(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031671
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】固体潤滑剤でコーティングした鋼品、その製造方法及び装置並びに製造中に用いられる焼き入れ油
(51)【国際特許分類】
C21D 1/58 20060101AFI20220215BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20220215BHJP
C23C 24/08 20060101ALI20220215BHJP
C10M 125/06 20060101ALI20220215BHJP
C10M 135/00 20060101ALI20220215BHJP
C10M 137/00 20060101ALI20220215BHJP
C10M 139/00 20060101ALI20220215BHJP
C21D 9/00 20060101ALN20220215BHJP
C21D 9/28 20060101ALN20220215BHJP
C21D 9/30 20060101ALN20220215BHJP
C21D 9/32 20060101ALN20220215BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220215BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220215BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
C21D1/58
C21D1/06 A
C23C24/08 A
C10M125/06
C10M135/00
C10M137/00
C10M139/00 A
C10M139/00 Z
C21D9/00 C
C21D9/00 F
C21D9/00 K
C21D9/00 M
C21D9/00 P
C21D9/28 A
C21D9/30 A
C21D9/32 A
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:20 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178738
(22)【出願日】2021-11-01
(62)【分割の表示】P 2018542105の分割
【原出願日】2016-10-25
(31)【優先権主張番号】1551414-4
(32)【優先日】2015-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(71)【出願人】
【識別番号】517177109
【氏名又は名称】アプライド ナノ サーフェシズ スウェーデン エービー
(71)【出願人】
【識別番号】518148629
【氏名又は名称】ボディコート ヴァルメベハンドリング エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バーグ,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ファルストロム,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ジュムド,ボリス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】トライボロジー特性が改善された固体潤滑剤でコーティングした窒化鋼品、それを製造する方法、および装置を提供する。
【解決手段】鋼品の製造方法は、窒化鋼品が得られる、350~650℃の間の硝化温度で鋼品を窒化(210)することを含む。窒化鋼品は、硝化温度から反応性焼き入れ油内で焼き入れ(220)される。反応性焼き入れ油は、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む。したがって、焼き入れによって更にS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤による窒化鋼品のコーティング(222)を含む。鋼品の製造装置、焼き入れ油及び本方法によって製造される鋼品もまた開示されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼品の製造方法であって、
窒化鋼品が得られる350~650℃の間の窒化温度における鋼品の窒化工程(210)と、
前記窒化温度から反応性急冷油中に前記窒化鋼品を急冷する工程(220)と
を含み、
前記反応性急冷油が、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含み、
前記反応性急冷油が、前記急冷する工程(220)下で、前記窒化鋼品と反応して固体潤滑剤を形成できる油であり、
それによって、前記急冷する工程(220)が、更にS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む前記固体潤滑剤による、前記窒化鋼品のコーティング(222)を含む、
製造方法。
【請求項2】
前記反応性急冷油が、S、P、B、Mo及びWを総量で少なくとも0.1重量%含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応性急冷油が、S、P、B、Mo及びWを総量で最大10重量%含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記窒化工程(210)及び前記急冷する工程(220)間の全体的な時間を通して、脱窒化を防ぐ窒素ポテンシャルの雰囲気中で、前記窒化鋼品を維持する更なる工程を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記窒化工程(210)及び前記急冷する工程(220)間の全体的な時間を通して、前記窒化温度で前記窒化鋼品を維持する更なる工程を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
最大冷却速度が250℃/s未満で前記急冷する工程(220)が実施されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
鋼品の製造装置であって、
窒化鋼品が得られ、350~650℃の間の窒化温度で鋼品(100)を窒化するために構成される窒化チャンバー(10)と、
S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む反応性急冷油(150)を含む急冷容器(20)と、
前記反応性急冷油(150)中で前記窒化鋼品の急冷を行うために前記反応性急冷油(150)を含む前記急冷容器(20)に対して前記窒化温度を有する前記窒化鋼品を移動させる輸送手段(30)とを含み、その急冷によって、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤が、前記窒化鋼品上に形成され、
前記反応性急冷油が、前記急冷下で、前記窒化鋼品と反応して前記固体潤滑剤を形成できる油である、
鋼品の製造装置。
【請求項8】
前記窒化チャンバー(10)及び前記急冷容器(20)間のすべてにわたって脱窒化を防ぐ窒素ポテンシャルの雰囲気中で前記窒化鋼品を移動させるために前記輸送手段(30)が配置されることを特徴とする、請求項7に記載の鋼品の製造装置。
【請求項9】
前記窒化チャンバー(10)及び前記急冷容器(20)間のすべてにわたって前記窒化温度で前記窒化鋼品を移動させるために前記輸送手段(30)が配置されることを特徴とする、請求項7又は8に記載の鋼品の製造装置。
【請求項10】
鋼品(100)であって、
鋼本体(102)を含み、
