(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031609
(43)【公開日】2022-02-21
(54)【発明の名称】水性塗料組成物、及び水性塗料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220214BHJP
C09D 123/12 20060101ALI20220214BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20220214BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220214BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220214BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D123/12
C09D133/04
C09D7/65
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197323
(22)【出願日】2021-12-03
(62)【分割の表示】P 2020158046の分割
【原出願日】2020-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020112176
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】高平 孝嘉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 康成
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB081
4J038CG032
4J038HA026
4J038HA166
4J038KA04
4J038KA09
4J038NA27
4J038PB06
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】オゾン濃度が低減するオゾン分解性塗膜を形成可能な水性塗料組成物及び、その製造方法の提供。
【解決手段】水を主成分とする溶媒と、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、ポリアクリレート系分散剤と、樹脂と、PH調整剤とを含む水性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を主成分とする溶媒と、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、ポリアクリレート系分散剤と、樹脂と、PH調整剤とを含む水性塗料組成物。
【請求項2】
前記酸化マンガン系触媒は、二酸化マンガン系触媒である請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の配合比率は、質量比で、20/80≦活性炭/酸化マンガン系触媒≦80/20である請求項1又は請求項2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭の合計量は、水性塗料組成物の硬化膜に対して60質量%~90質量%である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記ポリアクリレート系分散剤は、重量平均分子量が5000~30000の範囲内、酸価が1~50の範囲内、水素イオン指数がpH4~pH9の範囲内の分散剤である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
前記ポリアクリレート系分散剤の含有量は、前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭の合計量100質量部に対し、1.5質量部~75質量部の範囲内である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
前記樹脂は、(メタ)アクリル樹脂、及びポリプロピレン樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭における、グラインドゲージにより測定された分散度が、最大粒子径(Dmax)20μm以下である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項9】
前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭における、レーザー解析法による体積基準の90%の累積粒子径(D90)が、10μm以下である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項10】
前記活性炭は、粉末状の活性炭である請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項11】
前記活性炭の、N2吸着のBET法によって測定した比表面積は、500m2/g~3000m2/gである請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項12】
水を主成分とする溶媒と、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、ポリアクリレート系分散剤とを混合し、分散する分散工程と、
前記分散された混合物にpH調整剤を混合する中和工程と、
前記中和された混合物に樹脂を混合する塗料化工程と
を有する水性塗料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物、及び水性塗料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、自動車等から排出される排気ガスは、窒素酸化物(NOX)、炭化水素類(HC)等の揮発性有機化合物(VOC)を含む。揮発性有機化合物(VOC)は、大気中の酸素との化学反応および太陽光の紫外線による光化学変化によって、光化学オキシダント(Ox)に変換される。この光化学オキシダントは、オゾン(O3)を主成分とする大気汚染物質、即ち、環境負荷物質であり、光化学スモッグの原因となる。
【0003】
我が国では、光化学オキシダントの環境基準が1時間値で0.06ppm以下と定められている。しかし、現状は、基準値超過が続いている状態であり、近年の地球環境保全問題の世界的な意識の向上の中で、光化学オキシダントの早急な削減対応が望まれている。
【0004】
そこで、窒素酸化物等の揮発性有機化合物の排出規制を行う一方で、生成されたオゾンを分解(浄化)することで光化学スモッグの発生を阻止する技術が提案されている。
例えば、米国のカリフォルニア州等の一部の地域では、オゾンを分解する触媒が担持されたラジエータを車両に搭載し、その車両を走行させることにより、大気の改善を図る大気浄化システムが検討されており、直接オゾン還元技術(DOR;Direct Ozone Reduction)を使用した自動車、例えば、大気中のオゾンをオゾン分解触媒(オゾン浄化触媒)により分解することができる車両用大気浄化装置を備えた自動車が実用化されている。特に、米国のカリフォルニア州等では、このような直接オゾン還元技術(DOR)を導入した車両やその車両を販売しているメーカーに対して、光化学スモッグの原因物質である非メタン有機ガス(NMOG;Non-Methane Organic Gases)の排出量を削減したとみなす所定の特典(NMOGクレジット認定)を付与している。
【0005】
ここで、オゾン分解触媒を担持させたラジエータに関する技術として、例えば、特許文献1及び特許文献2において、車両の走行中に大気が流入するラジエータ(フィン)の表面に金属酸化物の触媒を担持させた車両用大気浄化装置の技術の開示があり、ラジエータ表面のオゾン分解触媒層によって大気中に含まれるオゾンを分解することの記載がある。
また、特許文献3には、金属酸化物の触媒だけでなく、オゾンを浄化する機能を備える活性炭を使用した車両用大気浄化装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002-514966号公報
【特許文献2】特開2008-000746号公報
【特許文献3】特開2014-024027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうして、従来、特許文献1~特許文献3に示すように、ラジエータ(フィン)の表面に大気中のオゾンを分解する触媒を担持させることにより、ラジエータ表面に備えたオゾン分解触媒層によって大気中のオゾンを浄化する車両用大気浄化装置の技術が開発されてきた。
【0008】
一方、扇風機、サーキュレータ、エアコン、空気清浄機等の送風機に、大気中のオゾンを分解し、オゾン濃度が低減された空気を送風可能な機能があれば、室内、屋外等の施設での、大気中のオゾン浄化に大きく貢献できる。
例えば、農作物および園芸作物の中には、オゾンに対する感受性が高い作物が多く、オゾンにより作物に様々な被害症状を及ぼし、成長及び収量の減少を引き起こす。そのため、大気中のオゾンを分解する機能を有する送風機により、室内、屋外等の施設において、農作物および園芸作物のオゾン被害が軽減できる。
また、例えば、オゾンは人体への影響も報告されていることから、大気中のオゾンを分解する機能を有する送風機により、室内、屋外等の施設において、オゾンによる人体への影響も軽減できる。
【0009】
また、送風機に限られず、大気中のオゾンを分解する機能を有する物品により、オゾンを分解できれば、オゾン濃度が低減された環境が実現でき、農作物および園芸作物のオゾン被害およびオゾンによる人体への影響も軽減できる。
【0010】
そこで、本発明の課題は、オゾン濃度が低減するオゾン分解性塗膜を形成可能な水性塗料組成物及び、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
水を主成分とする溶媒と、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、ポリアクリレート系分散剤と、樹脂と、PH調整剤とを含む水性塗料組成物である。
請求項1に係る発明によれば、上記成分を含む水性塗料組成物は、オゾン分解性能を有するオゾン分解性塗膜を形成できる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、
前記酸化マンガン系触媒は、二酸化マンガン系触媒である請求項1に記載の水性塗料組成物である。
請求項2に記載の発明によれば、二酸化マンガン系触媒は触媒活性能が高く、オゾン分解性塗膜のオゾン分解能が向上し、さらに、オゾン濃度が低減される。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記酸化マンガン系触媒と前記活性炭の配合比率は、質量比で、20/80≦活性炭/酸化マンガン系触媒≦80/20である請求項1又は請求項2に記載の水性塗料組成物である。
請求項3に記載の発明によれば、酸化マンガン系触媒と活性炭の組み合わせによるオゾン分解性の相乗効果により、オゾン分解性塗膜のオゾン分解能が向上し、さらに、オゾン濃度が低減される。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭の合計量は、水性塗料組成物の硬化膜に対して60質量%~90質量%である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項4に記載の発明によれば、オゾン分解性塗膜の付着性を損なうことなく、オゾン分解性塗膜に高いオゾン分解性能が付与され、継続して、オゾン濃度が低減される。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記ポリアクリレート系分散剤は、重量平均分子量が5000~30000の範囲内、酸価が1~50の範囲内、水素イオン指数がpH4~pH9の範囲内の分散剤である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項5に記載の発明によれば、オゾン分解性塗膜の付着性を損なうことなく、オゾン分解性塗膜に高いオゾン分解性能が付与され、継続して、オゾン濃度が低減される。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、前記ポリアクリレート系分散剤の含有量は、前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭の合計量100質量部に対し、1.5質量部~75質量部の範囲内である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項6に記載の発明によれば、オゾン分解性塗膜に高いオゾン分解性能が付与され、さらにオゾン濃度が低減される。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、前記樹脂は、(メタ)アクリル樹脂、及びポリプロピレン樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項7に記載の発明によれば、金属に対する付着性に優れる(メタ)アクリル樹脂を採用すると、金属製の部材(通気部材、回転羽根、案内部材等)に対するオゾン分解性塗膜の付着性が高まり、継続して、オゾン濃度が低減される。また、金属及び樹脂に対する付着性に優れるポリプロピレン樹脂を採用すると、金属製及び樹脂製の部材(通気部材、回転羽根、案内部材等)の部材に対するオゾン分解性塗膜の付着性が高まり、継続して、オゾン濃度が低減される。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭における、グラインドゲージにより測定された分散度が、最大粒子径(Dmax)20μm以下である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項8に記載の発明によれば、細かい粒度に酸化マンガン系触媒及び活性炭が高分散された塗料組成物から形成された塗膜は、分散性良く酸化マンガン系触媒及び活性炭が配合され、酸化マンガン系触媒及び活性炭によるオゾン吸着量が高くなることで高いオゾン分解性能が発揮される。
