(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032598
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】保育器、保育環境改善フード及び保育環境改善寝具
(51)【国際特許分類】
A61G 11/00 20060101AFI20220217BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20220217BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61G11/00 Z
G10K11/162
G10K11/16 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136513
(22)【出願日】2020-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】秦 猛志
(72)【発明者】
【氏名】秦 元気
(72)【発明者】
【氏名】松井 一樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 瑤
(72)【発明者】
【氏名】與田 仁志
【テーマコード(参考)】
4C341
5D061
【Fターム(参考)】
4C341KK03
4C341KL02
4C341KL10
5D061AA02
5D061AA06
5D061AA33
5D061CC20
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で音によるストレスを低減し、新生児が落ち着いて過ごすことのできる保育環境を実現することのできる保育器、保育環境改善フード及び保育環境改善寝具を提供する。
【解決手段】本発明の保育器は、寝台と、寝台の上部を覆う保育環境改善フードと、を備え、寝台と保育環境改善フードとによって囲まれた保育スペースを有する保育器において、保育環境改善フードは、内壁と外壁との間に内部空間を有する中空の本体部と、本体部の内部空間に充填される液状又はゲル状の遮音物質と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
寝台と、前記寝台の上部を覆う保育環境改善フードと、を備え、前記寝台と前記保育環境改善フードとによって囲まれた保育スペースを有する保育器において、
前記保育環境改善フードは、
内壁と外壁との間に内部空間を有する中空の本体部と、
前記本体部の前記内部空間に充填される液状又はゲル状の遮音物質と、を有する保育器。
【請求項2】
前記遮音物質が無色又は有色である、
請求項1に記載の保育器。
【請求項3】
前記遮音物質を循環させる循環装置を備える、
請求項1または2に記載の保育器。
【請求項4】
前記循環装置は、前記遮音物質の温度を調整可能な機能を有する、
請求項3に記載の保育器。
【請求項5】
前記保育環境改善フードは、
前記寝台の幅方向両側に位置する一対の第1側壁部と、
前記寝台の長さ方向両側に位置する一対の第2側壁部と、
前記寝台の上方に位置し、一対の前記第1側壁部及び一対の前記第2側壁部に接続される天井部と、を有し、
前記第1側壁部、前記天井部、前記第2側壁部のうち、少なくとも前記天井部が、前記内壁と、前記外壁と、これらの間の前記内部空間内に充填される前記遮音物質とにより構成される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の保育器。
【請求項6】
一対の前記第1側壁部と前記天井部とは、互いの間に境目や段差がなく互いに連続している、
請求項5に記載の保育器。
【請求項7】
一対の前記第2側壁部のうち少なくとも一方は、前記保育スペースから遠ざかるにしたがって前記天井部から斜め下方へ傾斜する傾斜部を有している、
請求項5又は6に記載の保育器。
【請求項8】
寝台の上部を覆って設置され、自身と前記寝台とによって囲まれた保育スペースを形成する保育環境改善フードであって、
中空の本体部と、
前記本体部の内部空間内に充填される遮音物質と、を備える保育環境改善フード。
【請求項9】
寝台と、
請求項8に記載の保育環境改善フードと、
を備える、保育環境改善寝具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保育器、保育環境改善フード及び保育環境改善寝具に関する。
【背景技術】
【0002】
本来、新生児の中でも、母親の胎内で過ごすべき期間を外部の環境で過ごすことになる早産児は、できるだけ母親の胎内に近い環境下で育てることが望ましいが、これまでの保育器は、早産児の救命を最優先し、生命の維持に大切な保育空間の加湿や保温などの機能を重視して設計されている。
【0003】
保育器内で過ごす新生児は様々なストレスを受けることがあるが、そのストレス要因の一つに環境音が挙げられる。胎児が母親の胎内にいるときは、外部環境の音が、母親の腹壁、子宮筋層、羊水によって減衰されてから胎児の耳に入るため、過度に大きな音に晒されることはない。
一方、保育器内で過ごす新生児は、新生児の全身管理を行うための機器の警告音や動作音、操作音など、その他にも新生児集中治療管理室(以下、NICU)内の様々な種類の音に晒されている。保育器内で過ごす新生児は、外部刺激に敏感であることから、こうした音によるストレスは、身体状態や発達に影響が出る可能性がある。
【0004】