前記鋼本体(102)が、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤(120)の表面層によって覆われた窒化層(110)を有し、
前記固体潤滑剤(120)が、最も高い窒素含有量を有する新たに提供された前記窒化層(110)の表面部分に化学的に直接、結合している、
鋼品。
【請求項11】
前記固体潤滑剤(120)及び前記窒化層(110)間の前記結合が、混入物質を含まないことを特徴とする請求項10に記載の鋼品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に潤滑剤でコーティングした鋼品、それを製造する方法、装置及び焼き入れ油、特に、窒化された潤滑剤でコーティングした鋼品に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化は、窒素を金属表面に拡散させ、肌焼き表面を生成させる熱処理プロセスである。窒化は、低炭素、低合金鋼に関して最も一般的に使用されているが、しかし、近年、高合金鋼もまた窒化され、有利な結果が得られている。
【0003】
今日、用いられる主な窒化方法は、ガス窒化、塩浴窒化、及びプラズマ窒化であり、窒素を提供するために用いられる媒体にちなんで名づけられている。
【0004】
窒化は、通常、高い耐摩耗性、耐スカッフィング性、耐かじり性及び耐焼付性を促進させる高い表面硬度を付与する。疲労強度は、主に表面の圧縮応力の発生によって増大する。
【0005】
窒化は、高温で実施されることが多く、したがって、通常、鋼製品を冷却させる冷却又は焼き入れ工程によって終了する。窒化後の速い焼き入れは、閉じ込められた窒素の固溶硬化作用(solution hardening effect)を増大させるが、この作用は、鋼表面における合金元素及び窒素間の硬い窒化物の形成に由来する析出硬化作用と比べて比較的小さい。Cr、Al、V、Ti及びMoなどの合金元素は、窒化中に鋼内に硬い窒化物を形成し、鋼内のこのような合金元素のレベルが、硬度、耐摩耗性及び疲労強度の観点から窒化の結果に非常に大きな影響を有する。焼き入れ油及び熱処理用流体については、窒化などの硬化、焼き戻し又はその他の熱処理プロセスの一部として鋼又はその他の金属の急速又は少なくとも制御された冷却を意図している。
【0006】
典型的な用途として、歯車、クランクシャフト、カムシャフト、ラック、ピニオン、車軸、レース、ドライブシャフト、油圧モーター用のセンターピン及びシリンダーブロック、ポンプ用の羽、ピストンスカート、チェーン部品、スライドウェイ、カムフォロア、バルブ部品、押出機のスクリュー、ダイカスト用具、鍛造用ダイス、押し出し用ダイス、小火器用部品、インジェクター、プラスチック用モールド用具、コンベヤー用ガイド等が挙げられる。
【0007】
窒化材料の特有の有益な特性によって、それらは、表面が、その他の固体又は液体物と機械的な接触、特に、動きながらの接触にさらされる用途において用いられることが多い。このような用途では、低摩擦及び耐摩耗性を対象とする。潤滑させることは、摩擦及び摩耗の問題に対処するための標準的な方法である。用途に応じて液体及び/又は固体の潤滑剤を用いることができる。液体の潤滑剤は、長期の耐用期間、有用性、腐食防止、洗浄及び冷却のすべてが重要であるとき、好ましい選択である。固体潤滑剤は、液体潤滑剤の使用が、例えば熱的条件又は周辺環境によって選択肢にない、特別な場合において用いられる。固体潤滑剤は、特に高い負荷の摺動接触における摩耗の制御において効果的であり、それ故、摩耗にさらされる用途において用いられることが多い。このような固体潤滑剤を適用する幾つかの方法がある。多くのこのような方法は、覆われる表面上へのペースト又は液体含有分散固体潤滑剤の用途に基づいており、続いて熱処理及び/又は機械的な処理を行い、ペースト又は液体中の結合材料を除去し、固体潤滑剤を製品の表面と結合させ潤滑させる。しかし、表面と化学的に結合していなければ、固体潤滑剤は、表面への維持が不十分であり、容易に離れる。その結果、ポリマー結合固体潤滑剤コーティングが、実際には、最も一般的であり、ダウ・コーニング(Dow Corning)、クリューバー(Klueber)、ヘンケル(Henkel)及び多くのその他の会社からの既知の市販の製品が挙げられる。これらの製品では、表面上に固体潤滑剤を維持するために熱硬化性、UV硬化又は酸化乾燥ポリマー結合剤が、用いられる。窒化後コーティングを適用するために、別個の工程で、最初に表面を洗浄し、次にコーティングをし、次に最終的に硬化しなければならない。
【0008】
窒化物の場合には、このような加熱及び/若しくは機械的な処理並びに/又は洗浄は、窒化物それ自体の表面の組成及び特性に影響する場合がある。低い窒素ポテンシャルでの加熱は、例えば、対象物表面の脱窒化を引き起こす恐れがあり、熱処理及び機械的な相互作用によって窒化物の構造、硬度等が変わる恐れがある。
【0009】
固体潤滑剤コーティングを製造する別の一般的な方法として、物理蒸着(PVD)、プラズマ補助化学蒸着(PA-CVD)及び類似の真空プロセスが用いられ、それによって固体潤滑剤は、マトリックスがダイヤモンドライクカーボンなどの硬いコーティング内に埋め込まれる。この技術は、特に、Balinit C(エリコン(Oerlikon))、MoST(ティーアコーティングズ(Teer Coatings))及びその他などの製品を製造するために用いられる。PVD(又はPA-CVD)コーティングに先立って、また表面は、別個の工程で、完全に洗浄され、次にコーティングされなければならない。
【0010】
窒化鋼品は、また別個のプロセスの工程において、ある種の固体潤滑剤によってCVDコーティングを行うこともできる。これは、トライボロジー効果が生じる可能性がある。例えば、あるものは、揮発性金属カルボニル錯体、Mo(CO)6及びW(CO)6をメルカプタン又はジメチルスルフィドなどの有機硫化物と反応させるCVDプロセスによってMoS2及びWS2コーティングを生成し得る。残念ながら生成されたコーティングは、けば立つ傾向にあることが多く、基材に対して貧弱な接着性を示す。考えられる理由としてコーティング前の窒化表面上又は洗浄操作中の表面改質において混入又はガスの吸着が見いだされ得る。
【0011】
上記のすべての場合について、増大したプロセスの複雑性によって、物流コスト及び製造コストが増大する。
【発明の概要】
【0012】
本技術における一般的な物として、トライボロジー特性が改善された固体潤滑剤でコーティングした窒化鋼品を提供することができる。
【0013】
上記の対象物は、独立クレームに従う方法及び装置によって達成される。好ましい実施形態は、従属クレームで定義される。
【0014】
一般的に、第一の態様では、鋼品の製造方法は、350~650℃の間における窒化温度で鋼品を窒化することを含み、窒化鋼品が得られる。窒化鋼品は、窒化温度から反応性焼き入れ油中で焼き入れされる。反応性焼き入れ油は、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む。したがって、焼き入れによって更にS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤による窒化鋼品のコーティングを含む。
【0015】
第二の態様では、鋼品の製造装置は、窒化チャンバー、焼き入れボリューム及び輸送手段を含む。窒化鋼品が得られる、350~650℃の間における窒化温度で鋼品を窒化するために窒化チャンバーが、構成される。焼き入れボリュームは、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む反応性焼き入れ油を含む。反応性焼き入れ油中で窒化鋼品に焼き入れを行う反応性焼き入れ油を含むより冷たい焼き入れボリュームに対して窒化温度を有する窒化鋼品を移動させるために、輸送手段が構成される。焼き入れは、窒化鋼品上でS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤を形成する。
