(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032932
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】ファーサイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20220217BHJP
【FI】
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024469
(22)【出願日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2020135874
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】市村 岳志
(72)【発明者】
【氏名】八田 太伺
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭平
(72)【発明者】
【氏名】松崎 雄士
(72)【発明者】
【氏名】林 丈樹
(72)【発明者】
【氏名】久湊 一希
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA23
3D054CC04
3D054CC25
3D054CC29
3D054CC34
3D054CC35
3D054CC42
3D054DD14
(57)【要約】
【課題】バッグ本体の膨張時における耐圧性を確保しつつ収納性の向上を図る。
【解決手段】バッグ本体42は、乗員P1の胸部PT及び腹部PBの側方で展開及び膨張する下膨張部43と、首部PN及び頭部PHの側方で、上側ほど乗員P1に近づくように傾斜した状態で展開及び膨張する上膨張部51とを備える。下膨張部43は、乗員P1に近い側の表下布部44と、遠い側の裏下布部45とを、上側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成される。上膨張部51は、乗員P1に近い側の表上布部52と、遠い側の裏上布部53とを、下側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成される。表下布部44、裏下布部45及び表上布部52は大布片55により一体に形成され、裏上布部53は、大布片55よりも小さな小布片56により形成され、かつ自身の下側の周縁部において裏下布部45の上側の周縁部に結合される。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の乗物用シートが同乗物用シートの幅方向に並ベられた状態で配置され、かつ同幅方向における両側の部分が一対の側壁部により構成された乗物に適用され、両側壁部のうちの一方を特定側壁部とし、前記特定側壁部に対し、前記乗物の外方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測された場合に、隣り合う前記乗物用シートの間で、膨張用ガスによりエアバッグを展開及び膨張させるファーサイドエアバッグ装置であり、
前記エアバッグの外殻部分を構成するバッグ本体は、前記乗物用シートに着座した乗員の首部よりも下側の部位のうち、少なくとも胸部の側方で展開及び膨張する下膨張部と、前記乗員の前記胸部よりも上側の部位の側方で、上側ほど前記乗員に近づくように傾斜した状態で展開及び膨張する上膨張部とを備え、
前記下膨張部は、前記乗員に近い側の表下布部と、前記乗員から遠い側の裏下布部とを、上側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成され、
前記上膨張部は、前記乗員に近い側の表上布部と、前記乗員から遠い側の裏上布部とを、下側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成され、
前記表下布部、前記裏下布部及び前記表上布部は、大布片により一体に形成され、前記裏上布部は、前記大布片よりも小さな小布片により形成され、かつ自身の下側の周縁部において前記裏下布部の上側の周縁部に結合されているファーサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記乗物用シートは、前記乗員を後ろ側から支えるシートバックを備え、
前記バッグ本体は固定部を備えており、
前記バッグ本体は、前記特定側壁部から遠い側の前記乗物用シートのうち、同特定側壁部に近い側の側部に対し、前記固定部において固定され、
前記下膨張部は、展開及び膨張した状態で、前記特定側壁部に近い側の前記乗物用シートの前記シートバックに接触する接触部を備えている請求項1に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
前記下膨張部は、前記幅方向における膨張厚みが同下膨張部の他の箇所よりも大きな箇所を有しており、
前記膨張厚みの大きな箇所は前記接触部を有している請求項2に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
前記乗物用シートの前記側部に対する前記固定部の固定部分と、前記裏上布部及び前記裏下布部の結合部分との間には外テザーが架け渡されており、
前記外テザーは、前記バッグ本体の展開及び膨張に伴い緊張状態となることで、前記バッグ本体の前方への展開及び膨張を規制する請求項2又は3に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
前記上膨張部は、同上膨張部のうち前記首部の側方となる箇所の前記幅方向における膨張厚みを規制する膨張厚み規制部を備え、
前記膨張厚み規制部は、前記膨張厚みの規制により、前記首部の側方となる箇所における前記膨張厚みを、同箇所に対し上下方向に隣接する箇所の前記幅方向における膨張厚みよりも小さくする請求項1~4のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項6】
前記膨張厚み規制部は、前記上膨張部の内部に配置されて、前記表上布部及び前記裏上布部の間に架け渡されている請求項5に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項7】
前記膨張厚み規制部の前記裏上布部に対する結合箇所は、前記膨張厚み規制部の前記表上布部に対する結合箇所よりも高い箇所に位置する請求項6に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項8】
前記大布片及び前記小布片のそれぞれは、経糸及び緯糸を備える織布により構成されており、
前記表下布部及び前記裏下布部において、上側の周縁部とは異なる周縁部同士は、下周縁縫合部により結合され、
前記表上布部及び前記裏上布部において、下側の周縁部とは異なる周縁部同士は、上周縁縫合部により結合され、
前記裏上布部の下側の周縁部と前記裏下布部の上側の周縁部とは、中間周縁縫合部により結合され、
前記表下布部、前記裏下布部、前記表上布部及び前記裏上布部の境界部では、前記上周縁縫合部、前記下周縁縫合部及び前記中間周縁縫合部が互いに交差しており、
前記境界部では、前記上周縁縫合部、前記下周縁縫合部及び前記中間周縁縫合部が、前記大布片における前記経糸及び前記緯糸の両者に対し交差し、かつ前記小布片における前記経糸及び前記緯糸の両者に対し交差している請求項1~7のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項9】
隣り合う前記乗物用シートの間にはコンソールボックスが設置され、
前記バッグ本体は、前記下膨張部の下端が、前記コンソールボックスの上面よりも下方に位置するように展開及び膨張する請求項1~8のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項10】
前記下膨張部は、前記幅方向における膨張厚みが下側ほど小さくなるように膨張する請求項9に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項11】
前記下膨張部は、前記下端を含む下部と、前記下膨張部が展開及び膨張を完了した状態で、前記下部の上側に隣接する一般部とを備え、
前記下部は、展開及び膨張する前には、前記一般部との境界に設定された折り線に沿って折り曲げられることにより、同一般部の内部に入り込んでいて内折り部を構成しており、
前記折り線の少なくとも一部は、前記内折り部が展開及び膨張を開始する際に前記コンソールボックスの前記上面よりも低い箇所に位置する請求項9又は10に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項12】
前記膨張用ガスを噴出するガス噴出部を有するガス発生器をさらに備え、
前記ガス発生器の少なくとも前記ガス噴出部は前記下膨張部の内部に配置され、
前記下膨張部の内部には、前記ガス発生器の少なくとも前記ガス噴出部を取り囲んだ状態でインナチューブが配置されており、
前記インナチューブは、前記下膨張部内の下方に向かって開口するガス流出口を有している請求項9~11のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項13】
前記バッグ本体は固定部を備えており、
前記バッグ本体は、前記特定側壁部から遠い側の前記乗物用シートのうち、同特定側壁部に近い側の側部に対し、前記固定部において固定され、
前記膨張用ガスは、ガス発生器から供給されるものであり、
前記ガス発生器は、長尺状の本体部で生成した前記膨張用ガスをガス噴出部から噴出するインフレータと、前記インフレータを、前記バッグ本体の前記固定部と一緒に前記乗物用シートの前記側部に固定するリテーナとを備え、
前記リテーナは、板状の基部と、前記基部に固定され、かつ前記側部に締結される締結突起とを備え、
前記基部は、自身の厚み方向を前記幅方向に合致させた状態で配置され、
前記締結突起は、前記幅方向に延び、かつ前記基部に挿通された軸部と、前記軸部の一方の端部に設けられて前記基部に固定された頭部とを備え、
前記締結突起は、前記インフレータの軸線から前後方向へずれた箇所に配置され、前記頭部と前記本体部とは、前記幅方向にオーバラップしている請求項1~12のいずれか1項に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【請求項14】
前記本体部は円柱状をなし、
前記インフレータのうち、少なくとも前記ガス噴出部は前記バッグ本体の固定部内に挿入され、
前記リテーナは、前記基部から前記本体部の外周面に沿って延びて、同本体部の周方向の少なくとも一部を取り囲む保持部をさらに備え、
前記固定部、前記本体部及び前記保持部は締結具により取り囲まれ、
前記固定部及び前記本体部は、前記締結具が縮径されることにより前記保持部に締付けられている請求項13に記載のファーサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物における側壁部に対し外方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測された場合に、その側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員をエアバッグによって保護するファーサイドエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車幅方向に複数の車両用シートが並設された車両の中には、ファーサイドエアバッグ装置が搭載されたものがある。このタイプのエアバッグ装置におけるエアバッグの外殻部分は、織布からなるバッグ本体によって構成される。バッグ本体は、折り畳まれることによりコンパクトな収納用形態にされて、車両用シートのうち、隣の車両用シートに近い側の側部内にガス発生器とともに固定される。
【0003】
