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特開2022-31634B型肝炎ウイルス表面抗原のエピトープおよびこれに特異的に結合するB型肝炎ウイルス中和結合分子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031634
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルス表面抗原のエピトープおよびこれに特異的に結合するB型肝炎ウイルス中和結合分子
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20220215BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220215BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220215BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20220215BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220215BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220215BHJP
   C12N 15/36 20060101ALN20220215BHJP
   C07K 14/02 20060101ALN20220215BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220215BHJP
   C07K 16/08 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 S
A61P1/16
A61P31/20
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N15/36 ZNA
C07K14/02
C12N1/21
C07K16/08
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169772
(22)【出願日】2021-10-15
(62)【分割の表示】P 2019133916の分割
【原出願日】2015-11-27
(31)【優先権主張番号】10-2014-0167937
(32)【優先日】2014-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515175682
【氏名又は名称】セルトリオン, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユン, ジュン ソン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ファ ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ, ケ スク
(72)【発明者】
【氏名】キム, チョル ミン
(72)【発明者】
【氏名】イム, ビョン ピル
(72)【発明者】
【氏名】チャン, シン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】ホン, スン ソ
(57)【要約】
【課題】B型肝炎ウイルス表面抗原のエピトープおよびこれに特異的に結合するB型肝炎ウイルス中和結合分子の提供。
【解決手段】本発明は、B型肝炎ウイルス表面抗原の特異的エピトープとこれに結合するB型肝炎ウイルス中和結合分子に関する。本発明が提供するエピトープは、三次元的構造を形成することにより生成され、既存のワクチンまたはHBIgの投与に対する回避突然変異が生成されるa決定基を含まないことから、これに結合する抗体を含む組成物または前記エピトープを含むワクチン組成物は、回避突然変異による効能の低下が生じる可能性が非常に低い。したがって、このような抗体またはワクチン組成物は、HBVの予防および/または治療に非常に有用に使用可能である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルスにより生じる疾病の予防、治療または診断用の結合分子のスクリーニング方法であって、
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置110、118、120、および147を含むエピトープに対する、前記結合分子の結合親和度が1×10-9M未満であるときに、
前記結合分子がB型肝炎ウイルスにより生じる疾病の予防、治療または診断用に有用であると判定する工程を含む、
スクリーニング方法。
【請求項2】
B型肝炎ウイルスにより生じる疾病の予防、治療または診断用の結合分子の製造方法であって、
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置110、118、120、および147を含むエピトープに対する、前記結合分子の結合親和度が1×10-9M未満である、
製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス表面抗原のエピトープおよびこれに特異的に結合するB型肝炎ウイルス中和結合分子に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus、HBV)は、急性および慢性肝炎を誘発するヘパドナウイルス(Hepadnaviridae)科に属するDNAウイルスであって、肝硬変と肝臓癌の主な発病原因である。HBVは、標準血清に対するB型肝炎ウイルス表面抗原(Hepatitis B virus surface antigen、HBsAg)の反応およびHBsAgのアミノ酸配列の差に基づく10種の血清型(serotype)に分類されるか、遺伝子塩基配列の差による8種の遺伝子型(genotype)に分類される。2012年現在、全世界的に2億4千万人程度の慢性HBV感染患者が存在すると把握され、毎年50万人以上の人がB型肝炎に起因する疾病で死亡することが知られている。韓国および中国の成人の慢性HBV感染率は5~8%にのぼる程度と非常に高く、成人慢性肝炎患者の80%、肝硬変症の65%、そして肝細胞癌腫患者の70%がまさにHBV感染に関連している。慢性B型肝炎はワクチンの開発および普及により予防が可能になったにもかかわらず、未だに慢性肝疾患の最も重要な原因であり、肝疾患による社会的費用支出が次第に増加しているのが現状である。したがって、慢性B型肝炎を予防および治療できる新たな形態の抗ウイルス剤の開発が切実に要求されている。
【0003】
慢性B型肝炎の治療用薬物としては、現在、インターフェロン(interferon、pegninterferon)、ラミブジン(lamivudine)、アデホビル(adefovir dipivoxil)、エンテカビル(entecavir)、そしてテノホビル(tenofovir)などが使用されており、インターフェロンを除いた経口用治療剤はいずれも、ヌクレオシド/ヌクレオチド(nucleoside/nucleotide)類似体である。これらの薬物は、HBVの逆転写酵素(reverse transcriptase)の活性を抑制することによりウイルスのDNA複製を阻害して、結果的に、血清内HBV DNAの量を減少させ、ALTの数値を正常化させ、肝線維化も改善する効果を示している。
【0004】
しかし、ヌクレオシド類似体は、長期間使用時、薬剤に対する耐性を誘発して薬効の低下をもたらし、結果的に、肝炎の悪化につながる。最も最近開発されたテノホビルの場合、今のところ耐性発生は報告されていないが、全世界的に最も広く使用されてきたラミブジンの場合、5年後の耐性発病率は70~80%に達することが知られている。また、これらの経口用薬物は、HBVの感染を直接的に阻害することはできないため、産婦から胎児への垂直感染および肝移植患者における再感染防止のためには、経口用治療剤と共に、ヒト血漿由来のB型肝炎兔疫グロブリン(Hepatitis B Immune globulin、HBIg)製剤が一緒に使用されている。
【0005】
既存のHBIgは、B型肝炎に対する抗体を保有している人の血液から高度な精製技術を用いて抗体を分離し、ウイルス不活化技術を用いて潜在的な汚染源を除去して製造される。しかし、原料である血漿の確保が難しいことから過度の輸入費用を支払うこととなり、需要に弾力的に対応できない問題がある。また、血漿由来のウイルスの除去に多くの時間と費用がかかるが、依然として潜在的感染源が存在する可能性を排除することができず、低い効力に起因する投与の不便さと経済的負担も存在するなどの欠点がある。
【0006】
さらに、既存のB型肝炎ワクチンの接種により形成される抗体はほとんどがHBsAgのアミノ酸124-147番部位のa決定基を認識することが知られている。a決定基がHBVの主な中和エピトープとして作用することは事実であるが、一部の患者で発生したa決定基内の特定突然変異がB型肝炎ワクチンの接種により形成される抗体を回避し得ることが報告されている。したがって、このような既存のワクチンやHBIgの回避突然変異にも対応可能な新たなB型肝炎の予防および治療用抗体やワクチンの開発に対する必要性がますます高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、上記の問題点を解決すべく、本発明者らは、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置110、118、120および/または147を含むエピトープを開発し、これが三次元的構造的な特性を有することを確認した。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のエピトープを提供することである。
