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特開2022-31859熱化学的変換方法及び熱化学的変換装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031859
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】熱化学的変換方法及び熱化学的変換装置
(51)【国際特許分類】
   F23L 7/00 20060101AFI20220215BHJP
   C10J 3/00 20060101ALI20220215BHJP
   F23B 99/00 20060101ALI20220215BHJP
   F23G 5/027 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
F23L7/00 Z
C10J3/00 Z
F23B99/00
F23G5/027 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197717
(22)【出願日】2021-12-06
(62)【分割の表示】P 2020573060の分割
【原出願日】2020-08-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年8月14日に「International Conference on Applied Energy 2019」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】518216939
【氏名又は名称】株式会社エコクルジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】金 基龍
(72)【発明者】
【氏名】小堀 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】吉川 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史武
(72)【発明者】
【氏名】エルザイード、タメール モハメド イズマイル
(57)【要約】
【課題】微粉砕が困難な固体燃料をも良好に熱化学的に変換させることができ、ガス化・熱分解によって生成される可燃性ガスの発熱量を増大させることができ、なおかつ、熱化学的変換反応炉の小型化を可能とする方法を提供する。
【解決手段】熱化学的変換反応炉C内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する方法であって、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入する電子注入工程を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱化学的変換反応炉内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する方法であって、
前記熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入する電子注入工程を含む、熱化学的変換方法。
【請求項2】
前記熱化学的変換反応炉内における熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、燃化学的変換反応温度、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を設定する電子濃度設定工程を含む、請求項1に記載の熱化学的変換方法。
【請求項3】
前記熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤の流量を測定する酸化剤流量測定工程と、
前記酸化剤流量測定工程で測定した流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御する電子濃度制御工程と、
を含む、請求項1又は2に記載の熱化学的変換方法。
【請求項4】
前記熱化学的変換反応炉は、 外部から酸化剤の供給を受ける酸化剤取入口を備え、
前記電子注入工程では、前記酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入する、請求項1から3の何れか一項に記載の熱化学的変換方法。
【請求項5】
前記熱化学的変換反応炉から排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、前記熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤を加熱する酸化剤加熱工程を含む、請求項1から4の何れか一項に記載の熱化学的変換方法。
【請求項6】
前記電子注入工程では、濃度が500個/c c以上の電子を酸化剤に注入する、請求項1から5の何れか一項に記載の熱化学的変換方法。
【請求項7】
熱化学的変換反応炉内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する装置であって、
前記熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入する電子注入手段を備える、熱化学的変換装置。
【請求項8】
前記熱化学的変換反応炉内における熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、熱化学的変換反応温度、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を設定する電子濃度設定手段を備える、請求項7に記載の熱化学的変換装置。
【請求項9】
前記熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤の流量を測定する酸化剤流量測定手段と、
前記酸化剤流量測定手段で測定した流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御する電子濃度制御手段と、
を備える、請求項7又は8に記載の熱化学的変換装置。
【請求項10】
酸化剤流を生成する酸化剤流生成手段と、
前記酸化剤流生成手段と前記熱化学的変換反応炉とを接続する酸化剤供給管と、を備え、
前記電子注入手段は、前記酸化剤供給管に設置されている、請求項7から9の何れか一項に記載の熱化学的変換装置。
【請求項11】
