(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032875
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】体液から核酸を抽出する前処理キット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/00 20060101AFI20220217BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20220217BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220217BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220217BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
C12N15/00 100Z
G01N1/10 V
G01N33/48 S
G01N1/10 N
C12M1/00 A
C12M1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137149
(22)【出願日】2020-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】519363465
【氏名又は名称】株式会社Mirai Genomics
(71)【出願人】
【識別番号】501293666
【氏名又は名称】株式会社ダナフォーム
(72)【発明者】
【氏名】ラミール ザイヌリン
(72)【発明者】
【氏名】竹上 雄治郎
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4B029
【Fターム(参考)】
2G045AA28
2G045BA20
2G045BB02
2G045CA25
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB08
2G045CB12
2G045CB14
2G045CB15
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045HA07
2G045HA14
2G045JA07
2G052AA29
2G052AB20
2G052AD06
2G052AD26
2G052AD46
2G052BA19
2G052EA03
2G052ED07
2G052FB02
2G052FB06
2G052GA29
2G052HA02
4B029AA08
4B029AA09
4B029BB20
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG08
4B029GA08
4B029GB05
4B029GB06
4B029GB08
4B029HA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被検者自身によって簡易に生体試料を採取することが可能であるとともに、検査者が感染するリスクを抑え、かつ、検体前処理液と試料との比率を定量的にすることができ、さらに、生体試料を採取直後に、病原体を不活性化させる。
【解決手段】被検者自身で採取可能な唾液を採取するスワブまたは漏斗による唾液採取手段と、被検者の唾液からウイルスを溶解し核酸を抽出する検体前処理液と、前記唾液と、前記検体前処理液とを懸濁するための懸濁用チューブ20と、前記懸濁用チューブを封止するキャップ210と、前記懸濁用チューブを封止した後に、前記懸濁用チューブを把持した手と前記懸濁用チューブの外側とを消毒する消毒手段とを備え、前記懸濁用チューブは、検体前処理液を検量する目盛りと唾液を検量する目盛りと、上端に連結部とを備える核酸抽出キットを提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者自身で採取可能な体液を採取する体液採取手段と、
被検者の体液からウイルスを溶解し核酸を抽出する検体前処理液と、
前記体液と、前記検体前処理液とを懸濁するための懸濁用チューブと、
前記懸濁用チューブを封止するキャップと、
前記懸濁用チューブを封止した後に、前記懸濁用チューブを把持した手と前記懸濁用チューブの外側とを消毒する消毒手段と
を備え、
前記懸濁用チューブは、検体前処理液を検量する目盛りと体液を検量する目盛りと、上端に連結部とを備えることを特徴とする核酸抽出キット
【請求項2】
前記懸濁用チューブが、透過性があり、かつ、可塑性のあるプラスチック素材で形成されることを特徴とする請求項1に記載の核酸抽出キット。
【請求項3】
前記消毒手段が、ウイルスを不活性化させる試薬が予め注入された消毒用容器を備え、
前記消毒用容器は、前記懸濁用チューブを把持した手と前記懸濁用チューブの外側とを挿入することができる開口部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の核酸抽出キット。
【請求項4】
カラムをさらに備え、
前記カラムは、前記懸濁用チューブと着脱可能な連結部と、グラスフィルターと、前記連結部の反対側にノズルを備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【請求項5】
前記検体前処理液が、下記(1)から(6)の成分から選択される少なくとも4つ以上の成分を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
(1)タンパク質変性剤
(2)イオン性界面活性剤
(3)非イオン性界面活性剤
(4)エタノール
(5)還元剤
(6)緩衝剤
【請求項6】
前記タンパク質変性剤が、グアニジウム塩酸塩、グアニジンチオシアン酸塩、尿素の何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴とする請求項5に記載の核酸抽出キット。
【請求項7】
前記イオン性界面活性剤が、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミドの何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴とする請求項5または6に記載の核酸抽出キット。
