(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033439
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】長尺曲げ加工材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 7/06 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
B21D7/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137326
(22)【出願日】2020-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】福増 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】天野 敬治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公雄
(72)【発明者】
【氏名】柳本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】杉村 大樹
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA11
4E063BC11
4E063CA03
4E063DA03
4E063JA07
4E063MA18
(57)【要約】
【課題】曲げ加工機における機械構造物のガタ等に影響されることなく、精度よく引っ張り力を算出して、曲げ加工後の弾性回復の量のばらつきを抑制し、均一な製品形状の長尺曲げ加工材を高精度に製造する。
【解決手段】引っ張り力を付与できる曲げ加工機のチャックにより長尺な被加工材を把持し、該被加工材に引っ張り荷重を付与して、その変形抵抗を測定する変形抵抗測定工程と、該変形抵抗測定工程により測定された変形抵抗に応じて調整した引っ張り力を被加工材に付与した状態で曲げ加工を施す曲げ加工工程と、を有し、変形抵抗測定工程では、前記曲げ加工機により前記引っ張り荷重を増大させつつ、前記チャックによる把持位置の変位速度又は引っ張り荷重の変化速度を測定し、前記変位速度又は変化速度の変化を基準にして変形抵抗を測定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引っ張り力を付与できる曲げ加工機のチャックにより長尺な被加工材を把持し、該被加工材に引っ張り荷重を付与して、その変形抵抗を測定する変形抵抗測定工程と、該変形抵抗測定工程により測定された変形抵抗に応じて調整した引っ張り力を前記被加工材に付与した状態で曲げ加工を施す曲げ加工工程と、を有し、
前記変形抵抗測定工程では、前記曲げ加工機により前記引っ張り荷重を増大させつつ、前記チャックによる把持位置の変位速度又は引っ張り荷重の変化速度を測定し、前記変位速度又は変化速度の変化を基準にして変形抵抗を測定することを特徴とする長尺曲げ加工材の製造方法。
【請求項2】
前記被加工材は中空形状であることを特徴とする請求項1に記載の長尺曲げ加工材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフレール等に用いられる長尺材であって、曲げ加工が施されてなる長尺曲げ加工材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフレールは、例えば、車両の屋根の上の左右両側部に車両の進行方向に沿って延びるように設けられたレールであり、このルーフレールを用いて屋根上に種々の貨物を積載することができる。
【0003】
このルーフレールは、例えば、アルミニウムの押し出し加工により中空状に形成された長尺な押出形材の両端部に曲げ加工を施すこと等によって形成される。このルーフレールのように長尺な被加工材の曲げ加工を施す場合、被加工材の両端部をチャックにより把持して加工することになるが、被加工材の強度(変形抵抗)のばらつきによって、曲げ加工後に両端の把持を解放した際に生じる弾性回復の量(スプリングバック量)がばらつき、曲げ加工後の製品形状にばらつきが生じ易い。この曲げ加工後の弾性回復量を低減するため、被加工材に長さ方向に引っ張り力を作用させながら曲げ加工を施す技術が知られている。
【0004】
このような引っ張り力を付与しながら曲げ加工する場合において、引っ張り力を曲げモーメントがほぼゼロになるまで強めることによって、弾性回復量をほぼゼロにすることができ、曲げ加工後の製品形状のばらつきを抑制できることが知られている。