【0019】
また、請求項9に記載の発明は、前記酸化マンガン系触媒及び前記活性炭における、レーザー解析法による体積基準の90%の累積粒子径(D90)が、10μm以下である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項9に記載の発明によれば、細かい粒度に酸化マンガン系触媒及び活性炭が高分散された塗料組成物から形成された塗膜は、分散性良く酸化マンガン系触媒及び活性炭が配合され、酸化マンガン系触媒及び活性炭によるオゾン吸着量が高くなることで高いオゾン分解性能が発揮される。
【0020】
また、請求項10に記載の発明は、前記活性炭は、粉末状の活性炭である請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項10に記載の発明によれば、粉末状の活性炭でも、上記成分を含む水性塗料組成物は、オゾン分解性能を有するオゾン分解性塗膜を形成できる。
【0021】
また、請求項11に記載の発明は、前記活性炭の、N2吸着のBET法によって測定した比表面積は、500m2/g~3000m2/gである請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の水性塗料組成物である。
請求項11に記載の発明によれば、オゾン分解性塗膜の成膜性及び付着性が良好で、触媒の脱落が生じ難く、より効果的に、持続して高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。
【0022】
また、請求項12に記載の発明は、
水を主成分とする溶媒と、酸化マンガン系触媒と、活性炭と、ポリアクリレート系分散剤とを混合し、分散する分散工程と、
前記分散された混合物にpH調整剤を混合する中和工程と、
前記中和された混合物に樹脂を混合する塗料化工程と
を有する水性塗料組成物の製造方法である。
請求項12に記載の発明によれば、オゾン分解性能を有するオゾン分解性塗膜を形成できる可能な水性塗料組成物を製造できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オゾン濃度が低減するオゾン分解性塗膜を形成可能な水性塗料組成物及び、その製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る送風機の一例を示す概略分解斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る送風機の送風部周辺を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る送風機における第一通気部材及び第二通気部材として備えるフィルター部材を示す概略平面図である。
【
図4】
図4は、表1、表2及び表4に示した試験例及び比較例におけるオゾン分解評価試験の方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、表3に示した試験例及び比較例におけるオゾン分解評価試験の方法を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る空調システムを有する建物の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書において、実質的に同一の機能を有する部材には全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよい。また、段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよい。
数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0026】
<送風機>
図1は、本実施形態に係る送風機の一例を示す概略分解斜視図である。
図2は、本実施形態に係る送風機の送風部周辺を示す概略断面図である。
【0027】
本実施形態に係る送風機100は、
図1及び
図2に示すように、送風部10と、第一通気部材14と、第二通気部材16と、案内部材18と、支持部材20と、を備える。
【0028】
送風部10は、例えば、案内部材18の内部に設けられ、空気を吸込み、送風する。送風部10は、例えば、回転羽根12と、回転羽根12を回転駆動する不図示の駆動モータと、を有する。
【0029】
回転羽根12は、空気吸込み、送風するファンであれば、特に制限はなく、送風機100の種類に応じて、例えば、遠心ファン、軸流ファン、斜流ファン、横流ファン等の周知のファンが採用できる。具体的には、回転羽根12としては、例えば、プロペラファン、シロッコファン、ターボファン、ラインフローファン(登録商標)等の周知のファンが例示できる。なお、本実施形態では、回転羽根12として、プロペラファンを示している。
【0030】
回転羽根12の羽根表面には、オゾン分解性塗膜22が設けられている。
【0031】
第一通気部材14は、例えば、空気の送風方向下流側における案内部材18の一端に設けられている。具体的には、第一通気部材14は、例えば、案内部材18における、送風部10から送風される空気を排出する排出口に嵌め込まれている。
【0032】
第一通気部材14は、例えば、送風部10から送風される空気が通気する第一通気孔14Aとして、貫通孔を有するハニカム構造部材で構成されている。ハニカム構造部材は、周縁の枠部の内側に、断面形状が六角形の貫通孔が隙間なく複数配列された構造となっている。
【0033】
第一通気部材14において、第一通気孔14Aの壁面、つまりハニカム構造の貫通孔の壁面には、オゾン分解性塗膜22が設けられている。
【0034】
第二通気部材16は、例えば、空気の送風方向上流側における案内部材18の一端に設けられている。具体的には、第二通気部材16は、例えば、案内部材18における、送風部10により空気を吸込む吸込口に嵌め込まれている。
【0035】
第二通気部材16は、例えば、送風部10に吸込まれる空気が通気する第二通気孔16Aとして、貫通孔を有するハニカム構造部材で構成されている。ハニカム構造部材は、断面形状が六角形の貫通孔が隙間なく複数配列された構造となっている。
【0036】
第二通気部材16において、第二通気孔16Aの壁面、つまりハニカム構造の貫通孔の壁面には、オゾン分解性塗膜22が設けられている。
【0037】
案内部材18は、送風部10の回転羽根12の外径よりも大きな内径の筒状の部材で構成され、内部に送風部10を備える。
案内部材18は、送風部10から送風される空気を第一通気部材14に案内する。案内部材は、第二通気部材16の第二通気孔16Aを通気した空気を送風部10に案内する案内部材を兼ねている。
案内部材18の内壁面には、オゾン分解性塗膜22が設けられている。
【0038】
支持部材20は、例えば、送風部10が設けられた案内部材18を支持している。
支持部材20は、例えば、三脚で構成されている。支持部材20は、三脚に限られず、台座と、台座から延び、一端が案内部材を可動可能に固定する一つ又は複数の柱状体又は板状体とを備える周知の支持部材で構成されていてもよい。
【0039】
オゾン分解性塗膜22は、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂を含む。
オゾン分解性塗膜22は、少なくとも、第一通気部材14の第一通気孔14Aの壁面、第二通気部材16の第二通気孔16Aの壁面、及び回転羽根12の羽根表面に設けられている。
【0040】
ただし、送風機100において、効率良く、オゾン濃度が低減された空気を送風可能とする観点から、高いオゾン分解性能を有する塗膜は、送風機の第一通気部材及び第二通気部材の各通気孔壁面を含め、吸込まれた空気が排出されるまでの間に、当該空気が接触する部位に設けられていることが好ましい。
【0041】
なお、オゾン分解性塗膜22の詳細については、後述する。
【0042】
以上説明した本実施形態に係る送風機100は、第一通気部材14の第一通気孔14A及び第二通気部材16の第二通気孔16Aの壁面に設けられ、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂を含むオゾン分解性塗膜22を備えている。オゾン分解性塗膜22は、上記成分により、高いオゾン分解性能を有する。
【0043】
送風機100において、送風部10から送風された空気は、第一通気部材14の第一通気孔14Aを通気するとき、オゾン分解性塗膜22と接触する。それにより、空気中に含まれるオゾンが分解される。そのため、送風機100では、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0044】
送風機100において、送風部に吸込まれる空気は、第二通気部材16の第二通気孔16Aを通気するとき、オゾン分解性塗膜22と接触する。それにより、空気中に含まれるオゾンが分解される。そのため、送風機100では、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0045】
特に、送風機100では、オゾン分解性塗膜22を設けた第一通気部材14および第二通気部材16の双方を備えるため、さらに、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0046】
なお、送風機100は、オゾン分解性塗膜22を設けた第一通気部材14および第二通気部材16の少なくとも一方を備える態様であってもよい。また、送風機100は、(1)オゾン分解性塗膜22を設けた第一通気部材14と、オゾン分解性塗膜22を設けない第二通気部材16と、を備えた態様、(2)オゾン分解性塗膜22を設けない第一通気部材14と、オゾン分解性塗膜22を設けた第二通気部材16と、を備えた態様のいずれであってもよい。
ただし、よりオゾン濃度が低減された空気を送風する観点からは、送風機100は、オゾン分解性塗膜22を設けた第一通気部材14を少なくとも備えた態様がよい。
【0047】
送風機100では、第一通気部材14及び第二通気部材16が、ハニカム構造部材で構成されている。ハニカム構造部材は、空気が通気する貫通孔の壁面の面積が大きい。つまり、オゾン分解性塗膜22を塗装する面積が大きく、空気が貫通孔を通気したときオゾン分解性塗膜22と接触する面積も増える。そのため、さらに、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0048】
ここで、第一通気部材14は、例えば、
図3に示すように、送風部10から送風される空気が通気する第一通気孔14Aとして、メッシュ孔を有するフィルター部材で構成されてもよい。
同様に、第二通気部材16も、例えば、
図3に示すように、送風部10に吸込まれる空気が通気する第二通気孔16Aとして、メッシュ孔を有するフィルター部材で構成されてもよい。
【0049】
フィルター部材は、例えば、繊維フィルター(織物フィルター、不織布フィルター等)、金属フィルター、セラミックフィルター、樹脂フィルター(発泡樹脂フィルターを含む)等の周知のフィルターが採用できる。
フィルター部材は、目的に応じて、粗塵用フィルタ-、中性能エアフィルタ-、HEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)フィルタ-、ULPA(Ultra Low Penetration Air Filter)フィルタ-のいずれを採用してもよい。
フィルター部材は、異なる機能の複数のフィルターで構成されていてもよい。
【0050】
フィルター部材のメッシュ孔の壁面にも、オゾン分解性塗膜22が設けられている。
【0051】
フィルター部材は、空気が通気するメッシュ孔の壁面の面積が大きい。つまり、オゾン分解性塗膜22を塗装する面積が大きく、メッシュ孔を通気する空気がオゾン分解性塗膜22と接触する面積も増える。
【0052】
そのため、第一通気部材14及び第二通気部材16として、フィルター部材を備えた送風機100も、さらにオゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
