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特開2022-32714多孔質構造体の設計装置、設計方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032714
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】多孔質構造体の設計装置、設計方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/12 20200101AFI20220217BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20220217BHJP
   G06T 17/20 20060101ALI20220217BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220217BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220217BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20220217BHJP
【FI】
G06F17/50 624A
G06F17/50 622A
G06T17/20
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136793
(22)【出願日】2020-08-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:公益社団法人精密工学会、刊行物名:The 8th International Conference of Asian Society for Precision Engineering and Nanotechnology(ASPEN2019)プロシーディングス、発行日:2019年11月12日 集会名:The 8th International Conference of Asian Society for Precision Engineering and Nanotechnology(ASPEN2019)、開催日(発表日):2019年11月14日
(71)【出願人】
【識別番号】504238806
【氏名又は名称】国立大学法人北見工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】ウラ シャリフ
【テーマコード(参考)】
5B046
5B080
5B146
【Fターム(参考)】
5B046FA16
5B046FA18
5B046GA09
5B046JA04
5B080AA14
5B080AA17
5B080CA00
5B080FA00
5B146EA01
5B146EA15
5B146EA17
(57)【要約】
【課題】自然に存在する多孔質構造体に類似した多孔質構造体を容易に設計することが可能な多孔質構造体の設計装置、設計方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】設計装置は、複数のファセットで表現されたバウンダリの立体モデルを取得する取得部と、バウンダリを覆うように三次元空間にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するランダム点群生成部と、ランダム点群からバウンダリの内側に配置された点を判別し、バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、バウンダリの内側に配置されたランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するポーラス生成部と、を備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のファセットで表現されたバウンダリの立体モデルを取得する取得部と、
前記バウンダリを覆う三次元領域内にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するランダム点群生成部と、
前記ランダム点群から前記バウンダリの内側に配置された点を判別し、前記バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するポーラス生成部と、
を備える設計装置。
【請求項2】
前記ポーラス生成部は、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点に基づいて複数のテトラヘッドロンを生成し、前記バウンダリを構成するファセットと、前記テトラヘッドロンを構成するファセットとに基づいて、前記ポーラスに対応する複数のポリヘッドロンを生成する、
請求項1に記載の設計装置。
【請求項3】
前記ポーラス生成部は、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点から1つの点を選択し、選択された1つの点に最も近い3つの点を前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点から判別し、選択された1つの点と判別された3つの点とを頂点とするテトラヘッドロンを生成する、
請求項2に記載の設計装置。
【請求項4】
前記ポーラス生成部は、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群のうち前記テトラヘッドロンの外側にある点から前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットに最も近い点を判別し、前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットに最も近いと判別された点と前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットの3つの頂点とからなる他のテトラヘッドロンを生成し、前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットを削除することで、前記テトラヘッドロンと前記他のテトラヘッドロンとが組み合わされたポリヘッドロンを生成する、
請求項2又は3に記載の設計装置。
【請求項5】
前記ポーラス生成部は、前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットに最も近いと判別された点が、前記テトラヘッドロンから離れて配置されたテトラヘッドロンの頂点である場合に、前記他のテトラヘッドロンを構成するファセットの一つと、前記テトラヘッドロンから離れて配置されたテトラヘッドロンを構成するファセットの一つとを複数のファセットで接続することで、前記テトラヘッドロン、前記他のテトラヘッドロン及び前記テトラヘッドロンから離れて配置されたテトラヘッドロンを一体化したポリヘッドロンを生成する、
請求項4に記載の設計装置。
【請求項6】
