(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032624
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】プレコートフィン材
(51)【国際特許分類】
C09D 129/04 20060101AFI20220217BHJP
F28F 1/32 20060101ALI20220217BHJP
F28F 13/18 20060101ALI20220217BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220217BHJP
C09D 133/26 20060101ALI20220217BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
C09D129/04
F28F1/32 Y
F28F13/18 B
C09D5/16
C09D133/26
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136589
(22)【出願日】2020-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】世古 佳也
(72)【発明者】
【氏名】外山 智章
(72)【発明者】
【氏名】小澤 武廣
(72)【発明者】
【氏名】小山 高弘
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD102
4J038CD112
4J038CE021
4J038CG001
4J038CG171
4J038DA162
4J038DB001
4J038DD001
4J038DF002
4J038DG001
4J038DG302
4J038JC38
4J038MA14
4J038NA05
4J038NA06
4J038PA07
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】優れた親水性を長期間に渡って維持することができ、表面に付着した油性の汚染物質を容易に除去することができるプレコートフィン材を提供する。
【解決手段】プレコートフィン材1は、基板2と基板2上に形成された樹脂塗膜3とを有している。樹脂塗膜3は、下記一般式(1)で表される分子構造を有する変性ポリビニルアルコール(A)と、アクリルアミド系ポリマー(B)と、を含有している。変性ポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、アクリルアミド系ポリマー(B)の含有量の0.5倍以上2.0倍以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムからなる基板と、
前記基板上に形成され、表面に露出した樹脂塗膜と、を有し、
前記樹脂塗膜は、
下記一般式(1)で表される分子構造を有する変性ポリビニルアルコール(A)と、
アクリルアミド系ポリマー(B)と、を含有し、
前記変性ポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、前記アクリルアミド系ポリマー(B)の含有量の0.5倍以上2.0倍以下である、
プレコートフィン材。
【化1】
(ただし、前記一般式(1)におけるR
1は、直鎖構造を有する炭素数5以上10以下の有機基であり、m及びnは、0.005≦n/m≦0.025の関係を満たす正の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR1は、複数のメチレン基と1個以上のカルボニル基とを含む有機基である、請求項1に記載のプレコートフィン材。
【請求項3】
前記樹脂塗膜中には、ポリエチレングリコールがさらに含まれている、請求項1または2に記載のプレコートフィン材。
【請求項4】
前記樹脂塗膜中には、ブロック化イソシアネート化合物及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物がさらに含有されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項5】
前記樹脂塗膜中には、抗菌剤及び防カビ剤のうち少なくとも一方がさらに含有されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項6】
前記樹脂塗膜中には、パーフルオロアルキル基を備えたフッ素樹脂からなり、体積基準におけるメジアン径が1μm以上4μm以下であるフッ素樹脂粒子が含まれている、請求項1~5のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【請求項7】
