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特開2022-32754p-ボロノフェニルアラニンを構成成分とするイオン液体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032754
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】p-ボロノフェニルアラニンを構成成分とするイオン液体
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/22 20060101AFI20220217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 51/04 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20220217BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61K33/22
A61P35/00
A61K51/04 200
A61K9/08
A61K47/16
G01T1/161 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020136911
(22)【出願日】2020-08-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名:第16回日本中性子捕捉療法学会学術大会プログラム・抄録集 発行日 :2019年8月15日 2.研究集会名:第16回日本中性子捕捉療法学会学術大会 開催日 :2019年9月7日 開催場所:京都大学キャンパス宇治おうばくプラザ
(71)【出願人】
【識別番号】300032112
【氏名又は名称】森田薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505065984
【氏名又は名称】学校法人 福山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白川 真
(72)【発明者】
【氏名】河上 清香
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮太
(72)【発明者】
【氏名】堀 均
(72)【発明者】
【氏名】亀川 展幸
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
4C188
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076CC27
4C076DD50
4C076FF15
4C085HH03
4C085JJ01
4C085KA26
4C085KB45
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA05
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA16
4C086NA14
4C086ZB26
4C188EE02
4C188EE25
4C188FF07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】BNCT療法に好適な高濃度のp-ボロノフェニルアラニンを含有する水溶性製剤を提供する。
【解決手段】p-ボロノフェニルアラニンからなるイオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p-ボロノフェニルアラニンからなるイオン液体。
【請求項2】
請求項1記載のイオン液体において、アニオンがp-ボロノフェニルアラニンであり、カチオンがメグルミンであることを特徴とするイオン液体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のイオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物。
【請求項4】
メグルミンのp-ボロノフェニルアラニンに対する割合が、モル比で1以下であることを特徴とする請求項3記載の液状医薬組成物。
【請求項5】
p-ボロノフェニルアラニンを15~50%含むことを特徴とする請求項3または請求項4記載の液状医薬組成物。
【請求項6】
p-ボロノフェニルアラニンを30~45%含むことを特徴とする請求項3または請求項4記載の液状医薬組成物。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の液状医薬組成物を有効成分として含むことを特徴とする腫瘍の放射線治療に用いる増強剤。
【請求項8】
放射線治療が、中性子捕捉療法であることを特徴とする請求項7記載の増強剤。
【請求項9】
PETによる画像診断に用いることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか一項記載の液状医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体とp-ボロノフェニルアラニンを含む放射線治療に用いる増強剤、p-ボロノフェニルアラニンの体内分布をPETで画像化するための標識化剤、高濃度のp-ボロノフェニルアラニンを溶解した医薬品原料に関する。
【背景技術】
【0002】
