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特開2022-31598ペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031598
(43)【公開日】2022-02-21
(54)【発明の名称】ペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20220214BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135448
(22)【出願日】2020-08-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業「印刷による完全無機多孔質金属酸化物を基礎としたペロブスカイト太陽電池:高効率・低価格デバイス構造の為の電荷収集酸化物の決定」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 英治
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151CB24
5F151CB29
5F151FA02
5F151GA03
(57)【要約】
【課題】 出力特性と生産性を両立するペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子の製造方法を提供する。
【解決手段】透明導電層12を積層した透明導電性基板13上に、電子輸送層14、メソポーラスナノ結晶層15、絶縁スペーサー層16、多孔質正孔収集層17がこの順に積層して構成され、かつ前記メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層のいずれにもハライド系ペロブスカイト化合物を充填させたメゾスコピック光電変換素子であって、光電変換素子の出力電流のパラメータである理想因子が1以上1.3以下である。1~1000Paの減圧下、60~150℃、3~30minでアニール処理する減圧加熱アニール処理を行うことで、エージング時間の短縮に加えて出力特性の向上を図ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層がこの順に積層して構成され、かつ前記メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層のいずれにも下記一般式(1)に示すハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物を単独又は2以上混合して構成されたペロブスカイト化合物を充填させたメゾスコピック光電変換素子であって、該光電変換素子の出力電流のパラメータである理想因子が1以上1.3以下であることを特徴とするメゾスコピック光電変換素子。
[A][B][X]3 (1)
式中、[A]は、メチルアンモニウム(CHNH ),ホルムアミジニウムCH(NH32 2+,R(NH32 2+;Rは炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基もしくは芳香族複素環基から選択される有機カチオンまたは、Cs,Rb,Cu,Pd,Pt,Ag,Au,RhもしくはRuから選択される1以上の無機カチオンであり、[B]は、Pb2+,Sn2+から選択される1以上の2価の無機カチオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iから選択されるハロゲン化物アニオンである。
【請求項2】
前記メソポーラスナノ結晶層及び絶縁スペーサー層が、酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素から選択された金属酸化物を単独又は2以上混合して構成された金属酸化物で形成されていることを特徴とする請求項1に記載するメゾスコピック光電変換素子。
【請求項3】
透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層がこの順に積層して構成され、かつ前記絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層のいずれにも上記一般式(1)に示すハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物を単独又は2以上混合して構成されたペロブスカイト化合物を充填させたメゾスコピック光電変換素子であって、該光電変換素子の出力電流のパラメータである理想因子が1以上1.3以下であることを特徴とするメゾスコピック光電変換素子。
【請求項4】
前記絶縁スペーサー層が、酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素から選択された金属酸化物を単独又は2以上混合して構成された金属酸化物で形成され、かつ前記絶縁スペーサー層を構成する金属酸化物層の緻密度が、前記多孔質正孔収集層側が電子輸送層側に比べて高いことを特徴とする請求項3に記載するメゾスコピック光電変換素子。
【請求項5】
透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層を、この順に成膜及び焼成して逐次積層する機能層形成工程と、多孔質正孔収集層側から前記一般式(1)に示すペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体を含む溶液を滴下充填し、多孔質正孔収集層、絶縁スペーサー層、メソポーラスナノ結晶層にペロブスカイト化合物からなる光電変換機能層を形成する光電変換機能層形成工程と、光電変換機能層を形成したメゾスコピック光電変換素子を、1~1000Paの減圧下、60~150℃、3~30minでアニール処理する減圧加熱アニール処理工程と、からなるメゾスコピック光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層を、この順に成膜及び焼成して逐次積層する機能層形成工程と、多孔質正孔収集層側から前記一般式(1)に示すペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体を含む溶液を滴下充填して、多孔質正孔収集層及び絶縁スペーサー層にペロブスカイト化合物からなる光電変換機能層を形成する光電変換機能層形成工程と、光電変換機能層を形成したメゾスコピック光電変換素子を、1~1000Paの減圧下、60~150℃、3~30minでアニール処理する減圧加熱アニール処理工程と、からなるメゾスコピック光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁スペーサー層が、酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素から選択された金属酸化物を、単独又は2以上混合して構成された金属酸化物で形成され、かつ前記絶縁スペーサー層を構成する金属酸化物層の緻密度が、前記多孔質正孔収集層側が電子輸送層側に比べて高いことを特徴とする請求項6に記載するメゾスコピック光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境的に持続可能かつ経済的にも存続可能なエネルギー源に対する需要に応えるため、低コストで製造可能な高効率発電システムの実用化研究が広く行われている。光電変換素子は、光吸収材料を利用して太陽光エネルギーを電気エネルギーに直接変換するデバイスであり、光吸収材料としてペロブスカイト型結晶構造を有する化合物(以下、「ペロブスカイト化合物」という。)として金属ハロゲン化物を用いた光電変換素子が、比較的高い光電変換効率を達成できるとの研究成果が報告され、注目を集めている。中でも溶液処理が可能な有機無機混成ペロブスカイト化合物を表面積の大きなメソポーラスな金属酸化物に担持させたメゾスコピック光電変換素子が注目されている。