前記ランダム点群生成部は、前記バウンダリを覆う三次元領域を設定し、前記三次元領域を互いに直交する平面で分割してメッシュを生成し、点の発生確率に基づいて前記メッシュの各交点に確率的に点を配置する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の設計装置。
【請求項7】
取得部が、複数のファセットで表現されたバウンダリの立体モデルを取得するステップと、
ランダム点群生成部が、前記バウンダリを覆う三次元領域内にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するステップと、
ポーラス生成部が、前記ランダム点群から前記バウンダリの内側に配置された点を判別し、前記バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するステップと、
を含む設計方法。
【請求項8】
コンピュータを、
複数のファセットで表現されたバウンダリの立体モデルを取得する取得手段、
前記バウンダリを覆う三次元領域内にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するランダム点群生成手段、
前記ランダム点群から前記バウンダリの内側に配置された点を判別し、前記バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するポーラス生成手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質構造体の設計装置、設計方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
内部の細孔を気体や流体が通過可能な多孔質構造体が知られている。多孔質構造体は複雑な内部構造を有するため、その立体モデルを、CAD(Computer-Aided Design)を用いて手作業で作成することは現実的でない。そこで、例えば、特許文献1に開示されているように、多孔質構造体の立体モデルを、コンピュータの計算処理で作成する方法の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-115724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、同一の多孔性のタイルを積み重ねることで、任意のサイズ又は形状の多孔質構造体の立体モデルを生成している。このため、特許文献1の方法で設計された多孔質構造体は、ポーラスに周期性が存在しており、自然に存在する多孔質構造体に類似しているとは言い難い。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、自然に存在する多孔質構造体に類似した多孔質構造体を容易に設計することが可能な多孔質構造体の設計装置、設計方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る設計装置は、
複数のファセットで表現されたバウンダリの立体モデルを取得する取得部と、
前記バウンダリを覆う三次元領域内にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するランダム点群生成部と、
前記ランダム点群から前記バウンダリの内側に配置された点を判別し、前記バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するポーラス生成部と、
を備える。
【0007】
前記ポーラス生成部は、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点に基づいて複数のテトラヘッドロンを生成し、前記バウンダリを構成するファセットと、前記テトラヘッドロンを構成するファセットとに基づいて、前記ポーラスに対応する複数のポリヘッドロンを生成してもよい。
【0008】
前記ポーラス生成部は、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点から1つの点を選択し、選択された1つの点に最も近い3つの点を前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点から判別し、選択された1つの点と判別された3つの点とを頂点とするテトラヘッドロンを生成してもよい。
【0009】
前記ポーラス生成部は、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群のうち前記テトラヘッドロンの外側にある点から前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットに最も近い点を判別し、前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットに最も近いと判別された点と前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットの3つの頂点とからなる他のテトラヘッドロンを生成し、前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットを削除することで、前記テトラヘッドロンと前記他のテトラヘッドロンとが組み合わされたポリヘッドロンを生成してもよい。
【0010】
前記ポーラス生成部は、前記テトラヘッドロンを構成する一つのファセットに最も近いと判別された点が、前記テトラヘッドロンから離れて配置されたテトラヘッドロンの頂点である場合に、前記他のテトラヘッドロンを構成するファセットの一つと、前記テトラヘッドロンから離れて配置されたテトラヘッドロンを構成するファセットの一つとを複数のファセットで接続することで、前記テトラヘッドロン、前記他のテトラヘッドロン及び前記テトラヘッドロンから離れて配置されたテトラヘッドロンを一体化したポリヘッドロンを生成してもよい。
【0011】
前記ランダム点群生成部は、前記バウンダリを覆う三次元領域を設定し、前記三次元領域を互いに直交する平面で分割してメッシュを生成し、点の発生確率に基づいて前記メッシュの各交点に確率的に点を配置してもよい。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る設計方法は、
取得部が、複数のファセットで表現されたバウンダリの立体モデルを取得するステップと、
ランダム点群生成部が、前記バウンダリを覆う三次元領域内にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するステップと、
ポーラス生成部が、前記ランダム点群から前記バウンダリの内側に配置された点を判別し、前記バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するステップと、
を含む。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
複数のファセットで表現されたバウンダリの立体モデルを取得する取得手段、
