(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032695
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】鉄道車両用の引戸機構
(51)【国際特許分類】
B61D 19/00 20060101AFI20220217BHJP
E05D 15/06 20060101ALI20220217BHJP
E05F 7/04 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
B61D19/00 A
E05D15/06 116
E05D15/06 124A
E05D15/06 124C
E05F7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136751
(22)【出願日】2020-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 聡
(72)【発明者】
【氏名】小泉 隆
【テーマコード(参考)】
2E034
2E050
【Fターム(参考)】
2E034AA08
2E034BA13
2E034BA15
2E034BE01
2E050NA06
2E050PB03
2E050PB05
2E050PC03
2E050PC04
2E050PD03
(57)【要約】
【課題】スリ板の製作コストを抑制する。
【解決手段】鉄道車両用の引戸機構は、引戸がその開閉可能範囲の全てにわたって上レールにより案内支持されると共に、引戸の下縁に設けられたスリ板16が、引戸の開閉可能範囲の少なくとも一部において床面から突出した下レール40により摺動案内されるものであって、スリ板16が、引戸の下縁に沿って断続的に取り付けられた複数の小スリ板18により構成されている。これにより、小スリ板18の1つあたりの長さが抑制されるため、樹脂製の小スリ板18を製作する場合でも、削出品を用いる必要がなく、成型品を用いることができ、製作コストを抑制することができる。更に、隣接する小スリ板18間には隙間が設けられるため、その隙間分に相当する材料費が不要となり、これによっても製作コストを抑制することが可能となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸がその開閉可能範囲の全てにわたって上レールにより案内支持されると共に、前記引戸の下縁に設けられたスリ板が、前記開閉可能範囲の少なくとも一部において床面から突出した下レールにより摺動案内される鉄道車両用の引戸機構であって、
前記スリ板は、前記引戸の下縁に沿って断続的に取り付けられた複数の小スリ板により構成されていることを特徴とする鉄道車両用の引戸機構。
【請求項2】
前記複数の小スリ板は、隣接する小スリ板同士の間隔が、前記下レールの長さよりも小さくなっていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用の引戸機構。
【請求項3】
前記下レールは、その長さ方向の少なくとも一方の端部に、幅方向の厚みが先端に向かって徐々に小さくなるテーパ部が設けられ、
前記隣接する小スリ板同士の間隔は、前記下レールの前記テーパ部を除いた長さよりも小さくなっていることを特徴とする請求項2記載の鉄道車両用の引戸機構。
【請求項4】
前記複数の小スリ板は、前記引戸の戸先側先端近傍まで達する小スリ板と、前記引戸の戸尻側先端近傍まで達する小スリ板とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の鉄道車両用の引戸機構。
【請求項5】
前記下レールは、戸袋内から全開時の前記引戸の戸先側先端近傍までの間と、全閉時の前記引戸の戸先側先端近傍から戸袋へと向かう所定範囲との、少なくとも一方に設けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の鉄道車両用の引戸機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の引戸機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の妻面や側面に設けられる引戸は、かもい部に設けられた上レールに支持され、その上レールを走行することで開閉される。又、引戸の下側には、引戸のばたつき防止等を目的として下レールが設けられる。すなわち、引戸の下縁に設けられた断面コの字状のスリ板が、床面から突出した下レールに摺動可能に係合することで、引戸の前後面方向への動きを制限している。この下レールは、バリアフリーの観点から、近年では引戸の開閉範囲の全体ではなく一部にのみ設け、下レールによる乗客の躓きの防止を図っている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、下レールに摺動可能に係合するスリ板は、その摩耗時の交換を容易にするために、少なくとも引戸の戸先側先端部、近年では引戸の開閉方向の全長にわたって、樹脂製のものが取り付けられている。