(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032886
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】アオノリ用種網の生産方法及びアオノリ用種網生産装置
(51)【国際特許分類】
A01G 33/02 20060101AFI20220217BHJP
【FI】
A01G33/02 101G
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020146319
(22)【出願日】2020-08-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】320008535
【氏名又は名称】井川 直人
(72)【発明者】
【氏名】井川 直人
【テーマコード(参考)】
2B026
【Fターム(参考)】
2B026AA01
2B026FA02
2B026FA04
(57)【要約】
【課題】アオノリ用種網を効率良く生産する。
【解決手段】アオノリの遊走子が種網1に付着されたアオノリ用種網の生産方法は、採苗水槽10に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承された水車20の表面に、種網1を50反以上重ねて積層させる工程と、採苗水槽10に蓄えた水に、アオノリの遊走子を投入する工程と、水車20を一定の回転速度で回転させる工程と、水車20の回転工程の途中で、必要に応じて、種網1の表面を部分的に採取して、該種網1にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する工程と、判定工程においてアオノリ遊走子の付着が確認されると、水車20の回転を終了して種網1を該水車20から外し、アオノリ遊走子が付着済みのアオノリ用種網を回収する工程を含む。これにより、従来困難であったアオノリ用種網の生産を効率良く行うことが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アオノリの遊走子が種網に付着されたアオノリ用種網の生産方法であって、
採苗水槽に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承された水車の表面に、種網を50反以上重ねて積層させる工程と、
前記採苗水槽に蓄えた水に、アオノリの遊走子を投入する工程と、
前記水車を一定の回転速度で回転させる工程と、
前記水車の回転工程の途中で、必要に応じて、前記種網の表面を部分的に採取して、該種網にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する工程と、
前記判定工程においてアオノリ遊走子の付着が確認されると、前記水車の回転を終了して前記種網を該水車から外し、アオノリ遊走子が付着済みのアオノリ用種網を回収する工程と、
を含むアオノリ用種網の生産方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記アオノリの遊走子を採苗水槽に投入する工程が、無性生殖を行うアオノリの遊走子を投入する工程であるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記アオノリの遊走子を採苗水槽に投入する工程が、無性生殖型アオノリの葉身を投入する工程であるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記水車を回転させる工程が、前記水車の回転速度を4回~14回/分であるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記水車を回転させる工程が、前記水車を30分~3時間回転させてなるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記水車を回転させる工程が、前記採苗水槽の水温15℃~26℃にて行われてなるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記水車の表面に前記種網を積層させる工程が、前記種網を50反~110反積層させる工程であるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記種網の表面を部分的に採取して該種網にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する工程が、前記種網の積層体の表面に付加された付着確認具を、該種網から外して、前記付着確認具の表面を顕微鏡により観察して行われるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項9】
請求項8に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
前記付着確認具が、透光性を有する合成繊維で構成されてなるアオノリ用種網の生産方法。
【請求項10】
請求項1~9に記載のアオノリ用種網の生産方法であって、
スジアオノリの遊走子が種網に付着されたスジアオノリ用種網を生産するアオノリ用種網の生産方法。
【請求項11】
アオノリの遊走子が種網に付着されたアオノリ用種網を生産するアオノリ用種網生産装置であって、
アオノリの遊走子を含む水を蓄えるための採苗水槽と、
