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  • 特開-生体吸収性縫合糸 図1
  • 特開-生体吸収性縫合糸 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032178
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】生体吸収性縫合糸
(51)【国際特許分類】
   A61L 17/06 20060101AFI20220217BHJP
   A61L 17/10 20060101ALI20220217BHJP
   A61L 17/14 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61L17/06
A61L17/10 100
A61L17/14 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135706
(22)【出願日】2020-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木南 啓司
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC02
4C081BA16
4C081CA161
4C081CA162
4C081CB011
4C081CB012
4C081CC01
4C081DA04
4C081DB07
4C081DC03
4C081EA06
(57)【要約】
【課題】コーティングが剥がれ難い生体吸収性縫合糸を提供する。
【解決手段】生体吸収性材料からなる糸の表面にコーティング層を有する生体吸収性縫合糸であって、前記糸はモノフィラメント糸であり、前記糸の表面に溝を有する生体吸収性縫合糸。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料からなる糸の表面にコーティング層を有する生体吸収性縫合糸であって、前記糸はモノフィラメント糸であり、前記糸の表面に溝を有することを特徴とする生体吸収性縫合糸。
【請求項2】
前記溝が螺旋状又は直線状であることを特徴とする請求項1記載の生体吸収性縫合糸。
【請求項3】
前記糸がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなることを特徴とする請求項1又は2記載の生体吸収性縫合糸。
【請求項4】
前記コーティング層がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体又はグリコリド-ラクチド共重合体であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の生体吸収性縫合糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングが剥がれ難い生体吸収性縫合糸に関する。
【背景技術】
【0002】
手術用縫合糸は古くから用いられている医療用具の一つである。近年では手術後の抜糸が不要である生体内分解吸収性の縫合糸が多用されるようになってきている。かかる吸収性縫合糸としては、ポリグリコリド等を原料とした縫合糸が市販されている。
【0003】
手術用縫合糸の態様としては、単一の繊維のみからなるモノフィラメント縫合糸や、複数の繊維からなるマルチフィラメント縫合糸が知られている。なかでも、胃や腸管等の運動の多い消化器の吻合、縫合の用途等では、柔軟性が高いマルチフィラメント縫合糸が好適である。更に、組紐機を用いて複数のマルチフィラメント糸を組紐状に編み込んだ組紐状縫合糸は、特に高い柔軟性と高い引張強力、結節強力とを両立できることが知られている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-14987号公報
【特許文献2】特開2008-113790号公報
【特許文献3】特開2004-250853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年の医療技術の進歩によって、内視鏡を使った手術が広く行われるようになってきた。内視鏡手術はカメラの映像を見ながら遠隔操作によって行われるため、従来の手術用縫合糸よりもさらに作業性に優れた縫合糸が求められる。そこで、縫合糸の表面にコーティングを施し作業性を向上させることが提案されている。しかしながら、従来の表面にコーティングが施された縫合糸は、縫合の際の摩擦等によってコーティングが剥がれやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、コーティングが剥がれ難い生体吸収性縫合糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体吸収性材料からなる糸の表面にコーティング層を有する生体吸収性縫合糸であって、前記糸はモノフィラメント糸であり、前記糸の表面に溝を有する生体吸収性縫合糸である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、生体吸収性縫合糸の表面に溝を設けることで、コーティング剤が溝によってアンカリングされ、剥がれ難くなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の生体吸収性縫合糸は、生体吸収性材料からなる糸を有する。
糸の成分として生体吸収性材料を用いることで、縫合部位が再生するにつれて縫合糸が体内へ吸収されることから、抜糸を行う必要がなく、安全性が高い。
上記糸を構成する生体吸収性材料としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。なかでも、適度な生体分解速度と強度を有することからラクチド-ε-カプロラクトン共重合体であることが好ましい。
【0010】
