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特開2022-32071合成シリカガラス製造装置および当該製造装置を用いた合成シリカガラスの製造方法
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  • 特開-合成シリカガラス製造装置および当該製造装置を用いた合成シリカガラスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032071
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】合成シリカガラス製造装置および当該製造装置を用いた合成シリカガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20220217BHJP
【FI】
C03B8/04 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135530
(22)【出願日】2020-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】592104944
【氏名又は名称】クアーズテック徳山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】千々松 孝
(72)【発明者】
【氏名】生野 浩人
(72)【発明者】
【氏名】藤川 智大
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH19
(57)【要約】
【課題】内部に、脈理や気泡その他のインクルージョンといった欠陥のない合成シリカガラスを製造することができる合成シリカガラス製造装置を提供する。
【解決手段】炉体と、前記炉体内部に回転可能に設置されたインゴット形成用のターゲットと、前記ターゲットに先端を向けて設けられたシリカガラスインゴット合成用のバーナーとを備えた合成シリカガラス製造装置であって、
前記炉体は、マッフルと、前記マッフルの下方に設けられた第1の炉部と、前記第1の炉の下方に設けられた第2の炉部と、前記マッフルおよび前記第1の炉を囲繞するように設けられた第3の炉部とを備え、かつ、前記第3の炉部の頂部に第1排気口および前記第1排気口に接続された排気手段が備えられ、前記第2の炉部の頂部から前記第3の炉部を連通する第2排気口とをさらに備えていることを特徴とする合成シリカガラス製造装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体と、前記炉体内部に回転可能に設置されたインゴット形成用のターゲットと、前記ターゲットに先端を向けて設けられたシリカガラスインゴット合成用のバーナーとを備えた合成シリカガラス製造装置であって、
前記炉体は、マッフルと、前記マッフルの下方に設けられた第1の炉部と、前記第1の炉部の下方に設けられた第2の炉部と、前記マッフルおよび前記第1の炉部を囲繞するように設けられた第3の炉部とを備え、かつ、前記第3の炉部の頂部に第1排気口および前記第1排気口に接続された排気手段が備えられ、前記第2の炉部から前記第3の炉部を連通する第2排気口とをさらに備えていることを特徴とする合成シリカガラス製造装置。
【請求項2】
マッフルの外径をc、第1の炉部の外径をdとしたとき、第3の炉部の内径が1.3c以上2.3c以下であり、1.2d以上2.1d以下であることを特徴とする請求項1に記載の合成シリカガラス製造装置。
【請求項3】
シリカガラスインゴットの直胴部の直径をrとしたとき、マッフルの内径が1.05r以上1.25r未満であり、第1の炉部の内径は、マッフルの内径より大きく、第2の炉部の内径は、第1の炉の内径より大きいことを特徴とする請求項2に記載の合成シリカガラス製造装置。
【請求項4】
前記マッフルの内径をaとしたとき、前記第1の炉部の内径が1.10a以上1.20a未満であることを特徴とする請求項3に記載の合成シリカガラス製造装置。
【請求項5】
前記第1の炉の内径をbとしたとき、前記第2の炉部の内径が1.2b以上であることを特徴とする請求項3または4に記載の合成シリカガラス製造装置。
【請求項6】
前記第1の炉部の内径をbとしたとき、前記第3の炉部の内径が1.2b以上であり、