しかしながら、樹脂製のスリ板には、長尺部材となることから成型品を使用できず、高価な削出品を使用しているため、それがコストアップの要因となっている。又、スリ板の材質の特性上、温度や湿度の影響により変形してしまう虞もある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スリ板の製作コストを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)引戸がその開閉可能範囲の全てにわたって上レールにより案内支持されると共に、前記引戸の下縁に設けられたスリ板が、前記開閉可能範囲の少なくとも一部において床面から突出した下レールにより摺動案内される鉄道車両用の引戸機構であって、前記スリ板は、前記引戸の下縁に沿って断続的に取り付けられた複数の小スリ板により構成されている鉄道車両用の引戸機構(請求項1)。
【0007】
本項に記載の鉄道車両用の引戸機構は、引戸、上レール、及び下レールを含むものであり、上レールは、引戸をその開閉可能範囲の全てにわたって案内支持するものである。下レールは、引戸の開閉可能範囲の少なくとも一部において床面から突出し、引戸の下縁に設けられたスリ板を摺動案内するものである。このため、スリ板は、下レールに対して引戸の開閉方向に摺動可能に係合し、開閉方向と直交する引戸の前後面方向への動きを制限する。更に、スリ板は、引戸の下縁に沿って連続的に延在するような一体的に形成されたものではなく、引戸の下縁に沿って断続的に取り付けられた複数の小スリ板により構成されている。
【0008】
これにより、小スリ板の1つあたりの長さが抑制されるため、樹脂製の小スリ板を製作する場合でも、削出品を用いる必要がなく、成型品が用いられることとなり、製作コストが抑制されるものとなる。更に、隣接する小スリ板間には隙間が設けられるため、その隙間分に相当する材料費が不要となり、これによっても製作コストが抑制されるものとなる。又、引戸の開閉動作によってスリ板に摩耗が発生した場合でも、複数の小スリ板のうち摩耗が大きい小スリ板のみを交換すればよいため、メンテナンス性が向上されるものとなる。しかも、小スリ板の1つあたりの大きさが従来のスリ板よりも小さくなることから、温度や湿度の影響による変形量が抑制されるものとなる。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記複数の小スリ板は、隣接する小スリ板同士の間隔が、前記下レールの長さよりも小さくなっている鉄道車両用の引戸機構(請求項2)。
本項に記載の鉄道車両用の引戸機構は、複数の小スリ板の隣接する小スリ板同士の間隔が、下レールの長さよりも小さくなっているものである。これにより、引戸が下レールの上を通過しているときに、隣接する小スリ板間の隙間に相当する部分が下レールを通る場合でも、そのような隙間に相当する部分から、下レールに対するスリ板の係合状態が解除されることはなく、常に何れかの小スリ板が下レールへ係合する状態になる。このため、スリ板が複数の小スリ板で構成されているにも関わらず、前後面方向への引戸のばたつきがより確実に抑制されるものとなる。
【0010】
(3)上記(2)項において、前記下レールは、その長さ方向の少なくとも一方の端部に、幅方向の厚みが先端に向かって徐々に小さくなるテーパ部が設けられ、前記隣接する小スリ板同士の間隔は、前記下レールの前記テーパ部を除いた長さよりも小さくなっている鉄道車両用の引戸機構(請求項3)。
本項に記載の鉄道車両用の引戸機構は、スリ板が係合する下レールに対して、下レールの長さ方向の2つの端部のうち少なくとも一方の端部に、下レールの幅方向の厚みが先端に向かって徐々に小さくなるテーパ部が設けられているものである。これにより、下レールのテーパ部から小スリ板が係合し易くなるため、引戸の開閉動作がスムーズに行われるものとなる。
【0011】
ここで、下レールに上記のようなテーパ部が設けられていると、小スリ板が下レールに係合している状態で、小スリ板とテーパ部との間に僅かな隙間が発生する。このため、小スリ板が下レールのテーパ部以外の部位に係合しておらず、小スリ板が下レールのテーパ部の周囲にのみ位置する状態では、小スリ板とテーパ部との間の隙間分だけ引戸が揺動可能になってしまい、引戸のがたつきが発生する虞がある。しかしながら、本項に記載の鉄道車両用の引戸機構は、複数の小スリ板の隣接する小スリ板同士の間隔が、下レールのテーパ部を除いた長さよりも小さくなっているため、引戸が下レールの上を通過しているときは、常に何れかの小スリ板が下レールのテーパ部以外の部位に係合している。これにより、下レールにテーパ部が設けられているにも関わらず、引戸のがたつきの発生が抑制されるものである。
【0012】
(4)上記(1)から(3)項において、前記複数の小スリ板は、前記引戸の戸先側先端近傍まで達する小スリ板と、前記引戸の戸尻側先端近傍まで達する小スリ板とを含む鉄道車両用の引戸機構(請求項4)。
