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特開2022-32840冷却システム、及び冷却システムを備えた施設
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032840
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】冷却システム、及び冷却システムを備えた施設
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20220217BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A01G9/24 R
F24F7/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137079
(22)【出願日】2020-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】520307849
【氏名又は名称】遠藤 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健二
【テーマコード(参考)】
2B029
3L058
【Fターム(参考)】
2B029PA02
2B029PA03
2B029PA06
2B029SE02
2B029SE03
2B029SE05
2B029SE10
3L058BC08
3L058BE08
3L058BK10
(57)【要約】
【課題】施設の室内空間に供給される空気を低コストで冷却する。
【解決手段】施設10は、壁12及び屋根13で区切られた室内空間15を持つ。壁12には、排気装置20が設けられる。他の壁12の下にはその壁12を跨ぐ穴40が設けられる。穴40の中には、粒状物42が配されている。粒状物42は散水装置50による散水で湿っている。排気装置20が室内空間15内の空気を排気する。そうすると、室内空間15が負圧化されるから、外部環境から、穴40を介して室内空間15内に空気が取り込まれる。空気は穴40の中の粒状物42に触れ粒状物42に付着した水が蒸発する。気化冷却により、室内空間15に供給される空気は、外部環境にあったときよりも低温になる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部環境から室内空間を隔離するための隔壁を有する施設の前記室内空間を冷却するための冷却システムであって、
前記室内空間の空気を外部環境に廃棄する、前記隔壁に配された、前記外部環境と前記室内空間とを連通させる排気口を有する排気装置と、
前記室内空間と前記外部環境とを連通させる、平面視した場合に前記室内空間と前記外部環境とに跨るようにして前記施設の縁の地面に設けられた穴と、
前記穴の内部に配された粒状物と、
前記穴の内部の前記粒状物に散水を行うための散水装置と、
を備えている、冷却システム。
【請求項2】
前記粒状物は石である、
請求項1記載の冷却システム。
【請求項3】
前記穴の内部には、前記粒状物に加え、保水性を有する粒状の保水材が配されている、
請求項1記載の冷却システム。
【請求項4】
前記保水材は、スポンジである、
請求項3記載の冷却システム。
【請求項5】
前記保水材は、体積比で、前記粒状物の5%~20%である、
請求項3又は4記載の冷却システム。
【請求項6】
前記穴の前記外部環境側に露出する開口と、前記室内空間側に露出する開口の面積はともに、前記排気口の断面積の3倍以上である、
請求項1記載の冷却システム。
【請求項7】
前記穴の内部には、前記穴の前記外部環境側に露出する開口から、前記室内空間側に露出する開口までに至る、前記外部環境から前記室内空間に引かれる空気の流路を長くするために前記穴の内部の空間を仕切る板が配されている、
請求項1又は6記載の冷却システム。
【請求項8】
外部環境から室内空間を隔離するための隔壁を有する施設であって、
前記室内空間の空気を外部環境に廃棄する、前記隔壁に配された、前記外部環境と前記室内空間とを連通させる排気口を有する排気装置と、
前記室内空間と前記外部環境とを連通させる、平面視した場合に前記室内空間と前記外部環境とに跨るようにして前記施設の縁の地面に設けられた穴と、
前記穴の内部に配された粒状物と、
前記穴の内部の前記粒状物に散水を行うための散水装置と、
を含む、前記施設の前記室内空間を冷却するための冷却システムを備えている、