特許文献1では、保育器内で過ごす新生児に対する外界からの音の対策として、保育器内に伝わる音を減衰させることのできる音声減衰モジュールを備えた保育器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、環境音のサンプリングが必要になるなど設定が複雑である。また、特許文献1の保育器では、音声減衰モジュールが保育器のフードの側壁や天井に直接取り付けられているため、モジュール機器自体の振動音などが生じる恐れがある。
【0007】
本発明は、簡単な構成で音によるストレスを低減し、新生児が落ち着いて過ごすことのできる保育環境を実現することのできる保育器、保育環境改善フード及び保育環境改善寝具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態の保育器は、寝台と、前記寝台の上部を覆う保育環境改善フードと、を備え、前記寝台と前記保育環境改善フードとによって囲まれた保育スペースを有する保育器において、前記保育環境改善フードは、内壁と外壁との間に内部空間を有する中空の本体部と、前記本体部の前記内部空間に充填される液状又はゲル状の遮音物質と、を有する。
【0009】
本発明によれば、内壁と外壁との間に形成される内部空間内に液状又はゲル状の遮音物質が充填されて構成される保育環境改善フードにより、保育スペース内の児に伝わる外部環境音を減少させることができる。これにより、保育スペース内にいる児が落ち着いて過ごすことのできる室内環境を実現することができる。また、液状又はゲル状の遮音物質を充填させることによって、中空構造だけの場合よりも遮音性を高めることが可能である。
さらに、保育器を使用しない場合は、保育環境改善フードから液状又はゲル状の遮音物質を排出させておくことで軽量化が可能になり、移動や持ち運びが容易になる。このとき、液状の遮音物質であれば、保育環境改善フードの内部空間に対する遮音物質の充填及び排出作業をより容易に行える。
また、遮音物質が液状又はゲル状であれば、羊水で満たされた胎内環境を模すことが可能となり、保育スペース内を、胎内と同じような遮音環境に近づけることができる。
また、液状又はゲル状からなる遮音物質が、例えば無色(透明)であれば、保育スペースの視認性を確保できるので、保育スペース内にいる児の様子を観察しやすい。
また、遮音物質が液状又はゲル状であれば、例えば着色料等を混ぜるだけで容易に着色することができ、保育環境改善フードを任意の色にすることができ、保育スペースに対する調光が可能になる。
また、液状の遮音物質であれば、保育環境改善フードの内部空間内において遮音物質を容易に循環させることができる。このため、例えばヒーター又はクーラー等を用いて遮音物質の温度を変化させることによって保育スペース内の温度調整が可能になる。
また、ゲル状の遮音物質であれば、仮に保育環境改善フードが破損した場合でも、遮音物質が漏れ出しにくく、周囲に飛散しにくい。
【0010】
本発明の一実施形態の保育器において、前記遮音物質が無色又は有色である構成としてもよい。
【0011】
本発明によれば、用途に応じて、保育環境改善フードの色を変えて調光することができる。遮音物質が無色の場合、保育環境改善フードを通じて保育スペース内を良好に視認することができるため、児の様子を観察しやすい。遮音物質が有色の場合、保育環境改善フードを任意の色にすることができ、保育スペース内の明るさを変化させることができる。例えば、暗くすることで児の睡眠を促すことも可能となる。
【0012】
本発明の一実施形態の保育器において、前記遮音物質が無色又は有色である構成としてもよい。
【0013】
本発明によれば、例えば遮音物質が無色である場合、保育スペースの視認性を確保できるので、保育スペース内にいる児の様子を観察しやすい。また、例えば、遮音物質が有色である場合、保育環境改善フードの色を変化させることができるので、保育環境改善フードに調光機能を付与することができる。これにより、保育スペース内の明るさを任意の明るさに調整することができる。
【0014】
本発明の一実施形態の保育器において、前記遮音物質を循環させる循環装置を備える構成としてもよい。
【0015】
本発明によれば、内部空間内に充填された遮音物質を循環させることによって、保育スペース内の環境を所定の環境(室温、明るさ等)に維持することができる。
【0016】
本発明の一実施形態の保育器において、前記循環装置は、前記遮音物質の温度を調整可能な機能を有する構成としてもよい。
【0017】
本発明によれば、ヒーター又はクーラー等を用いて遮音物質の温度を調整することにより、保育スペース内を加温あるいは冷却することができ、保育スペース内を児の養育に適した温度にすることができる。
【0018】
本発明の一実施形態の保育器において、前記保育環境改善フードは、前記寝台の幅方向両側に位置する一対の第1側壁部と、前記寝台の長さ方向両側に位置する一対の第2側壁部と、前記寝台の上方に位置し、一対の前記第1側壁部及び一対の前記第2側壁部に接続される天井部と、を有し、前記第1側壁部、前記天井部、前記第2側壁部のうち、少なくとも前記天井部が、前記内壁と、前記外壁と、これらの間の前記内部空間内に充填される前記遮音物質とにより構成されてもよい。
【0019】
本発明によれば、保育環境改善フードの遮音性を高めることが可能である。
【0020】
本発明の一実施形態の保育器において、一対の前記第1側壁部と前記天井部とは、互いの間に境目や段差がなく互いに連続している構成としてもよい。
【0021】
本発明によれば、保育環境改善フードの側方から保育スペース内の児を視認しやすい。