【0003】
特許文献1には、透明導電層を積層した導電ベース上に、正孔ブロッキング層(電子輸送層)、メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、正孔収集層を積層し、メソポーラスナノ結晶層に担持させたペロブスカイト化合物に担持させた光電変換機能を付与するペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子、すなわち負極側(導電ベース)を主たる入射面とすることで、前記光電変換層で発生した光生成キャリアを外部に取り出すことで効率的な集電を行うペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子とその製造方法が開示されている。
【0004】
ペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子はペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子の中で著しく耐久性に優れることが開示されている(非特許文献1)。また、ペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子は、メソポーラスな金属酸化物層にペロブスカイト化合物を担持させた後の温度アニールによるエージング処理(70%RH,40℃,200h)により、出力特性が向上することが開示されている(非特許文献2)。
一方、ペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子は熱的な劣化が起こることが知られている。その原因はペロブスカイト化合物を構成するメチルアンモニウムやホルムアミジニウム等のカチオンが多孔質炭素からなる多孔質正孔収集層に取り込まれることで、ペロブスカイト化合物からヨウ化鉛が析出することにあると考えられている(非特許文献3)。このことから、非特許文献2に開示されたエージング処理は熱的な劣化が起きない40℃の比較的低温が採用されているが、アニール温度が低いために200hの処理時間を必要としている。
【0005】
しかしながら、低コストかつ高効率の光電変換素子を実現するためには、エージング時間の短縮により出力特性と生産性を両立するペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子の製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2016-523453号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mei, Anyi, et al. "A hole-conductor-free, fully printable mesoscopic perovskite solar cell with high stability." science 345.6194 (2014): 295-298.
【非特許文献2】Hashmi, Syed Ghufran, et al. "High performance carbon-based printed perovskite solar cells with humidity assisted thermal treatment." Journal of Materials Chemistry A 5.24 (2017): 12060-12067.
【非特許文献3】Baranwal, Ajay K., et al. "Thermal degradation analysis of sealed perovskite solar cell with porous carbon electrode at 100℃ for 7000 h." Energy Technology 7.2 (2019): 245-252.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、上記課題に鑑み、エージング時間の短縮により出力特性と生産性を両立するペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、下記記載の(態様1)乃至(態様7)で実施できる。
【0010】
(態様1) 透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層がこの順に積層して構成され、かつ前記メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層のいずれにも下記一般式(1)に示すハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物及びハライド系無機ペロブスカイト化合物を単独又は2以上混合して構成されたペロブスカイト化合物を充填させたメゾスコピック光電変換素子であって、該光電変換素子の出力電流のパラメータである理想因子が1以上1.3以下であることを特徴とするメゾスコピック光電変換素子である。
[A][B][X]3 (1)
【0011】
(態様2) 前記メソポーラスナノ結晶層及び絶縁スペーサー層が、酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素から選択された金属酸化物を単独又は2以上混合して構成された金属酸化物で形成されていることを特徴とする(態様1)に記載するメゾスコピック光電変換素子である。
【0012】
(態様3) 透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層がこの順に積層して構成され、かつ前記絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層のいずれにも上記一般式(1)に示すハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物を単独又は2以上混合して構成されたペロブスカイト化合物を充填させたメゾスコピック光電変換素子であって、該光電変換素子の出力電流のパラメータである理想因子が1以上1.3以下であることを特徴とするメゾスコピック光電変換素子である。