【0009】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記エピトープに特異的に結合するB型肝炎ウイルス(HBV)中和結合分子を提供することである。
【0010】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記結合分子を暗号化するポリヌクレオチドを提供することである。
【0011】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供することである。
【0012】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記発現ベクターが形質感染してHBV中和結合分子を生産する宿主細胞を提供することである。
【0013】
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、前記結合分子を含むB型肝炎の予防、治療または診断用組成物を提供することである。
【0014】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを提供することである。
【0015】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供することである。
【0016】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターが形質転換された組換え微生物またはウイルスを提供することである。
【0017】
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、前記組換え微生物またはウイルスを培養するステップを含むエピトープを生産する方法を提供することである。
【0018】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記エピトープ、または該エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを含むHBVワクチン組成物を提供することである。
【0019】
また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記エピトープ、または該エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを含むHBV検出用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決すべく、本発明では、HBsAgに特異的に結合するヒト抗体(PCT/KR2014/004612参照、以下、「本発明の抗体」)のエピトープがHBsAgのアミノ酸位置110、118、120および/または147を含むことを確認した。また、これら4個のアミノ酸を含む配列またはその一部が三次元的構造を形成して本発明の抗体が結合可能なエピトープを形成することを確認することにより、本発明を完成した。
【0021】
したがって、本発明は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置106~151の中から選択された3~38merのエピトープを提供する。
【0022】
本発明の一具体例において、前記エピトープは、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)の110、118、120および/または147位置のアミノ酸を含むことができる。前記位置のアミノ酸を含むエピトープは、その三次元構造を維持するために、またはワクチンなどの組成物として利用時の効率を向上させるために、担体(carrier)と結合された形態で利用可能である。本発明に係る担体は、生体に適し、本発明において目的の効果を収められるものであればすべて使用可能であるが、ペプチド、血清アルブミン、兔疫グロブリン、ヘモシアニンおよび多糖体などから選択されることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明の一具体例において、前記エピトープは、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置106-110、107-111、108-112、109-113、110-114、114-118、115-119、119-123、120-124、143-147、144-148、145-149、146-150、147-151、110-118、118-120、116-120、117-121、118-122、120-147、110-120、118-147または110-147であってもよい。
【0024】
本発明において、前記HBV遺伝子型C(サブタイプadr)のHBsAg野生型全アミノ酸配列は、配列番号3で表されてもよいし、GenBank No.GQ872210.1からも配列情報を確認することができる。
【0025】
また、本発明は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置110、118および120からなる群より選択された1つ以上のアミノ酸残基を含むエピトープに特異的に結合するB型肝炎ウイルス(HBV)中和結合分子を提供する。さらに、前記エピトープは、HBsAgのアミノ酸位置147を追加的に含んでもよい。
【0026】
本発明の一具体例において、前記エピトープに特異的に結合するB型肝炎ウイルス(HBV)中和結合分子は、1×10-9M未満の結合親和度を有してもよい。他の具体例において、前記結合分子は、9×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、8×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、7×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、6×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、5×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、4×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、3×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、2×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、1×10-10M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、1×10-11M未満の結合親和度を有してもよい。さらに他の具体例において、前記結合分子は、1×10-12M未満の結合親和度を有してもよい。
【0027】
本発明に係るHBV中和結合分子は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のサブタイプadw、adr、ayw、およびayrから構成された群より選択されるいずれか1つ以上に結合してB型肝炎ウイルスに中和活性を有することができる。
【0028】
本発明に係る前記結合分子は、A、B、C、D、E、F、GおよびH遺伝子型(genotype)のB型肝炎ウイルスに結合して中和活性を有する。
【0029】
また、本発明に係る前記結合分子は、ラミブジン(lamivudine)、アデホビル(adefovir)、クレブジン(clevudine)またはエンテカビル(entecavir)耐性B型肝炎ウイルスに結合して中和活性を有する。
【0030】
本発明の一具体例として、前記結合分子は、HBsAgの101番、112番、126番、129番、133番、143番、173番、175番、184番、185番または196番のアミノ酸位置の突然変異抗原に結合してB型肝炎ウイルスに中和活性を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の一具体例として、前記突然変異抗原は、Q101R、K112R、T126N、I126S、Q129H、M133H、P143K、L173F、L175S、A184V、I185MまたはW196L突然変異抗原であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明の一具体例において、前記結合分子は、抗体またはその断片である。前記抗体は、Fab切片、Fv切片、ジアボディ(diabody)、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であってもよいが、これに限定されるものではない。本発明の一実施例では、HBsAgに結合する完全なヒト抗体を提供する。本明細書において、抗体は、最大限に広い意味で使用され、具体的には、無傷(intact)単一クローン抗体、多クローン抗体、2種以上の無傷抗体から形成された多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および目的の生物学的活性を示す抗体断片を含む。抗体は、特異的な抗原を認識し結合可能な免疫系によって生成される蛋白質である。その構造的な面において、抗体は、通常4個のアミノ酸鎖(2個の重鎖および2個の軽鎖)からなるY-形状の蛋白質を有する。それぞれの抗体は、主に可変領域および不変領域の2つの領域を有する。Yの腕の末端部分に位置した可変領域は、標的抗原に結合し相互作用する。前記可変領域は、特定抗原上の特異的結合部位を認識し結合する相補性決定領域(CDR)を含む。Yの尻尾部分に位置した不変領域は、免疫系によって認識され相互作用する。標的抗原は一般的に、多数の抗体上のCDRによって認識される、エピトープという多数の結合部位を有している。異なるエピトープに特異的に結合するそれぞれの抗体は異なる構造を有する。そのため、1抗原は1つ以上の相応する抗体を有することができる。