そして、側突等により、車両のサイドドア等の側壁部に対し、側方や斜め前側方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測された場合には、ガス発生器から膨張用ガスが噴出される。この膨張用ガスにより、バッグ本体が膨張して上記側部から出て、隣り合う車両用シートの間で展開及び膨張される。衝撃の加わった側壁部から遠い側の車両用シートに着座している乗員の上半身は、慣性により、その側壁部側の側方や斜め前側方へ移動しようとするが、上記バッグ本体によって受け止められ、衝撃から保護される。
【0004】
上記ファーサイドエアバッグ装置の一形態として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。このエアバッグ装置におけるバッグ本体は、下膨張部と、下膨張部よりも容量の少ない上膨張部とを備える。下膨張部と上膨張部とは互いに独立している。ガス発生器は、容量の多い下膨張部内に配置される。
【0005】
下膨張部は、乗員の首部よりも下側の部位であって、少なくとも胸部の側方で展開及び膨張する。上膨張部は、乗員の胸部よりも上側の部位、より具体的には首部及び頭部の側方で、上側ほど乗員に近づくように傾斜した状態で展開及び膨張する。
【0006】
上膨張部は下膨張部上に重ねられた状態で配置される。上膨張部の下端部と、下膨張部の上端部とには、上膨張部の内部空間と下膨張部の内部空間とを連通させる連通孔がそれぞれ形成される。そして、上膨張部及び下膨張部は、連通孔の周囲に設けられた縫合部により相互に結合される。
【0007】
上記特許文献1に記載されたファーサイドエアバッグ装置によると、車両に対する衝撃の検出又は予測に応じて、ガス発生器から下膨張部に膨張用ガスが供給される。この膨張用ガスにより、下膨張部が展開及び膨張を開始する。下膨張部内の膨張用ガスの一部は、連通孔を通って上膨張部に流入する。そのため、下膨張部の展開及び膨張の開始に遅れて、上膨張部の展開及び膨張が開始される。
【0008】
そして、乗員の胸部が下膨張部によって受け止められて衝撃から保護される。首部及び頭部が上膨張部によって受け止められて衝撃から保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記特許文献1に記載されたファーサイドエアバッグ装置では、下膨張部と上膨張部とが互いに独立していて、連通孔においてのみ連通している。バッグ本体では、膨張用ガスにより、まず下膨張部が展開及び膨張する。下膨張部がある程度展開及び膨張した後に、同下膨張部内の膨張用ガスが連通孔を通って上膨張部に供給される。そのため、バッグ本体の膨張の初期には、下膨張部の内圧が高くなる。下膨張部は、高い内圧に耐え得るように、繊度の高い糸からなる織布によって形成される必要がある。しかし、糸の繊度が高くなるに従い、織布の厚みが増し、折り畳まれて収納用形態にされたときのバッグ本体の大きさが大きくなる。バッグ本体を車両用シートに収納する際に大きなスペースが必要となり、収納性が低下する。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、バッグ本体の膨張時における耐圧性を確保しつつ収納性の向上を図ることのできるファーサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するファーサイドエアバッグ装置は、複数の乗物用シートが同乗物用シートの幅方向に並ベられた状態で配置され、かつ同幅方向における両側の部分が一対の側壁部により構成された乗物に適用され、両側壁部のうちの一方を特定側壁部とし、前記特定側壁部に対し、前記乗物の外方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測された場合に、隣り合う前記乗物用シートの間で、膨張用ガスによりエアバッグを展開及び膨張させるファーサイドエアバッグ装置であり、前記エアバッグの外殻部分を構成するバッグ本体は、前記乗物用シートに着座した乗員の首部よりも下側の部位のうち、少なくとも胸部の側方で展開及び膨張する下膨張部と、前記乗員の前記胸部よりも上側の部位の側方で、上側ほど前記乗員に近づくように傾斜した状態で展開及び膨張する上膨張部とを備え、前記下膨張部は、前記乗員に近い側の表下布部と、前記乗員から遠い側の裏下布部とを、上側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成され、前記上膨張部は、前記乗員に近い側の表上布部と、前記乗員から遠い側の裏上布部とを、下側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成され、前記表下布部、前記裏下布部及び前記表上布部は、大布片により一体に形成され、前記裏上布部は、前記大布片よりも小さな小布片により形成され、かつ自身の下側の周縁部において前記裏下布部の上側の周縁部に結合されている。
【0013】
上記の構成によれば、特定側壁部に対し、乗物の外方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は加わることが予測された場合、エアバッグに膨張用ガスが供給され、同エアバッグが隣り合う乗物用シートの間で、展開及び膨張する。特定側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員の上半身は、慣性により、その特定側壁部側の側方や斜め前側方へ移動しようとする。しかし、乗員の首部よりも下側の部位のうち、少なくとも胸部は下膨張部によって受け止められ、乗員の胸部よりも上側の部位は上膨張部によって受け止められる。これらの受け止めにより、乗員の上半身が衝撃から保護される。
【0014】
特に、上膨張部は、上側ほど乗員に近づくように傾斜するため、傾斜しない場合よりも頭部に近づく。乗員の胸部よりも上側の部位は、早期に上膨張部に接触し、同上膨張部によって受け止められる。
【0015】
ここで、バッグ本体の形成に用いられる布片は、大布片及び小布片といった大きさの異なる2種類の布片である。大布片は、表下布部、裏下布部及び表上布部を有し、小布片は裏上布部を有する。表下布部及び裏下布部が、上側の周縁部とは異なる周縁部において結合されることにより、下膨張部が形成される。表上布部及び裏上布部が、下側の周縁部とは異なる周縁部において結合されることにより、上膨張部が形成される。表上布部及び表下布部は大布片の一部であって、互いに繋がっている。さらに、裏上布部の下側の周縁部と、裏下布部の上側の周縁部とが結合されている。上記バッグ本体では、上膨張部が下端部において下膨張部の上端部に繋がった状態となる。バッグ本体における下膨張部及び上膨張部は、互いに繋がって一体となった、1つの容量の大きな膨張部とみなすことができる。
【0016】
従って、膨張用ガスは、バッグ本体の膨張の初期から下膨張部及び上膨張部に供給される。バッグ本体の内圧は、同バッグ本体の膨張の初期に、膨張用ガスが専ら下膨張部に供給される場合(特許文献1がこれに該当する)の同下膨張部の内圧よりも低くなる。上記内圧に耐え得る布部として、特許文献1に記載されたバッグ本体における布部よりも、繊度の低い糸からなる布部を用いることが可能となる。繊度の低い糸からなる布部は、繊度の高い糸からなる布部よりも薄い。従って、折り畳まれて収納用形態にされたときのバッグ本体の大きさが小さくなる。収納用形態のバッグ本体を乗物用シートに収納するのに必要なスペースが小さくなり、収納性が向上する。
【0017】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記乗物用シートは、前記乗員を後ろ側から支えるシートバックを備え、前記バッグ本体は固定部を備えており、前記バッグ本体は、前記特定側壁部から遠い側の前記乗物用シートのうち、同特定側壁部に近い側の側部に対し、前記固定部において固定され、前記下膨張部は、展開及び膨張した状態で、前記特定側壁部に近い側の前記乗物用シートの前記シートバックに接触する接触部を備えていることが好ましい。
【0018】
特定側壁部側の側方や斜め側方へ移動しようとする乗員の上半身によって下膨張部が押されると、同下膨張部が固定部を支点として、特定側壁部に近い乗物用シート側へ倒れようとする。
【0019】
しかし、上記の構成によれば、下膨張部における接触部が、特定側壁部に近い側の乗物用シートにおけるシートバックに接触し、下膨張部がシートバックによって受け止められる。下膨張部がそれ以上倒れることをシートバックによって規制される。その結果、乗員の上半身の移動を規制して同上半身を衝撃から保護する下膨張部の性能が高められる。
【0020】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記下膨張部は、前記幅方向における膨張厚みが同下膨張部の他の箇所よりも大きな箇所を有しており、前記膨張厚みの大きな箇所は前記接触部を有していることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、下膨張部のうち、乗物用シートの幅方向における膨張厚みが、同下膨張部の他の箇所よりも大きな箇所の一部は接触部として機能する。この接触部が、特定側壁部に近い側の乗物用シートのシートバックに接触することで、下膨張部の移動が規制される。
【0022】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記乗物用シートの前記側部に対する前記固定部の固定部分と、前記裏上布部及び前記裏下布部の結合部分との間には外テザーが架け渡されており、前記外テザーは、前記バッグ本体の展開及び膨張に伴い緊張状態となることで、前記バッグ本体の前方への展開及び膨張を規制することが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、バッグ本体の展開及び膨張に伴い外テザーが引っ張られる。外テザーは、乗物用シートの上記側部に対する固定部の固定部分と、裏上布部及び裏下布部の結合部分との間で緊張状態になる。すると、バッグ本体の前方への展開及び膨張が外テザーにより規制される。この規制により、下膨張部が特定側壁部側へ展開及び膨張しやすくなる。接触部を、特定側壁部に近い側の乗物用シートのシートバックに対し、より的確に接触させることが可能となる。
【0024】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記上膨張部は、同上膨張部のうち前記首部の側方となる箇所の前記幅方向における膨張厚みを規制する膨張厚み規制部を備え、前記膨張厚み規制部は、前記膨張厚みの規制により、前記首部の側方となる箇所における前記膨張厚みを、同箇所に対し上下方向に隣接する箇所の前記幅方向における膨張厚みよりも小さくすることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、上膨張部のうち、乗員の首部の側方となる箇所の膨張厚みが膨張厚み規制部によって規制される。ここで、乗員の上半身のうち、頭部を衝撃から保護する観点からは、上膨張部のうち、頭部の側方となる箇所の膨張厚みが大きいことが要求される。また、乗員の上半身のうち、肩部を衝撃から保護する観点からは、下膨張部のうち、肩部の側方となる箇所の膨張厚みが大きいことが要求される。
【0026】
従って、上記の構成によるように、上膨張部のうち首部の側方となる箇所の上記幅方向における膨張厚みが、同箇所に対し上下方向に隣接する箇所における膨張厚みよりも小さくされることで、上膨張部のうち、頭部の側方となる箇所の膨張厚みを、首部の側方となる箇所の膨張厚みよりも大きくすることが可能である。また、下膨張部のうち、肩部の側方となる箇所の膨張厚みを、首部の側方となる箇所の膨張厚みよりも大きくすることが可能である。