前記基板と前記樹脂塗膜との間に介在する耐食性塗膜を有しており、前記耐食性塗膜は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びエステル樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂を含有している、請求項1~6のいずれか1項に記載のプレコートフィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコートフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機や冷蔵庫等に搭載される熱交換器として、多数のフィンと、これらのフィンと交差したチューブとを有する、いわゆるクロスフィンチューブ型熱交換器が多用されている。フィンは、アルミニウム(純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同じ。)からなる基板と、基板上に設けられた樹脂皮膜とを有するプレコートフィン材にプレス加工を施すことにより作製されている。
【0003】
空気調和機等の運転中にフィンの表面温度が空気の露点を下回ると、フィンの表面が結露し、フィン同士の隙間が結露水によって閉塞することがある。フィン同士の隙間が閉塞すると、熱交換器の熱交換効率の低下を招くおそれがある。
【0004】
かかる問題に対し、フィンの表面の親水性を高めることにより、結露水によるフィン同士の隙間の閉塞を抑制する技術が知られている。例えば、特許文献1には、(A)ポリグリセリン及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも1種のポリマー、(B)300mgKOH/g以上の樹脂酸価を有する高酸価アクリル樹脂及び(C)上記ポリマー(A)及び高酸価アクリル樹脂(B)以外の水溶性樹脂を含有する親水化処理組成物であって、該親水化処理組成物の樹脂固形分が200mgKOH/g以上の樹脂酸価を有し且つ100mgKOH/g以上の水酸基価を有することを特徴とする熱交換器フィン材用親水化処理組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱交換器の使用中にフィンの表面に結露水が付着すると、樹脂皮膜中の親水性物質が結露水によって洗い流されるため、フィンの表面の親水性が次第に低下する。さらに、フィンの表面には、熱交換器の使用に伴って高級脂肪酸や高級アルコールなどの環境中に存在する油性の汚染物質が付着する。これらの汚染物質は、フィンの表面の親水性の低下を招くおそれがある。
【0007】
このように、従来のフィンは、結露水による親水性物質の減少や油性の汚染物質の付着によって、熱交換器の使用中に親水性が次第に低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れた親水性を長期間に渡って維持することができ、表面に付着した油性の汚染物質を容易に除去することができるプレコートフィン材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、アルミニウムからなる基板と、
前記基板上に形成され、表面に露出した樹脂塗膜と、を有し、
前記樹脂塗膜は、
下記一般式(1)で表される分子構造を有する変性ポリビニルアルコール(A)と、
アクリルアミド系ポリマー(B)と、を含有し、
前記変性ポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、前記アクリルアミド系ポリマー(B)の含有量の0.5倍以上2.0倍以下である、
プレコートフィン材にある。
【0010】
【0011】
ただし、前記一般式(1)におけるR1は、直鎖構造を有する炭素数5以上10以下の有機基であり、m及びnは、0.005≦n/m≦0.025の関係を満たす正の整数である。
【発明の効果】
【0012】
前記プレコートフィン材の表面には、前記特定の変性ポリビニルアルコール(A)と、アクリルアミド系ポリマー(B)とを含む樹脂塗膜が設けられている。前記樹脂塗膜は、前記特定の変性ポリビニルアルコール(A)を用い、かつ、ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との質量比を前記特定の範囲とすることにより、プレコートフィン材の表面の親水性を高めるとともに、優れた親水性を長期間に渡って維持することができる。
【0013】
また、前記プレコートフィン材の表面は、単に親水性に優れているだけではなく、撥油性にも優れているため、プレコートフィン材の表面への油性の汚染物質の付着を抑制することができる。さらに、前記プレコートフィン材は、親水性及び撥油性の両方に優れているため、プレコートフィン材の表面と、表面に付着した汚染物質との間に結露水等が進入しやすい。そのため、プレコートフィン材の表面に油性の汚染物質が付着した場合にも、汚染物質を結露水等の水分によって洗い流し、フィンの表面から容易に除去することができる。
