(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031680
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】熱伝導性シートの製造方法及び積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220215BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220215BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20220215BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220215BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20220215BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220215BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220215BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20220215BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220215BHJP
B32B 27/24 20060101ALI20220215BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220215BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
B32B27/00 101
H01L23/36 D
C08L83/07
C08K3/013
C08K5/5419
C08L83/05
H05K7/20 F
B32B7/027
B32B27/18 Z
B32B27/24
C08J5/18 CFH
B29C43/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180584
(22)【出願日】2021-11-04
(62)【分割の表示】P 2021549723の分割
【原出願日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2020094786
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020195370
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大希
(57)【要約】
【課題】シートの状態が良好で、熱抵抗値が低い熱伝導性シートの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とを備える熱伝導性シートの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、
少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、
前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とを備える熱伝導性シートの製造方法。
【請求項2】
前記液状組成物について、直径3mmの突き刺し面を有する突き刺し棒を、液面から深さ12mmまで進入させて測定した突き刺し荷重が1~20gfである、請求項1に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項3】
前記ガス透過性フィルムが無孔ガス透過性フィルムである、請求項1又は2に記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項4】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、
少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、
前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とにより、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シートに挟まれた熱伝導性シートを得た後、
前記熱伝導性シートが有する前記ガス透過性フィルムを剥離する工程(4)と、
前記ガス透過性フィルムを剥離した面にガス低透過性フィルムを積層する工程(5)とを実行することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項5】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、
少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、
前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とにより、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シートに挟まれた熱伝導性シートを得た後、
前記ガス透過性フィルムにガス低透過性フィルムを積層する工程(5’)を実行することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項6】
オルガノポリシロキサンの架橋体であるバインダーと、前記バインダーに分散している熱伝導性充填材と、揮発性化合物とを含む熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートとを備える積層体。
【請求項7】
前記熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートのうち、少なくとも一方の面に設けられた樹脂シートがガス透過性フィルムである、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートが、共にガス低透過性フィルムである、請求項6に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートの製造方法及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、自動車部品、携帯電話等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためにヒートシンクなどの放熱体が一般的に用いられる。放熱体への熱の伝熱効率を高める目的で、発熱体と放熱体の間には、熱伝導性シートが配置されることが知られている。熱伝導性シートは、電子機器内部に配置させるとき圧縮して用いられることが一般的であり、そのため高い柔軟性が必要とされ、さらに放熱性を高めるため、熱伝導率を高くする必要がある。