【0013】
(態様4) 前記絶縁スペーサー層が、酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素から選択された金属酸化物を単独又は2以上混合して構成された金属酸化物で形成され、かつ前記絶縁スペーサー層を構成する金属酸化物層の緻密度が、前記多孔質正孔収集層側が電子輸送層側に比べて高いことを特徴とする(態様3)に記載するメゾスコピック光電変換素子である。
【0014】
(態様5) 透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、メソポーラスナノ結晶層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層を、この順に成膜及び焼成して逐次積層する機能層形成工程と、多孔質正孔収集層側から前記一般式(1)に示すペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体を含む溶液を滴下充填し、多孔質正孔収集層、絶縁スペーサー層、メソポーラスナノ結晶層にペロブスカイト化合物からなる光電変換機能層を形成する光電変換機能層形成工程と、光電変換機能層を形成したメゾスコピック光電変換素子を、1~1000Paの減圧下、60~150℃、3~30minでアニール処理する減圧加熱アニール処理工程と、からなるメゾスコピック光電変換素子の製造方法である。
【0015】
(態様6) 透明導電層を積層した透明導電性基板上に、電子輸送層、絶縁スペーサー層、多孔質正孔収集層を、この順に成膜及び焼成して逐次積層する機能層形成工程と、多孔質正孔収集層側から前記一般式(1)に示すペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体を含む溶液を滴下充填して、多孔質正孔収集層及び絶縁スペーサー層にペロブスカイト化合物からなる光電変換機能層を形成する光電変換機能層形成工程と、光電変換機能層を形成したメゾスコピック光電変換素子を、1~1000Paの減圧下、60~150℃、3~30minでアニール処理する減圧加熱アニール処理工程と、からなるメゾスコピック光電変換素子の製造方法である。
【0016】
(態様7) 前記絶縁スペーサー層が、酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素から選択された金属酸化物を、単独又は2以上混合して構成された金属酸化物で形成され、かつ前記絶縁スペーサー層を構成する金属酸化物層の緻密度が、前記多孔質正孔収集層側が電子輸送層側に比べて高いことを特徴とする(態様6)に記載するメゾスコピック光電変換素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、減圧加熱アニール処理により、エージング時間の短縮に加えて出力特性の向上を図ることができる。これにより出力特性と生産性を両立するペロブスカイト化合物を用いたメゾスコピック光電変換素子の製造方法を提供できる。
減圧加熱アニール処理は、水分の影響が無視できるため、ペロブスカイト化合物を構成するメチルアンモニウムやホルムアミジニウム等のカチオンが多孔質炭素からなる多孔質正孔収集層に取り込まれることにより熱的に活性化し、ペロブスカイト化合物からヨウ化鉛が析出することで出力特性が低下することを抑制でき、ペロブスカイト型半導体の接合特性が改善する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本願発明の第1実施態様に係るメゾスコピック光電変換素子の断面模式図である。
図2】本願発明の第2実施態様に係るメゾスコピック光電変換素子の断面模式図である。
図3】減圧加熱アニール処理条件による出力特性の経時変化を示すグラフである。
図4】本願発明の第1実施態様に係るメゾスコピック光電変換素子の減圧加熱アニール処理前後の光照射強度と開放電圧と関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明のメゾスコピック光電変換素子の実施態様について、図1及び図2を用いて説明する。なお、本願発明のメゾスコピック光電変換素子は、これらの実施態様に適用を限定されるものではない。
【0020】
図1は、本願発明の第1実施態様に係るメゾスコピック光電変換素子の断面模式図である。メゾスコピック光電変換素子1は、透明導電性基板11に透明導電層12を積層した透明導電性基板13上に、電子輸送層14、メソポーラスナノ結晶層15、絶縁スペーサー層16、多孔質正孔収集層17をこの順で積層した多層構造で構成されている。また、メソポーラスナノ結晶層15、絶縁スペーサー層16、多孔質正孔収集層17には、ペロブスカイト化合物(図示せず)が充填されている。
【0021】
図2は、本願発明の第2実施態様に係るメゾスコピック光電変換素子の断面模式図である。メゾスコピック光電変換素子2は、透明導電性基板21に透明導電層22を積層した透明導電性基板23上に、電子輸送層24、絶縁スペーサー層26、多孔質正孔収集層27をこの順で積層した多層構造で構成されている。また、絶縁スペーサー層26、多孔質正孔収集層27には、ペロブスカイト化合物(図示せず)が充填されている。なお、図1に示す第1実施態様に係るメゾスコピック光電変換素子1と異なる点は、メソポーラスナノ結晶層15を含まない点にある。
【0022】
1.メゾスコピック光電変換素子の構成
(1)透明導電性基板
本願発明に用いる透明導電性基板(13,23)は、透明導電層(12,22)を透明基板(11,21)上に積層したものである。透明基板(11,21)としては、透明樹脂、光学ガラス、サファイヤ、透光性セラミックスがあり、本願発明のメゾスコピック光電変換素子を構成するに値するものであれば、利用することができる。
透明樹脂としては、耐熱性が高く、耐薬品性及びガス遮断性に優れ、かつ低コストの材料が好適である。例えば、ポリエステル類、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)など、スチレン類、例えば、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)など、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、透明ポリイミド(PI)、シクロオレフィンコポリマー(商品名:アートン)など、脂環式ポリオレフィン(商品名:ゼオノア)など、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、フッ素化環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリビニルフェノール、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、セルローストリアセテートがある。