【0033】
同時に、本発明は、前記抗体の機能的変異体を含む。抗体は、変異体がB型肝炎ウイルスまたはその表面抗原(HBsAg)のサブタイプに特異的に結合するために本発明の抗体と競争できるならば、本発明の抗体の機能的変異体と見なされる。機能的変異体は、一次構造的配列が実質的に類似の誘導体を含むが、これに制限されるわけではなく、例えば、生体外(in vitro)または生体内(in vivo)変形、化学薬品および/または生化学薬品を含み、これらは、本願発明の親単一クローン抗体からは発見されない。このような変形には、例えば、アセチル化、アシル化、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、架橋、二硫化結合形成、グリコシル化、水酸化、メチル化、酸化、ペグ化、蛋白質分解およびリン酸化などが含まれる。機能的変異体は、選択的に親抗体のアミノ酸配列と比較して1つ以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失またはその組合せを含有するアミノ酸配列を含む抗体であってもよい。さらに、機能的変異体は、アミノ末端またはカルボキシ末端のうちの1つまたはすべてにおいてアミノ酸配列の切断体(truncated form)を含むことができる。本発明の機能的変異体は、本発明の親抗体と比較して同一または異なったり、より高いか低い結合親和力を有することができるが、依然としてB型肝炎ウイルスまたはその表面抗原(HBsAg)のサブタイプに結合することができる。一例として、骨格構造、超可変(Hypervariable)領域、特にCDR3領域を含むが、これに限定されるものではない、可変領域のアミノ酸配列が変形可能である。一般的に、軽鎖または重鎖領域は、3つのCDR領域を含む、3つの超可変領域、およびさらに保存された領域、すなわち骨格領域(FR)を含む。超可変領域は、CDRからのアミノ酸残基と超可変ループからのアミノ酸残基を含む。本発明の範囲に属する機能的変異体は、本明細書の親抗体と約50%~99%、約60%~99%、約80%~99%、約90%~99%、約95%~99%、または約97%~99%のアミノ酸配列相同性を有することができる。比較されるアミノ酸配列を最適に配列し、類似または同一のアミノ酸残基を定義するために、コンピュータアルゴリズムの中で当業者に知られたGapまたはBestfitを用いることができる。機能的変異体は、親抗体またはその一部を、PCR方法、オリゴマーヌクレオチドを用いた突然変異の生成および部分突然変異の生成を含む公知の一般分子生物学的方法によって変化させたり、有機合成方法で得ることができるが、これに制限されるわけではない。
【0034】
また、本発明は、前記結合分子を暗号化するポリヌクレオチドを提供する。一例として、本発明は、前記抗-HBsAg単一クローン抗体を暗号化する、単離された核酸分子を含む。
【0035】
さらに、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。前記発現ベクターとしては、セルトリオン社固有の発現ベクターであるMarExベクター、および商業的に広く使用されるpCDNAベクター、F、R1、RP1、Col、pBR322、ToL、Tiベクター;コスミド;ラムダ、ラムドイド(lambdoid)、M13、Mu、p1P22、Qμ、T-even、T2、T3、T7などのファージ;植物ウイルスからなる群より選択されたいずれか1つから選択された発現ベクターを用いてもよいが、これに限定されるものではなく、当業者に発現ベクターとして知られたすべての発現ベクターは本発明に使用可能であり、発現ベクターを選択する時には、目的の宿主細胞の性質に従う。宿主細胞へのベクターの導入時、リン酸カルシウムトランスフェクション、ウイルス感染、DEAE-デキストラン調節トランスフェクション、リポフェクタミントランスフェクションまたは電気穿孔法によって行われてもよいが、これに限定されるものではなく、当業者は、使用する発現ベクターおよび宿主細胞に適した導入方法を選択して用いることができる。発現ベクターは、1つ以上の選別マーカーを含むことができるが、これに限定されず、選別マーカーを含まないベクターを用いて生産物生産の有無によって選別が可能である。選別マーカーの選択は目的の宿主細胞によって選別され、これはすでに当業者に知られた方法を利用するので、本発明はこれに制限を設けない。また、本発明の核酸分子を、精製を容易にするために、タグ配列を発現ベクター上に挿入して融合させることができる。前記タグとしては、ヘキサ-ヒスチジンタグ、ヘマグルチニンタグ、mycタグまたはflagタグを含むことができるが、これに限定されるものではなく、当業者に知られた精製を容易にするタグはすべて本発明で利用可能である。
【0036】
また、本発明の他の具体例として、本発明は、前記発現ベクターが形質感染してB型肝炎ウイルスに中和活性を有する結合分子を生産する宿主細胞に関する。本発明において、前記宿主細胞は、哺乳動物、植物、昆虫、菌類または細胞性起源の細胞を含むことができるが、これに限定されない。前記哺乳動物細胞として、CHO細胞、F2N細胞、CSO細胞、BHK細胞、ボウズ(Bowes)黒色腫細胞、HeLa細胞、911細胞、AT1080細胞、A549細胞、HEK293細胞またはHEK293T細胞などを用いてもよいが、これに限定されず、当業者に知られた哺乳動物の宿主細胞として使用可能な細胞はすべて利用可能である。
【0037】
さらに、本発明は、前記結合分子を含むB型肝炎の予防、治療または診断用組成物を提供する。本発明の組成物は、前記結合分子と共に、インターフェロン、抗-HBV単一クローン抗体、抗-HBVポリクローナル抗体、ヌクレオシド類似体、DNAポリメラーゼ阻害剤、siRNA製剤または治療ワクチンを抗ウイルス薬物として追加的に含んでもよい。
【0038】
本発明の結合分子を含む組成物は、それぞれ通常の方法により、滅菌注射溶液、凍結乾燥(lyophilized)剤形、事前充填式注射(pre-filled syringe)溶液剤、経口型剤形、外用剤または坐剤などの形態に剤形化してもよいが、これに限定されるものではない。
【0039】
また、本発明の他の具体例として、本発明は、B型肝炎ウイルスに感染した対象に前記組成物を治療学的に有効な量で投与するステップを含むB型肝炎治療方法に関する。本発明の治療方法において、当業者に知られた治療剤を一緒に投与することができる。本発明の治療方法において、投与方法は、経口および非経口に分けられ、一例として、投与経路は、静脈内であってもよいが、これに限定されない。
【0040】
本発明の一具体例において、前記治療方法は、抗-ウイルス薬物を投与するステップを追加的に含んでもよい。前記抗-ウイルス薬物は、インターフェロン、ヌクレオシド/ヌクレオチド類似体、抗-HBVモノクローナル抗体、抗-HBVポリクローナル抗体、DNAポリメラーゼ阻害剤、siRNA製剤または治療ワクチンであってもよいが、これに限定されるものではない。前記ヌクレオシド/ヌクレオチド類似体は、ラミブジン(lamivudine)、エンテカビル(entecavir)、クレブジン(clevudine)またはアデホビル(adefovir dipivoxil)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
また、本発明の他の具体例として、本発明は、対象に前記組成物を治療学的に有効な量で投与するステップを含むB型肝炎予防方法に関する。本発明の予防方法において、当業者に知られた予防剤を一緒に投与することができる。本発明の予防方法において、投与方法は、経口および非経口に分けられ、一例として、投与経路は、静脈内であってもよいが、これに限定されない。
【0042】
本発明の組成物をヒトを含む哺乳動物に投与することにより、HBV感染およびHBV感染によって誘発される疾病を予防または治療することができる。この時、前記結合分子(例、抗体)の投与量は、処理される対象、疾病または状態の深刻度、投与の速度および処方医師の判断による。有効成分として、前記結合分子は、哺乳動物に対して、1日0.001~10mg/kg(体重)、または0.005~1mg/kg(体重)の量で1日1回または分割して非経口的経路を通して投与可能である。場合によって、前記言及された範囲より少ない投与量がより適することがあり、有害な副作用を起こすことなくより多量で使用されてもよいし、より多い投与量の場合は、1日かけて数回の少ない分量で分配されてもよい。
【0043】
また、本発明の他の具体例として、本発明は、i)サンプルと前記組成物とを接触させるステップと、ii)前記組成物とサンプルとの反応を検出するステップとを含む、患者のB型肝炎ウイルス感染有無の診断方法に関する。本発明の診断方法において、本発明の結合分子(例、単一クローン抗体)は、診断検出のために、必要に応じて標識物質を接合させてもよいし、これは当業者にすでに公知の事項である。
【0044】
