(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031800
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】ビタミンB12欠乏症を予防および/または治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/742 20150101AFI20220215BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20220215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220215BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220215BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220215BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220215BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220215BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20220215BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220215BHJP
【FI】
A61K35/742
A61K35/741
A61K45/00
A61P3/02 104
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K33/24
A23L33/135
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021191752
(22)【出願日】2021-11-26
(62)【分割の表示】P 2018541399の分割
【原出願日】2017-02-27
(31)【優先権主張番号】2016323
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(71)【出願人】
【識別番号】515012491
【氏名又は名称】カエルス ファーマシューティカルズ ビー.ヴィ.
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】デ フォス ヴィレム マインデルト
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ビタミンB12欠乏症を予防および/または治療する方法を提供する。
【解決手段】方法は、必要に応じて粘液分解および/またはプロピオン酸塩産生細菌と併用して、シュードビタミンB12産生細菌を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。この方法は、2型糖尿病のためのメトホルミン治療に起因するビタミンB12欠乏症に罹患している対象および肥満手術を受けた対象への投与に特に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるビタミンB12欠乏症の治療および/または予防に使用するためのインテスティニモナス・ブチリシプロデュセンス(Intestinimonas butyriciproducens)および/またはユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)と、生理学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項2】
前記対象におけるビタミンB12欠乏症が、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少(肥満)手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)などのプロピオン酸塩産生細菌をさらに含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
カプセル、錠剤、および粉末の群から選択される形態の医薬組成物またはサプリメント組成物である、請求項1または2のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記I.ブチリシプロデュセンス(I.butyriciproducens)および/またはE.ハリイ(E.hallii)ならびに任意選択で前記プロピオン酸塩産生細菌が、凍結乾燥またはマイクロカプセル化形態で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
I.ブチリシプロデュセンスおよび/またはE.ハリイが約104~約1015細胞の範囲の量で存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
A.ムシニフィラ(A.muciniphila)などの前記プロピオン酸塩産生細菌が約104~約1015細胞の範囲の量で存在する、請求項3~6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
粘膜結合剤をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
コバルトイオンを、例えば、塩化コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルト、または硝酸コバルトなどのコバルト塩の形態でさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させるための、I.ブチリシプロデュセンスおよび/またはE.ハリイと、生理学的に許容される担体とを含む組成物の使用。
【請求項11】
対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させるための、I.ブチリシプロデュセンスおよび/またはE.ハリイと、生理学的に許容される担体とを含む組成物の使用。
【請求項12】
前記対象がビタミンB12欠乏症に罹患している、請求項10または11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記対象におけるビタミンB12欠乏症が、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に由来する、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
対象におけるビタミンB12欠乏症の治療および/または予防に使用するためのI.ブチリシプロデュセンスおよび/またはE.ハリイ。
【請求項15】
前記対象におけるビタミンB12欠乏症が、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に由来する、請求項14に記載の使用のためのI.ブチリシプロデュセンスおよび/またはE.ハリイ。
【請求項16】
対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させるためのI.ブチリシプロデュセンスおよび/またはE.ハリイの使用。
【請求項17】
対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させるためのI.ブチリシプロデュセンスおよび/またはE.ハリイの使用。
【請求項18】
前記対象がビタミンB12欠乏症に罹患している、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記対象におけるビタミンB12欠乏症が、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性または菜食もしくは完全菜食に由来する、請求項17または18のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB12産生ならびにビタミンB12欠乏症を予防および/または治療する分野、シュードビタミン(pseudovitamin)B12産生細菌である、ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)(E.ハリイ(E.hallii))および/またはインテスティニモナス・ブチリシプロデュセンス(Intestinimonas butyriciproducens)(I.ブチリシプロデュセンス(I.butyriciproducens))ならびに任意選択でアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)(A.ムシニフィラ(A.muciniphila))などの、1種または複数のプロピオン酸塩産生および/またはムチン分解細菌を含む、腸内微生物叢、腸粘膜関門および医薬品、食品または飼料またはプロバイオティクス組成物に関する。また、1)対象におけるビタミンB12欠乏症を予防および/または治療するため、2)対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を促進および/または増加させるため、ならびに/あるいは3)対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を促進および/または増加させるための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス細菌の方法および使用、ならびにE.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、および任意選択でA.ムシニフィラなどのプロピオン酸塩産生および/またはムチン分解細菌を含む組成物も提供される。
