(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031635
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】CD47に対するヒト化及びキメラモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220215BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220215BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220215BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220215BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220215BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220215BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220215BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220215BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220215BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220215BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220215BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/18
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61P43/00 105
G01N33/53 D
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170804
(22)【出願日】2021-10-19
(62)【分割の表示】P 2019130492の分割
【原出願日】2011-05-13
(31)【優先権主張番号】61/395,652
(32)【優先日】2010-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ワイスマン,アーヴィング エル.
(72)【発明者】
【氏名】マジェティ,ラビンドラ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒトにおける免疫原性が低い抗CD47抗体を提供する。
【解決手段】ヒト化又はキメラ抗CD47モノクローナル抗体が提供される。これらの抗体は、ヒトCD47に結合してヒトCD47を中和し、種々の治療法に使用される。好ましいのは、非活性化抗体である。本発明の実施形態は、1種又は複数のヒト化又はキメラ抗CD47モノクローナル抗体を含む、単離抗体並びにその誘導体及び断片、医薬製剤、並びにこれらのモノクローナル抗体を産生する細胞株を含む。これらの抗体のアミノ酸配列も提供される。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マクロファージは、食作用によって血流から病原体及び損傷又は老化した細胞を除去する。細胞表面CD47は、マクロファージ上のその受容体、SIRPαと相互作用して、正常で、健康な細胞の食作用を阻害する。CD47は、1つのIg様ドメイン及び5つの膜貫通領域を有する、広範に発現される膜貫通型糖タンパク質であり、SIRPαの細胞性リガンドとして機能し、結合がSIRPαのNH2末端のV様ドメインによって媒介される。SIRPαは、マクロファージ、顆粒球、骨髄性樹状細胞(DC)、肥満細胞及びそれらの前駆体(造血幹細胞を含む)を含む骨髄性細胞上で主に発現される。
【0002】
SIRPαは、マクロファージによる宿主細胞の食作用を阻害し、この場合、宿主標的細胞上で発現されるCD47によるマクロファージ上でのSIRPαのライゲーションによって、食作用を負に調節するSHP-1によって媒介される阻害シグナルが生じる。SIRPαは、「自己」により供給されるシグナルを検出するように作用して、これらの細胞に対する自然免疫エフェクター機能を負に制御する。
【0003】
正常細胞の食作用を阻害するCD47の役割と一致して、CD47が、造血幹細胞(HSC)及び前駆細胞上で、それらの遊走期(migratory phase)の直前及び遊走期の間に一過性にアップレギュレートされ、これらの細胞上でのCD47のレベルが、細胞がインビボで飲み込まれる確率を決定するという証拠がある。
【0004】
CD47はまた、骨髄性白血病を含む多くのがんにおいても構成的にアップレギュレートされる。骨髄性白血病細胞株におけるCD47の過剰発現は、この細胞株に食作用を回避させることによってその病原性を増加させる。本発明者らは、CD47のアップレギュレーションが、炎症によって媒介される動員の間に正常HSCを保護する重要なメカニズムであり、白血病前駆細胞が、マクロファージによる殺滅を回避するためにこの能力を組み入れていると結論づける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒトにおける免疫原性が低い抗CD47抗体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ヒト化又はキメラ抗CD47モノクローナル抗体に関する組成物と方法が、提供される。本発明の抗体は、ヒトCD47に結合してヒトCD47を中和し、種々の治療法に使用される。好ましいのは、非活性化抗体である。本発明の実施形態は、1種又は複数のヒト化又はキメラ抗CD47モノクローナル抗体を含む、単離抗体並びにその誘導体及び断片、医薬製剤、並びにこれらのモノクローナル抗体を産生する細胞株を含む。抗体のアミノ酸配列も、提供される。
【0007】
対象の抗体は、提供されるヒト化又はキメラ抗体及びそのバリアントを含む。本発明のモノクローナル抗体は、ヒトにおけるCD47と関連する疾患の診断及び免疫療法のための、特にがん療法における試薬として特に有用である。本発明のモノクローナル抗体の利点は、ヒト化プロセスから得られる。したがって、本発明のモノクローナル抗体の、免疫療法へのインビボでの使用は、抗体に対する著しい宿主免疫応答の問題を大いに低減する。
【0008】
種々の形態の抗体が、本明細書において企図される。例えば、抗CD47抗体は、例えば任意のアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgAなど)のヒト免疫グロブリンの定常領域を有する完全長キメラ若しくはヒト化抗体、又は抗体断片(例えば、F(ab’)2断片及びF(ab)断片など)であることができる。CDR領域を含む断片もまた、例えば画像化の目的のために興味深い。さらにまた、抗体は、検出可能な標識で標識し、固相上に固定化し、且つ/又は異種化合物とコンジュゲートさせることができる。抗体はまた、第2の抗原(特にがん抗原を含む)と反応性の二重特異性又は多重特異性抗体として提供することもできる。
【0009】
特に、CD47を発現する望ましくない細胞の検出及び排除に関する、抗体の診断的使用及び治療的使用が企図される。1つの診断的適用において、本発明は、がん細胞を発現するCD47の存在を決定する方法であって、がん細胞を発現するCD47を含有する疑いがある患者試料を抗CD47抗体に曝露するステップと、試料への抗体の結合を決定するステップとを含む方法を提供する。この使用のために、本発明は、抗体と抗体の使用説明書を含むキットを提供する。
【0010】
本発明の抗体は、疾患の処置に、例えば、CD47発現細胞の食作用を増加させるのに、特に効果的である。処置は全身的又は局所的であることができ、例えば、腫瘍内注入による送達などであることができる。
【0011】
本発明の実施形態は、本明細書中において提供される少なくとも1つの、通常は少なくとも3つのCDR配列を、通常はヒト可変領域からのフレームワーク配列と組み合わせて又は単離CDRペプチドとして含む、単離抗体及び誘導体並びにそれらの断片を含む。一部の実施形態において、抗体は、可変領域フレームワーク(限定するものではないが、ヒト又はマウス可変領域フレームワークであることができる)中に位置する、本明細書中において提供される3つの軽鎖CDR配列を含む少なくとも1つの軽鎖と、可変領域フレームワーク(限定するものではないが、ヒト又はマウス可変領域フレームワークであることができる)中に位置する、本明細書中において提供される3つの重鎖CDR配列を含む少なくとも1つの重鎖とを含む。
【0012】
他の実施形態において、抗体は、提供される抗体の1種又は複数のCDRのアミノ酸配列バリアントを含み、バリアントは、CDR残基内の若しくはそれに隣接した1つ若しくは複数のアミノ酸挿入、及び/又はCDR残基内の若しくはそれに隣接した1つ若しくは複数の欠失、及び/又は1つ若しくは複数のCDR残基の1つ若しくは複数の置換を含む(1つ又は複数の置換は、このようなバリアントを作製するための好ましい型のアミノ酸変化である)。このようなバリアントは通常、ヒトCD47への結合親和性が少なくとも約10-8Mであり、本明細書に示されるもののアミノ酸配列を有する抗体と同じエピトープと結合する。例えば、軽鎖CDR3を修飾して、脱アミド部位を変異させることができる。種々の形態の抗体が、本明細書において企図される。例えば、抗体は、例えば任意のアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgAなど)のヒト免疫グロブリンの定常領域を有する完全長抗体、又は抗体断片(例えば、F(ab’)2断片及びF(ab)断片など)であることができる。さらにまた、抗体は、検出可能な標識で標識し、固相上に固定化し、且つ/又は異種化合物とコンジュゲートさせることもできる。
