(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031630
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】電気自動車用流体中のリン酸化分散剤
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220215BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20220215BHJP
C10M 137/02 20060101ALI20220215BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220215BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220215BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
C10M169/04 ZHV
C10M101/02 ZAB
C10M137/02
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021130211
(22)【出願日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】16/988,155
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100196449
【弁理士】
【氏名又は名称】湯澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】足立 常夫
(72)【発明者】
【氏名】レスリー・シュミット
(72)【発明者】
【氏名】光井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・クリーブランド
(72)【発明者】
【氏名】アタヌ・アダヴァリュー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所望の摩耗性能、銅の腐食適合性、および潤滑剤の電気抵抗率を有する電気自動車のパワートレイン潤滑剤組成物、および電気自動車の潤滑組成物の電気抵抗率を改善する方法を提供する。
【解決手段】電気自動車で使用するための潤滑組成物は、潤滑粘度の油と、エージング後に増加した抵抗率を示す少なくとも1つのリン酸化スクシンイミド分散剤を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車で使用するための潤滑組成物であって、
少なくとも95重量パーセントの潤滑基油組成物であって、APIグループIIIの基油、またはグループIIIの基油と、グループIIの基油、グループVの基油、もしくはそれらの混合物とのブレンドから選択される基油を含む潤滑基油組成物、
2重量%~3.5重量%のリンを含むリン酸化スクシンイミド分散剤であって、650ppm以下のリンを前記潤滑組成物に提供するリン酸化スクシンイミド分散剤を含み、
前記潤滑組成物が、700ppm以下の全リンを有し、前記リン酸化スクシンイミド分散剤が、前記全リンの少なくとも70%を提供し、
前記潤滑組成物が、100℃で3cSt~6.5cStの動粘度を有し、前記流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、ASTM D2624-15に従って1.5ボルトおよび30℃で測定したとき、少なくとも50MΩ・mの抵抗率を有し、
前記潤滑基油組成物が、APIグループVの基油を含む場合、前記APIグループVの基油は、総潤滑組成物に基づいて最大15重量%の量で存在し、
前記潤滑基油組成物が、APIグループIIの基油を含む場合、前記APIグループIIの基油は、総潤滑組成物に基づいて最大80重量%の量で存在する、潤滑組成物。
【請求項2】
前記リン酸化スクシンイミド分散剤が第1の分散剤であり、前記組成物が0.2重量%~0.4重量%のリンを含む第2の分散剤をさらに含み、前記第2の分散剤が50ppm以下のリンを前記潤滑組成物に提供する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記リン酸化スクシンイミド分散剤が、2.5重量%~3.0重量%のリンを含み、および/または、前記リン酸化スクシンイミド分散剤が115ppm~600ppmのリンを前記潤滑組成物に提供し、および/または前記リン酸化スクシンイミド分散剤が115ppm~250ppmのリンを前記潤滑組成物に提供し、および/または前記リン酸化スクシンイミド分散剤が250ppm以下のリンを前記潤滑組成物に提供し、前記潤滑組成物が300ppm以下の全リンを有する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記第1の分散剤が、115ppm~250ppmのリンを前記潤滑組成物に送達し、前記第2の分散剤が、40ppm以下のリンを前記潤滑組成物に送達する、請求項2に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
前記流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、前記潤滑組成物が少なくとも115MΩ・mの抵抗率を有する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
前記基油組成物が、APIグループIIIの基油またはAPIグループIIの基油およびグループIIIの基油の混合物から選択される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
前記リン酸化スクシンイミド分散剤が、115ppm~250ppmのリンを前記潤滑組成物に提供し、ならびに/または、前記潤滑組成物が、160ppm~300ppmの全リン、100℃で5.5cSt~6.0cStの動粘度、および前記流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、少なくとも115MΩ・mの抵抗率を有する、請求項6に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
電気自動車の潤滑組成物の電気抵抗率を改善する方法であって、電気自動車のパワートレインに、
少なくとも95重量パーセントの潤滑基油組成物であって、APIグループIIIの基油、またはAPIグループIIIの基油と、APIグループIIの基油、APIグループVの基油、もしくはそれらの混合物とのブレンドから選択される基油を含む潤滑基油組成物、
2重量%~3.5重量%のリンを含むリン酸化スクシンイミド分散剤であって、650ppm以下のリンを前記潤滑組成物に提供するリン酸化スクシンイミド分散剤を含む組成物を有する潤滑油を提供することを含み、
前記潤滑組成物が、700ppm以下のリンを有し、前記リン酸化スクシンイミド分散剤が全リンの少なくとも70%を提供し、
前記潤滑油が、100℃で3cSt~6.5cStの動粘度を有し、JIS K2514-1に従って前記流体が150℃でエージングされた後、1.5ボルトおよび30℃で、前記潤滑組成物を使用してASTM D2624-15に従って測定したとき、少なくとも50MΩ・mの抵抗率を有し、
前記潤滑基油組成物が、APIグループVの基油を含む場合、前記APIグループVの基油は、総潤滑組成物に基づいて最大15重量%の量で存在し、
前記潤滑基油組成物が、APIグループIIの基油を含む場合、前記APIグループIIの基油は、総潤滑組成物に基づいて最大80重量%の量で存在する、方法。
【請求項9】
前記リン酸化スクシンイミド分散剤が、第1の分散剤であり、前記組成物が0.2重量%~0.4重量%のリンを含む第2の分散剤をさらに含み、前記第2の分散剤が50ppm以下のリンを前記潤滑組成物に提供する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記リン酸化スクシンイミド分散剤が、2.5重量%~3.0重量%のリンを含み、および/または、前記リン酸化スクシンイミド分散剤が115ppm~600ppmのリンを前記潤滑組成物に提供し、および/または前記リン酸化スクシンイミド分散剤が115ppm~250ppmのリンを前記潤滑組成物に提供する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の分散剤が、115ppm~250ppmのリンを前記潤滑組成物に送達し、前記第2の分散剤が、40ppm以下のリンを前記潤滑組成物に送達する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記リン酸化スクシンイミド分散剤が、前記潤滑組成物に250ppm以下のリンを提供し、前記潤滑組成物が、300ppm以下の全リンを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記潤滑組成物が、前記流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、少なくとも115MΩ・mの抵抗率を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記基油組成物が、APIグループIIIの基油またはAPIグループIIおよびIIIの基油のブレンドまたはそれらの混合物から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記リン酸化スクシンイミド分散剤が、前記潤滑組成物に対して115ppm~250ppmのリンを提供し、前記流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、前記潤滑組成物が、160ppm~300ppmの全リン、100℃で5.5cSt~6.0cStの動粘度、および、少なくとも115MΩ・mの抵抗率を有する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気モータシステム用の潤滑流体、および電気モータシステム内のギアを潤滑し、モータを冷却する方法に関する。特に、開示された技術は、電気自動車で使用するための、潤滑粘度の油、2.0重量%~3.5重量%の間のリンを有する少なくとも1つのリン酸化分散剤を含む潤滑流体に関する。潤滑流体は、30℃でASTM D2624-15の修正版で測定した場合、少なくとも50MΩ.mのエージング後の抵抗率を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