【請求項8】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴とする請求項5ないし7のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【請求項9】
前記還元剤が、ジチオトレイトール、2-メルカプトエタノールの何れか1つ、またはこれらの組合せを含むことを特徴とする請求項5ないし8のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【請求項10】
前記緩衝剤が、トリス塩酸緩衝液であることを特徴とする請求項5ないし9のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【請求項11】
前記体液採取手段がスワブであり、
前記スワブは、把持部と、軸部と、体液を採取するための先端部とから構成され、
前記軸部の上端に、前記把持部を有し、
前記軸部の下端に、前記先端部を有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【請求項12】
前記スワブが、前期懸濁用チューブを封止するための前記キャップの内側上面に前記スワブの軸部の上端が結合することにより、前記キャップと一体に形成されたことを特徴とする請求項11に記載の核酸抽出キット。
【請求項13】
前記体液採取手段が、前記スワブと絞取容器とから構成され、
前記絞取容器は、透過性のある中空の筒状体であり、可塑性のあるプラスチック素材により成形され、
上端に第1の開口部と開口部を封止するキャップと、上端側の外周に前記キャップとの着脱可能な第1の連結部と、下端側に目盛りおよび前記懸濁用チューブとの着脱可能な連結部と、下端に開口部と、前記開口部を封止するシールとを備えることを特徴とする請求項11または12に記載の核酸抽出キット。
【請求項14】
前記絞取容器の内側に絞り部をさらに備え、
前記スワブの前記先端部が、前記絞取容器の内部において、前記絞り部を複数回貫通するように上下方向に移動させることによって、前記絞り部により前記先端部が絞られ、体液が前記絞取容器の下端に集積されることを特徴とする請求項11ないし13のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【請求項15】
前記体液採取手段が、漏斗であり、
前記漏斗は、透過性があり、上端に開口部と、下端側に前記懸濁用チューブとの着脱可能な連結部と、目盛りと、下端に開口部と、前記開口部を封止するシールとを備えて、
前記体液が前記漏斗の下端に集積されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【請求項16】
前記漏斗が、非検査対象物を濾し取るフィルターを備えることを特徴とする請求項15に記載の核酸抽出キット。
【請求項17】
検査対象の体液が、唾液、喀痰、尿、汗、精液、子宮頚管粘液、膣分泌液、血液のいずれか一つとすることを特徴とする核酸抽出キット。
【請求項18】
前記体液採取手段により採取される検体が唾液であって、唾液と前記検体前処理液との比率が1対5ないし1対10の何れか一の容量割合となるよう混合されることを特徴とする請求項1ないし16のいずれか一項に記載の核酸抽出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液から核酸を抽出する前処理キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルスまたは細菌による感染の有無を検査する遺伝子検査では、生体試料における感染源の標的核酸を検出するために、通常、生体から採取した試料から、前処理を施した上で標的核酸を抽出し、標的核酸配列を増幅する反応系に供する方法が行われている。
【0003】
まず、生体試料から核酸を抽出し、次に、抽出した核酸を、RT-PCR装置などの遺伝子解析装置を使用して、検査対象とするウイルスまたは細菌の標的核酸配列の増加に共役して蛍光強度が増大する蛍光物質を含む試薬と反応させて、標的核酸配列の増加に共役した蛍光物質の蛍光強度の増大を検出することによって、検査対象とするウイルスまたは細菌による感染の有無を検査する方法が知られている。
【0004】
また、感染症の病原体を採取する生体試料としては、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、唾液、喀痰、尿、汗、精液、子宮頚管粘液、膣分泌液、便、血液などがあるが、プライバシーを害しないため、検査者の感染を防ぐため、あるいは、一度に多数の検査を行う必要がある場合などには、検体を自己採取できることが望ましく、これらのなかでも、被検者自身による採取が容易な体液として、唾液、喀痰、尿、汗、精液、子宮頚管粘液、膣分泌液、血液などが適しており、その中でも特に唾液が最も自己採取が容易なものとされている。
【0005】
生体試料から核酸を抽出する方法について、下記の特許文献1では、菌体を含む液状の検体および試薬の通過を規制し、かつ菌体に含まれる核酸の通過を許容する核酸通過フィルターを少なくとも一部に有する壁により検体を収容する第1室を形成する容器を準備し、第1室内に検体を収容し、検体を加熱することにより菌体を破砕し、菌体から放出された核酸を、核酸通過フィルターを通過させる、核酸回収方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の核酸抽出方法では、被検者自身によって被検者の生体試料の定量的な採取をすることが不可能であるため、検査者による生体試料の採取が必要となり、被検者が病原体を保有していた場合には、検査者が感染するリスクがある。また、特許文献1に記載の核酸抽出方法では、検体を採取する段階において、採取する生体試料と検体前処理液との比率を定量的にすることができないため、所定量の生体試料中における病原体の定量が不可能であり、かつ、核酸を的確に抽出することができない。
【0008】
そこで、被検者自身によって簡易に生体試料を採取することが可能であるとともに、検査者が感染するリスクを抑え、かつ、検体前処理液と試料との比率を定量的にすることができる核酸抽出キットが望まれている。また、生体試料を採取直後に、病原体を不活性化させることができれば、その後の工程におけるバイオハザードのレベルを下げることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
