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特開2022-32538光偏向装置、光走査装置及び光走査式測距装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032538
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】光偏向装置、光走査装置及び光走査式測距装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20220217BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136402
(22)【出願日】2020-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000242600
【氏名又は名称】北陽電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】▲浅▼田 規裕
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 直希
【テーマコード(参考)】
2H045
5J084
【Fターム(参考)】
2H045AB06
2H045AB10
2H045AB38
2H045AB81
2H045BA02
2H045DA02
5J084AA05
5J084AD01
5J084AD02
5J084BA04
5J084BA36
5J084BA48
5J084BB02
5J084BB28
5J084CA07
5J084EA31
(57)【要約】
【課題】薄層の圧電素子を用いながらも基板の歪みや製造ばらつきに起因する振動ばらつきを低減し、小型軽量で長寿命の光偏向装置を提供する。
【解決手段】板状体11の一端側に形成された開口部12に、直線上に位置する一対の梁部13,14を介して両側から支持される光偏向ミラー15を備えた光偏向子10と、板状体11の一端側が自由端となる片持ち構造で、板状体11の他端側から一端側に向けた延出方向が梁部13,14の延在方向と交差する姿勢となるように、前記板状体11の他端側を片持ち梁状に支持する振動子20と、前記振動子20を支持する基部30と、を備え、前記振動子20の主面に前記板状体11の主面が重畳する重畳部を介して前記板状体11が前記振動子20に支持されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状体の一端側に形成された開口部に、直線上に位置する一対の梁部を介して両側から支持される光偏向ミラーを備えた光偏向子と、
前記板状体の一端側が自由端となる片持ち構造で、前記板状体の他端側から一端側に向けた延出方向が前記梁部の延在方向と交差する姿勢となるように、前記板状体の他端側を支持する振動子と、
前記振動子を支持する基部と、
を備え、
前記振動子の主面に前記板状体の主面が重畳する重畳部を介して前記板状体が前記振動子に支持されている光偏向装置。
【請求項2】
前記光偏向ミラーの重心が前記直線上に位置する請求項1記載の光偏向装置。
【請求項3】
前記振動子の主面の面積が前記重畳部の面積以上に設定されている請求項1または2記載の光偏向装置。
【請求項4】
前記板状体は弾性部材を用いて前記振動子に支持されている請求項1から3の何れかに記載の光偏向装置。
【請求項5】
前記弾性部材は前記振動子の主面に前記板状体の主面を接着する弾性接着剤であり、少なくとも前記重畳部の所定面積以上が接着されている請求項4記載の光偏向装置。
【請求項6】
前記弾性部材は前記振動子と前記板状体を挟持する弾性クリップである請求項4記載の光偏向装置。
【請求項7】
前記振動子は前記弾性部材を用いて前記基部に支持されている請求項4から6の何れかに記載の光偏向装置。
【請求項8】
光偏向子は冷間圧延材または単結晶半導体を用いた一体形成体で構成されている請求項1から7の何れかに記載の光偏向装置。
【請求項9】
前記振動子は圧電素子または磁歪素子で構成されている請求項1から8の何れかに記載の光偏向装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載の光偏向装置と、前記光偏向ミラーに光ビームを照射する光源部と、を備えている光走査装置。
【請求項11】
請求項1から9の何れかに記載の光偏向装置と、前記光偏向ミラーに光ビームを照射する光源部と、前記光偏向装置で走査された光ビームに対する反射光を検出する受光部と、を備えている光走査式測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向装置、光走査装置及び光走査式測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミラーを用いて光を偏向する光偏向子として、電動モータにより駆動するポリゴンミラーやガルバノミラーが実用化されている。