【0027】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記膨張厚み規制部は、前記上膨張部の内部に配置されて、前記表上布部及び前記裏上布部の間に架け渡されていることが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、上膨張部に膨張用ガスが供給されると、同上膨張部は展開及び膨張する。この展開及び膨張により、表上布部及び裏上布部が乗物用シートの幅方向のうち互いに遠ざかる側へ拡がろうとする。しかし、表上布部及び裏上布部の上記動きに伴い膨張厚み規制部が引っ張られて、上記方向へ引っ張られる。膨張厚み規制部が緊張状態になることで、表上布部及び裏上布部において膨張厚み規制部が結合された箇所のそれ以上の膨張が規制される。この規制により、上膨張部のうち、首部の側方となる箇所における膨張厚みが、同箇所に対し上下方向に隣接する箇所における膨張厚みよりも小さくなる。
【0029】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記膨張厚み規制部の前記裏上布部に対する結合箇所は、前記膨張厚み規制部の前記表上布部に対する結合箇所よりも高い箇所に位置することが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、上膨張部の展開及び膨張に伴い膨張厚み規制部が緊張状態になると、裏上布部において膨張厚み規制部が結合された箇所に対し、表上布部において膨張厚み規制部が結合された箇所に向かう力(引っ張り力)が作用する。そのため、上膨張部は、上側ほど乗員に近づくように傾斜した状態により一層なりやすくなる。
【0031】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記大布片及び前記小布片のそれぞれは、経糸及び緯糸を備える織布により構成されており、前記表下布部及び前記裏下布部において、上側の周縁部とは異なる周縁部同士は、下周縁縫合部により結合され、前記表上布部及び前記裏上布部において、下側の周縁部とは異なる周縁部同士は、上周縁縫合部により結合され、前記裏上布部の下側の周縁部と前記裏下布部の上側の周縁部とは、中間周縁縫合部により結合され、前記表下布部、前記裏下布部、前記表上布部及び前記裏上布部の境界部では、前記上周縁縫合部、前記下周縁縫合部及び前記中間周縁縫合部が互いに交差しており、前記境界部では、前記上周縁縫合部、前記下周縁縫合部及び前記中間周縁縫合部が、前記大布片における前記経糸及び前記緯糸の両者に対し交差し、かつ前記小布片における前記経糸及び前記緯糸の両者に対し交差していることが好ましい。
【0032】
ここで、仮に、上記境界部において、上周縁縫合部の端末部、下周縁縫合部の端末部、及び中間周縁縫合部の端末部のいずれか1つでも他から離間していて、端末部間に隙間があると、バッグ本体の内部の膨張用ガスが、上記隙間を通ってバッグ本体の外部に漏れ出るおそれがある。
【0033】
この点、上記の構成によれば、境界部では、上周縁縫合部、下周縁縫合部及び中間周縁縫合部が互いに交差していて、端末部間に隙間がない。そのため、隙間が原因で、バッグ本体の内部の膨張用ガスが外部に漏れ出ることが起こりにくい。
【0034】
さらに、上記境界部において、上周縁縫合部、下周縁縫合部及び中間周縁縫合部のいずれか1つでも、大布片における経糸及び緯糸、小布片における経糸及び緯糸のいずれかに対し平行であると、次の現象が起こる懸念がある。その現象とは、周縁縫合部に対し交差する方向の力が縫い代に加わった場合、経糸及び緯糸のうち周縁縫合部に対し平行関係にある糸が同周縁縫合部から遠ざかる側へ動いて、縫い代における織りの組織が崩れたり、上記糸が縫い代から脱落したりすることである。
【0035】
この点、上記の構成によれば、上記境界部では、上周縁縫合部、下周縁縫合部及び中間周縁縫合部が、大布片における経糸及び緯糸の両者に対し交差し、かつ小布片における経糸及び緯糸の両者に対し交差している。経糸及び緯糸のうち周縁縫合部に対し平行関係にあるものがない。そのため、周縁縫合部に対し交差する方向の力が縫い代に加わっても、縫い代を構成する経糸及び緯糸が周縁縫合部から遠ざかる側へ動きにくい。縫い代における織りの組織が崩れたり、経糸及び緯糸が縫い代から脱落したりすることが抑制される。
【0036】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、隣り合う前記乗物用シートの間にはコンソールボックスが設置され、前記バッグ本体は、前記下膨張部の下端が、前記コンソールボックスの上面よりも下方に位置するように展開及び膨張することが好ましい。
【0037】
上記の構成によれば、下膨張部の少なくとも下端を含む部分は、コンソールボックスと乗員との間で展開及び膨張する。下膨張部が展開及び膨張を完了した状態では、同下膨張部のうち、コンソールボックスの上面よりも低い部分は、コンソールボックスと乗員との間に入り込んだ状態となる。下膨張部の上記部分は、コンソールボックスに接触することで、それ以上、特定側壁部側へ動くことを、コンソールボックスによって規制される。その結果、下膨張部のうち、コンソールボックスの上面よりも低い部分の位置が安定する。
【0038】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記下膨張部は、前記幅方向における膨張厚みが下側ほど小さくなるように膨張することが好ましい。
上記の構成によるように、幅方向における下膨張部の膨張厚みが下側ほど小さいと、同下膨張部はコンソールボックスと乗員との間に入り込みやすい。
【0039】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記下膨張部は、前記下端を含む下部と、前記下膨張部が展開及び膨張を完了した状態で、前記下部の上側に隣接する一般部とを備え、前記下部は、展開及び膨張する前には、前記一般部との境界に設定された折り線に沿って折り曲げられることにより、同一般部の内部に入り込んでいて内折り部を構成しており、前記折り線の少なくとも一部は、前記内折り部が展開及び膨張を開始する際に前記コンソールボックスの前記上面よりも低い箇所に位置することが好ましい。
【0040】
ここで、仮に、下膨張部の下端を含む下部が、折り線に沿って一般部の外側に折り曲げられた場合、同下部が折り線を中心として回転することで、折りの解消が行なわれる。この回転の際、上記下部がコンソールボックスの上面に当って乗り上げ、同コンソールボックスと乗員との間に入り込みにくくなるおそれがある。
【0041】
この点、上記の構成によれば、下膨張部が展開及び膨張する過程で、一般部の内部に入り込んでいる内折り部に対し、膨張用ガスによる下方へ向かう力が作用する。この力により、内折り部が一般部から下方へ向けて真っ直ぐ押し出される。しかも、内折り部が展開及び膨張を開始する際、折り線の少なくとも一部が、コンソールボックスの上面よりも低い箇所に位置する。従って、上記下部がコンソールボックスの上面に当たりにくく、コンソールボックスと乗員との間に入り込みやすくなる。
【0042】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記膨張用ガスを噴出するガス噴出部を有するガス発生器をさらに備え、前記ガス発生器の少なくとも前記ガス噴出部は前記下膨張部の内部に配置され、前記下膨張部の内部には、前記ガス発生器の少なくとも前記ガス噴出部を取り囲んだ状態でインナチューブが配置されており、前記インナチューブは、前記下膨張部内の下方に向かって開口するガス流出口を有していることが好ましい。
【0043】
ここで、コンソールボックスと乗員の上半身との間の隙間は元々狭い。これに加え、特定側壁部に衝撃が加わると、乗員の上半身が、慣性により、その特定側壁部側、すなわちコンソールボックス側へ移動する。時間の経過に従い、コンソールボックスと乗員との隙間がさらに狭くなる。下膨張部の展開及び膨張が遅く開始されると、同下膨張部は上記隙間に入り込むことが難しくなる。
【0044】
この点、上記の構成によれば、ガス発生器のガス噴出部から膨張用ガスが噴出されると、その膨張用ガスはインナチューブ内を流れる。膨張用ガスは、インナチューブのガス流出口を通り、下膨張部内の下方に向かって流れる。そのため、下膨張部は下方へ向けて早期に展開及び膨張し、コンソールボックスと乗員との隙間に入り込みやすくなる。
【0045】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記バッグ本体は固定部を備えており、前記バッグ本体は、前記特定側壁部から遠い側の前記乗物用シートのうち、同特定側壁部に近い側の側部に対し、前記固定部において固定され、前記膨張用ガスは、ガス発生器から供給されるものであり、前記ガス発生器は、長尺状の本体部で生成した前記膨張用ガスをガス噴出部から噴出するインフレータと、前記インフレータを、前記バッグ本体の前記固定部と一緒に前記乗物用シートの前記側部に固定するリテーナとを備え、前記リテーナは、板状の基部と、前記基部に固定され、かつ前記側部に締結される締結突起とを備え、前記基部は、自身の厚み方向を前記幅方向に合致させた状態で配置され、前記締結突起は、前記幅方向に延び、かつ前記基部に挿通された軸部と、前記軸部の一方の端部に設けられて前記基部に固定された頭部とを備え、前記締結突起は、前記インフレータの軸線から前後方向へずれた箇所に配置され、前記頭部と前記本体部とは、前記幅方向にオーバラップしていることが好ましい。
【0046】
リテーナとして、基部及び締結突起を備え、かつ締結突起が軸部及び頭部を備えるものを用いる場合、締結突起の前後方向における位置と、インフレータの軸線の前後方向における位置とが仮に同じであると、上記幅方向におけるガス発生器の寸法が大きくなる問題がある。この寸法は、主としてインフレータの本体部の外径から影響を受けるが、そのほかにも、基部の厚みと、軸部の基部からの突出長さと、頭部の厚みとからも影響を受ける。
【0047】
この点、上記の構成によれば、締結突起は、インフレータの軸線から前後方向へずれた箇所に配置される。しかも、締結突起の頭部とインフレータの本体部とが、幅方向にオーバラップする。ガス発生器の幅方向における寸法は、頭部の厚みからは影響を受けない。そのため、頭部の分、ガス発生器の幅方向における寸法が小さくなる。ガス発生器を乗物用シートの側部に搭載する場合、搭載に必要な上記幅方向のスペースが小さくて済み、搭載性が向上する。
【0048】
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記本体部は円柱状をなし、前記インフレータのうち、少なくとも前記ガス噴出部は前記バッグ本体の固定部内に挿入され、前記リテーナは、前記基部から前記本体部の外周面に沿って延びて、同本体部の周方向の少なくとも一部を取り囲む保持部をさらに備え、前記固定部、前記本体部及び前記保持部は締結具により取り囲まれ、前記固定部及び前記本体部は、前記締結具が縮径されることにより前記保持部に締付けられていることが好ましい。
【0049】
上記の構成によれば、バッグ本体の固定部、インフレータの本体部及び保持部を取り囲む締結具が縮径されることにより、固定部及び本体部が保持部に締付けられる。保持部は基部に接続されている。そのため、上記締付けにより、インフレータ及び固定部は保持部を介して基部に取付けられる。
【0050】
また、保持部が本体部の周方向の一部のみを取り囲む場合には、同保持部が、ガス発生器の幅方向における寸法に影響しない箇所に位置すれば、保持部が本体部の周方向における全ての領域を取り囲む場合に比べ、同寸法を小さくすることが可能である。
【発明の効果】
【0051】
上記ファーサイドエアバッグ装置によれば、バッグ本体の膨張時における耐圧性を確保しつつ収納性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】車両用のファーサイドエアバッグ装置に具体化した第1実施形態を示す図であり、同エアバッグ装置が搭載された車両の部分平面図。