【0003】
特許文献1では、「高分子マトリクス中に熱伝導性充填材を含む熱伝導性組成物において、メチルフェニル系シリコーンを含有し、前記熱伝導性充填材は、平均粒径が10~100μmであり、前記熱伝導性組成物中の前記熱伝導性充填材の含有率が70~90体積%であり、かつ、当該熱伝導性充填材中の30~80体積%が粒径40μm以上であることを特徴とする熱伝導性組成物」に関する発明が記載されている。そして、該熱伝導性組成物及び熱伝導性成形体は、柔軟性や屈曲性を損なわず、取り扱い性に優れるとともに熱伝導性に優れていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱伝導率を高めるため、熱伝導性充填材の充填量を高めると、熱伝導性樹脂シートを形成するための組成物の粘度が高くなり、シート化が難しくなる。具体的には、気泡が混入して硬化不良が生じたり、組成物と離型フィルムの間の気泡により表面状態が悪くなるなどの不具合が生じてしまう。また、生産性を高めるため、シート化の速度を速めると、熱伝導性シートに亀裂が入ったり、前記気泡がより混入しやすくなるなどの不具合が生じてしまう。
一方で、揮発性化合物を添加して、組成物の粘度を調整してシート化する方法も考えられる。一般に、熱伝導性充填材を高充填した熱伝導性シートは、原料である組成物を2枚の樹脂シートに挟み込んで、ロールやプレスなどで厚さを調整して製造するが、揮発性化合物を含む組成物を使用すると、揮発性化合物の影響によりシート中に気泡が多く発生して表面状態が悪くなり、その結果熱抵抗値が高くなりやすいことがわかった。
そこで、本発明は、熱伝導性充填材を高充填した場合であっても、シートの状態が良好で熱抵抗値が低い熱伝導性シートの製造方法、及び熱伝導性シートを備える積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、揮発性化合物を含む特定の液状組成物を、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に挟み加圧することで得たシート状成形体を加熱し、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させて製造した熱伝導性シートは、シートの状態が良好で熱抵抗値が低くなることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
【0007】
[1]アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とを備える熱伝導性シートの製造方法。
[2]前記液状組成物について、直径3mmの突き刺し面を有する突き刺し棒を、液面から深さ12mmまで進入させて測定した突き刺し荷重が1~20gfである、上記[1]に記載の熱伝導性シートの製造方法。
[3]前記ガス透過性フィルムが無孔ガス透過性フィルムである、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性シートの製造方法。
[4]アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とにより、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シートに挟まれた熱伝導性シートを得た後、前記熱伝導性シートが有する前記ガス透過性フィルムを剥離する工程(4)と、前記ガス透過性フィルムを剥離した面にガス低透過性フィルムを積層する工程(5)とを実行することを特徴とする積層体の製造方法。
[5]アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とにより、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シートに挟まれた熱伝導性シートを得た後、前記ガス透過性フィルムにガス低透過性フィルムを積層する工程(5’)を実行することを特徴とする積層体の製造方法。
[6]オルガノポリシロキサンの架橋体であるバインダーと、前記バインダーに分散している熱伝導性充填材と、揮発性化合物とを含む熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートとを備える積層体。
[7]前記熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートのうち、少なくとも一方の面に設けられた樹脂シートがガス透過性フィルムである、上記[6]に記載の積層体。
[8]前記熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートが、共にガス低透過性フィルムである、上記[6]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シートの状態が良好で、熱抵抗値が低い熱伝導性シートの製造方法、及び熱伝導性シートを備える積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱伝導性シートの製造方法]
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程(1)と、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程(2)と、前記シート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程(3)とを備える熱伝導性シートの製造方法である。
【0011】
<工程(1)>
工程(1)は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、並びに揮発性化合物を含む液状組成物を得る工程である。
【0012】
(硬化性シリコーン組成物)
硬化性シリコーン組成物は、主剤であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、主剤を硬化させる硬化剤であるハイドロジェンオルガノポリシロキサンとからなる。
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとしては、具体的には、ビニル両末端ポリジメチルシロキサン、ビニル両末端ポリフェニルメチルシロキサン、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-フェニルメチルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジエチルシロキサンコポリマーなどのビニル両末端オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
ハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、ヒドロシリル基(SiH)を2つ以上有する化合物であり、主剤であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを硬化させることができる。
ハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対する配合量比を適宜調整することで、熱伝導性シートの硬さを調整できる。具体的には、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンに対するハイドロジェンオルガノポリシロキサンの配合量比を少なくすることで、熱伝導性シートの硬さを低くできる。
【0013】
硬化性シリコーン組成物の含有量は、液状組成物全量に対して、好ましくは3~30体積%であり、より好ましくは4~20体積%であり、さらに好ましくは5~15体積%である。硬化性シリコーン組成物の含有量がこれら下限値以上であると、液状組成物をシート化し易くなり、これら上限値以下であると、熱伝導性充填材の含有量を増加させることができ、得られる熱伝導性シートの熱抵抗値を低下させることができる。
【0014】
(熱伝導性充填材)
本発明における液状組成物は、熱伝導性充填材を含有する。熱伝導性充填材を含有することで、熱伝導性シートの放熱性を高めることができる。
熱伝導性充填材は、非異方性充填材であっても、異方性充填材であってもよい。
非異方性充填材は、そのアスペクト比が2以下であり、好ましくは1.5以下である。また、アスペクト比を2以下とすることで、液状組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0015】
非異方性充填材の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
これらの中でも、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどが好ましい。
非異方性充填材は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
非異方性充填材の平均粒径は0.1~100μmであることが好ましく、0.3~90μmであることがより好ましい。平均粒径を0.1μm以上とすることで、非異方性充填材の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても液状組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材を高充填しやすくなる。
また、非異方性充填材の充填量を高める観点から、2種類以上の粒径の異なる非異方性充填材を併用することが好ましい。
【0017】
なお、非異方性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、電子顕微鏡や光学顕微鏡、X線CT装置を用いて、任意の非異方性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0018】
異方性充填材は、形状に異方性を有する充填材であり、配向が可能な充填材である。異方性充填材としては、繊維状材料、及び鱗片状材料から選択される少なくとも1種が好ましい。異方性充填材は、一般的にアスペクト比が高いものであり、アスペクト比が2を越えるものであり、5以上であるものも使用することができる。
異方性充填材としては、具体的には、炭素繊維、鱗片状炭素粉末で代表される炭素系材料、金属繊維で代表される金属材料や金属酸化物、窒化ホウ素や金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維等が挙げられる。
【0019】
熱伝導性充填材の含有量は、硬化性シリコーン組成物100質量部に対して、500~6000質量部の範囲であることが好ましく、1500~5000質量部の範囲であることがより好ましく、2500~4500質量部の範囲であることがさらに好ましい。熱伝導性充填材の量がこれら下限値以上であると、熱伝導性シートの熱抵抗値が低下して放熱性が高まり、熱伝導性充填材の量がこれら上限値以下であると、液状組成物の粘度が低くなり、シート化がし易く、表面状態のよい熱伝導性シートを得やすくなる。
【0020】
(揮発性化合物)
液状組成物は、硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材以外に、揮発性化合物を含有する。揮発性化合物を含有する液状組成物を用いることで、従来よりも熱伝導性充填材の含有量の多い液状組成物を用いてシート化することができる。
【0021】
本明細書において、揮発性化合物は熱重量分析で2℃/分の条件で昇温したときの重量減少が90%となる温度T1が70~300℃の範囲にあること、及び沸点(1気圧)が60~200℃の範囲にあることの少なくともいずれかの性質を備える化合物を意味する。ここで、重量減少が90%となる温度T1とは、熱重量分析前の試料の重量を100%として、そのうち90%の重量が減少する温度(すなわち、測定前の重量の10%となる温度)を意味する。
揮発性化合物としては、例えば、揮発性シラン化合物、揮発性溶媒などが挙げられ、中でも揮発性シラン化合物が好ましい。
【0022】
上記揮発性シラン化合物としては、例えばアルコキシシラン化合物が挙げられる。アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘキサトキシ基が挙げられる。アルコキシシラン化合物は、二量体として含有されていてもよい。
【0023】
アルコキシシラン化合物の中でも、入手容易性の観点から、メトキシ基又はエトキシ基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基の数は、無機物としての熱伝導性充填材との親和性を高めるという観点から、3であることが好ましい。アルコキシシラン化合物は、トリメトキシシラン化合物及びトリエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0024】
アルコキシシラン化合物の有する有機置換基に含まれる官能基としては、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基が挙げられる。ここで、上記マトリクスの前駆体として、白金触媒を含む付加反応型のオルガノポリシロキサンを用いる場合、マトリクスを形成するオルガノポリシロキサンの硬化反応に影響を与え難いアルコキシシラン化合物を選択して用いることが好ましい。具体的には、白金触媒を含む付加反応型のオルガノポリシロキサンを用いる場合、アルコキシシラン化合物の有機置換基は、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ヒドロキシル基、又はメルカプト基を含まないことが好ましい。
【0025】
