(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032526
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220217BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220217BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20220217BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
B32B27/00 Z
B32B27/36
B32B5/18
B41M5/52 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136386
(22)【出願日】2020-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】逸崎 淳平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
【テーマコード(参考)】
2H186
4F100
【Fターム(参考)】
2H186BA11
2H186BA12
2H186BA26X
2H186BA27X
2H186BA31X
2H186BB01X
2H186BB11X
2H186BB12X
2H186BB12Z
2H186BB14X
2H186BB21X
2H186BB34X
2H186BB52X
2H186BC08X
2H186BC36X
2H186BC51X
2H186BC52X
2H186BC54X
2H186CA04
2H186CA07
2H186CA14
2H186CA16
2H186DA03
2H186DA09
2H186DA19
2H186FB24
2H186FB25
2H186FB52
4F100AK01A
4F100AK02A
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100AR00C
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100BA15
4F100CA01A
4F100CC00A
4F100DD07A
4F100DJ01A
4F100EH201
4F100EH20B
4F100EH462
4F100EH46A
4F100EJ022
4F100EJ02A
4F100EJ382
4F100HB312
4F100HB31C
4F100JK14A
4F100JN01
4F100JN30
4F100YY00
4F100YY00A
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生産性に優れ、インク滲みや印字ムラの発生、インク乾燥性悪化によるインクのかすれやインク転写の発生が低減された、インクジェット印刷に好適な積層フィルムの提供。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層を有し、樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であり、かつ、最大高さ(Rz)が0.8μm以上である積層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層を有する積層フィルムであって、
樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であり、かつ、
最大高さ(Rz)が0.8μm以上であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
樹脂層表面の二乗平均平方根傾斜(RΔq)が10°以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1μmを超え3.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
ヘーズが85%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
全光線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
基材フィルムがポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の積層フィルムを製造するための方法であって、
樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する工程と、塗布された液状物を発泡させる工程と、を含むことを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の積層フィルムに印刷層が積層されている印刷フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷フィルムを製造するための方法であって、請求項1~6に記載の積層フィルムの樹脂層にインクジェット印刷法により印刷層を積層することを特徴とする印刷フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷材料、特にインクジェット用記録材料に好適に使用される積層フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、ポンプや電圧、加熱、加圧によりインク粒子をノズルから噴出させ、被印刷物にインク粒子を付着させ記録するものである。インクを高精度に直接噴出させることができるため、繊細かつ美麗な印刷が可能である。さらに、発色性の高い染料インクや多色顔料インクを用いることで、色味の再現性が高く、写真などの印刷に適している。また、インクジェット印刷は、グラビア印刷やオフセット印刷のような製版が不要であり、装置がコンパクトであるため、家庭やオフィス、また産業用としても幅広く普及している。
【0003】