【0013】
本発明はさらに、抗体及びそのバリアントをコードする単離核酸;ベクターによって形質転換された宿主細胞によって認識される制御配列に任意選択で操作可能に連結されているその核酸を含むベクター;そのベクターを含む宿主細胞;核酸が発現されるように宿主細胞を培養するステップと、任意選択で、宿主細胞培養物から(例えば、宿主細胞の培養培地から)抗体を回収するステップとを含む、抗体の産生方法を提供する。本発明はまた、1種又は複数のヒト抗CD47抗体と医薬として許容される担体又は希釈剤とを含む組成物を提供する。治療的使用のためのこの組成物は、無菌であり、凍結乾燥でき、例えば、希釈剤及び送達デバイス(例えば吸入器、シリンジなど)と共に単位用量でプレパッケージとして提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】B6H12重鎖可変領域(A)のアミノ酸配列を示す図である。相補性決定領域(CDR)は、図示される通りである。
【
図1B】B6H12軽鎖可変領域(B)のアミノ酸配列を示す図である。相補性決定領域(CDR)は、図示される通りである。
【
図2】精製されたB6H12タンパク質のSDS-PAGE分析を示す図である。精製されたキメラ及びヒト化B6H12を、SDS-PAGEによって非還元条件で分析した。分子量標準を、左側に示す。
【
図3A】CD47結合に関する、キメラB6H12抗体とマウスB6H12抗体との競合を示すグラフである。A.キメラB6H12は、ヒトCD47(YB2/0-CD47)が安定にトランスフェクトされたYB2/0細胞との結合に関して、マウスB6H12と競合した。ヒトIgG1抗体を、アイソタイプ対照として使用した。
【
図3B】CD47結合に関する、キメラB6H12抗体とマウスB6H12抗体との競合を示すグラフである。B.マウスB6H12は、トランスフェクトされたYB2/0細胞で発現されたヒトCD47との結合に関して、キメラB6H12と競合した。マウスIgG1を、アイソタイプ対照として使用した。
【
図4A】ヒト化B6H12重鎖可変領域(A)のヌクレオチド配列を示す図である。
【
図4B】ヒト化B6H12軽鎖可変領域(B)のヌクレオチド配列を示す図である。
【
図5】フローサイトメトリーによる、ヒトCD47との、キメラ及びヒト化B6H12抗体の結合の比較を示すグラフである。ヒトCD47が安定にトランスフェクトされたYB2/0細胞を、キメラB6H12、ヒト化B6H12又はヒトIgG1アイソタイプ対照抗体で染色した。結合された抗体を、PE標識二次抗体で検出した。
【
図6】ELISAによる、ヒトCD47との、キメラ及びヒト化B6H12抗体の結合の比較を示すグラフである。可溶性CD47結合活性を、ELISAによって、「材料及び方法」に記載されるようにして測定した。結合された抗体は、HRPにコンジュゲートされたヤギ抗ヒトκ抗体によって検出し、シグナルはOPTを用いて発色させた。
【
図7】キメラ及びヒト化B6H12抗体によって媒介された食作用を示すグラフである。CFSE標識HL-60細胞をマウス骨髄由来のマクロファージと共に、標的対エフェクター細胞比を4:1で、インキュベートした。2時間後に、マクロファージを、蛍光顕微鏡法によって画像化して、食作用を検出した。食作用指数(マクロファージ100個当たりの摂取標的細胞数)を、各条件について二重反復で決定した。スチューデントt検定を用いた、hIgG1アイソタイプ対照に対する各抗体の統計比較から、全ての抗体が食作用を統計的に有意に増加できることが示された(p値:マウスB6H12抗体:0.004;キメラB6H12抗体:0.04;及びヒト化B6H12抗体:0.003)。
【
図8A】ヒト化B6H12 VLとヒトVK3-11及びJK1とのアミノ酸アライメント、並びにヒト化B6H12 VHとヒトVH3-7及びJH4とのアミノ酸アライメントを示す図である。VH及びVLのフレームワーク及びCDR領域中の、ヒト化B6H12配列及びヒト生殖細胞系配列の異なるアミノ酸の数を表に要約する。
【
図8B】ヒト化B6H12 VLとヒトVK3-11及びJK1とのアミノ酸アライメント、並びにヒト化B6H12 VHとヒトVH3-7及びJH4とのアミノ酸アライメントを示す図である。VH及びVLのフレームワーク及びCDR領域中の、ヒト化B6H12配列及びヒト生殖細胞系配列の異なるアミノ酸の数を表に要約する。
【
図9A】5F9重鎖可変領域(A)のアミノ酸配列を示す図である。相補性決定領域(CDR)は、図示される通りである。
【
図9B】5F9軽鎖可変領域(B)のアミノ酸配列を示す図である。相補性決定領域(CDR)は、図示される通りである。
【
図10A】8B6重鎖可変領域(A)のアミノ酸配列を示す図である。相補性決定領域(CDR)は、図示される通りである。
【
図10B】8B6軽鎖可変領域(B)のアミノ酸配列を示す図である。相補性決定領域(CDR)は、図示される通りである。
【
図11】ELISAによる、ヒトCD47との、キメラ5F9及び8B6抗体の結合の比較を示すグラフである。可溶性CD47結合活性を、ELISAアッセイによって、既に記載されたようにして測定した。結合された抗体は、HRPにコンジュゲートされたヤギ抗ヒトκ抗体によって検出し、シグナルはOPTを用いて発色させた。
【
図12A】ヒト化5F9重鎖可変領域(A)の種々のバージョンの、生殖細胞系配列とのアミノ酸配列アライメントを示す図である。CDR領域は、赤でマークしてある。
【
図12B】ヒト化5F9軽鎖可変領域(B)の種々のバージョンの、生殖細胞系配列とのアミノ酸配列アライメントを示す図である。CDR領域は、赤でマークしてある。
【
図13】ELISAによる、ヒトCD47との、ヒト化及びキメラ5F9抗体の結合の比較を示すグラブである。可溶性CD47結合活性は、ELISAアッセイによって、既に記載されたようにして測定した。結合された抗体は、HRPにコンジュゲートされたヤギ抗ヒトκ抗体によって検出し、シグナルはOPTを用いて発色させた。
【
図14】5F9及び8B6の抗体によって誘発された食作用を示すグラフである。HL-60細胞を標的細胞として使用し、ヒト末梢血由来のマクロファージと共に、標的対エフェクター細胞比を4:1で、インキュベートした。各条件は、二重反復で行った。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、CD47に特異的なヒト化モノクローナル抗体に関する。また、このような抗体の核酸及びアミノ酸配列も開示される。これらの抗体は、CD47と関連する治療法及び診断法に用途を見出す。
【0016】
「処置」は、治療的処置(therapeutic treatment)及び予防対策又は防止対策を指す。処置を必要とする人々には、既に障害を持つ人々及び障害を予防しようとする人々が含まれる。
【0017】
処置の目的のための「哺乳動物」は、ヒト、飼育動物及び家畜、並びに動物園の動物、競技用動物又は愛玩動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどを含む、哺乳動物として分類されるあらゆる動物を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0018】
用語「抗体」は、最も幅広い意味で使用し、具体的には、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び所望の生物活性を示すならば、抗体断片を網羅する。「抗体」(Ab)と「免疫グロブリン」(Ig)は、同じ構造特性を有する糖タンパク質である。抗体は特異抗原に対して結合特異性を示すが、免疫グロブリンは、抗原と、抗原特異性がない他の抗体様分子との両方を含む。後者の種類のポリペプチドは、例えば、リンパ系によって、低レベルで、及び骨髄腫によって、増加されたレベルで産生される。
【0019】
本発明で使用する用語「エピトープ」は、抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原決定基を意味する。エピトープ決定基は通常、アミノ酸又は糖側鎖のような分子の、化学的に活性な表面集団(surface grouping)からなり、通常、特異的な三次元構造特性及び特異的な電荷特性を有する。
【0020】
「ネイティブ(の)(native)抗体及び免疫グロブリン」は通常、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖とからなる、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結されているが、ジスルフィド連結の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間では異なる。それぞれの重鎖及び軽鎖はまた、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)とそれに続くいくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)及びその他端に定常ドメインを有し、軽鎖定常ドメインは、重鎖第1の定常ドメインと位置合わせされ、軽鎖可変ドメインは、重鎖可変ドメインと位置合わせされている。特定のアミノ酸残基が、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの間に界面を形成すると考えられている(Clothiaら、J.Mol.Biol.186:651(1985年);Novotny及びHaber、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.82:4592(1985年))。
【0021】