近年、微細加工技術を用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーと呼ばれるモータを使用しない共振型の光偏向子が登場してきた。この共振型の光偏向子はモータを用いるものと比較して走査周波数が高速で小型、省電力を図ることができるという特徴がある。
【0003】
共振型の光偏向子は駆動方法で大きく3種類に分けることが出来る。静電力を用いるもの、圧電効果または磁歪効果を用いるもの、電磁力を用いるものである。
静電力を用いるものは、1対の電極間に働く静電力を使用するため、高精度に電極を形成する必要がある。静電力は電極間の距離の二乗に反比例し、面積と印加電圧に比例するため、できる限り大きな電極をできる限り接近させ、電極間に高電圧を印加することが理想とされる。
【0004】
しかし、電極を接近させ過ぎたり電圧をかけ過ぎたりすると放電する虞があるためミラーの揺動角度に限度があり、駆動力及び揺動角度が小さな超小型ミラーをアレイ化した例以外にはあまり普及していない。
【0005】
電磁力を用いるものは、比較的大きな駆動力を得ることができるため、ミラーを大きくできる利点がある。しかし、ミラーを含む可動部にコイルまたは永久磁石を形成しなければならないため可動部の質量が大きくなり、可動部の質量(慣性モーメント)と反比例の関係にある共振周波数はあまり高くはできない。また、永久磁石や磁束を逃さないためのヨークには比重が大きな材料を使用することになり、デバイスの小型化が難しくかつ重くなるという問題もある。
【0006】
特許文献1には、基板に捻れ梁部を形成し、該捻れ梁部により支持されたミラー部を揺動させてなる光走査装置において、前記基板の捻れ梁部と支持部材との間に圧電体、磁歪体又は永久磁石体を固定あるいは形成し、該圧電体、磁歪体又は永久磁石体に電圧あるいは磁界を印加して基板に誘起される板波を利用して捻れ梁部に支持されたミラー部を励振させることを特徴とする光走査装置が提案されている。
【0007】
詳述すると、当該光走査装置は、基板と、前記基板に振動の腹と振動の節とを有する板波振動を発生させるための、該基板の一部に固定あるいは形成してなる圧電体、磁歪体又は永久磁石体と、前記圧電体、磁歪体又は永久磁石体から離れた位置において前記基板に形成され、ミラー部を支持する捻れ梁部と、前記ミラー部に走査ビームを照射する走査ビーム源と、を備え、前記捻れ梁部と前記基板との接続箇所より僅かにずれた位置にミラー部近傍に形成される基板振動の最小振幅箇所(節)を形成し、前記基板に誘起される板波を利用してミラー部に捻れ振動を生じさせ、ミラー部で反射した走査ビームを所定の角度で振れさせるように構成されている。
【0008】
さらに、前記ミラー部の重心位置と前記捻れ梁部の基板との接続個所とのずれ量;ΔLは、0≦ΔL≦0.2(ΔL=(L1-L2)/(L1+L2)、(L1;捻れ梁部の中心線からミラー部の一端までの距離、L2;捻れ梁部の中心線からミラー部の他端までの距離))に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-293116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した光走査装置は、基板に板波振動を発生させる必要がある。効率よく共振周波数で板波振動を発生させるためには、基板を支持する固着部の位置と、ミラー部に対する振動源となる磁歪体又は永久磁石を正確に基板に配置することが重要である。そのため梁部、振動源、基板の固着部の位置ばらつきにより、ミラーの共振周波数と板波の共振周波数のずれや、板波振動の腹部、節部の位置ずれが生じるため、安定した共振周波数を得ることが難しいという問題があった。
【0011】
また、上述した光走査装置は、捻れ梁部と基板との接続箇所より僅かにずれた位置に基板振動の最小振幅箇所(節)が形成されるため、捻れ梁部が板波によって基板の振動に伴って基板の厚み方向に位置が変動し、しかもミラー部の重心位置を捻れ梁部の基板との接続個所からずらせる必要があったため、ミラーへの走査ビームの入射位置が変動し、結果として走査ビームの走査速度の変動や走査角度の変動による影響を回避できないという問題があった。
【0012】
さらに、基板を歪ませることによって定在波を発生させ、梁の両端が節の近傍に位置するように設計されるため、基板に設置した圧電素子を固定することができず、基板に歪が生じると圧電素子の設置位置で発生応力にばらつきが生じる、或いは、本来の梁の変形に要する応力に歪み応力が付加されて、総合で振幅応力設計値よりも大きくなり、振幅の設計度が原理的に下がり、投入電力の効率および共振周波数に影響する、という問題もあった。そこで、圧電素子を厚く積層形成して剛性を高めると小型軽量化を図ることができなくなるという問題もあった。