近年では、プラスチック製アートワークフィルムにプリント基板のドライフィルムレジスト製法によるインクジェット印刷を適用する方法が報告されている。しかし、インクジェット印刷で形成する方法は、インク滲みや印字ムラの発生、インク乾燥性悪化によるインクのかすれやインク転写の発生、などが原因で高精細な配線パターンを得ることは難しかった。
そこで、プラスチックフィルムにインクジェット印刷する際に発生するインク滲みや印字ムラの低減、インクの乾燥性を改善したインクジェット用フィルムの開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1は、セルロースナノファイバー、グリセリン、ソルビトール、及びポリビニルアセトアミド系化合物を含有するインク受容層を有するフィルムであり、インク乾燥性や印字ムラ、滲みに優れたインクジェット用フィルムが開示されている。
また、特許文献2は、カチオン性ポリマーと無水マレイン酸含有親水性ポリマーと多孔質性無機微粒子とを含んだインク受容層を有するシートであり、インクの発色性、ドット再現性に優れたインクジェット記録シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-6552号公報
【特許文献2】特開2001-334744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で得られるインクジェット用フィルムは、セルロースナノファイバーの分散が煩雑であり、また、特許文献2ではインク受容層が厚く、共に生産性に改善の余地があった。
【0007】
本発明の課題は、生産性に優れ、インク滲みやインクの転写が低減されたインクジェット印刷に好適な積層フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材フィルムの一方の面に特定の形状の樹脂層を積層することで、印字ムラがなく配線パターンなどの高精細な印刷にも良好な積層フィルムが得られることを見出した。また、上記特定の表面形状は、樹脂層形成用液状物の塗布時に形成することで容易かつ安価に製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層を有する積層フィルムであって、樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であり、かつ、最大高さ(Rz)が0.8μm以上であることを特徴とする積層フィルム。
(2)樹脂層表面の二乗平均平方根傾斜(RΔq)が10°以上であることを特徴とする(1)に記載の積層フィルム。
(3)樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1μmを超え3.0μm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の積層フィルム。
(4)ヘーズが85%以下であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の積層フィルム。
(5)全光線透過率が80%以上であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(6)基材フィルムがポリエステルフィルムであることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の積層フィルム。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の積層フィルムを製造するための方法であって、樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する工程と、塗布された液状物を発泡させる工程と、を含むことを特徴とする積層フィルムの製造方法。
(8)上記(1)~(6)のいずれかに記載の積層フィルムに印刷層が積層されている印刷フィルム。
(9)上記(8)に記載の印刷フィルムを製造するための方法であって、(1)~(6)に記載の積層フィルムの樹脂層にインクジェット印刷法により印刷層を積層することを特徴とする印刷フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層フィルムは、インクジェット印刷で印刷してもインクの広がり(インク滲み)を抑制でき、高精細な印刷が可能であり、さらに、樹脂層が特殊な凹凸形状であるため顔料系インクで印刷した際には表面凹凸内に顔料を留めることができ、インクかすれやインク転写を抑制することができる。本発明の製造方法によれば、本発明の積層フィルムを高い生産性で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の積層フィルムは、基材フィルムと、基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられた樹脂層とを有する。
【0012】
<基材フィルム>
本発明において、基材フィルムを構成する樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ乳酸などのポリエステル樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリアミド6、ポリ-p-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9Tなどのポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、ポリイミド樹脂などの他、これらの樹脂の混合体や共重合体などが挙げられる。
【0013】
基材フィルムは、上記樹脂からなる単層フィルムで構成されても、複層フィルムで構成されてもよい。複層フィルムの場合、同種樹脂からなるフィルムで構成されてもよく、また、例えば、ポリアミド6/MXD6ナイロン/ポリアミド6、ポリアミド6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ポリアミド6などの異種樹脂からなるフィルムで構成されてもよい。
基材フィルムは、機械的強度や寸法安定性を有するポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオレフィンフィルムが好ましく、ポリエステルフィルムがより好ましい。