用語「可変」は、可変ドメインのある特定の部分の配列が抗体間で大幅に異なるという事実を意味し、個々の抗原に対するそれぞれの個々の抗体の結合及び特異性に使用される。しかし、可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均等に分布しているのではない。それは、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインの両方において、相補性決定領域(CDR)又は高頻度可変領域と称される3つのセグメントに集中している。より高度に保存される、可変ドメインの部分を、フレームワーク(FR)と称する。ネイティブの重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインはそれぞれ、4つのFR領域を含む。FR領域は、主としてβシート配置をとり、3つのCDRによって接続されている。CDRはループを形成して、βシート構造を接続しており、場合によってはβシート構造の一部を形成している。各鎖のCDRは、FR領域によって近傍に一緒に保持され、他の鎖からのCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、National Institute of Health,メリーランド州ベセスダ(1991年)を参照のこと)。定常ドメインは、抗原への抗体の結合に直接関与しないが、種々のエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞毒性への抗体の関与を示す。
【0022】
例示的な抗CD47重鎖及び軽鎖組み合わせのCDR配列は、B6H12(配列番号3~8)、5F9(配列番号20~25)及び8B6(配列番号28~33)を含む配列表に示されている。一部の実施形態において、B6H12、5F9及び8B6に示されている、個々の重鎖及び軽鎖組み合わせのためのCDR配列は、組み合わせて保持される。即ち、ヒト化抗体は、B6H12重鎖CDR配列とB6H12重鎖CDR配列の両方、又は5F9重鎖CDR配列と5F9重鎖CDR配列の両方、又は8B6重鎖CDR配列と8B6重鎖CDR配列を含む。
【0023】
抗体のパパイン分解は、それぞれ1つの抗原結合部位を有する、「Fab」断片と称する2つの同一の抗原結合性断片と、名称が直ちに結晶するその能力を反映している残りの「Fc」断片とを生じる。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し且つ依然として抗原を架橋できる、F(ab’)2断片を生じる。
【0024】
「Fv」は、完全な抗原認識結合部位を含有する最小抗体断片である。二本鎖Fv種においては、この領域は、密接に非共有結合的に会合した1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。単鎖Fv種(scFv)においては、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインが、可動性ペプチドリンカーによって共有結合的に連結されることができ、それによって軽鎖と重鎖は、二本鎖Fv種における構造と類似した「二量体」構造で会合できる。この配置において、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体表面の抗原結合部位を限定する。6つのCDRが集団として、抗体に抗原結合特異性を与える。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、全結合部位より親和性が低いが、抗原を認識して結合する能力を有する。scFvの総説については、Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、Rosenburg及びMoore編、Springer-Verlag、ニューヨーク、269~315頁(1994年)を参照のこと。
【0025】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を含有する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの1つ又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端におけるいくつかの残基の付加によって、Fab断片とは異なる。本明細書において、Fab’-SHは、定常ドメインの1つ又は複数のシステイン残基が遊離のチオール基を有するFab’を示す。F(ab’)2抗体断片は元々、間にヒンジシステインを有する1対のFab’断片として産生された。抗体断片の他の化学的カップリングも知られている。
【0026】
免疫グロブリンには5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α、δ、ε、γ及びμと称される。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元配置は周知である。
【0027】
本明細書中で使用する「抗体断片」及びその全ての文法的な変形は、完全抗体の抗原結合部位又は可変領域を含む完全抗体(intact antibody)の部分であって、完全抗体のFc領域の定常重鎖ドメイン(即ち、抗体のアイソタイプによって、CH2、CH3及びCH4)を含まない部分と定義する。抗体断片の例には、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2及びFv断片;ダイアボディ;連続したアミノ酸残基の中断されていない1つの配列からなる一次構造を有するポリペプチドである任意の抗体断片(本明細書中において、「単鎖抗体断片」又は「単鎖ポリペプチド」と称する)、例えば、限定するものではないが、(1)単鎖Fv(scFv)分子、(2)重鎖部分を伴わない、1つの軽鎖可変ドメインのみを含有する単鎖ポリペプチド、又は軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含有するその断片、並びに(3)軽鎖部分を伴わない、1つの重鎖可変領域のみを含有する単鎖ポリペプチド、又は重鎖可変領域の3つのCDRを含有するその断片を含むもの;並びに抗体断片から形成される多重特異性又は多価構造が含まれる。1つ又は複数の重鎖を含む抗体断片において、1つ若しくは複数の重鎖は、完全抗体の非Fc領域に見出される任意の定常ドメイン配列(例えば、IgGアイソタイプ中のCH1)を含有することができ、及び/或いは完全抗体に見出される任意のヒンジ領域配列を含有することができ、及び/或いはヒンジ領域配列又は1つ若しくは複数の重鎖の定常ドメイン配列に融合された又は位置するロイシンジッパー配列を含有することができる。
【0028】
特に反対のことが示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲中に記載する用語「コンジュゲート」は、1つ又は複数のポリマー分子への1つ又は複数の抗体断片の共有結合的付着(covalent attachment)によって形成される不均一分子であって、水溶性、即ち、血液などの生理液中に可溶性であり且ついかなる構造的な集合体も含まない不均一分子と定義する。対象のコンジュゲートは、PEGである。前述の定義に関連して、用語「構造的な集合体」は、(1)不均一分子が、ミセル又は他のエマルジョン構造でなく且つ脂質二重層、小胞又はリポソームに固定されていないような、回転楕円体又は回転楕円体シェル構造を有する、水溶液中の任意の分子集合体、及び(2)固形又は不溶化された形態の任意の分子集合体、例えば、水相との接触時に不均一分子を放出して溶液になることのないクロマトグラフィービーズマトリックスを指す。したがって、本明細書中で定義する用語「コンジュゲート」は、沈殿物、沈降物、生体内分解性マトリックス、又は固体の水和時に不均一分子を放出して水溶液となり得る他の固体中の上記不均一分子を網羅する。
【0029】
本明細書中で使用する用語「モノクローナル抗体」(mAb)は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体に指す。即ち、この集団を含む個々の抗体は、微量で存在し得る、起こり得る自然発生突然変異を除いて、同一である。モノクローナル抗体は非常に特異的であって、単一の抗原部位に対して作られる。各mAbは、抗原上の単一の決定基に対して作られる。モノクローナル抗体は、それらの特異性に加えて、他の免疫グロブリンによって汚染されないハイブリドーマ培養によって合成できる点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られるという抗体の特徴を示し、なんらかの特定の方法による抗体の産生を必要とするものと解釈すべきでない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、不死化B細胞若しくはそのハイブリドーマ中で産生することもできるし、又は組換えDNA法によって産生することもできる。
【0030】
本明細書中におけるモノクローナル抗体には、抗CD47抗体の可変ドメイン(高頻度可変ドメインを含む)を定常ドメイン(例えば、「ヒト化」抗体)にスプライシングすることによって、若しくは軽鎖を重鎖にスプライシングすることによって、若しくは1つの種からの鎖を別の種からの鎖にスプライシングすることによって、又は異種タンパク質(由来する種又は免疫グロブリン種類の種若しくはサブクラスの指定に関係なく)との融合によって産生されたハイブリッド抗体及び組換え抗体、並びに所望の生物活性を示すならば抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)2及びFv)が含まれる。
【0031】
本明細書中におけるモノクローナル抗体には、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応配列と同一であるか又は相同であるが、残りの1つ又は複数の鎖が、別の種に由来する又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応配列と同一であるか又は相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びに所望の生物活性を示すならば、このような抗体の断片が含まれる。
【0032】