電気自動車のパワートレイン潤滑剤を開発する上での主な課題は、摩耗性能を達成し、銅の腐食を抑制し、潤滑剤の寿命にわたってパワートレイン内の帯電した構成要素との潤滑剤の適合性を確保することである。たとえば、電気自動車のパワートレイン内のギアには、優れた摩耗保護が必要である。さらに、電気モータの帯電した構成要素に存在する銅は、高温での保護が必要である。さらに、潤滑剤の電気抵抗率は、帯電した構成要素の静電的な蓄積と放電を防ぐために、潤滑剤の寿命全体にわたって比較的高いままである必要がある。
【0003】
電気自動車のパワートレイン用の潤滑剤技術の進歩にもかかわらず、所望の摩耗性能、銅の腐食適合性、および潤滑剤の電気抵抗率を有する電気自動車のパワートレイン潤滑剤組成物が必要とされている。
【0004】
一態様または実施形態では、電気自動車またはハイブリッド電気自動車で使用するための潤滑組成物が本明細書に記載されている。一実施形態では、前記潤滑組成物が、少なくとも95重量パーセントの潤滑基油組成物であって、APIグループIIIの基油、またはグループIIIの基油と、グループIIの基油、グループVの基油、もしくはそれらの混合物とのブレンドから選択される基油を含む潤滑基油組成物と、2重量%~3.5重量%のリンを含むリン酸化スクシンイミド分散剤であって、650ppm以下のリンを潤滑組成物に提供するリン酸化スクシンイミド分散剤を含み、潤滑組成物が、700ppm以下の全リンを有し、リン酸化スクシンイミド分散剤が、全リンの少なくとも70%を提供し、潤滑組成物が、100℃で3cSt~6.5cStの動粘度を有し、流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、ASTM D2624-15に従って1.5ボルトおよび30℃で測定したとき、少なくとも50MΩ・mの抵抗率を有し、潤滑基油組成物が、APIグループVの基油を含む場合、APIグループVの基油は、総潤滑組成物に基づいて最大15重量%の量で存在し、潤滑基油組成物が、APIグループIIの基油を含む場合、APIグループIIの基油は、総潤滑組成物に基づいて最大80重量%の量で存在する。
【0005】
他の実施形態では、潤滑組成物が、リン酸化スクシンイミド分散剤が第1の分散剤であり、組成物が0.2重量%~0.4重量%のリンを含む第2の分散剤をさらに含み、第2の分散剤が、潤滑剤に50ppm以下のリンを潤滑組成物に提供し、および/またはリン酸化スクシンイミド分散剤が2.5重量%~3.0重量%のリンを含む。
【0006】
さらに他の実施形態では、本明細書の任意の潤滑組成物が、115ppm~600ppmのリンを潤滑組成物に提供するリン酸化スクシンイミド分散剤を含んでいてもよく、および/またはリン酸化スクシンイミド分散剤が、115ppm~250ppmのリンを潤滑組成物に提供し、および/または第1の分散剤は115ppm~250ppmのリンを潤滑組成物に送達し、第2の分散剤が、40ppm以下のリンを潤滑組成物に送達し、および/またはリン酸化スクシンイミド分散剤が、250ppm以下のリンを潤滑組成物に提供し、潤滑組成物が300ppm以下の全リンを有する。
【0007】
さらに他の実施形態では、本明細書の任意の潤滑組成物が、流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、少なくとも115MΩ・mの抵抗率を有し得る。
【0008】
他の実施形態では、本明細書の任意の潤滑組成物が、APIグループIIIの基油またはAPIグループIIの基油およびグループIIIの基油の混合物と組み合わされたAPIグループIIの基油から選択される基油組成物を有し得る。
【0009】
別の実施形態では、本明細書の任意の潤滑組成物が、115ppm~250ppmの間のリンを潤滑組成物に提供するリン酸化スクシンイミド分散剤を含んでいてもよく、潤滑組成は、流体がJISK2514-1に従って150℃でエージングされた後、全リンが160ppm~300ppm、動粘度が100℃で5.5cSt~6.0cSt、抵抗率が115MΩ・m以上である。
【0010】
本開示の別の態様または実施形態では、電気自動車またはハイブリッド電気自動車における潤滑組成物の電気抵抗率を改善する方法が提供される。一つのアプローチでは、この方法は、電気またはハイブリッド電気自動車パワートレインに、潤滑組成物が、少なくとも95重量パーセントの潤滑基油組成物であって、APIグループIIIの基油、またはAPIグループIIIの基油と、APIグループIIの基油、APIグループVの基油、もしくはそれらの混合物とのブレンドから選択される基油を含む潤滑基油組成物、2重量%~3.5重量%のリンを含むリン酸化スクシンイミド分散剤であって、650ppm以下のリンを潤滑組成物に提供するリン酸化スクシンイミド分散剤を含む組成物を有する潤滑油を提供することを含み、潤滑組成物が、700ppm以下のリンを有し、リン酸化スクシンイミド分散剤が全リンの少なくとも70%を提供し、潤滑油が、100℃で3cSt~6.5cStの動粘度を有し、流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、1.5ボルトおよび30℃で、潤滑組成物を使用してASTM D2624-15に従って測定したとき、少なくとも50MΩ・mの抵抗率を有し、潤滑基油組成物が、APIグループVの基油を含む場合、APIグループVの基油は、総潤滑組成物全体に基づいて最大15重量%の量で存在し、潤滑基油組成物が、APIグループIIの基油を含む場合、APIグループIIの基油は、総潤滑組成物に基づいて最大80重量%の量で存在する。
【0011】
この方法の他の実施形態では、潤滑組成物が、リン酸化スクシンイミド分散剤が第1の分散剤であり、組成物が0.2重量%~0.4重量%のリンを含む第2の分散剤をさらに含み、第2の分散剤が、潤滑剤に50ppm以下のリンを潤滑組成物に提供し、および/またはリン酸化スクシンイミド分散剤が2.5重量%~3.0重量%のリンを含む。
【0012】
本明細書の任意の方法のさらに他の実施形態では、リン酸化スクシンイミド分散剤が、潤滑組成物が、115ppm~600ppmのリンを潤滑組成物に提供し、および/またはリン酸化スクシンイミド分散剤が、115ppm~250ppmのリンを潤滑組成物に提供し、および/または第1の分散剤は115ppm~250ppmのリンを潤滑組成物に送達し、第2の分散剤が、40ppm以下のリンを潤滑組成物に送達し、および/またはリン酸化スクシンイミド分散剤が、250ppm以下のリンを潤滑組成物に提供し、潤滑組成物が300ppm以下の全リンを有する。
【0013】
任意の方法のさらに別の実施形態では、潤滑組成物が、流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、少なくとも115MΩ・mの抵抗率を有し、基油組成物が、APIグループIIIの基油またはAPIグループIIおよびIIIの基油のブレンドまたはそれらの混合物から選択され、リン酸化スクシンイミド分散剤が、潤滑組成物に対して115ppm~250ppmのリンを提供し、流体が150℃でJIS K2514-1に従ってエージングされた後に、潤滑組成物が、160ppm~300ppmの全リン、100℃で5.5cSt~6.0cStの動粘度、および、少なくとも115MΩ・mの抵抗率を有する。
【0014】
さらに他の実施形態では、本開示は、ハイブリッド車または電気自動車における、潤滑組成物の電気抵抗率耐久性を改善するためのリン酸化スクシンイミド分散剤を含む潤滑組成物の使用を提供し、潤滑組成物は、上記および本明細書の任意の実施形態で説明される。他の実施形態では、ハイブリッド車または電気自動車において、流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、少なくとも50MΩ・mの抵抗率を達成するために、本明細書の任意の実施形態に記載されるリン酸化スクシンイミド分散剤を含む潤滑組成物の使用が提供される。さらに別の実施形態では、ハイブリッド車または電気自動車において、摩耗痕を低減するため、および/または潤滑組成物の銅腐食性を低減するため、流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、少なくとも50MΩ・mの抵抗率の少なくとも1つ以上を達成するための、本明細書の任意の実施形態に記載のリン酸化スクシンイミド分散剤を含む潤滑組成物の使用が記載される。
【0015】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考察および本明細書に開示される本発明の実施から、当業者に明らかになるであろう。
【0016】
本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために、以下の用語の定義が提供される。
【0017】
「潤滑油」、「潤滑組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑剤」、および「潤滑および冷却流体」は、主要量の基油と少量の添加剤組成物とを含む完成した潤滑生成物を指す。
【0018】
本明細書で用いられる場合、「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」、および「伝達流体添加剤パッケージ」という用語は、主要量の基油を除いた潤滑油組成物の一部分を指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は当業者に既知の通常の意味で使用される。具体的には、分子の残りに直接結合した炭素原子を有し、主に炭化水素特性を有する基を指す。各ヒドロカルビル基は、独立して炭化水素置換基から選択され、置換炭化水素置換基は、ハロ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、ピリジル基、フリル基、イミダゾリル基、酸素、および窒素のうち1種以上を含有し、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子毎に2つ以下の非炭化水素置換基が存在する。
【0020】
本明細書で使用される場合、「重量パーセント」という用語は、他に明確に述べられていない限り、記載された成分が組成物全体の重量に対して表すパーセンテージを意味する。
【0021】
本明細書で使用される「可溶性」、「油溶性」、または「分散性」という用語は、化合物または添加剤が可溶性、溶解性、混和性、または油中にあらゆる割合で懸濁可能であることを示し得るが、必ずしもそうではない。しかしながら、前述の用語は、それらが、油が採油される環境において意図された効果を発揮するのに十分な程度に、油中で可溶性、懸濁性、溶解性、または安定に分散性であることを意味する。さらに、必要に応じて、他の添加剤を追加で組み込むことで、特定の添加剤のより高いレベルの配合が可能となり得る。