【0014】
基材フィルムを構成する樹脂の固有粘度は0.55~0.90であることが好ましく、0.60~0.85であることがより好ましい。基材フィルムを構成する樹脂は、固有粘度が上記範囲未満であると、製膜時に切断が起こり易く、安定的にフィルムを生産することが困難であり、また、得られたフィルムの強度が低いことがある。一方、樹脂の固有粘度が上記範囲を超えると、フィルムの生産工程において溶融押出時に剪断発熱が大きくなり、押出機にかかる負荷が大きくなり、生産速度を犠牲にせざるを得なかったり、フィルムの厚み制御も難しくなる等、フィルムの生産性が低下することがある。また、得られたフィルムは、熱分解やゲル化物が増加して、表面欠点や異物、表面粗大突起が増加することがある。また、あまりに固有粘度の高いものは、重合時間や重合プロセスが長く、コストを押し上げる要因となることもある。
【0015】
基材フィルムを構成する樹脂の重合方法は特に限定されず、例えばポリエステルの場合であれば、エステル交換法、直接重合法等が挙げられる。エステル交換触媒としては、Mg、Mn、Zn、Ca、Li、Tiなどの酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。また、重縮合触媒としては、Sb、Ti、Geなどの酸化物、酢酸塩等の化合物が挙げられる。
重合後のポリエステルは、モノマーやオリゴマー、副生成物のアセトアルデヒド等を含有しているため、減圧もしくは不活性ガス流通下、200℃以上の温度で固相重合してもよい。
【0016】
基材フィルムは、粒子を含有してもよい。
基材フィルムが含有する無機粒子としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、ゼオライト、カオリン、クレー、タルク、マイカ等の無機粒子や、メラミン樹脂、ポリスチレン、有機シリコーン樹脂、アクリル-スチレン共重合体等の有機粒子が挙げられる。特に酸化ケイ素(シリカ)は粒径分布が優れ、安価なことから好適である。
基材フィルムにおける粒子の含有量は0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましい。光沢度を低くするために粒子の含有量は多い方が好ましいが、一定量以上含有しても光沢度が低くならない。
【0017】
基材フィルムは、上記粒子の他、必要に応じ、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ピニング剤、ブロッキング防止剤等の添加剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられ、熱安定剤としては、リン系化合物等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0018】
次に、基材フィルムの製造方法の一例を、ポリエステルフィルムを具体例として説明する。
まず、十分に乾燥されたポリエステル樹脂を、押出機に供給し、十分に可塑化され、流動性を示す温度以上で溶融し、必要に応じて選ばれたフィルターを通過させ、その後Tダイを通じてシート状に押出す。このシートを、樹脂のガラス転移温度(Tg)以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させて、未延伸フィルムを得る。
本発明における基材フィルムは、この未延伸状態のフィルムでもよく、また、未延伸フィルムを一軸延伸法により一軸配向させるか、もしくは二軸延伸法により二軸配向させたものでもよい。二軸延伸法としては、特に限定はされないが、逐次二軸延伸法や同時二軸延伸法を用いることができる。
【0019】
一軸延伸法では、未延伸フィルムを、樹脂のTg~Tgより50℃高い温度の範囲で、長手もしくは巾方向に、2~6倍程度の延伸倍率となるよう延伸する。
同時二軸延伸法では、未延伸フィルムを、樹脂のTg~Tgより50℃高い温度の範囲で、長手および巾方向にそれぞれ2~4倍程度の延伸倍率となるよう二軸延伸する。同時二軸延伸機に導く前に、未延伸フィルムに1.2倍程度までの予備縦延伸を施しておいてもよい。
また、逐次二軸延伸法では、未延伸フィルムを、加熱ロールや赤外線等で加熱し、長手方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。縦延伸は2個以上のロールの周速差を利用し、樹脂のTg~Tgより40℃高い温度の範囲で、延伸倍率2.5~4.0倍とするのが好ましい。縦延伸フィルムを、続いて連続的に、巾方向に横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して、二軸配向フィルムとする。横延伸は樹脂のTg~Tgより40℃高い温度で開始し、最高温度は樹脂の融点(Tm)より(100~40)℃低い温度であることが好ましい。横延伸の倍率は最終的なフィルムの要求物性に依存し調整されるが、3.5倍以上、さらには3.8倍以上とするのが好ましく、4.0倍以上とするのがより好ましい。長手方向と巾方向に延伸後、さらに、長手方向および/または巾方向に再延伸することにより、フィルムの弾性率を高めたり寸法安定性を高めたりすることもできる。
延伸に続き、樹脂のTmより(50~10)℃低い温度で数秒間の熱固定処理と、熱固定処理と同時にフィルム巾方向に1~10%の弛緩することが好ましい。熱固定処理後、フィルムをTg以下に冷却して二軸延伸フィルムを得る。
【0020】
上記製造方法によって単層のフィルムが得られるが、積層フィルムを構成する基材フィルムは、2種以上の層を積層してなる多層フィルムであってもよい。
多層フィルムは、上記製造方法において、それぞれの層を構成する樹脂を別々に溶融して、複層ダイスを用いて押出し、固化前に積層融着させた後、二軸延伸、熱固定する方法や、2種以上の樹脂を別々に溶融、押出してそれぞれフィルム化し、未延伸状態で、または延伸後に、それらを積層融着させる方法などによって製造することができる。プロセスの簡便性から、複層ダイスを用い、固化前に積層融着させることが好ましい。
【0021】