本項に記載の鉄道車両用の引戸機構は、複数の小スリ板に、引戸の戸先側先端近傍まで達する小スリ板と、引戸の戸尻側先端近傍まで達する小スリ板とが含まれるものである。これにより、引戸の下縁の、引戸の開閉方向の略全てにわたる範囲に、複数の小スリ板が取り付けられるものとなるため、引戸のばたつきがより確実に抑制されるものとなる。又、上記の2つの小スリ板は、引戸の開閉方向の前端及び後端に位置することとなるため、特に大きく摩耗することが想定されるが、その場合でも小スリ板単位で交換されることから、交換作業が容易になるものである。
【0013】
(5)上記(1)から(4)項において、前記下レールは、戸袋内から全開時の前記引戸の戸先側先端近傍までの間と、全閉時の前記引戸の戸先側先端近傍から戸袋へと向かう所定範囲との、少なくとも一方に設けられる鉄道車両用の引戸機構(請求項5)。
本項に記載の鉄道車両用の引戸機構は、下レールが、引戸の開閉可能な範囲に含まれる、以下のような2つの範囲の少なくともいずれか一方に設けられるものである。すなわち、一方の範囲は、引戸が収容される戸袋内から、全開時の引戸の戸先側先端近傍までの間の範囲であり、もう一方の範囲は、全閉時の引戸の戸先側先端近傍から、戸袋へと向かう所定範囲である。これにより、床面から突出した下レールの、引戸が全開になったときに露出する範囲が、可能な限り小さくなるため、バリアフリーに貢献しながら、引戸のばたつきの防止を図るものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のような構成であるため、スリ板の製作コストを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構が適用された妻引戸周辺の構造を概略的に示す正面図である。
【
図2】
図1の妻引戸の上端側及び下端側を示す断面図である。
【
図3】
図1の下レールの拡大平面図であり、(a)が
図1のA-A線での平面視位置にある下レール、(b)が
図1のB-B線での平面視位置にある下レールである。
【
図4】
図2のスリ板を示しており、(a)が正面図及び側面図、(b)及び(c)がスリ板と下レールとの大きさの関係を示す平面イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体を通して、同一部分若しくは相当する部分は、同一の符号で示している。
図1には、鉄道車両の妻面に設けられた車両間移動用の開口部60を開閉するための、妻引戸に適用された場合を例にして、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10の構造を示している。図示のように、鉄道車両用の引戸機構10は、引戸12、上レール30、下レール40、戸袋50などを備えている。引戸12は、乗客などによって
図1における左右方向に開閉されるものであり、
図1では、全閉状態の引戸12が実線で示され、全開状態の引戸12が二点鎖線で示されている。
【0017】
上レール30は、開口部60の上方に位置するかもい部62の内部において、
図1における左右方向に延在し、開かれた引戸12が収容される戸袋50の上方まで延びており、
図2を参照すると、本実施形態では断面G字状をなしていることが分かる。そして、引戸12の上方には、引戸12を吊り下げるようにして2つの戸車24が取り付けられており、これらの戸車24がかもい部62の内部で上レール30上を走行することで、引戸12がその開閉可能範囲にわたって上レール30により案内支持されるようになっている。
【0018】
下レール40は、鉄道車両の客室の床面64から突出して、引戸12の開閉方向に延在するように取り付けられており、本実施形態では下レール40A、40Bの2つの下レール40が設けられている。
図3には、それら2つの下レール40A、40Bの拡大平面図を示しており、更に
図3(a)には、戸当たり52に当接した全閉状態の引戸12の戸先側先端12a近傍を二点鎖線で示し、
図3(b)には、一部が戸袋50内に収容された全開状態の引戸12の戸先側先端12a近傍を二点鎖線で示している。
【0019】
図1及び
図3(a)を参照して、一方の下レール40Aは、全閉時の引戸12の戸先側先端12a近傍から、戸袋50の方向(
図3(a)における右方向)へ向かう所定範囲に設けられている。又、この下レール40Aには、
図3(a)で確認できるように、その長さ方向の一方の端部(図中右側の端部)にテーパ部42が設けられており、このテーパ部42は、幅方向(図中上下方向)の厚みが先端に向かって徐々に小さくなっている。これに対し、もう一方の下レール40Bは、
図1及び
図3(b)を参照して、戸袋50内から全開時の引戸12の戸先側先端12a近傍までの範囲に設けられている。又、この下レール40Bには、
図3(b)で確認できるように、その長さ方向の両端部にテーパ部42が設けられており、これらのテーパ部42は、幅方向(図中上下方向)の厚みが各々の先端に向かって徐々に小さくなっている。