【0022】
本発明の一実施形態の保育器において、一対の前記第2側壁部のうち少なくとも一方は、前記保育スペースから遠ざかるにしたがって前記天井部から斜め下方へ傾斜する傾斜部を有している構成としてもよい。
【0023】
本発明によれば、保育環境改善フードの長さ方向から保育スペース内の児を視認しやすい。
【0024】
本発明の一実施形態の保育環境改善フードにおいて、寝台の上部を覆って設置され、自身と前記寝台とによって囲まれた保育スペースを形成する保育環境改善フードであって、中空の本体部と、前記本体部の内部空間内に充填される遮音物質と、を備える構成としてもよい。
【0025】
本発明によれば、保育器以外の保育環境を改善することができる。
【0026】
本発明の一実施形態の保育環境改善寝具において、寝台と、上記保育環境改善フードと、を備える構成としてもよい。
【0027】
本発明によれば、家庭用の寝具における保育環境を改善することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る保育器及び保育環境改善フードによれば、新生児が落ち着いて過ごすことのできる保育環境を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施形態の保育器の構成を示す全体図である。
【
図2】
図2は、保育環境改善フードの構造を示す図であって、
図3のIII-III線に沿う断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の保育器の構成を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、保育環境改善フードの開閉扉の位置を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、基台における循環装置の構造を模式的に示す図である。
【
図6B】
図6Bは、遮音物質温度調整部を有する循環装置の構造を模式的に示す図である。
【
図6C】
図6Cは、調光部を有する循環装置の構造を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、保育環境改善フードの変形例を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、実施例で用いる外側水槽と内側水槽との間に水が充填されている様子を示す上面図である。
【
図8B】
図8Bは、実施例で用いる外側水槽と内側水槽との間に水が充填されている様子を示す側面図である。
【
図9】
図9は、実施例と比較例との測定結果を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る保育器について説明する。
以下の説明において、保育器の上下方向をZ方向とし、Z方向に対して直交する2方向をX方向及びY方向として説明する。X方向は保育器100の長さ方向に沿い、Y方向は保育器100の幅方向に沿う。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向のいずれにおいても、図中に示される矢印の向く側を+側、反対側を-側とする。
【0031】
図1は、本実施形態の保育器の構成を示す全体図である。
図1に示す保育器100は一実施形態であって、図示した構成に限らない。
本実施形態の保育器100の使用は、生後28日未満の新生児(早産児)だけに限られず、例えば生後28日以降の乳児も使用可能である。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の保育器100は、保育器本体10と、脚部20と、を少なくとも備える。
【0033】
保育器本体10は、児を寝かせる寝台11と、寝台11の上部を覆う保育環境改善フード12と、基台13と、を備える。
本実施形態の保育器100における保育環境改善フード12は、寝台11との間で児の保育スペース16を形成する。保育環境改善フード12は、寝台11に対して固定されていてもいいし、全体が開閉可能に取り付けられていてもよい。寝台11に対して保育環境改善フード12の全体が固定されている場合は、保育環境改善フード12の一部に開閉扉(例えば
図5)を設ける構成とする。
【0034】
また、寝台11及び保育環境改善フード12のうちの少なくともいずれか一方に、シールド部材(不図示)を設けておくことによって、保育環境改善フード12内の保育スペース16を閉空間とすることができ、保育スペース16内に外気が流入するのを避けることができる。
【0035】
脚部20は、基台13の下方に設置される。脚部20は、複数のキャスター20aを備える多肢脚21と、多肢脚21の中央より起立する脚柱22とを備える。多肢脚21は、中央から放射状に突出する複数の脚23を有し、これら各脚23の先端にキャスター20aがそれぞれ取り付けられている。
【0036】
本実施形態の保育器100は、キャスター20aによって移動可能なものであるが、キャスター20aのない構成であってもよい。また、保育器100は、脚部20自体を有しない構成であってもよい。
【0037】
次に、本実施形態の保育器100の要部構成について詳述する。
図2は、保育環境改善フード12の構造を示す図であって、
図3のIII-III線に沿う断面図である。
図3は、本実施形態の保育器100の構成を示す斜視図である。
図4は、保育器100を側方から見た図である。
