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特開2022-32590生体情報管理システムおよび生体情報管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032590
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】生体情報管理システムおよび生体情報管理方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 10/00 20180101AFI20220217BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136492
(22)【出願日】2020-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】家庭内で個人情報である自己の活動状態をモバイル端末を用いて常時リアルタイムで目視確認することができる生体情報管理システムおよび生体情報管理方法を提案する。
【解決手段】制御部は、データ記憶部に記憶されている活動状態データを所定期間ごとに読み出して、通信ネットワークを介してサーバ装置に送信することにより、家庭内で対象者が自己のモバイル端末を操作して所望の活動状態を検知するためのデバイスを起動させてペアリング確立後、当該活動状態を常時リアルタイムで機能操作させながら目視確認する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の認知系、運動系、神経系および生理系の活動状態のうち少なくとも1以上の活動状態を検知する活動状態検知部と、
前記活動状態検知部との間で近距離無線通信を介して通信可能なモバイル端末と、
前記活動状態検知部および前記モバイル端末にそれぞれ設けられ、双方間で本人認証によるペアリングを確立するための通信インタフェース部と、
前記モバイル端末と通信ネットワークを介して通信可能なサーバ装置と
を備え、
前記モバイル端末は、
前記活動状態検知部を前記対象者の操作に応じた所望の機能を実行させるための指令信号を生成し、前記通信インタフェース部を介してペアリングが確立された前記活動状態検知部に送信する制御部と、
前記通信インタフェース部を介して受信した前記活動状態検知部の検知結果である活動状態データを記憶するデータ記憶部とを有し、
前記制御部は、前記データ記憶部に記憶されている前記活動状態データを所定期間ごとに読み出して、前記通信ネットワークを介して前記サーバ装置に送信する
ことを特徴とする生体情報管理システム。
【請求項2】
前記モバイル端末において、前記制御部は、ペアリング対象となる前記活動状態検知部に応じたアプリケーションを前記データ記憶部に記憶しておき、当該活動状態検知部とのペアリング確立時に、前記データ記憶部から対応する前記アプリケーションデータを読み出して、当該アプリケーションデータに基づくアプリケーションを起動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の生体情報管理システム。
【請求項3】
前記モバイル端末において、前記制御部がペアリング確立された前記活動状態検知部に応じたアプリケーションを起動した際、当該アプリケーションに対応する機能画面を表示する表示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の生体情報管理システム。
【請求項4】
前記モバイル端末において、前記制御部は、前記通信インタフェース部を介して受信した前記活動状態検知部の検知結果である活動状態データに基づく活動状態を前記表示部の前記機能画面に組み合わせてリアルタイム表示させる
ことを特徴とする請求項3に記載の生体情報管理システム。
【請求項5】
前記モバイル端末において、前記制御部は、前記対象者の対象者の身体に関する計測内容を入力するためのアプリケーションを前記表示部に表示させ、
前記対象者の身体に関する計測結果を身体データとして当該対象者の個人情報と併せて前記データ記憶部に記憶させる
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の生体情報管理システム。
【請求項6】
対象者の認知系、運動系、神経系および生理系の活動状態のうち少なくとも1以上の活動状態を検知する活動状態検知部とモバイル端末との間で近距離無線通信を介して通信可能にしておくとともに、前記モバイル端末とサーバ装置とを通信ネットワークを介して通信可能にしておき、
前記活動状態検知部および前記モバイル端末にそれぞれ設けられた通信インタフェース部を介して、双方間で本人認証によるペアリングを確立する第1ステップと、
前記モバイル端末において、
前記活動状態検知部を前記対象者の操作に応じた所望の機能を実行させるための指令信号を生成し、前記通信インタフェース部を介してペアリングが確立された前記活動状態検知部に送信する第2ステップと、
前記通信インタフェース部を介して受信した前記活動状態検知部の検知結果である活動状態データをデータ記憶部に記憶する第3ステップと、
前記データ記憶部に記憶されている前記活動状態データを所定期間ごとに読み出して、前記通信ネットワークを介して前記サーバ装置に送信する第4ステップと
を備えることを特徴とする生体情報管理方法。
【請求項7】
前記モバイル端末において、前記第2ステップでは、ペアリング対象となる前記活動状態検知部に応じたアプリケーションを前記データ記憶部に記憶しておき、当該活動状態検知部とのペアリング確立時に、前記データ記憶部から対応する前記アプリケーションデータを読み出して、当該アプリケーションデータに基づくアプリケーションを起動させる