被検者自身で採取可能な体液を採取する体液採取手段と、
被検者の体液からウイルスを溶解し核酸を抽出する検体前処理液と、
前記体液と、前記検体前処理液とを懸濁するための懸濁用チューブと、
前記懸濁用チューブを封止するキャップと、
前記懸濁用チューブを封止した後に、前記懸濁用チューブを把持した手と前記懸濁用チューブの外側とを消毒する消毒手段と
を備え、
前記懸濁用チューブは、検体前処理液を検量する目盛りと体液を検量する目盛りと、上端に連結部とを
備えることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記懸濁用チューブが、透過性があり、かつ、可塑性のあるプラスチック素材で形成される
ことを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記消毒手段が、ウイルスを不活性化させる試薬が予め注入された消毒用容器を備え、
前記消毒用容器は、前記懸濁用チューブを把持した手と前記懸濁用チューブの外側とを挿入することができる開口部を備える
ことを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
カラムをさらに備え、
前記カラムは、前記懸濁用チューブと着脱可能な連結部と、グラスフィルターと、前記連結部の反対側にノズルを備える
ことを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記検体前処理液が、下記(1)から(6)の成分から選択される少なくとも4つ以上の成分を含むことを特徴としている。
(1)タンパク質変性剤
(2)イオン性界面活性剤
(3)非イオン性界面活性剤
(4)エタノール
(5)還元剤
(6)緩衝剤
【0014】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、前記タンパク質変性剤が、グアニジウム塩酸塩、グアニジンチオシアン酸塩、尿素の何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、前記イオン性界面活性剤が、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミドの何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むことを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、前記還元剤が、ジチオトレイトール、2-メルカプトエタノールの何れか1つ、またはこれらの組合せを含むことを特徴としている。
【0018】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、前記緩衝剤が、トリス塩酸緩衝液であることを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記体液採取手段がスワブであり、
前記スワブは、把持部と、軸部と、体液を採取するための先端部とから構成され、
前記軸部の上端に、前記把持部を有し、
前記軸部の下端に、前記先端部を有する
ことを特徴としている。
【0020】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記スワブが、前期懸濁用チューブを封止するための前記キャップの内側上面に前記スワブの軸部の上端が結合することにより、前記キャップと一体に形成された
ことを特徴としている。
【0021】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記体液採取手段が、前記スワブと絞取容器とから構成され、
前記絞取容器は、透過性のある中空の筒状体であり、可塑性のあるプラスチック素材により成形され、
上端に第1の開口部と開口部を封止するキャップと、上端側の外周に前記キャップとの着脱可能な第1の連結部と、下端側に目盛りおよび前記懸濁用チューブとの着脱可能な連結部と、下端に開口部と、前記開口部を封止するシールとを備える
ことを特徴としている。
【0022】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記絞取容器の内側に絞り部をさらに備え、
前記スワブの前記先端部が、前記絞取容器の内部において、前記絞り部を複数回貫通するように上下方向に移動させることによって、前記絞り部により前記先端部が絞られ、体液が前記絞取容器の下端に集積される
ことを特徴としている。
【0023】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記体液採取手段が、漏斗であり、
前記漏斗は、透過性があり、上端に開口部と、下端側に前記懸濁用チューブとの着脱可能な連結部と、目盛りと、下端に開口部と、前記開口部を封止するシールとを備えて、
前記体液が前記漏斗の下端に集積される
ことを特徴としている。
【0024】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、
前記漏斗が、非検査対象物を濾し取るフィルターを備える
ことを特徴としている。
【0025】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、検査対象の体液が、唾液、喀痰、尿、汗、精液、子宮頚管粘液、膣分泌液、血液のいずれか一つとすることを特徴としている。
【0026】
また、本発明に係る体液から核酸を抽出するキットは、前記体液採取手段により採取される検体が唾液の場合に、唾液と前記検体前処理液との比率が1対5ないし1対10の何れか一の容量割合となるよう混合されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、被検者自身によって簡易に生体試料を採取することが可能であるとともに、検査者が感染するリスクを抑え、かつ、検体前処理液と生体試料との比率を定量的にすることができる核酸抽出キットを提供することができる。また、生体試料を採取直後に、病原体を不活性化させることができ、その後の工程におけるバイオセーフティレベルを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る唾液の採取方法を示した図。
【
