻(第3号 Pt 1)、p.800-805参照)。LNCaPでのトランスフェクションの場合は、既にARが存在しているため、0.5μg pGL3PSAp-5.8レポーターのみをトランスフェクションしてルシフェラーゼアッセイを行ったのに対して、PC-3の場合は、ARが発現していないため、50 ng pEGFP-AR, pCMV-ARmut、またはpEGFP-AR-V7と0.4μg のpGL3PSAp-5.8レポーターをcotransfectionしてルシフェラーゼアッセイを行った。24時間後にトランスフェクションしたLNCaP細胞又はPC-3細胞若しくはAR(Thr877Ala)細胞を用い、所定濃度の各サンプル(化合物[1]・[2])及び比較対照化合物)をDHT(ジヒドロテステロン)共存下又は非共存下で添加して24時間処理した。処理した細胞を採取し、各細胞を、ルシフェラーゼ溶解緩衝液(プロメガ社製)中で溶解し、ルシフェラーゼ活性を、照度計で定量した。PC-3細胞中でのAR-V7活性を評価するため、5×104個のPC-3細胞を50ngのpEGFP-AR-V7及び0.4μgのpGL3PSAp-5.8でコトランスフェクションし、その後、細胞をさらに、試薬で処理してから、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0083】
以下に、本発明を適用する組成物及び医薬製剤の効果を検討する実施例を示す。
【0084】
(試験例1:アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞DU145細胞の増殖阻害)
化合物間の増殖阻害活性を正確に比較するため、5×104個のアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞DU145細胞を、0.3μM、1.0μM、3.0μM、10μMの各サンプル(化合物[1]及び化合物[2]は本発明実施対象例、エンザルタミド(Enz、下記式参照)及び2’-ヒドロキシフラバノン(2’-HF、下記式参照)は本発明適用外の対照例)存在下、又は非存在下(コントロール)で処理したこと以外は条件を統一し併行して増殖阻害について測定した。DU145細胞を4日後に採取し、3回ずつ、血球計数器を用いてその細胞数を計測した。データは、3回の平均値で示した。その結果を、図1に示す。
【化15】
【0085】
図1から明らかな通り、対照例の2’-HFと実施例の化合物[1]・[2]とは何れも、最も増殖のアンドロゲン非依存性DU145細胞の増殖を、50%阻害濃度(IC50)で約3~10μMの濃度で、抑制した。中でも化合物[1]は非常に強い増殖抑制効果を示した。
【0086】
(試験例1’:アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞DU145細胞の増殖阻害)
別な化合物間の増殖阻害活性を測定するため、5×104個のアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞DU145細胞を、1.0μM、3.0μM、10μMの各サンプル(化合物[1]及び化合物[2]は本発明の参考実施対象例、Enz及び2’-HFは本発明適用外の対照例)存在下、及び1.0μM、2.0μM、4μMの各サンプル(化合物[4]及び化合物[6]は本発明実施対象例)存在下、並びに非存在下(コントロール)で処理したこと以外は条件を統一し併行して増殖阻害について、試験例1と同様にして測定した。その結果を、図2に示す。さらに、そのときのIC50を表1に示す。
【表1】
【0087】
図2及び表1から明らかな通り、対照例の2’-HFと実施例の化合物[1]・[2]・[4]・[6]とは何れも、最も増殖のアンドロゲン非依存性DU145細胞の増殖を、IC50で約0.3~6μMの濃度で、抑制した。中でも実施例の化合物[4]・[6]は、IC50がそれぞれ0.27、1.03であり、実施例の化合物[1]・[2]のそれぞれのIC50である6.13、4.50よりも数倍~十数倍も低濃度で極めて強い増殖抑制効果を示した。
【0088】
試験例1及び試験例1’の結果は、持続的ホルモン療法や再発・再燃により、前立腺癌はアンドロゲン遮断への応答性を失い、去勢抵抗性前立腺癌やホルモン療法耐性癌に進行した患者にも、有効であることを示している。
【0089】
(試験例2:アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞PC-3細胞の増殖阻害)
DU145細胞に代えてPC-3細胞を用いたこと以外は、試験例1と同様にして、0.3μM、1.0μM、3.0μM、10μMの各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、エンザルタミド(Enz)及び2’-HF)は本発明適用外の対照例)について、検討した。その結果を図3に示す。図3から明らかな通り、アンドロゲン受容体に競合結合し核内移行を阻害してアンドロゲンの活性を阻害する対照例のエンザルタミドは、PC-3細胞の増殖を全く抑制しなかった。それに対し、対照例の2’-HFと実施例の化合物[1]・[2]とは何れも、PC-3細胞の増殖を、IC50で約3~10μMの濃度で、抑制した。
