(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031910
(43)【公開日】2022-02-22
(54)【発明の名称】木構造建築物の石膏系耐力面材、耐力壁構造及び耐力壁施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20220215BHJP
E04C 2/26 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
E04B2/56 604D
E04C2/26 Q
E04C2/26 S
E04B2/56 611C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201258
(22)【出願日】2021-12-10
(62)【分割の表示】P 2021523327の分割
【原出願日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2020068198
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094835
【弁理士】
【氏名又は名称】島添 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】須藤 潮
(72)【発明者】
【氏名】中村 渉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 知哉
(72)【発明者】
【氏名】永野 宗良
(72)【発明者】
【氏名】和田 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】多田 勝見
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大介
(57)【要約】 (修正有)
【課題】補強材又は補剛材を付加的に取付けることなく、石膏系面材の比重及び/又は板厚を増大することもなく、木構造耐力壁の壁倍率を増大する。
【解決手段】木構造耐力壁用の石膏系耐力面材は、500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから構成される。この耐力面材は、6.5~8.9kg/m
2の範囲内の面密度を有し、面内せん断試験において、20×10
-3radよりも大きい終局変位(δu2)を呈し、7.6kNよりも大きい終局耐力(補正値)(Pu')を発揮する。この耐力面材を用いた木構造耐力壁によれば、9.0kg/m
2以上の面密度を有する同種の耐力面材を用いた木構造耐力壁よりも大きい短期基準せん断耐力(P
0)が得られる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏系耐力面材を木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に対して留め具によって留付けた構造を有する木構造耐力壁において、
前記耐力面材は、500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、該主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから構成され、
壁面の単位面積当りの質量として特定される前記耐力面材の面密度又は面重量として、6.5~8.9kg/m2の範囲内の面密度又は面重量を有し、
壁の長さ1.82mの耐力壁試験体を用いた面内せん断試験によって測定される前記耐力壁の終局変位(δu2)として、20×10-3 radよりも大きい値の終局変位(δu2)を有し、
前記面内せん断試験によって測定される前記耐力壁の終局耐力(Pu) 及び塑性率(μ)に基づいて求められる終局耐力(Pu)の補正値(Pu')として、7.6kNよりも大きい値の前記補正値(Pu')を有することを特徴とする木構造耐力壁。
【請求項2】
前記面内せん断試験によって測定される降伏耐力の測定値(Py)が7.6kNよりも大きい値であることを特徴とする請求項1に記載の木構造耐力壁。
【請求項3】
前記終局耐力(Pu)の補正値(Pu')が8.0kN以上の値であり、又は前記面内せん断試験によって測定される前記耐力壁の降伏耐力の測定値(Py)が8.0kN以上の値であり、或いは、前記補正値(Pu')及び前記測定値(Py)の双方が8.0kN以上の値であることを特徴する請求項1又は2に記載の木構造耐力壁。
【請求項4】
前記石膏系耐力面材の板厚が12mm未満の値に設定され、又は前記石膏系耐力面材の比重が0.96以下の値に設定され、或いは、前記石膏系耐力面材の板厚が12mm未満の値に設定され且つ前記石膏系耐力面材の比重が0.96以下の値に設定されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の木構造耐力壁。
【請求項5】
石膏系耐力面材を木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に固定する木構造耐力壁の施工方法において、
500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、該主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから構成され、壁面の単位面積当りの質量として特定される面密度又は面重量として、6.5~8.9kg/m2の範囲内の面密度又は面重量を有する石膏系耐力面材を前記木構造壁下地に対して留め具によって留付け、
壁の長さ1.82mの耐力壁試験体を用いた面内せん断試験によって測定される前記耐力壁の終局変位(δu2)として、20×10-3 radよりも大きい値の終局変位(δu2)変位を得るとともに、前記面内せん断試験によって測定される前記耐力壁の終局耐力(Pu) 及び塑性率(μ)に基づいて求められる終局耐力(Pu)の補正値(Pu')として、7.6kNよりも大きい値の前記補正値(Pu')を得ることを特徴とすることを特徴とする木構造耐力壁の施工方法。
【請求項6】
前記石膏系耐力面材の板厚を12mm未満の値に設定し、又は前記石膏系耐力面材の比重を0.96以下の値に設定し、或いは、前記石膏系耐力面材の板厚を12mm未満の値に設定し且つ前記石膏系耐力面材の比重を0.96以下の値に設定することを特徴とする請求項5に記載の施工方法。
【請求項7】
前記面内せん断試験によって測定される降伏耐力の測定値(Py)が7.6kNよりも大きい値であることを特徴とする請求項5又は6に記載の施工方法。
【請求項8】
前記終局耐力(Pu)の補正値(Pu')が8.0kN以上の値に増大され、又は前記面内せん断試験によって測定される降伏耐力の測定値(Py)が8.0kN以上の値であり、或いは、前記補正値(Pu')が8.0kN以上の値に増大され且つ前記測定値(Py)が8.0kN以上の値であることを特徴する請求項5乃至7のいずれか1項に記載の施工方法。
【請求項9】
石膏系耐力面材を木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に対して留め具によって留付けることにより施工される木構造耐力壁の壁倍率増大方法において、
500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、該主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから前記耐力面材を構成し、