【0013】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、薄層の圧電素子を用いながらも基板の歪みや製造ばらつきに起因する振動ばらつきを低減し、小型軽量で長寿命の光偏向装置、光走査装置及び光走査式測距装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明による光偏向装置の第一の特徴構成は、板状体の一端側に形成された開口部に、直線上に位置する一対の梁部を介して両側から支持される光偏向ミラーを備えた光偏向子と、前記板状体の一端側が自由端となる片持ち構造で、前記板状体の他端側から一端側に向けた延出方向が前記梁部の延在方向と交差する姿勢となるように、前記板状体の他端側を支持する振動子と、前記振動子を支持する基部と、備え、前記振動子の主面に前記板状体の主面が重畳する重畳部を介して前記板状体が前記振動子に支持されている点にある。
【0015】
振動子の主面に重畳するように他端側が支持された片持ち構造の板状体に、振動子によって板状体の厚み方向への振動が作用して、板状体の自由端である一端側に形成された開口部が同相で加振される。片持ち構造の板状体の支持端となる他端側から自由端となる一端側に向けた延出方向に対して姿勢が交差するように配置された一対の梁部によって支持される光偏向ミラーには、振動子に支持された板状体の他端側から梁部に到る距離よりも近接側と離隔側とで距離の相違に起因した異なる値の速度および加速度が作用するため、当該振動によって梁部を軸にして揺動モーメントが作用する。
【0016】
その結果、光偏向ミラーは梁部を軸にして回転運動を始め、梁部の捻じれによりバネに蓄積される力とモーメントが釣り合うところまで回転して停止し、次に逆方向に回転する、という揺動動作を振動子の振動周期と同周期で繰り返し、梁のバネ定数とミラーの慣性質量で求まる共振点でミラーが最大振幅で揺動する。重畳部を構成する振動子と板状体との間に相対的な位置ばらつきが生じても、振動子の振動周波数を梁部の断面積、長さ、光偏向ミラーの形状などで定まる光偏向ミラーの共振周波数に近い値で振動子を駆動することで、振幅が大きく安定した振動周期で光偏向ミラーの揺動が実現できる。
【0017】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記光偏向子の重心が前記直線上に位置する点にある。
【0018】
光偏向ミラーへ走査ビームを入射させる場合に、揺動軸心上に光偏向ミラーの重心が位置するので、入射位置の変動が生じない。
【0019】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記振動子の主面の面積が前記重畳部の面積以上に設定されている点にある。
【0020】
板状体の他端側と振動子との重畳部の面積以上になるように振動子の面積が設定されているので、板状体を安定した振動状態で加振することができる。
【0021】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記板状体は弾性部材を用いて前記振動子に支持されている点にある。
【0022】
振動子に板状体の振動などの外乱による歪発生要因が、弾性部材によって吸収され、板状体を安定した振動状態で加振することができ、機械的な破損に対しても耐性の強化が図られる。
【0023】
同第五の特徴構成は、上述した第四の特徴構成に加えて、前記弾性部材は前記振動子の主面に前記板状体の主面を接着する弾性接着剤であり、少なくとも前記重畳部の所定面積以上が接着されている点にある。
【0024】
弾性接着剤は硬化後にゴム状弾性体となる性状をもつため、弾性部材として好適に用いることができる。例えば、シリコーン樹脂系の接着剤、変成シリコーン樹脂系の接着剤、変性アクリル系の接着剤、ポリオロールとポリイソジンアネート硬化剤で構成されるウレタン樹脂系の接着剤などが例示できる。振動子の主面における重畳部の所定面積以上を弾性部材を介して接着することで、接着される板状体の主面にその厚み方向に振動させる力を作用させることができる。
【0025】
同第六の特徴構成は、上述した第四の特徴構成に加えて、前記弾性部材は前記振動子と前記板状体を挟持する弾性クリップである点にある。
【0026】
弾性部材として、振動子と板状体を挟持する弾性クリップであっても、外乱による歪発生要因を吸収できる。
【0027】
同第七の特徴構成は、上述した第四の特徴構成に加えて、前記振動子は前記弾性部材を用いて前記基部に支持されている点にある。
【0028】
弾性部材が、振動子と基部との間に配されていることで、振動子で発生する機械的ストレス、例えば、線膨張率の相違による熱ストレスなどを抑制することができる。
【0029】
