(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032487
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】水晶発振装置
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20220217BHJP
H03H 9/19 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
H03B5/32 H
H03B5/32 A
H03B5/32 E
H03H9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136326
(22)【出願日】2020-08-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.自社(リバーエレテック株式会社)のウェブサイト 2020年6月5日公開 2.電波新聞 2020年6月10日 第4面 3.日刊工業新聞 2020年6月10日 第9面 4.プロダクトナビ 2020年7-8月号 第14頁 2020年7月27日発行 5.新製品情報 2020年8月号 第28頁 2020年8月1日発行
(71)【出願人】
【識別番号】000237444
【氏名又は名称】リバーエレテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097043
【弁理士】
【氏名又は名称】浅川 哲
(72)【発明者】
【氏名】山形 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】丸山 春樹
(72)【発明者】
【氏名】芦沢 英紀
【テーマコード(参考)】
5J079
5J108
【Fターム(参考)】
5J079AA04
5J079BA02
5J079DA25
5J079FA01
5J079FB25
5J079FB29
5J079FB35
5J079HA04
5J079HA06
5J079HA12
5J079HA14
5J079HA22
5J079JA03
5J108AA02
5J108AA04
5J108BB02
5J108CC04
5J108CC11
5J108DD06
5J108DD07
5J108EE02
5J108EE07
5J108EE13
5J108EE18
5J108GG03
5J108GG15
5J108GG16
5J108JJ04
5J108KK05
(57)【要約】
【課題】 良好な周波数温度特性を有しつつ、発振周波数の高精度な調整が容易な水晶発振装置を提供することにある。
【解決手段】 GTカットの水晶振動子10,20と、前記水晶振動子10,20を発振させる発振回路、該発振回路の出力周波数にロックさせるPLL部及び出力分周器を有する発振制御部5と、を有し、前記水晶振動子10,20と発振制御部5とが一つのパッケージに収納され、前記水晶振動子10,20は、所定の周波数温度特性となるように調整された厚みの励振電極を有し、前記発振制御部5は、所定の分周比と、前記周波数温度特性を有する前記水晶振動子10,20の振動周波数とに基づいて出力周波数が調整される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GTカットの水晶振動子と、
前記水晶振動子を発振させる発振回路、該発振回路の出力周波数にロックさせるPLL部及び出力分周器を有する発振制御部と、を有し、
前記水晶振動子と発振制御部とが一つのパッケージに収納されている水晶発振装置。
【請求項2】
前記水晶振動子は、所定の周波数温度特性となるように調整された厚みの励振電極を有し、
前記発振制御部は、所定の分周比と、前記周波数温度特性を有する前記水晶振動子の振動周波数とに基づいて出力周波数が調整される請求項1に記載の水晶発振装置。
【請求項3】
前記水晶振動子は、幅縦モードの主振動を伴う一対の主振動辺及びこの一対の主振動辺と直交し、長さ縦モードの副振動を伴う一対の副振動辺からなる振動板と、
前記一対の主振動辺の少なくとも一方から外方向に延びる支持アームと、
前記振動板の外周に設けられ、前記支持アームの一端が接続されるフレームと、を備えている請求項1又は2に記載の水晶発振装置。
【請求項4】