図5は、保育環境改善フード12の開閉扉の位置を示す図である。
【0038】
(保育環境改善フード)
保育環境改善フード12は、
図2に示すように、フード型内壁(内壁)121とフード型外壁(外壁)122との間に内部空間Kを有する中空の本体部123と、本体部123の内部空間Kに充填される液状又はゲル状の遮音物質124と、を有して構成され、フード型内壁121とフード型外壁122との間に液状又はゲル状の遮音物質124を挟み込んだ複合構造となっている。
【0039】
具体的に、本体部123は、互いに所定の間隔をおいて配置されたフード型内壁121とフード型外壁122を備え、これらの間に内部空間Kを有する中空構造とされている。フード型外壁122とフード型内壁121の間隔は全体的にほぼ一定であり、これらの間に形成される内部空間K内に遮音物質124が充填されている。内部空間Kの全体に隙間なく液状又はゲル状の遮音物質124が充填され、気泡の混入がないことが好ましい。
【0040】
保育環境改善フード12と上記寝台11とで囲まれた保育スペース16内の児を保育環境改善フード12の外部から視認できるようにするため、保育環境改善フード12の略全体(本体部123及び遮音物質124)が透明である。これにより、寝台11上の児を全方位から視認することができる。
【0041】
フード型内壁121及びフード型外壁122は、いずれも透明なアクリルやポリカーボネイトなどの高分子を材料とする板材からなる。
【0042】
本実施形態の保育器100においては、遮音物質124として、液状またはゲル状の物質を用いることができる。遮音物質124は、光透過性を有し、有色であってもよく無色であってもよい。
【0043】
「液状の遮音物質」は、流動性を有する物質であり、内部空間Kを流動可能である。「液状の遮音物質」としては、液体、水溶液又はコロイド溶液を用いることができる。
【0044】
水溶液に含まれる溶質、及びコロイド溶液に含まれる分散粒子には、有機物及び無機物のいずれも採用することができる。上記有機物としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール、高吸収性樹脂、公知の着色料、公知の防腐剤、公知の抗菌剤などを挙げることができる。
上記溶質に用いられる無機物としては、公知の着色料、公知の防腐剤、公知の抗菌剤を挙げることができる。
【0045】
「液状の遮音物質」として、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、及び、シリコーンオイルが挙げられる。
【0046】
「ゲル状の遮音物質」は、上述の液状の遮音物質として挙げたコロイド溶液がゼリー状に固化した物質である。ゲル状の遮音物質は、ポンプ等を用いて遮音物質に外力を加えても、内部空間Kにおいて流動させることができない、または内部空間Kにおいて流動させることが困難なほどに流動性を失っている。
【0047】
「ゲル状の遮音物質」としては、分散質として高吸収性樹脂を有する液状の遮音物質において、高吸収性樹脂の種類及び含有量のいずれか一方又は両方を変更することにより、流動性が低下又は流動性を失った物質を挙げることができる。高吸収性樹脂には、ゼラチン、寒天及びポリアルギン酸等の天然物由来の物質、及びポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール等の合成高分子のいずれも採用することができる。
【0048】
「ゲル状の遮音物質」として、例えば、寒天ゲル、ヒアルロン酸ゲル、及び、吸水高分子ゲルが挙げられる。
【0049】
本実施形態において、液状の遮音物質とゲル状の遮音物質とでは、液状の遮音物質が好ましく、さらに好ましくは水である。なお、水は、公知の防腐剤、抗菌剤などの溶質を含んでいてもよい。
【0050】
フード型内壁121及びフード型外壁122は、サイズは異なるが互いの形状は等しく、いずれも上方に向かって凸状に湾曲したドーム形状をなす。
【0051】
ここで、保育環境改善フード12を複数の部位に分けて説明する。
保育環境改善フード12は、
図3に示すように、Y方向に沿う寝台11の幅方向両側に位置する一対の第1側壁部12aと、X方向に沿う寝台11の長さ方向両側に位置する一対の第2側壁部12bと、寝台11の上方(+Z方向)に位置し一対の第1側壁部12a及び一対の第2側壁部12bの上端側に接続される天井部12cと、を有している。
【0052】
一対の第1側壁部12a、一対の第2側壁部12b及び一対の第2側壁部12bは、フード型内壁121及びフード型外壁122との間に液状又はゲル状の遮音物質124が充填された構成であり、
図2に示すように、フード型内壁121及びフード型外壁122との間に形成される内部空間Kは、上記の一対の第1側壁部12a、一対の第2側壁部12b及び天井部12cの全ての部位に連続する。
【0053】
図2及び
図3に示すように、一対の第1側壁部12aは、寝台11の幅方向両側から上方に立ち上がる部位であり、天井部12cに連続する。天井部12cは、長さ方向に交差する断面が湾曲形状をなし、長さ方向でほぼ一定の曲率を有する。天井部12cと一対の第1側壁部12aとは、これらの間に段差や境目がなく互いに連続していることが好ましい。
【0054】
すなわち、天井部12cと一対の第1側壁部12aとの間には、フード型内壁121及びフード型外壁122のいずれにも段差や境目がなく、天井部12c及び一対の第1側壁部12aが互いになだらかに連続している。これにより、段差や境目によって視認性が低下することがないため、保育環境改善フード12内の児の様子を観察しやすい。
