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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032267
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】ケーブル引抜装置
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/06 20060101AFI20220217BHJP
【FI】
H02G1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135875
(22)【出願日】2020-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】520303461
【氏名又は名称】斉藤 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 義信
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352CA09
5G352CK08
(57)【要約】
【課題】ケーブルの把持不良が生じにくく、ケーブルを確実に引き抜くことができるケーブル引抜装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るケーブル引抜装置は、地下空間部の壁面Wから突出するケーブルCを挿通可能な挿通孔を有する装置本体2及び把持部5を備え、装置本体2は、壁面Wから離間する後方に作動するアクチュエータ36を備え、把持部5は、アクチュエータ36と作動的に連結されるヘッド6と、ヘッド6の挿通孔内におけるケーブルC周りに配されて楔作用によりケーブルCを把持する楔部材7とを備え、楔部材7は、楔本体70と、ヘッド6から突出して外部から操作可能な入力部71とを備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下空間部の壁面から突出するケーブルを挿通可能な挿通孔を有する装置本体及び把持部を備え、
装置本体は、壁面から離間する後方に作動するアクチュエータを備え、
把持部は、アクチュエータと作動的に連結されるヘッドと、ヘッドの挿通孔内におけるケーブル周りに配されて楔作用によりケーブルを把持する楔部材とを備え、
楔部材は、楔本体と、ヘッドから突出して外部から操作可能な入力部とを備える
ケーブル引抜装置。
【請求項2】
ヘッドは、挿通孔の外周の複数箇所に、テーパ面となっている底面を有する溝を備え、
楔本体は、溝の底面に対応してテーパ面となっている外面と、ケーブルを把持する把持面となっている内面とを有し、溝にスライド自在かつ抜き差し自在に挿入される
請求項1に記載のケーブル引抜装置。
【請求項3】
溝は、ヘッドの挿通孔の外周の3箇所ないし4箇所に設けられ、
楔部材は、溝の数に対応して、3つないし4つ設けられる
請求項2に記載のケーブル引抜装置。
【請求項4】
入力部は、楔本体の後端部に接続され、ヘッドの後端面から離間し、ヘッドの挿通孔の中心線と交差する方向に広がりを有する
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のケーブル引抜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下管路内に残置される使用済みのケーブルを撤去する際に用いるケーブル引抜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のケーブル引抜装置は、マンホール、ハンドホール、とう道といった地下空間部の壁面から突出するケーブルを把持し、壁面から離間する方向に力を加えて、ケーブルを引き抜くというものであり、たとえば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載のケーブル引抜装置は、ケーブルを挿通可能な挿通孔を有する装置本体及び把持部を備え、装置本体は、壁面から離間する方向に伸長する油圧シリンダを備え、把持部は、油圧シリンダのピストンロッドと連結されるヘッドと、ヘッドの挿通孔内におけるケーブル周りに配されて楔作用によりケーブルを把持する楔部材とを備える。楔部材は、バネにより前方に付勢されている。