癌のホウ素中性子捕捉療法(以下「BNCT」ともいう。)は、あらかじめ腫瘍組織に取り込ませた10B核と生体にほぼ影響を及ばさない熱中性子線の捕捉反応によって生じるα粒子およびLi粒子によって腫瘍細胞を障害する放射線療法である。BNCTに用いる薬剤としてp-ボロノフェニルアラニンが知られており、既に臨床でも用いられている。
【0003】
しかしながら、p-ボロノフェニルアラニンは、生理的pHでの溶解性が極めて乏しく、実用上の大きな問題となっている。このため、p-ボロノフェニルアラニンの溶解を促進させるために、p-ボロノフェニルアラニンのフルクトース錯体を形成させる方法(特許文献1)、p-ボロノフェニルアラニンにアルカリ溶液中で、単糖またはポリオールを添加し、イオン交換樹脂により無機塩を除去する方法(特許文献2)、ソルビトールを添加する方法(特許文献3)、メグルミンを溶解剤として用いる方法(特許文献4)が知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の方法はp-ボロノフェニルアラニンフルクトース錯体の水溶性は不十分であり、例えば体重60kgの患者用にp-ボロノフェニルアラニンの30g相当量を室温でフルクトースとの錯体水溶液として調製すると、溶液量は少なくとも1.2L程度と、極めて大きな液量を必要とし実用上問題がある。また、フルクトース錯体法と比較して、特許文献3記載のソルビトール法では溶解度はあまり向上せず、特許文献2記載のポリオールを添加し、イオン交換樹脂により無機塩を除去する方法もフルクトース錯体法の4倍程度しか溶解度が向上していない。また、特許文献2の方法は操作が煩雑であり実用に適しておらず、特許文献1の方法は細胞毒性の点で問題があった。更に、特許文献4に記載されている方法により得られるp-ボロノフェニルアラニンの濃度の具体例は10.4%程度であり(特許文献4、表3)実用上十分とは言えなかった。
【0005】
2000年以降、イオン液体は触媒、電気化学等の分野で用いられるようになり、製剤分野では経皮吸収促進等の目的で用いられている(非特許文献1)。また、難溶性薬物の溶解法として、メグルミン、脂肪酸、エタノールの混合物を用いた難溶性薬物の溶解方法が知られている(特許文献5)。
【0006】
しかしながら、ホウ素製剤の有効成分をイオン液体の構成成分とする手法は、全く知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】田原義朗、後藤雅弘、Drug Delivery System(ドラッグ デリバリー システム)33巻、4号、(2018年)、303~310頁
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5492900号
【特許文献2】米国特許第6169076号
【特許文献3】特開2013-173804号
【特許文献4】特許第5150084号
【特許文献5】特許第5468221号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、BNCT療法に好適な高濃度のp-ボロノフェニルアラニンを含有する液状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕p-ボロノフェニルアラニンからなるイオン液体、
〔2〕〔1〕記載のイオン液体において、アニオンがp-ボロノフェニルアラニンであり、カチオンがメグルミンであることを特徴とするイオン液体、
〔3〕〔1〕または〔2〕記載のイオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物、
〔4〕メグルミンのp-ボロノフェニルアラニンに対する割合が、モル比で1以下であることを特徴とする〔3〕記載の液状医薬組成物、
〔5〕p-ボロノフェニルアラニンを15~50%含むことを特徴とする〔3〕または〔4〕記載の液状医薬組成物、
〔6〕p-ボロノフェニルアラニンを30~45%含むことを特徴とする〔3〕または〔4〕記載の液状医薬組成物、
〔7〕〔3〕から〔6〕のいずれかひとつに記載の液状医薬組成物を有効成分として含むことを特徴とする腫瘍の放射線治療に用いる増強剤、
〔8〕放射線治療が、中性子捕捉療法であることを特徴とする〔7〕記載の増強剤および、
〔9〕PETによる画像診断に用いることを特徴とする〔3〕から〔6〕のいずれかひとつ記載の液状医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、メグルミンのFT-IRの結果である。
図2図2は、p-ボロノフェニルアラニンのFT-IRの結果である。
図3図3は、p-ボロノフェニルアラニンとメグルミン(モル比1:1)を構成成分とするイオン液体のH-NMRの結果である。
図4図4は、p-ボロノフェニルアラニンとメグルミン(モル比1:1)を構成成分とするイオン液体のFT-IRの結果である。
図5図5は、p-ボロノフェニルアラニンとメグルミン(モル比1:0.7)を構成成分とするイオン液体のH-NMRの結果である。
図6図6は、p-ボロノフェニルアラニンとメグルミン(モル比1:0.7)を構成成分とするイオン液体のFT-IRの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるp-ボロノフェニルアラニンからなるイオン液体とは、p-ボロノフェニルアラニンが単独または他のカチオンと共にイオン液体を構成している液体を示す。
【0013】
本発明に使用するp-ボロノフェニルアラニンは、フェニルアラニンをホウ素(10B)で標識したボロノフェニルアラニン(略称:BPA)(化1)であればどのようなものでも良い。