【0090】
(試験例2’:アンドロゲン非依存性前立腺癌細胞PC-3細胞の増殖阻害)
別な化合物間の増殖阻害活性を測定するため、試験例2に準拠し、0μM、1.0μM、3.0μM、10μMの各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、Enz及び2’-HFは本発明適用外の対照例)、0μM、1.0μM、2.0μM、4.0μMの各サンプル(化合物[4]・[6]は本発明実施対象例)で処理したこと以外は条件を統一し併行して増殖阻害について、試験例2と同様にして測定した。その結果を図4に示す。さらに、そのときのIC50を表2に示す。
【表2】
【0091】
図4及び表2から明らかな通り、アンドロゲン受容体に競合結合し核内移行を阻害してアンドロゲンの活性を阻害する対照例のEnzは、PC-3細胞の増殖を全く抑制しなかった。それに対し、対照例の2’-HFは、IC50で2.56しかなかった。実施例の化合物[4]・[6]は、IC50が0.33、<0.25であり、実施例の化合物[1]・[2]のそれぞれのIC50である1.84、1.52よりも数倍以上も低濃度で極めて強い増殖抑制作用を示した。
【0092】
試験例2、試験例2’の結果は、最も増殖が速いと言われているDU145細胞株のみならず別なPC-3細胞株のような様々なタイプのアンドロゲン非依存性前立腺癌細胞となっている去勢抵抗性前立腺癌患者にも、有効であることを示している。
【0093】
(試験例3:アンドロゲン依存性前立腺癌細胞LNCaP細胞の増殖阻害)
DU145細胞に代えてLNCaP細胞を用いたこと、及び各サンプルと共にジヒドロテストステロン(DHT)を共存下(+)又は非共存(-)条件下としたこと以外は、試験例1と同様にして、1.0μM、3.0μM、10μMの各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、Enz及び2’-HFは本発明適用外の対照例)について、検討した。その結果を図5に示す。図5から明らかな通り、コントロールはDHT共存下でLNCaP細胞が増殖していた。EnzはDHT共存下で増殖を阻害したが、DHT非共存下で増殖を阻害しない。一方、2’-HFと化合物[1]・[2]とは、DHTの有無に関わらずLNCaP細胞の増殖を抑制した。とりわけ化合物[1]・[2]は、DHTアンドロゲン依存性の前立腺癌細胞の増殖を強く抑制することが示された。
【0094】
(試験例3’:アンドロゲン依存性前立腺癌細胞LNCaP細胞の増殖阻害)
別な化合物間の増殖阻害活性を測定するため、試験例3に準じ、0μM、1.0μM、3.0μM、10μMの各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、2’-HFは本発明適用外の対照例)、
及び1.0μM、2.0μM、4μMの各サンプル(化合物[4]及び化合物[6]は本発明実施対象例)について、検討した。その結果を図6に示す。さらに、そのときのIC50を表3に示す。
【表3】
【0095】
図6及び表3から明らかな通り、2’-HFと化合物[1]・[2]とは、DHTの有無に関わらずLNCaP細胞の増殖を抑制した。中でも実施例の化合物[4]・[6]は、IC50がそれぞれDHT-で0.34、0.89であってDHT+で0.48、0.62であり、実施例の化合物[1]・[2]のそれぞれのIC50であるDHT-で4.87、3.74、及びDHT+で4.96、3.52よりも数倍から十数倍も低濃度で極めて強い増殖抑制効果を示した。
【0096】
試験例3及び試験例3’の結果は、ホルモン療法が去勢術と併用して又は去勢前から施されている比較的初期ステージであるアンドロゲン依存性前立腺癌の患者に、有効であることを示している。
【0097】
(試験例4:アンドロゲン非依存性LNCaP-SF細胞の増殖阻害)
LNCaP-SF細胞は、DHTによりアンドロゲン受容体の活性が落ちるという細胞であり去勢抵抗性前立腺癌のモデル細胞である。DU145細胞に代えてLNCaP-SF細胞を用いたこと、及び各サンプルと共にジヒドロテストステロン(DHT)を共存下(+)又は非共存(-)条件下としたこと以外は、試験例1と同様にして、1.0μM、3.0μM、10μMの各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、Enz及び2’-HFは本発明適用外の対照例)について、検討した。その結果を図7に示す。図7から明らかな通り、コントロールはDHT非共存下でLNCaP-SF細胞が増殖していた。EnzはDHT共存下・非共存下で増殖を阻害しない。一方、2’-HFと化合物[1]・[2]とは、DHTの有無に関わらずLNCaP-SF細胞の増殖を抑制した。とりわけ化合物[1]・[2]は、アンドロゲン非依存性の前立腺癌細胞の増殖を強く抑制することが示された。