これにより、油圧シリンダのピストンロッドが伸長し始めると、楔部材は、楔作用によりケーブルを把持する。この状態で、ピストンロッドの伸長に伴って把持部が壁面から離間する方向に移動することにより、ケーブルは、ピストンロッドのストローク分だけ引き抜かれる。そして、ケーブルは、この動作の繰り返しにより引き抜かれていく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-340611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のケーブル引抜装置にあっては、バネ力だけでは付勢力が十分でないため、適切な楔作用を得られない可能性がある。そして、この場合、楔部材は、ケーブルを把持することができず、ケーブルの表面を滑るばかりで、ケーブルを引き抜くことができないという事態が発生する。
【0006】
また、通信ケーブルの場合、別の懸念事項がある。通信ケーブルは、多数本(50ないし150本程度)の絶縁信号線が束ねられ、外周がシース(外部被覆)で被覆された構造であるが、絶縁信号線束は、多数の絶縁信号線を束ねただけであるため、外力によって大きな断面形状変化を起こしやすく(潰れやすく)、また、シースは、薄い合成樹脂製被覆であるため、伸びやすくかつ破断しやすい。このため、通信ケーブルは、取り扱いが非常に困難であり、バネ力という画一的ないし単純な方法では、適切に把持できないケースが頻発することが予測される。
【0007】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、ケーブルの把持不良が生じにくく、ケーブルを確実に引き抜くことができるケーブル引抜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るケーブル引抜装置は、
地下空間部の壁面から突出するケーブルを挿通可能な挿通孔を有する装置本体及び把持部を備え、
装置本体は、壁面から離間する後方に作動するアクチュエータを備え、
把持部は、アクチュエータと作動的に連結されるヘッドと、ヘッドの挿通孔内におけるケーブル周りに配されて楔作用によりケーブルを把持する楔部材とを備え、
楔部材は、楔本体と、ヘッドから突出して外部から操作可能な入力部とを備える
ケーブル引抜装置である。
【0009】
ここで、本発明に係るケーブル引抜装置の一態様として、
ヘッドは、挿通孔の外周の複数箇所に、テーパ面となっている底面を有する溝を備え、
楔本体は、溝の底面に対応してテーパ面となっている外面と、ケーブルを把持する把持面となっている内面とを有し、溝にスライド自在かつ抜き差し自在に挿入される
との構成を採用することができる。
【0010】
この場合、
溝は、ヘッドの挿通孔の外周の3箇所ないし4箇所に設けられ、
楔部材は、溝の数に対応して、3つないし4つ設けられる
との構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明に係るケーブル引抜装置の他態様として、
入力部は、楔本体の後端部に接続され、ヘッドの後端面から離間し、ヘッドの挿通孔の中心線と交差する方向に広がりを有する
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、楔部材の入力部に対する操作を行うことにより、楔部材の把持力を調整可能である。このため、本発明によれば、ケーブルの種類や状態に応じて楔部材の把持力を調整することにより、ケーブルの把持不良が生じにくく、ケーブルを確実に引き抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル引抜装置の側面図である。
図2図2は、同ケーブル引抜装置の前方から見た斜視図である。
図3図3は、同ケーブル引抜装置の後方から見た斜視図である。
図4図4(a)は、同ケーブル引抜装置の装置本体の本体部のベースの側面図である。図4(b)は、同ベースの前方から見た正面図である。図4(c)は、同ベースの後方から見た正面図である。
図5図5(a)は、同本体部の一部断面側面図である。図5(b)は、同本体部の前方から見た正面図である。図5(c)は、同本体部の後方から見た正面図である。
図6図6(a)は、同装置本体の当接部の側面図である。図6(b)は、同当接部の前方から見た正面図である。図6(c)は、同当接部の後方から見た正面図である。