【背景技術】
【0002】
コリノイドはコバルト含有分子で、様々な生物における酵素補因子として機能する。特定のコリノイドは、それらの軸配位子の構造によって同定される。コリノイドの低い軸配位子は、ベンゾイミダゾール、プリン、またはフェノール化合物であり得る。動物および多くの細菌において最もよく見出されるB12補因子は、軸配位子として5,6-ジメチルベンゾイミダゾール(DMB)を含有する。この特定のB12補因子は一般にビタミンB12と称される。
【0003】
原核生物だけがコリノイドの合成に必要な酵素を有する。真菌、植物、動物(ヒトを含む)のいずれも、ビタミンB12などのコリノイドを産生することはできない。動物およびヒトは、ビタミンB12などのコリノイドが自然に豊富にある食物(例えば、卵、魚、肉およびその他)、またはビタミンB12などのコリノイドで栄養価を高められた製品、またはビタミンB12源としてのビタミンB12サプリメントに依存している。さらに、腸内微生物叢は動物およびヒトにビタミンB12などのコリノイドを提供することができる。ビタミンB12は細菌の発酵合成によってのみ工業的に産生することができる。
【0004】
コバラミンとも称されるビタミンB12は、DNA合成、最適な造血、ならびに適切な脳の発達および神経学的機能において役割を果たすことが知られている水溶性ビタミンである。ビタミンB12は、通常、人体のあらゆる細胞の代謝に関与し、特にDNA合成および調節に影響を及ぼすが、脂肪酸代謝およびアミノ酸代謝にも関与する。
【0005】
DMB以外の軸配位子を有するB12補因子が知られており、最も一般的な例は、N7結合アデニンが軸配位子としてDMBと置き換わるシュードビタミンB12である。
【0006】
ヒトおよび腸内細菌における十数以上の酵素反応が、補因子としてビタミンB12を使用することが記載されている。ヒトでは、それらはメチルマロニル-CoAムターゼおよびB12依存性メチオニンシンターゼによって触媒される反応を含むが、腸内細菌では、ビタミンB12依存性酵素のさらなるセットが存在する(非特許文献1)。全ての腸内細菌がビタミンB12を産生するわけではない。したがって、一部の腸内細菌はそれらのビタミンB12供給についてビタミンB12産生腸内細菌に依存している。したがって、ビタミンB12の利用は腸内細菌にも影響を与え、腸内微生物群の構造および機能に寄与する。ビタミンB12はヒトに制限があり得るため、腸管にもビタミンB12の制限が存在することになる。ビタミンB12は腸管内でのあらゆる種類の微生物変換に必要である。
【0007】
これらの変換の中には、ビタミンB12依存性メチルマロニル-CoAムターゼによるプロピオン酸塩の産生がある。プロピオン酸塩および酪酸塩は、食物または宿主成分から発酵によって腸管内で産生される最も重要な短鎖脂肪酸(SCFA)のうちの一つである。これらのSCFAは人体において異なる機能を有し、酪酸塩は主に結腸細胞に燃料を供給し、プロピオン酸塩は主に肝臓で代謝される(非特許文献2)。さらに、SCFAは結腸の形態に影響を与え、pHの低下、細胞増殖および糞便の体積の増加、ならびに微生物組成の変化として機能する。SCFAはまた、体重およびインスリン感受性を制御する(非特許文献3)。さらに、SCFAは、とりわけ、マウスにおいて制御性T細胞を介して免疫系に影響を及ぼすことが示されているG-タンパク質共役受容体(GPR41およびGPR43)を介して宿主にシグナル伝達することが見出されている(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。最後に、SCFAはまた、FFAR2受容体を介して神経回路にシグナル伝達する(非特許文献7)。プロピオン酸塩は肝臓での糖新生についての基質であり、脂質およびコレステロール合成に対する阻害作用ならびに炎症および発がんに対する防御作用を有する(非特許文献8)。ヒトにおける食事介入により、プロピオン酸塩が満腹感を増加させ、食欲を調節し、過体重の成人において体重維持をもたらすことも示されている(非特許文献9)。
【0008】
ビタミンB12についての推奨1日量(RDA)は、年齢、性別、および妊娠状況によって異なる。例えば、成人についてのビタミンB12のRDAは約2.4μg/日(男女とも)である。しかしながら、ビタミンB12についてのRDAは、食事からのビタミンB12の不十分な摂取、または低いもしくは不十分なビタミンB12レベルにつながる他の条件のいずれかに起因して、必ずしも達成されるとは限らない。不十分なまたは制限されたビタミンB12摂取は、典型的に、菜食主義者(ベジタリアン)および完全菜食主義者(ビーガン)などの特定の食事パターンの対象において観察されるか、または悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/もしくは小腸の一部が除去される外科的処置(体重減少手術を含む)、小腸に影響を及ぼす状態(例えば、クローン病、セリアック病、細菌増殖、または寄生など)、大量飲酒、免疫系障害(例えば、グレーブス病またはループス)、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、摂食障害(例えば、過食症または食欲不振)およびその他を含む、疾患もしくは医学的状態の結果として観察される。
【0009】
低いまたは不十分なビタミンB12レベルにつながる他の疾患または医学的状態には、HIV/AIDS、2型糖尿病患者のためのメトホルミン治療、肥満または高肥満度指数(BMI)、前糖尿病状態または前糖尿病状態もしくはインスリン耐性を伴う肥満、トランスコバラミンIおよび/またはIIの遺伝的欠損症などの遺伝性疾患、ならびに多くのその他が含まれる。
【0010】
低いまたは不十分なビタミンB12レベルの個人は、上述の食事性の欠乏症または疾患状態に起因して、ビタミンB12欠乏症を発症するリスクがあり得る。重症度、ビタミンB12の喪失または制限の持続期間、およびライフステージ(小児期、成人期、高齢期)に応じて、ビタミンB12欠乏症は、無症候性から重篤な血液学的、神経学的、および精神学的症状の様々な疾患、ならびに治療にもかかわらず不可逆的な神経傷害の潜在的リスクを引き起こすことがある。
【0011】
ビタミンB12欠乏症を罹患している対象は、下痢または便秘、疲労、エネルギー不足、立ち上がったときのふらつき、食欲不振、蒼白な皮膚、集中力の問題、息切れ(主に運動中)、赤く腫れた舌または歯肉の出血、精神状態の錯乱または変化(例えば、認知症)、鬱病、平衡感覚傷害、手足のしびれおよびうずき、ならびにその他などの1つまたは複数の症状を示すことがある。
【0012】
ビタミンB12欠乏症は、典型的に、血液中のビタミンB12レベルを測定することによって対象において診断される。典型的に、成人における120~180ピコモル/L(170~250pg/mL)未満の血中ビタミンB12レベルがビタミンB12欠乏症の指標である。上昇した血中メチルマロン酸レベル(0.4μmol/L超の値)もまた、ビタミンB12欠乏症を示すことがある。
【0013】
対象におけるビタミンB12欠乏症関連状態を改善または緩和するための治療には、ビタミンB12サプリメントの摂取もしくはビタミンB12注射および/または食事の変更(すなわち、ビタミンB12を豊富に含む食物の取り込み)が含まれる。ビタミンB12補給の限界の1つは、ビタミンB12の吸収不良またはビタミンB12の血中レベルの低下を引き起こすメトホルミンまたは他の薬物で治療された対象などの、胃腸管を通るビタミンB12を吸収する能力が低下した対象において、このような治療の有効性が限られているか、または不十分であり得ることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Degnanら、2014年、Cell Metab.20(5):769-778
【非特許文献2】Guarner and Malagelada、2003年、The Lancet 361:512-519
【非特許文献3】Canforaら、2015年、Nature Reviews Endocrinology 11:577-591
