(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033276
(43)【公開日】2022-02-28
(54)【発明の名称】C/Cコンポジット及びその製造方法、並びに熱処理用治具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/83 20060101AFI20220218BHJP
C04B 35/524 20060101ALI20220218BHJP
C04B 41/83 20060101ALI20220218BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20220218BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20220218BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
C04B35/83
C04B35/524
C04B41/83 E
C04B41/87 G
C04B41/88 V
C04B41/85 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000353
(22)【出願日】2022-01-05
(62)【分割の表示】P 2021544566の分割
【原出願日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2020071269
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 修平
(72)【発明者】
【氏名】町野 洋
(72)【発明者】
【氏名】西 陽子
(57)【要約】
【課題】加熱工程及び冷却工程を含む環境において、長寿命であり、かつ周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い、C/Cコンポジットを提供する。
【解決手段】水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である、C/Cコンポジット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である、C/Cコンポジット。
【請求項2】
水銀ポロシメトリーにより測定された気孔半径に対する開気孔率の分布曲線において、気孔半径が大きい側から小さい側へ向かったときに、前記分布曲線が立ち上がり始める気孔半径が、3.0μm以下である、C/Cコンポジット。
【請求項3】
繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている、請求項1又は2に記載のC/Cコンポジット。
【請求項4】
画像解析により求めた炭素繊維体積含有率が、58%以上、74%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項5】
メソフェーズピッチ系炭素繊維により構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項6】
開気孔の少なくとも一部が、緻密化物質により緻密化されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項7】
前記緻密化物質の少なくとも一部が、CVI処理に由来する炭素である、請求項6に記載のC/Cコンポジット。
【請求項8】
前記緻密化物質の少なくとも一部が、炭化ケイ素である、請求項6又は7に記載のC/Cコンポジット。
【請求項9】
前記緻密化物質の少なくとも一部が、ピッチ又は熱硬化性樹脂に由来する炭素質物質である、請求項6~8のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項10】
前記緻密化物質の少なくとも一部が、リン酸アルミニウム、又はリン酸アルミニウム及び酸化アルミニウムの混合物である、請求項6~9のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。
【請求項11】
炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、請求項1~10のいずれか1項に記載の一方向C/Cコンポジット。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のC/Cコンポジットにより構成されている、熱処理用治具。
【請求項13】
炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、一方向C/Cコンポジットにより構成されている、熱処理用治具。
【請求項14】
オイルクエンチに用いられる、請求項12又は13に記載の熱処理用治具。
【請求項15】
ガスクエンチに用いられる、請求項12又は13に記載の熱処理用治具。
【請求項16】
コーナー部が、組継ぎ接合をピンにより固定した構造を有する、請求項12~15のいずれか1項に記載の熱処理用治具。
【請求項17】
コーナー部が、2DC/Cコンポジットにより補強されている、請求項12~16のいずれか1項に記載の熱処理用治具。
【請求項18】
一方向に揃えられた炭素繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、引き抜き成形することにより、成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成することにより、前記熱硬化性樹脂組成物を炭化させ、C/Cコンポジットを得る工程と、
を備える、C/Cコンポジットの製造方法。
【請求項19】
前記成形体中における炭素繊維体積含有率が、55%以上、75%以下である、請求項18に記載のC/Cコンポジットの製造方法。
【請求項20】
前記C/Cコンポジットにおける開気孔の少なくとも一部を緻密化する、緻密化工程をさらに備える、請求項18又は19に記載のC/Cコンポジットの製造方法。
【請求項21】
前記緻密化工程が、前記C/Cコンポジットの開気孔にピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸させ、炭素化する工程を含む、請求項20に記載のC/Cコンポジットの製造方法。
【請求項22】
前記緻密化工程が、前記C/CコンポジットにCVD処理を施す工程を含む、請求項20又は21に記載のC/Cコンポジットの製造方法。
【請求項23】
前記緻密化工程が、前記C/Cコンポジットの開気孔に溶融シリコンを含浸させ、炭化ケイ素化する工程を含む、請求項20~22のいずれか1項に記載のC/Cコンポジットの製造方法。
【請求項24】
前記緻密化工程が、前記C/Cコンポジットの開気孔にリン酸アルミニウムを含浸させ、熱処理する工程を含む、請求項20~23のいずれか1項に記載のC/Cコンポジットの製造方法。
【請求項25】
C/Cコンポジットにより構成されている、熱処理用治具の製造方法であって、
請求項18~24のいずれか1項に記載のC/Cコンポジットの製造方法を用いて、前記C/Cコンポジットを得る工程を備える、熱処理用治具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C/Cコンポジット及び該C/Cコンポジットの製造方法に関する。また、本発明は、熱処理用治具及び該熱処理用治具の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)は、軽量、高強度、高弾性などの特性を有するため、エレクトロニクス関連、環境エネルギー関連、一般工業炉関連、自動車輸送機器関連などの幅広い分野で使用されている。