【0055】
図3および
図4に示すように、一対の第2側壁部12bのうち、児の頭側に位置する第2側壁部12b1は、寝台11の長さ方向一方側からほぼ垂直に立ち上がる部位であり、天井部12c及び第1側壁部12aによって形成される筒体の一方側を閉塞する。天井部12c及び第1側壁部12aによって形成される筒体の他方側は、第2側壁部12b2によって閉塞される。
【0056】
児の足元側に位置する第2側壁部12b2は、平面部24と傾斜部25とを有する。平面部24は、寝台11の長さ方向他方側から略垂直に立ち上がる部位であり、その高さは天井部12cや第2側壁部12b1よりも低い。平面部24は、天井部12cの曲率に沿って上側に凸形状をなす。
【0057】
傾斜部25は、平面部24と、天井部12c及び一対の第1側壁部12aとの間に位置し、これらを接続する。傾斜部25は、保育スペース16から遠ざかるにしたがって天井部12cから斜め下方へ傾斜するとともに一対の第1側壁部12aから外側(-X方向)に延びる。寝台11の幅方向両側において、傾斜部25の下端25dは第1側壁部12aの下端12dと一致し、寝台11の側部に沿う。
【0058】
このため、傾斜部25の下端12dが寝台11の長さ方向両側には現れず、平面部24のみが存在する。すなわち、傾斜部25の下端12dが寝台11の幅方向両側に位置することにより、
図3に示す方向から見たとき、平面部24と傾斜部25との境界線Bが、天井部12c側から下方へ向かって遠ざかるにしたがって、保育環境改善フード12の幅方向両側へ延びていき、保育環境改善フード12の幅方向両側の隅部28に達する。
【0059】
これにより、寝台11の長さ方向他端側からは平面部24のみが立ち上がることとなり、
図2に示すように、児の足元側であって保育環境改善フード12の長さ方向の他方側から見たとき、平面部24と傾斜部25との境界線によって視界が遮られることがなく、平面部24を通じて児の全体を視認することができる。
【0060】
また、
図2に示す方向から見たとき、傾斜部25は、寝台11上の児の顔の位置と対向する位置に存在する。傾斜部25の幅W、すなわち平面部24と天井部12cとの間の距離は、寝台11上の児の顔の位置を考慮して設定することが好ましい。
図2に示すように、操作者が保育環境改善フード12の斜め上方から見たとき、平面部24と傾斜部25との間の境界線Bによって視認性が低下するのを防ぐことができ、傾斜部25を通じて寝台11上の児の顔を視認することができる。このとき、少なくとも、傾斜部25を通じて寝台11上の児の顔全体が視認できることが好ましい。
【0061】
図1に示す保育器100では、例えば
図5に示すように、一方の第1側壁部12aの一部に開閉扉27が設けられており、寝台11の側方を開放可能である。開閉扉27は、例えば、ヒンジ等を用いて開閉する構造であってもよいし、レール等を用いてスライド移動させることで開閉する構造であってもよく、開閉扉27の開閉方向についても特に問わない。開閉扉27は、開閉時の操作音が出にくく、保育スペース16内への外気の流入を防ぐ構造であることが好ましい。
【0062】
開閉扉27は、保育環境改善フード12の第1側壁部12aの一部を構成することから、第1側壁部12aの他の部位と同様に、扉形状の中空構造内に液状又はゲル状の遮音物質124が充填された複合構造であることが好ましい。開閉扉27では、遮音物質124を循環させず、単に封入しておくだけでもよい。
【0063】
なお、寝台11に対する保育環境改善フード12の開閉構造は上述した構成だけに限られず、種々の構成を用いることができる。開閉扉27は1つだけに限らず、複数設けてもよい。例えば、一方の第1側壁部12a側だけに開閉扉27を設けるのではなく、第2側壁部12b側にも開閉扉27を設けることによって、両側が開閉する構造にしてもよい。少なくとも児の大きさ以上の開口が形成されれば、
図5に示したように保育環境改善フード12の一部が開閉可能な構造であってもよいし、寝台11に対して保育環境改善フード12の全体が開閉する構造であってもよい。
【0064】
また、保育環境改善フード12には、開閉扉27以外にも、操作者の手が入る大きさの処置窓や処置チューブ挿入口等が形成されていてもよい。処置窓は、保育環境改善フード12のどの部位に設けられていてもよく、例えば
図5に示す開閉扉27に設けられていてもよい。また、この処置窓は、閉塞して外気を遮断できる構造が好ましい。この処置窓用の閉塞部においても、中空構造内に液状又はゲル状の遮音物質が充填された複合構造であることが好ましい。
【0065】
本実施形態では、本体部123の全てが中空構造であってその内部空間K全体に液状又はゲル状の遮音物質が充填された構成となっているが、これに限られず、例えば少なくとも一対の第1側壁部12a及び天井部12cが、中空構造内に遮音物質が充填された複合構造となっていれば良い。これにより、寝台11上の児へ伝わる音を減少させることができる。
【0066】
(寝台)
本実施形態において、保育器本体10のうち、児を寝かせる寝台11は、
図1及び
図3に示すように、基台13上に配置される寝台本体14を備える。寝台本体14上には、児を寝かせるためのほどよい弾力を有するクッション材15が設けられていてもよい。クッション材は、寝台本体14の上面全体を覆う大きさで一定の厚さを有するものが好ましいが、これに限られず、クッション材の形状及び厚み等は適宜設定が可能である。例えば、
図1及び