ところで、この引っ張り力を作用させながら曲げ加工を行う場合、被加工材が中空形状であると、引っ張り力を強めることによって、曲げ部の断面変形量が大きくなってしまうことから、付与できる引っ張り力が制限される。このため、曲げ加工後の弾性回復量をほぼゼロまで抑制することができない。従って、被加工材が中空形状である場合には、弾性回復量を小さくすることではなく、弾性回復を許容しつつ、その回復量を一定とすることによって、製品形状のばらつきを抑制することが必要になる。
【0005】
しかしながら、実際には、被加工材の強度(変形抵抗)にはばらつきがある。特に、被加工材がアルミニウム合金からなる押出形材である場合、押出工程及びその後の熱処理工程における条件のばらつき等に起因する変形抵抗のばらつきが大きい。この変形抵抗のばらつきに起因して、曲げ加工後に両端の把持を解放した際に生じる弾性回復の量のばらつきも大きくなる。すなわち、曲げ時に一定の引っ張り力を与えても、被加工材の変形抵抗が高い場合には、曲げ加工後の弾性回復量が大きくなるため曲げ部の曲率半径が大きくなり、一方被加工材の変形抵抗が低い場合には、曲げ加工後の弾性回復量が小さくなるため曲げ部の曲率半径が小さくなる。このように、材料の変形抵抗のばらつきによって曲げ部の曲率半径がばらつき、曲げ加工後の製品形状のばらつきが大きかった。
【0006】
そこで、特許文献1では、材料に変位検出器を取り付けて、その材料の曲げ成形に必要な張力に相当する変位量を設定しておき、変位量が設定値に達したら曲げ成形を停止するようにしている。これにより、材料には、曲げ成形に必要な張力が適切に負荷されると記載されている。
また、特許文献2には、ストレッチベンダー(引っ張り曲げ加工機)に加工材の伸びを測定する伸び測定センサーが設けられており、伸び測定センサーの計測値が基準値となったときに引っ張り力の上昇を停止させ、その値を保持して曲げ加工することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53-120669号公報
【特許文献2】特開2000-237825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、被加工材は完全には真直ではないなど、初期たわみにばらつきがあり、材料の伸びもばらつくため、一定の伸びひずみを付与できないという問題がある。
さらに、特許文献1記載の方法では、形材に変位検出器を直接取り付けるので、接触部にキズや摩擦痕を生じてしまう。
一方、特許文献2記載の方法では、変位検出器や伸び測定センサーの取り付け位置から引っ張り力を付与する機械本体の動力源までの間の機械構造物に変位や伸びが生じるため、測定された変位や伸びと引っ張り力との相関に誤差が生じるおそれがある。
いずれの場合でも、変位検出器や伸び測定センサーが必要であり、設備コストがかさむ原因になる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、材料の初期たわみのばらつきや、曲げ加工機における機械構造物のガタ等に影響されることなく、精度よく引っ張り力を算出して、曲げ加工後の弾性回復の量のばらつきを抑制し、均一な製品形状の長尺曲げ加工材を高精度に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の長尺曲げ加工材の製造方法は、引っ張り力を付与できる曲げ加工機のチャックにより長尺な被加工材を把持し、該被加工材に引っ張り荷重を付与して、その変形抵抗を測定する変形抵抗測定工程と、該変形抵抗測定工程により測定された変形抵抗に応じて調整した引っ張り力を前記被加工材に付与した状態で曲げ加工を施す曲げ加工工程と、を有し、
前記変形抵抗測定工程では、前記曲げ加工機により前記引っ張り荷重を増大させつつ、前記チャックによる把持位置の変位速度又は引っ張り荷重の変化速度を測定し、前記変位速度又は変化速度の変化を基準にして変形抵抗を測定する。
【0011】
予め被加工材の変形抵抗を測定し、その変形抵抗に応じて調整した引っ張り力を付与しているので、被加工材の変形抵抗にばらつきがある場合でも、その変形抵抗に応じて引っ張り力を調整することにより、曲げ加工後の弾性回復量(又は弾性回復率)をほぼ均一にすることが可能である。このため、均一な製品形状の長尺曲げ加工材を製造することができる。
この場合、引っ張り力を付与しながら曲げ加工を行うことができる曲げ加工機を用いて、被加工材の変形抵抗を測定するので、変形抵抗測定のための試験片を被加工材から切り出すなどの作業が必要なく、作業性がよく、材料の歩留まりもよい。曲げ加工機は、引っ張り力を付与しながら曲げ加工を行うことができる公知の加工機を用いることができ、その単一の曲げ加工機で一連の工程を実施でき、設備も簡素化できる。
【0012】