壁面の単位面積当りの質量として特定される前記耐力面材の面密度又は面重量を6.5~8.9kg/m2に低減し、
壁の長さ1.82mの試験体を用いた面内せん断試験によって測定される耐力壁の終局変位(δu2)の値として、20×10-3 radよりも大きい値の終局変位(δu2)を確保するとともに、
前記面内せん断試験によって測定される前記耐力壁の終局耐力(Pu) 及び塑性率(μ)に基づいて求められる終局耐力(Pu)の補正値(Pu')として、7.6kNよりも大きい値の前記補正値(Pu')を確保することを特徴とする壁倍率増大方法。
【請求項10】
前記石膏系耐力面材の板厚を12mm未満の値に設定し、又は前記石膏系耐力面材の比重を0.96以下の値に設定し、或いは、前記石膏系耐力面材の板厚を12mm未満の値に設定し且つ前記石膏系耐力面材の比重を0.96以下の値に設定することを特徴とする請求項9に記載の壁倍率増大方法。
【請求項11】
前記面内せん断試験によって測定される降伏耐力の測定値(Py)が7.6kNよりも大きい値であることを特徴とする請求項9又は10に記載の壁倍率増大方法。
【請求項12】
前記終局耐力(Pu)の補正値(Pu')が8.0kN以上の値であり、又は前記面内せん断試験によって測定される降伏耐力の測定値(Py)が8.0kN以上の値であり、或いは、前記補正値(Pu')及び前記測定値(Py)の双方が8.0kN以上の値であることを特徴する請求項9乃至11のいずれか1項に記載の壁倍率増大方法。
【請求項13】
木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に対して留め具によって留付けられる木構造耐力壁用の石膏系耐力面材において、
該耐力面材は、500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、該主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから構成され、
壁面の単位面積当りの質量として特定される面密度又は面重量として、6.5~8.9kg/m2の範囲内の面密度又は面重量を有し、
壁の長さ1.82mの耐力壁試験体を用いた面内せん断試験によって測定される耐力壁の終局変位(δu2)として、20×10-3 radよりも大きい値の終局変位(δu2)を耐力壁に生じさせるとともに、
前記面内せん断試験によって測定される耐力壁の終局耐力(Pu)及び塑性率(μ)に基づいて求められる終局耐力(Pu)の補正値(Pu')として、7.6kNよりも大きい値の前記補正値(Pu')を耐力壁に生じさせることを特徴とする石膏系耐力面材。
【請求項14】
前記耐力面材の板厚は12mm未満の値に設定され、又は前記耐力面材の比重は0.96以下の値に設定され、或いは、前記耐力面材の板厚は12mm未満の値に設定され且つ前記耐力面材の比重は0.96以下の値に設定されることを特徴とする請求項13に記載の石膏系耐力面材。
【請求項15】
前記芯材の表面又は表層を石膏ボード用原紙で被覆してなる積層構造を有することを特徴とする請求項13又は14に記載の石膏系耐力面材。
【請求項16】
前記石膏系耐力面材の主材又は芯材は、耐力劣化を防止する耐力劣化防止剤としてオルガノポリシロキサン化合物を含有することを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載の石膏系耐力面材。
【請求項17】
前記石膏系耐力面材は、980N以下のくぎ側面抵抗を有することを特徴とする請求項13乃至16のいずれか1項に記載の石膏系耐力面材。
【請求項18】
前記面内せん断試験によって測定される降伏耐力の測定値(Py)が7.6kNよりも大きい値であることを特徴とする請求項13乃至17のいずれか1項に記載の石膏系耐力面材。
【請求項19】
前記終局耐力(Pu)の補正値(Pu')が8.0kN以上の値に増大され、又は前記面内せん断試験によって測定される降伏耐力の測定値(Py)が8.0kN以上の値であり、或いは、前記補正値(Pu')が8.0kN以上の値に増大され且つ前記測定値(Py)が8.0kN以上の値であることを特徴する請求項13乃至18のいずれか1項に記載の石膏系耐力面材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木構造建築物の石膏系耐力面材、耐力壁構造及び耐力壁施工方法(a gypsum-based load-bearing board, a load-bearing wall structure, and a load-bearing wall construction method for a wooden construction building) に関するものであり、より詳細には、面材自体の最大耐力の増大、或いは、付加的な補強材又は補剛材の配設等に依存することなく、壁倍率を増大し得るように構成された石膏系耐力面材、耐力壁構造及び耐力壁施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅建築物等の比較的小規模な建築物の工法として、長い歴史を有する木造軸組工法、1970年代以降に普及した壁構造の木造枠組壁工法、1960年代以降に普及した鉄骨軸組工法、近年において普及しつつあるスチールハウス工法等が我が国(日本国)において知られている。木造軸組工法は、一般に角形断面の材木を柱・梁として組付けて木造軸組構造を構築する工法であり、我が国において最も普及した在来工法である。木造枠組壁工法は、ツーバイフォー工法とも呼ばれ、「木材を使用した枠組に構造用合板その他これに類するものを打ち付けることにより、壁及び床版を設ける工法」(平成14年、国土交通省告示第1540号及び第1541号)である。鉄骨軸組工法は、柱、梁及びブレース等を構成する鋼材を組付けて鋼構造軸組を構築する工法である。スチールハウス工法は、概念的には木造枠組壁工法の木製枠組材を軽量形鋼に置換した構成のものであり、「薄板軽量形鋼造」(平成13年、国土交通省告示1641号)に規定された鋼構造枠組壁工法である。また、小規模建築物に関する他の構造として、ラーメン構造形式又は壁構造形式の鉄筋コンクリート構造等が知られている。
【0003】
我が国における小規模建築物としては、このように多種多様な構造の建築物が知られているが、以下、本発明と関連する技術として、木構造建築物の耐震性能について説明する。
【0004】
一般に、木構造建築物の工法は、木造軸組工法及び木造枠組壁工法に大別される。近年の大規模地震等の影響により、木構造建築物の耐震性等に関する研究が、我が国において近年殊に注目されている。我が国における建築設計の実務においては、短期水平荷重(地震力、風圧等)に抗する木構造建築物の強度を示す指標として、構造耐力上有効な耐力壁の軸組長さ(建築平面図における壁の長さ)が一般に使用される(特許文献1:特開2001-227086号公報)。軸組長さの算定には、耐力壁の構造に相応した壁倍率が用いられる。壁倍率は、耐力壁の耐震性能又は耐力性能の指標であり、その数値が大きいほど、耐震強度が大きい。特定枚数の耐力壁を設計上採用すべき場合、壁倍率が比較的高い耐力壁構造を採用すると、建築物全体の耐震性を向上することができる。即ち、我が国においては、木構造建築物は、所要の耐震性を発揮し得る建築基準法上の必要壁量を要し、短期水平荷重に抗する木造建築物の強度は、耐力壁の壁倍率に壁長を乗じた値に比例し、通常の建築設計においては、必要壁量以上の存在壁量(耐力壁の軸組長さ×壁倍率)を梁間方向及び桁行方向の双方において設計上確保する必要がある。一般に、壁倍率が比較的大きい耐力壁構造を採用すると、耐力壁の枚数(設置箇所数)を低減し、建築物全体の設計自由度を向上することができ、逆に、壁倍率が比較的小さい耐力壁構造を採用すると、耐力壁の枚数(設置箇所数)が増大し、建築物全体の設計自由度が低下する。従って、壁倍率の数値が大きい壁構造は、建築物全体の設計自由度及び耐震性を向上する上で有利である。