【0022】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、約1~約200個の炭素原子の直鎖、分枝鎖、環状、および/または置換飽和鎖部分を指す。
【0023】
本明細書で使用される「アルケニル」という用語は、約3~約30個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、および/または置換不飽和鎖部分を指す。
【0024】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロ置換基、および/またはこれらに限定されないが、窒素および酸素が挙げられるヘテロ原子を含み得る、単環式および多環式の芳香族化合物を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「数平均分子量」または「Mn」は、市販のポリスチレン標準(較正基準として180~約18,000のMnを用いて)を使用するゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって決定される。
【0026】
本開示の全体を通して、「備える(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」などの用語は、制限のないものとみなされ、明確に列挙されていない任意の要素、ステップ、または成分を含む。「から本質的に成る(consists essentially of)」という語句は、明確に列記された任意の要素、ステップ、または成分、ならびに本発明の基本的および新規な態様に実質的に影響を及ぼさない任意の追加の要素、ステップ、または成分を含むことを意味する。本開示はまた、「備える(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」という用語を使用して説明される任意の組成物もまた、その具体的に列挙された成分「から本質的に成る(consisting essentially of)」または「から成る(consisting of)」同じ組成物の開示を含むと解釈されるべきであることを想到する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
例示的な実施形態によれば、電気自動車またはハイブリッド電気自動車で使用するための、基油および2.0重量%~3.5重量%のリンを有する少なくとも1つのリン酸化スクシンイミド分散剤を含む潤滑流体が本明細書に記載される。一実施形態では、2.0重量%~3.5重量%のリンを有するリン酸化スクシンイミド分散剤が、650ppm未満のリンを潤滑流体に送達する。他の実施形態では、リン酸化スクシンイミド分散剤が、2.5重量%~3.2重量%のリン、さらに他の実施形態では2.8重量%~3.2重量%のリン、さらに別の実施形態では約3重量%のリンを有する。本明細書の任意の実施形態において、リン酸化スクシンイミド分散剤は、流体に最大650ppmのリン、流体に最大600ppmのリン、最大500ppmのリン、最大400ppmのリン、最大300ppmのリン、または最大250ppmのリンを提供してもよい。他の実施形態では、リン酸化スクシンイミド分散剤は、本明細書の流体に少なくとも100ppmのリン、少なくとも120ppmのリン、または少なくとも150ppmのリンを提供してもよい。
【0028】
本明細書の流体はまた、他のリン源を含み得るが、流体の全リン含有量は、700ppm以下、650ppm以下、600ppm以下、550ppm以下、500ppm以下、450ppm以下、400ppm以下、350ppm以下、300ppm以下、250ppm以下、または200ppm以下でもよい。流体はまた、100ppm以上の全リン量を含んでいてもよい。他のリン源を有する実施形態では、リン酸化スクシンイミド分散剤から提供されるリンは、全リン量の少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または流体中の全リン量の少なくとも約92%を提供する。他のアプローチでは、リン酸化スクシンイミド分散剤によって提供されるリンは、全リン量の100%以下、98%以下、95%以下、または全リン量の90%以下を提供する。
【0029】
下記にさらに説明するように、基油およびすくなくとも1つのリン酸化スクシンイミド分散剤を含む本明細書の流体は、概ね100℃で3cSt~6.5cStの動粘度を有し、流体がJIS K2514-1に従って150℃でエージングされた後、ASTM D2624-15に従って(本明細書に記載のように、1.5ボルトおよび30℃で、潤滑組成物を使用して)測定したとき、少なくとも50MΩ・mの抵抗率を有する。
【0030】
基油-本開示による電気自動車およびハイブリッド自動車で使用するための潤滑流体を配合する際に使用するのに好適な基油は、好適な潤滑粘度を有する好適な合成もしくは天然油またはそれらの混合物のいずれかから選択され得る。
【0031】
天然油は、動物油、および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、ならびに液体石油およびパラフィン系、ナフテン系、または混合パラフィン-ナフテン型の溶媒処理もしくは酸処理した鉱物潤滑油などの鉱物油を含んでいてもよい。
【0032】
石炭またはシェール由来の油もまた好適であり得る。さらに、フィッシャー・トロプシュの気液法から得られた油も好適である。Fischer-Tropsch合成炭化水素は、Fischer-Tropsch触媒を使用して、H2およびCOを含有する合成ガスから作製される。そのような炭化水素は、典型的には基油として有用であるためにさらなる処理を必要とする。これらのタイプの油は、一般に天然ガス液体燃料化(GTL)と呼ばれる。例えば、炭化水素は、米国特許第6,103,099号または同第6,180,575号に開示されているプロセスを使用して水素異性化され得るか、米国特許第4,943,672号または同第6,096,940号に開示されているプロセスを使用して水素化分解され、水素異性化され得るか、米国特許第5,882,505号に開示されるプロセスを使用して脱ロウされ得るか、または米国特許第6,013,171号、同第6,080,301号、もしくは同第6,165,949号に開示されているプロセスを使用して水素化異性化および脱ロウされ得る。基油は、ASTM D2270-10(2016)で測定した場合、100℃で2~15cStの動粘度を持っていてもよい。
【0033】
本明細書に記載の本発明で使用される基油は、単一の基油であり得るか、または2つ以上の基油の混合物であり得る。具体的には、1種以上の基油は、望ましくは、American Petroleum Institute(API)基油互換性ガイドラインに指定されているグループII~Vの基油のいずれかから選択され得る。いくつかの実施形態では、基油は、グループIIIの基油またはグループIIまたはグループVの基油のうちの1つ以上と組み合わされたグループIIIの基油である。そのような基油グループを、以下のように表1に示す。
【0034】
【0035】
一変形形態では、前述の実施形態のいずれかにおいて、基油は、グループIIからグループVの基油、またはこれらの基油の混合物から選択され得る。一実施形態では、基油は、グループIIIの基油、またはグループIIIの基油とグループIIおよび/またはグループVの基油とのブレンドを含む。一実施形態では、潤滑組成物は、少なくとも75重量%のグループIIおよび/またはグループIIIの基油を含む。別の実施形態では、潤滑組成物は、少なくとも90重量%のグループIIIの基油を含む。別の実施形態では、潤滑組成物は、少なくとも10重量%のグループVの基油を含む。
【0036】
さらに他の実施形態では、潤滑組成物がグループVの基油を含む場合、グループVの基油は、潤滑組成物中に、少なくとも約5重量%、少なくとも約8重量%、または少なくとも約10重量%の範囲、および/または最大20重量%、最大15重量%または最大12重量%までの量で存在する(残りはグループIIIの基油)。さらに他の実施形態では、潤滑組成物がグループIIの基油を含む場合、グループIIの基油は、潤滑組成物中に、少なくとも約50重量%、少なくとも約75重量%、または少なくとも約77重量%の範囲、および/または最大80重量%、最大78重量%、または最大77重量%の量で存在する(残りはグループIIおよび/またはグループVの基油である)。
【0037】
グループVの基油には、合成および天然のエステル基液が含まれる。合成エステルは、ジカルボン酸と一価アルコールとのエステルを含んでいてもよい。これらのエステルの具体例には、ジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジイコシルセバケート、およびリノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステルが含まれる。他の号英エステルは、C5~C12モノカルボン酸とポリオールおよびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどから生成されるものも含む。エステルは、モノカルボン酸と一価アルコールのモノエステルでもある。
【0038】
天然エステルとは、石油または同等の原材料に由来する材料とは異なり、再生可能な生物資源、生物、または実体に由来する材料を指す。天然エステルには、脂肪酸トリグリセリド、加水分解または部分的に加水分解されたトリグリセリド、または脂肪酸メチルエステル(またはFAME)などのエステル交換されたトリグリセリドエステルが含まれる。好適なトリグリセリドには、パーム油、大豆油、ひまわり油、菜種油、オリーブ油、亜麻仁油、および関連材料が含まれるが、これらに限定されない。
【0039】
基油は、本明細書の実施形態に開示されるような添加剤組成物と組み合わせて、電気自動車で使用するための潤滑流体を提供することができる。したがって、基油は、潤滑流体組成物の総重量に基づいて、約90重量%を超える量で、本明細書に記載された潤滑流体に存在し得る。いくつかの実施形態では、基油は、潤滑流体の総重量に基づいて約95重量%を超える量で潤滑流体中に存在し得る。
【0040】
添加剤組成物
リン酸化スクシンイミド分散剤:本明細書に記載の潤滑流体は、少なくとも1つのリン酸化スクシンイミド分散剤を含む。
【0041】