前記採苗水槽に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承され、その表面に種網を50反~110反積層可能とした水車と、
前記水車を一定の回転速度で回転させるための回転駆動部と、
を備えてなるアオノリ用種網生産装置。
【請求項12】
請求項11に記載のアオノリ用種網生産装置であって、
前記採苗水槽内の表面を、人工的な材質で構成された人工シートで被覆してなるアオノリ用種網生産装置。
【請求項13】
請求項12に記載のアオノリ用種網生産装置であって、
前記人工シートが、明度の高い色に着色されてなるアオノリ用種網生産装置。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか一項に記載のアオノリ用種網生産装置であって、
前記採苗水槽内の水に含まれるアオノリの遊走子が、無性生殖を行うアオノリの遊走子であるアオノリ用種網生産装置。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか一項に記載のアオノリ用種網生産装置であって、さらに、
前記水車の表面に積層された前記種網の表面に着脱自在に装着された付着確認具
を備え、
前記付着確認具を前記種網から外して、前記付着確認具の表面を顕微鏡により観察して、種網にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定可能としてなるアオノリ用種網生産装置。
【請求項16】
請求項15に記載のアオノリ用種網生産装置であって、
前記付着確認具が、透光性を有する合成繊維で構成されてなるアオノリ用種網生産装置。
【請求項17】
請求項11~16のいずれか一項に記載のアオノリ用種網生産装置であって、
前記回転駆動部が、前記水車の回転速度を4回~14回/分に調整可能としてなるアオノリ用種網生産装置。
【請求項18】
請求項11~17のいずれか一項に記載のアオノリ用種網生産装置であって、
スジアオノリの遊走子が種網に付着されたスジアオノリ用種網を生産するアオノリ用種網生産装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アオノリ用種網の生産方法及びアオノリ用種網生産装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海苔は古来から食用とされており、海苔の養殖は重要な水産業の一つである。食用の海苔は、分類学的には以下のような互いに疎遠なグループに分けられる。
1.海藻。真核生物ドメイン・植物界・紅色植物門・紅藻亜門・ウシケノリ綱・ウシケノリ目・ウシケノリ科・アマノリ属(Pyropia)に属するグループ。岩海苔(いわのり)とも呼ばれ、板海苔に加工されるアサクサノリ、スサビノリ(P.yezoensis)、ウップルイノリ(P.pseudolinearis)など。韓国海苔もこの属から作られる。イギリス南ウェールズで食べられるLaver(Porphyra umbilicalis)は近縁属である。
2.海藻。真核生物ドメイン・植物界・緑色植物門・緑藻亜門・アオサ藻綱・アオサ目・アオサ科に属する、アオサやアオノリ。
3.川産。真核生物ドメイン・植物界・緑色植物門・緑藻亜門・トレボウクシア藻綱・カワノリ目に属し、静岡県、高知県、埼玉県などの山間の清流に産するカワノリ。
4.川産。細菌ドメイン・藍色細菌門・ネンジュモ綱・クロオコックス目・クロオコッカス科・スイゼンジノリ属に属するスイゼンジノリ。
【0003】
この内、2の海藻に含まれるアオノリは、、ヒトエグサなどヒトエグサ科の海藻、アオサ科アオサ属のアナアオサ、スジアオノリに代表される旧アオノリ属の3種に大別される。そして、旧アオノリ属は、「最も代表的な青のり。香りが高く口溶けも良いが、3種の中では最も高価である。高知県の四万十川など、四国地方で多く生産される。」とされる(出典:ウィキペディア「海苔」)。
【0004】
このようなアオノリは、天然物が採取されるほか、主に海で養殖されている。また、陸上養殖も行われている。ノリ養殖は徳島県において盛んで、徳島県の平成20年度漁期の板海苔生産枚数は約1億6千万枚、生産額は約12億円と、全国11位ながら徳島県の水産業になくてはならない産業となっている。
【0005】
このようなノリ養殖は、ノリの胞子(遊走子)を付着させた、「ノリ網」(種網)と呼ばれる大きさ約1.8×18mの網を漁場に張り込み、ノリ網上で生長したノリを収穫する。養殖工程は大まかに、遊走子をノリ網に付着させる「採苗」、遊走子が付着したノリ網を海上に設置し、ノリ芽を数cmの大きさに育てる「育苗」、育苗したノリ網を大きく育てる「本養殖」、生長したノリを摘み取る「摘採」に分けられる。摘み取られたノリは、加工場で板状に抄かれ、乾燥工程を経て板海苔となる。このようなノリ養殖の工程の内、育苗は10月下旬から11月中旬にかけて行われるが、台風や残暑といった環境の影響を受けるため、漁場での管理が難しい。このため、ノリ養殖業者は、既に育苗されたノリ網を製造する種網生産の専門業(種網屋)から種網を調達して、そのまま本養殖を行うことが多い。
【0006】
しかしながら、近年は水温上昇による生産減のため、良質な育苗済みノリ網の入手が困難となりつつある。このような種網の生産技術として、タンク式人工採苗法が知られている。この方法は安定的な採苗法であるものの、一度に大量の種網を生産できないという欠点があった。例えば、上述した海苔の分類の1にあたるアマノリ属については、水車を用いた養殖方法が知られている(例えば特許文献1)。しかしながら、アオノリの種子はアマノリ属の海苔と比べて1/10程度の大きさしかなく、その属性や習性が異なるため、アマノリ属の養殖方法でアオノリを生産することは従来不可能とされてきた。