【0003】
なかでも、C/Cコンポジットにより構成される熱処理用治具は、軽量であり、変形し難い等の点で、金属製治具より優れている。そのため、ロボット搬送等が必要とされる熱処理用途において、使用が拡大されつつある。
【0004】
このような熱処理用治具を用い、被処理物(例えば、金属製品など)の特性を改善することを目的として、様々な熱処理が行われている。特に、硬度を高めることを目的として、1000℃程度に加熱後、急冷する焼き入れ処理が広く行われている。
【0005】
急冷する方法としては、気体による急冷(ガスクエンチ)や、油による急冷(オイルクエンチ)などが知られている。なかでも、オイルクエンチの場合は、熱処理用治具を構成するC/Cコンポジットに油が浸み込んでしまうという問題がある。
【0006】
このような油の浸み込み防止対策として、下記の特許文献1には、C/Cコンポジットに有機物を含浸させ焼成することにより、気孔に炭素系物質を充填する方法が開示されている。また、下記の特許文献2には、C/Cコンポジットにシリコンを含浸させて気孔を減少させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-162694号公報
【特許文献2】特開2004-067478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、気孔に有機物を含浸させて炭素化する方法や、CVI(化学気相含浸)法により気孔を炭素で充填する方法では、油の浸み込みをなお十分に抑制することができないという問題がある。また、特許文献2のように、シリコンを含浸させる場合においても、炭化ケイ素化の際に体積変化を生じたり、残留したシリコンと、C/Cコンポジット又は炭化ケイ素化したC/Cコンポジットとの熱膨張差により、クラックが発生したりする場合がある。そのため、内部の気孔を十分に減らすことができず、油の浸み込みをなお十分に抑制することができないという問題がある。
【0009】
このように、オイルクエンチによってC/Cコンポジットに油が浸み込んだ場合、焼き入れ後の焼き戻し工程や次回の焼き入れ工程の加熱の際、C/Cコンポジット中に残留した油によって油煙が発生したり、被処理物が着色するなど、製造環境や被処理物の品質に悪影響を及ぼすことがある。
【0010】
また、ガスクエンチなどの他の急冷方法の場合においても、酸化消耗により、C/Cコンポジットの機械的特性が劣化することがあり、長寿命化も難しいという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、加熱工程及び冷却工程を含む環境において、長寿命であり、かつ周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い、C/Cコンポジット及び該C/Cコンポジットの製造方法、並びに上記C/Cコンポジットを用いた熱処理用治具及び該熱処理用治具の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るC/Cコンポジットの広い局面では、水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下であることを特徴としている。
【0013】
本発明に係るC/Cコンポジットの他の広い局面では、水銀ポロシメトリーにより測定された気孔半径に対する開気孔率の分布曲線において、気孔半径が大きい側から小さい側へ向かったときに、前記分布曲線が立ち上がり始める気孔半径が、3.0μm以下であることを特徴としている。
【0014】
本発明においては、前記C/Cコンポジットにおいて、繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっていることが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記C/Cコンポジットの画像解析により求めた炭素繊維体積含有率が、58%以上、74%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、メソフェーズピッチ系炭素繊維により構成されていることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記C/Cコンポジットにおける開気孔の少なくとも一部が、緻密化物質により緻密化されていることが好ましい。
【0018】
本発明においては、前記緻密化物質の少なくとも一部が、CVI処理に由来する炭素であってもよい。
【0019】
本発明においては、前記緻密化物質の少なくとも一部が、炭化ケイ素であってもよい。
【0020】
本発明においては、前記緻密化物質の少なくとも一部が、ピッチ又は熱硬化性樹脂に由来する炭素質物質であってもよい。
【0021】
本発明においては、前記緻密化物質の少なくとも一部が、リン酸アルミニウム、又はリン酸アルミニウム及び酸化アルミニウムの混合物であってもよい。
【0022】
本発明においては、炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、一方向C/Cコンポジットであることが好ましい。
【0023】
本発明に係る熱処理用治具の広い局面では、本発明に従って構成されるC/Cコンポジットにより構成されていることを特徴としている。
【0024】
本発明に係る熱処理用治具の他の広い局面では、炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、一方向C/Cコンポジットにより構成されていることを特徴としている。
【0025】
本発明の熱処理用治具は、オイルクエンチに用いられることが好ましい。
【0026】
本発明の熱処理用治具は、ガスクエンチに用いられることが好ましい。
【0027】
本発明の熱処理用治具は、コーナー部が、組継ぎ接合をピンで固定した構造を有することが好ましい。
【0028】
本発明の熱処理用治具は、コーナー部が、2DC/Cコンポジットにより補強されていてもよい。
【0029】
本発明に係るC/Cコンポジットの製造方法は、一方向に揃えられた炭素繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、引き抜き成形することにより、成形体を得る工程と、前記成形体を焼成することにより、前記熱硬化性樹脂組成物を炭化させ、C/Cコンポジットを得る工程と、を備えることを特徴としている。
【0030】
本発明においては、前記成形体中における炭素繊維体積含有率が、55%以上、75%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明に係るC/Cコンポジットの製造方法では、前記C/Cコンポジットにおける開気孔の少なくとも一部を緻密化する、緻密化工程をさらに備えることが好ましい。
【0032】
本発明においては、前記緻密化工程が、前記C/Cコンポジットの開気孔にピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸させ、炭素化する工程を含んでいてもよい。
【0033】