【0016】
第三の態様では、鋼品は、鋼の本体を含む。鋼の本体は、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤の表面層によって覆われた窒化層を有する。固体潤滑剤は、最も高い窒素含有量を有する窒化層の新しくもたらされた表面部分に化学的に直接、結合している。
【0017】
第四の態様では、焼き入れ油が、鋼品上に固体潤滑剤層を供給するために用いられる。焼き入れ油は、基油及びS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む添加剤を含む。
【0018】
提案された技術の利点の1つは、制御された表面特性及び改善されたトライボロジー性能を有する固体潤滑剤でコーティングした窒化鋼品が得られることである。更に、固体潤滑剤でコーティングした窒化鋼品は、経済的で複雑ではないプロセスで製造される。その他の利点は、発明を実施するための形態を読めば理解されるであろう。
【0019】
本発明は、更なる対象物及びそれらの利点と共に、次の説明と共に添付図面を参照することによって、最も理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】鋼品の製造方法に関する実施形態の工程におけるフローチャートである。
【
図3】窒化プロセスについて典型的な温度/時間の図を示す。
【
図4】通常の焼き入れを行った鋼製品と反応性の焼き入れを行った鋼製品について表面の含有量を比較した図である。
【
図5】通常の焼き入れを行った鋼製品及び反応性の焼き入れを行った鋼製品について摩擦特性を示した図である。
【
図6】反応性の焼き入れを行った鋼製品の表面領域の一部を図解したものである。
【
図7A】鋼品の製造装置の実施形態を図解したものである
【
図7B】鋼品の製造装置について別の実施形態を図解したものである。
【
図8】極圧耐摩耗性材料に関する活性化温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面全体を通して、類似した又は対応する要素に対して同様の参照番号が用いられる。
【0022】
提案された技術をより理解するために異なる窒化プロセスの簡単な概説から始めることが有用であり得る。
【0023】
窒化プロセスは、硬化した表面層を生成させる目的で鋼表面に窒素あるいは窒素及び炭素の双方を高温で提供する熱化学プロセスである。表面層は、拡散領域及び化合物領域、あるいは拡散領域のみを含む。化合物領域は、窒化物を含む相転移層である。高温では、またオーステナイト又はマルテンサイト領域が、存在し得る。熱化学窒化プロセスは、ガス雰囲気内、塩浴内又はプラズマプロセスによって実施することができる。このようなプロセスは、ガス窒化、ガス軟窒化、塩浴窒化、塩浴軟窒化、プラズマ窒化及びプラズマ軟窒化として呼ぶことができる。窒化プロセスは、0.5~3時間、300~400℃の間の温度における予備酸化によって、進めてよい。
【0024】
ガス窒化では、窒化される被加工物は、高温の供給ガスで満たされたチャンバー内に設置される。通常アンモニアが供給され、そのため、時としてアンモニア窒化として知られている。アンモニアが、加熱された被加工物と接触すると、窒素及び水素に分かれる。窒素は、材料の表面上に拡散し、窒化層を生成する。
【0025】
塩浴窒化では、窒素供給媒体は、シアン化塩などの窒素含有塩である。このプロセスでは、窒素は、臨界未満の温度で、フェライト段階で、金属表面に拡散し、肌焼き表面を生成する。塩は、また被加工物表面に炭素を提供するためにも用いられ、それ故、塩浴プロセスは、また軟窒化プロセスとしても知られている。すべての軟窒化プロセスで用いられる温度は、550~570℃である。塩窒化の利点の1つは、任意のその他の窒化方法よりも同様の時間で大きな拡散深度を達成することができることである。その他の利点は、素早いプロセス時間及び単純な操作である。
【0026】
イオン窒化としても知られるプラズマ窒化、プラズマイオン窒化又はグロー放電による窒化は、軟窒化の場合において窒素、水素、及び任意に炭素使用ガスの混合物中で行われる最近の熱化学処理である。高いイオン化レベルを有するグロー放電は、反応チャンバー内に設置された部品周辺から発生する。その結果、窒素リッチ窒化物が、表面で形成される。
【0027】
プラズマ窒化は、所望の特性にしたがって表面を改質する。ガス混合物を適応させることによって特別に調整した層及び硬度特性について、500ミクロン厚までの低い窒素含有量を有する化合物層を含まない表面から高い窒素含有量及び追加で炭素ガスを有する(プラズマ軟窒化)化合物層までを達成することができる。広くて適切な温度範囲によって、ガスプロセス又は塩浴プロセスの可能性を超えた多数の用途が可能になる。
【0028】
窒素イオンは、ガス又は塩浴から別々に、イオン化によって生成されるのでプラズマ窒化効率は、主として温度に依存しない。したがって、プラズマ窒化は、260℃~600℃超の広い温度範囲で実施することができる。例えば、穏やかな温度でステンレス鋼をクロム窒化物の析出物の形成なしで窒化することができ、それ故、それらの耐腐食特性を維持する。
【0029】
様々な鋼の種類をプラズマ窒化で有益に処理することができる。特に、高合金鋼に適用されたとき、プラズマ窒化は、高い耐摩耗性、耐スカッフィング、耐かじり性及び耐焼付性を促進させる高い表面硬度を付与する。疲労強度は、主に表面圧縮応力の発生によって増大する。プラズマ窒化は、部品が、窒化領域及び軟質領域の双方を有することを必要とするときはいつでも賢い選択である。
【0030】
典型的な用途として、歯車、クランクシャフト、カムシャフト、カムフォロア、バルブ部品、押出機のスクリュー、ダイカスト用具、鍛造用ダイス、冷間成形用具、インジェクター及びプラスチック用モールド用具、ロングシャフト、軸、クラッチ及びエンジン部品が挙げられる。マスキングを必要とする場合、対応するガスプロセスに対して、プラズマ窒化及びプラズマ軟窒化が、多くの場合、好ましい。
【0031】
拡散領域は、包含された窒素が、固溶硬化(solution hardening)及び析出硬化によって鋼の硬度に影響する、窒素影響表面層である。
【0032】
化合物領域は、鋼の合金元素を有する鉄窒化物(γ’窒化物及び/又はε窒化物)、炭窒化物及び窒化物を含む相転移した表面層である。
【0033】
すべての鉄に基づいた鋼材料は、窒化プロセスによって処理することができ、限定されないが、炭素鋼、低合金鋼、工業用鋼、硬化及び調質鋼、肌焼き鋼、工具鋼、ステンレス鋼、析出硬化鋼/ステンレス鋼及びその他の鋼の改良型を含む。
【0034】
焼き入れ油及び熱処理用流体については、窒化などの硬化、焼き戻し又はその他の熱処理プロセスの一部として鋼又はその他の金属の急速な又は制御された冷却を意図している。
【0035】
焼き入れ油には、2つの主要な機能がある。焼き入れ中の熱伝達を制御することによって鋼の硬化を容易にし、焼き入れ中の鋼の濡れを向上し、歪及びクラックの増大をもたらす恐れのある望ましくない熱及び形質転換の勾配の形成を最小限に抑える。
【0036】
したがって、焼き入れ油の開発では、幾つかの特性が、通常考慮に入れられる。焼き入れ油は、安定した焼き入れ性能及び冷却速度を提供する能力を有するべきである。焼き入れ油は、また好ましくは高い熱衝撃に耐える能力も示す。焼き入れ油は、また油の成分並びに焼き入れを行った被加工物に耐酸化性を提供するべきである。焼き入れ油は、また良好な表面の清浄度をもたらし、硬化した鋳物の変形がないように選択されるべきである。
【0037】
多くの極圧耐摩耗性(EP/AW)添加剤は、加熱した金属表面と反応することができると知られている。「特別レポート(Special Report)、極圧添加剤の動向(Trends in extreme pressure additives」では、N.Canterらによって、トライボロジー及び潤滑技術、2007年、ページ11(Tribology and Lubrication Technology,2007,page11)に異なる種類のEP/AW添加剤の活性化温度が、示されている。これらの見いだされたことを