上記糸は、モノフィラメント糸である。
モノフィラメント糸を用いることで、表面が平滑であることから縫合操作時に組織を傷つけることがなく、かつキャピラリー性がないことから感染の危険性が格段に低くなる。
【0011】
上記生体吸収性材料がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体である場合、上記糸は、直径が0.05mm以上0.6mm以下であることが好ましい。上記糸の直径が上記範囲であることで、引張強力、結節強力に優れる吸収性縫合糸とすることができる。上記糸の直径のより好ましい下限は0.1mm、より好ましい上限は0.5mmである。
【0012】
上記糸は、表面に溝を有する。
糸の表面に溝を設けることで、溝にコーティング剤がアンカリングされ、摩擦等によるコーティングの剥がれを抑えることができる。上記溝は連続的であっても断続的であってもよいが、生産が容易であり、よりコーティングを剥がれ難くできることから連続した溝であることが好ましい。また、上記溝はコーティングをより剥がれ難くする観点から上記糸の表面に均等に設けることが好ましい。
【0013】
上記溝の断面形状は特に限定されず、V字状であってもU字状であってもよく、表面に細かな凹凸を有していてもよい。中でもアンカリング性能が高く、よりコーティングを剥がれ難くすることができることから、上記溝の断面形状はV字状が好ましい。
【0014】
上記溝のパターンは特に限定されないが、螺旋状又は直線状であることが好ましい。
溝のパターンを螺旋状又は直線状とすることで、後述する方法により容易かつ均等に糸の表面に溝を設けることができる。特にコーティングを剥がれ難くできることから、上記溝は2本の互いに巻きが反対の螺旋からなる溝であることがより好ましい。
【0015】
ここで、上記糸の構造の例を表した模式図を図1に示した。図1(a)は1本の螺旋からなる溝、図1(b)は2本の互いに巻きが反対の螺旋からなる溝、図1(c)は直線状の溝をそれぞれ有する糸を表している。図1(a)~(c)に示すように、糸1の表面に溝2を設けることで、溝2にコーティング剤がアンカリングされ、その結果、摩擦等によるコーティングの剥がれを抑えることができる。特に、図1(b)に示すような2本の互いに巻きが反対の螺旋からなる溝を設けると、より多方向の力に耐えられることからコーティングを更に剥がれ難くすることができる。
【0016】
上記溝2の幅(図1中の3)は特に限定されないが、上記溝2が螺旋状である場合、糸1の直径の0.01倍以上0.5倍以下であることが好ましい。また、上記溝2が直線状である場合、糸1の直径の0.01倍以上1倍以下であることが好ましい。溝の幅3を上記範囲とすることでよりコーティングを剥がれ難くすることができる。上記溝2が螺旋状である場合、上記幅3は糸1の直径の0.05倍以上0.2倍以下であることがより好ましく、上記溝2が直線状である場合、糸1の直径の0.05倍以上0.2倍以下であることがより好ましい。
【0017】
上記溝2のピッチ(図1中の4)、つまり、上記溝2間の距離は特に限定されないが、上記溝2が螺旋状である場合、糸1の直径の0.1倍以上5倍以下であることが好ましい。また、上記溝2が直線状である場合、糸1の直径の0.01倍以上3倍以下であることが好ましい。溝2のピッチを上記範囲とすることでよりコーティングを剥がれ難くすることができる。上記溝2が螺旋状である場合、上記ピッチは糸1の直径の0.5倍以上2倍以下であることがより好ましく、上記溝が直線状である場合、糸1の直径の0.1倍以上1倍以下であることがより好ましい。
【0018】
上記糸を製造する方法は上記溝が形成されれば特に限定されないが、例えば図2に示すような方法が挙げられる。図2(a)は1本の螺旋からなる溝、図2(b)は2本の互いに巻きが反対の螺旋からなる溝、図2(c)は直線状の溝をそれぞれ有する糸の製造方法を表している。図2(a)に示すように、溶融した上記生体吸収性材料を金型から吐出して糸とする際に、上記金型の形状を円形の一部に山型の凸部を有する形状とし、更に、金型を回転させることで表面に1本の螺旋からなる溝を有する糸を製造することができる。また、図2(b)に示すように、図1(a)と同様の金型を1組用意して重ね合わせ、互いに逆の方向に回転させることで、2本の互いに巻きが反対の螺旋からなる溝を有する糸を製造することができる。更に、図2(c)に示すように、山型の凸部を複数有する金型にそのまま通すことで直線状の溝を有する糸を製造することができる。
【0019】
上記コーティング層を構成する材料は、特に限定されないが、コーティング層がより剥離し難くなることから、上記糸に近い材料を用いることが好ましい。例えば、上記糸がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体である場合、上記コーティング層を構成する材料はラクチド-ε-カプロラクトン共重合体又はグリコリド-ラクチド共重合体が好ましい。
【0020】
上記ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体をコーティング層に用いる場合、上記ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体における、各モノマーに由来する構造の好ましい割合は上記糸の組成によって異なる。上記糸がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体である場合、コーティング層のラクチド-ε-カプロラクトン共重合体中におけるラクチドに由来する構成単位の割合(モル%)は、上記糸の組成比によっても異なるが、例えば、3モル%以上12モル%以下、20モル%以上30モル%以下、45モル%以上55モル%以下等が挙げられる。上記ラクチドに由来する構成単位の割合が上記範囲にあることで、より作業性に優れる生体吸収性縫合糸とすることができる。
【0021】