前記支持アームは、前記主振動辺と前記フレームとの間が一つの経路によって結ばれ、その間に複数の屈曲部を有している請求項3に記載の水晶発振装置。
【請求項5】
前記パッケージは、前記水晶振動子と発振制御部とが平面配置される凹部を有するセラミックケースと、前記凹部内を気密封止する金属リッドとによって形成されている請求項1に記載の水晶発振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い温度範囲で良好な周波数精度が得られるGTカットの水晶振動子とPLLを含む発振制御部とを1パッケージ化した水晶発振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子は、水晶結晶から切り出されるカット角に応じて、振動モードや周波数温度特性が異なる。ATカットの水晶振動子は、小型で比較的広い温度範囲で安定した発振周波数を得ることができるため、広く使用されている。また、ATカット水晶振動子に温度補償回路を追加した温度補償型水晶発振器(TCXO)も広く使用されている。このTCXOは、広い温度範囲でより優れた周波数温度特性を有しているが、温度補償回路の動作温度範囲は限定されたものとなっている。一方、GTカット水晶振動子は、水晶振動子単体での周波数温度特性がATカット水晶振動子よりも良好なため、TCXOのような温度補償回路を使用することなく、優れた周波数温度特性を得ることができるという特徴を有している。
【0003】
前記水晶振動子は、カット角に応じて、目標とする発振周波数が得られるように、形状や各部の寸法、励振電極パターンなどが設定される。ただし、このような設定値に基づいて製造された場合であっても、製造条件や周囲環境によって目標値からずれる場合がある。このため、製造の最終段階で出力周波数の微調整が行われている。
【0004】
上記周波数調整を容易にするため、ATカットの水晶振動子からなる水晶発振器と発振制御部とを1パッケージ化した水晶発振装置が知られている(特許文献1)。前記発振制御部には、電圧制御型発振器(VCO)、PLL回路、分周回路等を含んでいる。また、特許文献2には、常温での周波数調整するための電極箇所と、周波数温度特性を調整する電極箇所とを別々に設け、それぞれ独立に調整可能なGTカット水晶振動子の周波数調整方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-177406号公報
【特許文献2】特開昭57-188121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記水晶振動子と発振制御部とを備えた従来の水晶発振装置は、主にATカットの水晶振動子が使用されている。このようなATカットの水晶振動子と発振制御部とを1パッケージ化することによって、実装設計及び発振周波数の調整が容易となるが、GTカットの水晶振動子のような良好な周波数温度特性を得ることができない。
【0007】
一方、TCXOでは、温度が変化したときのATカット水晶振動子の周波数誤差を補正するために、発振回路の発振ループ内に負荷容量が温度により変化する回路が含まれている。このため、温度による周波数ズレと逆特性になる負荷容量に調整(温度補償)することで、温度が変化したときの周波数誤差を小さくしている。しかしながら、負荷容量で周波数を調整できる範囲は限定的であること、また、125℃を超えるような温度においては、温度補償回路が正常に動作しないといった問題を有していた。
【0008】
一方、GTカットの水晶振動子はATカットの水晶振動子に比べて広い温度範囲で良好な周波数温度特性を有しているため、外付けの温度補償回路を組み合わせなくても良好な周波数特性を得ることができる。しかしながら、GTカット水晶振動子にも製造バラツキが生じると共に、常温での周波数誤差や周波数温度特性のバラツキも発生するため、常温周波数や周波数温度特性の微調整は必要となる。ここで、常温周波数を調整するために、ATカット水晶振動子と同じように水晶片の両面に形成されている電極の少なくとも片方を少しずつ削っていき、質量を軽くすることで周波数を調整した場合、電極を削ることにより周波数温度特性が連動して変化してしまい、本来有していた広い温度範囲で良好な周波数精度を維持できなくなる。それとは逆に、周波数温度特性を水晶片の両面に形成されている電極の少なくとも片方を少しずつ削りながら調整した場合には、常温周波数が目標周波数に到達しない。