前記熱化学的変換反応炉は、外部から酸化剤の供給を受ける酸化剤取入口を有し、
前記電子注入手段は、前記酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入するように前記酸化剤供給管に設置されている、請求項10に記載の熱化学的変換装置。
【請求項12】
前記熱化学的変換反応炉へ向けた酸化剤流を生成する酸化剤流生成手段を備え、
前記電子注入手段は、前記酸化剤流生成手段に設置されている、請求項7から9の何れか一項に記載の熱化学的変換装置。
【請求項13】
前記熱化学的変換反応炉から排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、前記熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤を加熱する酸化剤加熱手段を備える、請求項7から12の何れか一項に記載の熱化学的変換装置。
【請求項14】
前記電子注入手段は、濃度が500個/cc以上の電子を酸化剤に注入する、請求項7から13の何れか一項に記載の熱化学的変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱化学的変換方法及び熱化学的変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石炭やバイオマス、廃棄物等の固体燃料に対して、酸化剤(空気、酸素又は酸素富化空気等)と反応させることによって、燃焼・ガス化・熱分解等の熱化学的な変換を行い、電力や熱等のエネルギーを発生させたり、液体燃料や気体燃料を生成したりする技術が種々提案されている。例えば近年においては、高発熱量物質や難燃物を含む産業廃棄物(特に医療系廃棄物)を焼却させる竪型ごみ焼却炉が提案されている(特許文献1及び2参照)。かかる技術を採用すると、ダイオキシン類の熱分解を行うとともに焼却灰を滅菌することができ、焼却炉の強度や耐熱性を向上させることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-301352号公報
【特許文献2】特開2005-69542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、固体燃料の熱化学的変換反応を促進するためには、(1)固体燃料を微粉砕する、(2)熱化学的変換反応温度を上げる、(3)固体燃料の熱化学的変換反応炉(燃焼炉・ガス化炉・熱分解炉等)内における滞留時間を長くする、等の方策を講じる必要があった。しかし、(1)については、固体燃料の微粉砕がそもそも困難な場合があり、(2)については、特にガス化や熱分解の際に酸化剤の供給量を増やす必要があり、その結果、生成される可燃性ガスの発熱量が低下するという問題があり、(3)については、熱化学的変換反応炉の大型化が必要であるという問題があった。特許文献1及び2に記載されたような従来の技術を採用してもこれらの問題は解決されておらず、有効な解決策が待望されていた。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、微粉砕が困難な固体燃料をも良好に熱化学的に変換させることができ、ガス化・熱分解によって生成される可燃性ガスの発熱量を増大させることができ、なおかつ、熱化学的変換反応炉の小型化を可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係る熱化学的変換方法は、熱化学的変換反応炉内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する方法であって、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入する電子注入工程を含むものである。
【0007】
また、本発明に係る熱化学的変換装置は、熱化学的変換反応炉内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する装置であって、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入する電子注入手段を備えるものである。
【0008】
かかる方法及び構成を採用すると、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入するため、固体燃料の熱化学的変換を促進することができる。すなわち、酸化剤とともに熱化学的変換反応炉内に供給された電子が、熱化学的変換反応炉の熱分解ガス燃焼・ガス化領域内で酸化剤及び熱分解ガスと衝突することにより、二次電子が生成され、これによりイオンとラジカルが生成される結果、熱分解ガスの燃焼・ガス化が促進される。そして、熱分解ガスの燃焼・ガス化によって発生する熱が熱分解残渣の燃焼・ガス化領域に伝達されるため、熱分解残渣の燃焼・ガス化が促進される。この結果、熱化学的変換反応炉内全域にわたって、固体燃料の熱化学的変換を促進することができ、ガス化・熱分解によって生成される可燃性ガスの発熱量を増大させることができる。また、固体燃料処理量を増大させることができることから、熱化学的変換反応炉の小型化が可能となる。さらに、固体燃料のガス化・熱分解時にはタールが発生し、生成ガスが冷却される過程でタールが凝縮し、後流機器の閉塞を招くという問題があるが、本発明に係る熱化学的変換方法及び熱化学的変換装置を採用すると、電子の作用によって熱分解ガス中のタールの分解が促進され、タールが軽質化して凝縮しづらくなり、かつタール濃度も減少する、という利点がある。
【0009】
本発明に係る熱化学的変換方法において、熱化学的変換反応炉内における熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、燃化学的変換反応温度、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を設定する電子濃度設定工程を含むことができる。また、本発明に係る熱化学的変換装置において、熱化学的変換反応炉内における熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、熱化学的変換反応温度、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を設定する電子濃度設定手段を備えることができる。
【0010】