アルコキシシラン化合物は、熱伝導性充填材の分散性を高めることで、熱伝導性充填材を高充填し易くなることから、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物、すなわち、有機置換基としてアルキル基を有するアルコキシシラン化合物を含むことが好ましい。ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましい。また、ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、アルコキシシラン化合物自体の粘度が比較的低く、熱伝導性組成物の粘度を低く抑えるという観点から、16以下であることが好ましい。
【0026】
アルコキシシラン化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。アルコキシシラン化合物の具体例としては、アルキル基含有アルコキシシラン化合物、ビニル基含有アルコキシシラン化合物、アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物、メタクリル基含有アルコキシシラン化合物、芳香族基含有アルコキシシラン化合物、アミノ基含有アルコキシシラン化合物、イソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、イソシアヌレート基含有アルコキシシラン化合物、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、及びメルカプト基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0027】
アルキル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、及びn-デシルトリメトキシシランが挙げられる。アルキル基含有アルコキシシラン化合物の中でも、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、及びn-デシルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種が好ましく、n-オクチルトリエトキシシラン及びn-デシルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種がより好ましく、n-デシルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0028】
ビニル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルトリエトキシシランが挙げられる。アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。メタクリル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。芳香族基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、及びフェニルトリエトキシシランが挙げられる。アミノ基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。イソシアネート基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。イソシアヌレート基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが挙げられる。エポキシ基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。メルカプト基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
なお、上記アルコキシシラン化合物の具体例は一例であって、これに限定されるものではない。
【0029】
上記揮発性溶媒としては、沸点(1気圧)が60~200℃、好ましくは沸点が100~130℃の溶媒を使用することができる。また、揮発性溶媒は、オルガノポリシロキサンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有することが好ましく、20℃以上高い沸点を有することがより好ましい。
揮発性溶媒の種類は、上記要件を満足する溶媒を適宜選択することができるが、例えばトルエン等の芳香族化合物を使用することが好ましい。
【0030】
液状組成物における揮発性化合物の含有量は、硬化性シリコーン組成物100質量部に対して、好ましくは5~100質量部であり、より好ましくは15~80質量部である。揮発性化合物の上記範囲であると、熱伝導性充填材の含有量を高めた熱伝導性シートが得やすくなる。
【0031】
(シリコーンオイル)
本発明における液状組成物は、熱伝導性シートの柔軟性や、後述するガス透過性フィルなどとの剥離性を高める観点から、シリコーンオイルを含むことが好ましい。シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルであってもよいし、変性シリコーンオイルであってもよいが、ストレートシリコーンオイルが好ましい。
【0032】
ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル等が挙げられる。液状組成物は、ジメチルシリコーンオイル及びフェニルメチルシリコーンオイルの少なくとも一方を含むことが好ましく、両方を含むことがより好ましい。
液状組成物にジメチルシリコーンオイルを含有させることにより、熱伝導性シートの柔軟性が向上しやすくなる。また、液状組成物にフェニルメチルシリコーンオイルを含有させることにより、熱伝導性シートのガス透過性フィルムに対する剥離性が向上し、特に、後述するポリ4メチルペンテン―1から形成された無孔ガス透過性フィルムに対する剥離性が向上する。そのため剥離時に、熱伝導性シートの表面状態に影響を与えることを防止できる。
【0033】
シリコーンオイルの含有量は、硬化性シリコーン組成物100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましく、10~80質量部であることが好ましく、15~70質量部であることがより好ましい。
【0034】
(添加成分)
液状組成物は、必要に応じて添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、カップリング剤、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。また、硬化性シリコーン組成物を硬化させる場合には、添加剤として硬化を促進させる硬化触媒などが配合されてもよい。硬化触媒としては、白金系触媒が挙げられる。
【0035】