光学ガラスとしては、光学器械用のレンズ,プリズム等に用いられるガラスで,屈折率,アッベ数,および均一性を厳密に制御して作られたものであり、成分中に酸化鉛(PbO)を含まないクラウンガラス系と,酸化鉛(PbO)を含むフリントガラス系の古典的組成のものがある。例えば、クラウン系(SiO-B-RO R=Na,K),フリント系(SiO-B-PbO),バリウムフリント系(SiO-BaO-PbO),バリウムクラウン系(SiO-B-BaO)があり,ほかに希土類とくにランタンを多く含有するランタン系,さらにリン酸塩系,フッ化物含有系などの特殊組成もある。
透光性セラミックスとしては、透光性アルミナ(Al)、透光性マグネシア(MgO)、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O)がある。
【0023】
(2)透明導電層
本願発明の透明導電層(12,22)の素材としては、導電性金属類、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン、導電性炭素や導電性高分子に代表される導電性有機材料、具体的には導電性炭素として、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭素繊維、フラーレンがあり、導電性高分子として、ポリアセチレン、PEDOTポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンスルフォン酸との、オリゴチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレンがある。導電性金属酸化物、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛、導電性複合金属酸化物、例えば、インジウム‐スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、Agナノワイヤ、金ナノ粒子、銀ナノ粒子などがある。高い光学的透明性を有するという点で、導電性金属酸化物、導電性複合金属酸化物が好ましく、耐熱性と化学安定性に優れるという点で、インジウム‐スズ複合酸化物(ITO)やインジウム‐亜鉛酸化物(IZO)が特に好ましい。透明導電層を構成する素材においては、その組成内容は他の素材との混合でもよく、また形態なども限定されるものではない。
透明導電層(12,22)を透明基板(11,21)上に形成する方法は特に限定されるものではない。スパッタ法、蒸着法さらには分散物を塗布する方法などが選定できる。本願発明の透明導電性基板(13,23)の光透過率(測定波長:550nm)は、30%以上が好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、60%以上が最も好ましく、特には75%以上が好ましい。透明導電性基板の導電性と透明性は、透明導電層の形成方法を最適化することで、例えば、蒸着時間、分散液塗布量などを最適化することで、両立させることができる。
【0024】
(3)電子輸送層
本願発明のメゾスコピック光電変換素子(1,2)は、透明導電性基板(13,23)上に、電子輸送層(14,24)を有している。
電子輸送層(14,24)は、ペロブスカイト化合物(図示せず)を担持した光電変換機能層で発生した電子を、透明導電性基板(13,23)と輸送する機能を有する。電子輸送層(14,24)は、この機能を発揮することができる電子輸送材料で形成される。電子輸送材料としては、有機材料(有機電子輸送材料)と無機材料(無機電子輸送材料)がある。有機電子輸送材料としては、[6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester(PC61BM)等のフラーレン化合物、ペリレンテトラカルボキシジイミド(PTCDI)等のペリレン化合物、その他、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)等の低分子化合物、又は、高分子化合物等が挙げられる。無機電子輸送材料としては、チタン、スズ、亜鉛、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ガリウム、ネオジウム、パラジウム又はカドミウムの酸化物(TiO、SnO、ZnO、Nb、Ta、WO、W、In、Ga、Nd、PbO、CdO)がある。
本願発明の本願発明のメゾスコピック光電変換素子(1,2)は、焼成工程を経て形成されることから無機材料(無機電子輸送材料)が好ましい。電子輸送層(14,24)は、無機電子輸送材料をスパッタ法、蒸着法さらには分散物を塗布する方法などで形成できる。
電子輸送層(14,24)の膜厚は、特に限定されず、0.001~10μmが好ましく、0.01~1μmがより好ましい。なお、短絡防止層ともいい、光電変換層と導電性基板の間に設けることで、光電変換層と導電性基板とが電気的に接続した場合に生じる逆電流を防止する機能を果たす。
【0025】
(4)メソポーラスナノ結晶層
本願発明のメソポーラスナノ結晶層15は、光電変換機能を有するペロブスカイト化合物を担持して光電変換層を形成する機能を担う。メソポーラスナノ結晶層15は、この機能を発揮できるメソポーラス金属酸化物で形成される。ここで、本願発明のメソポーラス材料及びナノ結晶材料などは本分野の普通の定義に満たすものである。すなわち、メソポーラス材料とは孔径が2~100nmにある多孔材料、ナノ結晶材料とは寸法が1~100nmにあり、結晶体構成のあるナノ材料のことである。
メソポーラス金属酸化物としては、TiO、SnO、ZnO、Nb、Ta、WO、W、In、Ga、Nd、PbO、CdO、BaSnO、BaTiO、(NaBi1-x)TiO等がある。
本願発明のメソポーラスナノ結晶15の結晶顆粒径は、20~100nm、好ましくは20~50nmであり、メソポーラスナノ結晶層15の厚みは、後述する絶縁スペーサー層16との関係で適宜選択できる。例えば、メソポーラスナノ結晶層15(500nm~700nm)とし絶縁スペーサー層16(1000nm~3000nm)とする場合と、メソポーラスナノ結晶層15(1000nm~3000nm)とし絶縁スペーサー層16(10nm~50nm)とする場合がある。
メソポーラスナノ結晶層15(500nm~700nm)とし絶縁スペーサー層16(1000nm~3000nm)とする場合は、メソポーラスナノ結晶層15と絶縁スペーサー層16は、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、ダイコート法等で成膜することができる。