ただし、ハニカム構造部材は、フィルター部材に比べ、通気する空気の圧力損失が少ない。そのため、第一通気部材14及び第二通気部材16としてハニカム構造部材を備えた送風機100は、圧損を低減して、効率良く、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0053】
また、第一通気部材14及び第二通気部材16のうち、一方がハニカム構造部材であり、他方がフィルター部材である態様でもよい。本態様は、第一通気部材14及び第二通気部材16の双方がハニカム構造部材である態様に比べ、送風機100のコスト低減及び重量低減が図れる利点がある。そして、本態様では、ハニカム構造部材及びフィルター部材の少なくとも一方に、オゾン分解性塗膜が設けられていればよい。
【0054】
なお、第一通気部材14及び第二通気部材16は、ハニカム構造部材、又はフィルター部材に限られず、例えば、(1)第一通気孔14A及び第二通気孔16Aとして、断面形状が円形、多角形(三角形、四角等)の貫通孔が複数配列された構造部材、(2)中心部から複数の直線状又は湾曲状のフィンが放射状又は渦巻き状に設けられ、隣り合うフィン間の間隙を第一通気孔14A及び第二通気孔16Aとする構造部材等であってもよい。
【0055】
送風機100は、オゾン分解性塗膜22が設けられた回転羽根12を備える。回転羽根12の回転により、空気が吸込み及び送風されるとき、空気はオゾン分解性塗膜22と接触する。そのため、送風機100は、さらに、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0056】
送風機100は、送風部10から送風される空気を、第一通気部材14に案内する案内部材18を備えている。
案内部材18は、送風される空気が第一通気部材14の周囲から抜けるのを抑制し、空気が第一通気部材14の第一通気孔14Aを通気する通気量を増加させることができる。
そのため、効率良く、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
また、案内部材18の内壁にも、オゾン分解性塗膜22が設けられている。そのため、送風機100は、さらに、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0057】
送風機100は、空気を送風可能な装置であれば、特に制限はなく、扇風機、サーキュレータ、エアコン、空気清浄機、ラジエータファン、換気装置等の周知の送風機が採用される。また、送風機100は、送風部及び吸込み口を有する胴体部と、送風部から送風される空気を排出するスリットを有するリング部材と、を備える、いわゆる羽根無し扇風機と呼ばれる送風機を採用してもよい。
送風機100は、設置方式にも制限はなく、床置き型、卓上型、天井固定型、側壁固定型、屋外設置型等の周知の設置方式の送風機が採用される。
そして、送風機100において、第一通気部材14は、送風部10から空気が排出されるまでの経路に介在させればよい。一方、第二通気部材16は、空気が送風部10に空気が吸込まれる経路に介在させればよい。
【0058】
ここで、送風機100において、オゾン分解性塗膜22は、第一通気部材14、第二通気部材16、回転羽根12、及び案内部材18に設けた態様に限られない。
オゾン分解性塗膜22は、送風部10から送風される空気が接触する位置、及び送風部10に吸込まれる空気が接触する位置の少なくとも一方に設けられていればよい。具体的には、例えば、オゾン分解性塗膜22は、送風機100の空気吸引路を構成する部品、及び送風機100の空気排気路を構成する部品の少なくとも一方に設けられていてもよい。
それにより、送風機100は、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となる。
【0059】
<オゾン分解性塗膜付き物品>
本実施形態に係るオゾン分解性塗膜付き物品は、物品本体と、物品本体に設けられ、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂を含むオゾン分解性塗膜と、を有する。
【0060】
オゾン分解性塗膜は、物品本体における、大気と接触する表面の少なくとも一部に設けられる。オゾン分解性塗膜の詳細については後述する。
一方、オゾン分解性塗膜を設ける対象の物品本体としては、ハニカム構造部材、フィルター部材、ダクト、建築用資材等が代表的に挙げられる。
【0061】
ハニカム構造部材としては、上記本実施形態に係る送風機で説明したハニカム構造部材が例示される。そして、ハニカム構造部材の貫通孔内壁面に、少なくともオゾン分解性塗膜が設けられる。
フィルター部材としては、上記本実施形態に係る送風機で説明したフィルター部材が例示される。そして、フィルター部材のメッシュ孔の壁面に、少なくともオゾン分解性塗膜が設けられる。
オゾン分解性塗膜付きの、ハニカム構造部材およびフィルター部材は、例えば、送風機(扇風機、サーキュレータ、エアコン、空気清浄機、ラジエータファン、換気扇等の周知の送風機)の空気吸引部、送風機の空気排出部、エアコンの室外機、オゾンによるウイルス除去装置の空気排出部、複写機の空気排出部、プリンターの空気排出部等に、装着する。
【0062】
ダクトとしては、金属製のダクト、樹脂製のダクト、円筒状のダクト、多角筒状のダクト、フレキシブルダクト等の周知のダクトが例示される。そして、例えば、ダクトの内壁面に、少なくともオゾン分解性塗膜が設けられる。
オゾン分解性塗膜付きダクトは、例えば、空調システムの、給気ダクト、排気ダクト、空気循環ダクト等として配置する。
【0063】
建築用資材としては、内装用壁材、外装用壁材、屋根材、床材、天井材、網戸、窓、ビニールハウス用ビニールシート、カーテン、フェンス等の周知の資材が例示される。そして、例えば、建築用資材の露出面に、少なくともオゾン分解性塗膜が設けられる。
【0064】
オゾン分解性塗膜を設ける対象の物品本体としては、上記以外に、送風機の部品、オゾンによるウイルス除去装置の部品、複写機の部品、プリンターの部品、または農業用資材も例示される。
オゾンによるウイルス除去装置、複写機、プリンターの部品としては、空気排出部を構成する部品などが例示できる。
送風機の部品としては、上記実施形態に係る送風機で説明した、通気部材、回転羽根(ファン)、案内部材、送風機の空気吸引路を構成する部品、送風機の空気排気路、エアコンの室外機を構成する部品などが例示できる。
農業用資材としては、除草用、害虫忌避用、光合成促進用、防風用、保温用等の、シート又はネット;袋(野菜袋、果実袋等)などが例示される。
【0065】
以上説明した本実施形態に係るオゾン分解性塗膜付き物品は、各物品の目的に応じて配置することで、オゾン分解性塗膜が大気と接触し、大気中のオゾンを分解する。それにより、オゾン濃度が低減された環境を実現することができる。
【0066】
<空調システム>
図6は、本実施形態に係る空調システムを有する建物の一例を示す概略構成図である。
建物300は、例えば、区画壁302A,302Bによって区画された、天井部屋304Aと、第一部屋304Bと、第二部屋304Cと、を有している。
【0067】
建物300に有する空調システムは、例えば、天井部屋304Aに設けられた、ファン(不図示)を有する熱交換型の換気装置30と、給気ダクト32Aと、排気ダクト32Bと、給気用フィルター部材34と、を備える。
給気ダクト32Aは、例えば、建物300の外部から第一部屋304Bに給気するための給気ダクトであり、換気装置30に連結されている。
排気ダクト32Bは、第二部屋304Cから建物300の外部に排気するためのダクトであり、換気装置30と連結されている。
給気用フィルター部材34は、給気ダクト32Aから給気される空気を浄化するフィルターであり、給気ダクト32Aの経路途中に介在している。
換気装置30は、給気ダクト32Aにより、建物300の外部から第一部屋304Bに給気し、排気ダクト32Bにより、第二部屋304Cから建物300の外部に排気し、建物300の各部屋を空調する。
【0068】
建物300に有する空調システムは、例えば、第一部屋304Bに設けられた、フィルター部材(不図示)を有するエアコン36と、壁紙38と、天井材40とを備える。
建物300に有する空調システムは、例えば、第二部屋304Cに設けられた、壁紙38と、天井材40とを備える。
【0069】
本実施形態に係る空調システムにおいて、換気装置30のファンの表面、給気ダクト32Aの内壁面、給気用フィルター部材34の表面、エアコン36のフィルター部材の表面、壁紙38の表面、および天井材40の表面には、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂を含むオゾン分解性塗膜(不図示)が設けられている。
【0070】
そのため、換気装置30によって給気される空気は、換気装置30のファンの表面、給気ダクト32Aの内壁面、給気用フィルター部材34の表面に設けられたオゾン分解性塗膜に接触し、オゾン濃度が低減される。
また、エアコン36によって送風される空気は、フィルター部材の表面に設けられたオゾン分解性塗膜に接触し、オゾン濃度が低減される。
また、第一部屋304Bおよび第二部屋304Cに存在する空気は、壁紙38の表面、および天井材40の表面に設けられたオゾン分解性塗膜に接触し、オゾン濃度が低減される。また、例えば第一部屋304Bにオゾンによるウイルス除去装置等を配置した場合には、ウィルス除去時に発生したオゾンを効果的に分解することができる。
【0071】
以上説明した本実施形態に係る空調システムでは、オゾン分解性塗膜に空気を接触させることで、空気中のオゾンを分解できるため、オゾン濃度が低減された環境が実現できる。
【0072】
なお、本実施形態に係る空調システムは、上記構成に限られず、上記本実施形態に係る送風機、および上記本実施形態に係るオゾン分解性塗膜付き物品から選択される一つ以上を備えた空調システムであればよい。
具体的には、例えば、ビニールハウスに有する、上記本実施形態に係る送風機と、ビニールハウス用のオゾン分解性塗膜付きビニールシートとを備える空調システムも例示できる。
また、手術用のメスなどの医療用器具をオゾンよりウィルスを除菌するウィルス除去装置を備える除菌室に有する上記本実施形態に係る物品(例えば、ウイルス除去装置における空気排出部を構成する部品(フィルター部材等)、除菌室の壁材)を備える空調システムも例示できる。
また、除菌室で除菌した医療用器具を保管する保管室に有する、上記本実施形態に係る物品(例えば、上記本実施形態に係る送風機、保管室の壁材)を備える空調システムも例示できる。
【0073】
<オゾン分解方法>
本実施形態に係るオゾン分解方法は、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂を含むオゾン分解性塗膜と、大気とを接触させ、大気中のオゾンを分解する方法である。
具体的には、本実施形態に係るオゾン分解方法では、例えば、上記本実施形態に係る送風機、および上記本実施形態に係るオゾン分解性塗膜付き物品から選択される一つを用いて、オゾン分解性塗膜と大気とを接触させて、大気中のオゾンを分解する。より具体的には、例えば、上記本実施形態に係る空調システムを利用して、オゾン分解性塗膜と大気とを接触させて、大気中のオゾンを分解する。そのため、本実施形態に係るオゾン分解方法は、オゾン濃度が低減された環境が実現できる。
【0074】
<塗膜>
以下、オゾン分解性塗膜22(以下「塗膜」とも称する)について説明する。ただし、符号は省略して説明する。
【0075】
塗膜は、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂を含む。具体的には、VOCの排出量を抑え、環境対策に貢献できる観点から、塗膜は、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂と共に、水を主成分とする溶媒とPH調整剤とを含む水性塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」とも称する)の硬化塗膜からなることが好ましい。
【0076】
オゾン分解性塗膜は、上記成分を含むことにより、高いオゾン分解性能を有する。その理由は、次の通りである、
【0077】
塗膜に含まれる酸化マンガン系触媒及び活性炭は、いずれもオゾン分解能を有する成分である。
オゾン分解能を有する成分として、酸化マンガン系触媒と活性炭を併用した場合、それらを単独で用いた場合と比較して、高いオゾン分解性能を得ることができる。この理由については必ずしも明らかではないが、例えば、次の(1)~(4)の理由により、酸化マンガン系触媒または活性炭の何れか一方のみを使用した場合と比較してオゾン分解能が向上したことが考えられる。
(1)活性炭とオゾンとの反応熱により酸化マンガン系触媒のオゾン触媒反応が促進される。
(2)酸化マンガン系触媒と活性炭との併用により広範囲の温度帯でオゾン分解性能が得られる。
(3)活性炭の細孔内に酸化マンガン系触媒が入り込み、活性炭及び酸化マンガン系触媒がオゾンと効率良く接触する。
(4)酸化マンガン系触媒によって、活性酸素等による活性炭の酸化及び消費が防止される。
【0078】