液状組成物は、硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、揮発性化合物、及び必要に応じて配合されるシリコーンオイル、添加剤などを混合して調製する。液状組成物は、低粘度のスラリー状から高粘度で自然には流動しない粘土状のものまでを含むが、後述する突き刺し荷重の範囲となる流動性を備えることが好ましい。液状組成物には必要に応じて適宜添加成分がさらに混合されてもよい。ここで、液状組成物を構成する各成分の混合は、例えば公知のニーダー、混練ロール、ミキサー、振動撹拌機などを使用するとよい。
【0036】
(液状組成物の突き刺し荷重)
液状組成物について、直径3mmの突き刺し面を有する突き刺し棒を、液面から深さ12mmまで進入させて測定した突き刺し荷重が1~20gfであることが好ましい。液状組成物の突き刺し荷重が上記範囲であると、液状組成物を樹脂シート上に適切に塗工することができ、シート状に成形することができる。液状組成物の突き刺し荷重は、より好ましくは2~15gfであり、さらに好ましくは5~12gfである。
【0037】
<工程(2)>
工程(2)は、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に前記液状組成物を挟み加圧することで、シート状成形体を得る工程である。
ガス透過性フィルムを用いることにより、後述する工程(3)において、シート状成形体に含まれる硬化性シリコーン組成物を加熱して硬化させる際に、揮発性化合物を適切に揮発させることができ、シート状成形体から形成される熱伝導性シートに気泡などが発生するのを抑制することができる。また、熱伝導性シートの表面に凸凹が形成されにくくなり、表面状態のよい熱伝導性シートが得られる。
【0038】
2枚の樹脂シートのうち、1枚はガス低透過性フィルムであってもよいが、揮発性化合物を熱伝導性シートの両面から揮発させやすくする観点から、液状組成物を挟む2枚の樹脂シートのうち、両方の樹脂シートがガス透過性フィルムであることが好ましい。
ここで、ガス透過性とは、液体は透過できないが気体は透過できる性質を意味し、ガス透過性フィルムは、酸素透過度が例えば、5.0×103cm3/m2・day・MPa以上である。一方、ガス低透過性フィルムの酸素透過度は、5.0×103cm3/m2・day・MPa未満である。ここで酸素透過度は、JIS K7126-2に準拠して測定される。
本発明におけるガス透過性フィルムの酸素透過度は、好ましくは1.0×104cm3/m2・day・MPa以上であり、より好ましくは1.5×104cm3/m2・day・MPa以上である。そして、熱伝導性シート内に揮発性化合物をある程度残存させて、柔軟性を向上させる観点から、ガス透過性フィルムの酸素透過度は、好ましくは1.0×106cm3/m2・day・MPa以下である。
【0039】
ガス透過性フィルムとしては、多孔質フィルム、無孔ガス透過性フィルムなどが挙げられる。多孔質フィルムは、複数の孔を有するフィルムであり、ポリマーとフィラーの混合物や、ポリマー同士の混合物などにより形成される。無孔ガス透過性フィルムは、多孔質フィルムに形成されているような孔を有さないフィルムであり、ガス透過性を有するフィルムである。中でも、ガス透過性フィルムは、無孔ガス透過性フィルムが好ましい。無孔ガス透過性フィルムを用いることで、後述する工程(3)を経て形成された熱伝導性シートの表面状態が良好となり、熱抵抗値が低下し、さらに柔軟性も良好になる。
【0040】
ガス透過性フィルムを構成するポリマーとしては、特に制限されないが、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリ4メチルペンテン-1、エチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレンやフッ素変性樹脂等のフッ素系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリ4メチルペンテン-1から形成された無孔ガス透過性フィルムが好ましい。ポリ4メチルペンテン-1から形成されたガス透過性フィルムは適度な厚みを有していながら高いガス透過性を有すため、硬化性シリコーン組成物を硬化させる際に、揮発性化合物を適切に揮発させることができ、さらにガス透過性フィルムをシートから剥離する際に、離型性に優れる。ポリ4メチルペンテン-1から形成された無孔ガス透過性フィルムを用いれば、液状組成物を塗布したとき孔の中に液状樹脂が浸入しないため特に離型性に優れ、さらにフィルム表面に孔がないため孔に起因する凹凸が形成されず、凹凸の少ない表面状態のよい1次シートが得られる。
【0041】
ガス透過性フィルムは、前記ポリマーを単体で使用したガス透過性フィルムでもよいし、ガス透過性の異なるポリマーで形成した複数の樹脂層を積層して多層ガス透過性フィルムとして使用してもよい。この場合、前述のポリマー以外の樹脂であっても薄い樹脂層とすることで、全体として5.0×103cm3/m2・day・MPa以上の酸素透過度を有する多層ガス透過性フィルムを構成すれば良い。
【0042】
熱伝導性シートを使用する際には、表面の樹脂シートを剥離して使用するため、樹脂シートは、離型性のよい樹脂からなる離型フィルム、または少なくとも一方の表面に離型層を備える離型フィルムであることが好ましい。
【0043】
樹脂シートの厚さは、特に限定されないが、例えば5~300μmであり、好ましくは10~250μmであり、より好ましく30~200μmである。厚さは、所望の酸素透過度となるように適宜調整するとよい。
【0044】
工程(2)においては、工程(1)で得た液状組成物を、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シート間に挟み加圧する。液状組成物を2枚の樹脂シートに挟む方法は特に制限されないが、液状組成物を2枚のシートのうちの一方の樹脂シートの表面上に塗工して、もう一方の樹脂シートを塗工した面上に重ね合わせる方法が挙げられる。加圧する手段は特に限定されず、例えばロールやプレスなどにより行うことができる。加圧することにより、2枚の樹脂シートに挟まれたシート状成形体が得られる。
【0045】
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)で得られたシート状成形体を加熱することで、前記揮発性化合物の少なくとも一部を揮発させる工程である。工程(3)では、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シートに挟まれた熱伝導性シートが得られる。
シート状成形体を加熱することで、揮発性化合物の一部が揮発し、硬化性シリコーン組成物が硬化して、熱伝導性シートが得られる。シート状成形体は、その少なくとも一方の面にガス透過性フィルムを備えているため、シート状成形体に含まれる硬化性シリコーン組成物を加熱して硬化させる際に、揮発性化合物を適切に揮発させることができ、シート状成形体から形成される熱伝導性シートに気泡などが発生するのを抑制することができる。
【0046】
揮発性化合物を揮発させずに製造した熱伝導性シートは、柔軟性が高すぎて復元性がなくなり、取り扱い性などが悪くなる。一方、揮発性化合物を完全に揮発させて製造した熱伝導性シートは、柔軟性が低下してしまう。