ことを特徴とする請求項5に記載の生体情報管理方法。
【請求項8】
前記モバイル端末において、前記第2ステップでは、ペアリング確立された前記活動状態検知部に応じたアプリケーションを起動した際、当該アプリケーションに対応する機能画面を表示部に表示させる
ことを特徴とする請求項5または6に記載の生体情報管理方法。
【請求項9】
前記モバイル端末において、前記第2ステップでは、前記通信インタフェース部を介して受信した前記活動状態検知部の検知結果である活動状態データに基づく活動状態を前記表示部の前記機能画面に組み合わせてリアルタイム表示させる
ことを特徴とする請求項7に記載の生体情報管理方法。
【請求項10】
前記モバイル端末において、前記第2ステップでは、前記対象者の対象者の身体に関する計測内容を入力するためのアプリケーションを前記表示部に表示させ、
前記対象者の身体に関する計測結果を身体データとして当該対象者の個人情報と併せて前記データ記憶部に記憶させる
ことを特徴とする請求項6から9までのいずれかに記載の生体情報管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報管理システムおよび生体情報管理方法に関し、例えば日常生活において種々のバイタルセンサを計測して健康管理を行う際に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、日常生活において健康状態を管理するために種々のバイタルセンサが用いられている。近年、家庭内にて個人から測定された心拍や脈拍、血圧、心電、血中酸素等のバイタルデータをネットワーク上のサーバに送信して、サーバのデータベースに登録するようになされている。
【0003】
特に近年のスマートフォンの普及に伴い、ユーザが自己保有のスマートフォンを使って種々のバイタルセンサを統合的に管理することを望む傾向が高くなっており、健康管理に関するアプリケーションも増加してきている。
【0004】
測定機器で計測した個人の健康状態を示す指標データを手軽に利用できる健康データ管理装置が提案されている(特許文献1参照)。この健康データ管理装置では、ネットワーク上のサーバに接続することなく、指標データをデータベース管理しながら、ユーザが指標パネルにアイコン表示される指標データを視覚的に容易に認識するようになされている。
【0005】
また、生体情報の測定を行う医療用測定装置と、この医療用測定装置と共に携帯される管理デバイスとを有し、医療用測定装置の起動後に任意に設定された特定のタイミングで、ユーザIDの認証とともに、予め記録された複数のユーザIDの一致性が否定的な場合、記録された測定結果の読み出しを禁止するようになされた医療用測定システムが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-12604号公報
【特許文献2】特開2018-59938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の引用文献1の健康データ管理装置においては、ネットワークを介したサーバからのデータ読み出しをしないことを目的として、測定機器による測定結果に基づく指標データをスマートフォンにて受信して更新する役割しか果たしていない。このためユーザが測定機器で計測した個人の健康状態を示す指標データをスマートフォンを用いて手軽に利用し得るに過ぎない。
【0008】
また上述の引用文献2の医療用測定システムにおいては、使い勝手の低下を抑制し、個人情報の保護性能を高めることが可能となる利点がある。しかし、この医療用測定システムでは、ハンドヘルド型の医療用測定装置はバイオセンサの測定結果をユーザIDと関連付けて本人特定して記録させるだけであり、医療用測定装置を用いてバイオセンサを起動等の操作をするようになされていない。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、家庭内で個人情報である自己の活動状態をモバイル端末を用いて常時リアルタイムで目視確認することができる生体情報管理システムおよび生体情報管理方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明においては、対象者の認知系、運動系、神経系および生理系の活動状態のうち少なくとも1以上の活動状態を検知する活動状態検知部と、活動状態検知部との間で近距離無線通信を介して通信可能なモバイル端末と、活動状態検知部およびモバイル端末にそれぞれ設けられ、双方間で本人認証によるペアリングを確立するための通信インタフェース部と、モバイル端末と通信ネットワークを介して通信可能なサーバ装置とを備え、モバイル端末は、活動状態検知部を対象者の操作に応じた所望の機能を実行させるための指令信号を生成し、通信インタフェース部を介してペアリングが確立された活動状態検知部に送信する制御部と、通信インタフェース部を介して受信した活動状態検知部の検知結果である活動状態データを記憶するデータ記憶部とを有し、制御部は、データ記憶部に記憶されている活動状態データを所定期間ごとに読み出して、通信ネットワークを介してサーバ装置に送信するようにした。
【0011】
この結果、生体情報管理システムでは、家庭内で対象者が自己のモバイル端末を操作して所望の活動状態を検知するためのデバイスを起動させてペアリング確立後、当該活動状態を常時リアルタイムで機能操作させながら目視確認することができる。
【0012】