【
図2】第1実施形態において、車両用シート、バッグ本体、コンソールボックス及び乗員を車両前方から見た概略断面図。
【
図3】第1実施形態において、エアバッグモジュールが組み込まれたシートバックの側部の内部構造を示す部分平断面図。
【
図4】第1実施形態において、ファーサイドエアバッグ装置が設けられた車両用シート及びその周辺部分を乗員及びバッグ本体とともに示す部分側面図。
【
図5】第1実施形態において、エアバッグモジュール及びコンソールボックスを助手席側から見た側面図。
【
図6】第1実施形態におけるバッグ本体、膨張厚み規制部及びインナチューブを展開した状態で示す展開図。
【
図7】第1実施形態において、バッグ本体が非膨張展開形態にされたエアバッグモジュールを運転席側から見た側面図。
【
図10】第1実施形態において、バッグ本体が非膨張展開形態にされたエアバッグモジュールを助手席側から見た側面図。
【
図13】第1実施形態におけるエアバッグモジュールの内部構造を示す側断面図。
【
図14】第1実施形態における膨張厚み規制部を示す図であり、(a)はバッグ本体が非膨張展開形態にされたときの部分断面図、(b)はバッグ本体が展開及び膨張されたときの部分断面図。
【
図15】第1実施形態におけるエアバッグモジュールの後部の内部構造を示す図であり、バッグ本体が非膨張展開形態にされたときのインナチューブをガス発生器及びバッグ本体とともに示す部分平断面図。
【
図16】(a)~(d)は、第1実施形態におけるバッグ本体が展開及び膨張して乗員を保護する様子を説明する模式図。
【
図17】(a)~(c)は、第1実施形態におけるバッグ本体が展開及び膨張して乗員を保護する様子を説明する模式図。
【
図19】第2実施形態におけるリテーナと、締結具によりリテーナに締結されたインフレータとを助手席側から見た側面図。
【
図20】第2実施形態におけるリテーナと、締結具によりリテーナに締結されたインフレータとを運転席側から見た側面図。
【
図21】第2実施形態におけるリテーナと、締結具によりリテーナに締結されたインフレータとを下方から見た底面図。
【
図22】
図6に対応する図であり、第2実施形態における外テザーを示すとともに、バッグ本体、膨張厚み規制部及びインナチューブを展開した状態で示す展開図。
【
図23】
図10に対応する図であり、バッグ本体が非膨張展開形態にされたエアバッグを助手席側から見た側面図。
【
図24】
図23における裏上布部及び裏下布部の境界部分(結合部分)を下方へ反転させた状態で示すエアバッグの側面図。
【
図26】エアバッグが折り畳まれて収納用形態にされたエアバッグモジュールを示す図であり、外テザーが上側の締結突起に係止される前の状態を運転席側から見た側面図。
【
図27】
図26の状態から外テザーが折り返されて上側の締結突起に係止された状態を運転席側から見た側面図。
【
図28】
図16(d)に対応する図であり、第2実施形態におけるバッグ本体が展開及び膨張して乗員を保護する様子を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0053】
(第1実施形態)
以下、車両用のファーサイドエアバッグ装置に具体化した第1実施形態について、
図1~
図17を参照して説明する。
【0054】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が、予め定められた正規の姿勢で着座しているものとする。
【0055】
図1に示すように、車両10の左右方向における両側部は、ドア、ピラー等からなる側壁部11,12によって構成されている。車室内には、車両用シート13,14が、左右方向に並べられた状態で配置されている。側壁部11に近い側の車両用シート13は運転席として機能するものであり、ここに乗員(運転者)P1が着座する。側壁部12に近い側の車両用シート14は助手席として機能するものであり、ここに乗員P2が着座する。両車両用シート13,14間の下部には、コンソールボックス18が設置されている。車両用シート13,14は互いに同様の構成を有している。そのため、ここでは一方の車両用シート13についてのみ説明し、車両用シート14については説明を省略する。
【0056】
図2及び
図4に示すように、車両用シート13は、シートクッション15、シートバック16及びヘッドレスト17を備えている。シートクッション15は、乗員P1が着座する箇所であり、前後方向における位置を調整可能に構成されている。シートバック16は、乗員P1の上半身を後方から支えるためのものである。シートバック16は、シートクッション15の後方から起立し、かつ傾斜角度を調整可能に構成されている。ヘッドレスト17は、乗員P1の頭部PHを後方から支えるためのものであり、シートバック16上に配置されている。
【0057】
車両用シート13は、シートバック16が前方を向く姿勢で配置されている。このように配置された車両用シート13の幅方向は、左右方向と合致する。
図3は、車両用シート13におけるシートバック16であって、車両用シート14側の側部21の内部構造を示している。シートバック16の内部には、その骨格部分をなすシートフレームが配置されている。
【0058】
側部21の内部には、シートフレームの一部を構成するサイドフレーム部22が配置されている。サイドフレーム部22は、金属板を曲げ加工等することによって形成されている。
【0059】
サイドフレーム部22を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド23が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード24が配置されている。なお、シートパッド23は表皮によって被覆されているが、
図3ではその表皮の図示が省略されている。
【0060】
シートパッド23内において、サイドフレーム部22よりも車両用シート14側には、収納部25が設けられている。収納部25には、ファーサイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールABMが組み込まれている。
【0061】
収納部25の前部の角部からは、車両用シート14側の斜め前側方に向けてスリット26が延びている。シートパッド23の前側の角部23cとスリット26とによって挟まれた箇所(
図3において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、エアバッグ41によって破断される破断予定部27を構成している。
【0062】
エアバッグモジュールABMは、エアバッグ41と、これに膨張用ガスを供給するガス発生器31とを主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。
【0063】
<ガス発生器31>
図3及び
図13に示すように、ガス発生器31は、インフレータ32と、そのインフレータ32を覆うリテーナ33とを備えている。ここでは、インフレータ32として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ32は円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生する図示しないガス発生剤が収容されている。インフレータ32は、その上端部にガス噴出部32aを有している。また、インフレータ32の下端部には、同インフレータ32への作動信号の入力配線となる図示しないケーブルが接続されている。
【0064】
なお、インフレータ32としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0065】
一方、リテーナ33は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、インフレータ32をエアバッグ41と一緒にサイドフレーム部22に締結する機能を有する部材である。リテーナ33の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ33の互いに上下方向へ離間した複数箇所、第1実施形態では2箇所には、同リテーナ33をサイドフレーム部22に取付けるための部材として、車両用シート14から遠ざかる方向へ延びるボルト34が固定されている。なお、ガス発生器31は、インフレータ32とリテーナ33とが一体になったものであってもよい。
【0066】
<エアバッグ41>
エアバッグ41の外殻部分はバッグ本体42によって構成されている。
<バッグ本体42>
図5及び
図7は、バッグ本体42が膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた形態(以下「非膨張展開形態」という)のエアバッグモジュールABMを示している。また、
図13は、エアバッグモジュールABMの内部構造を示している。
【0067】
図5、
図7及び
図13に示すようにバッグ本体42は、下膨張部43及び上膨張部51を備えている。下膨張部43は、乗員P1の首部PNよりも下側の部位のうち、少なくとも胸部PT、第1実施形態では、胸部PT、腹部PB等の側方で展開及び膨張する(
図2、
図4参照)。
【0068】
下膨張部43は、乗員P1に近い側の表下布部44と、乗員P1から遠い側の裏下布部45とを備えている。下膨張部43は、表下布部44と裏下布部45とを、上側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成されている。この結合は、下周縁縫合部61によってなされている。
【0069】
図2に示すように、下膨張部43は、左右方向の膨張厚みが上端部で最大となり、下側ほど徐々に小さくなり、下端部で最小となるように形成されている。下膨張部43は、上端部に、隣の車両用シート14のシートバック16に接触する接触部46を有している。
【0070】
下膨張部43は、展開及び膨張したときに、下端部が次の条件を満たす形状及び大きさとなるように形成されている。その条件とは、下膨張部43の下端が、コンソールボックス18の上面18tよりも下方に位置することである。
【0071】
上膨張部51は、乗員P1の胸部PTよりも上側の部位の側方で、上側ほど乗員P1に近づくように傾斜した状態で展開及び膨張する。
図5及び
図7に示すように、上膨張部51は、乗員P1に近い側の表上布部52と、乗員P1から遠い側の裏上布部53とを備えている。上膨張部51は、表上布部52と裏上布部53を、下側の周縁部とは異なる周縁部において結合させることにより形成されている。この結合は、上周縁縫合部62によってなされている。
【0072】
図6に示すように、表下布部44、裏下布部45及び表上布部52は、大布片55により一体に形成されている。裏上布部53は、上記大布片55よりも小さな小布片56によって形成されている。大布片55及び小布片56は、基布、パネル布等とも呼ばれる。
【0073】
大布片55の幅方向における中央部には、上下方向に延びる折り線57が設定されている。大布片55は、折り線57に沿って折り曲げられている。大布片55は、折り線57が後方に位置するように配置される。この折り曲げにより、裏下布部45が表下布部44に対し重ね合わされている。上記裏下布部45は、自身の上部に、上方へ突出する突部45aを有している。
【0074】
裏上布部53の形状は、大布片55における表上布部52の形状に対し線対称の関係を有している。裏上布部53は、自身の下部に、下方へ突出する突部53aを有している。
裏上布部53における突部53aの周縁部、すなわち、裏上布部53の下側の周縁部は、裏下布部45の突部45aの周縁部、すなわち、裏下布部45の上側の周縁部に対し結合されている。この結合は、中間周縁縫合部63によってなされている。
【0075】
上記下周縁縫合部61、上周縁縫合部62及び中間周縁縫合部63は、それぞれ布部を縫製(縫糸で縫合)することにより形成されている。