揮発性化合物の揮発量は、揮発前のシート状成形体に含まれる揮発性化合物を100質量%とした場合、5~80質量%であることが好ましく、7~50質量%であることがより好ましい。揮発性化合物の揮発量を上記範囲とすることにより、熱伝導性シートが適度な柔軟性を有し、取り扱い性も良好な熱伝導性シートを得やすくなる。
揮発量の調整は、加熱温度及び加熱時間、硬化性シリコーン組成物の硬化速度を調整することにより行うことができる。加熱温度は、例えば65~100℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば2~24時間程度である。加熱することで、揮発性化合物の一部が揮発し、シート状成形体が硬化して、熱伝導性シートが得られる。
また、加熱温度は、加熱時間15時間で添加した揮発性化合物量の5~80%が揮発する温度に調整することが特に好ましい。そうすることで急激な揮発性化合物の揮発を抑制して、シート中に気泡が残存することを抑制できる。また、前記加熱温度は、硬化性シリコーン組成物が急激に硬化しない温度であることが好ましく、例えば硬化に1時間以上を有する温度、好ましくは2時間以上、特に好ましくは4時間以上を有する温度であることが好ましい。その理由は、表面から硬化が進む傾向があり、硬化時間が1時間よりも短い場合は、表面に樹脂濃度が高いスキン層が加熱後速やかに形成され、このスキン層が揮発を阻害する懸念があるためである。一方、硬化速度は前記加熱時間で硬化するものであれば良い。なお、ここで硬化とは固化する程度まで反応が進んだ状態をいうものとする。また、加熱時間は硬化時間よりも長いものとする。
【0047】
工程(3)における加熱により、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンが反応して、オルガノポリシロキサンの架橋体が形成される。すなわち、工程(3)により得られる熱伝導性シートは、オルガノポリシロキサンの架橋体であるバインダーと、該バインダーに分散している熱伝導性充填材と、揮発性化合物とを含む熱伝導性シートである。
該熱伝導性シートは、両面に樹脂シートが設けられているため、工程(3)では、オルガノポリシロキサンの架橋体であるバインダーと、前記バインダーに分散している熱伝導性充填材と、揮発性液体とを含む熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートとを備える積層体が得られる。該積層体が備える樹脂シートを適宜剥離して、熱伝導性シートを使用することができる。
【0048】
(熱抵抗値)
本発明における熱伝導性シートの熱抵抗値は、好ましくは0.024℃・in2/W以下であり、より好ましくは0.022℃・in2/W以下、さらに好ましくは0.020℃・in2/W以下である。熱抵抗値がこのような値であると、発熱体から放熱体へ熱を伝達させやすい熱伝導性シートとなる。熱抵抗値は小さければ小さいほどよいが、通常は0.001℃・in2/W以上である。なお、該熱抵抗値は、熱伝導性シートの厚み方向の熱抵抗値であり、実施例に記載の方法で測定される。
【0049】
(タイプOO硬さ)
熱伝導性シートのタイプOO硬さは、例えば70以下である。熱伝導性シートは、タイプOO硬さが70以下となることで、柔軟性が担保され、例えば、発熱体と放熱体などに対する追従性が良好となり、放熱性が良好となりやすい。また、柔軟性を向上させて、追従性などを優れたものとする観点から、熱伝導性シートのタイプOO硬さは、好ましくは60以下、より好ましくは50以下である。
また、熱伝導性シートのタイプOO硬さは、特に限定されないが、例えば15以上である。
【0050】
[積層体]
本発明においては、オルガノポリシロキサンの架橋体であるバインダーと、前記バインダーに分散している熱伝導性充填材と、揮発性化合物とを含む熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートとを備える積層体を提供することもできる。
該積層体は、熱伝導性シートの両面に樹脂シートが設けられているが、該樹脂シートを適宜剥離して、熱伝導性シート単体として使用することができる。
【0051】
本発明の積層体における熱伝導性シートは、オルガノポリシロキサンの架橋体を含む。該オルガノポリシロキサンは、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンが反応して形成されたものである。
【0052】
本発明の積層体における熱伝導性シートは、熱伝導性充填材を含んでいる。これにより、熱伝導性シートの熱抵抗値が低くなり、放熱性が高くなる。熱伝導性充填材としては、上記した種類のものを特に制限なく使用することができる。
熱伝導性充填材の含有量は、バインダー100質量部に対して、500~6000質量部の範囲であることが好ましく、1500~5000質量部の範囲であることがより好ましく、2500~4500質量部の範囲であることがさらに好ましい。熱伝導性充填材の量がこれら下限値以上であると、熱伝導性シートの熱抵抗値が低下して放熱性が高まり、熱伝導性充填材の量がこられ上限値以下であると、熱伝導性シートの原料である液状組成物の粘度が低くなり、表面状態のよい熱伝導性シートとなる。
本発明における熱伝導性シートは、熱伝導性充填材の含有量を多くしても、シート化が可能であり、柔軟性も確保できる。また、熱伝導性シートの厚みが比較的厚い場合であっても、柔軟性を維持しつつ、熱伝導性充填材の含有量を多くできるので、熱抵抗値を低くすることができる。
【0053】
本発明の積層体における熱伝導性シートは揮発性化合物を含んでおり、これにより、熱伝導性シートの柔軟性が高くなる。揮発性化合物としては、上記した種類のものを特に制限なく使用することができる。
揮発性化合物の含有量は、バインダー100質量部に対して、好ましくは2.5~90質量部であり、より好ましくは8~70質量部である。揮発性化合物の含有量がこれらの範囲であると、熱伝導性シートの柔軟性が高まりやすい。
熱伝導性シート中の揮発性化合物の残存量は、好ましくは10~90質量%であり、より好ましくは20~90質量%であり、さらに好ましくは30~85%である。揮発性化合物の残存量がこれらの範囲であると、熱伝導性シートの柔軟性が高まりやすい。揮発性化合物の残存量とは、熱伝導性シートを形成するための原料である液状組成物に配合した揮発性化合物の量を100質量%とした場合に、熱伝導性シートに残存する揮発性化合物の量(質量%)を意味する。
【0054】
本発明の積層体は、熱伝導性シートの両面に樹脂シートが設けられている。樹脂シートは、ガス透過性フィルムであってもよいし、ガス低透過性フィルムであってもよい。熱伝導性シートを使用する際には、積層体から樹脂シートを剥離するため、樹脂シートは、一方又は両方の面に離型層を備える離型フィルムであることが好ましい。
なお、両面の樹脂シートの種類は、同一であっても異なっていてもよい。
【0055】