前記第1排気口が、前記炉体の頂部に除害塔に接続して設けられていることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の合成シリカガラス製造装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の合成シリカガラス製造装置を用いて製造することを特徴とする合成シリカガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク材等に使用されるシリカガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、紫外線透過材料として250nm以下の波長の光透過性がよく、不純物含有量の極めて少ない合成シリカガラスが用いられている。この合成シリカガラスは、一般的には紫外線(400nm以下)領域の波長を吸収してしまう原因となりうる金属不純物の混入を避ける目的で、高純度の四塩化ケイ素(SiCl4)ガスを、酸水素炎(H2/O2)中に導入し、火炎加水分解させて、シリカ微粒子を直接回転する耐熱性ターゲット上に堆積・溶融ガラス化させ、透明なガラスとして製造されている。
この合成反応は、一般的に、次の通りである。
SiCl+2H+O→SiO+4HCl
【0003】
一方、ターゲット上に堆積せず、浮遊するシリカ微粒子や反応生成ガス等を排出するために、合成シリカガラスの製造においては、排気口を備えた合成炉(炉体)が用いられるが、炉体の形状によっては炉体内のガス流れが引き起こす気流によって、浮遊シリカ微粒子がインゴットの表面、すなわち、溶融シリカの付着面に飛来し、欠陥(気泡、インクルージョン)を招く原因となっていた。
【0004】
この問題を解決する方策として、特許文献1には、炉体と、前記炉体に設けられた排気口と、前記排気口に接続された排気手段と、前記炉体内部に回転可能に設置されたインゴット形成用のターゲットと、前記ターゲットに先端が対向するように炉体の頂部に設けられたシリカガラス合成用のバーナーとを備えた合成シリカガラス製造装置において、前記炉体が、耐火物製のマッフルと、前記マッフルの下方に、マッフルの内径よりも大きな内径を有する第1の炉と、前記第1の炉部の下方に、第1の炉部の内径よりも大きな内径を有する第2の炉とを備え、かつ、マッフル、第1の炉および第2の炉のいずれもその水平断面が円形であり、インゴットの外径をrとしたときのマッフルの内径が1.3r以上2.5r以下、マッフル内側の高さが300mm以上であり、マッフルの内径をaとしたときの第1の炉の内径が1.2a以上2.0a以下であり、第1の炉の内径をbとしたときの第2の炉の内径が1.2b以上、第2の炉内側の高さが300mm以上であり、さらに、第2の炉の側壁に前記排気口を備えることが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の合成シリカガラス製造装置では、第2の炉部の側壁に設けられた前記排気手段を用いて、炉内に浮遊するシリカ微粒子や反応生成ガス(HCl)等を排出しても、マッフルから放出されたナトリウム(Na)等のアルカリ金属はマッフルの内側に留まり、いくらかのNa等アルカリ金属がインゴット内に取り込まれる。特に、新品のマッフルを設置した直後は、Na等アルカリ金属の放出量が多いため、インゴット内に取り込まれるNa等アルカリ金属量が多く、インゴット内のNa等アルカリ金属濃度が各々100ppb以下に低減するのに非常に時間を要する。
【0006】
また、特許文献1の合成シリカガラス製造装置では、マッフルおよび第1の炉部からの放熱があるため、合成原料の四塩化ケイ素(SiCl4)ガスとH2/O2ガスの反応効率が低く、これらのガスを多量に使用することとなり生産性が低い傾向にある。
【0007】
また、特許文献1の合成シリカガラス製造装置では、マッフル内表面とインゴット外表面との間隔、または、第1の炉の内径と第2の炉の内径との差が大きいため、炉内空間が広く、熱効率が悪く大量の酸水素ガスが必要となる。