「単離(された)」抗体は、その自然環境の成分から同定され、分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分は、抗体の診断的又は治療的使用を妨げるであろう材料であり、例としては、酵素、ホルモン及び他のタンパク溶質又は非タンパク溶質が挙げられる。一部の実施形態において、抗体は、(1)ローリー法によって決定して、抗体が75重量%超、最も好ましくは80重量%超、90重量%超若しくは99重量%超となるまで、又は(2)SDS-PAGEによって還元若しくは非還元条件下でクマシーブルー、若しくは好ましくは銀染色を使用して均一となるまで、精製する。抗体の自然環境の少なくとも1種の成分が存在しないので、単離抗体は、組換え細胞内のその場の抗体を含む。しかし、通常、単離抗体は、少なくとも1つの精製ステップによって調製される。
【0033】
用語「エピトープタグを付けた」は、本明細書中で使用する場合、「エピトープタグ」に融合された抗CD47抗体を指す。エピトープタグポリペプチドは、抗体が産生され得るエピトープを提供するのに十分な残基を有するが、十分に短いので、CD47抗体の活性を妨げない。エピトープタグは、好ましくは十分に独特であり、したがってエピトープに特異的な抗体は、他のエピトープで実質的に交差反応しない。好適なタグポリペプチドは、一般に少なくとも6個のアミノ酸残基、通常は約8~50個のアミノ酸残基(好ましくは約9~30個の残基)を有する。例としては、c-mycタグ並びにそれに対する8F9、3C7、6E10、G4、B7及び9E10抗体(Evanら、Mol.Cell.Biol.5(12):3610~3616頁(1985年))、並びに単純疱疹ウイルス糖タンパク質D(gD)タグ及びその抗体(Paborskyら、Protein Engineering 3(6):547~553頁(1990年))が挙げられる。
【0034】
用語「標識」は、本明細書中で使用する場合、抗体に直接的に又は間接的にコンジュゲートされる、検出可能な化合物又は組成物を指す。標識自体が単独で検出可能なこともあるし(例えば、放射性同位元素標識又は蛍光標識)、又は酵素標識の場合には、標識が、検出可能な基質化合物若しくは組成物の化学的変化を触媒することもある。
【0035】
「固相」とは、本発明の抗体が接着することができる非水溶性マトリックスを意味する。本明細書に包含される固相の例には、ガラス(例えば、細孔制御ガラス)、多糖類(例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンから一部分に又は全体が形成されるものが含まれる。特定の実施形態においては、状況によって、固相は、アッセイプレートのウェルを含むことができ、他の実施形態では、これは精製カラム(例えば、アフィニティークロマトグラフィーカラム)である。この用語はまた、離散粒子の不連続固相、例えば、米国特許第4,275,149号に記載されたものを含む。
【0036】
ポリペプチド
一態様において、本発明は、CD47と特異的に反応性で、CD47を中和するヒト化又はキメラモノクローナル抗体、及びこのような抗体を産生する細胞株を対象とする。例示的な抗体の可変領域が提供される。対象の抗体には、これらの提供される組み合わせ、及び適当な定常領域又は定常領域の断片への可変領域の融合物(例えば、F(ab)’抗体を作製するもの)が含まれる。対象の可変領域には、提供される抗CD47抗体の少なくとも1つのCDR配列が含まれ、CDRはアミノ酸が3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個又はそれ以上であることができる。或いは、対象の抗体には、提供される抗体において示される可変領域、又は本明細書中に示される可変領域配列の対が含まれる。
【0037】
一部の実施形態において、対象のポリペプチドは、アミノ酸少なくとも約10個、アミノ酸少なくとも約15個、アミノ酸少なくとも約20個、アミノ酸少なくとも約25個、アミノ酸少なくとも約30個の、提供される完全な可変領域までの連続した配列を有する。対象のポリペプチドはまた、本明細書中に示されるアミノ酸配列と比較して、アミノ酸が最高1個、最高2個、最高3個、最高4個、最高5個、最高6個又はそれ以上異なる可変領域配列を含む。他の実施形態において、対象のポリペプチドは、本明細書中に示されるアミノ酸配列と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%一致している。
【0038】
Fabに加えて、より小さい抗体断片、及びCD47の少なくとも1つのエピトープに対する結合特異性を有するエピトープ結合性ペプチドもまた、本発明によって企図され、これもまた、本発明の方法に使用できる。例えば、単鎖抗体は、参照によって全て本明細書中に組み込まれる、米国特許第4,946,778号(Ladnerら)の方法に従って作製できる。単鎖抗体は、可動性リンカー部分によって連結される軽鎖及び重鎖の可変領域を含む。さらに小さいのは、単離VH単一ドメインを含む、単一ドメイン抗体として知られる抗体断片である。由来する完全抗体の結合特異性の少なくとも一部を有する単一ドメイン抗体を得るための技術は、当技術分野で知られている。例えば、Wardらは、「Binding Activities of a Repertoire of Single Immunoglobulin Variable Domains Secreted from Escherichia coli」、Nature 341:644~646頁において、標的エピトープに対して充分な親和性を有しており、その標的エピトープに結合される抗体重鎖可変領域(H単一ドメイン抗体)を、単離形態で得るためのスクリーニング方法を開示している。
【0039】
本発明はまた、ヒト化又はキメラ抗CD47抗体をコードする単離核酸、前記核酸を含むベクター及び宿主細胞、並びに前記抗体を産生するための組換え体技術を提供する。対象の核酸は、提供される核酸配列と少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%同一か、又は同一であることができる。一部の実施形態において、少なくとも約20nt、少なくとも約25nt、少なくとも約50nt、少なくとも約75nt、少なくとも約100ntであって、提供される完全な配列までの、配列番号1~6の任意の1つに示される、連続したヌクレオチド配列を使用できる。このような連続した配列は、CDR配列をコードすることもできるし、又は完全な可変領域をコードすることもできる。当技術分野で知られているように、可変領域配列は、任意の適当な定常領域配列に融合させることができる。
【0040】
抗体の組換え体産生の場合は、抗体をコードする核酸を、複製可能なベクター中に挿入して、さらなるクローニング(DNAの増幅)又は発現を行う。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子と特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)、容易に単離し、配列決定する。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分には一般に、以下:シグナル配列、複製起点、1種又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター及び転写終結配列の1種又は複数が含まれるが、これに限定するものではない。
【0041】
本発明の抗CD47抗体は組換えによって、直接的に産生できるだけでなく、シグナル配列、又は成熟タンパク質若しくはポリペプチドのN末端に特異的な切断部位を有する他のポリペプチド、免疫グロブリン定常領域配列などを含む、異種又は同種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとして産生できる。選択される異種シグナル配列は好ましくは、宿主細胞によって認識及びプロセシングされるもの(即ち、シグナルペプチダーゼによって切断されるもの)であることができる。ネイティブの抗体シグナル配列を認識及びプロセシングしない原核生物宿主細胞の場合は、シグナル配列は、選択される原核生物シグナル配列によって置換される。
【0042】
「単離(された)」核酸分子は、抗体核酸の天然供給源において通常随伴している少なくとも1種の汚染核酸分子から同定及び分離された核酸分子である。単離核酸分子は、自然界で見出される形態又は設定以外のものである。したがって、単離核酸分子は、天然細胞中に存在する核酸分子とは識別される。しかし、単離核酸分子には、抗体を通常発現する細胞中に含有される核酸分子が含まれ、その場合、例えば、核酸分子は、天然細胞の場合とは異なる染色体上の位置にある。
【0043】
DNAをクローニング又は発現するのに好適な宿主細胞は、原核生物、酵母又はより高等の真核生物の細胞である。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、以下の通りである:SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎細胞株(懸濁培養で増殖のためにサブクローニングされた293又は293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.36:59(1977年));ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980年));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.23:243~251頁(1980年));サル腎細胞(CV1、ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頚癌細胞(ヒーラ(HELA)、ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TR1細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.383:44~68頁(1.982));MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒトヘパトーマ細胞株(Hep G2)。宿主細胞は、抗CD47抗体産生のための前記発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターの誘導に適当なように変更された従来の栄養培地中で培養し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅する。