基材フィルムは、マット調であってもよく、フィルムに、上述の有機粒子や無機粒子を練りこむ方法、有機粒子や無機粒子を含有するコート剤を塗布する方法、エンボス加工を行う方法、サンドマットによる方法、それらを積層するなど公知の方法を用いて行ってもよい。本発明においては、基材フィルムからの粒子や残渣の発生が少ないことから、フィルムに有機粒子や無機粒子を練りこむ方法、有機粒子や無機粒子を含有するコート剤を塗布する方法、エンボス加工を行う方法が望ましい。
【0022】
基材フィルムの厚みは特に限定されないが、1~1000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、10~100μmがさらに好ましく、10~75μmが特に好ましい。
【0023】
<樹脂層>
本発明の積層フィルムは、上記の基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層が設けられたものであり、樹脂層は、表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であることが必要であり、9μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、7μm以下が最も好ましい。
樹脂層表面のRSmが10μmを超えると、インクが広がり(インク滲みとなり)高精細な印刷に適さない。
【0024】
本発明の積層フィルムの樹脂層は、表面の最大高さ(Rz)が、0.8μm以上である必要があり、1.2μm以上であることが好ましく、1.6μm以上であることがより好ましく、2.0μm以上であることが最も好ましい。
樹脂層表面のRzが0.8μm未満であると、インク受容層が足りず、インク滲みやインク転写などが起こり、高精細な印刷に適さない。
【0025】
樹脂層表面は、インク滲み抑制の観点で二乗平均平方根傾斜(RΔq)が10°以上であることが好ましく、15~80°がより好ましく、20~75°がさらに好ましく、25~70°が最も好ましい。RΔqは、フィルム表面の凹凸のフィルム平均面に対する傾斜角の大きさであり、本発明において、樹脂層形成時に高温で発泡させることで、RΔqを大きくすることができる。高温で発泡させる好ましい方法として、例えば、配向延伸と同時に発泡できるインラインコート法が挙げられる。樹脂層表面は、RΔqが10°未満であると、凹凸が細かく急な角度でないため、インクジェット印刷時にインクの滲みを抑制することができず、高精細な印刷向けには適さない。
【0026】
本発明において、樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1を超え3.0μm以下であることが好ましく、下限は、0.2μm以上がより好ましく、0.3μmがさらに好ましく、0.4μm以上が最も好ましい。Raを大きくすることで、インクの滲みを抑制でき、インク転写も抑制することができ、高精細に印刷できる。樹脂層の粗さRaは、樹脂層形成時に高温で発泡させることで、大きくなる傾向にある。高温で発泡させる好ましい方法として、例えば、配向延伸と同時に発泡できるインラインコート法が挙げられる。
【0027】
本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層の厚みは、樹脂層の吸水性によるインク転写抑制の観点から0.1μm以上であることが好ましい。後述の樹脂層形成方法によって形成されるが、基材フィルムに樹脂層を積層する方法によって樹脂層厚みの好ましい範囲は異なる。インラインコート法において樹脂層を積層した場合の樹脂層厚みは、0.1~2.0μmであることがより好ましく、0.1~1.0μmであることが最も好ましい。また、オフラインコート法において樹脂層を積層した場合の樹脂層厚みは、0.5~5.0μmであることがより好ましく、1.0~5.0μmであることがさらに好ましく、2.0~5.0μmであることが最も好ましい。樹脂層は、厚みが0.1μm未満であると、十分な凹凸が得られない場合があり、一方、樹脂層の厚みが厚くなるほど、樹脂形成用液状物の乾燥にかかる時間や熱量の増加、樹脂形成用液状物塗布量の増加より生産性が悪くなる。
【0028】
<積層フィルム>
本発明の積層フィルムをOHPや加飾成形用フィルムなどの光を透過させる用途に用いる場合、積層フィルムのヘーズは85%以下であることが好ましく、70%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、30%以下が最も好ましい。
【0029】
本発明において、積層フィルムは、ドライレジスト用材料など積層体の状態で透明性が求められる用途に用いる場合、全光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0030】
本発明の積層フィルムは、印刷層にさらに別の層を積層することができる。別の層としては、例えば、ハードコート層、粘着層、保護層、シーラント層などが挙げられ、特に限定されるものではない。
【0031】
<積層フィルムの製造方法>
本発明の積層フィルムは、樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する工程と、塗布された液状物を発泡させる工程とを含む製造方法により得ることができる。樹脂層形成用液状物は、後述する、樹脂層を構成する成分と、溶媒と、発泡剤とを含有するものである。
【0032】
樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する方法としては、公知慣用の方法が挙げられ、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が挙げられる。
【0033】
基材フィルム表面に均一に樹脂層形成用液状物を塗布し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、加熱処理に供して、乾燥する。このようにすることで、均一な樹脂層を基材フィルムに密着させて形成することができる。