前記バウンダリを覆う三次元領域内にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するランダム点群生成手段、
前記ランダム点群から前記バウンダリの内側に配置された点を判別し、前記バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、前記バウンダリの内側に配置された前記ランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するポーラス生成手段、
として機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自然に存在する多孔質構造体に類似した多孔質構造体を容易に設計することが可能な多孔質構造体の設計装置、設計方法及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る製造システムの構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る設計装置の構成を示すブロック図である。
図3】本実施の形態に係る表示画面の一例を示す図である。
図4】本実施の形態に係る表示画面の他の一例を示す図である。
図5】ランダム点群を生成する手順を模式的に説明した図である。
図6】ランダム点群とバウンダリとの関係を示す図である。
図7】点とファセットが配置された平面との位置関係を示す図である。
図8】(a)、(b)は、いずれも点及びファセットをz=0の平面に投影した様子を示す図である。
図9】(a)、(b)は、いずれもランダム点群からテトラヘッドロンを生成する手順を模式的に示す図であり、(c)は、ランダム点群の一例を示す図であり、(d)は、(c)のランダム点群から生成されたテトラヘッドロンの集合を示す図である。
図10】(a)、(b)は、いずれもバウンダリ及びテトラヘッドロンを構成するファセットからポリヘッドロンを生成する手順を模式的に示す図である。
図11】(a)、(b)は、いずれもテトラヘッドロンに他のテトラヘッドロンを組み合わせる手順を模式的に示す図である。
図12図11(b)に示す頂点を共有する複数のポリヘッドロンを1つのポリヘッドロンに一体化する手順を模式的に示す図である。
図13】本実施の形態に係る多孔質構造体の設計処理の流れを示すフローチャートである。
図14】本実施の形態に係るランダム点群生成処理の流れを示すフローチャートである。
図15】本実施の形態に係るポーラス生成処理の流れを示すフローチャートである。
図16】本実施の形態に係るモデル断面解析処理の流れを示すフローチャートである。
図17】実施例1におけるポーラスモデルの作成手順を示す図である。
図18】(a)~(p)は、いずれも実施例1におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図である。
図19】実施例1におけるポーラスの実物の横断面とポーラスモデルの横断面とを比較した図である。
図20】(a)は、実施例2におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図であり、(b)は、実施例1、2におけるポーラスモデルの高さと横断面の断面積との関係を示すグラフである。
図21】(a)は、実施例3におけるポーラスモデルの作成手順を示す図であり、(b)は、実施例3におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図である。
図22】(a)は、実施例4におけるポーラスモデルの作成手順を示す図であり、(b)は、実施例4におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図である。
図23】(a)は、実施例5におけるポーラスモデルの作成手順を示す図であり、(b)は、実施例5におけるポーラスモデルの縦断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る多孔質構造体の設計装置、設計方法及びプログラムの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、実施の形態に係る製造システム1の構成を示す図である。製造システム1は、多孔質構造体の立体モデル(ポーラスモデル)を作成し、作成されたポーラスモデルに基づいて多孔質構造体を製造するシステムである。多孔質構造体には、表面や内部に微細な多数の細孔(ポーラス)が設けられている。
【0018】
製造システム1は、設計装置100と、製造装置200と、を備える。設計装置100と製造装置200とは、有線又は無線の通信回線を介して互いに通信可能に接続されている。
【0019】
設計装置100は、多孔質構造体の外形を示すバウンダリ(境界)のSTL(stereolithography)データと、3次元空間にランダムに配置された点の集合であるランダム点群と、に基づいてポーラスモデルを生成し、生成されたポーラスモデルに基づいて多孔質構造体の付加製造に好適なSTLデータを生成する。
【0020】
STLは、三次元CADソフトのファイルフォーマットであり、任意の三次元形状をファセットと呼ばれる三角形の集合体で表現する。ファセットの位置及び向きは、三角形の3つの頂点の座標点A(x,y,z)、B(x,y,z)、C(x,y,z)及び法線ベクトルN(x,y,z)で表現される。法線ベクトルN(x,y,z)は、座標点Aから座標点Bに向かうベクトルと座標点Aから座標点Cに向かうベクトルとの外積で表される。
【0021】
製造装置200は、設計装置100で生成されたポーラスモデルのSTLデータに基づいて、多孔質構造体を製造する装置である。製造装置200は、例えば、付加製造機(3Dプリンター)である。付加製造機は、例えば、溶解した樹脂を噴射し、幾つもの樹脂の層を積層することで、多孔質構造体を製造する。
【0022】
図2は、実施の形態に係る設計装置100の構成を示すブロック図である。設計装置100は、例えば、汎用コンピュータである。設計装置100は、操作部110と、表示部120と、通信部130と、記憶部140と、制御部150と、を備える。設計装置100の各部は、内部バス(図示せず)を介して互いに通信可能に接続されている。
【0023】
操作部110は、ユーザの指示を受け付け、受け付けた操作に対応する操作信号を制御部150に供給する。操作部110は、例えば、キーボード、マウスを備える。操作部110は、例えば、バウンダリのSTLデータを取り込む旨のユーザの指示、ランダム点群の生成に必要なメッシュのグリッド数及び点の発生確率に関するユーザの指示を受け付ける。
【0024】
表示部120は、制御部150から供給される画像データに基づいて、設計装置100を操作するユーザに向けて各種の画像を表示する。表示部120は、例えば、バウンダリの立体モデル(バウンダリモデル)、ポーラスモデル及びその断面形状を表示する。
【0025】
図3は、実施の形態に係る表示画面の一例である。図3の左側には、バウンダリモデルとバウンダリモデルに対して設定されるランダム点群とが重ねて表示されている。このランダム点群は、図3の画面中央にあるグリッド数及び点の発生確率の入力欄に入力された数値に基づいて生成される。また、図3の右側には、生成されたポーラスモデルが表示されている。