メソポーラスナノ結晶層15(1000nm~3000nm)とし絶縁スペーサー層16(10nm~50nm)とする場合は、メソポーラスナノ結晶層15は、印刷プロセスで形成した微多孔質構造であるが、絶縁スペーサー層16は、真空蒸着法で形成したアモルファス構造となる。
なお、絶縁スペーサー層16(10nm~50nm)とするのは、本願発明のメゾスコピック光電変換素子(1)では、メソポーラスナノ結晶層15に多孔質正孔収集層17側からペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体を含む溶液を滴下充填するためには、アモルファス構造となる絶縁スペーサー層16の膜厚を10nm~50nmの薄膜とする必要があるからである。
【0026】
(5)絶縁スペーサー層
本願発明の絶縁スペーサー層(16,26)は、光電変換機能を有するペロブスカイト化合物を担持した光電変換層で生じた光生成キャリア(正孔)を多孔質正孔収集層(17,27)へ輸送する正孔輸送機能を担う。
本願発明の絶縁スペーサー層(16,26)は、メソポーラス金属酸化物で構成される。メソポーラス金属酸化物としては、ZrO、SiO、Al、CaTiO、BaTiO、PbZrO、BaTiO、PbTiO、PbZrO、ZnTiO、BaZrO、Pb(Zr1-xTix) O、(LaPb1-y)(Zr1-xTi)O、(1-x)[Pb(Mg1/3Nb2/3)O]・x[PbTiO]、BiFeO、Pb(Zn1/3Nb2/3)O、Pb(Mg1/3Nb2/3)O、(Na1/2Bi1/2)TiO、TiO、(K1/2Bi1/2)TiO、LiNbO、KNbO、KTaO等がある。
本願発明の絶縁スペーサー層(16)の粒径は、10~100nm、好ましくは10~50nmであり、前述したメソポーラスナノ結晶15に比べて小さい。絶縁スペーサー層(16)の緻密度は、メソポーラスナノ結晶15の緻密度に比べて大きいことが好ましいからである。
本願発明の絶縁スペーサー層(16)の膜厚は、前述したメソポーラスナノ結晶層15との関係で適宜選択できる。例えば、メソポーラスナノ結晶層15(500nm~700nm)とし絶縁スペーサー層16(1000nm~3000nm)とする場合と、メソポーラスナノ結晶層15(1000nm~3000nm)とし絶縁スペーサー層16(10nm~50nm)とする場合がある。
【0027】
本願発明の絶縁スペーサー層(26)は、正孔輸送機能と光電変換機能を有するペロブスカイト化合物を担持して光電変換層を形成する機能を担う。このため、絶縁スペーサー層(26)を構成する金属酸化物層の緻密度を多孔質正孔収集層(27)側が電子輸送層(24)側に比べて高くすることが好ましい。金属酸化物層の緻密度に勾配を設ける方法としては、粒径の異なる金属酸化物微粒子を逐次積層していく方法がある。具体的には、粒径の大きな金属酸化物微粒子を電子輸送層(24)側に、粒径の小さな金属酸化物微粒子を多孔質正孔収集層(27)側に逐次積層していく方法がある。ただし、絶縁スペーサー層(26)の粒径は、10~100nm、好ましくは10~50nmである。絶縁スペーサー層(26)の膜厚は、1000nm~4000nmであり、前述した絶縁スペーサー層(16)の膜厚より厚いことが好ましい。
【0028】
(6)多孔質正孔収集層
本願発明の多孔質正孔収集層(17,27)は、正極としての機能を担う多孔質導電性物資で構成される。具体的には多孔性金属類(白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン)、多孔性導電性炭素(カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、炭素繊維、フラーレン)、多孔性導電性高分子(ポリアセチレン、PEDOTポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン、ポリスチレンスルフォン酸との、オリゴチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン)、多孔性金属酸化物(酸化スズ、酸化亜鉛)、多孔性導電性複合金属酸化物(インジウム‐スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO))、Agナノワイヤ、金ナノ粒子、銀ナノ粒子などがある。耐熱性と化学安定性に優れるという点で、多孔性金属類、多孔性導電性炭素、多孔性金属酸化物、多孔性導電性複合金属酸化物が特に好ましい。
本願発明の多孔質正孔収集層(17,27)は、の粒径は、20~100nm、好ましくは20~50nmであり、膜厚は、50nm~10000nmである。
【0029】
(7)ペロブスカイト化合物
本願発明のメゾスコピック光電変換素子(1,2)の光電変換機能層は、下記一般式(1)に示すハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物及びハライド系無機ペロブスカイト化合物を単独又は2以上混合して構成されたペロブスカイト化合物をメソポーラス金属酸化物に担持することで形成される。
[A][B][X]3 (1)
ここで、ペロブスカイトの基本的構造形態は、ABX構造であり、頂点共有BX八面体の三次元ネットワークを有する。ABX構造のB成分は、Xアニオンの八面体配位をとることができる金属カチオンである。Aカチオンは、BX八面体間の12の配位孔に位置し、一般に無機カチオンである。Aを無機カチオンから有機カチオンに置換することにより、有機無機混成ペロブスカイト化合物を形成する。ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物は、単一の分子スケール・コンポジット内に有機・無機両成分に特徴的な望ましい物理特性を組み合わせた有機無機混成のペロブスカイト化合物をいう。
【0030】
(7-1)ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物
本願発明のハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物は、下記一般式(2)乃至(5)のいずれかに示す化合物である。
CH3NH313 (2)
(式中、M1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
1(NH3214 (3)
(式中、R1は炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基又は芳香族複素環基であり、M1は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
CH3NH3SnX3 (4)
式中、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
2(NH32SnX4 (5)
(式中、R2は炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基又は芳香族複素環基であり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