【0007】
これに対して、クロノリ養殖で使用している水車でスジアオノリを種網に付着する試みもなされている(非特許文献1)。しかしながら、種網を多数枚重ねると、種網の表面には遊走子が付着するものの、内部の種網にまで遊走子が付着しないことが懸念される等の問題があり、実用化には至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】牧野賢治、平野匠「水車を利用した青ノリ類の効率的な採苗技術の開発」<https://www.pref.tokushima.lg.jp/tafftsc/suisan/material/business_report/5027639/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一は、効率良く種網を生産可能なアオノリ用種網の生産方法及びアオノリ用種網生産装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、アオノリの遊走子が種網に付着されたアオノリ用種網の生産方法であって、採苗水槽に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承された水車の表面に、種網を50反以上重ねて積層させる工程と、前記採苗水槽に蓄えた水に、アオノリの遊走子を投入する工程と、前記水車を一定の回転速度で回転させる工程と、前記水車の回転工程の途中で、必要に応じて、前記種網の表面を部分的に採取して、該種網にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する工程と、前記判定工程においてアオノリ遊走子の付着が確認されると、前記水車の回転を終了して前記種網を該水車から外し、アオノリ遊走子が付着済みのアオノリ用種網を回収する工程とを含む。これにより、従来困難であったアオノリ用種網の生産を効率良く行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明の第2の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記に加えて、前記アオノリの遊走子を採苗水槽に投入する工程が、無性生殖を行うアオノリの遊走子を投入する工程である。これにより、有性生殖のアオノリの株と異なり、回転する水車の表面に効率良く無性生殖のアオノリの遊走子を付着させることが可能となり、生産性高くアオノリ用種網を得ることが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の第3の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記いずれかに加えて、前記アオノリの遊走子を採苗水槽に投入する工程が、無性生殖型アオノリの葉身を投入する工程である。これにより、回転する水車の表面に効率良く無性生殖のアオノリの遊走子を付着させることが可能となり、生産性高くアオノリ用種網を得ることが可能となる。
【0014】
さらにまた、本発明の第4の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記いずれかに加えて、前記水車を回転させる工程が、前記水車の回転速度を4回~14回/分である。これにより、クロノリ用種網等と比べて遅い速度で水車を回転させることにより、回転する水車の表面に効率良くアオノリの遊走子を付着させ易くできる。
【0015】
さらにまた、本発明の第5の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記いずれかに加えて、前記水車を回転させる工程が、前記水車を30分~3時間回転させる工程である。これにより、アオノリの遊走子を確実に種網に付着させることが図られる。
【0016】
さらにまた、本発明の第6の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記いずれかに加えて、前記水車を回転させる工程が、前記採苗水槽の水温15℃~26℃にて行われる。これにより、アオノリの遊走子の活性を高めて効率良く種網に付着させることが可能となる。
【0017】
さらにまた、本発明の第7の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記いずれかに加えて、前記水車の表面に前記種網を積層させる工程が、前記種網を50反~110反積層させる工程である。これにより、多数のアオノリ用種網を同時に効率良く生産することが可能となる。
【0018】
さらにまた、本発明の第8の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記いずれかに加えて、前記種網の表面を部分的に採取して該種網にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する工程が、前記種網の積層体の表面に付加された付着確認具を、該種網から外して、前記付着確認具の表面を顕微鏡により観察して行われる。これにより、種網を部分的に切り取る等、種網を損ねることなく付着の有無を確認することができる利点が得られる。