樹脂層表面に凹凸を形成し、表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を10μm以下、最大高さ(Rz)を0.8μm以上とするには、塗布した樹脂層形成用液状物の乾燥初期温度を、40~200℃とすることが好ましく、60~180℃とすることがさらに好ましく、65~160℃とすることがさらに好ましい。乾燥初期温度が低すぎると、乾燥ができず、高すぎると、基材フィルムは、熱によるダメージが大きくなり、次工程での使用に耐えられない状況になることがある。
さらに、エージング処理を行うことによって、樹脂層の凝集性や、基材との密着性を高めることができる。エージングは、基材フィルムへのダメージを軽減する観点からは、比較的低温で処理することが好ましいが、反応を十分かつ速やかに進行させるという観点からは、高温で処理することが好ましく、エージング温度は、20~100℃であることが好ましく、30~70℃であることがより好ましく、40~60℃であることがさらに好ましい。
【0034】
樹脂層を基材フィルム上に形成する際には、オフラインコート法、インラインコート法、いずれの方法も採用できる。オフラインコート法は、樹脂層形成用液状物を未延伸状態や二軸延伸状態の基材フィルムに塗布、乾燥して樹脂層を形成し、樹脂層形成後に延伸処理を施さない方法である。インラインコート法は、樹脂層形成用液状物を未延伸状態や一軸延伸状態の基材フィルムに塗布し、基材フィルムと共に、乾燥、配向延伸する方法である。インラインコート法は、配向延伸後に熱固定処理してもよい。インラインコート法は、製造工程中の基材フィルムに液状物を塗布することにより、基材フィルム表面の配向結晶化の程度が小さい状態で樹脂層を形成することができるため、基材フィルムと樹脂層の密着力が向上し、さらに樹脂層へより大きい熱量を与えることができるため、二乗平均平方根傾斜(RΔq)を大きくすることができる。さらに、オフラインコート法と比べると、製造工程を簡略化することができるばかりか、樹脂層を薄膜化できることによりコスト面でも有利である。なお、基材フィルムの製造方法が逐次二軸延伸法である場合、一軸方向に延伸された基材フィルムに液状物を塗布し、液状物の塗布された基材フィルムを乾燥、その後、基材フィルムを前記方向と直交する方向にさらに延伸し、熱処理することが、簡便さや操業上の理由から好ましい。
【0035】
<発泡剤>
樹脂層形成用液状物を構成する発泡剤としては特に制限はないが、無機系発泡剤や有機系発泡剤などが挙げられる。
無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩化合物類や、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類などが挙げられる。
また、有機系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸アミドなどのアゾ系化合物、N,N′-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N′-ジメチル-N,N′-ジニトロソテレフタルアミド、トリニトロトリメチルトリアミンなどのニトロソ系化合物、4,4′-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、パラトルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3′-ジスルホニルヒドラジド、アリルビス(スルホニルヒドラジド)などのヒドラジド系化合物、p-トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4′-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などのセミカルバジド系化合物、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタンなどのフッ化アルカン、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物などが挙げられる。また、これらの発泡剤は、1種類または2種類以上を適宜選択して用いることができる。樹脂層表面のRSmやRzを好ましい範囲への制御しやすさの観点で、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウムが好ましく、炭酸水素ナトリウムがより好ましい。
【0036】
樹脂層形成用液状物における発泡剤の含有量は、特に制限されないが、樹脂層表面のRSmやRzを好ましい範囲への制御しやすさの観点で、樹脂層を構成する樹脂100質量部に対して、30~800質量部であることが好ましく、45~750質量部であることがより好ましく、100~700質量部であることがさらに好ましく、200~650質量部であることが特に好ましく、250~600質量部であることが最も好ましい。発泡剤の含有量が30質量部未満であると、得られる積層フィルムは、樹脂層表面のRSmが10μmを超える場合があり、800質量部を超えると、樹脂層表面のRSmやRzを規定する範囲に制御することが困難となることがある。
【0037】
樹脂層形成用液状物は、さらに発泡助剤を含有してもよい。発泡助剤は、特に制限されないが、発泡剤の種類に応じて適宜公知の発泡助剤を選択することができる。具体的には、尿素を主成分とする尿素系化合物、酸化亜鉛、酸化鉛などの金属酸化物、サリチル酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸またはその金属塩などが挙げられ、高級脂肪酸金属塩が好ましい。発泡助剤は、1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。また、発泡助剤の含有量は、特に制限されないが、例えば、樹脂層構成成分100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。
【0038】
<溶媒>
樹脂層形成用液状物を構成する溶媒は、形成される樹脂層に応じた最適なものを用いることができ、有機溶剤であってもよく、水性媒体であってもよい。水性媒体とは、水と両親媒性有機溶剤とを含み水の含有量が2質量%以上である溶媒を意味し、水のみでもよい。
