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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033333
(43)【公開日】2022-02-28
(54)【発明の名称】心血管代謝疾患の治療剤または予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20220218BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220218BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220218BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220218BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220218BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220218BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220218BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220218BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P3/00
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P11/00
A61P21/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001043
(22)【出願日】2022-01-06
(62)【分割の表示】P 2018149620の分割
【原出願日】2018-08-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日/平成30年7月31日 掲載アドレス/https://doi.org/10.1007/s41999-018-0087-6 刊行物名/European Geriatric Medicine(2018) 公開者/Darinka Korovljev,Valdemar Stajer,Dejan Javorac,Sergej M.Ostojic
(71)【出願人】
【識別番号】394021270
【氏名又は名称】MiZ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】サージェイ エム オストイック
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文平
(72)【発明者】
【氏名】黒川 亮介
(57)【要約】
【課題】本発明は、高齢者において心血管代謝リスク因子を低下させ、心血管代謝プロファイルを改善するための手段を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明により、心血管代謝リスク因子の低下、または心血管代謝プロファイルの改善のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物であって、水素ガスが対象により吸入されるように用いられる、前記組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管代謝リスク因子の低下、または心血管代謝プロファイルの改善のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【請求項2】
心血管代謝疾患の予防または治療のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【請求項3】
心血管代謝疾患の予防のために用いられる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
心血管代謝疾患が動脈硬化性心血管病である、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
血糖値抑制のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【請求項6】
心肺フィットネス向上のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【請求項7】
心肺フィットネスが最大酸素消費量を指標として評価される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
血中の総コレステロール値抑制のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【請求項9】
筋肉量もしくは筋力増強のため、または筋肉量減少もしくは筋力減少の抑制のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【請求項10】
対象により吸入されるように用いられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
経肺投与のために用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
対象が60才以上のヒトである、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
対象が65才以上のヒトである、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
3体積%以上の水素ガスを含有する気体の形態で、水素ガスが吸入される、請求項1~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
0.5体積%以上の水素ガスを含有する気体の形態で、水素ガスが吸入される、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