また、マッフル内表面とインゴット外表面との間隔が広いと、逆勾配熱拡散が発生して、上昇気流が強くなり、インゴットに混入する気泡やその他のインクルージョンが増加する傾向が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5615314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、インゴット内部に、Na等アルカリ金属の取り込み量が少ない、また、より生産性の高い合成シリカガラス製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の合成シリカガラス製造装置は、炉体と、前記炉体内部に回転可能に設置されたインゴット形成用のターゲットと、前記ターゲットに先端を向けて設けられたシリカガラスインゴット合成用のバーナーとを備えた合成シリカガラス製造装置であって、前記炉体は、マッフルと、前記マッフルの下方に設けられた第1の炉部と、前記第1の炉部の下方に設けられた第2の炉部と、前記マッフルおよび前記第1の炉部を囲繞するように設けられた第3の炉部とを備え、かつ、前記第3の炉部の頂部に第1排気口および前記第1排気口に接続された排気手段が備えられ、前記第2の炉部から前記第3の炉部を連通する第2排気口とをさらに備えていることを特徴とする。
【0011】
このように、炉体を、マッフルと、前記マッフルの下方に設けられた第1の炉部と、前記第1の炉部の下方に設けられた第2の炉部と、前記マッフルおよび前記第1の炉部を囲繞するように設けられた第3の炉部とを備え、かつ、前記第3の炉部の頂部に第1排気口および前記第1排気口に接続された排気手段と、前記第2の炉部から前記第3の炉部を連通する第2排気口とをさらに備えた構造とすることにより、合成により生成された塩化水素(HCl)がマッフル、第1の炉部の内部および外周面を通過するように排気されるようになり、マッフル、第1の炉部の内面のみならずこれらの外周面からもNa等アルカリ金属を塩化物として除去することができ、結果、インゴットへ拡散するNa等アルカリ金属量を減少させることができる。また、マッフルおよび第1の炉部の外周部を高温の塩化水素(HCl)で囲むこととなり、この保温効果により塩化水素(HCl)とH2/O2ガスの反応効率が高められ、より生産性の高い合成シリカガラス製造装置を提供可能となる。
【0012】
また、本発明の合成シリカガラス製造装置はマッフルの外径をc、第1の炉部の外径をdとしたとき、第3の炉部の内径が1.3c以上2.3c以下であり、1.2d以上2.1d以下であることが好ましい。
これにより、合成により生成された塩化水素(HCl)をマッフルおよび第1の炉部と第3の炉部の間をより効果的に流通させることができる。
【0013】
さらに、シリカガラスインゴットの直胴部の直径をrとしたとき、マッフルの内径が1.05r以上1.25r未満であり、第1の炉の内径は、マッフルの内径より大きく、第2の炉の内径は、第1の炉の内径より大きいことが好ましい。
これによって、第1の炉内の圧力をマッフル内の圧力よりも低くして上昇気流の発生を抑制し、シリカ微粒子の巻き上げに起因するインゴット内部の欠陥の発生を抑制することができる。
【0014】
前記マッフルの内径をaとしたとき、第1の炉部の内径は1.10a以上1.20a未満であることが好ましい。
前記第1の炉部の内径をbとしたとき、第2の炉部の内径は1.2b以上であることが好ましい。
マッフルよりも内径の大きな第1の炉部を備えることで、また、第1の炉部の内径よりも内径の大きな第2の炉部をさらに備えることで、炉体内全体に圧力勾配が生じる。すなわち、下方ほど圧力が低くなり、上昇気流の発生が効果的に抑制される。これにより、スムーズな排気を行うことができる。
【0015】
前記第1の炉部の内径をbとしたとき、第3の炉部の内径は1.2b以上であることが好ましい。また、前記第1排気口は、炉体の頂部に除害塔に接続して設けられていることが好ましい。
なお、前記第2の炉部および第3の炉部は、水平断面が円形ではなく、上記の内径寸法を内側長さとする正方形等矩形とすることもできる。なお、前記第2の炉部および第3の炉部の水平断面が正方形の場合には、上記本発明の特徴のうち、「外径」とあるのは外側一辺長さ、「内径」とあるのは内側一辺長さと置き換えることができる。(以下、同様)
本発明の合成シリカガラスの製造方法は、上記合成シリカガラス製造装置のいずれかを用いて製造することを特徴とする。
これにより、Na等アルカリ金属の取り込み量が少なく、かつ、より効率的な合成シリカガラス(インゴット)の製造が可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インゴット内部に、Na等アルカリ金属の取り込み量が少ない、また、より生産性の高い合成シリカガラス製造装置および合成シリカガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の合成シリカガラス製造装置の模式的縦断面図である。