上記縫製に関し、第1実施形態では、2つの線種によって縫製部分が表現されている。1つ目の線種は、一定長さの太線を断続的に並べて表現した線である。この線種は、縫糸を側方から見た状態を示している(例えば、
図5における上周縁縫合部62参照)。2番目の線種は、点を一定間隔おきに並べて表現した線である。この線種は、縫製部分を通る面における縫糸の断面を示している(例えば、
図13における上周縁縫合部62参照)。これらの点は、後述する表縫合部74、裏縫合部75、共通縫合部76及び縫合部86についても同様である。
【0076】
なお、第1実施形態では、折り線57が下膨張部43の後端部に位置するように大布片55が二つ折りされているが、折り線57が他の端部、例えば前端部、下端部等に位置するように大布片55が二つ折りされてもよい。
【0077】
図11及び
図12に示すように、大布片55及び小布片56は、高い強度と可撓性とを有する織布によって形成されている。大布片55及び小布片56は、経糸64及び緯糸65を織成することによって形成されている。なお、
図11及び
図12では、経糸64及び緯糸65が一部のみ図示されている。この点は、
図8及び
図9についても同様である。経糸64と緯糸65は互いに直交する方向へ延びている。経糸64及び緯糸65としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド等からなる合成繊維の糸を用いることができる。
【0078】
大布片55では、各経糸64及び各緯糸65が、いずれも折り線57に対し、一定の角度で傾斜している。第1実施形態では、上記角度は45°に設定されている。
小布片56では、同小布片56が大布片55に結合された状態で、経糸64及び緯糸65の一方が、上記折り線57に平行であり、他方が折り線57に対し直交している。第1実施形態では、経糸64が折り線57に平行であり、緯糸65が折り線57に対し直交している。
【0079】
表下布部44、裏下布部45、表上布部52及び裏上布部53の境界部66では、上記下周縁縫合部61、上周縁縫合部62及び中間周縁縫合部63が互いに交差している。境界部66では、下周縁縫合部61、上周縁縫合部62及び中間周縁縫合部63のいずれもが、大布片55における経糸64及び緯糸65の両者に対し傾斜している。また、境界部66では、下周縁縫合部61、上周縁縫合部62及び中間周縁縫合部63のいずれもが、小布片56における経糸64及び緯糸65の両者に対し傾斜している。
【0080】
図7及び
図10に示すように、互いに重ね合わされた表下布部44及び裏下布部45のそれぞれの後下端部では、下周縁縫合部61による縫合がなされていない。この箇所は、ガス発生器31の挿入口67を構成している。下膨張部43における挿入口67の上方近傍は、バッグ本体42をサイドフレーム部22に固定するための固定部68を構成している。
【0081】
上記のようにして、バッグ本体42が構成されている。ここで、
図6に示すように、バッグ本体42の形成に用いられる布片は、大布片55及び小布片56といった大きさの異なる2種類の布片である。大布片55は、表下布部44、裏下布部45及び表上布部52を有し、小布片56は裏上布部53を有している。表下布部44と裏下布部45とが、上側の周縁部とは異なる周縁部において結合されることにより、下膨張部43が形成される。表上布部52と裏上布部53とが、下側の周縁部とは異なる周縁部において結合されることにより、上膨張部51が形成される。表上布部52及び表下布部44は大布片55の一部であって、互いに繋がっている。さらに、裏上布部53の突部53aにおける下側の周縁部と、裏下布部45の突部45aにおける上側の周縁部とが結合されている。
【0082】
上記のように、裏上布部53が、下側の周縁部とは異なる周縁部において表上布部52の周縁部に結合され、下側の周縁部において裏下布部45の上側の周縁部に結合されたバッグ本体42では、上膨張部51が下端部において下膨張部43の上端部に繋がった状態となる。
【0083】
従って、バッグ本体42における下膨張部43及び上膨張部51は、互いに繋がって一体となった、1つの容量の大きな膨張部とみなすことができる。
<膨張厚み規制部71>
図2に示すように、エアバッグ41は、上膨張部51内において、首部PNの側方となる箇所に膨張厚み規制部71を備えている。膨張厚み規制部71は、上膨張部51の上記箇所における左右方向の膨張厚みを、次の条件を満たすように規制するためのものである。その条件とは、首部PNの側方となる箇所における左右方向の膨張厚みを、同箇所に対し上下方向に隣接する箇所における左右方向の膨張厚みよりも小さくすることである。
【0084】
図6及び
図14(a),(b)に示すように、膨張厚み規制部71は、上膨張部51の内部に配置された、テザーと呼ばれる帯状の布を備えている。膨張厚み規制部71は、乗員P1に近い側の表布部72と、乗員P1から遠い側の裏布部73とを備えている。表布部72及び裏布部73は、バッグ本体42と同様の素材によって形成されている。表布部72は、表上布部52に対し、表縫合部74によって結合されている。同様に、裏布部73は、裏上布部53に対し、裏縫合部75によって結合されている。表布部72及び裏布部73は、共通縫合部76によって相互に結合されている。こうした結合態様により、膨張厚み規制部71は、表上布部52及び裏上布部53の間に架け渡されている。
【0085】
図14(a)に示すように、表布部72及び裏布部73は、エアバッグ41が非膨張展開形態にあるとき、左右方向に重ねられた状態となる。この状態では、表縫合部74及び裏縫合部75は左右方向に重ねられた状態となる。共通縫合部76は、表縫合部74及び裏縫合部75から上下方向へずれた箇所に位置する。第1実施形態では、共通縫合部76は、表縫合部74及び裏縫合部75よりも上方に位置するが、下方に位置してもよい。
図14(b)に示すように、バッグ本体42の展開及び膨張に伴い膨張厚み規制部71は、表布部72及び裏布部73が緊張状態になることで、上膨張部51における首部PNの側方となる箇所の膨張厚みを規制する。
【0086】
<インナチューブ81>
図6、
図13及び
図15に示すように、エアバッグ41は、下膨張部43内の後部にインナチューブ81を備えている。インナチューブ81は、ガス発生器31の少なくともガス噴出部32aを取り囲んでいる。インナチューブ81は、ガス噴出部32aから噴出された膨張用ガスを下方へ向かうように整流する機能を有している。
【0087】
インナチューブ81の形成のために、バッグ本体42と同様の素材からなる1枚の布片82が用いられている。布片82の左右方向における中央部には、上下方向へ延びる折り線83が設定されている。布片82は、折り線83に沿って二つ折りされて、左右方向に重ね合わされている。ここでは、インナチューブ81の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、乗員P1に近い側に位置するものを表布部84といい、乗員P1から遠い側に位置するものを裏布部85というものとする。左右方向に重ね合わされた表布部84及び裏布部85の上部及び前上部は、縫合部86によって相互に結合されている。
【0088】
また、左右方向に重ね合わされた表布部84及び裏布部85の下部は、上記下周縁縫合部61の一部によって、表下布部44及び裏下布部45に共縫いされている。表布部84及び裏布部85の後端縁(折り線83)を除く2箇所には、相互に結合されていない箇所が設けられている。一方の箇所はガス流出口87を構成し、他方の箇所はガス発生器31の挿入口88を構成している。ガス流出口87は、下膨張部43内の下方に向かって開口している。
【0089】
インナチューブ81は、折り線83が大布片55の折り線57に合致させられ、かつ挿入口88が挿入口67に合致させられた状態で、図示しない縫合部によってバッグ本体42に結合されている。
【0090】
インナチューブ81は、ガス流出口87よりも上方に開口89を有している。開口89は、下膨張部43内を左右方向へ流れる膨張用ガスの流量を調整するために設けられている。第1実施形態では、開口89が、裏布部85に形成されていて、膨張用ガスが左右方向のうち乗員P1から遠ざかる側へ多く流れるようにされている。これとは逆に、開口89が表布部84に形成されてもよいし、裏布部85及び表布部84のそれぞれに形成されてもよい。
【0091】
なお、インナチューブ81は、折り線83が自身の前端部に位置するように二つ折りされてもよい。この場合には、インナチューブ81における表布部84及び裏布部85は、それらの後端部において相互に結合されることになる。また、インナチューブ81は、表布部84及び裏布部85が折り線83に沿って分離されたものであってもよい。
【0092】
そして、
図5及び
図13に示すように、ガス発生器31が略上下方向へ延びる姿勢にされたうえで、同ガス発生器31の全体が、略下方から挿入口67,88を通じて、バッグ本体42の後端部内であって、インナチューブ81内に挿入されている。さらに、
図15に示すように、ボルト34が挿入口67,88の上方で表布部84及び表下布部44に挿通されることにより、同ガス発生器31がインナチューブ81及びバッグ本体42に対し位置決めされた状態で係止されている。ボルト34の多くの部分は、バッグ本体42の外部に露出されている。
【0093】
ところで、ガス発生器31及びエアバッグ41を主要な構成部材として有するエアバッグモジュールABMは、
図5において実線で示す非膨張展開形態のエアバッグ41が折り畳まれることにより、同
図5において二点鎖線で示すようにコンパクトな収納用形態にされている。エアバッグ41が収納用形態にされたエアバッグモジュールABMは、
図3に示す収納部25に収納されている。そして、バッグ本体42から露出するボルト34が、サイドフレーム部22に対し、隣の車両用シート14側から挿通され、同ボルト34にナット35が締付けられている。この締付けにより、ガス発生器31が、バッグ本体42の固定部68及びインナチューブ81と一緒にサイドフレーム部22に固定されている。
【0094】
なお、ガス発生器31は、上述したボルト34及びナット35とは異なる部材によってサイドフレーム部22に固定されてもよい。また、リテーナ33が用いられることなくインフレータ32がサイドフレーム部22に直接固定されてもよい。
【0095】
ファーサイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールABMのほかに、
図4に示す衝撃センサ91及び制御装置92を備えている。衝撃センサ91は加速度センサ等からなり、側壁部11,12等に設けられており、同側壁部11,12に外方から加えられる衝撃を検出する。制御装置92は、コンピュータプログラム(ソフトウエア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウエア回路、あるいはそれらの組合わせ、を含む回路として構成されている。制御装置92は、衝撃センサ91からの検出信号に基づきガス発生器31の作動を制御する。第1実施形態では、制御装置92は、衝撃センサ91が一対の側壁部11,12のうち一方に対し、外方から衝撃が加わったことを検出した場合に、ガス発生器31に対し、同ガス発生器31を作動させるための作動信号を出力する。
【0096】
さらに、
図1における車両用シート13の側壁部11側の側部には、図示しないニアサイドエアバッグ装置が設けられている。ニアサイドエアバッグ装置は、側壁部11に外方から衝撃が加わった場合に、その側壁部11と同車両用シート13との間でエアバッグを展開及び膨張させて乗員P1を拘束し、衝撃から保護するタイプのサイドエアバッグ装置である。また、
図1における車両用シート14の側壁部12側の側部にも、上記と同様のニアサイドエアバッグ装置が設けられている。
【0097】