4体積%以上の水素ガスを含有する気体の形態で、水素ガスが吸入される、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
水素ガスが1日当たり20分間以上吸入されるように用いられる、請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
水素ガスの吸入が4週間以上にわたり行われる、請求項1~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
医薬組成物として用いられる、請求項1~18のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心血管代謝疾患の治療用または予防用組成物に関する。さらに本発明は、心血管代謝疾患の治療方法または予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素ガス(分子水素、H)が医療用ガスとして臨床医学の分野において導入されてきている(非特許文献1)。水素ガスにより臨床医学においてもたらされる効果は、水素ガスが有する抗酸化作用や抗アポトーシス作用、抗炎症作用に起因すると考えられている(特許文献1)。
【0003】
心血管代謝疾患に関しては、血中のLDLコレステロールレベルとHDL機能に対する水素富化水摂取の影響について報告がされている(非特許文献2)。
心肺フィットネスは、心肺持久力とも呼ばれ、一定の運動を長く続けることができる体力や粘り強さに関連する客観的で再現性のある尺度であり、筋力・瞬発力・柔軟性・調整力と並ぶ基本的運動能力のひとつとされている。心肺フィットネスは、有酸素性運動の能力と密接な関係があるため、運動中の酸素消費量を測ることで有酸素性運動によって使われたエネルギーを推定出来ることから、最大酸素摂取量(VO2max)などの指標によって評価されうる(非特許文献3~5)。
【0004】
糖尿病は、血糖値やヘモグロビンA1c(HbA1c)値を基準として診断される疾患であり、1型と2型に分類される。2型糖尿病は、インスリン分泌低下と感受性低下の二つの要因による血糖値の上昇が生じることを特徴とし、遺伝的因子と生活習慣が関連して発症する生活習慣病と解されている。糖尿病患者の90%は2型糖尿病である。糖代謝に関して水素が及ぼす影響について研究がされている(非特許文献6)。
【0005】
加齢による筋力および筋肉量の低下は、高齢者の健康問題において重要な課題となっている。筋力の低下は、高齢者の転倒リスクを増大させる要因となっている。高齢者の健康状態の把握のための手法についての研究がされている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/021034
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ohta S., et al., Methods Enzymol. 2015; 555: 289-317;
【非特許文献2】Song G, Li M, Sang H et al., J Lipid Res. 2013; 54: 1884-93;
【非特許文献3】JAMA. 2007 December 5; 298(21): 2507-2516;
【非特許文献4】Am J Epidemiol. 2007 June 15; 165(12): 1413-1423;
【非特許文献5】Doshisha Journal of Health & Sports Science, 7, 52-55 (2015);
【非特許文献6】PLoS One. 2013; 8(1): e53913;
【非特許文献7】West Kyushu Journal of Rehabilitation Science 3, 23-26-2010。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に高齢者は心血管代謝疾患のリスクが高く、高齢者において心血管代謝リスク因子を低下させ、心血管代謝プロファイルを改善するための手法が求められている。特に、動脈硬化性心血管病は発症の際に重篤な発作を伴う恐れがあり、心血管代謝疾患のリスクが高い高齢者において、動脈硬化性心血管病を予防するための手段が強く求められている。
【0009】
最大酸素摂取量(VO2 max)を指標として評価される心肺フィットネスは、心血管疾患
や高齢者の余命の指標として考えられている(非特許文献3および4)。本発明は一つの速に面において、心肺フィットネスを向上させるための手段を提供する。
【0010】
また、糖尿病は薬物療法による継続的な治療を要する場合がある一方で、薬物に対する抵抗性が生じる場合があり問題となっている。副作用なども含めて患者に過度な負担がかからない、血糖値を低下させる新たな方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、そのような課題の解決のために研究を行い、水素ガス吸入による高齢者における心血管代謝プロファイルの改善効果を見いだし、以下の発明を完成させた。
[1]心血管代謝リスク因子の低下、または心血管代謝プロファイルの改善のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【0012】
[2]心血管代謝疾患の予防または治療のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
[3]心血管代謝疾患の予防のために用いられる、[2]に記載の組成物。
【0013】
[4]心血管代謝疾患が動脈硬化性心血管病である、[2]または[3]に記載の組成物。
[5]血糖値抑制のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【0014】
[6]心肺フィットネス向上のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
[7]心肺フィットネスが最大酸素消費量を指標として評価される、[6]に記載の組成物。
【0015】
[8]血中の総コレステロール値抑制のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