図8に示す。したがって、低い摩擦固体潤滑剤被膜を析出するために添加剤が加えられた油浴又は溶融した塩浴中における鋼部品の加熱を用いることができるという着想となる。(例えば、GB 782,263又はWO 03/091478を参照)しかし、この直接的な方法は、300℃を大きく超える温度で多くの添加剤に対して反応性の障壁があり、非常に高い温度で、制御不良の硬度損失が生じるため、明らかな制約を有し、容認できない。
【0038】
しかし、代わりに、本開示内で示される本技術は、熱で引き起こされる固体潤滑剤の窒化物表面への析出を利用する。典型的な窒化プロセスで実施される温度は、また固体潤滑剤の形成を開始するために十分に高い温度である。しかし、適切な固体潤滑剤の成分を窒化チャンバーそれ自体に提供することが難しく、直接コーティングを困難にしている。
【0039】
代わりに本技術は、高温が伴う、最後のプロセスである焼き入れに着目する。反応性焼き入れ油を用いることによって、硬化/焼き入れは、固体潤滑剤被膜の析出と組み合わせることができる。化学反応をもたらすために用いられる唯一の熱源は、窒化工程後に鋼部品によって維持される熱である。窒化中、部品は、通常、350~650℃まで加熱される。この温度は、焼き入れ油中に存在する特定のEP/AW添加剤と反応を開始するために十分に高い。反応性焼き入れ油は、次の化学元素、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つの担体として機能する1種類以上の表面反応性化合物を含有する。反応性焼き入れプロセスにおける全体的な冷却速度は、通常の焼き入れプロセスと類似しており、50~250℃/sに達し、したがって、処理した部品の全体的な焼き入れ時間及び硬度は、非反応性焼き入れプロセスと同一である。
【0040】
しかし、反応性焼き入れ油中における処理の結果は、表面化学の観点から従来の焼き入れと非常に異なるということが見いだされた。通常の焼き入れと対照的に、反応性焼き入れは、更に焼き入れ操作中に固体潤滑剤による窒化鋼品のコーティングを含み、その化学組成中に次の化学元素、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含有する。反応性焼き入れが行われた鋼部品は、添加剤パッケージ内に元々存在する特定の化学元素で構成される0.1μm超の厚みである固体潤滑剤被膜の存在を示す。これは、更に、以下の幾つかの実施例内で考察される。
【0041】
したがって、油による焼き入れにおいて素早い冷却速度にもかかわらず、被加工物の熱は、油の異なる成分間に化学反応を引き起こすために依然として十分であることが確認されてきた。好ましい実施形態では、S並びに少なくとも1つのMo及びWを含む添加剤を有することによって、MoS2及びWS2と類似した固体潤滑剤をそれぞれ、被加工物の表面上に形成させることができる。同時に、固体潤滑剤物質によるコーティングとして、例えば、硬化などの焼き入れによって引き起こされる通常のプロセスは、依然として生じる。したがって、焼き入れ中に形成された固体潤滑剤物質は、新たに窒化し、硬化した表面に直接、結合している。この結果の1つとして、固体潤滑剤は、最も高い窒素含有量を有する窒化層の一部分に化学的に直接、結合している。更に、窒化プロセス中に含まれる場合を除いて、酸素が窒化された被加工物に達することができない場合、固体潤滑剤及び窒化層間の結合は本質的に酸素を含まず、通常、結合強度を向上させる。
【0042】
従来技術における焼き入れ油の主な機能は、急速な冷却によって、鋼の硬化が可能になることである。比較的高い熱伝導率及び良好な濡れ性を有することによって、焼き入れ油が、また歪及びクラックをもたらす恐れのある熱の勾配を最小限に抑えることにも役立つ。
図1は、典型的な冷却曲線301の実施例を示す。曲線300は、冷却速度を示す。熱い金属片が、油に浸されると、油の沸騰又は熱分解によって、一瞬で金属表面近くに蒸気層が生じる。蒸気層の特性は、焼き入れ油の配合に用いられる基油の種類及び界面活性の添加剤に依存する。このような蒸気のブランケットがそこにある限り、蒸気層は、断熱材として作用するので冷却速度は、比較的、遅い。典型的な冷却速度は、約20~40℃/sであり得る。これは、
図1のAによって示される範囲に相当する。蒸気のブランケット段階に続いて核沸騰段階Bが生じる。核沸騰は、表面温度が、蒸気層が不安定になる点まで降下し、沸騰によって気泡の形成が生じたときに始まる。この段階は、全体的な焼き入れ冷却プロセスにおいて最大の熱伝達速度を示し、50~250℃/sに達する場合がある。反応性焼き入れ油中に存在するEP/AW添加剤との表面反応が、開始するのは、この段階である。したがって、低い沸騰温度を有する軽質基油は、ホスフェートなどの高い反応性添加剤との組合せに用いることがより適しており、一方、高い沸騰温度を有する重質基油は、硫化物などの低い反応性添加剤との組合せに用いることがより適している。金属の表面温度が、油の沸点未満に降下するとき、対流冷却(C段階)が優勢になる。対流冷却に対して冷却強度は、粘度が低くなることによって、より急速な冷却が可能となる油の粘土に依存する。
図1に示される焼き入れプロセスは、一般的な焼き入れプロセスの実施例として、理解されるべきである。異なる段階における冷却速度に関する実際の数字は、実際の内容に応じて変化してよい。これの幾つかは、以下により詳細に考察される。しかし、冷却速度を変更する当該技術は、そのようなものとして従来技術において周知である。
【0043】
焼き入れと関連して固体潤滑剤層を得るためにエネルギー供給源として熱処理後の被加工物によって蓄積された熱を用いたプロセスそれ自体は、また焼き入れによって普通に冷却されるか又は例えば、鋼の肌焼き中の焼き入れによって冷却することができるその他の種類の熱処理品について実施することも可能となる。
【0044】
図2は、鋼品の製造方法に関する実施形態の工程のフローチャートを示す。本プロセスは工程200で開始する。工程210では、鋼品は、350~650℃の間の窒化温度で窒化される。この窒化によって窒化鋼品が得られる。工程220では、窒化鋼品は、窒化温度から反応性焼き入れ油中で焼き入れが行われる。反応性焼き入れ油は、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む。それによって、焼き入れ220の工程は、更にS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤による、窒化鋼品のコーティングの工程222を含む。本プロセスは、工程299で終了する。好ましい実施形態では、反応性焼き入れ油は、S並びに少なくとも1つのMo及びWを含む。
【0045】
速い焼き入れ速度によって、窒化処理の結果は、通常変化しない。しかし、焼き入れ速度が速くなれば、焼き入れ油中に存在する添加剤が、鋼品と反応し得る際の時間間隔が短くなる。したがって、固体潤滑剤によるコーティングを考慮するときに速すぎる焼き入れは、一般的にあまり有用ではない。今のところ焼き入れ工程が、250℃/s未満の最大冷却速度で実施される場合に、有利であると考えられている。しかし、焼き入れ油中の反応性成分の濃度が増大すると、固体潤滑剤コーティングを生成させるためにより速い焼き入れ速度が可能となる。
【0046】
典型的な操作条件に関して、密な固体潤滑剤コーティングを生成させるために反応性焼き入れ油が、好ましくは例えば、S、P、B、Mo及び/又はWなどの少なくとも0.1%の重量のドーピング元素を含むということが見いだされた。添加剤の処理レベルが増大することによって、固体潤滑剤の析出が加速し、更に焼き入れ油の耐用期間が短くなるために費用が増大し、したがって運転費用が増大する。これによって、焼き入れ油中のドーピング元素の含有量に関して好ましい上限を約10%の重量に設定した。