同第八の特徴構成は、上述した第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、光偏向子は冷間圧延材または単結晶半導体を用いた一体形成体で構成されている点にある。
【0030】
部品寿命を伸ばす点で冷間圧延材または単結晶半導体を用いた一体形成体で光偏向子を構成することが好ましい。
【0031】
同第九の特徴構成は、上述した第一から第八の何れかの特徴構成に加えて、前記振動子は圧電素子または磁歪素子で構成されている点にある。
【0032】
本発明による光走査装置の第一の特徴構成は、上述した第一から第九の何れかの特徴構成を備えた光偏向装置と、前記光偏向ミラーに光ビームを照射する光源部と、を備えている点にある。
【0033】
本発明による光走査式測距装置の第一の特徴構成は、上述した第一から第九の何れかの特徴構成を備えた光偏向装置と、前記光偏向ミラーに光ビームを照射する光源部と、前記光偏向装置で走査された光ビームに対する反射光を検出する受光部と、を備えている点にある。
【発明の効果】
【0034】
以上、説明した通り、本発明によれば、薄層の圧電素子を用いながらも基板の歪みや製造ばらつきに起因する振動ばらつきを低減し、小型軽量で長寿命の光偏向装置、光走査装置及び光走査式測距装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明による光偏向装置の説明図
図2】光偏向子、振動子、基部を含む光偏向装置の分解斜視図
図3】(a)~(d)は光偏光装置の動作説明図
図4】光走査装置及び光走査式測距装置の説明図
図5】(a),(b)は試作品の特性図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明による光偏向装置、光走査装置及び光走査式測距装置を図面に基づいて説明する。
【0037】
図1及び図2に示すように、光偏向装置1は、光偏向子10と、振動子20と、基部30とを備えている。
【0038】
光偏向子10は、矩形形状の薄板でなる板状体11の一端側に形成された矩形形状の開口部12の中央部に位置するように一対の梁部13,14で支持された矩形形状の光偏向ミラー15を備えている。
【0039】
一対の梁部13,14は開口部12の中央部に位置する平面視正方形の光偏向ミラー15を支持すべく、対向辺12a,12bの中点間と光偏向ミラー15の対向辺15a,15bの中点とを接続するように、対向辺12a,12bの中点間同士を接続する直線上に配置されて、当該直線上に光偏向ミラー15の重心が位置するように配置されている。即ち、梁部13,14を捻り軸心として光偏向ミラー15が揺動自在に支持されている。
【0040】
光偏向子10として、例えば、ばね材、SUSなどの冷間圧延材、即ちステンレス材、炭素工具鋼材、磨き鋼材などのテンションアニール処理材、またはシリコンなど単結晶半導体でなる弾性板状体が用いられる。何れの材料を用いる場合でも、エッチング法など、機械的な損傷が加わらない製法を用いて一体に形成される。
【0041】
振動子20として、薄板状の圧電素子または磁歪素子が用いられる。本実施形態では平面視で20mm×10mm程度の大きさで、厚さ0.5mm程度の圧電素子21が用いられている。
【0042】
図には示されていないが、圧電素子21には表裏両方の主面を挟むように上下電極パターンが形成されており、圧電素子21の下部側に外部電極引き出し用のリード線基板22が、圧電素子21の一辺から外側に延出するように配されている。リード線基板22には圧電素子21の上下各電極パターンに交番電圧を印加するための配線パターンが形成されている。圧電素子21にはスルーホールが形成され、リード線基板22に形成された配線からスルーホールを介して圧電素子21の上部電極パターンに電気的に接続されている。
【0043】
圧電素子21は厚み方向への振動を発生させる特性を備えていればよく、薄板状の厚み方向に伸縮する積層型の圧電素子であることが好ましい。圧電素子21は厚み方向に伸縮するのに伴って薄板の延在方向(縦または横方向)に伸縮してもよい。また、圧電素子21は薄板が反るように変形することで主面の中央付近が上下するように振動する振動素子であってもよい。磁歪素子についても同様である。
【0044】
基部30は、例えばポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂のような硬質樹脂で構成され、中央部にリード線基板22を収容する凹部31が形成されている。
【0045】
図2に示すように、基部30の表面に、硬化後にゴム状弾性体となる性状をもつ弾性接着剤層51を介して振動子20が接着固定され、振動子20の上面(主面)に同様の弾性接着剤層52を介して光偏向子10を構成する板状体11の主面が接着固定されている。振動子20の主面に板状体11の主面が重畳する重畳部の所定面積以上が弾性接着剤層52を介して接着されていることが好ましく、振動子20から板状体11の主面にその厚み方向に振動させる力を良好に作用させることができる。所定面積以上とは、少なくとも50%以上であればよく、70%以上であることが好ましく、100%であることがさらに好ましい。