かかる方法及び構成を採用すると、熱化学的変換反応炉内における熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、熱化学的変換反応温度、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を最適な値に設定することができる。
【0011】
本発明に係る熱化学的変換方法において、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤の流量を測定する酸化剤流量測定工程と、酸化剤流量測定工程で測定した流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御する電子濃度制御工程と、を含むことができる。また、本発明に係る熱化学的変換装置において、熱化学的変化反応炉内に供給される酸化剤の流量を測定する酸化剤流量測定手段と、酸化剤流量測定手段で測定した流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御する電子濃度制御手段と、を備えることができる。
【0012】
かかる方法及び構成を採用すると、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤の流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御することができるため、酸化剤の流量が変動しても電子濃度を維持することができる。
【0013】
本発明に係る熱化学的変換方法において、熱化学的変換反応炉は、 外部から酸化剤の供給を受ける酸化剤取入口を備え、電子注入工程では、酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入することができる。また、本発明に係る熱化学的変換装置において、酸化剤流を生成する酸化剤流生成手段と、酸化剤流生成手段と熱化学的変換反応炉とを接続する酸化剤供給管と、を備え、熱化学的変換反応炉は、外部から酸化剤の供給を受ける酸化剤取入口を有し、この酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入するように電子注入手段を酸化剤供給管に設置することができる。
【0014】
かかる方法及び構成を採用すると、熱化学的変換反応炉の酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入するため、電子が熱化学的変換反応炉内に流入するまでの電子濃度の減少を可及的抑制することができる。なお、酸化剤流生成手段に電子注入手段を設置することもできる。
【0015】
本発明に係る熱化学的変換方法において、熱化学的変換反応炉から排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤を加熱する酸化剤加熱工程を含むことができる。また、本発明に係る熱化学的変換装置において、熱化学的変換反応炉から排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤を加熱する酸化剤加熱手段を備えることができる。
【0016】
かかる方法及び構成を採用すると、熱化学的変換反応炉から排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、熱化学的変換反応炉内に供給される酸化剤を加熱することができるので、エネルギー利用効率を向上させることができる。
【0017】
本発明に係る熱化学的変換方法の電子注入工程において、濃度が500個/c c以上の電子を酸化剤に注入することができる。また、本発明に係る熱化学的変換装置において、濃度が500個/cc以上の電子を酸化剤に注入する電子注入手段を採用することができる。
【0018】
かかる方法及び構成を採用すると、酸化剤に注入する電子の濃度を500個/cc 以上に設定することにより、熱化学的変換反応炉内での固体燃料の熱化学的変換をより促進することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、微粉砕が困難な固体燃料をも良好に熱化学的に変換させることができ、ガス化・熱分解によって生成される可燃性ガスの発熱量を増大させ、含有するタール量を低減することができ、なおかつ、熱化学的変換反応炉の小型化を可能とする方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係る熱化学的変換装置の構成図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る熱化学的変換装置を用いた熱化学的変換方法を説明するためのフローチャートである。
図3】本発明の第二実施形態に係る熱化学的変換装置の構成図である。
図4】本発明の第三実施形態に係る熱化学的変換装置の構成図である。
図5】本発明の第四実施形態に係る熱化学的変換装置の構成図である。
図6】本発明の第五実施形態に係る熱化学的変換装置の構成図である。
図7】本発明の実施例1及び比較例1における固体燃料熱分解時の二酸化炭素の生成速度を示すタイムチャートである。
図8】本発明の実施例1及び比較例1における固体燃料熱分解時の一酸化炭素の生成速度を示すタイムチャートである。
図9】本発明の実施例1及び比較例1における固体燃料熱分解時のメタンの生成速度を示すタイムチャートである。
図10】本発明の実施例1及び比較例1における固体燃料熱分解時の水素の生成速度を示すタイムチャートである。
図11】本発明の実施例2及び比較例2における固体燃料熱分解時の二酸化炭素の生成速度を示すタイムチャートである。
図12】本発明の実施例2~6において注入する電子の濃度を変更した場合における各生成ガス((A)は二酸化炭素、(B)は水素及びエチレン)の平均生成速度を示すバーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照しながら、本発明の各実施形態について説明する。
【0022】
<第一実施形態>
最初に、図1を用いて、本発明の第一実施形態に係る熱化学的変換装置1の構成について説明する。本実施形態に係る熱化学的変換装置1は、熱化学的変換反応炉C内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する装置であって、図1に示すように、酸化剤供給機10、酸化剤供給管20、流量計30、酸化剤予熱器40、電子発生器50、電子濃度測定器60、制御部70、等を備えている。ここで、熱化学的変換反応炉Cとは、固体燃料を熱化学的に変換する空間を有する炉であり、例えば燃焼炉、ガス化炉、熱分解炉等である。