【0014】
以上のように、前記プレコートフィン材は、優れた親水性を長期間に渡って維持することができ、表面に付着した油性の汚染物質を容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例における、試験材1~試験材3の要部を示す一部拡大断面図である。
【
図2】実施例における、試験材4及び試験材5の要部を示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前記プレコートフィン材において、基板を構成するアルミニウムは、純アルミニウム及びアルミニウム合金の中から所望する機械的特性や耐食性等に応じて適宜選択することができる。基板は、例えば、JIS H4000において1200や1050等の合金番号で表される化学成分を備えた純アルミニウムから構成されていてもよい。
【0017】
基板上には、変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)を含む樹脂塗膜が形成されている。樹脂塗膜は、基板上に直接積層されていてもよいし、基板と樹脂塗膜との間に他の皮膜や塗膜が介在していてもよい。
【0018】
例えば、前記プレコートフィン材は、基板上に積層された下地皮膜を更に有していてもよい。下地皮膜は、その材質に応じて、例えば、基板と耐食性塗膜との密着性を向上させる、基板の耐食性を向上するなどの作用効果を奏することができる。
【0019】
下地皮膜としては、例えば、リン酸クロメートなどのクロメート処理、クロム化合物以外のリン酸チタンやリン酸ジルコニウム、リン酸モリブデン、リン酸亜鉛、酸化ジルコニウムなどによるノンクロメート処理などの化学皮膜処理、いわゆる化成処理により得られる皮膜を採用することができる。
【0020】
なお、前述した化成処理方法には、反応型及び塗布型があるが、いずれの手法でもよい。下地皮膜の付着量は、例えば金属の含有量として100mg/m2以下の範囲から適宜選択することができる。また、下地皮膜の付着量は、蛍光X線分析装置により測定することができる。
【0021】
また、前記プレコートフィン材は、基板と樹脂塗膜との間に介在する耐食性塗膜を更に有していてもよい。耐食性塗膜は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びエステル樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上の樹脂を含有していてもよい。これらの樹脂を含有する耐食性塗膜は、フィンの耐食性をより向上させることができる。
【0022】
耐食性塗膜の膜厚は、例えば、0.3μm以上5.0μm以下の範囲内から適宜設定することができる。耐食性塗膜の膜厚を前記特定の範囲内から設定することにより、耐食性塗膜による放熱性能の低下を回避しつつ、フィンの耐食性を向上させる効果を十分に得ることができる。
【0023】
プレコートフィン材の表面に設けられた樹脂塗膜には、変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)が含まれている。樹脂塗膜は、変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)を含み潤滑層と基板との間に介在する親水性層とを有していてもよい。樹脂塗膜内にこのような親水性層を形成することにより、プレコートフィン材の表面の親水性及び撥油性を高めるとともに、これらの特性を長期間に渡って維持することができる。
【0024】
樹脂塗膜の膜厚は、例えば、0.3μm以上2.0μm以下の範囲から適宜設定することができる。樹脂塗膜の膜厚を0.3μm以上とすることにより、プレコートフィン材の表面の親水性を高め、フィンの表面に付着した汚染物質をフィンの表面からより容易に除去することができる。また、樹脂塗膜の膜厚を2.0μm以下とすることにより、樹脂塗膜を形成する際の塗料の塗工性を高めることができる。
【0025】
樹脂塗膜中の変性ポリビニルアルコール(A)は、ポリビニルアルコールにおける一部の水酸基が末端に水酸基を有する有機基によって変性された分子構造を有している。変性ポリビニルアルコール(A)は、具体的には、下記一般式(1)で表される分子構造を有している。
【0026】
【0027】
ただし、前記一般式(1)におけるR1は、直鎖構造を有する炭素数5以上10以下の有機基であり、m及びnは、0.005≦n/m≦0.025の関係を満たす正の整数である。
【0028】