また本発明においては、モバイル端末において、制御部は、ペアリング対象となる活動状態検知部に応じたアプリケーションをデータ記憶部に記憶しておき、当該活動状態検知部とのペアリング確立時に、データ記憶部から対応するアプリケーションデータを読み出して、当該アプリケーションデータに基づくアプリケーションを起動させるようにした。
【0013】
この結果、生体情報管理システムでは、対象者が活動状態検知部として選択した認知系、運動系、神経系または生理系の活動状態を検知するデバイスを、自己のモバイル端末を用いて起動等の操作をし得るとともに、当該デバイスに応じたアプリケーションをモバイル端末に反映させて実行することが可能となる。
【0014】
さらに本発明においては、モバイル端末において、制御部がペアリング確立された活動状態検知部に応じたアプリケーションを起動した際、当該アプリケーションに対応する機能画面を表示する表示部をさらに備えるようにした。
【0015】
この結果、生体情報管理システムでは、対象者が所望する活動状態を検知するデバイスに応じたアプリケーションを表す機能画面を自己のモバイル端末の表示部に表示させることが可能となる。
【0016】
さらに本発明においては、モバイル端末において、制御部は、通信インタフェース部を介して受信した活動状態検知部の検知結果である活動状態データに基づく活動状態を表示部の機能画面に組み合わせてリアルタイム表示させるようにした。
【0017】
この結果、生体情報管理システムでは、対象者が所望する活動状態を検知するデバイスに応じたアプリケーションを表す機能画面に組み合わせて、リアルタイムで自己の活動状態を表示させて目視確認することが可能となる。
【0018】
さらに本発明においては、モバイル端末において、制御部は、対象者の身体に関する計測内容を入力するためのアプリケーションを表示部に表示させ、対象者の身体に関する計測結果を身体データとして当該対象者の個人情報と併せてデータ記憶部に記憶させるようにした。
【0019】
この結果、生体情報管理システムでは、対象者の個人情報に関連付けて、当該対象者の身長や胴回り長、体重などの身体に関する計測結果を身体データとしてデータ記憶部に記憶することにより、サーバ装置において活動状態検知部の検知結果を有効に活用することが可能となる。
【0020】
さらに本発明においては、対象者の認知系、運動系、神経系および生理系の活動状態のうち少なくとも1以上の活動状態を検知する活動状態検知部とモバイル端末との間で近距離無線通信を介して通信可能にしておくとともに、モバイル端末とサーバ装置とを通信ネットワークを介して通信可能にしておき、活動状態検知部およびモバイル端末にそれぞれ設けられた通信インタフェース部を介して、双方間で本人認証によるペアリングを確立する第1ステップと、モバイル端末において、活動状態検知部を対象者の操作に応じた所望の機能を実行させるための指令信号を生成し、通信インタフェース部を介してペアリングが確立された活動状態検知部に送信する第2ステップと、通信インタフェース部を介して受信した活動状態検知部の検知結果である活動状態データをデータ記憶部に記憶する第3ステップと、データ記憶部に記憶されている活動状態データを所定期間ごとに読み出して、通信ネットワークを介してサーバ装置に送信する第4ステップとを備えるようにした。
【0021】
この結果、生体情報管理方法では、家庭内で対象者が自己のモバイル端末を操作して所望の活動状態を検知するためのデバイスを起動させてペアリング確立後、当該活動状態を常時リアルタイムで機能操作させながら目視確認することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、家庭内で個人情報である自己の活動状態をモバイル端末を用いて常時リアルタイムで目視確認することができる生体情報管理システムおよび生体情報管理方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る生体情報管理システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】活動状態検知部の構成例を示す概念図である。
図3】フィルタ適用の前後における脈波形を示すグラフである。
図4】近赤外線画像のROIおよび遠赤外線画像のROIを表す概念図である。
図5】鼻呼吸および口呼吸の説明に供する概念図である。
図6】鼻呼吸および口呼吸の温度状態の説明に供する概念図である。
図7】鼻呼吸による鼻孔温度の変化状態および口呼吸による口腔温度の変化状態を表すグラフである。
図8】鼻呼吸から口呼吸への呼吸手法変化および各状態内容を重畳したグラフである。
図9】光を用いた酸素飽和度の非接触計測の説明に供する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0025】
(1)本発明による生体情報管理システムの構成
図1は本実施の形態における生体情報管理システム1を示し、対象者ごとに設けられたモバイル端末2と、対象者の認知系、運動系、神経系および生理系の活動状態をそれぞれ検知することが可能なセンサ群からなる活動状態検知部3と、当該モバイル端末2とインターネット等の通信ネットワーク4を介して通信可能なサーバ装置5とから構成されている。
【0026】
モバイル端末2は、例えばスマートフォンからなり、端末装置全体を制御するCPU(Central Processing Unit)からなる制御部10と、活動状態検知部3との間でBluetooth(商標名)等の近距離無線通信を介して通信するための通信インタフェース部11と、通信インタフェース部11を介して受信した活動状態検知部3の検知結果である活動状態データを記憶するデータ記憶部12とを有する。
【0027】