【0023】
酸化剤供給機10は、熱化学的変換反応炉Cに供給される酸化剤流を生成するように機能するものであり、本発明における酸化剤流生成手段に相当する。酸化剤供給管20は、酸化剤供給機10と熱化学的変換反応炉Cとを接続して酸化剤供給機10で生成された酸化剤を熱化学的変換反応炉Cに供給するための管である。熱化学的変換反応炉Cは、外部から酸化剤の供給を受ける(図示されていない)酸化剤取入口を有しており、その酸化剤取入口に酸化剤供給管20が接続されている。
【0024】
流量計30は、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤の流量を測定するように機能するものであり、本発明における酸化剤流量測定手段に相当する。流量計30で測定された酸化剤の流量は、制御部70に送られて、酸化剤供給機10の制御に用いられる。具体的には、制御部70は、流量計30で測定した流量に基づいて酸化剤供給機10の動作を制御することにより、所定流量の酸化剤を熱化学的変換反応炉Cに供給するようになっている。
【0025】
酸化剤予熱器40は、熱化学的変換反応炉Cから排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤を加熱するように機能するものであり、本発明における酸化剤加熱手段に相当する。酸化剤予熱器40の動作は、制御部70によって制御される。具体的には、制御部70は、酸化剤予熱器40により加熱される酸化剤の温度を調整することにより、電子発生器50の耐熱温度未満の酸化剤を供給するようになっている。なお、酸化剤予熱器40自体に加熱装置を設けておき、熱化学的変換反応炉Cから排出されるガスから回収した顕熱を利用することなく酸化剤を加熱することができるようにしてもよい。
【0026】
電子発生器50は、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入するように機能するものであり、本発明における電子注入手段に相当する。電子発生器50としては、例えば、針状に尖らせたマイナス電極(電子発生端子)にパルス性の高電圧を印加して空気中に直接電子を放出させる方式のものを採用することができる。そして、酸化剤供給管20の壁面に設けた孔に電子発生器50の電子発生端子を挿入し、電子発生端子に高電圧を印加することにより、酸化剤供給管20の内部を流通する酸化剤に電子を注入することができる。この際、電子発生器50の電子発生端子の数を変更したり、電子発生端子の一部にのみ(例えば100本の端子のうち50本にのみ)電圧を印加したりすることにより、発生させる電子の濃度を所定濃度に設定することができる。
【0027】
電子発生器50の動作は、制御部70によって制御される。具体的には、制御部70は、種々の条件に基づいて設定した濃度の電子を電子発生器50で発生させ、電子発生器50から酸化剤供給管20へと電子を注入させる。また、制御部70は、流量計30で測定した流量に応じて、電子発生器50から酸化剤に注入される電子の濃度を制御する。本実施形態における電子発生器50は、濃度が500個/cc以上の電子を酸化剤に注入するように構成されている。本実施形態においては、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤における電子の濃度が500個/cc以上となるように、電子発生器50で発生させる電子の濃度を比較的高く(例えば50000個/cc程度に)設定するようにする。
【0028】
電子濃度測定器60は、酸化剤供給管20を流れる酸化剤に含まれる電子の濃度を測定するように機能するものである。電子濃度測定器60で測定された電子の濃度は制御部70に送られて、酸化剤供給機10や電子発生器50の動作を制御するために用いられる。電子濃度測定器60の構造は特に限定されるものではなく、例えば、酸化剤供給管20の内部に予め組み込まれる構造を有するものでもよく、酸化剤供給管20の外部に(取り外し可能に)取り付けられる構造を有するものでもよい。後者の構造を採用する場合は、酸化剤供給管20に設けられた孔を介して酸化剤を抽出し、その抽出した酸化剤に含まれる電子の濃度を測定することができる。
【0029】
制御部70は、本装置の各種機器を統合制御するものである。具体的には、制御部70は、流量計30で測定した流量に基づいて酸化剤供給機10の動作を制御することにより、所定流量の酸化剤を熱化学的変換反応炉Cに供給する。また、制御部70は、酸化剤予熱器40により加熱される酸化剤の温度を調整することにより、電子発生器50の耐熱温度未満の酸化剤を供給する。さらに、制御部70は、熱化学的変換反応炉C内における熱化学的変換空間(燃焼空間、ガス化空間、熱分解空間等)の容積、固体燃料の種類、熱化学的変換反応温度(燃焼温度、ガス化温度、熱分解温度等)、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を設定する。すなわち、制御部70は、本発明における電子濃度設定手段として機能する。そして、制御部70は、設定した濃度の電子を電子発生器50で発生させ、電子発生器50から酸化剤供給管20へと電子を注入させる。また、制御部70は、流量計30で測定した流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御する。すなわち、制御部70は、本発明における電子濃度制御手段としても機能する。
【0030】
次に、図2のフローチャートを用いて、本実施形態に係る熱化学的変換装置1を用いた熱化学的変換方法(熱化学的変換反応炉C内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する方法)について説明する。
【0031】
まず、熱化学的変換装置1の制御部70は、熱化学的変換反応炉C内における熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、熱化学的変換反応温度、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を設定する(電子濃度設定工程:S1)。電子濃度設定工程S1においては、図示されていない入力部を介して入力された各種情報に基づいて制御部70が最適な電子濃度を設定したり、図示されていない記憶部に記憶されていた各種情報に基づいて制御部70が最適な電子濃度を設定したりすることができる。
【0032】