ポリアルキレンポリアミンと反応したヒドロカルビルジカルボン酸または無水物は、スクシンイミド分散剤を製造するために使用される。スクシンイミド分散剤およびそれらの調製は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,897,696号および米国特許第4,234,435号に開示されている。ヒドロカルビル-ジカルボン酸またはその無水物のヒドロカルビル部分は、ブテンポリマー、例えばイソブチレンのポリマーから誘導され得る。本明細書での使用に好適なポリイソブテンとしては、ポリイソブチレンまたは約70%~約90%以上などの少なくとも約60%の末端ビニリデン含有量を有する高反応性ポリイソブチレンから形成されるものが挙げられる。適切なポリイソブテンは、BF3触媒を用いて調製されたものを含み得る。
【0042】
ポリイソブチレン置換基の数平均分子量は、ポリスチレン(数平均分子量180~約18,000)を較正基準としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定すると、例えば500~5000のように広い範囲で変化することがある。付加的に、GPC方法は、分子量分布情報を提供し、例えばまた、参照により本明細書に組み込まれる、W.W.Yau、J.J.Kirkland and D.D.Bly、“Modern Size Exclusion Liquid Chromatography”、John Wiley and Sons、New York、1979も参照のこと。
【0043】
分散剤中のポリイソブチレン部分は、好ましくは、重量平均分子量(Mw)対数平均分子量(Mn)の比によって決定されるように、多分散度指数(PDI)を有する。2.2未満、好ましくは2.0未満のMw/Mnを有するポリマーが最も望ましい。好適なポリイソブチレン置換基は、約1.5から2.1、または約1.6から約1.8の多分散度を有する。
【0044】
ジカルボン酸または無水物は、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、イタコン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸、シトラコン酸無水物、メサコン酸、エチルマレイン酸、無水物、
ジメチルマレイン酸無水物、エチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、ヘキシルマレイン酸など、対応する酸ハライドやC1-C4脂肪族エステルを含むカルボン酸系反応物から選択することができる。ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物を製造するために使用される反応混合物におけるジカルボン酸または無水物とヒドロカルビル部分のモル比は、大きく変化してもよい。したがって、モル比は、5:1~1:5、例えば3:1~1:3に変化し得る。酸または無水物とヒドロカルビル部分のモル比は、1:1から1.6:1未満が特に好適である。ジカルボン酸または無水物とヒドロカルビル部分の別の有用なモル比は、1:1~1.7:1、または1:1~1.6:1、または1:1~1.5:1である。
【0045】
多数のポリアルキレンポリアミンのいずれかを、分散剤添加剤の調製に使用することができる。非限定的な例示的ポリアミンとしては、アミノグアニジンビカーボネート(AGBC)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)および重質ポリアミン類が挙げられ得る。重質ポリアミンは、TEPAおよびPEHAなどの少量のポリアミンオリゴマーを有するが、主に1分子当たり7個以上の窒素原子、2個以上の第1級アミンを有するオリゴマーを有し、かつ従来のポリアミン混合物よりも広範囲の分岐を有するポリアルキレンポリアミンの混合物を含み得る。一般的に、これらの重いポリアミンは、1分子あたり平均6.5個の窒素原子を持っている。ヒドロカルビル置換スクシンイミド分散剤を調製するために使用されてもよい追加の非限定的ポリアミンは、米国特許第6,548,458号に開示され、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物とポリアルキレンポリアミンとのモル比は、約1:1~約3:1でもよい。
【0046】
本明細書に記載の分散剤はリン酸化されている。これらの分散剤は、一般に、上記のように、少なくとも1つのリン化合物と少なくとも1つの無灰スクシンイミド分散剤との反応生成物である。
【0047】
本明細書における分散剤を形成するための適切なリン化合物としては、リン含有種を無灰分散剤に導入することができるリン化合物またはリン化合物の混合物が挙げられる。よって、そのような反応を行うことができる有機または無機のいずれかのリン化合物を使用することができる。したがって、そのような無機リン化合物を、無機リン酸、およびその水和物を含む無機酸化リンとして使用することができる。典型的な有機リン化合物としては、リン酸の完全および部分エステル、例えば、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、テトラチオリン酸のモノ、ジ、トリエステル、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸のモノ、ジ、トリエステル、トリヒドロカルビルホスフィンオキシド、トリヒドロカルビルホスフィンサルファイド、モノおよびジヒドロカルビルホスホネート、(RPO(OR′)(OR″)、ここでRおよびR′はヒドロカルビルであり、R″は水素原子またはヒドロカルビル基である)、ならびにそれらのモノ、ジおよびトリチオ類似体、モノおよびジヒドロカルビルホスホナイト、(RP(OR′)(OR″)、ここで、RおよびR′はヒドロカルビルであり、R″は水素原子またはヒドロカルビル基である)ならびにそれらのモノおよびジチオ類似体などを含む。よって、そのような化合物を、例えば、亜リン酸(H3PO3、H2(HPO3)と表されることもあり、オルト-亜リン酸またはホスホン酸と呼ばれることもある)、リン酸(H3PO4、オルトリン酸と呼ばれることもある)、次リン酸(H4P2O6)、メタリン酸(HPO3)、ピロリン酸(H4P2O7)、次亜リン酸(H3PO2、ホスフィン酸と呼ばれることもある)、ピロ亜リン酸(H4P2O5、ピロホスホン酸と呼ばれることもある)、亜ホスフィン酸(H3PO)、トリポリリン酸(H5P3O10)、テトラポリリン酸(H5P4O13)、トリメタリン酸(H3P3O9)、三酸化リン、四酸化リン、五酸化リンなどとして使用することができる。ホスホロテトラチオ(H3PS4)酸、ホスホロモノチオ酸(H3PO3S)、ホスホロジチオ酸(H3PO2S2)、ホスホロトリチオ酸(H3POS3)、三硫化四リン、七硫化リン、および五硫化リン(P2S5、P4S10と称されることもある)のような部分または全硫黄類似体も、本開示のための分散剤の形成に使用することができる。PCl3、PBr3、POCl3、PSCl3などのような無機ハロゲン化リン化合物も使用可能である。
【0048】
同様に、リン酸のモノ、ジ、およびトリエステル(例えば、トリヒドロカルビルホスフェート、ジヒドロカルビルモノアシッドホスフェート、モノヒドロカルビルジアシッドホスフェート、およびそれらの混合物)、モノ、ジ、およびトリエステルなどの有機リン化合物を使用することができる。亜リン酸(例えば、トリヒドロカルビルホスファイト、ジヒドロカルビル水素ホスファイト、ヒドロカルビル二酸ホスファイト、およびそれらの混合物)、ホスホン酸のエステル(「一次」、RP(O)(OR)2、および「二次」の両方)。R2P(O)(OR))、ホスフィン酸のエステル、ホスホニルハロゲン化物(例えば、RP(O)Cl2およびR2P(O)Cl)、ハロリン酸塩(例えば、(RO)のPCl2および(RO)2PCl)、ハロホスフェート(例えば、ROP(O)Cl2および(RO)2P(O)Cl)、第三級ピロホスフェートエステル(例えば、(RO)2P(O)-O-P(O)(OR)2)、および前述の有機リン化合物のいずれかの全硫黄または部分硫黄の類似体などであって、各ヒドロカルビル基が最大約100個の炭素原子、好ましくは最大約50個の炭素原子、より好ましくは最大約24個の炭素原子を含む、前述の有機リン化合物のいずれかの全または部分硫黄類似体、および最も好ましくは最大約12個の炭素原子を含む。ハロゲン化ハロホスフィン(例えば、四ハロゲン化ヒドロカルビルリン、三ハロゲン化ジヒドロカルビルリン、および二ハロゲン化トリヒドロカルビルリン)、およびハロホスフィン(モノハロホスフィンおよびジハロホスフィン)も使用可能である。
【0049】
実施形態では、リン酸化分散剤は、スクシンイミド分子とリン源との反応生成物である。一例では、ポリイソブチルスクシンイミド(PIBSI)または他の好適なスクシンイミドを約100℃に加熱する。次に、亜リン酸または他のリン源をわずかな真空(700mm Hg)で加え、30分から1時間保持する(水分を除去するため)。次に、ゆっくりと約160℃まで温度を上げ、約2時間保持する。最後に、溶液を真空下に置き、さらに約1~2時間保持して、リン酸化スクシンイミド分散剤を形成する。
【0050】
いくつかの実施形態において、スクシンイミド分散剤はまた、場合により、ホウ素源でさらに後処理され得る。本明細書における分散剤を形成するのに有用な適切なホウ素化合物は、ホウ素含有種を無灰分散剤に導入することができるいずれかのホウ素化合物またはホウ素化合物の混合物を含む。そのような反応を受けることができる有機または無機の任意のホウ素化合物を使用することができる。したがって、酸化ホウ素、酸化ホウ素水和物、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、HBF4ホウ素酸、例えば、ボロン酸(例えば、アルキル-B(OH)2、またはアリール-B(OH)2)、ホウ酸(すなわち、H3BO3)、四ホウ酸(すなわち、H2B5O7)、メタホウ酸(すなわち、HBO2)、そのようなホウ素酸のアンモニウム塩、およびそのようなホウ素酸のエステルを使用することができる。三ハロゲン化ホウ素とエーテル、有機酸、無機酸、または炭化水素との錯体の使用は、ホウ素反応物質を反応混合物に導入する便利な手段である。このような錯体は知られており、そして三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素-フェノール、三フッ化ホウ素-リン酸、三塩化ホウ素-クロロ酢酸、三臭化ホウ素-ジオキサンおよび三フッ化ホウ素-メチルエチルエーテルにより例示される。
【0051】
いくつかのアプローチにおいて、本開示で使用される分散剤は、約800~2500、または900~1200、または975~1175の範囲の数平均分子量を有するポリイソブテニル部分を含み、50ppmを超える窒素、100ppmを超える窒素、250ppmを超える窒素、50~300ppmの窒素、50~120ppmの窒素、または120~300ppmの窒素を供給するのに十分な量だけ潤滑流体中に存在する。