図2図2は、従来の合成シリカガラス製造装置の模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の合成シリカガラス製造装置を図1に基づいて説明する。本発明の合成シリカガラス製造装置は、炉体10と、前記炉体10に設けられた第1排気口6と、前記第1排気口6に接続された排気手段(図示せず)と、前記炉体10の内部に回転可能に設置されたインゴット形成用のターゲット7と、前記ターゲット7に先端を向けて設けられたシリカガラスインゴット合成用のバーナー1とを備えた合成シリカガラス製造装置であって、前記炉体10は、マッフル2と、前記マッフルの下方に設けられた第1の炉部3と、前記第1の炉部3の下方に設けられた第2の炉部4と、前記マッフル2および前記第1の炉部3を囲繞するように設けられた第3の炉部8と、前記第3の炉部8の頂部に第1排気口6および前記第1排気口6に接続された排気手段(図示せず)が備えられ、前記第2の炉部4から前記第3の炉部8を連通する第2排気口9とをさらに備えている。
【0019】
前記合成シリカガラス製造装置は、下部が大気に常時開放されている三段構造の炉体10と、炉体10に設けられた排気口(第1排気口6および第2排気口9)と、排気口に接続された排気手段(図示せず)と、炉体10内部に回転可能に設置されたインゴット形成用のターゲット7と、ターゲット7に先端を向けて設けられたシリカガラスインゴット合成用のバーナー1とを備えている。
【0020】
前記炉体10は、シリカガラス合成用のバーナー1が頂部に設置されたアルミナ質の耐火物製のマッフル2と、前記マッフル2の下方に設けられた、前記マッフル2の内径よりも大きな内径の第1の炉部3と、前記第1の炉部3の下方に設けられた、前記第1の炉部3の内径よりも大きな内径の第2の炉部4と、マッフル2および第1の炉部3を囲繞するように設けられた第3の炉部8とから形成されている。
【0021】
前記バーナー1には、通常、シリカガラス製のものが用いられる。前記炉体10を構成するマッフル2、第1の炉部3、第2の炉部4、および第3の炉部8は、アルカリ金属などの金属不純物の含有量が少ないアルミナ質の耐火物で形成される。また、マッフル2は断熱性を向上させた多孔質のアルミナ質耐火物を用いても良い。
【0022】
前記マッフル2の水平断面、前記マッフル2の下方に設けられた第1の炉部3の水平断面、前記第1の炉部3の下方に設けられた第2の炉部4の水平断面、ならびに、マッフル2および第1の炉部3を囲繞するように設けられた第3の炉部8の水平断面のいずれも円形に形成されている。
【0023】
また、前記炉体10の内部には、回転可能に設置されたインゴット形成用のターゲット7と、前記ターゲット7を回転および昇降するインゴット昇降軸7aが設けられている。
【0024】
炉体10の下方に位置する第2の炉部4には、ターゲット7に堆積されなかったシリカ微粒子を排出する第2排気口9が設けられ、前記第2排気口9を介して第3の炉部8に連通している。図1に示すように、シリカ微粒子は、マッフル2および第1の炉部3の外側でかつ、第3の炉部の内側の領域に排出される。第3の炉部の頂部に配置された第1排気口6には、排気管と該排気管に接続された排気ファン(いずれも図示せず)とからなる排気手段が設けられている。前記排気手段においては、塩化水素の浄化手段(スクラバー)を有することが好ましい。なお、前記第2の排気口9は第2の炉部4の頂部に設けることが好ましい。これにより排気効率をより高めることができる。
【0025】
マッフルの外径をc、第1の炉部の外径をdとしたとき、第3の炉部の内径が1.3c以上2.3c以下であり、1.2d以上2.1d以下であることが好ましい。前記第3の炉部の内径が1.3c未満の場合、排気速度が速くなるため、マッフルの純化効果が低下し、また、2.3cを超えると排気効率が低下する傾向がある。前記範囲とすることにより、合成により生成された塩化水素(HCl)をマッフルおよび第1の炉部と第3の炉部の間をより効果的に流通させることができる。
【0026】