【0047】
好ましい実施形態では、焼き入れ工程は、窒化工程の終了に連なって実施される。このような場合、拡散又はその他の時間依存性作用が窒化の結果に影響する恐れがなく、窒化雰囲気が、不要な物質が鋼品表面に達することを防ぐため、固体潤滑剤のコーティングが実施される「清浄な」表面を確保することができる。
【0048】
即時の焼き入れを実施することができない場合、窒化鋼品が、窒化工程及び焼き入れ工程間の全体的な時間を通して高い窒素ポテンシャルを有する清浄な雰囲気中に維持されるということが好ましく、更により好ましくは、その雰囲気が、窒化鋼品の表面における脱窒化を防ぐために十分高い窒素ポテンシャルを示す場合である。
【0049】
即時の焼き入れを実施することができない場合、窒化鋼品を窒化工程及び焼き入れ工程間の全体的な時間を通して窒化温度で維持することもまた好ましい。
【0050】
しかし、時間で分離される窒化及び反応性焼き入れ工程を実施することが可能である。しかし、次に通常、窒化を非反応性焼き入れによって終了しなければならず、反応性焼き入れを行うことができる前に続いて窒化鋼品を再び高い温度まで加熱することが、必要である。しかし、この解決法は、二重の加熱プロセス及び窒化鋼品の特性に対する第二の焼き入れの役割に関して不確実性を伴うので、あまり有利ではない。
【0051】
鋼品の製造方法について特定の実施形態では、窒化工程は、Corr-I-Dur(登録商標)プロセスにしたがって実施される。Corr-I-Dur(登録商標)は、ボディコート(Bodycote)が所有権を持つ、鉄窒化物-酸化物化合物層の発生を通して耐腐食性及び摩耗特性を同時に改善するための熱化学処理である。Corr-I-Dur(登録商標)処理は、様々な低い温度の熱化学プロセス工程、主にガス軟窒化及び酸化の組合せを伴う。プロセスでは、3つの領域からなる境界層が生成する。拡散層は、基材に対して転移を形成し、部品の硬度及び疲労強度を増大させる格子間に溶け込んだ窒素及び窒化物の析出物からなる。表面に向かって、化合物層、主に六方晶系イプシロン相の炭窒化物が続く。外側の領域におけるFe3O4酸化鉄(磁鉄鉱)は、耐腐食性鋼に関してクロム-酸化物と比較して不働態層の効果がある。酸化物及び化合物層の低い金属様の性質並びに高い硬度の摩擦によって凝着及び焼き付き摩耗が、際立って減少し得る。Corr-I-Dur(登録商標)では、高い温度の肌焼きプロセスと比べて部品の歪及び寸法変化への影響がごくわずかである。
【0052】
Corr-I-Dur(登録商標)の典型的な用途して、自動車用途のためのブレーキピストン、ボールジョイント、ポンプカバー、ワイパーの軸、ディファレンシャル軸、セレクトシャフト、ボルト、ブッシュ及びファスナーエレメントが挙げられる。また、一般的な工業に用いるための油圧ピストン及びハウジング、幾つかの軸及びシャフトも挙げられる。特に、アルミニウムダイ鋳造プロセスにおける充填チャンバー及び鋳造ダイスは、溶融金属及びCorr-I-Dur(登録商標)表面間の低い反応性によって、利点が得られる。Corr-I-Dur(登録商標)は、肌焼き鋼、熱処理できる鋼、冷間成形鋼及び機械加工が容易な鋼としてほぼすべての単一及び低い合金の鉄材料に適用することができる。
【0053】
特定の本実施形態では、加熱及び冷却の双方の間保護し、制御された雰囲気を提供するために備えられた熱処理用加熱炉が、用いられた。特定の本実施形態で鋼の種類のSS2172を用いた。本プロセスは、空気中で約1~2時間、400℃での予備加熱及び予備酸化を用いて開始した。この予備酸化は、更にこの鋼に対する軟窒化の結果を確実にするために実施される。これを
図3に概略的に示す。主な軟窒化中、35%アンモニア(NH
3)、5%二酸化炭素(CO
2)及び60%窒素ガス(N
2)のガス混合物を用い、体積%で測定した。軟窒化を580℃で実施した。全ガスフローは、毎時、加熱炉の3.5倍の容積に相当する。この全ガスフローは、窒素活性に影響するが、加熱炉に依存し、通常、各加熱炉の種類に適合させなければならない。軟窒化工程中の窒素活性、a
Nは、2.5及び5の間で変化したが、以前の経験によれば0.2~20の範囲内の窒素活性は、所望の結果を生じさせるために用いることが可能である。本実施形態では、化合物層を有する窒化層が、目標であり、表面に少なくとも6重量%の窒素濃度を必要とする。
【0054】
特定の本実施形態に関して達成され、研究された化合物領域の種類は、純粋なε窒化物又はε窒化物及びγ’窒化物間の混合物の組成を有する。これらの特定の実験によって、厚みが10~25μmの化合物領域を有する軟窒化層が得られた。
【0055】
焼き入れは、軟窒化加熱炉に直接、連結した冷却チャンバー内で実施される。実験中の冷却チャンバー内の雰囲気は、軟窒化加熱炉内の雰囲気と同様の組成を有していた。窒素活性は類似しており、移送及び焼き入れ中における脱硝化の危険性を減少させた。この雰囲気は、主な組成として、窒素ガス(N2)、水素ガス、(H2)、アンモニア(NH3)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)及び場合によっては少量の水(H2O)を有していた。
【0056】
多くの代替実施形態もまた可能である。第一に、基本的な材料を変更することができる。実験は、鋼のSS2541、SS2244、SS2142、SS2242及びSS1265について実施され、そのすべてにおいて、完全に満足できる結果が得られた。前に述べたように、本質的にすべての鉄に基づいた鋼材料を窒化プロセスによって処理することができ、限定されないが、炭素鋼、低合金鋼、工業用鋼、硬化及び調質鋼、肌焼き鋼、工具鋼、ステンレス鋼、析出硬化鋼/ステンレス鋼及びその他の鋼の改良型を含む。
【0057】
加熱及び予備酸化は、また代わりの方法でも実施することができる。300℃~450℃の間の予備酸化温度は、窒化の技術分野において一般的であり、基本的に処理される鋼の品質に応じて選択される。しかし、幾つかの材料に対して、予備酸化は、推奨できない。しかし、予備酸化工程の存在は、最終的な焼き入れ-コーティング操作に直接的に影響を与えない。
【0058】
窒化プロセス中にその他のガス混合物を利用することができる。非限定的実施例の1つとして、アンモニア及び二酸化炭素のみの軟窒化雰囲気を用いることができる。最終製品に対して、浸炭が、あまり重要ではない場合、純粋な窒化もまた実施することができる。次にアンモニアのみの雰囲気、場合により、窒素ガス混合物を利用することができる。窒素及び炭素雰囲気を生成するために、アンモニアと混合した吸熱ガス(endogas)を用いることができる。
【0059】
また、窒化中のプロセス温度も異なり得る。標準的な軟窒化プロセスにおいて500℃~620℃の軟窒化温度が用いられ、選択した基本材料、すなわち鋼の品質に窒化プロセスを適応させる可能性が得られる。例えば、窒化層の厚みは、コンマ数マイクロメートルから35μmまで達成され、これによって、最終材料の特性を調整するための可能性が増大する。
【0060】
特定の種類の窒化物表面を達成するために、ガス混合物、温度及びプロセス時間の適合によって、窒化を制御する可能性が得られる。続く焼き入れ工程は、任意の窒化又は軟窒化された表面について実施することができる。特に、このような表面は、所望の最終的な用途又は基材材料の種類を選択する場合に全体的に化合物領域がなくても、又は単純なγ’窒化物を有していてもよい。
【0061】
窒化工程の後、窒化鋼品について、反応性焼き入れ油中で即時の焼き入れを行った。
【0062】