両親媒性有機溶剤とは、20℃における有機溶剤に対する水の溶解性が5質量%以上である有機溶剤をいう(20℃における有機溶剤に対する水の溶解性については、例えば「溶剤ハンドブック」(講談社サイエンティフィク、1990年第10版)等の文献に記載されている)。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、そのほか、アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-ジエタノールアミン等の有機アミン化合物、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどのラクタム類等を挙げることができる。
有機溶剤としては、キシレン、トルエン、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコール、酢酸ジエチレングリコール等のエステル系溶剤;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン系溶剤;N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、アセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等のスルホン酸エステル系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(重合度3~100)、CF3CH2OH、CF3CF2CH2OH、(CF3)2CHOH、CF3(CF2)2CH2OH、CF3(CF2)3C2H5OH、CHF2CF2CH2OH、CHF2(CF2)2CH2OH、CHF2(CF2)3CH2OH等のアルコール系溶剤等が挙げられる。塗布乾燥後の外観や塗布しやすさの観点から、キシレン、トルエン、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ヘキサン、シクロヘキサノンシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトンが好ましく、トルエン、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトンがより好ましい。
【0039】
<樹脂層構成成分>
本発明の積層フィルムは、樹脂層を構成する成分を目的に応じて選択することにより、様々な機能性を付与することができる。
【0040】
本発明の積層フィルムの樹脂層に親水性を付与する場合、樹脂層を構成する成分として、親水基を有する化合物を含有することが好ましく、例えば、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンやそれらの共重合体、共重合ポリエステル樹脂、アセタール樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂などが挙げられ、一種でも二種以上含有していてもよい。なかでも、インク滲みや水溶性インクとの親水性の観点でポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンやそれらの共重合体が好ましく、ポリビニルピロリドンやそれらの共重合体が特に好ましい。
また、樹脂層に親油性を付与する場合、樹脂層を構成する成分として、親油基を有する化合物を含有することが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体や塩化ビニル重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、一種でも二種以上含有していてもよい。
【0041】
樹脂層を構成する成分としてのポリビニルピロリドンおよび/またはその共重合体の具体例としては、特に制限はないが、例えば、ポリビニルピロリドン単量体、ビニルピロリドンのホモポリマー、ビニルピロリドンを主成分とする共重合体等を用いることができる。共重合の状態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0042】
<添加剤>
樹脂層形成用液状物は、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤としては、例えば、架橋剤、濡れ調整剤、帯電防止剤などが挙げられる。
架橋剤としては、例えば、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は2種以上を併用してもよい。架橋剤を添加することにより、樹脂形成用液状物と基材との密着性が向上したり、樹脂層の耐熱性を向上することができる。架橋剤の含有量は、樹脂層形成用液状物の樹脂成分の固形分100質量部に対して、1.0~20質量部であることが好ましく、1.0~5.0質量部であることがより好ましい。
濡れ調整剤としては、例えば、アセチレン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、水酸基含有ビニル単量体成分と酸基含有ビニル単量体成分とからなる共重合体またはその部分もしくは完全中和物、スルホン酸基含有樹脂、ワックス類、シリコーン化合物、フッ素系化合物、アセチレングリコール化合物、ポリオキシエチレン化合物などが挙げられる。濡れ調整剤を添加することで、樹脂形成用液状物と基材との密着性、塗工性が向上したり、印刷時のインクハジキを抑制することができる。濡れ調整剤の含有量は、樹脂層形成用液状物の樹脂成分の固形分100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1.0~15質量部であることが最も好ましい。
帯電防止剤としては、アンモニウム基含有化合物、ポリエーテル化合物、スルホン酸化合物、ベタイン化合物等のイオン導電性の高分子化合物や、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリイソチアナフテン、ポリチオフェンなどのπ電子共役系の高分子化合物などが挙げられる。帯電防止剤の含有量は、樹脂層形成用液状物の樹脂成分の固形分100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましい。
