(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032494
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】植物性蛋白素材及び該植物性蛋白素材を含む食品
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20220217BHJP
A23L 33/185 20160101ALI20220217BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20220217BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20220217BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220217BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20220217BHJP
【FI】
A23J3/14
A23L33/185
A23L33/115
A23L33/125
A23L33/10
A23L5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136336
(22)【出願日】2020-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 純
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
【Fターム(参考)】
4B018MD01
4B018MD14
4B018MD20
4B018MD48
4B018MD58
4B018ME14
4B018MF06
4B018MF08
4B018MF14
4B035LC01
4B035LG01
4B035LG15
4B035LG20
4B035LG22
4B035LG31
4B035LG33
4B035LP32
4B035LT05
(57)【要約】
【課題】 植物性蛋白原料の臭いを除去するための加熱処理工程等を含まずに、植物性蛋白原料由来の臭い自体が除去され、畜肉・魚肉・甲殻類肉などの天然素材と同等の香りを充分に感じることができる植物性蛋白素材を提供する。
【解決手段】 多孔質材料及び植物性蛋白を含み、前記多孔質材料は、活性炭及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする植物性蛋白素材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料及び植物性蛋白を含み、前記多孔質材料は、活性炭及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする植物性蛋白素材。
【請求項2】
前記多孔質材料の平均細孔径は、0.5~10nmである請求項1に記載の植物性蛋白素材。
【請求項3】
前記多孔質材料の比表面積は、100~1000m2/gである請求項1又は2に記載の植物性蛋白素材。
【請求項4】
前記多孔質材料を、0.01~1.0重量%含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の植物性蛋白素材。
【請求項5】
前記多孔質材料を、0.1~0.5重量%含有する請求項4に記載の植物性蛋白素材。
【請求項6】
前記植物性蛋白は、組織化されている請求項1~5のいずれか1項に記載の植物性蛋白素材。
【請求項7】
前記植物性蛋白は、層状又は繊維状に組織化されている請求項6に記載の植物性蛋白素材。
【請求項8】
前記植物性蛋白と前記多孔質材料と保湿ゲルとこれらを被覆する被膜とを有する請求項1~7のいずれか1項に記載の植物性蛋白素材。
【請求項9】
前記植物性蛋白は、組織化されている請求項8に記載の植物性蛋白素材。
【請求項10】
前記保湿ゲルは、油脂を含む請求項8又は9に記載の植物性蛋白素材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の植物性蛋白素材を含むことを特徴とする食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性蛋白素材及び該植物性蛋白素材を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、畜肉原料を取り巻く社会情勢は厳しくなる現状があり、畜肉の代替原料あるいは増量剤として大豆蛋白質等の植物性蛋白が使用される傾向が強まっている。
植物性蛋白は、加工食品の分野で広く利用されており、日本農林水産省において、「植物性たん白の日本農林規格」によって定義付けされている。この規格において、植物性蛋白の原材料は、大豆粉、脱脂大豆粉、小麦粉、小麦グルテン等から選ばれるものとされている。
【0003】
上記植物性蛋白の代表として、脱脂大豆や粉末状大豆蛋白素材を原料として組織化した組織状植物性蛋白素材は多様な用途に用いられており、ハンバーグやミートボール等の畜肉加工食品には挽肉の増量剤として組織状植物性蛋白が用いられている。
【0004】
一方、これらの組織状植物性蛋白素材の特徴として、咀嚼時にその原料由来の臭いが感じられ、牛や豚の挽肉食品に比べて香りが劣るという点が挙げられる。このような組織状植物性蛋白素材の臭気改良について様々な研究がなされてきている。
【0005】
例えば、特許文献1には、乾燥状態下の原料大豆を水蒸気の雰囲気下に空蒸処理して脱臭せしめることにより、無臭大豆パウダーを製造する技術が開示されている。
【0006】
一方、特許文献2には、大豆蛋白含有食品の製造の際に、トレハロースを添加することにより、食品本来の風味を損なうことなく、大豆特有の風味をマスキングすることを可能とする技術が開示されている。特許文献3には、大豆タンパク質に、少なくとも1種類の香辛料を配合することによって、大豆タンパク質が有する独特の臭いを低減するとする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-169741号公報
【特許文献2】特開平10-66516号公報
【特許文献3】特開2017-51161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、蛋白質原料に対して加熱処理が必要であり、製造に必要なエネルギーが多いため、植物性蛋白素材の価格が高くなってしまうという問題がある。