【0019】
さらにまた、本発明の第9の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、上記いずれかに加えて、前記付着確認具が、透光性を有する合成繊維で構成されている。これにより、透光性を有する合成繊維を切断して顕微鏡で確認することにより、アオノリの遊走子の付着の確認を容易に行える利点が得られる。
【0020】
さらにまた、本発明の第10の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記いずれかに加えて、スジアオノリの遊走子が種網に付着されたスジアオノリ用種網を生産するものである。
【0021】
さらにまた、本発明の第11の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、アオノリの遊走子が種網に付着されたアオノリ用種網を生産するアオノリ用種網生産装置であって、アオノリの遊走子を含む水を蓄えるための採苗水槽と、前記採苗水槽に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承され、その表面に種網を50反~110反積層可能とした水車と、前記水車を一定の回転速度で回転させるための回転駆動部とを備える。上記構成により、従来困難であったアオノリ用種網の生産を効率良く行うことが可能となる。
【0022】
さらにまた、本発明の第12の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記に加えて、前記採苗水槽内の表面を、人工的な材質で構成された人工シートで被覆することができる。上記構成により、採苗水槽の内面へのアオノリの遊走子の付着量を低減し、もって種網側への付着量を増して生産量を上げることができる。
【0023】
さらにまた、本発明の第13の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記に加えて、前記人工シートを、明度の高い色に着色することができる。上記構成により、人工シートが天然素材由来でない人工素材であることを強調して、遊走子の忌避効果が高め、もって種網への付着量をさらに増大させることができる。
【0024】
さらにまた、本発明の第14の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記に加えて、前記採苗水槽内の水に含まれるアオノリの遊走子が、無性生殖を行うアオノリの遊走子である。上記構成により、有性生殖のアオノリの株と異なり、回転する水車の表面に効率良く無性生殖のアオノリの遊走子を付着させることが可能となり、生産性高くアオノリ用種網を得ることが可能となる。
【0025】
さらにまた、本発明の第15の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記いずれかに加えて、さらに、前記水車の表面に積層された前記種網の表面に着脱自在に装着された付着確認具を備え、前記付着確認具を前記種網から外して、前記付着確認具の表面を顕微鏡により観察して、種網にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定可能としている。上記構成により、種網を部分的に切り取る等、種網を損ねることなく付着の有無を確認することができる利点が得られる。
【0026】
さらにまた、本発明の第16の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記いずれかに加えて、前記付着確認具が、透光性を有する合成繊維で構成されている。上記構成により、透光性を有する合成繊維を切断して顕微鏡で確認することにより、アオノリの遊走子の付着の確認を容易に行える利点が得られる。
【0027】
さらにまた、本発明の第17の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記いずれかに加えて、前記回転駆動部が、前記水車の回転速度を4回~14回/分に調整可能としている。上記構成により、クロノリ用種網等と比べて遅い速度で水車を回転させることにより、回転する水車の表面に効率良くアオノリの遊走子を付着させ易くできる。
【0028】
さらにまた、本発明の第18の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、上記いずれかに加えて、スジアオノリの遊走子が種網に付着されたスジアオノリ用種網を生産するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態1に係るアオノリ用種網生産装置を示す模式図である。
【
図3】
図2の水車の表面に種網を巻き付けた状態の斜視図である。
【
図4】実施形態2に係るアオノリ用種網生産装置を示す模式図である。
【
図6】アオノリ用種網の生産方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0031】
本発明の実施形態1に係るアオノリ用種網生産装置100は、アオノリ、特にスジアオノリの種網を好適に生産することができる。アオノリの種網は、アオノリの種をのり網に付着させたものであり、アオノリの養殖に欠かせない。徳島県は全国一の養殖スジアオノリの産地地である。
【0032】