一方、塗膜のオゾン分解能を高めるには、酸化マンガン系触媒及び活性炭が分散性良く配合されていることが必要である。そのためには、塗膜を形成するための塗料組成物中で、酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性が高く、かつ、その分散性を維持するための塗料組成物の長期保存性、即ち、貯蔵安定性が必要とされる。
オゾン分解能を有する成分として活性炭のみを単独で用いた場合には、活性炭の吸着特性により、活性炭は、塗料の樹脂分(有機物)を吸着して凝集することから、所望のオゾン分解性能を得るための活性炭の所定の配合量では、塗料の安定性を確保することが困難である。
【0079】
しかし、活性炭及び酸化マンガン系触媒を併用することで、活性炭の量を減らせることから、塗膜のオゾン分解性能及び塗料組成物の貯蔵安定性の両方を満足させることが可能である。また、活性炭のみを単独で用いた場合よりも、オゾン分解性能の長寿命化が可能となる。
また、酸化マンガン系触媒は高価であり、酸化マンガン系触媒のみを単独で用いた場合には、コスト高となってしまうところ、活性炭は安価に入手できるから、酸化マンガン系触媒及び活性炭を併用することにより、コストも抑えられる
【0080】
ここで、オゾン分解性能を有する酸化マンガン系触媒及び活性炭は、粒子形態の粉末状である。粉末状である酸化マンガン系触媒及び活性炭を塗料化するには、酸化マンガン系触媒及び活性炭が、塗料組成物を構成する、樹脂、溶媒等の成分に均一に分散される必要がある。
しかし、オゾンを多く吸着できる表面積の大きな酸化マンガン系触媒及び活性炭は、凝集しやすい。特に、活性炭は、細孔を有することから、その細孔に塗料組成物の成分である樹脂(有機物)及び酸化マンガン系触媒が付着する。それにより、凝集が生じやすい状態にある。
酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性が低くて凝集が多いと、凝集ゲル化及び粘度の上昇が生じ塗料化が困難となる。また、塗装時において塗装装置の配管、ポンプ等の目詰まりを生じさせたりする。また、塗料化できたとしても、塗膜にブツ及びざらつきが生じ、素地を覆い隠すまでに塗装するとなるとその塗膜の膜厚は厚くなり、塗膜の成膜性及び付着性に欠け、外観性も悪い塗膜となる。
酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性が低くて凝集が多いと、オゾンを吸着できる量も少なく、塗膜が高いオゾン分解性能を得ることができない。当然、酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性が低くて凝集が多いと、凝集ゲル化及び粘度の上昇により、塗料組成物の貯蔵安定性にも欠け、長期保存も困難である。
したがって、粉末状の酸化マンガン系触媒及び活性炭を塗料化するにあたっては、酸化マンガン系触媒及び活性炭の凝集を防止するため高分散化することが好ましい。
【0081】
それに対して、酸化マンガン系触媒及び活性炭と共に、ポリアクリレート系分散剤を配合すると、樹脂を含む塗料組成物中でも、酸化マンガン系触媒及び活性炭の凝集を防止(脱凝集)できて、酸化マンガン系触媒及び活性炭を塗料組成物中に細かく高分散させることができる。また、その分散安定性も高くできる。
ポリアクリレート系分散剤による酸化マンガン系触媒及び活性炭の高分散及び分散安定性の付与は、例えば、(1)ポリアクリレート系分散剤の酸化マンガン系触媒及び活性炭に対する電気的反発による吸着、(2)ポリアクリレートのアンカー基やポリマー鎖等による立体障害等により生じると考えられる。つまり、ポリアクリレート系分散剤による吸着及び立体障害等により、酸化マンガン系触媒及び活性炭の凝集を阻止(脱凝集)し、酸化マンガン系触媒及び活性炭を細かい粒子サイズで安定させていること等が考えられる。
特に、ポリアクリレート系分散剤は、高分子量体であり、複数の吸着サイトを有する。そのため、ポリアクリレート系分散剤は、低濃度の使用量でも、酸化マンガン系触媒及び活性炭に吸着して、酸化マンガン系触媒及び活性炭の高分散を可能とし、高濃度の使用を必要としない。それにより、ポリアクリレート系分散剤は、酸化マンガン系触媒及び活性炭へのオゾンの吸着を阻害し難い。
【0082】
そのため、ポリアクリレート系分散剤により、塗料組成物中で、酸化マンガン系触媒及び活性炭を十分に脱凝集させて安定化させることができる。即ち、酸化マンガン系触媒及び活性炭を細かく高分散できる。
例えば、塗料組成物中の酸化マンガン系触媒及び活性炭における、グラインドゲージ(具体的にはJISK 5600及びJISK 5400(1990)に準拠したグラインドゲージ)により測定される分散度を、線状法で、最大粒子径(Dmax)20μm以下にすることができる。
また、塗料組成物中の酸化マンガン系触媒及び活性炭における、レーザー解析法(具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置を用いたレーザー解析法)による体積基準の90%の累積粒子径(D90)を、10μm以下にすることができる。
そして、このように細かい粒度に酸化マンガン系触媒及び活性炭が高分散された塗料組成物から形成された塗膜は、分散性良く酸化マンガン系触媒及び活性炭が配合され、酸化マンガン系触媒及び活性炭によるオゾン吸着量が高くなることで高いオゾン分解性能が発揮される。また、塗膜のブツ及びざらつきが抑制され、優れた成膜性及び基材対する付着性が確保される。さらに、塗膜の平滑性が良く、良好な塗膜外観性も得られる。
なお、ポリアクリレート系分散剤を用いた塗料組成物は、酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散安定性も高くて再凝集しないため、貯蔵安定性も高く長期の保存が可能となる。
【0083】
以上から、上記成分を含む塗膜は、高いオゾン分解性能を有する。
【0084】
以下、塗膜の詳細について説明する。
【0085】
(酸化マンガン系触媒/活性炭)
酸化マンガン系触媒は、(1)オゾンの吸着、(2)オゾンの自己分解反応の活性エネルギーの低下、及び(3)オゾンの分解及び脱離反応により、オゾンを分解して酸素へと変換する。これよりオゾンを浄化及び無害化することができる。
【0086】
一方、活性炭は、(1)細孔へのオゾンの吸着、(2)活性炭に吸着されたオゾンと活性炭と反応、または、活性炭からオゾンへの電子の受け取り(つまりオゾンの自己分解反応の活性エネルギーの低下)により、オゾンを、一酸化炭素、二酸化炭素(炭酸ガス)、活性酸素、酸素等に変換する。これより、オゾンを浄化及び無害化することができる。
特に、酸化マンガン系触媒が高温域(例えば、80℃付近)で最も活性が高いのに対して、活性炭は、常温(15~25℃)を含む広い温度域及び高い湿度環境においても活性が高い。
【0087】
このように、酸化マンガン系触媒及び活性炭を含む塗膜はオゾンを分解、浄化できる。
【0088】
-酸化マンガン系触媒-
酸化マンガン(MnxOy)系触媒としては、例えば、一酸化マンガン(MnO)系触媒、二酸化マンガン(酸化マンガン(IV))系触媒、スピネル型マンガン酸金属系触媒等が挙げられる。
これらの中でも、特に、酸化マンガン系触媒としては、触媒活性の高く、塗膜のオゾン分解能が向上する、二酸化マンガン(MnO2)系触媒が好ましい。なお、一般的に、二酸化マンガンと呼ばれるマンガンの酸化物は、不定比化合物であることから、実際には、MnOx(x=1.93~2)程度の組成である。
ここで、二酸化マンガンは、天然の二酸化マンガン、電解法又は化学合成法により製造された二酸化マンガン、非晶質の二酸化マンガン、結晶構造を含む二酸化マンガンのいずれであってもよい。二酸化マンガンの結晶構造としては、例えば、アルファ型、ベータ型、ガンマ型、デルタ型があるが、より好ましくは、α-二酸化マンガン(クリプトメレン(cryptomelane)形態の二酸化マンガン)である。また、二酸化マンガンは、アモルファス構造を有するものであってもよい。
【0089】
酸化マンガン系触媒は、酸化マンガン(例えばMnO2)をベースにして、助触媒としてNiO、CuO、AgO等の助触媒を含む触媒であってもよい。
酸化マンガン系触媒は、水分を吸着する酸化カルシウム等を含む触媒であってもよい。
ただし、酸化マンガン系触媒は、好ましくは酸化マンガンの含有率が70%以上、より好ましくは、80%以上の触媒とする。
【0090】
酸化マンガン系触媒の、N2吸着によるBET法によって測定した比表面積は、100m2/g~400m2/gが好ましい。
比表面積が400m2/g以下であると、触媒の凝集が抑制され、塗料組成物中での触媒の分散性及び分散安定性が向上する。触媒の分散性及び分散安定性が向上すると、塗膜中に分散性良く触媒が、塗膜のオゾン分解性能が高まる。また、触媒の分散性が向上すると、塗料組成物の塗装装置の目詰まり、及び、塗膜の表面に塗料ブツ(凝集物)が生じ難く、塗膜の成膜性及び付着性が高まる。また、塗膜の欠落及び剥離、並びに触媒の脱落が抑制される。また、触媒の分散安定性が向上すると、塗料組成物の貯蔵安定性が高くなる。
一方、比表面積が100m2/g以上であると、さらに塗膜のオゾン分解性能が高くなる。
【0091】
そのため、N2吸着のBET法によって測定した比表面積が100m2/g~400m2/gの範囲内である酸化マンガン系触媒を適用すると、塗膜の成膜性及び付着性が良好で、触媒の脱落が生じ難く、より効果的に、持続して高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。
酸化マンガン系触媒の比表面積は、より好ましくは、150m2/g~350m2/gであり、さらに好ましくは180m2/g~300m2/gである。
【0092】
酸化マンガン系触媒の中位径(平均粒子径)は、1μm~20μmが好ましい。
中位径が20μm以下であると、触媒の比表面積が大きく、さらに塗膜のオゾン分解性能が高くなる。また、塗膜の成膜性及び付着性も向上し、塗膜剥がれ及び触媒の脱落が生じ難くなる。
一方で、中位径が1μm以上であると、塗料組成物中での触媒の分散性及び分散安定性が向上する。触媒の分散性及び分散安定性が向上すると、塗膜中での分散性良く触媒が配合され、塗膜のオゾン分解性能が高まる。また、触媒の分散性が向上すると、塗料組成物の塗装装置の目詰まり、及び、塗膜の表面に塗料ブツ(凝集物)が生じ難く、塗膜の成膜性及び付着性が高まる。また、塗膜の欠落及び剥離、並びに触媒の脱落が抑制される。また、触媒の分散安定性が向上すると、塗料組成物の貯蔵安定性が高くなる。
【0093】
そのため、中位径(平均粒子径)が1μm~20μmの範囲内にある酸化マンガン系触媒を適用すると、塗膜の成膜性及び付着性が良好で、触媒の脱落が生じ難く、より効果的に、持続して高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。
酸化マンガン系触媒の中位径(平均粒子径)は、より好ましくは、3μm~18μmであり、更に好ましくは、5μm~15μmである。
【0094】
このように、中位径(平均粒子径)が1μm~20μmの範囲内にあり、BET法による比表面積が100~400m2/gの範囲内である酸化マンガン系触媒を用いると、特に、分散性良く触媒が塗膜に配合され、高いオゾン分解性能を得ることができる。
【0095】
-活性炭-
活性炭としては、大鋸屑、木材チップ、木炭、竹炭、石炭(亜炭、褐炭、瀝青炭)、石油系(石油ピッチ、オイルカーボン等)、胡桃殻炭、椰子殻炭、樹脂(フェノール樹脂、エポキシ樹脂等)、レーヨン等を原料した活性炭が挙げられる。
活性炭は、例えば、コバルト、鉄等を中心金属とする有機金属錯体等を担持する活性炭であってもよい。
これらの中でも、活性炭としては、オゾン吸着比表面積が非常に高い椰子殻活性炭、石油ピッチ系活性炭、木質系活性炭等が好ましく、その炭素率が90%以上であり、炭素成分が多いココヤシ、油ヤシ、サゴヤシ等を原料とした椰子殻活性炭が好ましい。
【0096】
活性炭の、N2吸着のBET法によって測定した比表面積は、500m2/g~3000m2/gが好ましい。
比表面積が3000m2/g以下であると、活性炭の凝集が抑制され、塗料組成物中での活性炭の分散性及び分散安定性が向上する。活性炭の分散性及び分散安定性が向上すると、塗膜中に分散性良く活性炭が配合され、塗膜のオゾン分解性能が高まる。また、活性炭の分散性が向上すると、塗料組成物の塗装装置の目詰まり、及び、塗膜の表面に塗料ブツ(凝集物)が生じ難く、塗膜の成膜性及び付着性が高まる。また、塗膜の欠落及び剥離、並びに活性炭の脱落が抑制される。また、活性炭の分散安定性が向上すると、塗料組成物の貯蔵安定性が高くなる。
一方、比表面積を500m2/g以上であると、さらに塗膜のオゾン分解性能が高くなる。
【0097】
そのため、N2吸着のBET法によって測定した比表面積が500m2/g~3000m2/gの範囲内にある活性炭を適用すると、塗膜の成膜性及び付着性が良好で、触媒の脱落が生じ難く、より効果的に、持続して高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。
活性炭の比表面積は、より好ましくは600m2/g~2500m2/g以下であり、m、更に好ましくは900m2/g~2000m2/g以下である。