施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設の内部空間を冷却するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
外部環境と室内空間とを隔離するための隔壁(なお、本願でいう隔壁は垂直或いはそれに近いもののみならず、例えば屋根のように水平に近いものも含む。)を有する施設が存在する。
例えば、ビニルハウス、植物工場その他の園芸施設はそのような施設に該当する。
【0003】
園芸施設は歴史的に、低温時期において安定して植物を育成しようという試みの中で発展してきた。したがって、多くの場合、園芸施設においては、室内空間内の室温を外部環境の温度よりも高く保つようにしている。
そのような歴史的な理由から、施設内の温度を高く保つ技術は古くから数多く提案され、また実用されている。
【0004】
しかしながら、園芸施設が設置される場所によっては、外部環境の温度が植物の育成に適した温度よりも高い場合もままある。そのような場合には、園芸施設の室内空間内の温度が植物の育成に適した温度よりも高くなる場合がある。したがって、そのような場合、室内空間の空気の温度を外部環境の空気の温度よりも低くする必要が生じる。
そのような場合には冷却システムが必要となる。
もちろん冷却システムを必要とするのは施設が園芸施設である場合のみではない。施設が工場や倉庫である場合であっても、例えば外部環境の温度の高い夏季においては、室内空間の温度を下げるための冷却システムが必要となる。
【0005】
もちろん、そのような目的で熱交換器、冷媒等を含むエアーコンディショナが存在している。しかしながら、上述したごときエアーコンディショナは、よく知られているように、それを稼働させるために必要な電力量が多く、その利用に電気代がかさむ。
そのような不具合を解消する技術として、例えば、園芸施設等の比較的大きな室内空間を持つ施設では、隔壁に設けられた給気口にパッドを、排気口に排気装置を設けるパッドアンドファンと呼ばれる設備が用いられている。パッドは通気性と保湿性がともに高い素材でできた板状材であり、排気装置が排気口を介して室内空間から外部環境へ空気を排気することによって室内空間に給気口を介して引かれる空気は、パッドを通過してから室内空間に導かれる。空気はパッドを通過するときに、気化冷却によって温度が、例えば数℃程度下がる。これにより、室内空間の室温を外部環境の空気の温度よりも下げることが可能となる。
パッドアンドファンの設備では、排気装置を駆動させるために電力が必要となるが、しかしながら、エアーコンディショナで消費される電力に比べれば必要な電力は小さいからコスト的に有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、パッドアンドファンでも、パッドが適宜の量の水を保水した状態を維持することが必要であるため、パッドに対して適切な量の水を継続的に散水するためのコストがかかるし、パッドが外部環境に対して露出しているため、空気の冷却に寄与せずに蒸発してしまう水が多いからいきおい必要な水の量が多くなる。また、導入コストもエアーコンディショナに比べれば安価であるが、比較的高価である。
これらにより、パッドアンドファンの設備によってもコストの低廉化は十分とは言い難い。
【0007】
本願発明は、施設の室内の空気の温度を外部環境における空気の温度よりも低くするための技術を低コスト化することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するものとして本願発明者は以下の発明を提案する。
その発明は、外部環境から室内空間を隔離するための隔壁を有する施設の前記室内空間を冷却するための冷却システムである。
冷却システムによってその室内空間を冷却される施設は、例えば、園芸施設、工場、倉庫であるが、これらには限られない。施設は、外部環境から室内空間を隔離するための隔壁を有する。既に述べたように、本願における隔壁は、壁のみならず屋根、天井等も含む。
そして、冷却システムは、前記室内空間の空気を外部環境に廃棄する、前記隔壁に配された、前記外部環境と前記室内空間とを連通させる排気口を有する排気装置と、前記室内空間と前記外部環境とを連通させる、平面視した場合に前記室内空間と前記外部環境とに跨るようにして前記施設の縁の地面に設けられた穴と、前記穴の内部に配された粒状物と、前記穴の内部の前記粒状物に散水を行うための散水装置と、を備えている。
【0009】