本発明の診断方法において、前記サンプルは、対象の痰、唾、血液、汗、肺細胞、肺組織の粘液、呼吸器組織および唾液からなる群より選択されたいずれか1つであってもよいが、これに限定されず、当業者に知られた通常の方法でサンプルの用意が可能である。
【0045】
また、本発明の他の具体例として、本発明は、i)サンプルと前記組成物とを接触させるステップと、ii)前記組成物とサンプルとの反応を検出するステップとを含む、患者のB型肝炎ウイルス感染有無の診断のために情報を提供する方法に関する。
【0046】
さらに、本発明の他の具体例として、本発明は、i)前記組成物と、ii)容器とを含むB型肝炎ウイルス診断用キットに関する。本発明の診断用キットにおいて、前記2)の容器には固体担体が含まれる。本発明の結合分子は、固体担体に付着してもよく、このような固体担体としては、多孔性または非多孔性、平面または非平面であってもよい。
【0047】
また、本発明の他の具体例として、本発明は、患者に由来するサンプルと前記組成物とを接触させるステップを含むB型肝炎ウイルス存在の有無を検出する方法に関する。
【0048】
さらに、本発明は、前記エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを提供する。本発明で提供される前記アミノ酸位置を含むエピトープを暗号化するポリヌクレオチドは、それ自体で遺伝子ワクチン形態に利用可能である。この時、前記ポリヌクレオチドは、伝達体なしにそれ自体でも利用可能であり、ウイルス性または非ウイルス性伝達体に担持されて体内に伝達されてもよい。ウイルス性または非ウイルス性伝達体は、本発明の属する技術分野で通常利用可能と知られたものであればいずれでも利用可能である。具体的には、ウイルス性伝達体は、アデノウイルス(adenovirus)、アデノ-関連ウイルス(adeno-associated virus)、レンチウイルス(lentivirus)、レトロウイルス(letrovirus)などが可能であり、非ウイルス性ベクターとしては、陽イオン性ポリマー、非イオン性ポリマー、リポソーム、脂質、リン脂質、親水性ポリマー、疎水性ポリマーおよびこれらの中から選択された1つ以上の複合体などが利用可能であるが、これに限定されるものではない。
【0049】
また、本発明は、前記エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0050】
さらに、本発明は、前記発現ベクターが形質転換された組換え微生物またはウイルスを提供する。一具体例として、前記組換え微生物またはウイルスは、組換え大膓菌、組換え酵母、または組換えバクテリオファージであってもよい。
【0051】
本発明の一具体例として、本発明は、HBsAgのアミノ酸位置110、118、120および/または147を含むエピトープを微生物またはウイルスの表面に発現する方法を提供する。この時、誘導するプロモーターまたは信号蛋白質をコーディングする配列を含むことを特徴とする組換えベクターおよび前記組換えベクターを含む多様な微生物またはウイルスが使用されてもよいし、特に、好適な微生物またはウイルスは、組換え大膓菌、組換え酵母および組換えバクテリオファージなどがあるが、これに限定されるものではない。前記微生物またはウイルスの表面に前記アミノ酸位置を含むエピトープを微生物またはウイルスの表面に発現させるためには、本発明の属する技術分野でよく知られたディスプレイ(display)技術が利用可能であり、特に、微生物細胞またはウイルスの表面に発現するように誘導するプロモーターまたは信号蛋白質をエンコーディングする配列に前記アミノ酸位置を含むエピトープをエンコーディングするポリヌクレオチド配列を結合させて発現するか、元々表面に発現する蛋白質をエンコーディングする遺伝子部位の一部を欠損させ、これに前記アミノ酸位置を含むエピトープをエンコーディングするポリヌクレオチド配列を挿入する方法などが利用可能であるが、これに限定されるものではない。このような方法で微生物またはウイルスの表面に発現した前記アミノ酸位置を含むエピトープはそれ自体で分離、精製され、本発明に係る特定の用途に使用することができ、表面に発現した状態で前記アミノ酸位置を含むエピトープに特異的に結合する抗体を選別して得る用途にも利用可能である。
【0052】
また、本発明は、前記組換え微生物またはウイルスを培養するステップを含むエピトープを生産する方法を提供する。
【0053】
さらに、本発明は、前記エピトープ、または該エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを含むHBVワクチン組成物を提供する。このHBVワクチン組成物は、薬学的に許容可能な免疫補助剤(adjuvant)を追加的に含んでもよい。免疫補助剤としては、体内に注入時に抗体の形成を増進させる役割を果たして本発明における目的の達成が可能なものであればいずれでも使用可能であり、アルミニウム塩(Al(OH)、ALPO)、スクアレン(squalene)、ソルビタン(sorbitane)、ポリソルベート80(polysorbate80)、CpG、リポソーム、コレステロール、MPL(monophosphoryl lipid A)、GLA(glucopyranosyl lipid A)を用いてもよいが、これに限定されるものではない。
【0054】
また、本発明は、前記エピトープ、または該エピトープを暗号化するポリヌクレオチドを含むHBV検出用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0055】
本発明が提供するB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のエピトープは、既存のワクチンまたはHBIgの投与に対する回避突然変異が生成されるa決定基内の主要残基を含まないことから、これに結合する抗体を含む組成物または前記エピトープを含むワクチン組成物は、回避突然変異による効能の低下が生じる可能性が非常に低い。したがって、このような抗体またはワクチン組成物は、HBVの予防および/または治療に非常に有用に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明の抗体の結合部位を特定するために、野生型HBsAg(226a.a)をアミノ酸配列1~100(Region1)、101~160(Region2)、161~226(Region3)の3つの部位に分けてそれぞれの部位を欠損させた突然変異構造を示すものである。
図2】ファージ(phage)を用いたELISAで野生型HBsAgと前記Region1、2、3のそれぞれが欠損した3種の突然変異HBsAgに対する本発明の抗体の結合力を確認した実験の結果である。
図3】本発明の抗体のエピトープ究明のために、15個のアミノ酸が順次に欠損した4種の突然変異HBsAgの構造を示すものである。
図4】ファージ(phage)を用いたELISAで前記15個のアミノ酸が順次に欠損した4種の突然変異HBsAgに対する本発明の抗体の結合力を確認した実験の結果である。
図5】HBsAgモデル上に示されたエピトープと二硫化結合の位置である。
図6A】本発明の抗体エピトープの特性究明のために、Western blot分析を行った結果である。
図6B】本発明の抗体エピトープの特性究明のために、Western blot分析を行った結果である。
図7】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のa決定基の多様な突然変異抗原に対する反応性をELISAを用いて確認した結果である。
図8A】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、real-time PCR方法を利用して細胞内のウイルス量を増殖しているHBVのDNA量で測定した結果である。
図8B】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、real-time PCR方法を利用して細胞内のウイルス量を増殖しているHBVのDNA量で測定した結果である。
図8C】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、real-time PCR方法を利用して細胞内のウイルス量を増殖しているHBVのDNA量で測定した結果である。
図8D】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、real-time PCR方法を利用して細胞内のウイルス量を増殖しているHBVのDNA量で測定した結果である。
図9A】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、chemiluminescent immunoassay(CLIA)方法を利用して増殖されて細胞外に排出されたウイルス量をHBsAg量で測定した結果である。
図9B】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、chemiluminescent immunoassay(CLIA)方法を利用して増殖されて細胞外に排出されたウイルス量をHBsAg量で測定した結果である。
図9C】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、chemiluminescent immunoassay(CLIA)方法を利用して増殖されて細胞外に排出されたウイルス量をHBsAg量で測定した結果である。