【0098】
なお、活性炭の全細孔容積は、窒素BETの窒素吸着等温線において、相対圧力P/P0が1.0のときの窒素吸着量からの算出で、0.1cm3/g~1.5cm3/gの範囲内が好ましく、0.2cm3/g~1.0cm3/gがより好ましい。
また、活性炭の平均細孔径(全細孔容積/BET比表面積×4で算出される平均細孔径)は、オゾンの吸着能と大気中の粒子状物質等による目詰まりを防止する観点から、0.3~10nmが好ましく、0.5~5nmがより好ましい。
【0099】
活性炭の中位径(平均粒子径)は、1μm~20μmが好ましい。
中位径が20μm以下であると、活性炭の比表面積が大きく、さらに塗膜のオゾン分解性能が高くなる。また、塗膜の成膜性及び付着性も向上し、塗膜剥がれ及び活性炭の脱落が生じ難くなる。
一方で、中位径が1μm以上であると、塗料組成物中での活性炭の分散性及び分散安定性が向上する。触媒の分散性及び分散安定性が向上すると、塗膜中での分散性良く活性炭が配合され、塗膜のオゾン分解性能が高まる。また、活性炭の分散性が向上すると、塗料組成物の塗装装置の目詰まり、及び、塗膜の表面に塗料ブツ(凝集物)が生じ難く、塗膜の成膜性及び付着性が高まる。また、塗膜の欠落及び剥離、並びに活性炭の脱落が抑制される。また、活性炭の分散安定性が向上すると、塗料組成物の貯蔵安定性が高くなる。
【0100】
そのため、中位径(平均粒子径)が1μm~20μmの範囲内にある活性炭を適用すると、塗膜の成膜性及び付着性が良好で、活性炭の脱落が生じ難く、より効果的に、持続して高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の良好な貯蔵安定性を得ることができる。
活性炭の中位径(平均粒子径)は、より好ましくは、3μm~18μmであり、更に好ましくは、5μm~15μmである。
【0101】
このように、中位径(平均粒子径)が1μm~20μmの範囲内にあり、BET法による比表面積が500~3000m2/gの範囲内である活性炭を用いることで、特に、塗膜に分散性良く配合され、塗膜が高いオゾン分解性能を得ることができる。
【0102】
-酸化マンガン系触媒及び活性炭の比表面積の測定方法-
「比表面積」は、N2吸着のBET法によって測定される比表面積である。BET(Brunauer-Emmett-Teller)法とは、粒子表面に吸着占有面積の分かった分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であって、窒素の低温物理吸着により比表面積を求める方法である。
【0103】
-酸化マンガン系触媒及び活性炭の中位径(平均粒子径)の測定方法-
「中位径」とは、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。
定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、本明細書では、「中位径」は、商品説明の表示、又はレーザ回折・散乱法によって測定した値とする。そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量が50%となる粒子径(D50)をいう。
なお、上記数値は、厳格なものでなく、製品毎の誤差があり、測定等による誤差を含むと1割程度以下の誤差の混入を否定するものではない。この誤差の観点から見ると、正規分布を呈しており、粒径は正規分布を示すものであるから、中位径≒平均粒子径と見做しても両者の違いは数パーセント内であり、誤差と見做される程度である。
【0104】
-酸化マンガン系触媒及び活性炭の含有量-
酸化マンガン系触媒と活性炭の配合比率は、質量比で、20/80≦活性炭/酸化マンガン系触媒≦80/20が好ましく、30/70≦活性炭/酸化マンガン系触媒≦70/30がより好ましい。
酸化マンガン系触媒と活性炭の配合比率が上記範囲であると、特に、酸化マンガン系触媒と活性炭の組み合わせによるオゾン分解性の相乗効果が得られ、高いオゾン分解性能を得ることができる。
【0105】
酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計量は、塗膜に対して60質量%~90質量%が好ましく、65質量%~85質量%がより好ましく、70質量%~80質量%が更に好ましい。
酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計量が上記範囲であると、特に、塗膜の付着性を損なうことなく、高いオゾン分解性能を得ることができる。
【0106】
(ポリアクリレート系分散剤)
ポリアクリレート系分散剤は、酸化マンガン系触媒及び活性炭の高分散を可能とする分散剤である。
ポリアクリレート系分散剤は、例えば、ポリアクリレートの塩、アクリル骨格または変性アクリル骨格をベースとする分散剤である。なお、ポリアクリレート系分散剤には、変性ポリアクリレート系分散剤も含まれる。
【0107】
ポリアクリレート系分散剤の重量平均分子量は、5000~30000が好ましい。
ポリアクリレート系分散剤は、分子量が高いほど、分子内に複数の吸着サイトを有するので、分散剤の濃度が低濃度からでも酸化マンガン系触媒及び活性炭を多点に吸着して凝集を阻止できる。
ポリアクリレート系分散剤の重量平均分子量が5000以上であると、分子内に上記複数の吸着サイトを十分有するため、吸着点が増え、さらに酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性が高まる。それにより、さらに塗膜のオゾン分解性能が高まる。
一方、ポリアクリレート系分散剤の重量平均分子量が30000以下であると、分散剤と塗料組成物の成分塗料成分との相溶性及び親和性の低下を抑え、酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性の低下を防ぐことができる。それにより、塗膜のオゾン分解性能の低下が抑制できる。
【0108】
そのため、重量平均分子量が5000~30000の範囲内であるポリアクリレート系分散剤を適用すると、他の材料との馴染みもよく、さらに酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性を向上できる。
ポリアクリレート系分散剤の重量平均分子量は、より好ましくは6000~28000であり、さらに好ましくは7000~25000である。
【0109】
なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;GEL permeation chromatography)法により測定され、GPCで測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0110】
ポリアクリレート系分散剤の酸価は、1~50が好ましい。他の材料、例えば、顔料等の添加剤の極性によって生じることがある分散剤の吸着性悪化が抑制できるためである。 そのため、酸価が1~50の範囲内の分散剤を適用すれば、添加剤の種類に影響なく、触媒及び活性炭の分散安定性を確保できる。
ポリアクリレート系分散剤の酸価は、より好ましくは3~48であり、更に好ましくは、5~45である。
なお、ポリアクリレート系分散剤の酸価は、JIS K0070に準じた中和滴定法を用いて測定される値である。
【0111】
ポリアクリレート系分散剤の水素イオン指数は、pH4~pH9であることが好ましい。例えば、顔料等の添加剤の種類によって生じることがある添加剤の分散性悪化が抑制できるためである。そのため、水素イオン指数がpH4~pH9の範囲内の分散剤を適用すれば、添加剤の種類に影響なく、添加剤の分散安定性を確保できる。
ポリアクリレート系分散剤の水素イオン指数は、より好ましくはpH4.5~pH8.5であり、更に好ましくはpH5~pH8である。
ポリアクリレート系分散剤の水素イオン指数は、液温25℃で、樹脂濃度が約1%~99%の樹脂希釈液(エマルジョン、ディスパージョン、水溶液)を測定した値である。
【0112】
このように、重量平均分子量が5000~30000の範囲内、酸価が1~50の範囲内、水素イオン指数がpH4~pH9の範囲内のポリアクリレート系分散剤を適用すると、特に、塗膜の付着性を損なうことなく、高いオゾン分解性能を得ることができる。また、塗料組成物の成分の分散性も良好となる。
【0113】
ポリアクリレート系分散剤の市販品としては、例えば、BYK-Chemie(ビックケミー)社のDESPERBYK、Ciba Specialty Chemicals社やEFKA ADDITIVES B.V.(エフカアディティブズ)社のEFKA、楠本化成(株)社のDISPARLON、SANNOPKO(サンノプコ)社のSNシックナー等が挙げられる。
【0114】
ポリアクリレート系分散剤の含有量は、酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計量100質量部に対して、1.5質量部~75質量部が好ましく、2質量部~60質量部がより好ましく、2.5質量部~50質量部がさらに好ましい。
ポリアクリレート系分散剤の含有量が上記範囲であると、塗膜の高いオゾン分解性が付与できる。また、塗膜の高いオゾン分解性と塗料組成物の高い貯蔵安定性とも両立させることができる。
【0115】
(樹脂)
樹脂としては、塗膜中で、酸化マンガン系触媒及び活性炭を結着する樹脂である。樹脂としては、水性樹脂が好ましい。水性樹脂としては、水に溶解可能な水溶性樹脂、水に分散可能な水分散性樹脂のいずれであってもよい。
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)、アクリルシリ-コン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、ウレア系樹脂、スチレン-ブタジエン-ラテックス(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0116】
ここで、樹脂は、水溶性樹脂(樹脂水溶液)、エマルジョン樹脂、ディスパージョン樹脂の何れの形態で塗料組成物に添加してもよい。なお、「エマルジョン(emulsion,エマルションともいう。)」とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が、本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いる。
【0117】
樹脂としては、特に、酸化マンガン系触媒及び活性炭の相性及び分散性、塗膜の耐候性、コスト、塗膜の付着性、並びに、各成分の分散安定性からすると、(メタ)アクリル樹脂またはポリプロピレン樹脂が好ましい。(メタ)アクリル樹脂は金属に対する付着性に優れ、また、ポリプロピレン樹脂は、金属及び樹脂に対する付着性に優れる。
そのため、(メタ)アクリル樹脂を含む塗膜は、金属製の部材(通気部材、回転羽根、案内部材等)に対する付着性が高くなる。また、ポリプロピレン樹脂を含む塗膜は、金属製又は樹脂製の部材(通気部材、回転羽根、案内部材等)に対する付着性が高くなる。
【0118】
(メタ)アクリル樹脂は、広くアクリル樹脂及びメタクリル樹脂を含む。
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸(アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。以下、同様。)及び(メタ)アクリル酸エステル(アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを意味する。以下、同様。)から選択される(メタ)アクリル系単量体の単独重合体若しくは共重合体、又は、(メタ)アクリル系単量体と(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な単量体との共重合体を意味する。
【0119】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-2,2-ビス(ヒドロキシメチル)エチル、(メタ)アクリル酸-3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等を挙げられる。
【0120】
(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な単量体としては、エチレン性不飽和基を有する単量体が好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルフェノール、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルアルコール、アリルアルコール、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等を挙げられる。なお、共重合法としては、乳化重合が一般的であるが、これに限定されるものではない。また、酸の場合は、そのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等であってもよい。
【0121】