前記特定の有機基によって変性された変性ポリビニルアルコール(A)は、側鎖に比較的嵩高い有機基が導入されているため、未変性のポリビニルアルコールに比べて結晶化しにくい。それ故、樹脂塗膜中に変性ポリビニルアルコール(A)を配合することにより、水素結合の形成を抑制し、プレコートフィン材の表面の親水性及び撥油性を長期間に渡って維持することができる。
【0029】
前述した作用効果をより高める観点からは、前記一般式(1)におけるR1は、複数のメチレン基と1個以上のカルボニル基とを含む有機基であることが好ましく、複数のメチレン基と2個以上のカルボニル基とを含む有機基であることがより好ましい。
【0030】
前記一般式(1)におけるR1がカルボニル基を含む有機基である場合、カルボニル基の位置は、種々の態様を採り得る。例えば、カルボニル基は、ポリビニルアルコールの主鎖に結合している酸素原子とともにエステル結合(-O-CO-)を構成していてもよい。また、カルボニル基は、メチレン基同士の間に介在していてもよい(-CH2-CO-CH2-)。さらに、カルボニル基は、側鎖末端の水酸基とともにカルボキシル基(-CO-OH)を構成していてもよい。
【0031】
樹脂塗膜中のポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、アクリルアミド系ポリマー(B)の0.5倍以上2.0倍以下である。アクリルアミド系ポリマー(B)に対するポリビニルアルコール(A)の比率を前記特定の範囲とすることにより、プレコートフィン材の表面の親水性及び撥油性を長期間に渡って維持することができる。アクリルアミド系ポリマー(B)に対するポリビニルアルコール(A)の比率が前記特定の範囲から外れている場合には、熱交換器の使用中に樹脂塗膜が比較的早期に劣化し、親水性及び撥油性の低下を招くおそれがある。
【0032】
優れた親水性及び撥油性をより長期間に渡って維持する観点からは、ポリビニルアルコール(A)の含有量をアクリルアミド系ポリマー(B)の0.7倍以上1.9倍以下とすることが好ましく、1.0倍以上1.6倍以下とすることがより好ましい。
【0033】
樹脂塗膜中のアクリルアミド系ポリマー(B)としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等の、(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体をモノマーとするホモポリマー、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体からなる群より選ばれる2種以上の化合物をモノマーとするコポリマー、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、これら以外の化合物とをモノマーとするコポリマーなどを採用することができる。前記樹脂塗膜は、アクリルアミド系ポリマー(B)として、これらのホモポリマー及びコポリマーのうち1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0034】
アクリルアミド系ポリマー(B)としては、1級アミドまたは2級アミドのホモポリマー、または、1級アミドまたは2級アミドをモノマーとして含むコポリマーを使用することが好ましい。これらのホモポリマー及びコポリマーには、高い極性を有する1級アミド基または2級アミド基が含まれている。そのため、アクリルアミド系ポリマー(B)としてこれらのホモポリマー及びコポリマーを使用することにより、樹脂塗膜の親水性をより高くし、汚染物質をフィン表面からより容易に除去することができる。かかる観点からは、アクリルアミド系ポリマー(B)としてポリアクリルアミドを使用することが特に好ましい。
【0035】
アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価は20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。前記特定の範囲の酸価を備えたアクリルアミド系ポリマー(B)を使用することにより、より長期間にわたって優れた親水性及び撥油性を維持することができる。その結果、フィンの表面に付着した汚染物質をフィンの表面から容易に除去するとともに、汚染物質を除去する能力をより長期間にわたって維持することができる。
【0036】
汚染物質を除去する能力をより長期間にわたって維持する観点からは、アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価を40mgKOH/g以上とすることがより好ましい。一方、汚染物質を除去する能力をより高める観点からは、アクリルアミド系ポリマー(B)の酸価を90mgKOH/g以下とすることがより好ましい。
【0037】
