(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032058
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】電流センサおよび漏電センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20220217BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20220217BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20220217BHJP
【FI】
G01R15/18 Z
G01R31/52
G01R31/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135502
(22)【出願日】2020-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和男
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】鄭 希元
【テーマコード(参考)】
2G014
2G025
【Fターム(参考)】
2G014AA16
2G014AB31
2G025AA13
2G025AB14
2G025AC01
(57)【要約】
【課題】磁性体コアに励磁巻線のみを巻回した、簡素化された構成であり、
かつ高感度の磁気平衡型の電流センサ等を提供する。
【解決手段】電流センサ1Aは、カレントトランス10A、ドライブ回路20A、I/V変換回路30A、コンパレータ40A、ヒステリシスコンパレータ50A、ローパスフィルタ60Aを備えている。カレントトランス10Aは、磁性体コアMと励磁巻線L1とを有し、被測定電流I1,I2が流れる電線L2,L3が貫通している。ドライブ回路20Aは、励磁巻線L1に励磁電圧を印加する。I/V変換回路30Aは、励磁巻線L1に流れる電流を電圧に変換する。ローパスフィルタ60Aの出力は、コンパレータ40Aの閾値およびヒステリシスコンパレータ50Aに閾値中心値となる。ドライブ回路20Aは、ヒステリシスコンパレータ50Aの出力矩形波を入力して励磁巻線L1に励磁電圧を印加する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉磁路を形成する磁性体コアと該磁性体コアに巻回された励磁巻線とを有し、被測定電流が流れる電線が該閉磁路を貫通しているカレントトランスと、
前記励磁巻線の第1端に励磁電圧を印加する駆動回路と、
前記励磁巻線の第2端に接続されて該励磁巻線に流れる電流を電圧に変換する電流・電圧変換回路と、
前記電流・電圧変換回路の出力を第1の矩形波に変換する第1の波形変換回路と、
前記電流・電圧変換回路の出力をヒステリシスをもって第2の矩形波に変換する第2の波形変換回路と、
前記第1の矩形波に基づいて、該第1の波形変換回路の閾値および前記第2の波形変換回路の閾値中心値の双方として参照される参照値を生成する参照値生成回路とを備え、
前記駆動回路が、前記第2の矩形波に由来する前記励磁電圧を生成することを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記第1の矩形波の繰返し周波数を測定する周波数測定回路と、
前記周波数測定回路で測定された繰返し周波数に基づいて、該繰返し周波数が高い場合に互いの間の幅を広げた、前記第2の波形変換回路で参照される閾値上限値および閾値下限値を生成する閾値生成回路とを備えたことを特徴等とする請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記第1の矩形波のデューティ比を測定するデューティ比測定回路を備え、
前記参照値生成回路が、前記デューティ比測定回路で測定されたデューティ比に応じた参照値を生成することを特徴とする請求項1または2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記参照値生成回路で生成された参照値に応じた、前記被測定電流の電流値を出力する第1の出力回路を備えたことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の電流センサ。
【請求項5】
前記電流・電圧変換回路の出力波形の変曲点の電圧を測定する変曲点測定回路を備えたことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の電流センサ。
【請求項6】
前記変曲点測定回路が、前記電流・電圧変換回路の出力波形の、電圧上昇時の変曲点の第1の電圧と電圧下降時の変曲点の第2の電圧との双方の電圧を測定して該第1の電圧と該第2の電圧との平均電圧を該出力波形の変曲点の電圧とすることを特徴とする請求項5に記載の電流センサ。
【請求項7】
前記変曲点測定回路で得られた前記変曲点の電圧に応じた、前記被測定電流の電流値を出力する第2の出力回路を備えたことを特徴とする請求項5または6に記載の電流センサ。
【請求項8】
閉磁路を形成する磁性体コアと該磁性体コアに巻回された励磁巻線とを有し、各々に電流が流れ合計の電流値が漏電電流の電流値を表す複数の電線が該閉磁路を貫通しているカレントトランスと、
前記励磁巻線の第1端に励磁電圧を印加する駆動回路と、
前記励磁巻線の第2端に接続されて該励磁巻線に流れる電流を電圧に変換する電流・電圧変換回路と、
前記電流・電圧変換回路の出力を第1の矩形波に変換する第1の波形変換回路と、
前記電流・電圧変換回路の出力をヒステリシスをもって第2の矩形波に変換する第2の波形変換回路と、
前記第1の矩形波に基づいて、該第1の波形変換回路の閾値および前記第1の波形変換回路の閾値中心値の双方として参照される参照値を生成する参照値生成回路とを備え、
前記駆動回路が前記第2の矩形波に由来する前記励磁電圧を生成するものであって、さらに、
前記第1の矩形波の繰返し周波数を測定する周波数測定回路と、
前記周波数測定回路で測定された繰返し周波数が所定のトリップ周波数を超えているか否かを判定する判定回路とを備えたことを特徴とする漏電センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体コアの磁束密度がゼロに近い条件で被測定電流を検出する磁気平衡型の電流センサおよびその電流センサを用いた漏電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、磁気平衡型の電流センサが知られている(例えば、特許文献1~6参照)。
【0003】
これらの特許文献1~6のうちの特許文献1には、磁気コアに循環コイルと検出コイルとの2つのコイルを巻回した構成の電流センサが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、閉磁路の一部に間隙部を設けてその間隙部に強磁性体コアを挿着し、閉磁路に帰還コイルを巻回するとともに、強磁性体コアに励磁コイルと受信コイルを巻回した構成の電流センサが開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、磁気コアに帰還コイルを巻回し、さらにその磁気コアに一部の切欠きにホール素子を配置した構成の電流センサが開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、特許文献3と同様、磁気コアにコイルを巻回し、さらにその磁気コアに一部にホール素子を配置した構成の電流センサが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献5には、磁性体コアに励磁巻線と検出巻線との2つのコイルを巻回した構成、および、磁性体コアに励磁巻線を巻回するとともにホール素子等の磁気センサを配置した構成が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、図面上は、磁気回路に励磁コイルが1つだけ巻回された構成が示されている。ただし、磁気回路に励磁コイルのみを巻回した構成の場合測定可能な電流範囲が強く制限されることから、励磁をキャンセルする構成を備えることが文言で記載されている。これを実現しようとすると、励磁キャンセル用のコイルを追加する必要があり、結局、2つのコイルを必要とすることになる。
【0009】
これら従来の磁気平衡型の電流センサは、上記の通り、被検出電流が流れる電線が挿通される磁気コア、および当該磁気コアに複数のコイルを巻回した構成、あるいはコイルを巻回するとともにホール素子等の磁気センサを配置した構成を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2-291973号公報