[9]筋肉量もしくは筋力増強のため、または筋肉量減少もしくは筋力減少の抑制のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。
【0016】
[10]対象により吸入されるように用いられる、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11]経肺投与のために用いられる、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
【0017】

[12]対象が60才以上のヒトである、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
【0018】
[13]対象が65才以上のヒトである、[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14]3体積%以上の水素ガスを含有する気体の形態で、水素ガスが吸入される、[1]~[13]のいずれか項に記載の組成物。
【0019】
[15]0.5体積%以上の水素ガスを含有する気体の形態で、水素ガスが吸入される、[1]~[14]のいずれかに記載の組成物。
[16]4体積%以上の水素ガスを含有する気体の形態で、水素ガスが吸入される、[1]~[15]のいずれか1項に記載の組成物。
【0020】
[17]水素ガスが1日当たり20分間以上吸入されるように用いられる、[1]~[16]のいずれかに記載の組成物。
[18]水素ガスの吸入が4週間以上にわたり行われる、[1]~[17]のいずれかに記載の組成物。
【0021】
[19]医薬組成物として用いられる、[1]~[18]のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一つの側面において、心血管代謝リスク因子を低下させるための手法、および心血管代謝プロファイルの改善のための手法が提供される。本発明の別の側面において、心肺プロファイルを向上させるための手法が提供される。本発明のさらに別の側面において、血糖値を低下させるための手法が提供される。
【0023】
本発明により提供される手法は、副作用などの問題が少なく、特に高齢者において長期にわたり実施するための手法としても優れている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一つの側面において、本発明は、心血管代謝リスク因子の低下、または心血管代謝プロファイルの改善のために用いられる。心血管代謝リスク因子および心血管代謝プロファイルは、関連するバイオマーカーなどの測定などにより評価することができる。測定値の例としては、血中の総コレステロール値、LDL-コレステロール値、HDL-コレステロール値、中性脂肪値、血糖値(空腹時血糖値など)、および血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)などが挙げられる。
【0025】
本発明の一つの側面において、心血管代謝リスク因子および心血管代謝プロファイルは米国心臓協会および米国心臓病学会により示されている、動脈硬化性心血管病の最初の重大事象について10年間のリスク(2013 ACC/AHA Guideline on the Assessment of Cardiovascular Riskに掲載)のスコア(以下、リスクスコアとも称する)により評価することができる。例えば、スコアが優位性をもって改善を示す場合、またはスコアの変化が改善傾向を示す場合に、心血管代謝リスク因子が低下した、または心血管代謝プロファイルが改善したと解することができる。本発明の一つの態様において、上記のリスクスコアを4.0ポイント以下に抑えるために本発明を使用することができる。
【0026】
一つの側面において、本発明は、心血管代謝疾患の予防または治療のため、好ましくは心血管代謝疾患の予防のために用いられる。心血管代謝疾患とは、動脈硬化性心血管病を含む概念であり、その例としては、虚血性心疾患(例えば、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)、たこつぼ心筋症、中枢性肺水腫など)、および血管疾患(例えば、変性疾患(例えば、動脈硬化、大動脈瘤、下肢静脈瘤、上大静脈症候群など)、および炎症性疾患(例えば、高安動脈炎、血栓性静脈炎など)など)を挙げることができる。心血管代謝疾患および動脈硬化性心血管病の治療効果および予防効果は、処置の前後のリスクスコアの比較により確認することができる。
【0027】
心血管代謝疾患には、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)が含まれる。さらに心血管代謝疾患には、例えば、以下に述べる糖尿病が含まれる。
【0028】
一つの側面において、本発明は、血糖値抑制のために用いられる。血糖値は常法にしたがって採血により確認することができる。本発明の一つの側面において、糖尿病、その合併症の治療または予防、好ましくはその予防のために本発明が使用される。糖尿病には、1型糖尿病および2型糖尿病の他、妊娠糖尿病などが含まれる。本発明は一つの態様において2型糖尿病に使用される。糖尿病合併症には、例えば、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、歯周病、動脈硬化症、心筋梗塞(虚血性心疾患)、脳梗塞、末梢動脈疾患、足壊疽等が含まれる。
【0029】
本発明の組成物は、薬物療法を受けている糖尿病患者に適用してもよい。糖尿病治療のための薬物は経口投与薬または注射薬(インスリン注射、GLP-1受容体作動薬など)であってもよい。経口投与薬としては、例えば、スルホニルウレア薬(例えば、トルブタミド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリドなどなど)、ビグアナイド薬(例えば、メトホルミン、ブホルミンなどなど)、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボース、ボグリボース、 ミグリトールなど)