図3に示す寝台本体14に沿った形状であってもよいし、例えば、
図4に示すように児の寝姿勢に沿った形状であってもよい。
【0067】
図3に示すクッション材15は、長さ方向の一端15a側が他端15b側に比べて高くなっており、長さ方向中央付近から一端15a側に向かうにしたがってクッション厚が漸次増していくことで、その上面15cが、児の背中の丸みに沿うなだらかな曲面とされている。これにより、児の頭の位置が高くなるよう補助することができ、児の体勢を安定させることができる。また、クッション材15は、最も厚みのある一端15a側の上面15a1が平面とされていることにより、児の頭部が保育環境改善フード12に接するのを防ぐことができる。
【0068】
(基台)
図6Aは、基台13における循環装置19の構造を模式的に示す図である。
図6Bは、遮音物質温度調整部19cを有する循環装置19の構造を模式的に示す図である。
図6Cは、調光部19dを有する循環装置19の構造を模式的に示す図である。
【0069】
基台13は、寝台11の下方に位置する。
基台13は、保育スペース16内の空気を調整する空調装置18と、保育環境改善フード12の遮音物質124を循環させる循環装置19と、を備え、保育スペース16内の空気を調整するとともに保育環境改善フード12の遮音物質124を循環させる機能を有する。遮音物質124を循環させることによって、保育スペース16内の環境を所定の環境(室温、明るさ等)に維持することができる。
【0070】
空調装置18は、例えば、
図3に示すように、筐体17の空気吸入口17aに取り付けられたフィルター18aと、フィルター18aを通じて外気を導入するファン18bと、保育スペース16内の温度及び湿度を制御する温湿度制御部18cと、を有して構成される。温湿度制御部18cによって調整された空気は、保育スペース16内へと送り込まれる。寝台11あるいは寝台11の周囲に形成された吹出口及び吸引口を通じて保育スペース16内の空気を循環させることで、児の育成等に最適な空調を維持することができる。
なお、空調装置18の構成は、図示したものに限らない。
【0071】
循環装置19は、
図6Aに示すように、保育環境改善フード12の遮音物質124を循環させる循環ポンプ19aと、保育環境改善フード12の内部空間Kと循環ポンプ19aとを接続する循環流路19bと、を少なくとも備える。循環ポンプ19aは、保育環境改善フード12の内部空間Kに充填された遮音物質124を全て入れ替え可能な循環能力を有していることが好ましい。
【0072】
遮音物質124の循環経路上における循環ポンプ19a及び循環流路19bの配置位置は特に問わない。循環ポンプ19aは、循環流路19bを通じて、保育環境改善フード12の遮音物質124を連続的あるいは断続的に循環させる。
【0073】
なお、遮音物質124を循環させる場合は、遮音物質124が水のように流動性の高い液状の物質である方が好ましい。また、流動性の低いゲル状の物質であっても、循環ポンプ19aの性能によっては循環することも考えられるため、上記循環ポンプ19aによって循環可能な遮音物質124であれば用いることができる。
【0074】
また、循環装置19は、
図6Bに示すように、遮音物質124の温度を調整する遮音物質温度調整部19cをさらに備えていてもよい。遮音物質温度調整部19cは、循環流路19b上に配置されたヒーター及びクーラーを有し、循環流路19b内を流動する遮音物質124を加温もしくは冷却する。保育環境改善フード12にて循環させる遮音物質124を加温あるいは冷却することによって、保育スペース内を児の養育に適した温度にすることができる。
【0075】
また、循環装置19は、
図6Cに示すように、調光部19dを備えていてもよい。調光部19dは、例えば、少なくとも2種類の遮音物質124A,124Bを循環可能であるとともに、循環させる遮音物質124A,124Bの種類を適宜切り替え可能な機能を有する。
図6Cに示す調光部19dは、無色透明な遮音物質124Aを貯留する第1貯留部19d1と、所定の色の遮音物質124Bを貯留する第2貯留部19d2と、を有する。遮音物質124Bは、液状又はゲル状であることから、例えば着色料等を混ぜるだけで容易に着色することができる。
【0076】
保育環境改善フード12に対して循環させる遮音物質124A,124Bを適宜切り替えることで、保育環境改善フード12全体の色を変化させることができる。例えば、無色透明な遮音物質124Aを循環させることによって、保育環境改善フード12の色を無色透明に変化させることができる。これにより、保育スペース16の視認性を確保できるので、保育スペース16内にいる児の様子を観察しやすい。また、遮光性を有する色の遮音物質124Bを循環させることによって、保育スペース16内に届く光の量を調整することができるため、保育スペース16内を暗くすることができる。これにより、保育器100が設置されている室内の明かりを消すことなく、児に睡眠を促すことができるとともに就寝時間をコントロールすることも可能となる。
【0077】
また、保育環境改善フード12に処置灯を取り付けておく、あるいは保育スペース16内に処置灯を設置しておくことによって、保育環境改善フード12の色を無色透明にしなくても、児の様子を随時観察することができる。着色された遮音物質12Aを循環して色付きのフードにした後、無色透明な遮音物質124を循環させて元の状態に戻すとなると、遮音物質124の流動性や循環ポンプの性能などによって時間がかかる場合がある。そこで、保育環境改善フード12内を明るく照らす処置灯を用いることによって、より簡単に児の様子を観察することが可能となる。