【特許文献2】特開11-281678号公報
【特許文献3】特開2005-55300号公報
【特許文献4】特開2015-34758号公報
【特許文献5】特許第5449222号公報
【特許文献6】特許第5606521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の磁気平衡型の電流センサは、磁気コアに加え、励磁コイルや帰還コイルといった複数のコイル、あるいは励磁コイルと磁気センサといった多数の要素を必要とする。このため、回路構成が複雑となったり、電流センサが大型化してしまうなどの欠点がある。
【0012】
本発明は、簡素化された構成でありつつ高感度な磁気平衡型の電流センサおよびその電流センサを用いた漏電センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電流センサは、
閉磁路を形成する磁性体コアと磁性体コアに巻回された励磁巻線とを有し、被測定電流が流れる電線が閉磁路を貫通しているカレントトランスと、
励磁巻線の第1端に励磁電圧を印加する駆動回路と、
励磁巻線の第2端に接続されて励磁巻線に流れる電流を電圧に変換する電流・電圧変換回路と、
電流・電圧変換回路の出力を第1の矩形波に変換する第1の波形変換回路と、
電流・電圧変換回路の出力をヒステリシスをもって第2の矩形波に変換する第2の波形変換回路と、
第1の矩形波に基づいて、第1の波形変換回路の閾値および第2の波形変換回路の閾値中心値の双方として参照される参照値を生成する参照値生成回路とを備え、
上記駆動回路が、第2の矩形波に由来する励磁電圧を生成することを特徴とする。
【0014】
本発明の電流センサは、上記の構成により自励発振を実現している。これにより、簡素化された構成でありつつ高感度な磁気平衡型の電流センサが実現する。
【0015】
ここで、本発明の電流センサにおいて、
第1の矩形波の繰返し周波数を測定する周波数測定回路と、
周波数測定回路で測定された繰返し周波数に基づいて、繰返し周波数が高い場合に互いの間の幅を広げた、第2の波形変換回路で参照される閾値上限値および閾値下限値を生成する閾値生成回路とを備えることが好ましい。
【0016】
このように、繰返し周波数が高い場合に閾値上限値と閾値下限値との間隔を広げると、被測定電流が比較的大電流の場合に正確な電流値測定が可能となるまでの時間が短縮される。
【0017】
また、本発明の電流センサにおいて、
第1の矩形波のデューティ比を測定するデューティ比測定回路を備え、
参照値生成回路が、デューティ比測定回路で測定されたデューティ比に応じた参照値を生成することが好ましい。
【0018】
このデューティ比測定回路を備えると、上記の第2の矩形波が生成されないほどに被測定電流が大きい場合であっても、第2の矩形波が得られるように参照値を調整することができる。
【0019】
さらに、本発明の電流センサにおいて、参照値生成回路で生成された参照値に応じた、被測定電流の電流値を出力する第1の出力回路を備えることが好ましい。
【0020】
本発明の電流センサの場合、磁気的な平衡状態に収束したときの参照値が被測定電流の電流値に相当する。
【0021】
さらに、本発明の電流センサにおいて、電流・電圧変換回路の出力波形の変曲点の電圧を測定する変曲点測定回路を備えることが好ましい。
【0022】
上記の電流・電圧変換回路の出力波形の変曲点の電圧は、被測定電流の電流値を表している。したがって、この変曲点測定回路を備えると、磁気的な平衡状態に収束よりも前の、その平衡状態に近づいた時点で、上記の出力波形の変曲点の電圧を測定することで、より高速な測定が可能となる。
【0023】
ここで、変曲点測定回路が、電流・電圧変換回路の出力波形の、電圧上昇時の変曲点の第1の電圧と電圧下降時の変曲点の第2の電圧との双方の電圧を測定して第1の電圧と第2の電圧との平均電圧を上記出力波形の変曲点の電圧とすることが好ましい。
【0024】
磁性体コアの磁化に起因して第1の電圧と第2の電圧とが一致しない。そこで、上記の平均電圧を出力波形の変曲点の電圧とすることで、一層高精度な電流測定が可能となる。
【0025】
ここで、変曲点測定回路を備えた場合に、その変曲点測定回路で得られた変曲点の電圧に応じた、被測定電流の電流値を出力する第2の出力回路を備えることが好ましい。
【0026】
変曲点測定回路を備えた場合、電流・電圧変換回路で得られた出力波形の変曲点の電圧は、被測定電流の電流値に相当する。したがって、第2の出力回路を備えると、上記の第1の出力回路を備えるよりも被測定電流の電流値を早いタイミングで出力することができる。
【0027】
また、上記目的を達成する本発明の漏電センサは、
閉磁路を形成する磁性体コアと磁性体コアに巻回された励磁巻線とを有し、各々に電流が流れ合計の電流値が漏電電流の電流値を表す複数の電線が該閉磁路を貫通しているカレントトランスと、
励磁巻線の第1端に励磁電圧を印加する駆動回路と、
励磁巻線の第2端に接続されて該励磁巻線に流れる電流を電圧に変換する電流・電圧変換回路と、
電流・電圧変換回路の出力を第1の矩形波に変換する第1の波形変換回路と、
電流・電圧変換回路の出力をヒステリシスをもって第2の矩形波に変換する第2の波形変換回路と、
第1の矩形波に基づいて、第1の波形変換回路の閾値および第2の波形変換回路の閾値中心値の双方として参照される参照値を生成する参照値生成回路とを備え、
駆動回路が第2の矩形波に基づく前記励磁電圧を生成するものであって、さらに、
第1の矩形波の繰返し周波数を測定する周波数測定回路と、
周波数測定回路で測定された繰返し周波数が所定のトリップ周波数を超えているか否かを判定する判定回路とを備えたことを特徴とする。
【0028】
被検出電流の検出開始時には、漏電電流の電流値が大きいほど高い繰返し周波数が観察される。そこで、繰返し周波数が所定のトリップ周波数を超えていること判定することで漏電が発生していることを素早く知ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、簡素化された構成でありつつ高感度な磁気平衡型の電流センサおよびその電流センサを用いた漏電センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
【
図2】差分電流ΔIがゼロのときの各点A~Eの波形を示した図である。
【
図3】
図2に示した差分電流ΔIがゼロの状態から、ΔI=-1A(アンペア)に変化した直後の各点A~Eの波形を示した図である。
【
図4】ΔI=-1A(アンペア)に変化し、さらに時間が十分に経過した後の各点A~Eの波形を示した図である。
【
図5】
図2に示した差分電流ΔIがゼロの状態から、ΔI=-2A(アンペア)という、
図3の場合よりも大きく変化した直後の各点A~Eの波形を示した図である。
【
図6】ΔI=-2A(アンペア)に変化し、さらに時間が十分に経過した後の各点A~Eの波形を示した図である。
【
図7】本発明の第2実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
【
図8】
図7に示し第2実施形態の電流センサ1Bにおいて、狭い閾値幅ΔTh1に固定したときの各点の波形を示した図である。
【
図9】
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bにおいて、広い閾値幅ΔTh2に固定したときの各点の波形を示した図である。
【
図10】
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bの動作シーケンスを表すフローチャートを示した図である。
【
図11】本発明の第3実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
【
図12】閾値生成回路に記憶されている閾値一覧を示した図である。
【
図13】
図12に示した第3実施形態の電流センサ1Cの動作シーケンスを表すフローチャートを示した図である。
【
図15】測定開始時における、
図11に示す各点A~Fの波形を示した図である。
【
図16】閾値幅を100Vに広げた後の各点A~Fの波形を示した図である。
【
図17】閾値中心値を変曲点の電圧と一致させたときの各点A~Fの波形を示した図である。
【
図18】閾値幅を10Vに狭めて変曲点の電圧を何回か繰り返した後の最終状態の波形を示している。
【
図20】本発明の第4実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0032】