【0052】
本発明で使用される分散剤は、100ppmを超えるリン、または200ppmを超えるリン、または550ppmを超えるリン、または100~700ppmのリン、または100~300ppmのリン、または300~700ppmのリンを送達するのに十分な量だけ潤滑流体中に存在する。
【0053】
一実施形態では、本明細書に記載の本発明の分散剤は、975~1175のMn、1700~2100のMw、およびいくつかのアプローチでは1.8以下のPDIを有するHR-PIBから得てもよい。さらに、分散剤は、(A)ポリイソブテニル置換無水コハク酸の(B)ポリアミンに対するモル比が4:3から5:2の範囲であり、リン含有量が2.5重量%~3.25重量%の間であり得る。
【0054】
本明細書の実施例に示されるように、2.0重量%~3.5重量%(他の実施形態では、2.5から3.2重量%、2.8から3.2重量%、または約3重量%)のリンを有するスクシンイミド分散剤が100~650ppmのリン(または本明細書に開示される他の範囲)を送達する量で潤滑流体中に存在する場合、得られる組成物は、エージング後であっても、電気抵抗率が増加し、好適な摩耗保護および銅の適合性を有する。
【0055】
他の添加剤:本明細書に記載の潤滑流体はまた、酸化防止剤、摩擦調整剤、洗浄剤、腐食防止剤、銅の腐食防止剤、消泡剤、シール膨潤剤、極圧剤、耐摩耗剤、粘度調整剤、追加の分散剤、およびそれらの組み合わせを含むグループから選択された少なくとも1つの構成要素の1つ以上を含んでいてもよい。他の性能添加剤は、上記で特定されたものに加えて、金属不活性化剤、解乳化剤、流動点降下剤、およびそれらの混合物のうちの1つ以上も含んでいてもよい。
【0056】
酸化防止剤:いくつかの実施形態では、潤滑流体はもう1つの酸化防止剤を含む。好適な酸化防止剤としては、とりわけ、フェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、硫化フェノール系酸化防止剤、および有機亜リン酸エステルが挙げられる。
【0057】
フェノール系酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、第三ブチル化フェノールの液体混合物、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ter-t-ブチルフェノール)、および混合メチレン架橋ポリアルキルフェノール、および4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)が挙げられる。N、N’-ジ-sec-ブチル-フェニレンジアミン、4-イソプロピルアミノジフェニルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、および環アルキル化ジフェニルアミン。例としては、立体障害性第三ブチル化フェノール、ビスフェノール、およびケイ皮酸誘導体、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0058】
芳香族アミン系酸化防止剤には、次式を有するジアリールアミンが含まれるが、これらに限定されず、
【化1】
式中、R’およびR’’は、それぞれ独立して、6~30個の炭素原子を有する置換または非置換のアリール基を表す。アリール基の置換基の例には、1~30個の炭素原子を有するアルキル、ヒドロキシ基、ハロゲン基、カルボン酸もしくはエステル基、またはニトロ基のような脂肪族炭化水素基が含まれる。
【0059】
アリール基は、好ましくは置換または非置換のフェニルまたはナフチル、特に一方または両方のアリール基が4~30個、好ましくは4~18個の炭素原子、最も好ましくは4~9個の炭素原子を有する少なくとも1つのアルキルで置換されているものである。一方または両方のアリール基、例えばモノ-アルキル化ジフェニルアミン、ジ-アルキル化ジフェニルアミン、またはモノ-およびジ-アルキル化ジフェニルアミンの混合物が置換されていることが好ましい。
【0060】
使用され得るジアリールアミンの例としては、限定されないが、ジフェニルアミン、各種アルキル化ジフェニルアミン、3-ヒドロキシジフェニルアミン、N-フェニル-1,2-フェニレンジアミン、N-フェニル-1,4-フェニレンジアミン、モノブチルジフェニルアミン、ジブチルジフェニルアミン、モノオクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、モノテトラデシルジフェニルアミン、ジテトラデシルジフェニルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、モノオクチルフェニル-アルファナフチルアミン、フェニル-ベータ-ナフチルアミン、モノヘプチルジフェニルアミン、ジヘプチルジフェニルアミン、p-配向スチレン化ジフェニルアミン、混合ブチルオクチルジフェニルアミン、および混合オクチルスチリルジフェニルアミン、が挙げられる。
【0061】
硫黄含有酸化防止剤としては、それらの生産に使用されるオレフィンの種類および酸化防止剤の最終硫黄含有量によって特徴付けられる硫化オレフィン類が挙げられるが、これらに限定されない。高分子量オレフィン、すなわち168~351g/モルの平均分子量を有するオレフィンが好ましい。使用可能なオレフィンの例には、アルファ-オレフィン、異性化アルファ-オレフィン、分岐オレフィン、環状オレフィン、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0062】
アルファオレフィンとしては、任意のC4~C25アルファオレフィンが挙げられるが、これらに限定されない。アルファオレ-フィン類は、硫化反応の前または硫化反応の間に異性化され得る。内部二重結合および/または分岐を含有するアルファオレフィンの構造異性体および/または配座異性体もまた使用され得る。例えば、イソブチレンは、アルファ-オレフィン1-ブテンの分岐オレフィン対応物である。
【0063】
オレフィン類の硫化反応に使用することができる硫黄源には、元素状硫黄、一塩化硫黄、二塩化硫黄、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム、および硫化プロセスの異なる段階で一緒に添加されるこれらの混合物が含まれる。
【0064】
不飽和油は、それらの不飽和のために、硫化されそして酸化防止剤として使用されてもよい。使用できる油脂の例には、コーン油、キャノーラ油、綿実油、グレープシード油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ココナッツ油、菜種油、ベニバナ種子油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ種子油、獣脂、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0065】
本明細書に記載の潤滑流体中の酸化防止剤の総量は、最大200ppmの窒素、または最大100ppmの窒素、または最大150ppmの窒素、または100~150ppmの窒素を送達する量で存在し得る。
【0066】
摩擦調整剤-好適な追加の摩擦調整剤は、金属含有および金属を含まない摩擦調整剤を含み、イミダゾリン、脂肪族脂肪酸アミド、脂肪族アミン、スクシンイミド、アルコキシル化脂肪族アミン、エーテルアミン、アルコキシル化エーテルアミン、アミンオキシド、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、第4級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアニジン、アルカノールアミド、ホスホン酸塩、金属含有化合物、グリセリンエステル、硫化脂肪化合物およびオレフィン、ひまわり油などの天然由来の動植物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールと1種以上の脂肪族または芳香族カルボン酸とのエステルまたは部分エステルなどを含んでいてもよい。
【0067】
好適な摩擦調整剤は、直鎖、分枝鎖、または芳香族のヒドロカルビル基から選択されるヒドロカルビル基、またはこれらの混合物を含有し得、このようなヒドロカルビル基は、飽和または不飽和であり得る。ヒドロカルビル基は、炭素および水素または硫黄もしくは酸素のようなヘテロ原子で構成されてもよい。ヒドロカルビル基は、12~25個の炭素原子の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、摩擦調整剤は長鎖脂肪酸エステルであってもよい。他の実施形態では、長鎖脂肪酸エステルはモノエステル、またはジエステル、または(トリ)グリセリドであってもよい。摩擦調整剤は、長鎖脂肪アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであってもよい。
【0068】
他の好適な摩擦調整剤は、有機、無灰(金属不含)、窒素非含有有機摩擦調整剤を含んでもよい。かかる摩擦調整剤は、カルボン酸および無水物をアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含み得、一般に、親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えば、カルボキシルまたはヒドロキシル)を含む。有機無灰窒素非含有摩擦調整剤の例は、一般に、オレイン酸のモノ-、ジ-およびトリ-エステルを含み得るモノオレイン酸グリセロール(GMO)として知られている。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0069】
アミン系摩擦調整剤はアミンまたはポリアミンを含んでもよい。そのような化合物は、飽和または不飽和のいずれかの直鎖、またはそれらの混合物であるヒドロカルビル基を有することができ、12~25個の炭素原子を含有することができる。好適な摩擦調整剤のさらなる例には、アルコキシル化アミンおよびアルコキシル化エーテルアミンが含まれる。そのような化合物は、飽和、不飽和、またはこれらの混合物のいずれかの直鎖であるヒドロカルビル基を有することができる。これらは、約12~約25個の炭素原子を含有してもよい。例としては、エトキシル化アミンおよびエトキシル化エーテルアミンが挙げられる。
【0070】
アミンおよびアミドは、それ自体として、または酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸またはホウ酸モノ-、ジ-またはトリ-アルキルなどのホウ素化合物との付加物もしくは反応生成物の形態で使用することができる。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,300,291号に記載されている。