、チアゾリジン薬(例えば、ピオグリタゾンなどなど)、速効型インスリン分泌薬(例えば、ナテグリニド、ミチグリニド、レパグリニドなど)、DPP-4阻害薬(例えば、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチン、アナグリプチン、サキサグリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチンなど)、SGLT2阻害薬(例えば、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジンなど)などが挙げられる。
【0030】
本発明の組成物は、脂質異常症(高脂血症)、具体的には、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症などの疾患の予防または治療に適用することができる。本発明の組成物は、薬物療法と併用することができる。脂質異常症の薬物療法で使用される医薬としては、例えば、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)、フィブラート系薬剤、陰イオン交換樹脂、ニコチン酸誘導体、プロブコール、オメガ3-脂肪酸製剤(EPA、DHA)、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、PCSK9阻害薬などが挙げられる。
【0031】
本発明による血糖値の低下は、例えば、空腹時の採血による血糖値の低下により確認することができる。また本発明の効果は、糖負荷試験や食後高血糖の測定により確認することもできる。
【0032】
採血においては、総コレステロール値、LDL-コレステロール値、HDL―コレステロール値などの数値を測定することもでき、これらの測定は常法により行うことができる。
【0033】
心肺フィットネスの向上は、例えば、最大酸素摂取量を指標として評価することができる。最大酸素摂取量は、運動中に体内(ミトコンドリア)に取込まれる酸素の最大量を示し、その測定法には、直接法と間接法がある。直接法は、自転車エルゴメーターやトレッドミルなどを用いて最大努力での運動中に採気された呼気ガスを分析し、1分間に体内に取り込まれる酸素の最大量を算出する。一方、間接法では、心拍数や運動負荷などから最大酸素摂取量を推定する。男性30歳の平均値は、体重あたりで40ml/kg/分程度であるが、エリート長距離選手の最大酸素摂取量は90ml/kg/分にも達する。最大酸素摂取量自体も心血管系疾患の罹患率や死亡率とも関連するなど、全身持久力としての体力の評価値としてはもちろんのこと、健康を表す指標としても重要と考えられている。
【0034】
一つの側面において、本発明の組成物は医薬組成物として使用することができる。本発明の方法は、自宅に設置可能な水素発生装置により調製可能な組成物の吸入により行うこ
とができるため、別の側面において、本発明の組成物は医療行為以外の方法、または治療行為以外の方法において使用することができる。
【0035】
一つの側面において、本発明の組成物は筋肉量もしくは筋力増強、筋肉量減少もしくは筋力減少の抑制、または筋肉量の維持のために使用することができる。本発明の効果は、足把持力、大腿四頭筋筋力、骨格筋量、骨格筋量、上体おこし、片足立ち保持時間、握力などの測定により確認することができ、測定は常法により行うことができる。握力の測定結果は各種筋力の測定値と相関を有することが知られている(非特許文献6)。
【0036】
本発明が適用される対象は特に限定されないが、一般に心血管代謝疾患のリスクが高いと考えられる高齢者を対象とすることができる。ここで、高齢者には、例えば60才以上、具体的には65才以上の成人が含まれる。
【0037】
本発明の組成物は、水素ガスを有効成分として含有する。本発明の一つの態様において、水素ガスは、水素ガス含有する気体の形態で用いられる。
水素ガスを含有する気体は、例えば、水素ガスを含む空気、または水素ガスと酸素ガスの混合ガスであり得る。水素ガスを含有する気体における水素ガスの濃度は、特に限定されないが、例えば、水素ガスの爆轟下限濃度未満である18.3体積%以下、例えば、0.5~18.3体積%、具体的には1~10体積%、より具体的には2~8体積%、さらに具体的には3~6体積%、更に具体的には4~6体積%、さらに具体的には4~5体積%である。水素ガスを含有する気体における水素ガスの濃度は、好ましくは1~10体積%、2~9体積%、3~8体積%、より好ましくは3~5体積%である。
【0038】
水素ガス以外の気体が空気である場合には、空気の濃度は、例えば81.7~99.5体積%の範囲である。水素ガス以外の気体が酸素ガスである場合には、酸素ガスの濃度は、例えば21~99.5体積%の範囲である。水素ガスを含有する気体は、水素の他、2以上の気体を含んでいてもよく、その例として、空気、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス、などの気体が挙げられる。水素ガスは可燃性であり、爆発性であるため、安全の観点から、水素ガスの爆発限界以下の濃度で用いるのが好ましい。
【0039】
安全な濃度に希釈された水素ガス組成物吸入の際の組成物の流量は、例えば、1~10L/分、1~6L/分、1~4L/分、具体的には2~4L/分とすることができる。過呼吸がある患者においては、6~8L/分とすることができる。本発明の一つの態様において、水素ガス組成物の吸入は、組成物中に含まれる水素の量に換算して、70ml/分以上、80ml/分以上、140ml/分以上、または280ml/分以上の流量で行うことができる。
【0040】
水素ガスを含有する気体は、所定の水素ガス濃度となるように配合された後に、耐圧容器(例えば、アルミ缶、ペットボトルなど)に充填して保存することができる。あるいは、水素ガスを含有する気体は、公知の水素ガス供給装置を用いてその場で調製し、吸入のために使用してもよい。
【0041】
水素ガス供給装置は、水素発生剤(例えば、金属アルミニウムなど)と水の反応により発生する水素ガスを、希釈用ガス(例えば、空気、酸素など)と所定に比率で混合することを可能にする(特許第5228142号)。あるいは、当該装置は、水の電気分解を利用して発生した水素ガスを、希釈ガスと混合することを可能にする(特許5502973号、特許第5900688号)。これによって、0.5~18.5体積%の範囲内の水素ガスを含有する気体を調製することができる。