【0014】
【化1】
【0015】
また、イオン液体を構成し得るアニオン基またはカチオン基が保持される構造を維持するものであればボロノフェニルアラニンの誘導体も含まれる。ボロノフェニルアラニンの誘導体としては、p-ボロノフェニルアラニンの体内分布をPETで画像化するために、p-ボロノフェニルアラニンを放射性核種18Fで標識した化合物フルオロボロノフェニルアラニン(FP-ボロノフェニルアラニン)等が含まれる。
p-ボロノフェニルアラニンの光学異性体としては、L-体,D-体,L-体およびD-体のジアステレオマーのどのようなものでも良いが、とりわけL-体が好ましい。
【0016】
メグルミンとは、以下の構造を持つソルビトールから誘導されたアミノ糖であり、可溶化剤、溶解補助剤等として日本薬局方に収載された医薬品添加物である。配合薬の賦形剤としても用いられるが、2,4,6-トリヨード安息香酸部分を有する有機ヨウ素造影剤を中和し溶解させる溶解剤として用いられている。
【0017】
【化2】
【0018】
本発明におけるイオン液体とは、幅広い温度範囲で液体として存在する塩であり、イオンのみからなる液体を示す。イオン液体のカチオンとしては、アンモニウム、イミダゾリウム、コリン、スルホニウム、ピラゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウムが挙げられ、そのカチオンに組み合わされるアニオンとしては、COO、CHCOO,CFCOO,NO ,Br,Cl等が挙げられ、これは例えばp-ボロノフェニルアラニンの中に内在する官能基であっても良い。p-ボロノフェニルアラニン単独でイオン液体を構成する場合は、p-ボロノフェニルアラニン分子内のアンモニア基がカチオンとして作用するとともにカルボキシ基がアニオンとして作用する。
【0019】
メグルミン等カチオンをp-ボロノフェニルアラニンと混合して用いる場合は、p-ボロノフェニルアラニンはアニオンとしてイオン液体の構成に関与する。p-ボロノフェニルアラニンと混合してイオン液体を構成するカチオンとしては、メグルミンの他にコリン・アルギニン・ヒスチジン等が挙げられる。
【0020】
本発明における液状医薬組成物とはp-ボロノフェニルアラニンから構成されるイオン液体を含む液体状組成物であって、p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とする液状医薬組成物を示す。p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とする液状医薬組成物とは、p-ボロノフェニルアラニンの腫瘍細胞への集積性を利用し、ホウ素(10B)と熱中性子との核反応で生じる高LET放射線のα粒子(ヘリウムイオン)を用いて癌細胞のみを破壊する効果を主薬効とする液体状の医薬組成物を示す。
【0021】
液状医薬組成物中のp-ボロノフェニルアラニンの濃度は、液状組成物中のv/w濃度として、15~50%、好ましくは20~50%、更に好ましくは30~50%、とりわけ好ましくは30~45%である。当該濃度をppmとして換算すると7200ppm~24000ppm、好ましくは9600ppm~24000ppm、更に好ましくは14000ppm~21000ppm、とりわけ好ましくは16000ppm~21000ppmである。
本発明のメグルミンのp-ボロノフェニルアラニンに対する割合は、モル比で1以下、好ましくは1~0.7、とりわけ好ましくは0.8未満であって0.7以上である。
【0022】
本発明の液状組成物のpHは、生体への投与を考慮して、中性付近のpHであることが好ましい。より具体的には、6.5から7.5の範囲であり、特に好ましくは7.4付近である。pHの調節には必要に応じて、当該技術分野で用いられる適当なpH調整剤(塩酸、炭酸水素ナトリウムなど)、緩衝剤などを使用してもよい。
【0023】
本発明の液状組成物の浸透圧比は特に限定されないが、生理食塩水対比で、1から2までの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、1.1から1.4の範囲である。この範囲にある場合には、注射剤の場合、痛みの軽減や投与時間の短縮が可能になる。
【0024】
本発明の液状組成物中には、その生体内外での安定性を高めるため、必要により生体に含まれるナトリウム、マグネシウム等各種金属イオンが含まれていてもよい。ナトリウムイオンの場合その濃度は、細胞内液と細胞外液の電解質バランスが大きく崩れないように体液のナトリウムイオン濃度範囲に近い数値範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明の液状組成物には、必要に応じて、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝剤を加えてもよい。これらの緩衝剤は、製剤の安定化や刺激性の低下に有用な場合がある。
【0026】
さらに本発明の組成物には、液体製剤の添加物として医薬品医療機器等法で許容される添加物を、必要に応じて含有させることができる。そのような添加物として、通常、液体、特に水性の組成物に用いられる添加剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸カリウム、塩酸クロロヘキシジン等の保存剤、エデト酸Na等の安定化剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ショ糖、ブドウ糖等の等張化剤、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン等の等張剤、塩酸、水酸化ナトリウム等のpH調整剤が挙げられる。