【0098】
試験例4の結果は、ホルモン治療により、アンドロゲン受容体の活性が落ちアンドロゲン遮断への応答性を失ってしまった中期~後期の進行ステージの去勢抵抗性前立腺癌患者に、有効であることを示している。
【0099】
(試験例5:PC-3への細胞強制発現野生型アンドロゲン受容体に対する転写活性化能の阻害)
アンドロゲン非依存性細胞でありアンドロゲン受容体を発現していないPC-3に野生型ARを強制発現させ、ルシフェラーゼアッセイにより、(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、2’-HFは本発明適用外の対照例)に対し、アンドロゲン受容体活性をルシフェラーゼ活性として測定した。その結果を図8に示す。図8から明らかな通り、コントロールはDHTによりアンドロゲン受容体を極めて活性化していた。一方、2’-HFと化合物[1]・[2]とは、DHTが共存しているにも関わらず、アンドロゲン受容体活性化・増強を極めて強く阻害していた。とりわけ化合物[1]はアンドロゲン受容体転写活性化能・増強の阻害作用が強かった。
【0100】
試験例5の結果は、化合物[1]・[2]が、野生型ARの活性そのものを抑制する能力を持っていることを、示している。即ち、抗アンドロゲン薬であるビカルタミド、フルタミド、エンザルタミドと同じように抗アンドロゲン作用を有しているから、アンドロゲン依存性前立腺癌の患者に、有効である。
【0101】
(試験例6:アンドロゲン依存性LNCaP細胞におけるアンドロゲン受容体活性の阻害)
アンドロゲン依存性のLNCaPについて、試験例5と同様にして、各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、2’-HFは本発明適用外の対照例)について、アンドロゲン受容体活性を測定した。その結果を図9に示す。図9から明らかな通り、コントロールはDHTによりアンドロゲン受容体を極めて活性化していた。2’-HFはDHTが共存しているにも関わらず、アンドロゲン受容体活性化・増強を幾分か阻害していた。一方、化合物[1]・[2]とは、DHTが共存・非共存に関わらず、アンドロゲン受容体活性化・増強を極めて強く阻害していた。とりわけ化合物[1]はアンドロゲン受容体活性化・増強の阻害作用が強かった。
【0102】
試験例6の結果は、突然変異のある内在性のARを保持している場合においても、化合物[1]・[2]がARの活性を阻害する能力を持っていることを示している。これは患者にフルタミドを長期投与した場合などにこのARの突然変異が生じることがよく観察されており、そのような患者に対しても化合物が抗アンドロゲン薬として働くことを示している。
【0103】
(試験例7:アンドロゲン依存性変異AR(Thr877Ala)の転写活性化能阻害)
Thr877Alaは、本来、抗アンドロゲン剤であるべきフルタミド(flutamide;Flu)がアゴニストとして働き、アンドロゲン受容体を活性化させる前立腺癌細胞である。このThr877Alaについて、試験例5と同様にして、各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、Flu、Enz及び2’-HFは本発明適用外の対照例)について、アンドロゲン受容体活性を測定した。その結果を図10に示す。図10から明らかな通り、コントロールはDHTによりアンドロゲン受容体を極めて活性化しており、Fluの存在によりDHTの共存の有無に関わらずコントロールよりもアンドロゲン受容体活性化・増強を促進していた。一方、Enz、2’-HF、化合物[1]・[2]、とりわけ化合物[1]は、このような変異細胞株に対しても、アンドロゲン受容体活性化・増強の阻害作用が強かった。
【0104】
試験例7の結果は、LNCaPと同じ突然変異のあるARをPC-3に導入した細胞に対して、化合物[1]・[2]がLNCaP細胞と同様な効果を奏することを示している。
【0105】
(試験例8:アンドロゲン非依存性変異AR(AR-V7)の転写活性化能阻害)
AR-V7を遺伝子導入した細胞は、アンドロゲン結合部位が欠損してアンドロゲン受容体が常に活性化されている。このような細胞について、試験例5と同様にして、各サンプル(化合物[1]・[2]は本発明実施対象例、Enz及び2’-HFは本発明適用外の対照例)について、アンドロゲン受容体活性を測定した。その結果を図11に示す。図11から明らかな通り、コントロールはDHTの有無によらずアンドロゲン受容体を活性化・増強する。Enzはコントロールと同レベルで、AR-V7の活性を阻害しない。2’-HFが共存すると、コントロールよりもアンドロゲン受容体を活性化・増強を促進する。一方、化合物[1]・[2]、とりわけ化合物[1]は、このようなAR-V7に対しても、アンドロゲン受容体活性化・増強の阻害作用が極めて強かった。