しかも、チャックによる把持位置の変位速度又は引っ張り荷重の変化速度を測定し、これら変位速度又は荷重速度の変化を基準にして変形抵抗を測定しているので、チャックから引っ張り荷重の動力源までの間の機械構造物等における変位や伸びの影響を受けることなく、正確に変形抵抗を測定することができる。また、被加工材に変位測定器等を取り付ける必要もないので、被加工材に傷等を付けることもない。
【0013】
この製造方法において、前記被加工材は中空形状とすることができる。中空形状の長尺材でも、その断面形状の変化を許容範囲に抑えつつ均一な長尺曲げ加工材を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の長尺曲げ加工材の製造方法によれば、機械構造物のガタ等に影響されることなく、精度よく引っ張り力を算出して、曲げ加工後の弾性回復の量のばらつきを抑制し、均一な製品形状の長尺曲げ加工材を高精度に製造することができる。また、被加工材に変位測定器等を取り付ける必要もないので、被加工材に傷等を付けることもない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の製造方法が適用されるルーフレールの例を示す正面図である。
【
図3】本発明の製造方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【
図5】変形抵抗と曲げ加工時に付与すべき引っ張り力との相関を例示したグラフである。
【
図6】本発明の製造方法の第2実施形態が適用されるルーフレールの例を示す正面図である。
【
図7】第2実施形態における曲げ加工工程の模式図である。
【
図8】第2実施形態について変形抵抗と曲げ加工時に付与すべき引っ張り力との相関を例示したグラフである。
【
図9】本発明の製造方法の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
この実施形態は、本発明の製造方法を車両のルーフレールの製造に適用した例である。
ルーフレール1は、
図1に示すように、車両2の屋根上に車両2の長さ方向等に沿って配置できる長さを有する長尺材であり、JIS A6000系等のアルミニウム合金からなる中空の押出形材によって形成されている。その断面形状は特に限定されるものではないが、
図2に示す例では、下壁3、両側壁4,5、上壁6を有する矩形状に形成され、上壁6の上面は傾斜面に形成されており、車両2の両側部に傾斜面の向きを変えて対称に1本ずつ配置されることにより、各ルーフレール1の傾斜面が車両2の両側方に向けて下り勾配となるように設けられる。
また、このルーフレール1の長さ方向の大部分はほぼストレート状に形成されるが、両端部7は一側方に向けて屈曲されており、それぞれの先端は、車両2に取り付けるための端末加工が施され、
図1に示す例では樹脂製のブラケット8が固定されている。なお、ほぼストレート状とは、ストレートのものの他、曲率半径が大きいためにほぼストレート状とみなしてよい程度に湾曲しているものも含む。
また、長尺とは、横断面における最大寸法に対して、長さ方向の寸法が相当程度(例えば10倍以上)に大きいことをいう。
【0017】
次に、このように構成されたルーフレール1の製造方法について説明する。
[第1実施形態の製造方法]
第1実施形態の製造方法は、
図3に示すように、まずアルミニウム合金の押出加工により長尺な被加工材を形成する被加工材形成工程と、その被加工材の変形抵抗を測定する変形抵抗測定工程と、変形抵抗に応じて調整した引っ張り力を被加工材に付与した状態で曲げ加工を施す曲げ加工工程と、ルーフレール1の両端部を加工する両端部加工工程と、を有する。
以下、工程順に説明する。
【0018】
(被加工材形成工程)
アルミニウム合金の押出加工により形成した押出形材を適宜の長さに切断して被加工材を形成する。この被加工材は、ストレート状であり、断面形状は前述したルーフレール1の断面形状の中空に形成される。この段階での被加工材の長さは、次の変形抵抗測定工程や曲げ加工工程で曲げ加工機のチャックにより把持される長さ分を見込んで、ルーフレール1の長さより大きい長さ(ルーフレール1として必要な長さに曲げ加工機のチャックでの把持代を含む長さを足した長さ)に設定される。例えば、ルーフレール1として2mの長さが必要であるとして、それより50cm程度長い長尺材とする。
【0019】
(変形抵抗測定工程)
被加工材11の両端部を曲げ加工機のチャック12(
図4参照)により把持し、被加工材11に引っ張り荷重を付与して変形抵抗を測定する。変形抵抗の指標としては、曲げ加工後の弾性回復量を一定とするために曲げ加工時に付与する引っ張り力との相関を得る上で、塑性変形を開始する際の応力を用いることが好ましい。
【0020】
この場合、変位速度基準(一定速度で荷重を増加させながら変位速度がしきい値を超えた時点の荷重を計測する)、あるいは、荷重速度基準(一定速度で変位を増加させながら荷重速度がしきい値を下回った時点の荷重を計測する)にて測定した荷重をもとに変形抵抗を求める。