上記グリコリド-ラクチド共重合体をコーティング層に用いる場合、上記グリコリド-ラクチド共重合体における、グリコリドに由来する構成単位とラクチドに由来する構成単位との比(モル%)は、好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記グリコリドに由来する構成単位とラクチドに由来する構成単位とのモル比が上記範囲にあることで、より作業性に優れる生体吸収性縫合糸とすることができる。上記グリコリドに由来する構成単位とラクチドに由来する構成単位とのモル比のより好ましい下限は65モル%、より好ましい上限は75モル%である。
【0022】
上記コーティング層は、滑剤を含有していてもよい。
コーティング層に滑剤を配合することで、より操作性と強度を高めることができる。上記滑剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウムなどの高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0023】
上記滑剤の含有量は、コーティング層の主となる材料によって適宜調節される。また、上記コーティング層の主となる材料が共重合体である場合は、各モノマーに由来する構造の比によっても好ましい含有量が変化する。例えば、コーティング層の主な材料がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、上記滑剤がステアリン酸カルシウムであり、上記ε-カプロラクトン:ラクチド=88~97:12~3モル%である場合、上記ステアリン酸カルシウムの含有量は0.01wt%以上1.5wt%であることが好ましい。また、上記ε-カプロラクトン:ラクチドが70~80:30~20モル%の共重合体の場合には0.1wt%以上2.5wt%以下、45~55:55~45モル%の共重合体の場合には1.0wt%以上3.0wt%以下であることが好ましい。
【0024】
上記コーティング層を形成する方法は特に制限されず、例えば、上記コーティング層の材料を溶かした溶液に上記糸を浸漬、攪拌した後に乾燥させる方法等によって形成することができる。
【0025】
コーティング層の材料としてラクチド-ε-カプロラクトン共重合体又はグリコリド-ラクチド共重合体を用い、コーティング層を形成する方法として上記方法を用いる場合、上記共重合体を溶かした溶液中の上記共重合体の濃度は3重量%以上7重量%以下であることが好ましい。上記共重合体の濃度がこの範囲内であることによって、コーティング層の厚さを適切なものとでき、より作業性に優れる生体吸収性縫合糸とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、コーティングが剥がれ難い生体吸収性縫合糸を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】糸の構造の例を表した模式図である。
図2】糸を製造する方法の一例を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
溶融させた重量平均分子量50万のラクチド-ε-カプロラクトン共重合体(ラクチドに由来する構成単位:ε-カプロラクトンに由来する構成単位のモル比=75:25)を回転する図2(a)に示すような金型から吐出することで、1本の螺旋からなる溝を有する糸(直径:0.24mm、溝の断面形状:V字状、溝の幅:0.02mm、溝のピッチ:0.3mm)を得た。一方、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体(ラクチドに由来する構成単位:ε-カプロラクトンに由来する構成単位のモル比=8:92、以下PLCL(8:92)と言う。)をスクリュー管に量り取り、クロロホルムに溶かして、5重量%の溶液とした。この溶液に、得られた糸を浸漬し、5分間攪拌した。その後、糸を溶液から取出し、ドラフト内にて室温で風乾することで表面にPLCL(8:92)によるコーティング層を有する生体吸収性縫合糸を得た。
【0030】
(実施例2)
糸を製造する際の吐出口の金型を図2(b)に示すような1組の金型とし、それぞれの金型を逆方向に回転させながら実施例1と同様のラクチド-ε-カプロラクトン共重合体を吐出することで、2本の互いに巻きが反対の螺旋からなる溝を有する糸(直径:0.22mm、溝の断面形状:V字状、溝の幅:0.02mm、溝のピッチ:0.3mm)を得た。得られた糸を用いた以外は実施例1と同様にして生体吸収性縫合糸を得た。
【0031】
(実施例3)
糸を製造する際の吐出口の金型を図2(c)に示すような金型とし、金型を回転させずそのまま実施例1と同様のラクチド-ε-カプロラクトン共重合体を吐出することで、4本の直線状の溝を有する糸(直径:0.22mm、溝の断面形状:V字状、溝の幅:0.02mm、溝のピッチ:0.15mm)を得た。得られた糸を用いた以外は実施例1と同様にして生体吸収性縫合糸を得た。
【0032】
(比較例1)
通常の溶融紡糸に用いる金型を用い、溝のない糸とした以外は実施例1と同様にして生体吸収性縫合糸を得た。
【0033】
<評価>
実施例及び比較例で得られた生体吸収性縫合糸について、下記の項目について評価した。結果を表1に示した。
【0034】
(1)作業性の評価
得られた生体吸収性縫合糸を鶏肉に繰り返し通した際の作業性を官能評価により定性的に評価した。
【0035】
(2)コーティング耐久性の評価
上記作業性の評価後の生体吸収性縫合糸の表面を顕微鏡にて観察し、コーティングの剥離の有無を確認した。
【0036】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、コーティングが剥がれ難い生体吸収性縫合糸を提供することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 糸
2 溝
3 溝の幅
4 溝のピッチ
図1
図2