一方、特許文献2に開示された方法は、マスキング剤による臭いの低減であり、特許文献3に開示された方法は、香辛料添加による臭い低減であり、両者とも、独特の匂い自体を除去することはできておらず、臭いの除去に関し、満足できるものではない。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、植物性蛋白原料の臭いを除去するための加熱処理工程等を含まずに、植物性蛋白原料由来の臭い自体が除去され、畜肉・魚肉・甲殻類肉などの天然素材と同等の香りを充分に感じることができる植物性蛋白素材及び該植物性蛋白素材を含む食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の植物性蛋白素材は、多孔質材料及び植物性蛋白を含み、上記多孔質材料は、活性炭及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
本発明の植物性蛋白素材によれば、該植物性蛋白素材は、多孔質材料及び植物性蛋白を含み、上記多孔質材料は、活性炭及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むので、この多孔質材料が植物性蛋白原料由来の臭いの成分を吸着することにより脱臭することができる。従って、上記植物性蛋白素材を含む食品を咀嚼等した際であっても、植物性蛋白原料由来の臭いを感じることなく、畜肉・魚肉・甲殻類肉などの天然素材と同等の香りを充分に感じることができる。
また、加熱処理等を行う必要がないので、製造に必要なエネルギーが少なくなり、植物性蛋白素材の価格を低く抑えることができる。
【0011】
さらに、上記植物性蛋白原料由来の臭いを、他の成分によりマスキングするものではなく、上記の臭い自体を除去するものであるので、上記植物性蛋白素材を使用することにより得られる食品は、臭いや香りに対し、充分に満足できるものとなる。
なお、上記植物性蛋白の形状は特に限定されるものではなく、粉末状、粒状、繊維状、ペースト状等、いかなる形状のものであってもよい。
【0012】
本発明の植物性蛋白素材では、上記多孔質材料の平均細孔径は、0.5~10nmであることが望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の平均細孔径が、0.5~10nmであると、上記植物性蛋白原料由来の臭いの成分を、上記多孔質材料の開気孔の内部に物理吸着させることにより取り除くことができ、上記植物性蛋白原料由来の臭いを良好に除去することができる。
【0013】
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の平均細孔径が、0.5μm未満であると、上記多孔質材料の平均細孔径が小さすぎるため、上記植物性蛋白原料由来の臭いの成分を充分に吸着させることが難しく、脱臭効果が不充分になる。一方、本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の平均細孔径が、10μmを超えると、上記植物性蛋白原料由来の臭いの成分が一旦吸着しても、脱着し易くなり、脱臭効果が不充分になる。
【0014】
本発明の植物性蛋白素材では、上記多孔質材料の比表面積は、100~1000m2/gであることが望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の比表面積が、100~1000m2/gであると、上記多孔質材料が充分な大きさの表面積を有するので、多孔質材料の開孔を含む表面に臭いの成分が吸着し、上記多孔質材料を多量に添加しなくても、上記植物性蛋白原料由来の臭いを充分に除去することができる。
【0015】
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の比表面積が、100m2/g未満であると、上記多孔質材料の表面積が余り大きくないので、脱臭のためには、上記多孔質材料を多量に添加する必要が生じ、上記植物性蛋白素材を使用することにより得られる食品の味や食感等に悪い影響を及ぼす可能性が大きくなる。一方、本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の比表面積が、1000m2/gを超えると、上記多孔質材料の機械的特性が劣化し、上記多孔質材料が破壊され易くなり、吸着剤としての特性が劣化し易くなる。
【0016】
本発明の植物性蛋白素材では、上記多孔質材料を、0.01~1.0重量%含有することが望ましく、0.1~0.5重量%含有することがより望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料を、0.01~1.0重量%含有すると、上記植物性蛋白原料由来の臭いの成分を充分に取り除くことができる。
【0017】
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の含有割合が、0.01重量%未満であると、上記植物性蛋白原料由来の臭いの成分を充分に取り除くことが難しくなる。一方、上記多孔質材料の含有割合が、1.0重量%を超えると、脱臭効果は大きくなるが、多孔質材料を多量に含むことになるので、植物性蛋白素材を使用することにより得られる食品の色彩、味や食感等に悪い影響を及ぼす可能性が大きくなる。
【0018】
本発明の植物性蛋白素材では、上記植物性蛋白は、組織化されていることが望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記植物性蛋白が、組織化された組織状植物性蛋白であると、加熱調理後でもその硬さと凝集性は、畜肉・魚肉・甲殻類肉等の天然素材に近い噛み応えのあるものとなり、上記植物性蛋白素材を使用することにより得られる食品は、天然素材に近い食感を得ることができる。
【0019】
本発明の植物性蛋白素材では、上記植物性蛋白は、層状又は繊維状に組織化されていることが望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記植物性蛋白が、層状又は繊維状に組織化された組織状植物性蛋白であると、上記植物性蛋白素材を使用することにより得られる食品は、いっそう天然素材に近い食感となる。
【0020】