【0031】
ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物における無機枠組みは、頂点を共有する金属ハロゲン化物八面体の層を有する。陽イオン性有機層からの正の電荷と平衡をとるため、陰イオン性金属ハロゲン化物層例えば、M13 2-,M14 2-)は一般に2価の金属である。
ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物の陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成する金属は、具体的には、M1例、Cu2+,Ni2+,Mn2+,Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Eu2+)である。
ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物の陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成するハロゲン化物は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はこれらの組合せである。このハロゲン化物は、臭化物、ヨウ化物が好ましい。
【0032】
上記一般式(3)のR1としては、炭素数2~40の置換又は未置換のアルキル基、直鎖、分岐又は環状のアルキル鎖好ましくは炭素数2~30であり、より好ましくは炭素数2~20であり、炭素数2~18がもっとも好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、イコサニル基、ドコサニル基、トリアコンタニル基、テトラアコンタニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数2~40の置換又は未置換のアラルキル基としては、アリール基で置換されている低級アルキル基を意味し、アルキル部が直鎖状又は分岐鎖状で、好ましい炭素数が1~5、より好ましくは1であり、アリール部が好ましい炭素数が6~10、より好ましくは6~8である。具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられる。
アルケニル基は、好ましくは炭素数3~30であり、より好ましくは炭素数3~20であり、炭素数3~12が最も好ましい。例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、2-ブテニル基、オレイル基、アリル基等が挙げられる。アルキニル基としては、アセチレニル、プロパルギル基、3-ペンチニル基、2-ヘキシルニル、2-デカニルを挙げることができる。
アリール基としては、好ましくは炭素数6~30の単環又は二環のアリール基例えばフェニル、ナフチル等が挙げられる。)であり、より好ましくは炭素数6~20のフェニル基又は炭素数10~24のナフチル基であり、更に好ましくは炭素数6~12のフェニル基又は炭素数10~16のナフチル基である。例えばフェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられる。これらの基は更に置換基を有していてもよい。複素環基としては、例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等が挙げられる。これらの基は更に置換基を有していてもよい。
芳香族複素環基としては、例えばフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する任意の炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、フタラジニル基等が挙げられる。これらの基は更に置換基を有していてもよい。
ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3(CH2)nCHCH3(NH32PbI4[n=5~8]、C6524(NH32PbBr4、CH3NH3SnI3がある。
【0033】
(7-2)ハライド系無機ペロブスカイト化合物
本願発明のハライド系無機ペロブスカイト化合物は、下記一般式(6)に示されるものである。
CsM23 (6)
(式中、M2は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
【0034】
ハライド系無機ペロブスカイト化合物の陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成する金属は、具体的には、M2(例、Cu2+,Ni2+,Mn2+,Fe2+、Co2+、Pd2+、Ge2+、Sn2+、Pb2+、Eu2+)である。
ハライド系無機ペロブスカイト化合物の陰イオン性金属ハロゲン化物層を構成するハロゲン化物は、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、又はこれらの組合せである。このハロゲン化物は、臭化物、ヨウ化物が好ましい。
ハライド系無機ペロブスカイト化合物の具体例としては、CsSnI3、CsSnBr3がある。
【0035】
本願発明に用いるハライド系ペロブスカイト化合物前駆体溶液を調製するための溶剤としては、ハライド系ペロブスカイト化合物前駆体を溶解できるものであれば特に限定するものではない。エステル類(例、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテート等)、ケトン類(例、γ-ブチロラクトン、Nメチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エーテル類(例、ジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等)、アルコール類例、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、メトキシプロパノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノール、2-フルオロエタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール等)、グリコールエーテルセロソルブ類(例、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル等)、アミド系溶剤例、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、ニトリル系溶剤例、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル等)、カーボート系剤(例、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、ハロゲン化炭化水素(例、塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム等)、炭化水素(例、n-ペンタン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ジメチルスルホキシドがある。これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。エステル類、ケトン類、エーテル類およびアルコール類の官能基即ち、-O-、-CO-、-COO-、-OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。エステル類、ケトン類、エーテル類およびアルコール類の炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0036】