マッフル2の内径は、インゴット5の直胴部の直径をrとした場合に、1.05r以上1.25r未満であることが好ましい。インゴット5の外周面とマッフル2の内周面との距離は小さい方が好ましく、これにより、より熱効率は良くなる。また、インゴット5の外周面とマッフル2の内周面との距離が小さい方が、合成に必要な酸水素ガスの流量を低減することができる。マッフル2の内径が1.05r未満の場合、インゴット5の成長空間が狭いため、水蒸気や、未反応のSiCl4ガスまたはその加水分解物などの排気ガスの流速が大きく、乱流となって、マッフル3の内壁に付着したシリカ微粒子を巻き上げ、インゴット5の合成面上に飛来して、インゴットの内部に欠陥を生じさせることがある。また、マッフル2の内径が1.05r未満であると、マッフル2の温度が過度に上昇してインゴット5が熱変形したり、マッフル2の内壁に付着したシリカ微粒子とインゴット5が接触して、落下したシリカ微粒子により、インゴットに気泡やインクルージョンが発生することがある。一方、マッフル2の内径が1.25r以上になると、マッフル2の内径を高温に維持することが難しくなり、溶融シリカが付着するインゴット合成面にしわができたり、脈理が発生する原因となる。マッフル2の内径が1.25r以上であると、合成面の温度を維持するために必要な酸水素ガス流量が増大し、大きなコストがかかることとなる。一方、酸水素ガス流量が多いと、マッフル2下部のガス流れに渦流ができやすくなり、マッフル2や第一の炉3の内壁に付着しているシリカ微粒子を巻き上げてインゴット合成面への気泡やその他のインクルージョンの発生の原因となることがある。
インゴットの直胴部の直径rは、通常、LSIフォトマスク用ならφ200~300mm、LCDフォトマスク用ならφ400~700mmである。
【0027】
マッフル2の高さ(長さ)h1は300mm以上800mm以下である。マッフル2の
高さh1が800mmを超えると、インゴット5の合成面、すなわち溶融シリカ付着面と排気口6との距離が遠く、圧力損失を受け、排気効率が低下することがある。一方、マッフル2の高さh1が300mm未満であると、第1排気口6とインゴット5の合成面とが近く、わずかなガス流の変動でも、インゴット5の合成面の温度分布に影響を及ぼし、得られる合成シリカガラスの物性や品質にばらつきが生じることがある。なお、マッフル2の高さh1は、マッフル2の内側の高さをいう。
【0028】
第1の炉部3は、マッフル2内の圧力と第1の炉部3内の圧力とに勾配を付けることにより、上昇気流の発生を抑制してインゴット5の形状を維持し、さらにガス排気量を調節する、いわゆるバッファ機能を持っている。
【0029】
第1の炉部3の役割は、マッフル2より第1の炉部3の空間を広くすることで、第1の炉部3からマッフル2への上昇気流の発生を抑え、第1の炉部3内をマッフル2内より低温にし、インゴット5の直径を決定することである。
【0030】
第1の炉部3の内径は、マッフル2の内径をaとした場合に1.10a以上1.20a未満であることが好ましい。第1の炉部3の内径を前記範囲とすることで、第1の炉部内の圧力がマッフル内の圧力より低くなり、上昇気流の発生を効果的に抑制することができる。そうなれば、インゴット5の合成面の温度分布が均一化し、また、浮遊するシリカ微粒子がインゴット5の合成面に付着することもなく、欠陥のないインゴット5を合成することができる。第1の炉部3の内径が1.10a未満の場合、マッフル2と第1の炉部3との圧力差が不充分となり、上昇気流を生じやすく、インゴット5に欠陥を生じることがある。また、第1の炉部3内の空間が狭いため、過度に温度が上昇して、インゴット5が熱変形することがある。また、インゴット5の外周面と第1の炉部3の内周面とが近いため、インゴット内壁に付着したシリカ微粒子によって排気経路がさらに狭まり、排気が悪化することがある。一方、第1の炉部3の内径が1.20a以上の場合、インゴット5の表面温度が低下し、インゴットの合成に必要な酸水素ガスの流量が増大し、コストの増大に繋がる。
マッフル2の内径aは、通常、LSIフォトマスク用ならφ210~375mm、LCDフォトマスク用ならφ420~875mmである。
【0031】
なお、第1の炉部3の内径が2.0aを超える場合、インゴット5からの放熱量が大きくなるため、インゴット5の温度が低下して外径が変動することがある。外径が変動すると、バーナー1とターゲット7との間の距離が変動し、合成したシリカガラスの物性や品質にばらつきが生じることとなる。また、インゴット5は、合成時間に応じて第2の炉部4に下降するが、インゴット5が下降することで、第2の炉部4の上部壁面にシリカ微粒子が堆積し易くなり、浮遊シリカ微粒子の飛来により、インゴット5に欠陥が生じる。
【0032】