この冷却システムは、排気口を有する排気装置を備えている。排気装置により、施設の室内空間における空気は、外部環境に排出される。他方、冷却システムは、外部環境と施設の室内空間とに跨る、地面に設けられた穴を備えている。排気装置により室内空間の空気が外部環境下に排出されると、室内空間内の空気圧が負圧化する。それにより、上述の穴を通して、言い換えれば地下を経由させて、外部環境から室内空間に空気が供給されることになる。
このように、本願発明による冷却システムでは、地下を通して、施設の室内空間に空気を供給することとしている。そして、空気が経由する上述の穴の中には粒状物があり、また、粒状物には散水装置から適宜散水が行われるようになっている。よく知られているように、外部環境が例えば、強力な日射により高温である場合、地下は地表に比べれば温度が低い。また、粒状物に散水装置から散水が行われるようになっていれば、パッドアンドファンのパッドを通過するときと同じように、穴の中の粒状物の間を空気が通過する際に、気化冷却による空気の冷却が生じる。
したがって、地表よりも気温の低い穴の中を空気に通過させることにより、パッドアンドファンの場合よりも効率よく、室内空間に供給する空気を冷却することができるようになる。しかも、粒状物に供給される水は穴の中に存在するので、外部環境に完全に曝される場合と比べれば蒸発しにくいし、また、場合によっては地中の水分を粒状物に供給される水の一部として利用することも可能であるため、パッドアンドファンの場合と比べれば必要となる水の量が少ないし、また、水の常時供給も不要となるため、水の供給に関するコストを抑制することが可能となる。
【0010】
上述のように、穴の中には粒状物が配される。粒状物は、あまり細かいものではなく、排気装置によって室内空間の空気を外部環境に排出した場合に、穴を介して外部環境中の空気が室内空間に引かれうる程度に穴の中の空間を残すような大きさとする必要がある。言い換えると、粒状物があまりに細かいと、穴が粒状物によって目詰まりしたような状態となり、穴を介して室内空間に空気を供給することが難しくなるので、粒状物はそのような目詰まりが生じない範囲で選択される必要がある。なお、本願において、「粒状」とは、「穴の大きさよりも十分に小さい」という程度の意味である。この定義は、後述する保水材についても適用される。この範囲は、例えば、粒状物の直径が10~20cm程度である。各粒状物の形状、大きさは、同一であっても良いしそうでなくてもよい。
また、粒状物に散水される水は、穴が、空気を外部環境から室内空間へと導くための流路として機能する程度の量しか穴の内部に散布されない。例えば、粒状物の入った穴が水で満たされると、穴は上述の如き空気の流路として機能しなくなる。そのようなことが生じない範囲で、水は、穴の中に散布される。
前記粒状物は、例えば、石、例えば砕石であってもよい。粒状物が石であれば、場合によっては、粒状物を施設のある現場で調達することができるので、冷却システムを構築するための費用を抑制することができるようになる。石は保水性が高いつまり空隙率が高いという性質を持つのが好ましい。この観点からすれば、本願発明の冷却システムにおける粒状物を構成する石の種類は例えば、火成岩より堆積岩とするのが好ましい。
前記穴の内部には、前記粒状物に加え、保水性を有する粒状の保水材が配されていてもよい。穴の内部に粒状物に加えて保水材が存在すると、穴の中の粒状物に対して散水すべき水の量を減らすことができ、また、散水の頻度を減らすことが可能となる。保水材は、粒状である。保水材は、加工の都合から、例えば直方体形状となる場合もあるが、その場合でも本願で言う「粒状」という条件を充足する。保水材を粒状とするのは、粒状物の場合と同じく、保水材が、穴に上述の如き目詰まりを生じさせるのを防ぐためである。保水材の大きさは、例えば、一辺が5cmから10cm程度の大きさのブロック状とするのが好ましい。保水材の大きさがこの程度であれば、上述の如き目詰まりが生じにくい。保水材は例えば、スポンジとすることができる。より詳細には、保水材は、PVA(ポリビニルアルコール)スポンジとすることができる。保水材の量は、体積比(外力により保水材が潰れていないときの体積比)で、前記粒状物の5%~20%とするのが好ましい。保水材の量を粒状物に対して上記範囲に保つことにより、通気性の確保と気化冷却効率の向上、使用水量の低減の併立が実現されるという効果が生じる。
【0011】
前記穴の前記外部環境側に露出する開口と、前記室内空間側に露出する開口の面積はともに、前記排気口の断面積の3倍以上とすることができる。