【0044】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製でき、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプによって決まる。プロテインAは、ヒトγ1、γ2又はγ4重鎖をベースとする抗体を精製するのに使用できる(Lindmarkら、J.Immunol.Meth.62:1~13頁(1983年))。プロテインGは、ヒトγ3に推奨される(Gussら、EMBO J.5:1567~1575頁(1986年))。親和性リガンドを付着させるマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。機械的に安定なマトリックス、例えば、細孔制御ガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースによって達成できるよりも、速い流速及び短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合には、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker、ニュージャージー州フィリップスバーグ)が精製に有用である。タンパク質精製の他の技術、例えば、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)でのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)でのクロマトグラフィー、等電点電気泳動、SDS-PAGE及び硫酸アンモニウム沈殿も、回収される抗体によっては利用可能である。
【0045】
任意の1つ又は複数の予備精製ステップの後に、対象の抗体及び汚染物質を含む混合物を、約2.5~4.5のpHの溶出緩衝液を用いて、好ましくは低い塩濃度(例えば、約0~0.25Mの塩)で実施される低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供することができる。
【0046】
使用方法
本発明のヒト化又はキメラモノクローナル抗体は、参照によって全体が本明細書中に具体的に組み込まれる国際出願US2009/000319に記載された方法を含む、食作用の調節に使用できる。例えば、抗体組成物は、CD47を発現するがん細胞の食作用を増加させるために投与することができる。
【0047】
本発明のヒト化又はキメラモノクローナル抗体は、CD47疾患の治療法の経過を監視するのに、インビトロ及びインビボで使用できる。したがって、例えば、CD47を発現する細胞、特にCD47を発現するがん細胞の数の増加又は減少を測定することによって、疾患の寛解を目的とする個々の最適治療計画が有効であるか否かを判定することができる。
【0048】
本発明のモノクローナル抗体は、それらを液相で利用できる又は固相担体に結合させることができるイムノアッセイにおいてインビトロで使用できる。さらに、モノクローナル抗体は、これらのイムノアッセイにおいて、種々の方法で検出可能に標識できる。本発明のモノクローナル抗体を利用できるイムノアッセイの型の例は、フローサイトメトリー、例えば、FACS、MACS、免疫組織化学、競合イムノアッセイ及び非競合イムノアッセイ(直接式又は間接式のいずれか)などである。本発明のモノクローナル抗体を使用する抗原の検出は、順方向、逆方向又は同時モードのいずれかで行われるイムノアッセイ、例えば、生理的試料についての免疫組織化学的なアッセイを利用して行うことができる。当業者ならば、他のイムノアッセイ形式を知っているか、又は必要以上の実験を行うことなく、他のイムノアッセイ形式を容易に見つけることができる。
【0049】
本発明のモノクローナル抗体は、多くの様々な担体に結合させ、CD47発現細胞の存在の検出に使用できる。周知の担体の例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然及び修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース及びマグネタイトが挙げられる。担体の性質は、本発明の目的のため、可溶性又は不溶性のいずれであってもよい。当業者ならば、モノクローナル抗体を結合するのに好適な他の担体を知っているか、又はルーチン実験を使用してそれを確認することができる。
【0050】
多くの様々な標識及び標識方法が当業者に知られており、それらは、治療的方法における、診断方法に使用するためなどのトレーサーとして用途を見出している。診断目的では、標識は、本発明の抗体又はその断片、例えば、CDR配列からなる又はCDR配列を含む断片に共有結合的に又は非共有結合的に付着させることができる。本発明に使用できる標識の型の例には、酵素、放射性同位元素、蛍光化合物、コロイド金属、化学発光化合物及び生物発光化合物が含まれる。当業者ならば、本発明のモノクローナル抗体と結合させるのに好適な他の標識を知っており、又はルーチン実験を使用してそれを確認できる。さらにまた、本発明のモノクローナル抗体へのこれらの標識の結合は、当業者には一般的な標準技術を使用して行うことができる。
【0051】
一部の実施形態において、抗体又はその断片は、例えば画像化に使用するための、ナノ粒子に付着させる。有用なナノ粒子は、当技術分野で知られているもの、例えば、限定するものではないが、ラマン-シリカ-金-ナノ粒子(R-Si-Au-NP)である。R-Si-Au-NPは、金コアに吸着された、狭帯域スペクトルシグネチャーを有するラマン有機分子からなる。ラマン有機分子は変化し得るので、各ナノ粒子は自身のシグネチャーを保有でき、その結果、多重ナノ粒子を独立して、同時に多重化によって検出することができる。ナノ粒子全体を、シリカシェルに封入して、ラマン有機分子を金ナノコア上に保持する。R-Si-Au-NPを任意選択でポリエチレングリコール(PEG)化すると、それらのバイオアベイラビリティが増加し、標的部分を付着するための機能的な「ハンドル」が得られる(Thakorら(2011年)Sci Transl Med.3(79):79ra33;Jokerstら(2011年)Small.7(5):625~33頁;Gaoら(2011年)Biomaterials.32(8):2141~8頁を参照のこと;これらはいずれも、参照することによって本明細書中に具体的に組み込まれる)。
【0052】
本発明の目的のため、CD47は、体液中及び組織上に存在する場合、インビボ又はインビトロで、本発明のモノクローナル抗体によって検出することができる。検出可能な量のCD47を含有するあらゆる試料を使用できる。試料は、尿、唾液、脳脊髄液、血液、血清などのような液体、又は組織、糞便などのような固体若しくは半固体、或いは組織学的診断で一般的に使用されるもののような固形組織であることができる。
【0053】
より大きな感度をもたらすことができる別の標識技術は、抗体を低分子量ハプテンにカップリングさせることからなる。次に、これらのハプテンは、二次反応によって特異的に検出できる。例えば、アビジンと反応するビオチン、又は特異的抗ハプテン抗体と反応し得るジニトロフェノール、ピリドキサール若しくはフルオレセインなどのハプテンを使用するのが一般的である。
【0054】
便宜上、本発明の抗体は、キット、即ち、診断的アッセイを行うための、所定量の試薬と取扱説明書とのパッケージ化された組み合わせで提供することができる。抗体を酵素で標識する場合、キットは、酵素に必要な基質及び補因子(例えば、検出可能な発色団又はフルオロフォアを生じる基質前駆体)を含む。さらに、安定剤、緩衝剤(例えば、遮断用緩衝剤又は溶解用緩衝剤)などのような他の添加剤を含ませてもよい。種々の試薬の相対量は、アッセイの感度を実質的に最適化する、試薬の溶液中濃度を生じるように広範囲に変化させることができる。特に、試薬は、溶解時に適当な濃度を有する試薬溶液を提供する賦形剤を含む、通常は凍結乾燥された乾燥粉末として提供できる。
【0055】
本発明の1種又は複数の抗体を含む治療製剤は貯蔵のために、所望の純度を有する抗体と、任意選択の生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定剤とを混合する(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol,A.編(1980年))ことによって、凍結乾燥された製剤又は水溶液の形態で調製される。抗体組成物は、良好な医療行為と適合するように、配合し、一回分ずつに分け、投与する。これに関連して考慮すべき因子としては、処置されるその障害、処置されるその哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール及び医師に知られている他の因子が挙げられる。投与される抗体の「治療有効量」は、このような考慮すべき事柄によって左右され、CD47関連疾患を予防する必要な最小量である。
【0056】
治療用量は、少なくとも約0.01μg/kg体重、少なくとも約0.05μg/kg体重、少なくとも約0.1μg/kg体重、少なくとも約0.5μg/kg体重、少なくとも約1μg/kg体重、少なくとも約2.5μg/kg体重、少なくとも約5μg/kg体重であって、約100μg/kg体重以下であることができる。例えば、抗体断片の使用又は抗体コンジュゲートの使用においては、このような指針が、活性薬剤の分子量に関して調整されることは、当業者ならばわかる。投与量は、局在投与、例えば、鼻腔内投与、吸入投与などによっても、又は全身投与、例えば、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与などによっても異なり得る。