【0005】
長年に亘って我が国で使用されてきた汎用の木構造耐力壁の壁倍率は、建築基準法施行令第46条及び建設省告示第1100号(昭和56年6月1日)に規定されている。他方、このような汎用の壁構造に属しない近年の多くの耐力壁については、同条第4項表1(八)に規定された国土交通大臣の認定に基づいて壁倍率を定める必要がある。このため、近年施工される多くの木構造耐力壁の壁倍率は、指定性能評価機関が実施する性能試験に基づいて壁倍率を設定する必要があり、この性能試験の試験方法等は、各試験・検査機関が公表している「木造の耐力壁及びその倍率 性能試験・評価業務方法書」等に詳細に記載されている。
【0006】
「木造の耐力壁及びその倍率 性能試験・評価業務方法書」等の多くの文献に記載されたとおり、木構造耐力壁の壁倍率を求める性能試験は、耐力壁の面内せん断(剪断)試験である。この試験においては、耐力壁の試験体に対して所定の水平荷重が繰り返し加力され、水平荷重(P)とせん断変形角(δ)との関係等が求められる。壁倍率は、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計[1](2017年版)」、第63頁及び第300頁(非特許文献1)等の多くの技術文献に記載される如く、水平荷重及びせん断変形角に基づいて短期許容せん断耐力(Pa)を算定し、これを所定の耐力(壁長L(m)×1.96(kN/m))で除した値である(
図5に数式として示す)。従って、壁倍率は、短期許容せん断耐力(Pa)をこの基準数値(1.96L)で除して指数化した値である。ここに、壁倍率算出の根拠である短期許容せん断耐力(Pa)は、原則として以下の4つの指標(面内せん断試験で得られた夫々の測定値に各々のばらつき係数を乗じた値)のうち最も小さい値を示す値(即ち、短期基準せん断耐力(P
0))に対し、所定の低減係数(α)(耐力低下の要因を評価する係数)を乗じた値である。
(1)降伏耐力(Py)
(2)塑性率(μ)に基づいて補正された終局耐力(Pu)の値(以下、「終局耐力(補正値)(Pu')」という。)
(3)最大耐力(Pmax)の2/3の値
(4)せん断変形角=1/120radの時の耐力(無載荷式又は載荷式の場合)
【0007】
他方、木構造耐力壁の耐力面材として好適に使用可能な石膏系面材として、「構造用石膏ボード」が知られている。「構造用石膏ボード」は、特許第5642948号掲載公報(特許文献3)に記載された本出願人の技術に基づき、「強化石膏ボード」のくぎ側面抵抗を強化した石膏ボードである。くぎ側面抵抗は、JIS A 6901に定められた測定方法によって測定された面材の釘打部分のせん断耐力又はせん断強度である。
図6は、くぎ側面抵抗試験の概要を説明するための斜視図である。くぎ側面抵抗を求めるくぎ側面抵抗試験は、JIS A 6901に規定されたとおり、試験対象の面材から採取された150mm×75mmの試験片100を用い、試験片100の長手方向一端部(上端部)の縁103から長手方向に12mm離間した試験片100の中心線上の位置において、直径2.6mmの貫通孔102をドリルで穿孔し、この貫通孔102に鋼鉄製丸棒101(直径2.6mm、長さ約40mm)を挿通し、試験片100の構面(中心面)を概ね鉛直状態に保持するとともに、丸棒101を水平状態に保持し、試験片の長手方向他端部(下端部)を固定し、丸棒101を約6mm/分の速度で上昇させる荷重FVを丸棒101に付与し、丸棒101の上方変位に伴って丸棒101から試験片100の貫通孔102に作用する局所荷重によって試験片100を破断させる試験である。くぎ側面抵抗の値は、試験片100の破断時の強度(荷重)である。なお、くぎ側面抵抗に関する類似の試験は、ASTMにも規定されているが、本願においては、JIS A 6901に規定されたくぎ側面抵抗試験の試験方法によって得られる釘側面抵抗の値を基準に発明を特定するものとする。
【0008】
構造用石膏ボードは、現状では、750N以上(A種)又は500N以上(B種)のくぎ側面抵抗を有する石膏系面材としてJIS A 6901に規定されている。一般に、構造用石膏ボードは、12.5mm以上の厚さと、0.75以上の比重とを必要としており、従って、構造用石膏ボードを固定した木構造耐力壁は、少なくとも約9.4kg/m2の面密度又は面重量(壁面の単位面積当りの耐力面材の質量)を要する。構造用石膏ボードを耐力面材として使用した木構造耐力壁は、(普通)石膏ボード又は強化石膏ボードを耐力面材として使用した木構造耐力壁に比べ、比較的高い壁倍率を発揮する。
【0009】
一般に、構造用石膏ボードの短期基準せん断耐力(P0)は、上記4つの指標のうち降伏耐力(Py)によって特定される。壁倍率は、前述のとおり、短期基準せん断耐力 (P0)に低減係数(α)を乗じ、所定の耐力で除した値であるので、構造用石膏ボードの壁倍率は、降伏耐力(Py)に比例する。
【0010】
構造用石膏ボードは、屋内壁面の施工に限定された耐力面材であり、構造用石膏ボードを木造外壁の屋外壁面に耐力面材として施工することは許容されていない。これに対し、特許第6412431号掲載公報(特許文献2)には、木造外壁の屋外壁面に施工可能な石膏系耐力面材として本出願人が開発した石膏板であって、耐力劣化防止剤としてオルガノポリシロキサン化合物を石膏コア部分に含有せしめた石膏板が開示されている。特許文献2に記載された技術と、面材の釘打部分のせん断耐力又はせん断強度を増大させる特許第5642948号掲載公報(特許文献3)の技術とを組み合わせて開発された石膏板は、製品名「タイガーEXボード」(登録商標、吉野石膏株式会社製品)として既に日本国内において実用化されている。この石膏板(以下、「EXボード」という。)は、厚さ9.5mm、幅910mm、高さ3030mm、重量約26kgの寸法・重量を有する。EXボードは、面内せん断試験において所望の最大荷重(最大耐力(Pmax))を得るために、約1.0の比重を必要としている。従って、EXボードを固定した木構造耐力壁も又、少なくとも約9.4kg/m2の面密度又は面重量を要する。
【0011】
EXボードの短期基準せん断耐力(P0)は、上記4つの指標のうち終局耐力(補正値)(Pu')によって特定される。これは、降伏耐力(Py)の値が増大した結果、終局耐力(補正値)(Pu')の値が、上記4つの指標のうち最も小さい値を示す指標となったことに依るものである。
【0012】
終局耐力(補正値)(Pu')は、具体的には、面内せん断試験によって測定された終局耐力(Pu)及び塑性率(μ)に基づいて下式より求められる値であり、短期基準せん断耐力(P0)は、終局耐力(補正値)(Pu')と、測定値のばらつき係数(β)とに基づいて下式より求められる値である。
Pu'=Pu×0.2×(2μ-1)1/2
P0=β×Pu'
【0013】
従って、終局耐力(Pu)の増大は、耐力壁の壁倍率を増大する上で有益であるが、終局耐力(Pu)は、一般に、面内せん断試験において面材が耐え得る最大荷重(Pmax)の値、即ち、最大耐力を増大すると、これに伴って増大する性質を有する。このため、本発明者等の知見及び技術認識によれば、石膏系耐力面材の短期基準せん断耐力(P0)を増大させる過去の研究開発は、主として、面内せん断試験において測定される最大荷重(Pmax)の値を増大させ、これに伴って終局耐力(Pu)を間接的に増大せしめることを意図したものであり、終局変位(δu)及び塑性率(μ)との関係において終局耐力(Pu)を増大させることを意図したものでなかった。