【0042】
本発明において、水素ガスは吸入により対象に投与される。投与された水素ガスは、投
与後肺に達するまでの気道や肺において粘膜から吸収されることが想定される。肺などから取り込まれた水素ガスは、血液を介して前身に送達されるのみではなく、肺からの拡散によっても各組織に送達されうる。本発明の組成物は経肺投与のために用いられてもよい。
【0043】
水素ガスを吸入する場合には、口および鼻を覆うマスク型の器具、または鼻カニューラなどを使用することができる。
吸入により生体内に取り込まれた水素ガスは、脳、肺、筋肉に多く分布し、組織内水素濃度(Area under the curve:AUC)が経口投与、腹腔内投与、静脈内投与などの他の投与方法の場合よりも大きい。ヒトが水素水として飲用した場合と、水素ガスとして吸入した場合を比較すると、水素水の飲用の場合は、水素分子の大部分は胃や腸管から拡散により腹部の組織や臓器に到達し、一部が腸壁から吸収されて血流により前身の組織や臓器に分布する。一方、水素ガスの吸入の場合には、水素分子が、[1]吸気に混合されて肺組織に移行し、周辺の組織に拡散により分布する経路、[2]肺におけるガス交換により血液に溶解されて全身に移行する経路、さらに[3]鼻粘膜より直接、血液-脳関門(Blood-BrainBarrier:BBB)を介さず、総組織に移行する経路がある。
【0044】
上記水素濃度の気体を、1日当たり、1回または複数回(例えば2~3回)投与してもよい.投与期間としては、例えば、1週間以上、2週間以上、4週間以上、2ヵ月以上、3ヵ月以上の期間を設定することができる。1回当たりの投与時間としては、例えば、5分以上、10分以上、15分以上、20分以上、30分以上、40分以上、1時間以上、2時間以上の時間を設定することができる。投与時間は連続していても、複数回に分けられていてもよい。投与期間および投与時間は、対象の状態を考慮の上で適宜設定してもよい。水素ガスの吸入は対象の健康への負担が軽く、有害事象の報告が少ないことから、長期の処置に適している。
【0045】
対象による水素ガスの摂取は、水素ガスを含む気体で満たされた空間内で対象が一定時間を過ごすことによっても実現できる。空間内の気圧は、標準大気圧(約1.013気圧)であってもよく、またはそれを超える7気圧以下の範囲の加圧状態、例えば、1.02気圧~7.0気圧、具体的には1.02気圧~5.0気圧、より具体的には1.02気圧~4.0気圧、さらに具体的には1.02気圧~1.35気圧であってもよい。対象における水素の体内吸収が促進される点において、高気圧環境における水素摂取は好ましい。加圧下での水素摂取のために、十分な強度を持つように設計された高気圧カプセルを使用することができる。
【0046】
本明細書において、対象とは、哺乳動物、例えば、ヒトを含む霊長類;マウス、ラットなどの齧歯類;イヌ、ネコなどのコンパニオン動物、動物園で飼育されている動物などの観賞用動物を含む。本発明の対象は、好ましくはヒトである。
【実施例0047】
以下に、本発明を参考例及び実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
セルビア在住の65歳以上の男女での水素ガスの吸入の影響について評価した。試験はヘルシンキ宣言に従って実施され、施設内倫理委員会による承認を受けてオープンラベル介入試験として行われた。ボランティアとして65歳以上の高齢成人の男女16名(n= 16)
(年齢68.1 ± 5.3歳; BMI 27.6 ± 5.3 kg/m2)が参加した。参加者は全て、水素発生
装置(MHG-2000、Miz株式会社製)を用いて濃度4%の水素ガスを、水素ガス組
成物の流量2L/分(水素ガス換算の流量:80ml/分)、1日あたり20分間、4週間にわたって吸入し、その様子を、研究スタッフが監督した。採血および空腹時血糖値測定を含む心血管代謝アウトカムおよび有害事象の評価を、ベースライン時と追跡4週時に
実施した。試験期間中には、食事や運動を普段と変わらずに行うよう参加者に強く求めた。
【0048】
心肺フィットネスは最大酸素消費量を指標として評価した。最大酸素消費量は、トレッドミル(COSMED社の型式 T 170)を使ったBruce 法で被験者に対して多段階負荷を加え、VO2 max の推定値を算出した。多段階負荷のプロトコールを以下の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
試験に当たり、被験者は10分間のウォーミングアップを行った。補助者はトレッドミルの速度を2.74km/時に、傾斜を10%にセットし、試験の開始と同時に時間の計
測を行った。上記表のプロトコールにしたがって負荷を増加させ、被験者が走行不能になるまでの時間を計測した。計測時間(T)より、下式を用いてVOmax値を算出した。
【0051】
[男性]VO2 max = 14.8 - (1.379 × T) + (0.451 × T2) - (0.012 × T3)
[女性]VO2 max = (4.38 × T) - 3.9
心肺フィットネスの指標である最大酸素消費量が、H2ガス吸入後に、平均値が31.9 ml/kg/分から39.0 ml/kg/分に増加し、22.4% (95%信頼区間 7.6±37.2%; P = 0.01)上昇した。また握力は平均値が55.3 kgから57.8 kgに増加し、4.6% (95%信頼区間 -0.3±9.5%; P= 0.05)上昇した。
【0052】
水素ガスを吸入することで、総血清コレステロール値が6.3 ± 0.9 mmol/Lから5.4 ± 2.1 mmol/Lへ(P= 0.13、換算値:278.04 mg/dL→230.09 mg/dL)、空腹時血糖値が5.7 ± 0.7 mmol/Lから4.6 ± 1.9 mmol/L (P = 0.12、換算値:278.04 mg/dL→230.09 mg/dL)へと低下の傾向を示した。水素ガスを吸入に伴う有害事象を報告した参加者はいなかった。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管代謝リスク因子の低下、または心血管代謝プロファイルの改善のために用いられる、有効成分として水素ガスを含む組成物。