【0026】
図4は、実施の形態に係る表示画面の他の一例である。図4の左側には、ポーラスモデルが切断面と共に表示されている。ユーザが操作部110を操作して切断面の高さを調整し、ポーラスモデルの断面画像の解析を指示すると、図4の右側に断面積が表示されると共に、別のフォームにポーラスモデルの断面画像が表示される。ポーラスモデルの切断面の断面積は、多孔質構造体を構成する材料が配置された部分の断面積であり、細孔の断面積は含まれない。
【0027】
図2に戻り、操作部110と表示部120とは、タッチパネルによって構成されてもよい。タッチパネルは、所定の操作を受け付ける操作画面を表示すると共に、操作画面において作業員が接触操作を行った位置に対応する操作信号を制御部150に供給する。
【0028】
通信部130は、例えば、インターネット回線のような通信ネットワークに接続することが可能なインターフェースである。
【0029】
記憶部140は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブに例示される。記憶部140は、制御部150に実行されるプログラムや各種のデータ、例えば、ランダム点群の位置データやバウンダリモデル及びポーラスモデルのSTLデータを記憶する。また、記憶部140は、制御部150が処理を実行するためのワークメモリとして機能する。
【0030】
制御部150は、CPU(Central Processing Unit)等を備え、設計装置100の各部の制御を行う。制御部150は、例えば、図13の多孔質構造体の設計処理、図14のランダム点群生成処理、図15のポーラス生成処理及び図16のモデル断面解析処理を実行する。
【0031】
制御部150は、機能的には、取得部151と、ランダム点群生成部152と、ポーラス生成部153と、STLデータ生成部154と、モデル断面解析部155と、出力部156と、を備える。
【0032】
取得部151は、多孔質構造体の外形を示すバウンダリのSTLデータを取得する。バウンダリは、例えば、ユーザが三次元CADを用いて作成し、三次元CADで作成されたバウンダリのSTLデータを設計装置100に取り込んでもよい。また、三次元CADで作成されたバウンダリのジオメトリデータを設計装置100に取り込み、設計装置100でSTLデータに変換してもよい。また、取得部151は、ランダム点群を生成するのに必要なメッシュのグリッド数及び点の発生確率を取得する。
【0033】
ランダム点群生成部152は、取得部151で取得したSTLデータが表すバウンダリを覆う三次元領域を設定し、当該三次元領域の内部にランダムに分布する点群を生成する。
【0034】
図5は、ランダム点群を生成する手順を模式的に示す図である。まず、図5に示すように、多孔質構造体のバウンダリを覆う三次元領域を設定する。三次元領域は、例えば、バウンダリモデルが配置された直交座標系においてxy平面、yz平面及びzx平面を有するように設定された立方体形状の領域である。次に、ユーザが指定したグリッド数Nで三次元領域をxy平面、yz平面及びzx平面で等分割し、(N+1)個の交点を有するメッシュを生成する。メッシュの各交点(ポイント)は、xy平面、yz平面及びzx平面が交差する点であり、座標点(x,y、z)で表現される(i=1,2,…)。次に、ユーザが指定した点の発生確率に基づいて、メッシュの各交点に確率的に点を配置する。その結果、バウンダリの内外でランダムに点が分布したランダム点群が得られる。
【0035】
図2に戻り、ポーラス生成部153は、ランダム点群生成部152で生成されたランダム点群の各点と、バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点とに基づいて、ポーラスを含むポーラスモデルを生成する。具体的には、ランダム点群の各点及びファセットの各頂点のいずれかを頂点とする複数のテトラヘッドロン(4面体)を繰り返し演算により大量に生成する。その後、複数のテトラヘッドロンを繋ぎ合わせることで、ポーラスに対応するポリヘッドロン(多面体)を生成する。
【0036】
以下、図6図12を参照して、ランダム点群からポーラスを生成する一連の手順を説明する。図6は、ランダム点群とバウンダリとの関係を示す図である。まず、第1のステップとして、複数の点P(j=1,2,…)で構成されたランダム点群の中から、バウンダリの表面より内側に位置する全ての点を選別する。バウンダリは、前述したように複数のファセットF(i=1,2,…)で構成されている。
【0037】
図7は、点PとファセットFが配置された平面Hとの位置関係を示す図である。ファセットFは、3つの座標点A、B、C及び法線ベクトルNで表現され、平面Hは、3つの座標点A、B、Cを含むように設定されている。ランダム点群の中からバウンダリの表面より内側に位置する点を選別するには、まず、ランダム点群の各点Pが平面Hの面上、表側及び裏側のいずれに位置するかを判別する必要がある。平面Hの表側は、バウンダリが配置されていない側であるのに対し、平面Hの裏側は、バウンダリが配置されている側である。
【0038】
図8(a)、(b)は、それぞれ図7に示すような点P及びファセットFをz=0の平面に投影した様子を示す図である。点P及びファセットFをそれぞれz=0の平面に投影すると、z=0の平面上に点Ppj及びファセットFpjが得られる。z=0に投影されたファセットFpjは、z=0の平面上の3つの座標点Api、Bpi、Cpiで定義される。ランダム点群の点Pの中からバウンダリの表面より内側に位置する点を選別するには、z=0の平面上の点Ppj図8(a)に示すようにファセットFpjの内側に位置するか、図8(b)に示すようにファセットFpjの外側に位置するかを判別する必要がある。
【0039】
点Pが平面Hの裏側に位置し、かつ、z=0に平面上に投影された点Ppjがz=0に平面上に投影されたファセットFpjの三角形の内側に位置する2つのファセットFが存在する場合に、点Pがバウンダリの内側に位置すると判別できる。これは、点Pがバウンダリの内側に位置する場合、点Pは少なくともZ軸方向に対向する一対のファセットFに挟まれるためである。上記の手順を各点Pに適用することで、ランダム点群の中からバウンダリの内側に位置する全ての点を選別できる。
【0040】
次に、第2のステップとして、バウンダリの内側にあると選別された点の集合に基づいて、バウンダリ内部の空間を満たすようにテトラヘッドロンを繰り返し生成する。以下、点の集合からテトラヘッドロンを生成する手順を説明する。
【0041】
図9(a)、(b)は、ランダム点群の点からテトラヘッドロンを生成する手順を模式的に示す図である。まず、図9(a)に示すように、ある任意の点P(j=s)において、点Pに近い順に3つの点Ps,1、Ps,2、Ps,3を抽出し、これらの4点を頂点とするテトラヘッドロンPYを生成する。テトラヘッドロンPYを構成するファセットの法線方向は、それぞれテトラヘッドロンPYの内側を向いている。この手順を他の点Ps+1、…、Ps+iにも適用し、テトラヘッドロンPYs+1、…、PYs+iを繰り返し生成する。