図9D】本発明の一実施例により、本発明の抗体1、2のB型肝炎ウイルス4つの遺伝子型A、B、C、Dに対する試験管内中和実験の結果であって、chemiluminescent immunoassay(CLIA)方法を利用して増殖されて細胞外に排出されたウイルス量をHBsAg量で測定した結果である。
図10】本発明の抗体1、2の15個のHBV表面抗原血清サンプル(B型肝炎ウイルス7つの遺伝子型A、B、C、D、E、F、Hの患者に由来する)に対する結合活性をsandwich ELISAで確認した結果である。
図11】本発明の抗体1、2の薬剤(ラミブジン、アデホビル、クレブジン、エンテカビル)耐性ウイルスに対する結合活性をsandwich ELISAで確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0057】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、下記の実施例は本発明の内容を例示するものに過ぎず、発明の範囲が実施例によって限定されるものではない。本発明で引用された文献は、本発明の明細書に参照として組み込まれる。
【0058】
実施例1:欠損突然変異抗原を用いた本発明の抗体の結合部位の特定
本発明の抗体のHBsAg上の結合部位を確認するために、HBsAgの野生型および各種欠損突然変異を製造し、これに対する結合能力をファージ(Phage)を用いたenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)で調べた。
【0059】
この時、実験は2つのステップで進行させたが、まず、HBsAg(226a.a)をアミノ酸配列1~100、101~160、161~226までの3つの部位に分けてそれぞれの部位を欠損させた突然変異と野生型の発現ベクターを製造して(図1参照)、ファージの表面にそれぞれの蛋白質を発現させた後、本発明の抗体に対する結合力を測定した。
【0060】
実施例1-1.野生型HBsAgおよび3種の突然変異HBsAg発現ベクターの製造
野生型HBsAgおよびこれを3つの部分に分けた欠損突然変異蛋白質をファージの表面に発現させるために、ファージの発現ベクターを用いてクローニングを行った。詳細な実験方法は次の通りである。HBsAg野生型と部位毎欠損突然変異をクローニングするために、HBV遺伝子型CのHBsAg遺伝子塩基配列を含んでいるHBVベクター(韓国の建国大学医学専門大学院薬理学教室)を鋳型として重合酵素連鎖反応(PCR)によりそれぞれに対する遺伝子を増幅した。これに制限酵素SfiIを処理した後、同一の制限酵素で処理されたファージ発現ベクターにそれぞれ挿入した。作製されたプラスミドは、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN、Germany、Cat#27106)を用いて抽出され、抽出されたDNAを用いて、塩基配列の分析により最終的に抗体の塩基配列を確認した。完成した各クローンの名称およびHBsAg部位は表1の通りである。
【0061】
【表1】
【0062】
本実施例において、前記HBV遺伝子型C(サブタイプadr)のHBsAg野生型全アミノ酸配列は、配列番号3で表され、GenBank No.GQ872210.1からも配列情報を確認することができる。
【0063】
実施例1-2.野生型HBsAgおよび3種の突然変異HBsAgと本発明の抗体の結合力確認実験
クローニングされたHBsAg全体あるいは一部に対する結合実験を行うために、まず、発現用大膓菌(ER2738、Lucigen、USA、Cat#60522-2)にエレクトロポレーション(electroporation)によりベクターを挿入した後、抗生剤(ampicillin)耐性のある大膓菌を選択的に翌日培養し始めた。約10時間程度培養した後、バクテリオファージ(bacteriophage)を感染させ、感染した大膓菌を選択的に培養するために、他の種類の抗生剤(kanamycin)を使用した。翌日バクテリオファージを抽出するために、まず、大膓菌を遠心分離機で分離した後、上層液にpolyethylene glycol(PEG)を処理して30分間氷に放置し、再び遠心分離機でバクテリオファージを分離した。分離されたバクテリオファージを溶かした後、上層液をフィルタリングしてHBsAg全体あるいは一部を表面に有している純粋なバクテリオファージを抽出した。
【0064】
バクテリオファージの表面に露出した野生型および突然変異HBsAgと本発明の抗体との結合力を定量的に評価するために、ELISA手法を利用した。まず、anti-human Fc抗体(Jackson Immunoresearch、USA、Cat#109-006-098)をコーティングバッファー(Sigma、USA、Cat#c3041)と混合し、96well plateに1日間4度でコーティングさせた後、本発明の抗体をそれに結合させた。その後、抽出されたバクテリオファージを本発明の抗体に結合させ、HRP酵素の付いているバクテリオファージM13蛋白質抗体(GE healthcare、USA、27-9421-01)を使用した後、2,2’-azino-bis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulphonic acid)(ABTS、KPL、USA、Cat#50-62-00)を用いて、実際に本発明の抗体に結合した野生型および突然変異HBsAgを有しているバクテリオファージの量を測定した。この時、HBsAgを表面に発現している各実験群のすべてのバクテリオファージの量を測定するために、anti-HA抗体(Genescript、USA、Cat#A00168-100)を96well plateに1日間4度でコーティングさせた後、抽出されたバクテリオファージを抗体に結合させ、同一の方式で測定した。
【0065】
その結果、アミノ酸101から160番までが欠損したHBsAgを表面に発現しているRegion1+3のバクテリオファージサンプルでのみ、特異的に本発明の抗体との低い結合力が観察された(図2参照)。このことは、本発明の抗体の主要結合部位がRegion2部位に含まれていることを意味する。
【0066】
実施例2:連続欠損突然変異抗原を用いた本発明の抗体のエピトープの特定
実施例1で確認した本発明の抗体の主要結合部位に基づいてエピトープ部位を特定するために、Region2の開始アミノ酸である101番から15個のアミノ酸を順次に切っていく連続欠損(serial deletion)突然変異を製造した後、バクテリオファージの表面に露出させて、ELISAにより本発明の抗体に対する結合力を確認した。
【0067】
実施例2-1.4種の突然変異HBsAg発現ベクターの製造
Region2+3のクローンを基準としてアミノ酸15個ずつ欠損突然変異を製造した。完成した各クローンの名称およびHBsAg部位は表2の通りである(図3参照)。詳細なクローニング過程は実施例1-1と重複するので省略する。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例2-2.4種の突然変異HBsAgと本発明の抗体との結合力確認実験
実施例1-2と同様の方法で4種の連続欠損突然変異が表面に露出しているバクテリオファージを抽出して、ELISAを行った。
【0070】
その結果、Region2+3del1において、本発明の抗体に対する結合力が確実に低下することを確認したが、これは、本発明の抗体の主要抗原決定基(エピトープ)はアミノ酸101から115までの部位に存在することを意味する(図4参照)。
【0071】
実施例3.単一アミノ酸突然変異抗原を用いた本発明の抗体のエピトープ究明
本発明の抗体のエピトープをさらに正確に究明するために、米国のインテグラルモレキュラー(Integral Molecular)社のショットガン突然変異法(shotgun mutagenesis,J Am Chem Soc.2009;131(20):6952~6954等参照)を利用して、HBsAg(adr subtype)内にランダム突然変異(random mutagenesis)を導入させて、各突然変異抗原に対する本発明の抗体の結合能力を測定した。実験に使用された突然変異抗原のライブラリーの特性は表3の通りである。作製されたライブラリーそれぞれのクローンは、384-wellプレートに培養されたHEK-293T細胞で発現した。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例3-1:抗体のエピトープ確認
突然変異抗原に対する本発明の抗体の結合能は、免疫蛍光FACS分析法で3回繰り返し測定され、野生型HBsAgに対する反応性を基準として標準化(normalization)が行われた。また、HBsAgに対するマウス単クローン抗体であるorb43805を対照抗体として用いた結合能の結果は、実験結果の信頼度確認およびエピトープの選定に対する基準設定に使用された。すなわち、対照抗体のorb43805に対する結合反応性が野生型HBsAgに対する結合反応性対比55%以上(>55%WT)でかつ、同時に本発明の抗体に対する結合反応性が野生型対比15%未満(<15%WT)であるクローンに存在する突然変異残基を、本発明の抗体の結合に必須の核心残基(critical residue)として選別した。
【0074】
実験の結果、計4個の突然変異抗原から本発明の抗体に対する核心残基が導出され、これによって、本発明の抗体のエピトープにはHBsAgのアミノ酸110、118、120および147番位置が含まれていることが確認された。具体的な実験結果は表4の通りである。
【0075】
【表4】
【0076】