【0071】
追加の摩擦調整剤が窒素を含む場合、そのような追加の摩擦調整剤は、最大200ppmの窒素、または最大150ppmの窒素、または100~150ppmの窒素を送達する量で潤滑流体中に存在し得る。
【0072】
洗浄剤-本明細書に記載されている潤滑流体に含まれる金属洗浄剤は、一般に、極性頭部と長い疎水性尾部を含み、極性頭部は酸性有機化合物の金属塩からなる。塩は、実質的に化学量論量の金属を含有していてもよく、その場合それらは通常は通常のまたは中性の塩として記載され、典型的には約0~約150未満の全塩基価またはTBN(ASTM D2896により測定)を有する。酸化物または水酸化物のような過剰の金属化合物を、二酸化炭素のような酸性ガスと反応させることによって大量の金属塩基を含ませることができる。得られる過塩基性洗浄剤は、無機金属塩基(例えば、水和炭酸塩)のコアを取り囲む中和された洗浄剤のミセルを含む。そのような過塩基性洗浄剤は、約150以上、例えば約150~約450以上のTBNを有していてもよい。
【0073】
本実施形態での使用に好適であり得る洗浄剤には、油溶性過塩基性、低塩基性および中性のスルホネート類、フェネート類、硫化フェネート類、および特にアルカリまたはアルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、およびマグネシウムのサリチレート類が含まれる。1つより多い金属、例えばカルシウムとマグネシウムの両方が存在してもよい。カルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムとの混合物もまた好適であり得る。好適な金属洗浄剤は、150~450TBNのTBNを有する過塩基性カルシウムまたはマグネシウムスルホネート、150~300TBNのTBNを有する過塩基性カルシウムまたはマグネシウムフェネートまたは硫化フェネート、および130~350のTBNを有する過塩基性カルシウムまたはマグネシウムサリチレートであり得る。そのような塩の混合物も使用することができる。
【0074】
金属含有洗浄剤は、流体の防錆性能を改善するのに十分な量で潤滑流体中に存在し得る。金属含有洗浄剤は、潤滑流体の総重量に基づいて、最大300ppmのアルカリおよび/またはアルカリ土類金属を提供するのに十分な量で流体中に存在し得る。一例では、金属含有洗浄剤は、100~300ppmのアルカリおよび/またはアルカリ土類金属を提供するのに十分な量で存在し得る。別の実施形態では、金属含有洗浄剤は、220~250ppmのアルカリおよび/またはアルカリ土類金属を提供するのに十分な量で存在し得る。
【0075】
腐食抑制剤-防錆剤または腐食抑制剤もまた、本明細書に記載された潤滑組成物に含まれ得る。好適な銅の腐食抑制剤としては、エーテルアミン、ポリエトキシル化化合物、例えば、エトキシル化アミンおよびエトキシル化アルコール、イミダゾリン、モノアルキル、およびジアルキルチアジアゾールなどが挙げられる。追加の化合物は、モノカルボン酸およびポリカルボン酸を含む。適切なモノカルボン酸の例は、オクタン酸、デカン酸およびドデカン酸である。適切なポリカルボン酸は、トール油脂肪酸、オレイン酸、リノール酸のような酸から製造される二量体および三量体酸を含む。
【0076】
チアゾール、トリアゾール、およびチアジアゾールも、潤滑剤に使用され得る。例としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、オクチルトリアゾール、デシルトリアゾール、ドデシルトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルチオ-1,3,4-チアジアゾール、および2-メルカプト-5-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールが挙げられる。好ましい化合物は、1,3,4-チアジアゾール、特に2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-ジチアジアゾールであり、その多くは商品として入手可能である。
【0077】
別の有用な種類の防錆剤は、例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸無水物、テトラデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸無水物、ヘキサデセニルコハク酸、ヘキサデセニルコハク酸無水物などの、アルケニルコハク酸およびアルケニルコハク酸無水物腐食防止剤であり得る。アルケニル基中に8~24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸とポリグリコールのようなアルコールとの半エステルも有用である。
【0078】
このような防錆剤または腐食抑制因子の混合物が使用され得る。本明細書に記載された潤滑組成物中に存在する場合の腐食防止剤の総量は、潤滑組成物の総重量に基づいて、最大2.0重量%、または0.01~1.0重量%の範囲であり得る。
【0079】
極圧剤:本明細書に記載の潤滑流体は、任意で、1種以上の極圧(EP)剤を含んでいてもよい。油に可溶性である(EP)剤は、硫黄およびクロロ硫黄含有EP剤、塩素化炭化水素EP剤、ならびにリンEP剤を含む。そのようなEP剤の例としては、塩素化ワックス;ジベンジルジスルフィド、二硫化ビス(クロロベンジル)、三硫化ジブチル、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、および硫化ディールス-アルダー付加物のような有機硫化物および多硫化物;硫化リンとテルペンチンまたはオレイン酸メチルとの反応生成物のようなリン硫化炭化水素;亜リン酸ジヒドロカルビルおよびトリヒドロカルビル、例えば、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジヘプチル、亜リン酸ジシクロヘキシル、亜リン酸ペンチルフェニルのようなリンエステル;亜リン酸ジペンチルフェニル、亜リン酸トリデシル、亜リン酸ジステアリル、およびポリプロピレン置換亜リン酸フェニル;ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛およびバリウムヘプチルフェノール二酸のような金属チオカルバミン酸塩;例えば、ジアルキルジチオリン酸と酸化プロピレンとの反応生成物のアミン塩を含む、アルキルおよびジアルキルリン酸のアミン塩;ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0080】
耐摩耗剤:本明細書における潤滑油組成物は、任意に1つ以上の耐摩耗剤も含有し得る。適切な耐摩耗剤の例としては、金属チオリン酸塩、金属ジアルキルジチオリン酸塩、リン酸エステルまたはその塩、リン酸エステル、亜リン酸塩、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、またはアミド、硫化オレフィン、チオカルバミン酸エステル、アルキレン結合チオカルバメート、および二硫化ビス(S-アルキルジチオカルバミル)を含む、チオカルバメート含有化合物、ならびにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。適切な耐摩耗剤は、ジチオカルバミン酸モリブデンであり得る。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第612839号により詳細に記載されている。ジアルキルジチオホスフェート塩中の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であり得る。
【0081】
好適な耐摩耗剤のさらなる例としては、チタン化合物、酒石酸塩、タルトリミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、亜リン酸塩(例えば、亜リン酸ジブチル)、ホスホン酸塩、チオカルバメート含有化合物、例えば、チオカルバミン酸エステル、チオカルバミン酸アミド、チオカルバミン酸エーテル、アルキレン結合チオカルバメート、および二硫化ビス(S-アルキルジチオカルバミル)が挙げられる。酒石酸塩またはタルトリミドは、アルキル-エステル基を含有することができ、アルキル基上の炭素原子の合計は、少なくとも8であり得る。耐摩耗剤は、一実施形態では、クエン酸塩を含んでもよい。
【0082】
耐摩耗剤は、約0重量%~約15重量%、他のアプローチでは、約0.01重量%~約10重量%、さらに他のアプローチでは約0.05重量%~約5重量%、または、さらなるアプローチでは、潤滑油組成物の約0.1重量%~約3重量%を含む範囲内に存在し得る。
【0083】
粘度調整剤-潤滑流体は、任意で1種以上の粘度調整剤を含んでいてもよい。好適な粘度指数改善剤としては、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役コポリマー、またはこれらの混合物を含んでいてもよい。粘度指数改善剤は星型ポリマーを含んでいてもよく、好適な例は、米国公開第2012/0101017(A1)号に記載されている。
【0084】
本明細書に記載の潤滑流体はまた、任意で、粘度調整剤に加えて、または粘度調整剤の代わりに、1種以上の分散剤粘度調整剤を含んでいてもよい。好適な分散剤粘度調整剤としては、官能化ポリオレフィン、例えばアシル化剤(例えば無水マレイン酸)とアミンとの反応生成物で官能化されたエチレン-プロピレンコポリマー、アミンで官能化されたポリメタクリレート、またはアミンと反応したエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーを含んでいてもよい。
【0085】
粘度調整剤および/または分散剤粘度調整剤の総量は、存在する場合、潤滑流体の総重量に基づいて、最大1.0重量%、または最大0.5重量%、または最大0.3重量%でよい。
【0086】
追加の分散剤:潤滑流体は、上記のリン酸化スクシンイミド分散剤よりも1つ多くの追加の分散剤を含んでいてもよい。追加の分散剤は、比較的高い分子量の炭化水素鎖に極性基が結合した無灰分散剤である。そのような分散剤の例は、N置換長鎖アルケニルスクシンイミド、コハク酸エステル分散剤、コハク酸エステル-アミド分散剤、マンニッヒ塩基分散剤、高分子ポリアミン分散剤、それらのリン酸化形態、およびそれらのホウ素化形態である。分散剤は、二級アミノ基と反応することができる酸性分子でキャップすることができる。
【0087】