両方を同時に調整することは非常に困難である。これを解決するために、特許文献2では、常温での周波数調整するための電極箇所と、周波数温度特性を調整する電極箇所を別々に設け、それぞれ独立に調整できるとしている。しかしながら、大量に生産する場合に、このような微細な調整をすることは難しく、さらに実際にはある程度独立してはいるものの、連動性も有しており、完全に独立して微細な調整をすることは困難であった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、広い温度範囲で良好な周波数温度特性を有しつつ、発振周波数の高精度な調整が容易な水晶発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の水晶発振装置は、GTカットの水晶振動子と、前記水晶振動子を発振させる発振回路、該発振回路の出力周波数にロックさせるPLL部及び出力分周器を有する発振制御部と、を有し、前記水晶振動子と発振制御部とが一つのパッケージに収納されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水晶発振装置によれば、広い温度範囲において良好な周波数温度特性を有するGTカットの水晶振動子と、発振回路、PLL部及び出力分周器を有する発振制御部とを1パッケージ化したことによって、GTカットの水晶振動子が有する良好な周波数温度特性の下で発振周波数の高精度且つ容易な調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の水晶発振装置の内部構造を示す斜視図である。
【
図2】水晶発振装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)基本構成によるGTカットの水晶振動素子の平面図、(b)断面図(b)である。
【
図4】実使用形態のGTカットの水晶振動素子の平面図である。
【
図5】GTカットの水晶振動素子と、発振制御部とを配置したパッケージ内の平面図である。
【
図6】励振電極の厚みによる周波数温度特性の変化を実験値で示したグラフである。
【
図7】(a)1次温度係数αの変化、(b)2次温度係数βの変化、(c)主振動の周波数変化を示したグラフである。
【
図8】所定の励振電極の厚みにおいて製造誤差を加味したときの周波数温度特性を示すグラフである。
【
図9】励振電極の厚み毎にα調整したときの周波数温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る水晶発振装置の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明の水晶発振装置1は、パッケージ2と、このパッケージ2内に収納されるGTカットの水晶振動素子(GTカットブランク)10と、1チップ化された発振制御部(集積IC)5とを備えている。前記パッケージ2は、前記GTカットブランク10と集積IC5とが平面配置可能な凹部3aを有するセラミックケース(ケース)3と、このケース3を封止する金属リッド(リッド)4とによって構成されている。前記リッド4は、前記ケース3の凹部3aの縁面3bは、リッド4が密着されるシール部となっている。なお、GTカットについては、NS-GTカットと称される場合もあり、以下の説明ではこれらを含めてGTカットとする。
【0014】
前記凹部3aの底部には、GTカットブランク10がマウントされるマウント電極16及び集積IC5との電気的接続のための電極パターン(図示せず)が形成されている。前記GTカットブランク10は振動部12の両側面から延びる一対の支持アーム13が接続されるフレーム14が導電性接着剤を介してマウント電極16に固定及び電気的に接続される。集積IC5は、ボンディングワイヤ7を介して前記凹部3a内の電極パターン上に電気的に接続されている。なお、集積IC5は、フリップチップによって実装する場合もある。本実施形態では、GTカットブランク10と集積IC5とを平面状に配置しているが、上下に重ねて配置する場合もある。前記ケース3の裏面には基板に実装するための複数の外部電極6が形成されている。前記外部電極6には、電圧を供給するVCC、GNDの他、集積IC5を制御する制御信号端子を含んでいる。
【0015】