【0046】
弾性接着剤層51,52として、例えばシリコーン樹脂系の接着剤、変成シリコーン樹脂系の接着剤、変性アクリル系の接着剤、ポリオロールとポリイソジンアネート硬化剤で構成されるウレタン樹脂系の接着剤などが好適に用いられる。また、弾性接着剤層51,52は、薄いシート状、フィルム状、あるいは、テープ状の接着剤、粘着剤を用いることができる。
【0047】
弾性接着剤は硬化後にゴム状弾性体となる性状をもつため、弾性部材として好適に用いることができる。例えば、シリコーン樹脂系の接着剤、変成シリコーン樹脂系の接着剤、変性アクリル系の接着剤、ポリオロールとポリイソジンアネート硬化剤で構成されるウレタン樹脂系の接着剤などが例示できる。
【0048】
図1に示すように、光偏向子10を構成する板状体11の一端側が自由端となる片持ち構造で、板状体11の他端側から一端側に向けた延出方向が梁部13,14の延在方向と直交する姿勢となるように、板状体11の他端側で開口部12を除く全面が振動子20と重畳するように接着固定されている。つまり、振動子20により一対の梁部13,14及び光偏向ミラー15が支持されている。
【0049】
弾性接着剤層51はリード線基板22を除いて振動子20の面積以上の面積となるように配され、接着剤層52は板状体11と振動子20との重畳部53の面積以上の面積となるように配されている。換言すると、接着剤層52は板状体11の幅方向の長さより長くなるように配されている。
【0050】
光偏向子10を構成する板状体11の形状は正方形であっても長方形であってもよく、角部が曲線状に削られていてもよい。また、先端側が次第に幅狭となる矩形形状や三角形状であってもよい。開口部12の形状も矩形形状に限るものではなく、正方形形状、楕円形状、円形状であってもよく、一端が解放されていてもよい。少なくとも他端側を支持した片持ち構造で一端側が延出する板状体11の延出方向に対して左右対称形に形成されていればよい。そして、一対の梁部13,14及び光偏向ミラー15の延在方向が自由端に向けた板状体11の延出方向と交差する方向、好ましくは直交または略直交する方向に配されていればよい。
【0051】
図3(a)から(d)に示すように、振動子20の主面に重畳するように配された板状体11に、振動子20によって板状体11の厚み方向への振動が作用して、一端側を自由端とする片持ち構造で支持された板状体11の他端側がほぼ同相で加振される。一対の梁部13,14(図1参照。)で支持された光偏向ミラー15には、当該振動によって梁部13,14を軸にして揺動モーメントが作用する。
【0052】
このとき、振動子20による支持位置から梁部13,14より近接側と離隔側とで光偏向ミラー15に付与されるモーメントに差が生じる。片持ち板状に支持された板状体11では、光偏向ミラー15の梁部13,14より近接側と離隔側とで、それぞれの速度および加速度が異なることになり、その結果モーメントにも差が生じるからである。
【0053】
この差がミラーのミラーを支えている梁部13,14を中心軸とした両側に作用すると、梁部13,14を中心とした回転モーメントが発生する。この回転モーメントは光偏向ミラー15を回転させるとともに梁部13,14にねじりのバネによる力を蓄積させる。
【0054】
その結果、梁部13,14の捻じれにより光偏向ミラー15が振動子20の振動周期と同周期で揺動することになる。これを連続で行うと梁のバネ定数とミラーの慣性質量で計算される共振点でミラーの振幅は最大となる。
【0055】
振動子20に印加される交番電圧は、梁部13,14及び光偏向ミラー15の共振周波数の近傍周波数に設定され、その結果、光偏向ミラーの揺動振幅を大きく、かつ、安定させることができる。振動子20の支持位置が多少ずれたとしても、振動子20に印加される交番電圧の周波数を共振周波数の近傍に設定すれば光偏向ミラーを共振周波数で振動させることができるため、支持位置の組み立て精度に大きく影響されることなく安定した周波数で光偏向ミラーを揺動することができる。
【0056】
以上説明したように、光偏向装置100は、板状体の一端側に形成された開口部に、直線上に位置する一対の梁部を介して両側から支持される光偏向ミラーを備えた光偏向子と、板状体の一端側が自由端となる片持ち構造で、板状体の他端側から一端側に向けた延出方向が梁部の延在方向と交差する姿勢となるように、板状体の他端側を支持する振動子と、振動子を支持する基部と、を備え、振動子の主面に前記板状体の主面が重畳する重畳部を介して板状体が振動子に支持されている。
【0057】