本発明においては、前記緻密化工程が、前記C/CコンポジットにCVD処理を施す工程を含んでいてもよい。
【0034】
本発明においては、前記緻密化工程が、前記C/Cコンポジットの開気孔に溶融シリコンを含浸させ、炭化ケイ素化する工程を含んでいてもよい。
【0035】
本発明においては、前記緻密化工程が、前記C/Cコンポジットの開気孔にリン酸アルミニウムを含浸させ、熱処理する工程を含んでいてもよい。
【0036】
本発明に係る熱処理用治具の製造方法は、C/Cコンポジットにより構成されている、熱処理用治具の製造方法であって、本発明に従って構成されるC/Cコンポジットの製造方法を用いて、前記C/Cコンポジットを得る工程を備える。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、加熱工程及び冷却工程を含む環境において、長寿命であり、周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い、C/Cコンポジット及び該C/Cコンポジットの製造方法、並びに上記C/Cコンポジットを用いた熱処理用治具及び該熱処理用治具の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、UDC/Cコンポジットの前駆体である成形体を示す模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、UDC/CコンポジットのXZ面を示す写真である。
【
図3】
図3は、UDC/CコンポジットのYZ面を示す写真である。
【
図4】
図4は、組継ぎ接合をピンで固定した構造を有するコーナー部の一例を示す模式的斜視図である。
【
図5】
図5は、2DC/Cコンポジット補強材とボルトにより構成されているコーナー部の一例を示す模式的斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例1、実施例2、及び比較例1の累積開気孔率を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3及び実施例4の累積開気孔率を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1、実施例2、及び比較例1における開気孔率の分布を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例3及び実施例4における開気孔率の分布を示すグラフである。
【
図10】
図10は、気孔半径0.4μm以上の開気孔率と油の浸み込み量との関係を示す実験例の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、気孔半径0.4μm以上、10.0μm未満の開気孔率と油の浸み込み量との関係を示す実験例の結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、開気孔率分布曲線が立ち上がり始める気孔半径と油の浸み込み量との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、2DC/Cコンポジットの前駆体である成形体を示す模式的斜視図である。
【
図14】
図14は、2DC/CコンポジットのXZ面又はYZ面を示す写真である。
【
図15】
図15は、ほぞ継ぎ接合をT字型ピンにより固定した構造を有するコーナー部の一例を示す模式的斜視図である。
【
図16】
図16は、ほぞ継ぎ接合をT字型ピンで固定した構造を有するコーナー部の一例を示す別角度からの模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0040】
(C/Cコンポジット及び熱処理用治具)
本発明のC/Cコンポジットは、炭素繊維強化炭素複合材料である。また、本発明の熱処理用治具は、上記本発明のC/Cコンポジットにより構成されている。
【0041】
第1の発明では、水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である。上記開気孔率は、水銀ポロシメトリーにより測定したC/Cコンポジットの1gあたりの累積細孔容積にかさ密度を乗ずることにより、求めることができる。
【0042】
また、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率は、気孔半径0.4μm以上の開気孔率から気孔半径10μm以上の開気孔率を差し引くことにより求めることができる。なお、水銀ポロシメトリーによる累積細孔容積は、例えば、気孔半径0.003μm~100μmの範囲において測定することができる。
【0043】
このように、本発明者らは、第1の発明において、C/Cコンポジットにおける気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率に着目し、この範囲における開気孔率がオイルクエンチにおける油の浸み込みと相関があることを見出した。すなわち、C/Cコンポジットにおける気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を2.0%以下とすることにより、オイルクエンチによる油の浸み込みを効果的に抑制できることを見出した。また、この場合、C/Cコンポジットの酸化消耗を効果的に抑制できることからガスクエンチにおいても適していることを見出した。
【0044】
なお、気孔半径が10μmより大きい場合、開気孔率の測定において後述するCVD(化学気相成長)法の一種であるCVI(化学的気相含浸)処理による凹凸が反映されることがあり、開気孔率を正確に測定できない場合がある。本発明者らは、気孔半径が0.4μm以上、10μm未満の範囲であれば、CVI処理による凹凸などが反映されずに開気孔率を測定できることを見出した。
【0045】
なお、第1の発明において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.3%以下である。この場合、オイルクエンチによる油の浸み込みや、ガスクエンチによる酸化消耗をより一層抑制することができる。また、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率の下限値は、特に限定されないが、製造上の観点から、例えば、0.1%とすることができる。
【0046】
第2の発明では、水銀ポロシメトリーにより測定された気孔半径に対する開気孔率の分布曲線において、気孔半径が大きい側から小さい側へ向かったときに、分布曲線が立ち上がり始める気孔半径が、3.0μm以下である、C/Cコンポジットを用いる。上記開気孔率分布曲線は、水銀ポロシメトリーにより測定した上記累積開気孔率を気孔半径で微分することにより求めることができる。なお、後述する実施例においても、同様に求めるものとする。
【0047】
以下、開気孔径分布曲線の立ち上がり始める気孔半径の求め方を詳細に説明する。
【0048】
(i)開気孔率の最大値により各気孔率を割り、最大気孔率を100%とする相対開気
孔率分布を得る。
【0049】
(ii)相対開気孔率増分をLog(気孔径)の減分で割り、開気孔率曲線の傾きを得る。
【0050】
(iii)次に、相対気孔分布曲線を気孔の大きい方から小さい方へ見ていったときに、
開気孔率が0%から10%付近まで連続的に増加する領域を探す。
【0051】