(メタ)アクリル樹脂は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等で変性した、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂、エポキシ変性(メタ)アクリル樹脂、フェノール変性(メタ)アクリル樹脂、メラミン変性(メタ)アクリル樹脂等でもよい。
【0122】
(メタ)アクリル樹脂は、水素イオン指数がpH7~pH9の範囲内である弱アルカリ性(メタ)アクリル樹脂が好ましい。弱アルカリ性(メタ)アクリル樹脂は、塗料組成物の溶媒である水への分散性が高いため、成膜性及び均一性が良好で緻密な塗膜となり、また、金属基材に対する付着性を高くなる。
(メタ)アクリル樹脂の水素イオン指数は、液温25℃で、樹脂濃度が約1%~99%の樹脂希釈液(エマルジョン、ディスパージョン、水溶液)を測定した値である。
【0123】
なお、塗料組成物に添加する(メタ)アクリル樹脂は、中位径(平均粒子径)で50nm~150nmの範囲内にある樹脂を使用することが好ましい。当該範囲内であれば、樹脂分の水への分散性が高く、塗膜の成膜性及び均一性が良好で、金属基材に対する塗膜の付着性等を発揮できる。
(メタ)アクリル樹脂の中位径(平均粒子径)は、より好ましくは、60nm~140nmであり、さらに好ましくは70nm~130nmである。
【0124】
一方、ポリプロピレン樹脂としては、プロピレンのみを重合したホモポリマー、少量のエチレン等を共重合したランダムポリマー、ゴム成分(EPR)がホモ・ランダムポリマーに分散したブロックコポリマーが挙げられる。なお、ポリプロピレン樹脂としては、変性ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂も含まれる。
【0125】
ポリプロピレン樹脂は、水素イオン指数がpH7~pH9の範囲内である弱アルカリ性ポリプロピレン樹脂が好ましい。弱アルカリ性ポリプロピレン樹脂は、塗料組成物の溶媒である水への分散性が高いため、成膜性及び均一性が良好で緻密な塗膜となり、また、金属基材に対する付着性を高くなる。
ポリプロピレン樹脂の水素イオン指数は、液温25℃で、樹脂濃度が約1%~99%の樹脂希釈液(エマルジョン、ディスパージョン、水溶液)を測定した値である。
【0126】
なお、塗料組成物に添加する弱アルカリ性ポリプロピレン樹脂は、中位径(平均粒子径)で50nm~150nmの範囲内にある樹脂を使用することが好ましい。当該範囲内であれば、樹脂分の水への分散性が高く、塗膜の成膜性及び均一性が良好で、金属基材に対する塗膜の付着性等を発揮できる。
弱アルカリ性ポリプロピレン樹脂の中位径(平均粒子径)は、より好ましくは、60nm~140nmであり、さらに好ましくは70nm~130nmである。
【0127】
樹脂の含有量は、例えば、酸化マンガン系触媒及び活性炭(固形分)の合計配合量100質量部に対し、5質量部~100質量部の範囲内が好ましく、10質量部~50質量部の範囲内がより好ましい。
樹脂の含有量が5質量%以上であると、基材に対して良好な付着性が得られ易くなり、塗膜の剥離及び欠落、並びに、酸化マンガン系触媒及び活性炭の脱落がさらに抑制できる。
一方で、樹脂の含有量が100質量部以下であると、塗膜のオゾン分解能の低下がさらに抑制できる。
そのため、上記樹脂の含有量は、塗膜の付着性とオゾン分解性を両立でき易くなり、好ましい。
【0128】
(pH調整剤)
pH調整剤は、中和することで塗料組成物の粘度低下による、酸化マンガン系触媒及び活性炭の沈降を抑制する。それにより、塗料組成物中で、高い酸化マンガン系触媒及び活性炭の高分散性が維持され易くなる。
pH調整剤は、塗膜を形成するための塗料組成物の水素イオン指数をpH7~pH12、より好ましくはpH8~pH11.5、更に好ましくはpH9.5~pH11の範囲内に調整する化合物である。pH調整剤は、中和剤も含む概念の化合物である。
pH調整剤としては、例えば、トリエチルアミン(TEA)等の低沸点アミン;アンモニア;ジメチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0129】
(その他成分)
塗膜は、上記成分以外の、各種添加剤を含んでいてもよい。
例えば、塗膜は、防錆及び耐チッピング等の向上を図るための、着色顔料、防錆顔料、体質顔料、機能性顔料等の顔料を含んでもよい。また、塗膜は、塗膜を形成するための塗料組成物の塗装性及び塗膜性能の向上を図るための添加剤を含んでもよい。
【0130】
着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン等が挙げられる。
【0131】
防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、ポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛カルシウム、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、酸化亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、シアナミド亜鉛カルシウム、メタホウ酸バリウム、アミノリン酸マグネシウム等が挙げられる。
防錆顔料としては、環境保護の観点から、クロム系防錆等の、有害重金属を含まない防錆顔料が好ましい。
防錆顔料の含有量は、塗膜に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。防錆顔料の含有量が上記範囲であれば、塗料組成物の安定性も良い。
【0132】
体質顔料としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ、珪藻土、アルミナ、バリタ、ニ酸化ケイ素等が挙げられる。
特に、体質顔料としては、タルクが好ましい。タルクは、塗膜内に多くの層の積み重なりを形成し、タルクの配列により形成される層の緻密性によって腐食因子の塗膜侵入を防止することができる。
【0133】
その他の添加剤としては、例えば、粘度調整剤、増膜助剤、主に顔料を分散させる分散剤、消泡剤、充填材、可塑剤、タレ止め剤、造膜助剤、チキソ剤、レベリング剤、pH調整剤、中和剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、沈降防止剤、接着性付与剤、硬化触媒、中和剤、ドライヤ(乾燥剤)、安定剤、表面調整剤(塗膜面調整剤)等が挙げられる。
【0134】
例えば、主に顔料をより良く分散させる分散剤としては、ポリカルボン酸系分散剤等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコン系消泡剤、アクリル系消泡剤等が挙げられる。これらの消泡剤、塗料組成物を調製する混合時に細かい泡が発生して塗料組成物が不均一になるのを防止し、粘度及び流動性を調整することができる。また、消泡により、塗膜に気泡が抑制される。それより、気泡から侵入する水分による錆の発生を防止でき、塗膜の防錆性の向上を図ることができる。
ドライヤ(乾燥剤)としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛等の金属ドライヤ(金属乾燥剤)が挙げられる。ドライヤは、塗料組成物が塗装されて塗膜が形成される段階において、乾燥の促進を図り、水性樹脂が更に重合して緻密な塗膜となるのを促進できる。
安定剤としては、例えば、アルカノールアミン誘導体(ジイソプロパノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等)等が挙げられる、安定剤は、流動性、粘度、分散性等を調製して塗料組成物の安定化を図ることができる。また、アルカノールアミン誘導体は、初期錆防止剤として機能することもある。
【0135】
(塗膜を形成するための塗料組成物の製造方法)
塗料組成物の製造方法の一例を説明するが、これに限定されるわけではない。
塗料組成物の製造方法では、例えば、まず、水を主成分とする溶媒、酸化マンガン系触媒、活性炭、及びポリアクリレート系分散剤を混合し、混合物を分散機により撹拌し、触媒及び活性炭を分散させる分散工程を実施する。
ここで、水を主成分とする溶媒は、全溶媒に対して水を50質量%以上、75質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%で含む溶媒である。
【0136】
分散工程で使用する分散機としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、高圧噴射器、ディゾルバー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、スパイラルミキサー、ロールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、グレンミル、高速インペラーミル、オープンニーダー、真空ニーダー、アトライター、高速ディスパー、ホモミキサー、ホモジナーザー、コロイドミル、マイクロフルイダイザー、ソノレーター、キャビトロン等が挙げられる。
分散機としては、ビーズミルまたはロールミルが好ましい。ビーズミルまたはロールミルは、少ないエネルギー量で、酸化マンガン系触媒及び活性炭を所定の細かいサイズまで分散できる。
【0137】
次に、分散工程を経た混合物と、pH調整剤(中和剤)とを混合する中和工程を実施する。
中和工程では、pH調整剤により、塗料組成物の水素イオン指数をpH7~pH12、より好ましくはpH8~pH11.5、更に好ましくは、pH9.5~pH11の範囲内に調整することが好ましい。塗料組成物の粘度の低下による塗料成分の沈降を防止し、均一な分散及び塗料組成物の安定化を可能として塗装後の均一な塗膜性能を確保でき易くなるためである。
【0138】
次に、中和工程を経た混合物と樹脂とを混合し、攪拌機で撹拌する塗料化工程を実施する。塗料化工程では、必要に応じ、中和工程を経た混合物に、樹脂と共に各種添加剤を混合する。
【0139】
以上の工程を経て、目的とする塗料組成物が得られる。
【0140】
(塗膜の形成方法)
塗膜の形成方法は、特に制限はなく、塗料組成物を塗装対象物に塗装後、硬化する方法が採用される。
塗装方法は、公知の塗装方法が採用できる。
公知の塗装方法としては、例えば、エアスプレー法、シャワー法、スプレー法、ロールコート法、カーテンフローコート法、ダイコート法、刷毛塗り法、浸漬法、シボリ(シゴキ)法、ナイフコーター法、バーコート法、静電塗装法等が挙げられる。
公知の塗装方法により、塗装対象物における所定の塗装部位に任意の塗装量、厚さ及び塗装形態で塗装する。
【0141】
塗装された塗料組成物の膜は、自然乾燥、加熱乾燥、又は乾燥機による強制乾燥により、溶媒を除去して、硬化させる。それにより、目的とする塗膜が形成できる。
【0142】
(試験例)
ここで、オゾン分解能を有する塗膜、及び塗膜を形成する水性塗料組成物について、試験例を示しつつ、さらに具体的に説明する。
【0143】
-試験例1~3、比較例1~6-
まず、塗膜を形成するための水性塗料組成物の試験例の配合組成を表1に示す。
【0144】
【0145】
表1に示したように、試験例1に係る水性塗料組成物は、活性炭(原料;椰子殻,平均粒子径;5μm,BET比表面積;2000m2/g)と、二酸化マンガン系触媒(二酸化マンガンの含有量;70%以上,平均粒子径;5μm,BET比表面積;250m2/g)と、ポリアクリレート系分散剤と、溶媒としての水と、pH調整剤(中和剤)としてのトリエチルアミン(TEA)と、樹脂としてポリプロピレン樹脂を含む水分散液と、添加剤(粘度調整剤、増粘助剤)とからなるものである。
試験例2及び試験例3に係る水性塗料組成物は、樹脂として試験例1のポリプロピレン樹脂に代えてアクリル樹脂を含む水分散液を使用した例である。その他の材料は、試験例1と同一としている。
なお、表1において、活性炭は固形分換算量であり、分散工程における水は、溶媒として添加したイオン交換水に加え、活性炭材料の商品に予め含まれていた溶媒としての水分量を含めた値である。
【0146】
試験例1~試験例3に係る水性塗料組成物の製造にあたっては、最初に、活性炭と、二酸化マンガン系触媒と、溶媒としての水と、ポリアクリレート系分散剤とを、表1の配合にしたがって混合し、その混合物をビーズミルに入れて分散する分散工程を実施した。
このときのビーズミルは、メディアとして1.5mmジルコン(ジルコニアビーズミル)を用い、回転数1500rpm×90分の条件で混合材料を分散した。
これにより、試験例1~試験例3では、分散後の混合物中の粒子(活性炭及び二酸化マンガン系触媒)の粒度は、JISK 5600及びJISK 5400(1990)に準拠したグラインドゲージによる線状法の測定で、最大粒子径(Dmax)が20μm以下となった。また、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いたレーザー解析法による測定で、体積基準の90%の累積粒子径(D90)が10μm以下となった。
【0147】
続いて、得られた混合物に対し、表1の配合にしたがって、pH調整剤としてのトリエチルアミン(TEA)を加えることにより中和を行う中和工程を実施した。