樹脂シートのうち、少なくとも一方の面に設けられた樹脂シートがガス透過性フィルムであることが好ましい。このような形態によって、該積層体を製造する際に、柔軟でかつ表面状態が良好で熱抵抗値の低い熱伝導性シートが得やすくなる。柔軟で、熱抵抗値の低い熱伝導性シートを得やすい観点から、熱伝導性シートの両面の樹脂シートが共にガス透過性フィルムであることが好ましい。ガス透過性フィルムについては上記したものを使用することができ、特に無孔ガス透過性フィルムが好ましい。
ガス透過性フィルムの厚さは、特に限定されないが、例えば5~300μmであり、好ましくは10~250μmであり、より好ましく30~200μmである。厚さは、所望の酸素透過度となるように適宜調整するとよい。
このような熱伝導性シートの少なくとも一方の面に設けられた樹脂シートがガス透過性フィルムである積層体の製造方法は、特に限定されないが、上記した工程(1)~(3)を経て製造することが好ましい。
【0056】
本発明の積層体は、熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートが、共にガス低透過性フィルムであることも好ましい。このような形態の積層体であると、積層体保管時において、熱伝導性シートに含まれる揮発性化合物の量が、気化などにより減少することを抑制することができる。そのため、熱伝導性シートの柔軟性などの物性変化を防止することができる。
ガス低透過性フィルムの厚さは、特に限定されないが、例えば5~300μmであり、好ましくは10~250μmであり、より好ましくは30~200μmである。厚さは、所望の酸素透過度となるように適宜調整するとよい。
【0057】
熱伝導性シートの両面に設けられた樹脂シートが、共にガス低透過性フィルムである積層体の製造方法は特に限定されないが、上記した工程(1)~(3)を経て積層体を製造し、該積層体が備えるガス透過性フィルムを、ガス低透過性フィルムに貼り代えることで、製造することができる。すなわち、上記した工程(1)、工程(2)、及び工程(3)とにより、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シートに挟まれた熱伝導性シートを得た後、前記熱伝導性シートが有する前記ガス透過性フィルムを剥離する工程(4)と、前記ガス透過性フィルムを剥離した面にガス低透過性フィルムを積層する工程(5)とを実行することによる積層体の製造方法が挙げられる。
また、他の方法としては、ガス透過性フィルムにガス低透過性フィルムをさらに積層することで、積層体としてガス透過性を低減した多層のガス低透過性フィルムとして構成することもできる。すなわち、上記した工程(1)、工程(2)、及び工程(3)とにより、少なくとも1枚をガス透過性フィルムとする2枚の樹脂シートに挟まれた熱伝導性シートを得た後、前記ガス透過性フィルムにガス低透過性フィルムを積層する工程(5’)を実行することによる積層体の製造方法が挙げられる。
ガス低透過性フィルムは、例えば上記したものを使用することができる。
【0058】
積層体の両面に設けられた樹脂シートを、適宜剥離して熱伝導性シートを使用することができる。本発明における熱伝導性シートの厚さは、該シートが搭載される電子機器の形状や用途に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは100~5000μmであり、より好ましくは500~4000μmであり、さらに好ましくは1000~3000μmである。本発明の熱伝導性シートは、このような厚さ範囲であったとしても、熱抵抗値を一定以下とすることができる。
【0059】
熱伝導性シートは、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワーアンプ、バッテリー等の電源などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートパイプ、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。熱伝導性シートは、両表面それぞれが、発熱体及び放熱体それぞれに密着し、かつ圧縮して使用される。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0061】
本実施例では、以下の方法により評価した。
【0062】
[突き刺し荷重]
液状組成物を脱泡し、次いで30gの液状組成物を直径25mmの円筒状の容器に導入した。次いで、先端に直径3mmの円盤状の突き刺し面を有する突き刺し棒を10mm/分の速度で、突き刺し棒の先端側から容器に導入された液状組成物に押し付けていき、突き刺し棒の先端が液面から深さ12mmに到達した際の荷重(gf)を測定した。測定は25℃で行った。
【0063】
[O硬度]
タイプOOデュロメータを用いて、熱伝導性シートのタイプOO硬さを測定した。
【0064】
[重量減少A]
重量を計量した下面側樹脂シートに約40gの液状組成物を吐出し、重量を計測した上面側樹脂シートで挟さんだ後に、厚さ2mmとなるようにプレスで組成物を広げて試料を作製した。液状組成物は、各実施例・比較例で使用した各配合の液状組成物を用いた。この状態で試料の重量を測定し、その後恒温槽内で所定条件(加熱温度80℃、加熱時間15時間)で加熱硬化した。このとき網状のラックに載せることで、下面樹脂シート側からも揮発できるようにした。次いで、加熱前の試料と加熱後の試料の重量の差(重量減少量A)を算出した。
重量減少A(%)は、以下の式で算出した。
重量減少A(%)=[重量減少量A/硬化前の液状組成物の量]×100
【0065】
[揮発量]
揮発性液体の揮発量は、重量減少量Aから算出した。揮発量は、加熱前の揮発性化合物の量を100質量%とした場合に、加熱により揮発した揮発性化合物の量(質量%)を意味する。
【0066】
[重量減少B]
後述する各実施例及び比較例に記載の条件で製造した厚さ2mmの熱伝導性シートについて、40gの重量となる面積の試験用試料を準備した。この試料を恒温槽内で所定条件(加熱温度150℃、加熱時間250時間)で加熱することで残存する揮発性液体を揮発させた。このとき網状のラックに載せることで、下面側からも揮発できるようにした。次いで、加熱前の試料と加熱後の試料の重量の差(重量減少量B)を算出した。
重量減少B(%)は、以下の式で算出した。
重量減少B(%)=[重量減少量B/加熱前の試料の重量]×100
【0067】
[残存量]
熱伝導性シートに残存している揮発性液体の残存量は、重量減少量Bから算出した。残存量は、配合した揮発性化合物の量を100質量%とした場合に、熱伝導性シートに残存していた揮発性化合物の量(質量%)を意味する。
【0068】
[熱抵抗値]
熱抵抗値は、
図1に示すような熱抵抗測定機を用い、以下に示す方法で測定した。