図2】本発明の実施形態に係る懸濁用チューブを示した図。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係るスワブから体液を抽出する方法を示した図。
【
図4】本発明の第一の実施形態に係るスワブとキャップとを一体にした実施例を示した図。
【
図5】本発明の実施形態に係る検体前処理液を洗浄し、核酸増幅試薬に懸濁するまでの工程を示した図。
【
図7】滅菌用容器に懸濁用チューブとそれを把持した手を挿入している図。
【
図8】本発明の第二の実施形態に係る漏斗と懸濁用チューブを示した図。
【
図9】本発明の第二の実施形態に係る唾液の採取方法を示した図。
【
図10】本発明の第三の実施形態に係るスワブ、絞取容器および懸濁用チューブを示した図。
【
図11】本発明の第三の実施形態に係る体液をスワブから抽出する方法、検体前処理液に懸濁する方法を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の望ましい実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0030】
図1から
図11を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。まず、
図1は、本発明の第一の実施形態に係る第1の体液採取手段であるスワブ10を示した
図1(a)と、スワブ10によって口腔内から唾液を採取する様子を示した
図1(b)および(c)である。
【0031】
第1の体液採取手段は、スワブ10を使用する。
図1(a)に示すように、スワブ10は、把持部101、軸部102および先端部103から構成され、軸部102の上端に、前記把持部101が、軸部102の下端に、試料を採取する先端部103を備える。スワブ10は、市販の綿棒であってもよいが、先端部103は、液体を含浸する量ができるだけ多くすることができる材質が望ましい。
【0032】
把持部101は、手でスワブ10を把持するためのものであり、形状は、把持できる外径であり、その材質は、把持できる性質のものであれば、特に限定されず、例えば、紙、木、プラスチックなどでもよく、軸部102と同じ材質であってもよい。
【0033】
軸部102の材質としては、紙、木、金属、プラスチック等を用いることができるが、加工等の観点からプラスチックを用いることが望ましい。プラスチックの材質として、例えば、塩化ビニール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、又はポリカーボネート等を挙げることができる。
【0034】
先端部103の材質として、例えば、綿、レーヨン、オレフィンフォーム、ポリウレタンフォーム、ポリアミド、吸水性ポリマーあるいはこれを組み合わせたものが挙げられる。
【0035】
図1(b)および(c)は、被検者自身がスワブ10を口腔内に入れて、唾液を採取している様子を示した図である。被検者は、スワブ10の先端部103を、飴をなめるようにして唾液を採取する。スワブ10の先端部103を口腔内に挿入し、30秒以上唾液を含浸させることが望ましい。
【0036】
スワブ10により採取する検体は、唾液に限定されるものではなく、スワブ10で拭いとることができる体液検体であれば、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、喀痰、尿、汗、精液、子宮経管粘液、膣分泌液、血液などであってもよい。図示しないが、被検者自身が自身の喀痰、尿、汗、精液、子宮頚管粘液、膣分泌液、血液などの体液を自身でスワブ10の先端部103に含浸するようにしてもよい。
【0037】
次に、採取した体液のウイルスを溶解して核酸を抽出するために、体液を検体前処理液100に懸濁させる。
図2(a)、(b)および(c)は、本発明の一実施形態に係る懸濁用チューブ20を示した図である。懸濁用チューブ20は、透過性があり、かつ、可塑性のあるプラスチック素材であることが望ましい。透過性があり、かつ可塑性のあるプラスチック素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニールなどでも良いが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
懸濁用チューブ20が可塑性を有することに因って、
図3に示すように、被検者自身でスワブ10の先端部103に含浸させた体液を懸濁用チューブ20に注入し、懸濁用チューブの略中央部の両側を指で押して、スワブ10の先端部103から体液を前処理懸濁液100に十分に含浸させることができる。
【0039】
図2(a)および(b)に示す懸濁用チューブ20は、上端に開口部201を有し、かつ、上端の外周には、キャップ210の内周部の連結部(ネジ溝)、後述する
図8(a)に示す漏斗40の下端の内周部の連結部(ネジ溝)403、または、後述する
図10(b)に示す絞取容器50の下端の内周部の連結部(ネジ溝)506と螺合することができるように、連結部(ネジ溝)202を備える。また、懸濁用チューブ20の上端の連結部(ネジ溝)202の下部には、
図2では示されないが、
図10(c)に示すようなフランジ603のようなフランジが形成されていることが望ましい。
【0040】
懸濁用チューブ20は、簡易に計量できるようにするため、
図2(a)および(b)に示すように円柱状であることが望ましいが、
図2(c)に示すように、下端が逆円錐形状であってもよい。
図2(a)および(b)に示すように懸濁用チューブ20の形状が円柱である場合には、円柱の容積を算出し、円柱の所定の箇所に、目盛りを付す。
図2(c)に示すように、下端が逆円錐形状の場合は、円錐形状部分の容積と円柱部分の容積とを合算して所定の箇所に、目盛り203Eを付す。この目盛り203Eは、体液と検体前処理液100とを懸濁させた懸濁液の計量を示す目盛りであることが望ましい。
図2(a)および(b)に示すように、検体前処理液100の注入量を示す目盛り203A、203Cと、体液と検体前処理液100とを懸濁させた懸濁液の合計量を示す目盛り203B、203Dの双方を付してもよい。
【0041】
懸濁用チューブは、
図2(b)に示すように、その内部に、絞り部204を設けることが望ましい。被検者は、スワブ10を上下方向に移動させることによって、スワブ10の先端部103が、この絞り部204により圧迫され、ワイプされて、先端部に含浸された体液が懸濁用チューブ20に落下して集積される。また、被検者は、