本発明の植物性蛋白素材は、上記植物性蛋白と上記多孔質材料と保湿ゲルとこれらを被覆する被膜とを有することが望ましく、上記植物性蛋白は、組織化されていることが望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記植物性蛋白素材が、組織化された植物性蛋白(組織状植物性蛋白)と多孔質材料と保湿ゲルとこれらを被覆する被膜とを有すると、従来の植物性蛋白素材を使用した場合に比べ、咀嚼時の植物性蛋白原料由来の臭いを感じることなく、天然素材の風味を再現することができる。従って、上記植物性蛋白素材を使用することにより得られる食品は、畜肉・魚肉・甲殻類肉などの天然素材と同等の香り、食感、ジューシー感及びこれらの持続性を有するものとなる。
【0021】
本発明の植物性蛋白素材では、上記保湿ゲルは、油脂を含むことが望ましい。
【0022】
本発明の食品は、上記の植物性蛋白素材を含むことを特徴とする。
本発明の食品によれば、上記食品は、上記の植物性蛋白素材を含むので、植物性蛋白原料由来の臭いを感じることなく、エキス及び香料の添加により天然素材の風味を再現することができ、畜肉・魚肉・甲殻類肉などの天然素材と同等の香り、食感、ジューシー感及びこれらの持続性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、層状植物性蛋白の一例を示す捜査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0024】
(発明の詳細な説明)
本発明の植物性蛋白素材について説明する。
本発明の植物性蛋白素材は、多孔質材料及び植物性蛋白を含み、上記多孔質材料は、活性炭及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明の植物性蛋白素材によれば、該植物性蛋白素材は、多孔質材料及び植物性蛋白を含み、上記多孔質材料は、活性炭及びゼオライトから選ばれる少なくとも1種を含むので、この多孔質材料が植物性蛋白原料由来の臭いの成分を吸着することにより脱臭することができる。従って、上記植物性蛋白素材を含む食品を咀嚼等した際であっても、植物性蛋白原料由来の臭いを感じることなく、畜肉・魚肉・甲殻類肉などの天然素材と同等の香りを充分に感じることができる。
また、加熱処理等を行う必要がないので、製造に必要なエネルギーが少なくなり、植物性蛋白素材の価格を低く抑えることができる。
さらに、上記植物性蛋白原料由来の臭いを、他の成分によりマスキングするものではなく、上記の臭い自体を除去するものであるので、上記植物性蛋白素材を使用することにより得られる食品は、臭いや香りに対し、充分に満足できるものとなる。
【0026】
(植物性蛋白)
本発明の植物性蛋白素材に含まれる植物性蛋白について説明する。
上記植物性蛋白は、植物由来の蛋白質を含むものであればよく、特に限定されるものではなく、種々の植物性原料から得ることができる。上記植物性原料としては、例えば、大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ豆、落花生、アーモンド、ルピナス、キマメ、ナタ豆、ツル豆、インゲン豆、小豆、ササゲ、レンズ豆、ソラ豆、イナゴ豆などの豆類や、ナタネ種子、ヒマワリ種子、綿実種子、ココナッツ等の種子類や、小麦、大麦、ライ麦、米、トウモロコシ等の穀類等が挙げられる。
【0027】
本発明の植物性蛋白素材では、植物性蛋白として、これらの植物性原料をそのまま用いてもよいが、上記植物性原料から、蛋白質を抽出したものや、蛋白質以外の成分、すなわち脂質、可溶性糖質、澱粉、不溶性繊維(オカラ)、ミネラルなどの一部又は全部を除去し、蛋白質の含量がより濃縮されたものを植物性蛋白として用いることが好ましい。上記植物性蛋白は、上記植物性原料の1種を用いたものであってもよく、2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
【0028】
このような植物性蛋白としては、例えば、大豆蛋白の場合、大豆由来の蛋白質を含む素材であればよく、丸大豆や半割れ大豆などの全脂大豆や、油脂を除去した減脂大豆や脱脂大豆、含水エタノール洗浄や酸性水洗浄等により蛋白質を濃縮した濃縮大豆蛋白、さらには分離大豆蛋白または豆乳、ならびにそれらの加水分解物、オカラ、ホエー等が挙げられ、これらの少なくとも1種以上を選択できる。
これらの大豆蛋白の形状としては、粉末状、粒状、繊維状等が挙げられる。
小麦蛋白としては小麦粉、小麦グルテン等が挙げられ、その形状としては、粉末状、粒状、ペースト状等が挙げられる。更に、植物性蛋白の酵素分解物、熱分解物等を用いてもよい。
【0029】
(多孔質材料)
次に、本発明の植物性蛋白素材に含まれる多孔質材料について説明する。
本発明の植物性蛋白素材に含まれる多孔質材料として、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭及びゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
上記活性炭としては、例えば、木、竹、ヤシ殻、クルミ殻等を原材料としたものが挙げられるほか、石炭や石油等を原材料としたものも挙げられる。通常、これらの原材料を800℃から950℃に加熱し、水蒸気や空気などの気体中で炭化させた後、破砕し、粒状、粉末状としたものを用いることができる。本発明では、ヤシ殻や竹を原料とした活性炭が望ましい。
【0031】
上記ゼオライトは、ミクロ多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩であり、その種類としては、天然ゼオライト、合成ゼオライトが挙げられる。上記合成ゼオライトの種類は多岐にわたっている。
これらのなかでは、優れた吸着能を有する天然ゼオライトが好ましいが、合成ゼオライトも使用することができる。上記合成ゼオライトのなかでは、A型、X型、LSX型が望ましい。
【0032】
上記した多孔質材料のなかでは、吸着性能に優れる活性炭が望ましい。ただし、活性炭は、黒色であるので、その含有量によっては、黒く着色しやすい。そこで、活性炭を添加する場合には、チタニア等の白色で食物に添加可能な添加剤をさらに添加することが望ましい。これにより、植物性蛋白素材が黒く着色するのを防止することができる。
【0033】
なお、多孔質材材料としては、シリカゲルも考えられるが、シリカゲルは、植物性蛋白原料由来の臭いを吸着する能力に乏しく、本発明で用いることができる多孔質材料としては、不適切である。