【0020】
上記のような構成の下レール40は、引戸12の下縁を案内するために利用される。すなわち、
図2に示すように、引戸12の下縁には、断面コの字状の押さえ金22を介して、同じく断面コの字状のスリ板16が取り付けられている。そして、このスリ板16が、床面64から突出した下レール40に摺動可能に係合することで、引戸12の下縁が下レール40により摺動案内されるようになっている。より詳しくは、スリ板16は、
図4(a)に示すように、断面コの字状の複数の小スリ板18により構成されており、
図4(a)には、引戸12の下縁に沿って取り付けられる、引戸12の開閉方向の略全長にわたって延びる押さえ金22を、二点鎖線で示している。
【0021】
すなわち、スリ板16を構成する複数の小スリ板18は、引戸12の下縁に沿って断続的に取り付けられ、本実施形態では、同じ長さを有する5つの小スリ板18が、互いに等間隔で取り付けられている。これら5つの小スリ板18のうち、
図4(a)の正面図の一番左側に位置する小スリ板18は、引戸12の戸先側先端12a近傍(
図1参照)まで達する小スリ板18であり、
図4(a)の正面図の一番右側に位置する小スリ板18は、引戸12の戸尻側先端12b近傍(
図1参照)まで達する小スリ板18である。そして、これら複数の小スリ板18は、隣接する小スリ板18同士の間隔が、下レール40の長さよりも小さくなるように設置されている。
【0022】
詳しくは、
図4(b)に示すように、隣接する小スリ板18同士の間隔をID、下レール40の長さをULとしたときに、「ID<UL」の関係になっている。特に、隣接する小スリ板18同士の間隔IDは、
図4(c)に示すように、下レール40のテーパ部42を除いた長さTLよりも小さく、すなわち、「ID<TL」の関係になっていることが好ましい。このような大きさの関係は、下レール40の長さULやテーパ部42を除いた長さTLを調整することで成立させてもよく、或いは、隣接する小スリ板18同士の間隔IDを調整することで成立させてもよい。
【0023】
又、
図1及び
図3の例のように、下レール40が複数箇所に設けられている場合には、各下レール40の設置位置や複数の小スリ板18の通過頻度の観点から、全閉時の引戸12の戸先側先端12a近傍に位置する下レール40Aではなく、全開時の引戸12の戸先側先端12a近傍に位置する下レール40Bの長さULを用いて、上記のような大きさの関係を成立させればよい。或いは、複数の下レール40の中で、最も短い下レール40の長さULを利用してもよい。なお、複数の小スリ板18は、例えばリキモリナイロンなどの樹脂製であることが好ましい。
【0024】
ここで、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、
図1~
図4に示したような構成に限定されるものではなく、例えば、スリ板16を構成する複数の小スリ板18の数は、4つ以下や6つ以上であってもよい。又、複数の小スリ板18に、互いに長さが異なる小スリ板18が含まれていてもよく、複数の小スリ板18が等間隔で設置されていなくてもよい。又、下レール40が設置される範囲は、
図3に示した下レール40A又は下レール40Bの何れか一方の範囲であってもよく、これらと異なる範囲であってもよい。更に、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、妻引戸への適用に限定されるものではなく、鉄道車両の側面に設けられる側引戸に適用してもよい。
【0025】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、
図1及び
図2に示すように、引戸12、上レール30、及び下レール40を含むものであり、上レール30は、引戸12をその開閉可能範囲の全てにわたって案内支持するものである。下レール40は、引戸12の開閉可能範囲の少なくとも一部において床面64から突出し、引戸12の下縁に設けられたスリ板16を摺動案内するものである。このため、スリ板16は、下レール40に対して引戸12の開閉方向(
図1における左右方向)に摺動可能に係合し、開閉方向と直交する引戸12の前後面方向(
図2における左右方向)への動きを制限する。更に、スリ板16は、引戸12の下縁に沿って連続的に延在するような一体的に形成されたものではなく、
図4(a)に示すように、引戸12の下縁に沿って断続的に取り付けられた複数の小スリ板18により構成されている。
【0026】
これにより、小スリ板18の1つあたりの長さが抑制されるため、樹脂製の小スリ板18を製作する場合でも、削出品を用いる必要がなく、成型品を用いることができ、製作コストを抑制することができる。更に、隣接する小スリ板18間には隙間が設けられるため、その隙間分に相当する材料費が不要となり、これによっても製作コストを抑制することが可能となる。又、引戸12の開閉動作によってスリ板16に摩耗が発生した場合でも、複数の小スリ板18のうち摩耗が大きい小スリ板18のみを交換すればよいため、メンテナンス性を向上することもできる。しかも、小スリ板18の1つあたりの大きさが従来のスリ板よりも小さくなることから、温度や湿度の影響による変形量を抑制することも可能となる。