【0078】
また、保育スペース16内の児に対して黄疸治療が必要になった場合、光源ランプを用いて児に特殊な光(紫外線)を直接当てる光線療法が行われることがある。このような治療を行う際にも、保育環境改善フード12の色を変化させることによって、治療に用いる光を遮光して保育環境改善フード12の外部に上記光が漏れ出すことを防ぐことができる。さらに、黄疸治療だけでなく、保育環境改善フード12内でX線撮影も可能になる。
【0079】
なお、貯留部の数は2つに限られず、3つ以上設けてもよい。これによって、色や濃度の異なる複数の遮音物質124を貯留させることが可能となり、目的や用途に応じて、循環させる遮音物質124の種類を切り替えることによって、保育環境改善フード12を多色変化させることができる。さらに、循環装置19は、遮音物質温度調整部19c及び調光部19dを両方有していてもよい。
【0080】
さらに、保育器110は、寝台11を利用して児の体重測定を行う機能など、児の体組成を分析できる機能を有していてもよい。
【0081】
以上のような構成の本実施形態の保育器100は、寝台11と、寝台11の上部を覆う保育環境改善フード12と、によって囲まれた保育スペース16内に児を寝かせることで、児の救命だけでなく、養育することができる。寝台11上の児を覆う本実施形態の保育環境改善フード12は、対向するフード型内壁121とフード型外壁122との間に内部空間Kを有する中空の本体部123と、本体部123の内部空間Kに充填される遮音物質124と、による複合構造とされている。外部環境の音は、フード型外壁122、遮音物質124、フード型内壁121を透過することで漸次小さくなる。中空の本体部123の内部空間K内に遮音物質124を充填させた構成のため、中空構造だけの場合よりも音の減衰効果を得ることができて遮音性を高めることが可能である。
【0082】
上記した保育器100によれば、保育環境改善フード12の内部空間K内に遮音物質124として例えば水を充填させておくことによって、羊水で満たされた胎内環境を模すことが可能となり、保育スペース16内を、母体の胎内と同じような遮音環境に近づけることができる。保育スペース16内に伝わる外部環境音を減少させることができるので、保育スペース16内にいる児が落ち着いて過ごすことのできる室内環境を実現することができる。その結果、本実施形態の保育器100内で過ごす児に対して、外部環境の音によるストレスを大幅に減らすことができ、児の身体状態を安定させるとともに発達を促進させることが可能である。
【0083】
また、保育環境改善フード12の内部空間K内に、例えば無色透明な遮音物質124を充填させることにより、保育環境改善フード12の透明性を確保しつつ、保育環境改善フード12全体の遮音性を高めることが可能である。保育環境改善フード12が透明であれば、保育スペース16内の視認性が高まるため、保育スペース内にいる児の様子を観察しやすい。
【0084】
さらに、保育環境改善フード12の内部空間K内に、例えば有色の遮音物質を充填させることにより、保育環境改善フード12に対して調光機能を付与することができる。充填される遮音物質124の色によって保育環境改善フード12の色を変化させることが可能になり、保育スペース16内の明るさを任意の明るさに調整することができる。
【0085】
また、保育器100を使用しない場合は、保育環境改善フード12の内部空間K内に充填されている液状又はゲル状の遮音物質124を排出させておくことで軽量化が可能になり、移動や持ち運び等が容易になる。遮音物質124が液状であれば、保育環境改善フード12の内部空間Kに対する充填及び排出作業をより容易に行うことができる。
【0086】
また、従来技術のように、保育環境改善フード12自体にモジュール等を取り付ける必要もなく、簡単な構成で、保育スペース16内に届く音を減少させることができる。
【0087】
保育環境改善フード12を構成するフード型内壁121及びフード型外壁122の厚み及び間隔は、胎児が母親の胎内にいるときと同じような遮音環境に近づけるべく適宜設定が可能である。
【0088】
本実施形態の保育器100は、通常の保育器が有する基本的な機能を備えており、点滴、人工呼吸器等など、児の生命維持に必要な機器等との連結が可能である。
【0089】
<保育環境改善フード>
本実施形態の保育環境改善フード12は、単体でも使用可能なものである。
単体で使用する場合には、フード型内壁121とフード型外壁122とこれらの間に形成される内部空間K全体に遮音物質124が封入された構成とする。封入する遮音物質124は、無色透明な遮音物質であってもよいし、所定の色に着色された遮音物質であってもよい。遮音物質124の色は、保育環境改善フード12の用途に応じて予め設定される。単体で用いる保育環境改善フード12は、持ち運びに便利な軽量なものであることが好ましい。
【0090】
単体で使用する保育環境改善フード12では、内部空間K内に遮音物質124が封入されていて循環させる構成ではないため、液状ではなくゲル状の遮音物質124を用いることができる。単体使用可能な保育環境改善フード12は、持ち運びや移動が容易であることから、ゲル状の遮音物質124であれば、落下などの衝撃によって保育環境改善フード12に破損等が生じてしまった場合でも、遮音物質124が外部へ漏れ出しにくく、周囲にも飛散しにくいという利点がある。
【0091】
また、保育環境改善フード12の外形は、上述した実施形態の形状に限らない。