(iv)相対開気孔率が連続的に1.0%以上となり、傾きが連続的に0.1%/Log(μm)となった点を、開気孔径分布の立上がり気孔半径とする。
【0052】
このように、本発明者らは、第2の発明において、C/Cコンポジットにおける開気孔率の分布曲線に着目し、この分布曲線が立ち上がり始める気孔半径が、オイルクエンチにおける油の浸み込みと相関があることを見出した。すなわち、この開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径を3.0μm以下とすることにより、オイルクエンチによる油の浸み込みを効果的に抑制できることを見出した。また、この場合、ガスクエンチにおいても、C/Cコンポジットの酸化消耗を効果的に抑制できることを見出した。
【0053】
第2の発明において、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。この場合、オイルクエンチによる油の浸み込みや、酸化消耗をより一層抑制することができる。また、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径の下限値は、特に限定されないが、製造上の観点から、例えば、0.1μmとすることができる。
【0054】
第3の発明では、炭素繊維が一方向に配向している、一方向C/Cコンポジット(UDC/Cコンポジット、以下UDC/Cともいう)を用いる。また、第3の発明では、C/Cコンポジットが、引き抜き成形により形成されている。
【0055】
このように、本発明者らは、第3の発明において、炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、一方向C/Cコンポジットに着目した。このような一方向C/Cコンポジットを用いることにより、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を小さくすることができ、オイルクエンチによる油の浸み込みを効果的に抑制できることを見出した。また、この場合、ガスクエンチにおいても、C/Cコンポジットの酸化消耗を効果的に抑制できることを見出した。
【0056】
なお、UDC/Cコンポジットにおいて、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を小さくすることができる理由については、以下のように説明することができる。
【0057】
C/Cコンポジットは、炭素繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、成形することにより得られた成形体を焼成することによって得ることができる。
【0058】
この際、C/Cコンポジットの前駆体である成形体は、焼成工程において、樹脂成分の熱分解により収縮するが、炭素繊維の繊維方向には収縮できないために、炭素化過程でマトリックスが繊維方向に引き伸ばされる。この際、引き伸ばされた方向と直角方向にも炭素繊維が存在すると直角方向に収縮することができないため、大きな気孔やクラックが発生する場合がある。
【0059】
図13は、2DC/Cコンポジットの前駆体である成形体を示す模式的斜視図である。なお、図中、X方向及びY方向が繊維方向である。また、Z方向はコンポジットの厚み方向である。
【0060】
2方向C/Cコンポジット(2DC/Cコンポジット、以下2DC/Cともいう)の前駆体である成形体(以下、2DC/C成形体)は、X方向及びY方向(2Dクロス平面)に連続した炭素繊維が存在するので、焼成工程で収縮できない。一方、Z方向(厚み方向)には連続した炭素繊維が存在しないので、収縮が可能である。そのため、
図14に写真で示すように、焼成後の2DC/CコンポジットのXZ面又はYZ面を観察すると大きなクラック(気孔)が一定間隔で発生しているのを観察することができる。
【0061】
これに対して、UDC/Cコンポジットは、2DC/Cコンポジットとは異なり、炭素繊維が一方向のみに配列されている。そのため、焼成工程で繊維方向に引き伸ばされたマトリックスは、その垂直方向には収縮することができる。従って、UDC/Cコンポジットでは、クラックや大きな気孔が生じ難い。
【0062】
図1は、UDC/Cコンポジットの前駆体である成形体を示す模式的斜視図である。なお、図中、Y方向が繊維方向である。X方向は、Y方向に直交している。また、Z方向はコンポジットの厚み方向である。
【0063】
図1に示すように、UDC/Cコンポジットでは、Y方向(繊維方向)には連続した炭素繊維が存在するため収縮し難いが、X方向及びZ方向には連続した炭素繊維が存在しないため収縮が可能である。そのため、XZ面、YZ面に大きな気孔やクラックは観察されない。従って、
図2及び
図3に写真で示すように、焼成後のUDC/Cコンポジットでは、開気孔径を小さく、また開気孔率も少なくすることが可能である。このような気孔特性を有するUDC/Cコンポジットは、油の浸み込みを大きく削減可能である。また、上記のような気孔特性を有するUDC/Cコンポジットは、繊維方向の機械的特性が優れるだけでなく、表面積が少ないことから、耐酸化性にも優れる。
【0064】
さらに、UDC/Cコンポジットにおいては、気孔が形成される場合、繊維方向に沿って形成されるため、多くの気孔端面の露出はXZ面のみで発生し、XY面、YZ面では発生しないことが多い。このため、発生した気孔は、緻密化処理で比較的容易に封孔処理することができ、より一層効果的に油の浸み込みを削減できる。また、より一層効果的に酸化消耗も抑制することができる。よって、C/Cコンポジットにおいては、気孔が存在する場合においても、上記のように一方向にのみ連続した気孔を有することが望ましい。
【0065】
このようなUDC/Cコンポジットを用いることにより、第1の発明における開気孔率を小さくすることができ、第2の発明における開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径を小さくすることができる。
【0066】
従って、第1の発明及び第2の発明の気孔特性を有するC/Cコンポジットは、UDC/Cコンポジットである場合に得やすいが、2DC/Cコンポジットにおいても、例えば、通常の処理時間の10倍程度のCVI処理を行うことにより得ることができる。もっとも、生産性や生産コストの観点からは、UDC/Cコンポジットを用いることが好ましい。
【0067】
言い換えれば、本発明においては、第1の発明における開気孔率が上記上限値以下となる限りにおいて、2DC/Cコンポジットであってもよいし、他のC/Cコンポジットであってもよい。また、第2の発明における開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径が上記上限値以下となる限りにおいて、2DC/Cコンポジットであってもよいし、他のC/Cコンポジットであってもよい。
【0068】
このように、第1~第3の発明は、それぞれ単独で用いてもよく、一部又は全部を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
以下、第1~第3の発明を総称して本発明と称する場合があるものとする。
【0070】