スジアオノリの養殖には、天然採苗とタンク式人工採苗の併用が、ウスパアオノリの養殖にはタンク式人工採苗法が、それぞれ用いられている。タンク式人工採苗は、陸上採苗水槽の中に、養殖用の網と成熟したアオノリの葉片を入れて、葉片から放出された泳ぐ種である遊走子を種網に付着させる方法である。このタンク式人工採苗は、安定的な採苗法ではあるものの、大量の種苗生産、すなわち種網の生産には適していないという問題があった。これに対して本発明者は、鋭意工夫して、本発明を成すに至ったものである。
【0033】
具体的に本発明者は、クロノリ養殖で用いられる水車を用いて、スジアオノリを種網に付着することを試みた。従来、クロノリについては水車を用いた大量採苗生産技術が確立されていた。クロノリの種網生産には、天然採苗法と水車採苗法が知られている。この内、天然採苗は採苗適地で実施することが求められるが、水車採苗は陸上で行えるため、海況や天候不順などの影響を受けずに、大量に種網を生産することができる。
【0034】
しかしながら、アオノリ類については従来、水車による採苗技術が開発されていなかった。そこで本発明者が水車を用いてアオノリ用種網の生産を試みたところ、当初は失敗に終わった。すなわちクロノリと同じように水車に種網を重ねても、十分に遊走子が付着せず、種網の生産が不安定で確実性が得られないという問題があった。その原因を究明していく内、アオノリの株には有性生殖を行う株と無性生殖のみ行う株が存在し、有性生殖の株では水車での生産に適さないこと、逆に無性生殖の株では水車の生産が可能であることを見出し、本発明を成すに至った。その理由は、有性生殖のアオノリは雄雌が採苗水槽の底面に沈む傾向にあり、水車の表面に付着し難い一方、無性生殖のアオノリの遊走子は、水車の表面に付着し易い傾向にあり、水車を用いた場合でも種網に着床できるものと思われる。すなわち、スジアオノリには、有性生殖を行う株と無性生殖のみ行う株があること、及び有性生殖型のスジアオノリの遊走子は沈降する傾向があり、種網に付着し難い一方で、無性生殖型であれば、種網の表面に付着し易く、着床がなされ易い傾向があることを見出した。推測するに、有性生殖型の遊走子は、雄と雌の出会いを求めて広く動き回る傾向があり、拡散しようとする結果、採苗水槽の底面に溜まる傾向がある一方で、無性生殖型はそのように動き回る必要がないため、種網を構成する繊維の表面に付着するものと思われる。
【0035】
加えて、クロノリの遊走子は光のあるところに向かう性質があり、水車の表面に着床し易い一方、アオノリの遊走子は暗いところに向かう習性があり、種網の奥に潜り込む性質がある。この性質が、有性生殖型に比べて、無性生殖型の遊走子が強いとの見方もできる。また、このことから、水車の表面に多数の種網を積層しても、内部まで潜り込んで着床、付着することが判明した。これにより、多数の種網を水車に巻き付けて、一度にすべての種網を回収できることになり、生産性が向上される。また一日に複数回の採集も可能であり、これによってさらに生産性が向上される。本発明者の行った試験によれば、天候や水温などの条件が整えば一回あたり2時間程度の採集を、一日に3回行うことも可能であった。上述した非特許文献1の報告例では、採苗時間を4時間かけて、40枚の種網を得ているが、これよりも遙かに高効率な生産が実現される。
(アオノリ用種網生産装置100)
【0036】
本発明の実施形態1に係るアオノリ用種網生産装置100を、
図1に示す。この図に示すアオノリ用種網生産装置100は、アオノリの遊走子が種網1に付着されたアオノリ用種網を生産するものである。このアオノリ用種網生産装置100は、採苗水槽10と、水車20と、回転駆動部30を備えている。採苗水槽10は、アオノリの遊走子を含む水を蓄えるため部材である。
(採苗水槽10)
【0037】
採苗水槽10は、養殖施設等の屋内または屋外の陸上に設置されて、上方に開口する桶状とされていると共に、略開口部付近にまで海水SWを貯えている。採苗水槽10は、コンクリートブロックなどで構成できる。また採苗水槽10は、コンクリートブロックを剥き出しとせず、その表面を人工シート60で覆った上で海水を蓄えることが好ましい。本発明者の行った試験によれば、採苗水槽10を構成するコンクリートを剥き出しとしたまま海水を蓄えると、アオノリの遊走子がコンクリートの表面に付着するようになり、種網1への付着量が激減した。よって、採苗水槽10の内面への付着を抑制するよう、人工シート60で覆うことが好ましい。人工シート60は、天然素材でない人工的な材質(人工素材)、例えばナイロンやPET、FRP、あるいはPVC製のビニールシート等の合成樹脂製、あるいは合成ゴム製などとする。このように石油由来の人工シート60とすることで、遊走子が付着を忌避させるようにして、種網1への付着量を高められる。
【0038】
また人工シート60は、明度の高い色、例えば白色や青色、赤色や橙色などの明るい色に着色することが好ましい。これによって人工シート60が天然素材由来でない、人工素材であることが強調され、遊走子の忌避効果が高められて、種網1への付着量をさらに増大させることができる。
【0039】
採苗水槽10内の水に含まれるアオノリの遊走子は、無性生殖を行うアオノリの遊走子とすることが好ましい。これにより、有性生殖のアオノリの株と異なり、回転する水車20の表面に効率良く無性生殖のアオノリの遊走子を付着させることが可能となり、生産性高くアオノリ用種網を得ることが可能となる。
(水車20)
【0040】