【非特許文献4】Brownら、2003年、J Biol Chem 278:11312-11319
【非特許文献5】Le Poulら、2003年、J Biol Chem 278:25481-25489
【非特許文献6】Smithら、2013年、Science 341(6145):569-573
【非特許文献7】Ernyら、2015年、Nat Neurosci 18(7):965-977
【非特許文献8】Hosseiniら、2011年、Nutrition Reviews 69:245-258
【非特許文献9】Chambersら、2015年、Gut 64(11):1744-1754
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、対象におけるビタミンB12欠乏症を予防、治療もしくは緩和および/または改善するための組成物および方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、対象におけるビタミンB12欠乏症の治療および/または予防に使用するための、ユウバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)および/またはインテスティニモナス・ブチリシプロデュセンス(Intestinimonas butyriciproducens)と、生理学的に許容される担体とを含む組成物に関する。
【0017】
一実施形態において、前記対象におけるビタミンB12欠乏症は、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少(肥満)手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に由来するか、または起因する。
【0018】
本明細書に教示される使用のための組成物は、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)などのプロピオン酸塩産生細菌をさらに含んでもよい。
【0019】
それは、例えば、カプセル、錠剤、および粉末の群から選択される形態の医薬組成物またはサプリメント組成物であってもよい。
【0020】
前記E.ハリイ(E.hallii)および/またはI.ブチリシプロデュセンス(I.butyriciproducens)ならびに任意選択で前記プロピオン酸塩産生細菌は、凍結乾燥またはマイクロカプセル化形態で存在してもよい。
【0021】
前記E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、約104~約1015細胞の範囲の量で存在してもよい。さらに、A.ムシニフィラ(A.muciniphila)などの前記プロピオン酸塩産生細菌は、約104~約1015細胞の範囲の量で存在してもよい。
【0022】
本明細書に教示される組成物は、粘膜結合剤をさらに含んでもよい。
【0023】
本明細書に教示される組成物は、例えば、塩化コバルト、硫酸コバルト、酢酸コバルト、または硝酸コバルトなどのコバルト塩の形態でコバルトイオンをさらに含んでもよい。
【0024】
本発明はまた、対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させるための、および/または対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させるための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスと、生理学的に許容される担体とを含む組成物の使用に関する。
【0025】
対象はビタミンB12欠乏症に罹患している可能性がある。前記対象におけるビタミンB12欠乏症は、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に由来するか、または起因し得る。
【0026】
本発明はさらに、対象におけるビタミンB12欠乏症の治療および/または予防に使用するためのE.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスに関する。対象はビタミンB12欠乏症に罹患している可能性がある。前記対象におけるビタミンB12欠乏症は、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に由来するか、または起因し得る。
【0027】
本発明はさらに、対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させるための、および/または対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させるための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスを提供する。対象はビタミンB12欠乏症に罹患している可能性がある。前記対象におけるビタミンB12欠乏症は、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に由来するか、または起因し得る。
【0028】
定義
本明細書で使用する場合、「共生(syntrophic)」または「栄養共生(syntrophy)」という用語は、ある種が別の種の産物に寄生して生きている現象を指す。この会合では、一方のパートナーの成長は、改善されるか、または他方のパートナーによって提供される栄養素、成長因子もしくは基質に依存する。栄養学的相互依存についてのこの用語は、微生物学において、ある細菌種間のこの共生関係を記述するためにしばしば使用される。
【0029】
本明細書で使用する場合、「アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)」または「A.ムシニフィラ(A.muciniphila)」という用語は、Derrienによって最初に同定された嫌気性ムチン分解細菌を指す(Derrienら、International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology、2004、54:1469~1476)。細胞は卵形で、非運動性でグラム陰性株である。A.ムシニフィラはアッカーマンシア種(Akkermansia spp.)またはアッカーマンシア様細菌(Akkermansia-like bacteria)とも称される場合がある。それは、クラミジア(Chlamydiae)/ベルコミクロビウム(Verrucomicrobia)群;ベルコミクロビウム門に属する。分類法が変更されるべきである場合、当業者は、分類法の変更をどのように適応させて、本発明において使用され得る株を推定するかを知るであろう。さらに、A.ムシニフィラの完全ゲノムは、van Passelら、PLoS One 6、2011:el6876によって決定されている。ゲノム類似性が約70%の株は、同一種とみなすことができると一般に認められている。
【0030】
本明細書で使用する場合、「粘液溶解性細菌」または「腸粘膜関連細菌種」または「粘液分解細菌」という用語は、腸粘膜関門と関連しているか、または腸粘膜関門の近傍に見出される細菌を指す。「腸粘膜関連細菌種」はさらに、それらが粘液を分解できることを特徴とする。「腸粘膜関連細菌種」の非限定的な例としては、A.ムシニフィラ(ATTC BAA-835)、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii)(A2-165)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(ATCC 53103)およびビフィドバクテリウム・ブレヴェ(Bifidobacterium breve)(DSM-20213)が挙げられる。
【0031】
本明細書で使用する場合、「コリノイド」という用語は、コリン環と呼ばれる平面テトラピロール環の中心に位置する生化学的希元素のコバルトを含有する化学的に関連する化合物のクラスを指す。ビタミンの基本構造の生合成は細菌および古細菌(通常はヒドロキソコバラミンの形態を産生する)によってのみ行われるが、異なる形態のビタミン間の変換はヒトの体内で行うことができる。
【0032】
「ビタミンB12」または「B12ビタミン」という用語は一般に、化学的に関連した化合物のクラスを指し、その全てが生物学的活性を示す。ビタミンB12はしばしば「コバラミン」と称される。本明細書で使用する場合、「コバラミン」という用語は、一般に、ビタミンB12の全ての形態を指す。特に、コバラミンは、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン(この形態は天然に存在し、細菌のヒドロキソコバラミンから産生される)を含むコバルト含有ビタマー化合物の群からなり、最後に、ヒトの体内のB12の2つの天然に存在する補因子形態(5’-デオキシアデノシルコバラミンおよびメチルコバラミンを含む)からなる。