図3に示すように、懸濁用チューブ20を両側から指で押圧して、スワブ10の先端部103に含浸された体液を絞り出すようにしてもよい。
【0042】
検体前処理液100は、予め、一定量が懸濁用チューブ20に注入される。そして、被検者は、予め検体前処理液100が注入された懸濁用チューブ20に自身の体液を一定量注入した後に、懸濁用チューブ20にキャップ210をかぶせて封止する。
図2(a)および(b)に示す実施形態では、キャップ210を懸濁用チューブ20の連結部202に螺合させることにより開口部201を封止し、
図2(c)に示す実施形態では、上端部と一体となったキャップ210を上から圧入して開口部201を封止する。
【0043】
図4に示すように、キャップ210とスワブ10とを一体として形成してもよい。一体として形成する方法としては、エポキシ樹脂系接着剤でキャップ210とスワブ10とを接着するようにしてもよい。また、例えば、キャップ210の内側上面にスワブ10の軸の上部を接着剤等で予め結合するように加工しても良い。キャップ210とスワブ10とを一体として形成した場合は、スワブ10の把持部101の代わりに、キャップの外周がスワブ10の把持部分の役割を担う。
【0044】
ウイルスが不活性化するように、検体前処理液100は、ウイルスを不活性化するものでなければならない。また、検体前処理液100は、核酸を抽出するとともに、核酸を溶解するDNaseおよびRNaseを阻害する必要がある。さらに、検体前処理液100は、抽出した核酸の保存安定性を備えることが望ましい。
【0045】
さらに、迅速に遺伝子診断を行うために、体液から核酸を抽出する工程で時間をかけないようにするために、室温でウイルスを不活性化させて核酸を抽出することができることが望ましく、かつ、時間をかけないように、できるだけ遠心機を使用しないことが望ましい。
【0046】
検体前処理液100は、タンパク質変性剤、緩衝剤、非イオン性界面活性剤、エタノールを混合してなることが望ましく、さらに、イオン性界面活性剤、還元剤、高吸水高分子を混合してなることが望ましい。
【0047】
検体前処理液100に混合させるタンパク質変性剤としては、グアニジウム塩酸塩、グアニジンチオシアン酸塩、尿素の何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0048】
検体前処理液100に混合させる緩衝剤としては、トリス塩酸緩衝液、TE緩衝液、TAE緩衝液、HEPES、MESのいずれか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0049】
体前処理液100に混合させる非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、NP40、Triton X-100(Tritonは登録商標)のいずれか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0050】
さらに、体前処理液100に混合させるイオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミドの何れか1つ、またはこれらの任意の組合せを含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0051】
さらに、体前処理液100に混合させる還元剤としては、DTT(ジチオトレイトール)、2-メルカプトエタノールの何れか1つ、またはこれらの組合せを含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0052】
さらに、体前処理液100に混合させる高吸水性高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
表1は、本発明の一実施形態に係る検体前処理液100の組み合わせを示した表である。グアニジンチオシアン酸塩(タンパク質変性剤)と、ポリアクリル酸ナトリウム(高吸水性高分子)と、トリス塩酸緩衝液(緩衝剤)と、Triton(商標登録)X-100(非イオン性界面活性剤)と、エタノールとを混合させたものである。この検体前処理液100と、不活化されたA型インフルエンザウイルスと、唾液とを懸濁させた実験を行った。
【0054】
【0055】
図5に示すように、まず、標的遺伝子試料(図示せず)と、表1の組み合わせからなる検体前処理液100(
図5および
図6では、便宜上「SSB」と表記する)と、スワブ10の先端部130に含浸させた唾液とを懸濁させる。その後、グラスフィルター付きカラム801でろ過し、グアニジン塩酸塩とエタノールを混合させた溶液をグラスフィルター付きカラム801に注入して洗浄する。このとき、グラスフィルター付きカラム801の下部のノズル部分からバキューム等により吸引して洗浄液を排出するようにしてもよい。最後に、グラスフィルター付きカラム801をチューブ802にかぶせて、DNaseフリー、RNaseフリーの溶出液を一定量注入し、グラスフィルターで濾しとられたRNAをチューブ802内に抽出する。そして、チューブ802内には、RNAが含まれるDNaseフリー、RNaseフリーの溶出液(
図5では便宜上「RNA液」と表記する)が入った状態になる。このRNA液から一定量をチューブ803に注入し、増幅検出用の試薬(
図5では便宜上「PCR液」と表記する)の一定量と混合して、RT-PCR装置により増幅反応をさせる。
【0056】
このように、本発明の実施形態においては、まず、体液を検体前処理液100に懸濁させる。次に、その懸濁液を、グラスフィルター付きカラム801に移してろ過し、グアニジン塩酸塩とエタノール等により洗浄する。最後に、ヌクレアーゼフリー水等の溶出液で検出対象のDNAまたはRNAを抽出し、抽出したDNAまたはRNAの溶液を、増幅用の試薬と混合して、RT-PCR装置等により増幅反応させることが望ましい。
【0057】
図6は、表1に記載の組成からなる検体前処理液100と、不活化されたA型インフルエンザウイルスと、唾液とを懸濁させた実験を行った結果を示した表である。
図6においては、Xは、核酸を抽出する検体前処理液100を意味し、Yは、唾液を意味する。実験では、不活化されたA型インフルエンザウイルス58,000コピーを標的遺伝子(