図7図7(a)は、同ケーブル引抜装置の把持部のヘッドの側面図である。図7(b)は、同ヘッドの後方から見た正面図である。図7(c)は、同ヘッドの縦断面図である。図7(d)は、同把持部の楔部材が装着された状態の同ヘッドの縦断面図である。
図8図8(a)は、同楔部材の側面図である。図8(b)は、同楔部材の拡大側面図である。図8(c)は、同楔部材の後方から見た正面図である。図8(d)は、図8(b)のA-A線断面図である。
図9】同ケーブル引抜装置を用いてケーブルを引き抜く作業の説明図である。
図10図9の続きの説明図である。
図11図10の続きの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るケーブル引抜装置の一実施形態として、地下管路内に残置される使用済みの通信ケーブルをマンホールの中から引き抜くためのケーブル引抜装置について、図面を参酌して説明する。
【0015】
図1ないし図3に示すように、ケーブル引抜装置1は、装置本体2と、把持部5とを備える。装置本体2は、本体部3と、当接部4とを備える。本体部3は、ケーブル引抜装置1の重心位置ないしその近傍に、U字環からなる掛止部35を備える。この掛止部35にワイヤロープ及びフックで構成される吊下げ具Hが掛止されて、ケーブル引抜装置1は、水平状態に吊下げ可能となる。把持部5は、ヘッド6と、楔部材7とを備える。なお、図1において、左側は、マンホールの壁面側であり、便宜上、「前」又は「前方」といい、右側は、壁面から離間する側であり、便宜上、「後」又は「後方」という。すなわち、ケーブル引抜装置1において、装置本体2は、前方に位置し、把持部5は、後方に位置する。装置本体2において、本体部3は、後方に位置し、当接部4は、前方に位置する。把持部5において、ヘッド6は、前方に位置し、楔部材7は、後方に位置する。楔部材7は、前方部分がヘッド6内に挿入され、後方部分がヘッド6から後方に突出する。
【0016】
図4及び図5に示すように、本体部3は、ベース30と、アクチュエータとしての油圧シリンダ36とを備える。
【0017】
ベース30は、前板31と、後板32と、管体33とを備える。前板31及び後板32は、前後に所定間隔を有して対向配置される。前板31及び後板32は、中心部に孔を有する。管体33は、前板31及び後板32の孔に挿通される。本実施形態においては、前板31及び後板32は、円板であり、前板31及び後板32の孔は、前板31及び後板32の中心を中心とする円孔であり、管体33は、挿通孔33aを有する円筒管である。これにより、管体33の挿通孔33aは、前板31及び後板32と同心である。
【0018】
管体33の前方の所定部分は、前板31から前方に突出する。管体33の後端部は、後板32から後方に突出せず、後板32と面一である。前板31、後板32及び管体33は、溶接等の接合手段により接合され、一体化される。
【0019】
前板31及び後板32間には、周方向の複数箇所に、補強板34が配置される。補強板34は、前板31に接する前縁、後板32に接する後縁、及び、管体33の表面に軸方向に沿って接する内縁を有し、前板31、後板32及び管体33に溶接等の接合手段により接合される。これにより、前板31、後板32及び管体33は、補強され、ベース30は、強固な剛体となる。本実施形態においては、補強板34は、ベース30の周方向の等分6箇所に放射状に設けられる。
【0020】
前板31は、周方向の複数箇所に、係止部31aを備える。係止部31aは、油圧シリンダ36のシリンダチューブ360の前端部を係止するためのものである。本実施形態においては、係止部31aは、前板31を貫通する孔であり、前板31の周方向の等分3箇所であって、補強板34,34間に位置するように設けられる。後板32は、周方向の複数箇所に、係止部32aを備える。係止部32aは、シリンダチューブ360の後端部を係止するためのものである。本実施形態においては、係止部32aは、後板32の外縁から中心方向に向けて形成される切欠きであり、係止部31aの数に対応して、後板32の周方向の等分3箇所であって、補強板34,34間に位置するように設けられる。
【0021】