【0033】
本明細書で使用する場合、「シュードビタミンB12」という用語は、Coα-[α-(7-アデニル)]-Coβ-シアノコバミドを指す。この分子は、α-リガンドにおいてコバラミンとは異なり、それは、リボースのC-1にα-グリコシド結合で結合した5,6-ジメチルベンゾイミダゾールの代わりにアデニンを有する。
【0034】
本明細書で使用する場合、「低コバラミン血症(hypocobalaminemia)」としても知られている、「ビタミンB12欠乏症」という用語は、ビタミンB12の不十分なまたは低い血中レベル、例えば、成人における120~180ピコモル/L(170~250pg/mL)未満のビタミンB12レベルを指す。対象におけるビタミンB12欠乏症は、典型的に、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少手術、クローン病、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食、およびその他の状態の結果に由来するか、または結果として生じる。
【0035】
ビタミンB12欠乏症に罹患している対象は、下痢または便秘、疲労、エネルギー不足、立ち上がったときのふらつき、食欲不振、蒼白な皮膚、集中力の問題、息切れ(主に運動中)、赤く腫れた舌または歯肉の出血、赤血球減少、心機能低下、神経損傷、精神状態の錯乱または変化(例えば、認知症)、易刺激性、鬱病、精神病、平衡感覚傷害、筋機能不良、手足のしびれおよびうずき、味覚の減退、受精能の低下、およびその他などの1つまたは複数の症状を示すことがある。幼児では、症状は、成長不良、発育不良、および運動困難を含む。早期治療を行わなければ、一部の変化は永久的なものになることがある。
【0036】
本明細書で使用する場合、「メトホルミン」という用語は、2型糖尿病の治療のための薬物を指す。メトホルミンの使用は、この薬物で治療された2型糖尿病対象において、ビタミンB12欠乏症の発生率の増加および血清ビタミンB12レベルの低下と関連している。メトホルミンは消化管吸収系に影響を与え、それによりこの薬物で治療された対象においてビタミンB12の吸収不良を引き起こすと考えられている。
【0037】
本明細書で教示する場合、「腸粘膜関門」という用語は、栄養素、電解質および水の吸収を可能にし、有害な高分子、微生物、食物および微生物抗原(例えば、食物アレルゲン)への曝露を防ぐ選択的関門として作用する天然粘膜関門を指す。腸粘膜関門は、本質的に、粘液層および下層上皮細胞(本明細書では「腸上皮細胞」と称する)から構成される。腸上皮細胞はいわゆる「密着結合」によって互いにしっかりと結合し、その「密着結合」は、基本的に、2つの腸上皮細胞の膜間の「物理的結合」である。腸粘膜関門の維持、特に腸上皮細胞層の物理的完全性の維持(すなわち、細胞間の結合を密に保つこと)は、病原性微生物、抗原、および他の望ましくない物質の腸から血流への移動に対する宿主の防御に不可欠である。
【0038】
腸粘膜関門にも約1012~1014個の共生微生物、主に嫌気性または微好気性細菌が大量に定着しており、その大部分はそれらの宿主と共生している。これらの細菌はそれらの宿主に対して多くの点で恩恵をもたらしている。それらは、ビタミンKおよびビタミンB複合体の成分のいくつかを合成することによって、病原性細菌を防御し、それらの宿主において栄養的役割を果たす。さらに、腸粘膜関門は、共生(すなわち、有益な細菌)と、病原性細菌および他の有害な物質とを区別するために複雑な「腸粘膜免疫系」に進化してきた。腸粘膜免疫系は、腸粘膜関門の不可欠な部分であり、腸粘膜関門全体に広く散在する、リンパ組織および特異的免疫細胞(すなわち、リンパ球および形質細胞)を含む。健常対象の粘膜に自然に定着する微生物の一つは、ムチンを分解するA.ムシニフィラであり、それは腸関門機能を増加させることが示されている(Everardら、PNAS 110(2013)9066-71;Reunanenら、Appl Environ Microbiol、2015年3月20日)。
【0039】
本明細書で使用する場合、「プロバイオティクス」または「プロバイオティクス製品」という用語は、腸内細菌などの微生物を指し、有効量で投与または摂取されると、宿主(例えば、ヒトまたは哺乳動物)に健康上の利益を与える。好ましくは、プロバイオティクスは、プロバイオティクスが宿主の大腸に定着できるように、対象に投与される場合、生存または生存可能であるべきである。しかしながら、特定の条件下では、プロバイオティクスによって産生される物質が依然として宿主に対してプロバイオティクスの有益な効果を与えるならば、プロバイオティクスは投与されるときに死んでいてもよい。大部分のプロバイオティクスまたはプロバイオティクス製品は、乳酸桿菌(Lactobacilli)またはビフィズス菌(Bifidobacteria)などの乳酸菌から構成される。当業者はプロバイオティクスの分野に精通しており、プロバイオティクス活性を有する乳酸菌を選択する方法を知っている。
【0040】
本明細書で使用する場合、「プレバイオティクス」または「プレバイオティクス製品」という用語は、一般に、それらの宿主の健康な状態に寄与する消化管微生物の成長および/または活性を促進する化合物を指す。プレバイオティクスまたはプレバイオティクス製品は、主に発酵性繊維または非消化性炭水化物からなる。プロバイオティクスによるこれらの繊維の発酵は、SCFA、特に酪酸塩などの有益な最終産物の産生を促進する。当業者はプレバイオティクスの分野に精通しており、プレバイオティクス活性を有する成分を選択する方法を知っている。
【0041】
本明細書で使用する場合、「共生体」または「共生製品」という用語は、一般に、プロバイオティクスと、プレバイオティクスなどの消化管微生物の増殖および/または活性を促進する1種以上の化合物とを組み合わせて1つの製品にする組成物および/または栄養補助食品を指す。共生体は、消化管におけるプロバイオティクスの生存および定着を改善することによって、成長を選択的に刺激することによって、および/またはプロバイオティクスの代謝を活性化することによって、宿主に有益な影響を与え、それによって宿主の生活状態を改善する。当業者は共生体について精通しており、共生体に組み合わせることができる成分を選択する方法を知っている。
【0042】
本明細書で使用する場合、「有益な腸内細菌種」という用語は、哺乳動物(例えば、ヒト)の腸に生息し(すなわち、先天性で)、それが存在する哺乳動物の消化管、代謝および他の健康に対して有益な効果(例えば、病原性細菌種に対する防御、酪酸および/または酪酸塩ならびに誘導体の産生など)を与える細菌種を指す。
【0043】
有益な腸内細菌種の非限定的な例としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)属およびビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属由来の乳酸菌が挙げられる。有益な腸内細菌種の他の非限定的な例には、米国特許出願公開第2014/0242654号、国際公開第2014/150094号または国際公開第2013032328 A1号に開示されている細菌株などの、酪酸および/または酪酸塩ならびにそれらの誘導体を産生するためにアセチル-CoAを使用する酪酸塩産生細菌種が含まれる。
【0044】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、本明細書で教示する効果を達成するのに必要な量を指す。例えば、本明細書に教示される腸内細菌株またはそれらに由来する株、すなわち、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、ならびに任意選択でA.ムシニフィラの有効量は、対象におけるビタミンB12欠乏症を治療、予防および/または緩和するのに有効な量である。有効量は、当業者が過度の実験を行うことなく容易に決定することができる。例えば、当業者は、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、ならびに任意選択でA.ムシニフィラの量が、血液中のビタミンB12レベルを測定することによって対象におけるビタミンB12欠乏症を治療、予防および/または緩和するのに有効であるかどうかを決定することができ、ビタミンB12血中レベルが正常なレベル(Doetsら、2013.Ann Nutr Metab 62:311-322によって概説されているように、約137~546ピコモル/L)に戻ったかどうかを決定することができる。
【0045】