【0034】
これらの多孔質材料の平均細孔径は、0.5~10nmであることが望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の平均細孔径が、0.5~10nmであると、上記植物性蛋白原料由来の臭いの成分を、上記多孔質材料の開気孔の内部に物理吸着させることにより取り除くことができ、上記植物性蛋白原料由来の臭いを良好に除去することができる。
多孔質材料の平均細孔径は、十分に乾燥させたサンプルを、窒素ガスを用いたBET法にて、吸着温度77K、真空度1.0E-4Pa以下、リーク量1.0E-1Pa/min以下の条件で測定することができる。
【0035】
上記多孔質材料の比表面積は、100~1000m2/gであることが望ましい。
本発明の植物性蛋白素材において、上記多孔質材料の比表面積が、100~1000m2/gであると、上記多孔質材料が充分な大きさの表面積を有するので、多孔質材料の開孔を含む表面に臭いの成分が吸着し、上記多孔質材料を多量に添加しなくても、上記植物性蛋白原料由来の臭いを充分に除去することができる。
上記多孔質材料の比表面積は、BET法により測定することができる。
例えば、十分に乾燥させたサンプルを、窒素ガスを用いたBET法にて、吸着温度77K、真空度1.0E-4Pa以下、リーク量1.0E-1Pa/min以下の条件で測定することができる。
【0036】
上記植物性蛋白素材中の上記多孔質材料の平均粒子径は、1~30μmが望ましく、3~15μmがより望ましい。
上記多孔質材料の平均粒子径は、1~30μmであると、多孔質材料が植物性蛋白素材に含まれていても、植物性蛋白素材を含む食品を食した際、違和感を感じることなく、咀嚼することができる。
多孔質材料の平均粒子径は、SEM観察により測定することができる。加速電圧10kV、エミッションカレント10μA、倍率1K倍で観察した写真から、粒子をランダムに20個選択し、その粒子径を測定し、平均することで平均粒子径を算出することができる。
【0037】
上記多孔質材料の平均粒子径が1μm未満であると、脱臭性能が低下し易い。一方、上記多孔質材料の平均粒子径が30μmを超えると、植物性蛋白素材を含む食品を咀嚼した際、違和感を感じ易くなる。
【0038】
(植物性蛋白に含ませることが可能なその他の成分)
本発明の植物性蛋白素材では、上記植物性蛋白に、下記する炭水化物、pH調整剤、脂質、栄養分、調味成分等が含まれていてもよい。
【0039】
上記した植物性蛋白に、炭水化物を複合させることにより、組織化された植物性蛋白素材とすることができる。
炭水化物としては、例えば米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、馬鈴薯、サツマイモ等の炭水化物を多量に含む農産物から得られる、米澱粉、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、ジャガイモ澱粉、馬鈴薯澱粉等の澱粉が挙げられるほか、上記澱粉を加工、変性して得られる、例えば、α-化澱粉、デキストリン、難消化性デキストリン等の加工、変性澱粉が挙げられる。また、例えば、乳糖、ショ糖、砂糖、ハチミツ、澱粉糖等の糖類や、例えば、リンゴ、オレンジ、イチゴ、ブドウ等の果実の果肉又は果汁等が挙げられる。また、食物繊維としては、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、結晶セルロース、増粘多糖類等が挙げられる。これらの炭水化物は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
さらに、上記植物性蛋白に、pH調整剤を加えてpHを調整し、組織化された植物性蛋白素材とすることができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸又はその重縮合物、フィチン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマール酸、酢酸、アジピン酸、酒石酸、炭酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、又は、これらのカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム等の塩類等が用いられる。
これらのpH調整剤は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記植物性蛋白には、さらに脂質を加えてもよい。脂質としては、例えば、アマニ油、エゴマ油、シソ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、やし油、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、及び、魚油等の天然の油脂の他、炭素数6~12程度の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などが挙げられる。これらの脂質は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記植物性蛋白には、さらに、栄養分を加えてもよい。栄養分としては、マグネシウム、カリウム、鉄、カルシウム、及び、亜鉛等のミネラル、ビタミンA群、ビタミンB群、ビタミンC群、ビタミンD群、ビタミンE群及びビタミンK群等から選ばれる少なくとも1種のビタミン等が挙げられる。これらの栄養分は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
さらに、本発明の植物性蛋白には、調味成分を加えてもよい。調味成分としては、例えば、ジンジャーエキス、ニンジンエキス、トマトエキス等の野菜エキス、エビエキス、カニエキス、牡蠣エキス、ホタテエキス等の魚介エキス、ビーフエキス、ボークエキス、チキンエキス等の畜肉系エキス、主成分としてバニラ香料を含むバニラエキス、海藻からの抽出物である海藻エキス、例えば、サッカロマイセス・セルビシエ等のサッカロマイセス属酵母、トルラ酵母等の酵母からの抽出物である酵母エキス等のエキス、砂糖、塩、お酢、醤油、味噌、みりん、コンソメ、グルタミン酸ソーダ等のアミノ酸調味料、及び、こしょう等の香辛料等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
(組織状植物性蛋白)