図6では「FluA-RNA」と表記する)とする試料として使用し、表1に記載の組成からなる検体前処理液1000μLに、前記58,000コピーの試料と、唾液(
図6では「saliva」と表記する)とを懸濁した。
【0058】
検体前処理液と唾液量との最適な比率を検討するために、検体前処理液1000μLに対して、唾液量をそれぞれ、0μL、50μL(検体前処理液:唾液の比率が20:1)、100μL(検体前処理液:唾液の比率が10:1)、200μL(検体前処理液:唾液の比率が5:1)、500μL(検体前処理液:唾液の比率が2:1)、1000μL(検体前処理液:唾液の比率が1:1)で懸濁したもの各3つのサンプルを用意し、それぞれ懸濁させて試験に供した。
【0059】
実験の結果、検体前処理液に対する唾液量が少なければ少ない方が、標的遺伝子を検出する確率が高くなることが分かった。特に、検体前処理液と唾液量との比率が2:1の場合、平均で20.2%しか検出できなかったが、検体前処理液と唾液量の比率が5:1にした場合には、平均で71.7%検出することができ、さらに、検体前処理液と唾液量の比率が10:1とした場合には、平均で91.2%検出することができた。
【0060】
唾液量の比率が高くなるにしたがって、RNAの検出率が悪くなる要因としては、唾液に、核酸分解活性を有する酵素であるDNaseやRNase等の物質が含まれていることが考えられる。但し、この実験では、いずれにも、不活化されたA型インフルエンザウイルス58,000コピーを標的遺伝子とする試料として注入しているが、実際の感染症に罹患している同一の患者から採取する唾液には、唾液量に比例したウイルスが含まれていると考えられることから、唾液量の比率が少なければ少ないほど核酸抽出率が高くなるとはいっても、一定量の唾液は必要となる。
【0061】
実験の結果、表1に記載の組成からなる検体前処理液と唾液量との比率が5:1ないし10:1のいずれかの条件が実使用に適うことが分かった。実験の結果から、懸濁用チューブ20内に注入された検体前処理液と採集する唾液との割合が5:1ないし10:1相当する量になるように、懸濁用チューブ20の目盛りは、予め注入する検体前処理液が、採集する唾液に対して5:1ないし10:1に相当する量になるように付すか、または、注入する検体前処理液100を5ないし10、唾液を1とした比率を合計した量になるように付することが望ましい。但し、前者と後者の目盛り双方を付すようにしてもよい。
【0062】
最後に、
図7に示すように、封止された懸濁用チューブ20と懸濁用チューブ20を握持している手を、例えば、70%以上のエタノールが予め注入された滅菌用容器70に挿入し、封止された懸濁用チューブ20の外側と手を消毒する。面菌用容器70内に注入される消毒液は、エタノールに限定されず、エンベロープを有するウイルスを不活性化させるためには、例えば、強酸性電解水、界面活性剤を含有した水(但し、手荒れを起こさないもの)等でもよく、病原体を不活性化するものであれば特に限定されない。また、図示しないが、封止された懸濁用チューブと懸濁用チューブを握持している手を、ウイルスが不活性化する短波長の光、または人に無害とされる波長(例えば222nm)の紫外線に照射して消毒してもよい。
【0063】
以上が本発明の第一の実施形態である。本発明の第一の実施形態によれば、被検者自身によりスワブ10で容易に自身の体液を採取することが可能であるとともに、検査者が感染するリスクを抑え、かつ、検体前処理液と体液との比率を定量的にすることができる核酸抽出キットを提供することができる。また、体液を採取直後に、病原体を不活性化させることができ、その後の工程におけるバイオセイフティーのレベルを下げることができる。
【0064】
次に、本発明の第二の実施形態に係る第2の体液採取手段について説明する。
図8(a)および(b)に示すように、漏斗40は、透過性があり、その上端に第1開口部401を有し、第1開口部401は、被検者が自身の口腔内から唾液を採集するため、下端よりも広い円孔となっている。また、漏斗40は、上端の開口部401から略中央にかけて、緩やかなテーパ形状を形成しており、略中央から下端にかけてより鋭角なテーパ形状を形成している。この第2の体液採取手段は、唾液を対象とすることに適している。
【0065】
漏斗40のテーパ形状の終端から下側は筒状体となっている。このテーパ形状の終端の内部には、食物残渣が唾液とともに口腔内から排出された場合に、食物残渣を濾し取ることができるフィルター410が配置されている。フィルター410は、下端が筒状体の内径と同じ外径であり、上部はテーパ形状に形成されて、筒状体から落下しないようになっている。筒状体には、目盛り402および懸濁用チューブ20との着脱が可能なように連結部403を有し、さらに、下端に第2開口部404を有し、その下端の開口部404を封止するシール405を有する。また、漏斗40は、図示しないが第1開口部401を封止するためのキャップ406を有してもよい。キャップの例としては、
図2(c)のように上端に連結されたもので、第1開口部401の上から圧入するものが考えられるが、これに限定されない。シール405は、例えば、アルミニウム箔をホットメルト剤により第2開口部404により封止したものが挙げられるが、密封性と易開封性とを兼ね備えた材質であることが望ましい。
【0066】
図8(a)に示すように、漏斗40の下端は、略円柱の形状となっており、下端の第2開口部404がシール405で封止されている。漏斗40の下端の略円柱形状の外周には、唾液の採取量に応じた目盛り402が付されている。この目盛り402は、前述した検体前処理液100との比率を一定にするために、例えば、100μL、200μL、300μL、400μLごとに目盛りを付するようにしてもよい。
【0067】
図9は、被検者が自身で唾液を漏斗に移している状況を示した図である。被検者は、口腔内から漏斗40の上端の第1開口部401から唾液が落ちるように、唾液を排出し、唾液が漏斗の下部に集積される。被検者は、自身で、漏斗40の下端の外周に付された目盛り402の位置を確認しながら、目盛り402の位置に唾液が集積されるよう唾液を排出するようにしてもよい。
【0068】
次に、漏斗40に採集された唾液と検体前処理液100とを懸濁させる方法について説明する。