本明細書で使用する場合、「生理学的に許容される担体」または「栄養的に許容される担体」、「栄養学的に許容される担体」または「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明のポリペプチドまたは宿主細胞の投与形態の提供に関与する、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、またはカプセル化材料などの、生理学的に許容される、もしくは栄養的に許容される担体、または栄養学的に許容される、もしくは薬学的に許容される担体材料を指す。各担体は、組成物の他の成分と適合性があり、対象に有害ではない、すなわち、消費に適しているか、または栄養学的に許容されるという意味で「許容され」なければならない。「消費に適している」または「栄養学的に許容される」という用語は、一般にヒト(および他の哺乳動物)の消費に対して安全であるとみなされる成分または物質を指す。生理学的に許容される担体または栄養学的に許容されるもしくは薬学的に許容される担体として役立ち得る材料の非限定的な例には、(1)ラクトース、グルコースおよびスクロースなどの糖;(2)トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)カカオ脂および座薬ワックスなどの賦形剤;(9)落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)発熱物質を含まない水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝液;(21)医薬製剤に用いられる他の無毒性の相溶性物質などが挙げられる。さらに、本明細書で使用する場合、「栄養学的に許容される」および「薬学的に許容される」という用語は、適正な医学的判断の範囲内であり、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴わずに、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適し、合理的な利益/リスク比に相応する、それらの組成物または薬剤、材料、もしくは組成物の組み合わせ、および/またはそれらの投薬形態を指す。
【0046】
「消費に適している」または「栄養学的に許容される」という用語は、一般にヒト(および他の哺乳動物)の消費に対して安全であるとみなされる成分または物質を指す。
【0047】
本明細書に使用する場合、「約」という用語は、当該分野における正常な許容範囲、例えば、平均値の2標準偏差内の範囲を示す。「約」という用語は、指示値の最大10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%を逸脱する値を包含すると理解することができる。
【0048】
本明細書に使用する場合、「含む」又は「含むこと」という用語及びそれらの活用形は、前記用語が、その単語の前の項目が含まれることを意味する非限定的な意味で使用される状況を指すが、特に言及されていない項目が除外されるわけではない。また、「から本質的になる」および「からなる」というより限定的な動詞も包含する。
【0049】
不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」による要素への言及は、文脈上、要素の1つおよび1つだけが存在することを明らかに要求しない限り、要素の1つより多くが存在する可能性を排除しない。したがって、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0050】
「増加する」および「増加したレベル」という用語ならびに「減少する」および「減少したレベル」という用語は、有意に増加もしくは有意に減少する能力、または有意に増加したレベルもしくは有意に減少したレベルを指す。一般に、レベルは、対照または基準の対応するレベルよりも、それぞれ、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%高いかまたは低いなどの、少なくとも5%高いかまたは低い場合、増加または減少する。あるいは、試料におけるレベルは、対照または基準におけるレベルと比較して、統計的に有意に増加または減少する場合、増加または減少し得る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1は、ビタミンを添加した場合と添加していない場合またはビタミンB12の粘液培地でのA.ムシニフィラ代謝産物の測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明者らは、驚くべきことに、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスと、許容される担体とを含む組成物が、有効量の前記組成物を投与された対象におけるビタミンB12欠乏症を治療、予防および/または緩和するために使用できることを見出した。本発明者らは、E.ハリイおよびI.ブチリシプロデュセンスがシュードビタミンB12を産生する能力を有することを発見した。
【0053】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、E.ハリイおよびI.ブチリシプロデュセンスは、in situ、すなわち対象の腸において、シュードビタミンB12を産生および分泌すると考えられている。次いでシュードビタミンB12は直ちに宿主の腸細胞によって吸収され得、それはビタミンB12依存性酵素についての補因子として直接使用され得るか、またはそれはビタミンB12依存性酵素における補因子として使用するためにビタミンB12の異なる形態に変換され得る。
【0054】
シュードビタミンB12は、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)において、3つのビタミンB12依存性酵素であるMetH、EutBCおよびPduCDEについての補因子として作用できることが示されている(Andersonら、2008、J Bacteriol 190(4):1160-1171)。シュードビタミンB12はサルモネラ・エンテリカによって産生される天然コリノイドであることが示唆されている(Taga and Walker.2008.J Bacteriol 190(4):1157-1159)。シュードビタミンB12は、クロストリジウム・コクレアリウム(Clostridium cohlearium)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、イシクラゲ(Nostoc commune)、アファニゾメノン・フロスアクエ(Aphanizomenon flos-aquae)、およびスイゼンジノリ(Aphanothece sacrum)によって産生される主要なコリノイドであることが示されている。さらに、豊富なマウス腸内細菌でもある、ラクトバチルス・ロイテリによって産生されるシュードビタミンB12は、マウスにおけるビタミンB12欠乏症を緩和できることが示されている(Santosら、2007.FEBS Letters 581:4865-4870;Molinら、2009.J Appl Microbiol 106:467-473)。
【0055】
第1の態様において、本発明は、対象におけるビタミンB12欠乏症の治療および/または予防に使用するための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスと、生理学的に許容される担体とを含む組成物に関する。
【0056】
生理学的に許容される担体は、任意の不活性担体であり得る。例えば、適切な生理学的または薬学的に許容される担体の非限定的な例は、周知の生理学的または薬学的担体、緩衝剤、希釈剤、および賦形剤のいずれかを含む。適切な生理学的担体の選択は、本明細書に教示される組成物の意図される投与様式(例えば、経口)および組成物の意図される形態(例えば、飲料、ヨーグルト、粉末、カプセルなど)に依存することが理解される。当業者は、本明細書に教示される使用のための組成物に適切であるか、またはそれに適合する、生理学的に許容される担体を選択する方法を知っている。
【0057】
一実施形態において、前記対象におけるビタミンB12欠乏症は、2型糖尿病のためのメトホルミン治療、悪性貧血、萎縮性胃炎、膵臓の慢性炎症、胃および/または小腸の一部が除去される外科的処置、体重減少(肥満)手術、クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、セリアック病、細菌増殖、大量飲酒、グレーヴス病、ループス、胃酸抑制薬の長期使用、栄養不良、過食症、および食欲不振、HIV/AIDS、肥満、高肥満度指数、前糖尿病状態、インスリン耐性、または菜食もしくは完全菜食に少なくとも部分的に由来するか、または起因する。
【0058】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、限定されないが、A.ムシニフィラまたはラクトバチルス・ロイテリなどの、プロピオン酸塩産生および/またはムチン分解細菌をさらに含んでもよい。E.ハリイおよびA.ムシニフィラは互いに有益な効果を有することが見出された。理論によって束縛されるものではないが、A.ムシニフィラはE.ハリイに適した基質を提供するが、E.ハリイはA.ムシニフィラにビタミンB12源を提供し、その増殖を増加させ、その代謝産物プロファイルをプロピオン酸塩産生に変化させると考えられる。E.ハリイと、任意の他のプロピオン酸塩産生細菌との間、またはI.ブチリシプロデュセンスと、A.ムシニフィラを含む任意のプロピオン酸塩産生細菌との間で、同じ有益な効果が達成され得ると予想される。プロピオン酸塩産生および/またはムチン分解細細菌は、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスに同時にまたは連続的に投与することができる。