樹脂塗膜中には、必須成分としてのポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)に加えて、これら以外の任意成分が含まれていてもよい。樹脂塗膜中に任意成分が含まれる場合、変性ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)との含有量の合計は、例えば、樹脂塗膜全体の質量を100質量部とした場合に85質量部以上の範囲から適宜設定することができる。この場合には、樹脂塗膜中のポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)の量を十分に多くすることができる。その結果、優れた親水性及び撥油性を確保しつつ、任意成分による効果を得ることができる。
【0038】
樹脂塗膜中には、任意成分として、ポリエチレングリコールが含まれていてもよい。
【0039】
ポリエチレングリコールは、樹脂塗膜の形成過程において親水性層上に浮上し、潤滑層を形成することができる。樹脂塗膜の表面に露出したポリエチレングリコールは、前記プレコートフィン材にプレス加工を施す際に、プレコートフィン材とプレス金型との摩擦を低減する潤滑材として機能し、プレス加工時の加工性を向上させることができる。
【0040】
前記樹脂塗膜中のポリエチレングリコールの含有量は、樹脂塗膜100質量部に対して1.5質量部以上8質量部以下であることが好ましい。ポリエチレングリコールの含有量を1.5質量部以上とすることにより、プレス加工時におけるプレコートフィン材と金型との摩擦をより低減することができる。プレス加工時におけるプレコートフィン材と金型との摩擦をより低減する観点からは、ポリエチレングリコールの含有量を2.0質量部以上とすることが好ましく、2.5質量部以上とすることがより好ましい。
【0041】
また、ポリエチレングリコールの含有量を8質量部以下とすることにより、プレコートフィン材の表面粗さをより小さくし、フィンの表面に汚染物質をより付着しにくくすることができる。プレコートフィン材の表面をより平滑にし、フィンの表面への汚染物質の付着をより効果的に抑制する観点からは、ポリエチレングリコールの含有量を7質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下とすることがより好ましい。
【0042】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は1000~20000の範囲内であることが好ましい。この場合には、プレス加工時の潤滑性を向上させるとともに、フィン表面への汚染物質の付着をより効果的に抑制することができる。
【0043】
前記樹脂塗膜中には、任意成分として、変性ポリビニルアルコール(A)の結晶構造をよりち密にするための架橋剤が含まれていてもよい。樹脂塗膜中に架橋剤を添加することにより、樹脂塗膜の硬度をより高め、粉塵の付着をより効果的に抑制することができる。架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂やブロック化イソシアネート化合物などを使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
また、前記樹脂塗膜中には、任意成分として、抗菌剤及び防カビ剤のうち少なくとも一方がさらに含有されていてもよく、両方が添加されていてもよい。また、抗菌作用及び防カビ作用を兼ね備えた抗菌・防カビ剤を前記樹脂塗膜中に添加することもできる。樹脂塗膜中に抗菌作用及び防カビ作用のうち少なくとも一方を備えた化合物を添加することにより、樹脂塗膜の腐食を抑制し、樹脂塗膜による作用効果をより長期間にわたって維持することができる。
【0045】
抗菌作用及び防カビ作用を備えた化合物としては、例えば、イソチアゾリン系抗菌・防カビ剤、アルデヒド系抗菌・防カビ剤、ベンズイミダゾール系抗菌・防カビ剤、ハロゲン系抗菌・防カビ剤、カルボン酸系抗菌・防カビ剤、スルファミド系抗菌・防カビ剤、チアゾール系抗菌・防カビ剤、トリアゾール系抗菌・防カビ剤、フェノール系抗菌・防カビ剤、フタルイミド系抗菌・防カビ剤、ナフテン酸系抗菌・防カビ剤、ピリジン系抗菌・防カビ剤等の有機系抗菌・防カビ剤や、Ag、Cu、Zn等の無機系抗菌・防カビ剤を使用することができる。
【0046】
抗菌・防カビ剤としては、ジンクピリチオン、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)-ピリジン及び2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾールのうち少なくとも1種を使用することが好ましい。これらの化合物は、樹脂塗膜の物性に及ぼす影響が少なく、水に不溶であり、熱に対する安定性が高い。それ故、これらの化合物を樹脂塗膜中に添加することにより、抗菌作用及び防カビ作用を長期間にわたって維持することができる。