次いで、制御部70は、酸化剤供給機10を作動させ、熱化学的変換反応炉Cに向けて酸化剤を供給するとともに、流量計30で測定した流量に基づいて酸化剤供給機10の動作を制御することにより、所定流量の酸化剤を熱化学的変換反応炉Cに供給する(酸化剤供給工程:S2)。酸化剤供給工程S2は、本発明における酸化剤流量測定工程を含むものであり、流量計30で測定した流量は、後述する電子濃度の制御に用いられる。
【0033】
次いで、制御部70は、酸化剤予熱器40を作動させ、熱化学的変換反応炉Cから排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤を加熱する(酸化剤加熱工程:S3)。この際、制御部70は、酸化剤予熱器40により加熱される酸化剤の温度が電子発生器50の耐熱温度未満となるように、酸化剤の温度を調整する。
【0034】
次いで、制御部70は、電子発生器50を作動させ、電子濃度設定工程S1で設定した濃度(所定濃度)の電子を電子発生器50で発生させ、電子発生器50から酸化剤供給管20へと電子を注入させる(電子注入工程:S4)。電子注入工程S4において、制御部70は、酸化剤供給工程S2において流量計30で測定した酸化剤の流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御する。すなわち、電子注入工程S4は、本発明における電子濃度制御工程を含むものである。電子注入工程S4においては、濃度が500個/c c以上の電子を酸化剤に注入するようにする。
【0035】
続いて、制御部70は、電子濃度測定器60を作動させ、酸化剤供給管20を流れる酸化剤に含まれる電子の濃度を測定し、測定した濃度が所定範囲内であるか否かをモニタリングする(電子濃度測定工程:S5)。電子濃度測定工程S5で測定した濃度が所定範囲内である場合には、制御部70は、電子発生器50で発生させる電子の濃度を変更することなく電子注入を継続する。一方、電子濃度測定工程S5で測定した濃度が所定範囲外である場合には、制御部70は、電子濃度測定器60で測定される濃度が所定範囲内になるように、電子発生器50で発生させる電子の濃度を変更する(電子濃度調整工程:S6)。
【0036】
その後、制御部70は、所定の終了条件(例えば、予め設定された作動時間の経過、熱化学的変換反応炉C内における固体燃料の重量が所定の閾値以下となること、熱化学的変換反応炉C内の温度が所定の閾値以下となること、等)が満たされた場合に各種機器の制御を停止させ、固体燃料の熱化学的変換を終了する。
【0037】
以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1においては、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤に所定濃度の電子を注入するため、固体燃料の熱化学的変換を促進することができる。すなわち、酸化剤とともに熱化学的変換反応炉C内に供給された電子が、熱化学的変換反応炉Cの熱分解ガス燃焼・ガス化領域内で酸化剤及び熱分解ガスと衝突することにより、二次電子が生成され、これによりイオンとラジカルが生成される結果、熱分解ガスの燃焼・ガス化が促進される。そして、熱分解ガスの燃焼・ガス化によって発生する熱が熱分解残渣燃焼・ガス化領域に伝達されるため、熱分解残渣の燃焼・ガス化が促進される。この結果、熱化学的変換反応炉全域にわたって、固体燃料の熱化学的変換を促進することができ、ガス化・熱分解によって生成される可燃性ガスの発熱量を増大させることができる。また、燃料処理量を増大させることができることから、熱化学的変換反応炉Cの小型化が可能となる。さらに、固体燃料のガス化・熱分解時にはタールが発生し、生成ガスが冷却される過程でタールが凝縮し、後流機器の閉塞を招くという問題があるが、本装置1を採用すると、電子の作用によって熱分解ガス中のタールの分解が促進され、タールが軽質化して凝縮しづらくなり、かつタール濃度も減少する、という利点がある。
【0038】
また、以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1においては、熱化学的変換反応炉C内における熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、熱化学的変換反応温度、のうち少なくとも何れか一つに基づいて、酸化剤に注入される電子の濃度を最適な値に設定することができる。
【0039】
また、以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1においては、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤の流量を測定する流量計30と、流量計30で測定した流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御する制御部70と、を備えるため、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤の流量に応じて、酸化剤に注入される電子の濃度を制御することができる。従って、酸化剤の流量が変動しても電子濃度を維持することができる。
【0040】
また、以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1においては、熱化学的変換反応炉Cから排出される燃焼ガス又は可燃性ガスから回収した顕熱によって、熱化学的変換反応炉C内に供給される酸化剤を酸化剤予熱器40で加熱することができるので、エネルギー利用効率を向上させることができる。
【0041】
また、以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1においては、酸化剤に注入する電子の濃度を500個/cc 以上に設定することにより、熱化学的変換反応炉C内での固体燃料の熱化学的変換をより促進することができる。
【0042】
<第二実施形態>
次に、図3を用いて、本発明の第二実施形態に係る熱化学的変換装置1Aの構成について説明する。本実施形態に係る熱化学的変換装置1Aは、第一実施形態に係る熱化学的変換装置1の電子発生器50及び電子濃度測定器60の構成を変更したものであり、その他の構成については第一実施形態と実質的に同一であるため、異なる構成を中心に説明することとし、共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0043】