具体的には、各試料について、本試験用に大きさが30mm×30mm×2mmtの試験片Sを作製した。そして各試験片Sを、測定面が25.4mm×25.4mmで側面が断熱材21で覆われた銅製ブロック22の上に貼付し、上方の銅製ブロック23で挟み、ロードセル26によって60psiの荷重をかけて、1mmのスペーサーを用いて厚さが元の厚さの50%となるように設定した。ここで、下方の銅製ブロック22はヒーター24と接している。また、上方の銅製ブロック23は、断熱材21によって覆われ、かつファン付きのヒートシンク25に接続されている。次いで、ヒーター24を発熱量25Wで発熱させ、温度が略定常状態となる10分後に、上方の銅製ブロック23の温度(θ
j0)、下方の銅製ブロック22の温度(θ
j1)、及びヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗値を求めた。
熱抵抗=(θ
j1-θ
j0)/Q ・・・ 式(1)
式(1)において、θ
j1は下方の銅製ブロック22の温度、θ
j0は上方の銅製ブロック23の温度、Qは発熱量である。
【0069】
[シートの状態]
A・・シート全体の柔軟性が良好であり、気泡も確認されなかった
B・・両面の柔軟性が異なっており物性が均一ではなかったが、気泡は確認されなかった
C・・シート全体が硬かったが、気泡は確認されなかった。
D・・樹脂シートと熱伝導性シートの境界に気泡が発生した。
【0070】
熱伝導性シートを製造には、以下の各成分を使用した。
【0071】
(硬化性シリコーン組成物)
アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなる硬化性シリコーン組成物。硬化性シリコーン組成物の比重0.97
【0072】
(熱伝導性充填材)
酸化アルミニウム1・・平均粒径0.5μm、比重3.9
酸化アルミニウム2・・平均粒径3μm、比重3.9
酸化アルミニウム3・・平均粒径40μm、比重3.9
酸化アルミニウム4・・平均粒径70μm、比重3.9
窒化アルミニウム1・・平均粒径30μm、比重3.3
窒化アルミニウム2・・平均粒径50μm、比重3.3
窒化アルミニウム3・・平均粒径80μm、比重3.3
【0073】
(揮発性化合物)
n-デシルトリメトキシシラン・・熱重量分析で2℃/分の条件で昇温したときの重量減少が90%となる温度T1は187℃、比重0.9
【0074】
(シリコーンオイル)
ジメチルシリコーン、比重0.96
メチルフェニルシリコーン、比重1.07、屈折率1.49
【0075】
(樹脂シート)
A.ガス透過性フィルム
無孔ガス透過性フィルム1、三井化学社製「オピュラン」 CR1012 MT4 #150 酸素透過度19000cm3/m2・day・MPa、厚さ150μm 多層型(シボ)
無孔ガス透過性フィルム2、三井化学社製「オピュラン」 CR2031 MT4 #120 酸素透過度23500cm3/m2・day・MPa、厚さ120μm 多層型(シボ)
無孔ガス透過性フィルム3、三井化学社製「オピュラン」 X-88B MT4 #100 酸素透過度140000cm3/m2・day・MPa、厚さ50μm 単層型(シボ)
無孔ガス透過性フィルム4、三井化学社製「オピュラン」 X-88B #100 酸素透過度140000cm3/m2・day・MPa、厚さ50μm 単層型(光沢)
多孔質フィルム1、デュポン社製「タイベック」、酸素透過度10000000cm3/m2・day・MPa以上
【0076】
B.ガス低透過性フィルム
フッ素系離型層付きPETフィルム 厚さ100μm、酸素透過度1000cm3/m2・day・MPa
【0077】
[液状組成物の調製(配合1)]
硬化性シリコーン組成物として、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサンを合計で70質量部、ジメチルシリコーン44質量部、メチルフェニルシリコーン20質量部、n-デシルトリメトキシシラン10質量部、酸化アルミニウム1 228質量部、酸化アルミニウム2 842質量部、酸化アルミニウム3 664質量部、酸化アルミニウム4 996質量部を混合し、配合1の液状組成物を得た。
【0078】
[液状組成物の調製(配合2)]
表1のとおり各成分の種類及び量を変更した以外は、配合1と同様にして、配合2~8の液状組成物を得た。なお、配合7及び8の液状組成物は粉状であり、シート化することが出来なかった。
配合1~配合6の硬化性を確認したところ、80℃5時間加熱すると固化することがわかった。
【0079】
【0080】
[実施例1]
配合1の液状組成物を、下面側樹脂シート(オピュラン CR1012)に吐出し、上面側樹脂シート(オピュラン CR1012)で挟さんだ後に、プレスで組成物を広げてシート状成形体を作製した。
そして、2枚の樹脂シートに挟まれた状態でシート状成形体を、80℃で15時間加熱することで、揮発性化合物の一部を揮発させつつ、シート状成形体に含まれる硬化性シリコーン組成物を硬化させることで、厚さ2mmの熱伝導性シートを得た。
【0081】
[実施例2~16、比較例1~6]
液状組成物の配合の種類、及び樹脂シートの種類を表2及び3のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ2mmの熱伝導性シートを得た。
【0082】
【0083】
【0084】
配合1~6の液状組成物は、硬化性シリコーン組成物、熱伝導性充填材、及び揮発性液体を含有しておりシート化が可能であったが、配合7~8の組成物は、揮発性液体を含有しておらず、シート化が困難であった。
【0085】
実施例1~16は、両面の樹脂シートのうち少なくとも一方をガス透過性フィルムにして熱伝導性シートを製造した例であり、シートの状態がよく、熱抵抗値が低くなることが分かった。これに対して、比較例1~6は、両面の樹脂シートをガス低透過性フィルムにした例であり、シートの状態が悪く、熱抵抗値が高くなることが分かった。
また、実施例1及び6の比較、あるいは実施例9及び14の比較により、片面のみをガス透過性フィルムにするよりも、両面をガス透過性フィルムにしたほうがシートの状態がよく、熱抵抗値が下がることが分かった。
さらに、実施例1~4と実施例5の比較、あるいは実施例9~12と実施例13との比較により、ガス透過性フィルムとして、多孔質フィルムよりも無孔ガス透過性フィルムを用いた方が、シートの状態が良好になり、熱抵抗値が下がることが分かった。
【0086】
なお、実施例5および実施例13の熱伝導性シートは硬度が高くなっていた。そのため、シートの状態は良好であったものの、熱抵抗試験では50%まで圧縮することができず、熱抵抗値がやや悪くなることが分かった。また、重量減少Aの試験で用いた試験後の樹脂シートの重量を測定したところ実施例5(配合1)では0.89%の質量が浸透していることがわかった。このことから、液状成分(硬化性シリコーン組成物、シリコーンオイル、揮発性液体)質量に対して18%の質量が樹脂シートに浸透していたことが分かった。また、実施例13(配合5)では1.14%の質量が浸透していることがわかった。このことから、液状成分(硬化性シリコーン組成物、シリコーンオイル、揮発性液体)質量に対して19%の質量が樹脂シートに浸透していたことが分かった。