本願発明のハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物及びハライド系無機ペロブスカイト化合物は、前駆体溶液を用いた自己組織化反応により合成することができる。本願発明のハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物及びハライド系無機ペロブスカイト化合物の薄膜は、ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物又はハライド系無機ペロブスカイト化合物、あるいはこれらの混合物を有機溶剤に溶解した後、グラビア塗布法、バー塗布法、スクリーン印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、ダイコート法等の塗布方法によって形成できる。また、真空蒸着法により被膜を形成できる。本願発明の光電変換層の膜厚は、1~500nmが好ましい。
【実施例0037】
次に本願発明の効果を奏するメゾスコピック光電変換素子(1,2)の実施態様を表1及び実施例として以下に示す。なお、本願発明におけるメゾスコピック光電変換素子(1,2)の評価は、以下の<実施例1>に記載した評価方法に従って実施した。
【表1】
【0038】
<実施例1>
(1)機能層形成工程
(1-1)透明導電性基板の作製
ホウケイ酸ガラス基板(Soda Glass)上に、CVD法により、膜厚1μm、シート抵抗10Ω/cm□のFTO(フッ素ドープ酸化錫)膜が形成されたFTO基板を用意した。このFTO基板を、水、アセトン及びエタノールで洗浄し、乾燥した後、紫外オゾンランプ照射により有機物除去して、成膜基材(FTO基板)を作製した。
【0039】
(1-2)電子輸送層の成膜と焼成
酸化チタン前駆体を含む前駆体溶液(TIAAの2プロパノール溶液、アルドリッチ製)を、ホットプレート上にて550℃に加熱した上記成膜基材(FTO基板)上にスプレー塗布した。塗布された溶液は、空気中の水分と反応すると共に、有機分がCOとして排出されることで、50nm厚程度の酸化チタン層(電子輸送層)が基材上に形成された。その後、45分間500℃の焼成を行い、酸化チタンからなる電子輸送層を成膜した。
【0040】
(1-3)メソポーラスナノ結晶層の成膜と焼成
常温に冷却した後、酸化チタンナノ粒子(平均粒子径:20nm程度)を含むペースト(日揮触媒化成社製TiOゾル)を電子輸送層の上にスクリーン印刷し、150℃で6分間加熱乾燥した後に、オーブンにて最高500℃にて焼結することで、500nm厚の酸化チタンからなるメソポーラス酸化チタンナノ結晶層を成膜した。
【0041】
(1-4)絶縁スペーサー層の成膜と焼成
常温に冷却した後、二酸化ジルコニウムナノ粒子(平均粒子径:20nm程度)を含むペースト(SOLARONIX社製 Zr-Nanoxideペースト,インク媒体としてテルピネオールを使用)をメソポーラスナノ結晶層の上にスクリーン印刷し、150℃で6分間加熱乾燥した後に、オーブンにて最高500℃にて焼結することで、1000nm厚の二酸化ジルコニウム多孔質体からなる絶縁スペーサー層を成膜した。
【0042】
(1-5)多孔質正孔収集層の成膜と焼成
常温に冷却した後、炭素電極ペースト(粒子径:1~20nm程度)を含むペースト(SOLARONIX社製 エルコカーブB/SP)を絶縁スペーサー層の上にスクリーン印刷し、オーブンにて400℃にて焼結することで、15000nm厚の多孔質炭素からなる多孔質正孔収集層を成膜した。
以上のようにして、多孔質正孔収集層/絶縁スペーサー層/メソポーラス酸化チタンナノ結晶層/電子輸送層/FTO基板、からなるメゾスコピック光電変換素子の機能層を形成した。
【0043】
(2)光電変換機能層形成工程
(2-1)ハライド系ペロブスカイト化合物前駆体溶液の調製
三口フラスコ内に、メチルアミン〔CH3NH2〕溶液1gとメタノール〔CH3OH〕100mlを入れ、窒素バブリングを行いながらヨウ化水素酸〔HI〕を加えてpHを3~4程度に調整した後、マグネッチックスターラーにより1時間撹拌した。この溶液をエバポレーターで蒸留した後、40℃で乾燥し、再精製することによりヨウ化メチルアミン〔CH3NH3I〕を合成した。次に合成したヨウ化メチルアミン〔CH3NH3I〕とヨウ化鉛〔PbI2〕をモル比1:1の割合で、γブチロラクトン〔(C462〕に40wt%濃度となるように混合して溶解し、ハライド系有機無機混成ペロブスカイト化合物A〔CH3NH3PbI3〕のγブチロラクトン〔(C462〕溶液を調製した。
【0044】
(2-2)光電変換機能層形成
機能層形成工程で製作した多孔質正孔取集層/絶縁スペーサー層/メソポーラス酸化チタンナノ結晶層/電子輸送層/FTO基板、からなるメゾスコピック光電変換素子の機能層に、調製したハライド系ペロブスカイト化合物前駆体溶液(40wt%)を多孔質正孔取集層側からインクジェット方式印刷装置により(1cm当たり4μl)滴下し、30min放置してメソポーラス酸化チタンナノ結晶層/電子輸送層の界面までハライド系ペロブスカイト化合物前駆体溶液を浸透させ、50℃に加熱してハライド系ペロブスカイト化合物前駆体皮膜をメソポーラス酸化チタンナノ結晶層に光電変換機能層を形成した。
【0045】
(3)減圧加熱アニール処理工程
メソポーラス酸化チタンナノ結晶層に光電変換機能層を形成したメゾスコピック光電変換素子を加熱機能付き減圧チャンバーに入れ、減圧加熱下(80℃、100Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測した。
【0046】
(4)光電変換機能評価
太陽光標準スペクトル(A.M.1.5G)とのスペクトル合致度としてAクラスの白色光(100mW/cm)を照射可能な擬似太陽光源(ソーラーシミュレータ、ペクセル・テクノロジーズ社製、PEC-L15)を使用して、100mW/cmの擬似太陽光を照射した際の光電流―電圧特性を計測した。ペルチェ素子(冷却モジュール)により測定ステージの温度を室温(25℃)に維持した。光照射強度と開放電圧との関係を示した。