図1は、本発明の第1実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
この電流センサ1Aには、カレントトランス10Aが備えられている。このカレントトランス10Aは、閉磁路を形成する磁性体コアMと、その磁性体コアMに巻回された励磁巻線L1とを有する。そして、この磁性体コアMには、本実施形態では2本の電線L2,L3が貫通している。これら2本の電線L2,L3のうちの1本の電線L2には、電流I1が流れている。また、もう1本の電線L3には、電流I2が流れている。これら双方の電流I1,I2の流れる向きは、互いに逆向きである。この電流センサ1Aは、2本の電線L2,L3を流れる合計の電流値を検知する。ただし、2本の電線L2,L3を流れる電流I1,I2の流れる向きは互いに逆向きである。そこで、電流I1,I2は電流の向きによる+、-の符号を含むものとし、ここでは、それらの差分電流
ΔI=I1+I2=|I1|―|I2|
が測定される。
【0033】
ここで、この第1実施形態は漏電検出の要素を備えていない。ただし、後述するように、本発明の電流センサは漏電センサに応用し、あるいは漏電検知を併用した電流センサとすることができる。そこで、ここでは、この同じ構成のカレントトランス10Aを漏電センサの説明にもそのまま採用することができるように、差分電流ΔIを測定する構成としている。
【0034】
2本の電線L2,L3には、それぞれ往路の電流I1と復路の電流I2が流れている。したがって、漏電がないときは、|I1|=|I2|であって、差分電流ΔI=ゼロである。漏電が生じると、|I1|≠|I2|となり、差分電流ΔIがゼロではなくなる。この電流センサ1Aは、この差分電流ΔIを検知するセンサである。
【0035】
また、この電流センサ1Aには、ドライブ回路20A、I/V変換回路30A、コンパレータ40A、ヒステリシスコンパレータ50A、ローパスフィルタ60A、およびAD変換回路70Aとが備えられている。
【0036】
ドライブ回路20Aは、励磁巻線L1の第1端に励磁電圧を印加する。ここでは、この励磁電圧は矩形波であり、以下、励磁矩形波と表現する。このドライブ回路20Aは、本発明にいう駆動回路の一例に相当する。
【0037】
また、I/V変換回路30Aは、励磁巻線L1の第2端に接続されて励磁巻線L1に流れる電流を電圧に変換する。このI/V変換回路30Aは、本発明にいう電流・電圧変換回路の一例に相当する。
【0038】
また、コンパレータ40Aは、I/V変換回路30Aの出力を矩形波に変換する。このコンパレータ40Aは、本発明にいう第1の波形変換回路の一例に相当する。また、このコンパレータ40Aから出力される矩形波は、本発明にいう第1の矩形波の一例に相当する。
【0039】
さらに、ヒステリシスコンパレータ50Aは、I/V変換回路30Aの出力をヒステリシスをもって矩形波に変換する。このヒステリシスコンパレータ40Aは、本発明にいう第2の波形変換回路の一例に相当する。また、このヒステリシスコンパレータ50Aから出力される矩形波は、本発明にいう第2の矩形波の一例に相当する。
【0040】
また、ローパスフィルタ60Aは、コンパレータ40Aから出力される第1の矩形波を、その第1の矩形波の繰返し周波数成分がほぼ消失する程度に平滑化する。ただし、このローパスフィルタ60Aの出力は、第1の矩形波のデューティ比が変化すると、その矩形波の繰返し周期と比べ十分に長い時間をかけて変化する。このローパスフィルタ60Aの出力は、コンパレータ40Aおよびヒステリシスコンパレータ50Aに入力される。そして、コンパレータ40Aでは、ローパスフィルタ60Aの出力は、I/V変換回路30Aの出力を矩形波に変換する際の閾値となる。また、ヒステリシスコンパレータ50Aでは、ローパスフィルタ60Aの出力は、I/V変換回路30Aの出力を矩形波に変換する際の閾値中心値となる。
【0041】
ここで、ヒステリシスコンパレータ50Aにおけるヒステリシスの幅、すなわち閾値幅をΔThとする。また、ローパスフィルタ60Aの出力をThとする。このとき、ヒステリシスコンパレータ50Aは、I/V変換回路30Aの出力が上昇しつつあるときは、その出力が閾値上限値(Th+ΔTh/2)まで上昇したタイミングでその出力をHレベルに変化させる。また、ヒステリシスコンパレータ50Aは、I/V変換回路30Aの出力が下降しつつあるときは、その出力が閾値下限値(Th―ΔTh/2)まで下降したタイミングでその出力をLレベルに変化させる。ヒステリシスコンパレータ50Aは、このようにして、第2の矩形波を生成する。
【0042】
上記のドライブ回路20Aには、ヒステリシスコンパレータ50Aの出力である第2の矩形波が入力される。そして、このドライブ回路20Aでは、入力された第2の矩形波のインピーダンスを下げることにより励磁矩形波を生成する。この励磁矩形波は、励磁巻線L1の第1端に印加される。
【0043】
ここで、ローパスフィルタ60Aは、本発明にいう参照値生成回路の一例に相当する。また、ローパスフィルタ60Aの出力Thは、本発明にいう参照値の一例に相当する。
【0044】
本発明の電流センサは、上記の構成により自励発振を実現している。これにより、簡易な構成の磁気平衡型の電流センサが実現する。
【0045】
以下では、
図1の電流センサ1Aの動作説明に先立って、本発明における電流の測定原理について説明する。
【0046】
磁性体コアMを貫通して流れる電流をI、磁性体コアM内を流れる全磁束をΦとしたとき、全磁束Φと電流Iは、インダクタンスLを比例定数として、
Φ=L・I ・・・(1)
Φ:全磁束
I:電流
L:インダクタンス
と表すことができる。
【0047】
ここで、
図1に示すカレントトランス10Aの場合、電流Iは、励磁巻線Lを流れる電流をIL1、励磁巻線L1の巻き数をNとしたとき、
I=IL1・N
である。ただし、ここでは、電流I2=I3=0としている。
【0048】
ここで、磁束Φが変化すると起電力Vが生じる。すなわち、
V=-dΦ/dt・・・(2)
が成立する。
【0049】
ここで、(1)式を時間微分すると、
dΦ/dt=L・dI/dt・・・(3)
(2)式と(3)式とから、
dI/dt=(1/L)・(dΦ/dt)
=-(1/L)・V ・・・(4)
(4)式を時間について積分して電流Iを求めると、
I=-(1/L)・∫Vdt ・・・(5)
電圧Vを一定とすると、
I=-(V/L)・t ・・・(6)
となる。
【0050】
ここで、矩形波電圧Vで駆動する。その場合、インダクタンスLが一定と仮定すると、(6)式から、電流Iの波形は三角波となる。
【0051】
一方、磁性体コアMの磁束密度をB、磁束をH、透磁率をμとしたとき、
B=μ・H・・・(7)
である。したがって、
μ=B/H・・・(8)
となる。この(8)式から、透磁率μはB-H曲線の傾きであることが分かる。
【0052】
また、インダクタンスLは、
L=μ・(N・N・S/d)・・・(9)
ただし、N、S、dは、励磁巻線L1の、それぞれ巻き数、断面積、長さである。すなわち、これらN、S、dは、励磁巻線L1の形状で決まる定数である。
【0053】
したがって、(9)式から、インダクタンスLと透磁率μが比例することが分かる。
【0054】
ここで、(8)式から分かるように、透磁率μはB-H曲線の傾きである。後述するように、このB-H曲線は、電線L2、L3を流れる電流I1、I2によって大きく変化し、これに伴って透磁率μも大きく変化する。したがって、(9)式から分かるように、インダクタンスLも大きく変化する。さらに、(6)式を参照すると、インダクタンスLが大きく変化すると、電流Iが大きく変化する。この電流Iの変化は、
図1に示した電流センサ1Aのヒステリシスコンパレータ50Aの出力である第2の矩形波では、繰返し周波数の変化として現れる。なぜなら、電流Iが大きいと、ヒステリシスコンパレータ50Aの閾値下限値と閾値上限値との間を高速で通り過ぎることとなるからである。ヒステリシスコンパレータ50Aでは、閾値下限値あるいは閾値上限値に達するごとにHレベルとLレベルとを反転させる。したがって、電流Iが大きいと、繰返し周波数の高い第2の矩形波が生成される。このように、電流Iが大きいと繰返し周波数の高い第2の矩形波および励磁矩形波が得られ、励磁巻線L1を流れる電流IL1の繰返し周波数が上昇し、コンパレータ40Aの出力である第1の矩形波の周波数も上昇する。
【0055】
本発明は、この原理を適用して電流センサおよび漏電センサを構成したものである。
【0056】
以下に説明する
図2~
図6に付した符号A~Eは、
図1の、対応する符号A~Eを付した各点の電圧波形もしくは電流波形である。
【0057】
図2は、差分電流ΔIがゼロのときの各点A~Eの波形を示した図である。
【0058】
ここで、