【0042】
図9(b)は、2つのテトラヘッドロンが頂点を共有している場合の一例を示す。図9(b)では、図9(a)と同様の手順でテトラヘッドロンPYs+iを生成したところ、テトラヘッドロンPYs+iの点Ps+j,1がテトラヘッドロンPYの点Ps,2と同一になっている。テトラヘッドロンを繰り返し生成すると、テトラヘッドロンの頂点のいずれかが既出の他のテトラヘッドロンの頂点の1つと共有されることがある。このような場合には、新たに生成されたテトラヘッドロンを削除し、以後のテトラヘッドロンの生成を停止する。これは以後の手順が複雑になることを避けるためである。
【0043】
図9(c)は、ランダム点群の一例を示す図であり、図9(d)は、図9(c)のランダム点群から生成されたテトラヘッドロンの集合を示す図である。上記の手順により、図9(c)に示すようなランダム点群から、図9(d)に示すようなテトラヘッドロンの集合が生成される。以上が、ランダム点群からテトラヘッドロンを生成する手順である。
【0044】
次に、第3のステップとして、バウンダリ及びテトラヘッドロンを構成するファセットからポリヘッドロンを生成する。図10(a)、(b)は、いずれもバウンダリ及びテトラヘッドロンを構成するファセットからポリヘッドロンを生成する手順を模式的に示す図である。図10(a)、(b)における未使用の点とは、バウンダリやテトラヘッドロンを構成するファセットの頂点として使用されていないランダム点群の点である。図10(a)に示すようなバウンダリ及びテトラヘッドロンを構成するファセットを未使用の点を含むファセットで接続すると、図10(b)に示すような多様な形状のポリヘッドロンが得られる。以下、具体的な方法を説明する。
【0045】
図11(a)、(b)は、いずれもテトラヘッドロンに他のテトラヘッドロンを組み合わせる手順を模式的に示す図である。以下、テトラヘッドロンのファセットを選択しているが、この手順では、パウンダリを構成するファセットとテトラヘッドロンを構成するファセットとは、同等のファセットとして取り扱えるため、バウンダリのファセットを選択してもよい。
【0046】
図11(a)に示す複数のファセットからランダムに任意の1つのファセットF(0)を選び、ファセットF(0)の裏側が見える位置にある点の中で、ファセットF(0)の裏側にある最も近い点Pvr(0)を特定する。具体的には、全ての点からファセットF(0)の裏側にある全ての点を判別し、ファセットF(0)の裏側にあるそれぞれ点について、ファセットF(0)の各頂点までの距離の和を算出し、距離の和が最小となる点をファセットF(0)の裏側にある最も近い点Prv(0)と判別する。なお、点とファセットF(0)との位置関係において、ファセットF(0)の裏側に点が位置するとは、ファセットF(0)を構成要素とするテトラヘッドロンの外側に点が位置することを意味する。
【0047】
次に、点Pvr(0)とファセットF(0)の3つの頂点の4つの点を用いて新しいテトラヘッドロンを生成する。新しいテトラヘッドロンはファセットFr-jを含む。その後、ファセットF(0)を消去すると、既出のテトラヘッドロンと新しいテトラヘッドロンとは空間的に繋がり、1つのポリヘッドロンが生成される。
【0048】
他方、ファセットF(0)の裏側に最も近い点Pvr(0)が別のファセットの頂点を構成している場合もある。図11(b)では、新しいテトラヘッドロンを生成する前に、点Pvr(0)を頂点とするファセットが3つ存在している。このような場合には、以下の手順により頂点を共有するファセットが含まれる2つのテトラヘッドロンを1つのポリヘッドロンに一体化することを試みる。
【0049】
図12は、図11(b)に示す頂点を共有する複数のポリヘッドロンを1つのポリヘッドロンに一体化する手順を説明する図である。新しいテトラヘッドロンが生成される前に点Pvr(0)を頂点に持つ既出のファセットが3つ以上存在していた場合、既出のファセットのうちの1つと、新しく生成した3つのファセットの1つとを選択し、選択されたファセットのペアで空間的な接続作業を実行する。
【0050】
以下、ファセットFr-j(0)とファセットFCvri(0)とを接続する場合を例に説明する。ファセットFr-j(0)は、3つの頂点Pvr(0)、αr-j(0)、βr-j(0)を備え、ファセットFCvri(0)は、3つの頂点Pvr(0)、Afri(0)、Bfri(0)を備える。
【0051】
まず、ファセットFr-j(0)の点αf-j(0)が、ファセットFCvri(0)が配置された平面の裏側に位置するかどうかを判別し、ファセットFr-j(0)の点βr-j(0)が、ファセットFCvri(0)が配置された平面の裏側に位置するかどうかを判別する。また、ファセットFCvri(0)の点Afri(0)が、ファセットFrj(0)が配置された平面の裏側に位置するかどうかを判別し、ファセットFCvri(0)の点Bfri(0)が、ファセットFrj(0)が配置された平面の裏側に位置するかどうかを判別する。
【0052】
ファセットFr-j(0)の点αf-j(0)が、ファセットFCvri(0)が配置された平面の裏側に位置し、かつ、ファセットFCvri(0)の点Avri(0)が、ファセットFr-j(0)が配置された平面の裏側に位置する場合に、新しい4つのファセットFrji-1(0)、Frji-2(0)、Frji-3(0)、Frji-4(0)を順次追加する。このとき、4つのファセットの座標点は、Frji-1(0)={Pvr(0),αr-j(0),Bvri(0)}、Frji-2(0)={Pvr(0),βr-j(0),Avri(0)}、Frji-3(0)={αr-j(0),βr-j(0),Avri(0)}、Frji-4(0)={Avri(0),Bvri(0),αr-j(0)}である。
【0053】
また、ファセットFr-j(0)の点βf-j(0)が、ファセットFCvri(0)が配置された平面の裏側に位置し、かつ、ファセットFCvri(0)の点Bvri(0)が、ファセットFr-j(0)が配置された平面の裏側に位置する場合にも、新しい4つのファセットFrji-1(0)、Frji-2(0)、Frji-3(0)、Frji-4(0)を順次追加する。ただし、上記の場合と比較すると、ファセットFrji-3(0)、Frji-4(0)の座標点が異なる。これらのファセットの座標点は、図12で図示するように、Frji-3(0)={αr-j(0),βr-j(0),Bvri(0)}、Frji-4(0)={Avri(0),Bvri(0),βr-j(0)}となる。
【0054】
他方、上記の2つの条件のいずれにも該当しない場合には、ファセットを追加しない。以上が、ポリヘッドロンを生成する手順である。
【0055】
図2に戻り、STLデータ生成部154は、ポーラス生成部153で生成されたポーラスモデルに基づいて、多孔質構造体のSTLデータを生成し、STLデータを記憶部140に記憶させる。ポーラスモデルをSTLデータに変換するには公知の手法を用いればよい。
【0056】