活動状態検知部3は、モバイル端末2との間で近距離無線通信を介して通信するための通信インタフェース部20を有する。活動状態検知部3には、医療機器である血圧計、心拍センサ、体重計、体温計、睡眠時無呼吸の治療装置(CPAP)、血糖値計測装置、ペースメーカ等が該当する。さらに後述するように、活動状態検知方法としては、主として生理系および神経系の活動状態を検知する近赤外および遠赤外検出方法と、主として運動系の活動状態を検知する動き認識方法と、主として認知系の活動状態を検知する認知度検知方法とが挙げられる。
【0028】
生体情報管理システム1においては、活動状態検知部3およびモバイル端末2にそれぞれ設けられた通信インタフェース部11、20を介して、双方間で本人認証によるペアリングを確立し得るようになされている。
【0029】
データ記憶部12には、対象者の認知系、運動系、神経系および生理系の活動状態をそれぞれ検知することが可能なセンサ群からなる活動状態検知部3に対応するアプリケーションデータが当該センサごとに記憶されている。
【0030】
モバイル端末2において、制御部10は、活動状態検知部3を対象者の操作に応じた所望の機能を実行させるための指令信号を生成し、通信インタフェース部11を介してペアリングが確立された活動状態検知部3に送信する。
【0031】
モバイル端末2において、制御部10は、所望の活動状態検知部3とのペアリング確立時に、当該ペアリング対象となる活動状態検知部3に応じたアプリケーションをデータ記憶部12から読み出して、当該アプリケーションデータに基づくアプリケーションを起動させる。
【0032】
制御部10は、ペアリング確立された活動状態検知部3に応じたアプリケーションを起動した際、当該アプリケーションに対応する機能画面を表示部13に表示させる。この表示部13は、タッチパネル方式を採用し、ディスプレイ表示させるとともに表示画面を介した外部入力(指等によるタッチ操作)に応じた操作内容を制御部10に送信するようになされている。
【0033】
そして、制御部10は、通信インタフェース部11を介して受信した活動状態検知部3の検知結果である活動状態データに基づく活動状態を表示部13の機能画面に組み合わせてリアルタイム表示させるとともに、当該活動状態データをデータ記憶部12に記憶させる。
【0034】
制御部10は、データ記憶部12に記憶されている活動状態データを所定期間ごとに読み出して、通信ネットワーク4を介してサーバ装置5に送信する。
【0035】
サーバ装置5は、装置全体を統括制御する制御装置30と、モバイル端末2から通信ネットワーク4を介して受信される活動状態データを読出し可能に記憶するデータベース31とを有する。
【0036】
このように生体情報管理システム1では、対象者が活動状態検知部3を用いて所望の活動状態(認知系、運動系、神経系または生理系)を検知する際に、自己のモバイル端末2を用いて必要な操作を行うことにより、当該活動状態検知部3とモバイル端末2とをペアリング確立させるとともに、当該操作に応じた所望の機能を実行させる。
【0037】
そしてモバイル端末2は、表示部13に表示される活動状態検知部3に対応するアプリケーションを目視確認しながら、活動状態検知部3を遠隔的に操作して所望の機能を発揮させつつ、当該活動状態検知部3の検知結果である活動状態データをデータ記憶部12に記憶するとともに、通信ネットワーク4を介して外部のサーバ装置5に送信する。
【0038】
かくして生体情報管理システム1では、家庭内で対象者が自己のモバイル端末2を操作して所望の活動状態を検知するためのデバイスを起動させてペアリング確立後、当該活動状態を常時リアルタイムで機能操作させながら目視確認することができる。
【0039】
さらにモバイル端末2において、制御部10は、対象者の対象者の身体に関する計測内容を入力するためのアプリケーションを表示部13に表示させ、対象者の身体に関する計測結果を身体データとして当該対象者の個人情報と併せてデータ記憶部12に記憶させる。
【0040】
この結果、生体情報管理システム1では、対象者の個人情報に関連付けて、当該対象者の身長や胴回り長、体重などの身体に関する計測結果を身体データとしてデータ記憶部12に記憶することにより、サーバ装置5において活動状態検知部3の検知結果を有効に活用することが可能となる。
【0041】
(2)活動状態検知部(センサ群)の構成
活動状態検知部3を構成するセンサ群は、対象者の認知系、運動系、神経系および生理系の活動状態をそれぞれ検知することが可能な各種センサから構成されている。
【0042】
具体的には図2に示すように、活動状態検知部3として、主として生理系および神経系の活動状態を検知する近赤外検出部40および遠赤外検出部41と、主として運動系の活動状態を検知する動き認識部42と、主として認知系の活動状態を検知する認知度検知部43とを有するセンサ群が挙げられる。
【0043】
近赤外検出部40、遠赤外検出部41、動き認識部42および認知度検知部43は、全て一体化された機器内に設けられるようにしてもよく、また個別のセンサ(カメラを含む)として別々に通信インタフェース部20を介してモバイル端末2との間で送受信するようにしてもよい。
【0044】
(2-1)生理系の活動状態の検知方法
活動状態検知部3は、近赤外検出部40および遠赤外検出部41を有し、対象者の顔を中心に赤外線を照射することにより、日常生活において対象者の脈拍数の変動と皮膚温度の変化を同時かつ非侵襲に計測する。
【0045】
近赤外検出部40は、対象者の顔の頬部を含む関心領域を中心に近赤外光を照射して、当該顔からの反射光を受光して近赤外線画像を生成する。また遠赤外検出部41は、対象者の顔の関心領域を中心に遠赤外光を照射して当該顔の皮膚温度を検出する。