本実施形態に係る熱化学的変換装置1Aにおいては、図3に示すように、電子発生器50A及び電子濃度測定器60Aの双方が、酸化剤供給管20の外部に(取り外し可能に)取り付けられる筐体Hの内部に設けられている。電子発生器50Aで発生させた電子は、筐体H内に取り込まれる酸化剤と混合され、酸化剤供給管20に設けられた孔を介して酸化剤供給管20の内部に供給される。電子濃度測定器60Aは、筐体H内における電子の濃度を測定する。
【0044】
本実施形態に係る熱化学的変換装置1Aを用いた熱化学的変換方法(熱化学的変換反応炉C内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する方法)は、第一実施形態における熱化学的変換方法と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0045】
以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1Aを採用すると、第一実施形態に係る熱化学的変換装置1と同様の作用効果を得ることができる。また、本実施形態に係る熱化学的変換装置1Aにおいては、電子発生器50Aと電子濃度測定器60Aとの双方が共通の筐体Hの内部に設けられているため、電子発生器50Aで発生させた直後(酸化剤供給管20に供給される前)の電子の濃度を、電子濃度測定器60Aによって測定することができる。なお、本実施形態においても、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤における電子の濃度が500個/cc以上となるように、電子発生器50Aで発生させる電子の濃度を比較的高く(例えば50000個/cc程度に)設定するようにする。
【0046】
<第三実施形態>
次に、図4を用いて、本発明の第三実施形態に係る熱化学的変換装置1Bの構成について説明する。本実施形態に係る熱化学的変換装置1Bは、第二実施形態に係る熱化学的変換装置1Aの筐体Hの位置を変更したものであり、その他の構成については第二実施形態と実質的に同一であるため、異なる構成を中心に説明することとし、共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0047】
本実施形態に係る熱化学的変換装置1Bにおいては、図4に示すように、電子発生器50B及び電子濃度測定器60Bの双方が、酸化剤供給管20の外部に(取り外し可能に)取り付けられる筐体Hの内部に設けられている。第二実施形態と同様に、電子発生器50Bで発生させた電子は、筐体H内に取り込まれる酸化剤と混合され、酸化剤供給管20に設けられた孔を介して酸化剤供給管20の内部に供給される。電子濃度測定器60Bは、筐体H内における電子の濃度を測定する。
【0048】
本実施形態においては、電子発生器50B及び電子濃度測定器60Bを収納した筐体Hの一方の側面が熱化学的変換反応炉Cの側壁の特定部位(酸化剤取入口が設けられた部位)に取り付けられており、筐体Hの他方の側面が酸化剤供給管20に接続されている。そして、筐体Hの一方の側面に設けられた酸化剤流出口から流出する電子含有酸化剤が熱化学的変換反応炉Cに供給されるようになっている。すなわち、本実施形態においては、筐体Hを介して酸化剤供給管20が熱化学的変換反応炉Cに接続されている。
【0049】
第一及び第二実施形態においては、電子発生器50・50Aと熱化学的変換反応炉Cとの間に酸化剤供給管20が介在しており、下流側になるほど電子の濃度が低下するのに対し、本実施形態においては、熱化学的変換反応炉Cの近傍に配置された筐体H内の電子発生器50Bにより、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入することができるようになっている。
【0050】
本実施形態に係る熱化学的変換装置1Bを用いた熱化学的変換方法(熱化学的変換反応炉C内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する方法)は、第一及び第二実施形態における熱化学的変換方法と同様であるため、詳細な説明を省略するが、本実施形態においては、電子注入工程で、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入することができる。
【0051】
以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1Bを採用すると、第一及び第二実施形態に係る熱化学的変換装置1・1Aと同様の作用効果を得ることができる。また、本実施形態に係る熱化学的変換装置1Bにおいては、電子発生器50Bと電子濃度測定器60Bとの双方が共通の筐体Hの内部に設けられているため、電子発生器50Bで発生させた直後の電子の濃度を、電子濃度測定器60Bによって測定することができる。また、本実施形態に係る熱化学的変換装置1Bにおいては、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤に電子を注入するため、電子が熱化学的変換反応炉C内に流入するまでの電子濃度の減少を可及的抑制することができる。
【0052】
<第四実施形態>
次に、図5を用いて、本発明の第四実施形態に係る熱化学的変換装置1Cの構成について説明する。本実施形態に係る熱化学的変換装置1Cは、第一実施形態に係る熱化学的変換装置1の流量計30、電子発生器50及び電子濃度測定器60等の位置を変更したものであり、その他の構成については第一実施形態と実質的に同一であるため、異なる構成を中心に説明することとし、共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0053】
本実施形態に係る熱化学的変換装置1Cにおいては、電子発生器50Cを酸化剤供給機10の吸入部に設定しており、酸化剤供給機10から流出する酸化剤に電子を含有させることができるようになっている。また、本実施形態においては、流量計30Cを酸化剤予熱器40の下流側に配置するとともに、電子濃度測定器60Cを熱化学的変換反応炉Cの近傍に配置している。これにより、酸化剤供給管20の中流付近における酸化剤の流量を測定することができるとともに、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤の電子濃度を測定することができる。
【0054】
なお、本実施形態においては、酸化剤予熱器40の上流側に電子発生器50Cを配置しているため、電子発生器50Cの耐熱温度を考慮することなく(すなわち電子発生器50Cの耐熱温度を超える温度まで)酸化剤予熱器40によって空気を加熱することができる。