本発明のC/Cコンポジット及び熱処理用治具によれば、オイルクエンチによる油の浸み込みが生じ難い。そのため、オイルクエンチ後の焼き戻し工程や次回の焼き入れ処理時に油煙が発生することを抑制することができ、被処理物の着色を生じ難くすることができる。従って、製造環境や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い。また、本発明の熱処理用治具によれば、ガスクエンチなどの他の冷却方法においても、酸化消耗が生じ難く、耐酸化性に優れている。従って、機械的特性に優れた長寿命の治具とすることができる。さらに、C/Cコンポジットの表面をSUS等からなる金属等のカバーで覆うことにより、より一層長寿命化することもできる。よって、本発明によれば、加熱工程及び冷却工程を含む環境において、長寿命であり、かつ周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い、C/Cコンポジット、また、それを用いた品質に優れた熱処理用治具を提供することができる。
【0071】
本発明の熱処理用治具は、油の浸み込みが生じ難いので、オイルクエンチ用途に好適に用いることができる。また、酸化消耗が生じ難いので、ガスクエンチ用途にも好適に用いることができる。
【0072】
さらに、C/Cコンポジットにメソフェーズピッチ系高強度炭素繊維を用いれば、耐酸化性が高く、高強度である熱処理治具が得られ、ガスクエンチ用途に好適であり、他の機械的強度を要する部材にも用いることができる。
【0073】
本発明において、C/Cコンポジットの気孔は、緻密化物質により緻密化されていてもよい。この場合、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満における開気孔率や、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径をより一層小さくすることができる。従って、油の浸み込みや、酸化消耗をより一層抑制することができる。
【0074】
緻密化物質としては、特に限定されず、CVI処理由来の炭素、ピッチ、熱硬化性樹脂由来の炭素質物質、炭化ケイ素、リン酸アルミニウム、又はリン酸アルミニウム及び酸化アルミニウムの混合物等を用いることができる。なお、これらは、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
なお、UDC/Cコンポジットのように、気孔を有する場合においても、C/Cコンポジットの繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多いことが望ましい。この場合、緻密化物質によって、より一層容易に封孔することができ、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満における開気孔率や、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径をより一層小さくすることができる。従って、油の浸み込みや、酸化消耗をより一層抑制することができる。
【0076】
(C/Cコンポジット及び熱処理用治具の製造方法)
以下に、本発明のC/Cコンポジット及び熱処理用治具の製造方法の一例を示す。なお、本発明の熱処理用治具の製造方法では、C/Cコンポジットにより構成されている熱処理用治具が製造される。
【0077】
具体的には、まず、炭素繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、成形することにより成形体を得る。
【0078】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)や、ピッチ系炭素繊維を用いることができる。炭素繊維としては、一方向に引き揃えられた炭素繊維を用い、UDC/Cコンポジットとすることが好ましい。熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂のみにより構成されていてもよいし、熱硬化性樹脂と添加物を含んでいてもよい。熱硬化性樹脂組成物は、ピッチを含んでいてもよい。また、成形体は、引き抜き成形により成形することが好ましい。この場合、炭素繊維をより一方向に揃えやすく、より高い炭素繊維体積含有率の成形体を得ることができる。成形体の形状は、特に限定されないが、例えば、平板状や、丸棒状とすることができる。
【0079】
なお、UDC/Cコンポジットは、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を炭素繊維トウに含浸させたプリプレグを一方向に並べ金型成形によって得てもよい。
【0080】
次に、成形体を焼成することにより、熱硬化性樹脂組成物を炭化させ、C/Cコンポジットを得る。
【0081】
焼成工程は、通常製造中のC/Cコンポジットの酸化を防ぐために窒素ガス雰囲気下などの非酸化雰囲気下で行うことが望ましい。
【0082】
焼成温度は、特に限定されないが、例えば、700℃以上、1300℃以下とすることができる。焼成時間は、特に限定されないが、例えば、最高温度保持時間を30分以上、600分以下とすることができる。
【0083】
また、さらに高密度のC/Cコンポジットを得るためにピッチ含浸/焼成を繰り返し行ってもよい。ピッチ含浸/焼成工程は、例えば、1回以上、10回以下の回数を繰り返し行うことができる。
【0084】
本発明においては、C/Cコンポジットにおける開気孔の少なくとも一部を緻密化する、緻密化工程をさらに備えていてもよい。この場合、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満における開気孔率や、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径をより一層小さくすることができる。従って、油の浸み込みや、酸化消耗をより一層抑制することができる。
【0085】
緻密化工程としては、例えば、C/Cコンポジットの開気孔にピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸させ、炭素化する工程を用いることができる。
【0086】
緻密化工程は、CVI処理を施す工程であってもよい。
【0087】
緻密化工程は、C/Cコンポジットの開気孔に溶融シリコンを含浸させ、炭化ケイ素化する工程であってもよい。
【0088】
また、緻密化工程は、C/Cコンポジットの開気孔にリン酸アルミニウムを含浸させ、熱処理する工程であってもよい。
【0089】
これらの緻密化工程は、単独で用いてもよく、複数の工程を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
クラック等の入っていない良好な状態のUDC/Cコンポジットは、ピッチ含浸、樹脂含浸、CVI処理、シリコン含浸、リン酸アルミニウム含浸などの手法により、容易に開気孔率を低減することが可能である。これはUDC/Cコンポジットの気孔半径が2DC/Cコンポジットに比べ小さく、また気孔形状が繊維に平行な形状をしているため、容易に開気孔の入り口を塞ぎ、開気孔を閉気孔化することができるためである。それによって、油の浸み込み量を従来の2DC/Cにおける油の浸み込み量の90%以下である1体積%以下とすることができ、条件によっては実質的にゼロとすることができる。
【0091】
もっとも、2DC/Cコンポジットにおいても、例えば、通常の処理時間の10倍程度のCVI処理を行うことによって油の浸み込み量を低減できる。もっとも、生産性や生産コストの観点からは、UDC/Cコンポジットを用いることが好ましい。
【0092】
(繊維体積含有率)