【0014】
なお、本明細書において、JIS A 6901(せっこうボード製品)に規定されていない石膏系面材については、石膏を主材とした石膏コア部分(芯材部分)が外面又は外層に露出した石膏系面材であるか、石膏コア部分の外面又は外層を石膏ボード用原紙で被覆してなる石膏系面材であるかを問わず、本明細書においては、「石膏板」というものとする。
【0015】
上記EXボードは、木構造耐力壁の壁倍率を求める前述の性能試験において、比較的高い最大荷重に耐える最大耐力を発揮するが、特定のせん断変形角において最大荷重(最大耐力)が得られた後、せん断変形角を僅かに増大した時点で面材のパンチングアウト、縁切れ、割れ等が発生して荷重が急激に低下し又は早期にせん断破壊する傾向がある(例えば、
図4(A)及び
図5に示す比較例)。この結果、上記EXボードにおいては、終局耐力(補正値)(Pu')が著しく低下し、壁倍率が低下するという問題が生じた。このような課題を解消すべく、終局耐力(補正値)(Pu')を増大して壁倍率を向上する対策として、金属板等の補強材又は補剛材を釘打ち部分に配設し、釘打ち部分の破壊又は破断等を防止する面材補強方法が知られている(国際公開公報WO2019/203148A1(特許文献4))。このような補強材又は補剛材を使用した木構造耐力壁によれば、上記性能試験において面材が耐え得る最大荷重の増大に依存することなく、耐力面材の靱性及び変形追随性を向上して前述の終局耐力(補正値)(Pu')を増大し、比較的高い壁倍率を発揮する木構造耐力壁を構築することが可能となると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001-227086号公報
【特許文献2】特許第6412431号掲載公報
【特許文献3】特許第5642948号掲載公報
【特許文献4】国際公開公報WO2019/203148A1
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】木造軸組工法住宅の許容応力度設計[1](2017年版)、第63頁及び第300頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記補強材又は補剛材を用いて終局耐力(補正値)(Pu')を増大させる構成の耐力壁構造(特許文献4)によれば、補強材又は補剛材を耐力面材の表面に付加的に取付ける工程を面材製造プロセスに追加し、或いは、このような工程を木構造耐力壁の施工時に付加的に実施しなければならない。この種の工程は、石膏系面材の製造プロセスを煩雑化し、或いは、建設工事の作業性を悪化させる要因となり得る。
【0019】
これに対し、このような補強材又は補剛材に依存することなく、石膏系面材を耐力面材として使用した木構造耐力壁の壁倍率を向上するには、石膏系面材の比重及び/又は板厚を増大し、石膏系面材の最大耐力を増大する必要があると考えられるが、前述のとおり、上記EXボードはその標準的寸法(幅約910mm、高さ約3030mm)において約26kgの重量を有する。このため、建設作業の作業従事者が手作業で耐力面材を木構造耐力壁の壁下地に固定する作業の実態を考慮すると、EXボードや構造用石膏ボードの比重及び/又は板厚を更に増大させることは、木構造耐力壁の施工性等の観点より実務的に極めて困難である。
【0020】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、補強材又は補剛材を付加的に取付けることなく、石膏系面材の比重及び/又は板厚を増大することもなく、壁倍率を増大することができる木構造耐力壁用の石膏系耐力面材を提供することにある。
【0021】
本発明は又、このような石膏系面材を耐力面材として用いた木構造建築物の耐力壁構造及び耐力壁施工方法を提供することを目的とする。
【0022】
本発明は更に、石膏系面材に付加的に設けられる補強材又は補剛材による補強又は補剛の作用に依存することなく、石膏系面材の比重及び/又は板厚の増大に依存することもなく、壁倍率を増大することができる木構造耐力壁の壁倍率増大方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、上記目的を達成すべく、木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に対して留め具によって留付けられる木構造耐力壁用の石膏系耐力面材において、
該耐力面材は、500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、該主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから構成され、
壁面の単位面積当りの質量として特定される面密度又は面重量として、6.5~8.9kg/m2の範囲内の面密度又は面重量を有し、
壁の長さ1.82mの耐力壁試験体を用いた面内せん断試験によって測定される耐力壁の終局変位(δu2)として、20×10-3 radよりも大きい値の終局変位(δu2)を耐力壁に生じさせるとともに、
前記面内せん断試験によって測定される耐力壁の終局耐力(Pu)及び塑性率(μ)に基づいて求められる終局耐力(Pu)の補正値(Pu')として、7.6kNよりも大きい値の前記補正値(Pu')を耐力壁に生じさせることを特徴とする石膏系耐力面材(請求項13)を提供する。
【0024】
本発明の石膏系耐力面材によれば、無機質繊維及び有機系強度向上材を混入して石膏系耐力面材としての最低限度の物性(くぎ側面抵抗:500N以上)を確保する一方、面材の面密度はむしろ低減され、比較的低い値(6.5~8.9kg/m2)に設定される。なお、以下の本明細書の記載において、「最低限度の物性」は、500N以上のくぎ側面抵抗を意味するものとする。
【0025】
上記面密度の値(6.5~8.9kg/m2)は、構造用石膏ボード及びEXボードの面密度(約9.4kg/m2)よりも小さく、従って、短期基準せん断耐力 (P0)を増大する従来の手法(即ち、比重及び/又は板厚の増大によって最大耐力(最大荷重(Pmax))を増大し、これにより、短期基準せん断耐力(P0)を増大する従来の手法)とは相反する条件であり、これは、壁倍率の増大に関する従来の概念の下では、壁倍率の低下をもたらす構成であると想定された。しかしながら、石膏系耐力面材としての最低限度の物性(くぎ側面抵抗:500N以上)を確保しつつ面密度を低下させると、石膏系耐力面材が潜在的に保有する靱性及び変形追随性が顕在化する結果、終局変位(δu)及び塑性率(μ)が増大し、これにより、終局耐力(補正値)(Pu') が増大するので、必ずしも最大耐力(最大荷重(Pmax))を増大させることなく、短期基準せん断耐力(P0)を増大し得ることが本発明者等の実験により判明した。前述のとおり、短期基準せん断耐力(P0)の値は、壁倍率の値と比例するので、短期基準せん断耐力(P0)の増大をもたらす終局変位(δu)及び塑性率(μ)の増大は、壁倍率を増大させる上で有効な要因である。かくして、本発明の石膏系耐力面材によれば、石膏系耐力面材としての最低限度の物性を確保しつつ、石膏系面材の靱性及び変形追随性を向上して終局耐力(補正値)(Pu')を増大することにより、補強材又は補剛材を付加的に取付けることなく、石膏系耐力面材の比重及び/又は板厚を増大することもなく、壁倍率を増大することができる。また、上記耐力面材は、構造用石膏ボード及びEXボードと同様、主材又は芯材の少なくとも表裏面が紙部材で被覆されているので、従来の石膏ボード製造ラインで簡易に製造することができる。なお、「表裏面」は、面材の端縁及び側縁(即ち、四周外縁部)の端面又は側面を除く面材の表面及び裏面を意味する。