このうち、アミノ酸110番位置は、前記実施例2の実験を通して特定された結合部位にも含まれるため、本発明の抗体に対する核心的なエピトープと結論付けることができる。118、120および147番位置は、実施例2の実験結果で特定された結合部位内にないものの、欠損実験の場合、多数のアミノ酸が除去されることによって構造的な変化がある可能性があり、一部のエピトープを究明できない可能性が大きい。
【0077】
詳細に説明すれば、HBsAgは、C107-C138、C139-C147などのような二硫化結合(disulfide bond)によって三次元的な構造を維持しているが、実施例2の欠損突然変異でこの結合が損傷すると元の構造が崩れて抗体の結合に影響を与えることを確認することができる。すなわち、本実施例において、単一突然変異実験を通して先の実施例2の欠損実験で見つけられなかったエピトープ残基を究明した(図5参照)。ただし、147番位置の場合、HBsAgの三次元構造の維持に重要な二硫化結合を形成する残基であるため、110、118および120番部位の構造エピトープが正常に形成できるように補助する役割で本発明の抗体との結合に参加することもできる。
【0078】
実施例4:本発明の抗体エピトープの特性究明
実施例1、2および3を通して明らかにされた結合部位が構造エピトープを形成するかを確認するために、Western blotを行った。この時、蛋白質の変性条件であるSodium dodecyl sulfate-Polyacrylamide gel electrophoresis(SDS-PAGE)ゲルと、非変性条件であるNative-PAGEゲルをすべて用いて、HBsAgの構造による本発明の抗体との結合力の差を究明した。特に、蛋白質の変性条件内においても還元剤(reducing agent)の使用の有無によってHBsAgの三次構造の形成に重要な二硫化結合(disulfide bond)を除去して完全に線状化(linearization)させた場合と、そうでない場合とに分けて、構造エピトープ形成の有無を綿密に検討した。
【0079】
4-1.Native-PAGEを用いたWestern blot分析
本発明の抗体が自然的に形成されたHBsAgの構造エピトープを認識するか否かを評価するために、SDSが添加されていないNativePAGEゲルを用いてWestern blotを行った。まず、HBsAgが入っている溶液にNativePAGETM Sample Buffer(Invitrogen、USA、Cat#BN2003)とNativePAGETM5%G-250 Sample Additive(Invitrogen、USA、Cat#BN2004)とを混合した後、NativePAGETM Novex(R)3-12%Bis-Tris Protein Gel(Invitrogen、USA、Cat#BN1003BOX)にローディングした。2時間程度のゲルラニング後、NuPAGE(R) Transfer Buffer(Invitrogen、USA、Cat#NP0006)を用いて、ゲルにある蛋白質をPVDF membrane(Invitrogen、USA、Cat#LC2002)にトランスファー(transfer)した。1時間5%スキムミルク(skim milk)が含まれたPhosphate buffered saline(PBS)-Tween20バッファーでmembraneブロッキングを行った後、3%スキムミルクが含まれたPBS-Tween20バッファーに一次抗体を混合してmembraneに一晩冷蔵処理した。この時、本発明の抗体に対する陽性対照群として、World Health Organization(WHO)の標準品(WHO International Standard for anti-HBs immunoglobulin、human(code:07/164))を使用し、陰性対照群としては、human epidermal growth receptor2(HER2)に対するヒト化抗体である抗-HER2抗体を使用した。PBS-Tween20バッファーでmembraneを十分にウォッシュ(wash)した後、二次抗体として、Horseradish Peroxidase(HRP)付きのanti-human Fc(Thermo Scientific、USA、Cat#31413)を3%スキムミルクが含まれたPBS-Tween20バッファーに混合した後、1時間処理した。PBS-Tween20バッファーで十分にウォッシュした後、enhanced chemiluminescent(ECL)基質を処理後、ChemiDoc(Bio-Rad、USA)機器を用いて、HBsAgとテストされた各抗体との間の結合の有無を観察した。
【0080】
実験の結果、自然的な三次構造を維持したHBsAgは、本発明の抗体と非常に高い結合力を示した(図6A参照)。この結合の特異性は、陽性対照群のWHO標準品と、陰性対照群の抗-HER2抗体との実験の結果から確認された。WHO標準品は、ヒト血液から精製した多クローン抗体であって、これにはHBsAgの線状および構造エピトープを認識する抗体がすべて含まれているため、この実験で結合が確認され、非特異的な抗体である抗-HER2抗体は結合しなかったのである。
【0081】
一方、HBsAgの分子量は23kd前後と知られているが、今回の実験で抗体と結合されたHBsAgの分子量は非常に大きいことが明らかになったが、native HBsAgは自主的に組立て(assembly)られ、特定形態(22nmのsubviral particle)を形成することがよく知られているため、自然な現象と結論付けることができる(Ira Berkower et al.,J Virol.,Mar2011;85(5):2439-2448)。
【0082】
4-2.SDS-PAGEを用いたWestern blot分析
本発明の抗体に対するエピトープの構造的特性をより綿密に分析するために、SDS-PAGEゲルおよび還元剤を用いてWestern blotを行った。全般的な実験の過程は実施例4-1と同一であり、簡略に示すと次の通りである。
【0083】
まず、HBsAg溶液をSDS-PAGE sample bufferと混合した後、95℃で5分間反応させた後、4-20%Mini-PROTEAN TGX Precast gelにローディングしてgel runningを行った。この時、ローディングサンプルは2種類で用意したが、一方は還元剤(NuPAGE Sample Reducing Agent(10×)、LifeTechnologies、USA)を添加して蛋白質の完全な変性を誘導したものであり、他方は還元剤が入っておらずHBsAgの二硫化結合が維持されて不完全な変性が行われたものである。Running後、HBsAgをnitrocellulose(NC)membraneにトランスファーさせ、ブロッキング後、一次抗体で一晩冷蔵処理した。一次抗体としては、本発明の抗体、WHO標準品、HBIg(Hepabig、緑十字、韓国)、抗-HER2抗体を使用した。続く過程は前記過程と同一であるので省略する。
【0084】
実験の結果、本発明の抗体が二硫化結合まで除去されて完全に線状化されたHBsAgには全く結合せず、部分的変性のみが生じたHBsAgにはよく結合できることが確認された。陽性対照群として使用されたWHO標準品とHBIgの場合、実施例4-1で説明したように多クローン抗体であるので、線状エピトープを認識する抗体を含んでいて、reducing conditionで完全に線状化されたHBsAgにもよく結合することが明らかになった。抗-HER2抗体の場合、HBsAgの構造にかかわらず全く結合しなかった。HBsAgの三次構造において、蛋白質の内部的にあるいは蛋白質の間に形成される二硫化結合が重要な作用をすることは広く知られた事実である(Mangold CM et al.,Arch Virol.,1997;142(11):2257-67)。
【0085】
したがって、本発明の抗体の結合には、二硫化結合によるHBsAgの三次構造の維持が必須であることが分かり、結局、本発明の抗体は、HBsAgの構造エピトープ(conformational epitope)を認識すると結論付けることができる。
【0086】
実施例5:a決定基の多様な突然変異抗原に対する本発明の抗体の結合活性調査
a決定基上の4つの突然変異抗原に対する本発明の抗体の結合活性を確認すべく、ELISAを行った。これらの抗原はそれぞれ126、129、133、143番のアミノ酸位置で変異を有するものであって、実際に慢性B型肝炎患者で報告されたHepatitis B Immune globulin(HBIg)またはワクチンに対する回避突然変異から発見されたものだけでなく、診断においても表面抗原の測定がままならないなどの問題を起こすものである(Horvat et al.,Labmedicine,vol.42(8):488-496,2011)。これら抗原の組換え蛋白質は前記ProspecBio社から購入した。
【0087】
図7は、a決定基の突然変異抗原による本発明の抗体1、2それぞれの反応性を示すもので、その結果は、反応性の有無に応じて陽性(+)および陰性(-)に区分して表5にまとめた。
【0088】
【表5】
【0089】
実験の結果、本発明の抗体1、2は、多様なa決定基の突然変異HBsAgに対して結合能を保有することを確認した。これは、本発明の抗体がHBsAgの110、118、120および/または147番位置のエピトープを認識するため、高い変異率を示すa決定基(アミノ酸124-147)の影響から自由であり得ることが分かる。
【0090】