状態の良いC/Cコンポジットを得るためには、炭素繊維体積含有率(Vf)の制御が非常に重要なファクターとなる。Vfが低すぎれば、樹脂の多い部分と少ない部分が発生するために樹脂の多い部分において焼成後にクラックが発生してしまう。Vfが高すぎれば、引き抜き成形の際、摩擦が大きすぎて引き抜けなかったり、成形体が変形したりすることがある。
【0093】
本発明においては、C/Cコンポジットの前駆体である成形体中における炭素繊維体積含有率(成形体Vf)が、55%以上、75%以下であることが好ましい。上記成形体中における炭素繊維体積含有率は、炭素繊維1mあたり体積を成形体1mあたり体積で除することにより求めることができる。
【0094】
本発明においては、C/Cコンポジットの画像解析により求めた炭素繊維体積含有率(画像解析Vf)が、58%以上、74%以下であることがより好ましい。
【0095】
画像解析によるC/CコンポジットのVfは、画像解析により求めた1mm2あたりの炭素繊維の本数と画像解析により求めた炭素繊維1本当たりの面積との積、すなわち1mm2あたりの炭素繊維の総面積の割合から求めることができる。なお、UDC/Cコンポジットでは、炭素繊維の繊維方向においては、均質であると考えられるため、上記のようにして求めた1mm2あたりの炭素繊維の総面積の割合をC/Cコンポジットの画像解析Vfとして用いることができる。なお、炭素繊維1本当たりの面積は、画像解析により求めた炭素繊維の直径から求めることができ、例えば、任意の100本以上の炭素繊維の平均値とすることができる。
【0096】
なお、一般的に用いられている、成形体のVfとC/C化時の断面積の変化率だけを用いてC/CコンポジットのVfを求める方法では、炭素繊維の直径の変化が考慮されていないのに対し、C/Cコンポジットの画像解析により求めたVfでは、炭素繊維の直径の変化を考慮することができる。よって、C/CコンポジットのVfをより一層正確に測定することができる。
【0097】
(熱処理用治具の構成)
本発明の熱処理用治具は、特に限定されず、例えば、熱処理用のバスケットやトレーのような従来公知の形状のものを使用することができる。本発明の熱処理用治具は、平面形状が、例えば、格子状であってもよく、特に限定されない。
【0098】
コーナー部の形状についても、特に限定されないが、例えば、
図4のような組継ぎ接合をピンにより固定した構造とすることができる。
図4に示す組継ぎ接合をピンにより固定した構造では、長さ方向が、UDC/Cコンポジットの繊維方向に延びている第1,第2の平板2,3が、コーナー部1において、ピン4により固定されている。より具体的には、コーナー部1を構成する第1の平板2の端部において、突出する凸部2aと凹部2bが高さ方向において交互に設けられている。同様に、コーナー部1を構成する第2の平板3の端部においても、突出する凸部3aと凹部3bが高さ方向において交互に設けられている。このような接合方法は組継ぎ接合と呼ばれる。そして、第1の平板2の各凸部2aと、第2の平板3の各凹部3bは、コーナー部1において互いに嵌合するように設けられており、各嵌合部がピン4により固定されている。また、第1の平板2の各凹部2bと、第2の平板3の各凸部3aは、コーナー部1において互いに嵌合するように設けられており、各嵌合部がピン4により固定されている。これによって、各コーナー部がピン止めされている。この際ピン4にUDC/Cを採用すればすべての部材はUDC/Cで構成されるため、オイルの浸み込みを最小限にすることができ、部品点数も少なくすることが可能となる。
【0099】
また、
図5に示すL字型2DC/Cによる補強材をボルトで固定した構造も、UDC/Cコンポジットにより構成されており、平板の長手方向が繊維方向と同一である第1,第2の平板12,13がコーナー部10において、ボルト14により固定されている。具体的には、
図5では、コーナー部10においてのみ、UDC/Cコンポジットにより構成されている第1,第2の平板12,13に、L字型の2DC/Cコンポジット15が積層されている。そして、L字型の2DC/Cコンポジット15及び第1,第2の平板12,13が、ボルト14により固定されている。これによって、各コーナー部10が確実に固定されている。なお、この場合、L字型の2DC/Cコンポジット15としては、樹脂含浸やCVI法などの方法により気孔を低減させた2DC/Cコンポジットを用いることが好ましい。
【0100】
ここで、
図15や、
図16に示すようなほぞ継ぎ接合をT字型ピン16により固定した構造により、コーナー部を固定する場合、UDC/Cコンポジットは、繊維方向に直交する方向には強度が弱いことから、割れてしてしまう場合がある。これを防止するために、CFRPにおいては表面に2Dクロスを貼り付けるなどの方法が有効であるが、この方法によって製造されたCFRPをC/Cコンポジット製造のために焼成すると表面の2DクロスのX方向の収縮率とUDクロスのX方向の収縮率の違いにより、容易に剥離してしまうという問題がある。
【0101】
これに対して、本発明者らは、
図4及び
図5に示すような構造を有するコーナー部を有する場合、炭素繊維の方向と直交する方向に強度が弱いUDC/Cコンポジットを用いた場合においても、割れ等の問題を生じ難くすることができ、コーナー部を確実に固定できることを見出した。
【0102】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
(実施例1)
PAN系24k高強度炭素繊維(弾性率230GPa、引張り強度5GPa、繊度1.65g/m、真密度1.82g/cm3)から成るトウ380本を引き揃え、レゾール型フェノール樹脂(不揮発分60%、炭素収率70%)に含浸したものを用いて、100mm×5mmの開口部を有する長さ1.5mの金型を170℃で保ちながら0.4m/分の速度で引き抜き成形を行い、得られた平板成形体を1mの長さに切断した。
【0104】
得られた平板成形体を窒素雰囲気中にて1000℃の温度で初期焼成を行った。次いで、ピッチ(軟化点80℃、QI成分5%以下)を1MPaの加圧下で含浸させ、再度窒素雰囲気中にて1000℃の温度の熱処理を行った。次いで窒素雰囲気中にて2000℃の熱処理を行い、実施例1のUDC/Cを得た。
【0105】
(実施例2)
実施例1で得られたUDC/CにさらにCVI処理を行った。具体的には、1100℃まで昇温した後、プロパンガスを10(L/分)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ80時間保持して、サンプル中に熱分解炭素を含浸させ、実施例2のUDC/Cを得た。
【0106】
(実施例3)
直径10Φ(mm)の円形の開口部を有する長さ1.5mの金型を用いて、57本のトウを引き揃え、丸棒成形体を得たこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のUDC/Cを得た。
【0107】
(実施例4)
実施例3で得られたUDC/CにさらにCVI処理を行った。具体的には、1100℃まで昇温した後、プロパンガスを10(L/分)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ80時間保持して、サンプル中に熱分解炭素を含浸させ、実施例4のUDC/Cを得た。
【0108】
(実施例5)
ピッチ含浸/焼成回数を3回に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5のUDC/Cを得た。