【0043】
さらに、樹脂層には、その目的および用途によって、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、安定剤、補強材、充填剤、軟化剤、滑剤、顔料、着色剤、防カビ剤、難燃剤、粘着剤などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0044】
本発明における樹脂層は、樹脂層形成用液状物に含有する発泡剤が発泡することで、微細な空隙や凹凸が形成され、特定の表面形状が形成されるため、樹脂層形成用液状物は、粗面化のための粒子を含有しなくてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、粒子を含有してもよい。粗面化のための粒子としては、例えば、クレ-、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、湿式および乾式法シリカ、さらにはコロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライトなどの無機粒子や、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチルやポリアクリル酸エステル共重合体、ゴム等の架橋微粒子などの有機粒子が挙げられる。樹脂層からの粒子脱落を抑制するために、樹脂層における粒子の含有量は、樹脂層構成成分100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。
【0045】
<用途>
本発明の積層フィルムの樹脂層に親水性、吸水性を付与したものは、水性インクのインクジェット印刷用途において好適に用いられる。また、親油性を付与したものは油性インクのインクジェット印刷用途において好適に用いられる。
具体的にはドライフィルムレジスト製法において、高精細な配線パターンを印刷するためのアートワークフィルムや、導電性塗料をインクジェット印刷で配線成形したフレキシブルプリント基板として好適に用いられる。その他、ラベルシールやカード、屋外看板や電飾看板、等耐水性、耐候性等を必要とする印刷物に対して好適に用いられる。
また、インクジェット印刷用途以外にも、スクリーン、グラビア、オフセット等その他印刷用途においても好適に用いられる。
【実施例0046】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。積層フィルムの特性は下記の方法で測定した。なお、下記(1)~(3)の測定項目においては、積層フィルムを幅方向に3分割し、3分割したそれぞれのフィルムの中央部を試料として測定し、その平均値を求めた。
【0047】
(1)粗さ曲線の平均長さ(RSm)、最大高さ(Rz)、算術平均粗さ(Ra)、二乗平均平方根傾斜(RΔq)
積層フィルムの樹脂層表面において、三次元測定レーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS4100)を用い、λc、λs、λfのいずれも無しの設定で測定を行った。観察面内で各3点測定し、得られた平均値を、それぞれ粗さ曲線の平均長さRSm(μm)、最大高さ(Rz)、算術平均粗さRa(μm)および二乗平均平方根傾斜(RΔq)として採用した。
【0048】
(2)全光線透過率、ヘーズ
積層フィルムについて、濁度計(日本電色工業社製、NDH-300A)により、ヘーズA(%)、全光線透過率B%を測定し、5回の測定の平均値を採用した。
【0049】
(3)文字品質評価
積層フィルムの樹脂層に対して安定した印刷が行われたか否かを目視にて評価した。
水性インクプリンターはiP7230(キャノン社製)、油性インクプリンターはVersaSTUDIO BN-20(Roland社製)を使用してC、M、Y、K各色のインクを用いて、MSゴシック体文字(10.5ポイント)を印字し、文字の滲み、精細度を顕微鏡にて50倍に拡大観察し、下記の基準に則り文字品質の評価を行った。
◎:文字の滲みがなく、線がなめらかで高精細に印字できている
○:僅かに文字の滲みや線の乱れがあるが、ほとんど目立たずに印字できている
△:文字に滲みや線の乱れがあり、文字がかすかにかすれている
×:文字の滲みや線の乱れがあり、文字のかずれがひどく実用性がない
【0050】
(4)インク滲み評価
積層フィルムの樹脂層に対して安定した印刷が行われたか否かを目視にて評価した。
水性インクプリンターはiP7230(キャノン社製)、油性インクプリンターはVersaSTUDIO BN-20(Roland社製)を使用して印刷テスト用データ(https://pen64.com/document/print-sample.html)を印刷し、濃度50%のインクドットの滲みを顕微鏡にて50倍に拡大観察し評価を行った。
◎:インクドットの滲みがなく、印字できている
○:僅かにインクドットに滲みや歪みがあるが、ほとんど目立たずに印字できている
△:インクドットに滲みや歪みがあり、高精細な印刷には適さない
×:インクドットが潰れて形状が確認できず、実用性がない
【0051】
(5)インク転写評価
印刷されたフィルムからのインク転写の有無を目視にて評価した。
水性インクプリンターはiP7230(キャノン社製)、油性インクプリンターはVersaSTUDIO BN-20(Roland社製)を使用して印刷テスト用データ(https://pen64.com/document/print-sample.html)を印刷した直後にPPC用紙へ貼り合わせ、垂直線0.2mmに沿って質量500gのローラーで加圧した後インクの転写度合いを目視で評価した
◎:転写なし
○:転写が僅かに発生したが実用上問題なし
△:転写があり、実用性に乏しい
×:転写がひどく、実用性がない
【0052】
樹脂層形成用液状物を構成する原料として、以下のものを使用した。
(1)樹脂成分
・P-1:ポリビニルピロリドン水溶液(第一工業製薬社製、ピッツコールK-60L、固形分濃度:8質量%)
・P-2:ポリビニルアルコール水溶液(日本酢ビ・ポバール社製、VC-10、重合度:1,000、固形分濃度:8質量%)
・P-3:共重合ポリエステル樹脂水性分散体(ユニチカ社製、エリーテルKT-8904、固形分濃度:30%)