また、車室内には、車両用シート13に着座している乗員P1を同車両用シート13に拘束するための図示しないシートベルト装置と、車両用シート14に着座している乗員P2を同車両用シート14に拘束するための図示しないシートベルト装置とが設けられている。
【0098】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
上述したように、バッグ本体42における下膨張部43及び上膨張部51は、互いに繋がって一体となった、1つの容量の大きな膨張部とみなすことができる。そのため、バッグ本体42の内圧は、同バッグ本体42の膨張の初期に、膨張用ガスが専ら下膨張部に供給される場合(特許文献1がこれに該当する)の同下膨張部の内圧よりも低くなる。上記内圧に耐え得る布部として、特許文献1に記載されエアバッグにおける布部よりも、繊度の低い糸からなる布部を用いることができる。繊度の低い糸からなる布部は、繊度の高い糸からなる布部よりも薄く柔らかい。従って、バッグ本体42は折り畳みやすく、折り畳み性に優れる。また、折り畳まれて収納用形態にされたときのバッグ本体42の大きさが小さくなる。バッグ本体42が収納用形態にされたエアバッグモジュールABMを車両用シート13に搭載するのに必要なスペースが小さくなる。小さな収納部25に対してもエアバッグモジュールABMを収納することができ、収納性が向上する。
【0099】
ところで、
図1及び
図4において、車両10の走行中等に、側壁部11,12に対し外方から所定値以上の衝撃が加わったことが衝撃センサ91によって検出されないときには、制御装置92からガス発生器31に対し、上記作動信号が出力されず、膨張用ガスが噴出されない。バッグ本体42は、
図3に示すように、収納用形態で収納部25に収納され続ける。
【0100】
両側壁部11,12の一方、例えば、側壁部12が特定側壁部とされて、この側壁部12に対し、
図1において矢印で示すように、側突等による衝撃が側方から加わると、衝撃の加わった側壁部12から遠い側である運転席側の乗員P1の上半身が、慣性により側壁部12側へ移動しようとする。この移動には、側壁部12側へ倒れ込む動きも含まれる。
【0101】
これに対し、側壁部12に外方から所定値以上の衝撃が加わったことが
図4の衝撃センサ91によって検出されると、その検出信号に応じ制御装置92からガス発生器31に対し、上記作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ32の上端部のガス噴出部32aから膨張用ガスが噴出される。膨張用ガスは、収納用形態のエアバッグ41のうち、ガス噴出部32aが配置された下膨張部43に供給される。この膨張用ガスにより、下膨張部43が展開及び膨張を開始する。
【0102】
ガス発生器31の少なくともガス噴出部32aがインナチューブ81によって取り囲まれた第1実施形態では、ガス噴出部32aから噴出された膨張用ガスはインナチューブ81内を流れる。
図13に示すように、膨張用ガスの一部は、インナチューブ81のガス流出口87を通り、下膨張部43内の下方に向かって流れる。下膨張部43に膨張用ガスが供給されることで、同下膨張部43の内圧が上昇する。下膨張部43は、折りを解消しながら、すなわち展開しながら前方及び下方へ膨張することを開始する。
【0103】
また、上記下膨張部43を経由した膨張用ガスは上膨張部51に供給される。ここで、上述したように、バッグ本体42における下膨張部43及び上膨張部51は、互いに繋がって一体となっている。従って、膨張用ガスは、下膨張部43を経由して上膨張部51へ供給されるとはいえ、バッグ本体42の膨張の初期のうち比較的早い時期から下膨張部43だけでなく上膨張部51にも供給される。供給された膨張用ガスにより上膨張部51が、下膨張部43の展開及び膨張の開始から若干遅れて展開及び膨張を開始する。
【0104】
上記のように展開及び膨張する下膨張部43及び上膨張部51は、
図3における収納部25の近くでシートパッド23を押圧し、破断予定部27においてシートパッド23を破断させる。その後も膨張用ガスの供給が続けられることにより、下膨張部43は、固定部68及びその周辺部分を収納部25内に残した状態で、同収納部25から車両用シート13の外部へ出る。
【0105】
コンソールボックス18と乗員P1との間の隙間は元々狭い。これに加え、乗員P1の上半身が慣性により、衝撃の加わった側へ移動するために、上記隙間は時間の経過とともに狭くなる。下膨張部43の展開及び膨張が遅く開始されると、同下膨張部43は上記隙間に入り込むことが難しくなる。
【0106】
この点、第1実施形態では、上述したように、ガス噴出部32aから噴出された膨張用ガスが、インナチューブ81によって下膨張部43に対し優先的に供給される。また、膨張用ガスは、インナチューブ81の整流作用を受けて、下膨張部43の下方に向けて流れる。そのため、膨張用ガスの供給開始後、比較的短時間で下膨張部43の内圧が上昇し、同下膨張部43の展開及び膨張が開始される。しかも、下膨張部43は、左右方向の膨張厚みが下側ほど小さくなるように膨張する。そのため、下膨張部43の下端部は上記のような狭い隙間に入り込みやすい。
【0107】
その後も膨張用ガスが供給される下膨張部43は、
図16(a)~(c)に示すように、車両用シート13,14間を前上方へ向けて展開及び膨張する。下膨張部43は、乗員P1の胸部PT及び腹部PBの側方に位置する。
【0108】
図16(c)に示すように、下膨張部43は、展開及び膨張する過程で、乗員P1の腕部PAに対し下方から接触し、その腕部PAを押し上げる。
側壁部12側へ移動しようとする乗員P1の腕部PA、胸部PT及び腹部PBによって下膨張部43が押される。この押圧によって、下膨張部43が固定部68を支点として、隣の車両用シート14側へ倒れようとする。
【0109】
この点、第1実施形態では、下膨張部43の下端部は、コンソールボックス18と乗員P1との間で展開及び膨張する。下膨張部43においてコンソールボックス18の上面18tよりも低い部分は、コンソールボックス18と乗員P1との間に入り込んだ状態となる。下膨張部43の上記部分は、コンソールボックス18に接触することで、それ以上、側壁部12側へ動くことを、コンソールボックス18によって規制される。下膨張部43のうち、コンソールボックス18の上面18tよりも低い部分の位置が安定する。
【0110】
下膨張部43は、左右方向の膨張厚みが上端部で最大となるように膨張する。そのため、下膨張部43の上端部の接触部46は、車両用シート14のシートバック16のうち、車両用シート13側の側部に接触する。この接触により、下膨張部43がシートバック16によって受け止められる。下膨張部43は、それ以上倒れることをシートバック16によって規制される。胸部PT及び腹部PBは、上記シートバック16に対し、接触部46において接触した下膨張部43によって受け止められ、側方への移動を規制される。乗員P1の上半身の移動を規制して、同上半身を衝撃から保護するエアバッグ41の性能が高められる。
【0111】
また、
図2及び
図16(d)に示すように、下膨張部43を経由した膨張用ガスが上膨張部51に供給されると、同上膨張部51が乗員P1の首部PN及び頭部PHの側方で、上側ほど乗員P1に近づくように傾斜した状態で展開及び膨張する。上膨張部51は、傾斜しない場合よりも頭部PHに近づく。上膨張部51と頭部PHとの間隔は、同上膨張部51が傾斜しない場合よりも狭い。そのため、胸部PT及び腹部PBが上述したように下膨張部43によって受け止められた状態で、乗員P1の首部PN及び頭部PHが慣性により、側壁部12側へ移動しようとすると、
図17(a),(b)に示すように、すぐに上膨張部51に接触する。上膨張部51は、側壁部12側へ移動しようとする頭部PHや腕部PAによって押される。しかし、上述した接触部46のシートバック16との接触により上膨張部51がそれ以上倒れることを同シートバック16によって規制される。
図17(c)に示すように、頭部PH及び腕部PAは、シートバック16によって動きを規制された上膨張部51によって受け止められ、側方への動きを規制される。すなわち、首部PN及び頭部PHが拘束されて、衝撃から保護される。
【0112】
上記上膨張部51の膨張に伴い、表上布部52及び裏上布部53が左右方向のうち互いに遠ざかる側へ拡がろうとする。しかし、表上布部52及び裏上布部53の上記動きに伴い、表上布部52及び裏上布部53の間に架け渡された膨張厚み規制部71が上記方向へ引っ張られる。
図14(b)に示すように、膨張厚み規制部71が緊張状態になることで、表上布部52及び裏上布部53において膨張厚み規制部71が結合された箇所のそれ以上の膨張が規制される。
【0113】
また、頭部PHを衝撃から保護する観点からは、上膨張部51のうち、頭部PHの側方となる箇所の膨張厚みが大きいことが要求される。また、肩部PSを衝撃から保護する観点からは、下膨張部43のうち、肩部PSの側方となる箇所の膨張厚みが大きいことが要求される。
【0114】
この点、第1実施形態では、膨張厚みの上記規制により、上膨張部51のうち、首部PNの側方となる箇所における膨張厚みが、同箇所に対し上下方向に隣接する箇所における膨張厚みよりも小さくなる。
【0115】
そのため、上膨張部51のうち、頭部PHの側方となる箇所の膨張厚みを、首部PNの側方となる箇所の膨張厚みよりも大きくすることができる。また、下膨張部43のうち、肩部PSの側方となる箇所の膨張厚みを、首部PNの側方となる箇所の膨張厚みよりも大きくすることができる。その結果、乗員P1の頭部PH及び肩部PSを、衝撃からエアバッグ41によって効率よく保護することができる。
【0116】
ここで、仮に、上記境界部66において、下周縁縫合部61の端末部、上周縁縫合部62の端末部、及び中間周縁縫合部63の端末部のいずれか1つでも他から離間していて、端末部間に隙間があると、バッグ本体42の内部の膨張用ガスが、上記隙間を通ってバッグ本体42の外部に漏れ出るおそれがある。膨張用ガスの漏出が原因でバッグ本体42の内圧が低下する。
【0117】
この点、第1実施形態では、
図8、
図9、
図11及び
図12に示すように、上周縁縫合部62、下周縁縫合部61及び中間周縁縫合部63が互いに交差していて、端末部間に隙間がない。そのため、隙間が原因で、バッグ本体42の内部の膨張用ガスが外部に漏れ出るのを抑制することができる。
【0118】
さらに、境界部66において、下周縁縫合部61、上周縁縫合部62及び中間周縁縫合部63のいずれか1つでも、大布片55における経糸64及び緯糸65、又は小布片56における経糸64及び緯糸65のいずれかに対し平行であると、次の現象が起こる懸念がある。その現象とは、縫い代に対し、周縁縫合部(下周縁縫合部61、上周縁縫合部62、中間周縁縫合部63)に対し交差する方向へ力が加わった場合、経糸64及び緯糸65のうち周縁縫合部に対し平行関係にある糸が同周縁縫合部から遠ざかる側へ動いて、縫い代における織りの組織が崩れたり、上記糸が縫い代から脱落したりすることである。
【0119】
この点、第1実施形態の境界部66では、下周縁縫合部61、上周縁縫合部62及び中間周縁縫合部63が、大布片55における経糸64及び緯糸65の両者に対し交差し、かつ小布片56における経糸64及び緯糸65の両者に対し交差している。経糸64及び緯糸65のうち周縁縫合部に対し平行関係にある糸がない。そのため、縫い代に対し、周縁縫合部に対し交差する方向へ力が加わっても、縫い代を構成する経糸64及び緯糸65が周縁縫合部から遠ざかる側へ動きにくい。縫い代における織りの組織が崩れたり、経糸64及び緯糸65が縫い代から脱落したりすることが抑制される。
【0120】
なお、上記実施形態とは逆に、
図1における側壁部11が特定側壁部とされて、この側壁部11に対し外方から衝撃が加わった場合については説明しないが、上記と同様の作用が行なわれて、車両用シート14に着座している乗員P2が衝撃から保護される。