図8(b)は、漏斗40と懸濁用チューブ20とを漏斗の連結部403、懸濁用チューブの連結部202とを螺合させて、連結した状態を示した図である。被検者は、自身の唾液が採集された漏斗40を検査者に渡してもよく、または、被検者自身により、漏斗40に採集された自身の唾液を検体前処理液100と懸濁させるために懸濁用チューブ20に移す作業をするようにしてもよい。ただし、被検者自身が、漏斗40に採集された自身の唾液を、検体前処理液100と懸濁させるために懸濁用チューブ20に移す作業ができるようにするためには、予め、懸濁用チューブ20内に、採集された唾液と一定比率となる検体前処理液100が注入されていることが望ましい。
【0069】
前記のとおり懸濁用チューブ20の内分には、簡易に計量できるようにするため円柱状部分の外周に目盛り(
図8(a)および(b)では203A、203B、203C、203D)が付されている。この目盛りは、検体前処理液の注入量を示す目盛り(
図8(a)および(b)では203A、203C)であってもよく、唾液と検体前処理液とを懸濁させた懸濁液の合計量を示す目盛り(
図8(a)および(b)では203B、203D)であってもよく、検体前処理液の注入量を示す目盛りと、唾液と検体前処理液とを懸濁させた懸濁液の合計量を示す目盛りの双方を付してもよい。
【0070】
漏斗40と懸濁用チューブ20とを螺合させるときに、漏斗40の下端の第2開口部404の内周は、懸濁用チューブ20の上端の開口部201の外周よりもやや大きいため、シール405は破れるようになっている。このため、漏斗40と懸濁用チューブ20とを螺合させることにより、漏斗40内に採集された唾液30は、懸濁用チューブ20内に注入され、検体前処理液100と懸濁され、懸濁液110となる。
【0071】
懸濁用チューブ内の目盛りは、前記のとおり、注入する検体前処理液が、採集した唾液に対して5:1ないし10:1のいずれか一つに相当する量になるように付すか(
図8(a)および(b)では203A、203C)、または、注入する検体前処理液100の量を5ないし10とした場合、1となる量の唾液とを合計した分量になるように付すことが最適である(
図8(a)および(b)では203B、203D)。但し、前者と後者の目盛り双方を付すようにしてもよい。例えば、1000μLとなる位置と1100μLとなる位置の双方に目盛りを付してもよい。
【0072】
最後に、懸濁用チューブの上端部に螺合された漏斗40を緩めて、漏斗40を外して、懸濁用チューブ用のキャップ210を螺合し、懸濁用チューブ20の上端を封止する。そして、懸濁用チューブの外周に病原体が付着している可能性があるため、
図7に示すように、懸濁用チューブ20(
図7では、下端が逆円錐形状のものである)を、70%以上のエタノールが予め注入された滅菌用容器70に含浸させてもよい。以上により本発明の第二の実施形態に係る第2の唾液採取手段を使用しても、被検者自身によって簡易に唾液を採取することが可能であり、かつ、検体前処理液と唾液との比率を定量的にすることができる。
【0073】
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。本発明の第三の実施形態は、本発明の第一の実施形態と同じく、体液採取手段としてスワブ10を使用するが、このスワブ10の先端部から体液を採取しやすくするとともに、採取した体液の計量をより正確にするための実施形態である。
【0074】
図10(a)は、スワブ10を示した図であり、
図1(a)と同じ図である。
図10(b)は、本発明の第三の実施形態に係る絞取容器の断面を示した図である。
図10(c)は、第三の実施形態に係る懸濁用チューブ60の断面を示した図である。
【0075】
絞取容器50及び懸濁用チューブ60は、透過性のある中空の筒状体であり、可塑性のあるプラスチック素材により成形される。透過性があり、かつ可塑性のあるプラスチック素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニールなどでも良いが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
絞取容器50は、その上端に第1開口部503を有し、上端の側面にキャップ510と連結可能にするための第1連結部505その下側の内部に、絞り部501を有し、下端側には、目盛り502A、502B、503Cおよび懸濁用チューブ60との着脱が可能なように第2連結部506を有し、さらに、下端に第2開口部504を有し、その下端の第2開口部504を封止するシール507を有する。
【0077】
第1連結部505は、キャップ510と連結し、内部を封止するためのものであり、
図10(b)では、ネジ溝が設けられている。そして、キャップ510の内側にネジ溝が設けられてあり、第1連結部505とキャップ510が互いに螺合することで接合し、第1開口部を封止する。封止する方法または連結させる方法は、螺合して接合するものでなくともよく、例えば、
図2(C)に示した懸濁用チューブ20の上端から圧入するキャップ210を使用してもよい。
【0078】
図1(b)および(c)に示したように、被検者自身がスワブ10の先端部103を自分の口腔内に挿入し、飴をなめるようにして唾液を採取する。スワブ10の先端部103を口腔内に挿入し、30秒以上唾液を含浸させることが望ましい。
【0079】
図11(a)は、スワブ10の先端部130を、絞取容器50の内部において、絞り部501にワイプさせている状態を示した図である。絞取容器50に対して上方向に移動させることによって、スワブ10の先端部130を、絞取容器50の前記絞り部501にワイプさせることが可能であり、スワブ10の先端部130に含浸された唾液30が絞取容器50の下部に集積される。被検者自身または、検査者は、
図11(a)に示す絞り部501の側面から矢印の方向に指で押して、スワブ10の先端部130に含浸された唾液を絞り取るようにしてもよい。
【0080】
図10(b)および
図11(a)に示すように、絞取容器50の下端は、略円柱の形状となっており、下端の第2開口部504がシール507で封止されている。そして絞取容器50の下端の略円柱形状の外周には、唾液の採取量に応じた目盛り502A、502B、503Cが付されている。この目盛り502A、502B、503Cは、検体前処理液100との比率を一定にするために、例えば、100μL200μL、300μLごとに目盛りを付するようにしてもよい。
【0081】