上記の成分を含む植物性蛋白は、組織化された植物性蛋白(組織状植物性蛋白)であることが望ましい。組織状植物性蛋白の形状は、粉末状、粒状、層状、繊維状などいかなる形状でもよいが、特に層状、繊維状が天然素材に似ているため望ましい。
【0045】
図1は、層状植物性蛋白の一例を示すSEM写真である。
層状植物性蛋白とは、
図1に示すように、所定の厚さの層が2次元的に広がった形状の植物性蛋白をいう。この層は、
図1の写真に示すように、多数の層が折り重なるように形成されていてもよく、一又は少ない数の層が2次元的に水平方向に広がったものであってもよい。
層状植物性蛋白の一層の厚さは、0.01μm~1000μmが望ましい。なお、組織化された植物性蛋白が層状である場合、一層の厚さは、乾燥状態における層状の組織状植物性蛋白の任意の30個について測定した最も短い部分を計測して得られた値の平均値を意味し、積層数は、層状の組織状植物性蛋白の任意の30個について測定した平均値を意味する。
【0046】
繊維状植物性蛋白では、その繊維径は、0.01μm~1000μmが望ましい。組織化された植物性蛋白が繊維状である場合、平均繊維径及びアスペクト比は、乾燥状態における繊維状の組織状植物性蛋白の任意の30個について測定した平均値を意味する。
【0047】
上記植物性蛋白が脱臭されているか否かは、ガスクロマトグラフを使用して脱臭前後の植物性蛋白の臭いの成分の濃度を測定する方法や、人が植物性蛋白を含む食品の臭いを嗅ぐか、植物性蛋白を含む食品を食し、脱臭前後で特定の臭い違いを判定する官能検査法が挙げられる。
【0048】
ガスクロマトグラフを使用する場合には、臭気を発生させ易くするため、植物性蛋白の温度を変えて測定してもよい。
官能検査を行う場合には、専門家に依頼して官能検査を行うことが望ましい。
【0049】
(植物性蛋白と多孔質材料と保湿ゲルと被膜とを有する植物性蛋白素材)
本発明の植物性蛋白素材には、上記多孔質材料及び上記植物性蛋白のほかに、保湿ゲル及び植物性蛋白等を被覆する被膜を有していることが望ましい。
【0050】
(保湿ゲル)
保湿ゲルとは、ゲル状の物質をいい、保湿ゲルが存在することにより、植物性蛋白素材を含む食品を咀嚼した際、ジューシー感を感じることができる。
保湿ゲル中には、ゲル化剤が含まれていることが望ましい。保湿ゲル中にゲル化剤が存在することにより、保湿ゲルとなる成分がゲル化する。
ゲル化剤としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、コンニャクマンナン(グルコマンナン)、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、カシアガム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリデキストロース等が挙げられる。上記したゲル化剤が含まれることにより、保湿ゲルとなる成分に含まれる他の成分がゲル化し、保湿ゲルとなる。ゲル化剤の含有割合としては、保湿ゲルの全体の重量に対して、0.3~20重量%であることが望ましく、0.5~5重量%がより望ましい。これらのゲル化剤は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
保湿ゲル中には、油脂が含まれていてもよい。油脂の含有量としては、保湿ゲルの全体の重量に対して、0.1~30重量%であることが望ましく、1~20重量%であることがより望ましい。
【0052】
保湿ゲル中に含まれる油脂類としては、例えば、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、こめ油、糠油、ベニバナ油、ヤシ油、パーム油、ひまわり油、荏油、エゴマ油、アマニ油、オリーブ油等の植物油脂;ラード(豚脂)、牛脂、鶏油、羊脂、馬脂、魚油、鯨油、乳脂肪等の動物油脂;それらの硬化油等が挙げられる。上記油脂は、融点が40℃以下のものが特に望ましい。温めて食べる際に液状化していると、ジューシー感を得ることができるとともに、豊かな風味を感じることができるからである。これらの油脂は単独で用いてよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
保湿ゲル中には、水が含まれていることが望ましい。水の含有割合としては、保湿ゲルの全体の重量に対して、40~99.7重量%であることが望ましく、80~99重量%がより望ましい。
【0054】
保湿ゲル中に、水及び水に可溶な成分を含む場合には、水はその成分を溶かし、コンソメスープのような水溶液となり、ゲル化剤によりゲル化され、保湿ゲルとなる。
また、水に不溶な固形成分が含まれている場合には、スラリー状態となり、ゲル化剤によりゲル化され、固形分を含む保湿ゲルとなる。
さらに、水等の分散媒中に油脂等の分散質が乳化した状態となる乳化液とすることもでき、ゲル化剤により保湿ゲルとなる。水の量が少ない場合には、乳化液をゲル状態とすることもできる。
単に、水等の分散媒に、油脂を分散させた状態としてもよい。
【0055】
保湿ゲルは、調味成分を含むことが好ましい。
調味成分としては、例えば、ジンジャーエキス、ニンジンエキス、トマトエキス等の野菜エキス、エビエキス、カニエキス、牡蠣エキス、ホタテエキス等の魚介エキス、ビーフエキス、ボークエキス、チキンエキス等の畜肉系エキス、主成分としてバニラ香料を含むバニラエキス、海藻からの抽出物である海藻エキス、例えば、サッカロマイセス・セルビシエ等のサッカロマイセス属酵母、トルラ酵母等の酵母からの抽出物である酵母エキス等のエキス、砂糖、塩、お酢、醤油、味噌、みりん、コンソメ、グルタミン酸ソーダ等のアミノ酸調味料、及び、こしょう等の香辛料等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
保湿ゲルに調味成分が含まれることにより、調味成分が局在化せず、従来のカプセル内に調味材を閉じ込めた場合と比べて、咀嚼時に均一な味わいを得ることができる。
また、調味成分としては、植物由来のものが好ましい。宗教上の理由から動物性食品を摂取できない者でも食することができるからである。
【0057】
(被膜)
本発明の植物性蛋白素材では、上記した上記植物性蛋白と上記保湿ゲルとを被覆する被膜を有することが望ましい。
【0058】