図2は上記水晶発振装置1の構成をブロック図で示したものである。集積IC5は、発振回路、デジタル方式のPLL部及び出力分周器を備えている。PLL部は、発振回路によって出力される信号とプログラマブル分周器を介して帰還された信号の位相を比較する位相比較器と、位相比較器を通した信号を平滑化するローパスフィルタと、入力信号によって発振周波数を制御するVCOと、VCOによって制御された信号を外部から任意の分周比に変換するプログラマブル分周器とを備えている。
【0016】
図3は、基本形状からなるGTカットブランク10の平面形態(a)及び振動部の断面形態(b)を示したものである。このGTカットブランク10は、輪郭振動を伴う基本形状からなり、幅縦・長さ縦結合モードの振動を発生させるための四角形状の振動板11と、この振動板11の一側面から外方向に延びる支持アーム13と、この支持アーム13を支持するフレーム14とを備えて一体形成されている。
【0017】
幅縦・長さ縦結合モードは、通常、長さ縦モードの振動周波数を調整して、幅縦モードに結合させることにより、温度特性の良好な振動子特性を得る。前記支持アーム13は、長さ縦モードの振動に対する錘として機能すると共に、バネ性を有しているため、長さ縦振動を抑制しながら周波数を調整する役割を備えている。
【0018】
前記GTカットブランク10は、機械軸(Y軸)に垂直となるY板水晶を、電気軸(X軸)を回転軸として角度θx=+45°~+53°回転し、更に、前記X軸の回転後の新軸(Y´軸)を回転軸として、角度θy=40°~50°回転した回転角(カット角)θで切り出され、上下面及び四方向の側面を有する薄板状の水晶基板を所定の形状に加工して形成されている。また、前記Y軸の回転後の新軸であるY´軸に垂直な面となる振動板11の表面及び裏面には極性の異なる少なくとも一対の励振電極17,18(17の裏面側)が対向して配置されている。なお、前記振動板11、支持アーム13及びフレーム14は、前記水晶基板を所定形状に加工して形成される。なお、ここでの軸の取り方はJISC6704の定義に従っており、X軸のプラス回転はJISC6704のATカット側の回転と定義しており、以下も同様である。
【0019】
前記振動板11は、幅縦の主振動を生じさせるように対向する一対の主振動辺12c,12dが間隔Mで設定され、長さ縦の副振動を生じさせるように前記主振動辺(12c,12d)と直交する方向に対向する一対の副振動辺12a,12bが間隔Sで設定された四角形状の振動部12によって形成されている。
【0020】
前記主振動辺間隔(M)、副振動辺間隔(S)、振動板11の厚み(T)との辺比は、発振させる周波数によって異なるが、本実施形態では、Mは733μm、辺比S/M=1.037、辺比T/M=0.041として、周波数4.5MHzのGTカット水晶振動子とした。その他の周波数の場合には、辺比S/M=1~1.45の範囲で設定され、振動板11の厚み(T)は辺比T/Mが0.1よりも小さくなるように設定される。
【0021】
前記振動部12には、表面に第1の励振電極17、裏面に第2の励振電極18が形成されている。この第1及び第2の励振電極17,18に対して逆位相の電圧をフレーム14及び支持アーム13を介して印加することで、前記主振動辺(12c,12d)及び副振動辺(12a,12b)が撓み変形して幅縦・長さ縦結合モードの振動が生じる。なお、結合している場合には、主振動辺間隔(M)が伸びるときには副振動辺間隔(S)は縮み、主振動辺間隔(M)が縮むときには副振動辺間隔(S)は伸びる振動をする。
【0022】
前記支持アーム13は、前記一方の副振動辺(12a,12b)の中央に接続され、フレーム14との間が連続した一つの経路によって弾性を有して結ばれた形状になっている。このような梁形状を有した支持アーム13は、幅縦モードの主振動の振動節部である辺(12a,12b)の中央に接続されているため、主振動への影響が微少なものとなっている。さらに辺(12a,12b)の中央は副振動の振動腹部でもあるため、支持アーム13は副振動の振動を適度に抑制し、副振動で発振することを防ぐようにも設計されている。
【0023】
図1に示したように、前記GTカットブランク10は、フレーム14を介してケース3に固定され、前記支持アーム13を介して振動部12の第1の励振電極17及び第2の励振電極18に電圧が印加される。前記フレーム14及び支持アーム13は、振動部12を支持するための強度を保持しつつ、可能な限り軽量であることが望ましい。
【0024】