水車20は、採苗水槽10に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承され、その表面に種網1を複数枚、積層可能としている。水車20の斜視図を
図2に、その葉面に種網1を巻き付けた状態を
図3に、それぞれ示す。これらの図に示す水車20は、鋼鉄製のフレームで構成されており、採苗水槽10内に設置される。水車20の高さ、すなわち回転軸26の位置は、採苗水槽10に水を蓄えた状態で、水車20の下部が部分的に採苗水槽10に含浸される高さに調整される。
【0041】
水車20は、複数のロッド状材が組み合わされて組み立てられた略円形胴状の骨組構造体で構成される。水車20の回転軸26が、採苗水槽10の上方において略水平方向に延びていると共に、回転軸26の両端が、採苗水槽10の外方に設置された支柱28、28に対して、それぞれ回転可能に支持されている。また、水車20には、回転軸26と平行に延びる複数のスポーク21が配されており、水車20の回転軸26回りの回転に伴って回転せしめられるようになっている。更に、これら複数のスポーク21のうち回転軸26から最下方(
図1中、下)に位置した際のスポーク21が、採苗水槽10の海面よりも下に位置して、海水SWに接触するようになっている。
(種網1)
【0042】
さらに、水車20には、担体としての種網1が取り付けられている。種網1は、従来から海苔養殖に利用されている周知のものや市販のものを採用することが可能であり、一般にポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂材等を用いて形成されて、展開した状態で長手帯形状を有している。そして、種網1が、水車20の複数のスポーク21に被せられて、水車20の外周面に何回も巻き付けられている。なお、所定長さを有する種網1は、その複数層が、重ね合わせて或いは一つずつ順次に続けるようにして、重なって水車20の外周面に巻き付けられている。これにより、複数の種網1が水車20に対してロール状に支持されて、種網1における水車20の外周部分のうちで鉛直下方に位置する部分だけが、採苗水槽10の海水SWに潜るようにして接触せしめられるようになっている。また、水車20が、回転軸回りで回転せしめられることにより、種網1の全体が順次に海水SWに適数回だけ繰り返して接触せしめられるようになっている。
【0043】
一枚すなわち一反の種網1は、例えば幅2m、長さ20mの長尺の反物とする。このような種網1を、水車20の表面に50反以上積層する。好ましくは、60反以上、より好ましくは70反以上、さらに好ましくは80反以上、積層させる。例えば100反を積層する場合、5反の種網を束ねたものを20束重ねる。このように水車20に一度にセットする種網の積層数が多いほど、水車20の一度の回転で得られる種網の数も多くなり、生産効率が向上する。本発明者の行った試験によれば、気候や水温、種網を構成する網の太さや材質などにもよるが、種網1を50反~110反積層させた範囲では、安定的にアオノリの遊走子を着床できることを確認した。130反積層した際は、奥の20反程で着床が不十分となった。よって、種網1の積層は110反以下とすることが好ましい。
【0044】
また水車20は、共通の採苗水槽10内に複数台を設置しても良い。例えば
図4に示す実施形態2に係るアオノリ用種網生産装置200では、2台の水車20A、20Bを、回転面が同一平面状となる姿勢に並べて配置している。複数台の水車を設置する際は、回転方向を同じ方向とすることで、採苗水槽内の水の流れを同じ方向にして、採苗の効率を高めることが可能となる。
(回転駆動部30)
【0045】
回転駆動部30は、水車20を一定の回転速度で回転させるための部材である。電動機(モータ)などが好適に利用できる。回転駆動部30により水車20を30分以上回転させて、採苗水槽10に部分的に含浸させてアオノリ遊走子を着床させる。
【0046】
回転駆動部30は、水車20の回転速度を調整することができる。好ましくは、水車20の回転速度を4回~14回/分に調整する。これにより、クロノリ用種網等と比べて遅い速度で水車20を回転させることにより、回転する水車20の表面に効率良くアオノリの遊走子を付着させ易くできる。
【0047】
また水車20の回転工程の途中で、必要に応じて、種網1の表面を部分的に採取して、この種網1にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する。そしてアオノリ遊走子の付着が確認されると、水車20の回転を停止させて種網1を水車20から外し、アオノリ遊走子が付着済みのアオノリ用種網を回収する。さらに必要に応じて、新しい種網1に付け替えて、回転を継続させても良い。
(付着確認具50)
【0048】
このような確認作業に資するよう、アオノリ用種網生産装置100は、さらに付着確認具50を備えることもできる。付着確認具50は、種網1への着床の状態を確認するための試験糸であり、例えばメッシュ等で構成される。好ましくは、種網1と同種の素材で構成される。具体的には、付着確認具50を、透光性を有する合成繊維で構成することが好ましい。これにより、透光性を有する合成繊維を切断して顕微鏡で確認することにより、アオノリの遊走子の付着の確認を容易に行える利点が得られる。
【0049】
付着確認具50の一例を
図5に示す。この図に示す付着確認具50は、ポリプロピレン製のロープに、ナイロンメッシュを巻き付け、結束バンドで固定している。