【0047】
前記樹脂塗膜中には、任意成分として、パーフルオロアルキル基を備えたフッ素樹脂からなり、体積基準におけるメジアン径が1μm以上4μm以下であるフッ素樹脂粒子が含まれていてもよい。樹脂塗膜中のフッ素樹脂粒子の少なくとも一部は、前述した親水性層の表面に配置され、ポリエチレングリコールとともにプレス加工時の潤滑材として機能する。フッ素樹脂粒子のメジアン径を前記特定の範囲とすることにより、プレス加工時の潤滑性をより低減することができる。かかる作用効果をより確実に奏する観点からは、フッ素樹脂粒子の含有量は、樹脂塗膜100質量部に対して2質量部以上5質量部以下であることが好ましい。
【0048】
なお、体積基準におけるフッ素樹脂粒子のメジアン径は、具体的には、レーザー回折・散乱法によって得られた粒子径分布における累積50%径である。
【0049】
フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(つまり、PTFE)などの完全フッ素化樹脂、ポリフッ化ビニリデン(つまり、PVDF)、ポリフッ化ビニル(つまり、PVF)等の部分フッ素化樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(つまり、PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(つまり、ETFE)等のフッ素化樹脂共重合体を使用することができる。フッ素樹脂粒子は、これらのフッ素樹脂からなる粒子のうち1種類から構成されていてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
フッ素樹脂粒子は、パーフルオロアルキル基を備えたフッ素樹脂から構成されていることが好ましい。この場合には、プレス加工時の潤滑性より向上させることができる。
【0051】
前記プレコートフィン材の作製方法としては、例えば、基板上に変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)を含む塗料を塗布した後、塗料を加熱して乾燥させる方法を採用することができる。塗料を乾燥する過程においては、変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)が基板側に沈降し、親水性層が形成される。この際、変性ポリビニルアルコール(A)はアクリルアミド系ポリマー(B)に対する相溶性が低いため、親水性層中には、変性ポリビニルアルコール(A)を含む相と、アクリルアミド系ポリマー(B)を含む相とが互いに相分離した状態で形成される。親水性層の表面には、これらの両方の相が露出している。
【0052】
変性ポリビニルアルコール(A)を含む相は、変性ポリビニルアルコール(A)に由来する優れた撥油性を発現させることができる。さらに、変性ポリビニルアルコール(A)を含む相においては、側鎖に導入された有機基の立体障害により、変性ポリビニルアルコール(A)に含まれる水酸基同士の水素結合の形成が抑制される。それ故、変性ポリビニルアルコール(A)を含む相の表面に水素結合を形成していない水酸基を比較的多く露出させ、親水性層の表面の親水性を高めることができる。
【0053】
また、アクリルアミド系ポリマー(B)を含む相においては、アクリルアミド系ポリマー(B)に由来する優れた親水性を発現させることができる。従って、変性ポリビニルアルコール(A)とアクリルアミド系ポリマー(B)とを含む親水性層は、優れた親水性と撥油性とを両立させることができる。
【0054】
前記プレコートフィン材は、例えば以下のようにして熱交換器の製造に用いられる。まず、プレコートフィン材を所望の寸法に切断することにより、フィンを作製する。得られたフィンに、プレス加工機を用いてスリット加工、ルーバー成型、カラー加工を適宜組み合わせて実施し、スリット、ルーバー及びカラーを形成する。その後、複数のフィンを互いに所定の間隔をあけた状態で配置し、これら複数のフィンを貫通するようにして冷媒を流通させるための金属管を取り付ける。その後、金属管内に拡管プラグを挿入して金属管の外径を拡大することにより、金属管とフィンを密着させる。このようにして、熱交換器を得ることができる。熱交換器は、例えば空気調和装置の室内機や室外機等に組み込むことができる。
【実施例0055】
前記プレコートフィン材の実施例について、
図1を参照しつつ説明する。本例のプレコートフィン材1は、