【0059】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、例えば、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルトなどのコバルト塩の形態でコバルト化合物をさらに含む。補足的なコバルトの存在は、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスによって産生されるシュードビタミンB12についての前駆体として十分なコリン環の産生を確実にすることができる。あるいは、そのようなコバルト化合物は、本明細書に教示される組成物と組み合わせて、ビタミンB12欠乏症ならびに本明細書に教示される関連する疾患および状態に罹患しているか、または罹患するリスクがある対象に投与することができ、その場合、コバルト化合物は前記対象に同時または連続的に投与することができる。
【0060】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、液体形態、例えば、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、ならびに任意選択で本明細書に教示されるA.ムシニフィラの安定化懸濁液、または固体形態、例えば、本明細書に教示される凍結乾燥宿主細胞の粉末であってもよい。E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、ならびに任意選択でA.ムシニフィラを凍結乾燥する場合、ラクトース、トレハロースまたはグリコーゲンなどの凍結保護剤を使用することができる。経口投与については、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、ならびに任意選択でA.ムシニフィラを、カプセル、錠剤、および粉末などの固体投薬形態で、またはエリキシル剤、シロップ、および懸濁液などの液体投薬形態で投与することができる。E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、ならびに任意選択でA.ムシニフィラは、不活性成分および粉末担体、例えばグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウムなどと一緒に、ゼラチンカプセルなどのカプセル中にカプセル化することができる。
【0061】
好ましくは、前記E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、固体、凍結乾燥または乾燥形態、例えば粉末または顆粒形態で、本明細書に教示される組成物中に存在する。前記E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、例えば、マイクロカプセル化形態で本明細書に教示される組成物中に存在してもよい。当業者は、周知の技術に基づいて、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスを凍結乾燥またはマイクロカプセル化することができる。E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは偏性嫌気性細菌であるため、凍結乾燥またはマイクロカプセル化の間、酸素を含まない条件を適用して、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスの生存能を保存することができる。
【0062】
プロバイオティクス細菌を保存するためのマイクロカプセル化の技術は当該技術分野で周知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Serna-CockおよびVallejo-Castillo、2013.Afr J of Microbiol Res、7(40):4743-4753によって概説されている)。例えば、Serna-CockおよびVallejo-Castilloによって教示される保存技術および保存システムのいずれかが、本発明において使用され得る。
【0063】
凍結乾燥法には、限定するものではないが、乾燥前の緩徐な-40℃への凍結、乾燥前に-80℃に置くことによる急速凍結、または乾燥前に凍結保護剤と共に液体窒素中に細胞を滴下することによる超急速凍結が含まれる。
【0064】
凍結保護剤は、凍結乾燥中にプロバイオティクス組成物を保護し、保存可能期間を延ばすためにしばしば用いられる。限定するものではないが、スクロース、マルトース、マルトデキストリン、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イヌリン、グリセロール、DMSO、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリグリセロール、スキムミルク粉末、乳タンパク質、乳清タンパク質、UHTミルク、ベタイン、アドニトール、スクロース、グルコース、ラクトースまたはそれらの任意の組合せからなる群から選択される凍結保護剤を使用することができる。
【0065】
デンプンおよび小麦ふすまなどのプレバイオティクスは、本明細書に教示されるE.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス組成物の効力を増強するために凍結乾燥前にさらに加えられてもよい。凍結乾燥混合物へのリボフラビン、リン酸リボフラビンまたはその生理学的に許容される塩、グルタチオン、アスコルビン酸塩、グルタチオンおよびシステインなどの抗酸化剤の添加は、必要に応じて、保存中に本明細書に教示されるE.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス組成物の生存能力をさらに増強することができる。
【0066】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、食品または栄養補助食品組成物であってもよい。そのような食品または栄養補助食品組成物は、乳製品、より好ましくは発酵乳製品、好ましくはヨーグルトまたはヨーグルト飲料を含むことができる。
【0067】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、例えば、カプセル、錠剤、および粉末の群から選択される形態の医薬組成物であり得る。
【0068】
一実施形態において、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、約104~約1015細胞の範囲の量、好ましくはコロニー形成単位(CFU)で、本明細書に教示される組成物中に存在し得る。例えば、宿主細胞の有効量は、約105細胞またはCFU~約1014細胞またはCFU、好ましくは約106細胞またはCFU~約1013細胞またはCFU、好ましくは約107細胞またはCFU~約1012細胞またはCFU、より好ましくは約108細胞またはCFU~約1012細胞またはCFUの量であり得る。
【0069】
一実施形態において、A.ムシニフィラは、存在する場合、約104~約1015細胞の範囲の量、好ましくはコロニー形成単位(CFU)で本明細書に教示される組成物中に存在してもよい。例えば、宿主細胞の有効量は、約105細胞またはCFU~約1014細胞またはCFU、好ましくは約106細胞またはCFU~約1013細胞またはCFU、好ましくは約107細胞またはCFU~約1012細胞またはCFU、より好ましくは約108細胞またはCFU~約1012細胞またはCFUの量であってもよい。
【0070】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、粘膜結合剤をさらに含むことができる。
【0071】
本明細書に使用する場合、「粘膜結合剤」または「粘膜結合ポリペプチド」という用語は、哺乳動物(例えば、ヒト)の腸粘膜関門の腸粘膜表面にそれ自身を付着させることができる薬剤またはポリペプチドを指す。種々の粘膜結合ポリペプチドが当該分野で開示されている。粘膜結合ポリペプチドの非限定的な例としては、コレラ毒素のBサブユニット、大腸菌易熱性エンテロトキシンのBサブユニット、百日咳毒素サブユニットS2、S3、S4および/またはS5、ジフテリア毒素のB断片、および志賀毒素または志賀様毒素の膜結合サブユニットなどを含む細菌毒素膜結合サブユニットが挙げられる。他の適切な粘膜結合ポリペプチドとしては、大腸菌線毛K88、K99、987P、F41、FAIL、CFAIII ICES1、CS2および/またはCS3、CFAIIV ICS4、CS5および/またはCS6、P線毛などを含む細菌線毛タンパク質が挙げられる。線毛の他の非限定的な例としては、百日咳菌(Bordetella pertussis)線維状血球凝集素、コレラ菌毒素同時制御線毛(vibrio cholerae toxin-coregulate pilus)(TCP)、マンノース感受性血球凝集素(Mannose-sensitive hemagglutinin)(MSHA)、フコース感受性血球凝集素(fucose-sensitive hemagglutinin)(PSHA)などが挙げられる。