【0050】
このような付着確認具50は、水車20の表面に積層された種網1の表面に着脱自在に装着される。付着確認具50は、
図3に示すように種網1の中央に装着することが好ましい。また、複数の付着確認具を種網1の異なる部位に設けてもよい。
【0051】
付着確認具50を種網1の表面に装着した状態で水車20を回転させることで、種網1への着床の状態を、付着確認具50でもって確認できる。すなわち、付着確認具50を種網1から外して、付着確認具50の表面を顕微鏡により観察して、種網1にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定可能とできる。これにより、種網1を部分的に切り取る等、種網1を損ねることなく付着の有無を確認することができる利点が得られる。例えば倍率200倍の光学顕微鏡で、付着確認具50のメッシュの部分に、アオノリの遊走子が付着しているかどうかを確認する。
(温度制御部40)
【0052】
またアオノリ用種網生産装置100は、さらに温度制御部40を備えることもできる。温度制御部40は、採苗水槽10内に蓄えられた水の温度を適温に維持するための部材であり、例えばヒータやヒートポンプ、冷水機等の熱交換器が利用できる。このような温度制御部40を設けることで、採苗水槽10内でアオノリの遊走子の二次成熟が誘導され、継続的にアオノリの遊走子を放出させて効率良く種網1に付着させることが可能となる。なお、温度制御部を特に設けず、自然のままの水温で種網を生産してもよい。
【0053】
また、単遊走子が付着された種網1の複数をアオノリ用種網生産装置100から取り出して、図示しない別の採苗水槽10等にかかる種網1を入れ、海水SW中に数時間浸して養生させた後、海水に浸して暗室で冷蔵する。例えば水温を5℃前後に保持する。その後、海水温等の環境条件が整ったところで種網1を海上へ張り出し、種網1に付着した単胞子を発芽させて、葉長数cmの幼芽に成長させる育苗を行う。育苗を終えた種網は、そのままアオノリの本養殖を開始させてもよいし、冷暗所に保管して種網として出荷しても良い。
[アオノリ用種網の生産方法]
【0054】
アオノリの遊走子が種網1に付着されたアオノリ用種網の生産方法を、
図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0055】
まず、ステップS1において、採苗水槽10に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承された水車20の表面に、種網1を複数層、好ましくは50反以上重ねて積層させる。
【0056】
次に、ステップS2において、採苗水槽10に蓄えた水に、アオノリの遊走子を投入する。このとき、無性生殖を行うアオノリの遊走子を投入することが好ましい。これにより、有性生殖のアオノリの株と異なり、回転する水車20の表面に効率良く無性生殖のアオノリの遊走子を付着させることが可能となり、生産性高くアオノリ用種網を得ることが可能となる。
【0057】
また、無性生殖型アオノリの葉身を投入することがこのましい。これにより、回転する水車20の表面に効率良く無性生殖のアオノリの遊走子を付着させることが可能となり、生産性高くアオノリ用種網を得ることが可能となる。
【0058】
さらに、ステップS3において、水車20を一定の回転速度で回転させる。ここで、水車20の回転速度を4回~14回/分とすることが好ましい。これにより、クロノリ用種網等と比べて遅い速度で水車20を回転させることにより、回転する水車20の表面に効率良くアオノリの遊走子を付着させ易くできる。また水車20を回転させる時間は、種網1の表面にアオノリの遊走子が付着するまでの時間であり、天候や季節、気温によって変動するが、概ね30分~3時間とすることが好ましい。
【0059】
さらに、水車20を回転させる際の採苗水槽10の水温を、必要に応じて採苗水槽10に設けた温度制御部40でもって調整する。採苗に適した水温は、ノリの種類によって異なる。スジアオノリの場合は、15℃以上とすることが好ましい。本発明者の行った試験によれば、15℃~26℃でスジアオノリを育成できた。これにより、アオノリの遊走子の活性を高めて効率良く種網1に付着させることが可能となる。
【0060】
さらにまた、ステップS4において、水車20の回転工程の途中で、必要に応じて、種網1の表面を部分的に採取して、該種網1にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する。例えば、種網1の積層体の表面に付加された付着確認具50を、種網1から外して、付着確認具50の表面を顕微鏡により観察する。これにより、種網1を部分的に切り取る等、種網1を損ねることなく付着の有無を確認することができる利点が得られる。
【0061】
さらにステップS5において、判定工程においてアオノリ遊走子の付着が確認されると、水車20の回転を終了して種網1を該水車20から外し、アオノリ遊走子が付着済みのアオノリ用種網を回収する。これにより、従来困難であったアオノリ用種網の生産を効率良く行うことが可能となる。
【実施例0062】
本発明の実施例1として、アオノリ用種網生産装置100を用いて、アオノリ用種網を生産した。ここでは、採苗水槽10内での成熟誘導、遊走子放出、種網1を設けた水車20の回転、種網1への遊走子付着確認を行った。まず水車20が設置された採苗水槽10として、寸法が縦310cm、横258cm、深さ65cmのコンクリート製水槽を準備した。この採苗水槽10内でのアオノリの藻母の成熟を誘導し、藻母から遊走子を放出させた。ここでは、採苗水槽10の中に、海水SWと成熟誘導したアオノリの葉片を投入した。