また、147番のアミノ酸の場合、構造の形成に重要な残基であって、この残基の突然変異は感染性に深刻な影響を与えることが知られているため、実際に突然変異の発生率が非常に低いことが予想される。
【0091】
したがって、110、118、120および/または147番位置のエピトープを含むワクチン組成物または前記エピトープに結合する抗体は、回避突然変異による効能の低下が生じる可能性が低く、HBVの予防または治療に有用に使用可能である。
【0092】
実施例6:B型肝炎ウイルスに対する試験管内中和効力検証
多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対する本発明の抗体の中和力を検証するために、試験管内中和実験(in vitro neutralization assay)を行った。
【0093】
HBVに対する試験管内中和実験は、ヒト肝細胞にウイルスを感染させる時、各抗体の処理条件に応じてどれくらい感染が阻害されるかを、ウイルスの増殖が最も活発な時点で細胞内および細胞外のウイルス量を測定することにより抗体の中和力を評価する方法である。細胞内のウイルス量は増殖しているHBVのDNA量で測定し、増殖されて細胞外に排出されたウイルス量は培地内のHBV DNA量とHBsAg量で測定した。この時、HBV DNAはTaqMan probeを用いたrealtime-PCR方法で、HBsAgはchemoluminescent immunoassay(CLIA)方法で定量した。
【0094】
6-1.一次試験管内中和実験
B型肝炎ウイルスの感染に必要なヒト肝細胞は、ウイルス接種1日前日、ヒト化された肝組織を持っているキメラマウス(uPA/SCID mouse with humanized liver)から2段階のコラゲナーゼパーフュージョン(collagenase perfusion)方法により用意された。分離された肝細胞は、第1型コラーゲンが塗布されている24-ウェルプレートにウェルあたり4×10個ずつ敷き、この時、培地としては、10%FBS(Atlas Biologicals、USA、F0500A)、1×ペニシリン/ストレプトマイシン(pecinillin/streptomycin;Gibco、USA、15140)と20mMヘペス(HEPES;Gibco、USA、15630)が含まれたDMEM(Gibco、USA、11965)が各ウェルあたり500μlずつ使用された。用意された肝細胞は、37℃の5%CO湿潤(humidified)細胞培養器で24時間培養された。
【0095】
ウイルス感染は、ヒト化された肝組織を持っているキメラマウスで生産されたA(Genebank accession number:AB246345.1)、B(Genebank accession number:AB246341)、C(Genebank accession number:AB246338.1)、D(Genebank accession number:AB246347)の4つの遺伝子型(genotype)のHBVを用いて行われ、本発明の抗体と混合された状態でウェルあたり2×10個のウイルスの濃度で細胞に処理された。詳細な過程は次の通りである。
【0096】
A.ウイルス接種混合物の用意
dHCGM培地(DMEM+10%FBS、NaHCO3 44mM、L-proline15ug/ml、insulin0.25ug/ml、dexamethasone50nM、EGF5ng/ml、Asc-2p0.1mM、DMSO2%)を用いて、最終的に100μlとなるようにウイルスと各抗体とを混合して、常温で1時間反応させた。この時、ウイルスは2×10個となるようにし、本発明の抗体は10、1、0.1、0.01ug/mlの4つの濃度となるように希釈した。
【0097】
B.ウイルス接種
125μlのdHCGM培地に25μlの40%PEG(Sigma、USA、P1458)を混合した後、Aで用意したウイルス/抗体混合物を入れることにより、最終的に250μlの接種混合物を用意した。用意された細胞から培地を除去した後、接種混合物を入れて、その後、24時間培養した。
【0098】
C.培地交換および培養、分析サンプルの用意
ウイルスの接種後、肝細胞は計12日間培養され、1日、2日、7日目に細胞のwashingおよび培地の交換が行われた。既存の培養液を除去した後、500μlのDMEM+10%FBSでウォッシングを行い、同量のdHCGM培地を新たに入れた。そして、7日目の培地交換の場合、既存の培養液は、細胞から新たに生産されて排出された細胞外HBsAgとHBV DNA定量のために、それぞれ300μlと30μlずつ集めておき、分析時点まで-20℃に保管された。
【0099】
12日の培養期間が終わった後には、細胞および培養液とも細胞内/外のウイルス定量分析に使用された。培養液は、既存と同様の方式でHBsAg測定用とHBV DNA測定用とに分けて採取され、細胞は各ウェルを500μlのDMEM+10%FBSで1回洗浄した後、500μlのSMITEST(Medical&Biological Laboratories Co.,Ltd.)solutionを入れて溶解させる方式で採取された。HBV DNAの抽出は、製造会社(Medical&Biological Laboratories Co.,Ltd.)のプロトコルによって行われた。
【0100】
D.サンプル分析
HBV DNA定量は、TaqMan probe、TaqMan PCR Core Reagents(Life Technologies、USA)、そしてABI Prism 7500 sequence detector system(Applied Biosystems、USA)を用いたrealtime-PCR方法で行われた。HBsAg定量は、CLIA方法を用いた自動化システムであるARCHITECT(Abbott、USA)で行われた。
【0101】
【表6】
【0102】
【表7】
【0103】
本発明の抗体1、2に対する実験の結果は、図8A図8D図9A図9Dのように、各測定項目によってウイルスの遺伝子型(genotype)ごとに区分して示した。
【0104】
まず、各抗体の処理濃度に応じた細胞内HBV DNA量を比較分析してみると、本発明の抗体1、2が遺伝子型Cで区分されるHBsAgのadrサブタイプに対する結合力を基準として選別されたものであるので、遺伝子型Cに対してはいずれも強い中和力を有することを確認することができた。陽性対照用に使用されたHBIgが、陰性対照用に使用された抗-HER2抗体に比べて400倍以上のHBV DNA量の減少を示した状況で、その処理量の1/10である本発明の抗体2の1ug/ml処理サンプルにおいても同水準のウイルスDNAの減少を示した。本発明の抗体1の場合は、0.1ug/mlの低い濃度処理でも100倍にのぼるHBV DNAの減少を示すことにより、比較的に高い水準の中和力を維持することが明らかになった。また、本発明の抗体1、2は、特に、A、B遺伝子型に対しては陽性対照群のHBIgより最高中和力において2倍以上高い優れた効力を示し、D遺伝子型に対しては中和効力が1ug/ml(本発明の抗体2)または0.1ug/ml(本発明の抗体1)の低い濃度でも高く維持された(図8A図8D)。
【0105】
上記の本発明の抗体1、2のA、B、C、Dの4つの遺伝子型に対する中和効力の特徴は、培養液で測定した細胞外HBsAgの定量結果にも非常に類似して反映されていることが明らかになった(図9A図9D)。
【0106】
以上の結果をまとめてみると、A、B、C、Dの4つの遺伝子型のHBVに対して試験管内中和効力検証を実施し、その結果、本発明の抗体1、2が使用されたすべてのウイルスに対して高い水準の中和力を有することが確認された。
【0107】
実施例7:多様な慢性B型肝炎患者由来遺伝子型ウイルスの表面抗原に対する結合特性調査
本発明の抗体1、2が実際に全世界的に流行する多様な遺伝子型のウイルスに対して結合して中和効力を示し得るかを確認すべく、患者血清由来の多様な遺伝子型ウイルスの表面抗原からなっているWorld Health Organization(WHO)のreference panel(1st WHO International Reference Panel for HBV Genotypes for HBsAg Assays、PEI code6100/09)を用いてsandwich ELISAを行った。当該標準品の詳細情報は表8の通りであり、実験方法は下記の通りである。
【0108】
2つの抗体を抗-ヒトIgG Fcγ(gamma)抗体(Jackson ImmunoResearch、U.S.A、109-006-098)がコーティングされた96-ウェルマイクロタイタープレート(Nunc、Denmark、449824)の各ウェルに2ug/mlの濃度で100μlずつ分注して吸着させた。ウォッシング後、前記プレートを3%ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)が含有されたリン酸緩衝溶液(Teknova、USA、D5120)で処理してブロッキングした。再びウォッシングした後、HBsAg genotype panelである15個の血清試料を100μlずつ分注して、37℃で90分間反応(incubation)させた。この時、各血清試料は、450/620nmで吸光度0.8~1.2程度を有するように、1%BSAが含有されたリン酸緩衝溶液(Teknova、USA、D5120)で適切に希釈した。抗体と反応して付いているHBsAgを感知するために、過酸化酵素が標識されたウサギの抗-HBV表面抗原抗体(Thermo Scientific,U.S.A.,PA1-73087)を37℃で60分間処理した。発色および反応停止、そして吸光度の測定は、実施例5と同様の方法を用いた。2つの抗体の各遺伝子型HBV表面抗原に対する反応性は、エクセル(Microsoft、U.S.A.)を用いてグラフで分析した(図10)。