N置換長鎖アルケニルスクシンイミドは、上記のGPC法によって決定されるように、ポリイソブチレン置換基の数平均分子量が約500~5000の範囲であるポリイソブチレン(PIB)置換基を含んでいてもよい。分散剤に使用されるPIB置換基はまた、ASTM D445を用いて決定される約2100~約2700cStの100℃での粘度を有する。
【0088】
分散剤中のポリイソブチレン部分は、好ましくは、重量平均分子量(Mw)の、数平均分子量(Mn)に対する比によって判定されるように、多分散度とも呼ばれる狭い分子量分布(MWD)を有する。2.2未満、好ましくは2.0未満のMw/Mnを有するポリマーが最も望ましい。好適なポリイソブチレン置換基は、約1.5から2.1、または約1.6から約1.8の多分散度を有する。
【0089】
ジカルボン酸または無水物は、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、イタコン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸、シトラコン酸無水物、メサコン酸、エチルマレイン酸、無水物、ジメチルマレイン酸無水物、エチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、ヘキシルマレイン酸など、対応する酸ハライドやC1-C4脂肪族エステルを含むカルボン酸系反応物から選択することができる。ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物を製造するために使用される反応混合物におけるジカルボン酸または無水物とヒドロカルビル部分のモル比は、大きく変化してもよい。したがって、モル比は、5:1~1:5、例えば3:1~1:3に変化し得る。酸または無水物とヒドロカルビル部分のモル比は、1:1から1.6:1未満が特に好適である。ジカルボン酸または無水物とヒドロカルビル部分との別の有用なモル比は、1.3:1~1.7:1、または1.3:1~1.6:1、または1.3:1~1.5:1である。
【0090】
多数のポリアルキレンポリアミンのいずれかを、分散剤添加剤の調製に使用することができる。非限定的な例示的ポリアミンとしては、アミノグアニジンビカーボネート(AGBC)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)および重質ポリアミン類が挙げられ得る。重質ポリアミンは、TEPAおよびPEHAなどの少量のポリアミンオリゴマーを有するが、主に1分子当たり7個以上の窒素原子、2個以上の第1級アミンを有するオリゴマーを有し、かつ従来のポリアミン混合物よりも広範囲の分岐を有するポリアルキレンポリアミンの混合物を含み得る。一般的に、これらの重いポリアミンは、1分子あたり平均6.5個の窒素原子を持っている。ヒドロカルビル置換スクシンイミド分散剤を調製するために使用されてもよい追加の非限定的ポリアミンは、米国特許第6,548,458号に開示され、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物とポリアルキレンポリアミンとのモル比は、約1:1~約3.0:1でもよい。
【0091】
マンニッヒ塩基分散剤は、典型的には環上に長鎖アルキル置換基を有するアルキルフェノールと、約1~約7個の炭素原子を含む1種以上の脂肪族アルデヒド(特にホルムアルデヒドおよびその誘導体)との反応生成物、およびポリアミン(特にポリアルキレンポリアミン)でもよい。例えば、マンニッヒ塩基無灰分散剤は、約1モルの割合の長鎖炭化水素置換フェノールを、約1~約2.5モルのホルムアルデヒドおよび約0.5~約2モルのポリアルキレンポリアミンと縮合させることによって形成することができる。
【0092】
本明細書に記載の追加の分散剤は、ホウ酸塩化および/またはリン酸化されてもよい。これらの分散剤は、一般に、i)少なくとも1つのリン化合物および/またはホウ素化合物、および、ii)少なくとも1つの無灰分散剤との反応生成物である。
【0093】
本明細書における分散剤を形成するのに有用な適切なホウ素化合物は、ホウ素含有種を無灰分散剤に導入することができるいずれかのホウ素化合物またはホウ素化合物の混合物を含む。そのような反応を受けることができる有機または無機の任意のホウ素化合物を使用することができる。したがって、酸化ホウ素、酸化ホウ素水和物、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、ボロン酸などのHBF4ホウ素酸(例えば、アルキル-B(OH)2、またはアリール-B(OH)2)、ホウ酸(すなわち、H3BO3)、四ホウ酸(すなわち、H2B5O7)、メタホウ酸(すなわち、HBO2)、そのようなホウ素酸のアンモニウム塩、およびそのようなホウ素酸のエステルを使用することができる。三ハロゲン化ホウ素とエーテル、有機酸、無機酸、または炭化水素との錯体の使用は、ホウ素反応物質を反応混合物に導入する便利な手段である。このような錯体は知られており、そして三フッ化ホウ素-ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素-フェノール、三フッ化ホウ素-リン酸、三塩化ホウ素-クロロ酢酸、三臭化ホウ素-ジオキサンおよび三フッ化ホウ素-メチルエチルエーテルにより例示される。
【0094】
本明細書における分散剤を形成するための適切なリン化合物としては、リン含有種を無灰分散剤に導入することができるリン化合物またはリン化合物の混合物が挙げられる。よって、そのような反応を行うことができる有機または無機のいずれかのリン化合物を使用することができる。したがって、そのような無機リン化合物を、無機リン酸、およびその水和物を含む無機酸化リンとして使用することができる。典型的な有機リン化合物としては、リン酸の完全および部分エステル、例えば、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、テトラチオリン酸のモノ、ジ、トリエステル、リン酸、チオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸のモノ、ジ、トリエステル、トリヒドロカルビルホスフィンオキシド、トリヒドロカルビルホスフィンサルファイド、モノおよびジヒドロカルビルホスホネート、(RPO(OR′)(OR″)、ここでRおよびR′はヒドロカルビルであり、R″は水素原子またはヒドロカルビル基である)、ならびにそれらのモノ、ジおよびトリチオ類似体、モノおよびジヒドロカルビルホスホナイト、(RP(OR′)(OR″)、ここで、RおよびR′はヒドロカルビルであり、R″は水素原子またはヒドロカルビル基である)ならびにそれらのモノおよびジチオ類似体などを含む。よって、そのような化合物を、例えば、亜リン酸(H3PO3、H2(HPO3)と表されることもあり、オルト-亜リン酸またはホスホン酸と呼ばれることもある)、リン酸(H3PO4、オルトリン酸と呼ばれることもある)、次リン酸(H4P2O6)、メタリン酸(HPO3)、ピロリン酸(H4P2O7)、次亜リン酸(H3PO2、ホスフィン酸と呼ばれることもある)、ピロ亜リン酸(H4P2O5、ピロホスホン酸と呼ばれることもある)、亜ホスフィン酸(H3PO)、トリポリリン酸(H5P3O10)、テトラポリリン酸(H5P4O13)、トリメタリン酸(H3P3O9)、三酸化リン、四酸化リン、五酸化リンなどとして使用することができる。ホスホロテトラチオ酸(H3PS4)、ホスホロモノチオ酸(H3PO3S)、ホスホロジチオ酸(H3PO2S2)、ホスホロトリチオ酸(H3POS3)、セスキ硫化リン、七硫化リン、および五硫化リン(P2S5、P4S10と称されることもある)のような部分または全硫黄類似体も、本開示のための分散剤の形成に使用することができる。PCl3、PBr3、POCl3、PSCl3などのような無機ハロゲン化リン化合物も使用可能である。
【0095】
同様に、リン酸のモノ、ジ、およびトリエステル(例えば、トリヒドロカルビルホスフェート、ジヒドロカルビルモノアシッドホスフェート、モノヒドロカルビルジアシッドホスフェート、およびそれらの混合物)、モノ、ジ、およびトリエステルなどの有機リン化合物を使用することができる。亜リン酸(例えば、トリヒドロカルビルホスファイト、ジヒドロカルビル水素ホスファイト、ヒドロカルビル二酸ホスファイト、およびそれらの混合物)、ホスホン酸のエステル(「一次」、RP(O)(OR)2、および「二次」の両方)。R2P(O)(OR))、ホスフィン酸のエステル、ホスホニルハロゲン化物(例えば、RP(O)Cl2およびR2P(O)Cl)、ハロリン酸塩(例えば、(RO)のPCl2および(RO)2PCl)、ハロホスフェート(例えば、ROP(O)Cl2および(RO)2P(O)Cl)、第三級ピロホスフェートエステル(例えば、(RO)2P(O)-O-P(O)(OR)2)、および前述の有機リン化合物のいずれかの全硫黄または部分硫黄の類似体などであって、各ヒドロカルビル基が最大約100個の炭素原子、好ましくは最大約50個の炭素原子、より好ましくは最大約24個の炭素原子を含む、前述の有機リン化合物のいずれかの全または部分硫黄類似体、および最も好ましくは最大約12個の炭素原子を含む。ハロゲン化ハロホスフィン(例えば、四ハロゲン化ヒドロカルビルリン、三ハロゲン化ジヒドロカルビルリン、および二ハロゲン化トリヒドロカルビルリン)、およびハロホスフィン(モノハロホスフィンおよびジハロホスフィン)も使用可能である。
【0096】
本明細書の潤滑剤は、非ホウ素化および非リン酸化分散剤と組み合わせた上記の1種以上のホウ素化およびリン酸化分散剤の混合物を含んでいてもよい。
【0097】
使用される場合、上述の分散剤の処理率は、潤滑剤中、約1~約15重量パーセント、他のアプローチでは、約2~約13重量パーセント、また他のアプローチでは、約4~約10重量パーセントで提供される。
【0098】
消泡剤:安定した泡の形成を低減または防止するために使用される消泡剤には、シリコーン、ポリアクリレート、または有機ポリマーが含まれる。本発明の組成物において有用であり得る発泡抑制剤には、ポリシロキサン、アクリル酸エチルとアクリル酸2-エチルヘキシルのコポリマー、および場合により酢酸ビニルが含まれる。存在する場合、潤滑流体中の消泡剤の量は、潤滑流体の総重量に基づいて、最大0.1重量、最大0.08重量%、または.07重量%未満であり得る。
【0099】
シール膨潤剤:本開示の流体は、シール膨潤剤をさらに含んでいてもよい。エステル、アジペート、セバケート、アゼレート、フタレート、スルホン、アルコール、アルキルベンゼン、置換スルホラン、芳香族、または鉱物油のようなシール膨潤剤は、エンジンおよびオートマチックトランスミッションにおいてシールとして使用されるエラストマー材料の膨張を引き起こす。
【0100】