【0057】
活性を増強する又はそうでない場合には治療効果を増大する1種又は複数の薬剤と抗体との配合は必要ではないが、任意選択で行われる。これらは一般に、同じ投与量で、上記で使用された投与経路によって使用されるか、又はこれまで使用された投与量の約1~99%で使用される。
【0058】
許容される担体、賦形剤又は安定剤は、使用される投与量及び濃度でレシピエントに対して無毒であり、その例としては、緩衝剤、例えば、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸;酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸及びメチオニン;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド(octadecyidimethylbenzyl ammonium chloride);塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルパラベン又はプロピルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(残基約10個未満)のポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン若しくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン;単糖類、二糖類、及び他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース若しくはデキストリン;キレート化剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース若しくはソルビトール;塩形成性対イオン、例えば、ナトリウムイオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はノニオン界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)若しくはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。インビボ投与に使用される製剤は、滅菌しなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に行われる。
【0059】
有効成分は、例えば、コアセルベーション技術によって若しくは界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース若しくはゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル中に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)中に、又はマクロエマルジョン中に封入してもよい。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol,A.編(1980年)に開示されている。
【0060】
抗CD47抗体は、非経口的投与、皮下投与、腹膜内投与、肺内投与及び鼻腔内投与を含む任意の好適な手段によって投与する。非経口注入としては、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹膜内投与又は皮下投与が挙げられる。さらに、抗CD47抗体は好適には、パルス注入によって、特に抗体の用量を次第に減少させて投与する。
【0061】
疾患の予防又は処置の場合、抗体の適当な投与量は、前記で定義した処置される疾患の型、疾患の重症度及び経過、抗体が予防目的で投与されるかどうか、以前の治療法、患者の病歴及び抗体に対する応答、並びに主治医の裁量によって決まる。抗体は好適には、患者に一度に又は一連の処置の間中、投与する。
【0062】
本発明の別の実施形態において、前述の障害の処置に有用な材料を含有する製品が提供される。製品は、容器及びラベルを含む。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ及び試験管が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの種々の材料から形成されることができる。容器は、状態の処置に有効な組成物を収容するものであり、滅菌アクセスポートを有することができる(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈注射用溶液バッグ又はバイアルであることができる)。組成物中の活性薬剤は、抗CD47抗体である。容器上の又は容器に付随するラベルは、選択された状態の処置に組成物が使用されることを示す。製品は、医薬として許容される緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液及びデキストロース溶液を含む第2の容器をさらに含んでいてもよい。製品は、商業的観点及び使用者の観点から望ましい他の材料、例えば、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ及び使用説明書を含む添付文書をさらに含んでいてもよい。
【0063】
次に本発明を十分に説明するので、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正を行えることは、当業者には明らかであろう。
【0064】
実験
以下の実施例は、本発明の製造方法及び使用方法についての完全な開示及び説明を当業者に提供するために示すものであって、本発明者らが自身の発明と考えるものの範囲を限定することも、下記の実験が実施した実験の全て又は実施した唯一の実験であることを意味することも意図しない。使用する数値(例えば、量、温度など)に関しては精度を保証するよう努めたが、若干の実験誤差及び偏差は考慮に入れなければならない。特に明記しない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。
【0065】
本明細書中で引用した全ての刊行物及び特許出願は、個々の刊行物又は特許出願がそれぞれ参照によって具体的且つ個別に組み込まれていることが示されているかのように、参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0066】
本発明は、本発明者が本発明の実施のための好ましい態様を含むことを見出し又は提示した特定の実施形態に関して記載されている。当業者ならば、本開示を踏まえて、本発明の意図される範囲から逸脱することなく、例示された特定の実施形態に多くの修正及び変更を加えることができることがわかるであろう。例えば、コドン冗長性(redundancy)のため、タンパク質配列に影響を及ぼすことなく、基礎をなすDNA配列に変更を加えることができる。さらに、生物学的機能の同等性が考慮されるため、生物学的作用に種類又は量の点で影響を及ぼさずに、タンパク質構造に変更を加えることもできる。このような修正は全て、添付した特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【実施例0067】
ヒトCD47に対するモノクローナル抗体のクローニング及び作製
本発明者らはここで、ヒトCD47に対するモノクローナル抗体のクローニング、作製及び発現について説明する。ヒトCD47に対する機能的阻害抗体、B6H12を分泌するマウスハイブリドーマ細胞株から、総RNAを調製し、Ig特異的オリゴヌクレオチドを用いてcDNAに転換した。cDNA断片をコードする重鎖及び軽鎖を単離し、配列決定した。次いで、マウスV領域cDNA断片をヒト免疫グロブリン定常領域に連結することによって、キメラ遺伝子を作製した。競合FACS分析によれば、キメラB6H12は、CD47とのネイティブマウスB6H12抗体の結合を阻害した。これは、キメラ及びマウスB6H12抗体が、CD47の同じエピトープを認識することを立証している。さらにまた、本発明者らは、ヒト化B6H12抗体を設計し、CDR移植によって作製した。ヒト化B6H12抗体は、キメラB6H12に相当するCD47結合を示した。キメラ及びヒト化B6H12抗体はいずれも、インビトロでがん細胞の食作用を可能にする。本発明者らは、キメラ及びヒト化抗体は、抗がん療法の一部としてヒト患者に投与される場合に、ネイティブマウス抗体より免疫原性が低いと予想する。
【0068】
本発明者らは、抗原特異的モノクローナル抗体を用いて、CD47の白血病幹細胞優先発現を確認及び検証した。CD47は、広範に発現される膜貫通型タンパク質であるが、本発明者らは、CD47が、AML LSCではその正常なカウンターパートより高発現されること、及びCD47発現の増加により、成人AML患者の3つの独立したコホートにおける全生存期間が短いことが予測されることに気付いた。CD47は、シグナル調節タンパク質α(SIRPα)のリガンドの役割を果たし、SIRPαは、マクロファージ及び樹枝状細胞を含む食細胞で発現され、活性化された場合にシグナル伝達カスケードを開始し、その結果、食作用を阻害する。本発明者らがCD47に対する阻害モノクローナル抗体を使用すると、それはインビボで優先的にAML LSCの食作用を可能にし、それらの生着を阻害した。さらにまた、ヒトAML LSC生着マウスを抗CD47抗体で処置すると、AMLがほとんどなくなり、AML LSCが標的となった。これらの結果は、AML及び他のがんに対する単独療法又は併用療法としての抗CD47モノクローナル抗体の理論的根拠を確証している。
【0069】
ここで、本発明者らは、B6H12由来のヒトIgG1キメラモノクローナル抗体、及びCDR移植によって改変されたヒト化B6H12抗体の単離、合成及び作製について報告する。本発明者らは、ヒトγ1及びκ定常領域に融合された重鎖及び軽鎖の可変領域をそれぞれコードするcDNAからなるキメラ及びヒト化免疫グロブリン遺伝子の作製について記載する。これらの遺伝子を哺乳動物細胞に導入することにより、ヒトCD47を結合し且つ標的細胞の食作用を引き起こすことができる機能的キメラ及びヒト化抗体が産生された。