こうすることにより、穴によって形成される外部環境から室内空間に空気を供給されるための流路にファンの如き送風のための設備がなかったとしても、排気装置で室内空間から外部環境に空気を排出することにより、穴を介して室内空間に空気をよく供給できるようになる。
前記穴の内部には、前記穴の前記外部環境側に露出する開口から、前記室内空間側に露出する開口までに至る、前記外部環境から前記室内空間に引かれる空気の流路を長くするために前記穴の内部の空間を仕切る板が配されていてもよい。流路を長くすることにより、外部環境から室内空間に至るまでの間に、空気はより多くの粒状物と接触することになるから空気の温度がより低下することになる。板の一部は、穴の中から食み出していても、言い換えれば地表に露出していても構わない。
【0012】
本願発明者は、また、上述の如き冷却システムを備えた施設をも、本願発明の一態様として提案する。かかる施設の効果は、以上で説明した冷却システムの効果に等しい。
一例となる施設は、外部環境から室内空間を隔離するための隔壁を有する施設である。
この施設は、前記室内空間の空気を外部環境に廃棄する、前記隔壁に配された、前記外部環境と前記室内空間とを連通させる排気口を有する排気装置と、前記室内空間と前記外部環境とを連通させる、平面視した場合に前記室内空間と前記外部環境とに跨るようにして前記施設の縁の地面に設けられた穴と、前記穴の内部に配された粒状物と、前記穴の内部の前記粒状物に散水を行うための散水装置と、を含む、前記施設の前記室内空間を冷却するための冷却システムを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態における施設を透視状態で示す斜視図。
図2図1に示した施設の側断面図。
図3図1に示した施設の透視平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
この実施形態による施設は、図1の斜視図、図2の側断面図、図3の平面図に示したようなものである。なお、図1では、後述する散水装置、センサ、接続線、制御盤、粒状物の図示を省略している。
【0016】
施設10は、建屋11を備えている。建屋11は、公知、或いは周知のもので良く、この実施形態では、周知の構造を採用している。これには限られないが、この実施形態における建屋11は園芸施設であり、より詳細には園芸用のハウスである。もっとも建屋11は園芸施設である必要はなく、例えば、工場、倉庫であっても構わない。
建屋11は、壁12と屋根13とを備えて構成されている。壁12と屋根13は、公知或いは周知のように、基礎、柱、梁等によって支持され、また、剛性が担保されている構造物であるが、この実施形態ではそれらの図示を省略している。なお、建屋11は、農業用で広く用いられている基礎と屋根を持たない主にパイプと被覆材(透光性を持つシート)で構成された施設であっても構わない。
壁12は、この実施形態では、平面視矩形を形作る4枚である。これには限られないが、4枚の壁12はこの実施形態ではすべて矩形であり、また、これにも限られないがそれらの高さはすべて同じである。屋根13は、平面視矩形であり、4枚の壁12の上端の辺にその4辺が重なっている。この実施形態の屋根13は水平であるが、屋根13は平面である必要はない。4枚の壁12の内面と、屋根13の下面と地表によって囲まれる空間が、本願でいう施設10の室内空間15である。室内空間15は外部環境からは区画されている。これには限られないが、この実施形態における室内空間15は、直方体形状となっている。
この実施形態における施設10は上述のように、園芸用のハウスであるから、その室内空間15では植物が育成される。植物の育成に必要な光(この実施形態では太陽光)を室内空間15に取り入れることができるように、この実施形態では、壁12と屋根13とはいずれも透明な材料、例えば、ガラス製の板材によって構成されている。もちろん、施設10が、園芸用のハウスで無い場合等、太陽光を室内空間15に取り入れる必要がないのであれば、壁12と屋根13とは透明な材料でできている必要はない。
この実施形態の施設10は、平面視した場合の矩形の短辺が5~10m程度、長辺が20~40m程度であるが、これはこの限りではない。特に、施設10が工場や倉庫である場合には、長辺が100mを超えることもあり得る。
植物は、施設10の室内空間15の床に相当する地表に植栽されていてもよく、或いはプランターその他の設備に植栽されていてもよい。植物が施設10の床である地表に植栽されないのであれば、室内空間15の床は地表が露出していなくても構わず、例えば、所定の床材で覆われていても構わない。