アルコール系シール膨潤剤は、一般に、デシルアルコール、トリデシルアルコール、およびテトラデシルアルコールのような低揮発性直鎖アルキルアルコールである。シール膨潤剤として有用なアルキルベンゼンとしては、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニル-ベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼンなどが挙げられる。置換スルホラン(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,029,588号に記載されるもの)も同様に、本発明による組成物におけるシール膨潤剤として有用である。本開示においてシール膨潤剤として有用な鉱物油は、高いナフテンまたは芳香族含有量を有する低粘度鉱物油を含む。
【0101】
一般論として、本明細書に記載の潤滑流体は、表2に列挙される範囲内の添加剤構成成分を含んでいてもよい。
【0102】
【0103】
上記の各成分の割合は、記載された成分を含む潤滑流体の総重量を基準とした、各成分の重量パーセントを表す。本明細書に記載の組成物の配合に使用される添加剤は、基油に個々にまたは様々なサブコンビネーションで混合され得る。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒のような希釈剤)を使用して、成分の全てを同時に混合することが好適であり得る。添加剤濃縮物の使用は、添加剤濃縮物の形態である場合には成分の組み合わせによってもたらされる相互相溶性を利用する。また、濃縮物の使用は、混合時間を短縮し、混合エラーの可能性を低減する。
【実施例0104】
以下の非限定的な実施例は、本開示の1つ以上の実施形態の特徴および利点をさらに例示すために提供される。特記されないかまたは考察の文脈から明らかでない限り、本開示の実施例および他の場所に記載されるすべてのパーセンテージ、比率および部は重量によるものである。
【0105】
電気モータのトランスミッション液が高い体積抵抗率を示し、したがってある程度絶縁体として機能することは有益である。より高い抵抗率スコアは、絶縁体として機能する流体の能力を示す。2.0重量%~3.5重量%のリンを含むリン酸化スクシンイミド分散剤が流体の抵抗率をどのように増加させるかを実証するために、例示的な完成した流体を配合し、熟成させ、評価した。
【0106】
流体をエージングするために、150℃でのインディアナ攪拌酸化試験(JIS K2514-1の修正版)を使用して、流体を加速酸化させた。酸化流体の抵抗率を、流体を30℃に冷却した後に測定した。流体の抵抗率は、ASTM D2624-15の修正バージョン(燃料ではなく潤滑剤のテスト)に従って、30℃でEpsilon+電気伝導率計(Flucon Fluid Control GmbH)または1.5ボルトの同等のメーターを使用して測定し、評価される各流体について少なくとも1つの読み取り値を取得した。
【0107】
流体は、摩耗性能と銅の腐食適合性についても評価された。流体の摩耗性能は、ASTM D4172に従って測定された。銅の腐食適合性を、銅ストリップを設定した時間と所定の温度で潤滑剤に浸漬させる拡張銅腐食試験(ASTM D130-18の修正版)を使用して測定した。油は銅のレベルについて評価される。油中の銅のレベルが高いことは、銅に対する潤滑剤の腐食性を示している。以下の例では、温度を150℃で120時間保持した。
【0108】
以下の表3でテストされた配合物はすべて、摩擦調整剤、腐食防止剤、洗浄剤、酸化防止剤、ホウ酸化およびリン酸化分散剤、および銅の腐食防止剤を含む同じ基本添加剤パッケージを含んでいた。配合物はまた、リン源を含んでいた。本発明の配合物は、本明細書に記載のリン酸化スクシンイミド分散剤を含み、一方、比較配合物は、他のタイプのリン含有化合物を含んでいた。これらの構成要素の詳細を以下に説明する。配合物は、4.10~4.33cStの100℃での動粘度で広範囲の基油でテストされた。
【0109】
リン源A:Mnが975~1175のHR-ポリイソブチレン、無水マレイン酸、1分子あたり平均6.5個の窒素原子を持つポリアルキレンポリアミンの混合物、およびリン酸から作られたリン酸化スクシンイミド分散剤。分散剤は、スクシンイミドとリンの反応生成物であった。この分散剤は、約3.0重量%のリンと約1.4重量%の窒素を有している。
【0110】
リン源B:Mnが900~980の従来のポリイソブチレン、無水マレイン酸、1分子あたり平均6.5個の窒素原子を持つポリアルキレンポリアミンの混合物、リン酸、ホウ酸から作られたリン酸化およびホウ酸化されたスクシンイミド分散剤。この分散剤は、約0.76重量%のリン、約0.35重量%のホウ素、および約1.75%の窒素を含んでいる。
【0111】
リン源C:硫黄とホスホン酸水素ジブチルの反応生成物をアミンで塩漬けしたもので、このリン源は、約6wt%のリンと、約6.3wt%の硫黄と、約3.1wt%の窒素を有する。
【0112】
リン源D:約9wt%のリンと、約19wt%の硫黄を有するアルキルチオリン酸エステル。
【0113】
高度にリン酸化スクシンイミド分散剤であるリン源Aを含む本発明の製剤は、驚くほど改善された潤滑剤抵抗率を達成した。さらに、リン源Aを含む本発明の製剤はまた、好適な銅の腐食適合性および摩耗性能を達成した。
【0114】
【0115】
表3では、Inv.1、Comp.1、Comp.2、およびComp.3は、ほぼ同じ動粘度を持つように配合されている。各配合物は異なるリン源を含んでいたが、同様のリン処理率を有していた。リン源Aを含むInv.1は、対応するComp.1、2、および3と比較して、エージング後の抵抗率が高かった。また、Inv.1は好適な摩耗性能と銅の腐食適合性を維持した。リン源Bを含むComp.1は、Inv.1よりもわずかに摩耗傷が少なかったが、油中の銅が多いため、銅の腐食を抑制する能力が低く、エージング後の電気抵抗率が低くなった。リン源Dを含むComp.3は、Inv.1よりもわずかに優れた銅の腐食性能を示したが、より大きな摩耗痕とより低い電気抵抗率を有していた。Comp.2はInv.1よりも摩耗、銅の腐食適合性、および電気抵抗率においてパフォーマンスが悪かった。
【0116】
Inv.2とComp.4は、ほぼ同じ動粘度を持つように配合されている。各配合物は異なるリン源を含んでいたが、同様のリン処理率を有している。リン源Aを含むInv.2は、Comp.4と比較して、抵抗率が高く、銅の腐食適合性と摩耗性能が優れていた。
【0117】
Inv.3-Inv.5およびComp.5および6は、以下の表4に示すように、さまざまな動粘度とリン処理速度で配合された本発明の流体および比較流体の追加の例である。比較サンプル5と6はリン源Aを使用しており、摩耗痕と銅の腐食が少なかった可能性があるが、基油の寄与もあり、どちらも抵抗率が低いと考えられている。
【0118】
【0119】
本開示の潤滑組成物は、その詳細な説明および本明細書における要約と共に記載されているが、前述の記載は、添付の特許請求の範囲によって定義される、本開示の範囲を説明することが意図され、これを限定するものではないと理解するべきである。他の態様、利点、および修正は特許請求の範囲内にある。本明細書および実施例は、例示のみとして考えられ、本開示の真の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示されることが意図される。
【0120】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考慮および本明細書に開示される実施形態の実施から当業者に明らかとなるであろう。明細書および特許請求の範囲を通して使用される場合、「a」および/または「an」は、1つまたは1つ以上を指すことができる。他に指示がない限り、本明細書で使用される成分の量、分子量、パーセント、比、反応条件などのような特性を表す全ての数字は、「約」という用語が存在するか否かにかかわらず、全ての場合において「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書に記載される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値である。せめて、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは、少なくとも、報告された有効桁の数字を考慮し、通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。広範囲の開示を記載する数値範囲およびパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる、所定の誤差を本質的に含有する。
【0121】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基、またはパラメータは、単独で、または本明細書に開示されるありとあらゆる他の成分、化合物、置換基、もしくはパラメータのうちの1つ以上との組み合わせでの使用について開示されていると解釈されるべきであることを理解されたい。
【0122】
本明細書に開示される各範囲は、同じ有効数字の数を有する開示範囲内の各特定値の開示として解釈されるべきであることをさらに理解されたい。よって、1~4の範囲は、1、2、3、および4の値の、ならびに1~4、1~3、1~2、2~4、2~3などのような値のいずれかの範囲の明確な開示として解釈されるべきである。
【0123】
本明細書に開示される各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基、またはパラメータについて本明細書に開示される各範囲の各上限および各範囲内の各特定値と組み合わせて開示されると解釈されるべきであることをさらに理解されたい。したがって、本開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限と、または各範囲内の各特定値と組み合わせることによって、または各範囲の各上限を各範囲内の各特定値と組み合わせることによって誘導されるすべての範囲の開示として解釈されるべきである。
【0124】
さらに、説明または実施例において開示される成分、化合物、置換基、またはパラメータの特定量/値は、範囲の下限または上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、よって、本出願の他の個所で開示される同じ成分、化合物、置換基、またはパラメータについての範囲または特定量/値の任意の他の下限または上限と組み合わせて、その成分、化合物、置換基、またはパラメータについての範囲を形成することができる。