【0046】
モバイル端末2の制御部10は、近赤外検出部40にて受光した反射光のうち関心領域における強度波形の変化周期に基づいて、対象者の脈拍数を推定する。制御部10は、近赤外検出部40にて生成した近赤外線画像から、対象者の顔のうち自律神経系の活動の影響を受けやすい部位および受けにくい部位をそれぞれ抽出し、遠赤外検出部41の検出結果から各部位の皮膚温度の温度差を算出する。
【0047】
(2-1-1)赤外光に基づく脈拍計測方法
生体組織において吸光性のある物質は、水と血中のヘモグロビンである。水は波長が1350〔nm〕より長い赤外線に強い吸収特性をもっており、一方のヘモグロビンは波長が650〔nm〕より短い可視光に強い吸収特性をもっている。光を用いた非侵襲生体診断では、生体透過性の高い650〔nm〕から1350〔nm〕の波長をもつ赤外から近赤外領域の光を照射し、生体情報を含む反射光や透過光を計測することが多い。
【0048】
脈拍は、心拍出を成因とする血圧の仕事によって血管の容積が変化する生理現象である。血管の容積変化は血流量の変化によってもたらされる。血流量の変化により、血液中へのヘモグロビンによる光の吸収量が変化するため、生体に照射した光の透過光や反射光の変化周期から脈拍数を推定することができる。
【0049】
本発明においては、対象者に計測機器の装着を求めず、昼夜を問わない計測を行うため、生体に照射した近赤外光の反射率の変化周期を近赤外線カメラで計測し、脈拍数を推定する。近赤外光は不可視であるため、夜間においても被計測者に負担なく計測が可能となる。脈拍数からストレス状態を推定するためには、自律神経系の活動によって細かに変動する脈拍数を計測する必要がある。
【0050】
上述のモバイル端末2における制御部10は、近赤外検出部40から得られた波形データから脈拍数算出のために必要な波形周期を抽出するアルゴリズムを実装する。
【0051】
近赤外検出部40は、照射した近赤外線が生体組織で反射した反射光の強度を計測する。この近赤外検出部40は安静時を対象として計測するが、微小な身体の動きや呼吸による顔面の動きが、反射光の光量の変化を表すモーションアーチファクトとして、脈拍波形に重畳する。
【0052】
これらのモーションアーチファクトを除去するため、まず、脈拍数の周波数帯域に対してディジタルフィルタを適用する。安静時の脈拍数の範囲を35~180〔bpm〕と設定し、計測波形に対し0.5~3.0〔Hz〕の帯域にもモーションアーチファクトが重畳する可能性があるが、脈波波形に対し重畳する波形の振幅が著しく大きい。
【0053】
そのため制御部10は、一定時間内の波形データの分散値がある閾値を超えた場合、対象者が動作中であると認識し、その間はデータは信頼度のないものとして除去する。バンドパスフィルタ後の波形は、動脈血流量に起因する双峰性を有している。特徴点抽出を容易にするため、移動平均フィルタを適用し、二山の波形を一山にする。
【0054】
計測波形に対してバンドパスフィルタおよび移動平均フィルタを適用する前後の波形をそれぞれ図3(A)および(B)に示す。脈波波形に重畳していたモーションアーチファクトが、フィルタリングにより除去されていることがわかる。
【0055】
続いて、一般的に近赤外線カメラで計測した光の強度波形から脈拍数を算出する手法として大きく2つの手法が知られている。
【0056】
第1の手法では、顔の頬部分を関心領域(ROI:Region of Interest)とし、RGBカメラによる計測で得た30秒間の頬部分の反射光の強度データに対しスペクトルアナライザによって得た周波数スペクトルのうち脈波成分だと思われる周波数とパルスオキシメータの示す脈拍数から求まる周波数を比較した。しかし、脈波波形に対し、体動によるノイズは著しく大きい。このような周波数解析による脈拍数の算出を試みる場合、計測対象者の行動を大きく制限する必要がある。
【0057】
一方、第2の手法では、計測された波形の時系列データから検出された波形の特徴点の周期から1回の脈拍動に要する時間を算出し、その時間で60を除することで脈拍数を算出している。ある一定時間の連続した計測データを必要とする周波数解析から脈拍数を算出する手法と比較すると、計測された特徴点の周期から脈拍数を算出する手法は、体動によるノイズで誤検出された特徴点周期を取り除くことによってモーションアーチファクトの除去が可能である。また、必要とする最低計測時間が周波数解析に比べ短く、数回の拍動から脈拍数を算出できるので、より短時間間隔における脈拍数の算出が可能である。
【0058】
しかし、安静状態の脈拍数は健常者で60~80〔bpm〕であることから5秒間の計測で得られる特徴点の周期は5~7回であり、より正確な脈拍数を算出するためには得られるデータ数が少ないという問題がある。また図3(A)にあるように強度変化の波形が動脈血流量と同期して二山であることにより特徴点の周期の誤検出を引き起こし、算出される脈拍数に誤差が生じる要因となる。
【0059】
日常的な計測のためには、計測する生体部位は昼夜を問わず露出している必要がある。そのため本発明による活動状態検知部3では、ROIを人の頬部分に設定する。設定したROIの場所を図4(A)に示す。設定したROI内の画素で計測された強度値の平均を計測値とし、計測値の時間変化を脈拍波形データとして記録した。波形データの特徴点の周期として、波形の上端間隔ttpだけではなく、下端間隔tbpも別の特徴点として加えることで、脈拍数算出のための参照データとなる特徴点を増やす。
【0060】