油圧シリンダ36は、シリンダチューブ360と、ピストンロッド361とを備える。シリンダチューブ360は、ベース30の前板31及び後板32間に固定される。より詳しくは、シリンダチューブ360の前端部は、縮径され、係止部31aに挿通された状態で、前端部の外周に形成された雄ネジ(図示しない)にナット363が前板31の前方から螺合することにより、前板31に固定される。シリンダチューブ360の後端部は、係止部32aに係入された状態で、後端部の外周に形成された雄ネジ(図示しない)にナット364が後板32の前方から螺合するとともに、スペーサ365を介して雄ネジにナット366が後板32の後方から螺合することにより、後板32に固定される。
【0022】
ピストンロッド361は、収縮する第1状態と、後板32から後方に伸長する第2状態とを切り替え可能に作動する。ピストンロッド361は、先端にジョイント362を備える。ジョイント362は、中央部が除去されて二股状となっており、両方を跨って係合部362aを備える。本実施形態においては、係合部362aは、両方を貫通する孔である。また、本実施形態においては、油圧シリンダ36は、ベース30の周方向の等分3箇所であって、ベース30の補強板34,34間に位置するように3本平行に設けられる。これに伴い、ジョイント362は、後板32の周方向の等分3箇所であって、後板32から後方に離間して位置するように設けられる。
【0023】
図6に示すように、当接部4は、前板40と、後板41とを備える。前板40及び後板41は、前後に所定間隔を有して対向配置される。前板40及び後板41の間隔は、ベース30の前板31から前方に突出する管体33の前方部分の長さに相当する。前板40は、中心部に孔40aを有する。後板41は、中心部に孔41aを有する。孔40a,41aは、管体33の外径よりもわずかに大きい内径を有し、管体33の前方部分を挿入可能である。本実施形態においては、前板40及び後板41は、円板であり、孔40a,41aは、前板40及び後板41の中心を中心とする円孔である。
【0024】
当接部4に管体33の前方部分が挿入された状態においては、ベース30の前板31と当接部4の後板41とが面当接する。後板41は、周方向の複数箇所に、逃がし部41bを備える。逃がし部41bは、シリンダチューブ360の前端部及びナット363との干渉を避けるためのものである。本実施形態においては、逃がし部41bは、後板41の外縁から中心方向に向けて形成される切欠きであり、油圧シリンダ36の数に対応して、後板41の周方向の等分3箇所に設けられる。
【0025】
前板40及び後板41間には、周方向の複数箇所に、連結板42が配置される。連結板42は、前板40に接する前縁及び後板41に接する後縁を有し、前板40及び後板41に溶接等の接合手段により接合される。これにより、前板40及び後板41は、一体化され、当接部4は、強固な剛体となる。本実施形態においては、連結板42は、前板40及び後板41の周方向で逃がし部41bがない箇所に放射状に設けられる。
【0026】
図7に示すように、ヘッド6は、ヘッド本体60を備える。ヘッド本体60は、挿通孔60aを有するフランジ形状体ないし筒状体である。ヘッド本体60は、外周面の複数箇所に、ブラケット61を備える。ブラケット61は、ヘッド本体60の外周面から径外方向に突出し、係合部61aを備える。本実施形態においては、ブラケット61は、油圧シリンダ36のジョイント362の数に対応して、ヘッド本体60の周方向の等分3箇所に放射状に設けられる。また、本実施形態においては、係合部61aは、ブラケット61を貫通する孔である。
【0027】
ブラケット61は、油圧シリンダ36のジョイント362の股に挿入可能な厚みを有する。ブラケット61がジョイント362の股に挿入された状態において、ジョイント362の係合部362aとプラケット61の係合部61aとは、一致する(同心となる)。一致した係合部362a,61aにピン62(図3参照)が挿通されることにより、ヘッド6は、油圧シリンダ36のピストンロッド361の先端に連結される。この状態において、ヘッド6の挿通孔60aは、装置本体2の挿通孔33aと同心であり、ケーブルは、装置本体2からヘッド6にかけて、挿通可能となる。
【0028】
挿通孔60aは、引き抜き対象となるケーブルの外径より大きな内径を有する。本実施形態においては、外径60mmまでのケーブルを引き抜き対象としており、挿通孔60aの内径は、70mmに設定される。なお、挿通孔60aの内径は、引き抜き対象となるケーブルの外径よりも大きく、ケーブルの外径の125%以下、より好ましくは120%以下に設定される。
【0029】