【0063】
母藻となるスジアオノリは1トンパンライト採苗水槽10で、藻体長30cmほどまでに野外培養させた。このようにして培養されたスジアオノリ300g(湿重量)を、母藻細断法により葉片にした。これを100L採苗水槽10に入れて、エアレーションにより水流を起こして成熟誘導した。3日後、水車20式クロノリ採苗装置の採苗水槽10の中に海水SWと一緒に成熟誘導させた葉片を入れた。
【0064】
葉片の採苗水槽10への投入量は、水1tあたり50g程度が好ましい。葉片が多すぎると、アオノリの葉片から成熟阻害物質が放出され、採苗水槽10内での二次成熟が誘導できなくなるからである。
【0065】
また、このときの採苗水槽10内の水温は、15℃以上、好ましくは15℃~26℃に維持するよう、温度制御部40で水温を制御する。15℃以上とすることで、継続的にアオノリの葉片から遊走子を放出させることができる。本発明者の試験によれば、採苗水槽10内の水温が15℃以下になると、採苗効率が激減した。
【0066】
一方、水車20として、直径200cm、幅184cmのステンレス製の水車20を、採苗水槽10内に設置した。また水車20に巻きつける種網1は、幅1.8m、長さ20mの種網1を用いた。種網1は、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂材等を用いて形成され、展開した状態で長手帯形状を有している。このような種網1を多数重ねて、水車20に巻き付けて採苗水槽10内で回転させた。水車20に巻きつける種網1の量は、50反~110反まで、遊走子付着を確認した。
【0067】
また、水車20の回転速度について、一般的にクロノリ用の水車20の回転速度は15~16回/分であるのに対し、アオノリ類については水車20の回転速度を4回/分とすることで、遊走子の付着が良好であった。従来のアオノリ類のタンク式人工採苗法では1t採苗水槽10を利用して30反が採苗の限界であり、1週間の作業を要した。これに対して本実施例に係る水車20採苗では、成熟誘導に半日~2日間程度、水車20採苗作業に2時間で70反の種網1を生産できた。このことから水車20採苗は、従来のタンク式人工採苗法に比べ、効率的であると言える。
【0068】
アオノリ類の遊走子は5~10μmと極小であり、水車20に巻きつけた種網1にアオノリ類の遊走子が付着できたかどうかを、目視では容易に判別できない。顕微鏡で透明で小さい物体を発見するためは、透過性の高い付着器に遊走子を付着させることが考えられる。そこで本実施例では、付着確認具50を種網1に装着した。付着確認具50は、
図5に示すように、遊走子が付着し易く、透過性のある素材として、ナイロンメッシュ(目合い300μm)を、太さ9mmのポリロープに巻きつけたものである。
【0069】
付着確認具50を水車20に巻きつけている種網1に、結束バンドで固定して水車20採苗作業を行い、1~2時間後に付着確認具50を取り外し、ナイロンメッシュの部分だけを切り取り、プレパラートを作成して、200倍で光学顕微鏡検視をした結果、アオノリ遊走子の付着を確認することができた。採苗後の1か月間、水車20採苗に使用した種網1の一節を切り取り、室内培養をしたところ、生長していた。
【0070】
このように、アオノリ類でも水車20を利用して種網1に採苗することが可能であることが確認された。
本発明の第1の側面に係るアオノリ用種網生産方法は、アオノリの遊走子が種網に付着されたアオノリ用種網の生産方法であって、採苗水槽に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承された水車の表面に、種網を50反以上重ねて積層させる工程と、前記採苗水槽に蓄えた水に、無性生殖を行うアオノリの遊走子を投入する工程と、前記水車を一定の回転速度で回転させる工程と、前記水車の回転工程の途中で、前記種網の表面を部分的に採取して、該種網にアオノリ遊走子が付着しているか否かを判定する工程と、前記判定工程においてアオノリ遊走子の付着が確認されると、前記水車の回転を終了して前記種網を該水車から外し、アオノリ遊走子が付着済みのアオノリ用種網を回収する工程とを含む。これにより、従来困難であったアオノリ用種網の生産を効率良く行うことが可能となる。また、有性生殖のアオノリの株と異なり、回転する水車の表面に効率良く無性生殖のアオノリの遊走子を付着させることが可能となり、生産性高くアオノリ用種網を得ることが可能となる。
さらにまた、本発明の第11の側面に係るアオノリ用種網生産装置は、アオノリの遊走子が種網に付着されたアオノリ用種網を生産するアオノリ用種網生産装置であって、アオノリの遊走子を含む水を蓄えるための採苗水槽と、前記採苗水槽に対し下部を浸漬させた状態で回転自在に支承され、その表面に種網を50反~110反積層可能とした水車と、前記水車を一定の回転速度で回転させるための回転駆動部とを備え、前記採苗水槽内の表面を、人工的な材質で構成された人工シートで被覆している。上記構成により、従来困難であったアオノリ用種網の生産を効率良く行うことが可能となる。また、人工シートで被覆することにより、採苗水槽の内面へのアオノリの遊走子の付着量を低減し、もって種網側への付着量を増して生産量を上げることができる。