・P-3:塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂溶液(日信化学工業社製、ソルバインA、重合度:420、固形分濃度:8質量%)
(2)添加剤
・D-1:オキソザリン化合物水溶液(日本触媒社製、エポクロスWS-700、固形分:25%)
・D-2:アセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、オルフィンE1004、有効成分:100%)
・R-1:コロイダルシリカ(扶桑化学工業社製、PL-3、二次粒子径70nm)
・R-2:アクリル微粒子(日本触媒社製、エポスターMX100W、平均粒子系150nm)
(3)発泡剤
・F-1:炭酸水素ナトリウム(関東化学社製)
・F-2:炭酸水素アンモニウム(関東化学社製)
・F-3:アゾジカルボンアミド(永和化成工業社製)
【0053】
実施例1
シリカ粒子(粒子径2.3μm)を0.08質量%含有する固有粘度0.62のポリエチレンテレフタレートAを押出機Iに、また粒子を含有しない同じ固有粘度のポリエチレンテレフタレートBを押出機IIに、それぞれ投入し、280℃で溶融後、それぞれの溶融樹脂をTダイの出口に至る前で層状に合流積層させた。層の厚み比(I/II)が4/6となり、総厚みが600μmとなるよう調整してTダイ出口より押出し、急冷固化して未延伸の複層ポリエステルフィルムを得た。
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機で85℃の条件下、3.5倍に延伸して縦延伸ポリエステルフィルム(S-1)を得た。
次いで、ポリビニルピロリドン水溶液(P-1)と、発泡剤(F-1)とを、各成分の固形分質量比が100/300となるように混合して、樹脂層形成用液状物を得た。
得られた樹脂層形成用液状物を、縦延伸フィルムの表面に、グラビアロールで35g/m2となるように塗布したのち、横延伸テンター内で、100℃の条件下、横4.5倍に延伸を施し、その後、横方向の弛緩率を3%として、240℃で3秒間の熱処理を施して、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
基材フィルムの厚さは38μmであり、樹脂層の厚さは0.7μmである。
【0054】
実施例3
マイヤーバーを用いて、基材フィルムS-2(ユニチカ社製二軸延伸PETフィルム エンブレットS-38)のコロナ処理面にポリビニルピロリドン水溶液(P-1)の樹脂層を塗布した後、150℃で70秒乾燥し、基材フィルム上に厚さ1.4μmの樹脂層を有する積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムにマイヤーバーを用いて、実施例1で得られた樹脂層形成用液状物を塗布した後、150℃で70秒乾燥し、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
基材フィルムの厚さは38μmであり、樹脂層の厚さは2.8μmである。
【0055】
実施例4
実施例1で得られた樹脂層形成用液状物を、マイヤーバーを用いて、基材フィルムS-2(ユニチカ社製二軸延伸PETフィルム エンブレットS-38)のコロナ処理面に塗布した後、120℃で35秒乾燥し、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
基材フィルムの厚さは38μmであり、樹脂層の厚さは0.7μmである。
【0056】
実施例10
樹脂層形成用液状物として、、ポリビニルピロリドン水溶液(P-1)と、添加剤としてオキソザリン化合物水溶液(D-1)と、発泡剤(F-1)とを、各成分の固形分質量比が100/2/300となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
【0057】
実施例11
樹脂層形成用液状物として、、ポリビニルピロリドン水溶液(P-1)と、添加剤としてアセチレン系界面活性剤(D-2)と、発泡剤(F-1)とを、各成分の固形分質量比が100/2/300となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
【0058】
実施例2、5~9、比較例1~4
樹脂成分の種類、添加剤の種類や含有量、発泡剤の種類や含有量、基材フィルムの種類を表1のように変更した以外は、実施例1または4と同様にして、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
【0059】
比較例5
ポリビニルピロリドン水溶液(P-1)と、コロイダルシリカ(R-1)を、各成分の固形分質量比が100/300となるように混合した樹脂層形成用液状物を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
【0060】
比較例6
コロイダルシリカ(R-1)に代えてアクリル微粒子(R-2)を用いた以外は比較例5と同様にして、樹脂層が積層された積層フィルムを得た。
【0061】
実施例、比較例で得られた積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
実施例1~11の積層フィルムは樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μm以下であり、最大高さ(Rz)が0.8μm以上であり本発明で規定する範囲を満たしていたため、インクのかすれ、滲み、転写がほとんどなく良好であり、インクジェット印刷時に良好な文字品質が得られた。特に、実施例1、2、10、11は二乗平均平方根傾斜(RΔq)および算術平均粗さ(Ra)が最も好ましい範囲であるため、高精細なインクジェット印刷に最も適していた。
一方、比較例1~4の積層フィルムは、RSm、Rzともに本発明で規定する範囲を満たさなかったため、インクジェット印刷した際にインクのかすれ、滲み、転写が見られた。また、比較例5、6の積層フィルムは、微粒子によって凹凸を形成したが、Rsmが本発明で規定する範囲を満たさなかったため、インクの滲みが見られ高精細なインクジェット印刷には適さなかった。