図2(A)は、磁性体コアMに巻回された励磁巻線L1を流れる電流IL1の波形を表わしている。
【0059】
また、
図2(B)は、ドライブ回路20Aから出力されて励磁巻線L1の第1端に印加される励磁矩形波の電圧(A)を表している。この電圧(A)の波形は、ヒステリシスコンパレータ50Aから出力される第2の矩形波の波形とも一致している。また、
図2(B)には、I/V変換回路30Aのマイナス入力端子の仮想接地電圧(D)も示されている。
【0060】
また、
図2(C)には、I/V変換回路30Aの出力電圧(B)、コンパレータ40Aの出力電圧(E)、および、ローパスフィルタ60Aの出力電圧(C)が示されている。
【0061】
さらに、
図2(D)は、磁性体コアMのB-H曲線を示している。
【0062】
なお、ここでは、
図2を取り上げて説明しているが、A~Eの符号の付し方は、
図2~
図6について共通である。
【0063】
この
図2は、差分電流ΔIがゼロのときの各点A~Eの波形を示した図であり、これが初期状態である。
図2(D)に示すB-H曲線は、磁界H=0.00[A/m]を中心に回転対称の曲線となっている。
【0064】
図3は、
図2に示した差分電流ΔIがゼロの状態から、ΔI=-1A(アンペア)に変化した直後の各点A~Eの波形を示した図である。
【0065】
図3(D)のB-H曲線を参照すると、
図2(D)のB-H曲線と比べ、磁界Hがマイナス側に大きくシフトし、かつ、傾きがかなり小さくなっていることが分かる。傾きが小さくなっと小さくなったということは、(8)式から透磁率μが小さな値に変化したことを意味している。このことは、(9)式からインダクタンスLが小さな値に変化したこと、さらに、(6)式から、電流Iが増大したことを意味している。上述した通り、この電流Iの増大は繰返し周波数の高周波化を引き起こす。
図2と比べ、
図3の方が高周波化している。
【0066】
また、この
図3に示されているのは、ΔI=-1A(アンペア)に変化した直後の各点A~Eの波形である。このため、ローパスフィルタ60Aの出力には未だその変化が反映されておらず、
図2の場合と同様、電圧(C)=0Vのままである。
【0067】
一方、B-H曲線の変化を受けて、励磁巻線L1を流れる電流が変化し、I/V変換回路30Aの出力電圧(B)に示すように、平均値がゼロVから偏倚し、DC成分を持った波形となっている。このため、コンパレータ40Aの出力矩形波は、電圧(E)で示すように、デューティ比が50%ではなくなっている。この状態のまま時間が十分に経過すると、このデューティ比が50%から外れていることがローパスフィルタ60Aの出力に反映される。
【0068】
図4は、ΔI=-1A(アンペア)に変化し、さらに時間が十分に経過した後の各点A~Eの波形を示した図である。
【0069】
ここでは、上記の、デューティ比が50%から外れていることがローパスフィルタ60Aの出力に反映されて、電圧(C)が-2Vに変化している。そして、電圧(C)が変化したことによって、電圧(E)は、デューティ比50%の矩形波に戻っている。また、電圧(A)、電圧(E)とも、繰返し周波数が、
図2と同様の周波数にまで低下している。さらに、B-H曲線も、磁界H=0.00を中心とした、
図1のB-H曲線と同じ形状に戻っている。この状態となったときのローパスフィルタ60Aの出力電圧(C)がAD変換回路70Aを経由し、差分電流ΔI=-1A(アンペア)という電流測定値として出力される。
【0070】
図5は、
図2に示した差分電流ΔIがゼロの状態から、ΔI=-2A(アンペア)という、
図3の場合よりも大きく変化した直後の各点A~Eの波形を示した図である。
【0071】
この
図5を
図3と比べると、B-H曲線がマイナス側にさらに大きくシフトし、その傾きがさらに小さくなっている。そして、繰返し周波数がさらに高周波化している。
【0072】
図6は、ΔI=-2A(アンペア)に変化し、さらに時間が十分に経過した後の各点A~Eの波形を示した図である。
【0073】
ここでも、繰返し周波数が
図2と同様の周波数にまで低下している。さらに、B-H曲線も、磁界H=0.00を中心とした、
図1のB-H曲線と同じ形状に戻っている。ただし、ここでは、ローパスフィルタ60Aの出力電圧(C)は-4Vである。この電圧(C)がAD変換回路70Aを経由して、差分電流ΔI=-2A(アンペア)という電流測定値として出力される。
【0074】
ここでは、ΔI=-1A(アンペア)およびΔI=-2A(アンペア)という、
図1に示した電流センサ1Aで測定可能な範囲の差分電流ΔIの場合について説明した。差分電流ΔIがさらに大きくなり、例えばΔI=-4A(アンペア)となると、B-H曲線の傾きがさらに小さくなり過ぎて、
図3に示した状態から
図4に示した状態、あるいは
図5に示した状態から
図6に示した状態に引き戻すことができなくなる。すなわち、
図1の電流センサ1Aの場合、この程度の差分電流ΔIが測定限界である。ここで、
図1には明示的には示されていない回路定数を変更すると測定限界を調整することも可能である。ただし、その場合は、測定精度の低下を引き起こすことになる。
【0075】
なお、ここでは、ΔI=-1A(アンペア)およびΔI=-2A(アンペア)という、マイナス側の差分電流ΔIの場合について例示したが、プラス側の差分電流ΔIの場合も同様である。プラス側の差分電流ΔIの場合は、時間が十分経過した後の電圧(C)がプラスの値を示し、プラス側に流れる差分電流ΔIであることが分かる。
【0076】
図7は、本発明の第2実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
【0077】
この電流センサ1Bには、カレントトランス10Bが備えられている。このカレントトランス10Bは、
図1に示した第1実施形態の電流センサ1Aに採用されているカレントトランス10Aと同じ構成のものである。
【0078】
また、この電流センサ1Bには、ドライブ回路20B、I/V変換回路30B、コンパレータ40B、ヒステリシスコンパレータ50B、ローパスフィルタ60B、およびAD変換回路70Bが備えられている。
【0079】
これらのうち、ドライブ回路20B、I/V変換回路30B、およびコンパレータ40Bは、
図1に示す第1実施形態の電流センサ1Aの、それぞれ、ドライブ回路20A、I/V変換回路30A、およびコンパレータ40Aに相当する。これらについての重複説明は省略する。
【0080】
また、ヒステリシスコンパレータ50Bは、第1実施形態の電流センサ1Aのヒステリシスコンパレータ50Aに相当する。ただし、その構成は異なっている。この異なっている点については、後述する。
【0081】
さらに、ローパスフィルタ60BおよびAD変換回路70Bは、
図1に示す第1実施形態の電流センサ1Aの、それぞれ、ローパスフィルタ60AおよびAD変換回路70Aに相当する。これらについての重複説明も省略する。
【0082】
この
図7に示す第2実施形態の電流センサ1Bには、さらに、周波数測定回路80Bおよび閾値生成回路90Bが備えられている。
【0083】
周波数測定回路80Bはコンパレータ40Bから出力された第1の矩形波の繰返し周波数Fを測定する。
【0084】
また、閾値生成回路90Bは、ヒステリシスコンパレータ50Bで参照される閾値上限値および閾値下限値を生成する。この閾値生成回路90Bには、ローパスフィルタ60Bの出力である閾値中心値と、周波数測定回路90Bで測定された繰返し周波数Fが入力される。
【0085】
この閾値生成回路90Bには、2段階の閾値幅ΔTh1、ΔTh2(ただし、ΔTh1<ΔTh2)の情報が予め設定されている。そして、この閾値生成回路90Bでは、周波数測定回路90Bで測定された繰返し周波数Fが予め定められた周波数閾値Fth1よりも低い場合は、幅の狭い閾値幅ΔTh1に基づく閾値上限値および閾値下限値が生成される。一方、周波数Fが周波数閾値Fth1よりも高い場合は、幅の広い閾値幅ΔTh2に基づく閾値上限値および閾値下限値が生成される。具体的には、ローパスフィルタ60Bの出力である閾値中心値をThとすると、周波数F<Fth1の場合は、閾値上限値(Th+ΔTh1/2)と閾値下限値(Th-ΔTh1/2)が生成される。一方、周波数F>Fth1の場合は、閾値上限値(Th+ΔTh2/2)と閾値下限値(Th-ΔTh2/2)が生成される。閾値上限値と閾値下限値を2段階に変更する理由については、後述する。
【0086】
このようにして生成された閾値上限値と閾値下限値は、ヒステリシスコンパレータ50Bに設定される。
【0087】
この第2実施形態の電流センサ1Bのヒステリシスコンパレータ50Bは、閾値判定回路51と電圧反転回路52を備えている。
【0088】