なお、施設10は、例えば、その壁12の一つに室内空間15に出入りするための扉を備えており、その他必要な例えば公知或いは周知の設備を備えていても良い。それらは本願発明とは殆ど関連しないため、それらの図示を省略し、また、それらについての説明も行わない。
【0017】
施設10が備える以下の構成は、施設10を冷却するための構成であって、本願発明の冷却システムを構成する。
【0018】
施設10の壁12又は屋根13の所定の箇所、これには限られないが、この実施形態では、平面視した場合の施設10の短辺の一辺に相当する壁12の例えば略中央には排気装置20が設けられている。
排気装置20は孔である排気口21を備えている。排気口21は、室内空間15と外部環境とを連通させるための孔である。排気装置20は、また、ファン22を備えている。ファン22は、排気口21を介して、室内空間15内の空気を外部環境へ排気する送風機である。なお、排気口21及びファン22の構成は、公知或いは周知のもので良く、市販のもので足りる。なお、この実施形態では、排気装置20は1つとされているが、排気装置20は2つ或いはそれ以上存在していても良い。
施設10の室内空間15の適宜の位置にはセンサ31が設けられている。センサ31は室内空間15の温度を測定するものである。センサ31は、所定の接続線32によって制御盤33に接続されている。センサ31は例えば、リアルタイムで室内空間15の温度を検知し、検知した温度についてのデータである温度データを、接続線32を介して制御盤33に送るようになっている。制御盤33は、センサ31から入力された温度データに基づいて排気装置20の制御、より詳細にはファン22の制御を行う。制御盤33が温度データによりファン22をどのように制御するかについては後述する。
【0019】
施設10の壁12に跨る所定の箇所には、地表を掘り下げることによって穴40が設けられている。穴40は、外部環境から施設10の室内空間15内に空気を供給するための空気の流路になる。
穴40は、平面視した場合に壁12を跨いでいる。この実施形態では、穴40が跨いでいる壁12は、排気装置20が設けられた壁12と対向する壁12である。排気装置20と穴40の位置は、平面視した場合における施設10の中でそれらがなるべく離れている方が、室内空間15内の空気の温度を満遍なく下げるためには有利である。そのような観点からこの実施形態では、穴40を上記の位置に設けているが、これは必ずしも必須ではない。
穴40は地表を掘り下げることによって作られ、その内面は、必ずしもこの限りではないが、土壌が露出したままの状態となっている。穴40の壁面の崩落を防止するために例えば、公知或いは周知のネット等を用いて補強を行っても構わないが、土壌から穴40の内側に供給される水をも後述するようにして散水される水と同等の位置づけで利用しようとするのであれば、例えばコンクリート層で穴40の内面を被覆するなどして穴40の内面に遮水の処理を行うべきではない。
この実施形態における穴40は平面視で矩形であり、全体として略直方体形状であるが、これらも必須ではない。矩形である穴40の開口の各辺は、この実施形態では施設10の長辺又は短辺に平行である。穴40は壁12を跨いでいるので、穴40の開口は、壁12の外側に位置する、外部環境に開く部分と、壁12の内側に位置する、室内空間15に開く部分とを備えている。穴40の開口のうち、外部環境に開く部分と、室内空間15に開く部分の面積は、同じであっても良いしそうでなくとも良いが、両者の差が大きいと、狭い方の開口が空気の流路として見た場合にボトルネックとして機能し兼ねないので、両者の面積は同じか少なくとも大きい方の面積が小さい方の面積の1.5倍程度であるのが好ましい。また、穴40の開口のうち、外部環境に開く部分と、室内空間15に開く部分の面積はともに、排気装置20における排気口21の面積の3倍或いはそれ以上の面積となっているのが好ましく、これには限られないがこの実施形態ではそうなっている。穴40の開口の外部環境に開く部分と、室内空間15に開く部分の面積を上述のように設定することで、排気装置20におけるファン22の機能のみによって、室内空間15に、穴40を介して空気を引けるようになる。なお、排気装置20が複数存在するのであれば、穴40の開口のうち、外部環境に開く部分と、室内空間15に開く部分の面積はともに、複数の排気口21の面積の和の3倍或いはそれ以上の面積となっているのが好ましい。
【0020】