上記被膜としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、寒天、こんにゃく、カラギーナン(κタイプ、ιタイプ、λタイプ)、ジェランガム、ペクチン、及び、キサンタンガム等の炭水化物を含むものが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、アルギン酸ナトリウム、ペクチン等、金属イオンにより凝固する成分が好ましい。
【0059】
ペクチン等の炭水化物を凝固させる成分としては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウム、アルミニウムイオン等の金属イオンを含む化合物が挙げられる。
カルシウムイオンを供給するカルシウム塩として、例えば乳酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム等を、マグネシウムイオンを供給するマグネシウム塩として、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム等を、銅イオンを供給する銅塩として、グルコン酸銅、硫酸銅等を、アルミニウム塩として、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム等が挙げられる。
【0060】
上記被膜中には、保湿性の高い澱粉が含まれていてもよい。これらの保湿性の高い澱粉としては、加工澱粉、水あめ、還元水あめ、麦芽糖、マンナン粉等が挙げられる。
上記被膜の融点は、180℃以上であることが望ましい。加熱した際に、簡単に破損せず、咀嚼により初めて、被膜が破れ、被膜内部の保湿ゲルや植物性蛋白が放出され、香り、食感、ジューシー感及びこれらの持続性を有する植物性蛋白素材となるからである。
【0061】
上記被膜は、ある程度の機械的強度を有することが好ましい。食べ応えを有する植物性蛋白素材であることが望ましいからである。
被膜の厚さは、マイクロスコープで観察し、最も厚さが小さくなる部分を計測して得られた値を被膜の厚みとする。
【0062】
本発明の植物性蛋白素材は、多孔質材料と植物性蛋白のみを含むものであってもよく、多孔質材料と植物性蛋白と炭水化物を複合させた植物性蛋白であってもよく、さらに、多孔質材料と炭水化物、pH調整剤、脂質、栄養分、エキス、及び、香料のうち、少なくとも1種を加えた植物性蛋白であってもよい。
上記植物性蛋白は、層状、繊維状等の組織状植物性蛋白であることが望ましい。
【0063】
さらに、本発明の植物性蛋白素材は、上記した植物性蛋白(組織状植物性蛋白)に保湿ゲルとこれらを被覆する被膜とを有するものであることが望ましい。
【0064】
本発明の植物性蛋白素材は、上記のように、組織化された植物性蛋白と保湿ゲルとこれらを被覆する被膜とを有することが望ましく、酵素系結着剤やカードを結着剤として用いることにより、植物性蛋白素材を積層、成形することができる。
【0065】
上記植物性蛋白素材中の植物性蛋白の含有割合は、5~80重量%であることが望ましく、10~30重量%がより望ましい。植物性蛋白の含有割合が10%未満ではタンパク質摂取素材として効率が悪い場合がある。
上記植物性蛋白素材中の保湿ゲルの含有割合は、20~95重量%が望ましく、70~90重量%がより望ましい。
【0066】
次に、組織化された植物性蛋白と保湿ゲルとこれらを被覆する被膜とを有する植物性蛋白素材の製造方法について説明する。
上記植物性蛋白素材の製造においては、例えば、(1)脱臭処理工程、(2)組織化工程、(3)スライス工程、(4)保湿ゲルとの複合化工程、及び、(5)被膜形成工程を行うことにより、植物性蛋白素材を製造することができる。
【0067】
(1)脱臭処理工程
まず、最初に植物性蛋白、又は、植物性蛋白に他の炭化物等の添加剤を添加した材料(他成分含有植物性蛋白)に脱臭剤を添加し、混合することにより、脱臭処理を行う。混合の際、加熱してもよいが、加熱の加熱温度は、60~120℃が望ましい。
活性炭を脱臭剤として使用した際には、材料が黒くなる場合があるので、チタニア等の白色で食物に添加可能な添加剤を添加して、黒くなるのを防止することが望ましい。
【0068】
(2)組織化工程
次に、(1)の工程を経た植物性蛋白又は他成分含有植物性蛋白をエクストルーダー等の装置に投入し、金型から押し出すことにより、組織化を行い、層状又は繊維状等の組織状植物性蛋白とする。なお、エクストルーダーは、植物性蛋白等の材料に水を加えながら、高温下、スクリューで圧力をかけ金型を介して押し出すことにより混練、加工、成形、膨化、殺菌等を行う装置である。本発明において、エクストルーダーは、一軸型エクストルーダーであってもよく、二軸型エクストルーダーであってもよい。
【0069】
(3)スライス工程
この後、エクストルーダーを通過した植物性蛋白又は他成分含有植物性蛋白は、所定形状の貫通孔が形成された金型を介して押し出された後、固定歯により所定の厚さにスライスされる。
本発明では、このようにして製造された組織状植物性蛋白を、食品メーカー等の要求に応じて提供することができる。
【0070】
(4)保湿ゲルとの複合化工程
次に、保湿ゲルとなる材料を植物性蛋白又は他成分含有植物性蛋白に吸収させるか、両者を混合させた後、冷却等により保湿ゲルとなる材料をゲル化させる。
これにより、植物性蛋白又は他成分含有植物性蛋白と保湿ゲルが複合化された複合体が作製される。
【0071】
(5)被膜形成工程
被膜の形成方法としては、金属塩を添加した金属イオンを含む水溶液に、上述した保湿ゲルと組織化された植物性蛋白の複合化物を浸漬させ、次に、アルギン酸ナトリウムやペクチン等の炭水化物を溶解させた水溶液に浸漬させ、金属イオンと炭水化物とを接触させて凝固させることにより被膜を形成することができる。これにより植物性蛋白素材を製造することができる。
【0072】
(食品及びその製造)
本発明の植物性蛋白素材を用いた食品は、円柱状、楕円柱状等の凹型成形治具に入れ、凸型成形治具を用いて加圧して成形して食品成形体とすることにより得られる。成形治具の形状は円柱状や楕円柱状に限定されず、食品に応じて選択できる。また、加圧成形は、凹型、凸型治具を用いた一軸プレス以外に、多軸プレス、等方プレス(冷間静水圧プレス)等を使用してもよい。さらに、成形した後、エビ、カニ、魚、肉、麺類等各食品によく見られる形状に切削加工することもできる。
【0073】