光偏向ミラーの重心が梁部をつなぐ直線上に位置するように構成され、振動子の主面の面積や形状は重畳部が上下方向に振動するように適した任意の形状をとることができる。重畳部が安定した上下振動を得るために、振動子の主面の面積は重畳部の面積以上に設定されていることが好ましい。
【0058】
前記板状体は弾性部材を用いて振動子に支持されていることが好ましく、弾性部材として振動子の主面に板状体の主面を接着する弾性接着剤を採用することが好ましい。板状体の主面がほぼ均等に上下振動するように、少なくとも重畳部の所定面積以上が弾性接着剤により接着されていることが好ましい。例えば、重畳部の全面または振動モードに応じて適切な部位が接着されていればよい。
【0059】
弾性部材50は振動子と板状体を挟持する弾性クリップで構成することも可能である。
【0060】
光偏向子はステンレス材、炭素工具鋼材、磨き鋼材などをテンションアニール処理した冷間圧延材または単結晶半導体などの弾性変形可能な薄板材を用いて、エッチングなどのストレスフリーな方法で一体形成体で構成されていることが好ましく、振動子は圧電素子または磁歪素子で構成されていることが好ましい。
【0061】
図4には、光走査式測距装置100の基本的な構成が示されている。光走査式測距装置100は、上述した光偏向装置1と、光偏向ミラー15に光ビームを照射する光源部2と、光偏向装置2で走査された光ビームに対する反射光を検出する受光部3と、を備えている。光偏向装置1と光源部2とによる光走査装置4が構成される。
【0062】
光源部2として発光波長領域が近赤外域のレーザダイオードや発光ダイオードが好適に用いられ、受光部3としてアバランシェフォトダイオードやSPAD(Single Photon Avalanche Diode )が好適に用いられる。
【0063】
光源部2から出射された測定光が半透過ミラー5によって光偏向ミラー15に入射し、光偏向ミラー15によって測定光が測定対象空間に向けて走査される。測定対象空間からの反射光が光偏向ミラー15に入射し、半透過ミラー5を透過した後に集光レンズ6によって集光されて受光部3で検出される。測定対象空間からの反射光を、光偏向ミラー15を介せず別の受光光学系を介して検出するように構成してもよい。
【0064】
光偏向ミラー15は、その重心位置が一対の梁部13,14の直線上に位置し、基板との接続個所からずれていないので、光偏向ミラー15への走査ビームの入射位置が光学的に影響するような変動を生じない利点がある。その結果として、走査ビームの走査速度の変動や走査角度の変動も生じにくい利点がある。
【0065】
測定光と反射光との物理関係として光源部2からの測定光の出射時期と受光部3による反射光の検出時期との時間差に基づいて距離を算出することができる。測定光をAM変調された連続光として、測定光と反射光との位相差を用いて距離を算出することも可能である。
【実施例0066】
冷間圧延材の一例として、板厚0.1mm±5μmのSUS304のテンションアニール処理材を用いて、1mm角の光偏向ミラーを備えた光偏向子を、エッチング法を用いて試作し、シミュレーション結果と比較した。
シミュレーションによる共振周波数11,341Hzに対して、実際に試作した光偏向ミラーの共振周波数は11,276Hz、振幅光学角10度となった。シミュレーションと実際の試作品の共振周波数のずれ量はわずか0.6%であることが確認できた。
SUS304の板厚の製造上のばらつきとして0.1mm±5μmが見込まれ、この条件でシミュレーションを実施したところ、板厚0.1mm+5μmのSUS304では共振周波数が11,667Hz、板厚0.1mm-5μmのSUS304では共振周波数が10,922Hzと算出でき、共振周波数の製造ばらつきは+2.8%から-3.7%の範囲に入る。
【0067】
単結晶半導体として板厚520±0.8μmのシリコンウェハを想定し、シミュレーションした。光偏向ミラーの共振周波数は19.5KHz、光学振幅40度となった。
【0068】
上述したSUS304を用いた試作品に関して、図5(a)に電圧振幅特性、図5(b)に周波数振幅特性を示す。本試作品では、振動子への入力電圧にほぼ比例する大きな光学振幅度を得ることができ、最も大きな光学振幅度を得る共振周波数は約11.9kHzである。本実施例の場合には、本来の梁の変形に要する応力に歪み応力が付加されることがないので、光学振幅度の設計度および共振周波数が原理的に下がることを回避でき、投入電力を効率よく利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1:光偏向装置
10:光偏向子
11:板状体
12:開口部
13.14:梁部
15:光偏向ミラー
20:振動子
21:圧電素子
22:リード線基板
30:基部
31:凹部
50:弾性部材
51,52:弾性接着剤層
図1
図2
図3
図4
図5