必ずしもこの限りではないが、この実施形態では、穴40の内部には、穴40の外部環境側に露出する開口から、室内空間15側に露出する開口までに至る、外部環境から室内空間15に引かれる空気の流路を長くするために穴40の内部の空間を仕切る板41が配されている。
板41の素材には特に制限がなく、例えば、木製、金属製である。板41は、板というその名称にも関わらず、空気を通過させないものであれば膜材であっても構わない。板41は、この実施形態では矩形であり、且つ垂直に配されている。板41の幅は、穴40の幅方向(穴40が跨ぐ壁12の平面視した場合の長さ方向)の全長に及んでいる。板41の上側の辺は、穴40の開口が乗る平面上に位置しており、板41の下側の辺は、穴40の底から浮いた状態となっている。したがって、外部環境から穴40を通って室内空間15に向かう空気は、板41の下を潜らないと、室内空間15に到達することができない(図2の穴40の中の矢印を参照のこと。)。したがって、板41の存在により、外部環境から室内空間15に供給される空気の穴40内側に形成される流路は、板41が存在しない場合に比して、強制的に長くされる。
なお、板41の上側の辺は、穴40の開口よりも高い位置にまで及んでいても構わない。また、この実施形態では板41は穴40が跨ぐ壁12の略真下に位置しているが、これは当然にこの限りではない。
穴40の深さは、穴40の中に形成すべき上述した流路の長さに応じて決定される。もちろん穴40が深ければ流路は長くなる。穴40の深さは、板41の下側の辺が到達する深さよりも当然に深くなければならない。板41の下側の辺と穴40の底までの距離は、その隙間が狭すぎて、流路が空気の流路として機能しなくなることがないように、十分に広くする必要がある。板41が存在する場合でもしない場合でも、穴40の深さは、例えば2~3mであり、多くの場合10mにまでは至らない。
【0021】
穴40の内部には粒状物42が配されている。粒状物42は穴40の中に、穴40の縁一杯にまで配されていても良いし、そうでなくても良い。ただし、板41がある場合には、少なくとも板41の下側の辺よりも高い位置にまで粒状物42が配されている必要がある。さもなくば、粒状物42に触れぬまま、外部環境から室内空間15に至る空気が存在することになり、後述する冷却効果が十分に得られなくなる可能性があるからである。
粒状物42の素材には特に制限はないが、例えば、石である。石は、保水性が高い方が好ましく、そのためには空隙率が高い方が好ましい。石の種類は、一般的に、火成岩より堆積岩である方が好ましい。粒状物42が石であれば、場合によっては施設10が存在する現場或いはその周囲から粒状物42を調達することができる場合があり、仮にそうすることができれば、施設10の構築に要するコストを抑制することができる。
粒状物は、あまり細かくすべきではない。排気装置20によって室内空間15の空気を外部環境に排出した場合に、穴40を介して外部環境中の空気が室内空間15に引かれるという現象が生じることを妨げられない程度に、穴40の中の空間を残すような、或いは隣接する粒状物42の間に隙間を残すような大きさとする必要がある。粒状物42の大きさは、例えば、粒状物42の直径が10~20cm程度となる範囲から選択することができる。各粒状物42の大きさ、形状は揃っている必要はない。例えば、粒状物42が石であり、特に砕石である場合等においては、各粒状物42の大きさと形状は不揃いである方が普通である。粒状物42の大きさと形状は不揃いである方が、穴40の中の隣接する粒状物42の間に隙間を作りやすくなるので、穴40を空気の流路として機能させるために好適である。
穴40の内部には、粒状物42に加え、保水性を有する粒状の保水材が配されていてもよい。図示を省略するが、また、必ずしもこの限りではないが、この実施形態ではそうされている。穴40の内部に粒状物42に加えて保水材が存在すると、穴の中の粒状物42に対して後述するようにして散水すべき水の量を減らすことができ、また、散水の頻度を減らすことが可能となる。保水材は、粒状である。これは、粒状物42の場合と同じく、保水材が、穴40に上述の如き目詰まりを生じさせるのを防ぐためである。保水材の大きさは、例えば、主たる粒状物42の半分程度とするのが好ましい。保水材は、例えば、一辺が5cm~10cm程度の直方体形状とすることができ、この実施形態ではそうされている。もちろん、保水材の大きさ、形状はこの限りではない。保水材の大きさがこの程度であれば、穴40の中で空気が流れやすくなり、外部環境から室内空間15への空気の供給がスムーズに行われることになる。