【0027】
又、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、
図4(b)に示すように、複数の小スリ板18の隣接する小スリ板18同士の間隔IDが、下レール40の長さULよりも小さくなっているものである。これにより、引戸12が下レール40の上を通過しているときに、隣接する小スリ板18間の隙間に相当する部分が下レール40を通る場合でも、そのような隙間に相当する部分から、下レール40に対するスリ板16の係合状態が解除されることはなく、常に何れかの小スリ板18が下レール40へ係合する状態になる。このため、スリ板16が複数の小スリ板18で構成されているにも関わらず、従来のスリ板と比較して機能を低下させることなく、前後面方向への引戸12のばたつきをより確実に抑制することができる。
【0028】
又、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、
図3に示すように、スリ板16が係合する下レール40に対して、下レール40の長さ方向の2つの端部のうち少なくとも一方の端部に、下レール40の幅方向(
図3における上下方向)の厚みが先端に向かって徐々に小さくなるテーパ部42が設けられているものである。これにより、下レール40のテーパ部42から小スリ板18が係合し易くなるため、引戸12の開閉動作をスムーズに行うことができる。ここで、下レール40に上記のようなテーパ部42が設けられていると、小スリ板18が下レール40に係合している状態で、小スリ板18とテーパ部42との間に僅かな隙間が発生する。
【0029】
このため、
図4(b)に示すように、小スリ板18が下レール40のテーパ部42以外の部位に係合しておらず、小スリ板18が下レール40のテーパ部42の周囲にのみ位置する状態では、小スリ板18とテーパ部42との間の隙間分だけ引戸12が揺動可能になってしまい、引戸12のがたつきが発生する虞がある。しかしながら、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、
図4(c)に示すように、複数の小スリ板18の隣接する小スリ板18同士の間隔IDが、下レール40のテーパ部42を除いた長さTLよりも小さくなっていることで、引戸12が下レール40の上を通過しているときは、常に何れかの小スリ板18が下レール40のテーパ部42以外の部位に係合している。これにより、下レール40にテーパ部42が設けられているにも関わらず、引戸12のがたつきの発生を抑制することが可能となる。
【0030】
更に、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、
図4(a)に示すように、複数の小スリ板18に、引戸12の戸先側先端12a近傍まで達する小スリ板18と、引戸12の戸尻側先端12b近傍まで達する小スリ板18とが含まれるものである。これにより、引戸12の下縁の、引戸12の開閉方向の略全てにわたる範囲に、複数の小スリ板18が取り付けられるものとなるため、引戸12のばたつきをより確実に抑制することができる。又、上記の2つの小スリ板18は、引戸12の開閉方向の前端及び後端に位置することとなるため、特に大きく摩耗することが想定されるが、その場合でも小スリ板18単位で交換することができるため、容易に交換作業を行うことができる。
【0031】
又、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用の引戸機構10は、
図1及び
図3に示すように、下レール40が、引戸12の開閉可能な範囲に含まれる、以下のような2つの範囲の少なくともいずれか一方に設けられるものである。すなわち、一方の範囲は、下レール40Bが設置されているような、引戸12が収容される戸袋50内から、全開時の引戸12の戸先側先端12a近傍までの間の範囲であり、もう一方の範囲は、下レール40Aが設置されているような、全閉時の引戸12の戸先側先端12a近傍から、戸袋50へと向かう所定範囲である。これにより、床面64から突出した下レール40の、引戸12が全開になったときに露出する範囲を、可能な限り小さくすることができるため、バリアフリーに貢献しながら、引戸12のばたつきの防止を図ることができる。
【符号の説明】
【0032】
10:鉄道車両用の引戸機構、12:引戸、12a:引戸の戸先側先端、12b:引戸の戸尻側先端、16:スリ板、18:小スリ板、30:上レール、40(40A、40B):下レール、42:テーパ部、50:戸袋、64:床面、ID:隣接する小スリ板同士の間隔、UL:下レールの長さ、TL:下レールのテーパ部を除いた長さ