図1に示すように、アルミニウムからなる基板2と、基板2上に形成され、表面に露出した樹脂塗膜3と、を有している。樹脂塗膜3は、前記一般式(1)で表される分子構造を有する変性ポリビニルアルコール(A)と、アクリルアミド系ポリマー(B)と、を含有している。変性ポリビニルアルコール(A)の含有量は、質量比において、アクリルアミド系ポリマー(B)の含有量の0.5倍以上2.0倍以下である。以下、本例のプレコートフィン材のより具体的な例をその製造方法と共に説明する。
【0056】
・試験材1~試験材3
表1に示す試験材1~試験材3は、以下の方法により作製することができる。まず、基板2を準備する。基板2としては、アルミニウムからなる板材をそのまま使用してもよいし、予め、化成処理によって下地皮膜が形成された板材を使用することもできる。試験材1~試験材3に使用する基板2は、具体的には、JIS H4000において合金番号1050で表される化学成分を備えたアルミニウムからなり、JIS H0001において質別記号H26で表される調質が施された板厚0.1mmのアルミニウム板である。基板2には、予め、リン酸クロメート溶液を用いた化成処理が施されており、基板2の両面にはリン酸クロメートからなる下地皮膜21が設けられている。
【0057】
次に、変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)を表1に示す質量比で含む塗料を準備する。なお、表1においては、「ポリビニルアルコール」を「PVA」、「アクリルアミド系ポリマー」を「PAM」と省略した。
【0058】
試験材1~試験材3に用いる変性ポリビニルアルコール(A)は、下記構造式(2)で表される分子構造を有している。
【0059】
【0060】
ただし、前記構造式(2)におけるR2は、炭素数が7であり、メチレン基とカルボニル基との両方を含む直鎖構造の有機基であり、m及びnは、0.005≦n/m≦0.025の関係を満たす正の整数である。
【0061】
試験材1~試験材3に用いるアクリルアミド系ポリマー(B)の酸価は50mgKOH/gであり、ポリスチレン換算の重量平均分子量は30万である。
【0062】
バーコーターを用いて前述した塗料を基板2上に塗布した後、塗料を225℃の温度で10秒間加熱して乾燥させる。以上により、基板2上に樹脂塗膜3を形成し、試験材1~試験材3を得ることができる。なお、樹脂塗膜3の厚みは1μmである。
【0063】
試験材1~試験材3の樹脂塗膜3は、
図1に示すように、変性ポリビニルアルコール(A)を含む相311と、アクリルアミド系ポリマー(B)を含む相312とを備えた親水性層31を有している。
【0064】
・試験材4及び試験材5
試験材4及び試験材5は、樹脂塗膜3中にポリエチレングリコールが含まれている以外は、試験材1~試験材3と同様の構成を有している。試験材4及び試験材5の製造方法は、塗料中に表1に示す量のポリエチレングリコールを加える以外は、実施例1~実施例3の製造方法と同様である。なお、試験材4及び試験材5において使用したポリエチレングリコールの数平均分子量は6000である。また、表1においては、「ポリエチレングリコール」を「PEG」と省略した。
【0065】
試験材4及び試験材5のように、塗料中にポリエチレングリコールが含まれる場合、基板上の塗料を加熱して乾燥させる過程において、塗料中の変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)が基板2側へ沈降する。これにより、
図2に示すように、試験材4及び試験材5の下地皮膜21上には、変性ポリビニルアルコール(A)を含む相311と、アクリルアミド系ポリマー(B)を含む相312とを有する親水性層31が形成される。
【0066】
一方、ポリエチレングリコールは、変性ポリビニルアルコール(A)及びアクリルアミド系ポリマー(B)に比べて粘度が低いため、塗料の乾燥が進行するにつれて表面側へ浮上する。これにより、親水性層31上に、ポリエチレングリコールを含む潤滑層32が形成される。このように、試験材4及び試験材5の樹脂皮膜302は、表面に露出した潤滑層32と、潤滑層32と基板2との間に介在する親水性層31とを有している。
・試験材6及び試験材7
試験材6及び試験材7は、アクリルアミド系ポリマー(B)に対する変性ポリビニルアルコール(A)の比率が前記特定の範囲外である以外は、試験材1~試験材3と同様の構成を有している。
・試験材8
試験材8は、ポリエチレングリコールの含有量が前記特定の範囲よりも多い以外は、試験材4及び試験材5と同様の構成を有している。
【0067】
・試験材9
試験材9は、変性ポリビニルアルコール(A)に替えて未変性のポリビニルアルコール(数平均分子量6000)を使用した以外は、試験材1~試験材3の製造方法と同様の製造方法により作製される。
【0068】
試験材1~試験材9の諸特性は、以下の方法により評価することができる。
【0069】
・親水性