【0027】
本発明の液状組成物がBNCTに用いられる医薬品である場合、p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物の投与方法は、腫瘍の近傍にp-ボロノフェニルアラニンを送達させる方法であればどのような物でも良いが、好ましくは静脈投与、腹腔内投与、経皮投与を用いる。また、本発明の液状組成物がPETに用いられる診断用医薬品である場合、投与方法として静脈投与が用いられる。
【0028】
静脈投与、腹腔内投与等体内に直接注入する投与方法の場合は、p-ボロノフェニルアラニンからなるイオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物に対して、必要により例えば、ポリソルベート80,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリエチレングリコール,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウム等分散剤、メチルパラベン,プロピルパラベン,ベンジルアルコール,クロロブタノール,フェノール等の保存剤、例えば、塩化ナトリウム,グリセリン,D-マンニトール、グルコース等の等張化剤を加え、例えば、注射用蒸留水,生理的食塩水,リンゲル液等の水溶剤で希釈化し、p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする静脈投与、腹腔内投与に用いる液状医薬組成物を製造する。
【0029】
また、経皮投与により腫瘍の近傍にp-ボロノフェニルアラニンを送達する場合は、必要により例えば、ポリソルベート80,ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60,ポリエチレングリコール,カルボキシメチルセルロース,アルギン酸ナトリウム等分散剤、メチルパラベン,プロピルパラベン,ベンジルアルコール,クロロブタノール,フェノール等の保存剤、例えば、塩化ナトリウム,グリセリン,D-マンニトール、グルコース等の等張化剤を加え、例えば、オリーブ油,ゴマ油,綿実油,トウモロコシ油等の植物油、プロピレングリコール等の油性溶剤に溶解、懸濁あるいは乳化することにより、経皮投与に用いるp-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物を製造する。
【0030】
なお、上記医薬品組成物の製造工程においては、所望により例えば、サリチル酸ナトリウム,酢酸ナトリウム等の溶解補助剤、例えば、ヒト血清アルブミン等の安定剤、例えば、ベンジルアルコール等の無痛化剤等の添加物、更に医薬品医療機器等法において認められているものであれば必要に応じて抗酸化剤、着色剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、防腐剤、ゲル化剤を用いても良い。
【0031】
また、p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物は、必要により治療の際に例えば、注射用蒸留水,生理的食塩水,リンゲル液等の水溶剤または医薬品用のローション、クリームで希釈しても良い。
【0032】
本発明のp-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物は、以下の製造方法で製造することができる。
【0033】
1.p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、メグルミンおよびイオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物の製造法
室温において、p-ボロノフェニルアラニンに対して、モル比で2以下、好ましくは1以下、とりわけ好ましくは0.2以上0.8未満であるメグルミンを純水に溶解させ濃度を0.002mol/L~0.02mol/Lとする。これに対してp-ボロノフェニルアラニンを前記のようにメグルミンに対して規定した量で加え、更に純水を溶解する。p-ボロノフェニルアラニンの終濃度は、15~50v/w%,好ましくは20~50v/w%、更に好ましくは30~50v/w%、とりわけ好ましくは35~45v/w%に調整する。必要により、前記医薬品製剤添加物を加え、p-ボロノフェニルアラニンを有効成分とし、イオン液体を含むことを特徴とする液状医薬組成物を製造する。
本発明に使用するp-ボロノフェニルアラニンは、フェニルアラニンをホウ素(10B)で標識したボロノフェニルアラニンであればどのようなものでも良く、市販品を用いても良い。
また、p-ボロノフェニルアラニンを合成する場合は、特開平11-255773号、特開2000-212185号、米国特許5157149号記載の公知の方法を参考にして合成しても良い。
p-ボロノフェニルアラニンの光学異性体としては、L-体,D-体,L-体およびD-体のジアステレオマーのどのようなものでも良いが、とりわけL-体が好ましい。
添加する純水としては、例えば市販のMiLLi-Q Water(商品名)市販の純水を用いても良い。
【0034】
2.p-ボロノフェニルアラニンを構成成分とするイオン液体を用いた液状医薬組成の処方例