次に、脈拍数算出に必要な特徴点周期を抽出するために、検出されたttp,tbpのうち、脈拍周期を示さない、誤検出されたttp、tbpを除去するためのアルゴリズムを、以下(a)~(f)に示す。ここで、除去前の集合をSとする。
【0061】
(a) ttp,tbpのそれぞれに関して、あるピーク間隔tiが直前のピーク間隔ti-1に対し、30〔%〕以上の変動がある場合、そのピーク間隔tiを集合Sから除去する。選択されたピーク間隔の集合Sは、以下に示す式(1)によって表される。
【数1】
【0062】
(b) 集合Sの標準偏差σを算出し、2σの範囲でばらついたピーク間隔tiを集合Sから除去する。選択されたピーク間隔の集合Sは以下に示す式(2)によって表される。
【数2】
【0063】
(c) 集合Sの標準偏差σを算出し、σの範囲でばらついたピーク間隔tiを集合Sから除去する。選択されたピーク間隔の集合Sは以下に示す式(3)によって表される。
【数3】
【0064】
(d) 集合Sの標準偏差σを算出し、σの範囲でばらついたピーク間隔tiをSから除去する。選択されたピーク間隔の集合Sは以下に示す式(4)によって表される。
【数4】
【0065】
(e) 集合Sに残るピーク間隔血を脈拍数に換算し、脈拍数5〔bpm〕刻みのヒストグラムを作成する。このとき、ヒストグラムの1区間の脈拍数の幅は等しいが、その脈拍数に対応するピーク間隔の幅は異なる。そこで、以下に示す式(5)によって重み値付きのヒストグラムを作成する。
【数5】
【0066】
ここで、t30-35は脈拍数30〔bpm〕から35〔bpm〕までのピーク間隔の時間幅、ti-i+5は脈拍数i〔bpm〕からi+5〔bpm〕までのピーク間隔の時間幅、hi-i+5は補正前の脈拍数i〔bpm〕からi+5〔bpm〕までのピーク間隔の頻度、h’i-i+5は脈拍数i〔bpm〕からi+5〔bpm〕までのピーク間隔の頻度の補正値を表す。
【0067】
(f) 重み付きヒストグラムの値に関して、隣接する4区間の頻度の和が最大となるような幅20〔bpm〕の窓を設け、その範囲外にあるピーク間隔tiを除去する。
【0068】
以上のアルゴリズムに従い、抽出されたピーク間隔の平均値を計測時間内のピーク幅tとし、60秒をピーク間隔tで除した値を脈拍数とする。
【0069】
このように制御部10は、近赤外検出部40から得られる反射光の強度波形における上端および上端にそれぞれ特徴点を設定し、当該各特徴点の周期である上端同士および下端同士のピーク間隔に基づいて、脈拍数を推定する。また制御部10は、複数のピーク間隔の標準偏差を算出し、当該標準偏差を基準として脈拍周期を示さないピーク間隔を除去する。さらに制御部10は、除去した残りのピーク間隔に基づいて換算した脈拍数から、所定時間単位の重み付きヒストグラムを作成し、当該ヒストグラムに基づいてピーク間隔の頻度を補正する。
【0070】
かくして制御部10は、設定したROI内の画素群に基づく比較的短時間の脈拍波形データの計測波形から正確な脈拍数を算出することができる。
【0071】
(2-1-2)遠赤外検出部による皮膚温度計測
生体内部で発生した熱は、伝導と対流により体表面に運ばれる。ただし、生体組織自体による熱伝導は悪く、熱遮断として作用するため、皮膚への熱の運搬のほとんどは皮膚血流によるものとされる。皮膚血流量は、交感神経系と副交感神経系による血管の収縮・拡張作用を中心にした自律神経系の活動により変化する。
【0072】
従来の先行研究では、皮膚温度の変化を計測することで、自律神経系の活動を推定する試みがなされている。しかし、顔の熱分布は被計測者の髪型や眼鏡の装着の有無の影響を大きく受けるため、本発明による活動状態検知部3では、自律神経系の活動の推定に適切な計測部位の設定を近赤外線画像から行うようにした。
【0073】
皮膚温度の変化からストレス状態を推定するために、ストレスによる温度変化が顕著に現れる顔の部位を計測するROIに設定する必要がある。顔の部位の中でも、特に鼻部には自律神経系の活動の影響を受けやすい動静脈吻合血管(AVA:Arteriovenous anastomoses)が集中しており、ストレス状態の推定を目的とした皮膚温度の計測に適している。
【0074】
また、皮膚温度は外気温の影響を受けるため、皮膚温度の変化は相対温度として記録する必要がある。この際、鼻部の皮膚温度変化の基準として計測するROIは、自律神経系の活動の影響を受けにくい部位に設定する必要がある。AVAの密集度が低く、自律神経系の活動の影響を受けにくい顔の部位に前額部が挙げられる。
【0075】
以上より、本発明による制御部10では、皮膚温度の変化を鼻部の関心領域ROI_nと、前額部の関心領域ROI_fhの温度差として記録する。それぞれのROIの場所を図4(B)に示す。また、温度変化を算出する式を式(6)に示す。
【数6】
【0076】
ここで、TnはROI_n内の全画素で計測された皮膚温度の平均値、TfhはROI_fh内の全画素で計測された皮膚温度の平均値、Trは前額部と鼻部の相対温度である。それぞれのROIを設定するにあたって、近赤外線画像における鼻部と前額部の座標を遠赤外線画像上の座標に変換する。
【0077】
具体的に近赤外線(NIR)画像から遠赤外線(FIR)画像への座標変換に際して、近赤外線カメラと遠赤外線カメラとで解像度および画角が異なることから、近赤外線画像の座標情報を遠赤外線画像の画素と対応させる。
【0078】
すなわち、遠赤外線画像上のx座標をXfirは、近赤外線カメラの水平画角をθnir_h、遠赤外線カメラの水平画角をθfir_hとすると、次式(7)のように表される。
【数7】
【0079】
また、遠赤外線画像上のy座標をYfirは、近赤外線カメラの垂直画角をθnir_v、遠赤外線カメラの垂直画角をθfir_vとすると、次式(8)のように表される。なお、dは光軸の差異を表し、Lは物体との距離を表す。