【0109】
分析の結果、本発明の抗体1、2とも、15個のHBsAgサンプルによく結合することを確認した。上述のように、この表面抗原サンプルは、実際に患者の血液から製造された血清であり、HBVの全8つの遺伝子型のうちのG型を除くAからH型までの7つの遺伝子型をカバーしている。また、複数種類の亜遺伝子型が存在するA、B、C、D、F型の場合、各遺伝子型ごとに優位に広がっている亜遺伝子型およびサブタイプ(血清型)のサンプルが2~3個ずつ含まれているが、これは、実験に使用されたWHOのHBV遺伝子型パネルが実質的に全世界で流行する大部分のHBV遺伝子型を代弁するとの意味である。パネルには遺伝子型Gが抜けているが、Gの場合は今のところ亜遺伝子型が報告されておらず、サブタイプ(血清型)としてはadw2に分類されるため、パネルに含まれている5つのadw2サンプルに対する実験結果でG型に対する本発明の抗体1、2の結合活性から推察可能である。
【0110】
したがって、全15個のサンプルに本発明の抗体1、2が優れた結合活性を示したのは、2つの抗体が全世界的に流行しているすべての遺伝子型のHBVに結合することができ、それによる中和力を示すことができることを意味する。
【0111】
【表8】
【0112】
実施例8:多様な薬剤耐性ウイルスに対する結合特性調査
慢性B型肝炎患者に広く使用されるHBV重合酵素の抑制剤であるラミブジン(lamivudine、LMV)、アデホビル(adefovir、ADV)、クレブジン(clevudine、CLV)、エンテカビル(entecavir、ETV)に対する耐性突然変異と本発明の抗体1、2との間の結合特性を、前記実施例7で用いた方法と同様のsandwich ELISA法を用いて確認した。実験に使用された野生型ウイルスをはじめとするすべての耐性突然変異ウイルスは、当該薬物治療に対する耐性が発生した患者の血液から得たHBV DNAを用いて、建国大学医学専門大学院薬理学教室でクローニングされたものであって、Huh7細胞株あるいはHepG2細胞株を用いた形質導入実験を通して薬剤耐性が実験的にも確認された菌株である(Ahn et al.,Journal of Virology,88(12):6805-6818、2014)。すべてのウイルスは遺伝子型C型であり、各ウイルスの特徴は表9の通りである。
【0113】
このように用意されたそれぞれのHBV発現ベクターをT75フラスコ(BD BioScience、353136)に培養したHuh7細胞株にLipofectamine2000(Life technologies、11698019)を用いて形質導入し、3日間培養してウイルスを生産した。生産されたウイルスはCentricon(Millipore、U.S.A.)を用いて濃縮し、各サンプルのウイルス量は、Monolisa HBsAg Ultra(BioRad、72346)ELISA kitを用いてHBsAg量で比較した後、互いに類似の値を有するように適切に希釈して実験に使用した。
【0114】
実験の結果、本発明の抗体1、2とも、ラミブジン(LMV)、アデホビル(ADV)、クレブジン(CLV)、エンテカビル(ETV)耐性ウイルスに野生型ウイルスと同水準で結合活性を有することが明らかになった(図11参照)。ここで、ADV耐性ウイルスに対する結合活性が相対的に少し低いように見えるが、これは、当該サンプルの生産量自体が他のサンプルに比べてやや低いことに起因すると判断される。
【0115】
このことは、本発明の抗体1、2が実験に使用された各薬剤耐性ウイルスの1種類に対してのみならず、当該薬剤に対して発生する大部分の耐性ウイルスに対して結合活性および中和効能を有し得ることを意味する。なぜならば、HBVに薬剤耐性をもたらす変異は、表9から確認できるように、HBVポリメラーゼのreverse transcriptase(RT)ドメインの特定アミノ酸変異に関連し、このような変異は、薬剤ごとに非常に特異的に発生するからである。このような特異的なポリメラーゼの変異は、遺伝子を共有するHBVの特性上、HBsAgの特異的変異を伴ったりするが、例えば、ポリメラーゼのrtM204I変異はHBsAgのW196L変異を、rtA181V変異はHBsAgのL173F変異をもたらす。本発明の抗体1、2は、薬剤耐性変異に伴うこれら表面抗原の変異にかかわらずよく結合することを確認した。
【0116】
また、この実験で使用された各耐性ウイルスは、前記言及した耐性特異的な表面抗原の変異に加えて、非特異的に発生した多くの表面抗原の変異を有している(表9参照)。この実験の結果は、本発明の抗体1、2がHBsAgのQ101R、K112R、I126S、L175S、A184V、I185M位置に変異があるウイルスに結合および中和活性を有し得ることを表す。
【0117】
【表9】
【0118】
実施例9:抗原-抗体の結合親和度測定
本発明の抗体の抗原-抗体の結合親和度を測定するために、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、以下、SPR)検定を利用した。具体的には、組換えHBsAg(adr subtype、ProspecBio)と本発明の抗体との結合親和度は、25℃で分析緩衝液HBS-EP(10mM HEPES[pH7.4]、150mM NaCl、3mM EDTAおよび0.005%界面活性剤P20)を使用するBiacore T200(GE Healthcare)装備で表面プラズモン共鳴分析により決定された。10mM酢酸ナトリウム(Sodium Acetate、pH5.0)中に希釈されたHBsAg蛋白質50μg/mlを製造会社の指針および手順に従って、アミンカップリングキット(Amine coupling kit)を用いてCM5研究用バイオセンサチップに約500RUだけ直接的に固定させた。バイオセンサの表面で反応しない部分をエタノールアミン(ethanolamine)で遮断した。反応分析のために、Biacore T200コントロールソフトウェア、Biacore T200エバリュエーションソフトウェアを用いた。本発明の抗体は、HBS-EP緩衝液に希釈した。検定過程で、すべての測定は、固定されたHBsAgのないバイオセンサの表面を対照群として使用した。結合および分離速度定数Ka(M-1s-1)およびKd(s-1)は、30μl/分の流速で決定した。速度定数は3倍の連続希釈であって、2.46~200nM範囲の抗体濃度で反応結合測定を実施し、緩衝液を対照群として用いることにより獲得した。次に、抗体と標的抗原との間の反応に対する平衡解離定数KD(M)を反応速度定数から次の等式によって計算した:KD=Kd/Ka。結合は、時間と反応速度定数の関数を計算して記録する。
【0119】
実験の結果は表10の通りであり、本発明の抗体のHBsAgに対する高い結合親和度を確認した。
【0120】
【表10】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
【配列表】
2022031634000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-11-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルスにより生じる疾病の予防、治療または診断用の結合分子のスクリーニング方法であって、
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置110、118、120、および147を含むエピトープに対する、前記結合分子の結合親和度が1×10-9M未満であるときに、
前記結合分子がB型肝炎ウイルスにより生じる疾病の予防、治療または診断用に有用であると判定する工程を含む、
スクリーニング方法。
【請求項2】
前記B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)が、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記結合分子は、抗体またはその断片である請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記抗体は、ヒト単一クローン抗体である請求項3に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
B型肝炎ウイルスにより生じる疾病の予防、治療または診断用の結合分子の製造方法であって、
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)のアミノ酸位置110、118、120、および147を含むエピトープに対する、前記結合分子の結合親和度が1×10-9M未満である、
製造方法。
【請求項6】
前記B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記結合分子は、抗体またはその断片である請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記抗体は、ヒト単一クローン抗体である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載の製造方法により製造された結合分子。
【請求項10】
請求項9に記載の結合分子を暗号化するポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターにより形質転換された組換え微生物またはウイルス。