【0021】
被加工材11の両端部を曲げ加工機のチャック12に把持させ、引っ張り荷重を付与して変形抵抗を測定する場合、変形抵抗の指標としては、曲げ加工後の弾性回復量を一定とするために曲げ加工時に付与する引っ張り力との相関を得る上で、塑性変形を開始する際の応力を用いることが好ましい。曲げ加工機に取り付けた被加工材に、わずかに塑性変形する程度の引っ張り変形を付与し、その際に被加工材に生じる伸びひずみと被加工材に付与される引っ張り荷重を測定すれば、塑性ひずみ0.2%における応力から、常法の引っ張り試験により測定される0.2%耐力に相当する変形抵抗を測定することが可能である。しかし、曲げ加工機に取り付けた被加工材11の伸びひずみの測定には、接触式もしくは非接触式の伸び計やひずみゲージ等の測定器具が必要となり、設備のコストがかさんでしまう。また、個々の被加工材毎に測定するための準備等の時間ロスも大きくなってしまう。
【0022】
これらの問題点に対処するために、本実施形態では、荷重や被加工材11の伸びひずみそのものを基準として変形抵抗を測定するのではなく、チャック12により把持した部分の変位速度又は荷重の変化速度(時間当たりの変化量)を基準として変形抵抗を測定する。つまり、被加工材に引っ張り荷重を加えて、その荷重を増加させていくと、被加工材が弾性域で変位するときは、チャック部は比較的小さい一定の変位速度で変位するが、弾性域を超えると、塑性変形の開始に伴い、その変位速度が急激に大きくなる。そこで、この変位速度に予め定めたしきい値を設定しておき、荷重を一定速度で増加させて変位速度を測定し、その変位速度が急激に大きくなる際にそのしきい値を超えた時点で被加工材に塑性変形が開始されたと判断して、そのときの荷重を測定し、その荷重をもとに応力を算出して、これを変形抵抗とする。
【0023】
例えば、荷重を1000N/秒で増加させ、変位速度のしきい値を0.4mm/分としておき、このしきい値を超えた時点の荷重を測定し、これを被加工材11の測定前の初期断面積で除した値を変形抵抗とする。
変位速度にしきい値を設けて、塑性変形開始を変位速度で判断することとしたのは、変形抵抗測定の際に、被加工材11の両端を把持しているチャック12から引っ張り荷重の動力源までの間の機械構造物においても変位や伸びが生じ、また被加工材11自体も押し出し加工品であるため歪み等(これらを外的要因とする)が存在するため、これらの外的要因が変位量の測定値に影響する。このため、変位量を基準にすると、曲げ加工機で判断される変位量にばらつきが大きくなるおそれがあるのに対して、変位速度を基準とすれば、これらの外的要因による影響を少なくすることができるからである。
【0024】
なお、変位速度に代えて荷重の変化速度を基準としてもよい。変位を一定速度で増加させた場合、弾性域を超えると荷重の変化速度が急激に減少する。そこで、荷重の変化速度を基準にする場合は、変位を一定速度で増加させて荷重の変化速度を測定し、その荷重の変化速度が予め定めたしきい値を下回った時点で被加工材11に塑性変形が開始されたと判断して、そのときの荷重を測定し、これをもとに変形抵抗を求める。
【0025】
(曲げ加工工程)
次いで、
図4に示すように、被加工材11の両端部を曲げ加工機のチャック12により把持したまま、被加工材11に長さ方向に引っ張り力P1を付与した状態とし、その両端部に近い位置を曲げ型13に押付けて曲げ変形する。
このとき、被加工材11に付与する引っ張り力P1は、先の変形抵抗測定工程で測定した変形抵抗に応じて設定される。この被加工材11の変形抵抗と曲げ加工工程で付与する引っ張り力との関係は、種々の変形抵抗の被加工材を用いた予備試験等により、曲げ加工工程後の弾性回復量(又は弾性回復率)が一定となる関係を見出しておく。
【0026】
弾性回復量は、被加工材1の変形抵抗が高いほど大きくなり、曲げ加工時に被加工材1に付与する引っ張り力が大きいほど小さくなる。したがって、変形抵抗が低い被加工材については曲げ加工時の引っ張り力を小さくし、変形抵抗が高い被加工材ほど、付与する引っ張り力を大きくする。その変形抵抗と引っ張り力とを所定の関係で変化させれば、いずれの組み合わせにおいても、弾性回復量を一定にできる。どの程度の弾性回復量まで許容するかは、被加工材11の断面形状の変化が許容範囲に入るように決定すればよい。そして、その許容される弾性回復量に応じて、被加工材の変形抵抗と付与する引っ張り力との関係を設定すればよい。
【0027】
例えば、
図5は、そのようにして得られた、弾性回復量が一定となる変形抵抗σ(横軸)と引っ張り力P(縦軸)との相関を回帰直線Lによって示した例である。そして、測定した変形抵抗σ1に対して、回帰直線Lで導き出される引っ張り力P1を付与する。この回帰直線L上の変形抵抗と引っ張り力との関係であれば、曲げ加工後の弾性回復量がほぼ一定となるため、所望の曲げ曲率を安定して得ることができる。