グラフの傾きはnkT/qの関係となる。ここでnは理想因子(n値)、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電気素量を表しており、k、T、qはいずれも既知数であるため、グラフの傾きから理想因子(n値)を算出した。理想因子(n値)算出時の光照射強度は減光フィルター(SCHOTT社製吸収型NDフィルター)を用いて白色光(100mW/cm)を減光し、白色光(100mW/cm)照射時の電流値が既知のSi系フォトダイオード検出器(分光計器社製BS-520BK)により光照射強度の値を定量化した。
【0047】
<実施例2>
減圧加熱下(90℃、100Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0048】
<実施例3>
減圧加熱下(100℃、100Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0049】
<実施例4>
減圧加熱下(110℃、100Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして実施例4のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0050】
<実施例5>
減圧加熱下(80℃、1000Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして実施例5のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0051】
<実施例6>
電子輸送層の成膜後に、メソポーラスナノ結晶層を成膜せず、常温に冷却した後、二酸化ジルコニウムナノ粒子(平均粒子径:20nm程度)を含むペースト(SOLARONIX社製Zr-Nanoxideペースト,インク媒体としてテルピネオールを使用)を電子輸送層の上にスクリーン印刷し、150℃で6分間加熱乾燥した後に、オーブンにて最高500℃にて焼結することで、1500nm厚の二酸化ジルコニウム多孔質体からなる絶縁スペーサー層を成膜したこと以外は、実施例1と同様にして実施例6のメゾスコピック光電変換素子を得た。
以上のようにして、多孔質正孔収集層/絶縁スペーサー層/電子輸送層/FTO基板、からなるメゾスコピック光電変換素子の機能層を形成した。
【0052】
<実施例7>
電子輸送層の成膜後に、メソポーラスナノ結晶層を成膜せず、常温に冷却した後、二酸化ジルコニウムナノ粒子(平均粒子径:20nm程度)を含むペースト(SOLARONIX社製Zr-Nanoxideペースト,インク媒体としてテルピネオールを使用)を電子輸送層の上にスクリーン印刷し、150℃で6分間加熱乾燥した後に、オーブンにて最高500℃にて焼結することで、1500nm厚の二酸化ジルコニウム多孔質体からなる絶縁スペーサー層を成膜した。なお、絶縁スペーサー層の緻密度を多孔質正孔収集層側が電子輸送層側に比べて高くなるように、インク媒体であるテルピネオールの添加量を調整して複数回スクリーン印刷を行った。その他は、実施例1と同様にして実施例7のメゾスコピック光電変換素子を得た。
以上のようにして、多孔質正孔収集層/絶縁スペーサー層(緻密度差あり)/電子輸送層/FTO基板、からなるメゾスコピック光電変換素子の機能層を形成した。
【0053】
<比較例1>
減圧加熱下(120℃、100Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0054】
<比較例2>
減圧加熱下(130℃、100Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0055】
<比較例3>
常圧加熱下(70℃、101325Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0056】
<比較例4>
常圧加熱下(90℃、101325Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして比較例4のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0057】
<比較例5>
常圧加熱下(110℃、101325Pa)で、3min、6min、12min、20min、30min毎の出力特性(光電流-電圧特性)を計測したこと以外は、実施例1と同様にして比較例5のメゾスコピック光電変換素子を得た。
【0058】
図3は、減圧加熱アニール処理条件を変えて(実施例1~4,比較例1~5)、出力特性の経時変化を計測したグラフである。減圧加熱条件(実施例1~4;100Pa,80℃~110℃)では、アニール時間3minで出力が向上した。一方で、大気圧下の同様の加熱条件(比較例3~5)では出力特性が低下した。ただし、減圧加熱条件(比較例1,2;100Pa,120℃~130℃)では出力特性の低下がみられた。
この結果から、減圧加熱条件(100Pa,80℃~110℃)では、非特許文献2に開示されたアニール時間(200h)を大幅に短縮できることが明らかになった。
【0059】
図4は、実施例2におけるアニール前後の光照射強度と開放電圧と関係を示すグラフである。アニール処理をすることで、理想因子(n値)が1.55から1.29となった。これは、本願発明の減圧加熱アニール処理により、ペロブスカイト型半導体の接合特性が改善し、漏れ電流が減少して出力特性が向上することを示唆している。
【0060】
(5)まとめ
非特許文献3で開示されているように、ペロブスカイト化合物を構成するメチルアンモニウムやホルムアミジニウム等のカチオンが多孔質炭素からなる多孔質正孔収集層に取り込まれる現象が熱的に活性化し、ペロブスカイト化合物からヨウ化鉛が析出することで出力特性が低下するものと考えられている。本発明では減圧加熱条件(実施例1~4;100Pa,80℃~110℃)では出力特性が向上し、大気圧下の同様の加熱条件(比較例3~5)では出力特性が低下した。このような差を生み出す要因として、水分の影響が考えられる。すなわち、大気圧下の加熱条件においては非特許文献3で開示されている熱的な劣化が水分により加速(ヨウ化鉛の析出が促進)されているのに対し、減圧加熱条件下では水分の影響は無視できるため、熱的な劣化を抑制しつつ、ペロブスカイト型半導体の接合特性が改善するメリットのみを享受しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本願発明のメゾスコピック光電変換素子は、光電変換機能に優れかつ製造コストの安い光電変換素子を提供できる。
【符号の説明】
【0062】
1, 2 メゾスコピック光電変換素子
11,21 透明基板
12,22 透明導電層
13,23 透明導電性基板
14,24 電子輸送層
15 メソポーラスナノ結晶層
16,26 絶縁スペーサー層
17,27 多孔質正孔収集層
3 電流
図1
図2
図3
図4