【0026】
好ましくは、上記石膏系耐力面材の板厚は、12mm未満の値(更に好ましくは、10mm以下(8.5mm以上)の値)、例えば、9.5mm又は9.0mmに設定される。このような板厚の石膏系耐力面材は、12mm以上の板厚を要する構造用石膏ボードに比べ、木構造耐力壁の壁厚低下等を図る上で有利である。所望により、上記石膏硬化体は、980N以下のくぎ側面抵抗を有する。
【0027】
好適には、上記石膏系耐力面材の比重は、0.96以下(0.65以上)、好ましくは、0.9以下の値(更に好ましくは、0.8以下の値)に設定される。このような比重の石膏系耐力面材によれば、1.0以上の比重を有するEXボードに比べ、面材を軽量化することができるので、木構造耐力壁の軽量化を図り、或いは、木構造耐力壁の施工性又はその建設作業の作業性等を改善する上で有利である。
【0028】
本発明の好適な実施形態において、石膏系耐力面材の芯材(石膏コア部分)は、耐力劣化を防止する耐力劣化防止剤としてオルガノポリシロキサン化合物を含有する。このような耐力面材によれば、EXボードと同様、木造外壁の屋外壁面に施工可能な上記耐力面材を提供することができる。
【0029】
本発明は又、上記石膏系耐力面材を木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に対して釘やスクリュービス等の留め具によって留付けた構造を有する木構造耐力壁(請求項1)を提供する。このような木構造耐力壁によれば、石膏系面材の靱性及び変形追随性を向上して短期基準せん断耐力(P0)を増大するとともに、石膏系耐力面材の比重及び/又は板厚を低減し、これにより、耐力壁の自重を軽減し又は壁厚を低減することが可能となる。このような耐力壁構造の面内せん断試験によって得られる終局変位(δu)は、少なくとも20×10-3 radの値より大きく、好適には、22×10-3 rad以上の値であり、このような変位量の靱性及び変形追随性が得られる。なお、「木造の耐力壁及びその倍率 性能試験・評価業務方法書」では、面内せん断試験において1/15 radを超えても荷重が低下せず、終局変位の値が得られない場合には、終局変位(δu)は1/15radに設定される。従って、終局変位(δu)の最大値は、1/15rad(66.7×10-3 rad)である。
【0030】
本発明は更に、上記石膏系耐力面材を木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に対して上記留め具によって留付けることを特徴とする木構造耐力壁の施工方法(請求項5)を提供する。このような耐力壁の施工方法によれば、石膏系面材の靱性及び変形追随性を向上して短期基準せん断耐力(P0)を増大させるとともに、石膏系耐力面材の比重及び/又は板厚を低減し、これにより、耐力壁を軽量化し、耐力壁の施工性等を改善し、或いは、壁厚を低減することが可能となる。この施工方法によって施工される耐力壁構造の面内せん断試験において、耐力壁は、少なくとも20×10-3 radの値よりも大きい値の終局変位(δu)、好適には、22×10-3 rad以上の値の終局変位(δu)を呈し、従って、耐力壁は、このような終局変位(δu)の変位量に相当する靱性及び変形追随性を保有する。
【0031】
他の観点より、本発明は、石膏系耐力面材を木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に対して留め具によって留付けることにより施工される木構造耐力壁の壁倍率増大方法において、
500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、該主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから前記耐力面材を構成し、
壁面の単位面積当りの質量として特定される前記耐力面材の面密度又は面重量を6.5~8.9kg/m2に低減し、
壁の長さ1.82mの試験体を用いた面内せん断試験によって測定される耐力壁の終局変位(δu2)の値として、20×10-3 radよりも大きい値の終局変位(δu2)を確保するとともに、
前記面内せん断試験によって測定される前記耐力壁の終局耐力(Pu) 及び塑性率(μ)に基づいて求められる終局耐力(Pu)の補正値(Pu')として、7.6kNよりも大きい値の前記補正値(Pu')を確保することを特徴とする壁倍率増大方法(請求項9)を提供する。
【0032】
好ましくは、上記石膏系耐力面材の板厚は、12mm未満の値(更に好ましくは、10mm以下(8.5mm以上)の値)、例えば、9.5mm又は9.0mmに設定され、石膏系面材の比重は、0.96以下(0.65以上)の値(更に好ましくは、0.8以下の値)に設定される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の石膏系耐力面材によれば、面密度の低減により石膏系面材の靱性及び変形追随性を向上し、これにより、終局耐力(補正値)(Pu')を増大し、短期基準せん断耐力(P0)を増大することができるので、補強材又は補剛材を付加的に取付けることなく、石膏系面材の比重及び/又は板厚を増大することもなく、壁倍率を増大することができる。しかも、本発明の石膏系耐力面材は、主材又は芯材の少なくとも表裏面が紙部材で被覆されているので、従来の石膏ボード製造ラインで簡易に製造することができる。
【0034】
また、本発明に係る木構造建築物の耐力壁構造によれば、壁倍率を増大するとともに、石膏系耐力面材の比重及び/又は板厚の低減により、耐力壁の自重を軽減し又は壁厚を低減することができる。
【0035】
更に、本発明に係る木構造建築物の耐力壁施工方法によれば、壁倍率を増大するだけではなく、石膏系耐力面材の比重及び/又は板厚の低減により、面材の自重を軽減し、耐力壁の施工性等を改善することができる。
【0036】
また、本発明に係る壁倍率増大方法によれば、石膏系耐力面材としての最低限度の物性(くぎ側面抵抗=500N以上)を確保しつつ、面密度の低減を図ることにより、ある程度の最大耐力(最大荷重)を確保しつつ、石膏系面材の靱性及び変形追随性を向上させ、これにより、終局耐力(補正値)(Pu')を増大することができるので、石膏系面材に付加的に設けられる補強材又は補剛材による補強又は補剛に依存することなく、石膏系面材の比重及び/又は板厚の増大に依存することもなく、壁倍率を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、木構造建築物の耐力壁の構成を概略的に示す正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す耐力壁構造に関する面内せん断試験において使用された耐力壁試験体の構成を示す正面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例及び比較例に係る石膏板の物性及び配合等を示す図表である。
【
図4】
図4は、面内せん断試験によって得られた荷重-変形角曲線を示す線図であり、
図4(A)には、比較例に係る石膏板の面内せん断試験結果が示されており、
図4(B)には、本発明の実施例に係る石膏板の面内せん断試験結果が示されている。