第1の炉部3の高さ(長さ)h2は150mm以上600mm以下である。第1の炉部3の高さh2が150mm未満であると、第1の炉部3の空間が狭いために、第1の炉部3内の温度が過度に上昇し、インゴット8が熱変形することがある。また第1の炉部3内のガスの排気が悪化し、第1の炉部3の内壁にシリカ微粒子が付着し、これが落下してインゴット5の内部に欠陥が生じることがある。一方、第1の炉部3の高さh2が600mmを超えると、第1の炉部3内の温度を維持するため、バーナー1からの酸水素ガスの量を多くしなければならず、製造コストの増大に繋がる。なお、第1の炉部3の高さh2は、第1の炉部3の内側の高さをいう。
【0033】
第2の炉部4は、第2の炉部4から第1の炉部3への上昇気流を発生させることなく、ガスをスムーズな排気する役割を持つ。第2の炉部4の内径は、第1の炉部3の内径をbとした場合に、1.2b以上であることが好ましく、1.2b以上3.0b以下であることがより好ましい。第2の炉部4の内径が1.2b以上であれば、第1の炉部3内の圧力の方が第2の炉部4内の圧力よりも高くなり、第2の炉部4から第1の炉部3への上昇気流を防止することができる。第2の炉部4の内径が1.2b未満の場合、第1の炉部3との圧力勾配が充分でなく、上昇気流が生じる原因となる。一方、第2の炉部4の内径が3.0bを超える場合には、第2の炉部4の排気ガス流速が小さく、第2の炉部4の内壁にシリカ微粒子が堆積し易く、排気効率が低下することがある。
第1の炉部3の内径bは、通常、LSIフォトマスク用ならφ231~450mm、LCDフォトマスク用ならφ462~1050mmである。
【0034】
第2の炉部4の高さ(長さ)h3は300mm以上2000mm以下である。第2の炉部4の高さh3が300mm未満であると、第2の炉部4内の排気ガスの流速が大きく、第2炉部4を循環するガス流量が多くなり、インゴット5内部の欠陥を生じることがある。一方、第2の炉5の高さh3が2000mmを超えると、第2排気口9までの距離ができ、圧力損失を受けて、排気効率が低下する。なお、第2の炉4の高さh3は、第2の炉部4の内側の高さをいう。
【0035】
第3の炉部8の内径は、第1の炉部3の内径をbとした場合に、1.2b以上であることが好ましい。第3の炉部8の内径を1.2b以上とすることにより、炉体10全体に圧力勾配が生じ、上昇気流の発生を抑制して、欠陥のないインゴット5を製造することができる。
なお、第3の炉部8の高さh4は、750mm以上2400mm以下である。
【0036】
第3の炉部8は、第2排気口9を介して第2の炉4と連通している。そして、炉体10の頂部にある第1排気口は、除害塔(図示せず)、すなわち排気設備(スクラバー)につながっている。
【0037】
シリカガラスの合成は、炉内10における、第3の炉部8の内側、かつ、マッフル2および第1の炉部3の外側の領域を塩化水素雰囲気にして行うことが好ましい。通常、マッフル2や第1の炉部3を構成する炉材から放出されるNaは、合成時間とともにマッフル内面から減少していく。本発明では、第3の炉部8の内側の前記領域の雰囲気を塩化水素にすることで、マッフル2外表面からNaを除去して、マッフル2を純化する。この結果、例えば、新しい炉を搭載したときに、インゴット5内部に取り込まれるNa量を短期間で減少させることができる。塩化水素雰囲気とする場合には、排気口に酸を中和する機構を持たせたスクラバーを設けておくことが好ましい。また、排熱によりマッフル2と第1の炉部3の温度も保温する効果があり、シリカガラス5の合成に必要なガス量が低減できる効果がある。
【0038】
前記のとおり、本発明の合成シリカガラス製造装置では、炉体10をマッフル2、第1の炉部3および第2の炉部4で形成し、第3の炉8をマッフル2および第1の炉部3を囲繞するように第2の炉部4上に設けた三段構造とすることで、炉体10内に上昇気流が発生するのを効果的に防止し、安定した品質のシリコンガラスインゴットを製造することができる。
【実施例0039】
以下、本発明を実験例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらにより制限されるものではない。
【0040】
[実施例1]