【0109】
(実施例6)
実施例1で得られたUDC/Cに、ピッチ(軟化点80℃、QI成分5%以下)を減圧浸漬後、1MPaで加圧含浸処理することを1回行った後、窒素雰囲気中1000℃で焼成することにより、実施例6のUDC/Cを得た。
【0110】
(実施例7)
平均粒子径50μmの金属シリコン粒子と重量比10%のでんぷんのりをバインダー成分として添加して、水と混合し、金属シリコン濃度50%のスラリーを得た。次に、実施例1で得られたUDC/Cに、得られたスラリーを塗布、乾燥後、1600℃で3時間熱処理することにより、実施例7のUDC/Cを得た。
【0111】
(実施例8)
実施例1で得られたUDC/Cに、不揮発分38%のリン酸アルミニウム水溶液を含浸、乾燥させ、800℃で3時間熱処理することにより、実施例8のUDC/Cを得た。
【0112】
(実施例9)
2DC/C(高強度PAN系炭素繊維を使用し、フェノール樹脂を添加し、プレス成形した後、緻密化のためにピッチ含浸、焼成を繰り返したもの)にさらにCVI処理を行った。具体的には、1100℃まで昇温した後、プロパンガスを10(L/分)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ800時間保持して、サンプル中に熱分解炭素を含浸させ、実施例9の2DC/Cを得た。
【0113】
(実施例10)
実施例2のCVI処理後、xy面及びyz面のCVI炭素膜を♯80のサンドペーパーにて削り落とし、xz面にのみCVI炭素膜を残すことにより、実施例10のUDC/Cを得た。なお、実施例10では、繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている。実施例10では、後述するオイルの浸み込み量は0.6体積%であり、CVI処理なし(実施例1)1.5%に対し、40%に低減した。
【0114】
(実施例11)
実施例2のCVI処理後、xz面のCVI炭素膜を♯80のサンドペーパーにて削り落とし、xy面とyz面にのみCVI炭素膜を残すことにより実施例11のUDC/Cを得た。なお、実施例11では、オイルの浸み込み量は1.3体積%であり、CVI処理なし(実施例1)1.5%に対し、87%に低減したのみであり、実施例10にくらべ、浸み込み量低減効果は低かった。これは気孔が主として繊維方向に沿って形成され、多くの気孔端面の露出がxz面で発生し、xy面とyz面では少なかったことを示唆すると考えられる。
【0115】
(実施例12~16、比較例6~9)
実施例3同様に引き抜き成形により丸棒成形体を作製し、各実施例及び比較例のUDC/Cを得た。その際、CF本数(炭素繊維の本数)を変化させ、表1に示すように異なるVf(繊維体積含有率)の成形体を得た。成形体Vf50%(比較例9)及び成形体Vf55%(実施例12)ではクラックが発生し、成形体Vf58%(実施例13)では成形体Vf55%(実施例12)より細かいクラックが発生した。成形体Vf64~66%(実施例14~16)では良好な成形体が得られた。成形体Vf73~75%(比較例6~7)では成形体は得ることができたが、変形を生じた。成形体Vf77%(比較例8)では、引き抜き抵抗が高くなりすぎて、成形体を得ることができなかった。
【0116】
(実施例17~23)
実施例4同様に引き抜き成形により丸棒成形体を作製し、CVI処理を行なうことにより、各実施例のUDC/Cを得た。その際、CF本数(炭素繊維の本数)を変化させ、表1に示すように異なるVf(繊維体積含有率)の成形体を得た。
【0117】
(実施例24)
PAN系24k高強度炭素繊維の代わりに、高強度メソフェーズピッチ系炭素繊維(引張弾性率640GPa、引張強度3GPa)を用いて、12Kトウを55本引き揃えたこと以外は、実施例3と同様にして、実施例24のUDC/Cを得た。
【0118】
(実施例25)
実施例24で得られたUDC/CにさらにCVI処理を行った。具体的には、1100℃まで昇温した後、プロパンガスを10(L/分)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ80時間保持して、サンプル中に熱分解炭素を含浸させ、実施例25のUDC/Cを得た。
【0119】
(比較例1)
2DC/C(PAN系炭素繊維を使用し、フェノール樹脂を添加し、プレス成形した後、緻密化のためにピッチ含浸、焼成を繰り返したもの)をそのまま比較例1の2DC/Cとして用いた。
【0120】
(比較例2)
2DC/C(PAN系炭素繊維を使用し、フェノール樹脂を添加し、プレス成形した後、緻密化のためにピッチ含浸、焼成を繰り返したもの)にさらにCVI処理を行った。具体的には、1100℃まで昇温した後、プロパンガスを10(L/分)の流速で流しながら、圧力を10Torrにコントロールしつつ80時間保持して、サンプル中に熱分解炭素を含浸させ、比較例2の2DC/Cを得た。
【0121】
(比較例3)
比較例1の2DC/Cに、実施例7と同じ処理を行い、比較例3の2DC/Cを得た。
【0122】
(比較例4)
実施例1と同一の高強度PAN系炭素繊維を用い、横糸にアクリル系有機繊維を使った一方向炭素繊維クロス(UDクロス)に、実施例1と同一のフェノール樹脂を含浸し、一方向プリプレグ(UDプリプレグ)を得た。UDプリプレグを積層、熱盤プレスで160℃にて加圧し、成形体を得た。その後、実施例1同様の処理を行い、比較例4のUDC/Cを得た。
【0123】
(比較例5)
実施例1と同一の高強度PAN系炭素繊維を用い、実施例1と同一のフェノール樹脂を含浸し、フィラメントワインディング装置により一方向に引き揃え、一方向プリプレグ(UDプリプレグ)を得た。UDプリプレグを金型内で積層し、160℃にて加圧し、成形体を得た。その後、実施例1同様の処理を行い、UDC/Cを得た。
【0124】
(比較例10)
実施例2と同様に引き抜き成形により平板成形体を作製し、CVI処理を行なうことにより、比較例10のUDC/Cを得た。その際、CF本数(炭素繊維の本数)を変化させ、表1に示すようにVf(繊維体積含有率)が50%の成形体を得た。
【0125】
[評価]
(かさ密度及び真密度の測定)
かさ密度は、直方体に機械的に加工した後、寸法と質量を測定することにより算出した。また、真密度はサンプルを粉砕した後ブタノールによる液相浸漬法により測定した。
【0126】
(開気孔測定)
得られたC/Cコンポジットを5mm角に切断し、水銀ポロシメトリー用サンプルを得た。これを、水銀ポロシメーター(Micromeritics社製、AutoPore IV 9500)により測定し、累積細孔容積とかさ密度より各気孔半径の開気孔率を算出した。また、全気孔半径の開気孔率は、細孔半径68.7~0.0074μmの累積細孔容積から算出した。また、閉気孔率は、全気孔率と開気孔率との差から算出した。なお、水銀圧入法において、最大圧力は207MPaまで加圧し、気孔半径は、水銀ポロシメーターの水銀印加圧力からワッシュバーンの式により求めた。ワッシュバーンの式は、r=-2δcosθ/Pで示され、ここで、r:気孔の半径、δ:水銀の表面張力(480mN/m)、θ:接触角(本発明では、141.3°を使用)、P:圧力、である。
【0127】
また、全体開気孔率、0.1μm以上の開気孔率、0.4μm以上の開気孔率、1μm以上の開気孔率、10μm以上の開気孔率を上記累積細孔容積から求めた。また、0.4μm以上10μm未満の開気孔率はそれぞれの開気孔率の差により得た。