処方例1
p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体65.45mLにTween80(界面活性剤、富士フィルム和光純薬株式会社製)16.36ml、エタノール65.45mlを加え、pH調整剤としての塩酸を適量加えながら、リン酸生理食塩水緩衝液(pH7.4)を加え全量を654mLに調整した。
上記医薬液体組成物を治療または画像診断に用いる場合は、その使用前に生理食塩水等により希釈し、医薬品医療機器等法の基準に適合する用量、濃度に調整した後、p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体を含む液状医薬組成物として使用することができる。
【0035】
処方例2
p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体100μLにpH調整剤としての塩酸10μLを加えながら、リン酸生理食塩水緩衝液(pH7.4)890μLを加え全量を1mLに調整し、p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体を含む液状医薬組成物を製造した。
【実施例0036】
実施例1
1-1.p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体の製造
メグルミン(富士フィルム和光純薬株式会社製)のFT-IRを測定し、図1に示した。また、P-ボロノフェニルアラニン(インターファーマプラハ社製)のFT-IRを測定し、図2に示した。
前記メグルミン234.3mg(0.0012mol)を超純水(商品名:,MiLLi-QWater、メルクミリポア社製)40mlに溶解させた。これに前記p-ボロノフェニルアラニン249.6mg(208g/mol,0.0012mol)を加え、更に超純粋100mlを加え、溶解させた。
前記メグルミン、p-ボロノフェニルアラニン混合溶液を、スターラーで撹拌しながら2週間反応させた。
エバポレーターで、水分を除去しp-ボロノフェニルアラニンに対して、モル比1:1のメグルミンから構成されるイオン液体を製造した。
得られたp-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体のH-NMRおよびFT-IRを測定し、各々図3および図4に示した。
HNMRの測定結果は文献〔Aathira,et al.,(アアシラ他)、Journal of industrial and Engineering Chemistry(ジャーナル オブ インダストリアル アンド エンジニアリング ケミストリー)、Volume 64(64巻)、25August 2018(2018年8月25日)Pages420-429(420~429頁)〕を参考にして特定した。FT-IRでは特有のピークを確認したため、p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンモル比(1:1)のイオン液体の生成が確認された。
【0037】
1-2.p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体中のp-ボロノフェニルアラニンの濃度およびホウ素濃度の測定
p-ボロノフェニルアラニンとメグルミンから構成されるイオン液体10μLに超純粋(商品名:MiLLi-Q Water、メルクミリポア社製)100mLを加えサンプル溶液を作成した。ICP-OES分析によりホウ素濃度を測定した。
【0038】
得られたホウ素濃度から原液のホウ素濃度を算出したところ22117ppmであった。またBPA濃度を測定したところ42.8W/V%であった。これは、特許文献4に記載されているP-ボロノフェニルアラニン製剤中のP-ボロノフェニルアラニンの最高濃度、10.4%よりも、遥かに高い値であり予期せぬ効果であった。
本件発明によりP-ボロノフェニルアラニン高濃度製剤の提供が可能になった。
【0039】
実施例2
使用するメグルミンの量を234.3mg(0.0012mol)から164.0mg(0.00084mol)に代える以外は実施例1と同様の方法により、P-ボロノフェニルアラニンに対してモル比0.7のメグルミンから構成されるイオン液体を製造した。
得られたP-ボロノフェニルアラニンとメグルミン(1:0.7)から構成されるイオン液体のH-NMRおよびFT-IRを測定し、各々図5および図6に示した。
H-NMRの測定結果は文献〔Aathira,et al.,(アアシラ他)、Journal of industrial and Engineering Chemistry(ジャーナル オブ インダストリアル アンド エンジニアリング ケミストリー)、Volume 64(64巻)、25August 2018(2018年8月25日)Pages420-429(420~429頁)〕を参考にして特定した。FT-IRでは特有のピークを確認したため、P-ボロノフェニルアラニンとメグルミンモル比(1:0.7)の場合においてもイオン液体の生成が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、高濃度p-ボロノフェニルアラニンを内包し、かつ安全な腫瘍の放射線治療に用いる増強剤およびPETに用いる診断用医薬品が提供される。
【符号の説明】
【0041】
Meg :メグルミン
10BPA :P-ボロノフェニルアラニン
IL :イオン液体
図1
図2
図3
図4
図5
図6