モデル断面解析部155は、ポーラスモデルの断面を解析する旨のユーザの指示を受け付けると、STLデータ生成部154で生成された多孔質構造体のSTLデータに基づいて、ポーラスモデルを切断して得られた断面図を生成すると共に、当該断面の断面積を算出する。ポーラスモデルの断面を解析する旨のユーザの指示には、ポーラスモデルに対する切断面の位置を指定することも含まれる。
【0057】
出力部156は、ポーラス生成部153で生成された多孔質構造体のSTLデータを出力する。出力部156は、例えば、通信部130を制御して、ポーラス生成部153で生成した多孔質構造体のSTLデータを製造装置200に向けて送信する。
以上が、設計装置100のハードウェア構成である。
【0058】
(多孔質構造体の設計処理)
次に、図13のフローチャートを参照して、実施の形態に係る設計装置100の制御部150が実行する多孔質構造体の設計処理を説明する。多孔質構造体の設計処理は、バウンダリのSTLデータ及びランダム点群の位置データからポーラスモデルのSTLデータを生成する処理である。多孔質構造体の設計処理は、ユーザが設計装置100のアプリケーションを起動させた時点で開始される。
【0059】
設計装置100は、バウンダリのSTLデータ並びに点の密度及び発生確率の指示をユーザに要求する。取得部151は、バウンダリのSTLデータ並びにメッシュのグリッド数及び点の発生確率を取得し、記憶部140に記憶させる(ステップS1)。
【0060】
次に、ランダム点群生成部152は、バウンダリに対してランダム点群を生成するランダム点群生成処理を実行する(ステップS2)。以下、図14を参照して、ステップS2の処理でランダム点群生成部152が実行するランダム点群生成処理の流れを説明する。
【0061】
(ランダム点群生成処理)
まず、ランダム点群生成部152は、ステップS1で入力したバウンダリを覆う大きさの立方体の領域を設定する(ステップS21)。例えば、図5に示されるように立方体の領域を設定する。
【0062】
次に、ランダム点群生成部152は、ステップS21の処理で設定された領域をユーザが指定したグリッド数Nで3つの直交する方向に等分割し、領域にメッシュを生成する(ステップS22)。例えば、図5に示すように立方体の領域を、それぞれN個のxy平面、yz平面及びzx平面で分割すると、メッシュに(N+1)個の交点が出現する。
【0063】
次に、ランダム点群生成部152は、ユーザにより指定された点の発生確率に基づいて、メッシュの各交点に確率的に点を配置する(ステップS23)。例えば、メッシュの各交点を順番に走査し、点の発生確率に基づいてランダムに交点に点を配置すればよい。
【0064】
次に、ランダム点群生成部152は、ステップS33で配置されたランダム点群を表示部120に表示させ(ステップS24)、処理をリターンする。ランダム点群は、図3の左側に示すような表示画面で表示部120に表示させるとよい。
以上が、ランダム点群生成処理の流れである。
【0065】
図13の設計処理に戻り、ポーラス生成部153は、ステップS1の処理で取得したバウンダリのSTLデータと、ステップS2の処理で生成されたランダム点群の位置データとに基づいて、ポーラスを生成するポーラス生成処理を実行する(ステップS3)。以下、図15のフローチャートを参照して、ステップS3の処理でポーラス生成部153が実行するポーラス生成処理の流れを説明する。
【0066】
(ポーラス生成処理)
まず、ポーラス生成部153は、ステップS2で生成されたランダム点群の点の中から、ステップS1の処理で取得したバウンダリの表面より内側に位置する全ての点を判別する(ステップS31)。例えば、図7の点Pが、ファセットFが配置された平面Hの裏側にあり、かつ、図8(a)に示すようにz=0の平面上に投影した点Ppjが同じくz=0の平面上に投影したファセットFpiの三角形の内部にある2つのファセットFが存在する場合に、点Pはバウンダリの表面よりも内側にあると判別する。なお、平面Hの裏側は、平面Hに対してバウンダリが配置されている側である。
【0067】
次に、ポーラス生成部153は、ステップS31の処理で判別されたバウンダリ内側のランダム点群から任意の1つの点を選択する(ステップS32)。例えば、点はランダムに選択すればよい。
【0068】
次に、ポーラス生成部153は、ステップS32の処理で選択された任意の1つの点を基準にしてテトラヘッドロンを生成する(ステップS33)。例えば、図9に示すようにj=sの点Pを選択すると、点Pと点Pに最も近い3つの点Ps-1、Ps-2、Ps-3とを頂点とするテトラヘッドロンPYを生成する。
【0069】
次に、ポーラス生成部153は、ステップS33の処理で生成されたテトラヘッドロンが他のテトラヘッドロンと頂点を共有しているかどうかを判定する(ステップS34)。例えば、図9(b)に示すように、他のテトラヘッドロンと頂点を共有していると判定された場合(ステップS34;Yes)、他のテトラヘッドロンと頂点を共有しているテトラヘッドロンを削除し、処理をステップS35に移動する。他方、例えば、図9(a)に示すように、他のテトラヘッドロンと頂点を共有していないと判定された場合(ステップS34;No)、処理をステップS32に戻す。
【0070】
次に、ポーラス生成部153は、ステップS33の処理で生成されたテトラヘッドロンを構成する複数のファセット及びバウンダリを構成する複数のファセットから任意の1つのファセットを選択する(ステップS35)。例えば、ファセットはランダムに選択すればよい。
【0071】
次に、ポーラス生成部153は、ステップS35の処理で選択されたファセットに基づいてポリヘッドロンを生成する(ステップS36)。例えば、図11(a)、(b)に示すように、選択したテトラヘッドロンのファセットF(0)の裏側にある中でファセットF(0)に最も近い点Pvr(0)を判別し、点Pvr(0)とファセットF(0)の3つの頂点とを用いて新たなテトラヘッドロンを生成する。
【0072】
次に、ポーラス生成部153は、ステップS36の処理で生成されたポリヘッドロンを構成するファセットが他のファセットと頂点を共有しているかどうかを判定する(ステップS37)。例えば、図11(b)に示すように、ポリヘッドロンを構成するファセットが他のファセットと頂点を共有していると判定された場合(ステップS37;Yes)、ステップS38に処理を進める。他方、例えば、図11(a)に示すように、ポリヘッドロンを構成するファセットが他のファセットと頂点を共有していないと判定された場合(ステップS37;No)、ステップS39に処理を進める。
【0073】
ステップS37の処理でYesの場合、ポーラス生成部153は、ステップS36の処理で生成されたポリヘッドロンのファセットと、当該ファセットと頂点を共有するファセットと、を接続する(ステップS36)。例えば、図12に示すように、ファセットFr-j(0)の頂点とファセットFCvri(0)の頂点とを用いて新たなファセットFrij-1(0)、Frij-2(0)、Frij-3(0)、Frij-4(0)を生成し、ファセットFr-j(0)とファセットFCvri(0)とを接続する。
【0074】