また、本発明の植物性蛋白素材を成形した食品成形体をゲル化剤溶液や被膜を形成するための溶液中に浸漬して食品成形体中にゲル化剤を浸透させたり、食品成形体の表面に被膜を形成してもよい。例えば、本発明の植物性蛋白素材の被膜形成のためにアルギン酸ナトリウム水溶液およびカルシウム塩水溶液を使用した場合には、当該植物性蛋白素材を含む食品成形体を塩化カルシウムや乳酸カルシウム等のカルシウム塩水溶液に浸漬して被膜の凝固反応を進行させることで、食品成形体が加熱調理中に崩れないように植物性蛋白素材同士の結着性を改善することができる。
さらに、本発明の植物性蛋白素材にデンプン、トランスグルタミナーゼ等の結着剤や市販の植物性蛋白粒子、着色剤、調味成分等を加えて、成形して食品成形体とすることもできる。
【0074】
上記構成の植物性蛋白素材に、さらに、副材料として、水、上記した油脂類、上記した糖類、調味料等の生地の骨格を構成する材料のほか、人参、ごぼう、ごま、タマネギ等の野菜類や、ワカメ、ひじき等の海藻類や挽肉等の肉類等と混合することで、植物性蛋白素材を含む種々の食品を製造することができる。
【0075】
これらの食品は、購入した家庭やレストラン等において、焼成加熱、蒸し加熱、ボイル加熱、フライ加熱、電磁波加熱等を行って、食される。
本発明の食品は、上記の多孔質材料が配合された植物性蛋白素材を含むので、植物性蛋白原料由来の臭いを感じることなく、エキス及び香料の添加により天然素材の風味を再現することができ、畜肉・魚肉・甲殻類肉などの天然素材と同等の香り、食感、ジューシー感及びこれらの持続性を有するものとなる。
【実施例0076】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
脱脂大豆粉(日清オイリオ社製 ソーヤフラワーA)100重量部からなる主原料粉に、活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)0.5重量部を加え、混合することにより、脱臭処理を行った。
【0077】
上記脱臭処理を行った粉末を二軸エクストルーダーに投入し、上記主原料粉に対し水を50重量%となるように供給しながら出口温度115℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、口径8mm四方の口金から押し出し、組織状蛋白素材を作製した。この組織状蛋白素材はフードプロセッサーにより粉砕し、ミンチ状にして、85℃の恒温器にて乾燥を行い、組織状蛋白素材の乾燥体を得た。
【0078】
(実施例2)
活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)の混合量を1.0重量部としたこと以外は、実施例1と同様の条件で組織状蛋白素材の乾燥体を作製した。
【0079】
(実施例3)
活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)0.5重量部の代わりに、活性炭(ヤシ殻炭)0.5重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で組織状蛋白素材の乾燥体を作製した。
【0080】
(実施例4)
活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)0.5重量部の代わりに、活性炭(ヤシ殻炭)1.0重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で組織状蛋白素材の乾燥体を作製した。
【0081】
(実施例5)
活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)0.5重量部の代わりに、ゼオライト(ジークライト社製 イタヤ・ゼオライト SGW)0.5重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で組織状蛋白素材の乾燥体を作製した。
【0082】
(実施例6)
脱脂大豆粉(日清オイリオ社製 ソーヤフラワーA)90重量部及び粉末状大豆蛋白(日清オイリオ社製 ソルピー4000H)10重量部からなる主原料粉に、活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)0.5重量部を加え、混合することにより、脱臭処理を行った。
【0083】
上記脱臭処理を行った粉末を二軸エクストルーダーに投入し、上記主原料粉に対し水を50重量%となるように供給しながら出口温度115℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、口径8mm四方の口金から押し出し、組織状蛋白素材を作製した。この組織状蛋白素材はフードプロセッサーにより粉砕し、ミンチ状にして、85℃の恒温器にて乾燥を行い、組織状蛋白素材の乾燥体を得た。
【0084】
(実施例7)
脱脂大豆粉(日清オイリオ社製 ソーヤフラワーA)80重量部及び粉末状大豆蛋白(日清オイリオ社製 ソルピー4000H)20重量部からなる主原料粉に、活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)0.5重量部を加え、混合することにより、脱臭処理を行った。
【0085】
上記脱臭処理を行った粉末を二軸エクストルーダーに投入し、上記主原料粉に対し水を50重量%となるように供給しながら出口温度115℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、口径8mm四方の口金から押し出し、組織状蛋白素材を作製した。この組織状蛋白素材はフードプロセッサーにより粉砕し、ミンチ状にして、85℃の恒温器にて乾燥を行い、組織状蛋白素材の乾燥体を得た。
【0086】
(実施例8)
脱脂大豆粉(日清オイリオ社製 ソーヤフラワーA)90重量部及び全脂大豆粉(日清オイリオ社製 ソーヤフラワーNSA)10重量部からなる主原料粉に、活性炭(サンホワイト太陽炭社製 食品色素用竹炭パウダー)0.5重量部を加え、混合することにより、脱臭処理を行った。
【0087】
上記脱臭処理を行った粉末を二軸エクストルーダーに投入し、上記主原料粉に対し水を50重量%となるように供給しながら出口温度115℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、口径8mm四方の口金から押し出し、組織状蛋白素材を作製した。この組織状蛋白素材はフードプロセッサーにより粉砕し、ミンチ状にして、85℃の恒温器にて乾燥を行い、組織状蛋白素材の乾燥体を得た。
【0088】