【0121】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・特許文献1に記載されたバッグ本体では、下膨張部と上膨張部とが独立していて、両膨張部を、連通孔を介して連通するように結合している。この結合構造を採ると、バッグ本体を形成するために、最低でも3枚の布片が必要となる。連通孔を有する表下布部と、連通孔を有する表上布部とが用いられ、互いの連通孔が合致するように、表下布部と表上布部とが重ねられる。このことから、表下布部と表上布部とは別々の布片によって構成される。表下布部と表上布部とを、連通孔の周りで結合させるために、表上布部と裏上布部とは別々の布片によって構成される。このようにして、3枚の布片が用いられる。
【0122】
もちろん、表下布部と裏下布部として、別々の布片が用いられてもよく、この場合には、4枚の布片が用いられることになる。このように、特許文献1に記載されたエアバッグは多くの枚数の布片が必要となる。
【0123】
また、エアバッグの形成に際しては、表下布部の周縁部及び裏下布部の周縁部を縫合する作業と、表下布部と表上布部とを、連通孔の周りで結合させる作業と、表上布部の周縁部及び裏上布部の周縁部を縫合する作業とが行なわれる。このことから、エアバッグを形成する作業が大変である。
【0124】
この点、第1実施形態では、下膨張部43と上膨張部51とを連通させた状態で繋ぎ、バッグ本体42を全体として1つの膨張部によって構成している。そのために、バッグ本体42を、表下布部44、表上布部52及び裏下布部45を有する大布片55と、裏上布部53を有する小布片56とによって形成している。そのため、少ない布片によってバッグ本体42を形成することができる。エアバッグ41を折り畳んで収納用形態にしたときの厚みを小さくすることができ、収納部25に対する収納性がよい。
【0125】
また、第1実施形態では、小布片56の周縁部を大布片55の周縁部に縫合させることで、小布片56を大布片55に結合させてバッグ本体42を形成しているため、特許文献1に記載された技術よりも簡単にバッグ本体42を形成することができる。
【0126】
・左右方向の膨張厚みを、上下方向のどの箇所でも一定となるように下膨張部43を膨張させることによっても、同下膨張部43を隣の車両用シート14のシートバック16に接触させることができる。しかし、その場合には、下膨張部43の容量が不要に大きくなってしまう。
【0127】
この点、第1実施形態では、膨張厚みが上端部で最大となるように下膨張部43を形成している。すなわち、下膨張部43の左右方向の膨張厚みを、部分的に大きくしている。この膨張厚みの大きな箇所を隣の車両用シート14との接触部46としている。そのため、下膨張部43の容量を少なくすることができる。
【0128】
(第2実施形態)
次に、車両用のファーサイドエアバッグ装置の第2実施形態について、
図18~
図28を参照して、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0129】
<ガス発生器31>
図19~
図21に示すように、ガス発生器31は、インフレータ32及びリテーナ101を備えている。インフレータ32は、第1実施形態で用いられたものと同様の構成を有している。第1実施形態では、特に説明しなかったが、インフレータ32は、膨張用ガスを生成する長尺状(例えば、円柱状)の本体部32bを備えている。本体部32bの上端部には、膨張用ガスを噴出するガス噴出部32aが設けられている。本体部32bの下端部には、インフレータ32への作動信号の入力配線となるケーブル(図示略)が接続されている。
【0130】
これに対し、
図18及び
図20に示すようにリテーナ101は、第1実施形態におけるリテーナ33と異なる構成を有している。リテーナ101は、リテーナ33と同様に、インフレータ32をエアバッグ41の固定部68と一緒にサイドフレーム部22(
図3参照)に締結する機能を有している。リテーナ101は、基部102、保持部103及び締結突起104を備えている。
【0131】
基部102は、シートバック16の起立方向(高さ方向)に延びる板状をなしている。基部102は、自身の厚み方向を、車両用シート13の上記幅方向(左右方向)に合致させた状態で配置されている(
図18、
図21参照)。
【0132】
保持部103は、基部102の前側の縁部のうち、同基部102の長さ方向に互いに離間した複数の箇所から、インフレータ32の本体部32bの外周面に沿って延びている。各保持部103は、本体部32bの径方向における外方へ膨らむように湾曲しており、同本体部32bの周方向の少なくとも一部を取り囲んでいる。第2実施形態では、各保持部103は、本体部32bの周方向における1/4程度の領域を取り囲んでいる。保持部103は、左右方向におけるガス発生器31の寸法に影響しない箇所に位置している。
【0133】
基部102及び保持部103は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって形成されている。
締結突起104は、基部102において、次の条件を満たす箇所に配置されている。
【0134】
・前後方向については、インフレータ32の軸線L1から同方向へずれた箇所であること(
図20、
図21参照)。
第2実施形態では、締結突起104は、さらに、次の条件を満たす箇所に配置されている。
【0135】
・シートバック16の起立方向、すなわち、基部102の長さ方向については、同方向に互いに離間した複数の箇所であること。
第2実施形態では、締結突起104が2つ用いられている。各締結突起104は、軸部105及び頭部106を備えている。締結突起104毎の軸部105は、左右方向に延びており(
図18、
図21参照)、外周に雄ねじを有している。締結突起104毎の軸部105は、基部102に挿通されている。締結突起104毎の頭部106は、軸部105のうち車両用シート14(側壁部12)に近い側の端部に固定されている。締結突起104毎の頭部106は、基部102の車両用シート14(側壁部12)に近い側の面に接触した状態で、同基部102に対し、溶接等の固定手段によって固定されている。締結突起104毎の頭部106は、インフレータ32の本体部32bに対し、左右方向にオーバラップしている。
【0136】
<エアバッグ41>
図22~
図24に示すように、エアバッグ41は、バッグ本体42に加え、外テザー110を備えている。外テザー110は、帯状の布片によって構成されている。外テザー110は、バッグ本体42と同様の素材によって形成されている。
【0137】
外テザー110の一方の端部110aは、裏上布部53及び裏下布部45の結合部分に対し、縫合等の結合手段によって結合されている。上記端部110aは、上記中間周縁縫合部63が利用されて、裏上布部53及び裏下布部45に結合、この場合、共縫いされてもよい。また、上記端部110aは、上記中間周縁縫合部63とは別の結合手段によって、同中間周縁縫合部63に接近した箇所で、裏上布部53及び裏下布部45に結合されてもよい。
【0138】
図26及び
図27に示すように、外テザー110の他方の端部110bは、車両用シート13の側部21に対する固定部68の固定部分に係止されている。第2実施形態では、この固定部分としてガス発生器31の締結突起104が利用されている。端部110bには孔110cがあけられている。
図24に示すように、外テザー110はバッグ本体42の車両用シート14(側壁部12)側の面に沿って斜め後下方へ延ばされている。さらに、外テザー110は、固定部68の後方を通って、バッグ本体42の車両用シート13(側壁部11)側へ回り込んでいる。そして、
図26及び
図27に示すように、2本の締結突起104のうち、上側に位置する締結突起104の軸部105が上記孔110cに挿通されている。この挿通により、上記端部110bが上側の締結突起104に係止されている。
【0139】
このようにして、外テザー110は、車両用シート13の側部21に対する固定部68の固定部分と、裏上布部53及び裏下布部45の結合部分との間に架け渡されている。
ここで、エアバッグ41が膨張厚み規制部71を備えている点については、第1実施形態と同様である。ただし、第2実施形態では、
図22に示すように、裏縫合部75による裏布部73の裏上布部53に対する結合箇所は、表縫合部74による表布部72の表上布部52に対する結合箇所よりも高い箇所に位置している。
【0140】
さらに、
図23~
図25に示すように、上記下膨張部43は、下部115及び一般部116を備えている。下膨張部43の下部115は、自身の下端を含んでいる。一般部116は、下膨張部43が展開及び膨張を完了した状態で、下部115の上側に隣接する。
【0141】
上記下部115は、展開及び膨張する前には、一般部116との境界に設定された折り線117に沿って折り曲げられている。下部115は、上記折り曲げにより、一般部116の内部に入り込んでいて、内折り部118を構成している。上記折り線117の少なくとも一部は、内折り部118が展開及び膨張を開始する際に、コンソールボックス18の上面18tよりも低い箇所に設定されている。
図23及び
図24では、上面18tが二点鎖線で表現されている。
【0142】
そして、図示はしないが、インフレータ32のうち、少なくともガス噴出部32a、第2実施形態では、インフレータ32の略全体が、バッグ本体42の固定部68内であって、インナチューブ81内に挿入されている。
【0143】
図26に示すように、インフレータ32の本体部32bと、バッグ本体42の固定部68とは、同本体部32bの周方向における一部が保持部103によって取り囲まれるように、リテーナ101に配置されている。
【0144】
固定部68、本体部32b及び保持部103は、締結バンド等の締結具119(
図19、
図20参照)によって取り囲まれている。固定部68及び本体部32bは、締結具119が縮径されることにより、保持部103に対し気密状態で締付けられている。上述したように、保持部103は基部102に接続されている。そのため、上記締付けにより、本体部32b及び固定部68は、保持部103を介して基部102に取付けられている。
【0145】
ところで、上記ガス発生器31及びエアバッグ41を主要な構成部材として有するエアバッグモジュールABMは、
図23に示す非膨張展開形態のエアバッグ41が折り畳まれることにより、
図27に示すようにコンパクトな収納用形態にされている。エアバッグ41は、結束テープ121によって折り畳まれた状態に保持されている。上述したように、外テザー110の端部110bが締結突起104の軸部105に係止されている。エアバッグモジュールABMは、バッグ本体42の大部分をガス発生器31の前方に位置させた状態で、収納部25(
図3参照)に収納されている。各締結突起104の軸部105が、サイドフレーム部22に対し、隣の車両用シート14側から挿通されている。さらに、軸部105に対し、図示しないナットが締付けられている。この締付けにより、ガス発生器31が、バッグ本体42の固定部68及びインナチューブ81と一緒にサイドフレーム部22に固定されている。
【0146】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
次に、上記のように構成された第2実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
【0147】
図21に示すように、第2実施形態では、リテーナ101が、基部102及び締結突起104を備えている。締結突起104が軸部105及び頭部106を備えている。ここで、図示はしないが、仮に、締結突起104の前後方向における位置と、インフレータ32の軸線L1の前後方向における位置とが同じであると、ガス発生器31の左右方向における寸法が大きくなる問題がある。この寸法は、主としてインフレータ32の本体部32bの外径から影響を受けるが、そのほかにも、基部102の厚みと、軸部105の基部102からの突出長さと、頭部106の厚みとからも影響を受ける。
【0148】