反応性焼き入れ油の配合における使用に適したタングステン担体の非排他的な例として、単純なタングステン酸塩、チオタングステン酸塩、タングステンジチオカルバメート、タングステンジチオホスフェート、タングステンカルボキシレート及びジチオカルボキシレート、タングステンザンテート及びチオザンテート、配位子としてカルボニル、シクロペンタジエニル及びイオウを含有する多核タングステン錯体、配位子としてピリジン、ビピリジン、ニトリル及びホスフィンを有するタングステンのハロゲン含有錯体、脂肪酸グリセリド、アミド及びアミンを有するタングステン酸(tunstic acid)の付加物が、挙げられる。本目的に適した市販の製品における既知の例として、Vanderbilt InternationalからのVanlube W-324及びキングインダストリーズ(King Industries)からのNa-lube FM-1191が挙げられる。
【0063】
反応性焼き入れ油の配合における使用に適したモリブデン化合物の非排他的な例は、単純なモリブデン酸塩、チオモリブデン酸塩、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンカルボキシレート及びジチオカルボキシレート、モリブデンザンテート及びチオザンテート、配位子としてカルボニル、シクロペンタジエニル及びイオウを含有する多核モリブデン錯体、ピリジン、ビピリジン、ニトリル及びホスフィンを有するモリブデンのハロゲン含有錯体、脂肪酸グリセリド、アミド及びアミンを有するモリブデン酸の付加物がある。本目的に適した市販の製品における既知の例として、Vanderbilt InternationalからのMolyvan L及びMolyvan 855、並びにキングインダストリーズ(King Industries)からのNa-lube FM-1187が挙げられる。
【0064】
反応性焼き入れ油の配合における使用に適したホウ素化合物の非排他的な例は、分散ホウ酸、分散金属ホウ酸塩、アミン及びアミノアルコールを有するホウ酸の付加物、ホウ酸エステル及びホウ素クラスターアニオンを含有するイオン性液体である。本目的に適した市販の製品における既知の例として、Vanderbilt InternationalからのVanlube 289、及びキングインダストリーズ(King Industries)からのNa-lube FM-1187が挙げられる。
【0065】
反応性焼き入れ油の配合における使用に適したイオウ化合物の非排他的な例は、元素状イオウ又は様々な油に溶解できる有機イオウ化合物、いわゆるイオウ担体であり、硫化炭化水素、硫化脂肪酸及び硫化エステルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0066】
反応性焼き入れ油の配合における使用に適したりん化合物の非排他的な例は、トリクレジルホスフェートなどのりん酸トリエステル、モノ及びジアルキルりん酸の部分的なエステルのアミンで中和された混合物、エトキシ化モノ及びジアルキルりん酸、ジアルキルジチオホスフェート等がある。
【0067】
焼き入れ油の異なる組成を試験した。好ましい群の実施形態では、異なる試験において、汎用焼き入れ油添加剤パッケージである1~10%の重量間の処理レベルで用いたオロナイト(Oronite)からのOLOA4751、及び1~20%の重量間の処理レベルで用いたモリブデンホスホチオエートと組み合わせてNynas Petroleumからのナフテン系基油T22を用いた。
【0068】
幾つかのその他の試験実施形態では、焼き入れ油に対してその他の一般的な添加剤を用いた。分散性を促進し、濡れを改善するために脂肪酸トリグリセリドであるMicros Lubrication TechnologiesからのPlasmoil MR-Aを10%の重量までの濃度で加えた。追加のS源を提供するために、ジアルキルポリスルフィドであるAdditin RC 2540を10%の重量までの量で加えた。焼き入れ油の酸化を減少させ、かつ追加のS及びP源を提供するために亜鉛ジチオホスフェートであるオロナイト(Oronite)からのOLOA 262を5%の重量までの濃度で用いた。これらの追加添加剤の主な目的は、固体潤滑剤層の形成に関して決定的な影響なしに焼き入れ油の寿命を長引かせることである。
【0069】
図4は、反応性油中で焼き入れされた1つのサンプル及び通常の油で焼き入れされた類似のサンプルの表面組成を示す図である。表面組成についてX線蛍光測定を用いて解析した。反応性焼き入れ方法を用いて処理した試料の化学的表面組成が、通常の方法を用いて処理した試料と非常に異なることが、容易にわかる。S、Zn及びMoなどのドーピング元素の濃度は、通常の焼き入れの場合では検出限界未満である。
【0070】
また、処理した部品の外観及びトライボロジー特性は、全く異なる。
図5は、通常の方法で焼き入れした表面と比較して、上記で示した組成に従った反応性焼き入れ油中で焼き入れした表面に関して異なる回転速度に対する摩擦係数(COF)を示す図である。通常の焼き入れ方法と比べたとき、反応性の焼き入れによって、低い摩擦係数を有する表面を生成すると容易に結論を出すことができる。異なる試料回転速度におけるプローブ配置で、クロス-シリンダー配置の試験試料で接触する潤滑摩擦試験で示されたデータが得られる。初期のヘルツ接触圧力は、約1GPaだった。
【0071】
S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを用いた反応性の焼き入れによって生成する鋼品は、したがってS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤の表面層を示す。
図6は、このような窒化鋼品100の一部の断面図を概略的に示す。バルク合金は、窒化工程前の元々の鋼品に相当する鋼102である。窒化中に熱処理によって、元々の鋼品の金属相が変化してもよいが、同様の組成を有する幾つかの用途では、マルテンサイト及び/又はオーステナイト構造を有することが有利であり、高い硬度の製品が得られる。2つの領域114及び116からなる本実施形態では、鋼品100の表面104に近接して窒化層110又は境界層が形成される。拡散層116又は窒素拡散領域は、バルク材料102に対して遷移を形成する。化合物層114又は窒素化合物領域は、通常主に六方晶イプシロン相の窒化物/炭窒化物を含む。新たな窒化製品に関して、平均窒素濃度は、表面に向かって増大する。領域間の境界は、通常、厳密ではないが、代わりに1つの層構成から別の構成に徐々に遷移する。
図5の右側の図によって概略的に示されるように窒素濃度は、鋼品100のバルク102から表面に向かって通常、増大する。固体潤滑剤120の表面層は、窒化層110、特定の本実施形態では化合物層114に直接、結合する。換言すれば、固体潤滑剤は最も高い窒素含有量を有する窒化層の新しくもたらされた表面部分に化学的に直接、結合している。
【0072】
別の実施形態では、例えば、Corr-I-Dur(登録商標)プロセスが基本的な窒化プロセスを構成する場合、窒化層は、更に外側の領域を含み、これは、通常、酸化鉄を含み、不働態層の効果がある。好ましくは、P及び/又はBに基づいた固体潤滑剤を有利にこのような表面に用いてよい。
【0073】
焼き入れへの移送中に主要な混入物質なしの清浄な雰囲気内において、例えば、高いアンモニア又は窒素含有量で鋼品を維持することによって、表面の脱窒化及び表面への混入が、減少する。これは、固体潤滑剤が形成される表面が清浄で高い窒素濃度を有することを意味する。それによって形成される固体潤滑剤及び窒化物層間の結合が、本質的に混入物質を含まないようになる。
【0074】
その他の実施形態では、窒化工程を従来技術においてそのようなものとして知られている、その他の窒化プロセスにしたがって実施することができる。任意の決定的な方法において、これらの代替窒化プロセスの詳細は、固体潤滑剤コーティングに影響を与えず、したがってここでより詳細に記載されない。このような実施形態において、窒化層は、例えば、窒素拡散領域のみ又は窒素拡散領域及び窒素化合物領域のみを含んでよい。