ヘッド6(ヘッド本体60)は、挿通孔60aの外周の複数箇所に、溝63を備える。溝63は、ヘッド6の前端面から後端面に亘り、挿通孔60aの中心線に沿って形成される。溝63は、底面63aと、左右の側面63b,63bとを有する。底面63aは、楔作用を生じさせるために、前方に向かって溝63の深さが浅くなる(後方に向かって溝63の深さが深くなる)テーパ面(傾斜面)となっている。側面63b,63bは、平行な面である。本実施形態においては、溝63は、ヘッド6の周方向の等分4箇所に放射状に設けられる。
【0030】
楔部材7は、溝63にスライド自在かつ抜き差し自在に挿入される。図8に示すように、楔部材7は、楔本体70と、入力部としての打叩部71とを備える。本実施形態においては、楔部材7は、溝63の数に対応して、4つ設けられる。
【0031】
楔本体70は、外面70aと、内面70bと、左右の側面70c,70cとを有する。外面70aは、楔作用を生じさせるために、前方に向かって低くなる(後方に向かって高くなる)テーパ面(傾斜面)であって、溝63の底面63aの傾斜角度と等しいテーパ面となっている。外面70aは、幅狭部70a1により、溝63の底面63aとの接触面積が小さくなっている。このため、楔部材7は、溝63の底面63aから受ける摩擦抵抗が少なく、溝63にスライド自在かつ抜き差し自在に挿入される。
【0032】
内面70bは、溝63及び楔本体70の寸法関係から、楔部材7が溝63に挿入された状態で、常時、溝63から挿通孔60a内に突出し、ケーブルの表面に圧接してケーブルを把持する把持面となっている。内面70bは、挿通孔60aの中心線に沿った面である。楔部材7が前方にスライドすると、内面70bは、挿通孔60aの中心方向に移動する。他方、楔部材7が後方にスライドすると、内面70bは、挿通孔60aの径外方向に移動する。これにより、各楔部材7が前方にスライドすると、内面70b,70b間が狭くなり、各内面70bに内接する内接円が小さくなり、ケーブルの把持力は大きくなる。他方、各楔部材7が後方にスライドすると、内面70b,70b間が広くなり、各内面70bに内接する内接円が大きくなり、ケーブルの把持力は小さくなる。
【0033】
側面70c,70cは、平行な面である。側面70c,70cの間隔、すなわち、楔本体70の幅は、溝63の側面63b,63bの間隔、すなわち、溝63の幅よりも小さい。これにより、このため、楔部材7は、溝63の側面63b,63bから受ける摩擦抵抗が少なく、溝63にスライド自在かつ抜き差し自在に挿入される。
【0034】
打叩部71は、楔本体70の後端部に接続され、挿通孔60aの径外方向に屈曲形成される。これにより、打叩部71は、ヘッド6の後端面から離間し、挿通孔60aの中心線と交差する方向に広がりを有し、ハンマー等で打叩することが可能となる。
【0035】
本実施形態に係るケーブル引抜装置1は、以上の構成からなる。次に、このケーブル引抜装置1を用いたケーブルの引き抜き方法について、図面を参酌して説明する。
【0036】
図9(a)に示すように、引き抜き対象は、マンホールの地下空間部の壁面WのダクトDから地下空間部内に突出する通信ケーブルCである。通信ケーブルCは、多数本の絶縁信号線が束ねられ、絶縁信号線束C1の外周がシースC2で被覆された構造である。まず、ケーブル引抜装置1がクレーン等を用いて吊下げ具Hで吊下げられ、地下空間部内に吊り降ろされる。そして、図9(b)に示すように、ケーブル引抜装置1は、挿通孔33a,60aに通信ケーブルCが挿通され、当接部4(の前板40)が壁面Wに当接するように、配置される。
【0037】
次に、図10(a)に示すように、ヘッド6の溝63に楔部材7がセットされる。そして、各楔部材7は、他の楔部材7と独立して、あるいは、他の楔部材7との関係を見ながら、打叩部71にてハンマー等で打叩され、適切な把持力となるように位置調整される。この操作により、通信ケーブルCは、ヘッド6及び楔部材7に把持される。この状態で、図10(b)に示すように、油圧シリンダ36が作動し、ピストンロッド361が伸長する。これにより、ヘッド6及び楔部材7は、壁面Wから離間する後方に移動し、通信ケーブルCは、ピストンロッド361のストローク分だけ引き抜かれる。
【0038】