被検者は、自身で、絞取容器50の下端の外周に付された目盛り502A、502B、503Cで確認しながら、絞取容器502の絞り部501にスワブ10の先端部130を、数回、ワイプさせるように上下に動かすとともに、ワイプさせる際に、絞取容器50の絞り部501の外側から、指で挟み、所定の目盛り502の位置に唾液が集積されるように、先端部130の唾液を絞り採るようにしてもよい。
【0082】
唾液の量が不足した場合には、被検者は、再度、自分の口腔内に別の新たなスワブ10の先端部130を入れて、唾液を先端部130に十分に含浸させ、絞取容器50の下端の外周に付された目盛り502を確認しながら、絞取容器50の絞り部501にスワブ10の先端部130を数回、ワイプさせて、所定の目盛り502の位置に唾液が集積されるようしてもよい。
【0083】
次に、被検者は、絞取容器50の上端の第1連結部505にキャップ510を螺合させて、第1開口部503を封止する。被検者は、この段階で、一度、絞取容器50の外周に病原体が付着している可能性があるため、
図7に示すようにエタノールが70%以上含有された滅菌用容器70に、絞取容器50ごと含浸させてもよい(なお、
図7は、懸濁用チューブ20をエタノールに含浸させた図であるが、懸濁用チューブ20を絞取容器50と置き換えてもよい)。
【0084】
次に、絞取容器50に採集された唾液と検体前処理液100とを懸濁させる方法について説明する。被検者は、自身の唾液が採集された絞取容器50を検査者に渡してもよく、または、被検者自身により、絞取容器50に採集された自身の唾液を検体前処理液と懸濁させるために懸濁用チューブ60に移す作業をするようにしてもよい。ただし、被検者自身が、絞取容器に採集された自身の唾液を、検体前処理液と懸濁させるために懸濁用チューブ60に移す作業ができるようにするためには、予め、懸濁用チューブ60内に、採集された唾液と一定比率となる検体前処理液100が注入されていることが望ましい。
【0085】
図10(c)に示すように、懸濁用チューブ60は、上端に、開口部601を有し、上端の外周には、絞取容器50の第2連結部(ネジ溝)506と螺合させる連結部(ネジ溝)602を有し、その下部には、フランジ603が形成され、絞取容器50の下端の側面がこのフランジ603と当接する。このフランジ603は、図示しないが、懸濁用チューブ60を一時的に載置するチューブラックのような収納棚の穴の上部に掛けるために使用してもよい。
【0086】
懸濁用チューブ60のフランジ603より下の部分には、簡易に計量できるようにするため円柱状であることが望ましいが、
図2(c)に示すように、下端が逆円錐形状であってもよいことは前記したとおりである。
図10(c)に示すように、懸濁用チューブ60には、目盛り604A、604B、604C、604Dが付されている。検体前処理液100の注入量を示す目盛り604A、604Cと、唾液と検体前処理液とを懸濁させた懸濁液の合計量を示す目盛り604B、604Dの双方を付してもよい。
【0087】
図11(b)は、絞取容器50と懸濁用チューブ60とを連結させた状態を示す図である。絞取容器50の下端の第2連結部506と懸濁用チューブ60の上端の連結部602とを螺合させるときに、絞取容器50の下端の内周は、懸濁用チューブ60の上端の外周よりも大きいため、絞取容器50の第2開口部504を封止しているシール507が破れるようになっている。このため、絞取容器50と懸濁用チューブ60とを螺合させることにより、絞取容器50内に採集された唾液30は、懸濁用チューブ60内に注入されて、懸濁用チューブ60に予め注入された検体前処理液100と懸濁され、懸濁液110になる。なお、検体は、唾液以外の喀痰、尿、汗、精液、子宮頚管粘液、膣分泌液、血液などでもよいことは前述したとおりである。
【0088】
最後に、
図11(b)のように絞取容器50と懸濁用チューブ60とを連結させた状態で、
図7に示す70%以上のエタノールが予め注入された滅菌容器に挿入し、仮に、外周に病原体が付着していた場合、その病原体を不活性化させる。
【0089】
図示しないが、懸濁液110が混合された後に、絞取容器50を外し、代わりに、懸濁用チューブ60のネジ溝602に螺合することができる接続部を備えたグラスフィルター付きのカラムを取り付けて、逆さまにし、懸濁液110をグラスフィルター付きのカラムに移した後に、懸濁用チューブ60を取り外して、
図5に示したような懸濁液110の洗浄処理、RNA溶出処理をすることができるようにしてもよい。
【0090】
以上の本発明の第三の実施形態によれば、被検者自身によって簡易に体液を採取することが可能であり、かつ、検体前処理液と体液との比率をより正確に定量的にすることができる。また、前処理懸濁液によって病原体が不活性化しており、かつ容器の外周の病原体も不活性化しているので、次の工程においては、バイオセイフティーのレベルを下げることが可能となる。
【0091】
以上、本発明の第一の実施形態ないし第三の実施形態の例を詳細に説明した。ただし、上記説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定する趣旨で記載されたものではない。本発明には、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るものを含み得る。また、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0092】
10 スワブ
101 把持部
102 軸部
103 先端部
20 懸濁用チューブ
201 開口部
202 連結部
203A、203B、203C、203D、203E 目盛り
204、205 キャップ
30 唾液
40 漏斗
401 第1開口部
402A、402B、403C、403D 目盛り
403 連結部
404 第2開口部
405 シール
406 キャップ
50 絞取容器
501 絞り部
502A、502B、502C 目盛り
503 第1開口部
504 第2開口部
505 第1連結部
506 第2連結部
507 シール
510 キャップ
60 懸濁用チューブ
601 開口部
602 連結部
603 フランジ
604A、604B、604C、604D 目盛り
70 滅菌用容器
701 エタノール
801 グラスフィルター付きカラム
802、803 チューブ
100 検体前処理液
110 懸濁液