【
図5】
図5は、
図4に示す荷重-変形角曲線に基づいて作成された包絡線を示す線図である。
【
図6】JIS A 6901に規定されたくぎ側面抵抗試験の概要を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る耐力壁の構成について詳細に説明する。
【0039】
図1は、木構造建築物の耐力壁の構成を概略的に示す正面図である。
【0040】
図1に示す耐力壁1は、耐力面材10を鉄筋コンクリート(RC)構造の布基礎F上の木造軸組に固定することによって構築された木造軸組構法の木構造耐力壁である。耐力面材10は、厚さ9.5mm、幅910mm及び高さ約2800~3030mm(例えば、2900mm)の寸法を有し、6.5~8.9kg/m
2の範囲内の面密度(例えば、面密度7.1kg/m
2)を有する。面密度(面重量とも呼ばれる)は、壁面の正面視における壁面の単位面積当りの質量(重量)である。耐力面材10は、所定量の無機質繊維(ガラス繊維)及び有機系強度向上材(澱粉)を混入した平板状石膏コア(石膏芯材)と、石膏コアの両面を被覆する石膏ボード用原紙(紙部材)とから構成される石膏系面材である。
【0041】
耐力壁1は、アンカーボルトBによって布基礎Fの上面に固定された土台2を有する。耐力壁1は、この土台2と、土台2上に所定間隔を隔てて鉛直に配置された柱3、間柱4及び継手間柱4’と、柱3の上端(又は中間部)に支持された水平な横架材(梁、胴差、軒桁、妻桁)5と、上記耐力面材10とから概ね構成される。なお、軸組を構成する土台2、柱3、間柱4、継手間柱4’及び梁5は、通常の木造建築物において採用される部材断面の木材(角材)である。
【0042】
耐力面材10は、土台2、柱3、間柱4、継手間柱4’及び横架材5に対し、釘20によって固定される。釘20は、例えば、めっき鉄丸くぎ(NZくぎ:JIS A 5508)である。本例では、釘20として、例えば、NZ50くぎ(長さ50mm、頭部径約6.6mm、軸部径約2.75mm)が使用される。釘20は、耐力面材10の四周外周帯域において間隔S1を隔てて配置されるとともに、鉛直方向に延びる耐力面材10の中央帯域において間隔S2を隔てて配置される。好ましくは、間隔S1は、50mm~200mmの範囲内の寸法(例えば、75mm)に設定され、間隔S2は、50mm~300mmの範囲内の寸法(例えば、150mm)に設定される。
【0043】
耐力面材10の石膏コア(芯材)は、所定量の無機質繊維及び有機系強度向上材を含有し、500N以上のくぎ側面抵抗を有する。無機質繊維の配合量は、焼石膏100重量部当り0.3~5重量部、好ましくは2~4重量部である。配合される無機質繊維として、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。ガラス繊維を用いる場合には、径が5~25μm、長さが2~25mmのガラス繊維を好適に使用し得る。また、有機系強度向上材の配合量は、焼石膏100重量部当り、0.3~15重量部、好ましくは1~13重量部である。配合される有機系強度向上材として、例えば、澱粉、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル等が挙げられる。なお、澱粉としては、未加工澱粉及び加工澱粉のいずれをも使用することができる。加工澱粉としては、物理的処理、化学的処理又は酵素的処理を施した澱粉が挙げられる。物理的処理を施した澱粉としては、α化澱粉を好適に使用し得る。化学的処理を施した澱粉としては、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化デンプン、アセチル化デンプンを好適に使用し得る。
【0044】
耐力面材10の組成及び構造は、JIS A 6901に規定された「構造用石膏ボード」の組成及び構造と類似する。しかしながら、耐力面材10の面密度は、6.5~8.9kg/m2の範囲内の値(例えば、7.1kg/m2)である。従って、耐力面材10は、前述のとおり9.4kg/m2以上の面密度を要するJIS A 6901の「構造用石膏ボード」とは基本的に相違する。また、JIS A 6901に規定された「強化石膏ボード」が知られているが、「強化石膏ボード」も又、9.4kg/m2以上の面密度を要するので、耐力面材10は、「強化石膏ボード」とも基本的に相違する。また、耐力面材10は、500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した主材又は芯材を有する点において、この他の「石膏ボード」とも相違する。即ち、耐力面材10は、現行のJIS A 6901に規定されたいずれの「石膏ボード」にも該当しない。本明細書においては、この意味において、耐力面材10を「石膏系面材」又は「石膏板」として特定し又は表現するものとする。
【0045】
一般に、石膏系面材(「石膏ボード」を含む)は、汎用の石膏ボード製造装置によって製造される。石膏ボード製造装置は、例えば、国際公開公報WO2019/058936に記載される如く、焼石膏、接着助剤、硬化促進剤、泡(又は泡剤)等の原料と、焼石膏のスラリー化に要する練り水とを混合して石膏スラリーを調製するミキサーを有する。石膏スラリーは、石膏ボード製造装置の搬送ベルト上の石膏ボード原紙(下紙)上に流し延べられ、石膏ボード原紙(上紙)が石膏スラリー上に積層される。かくして形成された帯状且つ3層構造の連続積層体は、石膏ボード製造装置を構成する粗切断装置、強制乾燥装置、裁断装置等の各装置によって加工され、所定寸法の石膏製品、即ち、石膏スラリーの硬化体(即ち、石膏コア)の両面を石膏ボード用原紙で被覆してなる石膏系面材に成形される。石膏系面材の比重は、主として、石膏スラリー中の泡の配合量によって調節される。
【0046】
JIS A 6901に規定された構造用石膏ボード、強化石膏ボード及び(普通)石膏ボードを耐力面材として用いた木構造耐力壁に関し、前述の建設省告示第1100号に規定された木造軸組構造の大壁造の面材耐力壁の壁倍率を例示すると、以下のとおりである。
構造用石膏ボード(A種) 1.7
構造用石膏ボード(B種) 1.2
強化石膏ボード 0.9
(普通)石膏ボード 0.9
【0047】
また、前述の国土交通省告示第1541号に規定された枠組壁工法耐力壁の壁倍率(たて枠相互間隔が50cmを超える耐力壁)を例示すると、以下のとおりである。
構造用石膏ボード(A種) 1.7
構造用石膏ボード(B種) 1.5
強化石膏ボード 1.3
(普通)石膏ボード 1.0
【0048】
このように建設省又は国土交通省の告示に規定された壁倍率の値は、個別に性能試験を行うことなく一般に採用し得る値であるが、新たな材料を用いる場合や、これと異なる壁倍率を採用する場合には、前述の性能試験を実施して壁倍率の値を定める必要がある。
【0049】