【0128】
また、
図6及び
図7に、累積開気孔率曲線の一例を示す。
図6及び
図7より、実施例1~4では、比較例1と比較して、明らかに0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が小さくなっていることがわかる。
【0129】
また、上記累積開気孔率を気孔半径で微分することにより、開気孔率の分布曲線を作製し、気孔半径が大きい側から小さい側へ向かったときに、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径を求めた。
【0130】
また、
図8及び
図9に、開気孔率の分布曲線の一例を示す。
図8及び
図9より、実施例1~4では、比較例1と比較して、明らかに開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径が小さくなっていることがわかる。
【0131】
なお、
図10は、気孔半径0.4μm以上の開気孔率と油の浸み込み量との関係を示す実験例の結果を示すグラフである。
図11は、気孔半径0.4μm以上、10.0μm未満の開気孔率と油の浸み込み量との関係を示す実験例の結果を示すグラフである。
図12は、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径と油の浸み込み量との関係を示すグラフである。
【0132】
図10より、気孔半径0.4μm以上の開気孔率では、10μm以上の領域(破線で囲まれている部分)において、開気孔率と油の浸み込み量の相関関係が得られていないことがわかる。これは、気孔半径が10μmより大きい場合、開気孔率の測定において実施例4のようなCVI処理による表面の凹凸が影響することがあり、C/Cコンポジット内部への油の浸み込みには至らなかったためと考えられる。これに対して、
図11では、気孔半径0.4μm以上、10.0μm未満の開気孔率と油の浸み込み量に高い相関関係が得られていることがわかる。また、
図12より、開気孔率分布曲線が立ち上がり始める気孔半径と油の浸み込み量においても高い相関関係が得られていることがわかる。
【0133】
(繊維体積含有率)
C/Cコンポジット(C/C)における炭素繊維体積含有率(画像解析Vf)は、以下のようにして求めた。まず、得られたC/Cコンポジットを繊維に対し直角方向に切り出し、樹脂包埋し研磨後、マイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-7000)を用い、200倍の倍率で観察した。具体的には、1.5×1.1mmの範囲を1水準あたり5視野観察し、得られた画像から画像解析ソフト(三谷商事社製、「WinROOF」)を用いて、炭素繊維の本数を計測し、測定面積で割ることにより、1mm2当たりの、炭素繊維本数を得た。
【0134】
このC/Cコンポジット中の炭素繊維本数の妥当性を検証するために、成形体の製造時の炭素繊維の使用本数とC/Cコンポジットの断面積から1mm2あたりの炭素繊維本数を算出し、両者を比較した。画像解析から測定される炭素繊維本数と炭素繊維使用本数から計算される1mm2あたりのC/Cコンポジットの炭素繊維本数は±1%の範囲で一致した。
【0135】
繊維直径については、上記サンプルを同様にマイクロスコープにより1000倍で観察を行い1330本の測定の結果、円相当直径平均6.56μm、標準偏差0.25を得た。
【0136】
得られた炭素繊維の直径より炭素繊維1本あたりの炭素繊維面積を計算し、1mm2あたりの炭素繊維本数を乗ずることで、炭素繊維面積の総面積を得た。UD材料の場合は、繊維長さ方向には均質であると仮定することが可能と考えられることから、1mm2あたりの炭素繊維総面積の割合(%)を直ちにVfとすることが可能である。
【0137】
(油浸み込み量の測定)
油浸み込み量は、サンプルを50mm×50mm×4mmの大きさに加工し、以下の手順で測定した。
【0138】
1)サンプルを100℃のオイル(日本グリース社製、ハイスピードクエンチオイルMP)に浸した。
【0139】
2)ゲージ圧-0.1気圧に減圧し、30分保持した。その後復圧した。
【0140】
3)表面のオイルをキムワイプでふき取り、質量を測定し、浸漬前後の質量差から浸み込んだオイルの質量をした。
【0141】
4)得られたオイルの質量を真密度0.86g/cm3で割ることによりオイルの体積を計算し、さらに浸漬したC/Cコンポジットサンプルの体積で割ることにより油浸み込み量(体積%)を得た。
【0142】
結果を下記の表1に示す。
【0143】
【0144】
表1より、実施例1~25では、比較例1~10と比較して、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率や、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径が小さく、油の浸み込みを抑制できていることを確認できた。
【0145】
(曲げ強さ、曲げ弾性率)
実施例1~4,24,25及び比較例1~2,11,12のサンプルにおける繊維方向(繊維の長手方向)及び繊維方向に直交する方向における曲げ強さ及び曲げ弾性率を求めた。なお、比較例11では、等方性黒鉛A(東洋炭素社製、IG-11)をそのまま用いた。また、比較例12では、等方性黒鉛B(東洋炭素社製、ISEM-8)をそのまま用いた。
【0146】
曲げ強さ及び曲げ弾性率の測定に際しては、C/Cコンポジットの平板サンプルの場合60mm×10mm×3mmに、丸棒サンプルの場合60mm×5mm×3mmに機械加工し、寸法と質量を測定し、かさ密度を得た。曲げ強さは、下部スパンを40mmとした3点曲げ試験法により測定した。また、曲げ弾性率は、応力-ひずみ曲線データの開始値と最終値の間のデータを6つの領域に等分し、勾配の合計値が最大である連続した2つの領域を特定したのち、この2つの領域のうち大きいほうの勾配を用い弾性率を計算した。等方性黒鉛においては、60mm×10mm×10mmに機械加工し、寸法と質量を測定し、かさ密度を得、曲げ強さは、下部スパンを40mmとした3点曲げ試験法により測定した。また、等方性黒鉛の弾性率は共振法により測定した。
【0147】
なお、比較例11~12では、上記と同様の方法で得たかさ密度を適用し、曲げ弾性率は共振法によるヤング率を適用した。
【0148】
(酸化消耗率)
実施例1~4,24,25及び比較例1~2,11,12のサンプルにおける700℃、2.5時間保持後の酸化消耗率を求めた。
【0149】
具体的には、酸化消耗率は、32mm×20mm×4mmの寸法のサンプルに、4.0L/minの空気を流し、700℃で2.5時間保持し、試験前後の質量変化から、酸化消耗率を算出した。
【0150】
結果を下記の表2に示す。
【0151】
【0152】
表2より、実施例1~4,24,25で得られたUDC/Cは、比較例1~2で得られた2DC/Cや比較例11~12の等方性黒鉛と比較して、酸化消耗率が極めて小さく、耐酸化性に優れることが確認できた。特に、メソフェーズピッチ系炭素繊維を用いた実施例24,25では、酸化消耗率がより一層小さく、曲げ強さや弾性率がさらに一層高められることが確認できた。
【符号の説明】
【0153】
1,10…コーナー部
2,12…第1の平板
2a,3a…凸部
2b,3b…凹部
3,13…第2の平板
4…ピン
14…ボルト
15…2DC/Cコンポジット
16…T字型ピン