図1に示す合成シリカガラス製造装置を用いてインゴットを合成した。すなわち、バーナー1がマッフル2上部からターゲット7に先端を向けて設置されており、マッフル2の下方に第1の炉部3を設け、さらにその下方に第2の炉部4を設け、さらにマッフル2および第1の炉部3を囲むように、その頂部にスクラバーへ通ずる第1排気口6を有し、第2の炉部4と第2排気口9で接続された第3の炉部8を設けてある。前記バーナー1はシリカガラス製で、マッフル2および第1の炉部3は高アルミナ質の耐火物製である。マッフル1の内径はφ800mm、外径はφ1070mm、高さは500mmとした。第1の炉部3の内径はφ900mm、外径はφ1090mm、高さは200mmとした。第2の炉4の内径はφ1500mm、高さは1500mmとした。第3の炉8の内径は1500mm、高さは1500mmとした。
【0041】
マッフル2および第1の炉部3は、未使用の新品を用いた。ケイ素化合物として四塩化ケイ素を75g/minで供給し、キャリアガスとして酸素、可燃性ガスとして水素、支燃性ガスとして酸素を用い、φ700mm、800kgのシリカガラスインゴット5を合成した。インゴット5内部の欠陥数は0個であり、インゴット5合成に使用した平均水素ガス流量は35m3/hであった。インゴット5上部からサンプリングを行い、最外周部のNa濃度を測定したところ、Na濃度は10ppbであった。また、他のアルカリ金属いずれも100ppb以下であった。
【0042】
[実施例2]
実施例1と同じ装置を用い、マッフル2の内径はφ570mm、外径はφ990mm、長さは500mmとした。第1の炉部3の内径はφ650mm、外径はφ1020mm、高さは200mmとした。第2の炉4の内径はφ1500mm、高さは1500mmとした。第3の炉8の内径は1500mm、高さは1500mmとした。マッフル2および第1の炉部3は、未使用の新品を用いた。ケイ素化合物として四塩化ケイ素を75g/minで供給し、キャリアガスとして酸素、可燃性ガスとして水素、支燃性ガスとして酸素を用い、φ500mm、350kgのインゴット5を合成した。インゴット5内部の欠陥数は0個であり、インゴット5の合成に使用した平均水素ガス流量は25m3/hであった。インゴット5上部からサンプリングを行い、最外周部のNa濃度を測定したところ、Na濃度は15ppbであった。また、他のアルカリ金属いずれも100ppb以下であった。
【0043】
[比較例1]
第3の炉8が無く、第2の炉4にスクラバーへ通ずる排気口を有した図2に示すシリカガラス製造装置を用いてインゴットを合成した。マッフル2の内径はφ800mm、外径はφ1070mm、高さは500mmとした。第1の炉部3の内径はφ900mm、外径はφ1090mm、高さは200mmとした。第2の炉4の内径はφ1500mm、高さは1500mmとした。
【0044】
マッフルと、第1の炉部3については、未使用の新品を用いた。ケイ素化合物として四塩化ケイ素を75g/minで供給し、キャリアガスとして酸素、可燃性ガスとして水素、支燃性ガスとして酸素を用い、φ700mm、800kgのインゴット5を合成した。インゴット5内部の欠陥数は0個であり、インゴット5の合成に使用した平均水素ガス流量は40m3/hであった。インゴット5上部からサンプリングを行い、最外周部のNa濃度を測定したところ、Na濃度は300ppbであった。
【0045】
[比較例2]
比較例1と同じ装置を用い、マッフル2の内径はφ910mm、外径はφ1180mm、高さは500mmとした。第1の炉部3の内径はφ1200mm、外径は1390mm、高さは200mmとした。第2の炉4の内径はφ1500mm、高さは1500mmとした。マッフル2と、第1の炉部3については、未使用の新品を用いた。ケイ素化合物として四塩化ケイ素を75g/minで供給し、キャリアガスとして酸素、可燃性ガスとして水素、支燃性ガスとして酸素を用い、φ700mm、80kgのインゴット5を合成した。インゴット5内部の欠陥数は10個であり、インゴット5の合成に使用した平均水素ガス流量は45m3/hであった。インゴット5上部からサンプリングを行い、最外周部のNa濃度を測定したところ、Na濃度は410ppbであった。
【0046】
従来の合成シリカガラス製造装置および製造方法を用いた比較例1及び比較例2と比べ、本発明の合成シリカガラス製造装置および製造方法を用いた実施例1および2では、インゴットに取り込まれたNa量および内部欠陥数が格段に少なくなることが確認された。また、本発明の合成シリカガラス製造装置および製造方法によればインゴット合成に必要な平均ガス流量が低下し、生産性の向上が図られた。
【符号の説明】
【0047】
1 バーナー
2 マッフル
3 第1の炉部
4 第2の炉部
5 シリカガラスインゴット
6 第1排気口
7 ターゲット
7a インゴット昇降軸
8 第3の炉部
9 第2排気口
10 炉体
図1
図2