この点、第2実施形態によれば、締結突起104は、上記軸線L1から後方へずれた箇所に配置されている。しかも、締結突起104の頭部106と本体部32bとが、左右方向にオーバラップしている。ガス発生器31の左右方向における寸法は、頭部106の厚みからは影響を受けない。そのため、頭部106の分、ガス発生器31の左右方向における寸法が小さくなる。
【0149】
また、第2実施形態では、保持部103が本体部32bの周方向の一部の領域のみを取り囲んでいる。保持部103は、ガス発生器31の左右方向における寸法に影響しない箇所に位置している。そのため、保持部103が本体部32bの周方向における全ての領域を取り囲む場合に比べ、同寸法を小さくすることが可能である。
【0150】
その結果、ガス発生器31を車両用シート13の側部21に搭載する際、搭載に必要な左右方向のスペースが小さくて済み、搭載性が向上する。
ところで、収納用形態にされて収納部25に収容されたエアバッグ41のバッグ本体42は、ガス発生器31から供給される膨張用ガスにより展開及び膨張を開始する。この展開及び膨張の過程で、結束テープ121(
図27参照)が破断される。
【0151】
引き続き供給される膨張用ガスにより展開及び膨張する下膨張部43は、固定部68及びその周辺部分を収納部25内に残した状態で、同収納部25から上膨張部51を伴って車両用シート13の外部へ出る。下膨張部43は、引き続き展開及び膨張する。
【0152】
ここで、図示はしないが、仮に、下膨張部43の下端を含む下部115が、折り線117(
図23参照)に沿って一般部116の外側に折り曲げられた場合、同下部115が折り線117を中心として回転することで、折りの解消が行なわれる。この回転の際、上記下部115がコンソールボックス18の上面18tに当って乗り上げ、同コンソールボックス18と乗員P1との間に入り込みにくくなる。
【0153】
この点、第2実施形態では、
図23~
図25に示すように、下膨張部43が展開及び膨張する過程で、一般部116の内部に入り込んでいる内折り部118に対し、膨張用ガスによる下方へ向かう力が作用する。この力により、内折り部118が一般部116から下方へ向けて真っ直ぐ押し出される。しかも、内折り部118が展開及び膨張を開始する際には、折り線117の少なくとも一部が、上記上面18tよりも低い箇所に位置する。従って、
図28に示すように、下部115が上記上面18tに当たりにくく、コンソールボックス18と乗員P1との間に入り込みやすくなる。
【0154】
その後も膨張用ガスが供給されるバッグ本体42は、展開及び膨張を続ける。バッグ本体42の展開及び膨張に伴い外テザー110が引っ張られる。外テザー110は、車両用シート13の側部21に対する固定部68の固定部分と、裏上布部53及び裏下布部45の結合部分との間で緊張状態になる。バッグ本体42の前方への展開及び膨張が、外テザー110により規制される。この規制により、下膨張部43は車両用シート14(側壁部12)側へ展開及び膨張しやすくなる。接触部46を、車両用シート14のシートバック16のうち、車両用シート13側の側部に対し、より的確に接触させることができる。
【0155】
また、同
図28に示すように、膨張用ガスが上膨張部51に供給されると、同上膨張部51が第1実施形態と同様に、乗員P1の首部PN及び頭部PHの側方で、上側ほど乗員P1に近づくように傾斜した状態で展開及び膨張する。第2実施形態では、さらに、膨張厚み規制部71は、上膨張部51の展開及び膨張に伴い、裏布部73が表布部72よりも高い箇所に位置するように傾斜した姿勢で緊張状態になる。すると、裏上布部53において裏縫合部75によって裏布部73が結合された箇所に対し、表上布部52において表縫合部74によって表布部72が結合された箇所に向かう力(引っ張り力)が作用する。そのため、上膨張部51は、上側ほど乗員P1に近づくように傾斜した状態により一層なりやすくなる。上膨張部51によって首部PN及び頭部PHを早期に受け止めて衝撃から保護する性能がより一層向上する。
【0156】
なお、上記第1及び第2実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0157】
<ガス発生器31について>
・第1実施形態において、ガス発生器31がエアバッグ41の外部に配置されてもよい。この場合、ガス発生器31のガス噴出部32aとバッグ本体42の下膨張部43とをチューブによって連結し、ガス噴出部32aから噴出された膨張用ガスを、チューブを介して下膨張部43に供給してもよい。
【0158】
・第1実施形態において、ガス発生器31のうち少なくともガス噴出部32aが下膨張部43における固定部68の内部に配置されることを条件に、同ガス発生器31の配置態様が変更されてもよい。例えば、ガス発生器31は、ガス噴出部32aとは反対側の端部を含む部分を、下膨張部43から露出させた状態で配置されてもよい。
【0159】
・第2実施形態における締結突起104の頭部106は、軸部105の車両用シート14から遠い側の端部に設けられて基部102に固定されてもよい。
・第2実施形態における締結突起104は、インフレータ32の軸線L1から後方に代えて前方へずれた箇所に配置されてもよい。
【0160】
・第2実施形態において、インフレータ32の本体部32bの周方向の全部の領域が保持部103によって取り囲まれてもよい。
<バッグ本体42について>
・第1及び第2実施形態において、バッグ本体42の固定部68は、サイドフレーム部22に代えて、車両用シート13の側部21を構成する部材のうち、同サイドフレーム部22と同程度に高い剛性を有する部材に固定されてもよい。
【0161】
・バッグ本体42は、上記第1及び第2実施形態のように、同バッグ本体42の略全体が膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0162】
・下膨張部43は、乗員P1,P2の上半身の側方であって、首部PNよりも下側で展開及び膨張するものであることを条件に、上記上半身のうち、第1及び第2実施形態とは異なる部位の側方で展開及び膨張するものに変更されてもよい。
【0163】
例えば、下膨張部43は、上半身のうち、腹部PBよりも上側の部位の側方で展開及び膨張するものであってもよい。また、下膨張部43は、胸部PT及び腹部PBに加え、腰部の側方で展開及び膨張するものであってもよい。
【0164】
・第2実施形態において、折り線117のうち、内折り部118が展開及び膨張を開始する際に、コンソールボックス18の上面18tよりも低い部分は、同折り線117の一部であってもよいし、全部であってもよい。
【0165】
<膨張厚み規制部71、インナチューブ81について>
・第1実施形態において、膨張厚み規制部71が省略されてもよいし、上膨張部51内の複数箇所に設けられてもよい。また、膨張厚み規制部71は下膨張部43に設けられてもよい。
【0166】
・第1及び第2実施形態において、インナチューブ81が適宜省略されてもよい。
<第2実施形態の外テザー110について>
・外テザー110の端部110bは、2本の締結突起104のうち、上側に位置する締結突起104に代え、又は加え、下側に位置する締結突起104に係止されてもよい。
【0167】
・上記端部110bは、リテーナ101において締結突起104とは異なる箇所に係止されてもよい。この場合には、締結突起104とは異なる箇所に、端部110bが係止される箇所が別途設けられることになる。
【0168】
・上記端部110bは、リテーナ101に代えて、サイドフレーム部22に係止されてもよい。
・上記端部110bは、車両用シート13の側部21に対する固定部68の固定部分であることを条件に、同側部21を構成する部材のうち、サイドフレーム部22と同程度に高い剛性を有する部材に係止されてもよい。
【0169】
<その他(第2実施形態に関する事項)>
・第2実施形態では、第1実施形態と異なる構成として、以下の(1)~(4)の構成が採用された。
【0170】
(1)外テザー110の追加
(2)膨張厚み規制部71のバッグ本体42に対する結合箇所の変更
(3)下膨張部43の折り態様(内折り部118の形成)
(4)リテーナ101の形状変更
上記(1)~(4)の構成は、単独で採用されてもよい。また、2つ又は3つの構成が組み合わされて採用されてもよい。
【0171】
<その他(第1及び第2実施形態に共通する事項)>
・制御装置92は、側壁部11,12に対し、側方又は斜め前側方からの衝撃が加わることを予測した場合に、ガス発生器31に作動信号を出力する仕様に変更されてもよい。
【0172】
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、隣り合う車両用シート13,14間にコンソールボックス18が設置された車両10に適用されると、上述したように、バッグ本体42を起立した状態に保持することができ、特に大きな効果が得られる。しかし、上記ファーサイドエアバッグ装置は、コンソールボックスが設置されていない車両にも適用可能である。この場合であっても、バッグ本体の膨張時における耐圧性を確保しつつ収納性の向上を図る効果が得られる。
【0173】
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、シートバック16が車両10の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で複数の車両用シート13,14が配置された車両10にも適用可能である。この場合、車両10において、車両用シート13,14を、それらの幅方向における両側から挟み込む一対の壁部が、特許請求の範囲における一対の側壁部に該当する。
【0174】
・第1及び第2実施形態では、車両用シート13が運転席とされ、車両用シート14が助手席とされたが、車両用シート13,14は、独立したものであれば、車両の後部座席(2列目以降の座席)であってもよい。
【0175】
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、3つ以上の車両用シートがそれらの幅方向に並設された車両にも適用可能である。この場合、車両の特定側壁部に対し、衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測された場合に、隣り合う車両用シートの間でエアバッグを展開及び膨張させる。
【0176】
・上記ファーサイドエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、車両以外の乗物、例えば航空機、船舶等に装備されて、隣り合う乗物用シートの間でエアバッグを展開及び膨張させることで、衝撃の加わる側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員を衝撃から保護するファーサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0177】
10…車両(乗物)
11…側壁部
12…側壁部(特定側壁部)
13,14…車両用シート(乗物用シート)
16…シートバック
18…コンソールボックス
18t…上面
21…側部
31…ガス発生器
32…インフレータ
32a…ガス噴出部
32b…本体部
41…エアバッグ
42…バッグ本体
43…下膨張部
44…表下布部
45…裏下布部
46…接触部
51…上膨張部
52…表上布部
53…裏上布部
55…大布片
56…小布片
61…下周縁縫合部
62…上周縁縫合部
63…中間周縁縫合部
64…経糸
65…緯糸
66…境界部
68…固定部
71…膨張厚み規制部
81…インナチューブ
87…ガス流出口
101…リテーナ
102…基部
103…保持部
104…締結突起
105…軸部
106…頭部
110…外テザー
115…下部
116…一般部
117…折り線
118…内折り部
119…締結具
L1…軸線
P1,P2…乗員
PN…首部
PT…胸部