前記支持アーム13は、長さ縦モードの振動に対する錘として機能すると共に、バネ性を有しており、副振動の周波数を主振動の周波数に対して、本実施形態では90.81%~90.87%低い値に調整する役割を備える。設計によっては88%~94%の範囲に設定される場合もある。また、主振動の振動を妨げないために、前記支持アーム13は副振動方向に屈曲した部分を有して長く形成するのが好ましい。
図4は実使用形態のGTカットブランク20の平面図、
図5は前記GTカットブランク20と集積IC5とを1パッケージ化した平面図である。本実施形態のGTカットブランク20は、
図3に示したGTカットブランク10と同様に、幅縦・長さ縦結合モードの振動を発生させるための四角形状の振動板11と、この振動板11の両側面から外方向に延びる一対の支持アーム23と、この一対の支持アーム23を支持するフレーム24とを備えて一体形成されている。前記一対の支持アーム23は、主振動の振動を妨げることのないように、屈曲部25を多数設けた構成となっている。本実施形態では、ケース3の凹部3a内にコンパクトに収容させるため、屈曲部25を四角形状の振動部12の両側面から左右対称となるようにフレーム24に向けて蛇行させるようにして形成した。このように、屈曲部25を複数有する一対の支持アーム23によって振動部12を支持することによって、不要振動のない良好な周波数温度特性を得ることができる。前記フレーム24は、導電性接着剤15を介してマウント電極16に電気的に接続される。また、
図5に示したように、前記GTカットブランク20と、集積IC5とを一つのパッケージ2内に収納し、相互に電気的接続を図ることで、出力周波数の安定化と調整の容易化の両方を同時に図ることができる。
【0025】
上記構成からなるGTカットブランク20は、水晶ブランクのフォトリソ製造工程の加工精度で±3000ppm程度の周波数精度となるように加工され、周波数温度特性の調整は、励振電極17,18の厚みを調整することによって行う。
【0026】
図6は励振電極の厚みによる周波数温度特性を示した実験結果であり、
図7は
図6の実験結果によって得られる1次温度係数αと2次温度係数βの変化及び主振動の周波数変化の関係を示したものである。ここで、
図7(a),(b)の横軸は励振電極の厚み(Å)、縦軸は周波数温度係数を示す。
図7(c)の横軸は励振電極の厚み(Å)、縦軸は振動周波数(MHz)を示す。なお、励振電極の構成は、コンタクトメタルとして厚みが50Åのクロム(Cr)、主電極には金(Au)を使用しており、グラフに示した励振電極の厚みは表裏の合計値を示している。
【0027】
一般的に、水晶で形成された圧電振動子(水晶振動子)の周波数温度係数α,β,γと周波数偏差Δf/fとの間には3次までのテイラー展開項をとり、以下のように表される。
Δf/f=α(t-t0)+β(t-t0)2+γ(t-t0)3
ただし、α:1次温度係数
β:2次温度係数
γ:3次温度係数
t0:テイラー展開温度
水晶振動子は、t0=20℃または25℃で使用温度範囲たとえば-40~+125℃で周波数温度特性が最小になるようにα=0付近の最適値に設定され、そのときのβ,γの値によって周波数温度特性が決定される。
【0028】
本発明の水晶発振装置1においては、GTカットブランク20の調整を周波数温度特性に限定させるだけでよい。このため、主振動の周波数の変化にかかわらず周波数温度特性が設定した温度範囲で最小になるように、1次温度係数αと2次温度係数βとが概ねゼロ値になるような厚みに励振電極17,18を加工する。良好な周波数温度特性を得るためには、αとβがともにゼロ値になることが望ましく、このような結果となるようにGTカットブランク20のカット角や辺比S/M、辺比T/Mなどが予め設定されている。本実施形態では、励振電極17,18の合計厚みを700Åから1600Åまでの範囲で加工調整することによって、広い温度範囲でフラットな周波数温度特性を得ることができる。周波数温度特性に対しての寄与率は、α>β>γであることは知られており、
図7に示した実験結果によって、α>βであることが確認されている。本実施形態の構成においてGTカットブランク20を製造した場合には、3次温度係数γは0.02×10
-10/℃
3前後となり、周波数温度特性への影響は小さいものとなる。このため、γについての図示は省略している。
図8に示したように、水晶ブランクの加工寸法バラツキによってαのバラツキが発生した場合には、励振電極の厚み(Au膜厚)を調整することによってαを変化させる。このときβ、γもやや連動するが効果が少ないため、