次に、ポーラス生成部153は、ステップS35の処理でユーザにより指定された個数のファセットが選択されたかどうかを判定する(ステップS39)。ユーザにより設定された個数のファセットが選択されたと判定された場合(ステップS39;Yes)、ポリヘッドロンで構成されたポーラスモデルを表示部120に表示させ、処理をリターンする。他方、ユーザにより設定された個数のファセットが選択されていないと判定された場合(ステップS39;No)、処理をステップS35に戻す。ポーラスモデルは、図3の右側に示すような表示画面で表示部120に表示させるとよい。
以上が、ポーラス生成部153が実行するポーラス生成処理の流れである。
【0075】
再び図13の設計処理に戻り、STLデータ生成部154は、ポーラス生成部153で生成されたポーラスモデルに基づいて、多孔質構造体のSTLデータを生成する(ステップS4)。
【0076】
次に、ユーザが多孔質構造体のSTLデータを保存する旨を指示すると、ポーラス生成部153は、ステップS3で生成された多孔質構造体のSTLデータを記憶部140に記憶させる(ステップS5)。
【0077】
次に、ユーザが製造装置200での多孔質構造体の実物の製造を指示すると、出力部156は、通信部130を制御して、多孔質構造体のSTLデータを製造装置200に送信させ(ステップS6)、処理を終了する。
以上が、多孔質構造体の設計処理の流れである。
【0078】
製造装置200は、設計装置100から多孔質構造体のSTLデータを取得すると、STLデータに基づいて工具経路を決定するスライシングを実行する。工具経路は、製造装置200の噴射ノズルが移動する経路である。そして、製造装置200が、スライシングの結果に基づいて付加製造を実行することで、多孔質構造体の立体モデルに基づく多孔質構造体の実物が得られる。
【0079】
(モデル断面解析処理)
以下、図16を参照して、設計装置100のモデル断面解析部155が実行するモデル断面解析処理を説明する。モデル断面解析処理は、ポーラスモデルの任意の位置における断面画面を作成し、断面積を算出する処理である。モデル断面解析処理は、ポーラスモデルの生成終了後にユーザの指示を受け付けた時点で開始される。
【0080】
ユーザが解析対象となるポーラスモデルのSTLデータを選択すると、モデル断面解析部155は、記憶部140から選択されたポーラスモデルを取得する(ステップS51)。
【0081】
ユーザが断面の位置、例えば、断面の高さを指定すると、モデル断面解析部155は、指定された断面における断面画面を生成する(ステップS52)。断面画面は、ポーラスモデルを切断した断面の形状を示す画面である。
【0082】
次に、モデル断面解析部155は、指定された断面の断面積を算出する(ステップS53)。
【0083】
次に、モデル断面解析部155は、ステップS52で生成された断面画面と、ステップS53で生成された断面積とを表示部120に表示させ(ステップS54)、処理を終了する。断面の表示画面は、図4の右側に示すように別フォームで表示させてもよい。
【0084】
ユーザは、表示部120に表示された表示画面を参照し、断面画像や断面積を把握することで、多孔質構造体を付加製造機で製造する前に、多孔質構造体のポーラスモデルが適切に生成されたかどうかを評価できる。
以上が、モデル断面解析処理の流れである。
【0085】
以上説明したように、実施の形態に係る設計装置100は、バウンダリを覆う三次元領域内にランダムに分布する複数の点からなるランダム点群を生成するランダム点群生成部152と、ランダム点群からバウンダリの内側に配置された点を判別し、バウンダリを構成する複数のファセットの各頂点と、バウンダリの内側に配置されたランダム点群の各点とに基づいて、ポーラスを含む多孔質構造体の立体モデルを生成するポーラス生成部153と、を備える。ランダムに分布する点群に基づいてポーラスを設定するため、自然に存在する多孔質構造体に類似した多孔質構造体の立体モデルを設計できる。
【0086】
また、ユーザがバウンダリの形状を設定するだけで多孔質構造体の立体モデルを生成できるため、多孔質構造体の立体モデルを簡単に生成できる。
【0087】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0088】
(変形例)
上記実施の形態では、設計装置100がユーザに指定されたグリッド数及び発生確率に基づいてランダム点群を生成していたが、本発明はこれに限られない。例えば、ユーザが事前に用意した任意のランダム点群を設計装置100に読み込んでもよく、事前に設計装置100で様々なサイズ及び密度のランダム点群を生成しておいてもよい。また、グリッド数及び発生確率は、事前に記憶部140に記憶された値を読み出してもよい。
【0089】
上記実施の形態では、各種の立体モデルをSTLデータで表現していたが、本発明はこれに限られない。立体モデルは、STLデータなどのメッシュデータに限られず、例えば、STEP(Standard for the Exchange of Product Model Data)などのジオメトリデータで表現してもよい。また、多孔質構造体の立体モデルは、付加製造のために最終的にメッシュデータで表現する必要があるが、STLデータに限られず、例えば、VRML(Virtual Reality Modeling Language)データで表現してもよい。
【0090】
上記実施の形態では、ランダム点群の各点に基づいてテトラヘッドロンを生成していたが、本発明はこれに限られない。例えば、複数のファセットから構成された6面体、8面体を生成してもよい。
【0091】
上記実施の形態では、ランダム点群の各点から任意の1つの点を選択し、選択された1つの点から最も近い3つの点を判別し、これらの4つの点でテトラヘッドロンを生成していたが、本発明はこれに限られない。例えば、選択された点から最も近い点を除外し、除外された点を除く選択された点から2番目から4番目に近い3つの点を選択し、テトラヘッドロンを生成してもよい。
【0092】
上記実施の形態では、指定された断面における断面画面を生成し、その後、指定された断面の断面積を算出していたが、本発明はこれに限られない。例えば、指定された断面の断面積を算出し、その後、指定された断面における断面画面を生成してもよく、これらの処理を同時に実行してもよい。
【0093】
上記実施の形態では、熱溶解積層法を用いて溶解した樹脂を噴射することで多孔質構造体を製造していたが、本発明はこれに限られない。熱溶解積層法以外の他の製造法、例えば、光造形法を用いてもよい。
【0094】
上記実施の形態では、溶解した樹脂を噴射することで多孔質構造体を製造していたが、本発明はこれに限られない。例えば、噴射する材料は、金属、セラミック、コンクリートであってもよい。
【0095】
上記実施の形態では、ポーラスモデルを対象としてモデル断面解析処理を実行していたが、本発明はこれに限られない。STLデータで表現可能なモデルであれば、いかなる形状のモデルを対象としてもよい。
【0096】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