【数8】
【0080】
かくして制御部10は、近赤外検出部40の画像情報を用いた計測対象部位の自動検出結果に続いて、遠赤外検出部41の画像情報に基づいて、対象者の前額部と鼻部の皮膚温度の相対温度差を正確に算出することができる。
【0081】
(2-1-3)皮膚温度に基づく呼吸計測
呼吸は、自律神経系の働きや免疫と関係し、睡眠障害の診断に用いられる。呼吸には、鼻呼吸(図5(A))と口呼吸(図5(B))があり、本来の呼吸は鼻呼吸が望ましい。口呼吸の場合、吸気が鼻腔の繊毛や粘膜を通過しない。また口呼吸は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を始め、様々な疾患の原因になる。
【0082】
図6(A)および(B)に示すように、鼻孔および口腔は、呼気(35~36[℃] )によって温められて、吸気(23~28[℃] )によって冷やされる。このため対象者の鼻孔および口腔に関心領域(ROI)を設定しておき、呼吸による鼻孔と口腔との温度変化を遠赤外検出部(遠赤外線カメラ)41によって計測する。皮膚の表面温度は外気温の影響を受けることから、鼻孔と口腔との相対温度として計測する。
【0083】
実際上、皮膚の温度分布図による計測対象部位の自動検出が困難であることから、上述したように近赤外線検出部(カメラ)の画像情報を用いた計測対象部位(鼻孔および口腔)の自動検出を行い、関心領域(ROI)を設定する。そして、鼻呼吸における鼻孔温度が比較的高いのに対して、口呼吸における口腔温度は比較的低い。
【0084】
実際に対象者による鼻呼吸および口呼吸をそれぞれ30秒間ずつ連続して計測した後、1分間の休憩を挟んで再度同様の呼吸計測を4回繰り返し実行した。その結果、図7(A)に示すように、鼻呼吸における吸気による鼻孔の温度の低下が確認された。また、図7(B)に示すように、口呼吸に合わせた口腔の温度低下も確認された。
【0085】
さらに図8(A)に示すように、鼻呼吸から口呼吸への呼吸手法変化による口の開閉も、上唇と下唇との距離に基づいて確認された。これら図7(A)、(B)および図8(A)のグラフを重畳表示させると図8(B)のように表される。
【0086】
なお、吸息タイミングの抽出方法としては、まず移動平均フィルタを用いて鼻孔と口腔との相対温度の計測結果から高周波ノイズを除去した後、一次微分を実行して呼気による温度低下タイミングを抽出する。
【0087】
また鼻孔温度と口腔温度とが同じタイミングで低下した場合、大気圧に対して肺胞内圧が陰圧になることよって鼻腔経路での空気の流入が発生することから、口呼吸と判別することが可能となる。
【0088】
このように非接触計測手法による呼吸数の算出および呼吸方法の判別を実現することができる。鼻呼吸と口呼吸の同時計測が可能であるが、各呼吸時の温度変化の特徴を考慮したアルゴリズムを実行するとによって正確な呼吸数の算出と呼吸方法の判別を実現することができる。
【0089】
(2-1-4)2種類の近赤外線波長を用いた酸素飽和度
従来から血液中のヘモグロビンによる光の吸収特性を利用した計測機器として、パルスオキシメータが挙げられる。パルスオキシメータは指先に機器を装着して血中酸素飽和度および脈拍数を計測する医療機器である。
【0090】
本発明では、血中酸素飽和度が呼吸数やヘモグロビンと酸素との結合度合い、心拍出量によって変化する性質をもつことから、酸素化ヘモグロビン(HbO2)と還元ヘモグロビン(Hb)の吸光特性の違いに着目した。
【0091】
従来の計測方法では、発光素子から赤外光(波長660[nm]付近)と近赤外線光(波長900[nm]付近)を指先に照射し、受光素子で計測された各透過光の光量比から血中酸素飽和度を推定すると同時に、透過光の光量の周期的な変化を利用して脈拍数も推定する手法が用いられている。可視光である赤外光は、酸素化ヘモグロビン(HbO2)と還元ヘモグロビン(Hb)の吸光率差の大きいため利用されてきた。
【0092】
しかし、本発明では、不可視光である近赤外線(NIR)光のみを用いて非接触計測を行うようにした(図9)。この結果、波長800(または760)[nm]と波長900[nm]との2種類の近赤外線光を照射する発光素子を交互に点滅させながら、当該各発光素子の照射部位(ROI)を1台の近赤外線カメラ(近赤外検出部40)により撮影することにより、対象者のROIを中心とする血中酸素飽和度を非接触かつ暗闇環境下においても計測することができる。
【0093】
(2-2)神経系の活動状態の検知方法
自律神経には、生体が緊張状態または活動状態にあるときに機能する交感神経と、安静状態にあるときに機能する副交感神経とがある。交感神経が優位の状態では血圧値および脈拍数が上昇する一方、副交感神経が優位の状態では血圧値および脈拍数が下降することから、自律神経機能および心機能は高い相関関係を有する。
【0094】
自律神経機能の測定方法として、心拍数変動を用いた心臓の交感神経の機能を測定する方法があり、具体的には、心電図波形のR-R間隔を用いてその変動係数を求めて評価するCVR-R(Coefficient of Variation of R-R intervals)方法や、第2に、心拍数変動の周波数成分(高周波成分および低周波成分)の変動パワー比を交感神経活動の指標とする方法が挙げられる。
【0095】
また脈波を用いた血管系の交感神経の機能を測定することにより、自律神経機能を測定する方法もある。この測定方法として、特に光電容積脈波(PPG)波形の振幅変動の大きさを自律神経機能の評価値として算出する方法が挙げられる。
【0096】