図9に示したような良好な周波数温度特性を維持することができる。このように、GTカットブランク20は、振動部幅と周波数が比例関係になるため、加工精度が良ければ周波数温度特性は追加調整が不要な程度まで小さく抑えることができる。
【0029】
なお、励振電極の厚みによる周波数温度特性の調整は、以下に示すような複数の手法が取られる。
(1)ウェハ工程において、抜き取りで周波数温度特性を測定し、ウェハ全体に同一厚みの励振電極を形成することで周波数温度特性を調整する。この場合、ウェハ全体をプラズマエッチング、イオンビームエッチング、アルゴンビームエッチング等によって励振電極の厚みを調整する場合と、成膜によって励振電極の厚みを調整する場合の二通りの対応が可能である。
(2)ウェハ工程でGTカットブランク個々の周波数温度特性を測定し、個々に励振電極の厚みをプラズマエッチング、イオンビームエッチング、アルゴンビームエッチング等の加工などによって周波数温度特性を調整する。
(3)GTカットブランクをケースに収納した後、発振回路で個々に周波数温度特性を測定し、個々に励振電極の厚みをプラズマエッチング、イオンビームエッチング、アルゴンビームエッチング等の加工などによって周波数温度特性を調整する。
【0030】
このようにして調整されたGTカットブランク20は、集積IC5と共にケース3内に収納して封止した後、次に示すような最終の周波数調整が行われる。
図2に示したPLL部では、VCOが水晶発振回路に位相ロックするように制御電圧を出力する。制御電圧は6桁以上の分解能を有しており、例えばVCOの出力周波数を1ppm以下の精度で制御することができる。また、出力分周器における分周比は、1/512、1/256、1/196、1/180・・・等)の中から選定することができる。
【0031】
例えば、分周比として1/180を選定した場合において、
(1)GTカットブランク20の振動周波数が4.0MHz、水晶発振装置1の出力周波数を12.34MHzに調整する場合は、VCOの発振周波数をGTカットブランク20の振動周波数の555.3倍となる2221.200MHzにセットする。
(2)GTカットブランク20の振動周波数が4.1MHz、水晶発振装置1の出力周波数を12.34MHzに調整する場合は、VCOの発振周波数をGTカットブランク20の振動周波数の541.756倍となる2221.200MHzにセットする。
このように、GTカットブランク20の振動周波数の何倍にVCOの周波数をセットするかによって、水晶発振装置1の出力周波数を調整することができる。
【0032】
周波数温度特性はGTカットブランク20に依存するが、常温周波数精度はVCOの調整に依存させるため、GTカットブランク20に関しては温度特性に特化した設計にすることができる。
【0033】
通常、水晶発振器のコストアップの大きな原因の一つは、個々に周波数を測定しながら少しずつ調整するための手間のかかる工程を有することであるが、本発明の水晶発振装置では、PLLを介したデジタル的な調整となるので、調整に掛かるコストダウンが可能となる。一方、GTカットブランクにあっては、周波数温度特性のみ調整すればよく、常温周波数偏差の調整は不要なので、容易に安定した特性となるような調整が可能である。
【0034】
周波数のエージング特性をより改善するためには、GTカットブランクの表面に形成する励振電極の安定性が不可欠である。水晶ブランクそのものは物理的及び化学的特性が安定しているが、励振電極は酸化等による質量変化、拡散による密度の変化、結晶化によるスチフネス変化に対する変動要因がある。このように、経年変化等によってGTカットブランク20に不安定要因が生じた場合であっても、VCOによって外部からの再調整が可能になるといった利点がある。
【符号の説明】
【0035】
1 水晶発振装置
2 パッケージ
3 ケース
3a 凹部
3b 縁面
4 リッド
5 集積IC
6 外部電極
7 ボンディングワイヤ
10 GTカットブランク(水晶振動子)
11 振動板
12 振動部
12a,12b 副振動辺
12c,12d 主振動辺
13 支持アーム
14 フレーム
15 導電性接着剤
16 マウント電極
17 励振電極
18 励振電極
20 GTカットブランク(水晶振動子)
23 支持アーム
24 フレーム
25 屈曲部