保水材は固体であり、例えば、スポンジとすることができる。より詳細には、保水材は、PVA(ポリビニルアルコール)スポンジとすることができる。保水材の量は、体積比(外力により保水材が潰れていないときの体積比)で、粒状物42の5%~20%とするのが好ましい。保水材の量を粒状物42に対して上記範囲に保つことにより、通気性の確保と気化冷却効率の向上、使用水量の低減の併立が可能となる。
【0022】
施設10には、散水装置50が設けられている。
散水装置50は、穴40の中の粒状物42(及び保水材、以下、単に粒状物42と保水材をまとめて、「粒状物42等」という場合がある。)に対して散水を行うためのものである。かかる機能が保証されるのであれば散水装置50の構成は不問であり、また散水装置50が取付けられる場所も不問である。散水装置50は、公知、周知のものでもよく、また市販のものでも良い。
この実施形態では散水装置50は、穴40が跨いでいる壁12の外面に取付けられているが、これはこの限りではない。
散水装置50が、穴40の中にある粒状物42等に散水を行う場合、水は水滴の状態で供給されても構わないし、或いはより細かい霧状の状態で供給されても構わない。
散水装置50から粒状物42等への水の供給は、常時行われても構わないし、バッチ的に行われても構わない。バッチ的に水の供給が行われる場合、散水装置50は自動的に散水を行っても良いし、また、手動によって散水装置50に散水を行わせても構わない。
散水装置50が穴40の中にある粒状物42等に供給すべき水の量は、粒状物42に、粒状物42の吸水能力のキャパシティ程度の湿り気が維持される程度の量である。完全に水没した粒状物42は、穴40の中を通って外部環境から室内空間15に向かう空気と接触しなくなるため、後述する気化冷却による空気の冷却効果を生じなくなるから、穴40の中の最下層の粒状物42も水没しないような範囲に、供給される水の量を調整することが好ましい。特に、穴40の底に水が溜まり、その水位が板41の下側の辺を超えると、外部環境から室内空間15に連なる穴40の中の空気の流路が断絶されるため、そのような事態が生じないようにする必要がある。
【0023】
以上の如き施設10の使用方法、及び動作について説明する。
この実施形態における施設10の中では、上述したように、植物の育成が行われている。施設10は高温地域に存在するか、または高温期に使用するとし、外部環境よりも室内空間15の空気の温度を下げる必要がある状況下にあるものとする。そのような場合、以下のようにして、室内空間15の空気の温度を下げる。
【0024】
まず、散水装置50で、穴40の中に散水を行う。これには限られないが、この実施形態では、霧状の状態で、穴40の中に散水を行う。これには限られないが、散水は、穴40の開口のうち、外部環境に開口する部分の略全体に対して行われる。霧状の水は、穴40の中に入り込み、石である粒状物42の表面に付着し(若干量が石の内部に入り込んで保水され)、また、PVAスポンジである保水材に染み込む。それにより、粒状物42の表面は適度に湿った状態を保つこととなる。散水を、排気装置20のファン22を駆動した状態で行うと、穴40の中の空気の流路には、外部環境から室内空間15へと向かう空気の流れが生じる。散水を霧状にして行うと、小さな水の粒は、穴40の中の空気の流路に沿って流れるため、穴40の中の全範囲の粒状物42の表面を適度に湿らせることが可能となる。
この実施形態では、散水装置50による散水は、粒状物42の表面の湿り気が不足してきたらバッチ的に行う。例えば、外部環境から室内空間15へ所定の量の空気を供給するたびに、散水装置50が自動的に散水を行うようにすることができる。単に所定時間おきに散水装置50が自動的に散水を行うようになっていても構わない。地中から穴40の中に水が供給される場合には、散水装置50による散水の量を減らすことも可能である。散水装置50による散水は、粒状物42の表面の湿り気が一定の範囲に保たれるようにするのが好ましく、この実施形態ではそうしている。
【0025】
上述したように、穴40の中の粒状物42の表面は適度に湿った状態にある。その状態は、水分を吸収している保水材の存在により、保たれやすくなっている。
その状態で、排気装置20のファン22が駆動している。ファン22は駆動し続けても良いし、バッチ的に駆動しても良い。また、ファン22の駆動の状態(排気口21から外部環境へ排気される単位時間あたりの空気の量)は一定であっても良いし、経時的に変動しても良い。この実施形態では、これには限られないがファン22は駆動し続けるが、ファン22の駆動の状態は、制御盤33によって制御される。ファン22の駆動状態の制御の方法については後述する。