【0070】
材料及び方法
抗体Vのクローニング及び配列決定。ここで使用したクローニングストラテジーは、ハイブリドーマ細胞(Qiagen)からのRNAの最初の単離及びcDNAの調製を含む。B6H12モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖可変領域をコードするcDNA配列を、5’RACE-PCR技術(Clontech)を用いて取得し、標準なDNA配列決定法を用いて配列決定した。
【0071】
B6H12/hIgG1キメラ抗体の作製。発現ベクター中でB6H12の重鎖及び軽鎖可変領域を作製するために、以下のプライマーを用いた:
VHセンスプライマー、
5’CAGACCCGTCGACATGAACTTCGGGCTCAGCTTGATTTTCCTT3’
VHアンチセンスプライマー、
5’GCCCTTGGTGCTAGCTGAGGAGACGGTGACTGAGGTTCCTTGACC3’
VLセンスプライマー、
5’CGCCATCACAGATCTATGGTGTCCACTTCTCAGCTCCTTGGACTT3’
VLアンチセンスプライマー、
5’TGCAGCCACCGTACGTTTGATTTCCAGCTTGGTGCCTCCACCGAA3’。
次いで、クローン化pfu DNAポリメラーゼ(Invitrogen)を用いて、PCRを行った。これらのPCR産物を、VHについてはSalI/NheI及びVLについてはBglII/BsiwIによって切断し、それぞれSalI/NheI又はBglII/BsiwIによって消化されるヒトγ1及びκ定常領域をコードする発現ベクター中にライゲートさせた。全てのコンストラクトを配列決定して、配列適合度を確認した。
【0072】
分子モデル化。マウス抗体からのCDR残基を人間の生殖細胞系フレームワーク(FR)配列に組み込むことによって、マウス抗CD47 B6H12抗体のヒト化を行った。簡潔に言えば、相当するCDR残基及び数個のFR残基の、ヒト配列への適切なリクルートメントによって、マウスB6H12をヒト化した。マウスB6H12とヒトFR残基間の差異を個別にモデル化して、CDRコンフォメーションに対するそれらの考えられる影響を検討した。ヒト化VH及びVL遺伝子は、McLab(カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)によって合成された。
【0073】
細胞のトランスフェクション及び安定な細胞株の確立。DMRIECトランスフェクション試薬(Invitrogen)を用いて製造業者の取扱説明書に従って、CHOS細胞に発現コンストラクトをトランスフェクトすることにより、キメラ又はヒト化B6H12を発現する安定な細胞株を確立した。3日後に、トランスフェクトされた細胞を、500μg/mlのG418下で選択した。安定なクローンは、96ウェルプレート中での限界希釈によって単離した。抗体を分泌する能力についてG418耐性クローンをスクリーニングするために、トランスフェクトされた細胞の上清を、ELISAによって試験した。簡潔に言えば、96ウェルプレート(Nunc、Roskilde、デンマーク)に、PBS中1μg/mlのヤギ抗ヒトFcγ抗体を4℃において16時間コーティングした。室温で1時間、PBS中0.4%BSAで遮断後、単離された上清を1/3連続希釈で加え、室温で1時間インキュベートした。続いて、プレートを3回洗浄し、HRPコンジュゲートヤギ抗ヒトκ-特異抗体と共に室温で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートを、OPTを用いて発色させた。反応を2M H2SO4で停止させ、ODを520nMで測定した。陽性クローンをさらに増殖させ、発現をELISAによって確認した。
【0074】
抗体の精製及び特性決定。培養上清を、プロテインG Sepharoseカラムに適用した。カラムを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH8.0で洗浄し、次いでプロテインを溶出用緩衝液(グリシンpH2.0)で溶出させた。溶出された画分を、中和用緩衝液(2M Tris-HCl、pH8.0)を含有する管に収集して、pHを約7.0に調整した。最後に、精製された試料を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析した。溶出された抗体画分の純度を、10%ゲル上におけるドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって還元条件又は非還元条件下で分析した。バンドは、クーマシーブリリアントブルー染色によって可視化した。
【0075】
ELISAによる結合特異性。マイクロタイタープレートに、PBS中1.0μg/mlの精製ヒトCD47Fc融合タンパク質100μlをコーティングし、次いでPBS中0.4%BSA 100μlで遮断した。B6H12キメラ又はヒト化抗体の希釈溶液を各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。陽性対照として既知のマウス抗CD47抗体を使用し、アイソタイプ対照としてヒトIgG1を使用した。プレートを、PBS/Tweenで洗浄し、次いで、西洋わさびペルオキシダーゼにコンジュゲートされたヤギ抗ヒトκ-特異的二次試薬と共に室温で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートを、OPT基質によって発色させ、OD520nmにおいて分析した。
【0076】
FACSによる結合特異性。ヒトCD47で安定してトランスフェクトされたYB2/0細胞を、種々の量のキメラB6H12、ヒト化B6H12又はヒトIgG1アイソタイプ対照抗体と共に氷上で1時間インキュベートした。細胞を、FACS緩衝液(0.5%BSA及び0.05%NaN3を含有するPBS)で3回洗浄した。PE標識ヤギ抗ヒト抗体を二次抗体として加え、試料を氷上でさらに1時間インキュベートした。試料を洗浄し、FACSAria(Becton-Dickinson、米国カリフォルニア州サンノゼ)を用いて分析した。
【0077】
FACSによる競合結合アッセイ。マウス抗体B6H12又はアイソタイプ対照抗体による、ヒトCD47に対するキメラB6H12抗体の結合阻害を、FACSを用いて測定した。CD47をトランスフェクトしたYB2/0細胞を収集し、FACS緩衝液(0.5%BSA及び0.05%NaN3を含有するPBS)で2回洗浄した。次いで、キメラB6H12を最終濃度1μg/mlで、種々の量のマウスB6H12抗体又はアイソタイプ対照抗体と共に細胞に加え、氷上で1時間インキュベートした。同様に、ヒトCD47に対するマウスB6H12抗体の結合阻害を、種々の量のキメラB6H12又はアイソタイプ対照抗体を加えることによって測定した。試料をFACS緩衝液によって洗浄し、PE標識ヤギ抗ヒト抗体又は抗マウス抗体を加え、試料を氷上でさらに1時間インキュベートした。試料を洗浄し、FACSAria(Becton-Dickinson、米国カルフォルニア州サンノゼ)を用いて分析した。
【0078】
インビトロ食作用アッセイ。HL-60細胞を、CFSEで標識し、マウス骨髄由来マクロファージと共に、10μg/mlのIgG1アイソタイプ対照、マウスB6H12、キメラB6H12又はヒト化B6H12抗体の存在下で2時間インキュベートした。次いで、細胞を蛍光顕微鏡法によって分析して、食作用指数(マクロファージ100個当たりの摂取細胞数)を決定した。GraphPad Prismを用いて、スチューデントt検定を使用した統計分析を行った。
【0079】
結果
マウスB6H12可変領域のクローニング。ユニバーサル抗体プライマーを用いて、抗CD47 B6H12ハイブリドーマから、重鎖及び軽鎖可変領域をコードするクローンを成功裏に単離した。各V遺伝子産物の複数のクローンを配列決定して、PCRによって誘発されたエラーをモニターした。VH配列及びVL配列はそれぞれ、
図1A及び1Bに示される。産物のDNA配列分析により、B6H12の重鎖がIgh-v7183 VH5ファミリーのVセグメントを使用すること、及び軽鎖がIGKV23サブグループに属することが立証された。重鎖可変領域は、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含み、軽鎖可変領域は、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む(
図1)。
【0080】
B6H12キメラ抗体の産生及び特性決定。キメラB6H12抗体のための発現ベクターを作製するために、NH
2末端にそのネイティブシグナルペプチド配列を含むB6H12の重鎖可変領域をヒトγ1重鎖の定常領域に融合させ、次いで哺乳動物の発現ベクター中にクローニングした。同様に、NH
2末端にそのネイティブシグナルペプチド配列を含むB6H12の軽鎖可変領域をヒトκ軽鎖の定常領域に融合させ、B6H12重鎖をコードするベクター中に導入した。次に、得られた単一の発現ベクターを、哺乳動物細胞にトランスフェクトした。発現されたキメラB6H12抗体を精製し、SDS-PAGE分析によって調べた。予想通り、非還元条件下で、分子量約150kDaの1つのシングルバンドが観察された(
図2)。2-メルカプトエタノールによる還元後、重鎖及び軽鎖に対応する2つのバンドがそれぞれ、50kDa及び25kDaに出現した。これらの結果は、トランスフェクタントにおいて産生されたキメラ重鎖及び軽鎖ペプチドが集められて、ネイティブIgG分子を形成していることを示している。
【0081】
マウスハイブリドーマからクローニングされたB6H12可変領域が、最初のマウスB6H12抗体に類似した抗原結合活性を保持していることを立証するために、キメラ及びマウスB6H12間における競合結合アッセイを、フローサイトメトリーによって行った。ヒトCD47を、YB2/0細胞に安定してトランスフェクトし、CD47の発現を、フローサイトメトリーによって確認した。