【0072】
さらに他の粘膜結合剤としては、インフルエンザおよびセンダイウイルスの赤血球凝集素ならびに動物レクチンまたは免疫グロブリン分子もしくはその断片を含むレクチン様分子、カルシウム依存性(C型)レクチン、セレクチン、コレクチンまたはヘリックスポマティス(helix pomatis)赤血球凝集素、コンカナバリンA、コムギ胚芽凝集素、フィトヘマグルチニン、アブリン、リシンなどを含む粘膜結合サブユニットを有する植物レクチンを含むウイルス付着タンパク質が挙げられる。
【0073】
一実施形態において、本明細書に教示される組成物は、保存中および/または胆汁への曝露中および/または哺乳動物(例えば、ヒト)の消化管を通過する間に、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスならびに任意選択でA.ムシニフィラの生存および/もしくは生存能力を促進し、ならびに/または完全性を維持するのに適した、1つ以上の成分を含むことができる。そのような成分の非限定的な例としては、腸溶コーティング、および胃を通過することができる放出制御剤が挙げられる。当業者は、活性成分(すなわち、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンス、ならびに任意選択でA.ムシニフィラ)が、その作用を発揮するその意図された目的地に到達することを確実にするための適切な成分を選択する方法を知っている。
【0074】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、プレバイオティクス、プロバイオティクス、炭水化物、ポリペプチド、脂質、ビタミン、ミネラル、医薬品、保存剤、抗生物質、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される成分をさらに含んでもよい。
【0075】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のための組成物は、本明細書に教示される組成物の栄養的価値および/または治療的価値をさらに高める、1つまたは複数の成分をさらに含んでもよい。例えば、タンパク質、アミノ酸、酵素、ミネラル塩、ビタミン(例えば、チアミンHCl、リボフラビン、ピリドキシンHCl、ナイアシン、イノシトール、塩化コリン、パントテン酸カルシウム、ビオチン、葉酸、アスコルビン酸、ビタミンB12、p-アミノ安息香酸、ビタミンAアセタート、ビタミンK、ビタミンD、ビタミンEなど)、糖および複合炭水化物(例えば、水溶性および水不溶性単糖類、二糖類、および多糖類)、医薬化合物(例えば、抗生物質)、酸化防止剤、微量元素成分(例えば、コバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、スズ、ニッケル、クロム、モリブデン、ヨウ素、塩素、ケイ素、バナジウム、セレン、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムなどの化合物)から選択される1種以上の成分(例えば、栄養成分、獣医学用または医薬用薬剤など)を加えることが有益であり得る。当業者は、本明細書に教示される組成物の栄養的および/または治療的/医薬的価値を高めるのに適した方法および成分に精通している。
【0076】
さらなる態様において、本発明は、対象におけるビタミンB12欠乏症の治療および/または予防に使用するためのE.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスに関する。
【0077】
一実施形態において、本明細書に教示される使用のためのE.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、ビタミンB12欠乏症に罹患している対象に特に適応され得、該対象におけるビタミンB12欠乏症は上記の条件によって引き起こされる。
【0078】
方法及び使用
さらなる態様において、本発明は、対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させるための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスと、生理学的に許容される担体とを含む組成物の使用に関する。
【0079】
一実施形態において、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスと、生理学的に許容される担体とを含む組成物は、対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させる方法において使用され得、前記方法は、有効量の前記組成物を前記被験体に投与する工程を含む。
【0080】
一実施形態において、対象は、ビタミンB12欠乏症に罹患している対象であってもよく、ここで、該対象におけるビタミンB12欠乏症は上記の条件によって引き起こされる。
【0081】
さらなる態様において、本発明は、対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させるための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスと、生理学的に許容される担体とを含む組成物の使用に関する。
【0082】
一実施形態において、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスと、生理学的に許容される担体とを含む組成物は、対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させる方法において使用され得、該方法は、有効量の前記組成物を前記対象に投与する工程を含む。
【0083】
さらなる態様において、本発明は、対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させるための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスの使用に関する。
【0084】
一実施形態において、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させる方法において使用され得、該方法は、有効量の前記組成物を前記対象に投与する工程を含む。
【0085】
一実施形態において、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、対象の腸におけるシュードビタミンB12の産生を増加させる方法において使用され得、ビタミンB12欠乏症に罹患している対象に対して特に適応され得、ビタミンB12欠乏症は、上記の条件のいずれかに由来するか、または上記の条件のいずれかによって引き起こされる。
【0086】
さらなる態様において、本発明は、対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させるための、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスの使用に関する。
【0087】
一実施形態において、E.ハリイおよび/またはI.ブチリシプロデュセンスは、対象の腸におけるプロピオン酸塩の産生を増加させる方法において使用され得、該方法は、有効量の前記組成物を前記対象に投与する工程を含む。
【0088】
さらに別の態様では、本発明は、シュードビタミンB12を産生するためのin vitro法であって、該方法は、シュードビタミンB12の産生を可能にする条件下で、E.ハリイ種および/またはI.ブチリシプロデュセンス種の細菌を培養する工程と、産生されたシュードビタミンB12を単離する工程とを含む、方法に関する。
【0089】
当業者は、産生されたシュードビタミンB12を単離する方法をよく知っている。
【0090】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これに限定されるものではない。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を確認することができ、その教示および範囲から逸脱することなく、様々な用途および条件に適応するように本発明の様々な変更および改変を行うことができる。したがって、本明細書に示され、記載されたものに加えて、本発明の種々の変更は、上記の説明から当業者に明らかである。また、そのような変更は添付の特許請求の範囲内であることを意図する。