前述のとおり、JIS A 6901に規定された前述の構造用石膏ボード及び強化石膏ボードは、面密度9.4kg/m2以上且つ比重0.75以上の物性を要する。これは、面材が耐え得る最大荷重を増大し、木構造耐力壁の高い短期許容せん断耐力(従って、高い壁倍率)を確保する上で重要な条件であると考えられている。殊に、強化石膏ボードよりも高いくぎ側面抵抗を発揮することを条件とした構造用石膏ボードにおいては、このような面密度及び比重は、低減し得ないものと考えられてきた。即ち、面密度9.4kg/m2以上、比重0.75以上の物性を確保することは、前述の面内せん断試験において得られる耐力壁試験体(木構造耐力壁)の壁倍率を更に増大する上では必須の条件であると考えられていた。しかしながら、近年の本発明者等の実験により、無機系繊維や有機系強度向上材を添加することにより構造用石膏ボードに匹敵する物性(くぎ側面抵抗)を与えられた石膏系面材において、面材の板厚を低減し、或いは、泡量を調節して石膏コアの比重を低減し、これにより面密度を低減すると、面材自体が潜在的に保有する靱性又は変形追随性が顕在化し、この結果、面材の終局耐力を有効に利用し且つ面材の塑性率を増大することができ、かくして、木構造耐力壁の短期許容せん断耐力を更に向上し得ることが判明した。本発明者は、このような実験により得られた知見に基づいて本発明を想到するに至ったものである。以下、本発明者等が実施した実験(面内せん断試験)について詳細に説明する。
【0050】
図2は、
図1に示す耐力壁構造に関する面内せん断試験において使用された耐力壁試験体の構成を示す正面図である。
図3~
図5は、面内せん断試験の試験結果を示す線図及び図表である。なお、
図2において、
図1に示す構成要素又は構成部材に相当又は相応する耐力壁試験体の構成要素又は構成部材については、同一の参照符号が付されている。
【0051】
本発明者等は、「木造の耐力壁及びその倍率 性能試験・評価業務方法書」に記載された試験体仕様に従って、
図1に示す耐力壁構造の試験体として、
図2に示す耐力壁構造を有する壁幅1820mm、高さ2730mmの耐力壁試験体(以下、単に「試験体」という。)を製作し、無載苛式試験装置を用いた面内せん断試験を実施した。
【0052】
図2に示す試験体は、断面105×105mmのスギ製材の土台2及び柱3と、柱3によって支持された断面180×105mmのベイマツ製材の横架材5とからなる木造軸組の主要構造部を有する。柱3間の中央部には、断面45×105mmのスギ製材の継手間柱4’が立設され、柱3と継手間柱4’との間には、断面27×105mmのスギ製材の間柱4が立設される。スギ製材又はベイマツ製材の胴つなぎ5’が、柱3と間柱4との間に架設されるとともに、間柱4と継手間柱4’との間に架設される。試験用治具として、引き寄せ金物40が、土台2及び柱3の接合部に配設されるとともに、横架材5及び柱3の接合部に配設される。土台2、柱3、継手間柱4’、間柱4、横架材5及び胴つなぎ5’は、耐力壁構造の軸材を構成しており、これらの部材(軸材)によって矩形状の軸組が形成される。
【0053】
図2に示す試験体において、土台2及び梁3の鉛直離間距離h1、胴つなぎ5’の高さh2、胴つなぎ5’に対する梁3の相対高さh3は夫々、h1=2625mm、h2=1790mm、h3=835mmに設定され、柱3及び継手間柱4’の間隔(柱芯間隔)w1は、w1=910mmに設定され、壁の長さLは、1.82mに設定された。面材10は、胴つなぎ5’によって上下に分割され、下側の面材10aは、幅910mm、高さ1820mmの寸法を有し、上側に配置された面材10bは、幅910mm、高さ865mmの寸法を有する。面材10a、10bのかかり代寸法h4、h5は、30mmに設定された。
【0054】
図2に示す試験体において、面材10a、10bを土台2、柱3、継手間柱4’、横架材5及び胴つなぎ5’に留付けるための釘20は、面材10a、10bの縁部帯域全周に亘って等間隔(間隔S1=75mm)に配列された。面材10a、10bを間柱4に留付けるための釘20は、面材10a、10bの鉛直中央帯域に等間隔(間隔S2=150mm)に配列された。釘20として、NZ50くぎ(長さ50mm、頭部径約6.6mm、軸部径約2.75mm)が使用された。
【0055】
本発明者等は、
図3の図表に示す実施例1~5及び比較例に係る石膏板を供試体として製作し、無載苛式試験装置を用いた面内せん断試験を実施した。実施例1~5の石膏板は、前述のとおり、所定量の無機質繊維(ガラス繊維)及び有機系強度向上材(澱粉)を混入した平板状石膏コア(石膏芯材)と、石膏コアの両面を被覆する石膏ボード用原紙(紙部材)とから構成される石膏系面材である。比較例の面材は、前述のEXボード(板厚9.5mm)に相当する石膏板であり、実施例1~5の石膏板と同等、若しくは、実施例1~5の石膏板よりも少量の無機質繊維(ガラス繊維)及び有機系強度向上材(澱粉)を混入した平板状石膏コア(石膏芯材)と、石膏コアの両面を被覆する石膏ボード用原紙(紙部材)とから構成される石膏系面材である。
図3に示すとおり、実施例1~5の石膏板は、7.3~8.7kg/m
2の範囲内の面密度を有し、比較例の石膏板は、9.8kg/m
2の面密度を有する。
【0056】
面内せん断試験によって得られた実施例1~5の石膏板の終局変位δu2は、26.8×10
-3 rad~36.0×10
-3 radであり、面内せん断試験によって得られた比較例の石膏板の終局変位δu1は、20.0×10
-3 radであった。
図3に示すとおり、実施例1~5及び比較例の石膏板においては、降伏耐力Pyは、終局耐力(補正値)Pu'よりも大きい値を示したので、短期基準せん断耐力P
0及び壁倍率は、終局耐力(補正値)Pu'により特定された。実施例1~5の石膏板の場合、比較例の石膏板に比べ、終局耐力(補正値)Pu'の数値が大きく、しかも、降伏耐力Pyと終局耐力(補正値)Pu'との数値差が2.0kN未満(1.6以下)であり、降伏耐力Pyと終局耐力(補正値)Pu'との差が比較的小さく表れる傾向も観られた。即ち、
図3に示された試験結果を参照する限り、比較例及び実施例1~5のいずれにおいても、終局耐力(補正値)Pu'が降伏耐力Pyよりも相対的に小さいが、実施例1~5においては、降伏耐力Pyと終局耐力(補正値)Pu'との差が縮小し、両者が数値的に平準化する傾向が認められる。面内せん断試験によって得られた実施例1~5の各石膏板の耐力(荷重)及び変位(せん断変形角)は、実質的に同じ傾向又は特性を有するので、概ね中間的な終局変位(33.1×10
-3 rad)を示した実施例1の石膏板の試験結果に基づいて本発明の石膏板の特性を以下に説明する。
【0057】
図4は、面内せん断試験によって得られた荷重-変形角曲線を示す線図である。
図4(A)には、比較例に係る石膏板の面内せん断試験結果が示されており、
図4(B)には、実施例1の石膏板の面内せん断試験結果が示されている。
図5は、
図4に示す荷重-変形角曲線に基づいて作成された包絡線を示す線図である。なお、包絡線は、最終破壊させた側の荷重-変形角曲線に基づく荷重(耐力)及び変位(せん断変形角)の特性線である。
【0058】
図4(A)に示す如く、比較例の石膏板は、変形角=約20×10
-3 radにおいて最大荷重(最大耐力)Pmaxに達したが、その直後に作用する後続の水平加力によって実質的に破壊し、この結果、石膏系面材の荷重(耐力)は、0.8Pmax未満の値に直ちに降下した。
図4(A)には、最大荷重Pmaxの荷重レベルが一点鎖線で示され、0.8Pmaxの荷重低下域の荷重レベルが二点鎖線で示されている。
図4(A)には、最大荷重Pmax直後の繰り返し加力時の荷重-変形角曲線が、二点鎖線で示す0.8Pmaxの荷重レベルの下側に示されている。この曲線は、0.8Pmax荷重レベルとの荷重差ΔPによって特定される。
【0059】
図4(A)及び
図5に示す如く、比較例の石膏板の場合、最大荷重Pmaxの載荷時の変形角=約20×10
-3 radにおいて一挙に破壊するので、終局変位δu1は、最大荷重Pmax時の変形角と実質的に一致する。このため、石膏板の靱性又は変形追随性に依存して石膏板の短期許容せん断耐力を増大させることはできず、石膏板の短期許容せん断耐力を増大させるには、面密度を増大させて最大荷重を増大させる必要があり、これが実質的に唯一の壁倍率増大方法であると認識されていた。しかしながら、