実施例1では、設計装置100を用いてポーラスモデルを生成し、各高さにおけるポーラスモデルの横断面を観察した。図17は、実施例1におけるポーラスモデルの作成手順を示す。多孔質構造体の外形を示すバウンダリモデルは、断面正方形の貫通孔を有する立方体である。バウンダリモデルの寸法は、縦30mm、横30mm、高さ15mmであり、その貫通孔の寸法は、縦10mm、横10mmである。xyz各軸方向のグリッド数75、点の発生確率3%の条件でランダム点群を生成したところ、点の総数は13169個であり、そのうちバウンダリモデル内側の点の総数は4937個であった。ファセットの数は、ポーラス生成処理によって32個から42752個に増加した。ポーラスモデルの生成時間は、1.5分であった。
【0099】
図18(a)~(p)は、実施例1におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図である。図18(a)は、高さ0.5mmにおける横断面の様子を示し、図18(b)、(c)、(d)、…は、それぞれ順に高さ1mm、2mm、3mm、…における横断面を示す。各横断面を観察すると、どの横断面にも不規則な細孔が多数形成され、表面から内側に延びている細孔も存在していた。ポーラスモデルの横断面の断面積を高さ0.5mm毎に算出すると、その断面積は、620mm~690mmの範囲内であり、平均値は646.41mmであった。また、空洞化率の平均値は、19.2%であった。
【0100】
次に、付加製造機を用いてポーラスモデルに基づく実物を作製した。使用した付加製造機は、RAISE Pro2であり、ノズル径は0.4mm、印刷速度は50mm/sであった。ポーラスを構成する材料は、ポリ乳酸(Polylactic Acid:PLA)樹脂であり、ノズル噴出時の材料の温度は205℃であった。作製時間は、486分であった。
【0101】
図19は、実施例1におけるポーラスの実物の横断面とポーラスモデルの横断面とを比較した図である。切断面の高さは、4mm、7mm、11mmとした。ポーラスの実物の横断面は拡大電子顕微鏡を用いて撮影した。ポーラスモデル及びその実物の横断面を観察すると、両者の形状が概ね同一であることが確認できた。
【0102】
(実施例2)
実施例2では、ランダム点群の密度を増加させたポーラスモデルを作成した。その他の条件は実施例1の場合と同一である。グリッド数150、発生確率3%の条件でランダム点群を生成したところ、点の総数は、103288個であり、実施例1の場合の8倍となった。そのうちバウンダリモデル内側の点の総数は40909個であった。ファセットの数は、ポーラス生成処理によって32個から303268個に増加した。ポーラスモデルの作成時間は、56.9分であった。
【0103】
図20(a)は、実施例2におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図である。図20(a)では、それぞれ高さ3mm、6mm、9mm、12mmにおける各横断面を図示している。図18に示す実施例1のポーラスモデルの横断面と比較すると、各横断面の空洞がより細かくなっている。それぞれの断面積は、648.4mm、648.3mm、648.4mm、652.6mmであり、空洞化率は19.0%、19.0%、19.0%、18.4%であった。また、空洞化率の平均値は、19.5%であった。
【0104】
図20(b)は、実施例1、2の各条件におけるポーラスモデルの高さと横断面の断面積との関係を示すグラフである。このグラフからは、多孔質構造体の空洞が細かくなっても、断面積がほとんど変化しないことが理解できる。
【0105】
(実施例3)
実施例3では、実施例1、2と異なる形状のバウンダリモデルを用いてポーラスモデルを作成した。図21(a)は、実施例3におけるポーラスモデルの作成手順を示す。バウンダリモデルは、直径40mm、高さ40mmの円柱である。この円柱には、直径30mm、深さ25mmの凹みを設けた。グリッド数150、発生確率3%の条件でランダム点群を生成したところ、点の総数は103288個であり、そのうちバウンダリモデル内側の点の総数は50738個であった。ファセットの数は、ポーラス生成処理によって430個から503434個に増加した。ポーラスモデルの作成時間は、130.9分であった。
【0106】
図21(b)は、実施例3におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図である。図21(b)では、それぞれ高さ8mm、16mm、24mm、32mmにおける各横断面を図示している。ポーラスモデルの横断面の断面積は、それぞれ990.2mm、938.0mm、549.9mm、447.3mmであり、空洞化率は、20.0%、18.9%、16.8%、16.7%であった。また、空洞化率の平均値は、18.5%であった。
【0107】
次に、付加製造機を用いてポーラスモデルに基づくポーラスの実物を作製した。作製の条件は実施例1の場合と同一である。作製時間は2138分であった。実物の凹みに水を入れると、側面や底面から徐々に水がしみ出ることを確認できた。以上から、ポーラスの実物の内部に液体が透過可能なチャンネルが形成されていることが確認できた。
【0108】
(実施例4)
実施例4では、実施例1~3の場合と異なる形状のバウンダリモデルを用いてポーラスモデルを作成した。図22(a)は、実施例4におけるポーラスモデルの作成手順を示す。バウンダリモデルは、外直径50mm、内直径35mm、高さ10mmのリングである。グリッド数75、発生確率3%の条件でランダム点群を生成したところ、点の総数は13169個であり、そのうちバウンダリモデル内側の点の総数は736個であった。ファセットの数は、ポーラス生成処理によって192個から12458に増加した。ポーラスモデルの作成時間は、0.4分であった。
【0109】
図22(b)は、実施例4におけるポーラスモデルの横断面を示す断面図である。図22(b)では、高さ2mm、4mm、6mm、8mmにおける各横断面を図示している。ポーラスモデルの各横断面の断面積は、それぞれ812.3mm、801.5mm、781.7mm、842.4mmであり、空洞化率は、それぞれ19.5%、20.0%、22.5%、16.5%であった。また、空洞化率の平均値は、18.7%であった。
【0110】
(実施例5)
実施例5では、底面からの高さが高くなるに従って点の密度が減少する密度勾配を有する点群を用いてポーラスモデルを作成した。その他の条件は、実施例1の場合と同一である。図23(a)は、実施例5におけるポーラスモデルの作成手順を示し、図23(b)は、実施例5におけるポーラスモデルの縦断面を示す断面図である。この断面図からは、高さが高くなるに従って空洞の大きさが徐々に大きくなっている様子を確認できた。
【符号の説明】
【0111】
1 製造システム
100 設計装置
110 操作部
120 表示部
130 通信部
140 記憶部
150 制御部
151 取得部
152 ランダム点群生成部
153 ポーラス生成部
154 STLデータ生成部
155 モデル断面解析部
156 出力部
200 製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23