図3Aに示されるように、キメラB6H12は、CD47結合を、マウスB6H12と用量依存的に競合したが、ヒトIgG1アイソタイプ対照抗体は、マウスB6H12結合に影響を与えなかった。同様に、マウスB6H12抗体は、CD47結合について、キメラB6H12抗体を阻害した(
図3B)。このことから、キメラB6H12抗体は、ネイティブマウスB6H12抗体と同一の、CD47のエピトープを認識することが示唆される。
【0082】
ヒト化B6H12抗体の設計及び分析。CDR移植のテンプレートとして使用するヒト抗体フレームワーク(FR)を選択するために、マウスB6H12 VL及びLH領域をヒト生殖細胞系配列のVL及びLH領域と比較した。マウスB6H12 VL領域のFRが、ヒトVK3サブグループと最も高い相同性を有することがわかった。これは、サブグループIIIのメンバーが、最良の選択である可能性を示唆した。マウスB6H12 VH領域のFRは、ヒトVH-3サブグループと最も高い相同性を示した。ヒト化B6H12を設計するための起始点として、ヒトVH-3-7とVK3-11からのFRを最終的に選択した。マウスの配列と同一のFR中の残基が保持され、同一でない残基は保持されるか又は分子モデル化に基づいて置換された。ヒト化B6H12を、前述のようにしてトランスフェクトし、精製した。SDS-PAGE分析は、非還元条件下で分子量が約150kDaの1つのバンドを示し(
図2)、還元条件下では50kDa及び25kDaの2つのバンドが出現した。配列は、
図4に示される。
【0083】
次に、ヒト化B6H12がヒトCD47を認識する能力を調べた。膜結合CD47を発現することが示されているヒトCD47トランスフェクトYB2/0細胞を、フローサイトメトリー分析に使用した。ヒト化B6H12は、細胞表面で発現されたCD47に結合し、結合活性は、キメラB6H12抗体と同等であった(
図5)。トランスフェクトされなかったYB2/0細胞を用いた場合には、B6H12抗体との結合は検出されなかった。ELISAによって可溶性CD47結合を決定した場合にも、同様な結果が得られた。このアッセイにおいて、ヒト化B6H12は、キメラB6H12抗体に匹敵する結合活性を示した(
図6)。
【0084】
キメラ及びヒト化B6H12抗体によって食作用を可能にすること。マウスB6H12抗体は、CD47とマクロファージの上で発現される抑制性受容体SIRPαとの相互作用を遮断することが知られており、したがって、CD47発現細胞の食作用を可能にする。キメラ及びヒト化B6H12抗体が食作用を可能にする能力を調べるために、本発明者らは、インビトロ食作用アッセイを行った。CFSE標識HL-60細胞を、マウス骨髄由来マクロファージと共に、対照又はB6H12のネイティブ抗体、キメラ抗体若しくはヒト化抗体の存在下で2時間インキュベートした。蛍光顕微鏡法によって可視化された、マウスマクロファージ内の摂取されたCFSE標識HL-60標的細胞の数をカウントすることによって、食作用を評価した。
図7に示されるように、キメラ及びヒト化B6H12はいずれも、ネイティブマウスB6H12抗体に匹敵するレベルで、効率的に食作用を可能にした。対照的に、アイソタイプ対照抗体は、マクロファージによって媒介される食作用をトリガーしなかった。これらの結果は、キメラ及びヒト化B6H12が、ネイティブマウスB6H12抗体と同様にして機能できることを立証している。
【0085】
ここまでは、ヒトCD47に対して作製した抗体はマウス抗体であった。ヒト患者の処置にマウス抗体を使用することの主な不利点は、患者においてヒト抗マウス応答(HAMA)が発生することである。したがって、免疫原性がより低い、CD47に対する改善された治療抗体が必要とされる。本研究において、本発明者らは、マウス抗ヒトCD47mAb(B6H12)の可変領域から改変されたキメラ及びヒト化抗体を作製し、発現させた。それらは、ヒト免疫グロブリン定常領域に融合させたものであった。SDS-PAGE分析により、キメラ及びヒト化B6H12抗体がいずれも、2対の重鎖及び軽鎖からなるネイティブIgGタンパク質として発現されることが明らかになった。キメラ及びマウスB6H12抗体は互いに抗原結合を競合した(
図3)。これは、キメラB6H12抗体が、マウス抗体の抗原結合を保持し、同じ抗原エピトープを認識することを示している。さらにまた、ヒト化B6H12抗体は、可溶性及び膜結合CD47のいずれにも、キメラ抗体と同等に結合する(
図5及び6)。キメラ及びヒト化B6H12はまた、最初のマウスB6H12抗体と比較して効率的な、食作用を可能にする能力を示した(
図7)。これらの結果は、本発明者らの改変抗体が機能的に活性なIgGを形成することを示唆している。
【0086】
とりわけ、B6H12抗体のヒト化において、本発明者らは、本発明者らの設計のベースとして、ヒトVH-3-7及びVK3-11を利用した。しかし、マウスB6H12もまた、ヒトVH-3及びVK3サブグループの他のファミリーメンバー並びにこれらの2つのサブグループ以外の他の可変ドメインと配列相同性を示した。他のフレームワークも同程度に機能し得る可能性がある。
【0087】
抗体は、4つの主要なエフェクター機能:抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)、食作用、補体依存性細胞傷害(CDC)、及び半減期/クリアランス速度を示す。これらのエフェクター機能はそれぞれ、受容体及び細胞型の特異的集合との相互作用によって媒介される:ADCC及び食作用は、細胞結合mAbとFcγ受容体(FcγR)との相互作用によって媒介され、CDCは、細胞結合mAbと補体系(例えば、C1q、C3、C4など)を構成する一連の可溶性血液タンパク質との相互作用によって媒介され、半減期/クリアランス速度は、新生児Fc受容体(FcRn)への抗体の結合によって媒介される。典型的にはヒトIgG1サブクラスの、活性化抗体は、活性化Fcドメインによって異なる。しかし、リガンド-受容体相互作用を阻害することによって機能するモノクローナル抗体は、エフェクターメカニズムを利用することなく機能し得る。これらの場合、エフェクター機能は、不所望な細胞傷害の一因となり得るので、不利な場合がある。FcR発現細胞による架橋による不所望な拮抗作用は、FcR発現細胞の不適当な活性化と、それに続くサイトカイン急増及び付随する毒性作用をトリガーする可能性がある。したがって、IgGサブクラスの適正な選択、又はエフェクター機能を抑止するように改変されたIgGの使用が必要である。本発明者らが既に報告したように、マウスB6H12は、阻害抗体として機能し、B6H12 F(ab)’2断片は、インビトロ食作用アッセイにおいて、完全長マウスB6H12と同様な有効性を示した。したがって、副作用がより少ない非活性化B6H12モノクローナル抗体の開発は、有益である。
【0088】
非活性化抗体を改変するための多くのストラテジーが報告されている。Fc-ドメインのない、抗体をベースとする断片の使用は、Fc依存的なエフェクターメカニズムを回避する最も簡単な方法を提供する。製造の観点からすれば、特徴がはっきりした、コスト効率の良い下等の真核生物及び原核生物の発現系においてルーチン的に高収率が得られるので、抗体をベースとする断片は、魅力的なストラテジーといえる。組換え抗体技術により、一価(例えば、Fab、scFv、ナノボディ(nanobody)及びdAb)、二価(例えば、F(ab’)2、ダイアボディ(diabody)及びミニボティ(minibody))及び多価(例えば、トリアボディ(triabody)及びペンタボディ(pentabody))形式が利用可能になった。これらのアプローチは既に、FDAに認可された治療法につながっており、他のいくつかは臨床的評価を受けている段階である。このことは、このアプローチへの信頼を示している。しかし、Fc-ドメインの除去は、抗体ベースの断片の薬物動態特性を劇的に変化させ、抗体精製がより簡便でなくなる。Fc-ドメインがないと、腎クリアランスが、血清半減期に影響を及ぼす主なメカニズムとなり、約50未満~70kDaの抗体ベースの断片はこの排出経路の対象となる。小さい抗体断片の見掛けの分子サイズを、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)及びヒト血清アルブミン(HSA)との連結によって、増加させることは、循環時間を増加させ且つそれらの薬物動態特性を改善する代替ストラテジーといえる。
【0089】
複数のエピトープ又は抗原を標的にするという追加の利点をもたらし得る治療抗体の組み合わせも、次第に使用されつつある。組み合わせは、一般に不均一である疾患標的に対してより有効である可能性があり、したがって、耐性又はエスケープを制限することができる。本発明者らは、ヒトNHL異種移植モデルにおいて、B6H12とリツキシマブとの併用よる相乗作用及び治癒を立証した。本発明者らの発見は、B6H12との併用療法が、NHLの有望な新規処置様式であることを示唆している。その一方で、過去2、3年にわたって、二重特異性抗体(BsAb)によって媒介される腫瘍細胞致死の概念が、臨床前モデルと臨床試験の両方において広範囲に研究された。BsAbは、1つの分子内に2つの異なる抗原認識部分を共有する。本発明者らのデータに基づけば、B6H12は、追加のFcR結合抗体と相乗作用を示して、標的細胞を除去する。この相乗作用は、一方でCD47と反応性であり他方で腫瘍標的細胞上の追加の表面抗原と反応性であるB6H12BsAbにおいて再現され得る。このような試薬は、免疫エフェクター機能を標的細胞に集中させることができる。
【0090】
要約すると、本発明者らは、マウス/ヒトキメラ抗体及びヒト化抗体を作製する方法を用いることによって、ヒトCD47に対するマウスモノクローナル抗体B6H12をベースとする治療抗体を開発した。キメラ及びヒト化B6H12抗体は、CD47を特異的に結合する能力を保持し、インビトロで食作用を誘発することができる。これらの抗体は、免疫原性がより低い可能性があるので、臨床治療法の候補としてより好適である。