閾値判定回路51には、閾値生成回路90Bで生成された閾値上限値および閾値下限値が入力され、さらに、励磁巻線L1を流れる電流波形を表す、I/V変換回路30Bの出力電圧(B)が入力される。そして、この閾値反転回路51は、波形V(B)の上昇時にはその出力電圧(B)と閾値上限値とを比較し、出力電圧(B)が上昇してきて閾値上限値に達したタイミングで閾値上限値に達したことを電圧反転回路52に通知する。また、閾値反転回路51は、出力電圧(B)の下降時にはその出力電圧(B)と閾値下限値とを比較し、出力電圧(B)が下降してきて閾値下限値に達したタイミングで閾値下限値に達したことを電圧反転回路52に通知する。
【0089】
電圧反転回路52は、閾値反転回路51からの通知を受けたタイミングで電圧を反転させることにより、第2の矩形波を生成する。この第2の矩形波はドライブ回路20Bに入力され、電圧(A)で表される励磁矩形波として励磁巻線L1に印加される。
【0090】
この
図7に示す第2実施形態の電流センサ1Bは、漏電検出の機能を兼ね備えている。大電流の漏電が発生したときは、漏電電流の正確な電流値を測定するよりも、漏電が発生したことをいち早く通知することが重要である。
【0091】
この第2実施形態の電流センサ1Bには、漏電電流をいち早く検知するための要素として周波数判定回路100Bが備えられている。前述の通り、差分電流ΔIが大きいほど高い繰返し周波数が観測される。差分電流ΔIは、すなわち漏電電流である。周波数測定回路80Bで測定された繰返し周波数Fの情報は、周波数判定回路100Bにも入力される。この周波数判定回路100Bでは、周波数測定回路80Bで測定された繰返し周波数Fが漏電の基準となるトリップ周波数Fthtを超えているか否かが判定される。繰返し周波数Fがトリップ周波数Fthtを超えている(F>Ftht)と、漏電が発生していることを表すトリップ出力が直ちに発せられる。
【0092】
漏電電流すなわち差分電流ΔIの正確な電流値は、その後の、この電流センサ1Bの動作が収束した時点で測定される。
【0093】
ここで、繰返し周波数Fが高い場合に閾値幅を広げる理由について説明する。
【0094】
図1に示した第1実施形態の電流センサ1Aは、閾値幅を変更する構成は存在しない。すなわち、第1実施形態の電流センサ1Aのヒステリシスコンパレータ50Aには、予め固定された1つの閾値幅ΔThが設定されている。閾値中心値Thは、ローパスフィルタ60Aの出力の電圧(C)であって、説明した通り、
図2では0V、
図4では-2V、
図6では-4Vのように変化する。すなわち、第1実施形態の電流センサ1Aは、その変化する閾値中心値Thを中心とした、閾値上限値(Th+ΔTh/2)および閾値下限値(Th-ΔTh/2)で動作する。閾値幅ΔThは常に一定である。
【0095】
図8は、
図7に示し第2実施形態の電流センサ1Bにおいて、狭い閾値幅ΔTh1に固定したときの各点の波形を示した図である。
【0096】
この
図8および次の
図9に付した符号A~Fは、
図7の、対応する符号A~Fを付した各点の電圧波形もしくは電流波形である。
【0097】
この
図8には、差分電流ΔIを、ΔI=0AからΔI=8Aへとステップ的に変化させたときの、各点の波形のその後の変化が示されている。閾値幅ΔTh1は、閾値上限値である電圧(C)と閾値下限値である電圧(D)との間の幅であって、ΔTh1=10Vに固定されている。
【0098】
図8(D)には、内側がハッチングで埋められたB-H曲線が示されている。これは、B-H曲線が時間的に変化し、その変化したB-H曲線を重ねて示したことを意味している。
【0099】
図9は、
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bにおいて、広い閾値幅ΔTh2に固定したときの各点の波形を示した図である。
【0100】
この
図9には、
図8と同じく、差分電流ΔIを、ΔI=0AからΔI=8Aへとステップ的に変化させたときの、各点の波形のその後の変化が示されている。閾値幅ΔTh2は、電圧V(C)と電圧V(D)との間の幅であって、ΔTh2=20Vに固定されている。
【0101】
この
図9を
図8と比べると分かるように、前述の(6)式の電流Iの変化速度との関係で、初期段階において
図9の方が低い繰返し周波数が観察される。また、それ以上波形が変化しない安定状態に収束するまでの時間が短縮化されている。
【0102】
繰返し周波数Fが高い場合に閾値幅を広げる理由について、第1実施形態の電流センサ1Aの波形を参照してさらに説明を続ける。具体的には、差分電流ΔI=0Aの初期状態を示した
図2、ΔI=-1Aに変化させた直後の状態を示した
図3、およびΔI=-2Aに変化させた直後の状態を示した
図5のB-H曲線を比較する。これらのB-H曲線を比較すると分かるように、差分電流ΔIが大きくなるほどB-H曲線の中心値が磁界H=0.00[A/m]から大きく外れ、その傾き、すなわち透磁率μが小さくなっている。この透磁率μが大きいほど、
図3の状態から
図4の収束状態への移行、あるいは
図5の状態から
図6の収束状態への移行が円滑に行われる。前述した通り、ここには、ΔI=-1Aに変化させたときとΔI=-2Aに変化させたときの波形しか示されていない。前述した通り、ΔI=-4Aに変化させると、B-H曲線の傾き、すなわち透磁率μが小さくなりすぎて、もはや
図4あるいは
図6に示すような収束状態へは移行することができない。
【0103】
ここで、閾値幅を広げることは、B-H曲線の広い範囲、すなわち、磁界H=0.00に近づいた範囲、あるいは磁界H=0.00を含む範囲を利用することを意味している。換言すると、閾値幅を広げると、広げない場合と比べ、B-H曲線の傾きの大きい部分、すなわち大きな透磁率μを利用することができることを意味している。さらに換言すると、閾値幅を広げると、広げない場合と比べ、大きな差分電流ΔIであっても、
図3あるいは
図5の状態から
図4あるいは
図6の収束状態へと移行させることができる。そして、収束状態に移行したときのローパスフィルタ60Aの出力電圧、すなわち
図4の電圧(C)=-2V、あるいは
図6の電圧(C)=-4Vが差分電流ΔIに対応する。
【0104】
ただし、閾値幅を広げると、その広い閾値幅の中から電圧(C)を測定することになり、測定精度の低下を招くおそれがある。すなわち、高精度の電流測定のためには、閾値幅は狭いほうが好ましい。
【0105】
そこで、
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bは、閾値幅をΔTh2に広げた場合であっても、収束状態に近づくと、再度、閾値幅をΔTh1に狭めて電流測定を行うシーケンスを採用している。
【0106】
図10は、
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bの動作シーケンスを表すフローチャートを示した図である。
【0107】
ここでは、先ず、ヒステリシスコンパレータ50Bに、閾値中心値の初期値が設定される(ステップSB1)。この閾値中心値はローパスフィルタ60Bの出力であって、動作開始後は、閾値中心値はローパスフィルタ60Bの出力の変化によって変化する。
【0108】
次いで、ヒステリシスコンパレータ50Bに、閾値幅の初期値が設定される(ステップSB2)。ここでは、閾値幅をΔTh1とΔTh2(ただし、ΔTh1<ΔTh2)の2段階に変更する構成としており、この閾値幅の初期値としては、幅の狭い閾値幅ΔTh1が採用される。閾値幅を3段階以上に変更する構成の場合は、閾値幅の初期値としては最小幅の閾値幅が採用される。
【0109】
このようにして、閾値中心値の初期値(ステップSB1)および閾値幅の初期値(ステップSB2)が設定されると、周波数測定回路80Bにおいて繰返し周波数Fの測定が行われる(ステップSB3)。そして、測定された繰返し周波数Fが周波数閾値Fth1よりも高い周波数であったときは、閾値幅がΔTh2に拡大されて(ステップSB4)、再び繰返し周波数Fが測定される。
【0110】
また、測定された繰返し周波数Fが漏電の基準となるトリップ周波数Fthtよりも高い周波数であったときは、直ちにトリップ信号が出力される。
【0111】
また、ここでは、出力電圧、すなわち、ローパスフィルタ60Bの出力が測定され(ステップSB5)、その測定された出力電圧が電流値に換算されて(ステップSB6)、その電流値が出力される。
【0112】