【0055】
本実施形態に係る熱化学的変換装置1Cを用いた熱化学的変換方法(熱化学的変換反応炉C内に酸化剤を供給して固体燃料を熱化学的に変換する方法)は、第一実施形態における熱化学的変換方法と同様であるため、詳細な説明を省略するが、本実施形態においては、電子注入工程を酸化剤供給工程と同時期に実施することができる。また、本実施形態においては、酸化剤加熱工程で、電子発生器50Cの耐熱温度を超える温度まで酸化剤予熱器40により空気を加熱することができる。
【0056】
以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1Cを採用すると、第一実施形態に係る熱化学的変換装置1と同様の作用効果を得ることができる。なお、本実施形態においても、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤における電子の濃度が500個/cc以上となるように、電子発生器50Cで発生させる電子の濃度を比較的高く(例えば50000個/cc程度に)設定するようにする。
【0057】
<第五実施形態>
次に、図6を用いて、本発明の第五実施形態に係る熱化学的変換装置1Dの構成について説明する。本実施形態に係る熱化学的変換装置1Dは、第一実施形態等に係る熱化学的変換装置1等の電子濃度測定器60等を省いたものであり、その他の構成については第一実施形態と実質的に同一であるため、異なる構成を中心に説明することとし、共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0058】
本実施形態に係る熱化学的変換装置1Dは、第一実施形態等で採用されていた電子濃度測定器60等を備えていない。このため、本実施形態に係る熱化学的変換装置1Dを用いた熱化学的変換方法においては、第一実施形態等で実施されていた電子濃度測定工程と、測定した電子濃度に基づいて電子発生器50をフィードバック制御する電子濃度調整工程と、を実施しない。
【0059】
本実施形態における制御部70Dは、電子濃度に基づいたフィードバック制御を行う代わりに、第一実施形態で説明した要素(熱化学的変換空間の容積、固体燃料の種類、熱化学的変換反応温度)や、電子発生器50一個当たりの電子発生数(製品規格値)等に基づいて電子の濃度を設定し、設定した発生数の電子を電子発生器50で発生させ、電子発生器50から酸化剤供給管20へと電子を注入させるとともに、流量計30で測定した流量に応じて、電子発生器50から酸化剤に注入される電子の濃度を制御する。
【0060】
以上説明した実施形態に係る熱化学的変換装置1Dを採用すると、第一実施形態に係る熱化学的変換装置1と同様の作用効果を得ることができる。なお、本実施形態においても、熱化学的変換反応炉Cの酸化剤取入口に流入する直前の酸化剤における電子の濃度が500個/cc以上となるように、電子発生器50で発生させる電子の濃度を比較的高く(例えば50000個/cc程度に)設定するようにする。
【0061】
なお、以上の各実施形態においては、熱化学的変換方法の各工程(電子濃度設定工程S1、酸化剤供給工程S2、酸化剤加熱工程S3、電子注入工程S4、電子濃度測定工程S5、電子濃度調整工程S6)で制御部70が制御信号を送って各種機器を作動させた例を示したが、ユーザが各種機器を操作して作動させてもよい。すなわち、本発明に係る熱化学的変換方法は、特定の装置によって自動的に実施される方法に限られるものではなく、ユーザの操作によって実施される方法も含むものである。
【0062】
ここで、本発明の各実施例について説明する。
【0063】
<実施例1>
本実施例における熱化学的変換装置としては、第一実施形態と同様の構成を有する装置を採用した。酸化剤供給機として高圧ブロア(昭和電機社製)を採用し、流量計としてマスフローメータ(アズビル社製)を採用し、電子発生器としてマイナスイオン発生ユニット(アンデス電気社製)を採用し、電子濃度測定器として空気イオンカウンタ(アンデス電気社製)を採用し、制御部としてこれら機器を統合制御するプロセッサ(エコクルジャパン社製)を採用した。なお、マイナスイオン発生ユニット(商品名:ITM-F301)は、濃度が50万個/cc以上の電子を発生させることができるものである。熱化学的変換反応炉としては、1m3炉試験機(エコクルジャパン社製)を採用し、固体燃料としては、比重0.18のウッドチップを採用し、酸化剤供給管としては、内径60mmの鋼管パイプを採用した。マイナスイオン発生ユニットから1m3炉試験機までの距離は、45cmであった。なお、酸化剤予熱器については省略した。
【0064】
本実施例ではまず、プロセッサで高圧ブロアを作動させ、鋼管パイプを介して1m3炉試験機に向けて酸化剤(空気)を供給するとともに、マスフローメータで測定した流量に基づいて高圧ブロアの動作を制御することにより、流量210L/分の酸化剤を1m3炉試験機に供給した。次いで、プロセッサでマイナスイオン発生ユニットを作動させ、所定濃度(50万個/cc)以上の電子をマイナスイオン発生ユニットで発生させて鋼管パイプへと電子を注入した。なお、本実施例では、鋼管パイプの外壁にマイナスイオン発生ユニットを取り付け、鋼管パイプの外壁に設けられた孔にマイナスイオン発生ユニットの端子を直接挿入することにより、電子を鋼管パイプに注入するようにした。次いで、プロセッサで空気イオンカウンタを作動させ、鋼管パイプを流れる酸化剤に含まれる電子の濃度を測定し、測定した濃度が所定の閾値(500個/cc)以上であるか否かをモニタリングしつつ固体燃料をガス化させ、予め設定された作動時間の経過をもって各種機器の制御を停止させた。
【0065】
本実施例において、固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、水素(H2)の生成速度(mg/sec)を測定したところ、図7図10の各々において曲線Aで示すような時間履歴が得られた。なお、本実施例における1m3炉試験機内の温度は、炉の最下部で900℃であった。
【0066】
<実施例2>
本実施例における熱化学的変換装置としては、実施例1と同様の構成を有する装置を採用し、熱化学的変換反応炉としては、1L小型反応炉(以下、「小型反応炉」と称する)を採用した。固体燃料としては、体積20cm3のセルロースを採用し、酸化剤供給管としては、内径16mmの鋼管パイプを採用した。マイナスイオン発生ユニットから小型反応炉までの距離は、5cmであった。
【0067】