【0075】
焼き入れ速度及び焼き入れ油中におけるドーピング元素(S、P、B、Mo、W)の濃度は、達成することのできる固体潤滑剤の厚みに幾つかの制限を与える。所望のトライボロジー特性を達成するために密着した固体潤滑剤層によって均一な表面被覆を有すること好ましい。特有の表面粗さの存在及び本質的に確率的な固体潤滑剤層の形成によって、0.1μm超の平均的な厚みを有する固体潤滑剤の層を有することが好ましい。これは、更に上記で示される試験によって容易に達成された。
【0076】
厚すぎる固体潤滑剤層は、ある種の用途においては不利になる恐れがある。必要不可欠な添加剤の焼き入れ油の減りが速いことに加えて、厚みのある層は、取れやすく、焼き入れ浴に混入し、非常に厚みのある層に対して、鋼品の許容寸法から許容限界を超えて変化する恐れがある。更に、反応性の焼き入れの本技術によって、油中における反応物質の濃度及び/又は鋼品が、固体潤滑剤層の形成を引き起こすために十分高い温度を有する時間は、最大の層厚みに関して通常、いくつかの制限がある。今日、数μm以下の厚みを有する固体潤滑剤の層を有することが好ましいと考えられている。
【0077】
本技術は、多くの種類の製品に適用できる。幾つかの非限定的例は歯車、クランクシャフト、カムシャフト、ラック、ピニオン、車軸、レース、ドライブシャフト、油圧モーター用のセンターピン及びシリンダーブロック、ポンプ用の羽、ピストンスカート、チェーン部品、スライドウェイ、カムフォロア、バルブ部品、押出機のスクリュー、ダイカスト用具、鍛造用ダイス、押し出し用ダイス、小火器用部品、インジェクター、プラスチック用モールド用具、コンベヤー用ガイド等である。
【0078】
図7Aは、鋼品100の製造装置1の実施形態を概略的に示す。装置1は窒化チャンバー10を含む。窒化チャンバー10は、窒化鋼品が得られる、350~650℃の間の窒化温度で、窒化鋼品100のために構成される。本実施形態では、窒化チャンバー10は、入口バルブ18を含み、これを通して、鋼品100が入れられ、ホルダー15に設置される。必要とする温度を提供するために発熱体14が、窒化チャンバー10内に提供される。多数のガス導入口12が提供され、窒化チャンバー10内部でガスの供給が、必要とするガス雰囲気に応じて制御される。窒化チャンバー10内部の雰囲気は、連続的に変化し、したがってガスは、ガス出口17を通して窒化チャンバーを出ることが可能になる。ガス導入口12、ガス出口17及び発熱体14が、好ましくは窒化チャンバー10内部の温度及び雰囲気の組成を監視するセンサー(図示せず)に基づいて制御される。
【0079】
窒化プロセスが終了したとき、焼き入れボリューム20に対する出口バルブ16を開く。焼き入れボリューム20は、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む反応性焼き入れ油150を含む。焼き入れボリューム20に対するガス導入口36は、焼き入れボリューム20内の雰囲気が、鋼品100の脱硝化を減少させるために十分な窒素活性を有することを確実にする。通常、窒素ガスが加えられる。
【0080】
反応性焼き入れ油を含む前述の焼き入れボリュームに対して、窒化鋼品100を移動させるために、輸送手段30が提供される。本実施形態では、ホルダー15に機械的に連結し、焼き入れボリューム20に入り込む、出口バルブ16を通して入れるために水平移動手段32が配置される。出口バルブ16は、その後、焼き入れ中に反応性焼き入れ油150から放出されるガス及び液体に対して窒化チャンバー10を保護するために閉じてよい。輸送手段30の垂直移動手段34は、鋼品100の移動を続け、垂直移動によって、鋼品100は、反応性焼き入れ油150中で焼き入れされる。それによって輸送手段30は、依然として窒化温度を有するときに鋼品100を移動し、焼き入れボリューム20の反応性焼き入れ油150中で窒化鋼品100に焼き入れを行う。この焼き入れの結果、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤が窒化鋼品上で形成される。
【0081】
したがって、特定の本実施形態では、輸送手段30は、窒化チャンバー10及び焼き入れボリューム20間のすべてにわたって、脱窒化を防ぐ窒素ポテンシャルの雰囲気中で窒化鋼品100を移動させるために配置される。
【0082】
また、本実施形態では、遅れることなく移送が実施される場合、窒化チャンバー10及び前述の焼き入れボリューム20間のすべてにわたって、窒化温度で窒化鋼品100を移動させるために、輸送手段30が配置される。
【0083】
代替的実施形態では、窒化チャンバー10から鋼品100を導入し、かつ取り除くために、窒化チャンバー10は、1つのみのバルブを有してよい。
【0084】
図7Bは、鋼品100の製造装置1に関する別の実施形態を概略的に示す。本実施形態では、焼き入れボリューム20は、窒化チャンバー10の真下に据えられる。その際、鋼品100を焼き入れ油150に垂直に移動させるために、輸送手段30を適合させる。
【0085】
本技術における主要成分の1つは、反応性焼き入れ油である。好ましい実施形態では、鋼品上に固体潤滑剤層を供給するための焼き入れ油は、基油及びS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む添加剤を含む。好ましい実施形態では、焼き入れ油は、S並びに少なくとも1つのMo及びWを含む。
【0086】
基本的な本態様は、多くの点において変更することができる。上記で示される方法の詳細な実施形態に関連して、幾つかの実施形態が、既に示されてきた。
【0087】
焼き入れの種類(冷たい、暖かい又は熱い)に応じて、好ましくは異なる無機物に基づいた油が、冷たい焼き入れに対する100Nから熱い焼き入れに対する600Nの配合で用いられる。したがって、T22(ニーナス(Nynas))、SN100又はSN200(トタル(Total))などの低い粘度の油では、冷たい焼き入れに対して冷却が中程度、又は加速するため、より適しており、一方、SN500(トタル(Total))又はT100(ニーナス(Nynas))などの高粘度製品は、熱い焼き入れに対して冷却が加速するため、より適している。
【0088】
最も重要な焼き入れ油の特性は、粘度(ASTM D445)、引火点(ASTM D92又はD93)、含水量(ASTM D6304)、酸価(ASTM D664)、析出個数(ASTM D91)、金属含有量(ASTM D4951又はD6595)及びGMクエンチメーター(GM quenchometer)(ASTM D3520)又は冷却曲線解析(ASTM D6200)である。冷却曲線解析によって、油の酸化又は水の混入による冷却速度の変化を容易に検出できる。一定の制限内で、添加剤を用いることによって、冷却曲線を「補正」することができる。
【0089】
添加方法は、通常、焼き入れプロセス中に温度及びより安定した油を提供する目的に関して変わらない。最も一般的添加剤は、フェノール系及びアミン系酸化防止剤、カルシウムスルホネート、フェネート、及び無灰系アミンを含む全塩基価緩衝及び洗浄性添加剤、コハク酸エステル、アミド及びイミドで置換したヒドロカルビルである。このような添加剤はそのようなものとして例えば、米国特許US6,239,082又はUS7,358,217の従来技術で知られている。既知の市販のパッケージについて非排他的な例は、オロナイト(Oronite)からのOLOA 4750、OLOA 4751及びLubrizolからのLZ 5357である。好ましくは、焼き入れ油は、これらの焼き入れ油添加剤を最大、10%の重量で含む。
【0090】
反応性の焼き入れに有利に用いられる焼き入れ油の更なる特定の実施形態は、以下にしたがって構成される。
【表1】
【0091】
反応性の焼き入れに有利に用いられる焼き入れ油について、別の更なる特定の実施形態は、以下にしたがって構成される。
【表2】
【0092】