【0106】
試験例8の結果は、AR-V7が発現してアンドロゲン受容体が常に活性化された状態となってしまいホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺癌に進行した患者に対しても抗アンドロゲン作用があり、有効であることを示している。
【0107】
(試験例9:アンドロゲン非依存性変異AR(AR-V7)の転写活性化能阻害)
ドタキセル耐性株(PC-3-TxRとDU145-TxR)と、それから樹立されたカバジタキセル耐性株(PC-3-TxR/CxRとDU145-TxR/CxR)とを、0μM、3.0μM、10μM、30μMの各サンプル化合物[1]・[2]存在下で試験例1と同様にして培養した結果を、図12に示す。図12から明らかな通り、これら耐性株の増殖を、化合物[1]・[2]とも、IC50で約3~10μMの濃度で、抑制した。
【0108】
前立腺癌では再燃後、ドセタキセルをしばしば使用するが、耐性の発現が問題となっている。患者に対しドセタキセルが臨床的に効かなくなったらさらにカバジタキセルなどの別な抗癌剤が用いられるが同様に耐性の問題を引き起こす。これらの耐性株は、50倍以上のMDR(P-糖蛋白)の発現亢進によって耐性が発現することが分かっている。試験例9の化合物[1]・[2]の結果から明らかな通り、これら耐性株に対しても増殖抑制効果を示すということは、多剤耐性癌細胞に対しても有効であることを示している。従って、再燃性・再発性の前立腺がんでは、抗アンドロゲン薬で活性化してしまう変異型ARや、アンドロゲン非依存的なARシグナルが作動していることが多いが、これらの場合にも有効であることを示している。
【0109】
試験例1~9で示した通り、化学式(2-1)及び化学式(2-2)で示されるケトン誘導体又はその薬学的に許容される塩を含むアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物を含有する前立腺癌の医薬製剤は、アンドロゲン受容体活性化の抑制剤、アンドロゲン反応性の抑制剤、アンドロゲン受容体発現の抑制剤、アンドロゲン依存性前立腺癌の増殖抑制剤、アンドロゲン非依存性前立腺癌の増殖抑制剤、アンドロゲン受容体の転写活性化能の阻害剤、AR-V7の抑制剤、及び/又は抗癌剤耐性前立腺癌の抑制剤として、有用である。
【0110】
(試験例10:PC-3のin vivoでの増殖抑制試験)
7週齢のC.B-17/Icr-scid系雄マウス(scid/scid)(日本クレア株式会社)を購入し、8週齢でマウスの背部皮下に約200万個の前立腺癌細胞PC-3をMATRIGEL(コーニング社製;登録商標)と混ぜて注入した。腫瘍の体積(短径×長径)が200mm3を超えたところでマウスを5匹ずつ4群に分け、controlとしてDMSO(ジメチルスルホキシド)群、ドセタキセル(Doc、下記式参照)の10mg/kg群、化合物[4]の30mg/kg群、化合物[4]の50mg/kg群として、各用量のDMSO液にして、DMSO腹腔内投与を開始した。ドセタキセルは初回と1週後の2回腹腔内投与し、その他は4日ごとに、各用量のDMSO液を40μlずつ投与した。腫瘍の体積は4日ごとに測定した。飼育環境はバリアーシステムの飼育室で水道水(自由摂取)および固形飼料(自由摂取)を与えた。その結果を図13に示す。
【化16】
【0111】
図13から明らかな通り、コントロールに比べ、化合物[4]は、in vivoで有意に前立腺癌細胞PC-3の増殖を抑制していた。なお、化合物[4]は、ドセタキセルに比べ遥かに低分子でドセタキセルほど立体配置が複雑でなく光学異性も無く簡素な化学構造で簡便に合成できるものであるが、非常に強い増殖抑制活性を示した。試験中、何れのマウスも、体重現状や外観異常は認められず、化合物[4]はドセタキセルと同等な安全性が示された。
【0112】
なお、試験例1~10では組成物を液状の医薬製剤を兼ねる例として記載したが、患者に投与する際には、錠剤等の固形の医薬製剤として調製して用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のアンドロゲン依存性又は非依存性前立腺癌細胞の抑制用の組成物、及びそれを含有する前立腺癌の医薬製剤は、進行度の違うあらゆるタイプの前立腺癌の予防、治療、治療後の再発・再燃防止に有用である。
図1
図2
図3
図4
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図7
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図10
図11
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図13