次に、中和された混合物に対し、表1の配合にしたがって、樹脂としてのポリプロピレン樹脂(固形分30質量%)またはアクリル樹脂(固形分40質量%)を混合した後、更に、添加剤(粘度調整剤、増粘助剤)を混合して、ディスパーで5分~10分間攪拌することにより、各材料を混合分散させる塗料化工程を実施した。
【0148】
以上の工程により、試験例1~試験例3に係る水性塗料組成物を得た。
【0149】
一方、比較として、試験例とは異なる分散剤を用いて、または、分散剤を用いることなく、表1に示した配合組成で比較例1~比較例6に係る水性塗料組成物を作製した。
比較例1は、分散剤を使用しない例である。
比較例2は、試験例で用いたポリアクリレート系分散剤に代えて、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩(アニオン)を使用した例である。
比較例3及び比較例6は、試験例で用いたポリアクリレート系分散剤に代えて、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム塩(アニオン)を使用した例である。
比較例4は、試験例で用いたポリアクリレート系分散剤に代えて、分散剤として燐酸エステルを使用した例である。
比較例5は、試験例で用いたポリアクリレート系分散剤に代えて、分散剤としてポリウレタンを使用した例である。
なお、これら比較例に係る水性塗料組成物においても、上記試験例と同じ手順で作製した。
【0150】
ここで、表1の配合で作製した試験例及び比較例の各種水性塗料組成物について、その貯蔵安定性とオゾン分解性について評価試験を行った。
【0151】
貯蔵安定性については、作製した水性塗料組成物を20℃の温度条件で1カ月間保管し、1カ月後の凝集の有無を確認した。20℃で1カ月間保管しても、凝集が生じなかった場合はAとし、凝集によって沈降分離が生じたものはCとした。
【0152】
オゾン分解性については、
図4に示したオゾン分解試験装置200を用いて試験を行った。具体的には、
図4に示したオゾン分解試験装置200のパイプ210内に、評価用として、ポリプロピレンTP基材220(以下、PP材220と称す。)に塗料組成物を塗装乾燥した試験体Tを平置きで配置した。試験体Tは、5cm×7cmの面を有するPP基材220の表面に、塗装面積5cm×7cmで塗料組成物を塗装し、100℃×10分で乾燥させることで、PP材220上に硬化塗膜220Aを形成した試験体である。
なお、塗料組成物は、PP材220に対し、その素地が覆い隠れるまでに塗装を行っている。
【0153】
そして、試験体Tを入れたパイプ210内にオゾンを含む空気(初期オゾン濃度;4.0ppm(体積基準)、温度;25℃)を風速1.0m/sで供給して流通させ、オゾンセンサー231で、硬化塗膜220A付きPP材220、即ち、試験体Tを通過する前のオゾン濃度を測定した。また、オゾンセンサー232で試験体T付近のオゾン濃度を測定した。
なお、オゾンセンサー232と硬化塗膜220Aとの間隔距離xは2mmとした。また、評価試験は、約25℃の室温(常温)下で行った。
そして、オゾンセンサー231で測定したオゾン濃度b1及びオゾンセンサー232で測定したオゾン濃度b2から硬化塗膜1によるオゾン分解率(={(b1-b2)/b1}×100)(%)を算出した。このときのオゾン分解除去率が24%以上であった場合をAとし、18%以上24%未満であった場合をBとし、18%未満であった場合をCとした。
【0154】
総合評価として、これら貯蔵安定性及びオゾン分解性の評価試験が共にAであった場合をAと表記し、それ以外はCと表記した。これらの評価試験の結果は、表1の下段に示した通りである。
【0155】
表1の下段に示したように、分散剤としてポリアクリレート系分散剤を使用した試験例1~試験例3に係る水性塗料組成物では、二酸化マンガン系触媒及び活性炭が高分散され、そして、その分散安定性も高いことで、20℃で1カ月間保管しても凝集が生じることなく、貯蔵安定性が高いものであった。
また、試験例1~試験例3に係る水性塗料組成物で形成された硬化塗膜には、ブツやざらつきが少なかった。また、その硬化塗膜は、乾燥膜厚が約5μmの薄膜で素地を十分に覆い隠すことができる優れた成膜性を有し、そして、オゾン分解性能にも優れていた。
【0156】
これに対し、分散剤を使用しなかった比較例1では、活性炭と二酸化マンガン系触媒が分散されずに凝集ゲル化し、塗料化することができなかった。
分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を用いた比較例2においても、活性炭と二酸化マンガン系触媒が分散されずに凝集ゲル化し、塗料化することができなかった。
【0157】
一方、分散剤として、ポリカルボン酸ナトリウム塩(アニオン)、燐酸エステル、ポリウレタンを用いた比較例3~比較例5では、塗料化できるものの、活性炭と二酸化マンガン系触媒の分散性及び分散安定性が低いことから、20℃、1カ月間の保存で凝集が生じ貯蔵安定性に問題があった。また、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の分散性が低く、ポリアクリレート系分散剤を用いた試験例のように細かい粒度とならなかった。それにより、塗装後に塗膜のブツ及びざらつきが多く生じた。また、素地を十分に覆い隠すことができるように塗装した塗膜の膜厚は厚くて成膜性に劣っていた。そして、ポリアクリレート系分散剤を用いた試験例と比較して、オゾン分解性能にも劣る結果となった。
【0158】
比較例6では、分散剤としてのポリカルボン酸ナトリウム塩(アニオン)の量を増やすことで、貯蔵安定性を向上させることができるものの、オゾン分解性が低下した。これは、分散剤の量が多いことで、活性炭と二酸化マンガン系触媒に吸着しようとするオゾンが分散剤により阻害されたためと考えられる。即ち、比較例6では、少ない分散剤の量では、貯蔵安定性を確保できない一方で、分散剤の量を増やすと、活性炭と二酸化マンガン系触媒へのオゾンの吸着が分散剤により阻害されることで、試験例と比較して、所望のオゾン分解性を得ることができなかった。
【0159】
このように、各比較例で用いた分散剤では、良好な貯蔵安定性とオゾン分解性を両立させることができなかった。
【0160】
これに対し、ポリアクリレート系分散剤を使用した試験例1~試験例3では、少ない量の分散剤で活性炭と二酸化マンガン系触媒を細かく分散させることができた。また、試験例1~試験例3では、再凝集も少なくて、分散度及び分散安定性に優れることで、貯蔵安定性が良く、かつ、硬化塗膜のブツ及びざらつきも少なくて、成膜性及び外観性がよく、優れたオゾン分解性能が発揮された。
【0161】
即ち、本試験例では、ポリアクリレート系分散剤により、その少ない使用量でも、活性炭と二酸化マンガン系触媒を細かく分散できることで、活性炭と二酸化マンガン系触媒に吸着できるオゾン量を高められる。それにより、活性炭と二酸化マンガン系触媒が持つオゾン分解性能を無駄なく発揮させることができて、オゾン分解性能に優れていた。また、分散安定性も高く、貯蔵安定性に優れていた。よって、長期間の安定した保存が可能で長期保存性が高かった。
【0162】
また、比較例3~比較例5においては、上述したように、活性炭と二酸化マンガン系触媒の分散性が低く、凝集が多かった。それにより、形成された硬化塗膜にブツ及びざらつきが多く、塗膜の成膜性及び基材に対する付着性が低く、塗装外観性も良くなかった。
これに対し、本試験例においては、ポリアクリレート系分散剤の使用によって、活性炭と二酸化マンガン系触媒が細かく分散されたことで、形成された硬化塗膜にブツ及びざらつきが少なく、成膜性及び外観性も良好であった。
また、樹脂としてポリプロピレン樹脂及びアクリル樹脂を用いた試験例1~試験例3では、金属製の基材に対し、後述する付着性試験を行った際でも、剥離した枡目の個数が2個以下であり、金属製の基材に対し高い付着性、接着性を得ることができた。
特に、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いた試験例2及び試験例3では、金属製の基材のみならず、樹脂製の基材に対しても、後述する付着性試験で、剥離した枡目の個数が2個以下であり、樹脂製の基材に対しても高い付着性、接着性を得ることができた。
よって、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いた場合では、金属製及び樹脂製の基材に対して、塗膜の高い付着性を確保できる。そして、塗膜の付着に特別な処理設備を必要としないことで、低コスト化が可能である。
一方、樹脂としてアクリル樹脂を用いた場合では、金属製の基材に対する接着性、付着性が良好であるが、樹脂製の基材に対して塗膜の高い付着性を確保するためには、基材に対し前処理を施した後、塗装を行うのが好ましい。
【0163】
-試験例2-1~2-8-
本発明者らは、ポリアクリレート系分散剤の最適な配合量について、表2に示すように、詳細に検討した。
即ち、表1に示した試験例2の配合組成のうち、ポリアクリレート系分散剤の配合量(g)のみを変化させ、ポリアクリレート系分散剤以外の配合材料は全て試験例2と同じに統一し、ポリアクリレート系分散剤の濃度が異なる各種水性塗料組成物を作製した。
ここでも上記表1のときと同じ材料を使用し、同じ手順で作製した。
そして、ポリアクリレート系分散剤の濃度を変化させた水性塗料組成物についても、上記表1のときと同様、貯蔵安定性の試験評価及びオゾン分解性の試験評価を行った。
【0164】
【0165】
表2に示したように、試験例2-1は、水性塗料組成物中にポリアクリレート系分散剤が0.1質量%濃度の含有により、二酸化マンガン系触媒と活性炭(固形分)の合計量100質量部に対し、ポリアクリレート系分散剤の配合量が0.9質量部の例である。本例では、試験例2-2~2-7に比べ、活性炭と二酸化マンガン系触媒の分散安定性に劣り、20℃、1カ月間の保存で凝集が生じる結果となった。
一方で、試験例2-8は、水性塗料組成物中にポリアクリレート系分散剤が9.1質量%濃度の含有により、二酸化マンガン系触媒と活性炭(固形分)の合計量100質量部に対し、ポリアクリレート系分散剤の配合量が86.2質量部の例である。本例では、試験例2-2~2-7に比べ、オゾン分解率が低かった。
これは、分散剤の量が多いことで、活性炭と二酸化マンガン系触媒に吸着しようとするオゾンが分散剤により阻害されたためと考えられる。
【0166】
これに対し、試験例2-2~2-7は、水性塗料組成物中にポリアクリレート系分散剤が0.3~4.8質量%濃度の含有で、二酸化マンガン系触媒と活性炭(固形分)の合計量100質量部に対し、ポリアクリレート系分散剤の配合量が2.6質量部~43.1質量部の範囲内とした例である。本例では、ポリアクリレート系分散剤の適度な配合量によって、特に、二酸化マンガン系触媒と活性炭が高分散され、その分散安定性も良く、かつ、オゾンの吸着を阻害することもなく、高い貯蔵安定性とオゾン分解性が両立することが確認された。
【0167】
また、発明者らは、二酸化マンガン系触媒と活性炭(固形分)の合計量100質量部に対し、ポリアクリレート系分散剤の配合量が、好ましくは、1.5質量部以上、より好ましくは、2質量部以上、更に好ましくは、2.5質量部以上であれば、特に、貯蔵安定性を確保できることを確認している。また、ポリアクリレート系分散剤の配合量が、好ましくは、75質量部以下、より好ましくは、60質量部以下、更に好ましくは、50質量部以下であれば、特に、高いオゾン分解性が得られ、塗膜の成膜性、付着性及び外観性も良好であることを確認している。
【0168】
したがって、ポリアクリレート系分散剤は、二酸化マンガン系触媒と活性炭(固形分)の合計量100質量部に対し、1.5質量部~75質量部の範囲内で配合するのが好ましい。当該範囲内であれば、効果的に、高い貯蔵安定性及びオゾン分解性を両立させることができ、塗膜の成膜性、付着性及び外観性も良好である。二酸化マンガン系触媒と活性炭(固形分)の合計量100質量部に対し、ポリアクリレート系分散剤の配合量は、より好ましくは2質量部~60質量部、更に好ましくは、2.5質量部~50質量部の範囲内である。
【0169】
水性塗料組成物中において、ポリアクリレート系分散剤の濃度は、好ましくは、0.3~5質量%の範囲内である。当該範囲内であれば、効果的に、高い貯蔵安定性及びオゾン分解性を両立させることができ、塗膜の成膜性、付着性及び外観性も良好である。水性塗料組成物中において、ポリアクリレート系分散剤の濃度は、より好ましくは、0.3~2質量%である。
【0170】
-試験例4~8、比較例7~8-
本発明者らは、二酸化マンガン系触媒と活性炭の最適な配合について、以下の表3及び表4に示すように、詳細に検討した。
まず、オゾン分解能を有する活性炭と二酸化マンガン系触媒の配合割合(比率)による水性塗料組成物及びそれから形成される塗膜性能への影響を調べた。具体的には、以下の表3に示すように、活性炭と二酸化マンガンの配合割合(比率)を変化させて各種塗料組成物を作製した。ここでも上記表1のときと同じ材料を使用し、同じ手順で作製した。また、作製した塗料組成物について、貯蔵安定性とオゾン分解性の試験を行った。
【0171】