上記実施形態は、本発明の幾つかの例示的実施例として理解されるべきである。様々な修飾、組合せ及び変更が本発明の範囲を逸脱することなく実施形態に対して行われてよいことが当業者には理解されるであろう。特に異なる実施形態における異なる部分の解決策は、技術的に可能な場合、その他の形態と組み合わせることができる。しかし、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
【0093】
更に以下の付記を開示する。
(付記1)鋼品の製造方法であって、
窒化鋼品が得られる350~650℃の間の硝化温度における鋼品の窒化(210)工程と、
硝化温度から反応性焼き入れ油中に窒化鋼品を焼き入れ(220)する工程と
を含み、
反応性焼き入れ油が、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含み、
それによって、焼き入れの工程が、更にS、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤による、窒化鋼品のコーティング(222)を含む、
製造方法。
(付記2)反応性焼き入れ油が、すべてのS、P、B、Mo及びWの少なくとも0.1%の重量を含むことを特徴とする、付記1に記載の方法。
(付記3)反応性焼き入れ油が、すべてのS、P、B、Mo及びWについて最大で10%の重量を含むことを特徴とする、付記1又は2に記載の方法。
(付記4)窒化工程(210)及び焼き入れ工程(220)間の全体的な時間を通して、脱窒化を防ぐ窒素ポテンシャルの雰囲気中で、窒化鋼品を維持する更なる工程を特徴とする、付記1~3のいずれか一項に記載の方法。
(付記5)窒化工程(210)及び焼き入れ工程(220)間の全体的な時間を通して、硝化温度で窒化鋼品を維持する更なる工程を特徴とする、付記1~4のいずれか一項に記載の方法。
(付記6)最大冷却速度が250℃/s未満で焼き入れ工程(220)が実施されることを特徴とする、付記1~5のいずれか一項に記載の方法。
(付記7)鋼品の製造装置であって、
窒化鋼品が得られ、350~650℃の間の硝化温度で鋼品(100)を窒化するために構成される窒化チャンバー(10)と、
S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む反応性焼き入れ油(150)を含む焼き入れボリューム(20)と、
反応性焼き入れ油(150)中で窒化鋼品の焼き入れを行うために反応性焼き入れ油(30)を含む焼き入れボリューム(20)に対して硝化温度を有する窒化鋼品を移動させる輸送手段(30)とを含み、その焼き入れによって、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤が、窒化鋼品上に形成される、
製造装置。
(付記8)窒化チャンバー(10)及び焼き入れボリューム(20)間のすべてにわたって脱窒化を防ぐ窒素ポテンシャルの雰囲気中で窒化鋼品を移動させるために輸送手段(30)が配置されることを特徴とする、付記7に記載の装置。
(付記9)窒化チャンバー(10)及び焼き入れボリューム(20)間のすべてにわたって硝化温度で窒化鋼品を移動させるために輸送手段(30)が配置されることを特徴とする、付記7又は8に記載の装置。
(付記10)鋼品(100)であって、
鋼本体(102)を含み、
鋼(102)の本体が、S、P、B、Mo及びWの少なくとも1つを含む固体潤滑剤(120)の表面層によって覆われた窒化層(110)を有し、
固体潤滑剤(120)が、最も高い窒素含有量を有する新たに提供された窒化層(110)の表面部分に化学的に直接、結合している、
鋼品。
(付記11)固体潤滑剤(120)及び窒化層(110)間の結合が、混入物質を含まないことを特徴とする付記10に記載の鋼品。
(付記12)鋼品上に固体潤滑剤層を供給する焼き入れ油であって、基油、並びにS並びに少なくとも1つのMo及びWを含む添加剤を含む、焼き入れ油。
(付記13)元素状イオウ、
硫化炭化水素、
硫化脂肪酸、及び
硫化エステル
の少なくとも1つの形態でSを含むことを特徴とする、付記12に記載の焼き入れ油。
(付記14)単純なモリブデン酸塩、
チオモリブデン酸塩、
モリブデンジチオカルバメート、
モリブデンジチオホスフェート、
モリブデンカルボキシレート、
モリブデンジチオカルボキシレート、
モリブデンザンテート、
モリブデンチオザンテート、
配位子としてカルボニル、シクロペンタジエニル及びイオウを含有する多核モリブデン錯体、
ピリジン、ビピリジン、ニトリル及びホスフィンを有するモリブデンのハロゲン含有錯体、並びに
脂肪酸グリセリド、アミド及びアミンを有するモリブデン酸の付加物
の少なくとも1つの形態でMoを含むことを特徴とする付記12又は13に記載の焼き入れ油。
(付記15)1%~20%の重量のモリブデンホスホチオエートを含むことを特徴とする、付記14に記載の焼き入れ油。
(付記16)単純なタングステン酸塩、
チオタングステン酸塩、
タングステンジチオカルバメート、
タングステンジチオホスフェート、
タングステンカルボキシレート、
タングステンジチオカルボキシレート、
タングステンザンテート、
タングステンチオザンテート、
配位子としてカルボニル、シクロペンタジエニル及びイオウを含有する多核タングステン錯体、
配位子としてピリジン、ビピリジン、ニトリル及びホスフィンを有するタングステンのハロゲン含有錯体、並びに
脂肪酸グリセリド、アミド及びアミンを有するタングステン酸(tunstic acid)の付加物
の少なくとも1つの形態でWを含むことを特徴とする付記12~15のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記17)りん酸トリエステルの形態でPを含むことを特徴とする、付記12~16のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記18)トリクレジルホスフェート、
モノアルキルりん酸の部分的なエステルのアミンで中和された混合物、
ジアルキルりん酸の部分的なエステルのアミンで中和された混合物、
エトキシ化モノアルキルりん酸、
エトキシ化ジアルキルりん酸、及び
ジアルキルジチオホスフェート
の少なくとも1つの形態でPを含むことを特徴とする、付記17に記載の焼き入れ油。
(付記19)分散ホウ酸、
分散金属ホウ酸塩、
アミン及びアミノアルコールを有するホウ酸の付加物、
ホウ酸エステル、並びに
ホウ素クラスターアニオンを含有するイオン性液体
の少なくとも1つの形態でBを含むことを特徴とする、付記12~18のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記20)すべてのS、P、B、Mo及びWの少なくとも0.1%の重量を含むことを特徴とする付記12~19のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記21)すべてのS、P、B、Mo及びWについて最大で10%の重量を含むことを特徴とする、付記12~20のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記22)最大5%の重量でチオりん酸亜鉛(zinc phosporothioate)を含むことを特徴とする、付記12~21のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記23)最大で10%の重量のジアルキルポリスルフィドを含むことを特徴とする、付記12~21のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記24)最大10%の重量で脂肪酸トリグリセリドを含むことを特徴とする付記12~21のいずれか一項に記載の焼き入れ油。
(付記25)最大10%の重量で焼き入れ油添加剤を含むことを特徴とする、付記12~24のいずれか一項に記載の焼き入れ油。