保育器100のフードとして用いる場合は、児の全体を覆うドーム形状とすることが好ましいが、単体で用いる場合は様々な形状に設定できる。
【0092】
<保育環境改善寝具>
図7は、保育環境改善寝具の一例を示す図である。
例えば、
図7に示す保育環境改善寝具210は、ベビーベッド(寝台)90と、ベビーベッド90の上部を覆って設置された保育環境改善フード200と、を備える。
具体的に保育環境改善フード200は、平坦な形状をなし、ベビーベッド90の寝台91の上部を覆って設置され、例えば寝台91の周囲を取り囲む柵92の上に設置される。保育環境改善フード200は、自身と寝台91とによって囲まれた保育スペース16を形成し、当該保育スペース16における音の環境を改善する。保育環境改善フード200は、中空の本体部203と、本体部203の内部空間Kに充填される遮音物質124とを備え、ベビーベッド90の上側開口を覆うことのできる大きさを有する。本体部203の内部空間Kは、内壁201及び外壁202と、これら内壁201及び外壁202の外周縁を封止する封止部材204とによって囲まれた閉空間である。
【0093】
図7に示す保育環境改善フード200としては、平面姿勢が維持される板形状のものに限られず、丸めて持ち運べる状態に変形可能なものであってもよい。保育環境改善フード200は、形状を変えることでベビーベッド以外にも対応可能である。これにより、保育器以外の保育環境を改善することができるので、病院以外の家庭内においても、児が落ち着いて過ごす環境を容易に得ることができる。
【0094】
母親の胎内で過ごす胎児は、成長とともに母親の腹壁が薄くなることで徐々に外部環境の音に慣れていくことから、このような環境の変化に近づけるべく、例えば、保育器100あるいはベビーベッド90内で過ごす児の成長に応じて、壁厚の異なる保育環境改善フード12,200を付け替えるようにしてもよいし、保育環境改善フード12,200の壁厚を予め選択できるようにしてもよい。ここで「保育改善フードの壁厚」とは、内壁及び外壁の各厚さ、これらの間に挟み込まれる液状又はゲル状の遮音物質の層の厚さを含む。
【実施例0095】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
図8Aは、実施例で用いる外側水槽と内側水槽との間に水が充填されている様子を示す上面図である。
図8Bは、実施例で用いる外側水槽と内側水槽との間に水が充填されている様子を示す側面図である。
図8Cは、実験環境を示す図である。
【0096】
実施例及び比較例では、サイズの異なる2つの水槽81,82(
図8A,
図8B)を用いた。実施例及び比較例で用いた2つの水槽81,82は同じものである。これら2つの水槽81,82はそれぞれ密閉可能であり、一方の大きな外側水槽81の内側に、それよりも一回り小さい内側水槽82を入れ、外側水槽81の外部に配置した複数の音源83(
図8C)からそれぞれ同時に音を発し、内側水槽82の内部において音を測定した。実施例では、外側水槽81及び内側水槽82の間に水84を隙間なく充填した。比較例では、外側水槽81及び内側水槽82の間に水84を充填せず、そのままの状態で測定を行った。実験者は、音源83や測定機器(不図示)の操作時のみ近づき、測定中は音を遮らない位置に移動した。
【0097】
<実験条件>
(外側水槽)
寸法:縦180mm、横250mm、高さ150mm
材質:ポリプロピレン
(内側水槽)
寸法:縦140mm、横190mm、高さ140mm
材質:アクリル
【0098】
音源から外側水槽までの距離:約1500mm
音源の音量:一定
【0099】
(実施例:水あり)
外側水槽81と内側水槽82との間に水84が充填されている状態のとき、外側水槽内で内側水槽82が水84に浮いた状態となる。
図8Aに示すように上方から見ると、内側水槽82の周囲には20mm~30mmの水84の層が存在し、
図8Bに示すように側方から見ると、内側水槽82の底部側には40mmほどの水84の層が存在する。
【0100】
(比較例:水なし)
外側水槽81と内側水槽82との間に水84はなく空気層が存在する。
【0101】
図9において、実施例と比較例との測定結果を比較する。
図9に示すように、比較例の測定結果に比べて、実施例の測定結果は音源から発せられた音の高周波数が低減し、低周波数についてもある程度減少した。周波数解析結果を示す
図9により、実施例では、人間の可聴音域のうち高音域(特に1kHz~14kHz)の音レベルが比較例に比べて大きく減少していることが分かる。母親の腹壁は高音域の音を遮断すると言われていることから、実施例は比較例に比べて遮音性が高く、母親の胎内にいる環境に近づける防音効果が得られることが分かった。
【0102】
以上に、本発明の実施形態及び変形例を示したが、実施形態及び変形例における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変化が可能である。また、本発明は、実施形態及び変形例によって限定されることはない。
11,91…寝台、12,200…保育環境改善フード、12a…第1側壁部、12b(12b1,12b2)…第2側壁部、12c…天井部、123,203…本体部、16…保育スペース、19…循環装置、25…傾斜部、84…水、90…ベビーベッド(寝台)、100…保育器、121…フード型内壁(内壁)、122…フード型外壁(外壁)、124,124A,124B…遮音物質、201…内壁、202…外壁、210…保育環境改善寝具、K…内部空間、W…幅