本実施例ではまず、高圧ボンベから鋼管パイプを介して小型反応炉に向けて酸化剤(空気)を供給するとともに、マスフローメータで測定した流量に基づいてニードルバルブで流量を調整することにより、流量0.028mL/分の酸化剤を小型反応炉に供給した。次いで、プロセッサでマイナスイオン発生ユニットを作動させ、所定濃度(50万個/cc)以上の電子をマイナスイオン発生ユニットで発生させて鋼管パイプへと電子を注入した。次いで、プロセッサで空気イオンカウンタを作動させ、鋼管パイプを流れる酸化剤に含まれる電子の濃度を測定し、測定した濃度が所定の閾値(500個/cc)以上であるか否かをモニタリングしつつ固体燃料をガス化させ、予め設定された作動時間の経過をもって各種機器の制御を停止させた。
【0068】
本実施例において、小型反応炉に供給される固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)の生成速度(mg/sec)を測定したところ、図11の曲線Aで示すような時間履歴が得られた。また、本実施例において、小型反応炉に供給される固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、エチレン(C24)の平均生成速度を、本実施例の構成を模したシミュレーションモデルを用いて算出したところ、図12(A)、(B)のグレー(中央)の棒グラフが得られた。なお、本実施例における小型反応炉内の温度は500℃であった。
【0069】
<実施例3>
本実施例では、実施例2と同様のシミュレーションモデルを用いて、酸化剤中の電子濃度が実施例2よりも一桁多く(5000個/cc)なるように設定した。本実施例において、固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、エチレン(C24)の平均生成速度を算出したところ、図12(A)、(B)のハッチング付きグレー(右から2番目)の棒グラフが得られた。なお、本実施例における小型反応炉内の温度は500℃であった。
【0070】
<実施例4>
本実施例では、実施例2と同様のシミュレーションモデルを用いて、酸化剤中の電子濃度が実施例3よりも一桁多く(50000個/cc)なるように設定した。本実施例において、固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、エチレン(C24)の平均生成速度を算出したところ、図12(A)、(B)の黒塗り(一番右側)の棒グラフが得られた。なお、本実施例における小型反応炉内の温度は500℃であった。
【0071】
<実施例5>
本実施例では、実施例2と同様のシミュレーションモデルを用いて、酸化剤中の電子濃度が実施例2よりも少なく(300個/cc)なるように設定した。本実施例において、固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、エチレン(C24)の平均生成速度を算出したところ、図12(A)、(B)のハッチング付き白抜き(左から2番目)の棒グラフが得られた。なお、本実施例における小型反応炉内の温度は500℃であった。
【0072】
<実施例6>
本実施例では、実施例2と同様のシミュレーションモデルを用いて、酸化剤中の電子濃度が実施例5よりも少なく(100個/cc以上に)なるように設定した。本実施例において、固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、エチレン(C24)の平均生成速度を算出したところ、図12(A)、(B)の白抜き(一番左側)の棒グラフが得られた。なお、本実施例における小型反応炉内の温度は500℃であった。
【0073】
<比較例1>
マイナスイオン発生ユニットを省いたことを除いて実施例1と同様の装置を用い、プロセッサで高圧ブロアを作動させ、鋼管パイプを介して1m3炉試験機に向けて酸化剤を供給するとともに、マスフローメータで測定した流量に基づいて高圧ブロアの動作を制御することにより、流量210L/分の酸化剤を1m3炉試験機に供給して固体燃料をガス化させ、予め設定された作動時間の経過をもって各種機器の制御を停止させた。固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、水素(H2)の生成速度(mg/sec)を測定したところ、図7図10の各々において曲線Bで示すような時間履歴が得られた。この際の1m3炉試験機内の温度は、炉の最下部で900℃であった。
【0074】
<比較例2>
マイナスイオン発生ユニットを省いたことを除いて実施例2と同様の装置を用い、高圧ボンベから鋼管パイプを介して小型反応炉に向けて酸化剤を供給するとともに、マスフローメータで測定した流量に基づいてニードルバルブで流量を調整することにより、流量0.028mL/分の酸化剤を小型反応炉に供給して固体燃料をガス化させ、予め設定された作動時間の経過をもって各種機器の制御を停止させた。固体燃料のガス化によって生成される二酸化炭素(CO2)の生成速度(mg/sec)を測定したところ、図11において曲線Bで示すような時間履歴が得られた。この際の小型反応炉内の温度は500℃であった。
【0075】
<考察>
以上の結果から明らかなように、固体燃料の熱化学的変換用の酸化剤に電子を注入した各実施例においては、各比較例よりも、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、水素(H2)の生成量が顕著に増大した(図7図11)。また、酸化剤に注入する電子濃度を500個/cc以上に増大させると、各生成ガス(二酸化炭素(CO2)、水素(H2)、エチレン(C24))の平均生成速度が顕著に増大することが明らかとなった(図12)。
【0076】
本発明は、以上の各実施形態に限定されるものではなく、これら実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0077】
1・1A・1B・1C・1D…熱化学的変換装置
10…酸化剤供給機(酸化剤流生成手段)
20…酸化剤供給管
30・30C…流量計(酸化剤流量測定手段)
40…酸化剤予熱器(酸化剤加熱手段)
50・50A・50B・50C…電子発生器(電子注入手段)
70・70D…制御部(電子濃度設定手段、電子濃度制御手段)
S1…電子濃度設定工程
S2…酸化剤供給工程(酸化剤流量測定工程)
S3…酸化剤加熱工程
S4…電子注入工程(電子濃度制御工程)
C…熱化学的変換反応炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12