本発明では、モバイル端末2において、活動状態検知部3を構成する近赤外検出部40および遠赤外検出部41を用いて検出した対象者の脈拍数と、当該対象者の前額部と鼻部の皮膚温度の相対温度差と、対象者の呼吸数および呼吸方法と、対象者の酸素飽和度とのうち、全てまたはこれらのいくつかの組合せに基づいて、対象者の自律神経機能の評価(乱れの有無等)に寄与することができる。
【0097】
(2-3)運動系の活動状態の検知方法
活動状態検知部3は、対象者が行動タスクを実行する際、動作フェーズごとに当該対象者の動きを認識する動き認識部42を備える(図2)。動き認識部42は、人間の動作を計測する手法である慣性式モーションキャプチャを実現可能なIMU(Inertial Measurement Unit)センサを構成要素の一部として有する。
【0098】
IMUセンサは、撮像カメラや光学式モーションキャプチャ、機械式モーションキャプチャ、加速度・角速度・地磁気センサが1チップに搭載されて構成され、3軸の加速度、角速度および地磁気を計測することが可能である。
【0099】
慣性式モーションキャプチャは、屋内・屋外にて使用可能な計測手法であり、計測場所や撮影範囲も限定されず、位置情報の計測に必要なマーカが隠れることにより正常に計測ができなくなる現象(オクルージョン)も発生しないことから、スポーツ等の激しい動作計測手法に適していると考えられる。
【0100】
本発明では、動き認識部42として、高速動作時の加速度・角速度を高速サンプリングで計測することが可能なセンサモジュールを適用する。すなわち動き認識部42は、IMUセンサと、3軸の加速度センサと、1軸の角速度センサとがそれぞれ直交するように配置されたセンサモジュールからなる。そしてこのセンサモジュールは、測定範囲に応じて各センサをその出力値が線型関係を保つように切り替えるようになされている。
【0101】
このように活動状態検知部3は、動き認識部42により認識された動きデータを対象者の運動系の活動状態として検知する。
【0102】
(2-4)認知系の活動状態の検知方法
活動状態検知部3は、対象者が視覚、聴覚および触覚の少なくとも1以上の知覚を利用して当該対象者の認知から動作に至るまでの反応速度を所定時間計測する認知度検知部43(図2)を備える。
【0103】
認知度検知部43では、このような対象者の反応速度を計測する手法として、フリッカーテスト技術を採用する。フリッカーテスト技術は、光源を高速に点滅させた状態では、光のちらつき(フリッカー)を認知することは困難である一方、光点滅の速度を規定する周波数を低下させると、ある周波数からフリッカーを認知することが可能となる現象を利用するものである。
【0104】
このフリッカーの認知可能になり始める周波数は、フリッカー認知の閾値とされ、その閾値が精神的疲労とともに変化することが知られている。すなわち、疲労に伴い、フリッカー認知の閾値が低下し、高い周波数における光点滅を認知することができなくなり、健常時よりも低い周波数における光点滅でなければ認知することができなくなる特性を有する。
【0105】
このように活動状態検知部3は、認知度検知部43による計測結果(認知結果)に応じて対象者の認知度を当該対象者の認知系の活動状態として検知する。
【0106】
(3)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、活動状態検知部3として、医療機器である血圧計、心拍センサ、体重計、体温計、睡眠時無呼吸の治療装置(CPAP)、血糖値計測装置、ペースメーカ等や、主として生理系および神経系の活動状態を検知する近赤外検出部40および遠赤外検出部41と、主として運動系の活動状態を検知する動き認識部42と、主として認知系の活動状態を検知する認知度検知部43を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、モバイル端末との間で近距離無線通信を介して通信することが可能なセンサであれば、種々のものを適用するようにしてもよい。
【0107】
例えば、心拍センサは、腕など人体(血管がある部分)に接触して血流を感知して動作するセンサであり、2つの緑色LEDの光(波長570〔nm〕)を照射して得られた反射光をフォトダイオードで検知するようになされている。
【0108】
また本実施の形態においては、モバイル端末2として、スマートフォンを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、活動状態検知部との間で近距離無線通信を介して通信可能な携帯型端末であれば、タブレットやハンドヘルド型端末など種々のものに適用することが可能である。
【0109】
さらに本実施の形態においては、通信インタフェース部11、20による近距離無線通信として、Bluetooth通信規格を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ペアリング接続機能を有する無線LAN通信や3G/LTE等の携帯通信網、NFC(Near Field Communication)など種々の通信規格を適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…生体情報管理システム、2…モバイル端末、3…活動状態検知部、4…通信ネットワーク、5…サーバ装置、10…制御部、11、20…通信インタフェース部、13…表示部、30…制御装置、31…データベース、40…近赤外検出部、41…遠赤外検出部、42…動き認識部、43…認知度検知部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9