【実施例0091】
実施例1
細菌増殖条件
アッカーマンシア・ムシニフィラ
アッカーマンシア・ムシニフィラ MucT(ATTC BAA-835)を、以前に記載されたように増殖させた(Derrienら、2004;Duncanら、2002)。182kPa(1.5気圧)N2/CO2(80/20比率)の気相によって提供される嫌気性条件下で、37℃にてブチルゴム栓で密封した血清ボトル中でインキュベーションを行った。増殖は分光光度計により600nmにおける光学濃度(OD600)として測定した。
【0092】
E.ハリイ
ユウバクテリウム・ハリイ L2-7を、いくらか調整したYCFA中で37℃にて嫌気的に増殖させた。ムチン糖の利用は、10mM酢酸塩を添加したまたは添加していない最小培地中で行った。ムチン由来の単糖(マンノース、フコース、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、またはN-アセチルグルコサミン)を用いて実験を行った場合、これらは25mMの濃度で使用した。増殖を24時間追跡し、OD600およびHPLC分析のために定期的に試料を採取した。
【0093】
共培養実験
共培養実験は、粘液を補充した最小培地中で行った(Derrienら、2004)。最適な共培養条件を以下のように確立した。A.ムシニフィラをムチン培地に添加し、次いで測定可能な濃度の酢酸塩および遊離糖を得るために8時間インキュベートした。その後、E.ハリイの細胞をA.ムシニフィラ含有インキュベーションに添加した。全ての細胞をPBSで2回洗浄し、その後、前培養からの産物のオーバーフローを防ぐために共培養物に添加した。共培養の間、0.15%ムチンを48時間毎に培地に添加し、A.ムシニフィラに対する十分な基質利用性を維持した。
【0094】
細菌共培養により産生された発酵産物の分析
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を、上記の共培養からの発酵産物の分析のために使用した。発酵産物分析のために、細菌培養物1mLを遠心分離し、上清をHPLC分析まで-20℃で保存した。基質変換および産物形成は、45℃に維持され、0.005mM硫酸を溶離液として流した、Varian Metacarb 67H 300×6.5mmカラムを備えたThermo Scientific Spectra system高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを用いて測定した。溶離液の流量は0.8ml/minであり、屈折率を測定することにより代謝産物を検出した。
【0095】
ビタミンB12分析
超高速液体クロマトグラフィー質量分析(UHPLC-MS)をビタミンB12分析のために使用した。簡単に説明すると、E.ハリイ細胞(0.2g)を、100μLの1%NaCNを含有する10mLの抽出緩衝液(8.3mM水酸化ナトリウムおよび20.7mM酢酸、pH4.5)と混合した。混合物を沸騰水浴に30分間曝すことによってビタミンをそのシアノ形態で抽出した。冷却後、抽出物を遠心分離(6900gで10分間;Hermle、Wehingen、ドイツ)により回収し、最後にイムノアフィニティーカラムクロマトグラフィー(Easy-Extract;R-Biopharma、Glasgow、スコットランド)により精製した。再構成した抽出物を、フォトダイオードアレイ検出器(PDA;210-600nm)を備え、高分解能四重極飛行時間型質量分析計(QTOF;Synapt G2-Si、Waters)にインターフェースで接続したWaters Acquity UPLCシステム(Milford、MA、USA)においてHSS T3 C18カラム(2.1×100mm;1.8μm)を使用してビタミン含有量について分析した。溶離液は、水(溶媒A)およびアセトニトリル(溶媒B)の勾配流(0.32ml/分)であり、両方とも0.1%ギ酸で酸性化した:0~0.5分(95:5);0.5~5分(60:40);5~6分(60:40)および6~10分(95:5)。カラム22を30℃に維持し、UV検出を361nmで記録した。MS分析は、50~1500のm/zに設定した走査範囲を使用してエレクトロスプレーイオン化で陽イオンモードにおいて行った。ビタミンピークに対応する親イオンをさらに断片化し(MS/MS)、分析した。
【0096】
結果
ビタミンB12はE.ハリイとA.ムシニフィラとの間の栄養共生に依存した
A.ムシニフィラとE.ハリイとの共培養において、コハク酸塩のプロピオン酸塩に対する割合は、A.ムシニフィラの単一培養と比較して変化していた。メチルマロニル-CoAシンターゼによるプロピオン酸塩の産生は、補因子ビタミンB12に依存することが知られている。したがって、ビタミンおよびビタミンB12の効果をA.ムシニフィラの単一培養で試験した。ビタミン混合物またはビタミンB12のみの添加は、実際に、共培養で行ったE.ハリイの存在と同様にA.ムシニフィラのコハク酸塩をプロピオン酸塩プロファイルに変化させた(
図1)。質量分析による詳細な分析から、E.ハリイは単一培養でB12ビタマーを合成できることが示された。ビタマーの構造は、5,6-ジメチルベンズイミダゾール(DMB)の代わりにアデニンを含む低い配位子としてシュードビタミンB12であるように見える。産生したB12ビタマーの構造に対するDMB添加の効果は観察されなかった(データは示していない)。まとめると、このことは、A.ムシニフィラとE.ハリイとの間の双方向性代謝栄養共生の証拠であり、A.ムシニフィラはE.ハリイの増殖支援のために糖を提供し、見返りとしてE.ハリイは、メチルマロニル-CoAシンターゼを介してコハク酸塩をプロピオン酸塩に変換するための補因子として使用される十分なレベルのビタミンB12類似体をA.ムシニフィラに提供する。ビタミンB12およびシュードビタミンB12はいずれも、A.ムシニフィラによって補因子として使用され、メチルマロニル-CoAシンターゼを活性化し得る。したがって、この栄養共生関係は、E.ハリイによって産生されるB12ビタマーがシュードビタミンB12型であることから、腸管内で共進化しているようである。
【0097】
E.ハリイの場合、それが、A.ムシニフィラ内の炭素フラックスに影響を及ぼすシュードビタミンB12を産生し、プロピオン酸塩産生をもたらすことから、特異的な代謝および補因子共生の相互作用が観察された。ヒトの研究から、結腸に送達されたプロピオン酸塩は、食欲の低下を含む様々な有益な効果を有することが知られている(Chambersetら、2015、前出)。
【0098】
E.ハリイの存在下でのA.ムシニフィラの代謝プロファイルの変化は、共生的相互作用をさらに証明している。共生パートナーは共同して、より高いプロピオン酸塩対コハク酸塩比を生成し、これは宿主細胞の代謝に有益である。加えて、B12補因子が産生され、これは、ビタミンB12欠乏症を予防および/または治療するために宿主によって使用され得る。
【0099】
多くの胃腸障害は、粘膜損傷および下部腸障壁機能と関連している。腸内細菌が直接または特定の免疫および代謝刺激を介して、これらの要因の両方に影響を及ぼし得るという事実は、適切な場所に適切な細菌を有することの重要性をさらに強調している。粘膜構造の損失および関連する粘膜バイオーム(mucobiome)は、疾患状態およびその発生の指標となり得る。A.ムシニフィラは、ヒト細胞型における除脂肪表現型および有益な代謝遺伝子調節と正の関連性がある(Everardら、2013;Lukovacら、2015)。その存在は、宿主のこれらの効果を一緒に促進する有益な微生物の粘膜付着性ネットワークに必須である。実際、体重減少試験では通常、ベルコミクロビウム(主にA.ムシニフィラ)およびいくつかの他の微生物種の個体数の増加が報告されている(Liouetら、2013;Remelyetら、2015;Wardetら、2014)。まとめると、これらの結果はさらに、宿主の健康関連パラメータの調節および疾患の予防のための粘膜関連微生物ネットワークおよびそれらの代謝的栄養共生の潜在的重要性を示す。
【0100】
実施例2
インテスティニモナス・ブチリシプロデュセンスによるビタミンB12の産生
インテスティニモナス・ブチリシプロデュセンス AF211を、グルコース-酢酸塩培地で記載されるように増殖させた(Buiら、Nature Comm 2015、6:10062)。質量分析によるさらなる詳細な分析は、I.ブチリシプロデュセンス AF211が単一培養においてB12ビタマーを合成できることを示した。ビタマーの構造はE.ハリイによって産生されたものと同じであり、5,6-ジメチルベンズイミダゾール(DMBI)の代わりにアデニンを含有する低い配位子としてシュードビタミンB12と同定された。産生したB12ビタマーの構造に対するDMB添加の影響は観察されなかった(データは示していない)。