【0026】
排気装置20におけるファン22が駆動すると、室内空間15内の空気は、排気口21を介して外部環境へと排出される(図2の一番右の矢印参照。)。
そうすると、室内空間15内は一時的に負圧化されるから、排出された分の空気が、穴40を介して、外部環境から室内空間15へと取り込まれる。外部環境中の空気は、穴40の開口のうち、外部環境に対して開口した部分から穴40の中に入って下に向かい、穴40の中で板41の下を潜り、そして、穴40の開口のうち、室内空間15に対して開口した部分から、室内空間15に出る。これにより、室内空間15に、外部環境から空気が供給される。穴40の中の空気の流路は、既に述べたように、図2の穴40の中に矢印で示されている。
都合、室内空間15には、図2における室内空間15の中央やや左寄りに矢印で示されたように、図2中左から右に向かう空気の流れが生じることになる。
穴40の中を上述のように流れる外部環境から入った空気は、穴40の中で、多数の粒状物42及び保水材に接触する。そのときに粒状物42等に付着した(或いは保水された)水の蒸発が生じ、それによって生じる気化冷却の効果によって空気の温度は外部環境中にその空気があったときよりも下がる。したがって、室内空間15に供給される空気は、冷却された状態で室内空間15に供給されることになる。つまり、穴40において、室内空間15に供給される空気に対する冷却効果が生じることになる。
【0027】
室内空間15には上述したように、室内空間15の空気の温度を検知するセンサ31が存在している。この実施形態では、これには限られないが、センサ31は常時、室内空間15の空気の温度に関するデータである温度データを生成し、それを、接続線32を介して制御盤33に送るようになっている。
制御盤33は、温度データを受取り、排気装置20のファン22の駆動の状態を変える。この実施形態では、制御盤33は、温度データによって示される室内空間15の温度が、異なる2つの温度である第1温度とそれよりも高い第2温度の間の温度であることを示している場合には、ファン22を一定の強さで駆動させる。他方、制御盤33は、温度データによって示される室内空間15の温度が、第1温度よりも低い温度であることを示している場合には、ファン22の駆動を弱め(排気口21から外部環境への空気の排気量を減らし)、また、温度データによって示される室内空間15の温度が、第2温度よりも高い温度であることを示している場合には、ファン22の駆動を強める(排気口21から外部環境への空気の排気量を増やす)ようにファン22を制御する。
このような制御により、室内空間15では常時、排気口21から空気を排気するとともに、穴40を介して空気を取り入れることによる空気の入れ替えが生じることになる。また、それのみならず、室内空間15の温度が上がったときにはファン22を強く駆動させることによって空気の入れ替えを促進することにより室内空間15内の空気を冷やし、また、室内空間15の温度が上がったときにはファン22を弱く駆動させることによって空気の入れ替えを抑制することにより室内空間15内の空気の冷却を抑制することが可能となる。これらにより、室内空間15内の空気の温度は一定の範囲に保たれるようになる。
もっとも、ファン22の駆動の状態は上述した3種類に制限されるものではなく、より多くの状態でファン22が駆動されても構わない。ファン22の駆動の状態が無段階で変更されるようになっていてももちろん構わない。
また、室内空間15の温度の変化とは無関係に、例えば、ファンの駆動の状態を、例えばインバータ制御を応用するなどして変化させることも可能である。植物に当てる風は一定でない方が植物に良い影響を与えることが知られており、そのような制御を行うことで、植物の育成に好影響を与えられる可能性がある。もちろん、制御盤33がそのような制御を行うにしても、排気口21を介して室内空間15の空気が外部環境へ排気され、穴40を介して外部環境の空気が室内空間15へ供給されるという上述した流れ、及び外部環境から室内空間15へ供給される空気が穴40の中で冷却されるという現象は、継続して生じることになる。
【符号の説明】
【0028】
10 施設
11 建屋
12 壁
13 屋根
20 排気装置
21 排気口
22 ファン
31 センサ
33 制御盤
40 穴
41 板
42 粒状物
50 散水装置
図1
図2
図3