出力電圧の測定が終わると(ステップSB5)、ステップSB2に戻り、再び、閾値幅の初期値、すなわち、狭い閾値幅ΔTh1が設定される。繰返し周波数Fが未だ閾値Fth1以上であったときは(ステップSB3)、広い閾値幅ΔTh2に再び変更される(ステップSB4)。これを繰返し実行し、繰返し周波数Fが閾値Fth1未満になると(ステップSB3)、もはや広い閾値幅ΔTh2へは変更されずに、狭い閾値幅ΔTh1の状態で出力電圧測定が行われる(ステップSB5)。このようにして、電流値出力は、低い精度で測定した値から高精度で測定した値へと収束する。
【0113】
図11は、本発明の第3実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
【0114】
ここでは、
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bを比較対象として説明する。
【0115】
この電流センサ1Cには、カレントトランス10Cが備えられている。このカレントトランス10Cは、
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bに採用されているカレントトランス10Bと同じ構成のものである。
【0116】
また、この電流センサ1Cには、ドライブ回路20C、I/V変換回路30C、コンパレータ40C、およびヒステリシスコンパレータ50Cが備えられている。
【0117】
これらドライブ回路20C、I/V変換回路30C、コンパレータ40C、およびヒステリシスコンパレータ50Cは、
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bの、それぞれに対応する要素に相当する。これらについての重複説明は省略する。
【0118】
この
図11に示す第3実施形態の電流センサ1Cには、さらに、周波数測定回路80C、デューティ比測定回路110C、閾値生成回路120C、DA変換回路130C、AD変換回路140C、変曲点測定回路150C、および出力インタフェース160Cが備えられている。
【0119】
周波数測定回路80Cは、
図7に示す第2実施形態の電流センサ1Bの周波数測定回路80Bと同じく、コンパレータ40Cから出力された第1の矩形波の繰返し周波数Fを測定する。
【0120】
また、デューティ比測定回路110Cは、コンパレータ40Cから出力された第1の矩形波のデューティ比を測定する。
【0121】
このデューティ比について、第1実施形態における波形図を参照して説明する。
【0122】
図3(C)には、コンパレータ40Aからの出力矩形波である電圧(E)が示されている。この電圧(E)は、50%を超えるデューティ比を有する矩形波である。
図3には、差分電流ΔIがマイナス(ここではΔI=-1A)の時の波形が示されている。このように、差分電流ΔIがマイナスの時は、50%を超えるデューティ比を有する矩形波が観察される。一方、図示は省略されているが、差分電流ΔIがプラスの時は、50%に満たないデューティ比を有する矩形波が観察される。このように、このデューティ比を測定すると、差分電流ΔIの流れの向きが分かる。ここでは、デューティ比測定回路110Cを使って差分電流ΔIの流れの向きを検出している。
【0123】
これら周波数測定回路80Cおよびデューティ比測定回路110Cで測定された繰返し周波数Fおよびデューティ比は閾値生成回路120Cに入力される。また、周波数測定回路80Cで測定された繰返し周波数Fは、出力インタフェース160Cにも入力される。
【0124】
また、I/V変換回路30Cの出力は、コンパレータ40Cに入力されるとともに、AD変換回路140Cにも入力されてデジタル信号に変換される。変曲点測定回路150Cは、そのデジタル信号を用いた演算により、変曲点を検出してその変曲点の電圧を算出する。この算出された変曲点の電圧は、差分電流ΔIの電流値に対応する。この変曲点測定回路150Cにおける演算についての説明は後に譲る。変曲点測定回路160Cで測定された変曲点の電圧は、閾値生成回路120Cおよび出力インタフェース160Cに入力される。
【0125】
図12は、閾値生成回路に記憶されている閾値一覧を示した図である。
【0126】
この一覧には、閾値中心値の初期値Th1、閾値幅の初期値ΔTh1、および各周波数領域F1~F2、F2~F3、F3~F4、・・・ごとの閾値幅ΔTh2、ΔTh3、ΔTh4、・・・が含まれている。
【0127】
この一覧中の周波数領域は、周波数測定回路80Cで測定される繰返し周波数Fによって区分される領域である。F1、F2、F3、F4・・の順に高い繰返し周波数Fを意味している。
【0128】
また、各周波数領域F1~F2、F2~F3、F3~F4、・・・ごとの閾値幅ΔTh2、ΔTh3、ΔTh4、・・は、いずれも、閾値幅の初期値ΔTh1よりも広い閾値幅である。また、各周波数領域F1~F2、F2~F3、F3~F4、・・・ごとの閾値幅ΔTh2、ΔTh3、ΔTh4、・・は、繰返し周波数Fが高い領域ほど広い閾値幅となっている。ここでは、F1<F2<F3<F4<・・・であり、したがって、ΔTh1<ΔTh2<ΔTh3<ΔTh4<・・・である。
【0129】
【0130】
閾値生成回路120Cでは、閾値中心値、閾値上限値、および閾値下限値を生成する。これら閾値中心値、閾値上限値、および閾値下限値の生成アリゴリズムについての説明は後に譲る。
【0131】
閾値生成回路120Cで生成された閾値中心値、閾値上限値、および閾値下限値はDA変換回路130Cに入力され、アナログ信号に変換される。そして、アナログ信号としての閾値中心値、閾値上限値、および閾値下限値のうちの閾値上限値および閾値下限値は、ヒステリシスコンパレータ50Cに入力される。また、これら閾値上限値および閾値下限値は、AD変換回路140Cに適合するようにスケール調整されて、AD変換回路140CのH側リファレンス電圧およびL側リファレンス電圧としてAD変換回路140Cに入力される。これにより、AD変換回路140Cでは、閾値上限値と閾値下限値との間をフルスケールとするデジタル信号が得られる。
【0132】
また、DA変換回路130Cでアナログ信号に変換された閾値中心値、閾値上限値、および閾値下限値のうちの閾値中心値は、コンパレータ40Cに入力される。コンパレータ40Cでは、I/V変換回路30Cの出力をその閾値中心値を閾値として2値化することにより、第1の矩形波を生成する。
【0133】
この
図11に示す第3実施形態の電流センサ1Cの場合、閾値生成回路120Cが、本発明にいう参照値生成回路の一例に相当する。
【0134】
出力インタフェース160Cには、上述のとおり、変曲点測定回路150Cで得られた変曲点の電圧を表す信号と、周波数測定回路150Cで得られた繰返し周波数Fを表す信号が入力される。
【0135】
変曲点の電圧は差分電流ΔIの電流値に相当し、出力インタフェース160Cでは変曲点の電圧が差分電流ΔIの電流値に変換されて電流値出力となる。
【0136】
また、出力インタフェース160Cでは、繰返し周波数Fが漏電の基準となるトリップ周波数Fthtを超えているか否かが判定される。繰返し周波数Fがトリップ周波数Fthtを超えている(F>Ftht)と、漏電が発生していることを表すトリップ出力が直ちに発せられる。
【0137】
図13は、
図12に示した第3実施形態の電流センサ1Cの動作シーケンスを表すフローチャートを示した図である。
【0138】
ここでは、先ず、閾値中心値の初期値Th1(
図12参照)が設定される(ステップSC1)。また、閾値幅の初期値ΔTh1が設定される(ステップSC2)。閾値幅の初期値ΔTh1は、周波数領域ごとの閾値幅ΔTh2、ΔTh3、ΔTh4、・・のいずれよりも狭い閾値幅である。具体的には、閾値生成回路120C(
図12)において、それらの初期値Th1、ΔTh1に基づいて閾値上限値(Th1+ΔTh1/)と閾値下限値(Th1-ΔTh1/2)が生成される。
【0139】
これらの閾値上限値(Th1+ΔTh1/2)および閾値下限値(Th1-ΔTh1/2)は、DA変換回路130Cを経由してヒステリシスコンパレータ50Cに設定される。また、これらの閾値上限値(Th1+ΔTh1/2)および閾値下限値(Th1-ΔTh1/2)は、スケール変換されてAD変換回路140Cに設定される。
【0140】
また、閾値中心値の初期値Th1は、DA変換回路130Cを経由してコンパレータ40Cに設定される。
【0141】
次いで周波数測定回路80Cにおいて繰返し周波数Fの測定が行われる(ステップSC3)。そして、測定された繰返し周波数Fが漏電の基準となるトリップ周波数Fthtよりも高い周波数であったときは、直ちにトリップ信号が出力される。
【0142】
またここでは、測定された繰返し周波数Fが予め定められた周波数閾値F1よりも高い周波数であったときは、