次に、一旦、楔部材7がヘッド6から引き抜かれて外され、通信ケーブルCの把持が解除された状態で、図11(a)に示すように、油圧シリンダ36が作動し、ピストンロッド361が収縮する。これにより、ヘッド6は、壁面Wに接近する前方に移動する。この状態で、図11(b)に示すように、再び、楔部材7がセットされ、通信ケーブルCは、ヘッド6及び楔部材7に把持される。そして、再び、油圧シリンダ36が作動し、通信ケーブルCは、ピストンロッド361のストローク分だけ引き抜かれる。
【0039】
この動作の繰り返しにより、通信ケーブルCは、引き抜かれていく。そして、ある程度の長さが引き抜かれると、あとは、地上又は地下空間部内に設置される巻上機等が用いられて、通信ケーブルCは、地下管路から完全に抜き取られる。ただし、ケーブル引抜装置1だけで通信ケーブルCの引き抜き作業を完結させるようにしてもよい。
【0040】
このように、本実施形態に係るケーブル引抜装置1によれば、楔部材7の打叩部71に対する前方(又は後方)への外力入力操作を行うことにより、楔部材7の把持力を調整可能である。このため、本実施形態に係るケーブル引抜装置1によれば、ケーブルの種類や状態に応じて楔部材7の把持力を調整することにより、ケーブルの把持不良が生じにくく、ケーブルを確実に引き抜くことができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0042】
たとえば、上記実施形態においては、アクチュエータは、油圧シリンダ36であり、油圧シリンダ36は3本用いられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。油圧シリンダ以外の公知のアクチュエータを用いることができ、また、アクチュエータの数も特に限定されない。
【0043】
また、上記実施形態においては、溝63及び楔部材7の数は4つである。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。溝及び楔部材の数は特に限定されない。ただし、ケーブルの外周への適切な配置及びこれによる適切な把持力の発揮という観点から、溝及び楔部材の数は、3つないし4つ、そして、これらが等分配置(均等配置)される、というのが好ましい。
【0044】
また、上記実施形態においては、把持力調整のための楔部材7への外力入力方法は、打叩である。しかし、本発明は、打叩以外の方法で楔部材を操作するようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施形態においては、ヘッド6の溝63は、挿通孔60aの中心線に沿った溝である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。溝は、挿通孔の中心線に対して傾斜する傾斜溝や、スパイラル溝や、ヘリカル溝であってもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、引き抜き対象は、通信ケーブルである。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。たとえば、電力ケーブルであってもよい。
【0047】
また、「円」、「中央」、「中心」、「端部」、「等分」、「均等」、「平行」といった形状、部位又は状態を特定する用語は、本発明において、そのもののほか、それに近いないし類するという意味の「略」の概念も含むものである。
【符号の説明】
【0048】
1…ケーブル引抜装置、2…装置本体、3…本体部、30…ベース、31…前板、31a…係止部、32…後板、32a…係止部、33…管体、33a…挿通孔、34…補強板、35…掛止部、36…油圧シリンダ(アクチュエータ)、360…シリンダチューブ、361…ピストンロッド、362…ジョイント、362a…係合部、363…ナット、364…ナット、365…スペーサ、366…ナット、4…当接部、40…前板、40a…孔、41…後板、41a…孔、41b…逃がし部、42…連結板、5…把持部、6…ヘッド、60…ヘッド本体、60a…挿通孔、61…ブラケット、61a…係合部、62…ピン、63…溝、63a…底面、63b…側面、7…楔部材、70…楔本体、70a…外面、70a1…幅狭部、70b…内面、70c…側面、71…打叩部(入力部)、C…通信ケーブル、C1…絶縁信号線束、C2…シース、D…ダクト、H…吊下げ具、W…壁面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11