図4(B)及び
図5に示す実施例1の荷重-変形角曲線より明らかなとおり、 石膏系耐力面材としての最低限度の物性(くぎ側面抵抗:500N以上)を確保しつつ、面密度を低下させると、石膏板自体が潜在的に保有する靱性又は変形追随性が顕在化し、この結果、終局耐力Pu及び塑性率μに基づいて短期基準せん断耐力P
0を特定することが可能となる。以下、この点について更に説明する。
【0060】
図4(B)に示す如く、実施例1の石膏板は、変形角=約20×10
-3 radにおいて最大荷重(最大耐力)Pmaxに達した後、その後の繰り返し加力により、0.8Pmax荷重低下域の変形角、即ち、終局変位δu2が、終局変位δu2=33.1×10
-3 radとして得られた。前述のとおり、実施例1~5の各石膏板の終局変位δu2は、
図3に示されるとおり、26.8×10
-3 rad~36.0×10
-3 radの範囲内の数値であり、実施例2~5においても、実施例1と概ね同等の終局変位δu2が得られた。即ち、実施例1~5の石膏板は、変形角=約20×10
-3 radにおいて最大荷重(最大耐力)Pmaxに達した後、最大荷重Pmax時の変形角の概ね1.3~1.8倍の変形角が生じるまで、その後の繰り返し加力によって塑性変形を持続し、従って、塑性率μは、比較的大きく増大した。
【0061】
本書の冒頭において説明したとおり、壁倍率は、短期許容せん断耐力Paを所定の耐力基準値(L×1.96)で除した値であり、短期許容せん断耐力Paは、
図5に示す数式より理解し得るとおり、短期基準せん断耐力P
0に所定の低減係数αを乗じた値である。過去の多くの石膏系面材の面内せん断試験と同じく、各実施例及び比較例の短期基準せん断耐力P
0は、塑性率μに基づく補正によって得られた終局耐力Puの補正値Pu’(即ち、終局耐力(補正値)Pu')に対してばらつき係数βを乗じて求められる値として特定される。従って、短期基準せん断耐力P
0は、
図5の数式より容易に理解し得るとおり、終局耐力Puの値に比例するとともに、塑性率μの増大に伴って増大する。塑性率μは、終局変位δuと比例し、降伏変位δvが概ね同等の値であると仮定すると、短期基準せん断耐力P
0は、終局変位δuの増大に伴って増大する。即ち、終局変位δuを増大することにより、短期基準せん断耐力P
0を増大することができる。なお、説明を簡素化するため、ばらつき係数については、ばらつき係数β=1.0と仮定する。
【0062】
図5の表に示すとおり、実施例1の石膏板によって得られる短期基準せん断耐力P
0は、比較例の石膏板によって得られる短期基準せん断耐力P
0の値よりも著しく大きい。これは、面密度の低下によって終局変位δu2を増大し、これにより、短期基準せん断耐力P
0を増大し、この結果として、壁倍率を増大し得ることを意味する。なお、低減係数αは、人為的に設定される値であり、短期基準せん断耐力P
0に対して低減係数αを乗じることにより、短期許容せん断耐力(Pa)が得られ、これにより、最終的な壁倍率の数値が得られる。例えば、仮に、低減係数=0.75に設定した場合、実施例1の石膏板を使用した木構造耐力壁の壁倍率は、2.25であり、これは、比較例の壁倍率(1.60)の約1.4倍である。この壁倍率の値は、建設省告示第1100号等に規定された構造用石膏ボード等の木構造耐力壁の壁倍率(前述の壁倍率0.9~1.7)よりも著しく大きい値である。
【0063】
以上説明したとおり、上記構成の耐力壁1によれば、耐力面材10は、500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を配合した板状の石膏硬化体からなる主材又は芯材と、主材又は芯材の少なくとも表裏面を被覆する紙部材とから構成されており、壁面の単位面積当りの質量として特定される耐力面材10の面密度又は面重量は、6.5~8.9kg/m2の範囲内の値に設定され、壁の長さ1.82mの耐力壁試験体を用いた面内せん断試験によって得られる耐力壁1の終局変位δu2は、例えば、33.1×10-3 rad(実施例1)であり、20×10-3 rad(比較例)よりも大きく、この面内せん断試験によって得られる終局耐力(補正値)Pu'は、例えば、10.7kN(実施例1)であり、7.6kN(比較例)よりも大きく、ばらつき係数β=1と仮定すると、短期許容せん断耐力Paは、例えば、10.7kN(実施例1)であり、7.6kN(比較例)よりも大きく、壁倍率は、例えば、2.25(実施例1)であり、1.60(比較例)よりも大きい。かくして、耐力面材10を木造軸組工法の木構造壁下地に対して釘20によって留付けた構造を有する耐力壁1によれば、石膏系耐力面材としての最低限度の物性(くぎ側面抵抗=500N以上)を確保しつつ、石膏系面材の靱性及び変形追随性を向上して終局耐力(補正値)Pu'を増大することにより、補強材又は補剛材を付加的に取付けることなく、耐力面材10の比重及び/又は板厚を増大することもなく、短期基準せん断耐力P0を増大し、壁倍率を増大することができる。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能であることはいうまでもない。
【0065】
例えば、上記実施形態及び実施例は、木構造建築物の1階レベルの耐力壁に関するものであるが、本発明は、2階又は3階レベルの耐力壁についても同様に適用し得るものである。2階又は3階レベルの耐力壁の場合、耐力面材の下端部は、2階床又は3階床レベルの横架材等に留付けられる。
【0066】
また、上記実施形態及び実施例は、木造軸組工法且つ大壁造の耐力壁構造に関するものであるが、木造軸組工法の真壁造又は床勝(床先行)・大壁造の耐力壁構造に本発明を適用しても良い。変形例として、木造枠組壁工法の耐力壁構造に本発明を適用しても良く、この場合、耐力面材は、土台、柱及び横架材に換えて、縦枠、下枠、上枠等に留付けられる。
【0067】
更に、
図4に示す試験体は、石膏板を上下に分割し、高さ方向中間位置に胴つなぎを配設した構造のものであるが、木造軸組の全高と実質的に同じ高さ寸法の石膏板を用いて面内せん断試験を実施しても良い。後者の場合には、更に短期基準せん断耐力を増大し得ると考えられる。
【0068】
また、上記実施形態及び実施例では、耐力面材を釘によって柱及び横架材等の木造軸組に留付けているが、スクリュービス等の他の種類の留め具によって耐力面材を木造軸組に留め付けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、木構造建築物の石膏系耐力面材に適用される。殊に、本発明は、500N以上のくぎ側面抵抗を発揮するように無機質繊維及び有機系強度向上材を混入した板状の石膏硬化体を主材又は芯材を有する石膏系耐力面材に適用される。本発明は又、このような石膏系耐力面材を用いた木構造耐力壁の壁倍率増大方法に適用される。本発明は更に、このような石膏系耐面材を木造軸組工法又は木造枠組壁工法の木構造壁下地に留付け、耐力面材を木構造壁下地によって構造的に一体的に保持するように構成された木構造建築物の耐力壁構造及び耐力壁施工方法に適用される。本発明によれば、補強材又は補剛材を付加的に取付けることなく、石膏系面材の比重及び/又は板厚を増大することもなく、木構造耐力壁の壁倍率を増大することができるので、その実用的価値又は効果は、顕著である。
【符号の説明】
【0070】
1 耐力壁
2 土台
3 柱
4 間柱
4’ 継手間柱
5 横架材(梁、胴差、軒桁、妻桁)
5’ 胴つなぎ
10、10a、10b 石膏系耐力面材
20 釘(留め具)