試験材の親水性は、水の接触角に基づいて評価することができる。本例では、作製直後の各試験材における水の接触角と、劣化試験後の試験材における水の接触角とを測定する。作製直後の各試験材における水の接触角は表1に示した通りである。
【0070】
作製直後の水の接触角を測定した後、劣化試験を行う。劣化試験においては、試験材をイオン交換水に2分間浸漬した後、各試験材に6分間空気を吹き付けて樹脂塗膜3を乾燥させるサイクルを1サイクルとし、このサイクルを300サイクル繰り返し実施する。そして、劣化試験が完了した後の試験材に水を滴下して水の接触角を測定する。劣化試験後の試験材における水の接触角は表1に示した通りである。
【0071】
・撥油性
試験材の撥油性は、以下に示す洗浄試験の結果に基づいて評価することができる。まず、試験材の樹脂塗膜3に、油性染料マーカーを用いて一辺15mmの正方形を描き、正方形の内部を油性染料マーカーで塗りつぶすことにより、樹脂塗膜3上にインク層を付着させる。なお、油性染料マーカーとしては、例えば、株式会社パイロットコーポレーション製「ツインマーカー MFN-15FB-B」などを使用することができる。
【0072】
次に、試験材を鉛直に立て、試験材におけるインク層よりも上方に位置する部分に霧吹きを用いて水を150回噴霧する。この際、霧吹きから噴霧した水が正方形に直接当たらないようにする。噴霧が完了した後、噴霧によって除去されたインク層の面積を測定する。そして、噴霧前のインク層の面積に対する噴霧によって除去されたインク層の面積の比率を百分率で表した値をインク層の除去率(単位:%)とする。
【0073】
以上の洗浄試験を、作製直後の試験材及び前述した劣化試験後の試験材のそれぞれについて行った結果を表1の「撥油性」欄に示す。なお、表1の「撥油性」欄には、インク層の除去率が80%よりも高い場合には記号「A」、60%超80%以下の場合には記号「B」、40%超60%以下の場合には記号「C」、20%超40%以下の場合には記号「D」、20%以下の場合には記号「E」を記載した。
【0074】
・密着性
基板2と樹脂塗膜3との密着性は、JIS K5600-5-6:1999に規定されたクロスカット法に準じた方法により評価することができる。具体的には、まず、カッターナイフを用いて樹脂塗膜3を格子状に切断し、樹脂塗膜3に一辺2mmの正方形小片を100枚形成する。これらの正方形小片に付着テープとしてのセロハンテープを貼り付ける。その後、セロハンテープを基板2に対して45°の角度となるように引き剥はがし、基板2上に残存した正方形小片の数を数える。表1の「密着性」欄には、基板2上にすべての正方形小片が残存している場合には「Good」と記載し、1枚以上の正方形小片が基板2から剥離した場合には「Bad」と記載した。
【0075】
【0076】
表1に示したように、試験材1~試験材5は、基板上に、前記特定の範囲の組成を備えた樹脂塗膜を有している。そのため、これらの試験材は、作製直後の水の接触角が20°以下となり、作製直後に優れた親水性を示す。また、これらの試験材は、劣化試験後の水の接触角が30°以下となり、長期間にわたって高い親水性を維持することができる。更に、これらの試験材は、作製直後の撥油性及び劣化試験後の撥油性にも優れている。
【0077】
一方、試験材6におけるアクリルアミド系ポリマー(B)に対する変性ポリビニルアルコール(A)の質量比は、前記特定の範囲よりも小さい。そのため、試験材6の劣化試験後の親水性及び撥油性は試験材1~試験材5に比べて低くなる。
【0078】
試験材7におけるアクリルアミド系ポリマー(B)に対する変性ポリビニルアルコール(A)の質量比は、表1に示したように前記特定の範囲よりも大きい。そのため、試験材7の劣化試験後の撥油性は試験材1~試験材5に比べて低くなる。
【0079】
試験材8におけるポリエチレングリコールの含有量は前記特定の範囲よりも多い。そのため、試験材8の樹脂塗膜3の密着性及び劣化試験後の撥油性は試験材1~試験材5に比べて低くなる。
【0080】
試験材9には、変性ポリビニルアルコール(A)に替えて未変性のポリビニルアルコールが含まれているため、試験材9の親水性層の構造は、試験材1~試験材5とは異なっている。試験材9の劣化試験後の親水性は試験材1~試験材5に比べて低くなる。
【0081】
本発明に係るプレコートフィン材の具体的な態様は、前述した実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更することができる。例えば、前述した実施例及び実験例においては、基板2上に下地皮膜21を形成したプレコートフィン材1の例を示したが、下地皮膜21を形成するための化成処理を省略し、基板2上に直接樹脂塗膜3を形成することも可能である。また、下地皮膜21を形成するための化成処理を省略し、基板2上に耐食性塗膜及び樹脂塗膜3を順次形成してもよい。