図12に示した一覧に従い、閾値幅が、測定された繰返し周波数Fを含む周波数領域に応じた閾値幅に拡大される(ステップSC4)。ここでは、測定された繰返し周波数Fが例えばF1~F2の周波数領域に含まれる周波数であったときは、閾値幅がΔTh2に拡大される。具体的には、閾値生成回路120Cにおいて、その拡大された閾値幅ΔTh2を用いた閾値上限値(Th1+ΔTh2/2)および閾値下限値(Th1-ΔTh2/2)が生成される。そして、この生成された閾値上限値(Th1+ΔTh2/2)および閾値下限値(Th1-ΔTh2/2)が、ヒステリシスコンパレータ50Cに設定される。
【0143】
次に、変曲点が検出される(ステップSC5)。
【0144】
変曲点測定回路150Cには、I/V変換回路30Cの出力がAD変換回路140Cを経由して入力され、変曲点測定回路150Cでは、その入力されたI/V変換回路30Cの出力に基づいて変曲点が検出されて、その検出された変曲点の電圧が測定される。I/V変換回路30Cの出力は、
図16(C)、
図17(C)、あるいは
図18(C)に電圧(B)で示す形状の波形を有する。変曲点は、この波形の、円R1で示した、上に凸から下に凸に移行する点と、円R2で示した、下に凸から上に凸に移行する点である。これらの変曲点の電圧は、差分電流ΔIの電流値に対応している。変曲点の具体的な検出方法については、後述する。
【0145】
ここでは、変曲点が検出不能であったとする。
【0146】
AD変換回路140Cには、I/V変換回路30Cの出力が入力される。そして、そのAD変換回路140Cは、上述の通り、閾値上限値と閾値下限値に挟まれた電圧領域内の信号についてAD変換が行われる。ところが、差分電流ΔIの電流値が大きすぎると、閾値幅を広げても、I/V変換回路30Cの出力波形が閾値上限値と閾値下限値との間から外れる場合があり得る。この場合、I/V変換回路30Cの出力波形がデジタル信号に反映されないため、変曲点の検出が不能となる。
【0147】
変曲点の検出が不能であったときは、デューティ比測定回路110Cで測定されたデューティ比が参照される(ステップSC6)。前述したように、このデューティ比が50%を超えているときはマイナスの差分電流ΔIが流れていることを表している。また、このデューティ比が50%に足りないときはプラスの差分電流ΔIが流れていることを表している。
【0148】
そして、そのデューティ比に応じて、すなわち差分電流ΔIの方向に応じて、閾値中心値が調整される(ステップSC7)。
【0149】
【0150】
図14(A)は、デューティ比が50%を超えているとき、すなわちマイナスの差分電流ΔIが流れているときの調整方法を示している。
【0151】
調整前の閾値中心値が
図14(A)(1)の電圧レベルにあったとする。中央に閾値中心値が存在し、その閾値中心値から等間隔の位置に閾値上限値と閾値下限値が存在する。
図13のステップSC7では、この(A)(1)のレベルにある閾値中心値を、(A)(2)に示すように、調整前の閾値下限値と同じ電圧レベルに変更する。これに伴って、閾値上限値と閾値下限値も同じ電圧幅だけ調整される。
【0152】
図13のステップSC7において閾値中心値をこのように調整した後、再び変曲点の電圧測定が試みられる。仮に、未だ調整不足だったときは、
図14(A)(2)から(A)(3)のように、もう一段、同様の調整が行われる。図示は省略するが、さらに調整不足だったときは、さらに同様の調整が繰り返される。
【0153】
一方、
図14(B)は、デューティ比が50%足りないとき、すなわちプラスの差分電流ΔIが流れているときの調整方法を示している。
【0154】
調整前の閾値中心値が
図14(B)(1)の電圧レベルにあったとする。中央に閾値中心値があり存在し、その閾値中心値から等間隔の位置に閾値上限値と閾値下限値が存在する。この
図14(B)(1)は、
図14(A)(1)とは別に示されているが、
図14(A)(1)と同一の電圧レベルを示している図である。
【0155】
図13のステップSC7では、この(B)(1)のレベルにある閾値中心値を、(B)(2)に示すように、調整前の閾値上限値と同じ電圧レベルに変更する。これに伴って、閾値上限値と閾値下限値も同じ電圧幅だけ調整される。
【0156】
図13のステップSC7において閾値中心値をこのように調整した後、再び変曲点の電圧測定が試みられる。仮に、未だ調整不足だったときは、
図14(B)の(2)から(B)(3)のように、もう一段、同様の調整が行われる。図示は省略するが、さらに調整不足だったときは、さらに同様の調整が繰り返される。
【0157】
図13のステップSC7においてこのような調整を行うと、I/V変換回路30Cの出力が反映されたデジタル信号を得ることができ、変曲点を検出することができる状態となる。
【0158】
変曲点の検出が可能であったときは(ステップSC5)、その変曲点の電圧が測定され(ステップSC8)、その測定された変曲点の電圧が
図13の出力インタフェース60Cにおいて電流値に換算されて(ステップSC9)、その電流値が出力される。
【0159】
ただし、この段階で出力された電流値は、閾値幅を大きく広げた状態で測定された電流値である。閾値幅が広いということは、AD変換回路140Cではその広い閾値幅内のアナログ信号を所定のビット数のデジタル信号に変換するため、分解能が低いデジタル信号となっている。このため、この分解能が低いデジタル信号に基づいて測定された変曲点の電圧値や、これを換算した電流値は、精度の低い値となっている。そこで、ここでは、この測定精度向上のために、さらに以下のシーケンスが続行される。
【0160】
すなわち、ステップSC10において、閾値中心値が、ステップSC8で測定された変曲点の電圧と一致する電圧に調整される。そして、ステップSC5に戻り、閾値幅が最も狭い閾値幅である初期値ΔTh1に変更される。すると、AD変換回路140Cでは、その狭い閾値幅内のアナログ信号が所定のビット数のデジタル信号に変換される。すなわち、高分解能のデジタル信号が得られる。そして、今度は、この高分解能のデジタル信号に基づいて変曲点の電圧が測定され(ステップSC8)、電流値に換算されて(ステップSC9)、その電流値が出力される。
【0161】
ただし、この時点では未だ、閾値中心値は、広い閾値幅の時に測定された、精度の低い変曲点の電圧と一致するように調整されているため、変曲点の正確な電圧とは一致しないおそれがある。そこで、さらにシーケンスを続け、閾値幅を狭めて測定された変曲点の電圧に一致するように閾値中心値がさらに調整されて(ステップSC10)、変曲点の電圧が測定される。これを繰り返すことにより、閾値中心値が変曲点の正確な電圧と一致し、正確な電流値が出力される。
【0162】
次に、
図1に示した第3実施形態の電流センサ1Cの各点の波形例を示す。
【0163】
図15は、測定開始時における、
図11に示す各点A~Fの波形を示した図である。
【0164】
この
図15には、差分電流ΔI=-30Aを加えた直後の波形が示されている。閾値中心値の初期値Th1は、Th1=0V、閾値幅の初期値ΔTh1は、初期値ΔTh1=10Vである。したがって、閾値上限値は+5V、閾値下限値は-5Vである。
【0165】
ここで、
図15(A)は、磁性体コアMに巻回された励磁巻線L1を流れる電流IL1の波形を表わしている。
【0166】
また、
図15(B)は、ドライブ回路20Cから出力されて励磁巻線L1の第1端に印加される励磁矩形波の電圧(A)を表している。また、
図15(B)には、コンパレータ40Cの出力矩形波である電圧(D)も示されている。
【0167】
また、
図15(C)には、I/V変換回路30Cの出力電圧(B)、閾値中心値、閾値上限値、閾値下限値としての、それぞれ電圧(F)、電圧(C)、電圧(D)が示されている。
【0168】
さらに、
図15(D)は、磁性体コアMのB-H曲線を表わしている。
【0169】
なお、ここでは、
図15を取り上げて説明しているが、A~Fの符号の付し方は、
図15~
図18について共通である。
【0170】
なお、I/V変換回路30Cは、
図1に示す第1実施形態におけるI/V変換回路30Aとは電流から電圧への変換定数が異なっている。すなわち、第1実施形態の場合、差分電流ΔIがΔI=-1Aの時、閾値中心値を表す電圧(C)は-2Vである。これに対し、
図11の第3実施形態の場合、差分電流ΔIがΔI=-1Aの時、閾値中心値を表す電圧(F)は-1Vとなる。
図15~
図18は、差分電流ΔI=-30Aを例示している。したがって、ここでは、
図18に示すように、閾値中心値を表す電圧(F)として、電圧(F)=-30Vが得られることになる。
【0171】
図15の状態では、差分電流ΔI=30Aには対応できず、変曲点の検出は不可能である。
【0172】
図16は、閾値幅を100Vに広げた後の各点A~Fの波形を示した図である。
【0173】