ここで、水性塗料組成物の貯蔵安定性試験については、上記表1のときと同じ、20℃の温度条件で1カ月間保管した後の凝集の有無を確認し、評価を行った。なお、20℃、1カ月間保管後に凝集による沈降分離が少し見られたが、塗装時に攪拌することで塗装性に問題がなかったものについては、Bと表記した。
【0172】
一方、オゾン分解性の試験については、次の通り行った。即ち、
図5に示すように、20Lのマイラーバック250内に、評価用としてポリプロピレンTP基材220(PP材220)に水性塗料組成物を塗装乾燥した試験体Tを入れた。試験体Tは、5cm×7cmの面を有するPP基材220の表面に、塗装面積5cm×7cmで塗料組成物を塗装し、100℃×10分で乾燥させることで、PP材220上に硬化塗膜220Aを形成した試験体である。
次に、マイラーバック250内にエアブローで空気を封入後、オゾン発生機で発生させたオゾンを注入して、バック50内のオゾン濃度を0.2ppm(体積基準)に調整してから、マイラーバック250をヒートシールで密閉した。そして、30分経過後にオゾンセンサー233によって、マイラーバック250内のオゾン濃度を測定することにより、初期のオゾン濃度との比較で、オゾン分解率を算出した。
なお、このときの評価試験は、25℃の室温(常温)下で行いった。また、各種塗料組成物は、PP材220に対し、その素地が覆い隠れるまでに塗装を行っている。
【0173】
更に、比較として、活性炭または二酸化マンガン系触媒の何れか一方のみしか配合しない比較例7及び比較例8を作製した。本例についても、同様に貯蔵安定性及びオゾン分解性能の評価試験を行った。
作製した各種塗料組成物の配合組成を表3の上段に示し、評価試験の結果を表3の下段に示す。なお、表3においても、活性炭は固形分換算量であり、分散工程における水は、溶媒として添加したイオン交換水に加え、活性炭材料の商品に予め含まれていた溶媒としての水分量を含めた値である。
【0174】
【0175】
表3に示したように、活性炭を配合せず、二酸化マンガン系触媒のみを配合した比較例7では、オゾン分解率が75.9%であり、試験例よりも低いオゾン分解率であった。
また、二酸化マンガン系触媒を配合せず、活性炭のみを配合した比較例8も、オゾン分解率が50%であり、試験例と比較して大きく劣っていた。更には、貯蔵安定性も極めて低いものであった。
これは、活性炭が、その吸着特性から塗膜成分である樹脂分(有機物)を多く吸着することで凝集するためである。活性炭のみの配合では、塗料安定性、即ち、貯蔵安定性を確保できないことが分かる。
【0176】
これに対し、二酸化マンガン系触媒と活性炭を併用した試験例では、二酸化マンガン系触媒のみまたは活性炭のみを単独で用いた比較例7及び比較例8と比較して、オゾン分解率が大きく向上し、極めて高いオゾン分解性能が示された。
【0177】
ここで、所定の高いオゾン分解性能を確保するために必要な二酸化マンガン系触媒及び活性炭のうち、活性炭の量が多くなると、塗料の安定性(貯蔵安定性)を確保でき難くなることがある。また、長期の使用により活性炭が酸化、消費され劣化するから、高い耐久性を確保でき難くなることがある。
一方で、活性炭の配合比率が小さくても、活性炭によるオゾン浄化特性の効果が生かされず、活性炭及び二酸化マンガン系触媒の組み合わせによるオゾン分解能の向上効果が小さくて、高いオゾン分解性能を得難くなることがある。
特に、二酸化マンガン系触媒は、水分、塩化物、並びに、大気中のSOx及びMOxの影響を受け易く、それらによってオゾン分解性が低下しやすいことから、長期間の高いオゾン分解性を確保するためには、活性炭に対して所定量の配合割合とするのが好ましい。
【0178】
本発明者らの鋭意実験研究によれば、試験例4~試験例8として、表3に示したように、水性塗料組成物中における活性炭(固形分)と二酸化マンガン系触媒の比率を、好ましくは、20/80≦活性炭/二酸化マンガン系触媒≦80/20とすることで、良好なオゾン分解率を得ることができ、かつ、実用的な貯蔵安定性を確保でき易くなる。
特に、試験例5~試験例7に示したように、活性炭(固形分)と二酸化マンガン系触媒の比率を、より好ましくは30/70≦活性炭/二酸化マンガン系触媒≦70/30とすることで、優れたオゾン分解率と貯蔵安定性が得られ、長期間の極めて高いオゾン分解性と塗料安定性を確保でき易くなる。
なお、水性塗料組成物中における活性炭(固形分)と二酸化マンガン系触媒の比率(質量比)は、その水性塗料組成物から形成される塗膜成分中の活性炭と二酸化マンガン系触媒の比率に一致する。即ち、水性塗料組成物中における活性炭(固形分)と二酸化マンガン系触媒の比率が、20/80≦活性炭/二酸化マンガン系触媒≦80/20であると、水性塗料組成物から得られる硬化塗膜中においても、活性炭と二酸化マンガン系触媒が、20/80≦活性炭/二酸化マンガン系触媒≦80/20の比率で含まれることになる。
【0179】
-試験例7-1~7-5-
更に、本発明者らは、オゾン分解性能を有する活性炭及び二酸化マンガン系触媒の配合量と塗膜性能への影響を調べるために、次の試験を実施した。表3に示した試験例7の配合組成のうち、水性塗料組成物中(塗膜成分中)における活性炭(固形分)と二酸化マンガン系触媒の配合割合(重量比率)は活性炭/二酸化マンガン系触媒=70/30で一定とするも、活性炭及び二酸化マンガン系触媒の配合量を増減させる試験を実施した。具体的には、表4に示すように、水性塗料組成物から形成される塗膜における活性炭及び二酸化マンガン系触媒の濃度が33質量%~83質量%となる活性炭及び二酸化マンガン系触媒の配合で各種塗料組成物を作製した。
活性炭と二酸化マンガン系触媒以外の配合組成、材料は、全て試験例7ときの同一に統一し、上記と同じ手順で作製した。即ち、活性炭及び二酸化マンガン系触媒以外の配合材料の配合量(g)は、全て試験例7ときと同じに統一し、活性炭及び二酸化マンガン系触媒の配合量(g)のみを変化させ、上記と同じ手順で作製した。
そして、作製した塗料組成物について、オゾン分解性及び基材に対する付着性の試験を行った。
【0180】
ここで、オゾン分解性の試験については、上記試験例1と同様に、
図4に示したオゾン分解試験装置を用いて行った。
付着性試験については、PP基材に水性塗料組成物をエアースプレー塗装し、100℃×10分で乾燥させることにより、PP基材上に硬化塗膜が形成された供試体を用いた。
そして、供試体について、JIS-K5600-5-6:1999に準拠して、付着性(クロスカット法)の評価を行った。具体的には、供試体の硬化塗膜にカッターナイフで縦横に1mm間隔で11本ずつの平行な切れ目を入れて、合計100個の1mm×1mmの桝目を形成した。次に、これら100個の桝目形成部分上に粘着テープ(マスキングテープ)を強く圧着させて貼り付け、そして一気に引き剥がし、100個の升目のうち何個剥がれたかを測定した。剥離した枡目の個数が2個以下であればAと表記し、3個以上の剥がれが見られた場合にはBと表記した。
作製した各種塗料組成物中の活性炭及び二酸化マンガン系触媒の濃度を表4の上段に示し、評価試験の結果を表4の下段に示す。
【0181】
【0182】
表4に示したように、活性炭と二酸化マンガン系触媒の濃度を高めるほど、オゾン分解性能が高まることが分かった。
特に、試験例7-3~7-5に示すように、水性塗料組成物から形成された塗膜中の、活性炭と二酸化マンガン系触媒の濃度が63%以上で、高いオゾン分解性を得ることができた。
なお、試験例7-4~7-5に示すように、塗膜成分中の触媒濃度が73%以上では、触媒濃度を高めても、所定の分散剤の量では分散性に限度があるため、オゾン分解能の上昇が少なかったものと推測される。
一方で、試験例7-5で示すように、活性炭と二酸化マンガン系触媒の濃度が高くなり過ぎると、付着性能が低下した。基材への付着性能が低いと、塗膜剥がれ及び塗膜成分の脱落が生じやすくなり、持続的に高いオゾン分解性能を得ることができなくなる恐れがある。
【0183】
ここで、本発明者らの実験研究によれば、水性塗料組成物中(つまり、塗膜中)における活性炭(固形分)と二酸化マンガン系触媒の比率が20/80≦活性炭/二酸化マンガン系触媒≦80/20であるとき、塗膜成分中の活性炭(固形分)及び二酸化マンガン系触媒の合計量が、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上で、特に、高いオゾン分解性能を得ることができることを確認している。また、塗膜中の活性炭(固形分)及び二酸化マンガン系触媒の合計量が、特に、好ましくは、90質量%以下、より好ましくは、85質量%以下であれば、特に、基材に対する塗膜の付着性能も良好であることを確認している。
【0184】
よって、塗膜中の活性炭(固形分)及び二酸化マンガン系触媒の合計量は、好ましくは、60質量%~90質量%であり、より好ましくは、70質量%~80質量%である。それにより、特に、基材への付着性を確保して長時間の高いオゾン分解性能を維持できる。
なお、水性塗料組成物から形成された塗膜中における活性炭及び二酸化マンガンの合計量(質量%)は、活性炭及び二酸化マンガンの合計固形分量/塗膜成分となる水性塗料組成物中の全体の固形分量比×100で算出したものである。
【0185】
以上説明してきたように、上記試験例によれば、ポリアクリレート系分散剤によって、二酸化マンガン系触媒と活性炭を細かく高分散できるから、硬化した塗膜にブツが生じ難く成膜性及び付着性の高い塗膜を形成できる。そして、高分散された二酸化マンガン系触媒と活性炭が多くのオゾン量を付着できることによって、高いオゾン分解性能を発揮させることができる。特に、酸化マンガン系触媒の中でもオゾン分解の触媒活性が高い二酸化マンガン系触媒の使用により、高いオゾン分解能が得られる。更に、二酸化マンガン系触媒と活性炭の併用により、それらを単体で用いた場合と比較して高いオゾン分解性能が得られる。また、活性炭は安価に入手できるから、コストを抑えることができる。加えて、ポリアクリレート系分散剤によって、二酸化マンガン系触媒と活性炭の分散安定性も高いから、実用的に良好な塗料安定性、貯蔵安定性が得られる。
【0186】
二酸化マンガン系触媒としては、中位径(平均粒子径)が1~20μmの範囲内にあり、BET比表面積が100~400m2/gの範囲内にある二酸化マンガン系触媒を用いるのが好ましい。この特性を有する二酸化マンガン系触媒によれば、特に、塗料組成物の分散性及び分散安定性が高く、オゾン分解性が高い塗膜が得られる。
活性炭としては、中位径(平均粒子径)が1~20μmの範囲内にあり、BET比表面積が500~3000m2/gの範囲内にある活性炭を用いるのが好ましい。この特性を有する活性炭によれば、特に、塗料組成物の分散性及び分散安定性が高く、オゾン分解性が高い塗膜が得られる。
【0187】
ポリアクリレート系分散剤としては、その重量平均分子量が500~30000の範囲内であり、酸価が1~50の範囲内であり、pHが5~9の範囲内である分散剤が好ましい。この特性を有するポリアクリレート系分散剤によれば、特に、オゾン分解性能を損なうことなく、少ない分散剤の量で塗料成分の高分散及び分散安定の効果を得ることができる。
ポリアクリレート系分散剤の含有量は、二酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計量を100質量部に対し、1.5質量部~70質量部の範囲内であることが好ましい。これにより、特に、高いオゾン分解性と貯蔵安定性を両立できる。また、水性塗料組成物中に、ポリアクリレート系分散剤を0.3質量%~5質量%の範囲内で含有されることにより、特に、高いオゾン分解性と貯蔵安定性を両立できる。
【0188】
樹脂は、(メタ)アクリル樹脂またはポリプロピレン樹脂が好ましい。これら樹脂は、二酸化マンガン系触媒及び活性炭との相溶性も良く、樹脂中に二酸化マンガン系触媒及び活性炭が均一に分散されやすい。特に、(メタ)アクリル樹脂によれば、その分子量の選択幅が広いことで、目的とする塗膜性能の特性を設計しやすく、更に、耐候性、耐水性、耐薬品性の高い塗膜を形成できる。また、ポリプロピレン樹脂によれば、金属製の基材に加え、樹脂製の基材に対する付着性にも優れ、オゾン分解性能等の塗膜性能を長期間良好に発揮できる。
【0189】
そして、二酸化マンガン系触媒と活性炭(固形分)は、20/80≦活性炭/二酸化マンガン系触媒≦80/20の質量比率で配合するのが好ましい。これにより、特に、塗料安定性を確保しつつ、二酸化マンガン系触媒と活性炭の組み合わせによるオゾン分解性の相乗効果が得られる。
酸化マンガン系触媒及び活性炭は、塗膜中に酸化マンガン系触媒及び活性炭の合計量が60質量%~90質量%の範囲内となるように配合されるのが好ましい。これにより、特に、基材に対する塗膜の付着性を損なうことなく、高いオゾン分解性能を得ることができる。
【0190】
以上説明したように、酸化マンガン系触媒、活性炭、ポリアクリレート系分散剤、及び樹脂を含むオゾン分解性塗膜は、高いオゾン分解性能を有することがわかる。
そのため、このオゾン分解性塗膜を有する送風機は、オゾン濃度が低減された空気を送風可能となることがわかる。
【符号の説明】
【0191】
10 送風部
12 回転羽根
14 第一通気部材
14A 第一通気孔
16 第二通気部材
16A 第二通気孔
18 案内部材
20 支持部材
22 塗膜
100 送風機