(比較例1)
脱脂大豆粉(日清オイリオ社製 ソーヤフラワーA)100重量部からなる主原料粉を二軸エクストルーダーに投入し、水を50重量%となるように供給しながら出口温度115℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、口径8mm四方の口金から押し出し、組織状蛋白素材を作製した。この組織状蛋白素材はフードプロセッサーにより粉砕し、ミンチ状にして、85℃の恒温器にて乾燥を行い、組織状蛋白素材の乾燥体を得た。
【0089】
(比較例2)
脱脂大豆粉(日清オイリオ社製 ソーヤフラワーA)100重量部からなる主原料粉に、シリカゲル0.5重量部を加え、混合した。
【0090】
シリカゲルを混合した主原料粉を二軸エクストルーダーに投入し、上記主原料粉に対し水を50重量%となるように供給しながら出口温度115℃、スクリュー回転数450RPMの条件で、口径8mm四方の口金から押し出し、組織状蛋白素材を作製した。この組織状蛋白素材はフードプロセッサーにより粉砕し、ミンチ状にして、85℃の恒温器にて乾燥を行い、組織状蛋白素材の乾燥体を得た。
【0091】
(平均粒子径の測定)
多孔質材料の平均粒子径は、HITACHI S-4800を使用し、SEM観察により測定した。加速電圧10kV、エミッションカレント10μA、倍率1K倍で観察した写真から、粒子をランダムに20個選択し、その粒子径を測定し、平均することで平均粒子径を算出した。その結果を下記の表1に示す。
【0092】
(平均細孔径の測定)
日本ベル(株)Belsorp maxを使用し、十分に乾燥させたサンプルを、窒素ガスを用いたBET法にて、吸着温度77K、真空度1.0E-4Pa以下、リーク量1.0E-1Pa/min以下の条件で測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0093】
(比表面積の測定)
日本ベル(株)Belsorp maxを使用し、十分に乾燥させたサンプルを、窒素ガスを用いたBET法にて、吸着温度77K、真空度1.0E-4Pa以下、リーク量1.0E-1Pa/min以下の条件で測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0094】
(試食による臭いの検査)
実施例1~8及び比較例1、2で得られた植物性蛋白素材を、98℃の湯に5分間浸漬して湯戻しした後、5名の評価担当者が食すことにより、食感、噛む前の大豆臭、1噛みした後の大豆臭、10噛みした後の大豆臭を5段階で評価し、それらの平均点を表1に記載した。
評価方法は、脱臭処理を行っていない比較例1で得られた植物性蛋白素材に対する大豆臭の評価を、いずれの段階でも3とし、比較例1で得られた植物性蛋白素材の食感及び大豆臭と他の実施例及び比較例で得られた植物性蛋白素材の食感及び大豆臭とを比較し、下記のように評価した。
1:かなり悪い、2:悪い、3:同等、4:良い(低減)、5:かなり良い(大幅低減)とした。
評価結果を下記の表1に示す。
【0095】
【0096】
また、各実施例及び比較例に対する具体的な評価結果を下記する。
実施例1:実施例1の植物性蛋白素材の食感は比較例1と変化せず、大豆臭を低減できた。また、10噛み後の大豆臭も低減できており、咀嚼時に大豆臭が嗅覚に感じられるレベルに脱着されることはなかった。
実施例2:実施例1に比べて、さらに大豆臭の低減効果の向上が見られ、ほぼ大豆臭を感じないレベルであった。
実施例3~5:食感は変わらず、大豆臭は低減されていた。特に10噛み後の咀嚼時に感じる大豆臭は低減されていた。
実施例6、8:食感は変わらず、大豆臭が低減されていた。
実施例7:食感は変わらず、大豆臭が大幅に低減されており、ほぼ大豆臭を感じないレベルであった。
比較例1:植物性蛋白素材として食感は良いものの、植物性蛋白素材から大豆臭を感じ、10噛み後においても大豆臭は消えることがなかった。
比較例2:食感は変わらないが、シリカゲルを添加しても食感及び大豆臭は低減されていなかった。
【0097】
このように、実施例1~8で得られた活性炭又はゼオライトからなる多孔質材料を含む植物性蛋白素材は、植物性蛋白原料由来の臭いが大幅に低減されていたのに対し、比較例1で得られた多孔質材料を含まない植物性蛋白素材は、植物性蛋白原料由来の臭いが消えておらず、植物性蛋白原料由来の臭いを強く感じた。また、比較例2で得られたシリカゲルを含む植物性蛋白素材も植物性蛋白原料由来の臭いが消えていなかった。
【0098】
(肉様食品の製造)
沸騰水中にカッパー型カラギーナン(WR-78-J)を1重量%、キサンタンガム(SATIAKINE CX90)1重量%、ココナッツオイル10重量%、パーム油5重量%、牛肉風エキスを添加し攪拌し、保湿ゲル水溶液を得た。
実施例1~8及び比較例1、2に記載の組織化された植物性蛋白に対し、重量比で10倍量の上記保湿ゲル水溶液を加え、92℃で5分静置し、植物性蛋白と保湿ゲル水溶液とを複合化させた。その後、保湿ゲルと複合化され、組織化された植物性蛋白を取り出し、冷蔵庫にて30分静置し冷却させ、保湿ゲル含有植物性蛋白を得た。
【0099】
10%の塩化カルシウムを含む水溶液に、保湿ゲルを内包する組織化された植物性蛋白を浸漬させた後、2重量%の濃度のアルギン酸ナトリウム溶液(IL-6M)に室温で10秒程度浸漬させ、アルギン酸ナトリウムを凝固させて被膜を形成し、被膜が設けられた保湿ゲル内包の植物性蛋白素材を作製した。
【0100】
実施例1~8および比較例1、2のそれぞれに対応する被膜が設けられた保湿ゲル内包の植物性蛋白素材を各実施例および各比較例毎に個別に円柱状の凹型の成形型に入れ、凸型の成形型を用いて円柱状の成形型の上下方向(円柱状の成形型の円形断面の法線方向)に加圧して成形して10個の食品成形体とした。それぞれの食品成形体をさらに10%の塩化カルシウム溶液に含浸させることで被膜成分を完全に凝固させ、肉様食品成形体を作製した。
【0101】
これらの肉様食品成形体を98℃の湯に5分間浸漬して湯戻しした後、5名の評価担当者が10噛みした後の大豆臭を5段階で評価し、それら平均点により評価点を決定した。
その結果、実施例1相当成形体:4.0、実施例2相当成形体:4.8、実施例3相当成形体:4.2、実施例4相当成形体:4.4、実施例5相当成形体:4.0、実施例6相当成形体:4.2、実施例7相当成形体:4.6、実施例8相当成形体:4.2、比較例1相当成形体:3.0、比較例2相当成形体:3.2であった。