この
図16においても、差分電流ΔI=-30A、閾値中心値は初期値Th1=0Vのままである。したがって、閾値上限値は+50V、閾値下限値は-50Vである。
【0174】
このように閾値幅を広げると、繰返し周波数が低下し、また、
図16(C)に示すように、I/V変換回路30Cの出力波形(電圧(B))が現れている。ここでは、I/V変換回路30Cの出力波形(電圧(B))が現れていることから、この段階でも、変曲点の検出および変曲点の電圧測定が可能である。ただし、この段階では、閾値幅が100Vと広く、したがって精度の低い測定となる。閾値中心値(電圧(F))は変曲点(円R1、R2の点)から外れている。
【0175】
ここでは、閾値中心値が0Vのまま、すなわち閾値中心値を変更することなく、I/V変換回路30Cの出力波形(電圧(B))が捉えられている。ただし、差分電流ΔIがさらに大きく、例えばΔI=-60Aだったときは、閾値幅を100Vに広げても閾値中心値が0VのままではI/V変換回路30Cの出力波形(電圧(B))を捉えることはできない。その場合には、
図13のステップSC7および
図14を参照して説明したように、閾値中心値が調整される。
【0176】
図17は、閾値中心値を変曲点の電圧と一致させたときの各点A~Fの波形を示した図である。ただし、ここでは、閾値幅は、未だ100Vのままである。
【0177】
図16の場合、閾値中心値(電圧(F))は0Vのままであり、変曲点(円R1、R2の点)から外れている。これに対し、
図17は、閾値中心値を変曲点の電圧と一致する電圧に調整している。
【0178】
図18は、閾値幅を10Vに狭めて変曲点の電圧測定を何回か繰り返した後の最終状態の波形を示している。
【0179】
閾値中心値は、-30Vである。
【0180】
【0181】
ここで、
図19(A)は、励磁巻線L1を流れる電流IL1の、一周期分の波形を示している。また、
図19は、B-H曲線を示している。
【0182】
B-H曲線は、
図19(B)に示すように、ヒステリシスを持った曲線である。したがって、B-H曲線の、磁束密度B=0[T]通る点は円C1で示した点と円C2で示した点との2点存在する。電流IL1の、円R1で示した、上に凸から下に凸に移行する変曲点は、B-H曲線の、円C1で示した点に対応する。また、電流IL1の、円R2で示した、下に凸から上に凸に移行する変曲点は、B-H曲線の、円C2で示した点に対応する。そして、それら2つの変曲点では電流値が互いに少し異なっている。そこで、ここでは、それら2つの変曲点のそれぞれを検出して平均値を算出している。
【0183】
図19(C)は、電流IL1の一周期分の波形を単調減少の部分と単調増加の部分とに分けて示した図である。ここで、
図19(A)の場合、縦軸は電流値であり、
図19(B)の場合、縦軸は電圧値となっている。これは、検出しようとしているのは、電流IL1の変曲点であり、実際の演算は、I/V変換回路30Cを経由した後の電圧波形に基づいていることを意味している。
【0184】
変曲点の検出にあたっては、
図19(C)に示したように、電流IL1の一周期分の波形を単調減少の部分と単調増加の部分とに分けて、スムージング等によるノイズ除去処理を行う。
【0185】
図19(D)は、
図19(C)に示した単調減少の部分と単調増加の部分にそれぞれに微分処理を施した波形を示している。
【0186】
この微分処理により、単調減少の部分は上に凸の曲線となり、単調増加の部分は下に凸の曲線となる。そして、単調減少の部分に関しては、上に凸の曲線の上向きの頂点P2が変曲点に対応し、単調増加の部分に関しては、下に凸の曲線の下向きの頂点P1が変曲点に対応する。そこで、それらの変曲点の電圧を読み取る。そして、読み取った双方の変曲点の電圧値の平均値を算出し、この算出した平均値を変曲点の電圧測定値とする。そして、この電圧測定値を電流値に換算することにより、差分電流ΔIの電流値が得られる。
【0187】
以上で、
図11に示した第3実施形態の説明を終了する。
【0188】
図20は、本発明の第4実施形態としての電流センサの回路ブロック図である。
【0189】
図7に示した第2実施形態の電流センサ1Bおよび
図11に示した第3実施形態の電流センサ1Cは、漏電センサを兼ねた構成となっている。これは、第2実施形態の電流センサ1Bおよび第3実施形態の電流センサ1Cには、電流センサの要素として周波数測定回路80B,80Cが備えられているためである。これに対し、
図1に示した第1実施形態の電流センサ1Aの場合、周波数測定回路を必要としない電流センサ1Aとなっている。このため、第1実施形態の電流センサ1Aは、漏電センサを兼ねた構成とはなっていない。この
図20に示す第4実施形態の電流センサ1Dは、第1実施形態の電流センサ1Aに周波数測定回路等を追加して、漏電センサを兼ねた構成としたものである。
【0190】
この第4実施形態の電流センサ1Dには、カレントトランス10D、ドライブ回路20D、I/V変換回路30D、コンパレータ40D、ヒステリシスコンパレータ50D、ローパスフィルタ60D、およびAD変換回路70Dが備えられている。これらの各要素は、
図1に示す第1実施形態における、それぞれ、カレントトランス10A、ドライブ回路20A、I/V変換回路30A、コンパレータ40A、ヒステリシスコンパレータ50A、ローパスフィルタ60A、およびAD変換回路70Aに相当する。これらについての重複説明は省略する。
【0191】
この第4実施形態の電流センサ1Dには、さらに、周波数測定回路80Dおよび周波数判定回路100Dが備えられている。
【0192】
周波数測定回路80Dは、コンパレータ40Dから出力された第1の矩形波の繰返し周波数Fを測定する。
【0193】
また、周波数判定回路100Dは、周波数測定回路80Dで測定された繰返し周波数Fが漏電の基準となるトリップ周波数Fthtを超えているか否かを判定する。繰返し周波数Fがトリップ周波数Fthtを超えている(F>Ftht)と、漏電が発生していることを表すトリップ出力が直ちに発せられる。
【0194】
漏電電流すなわち差分電流ΔIの正確な電流値は、その後の、この電流センサ1Dの動作が収束した時点で測定される。
【0195】
このように、
図1に示した第1実施形態の場合も漏電検出の要素を追加することにより、漏電センサを兼ねた電流センサとすることができる。
【0196】
なお、各実施形態では、電流センサを漏電センサとしても利用することを念頭に置き、2本の電線L2,L3が配置されたカレントトランスを採用している。ただし、電流値を検知するだけの電流センサとして使用する場合は、配置される電線は1本であって、その1本の電線を流れる電流を検知してもよい。また、この電流センサ1を漏電センサとして利用する場合において、例えば3相交流が流れる3本の電線を配置してもよい。このように、磁性体コアMを貫通させる電線は、その本数が制限されるものではない。
【0197】
また、上述の各実施形態における波形図は、シミュレーションの結果得られた波形図である。このため、例えば閾値幅100Vといった、通常の信号処理回路では採用されない電圧値が示されている。ただし、信号処理回路を実際に構成するにあたっては、信号処理に適した電圧レベルにスケール変換される。そして、ドライブ回路20A~20Dにより励磁巻線L1に印加される電圧レベルに調整される。
【0198】
また、上記の各実施形態では、各ドライブ回路20A~20Dは、各ヒステリシスコンパレータ50A~50Dから出力された矩形波をその矩形波のまま駆動矩形波として励磁巻線に印加している。ただし、各ドライブ回路20A~20Dから出力されて励磁巻線に印加される駆動電圧は必ずしも矩形波である必要はなく、各ヒステリシスコンパレータ50A~50Dから出力された矩形波に由来する駆動電圧であればよい。例えば、各ヒステリシスコンパレータ50A~50Dから出力された矩形波を変換した、三角波あるいはサイン波等の波形を有する駆動電圧であってもよい。
【符号の説明】
【0199】
1A,1B,1C,1D 電流センサ
10A,10B,10C,10D カレントトランス
20A,20B,20C,20D ドライブ回路
30A,30B,30C,30D I/V変換回路
40A,40B,40C,40D コンパレータ
50A,50B,50C,50D ヒステリシスコンパレータ
51 閾値判定回路
52 電圧反転回路
60A,60B,60D ローパスフィルタ
70A,70B,70D AD変換回路
80B,80C,80D 周波数測定回路
90B 閾値生成回路
100B,100D 周波数判定回路
110C デューティ比測定回路
120C 閾値生成回路
130C DA変換回路
140C AD変換回路
150C 変曲点測定回路
160C 出力インタフェース