【0028】
特定の変形抵抗に対して、この回帰直線Lで示される引っ張り力よりも大きい引っ張り力を付与して曲げ加工すると、除荷した後の弾性回復量が過小となり、曲げ部の曲率半径が所望の値よりも小さくなる。また、被加工材11に生じる、
図2の二点鎖線で示すような断面形状の変化が大きくなり、許容範囲を超えてしまう。一方、回帰直線Lで示される引っ張り力よりも小さい引っ張り力を付与して曲げ加工すると、除荷した後の弾性回復量が過大となり、曲げ部の曲率半径が所望の値よりも大きくなる。
【0029】
許容する弾性回復量を大きくすれば、引っ張り力を小さめにできる(
図5では回帰直線Lが下方に平行移動した状態となる)。引っ張り曲げ加工による断面形状の変化を抑制するためには、引っ張り力を小さくする必要がある。断面形状の変化を抑えつつ、同時に曲げ半径のばらつきも押えるためには、弾性回復量の許容量を大きめに設定するのがよい。
このようにして決定した弾性回復量に対して、曲げ型の曲率半径は、所望の曲率半径よりも弾性回復量の分だけ小さくしておく必要がある。弾性回復の許容量を大きくする場合には、それに応じて曲げ型の曲率半径を小さくしておく必要がある。
この曲げ型の曲率半径をどの程度にするかは、予備試験によって決定できる。
【0030】
この回帰直線で示されるような変形抵抗と引っ張り力との相関関係を曲げ加工機の制御部にプログラムとして組み込んでおき、その相関関係をもとに、先の変形抵抗測定工程で測定された変形抵抗から適切な引っ張り力を設定して曲げ加工し、その後、引っ張り力を解放(除荷)する。
【0031】
(両端部加工工程)
このようにして曲げ加工した後、被加工材11の両端部(曲げ加工機のチャック12により把持されていた部分)を切り落とし、その先端に樹脂製のブラケット8を取り付けることにより、
図1に示すルーフレール1が製造される。
【0032】
以降、ルーフレール1を製造するごとに、変形抵抗測定工程を実施し、曲げ加工工程においては、測定した変形抵抗に応じて設定した引っ張り力を付与しながら曲げ加工する。被加工材形成工程においては、被加工材が複数形成されるが、その個々の被加工材に対して、変形抵抗測定工程を経た後、その変形抵抗に応じて引っ張り力を調整しながら個々に曲げ加工工程、両端部加工工程を施す。
【0033】
このようにして得られるルーフレール1は、曲げ加工工程において引っ張り力を付与しながら曲げ加工し、その際、変形抵抗とその変形抵抗に応じて弾性回復量が一定となる引っ張り力との関係を予め見出しておき、被加工材ごとに変形抵抗を測定して、その変形抵抗に応じた引っ張り力を設定しているから、複数製造されるルーフレール1間の弾性回復量のばらつきも少なく、均一な製品形状のルーフレール1を製造することができる。
【0034】
この場合、被加工材の変形抵抗測定のために、被加工材から試験片を切り出すことなく、曲げ加工機を用いて被加工材そのものを引っ張って測定しており、変形抵抗測定工程後は、被加工材を付け替えることなく、そのまま曲げ加工機で曲げ加工することができる。したがって、試験片加工の労力や試験片作製分の材料のロスを少なくすることができ、引っ張り試験のための被加工材の搬送等の取り扱いを不要とするなど、変形抵抗測定工程及び曲げ加工工程を大幅に簡略化して作業時間を短縮することができる。
【0035】
なお、ルーフレール1の中央部と両端部との間の屈曲部の曲率半径Rが、両方とも同じであれば、曲げ加工工程時に被加工材の両端部に付与する引っ張り力も同じでよいが、二つの屈曲部の曲率半径が異なる場合には、その曲率半径に応じて引っ張り力を調整できる。
【0036】
[第2実施形態の製造方法]
図6及び
図7は、ルーフレール100の二つの曲げ部10A,10Bの内面の曲率半径R1,R2が異なっている例を示しており、この曲げ部10A,10Bを加工する曲げ型13の曲げ加工部14A,14Bの外面の曲率半径R3,R4も異なって形成されている。この場合、曲げ加工後の弾性回復量を見込んで、各曲げ加工部14A,14Bとも、目標とするルーフレール1の曲げ部10A,10Bの曲率半径R1,R2よりも小さい曲率半径R3,R4に設定される。
【0037】
曲げ型130の曲げ加工部14A,14Bの曲率半径R3,R4を、対応する曲げ部10A,10Bの曲率半径R1,R2に対して、どの程度小さく設定しておくかは、曲げ加工時の被加工材11の弾性回復量を考慮して設計することになる。この場合、曲率半径の異なる複数の曲げ型を使用して、製品の曲率半径が所望の値となるように試行錯誤して、その曲率半径を見出すことが考えられるが、曲げ加工時の引っ張り力による調整が可能であるので、曲げ部10A,10Bの曲率半径R1,R2よりもある程度小さい曲率半径としておけばよく、曲げ加工時に引っ張り力を微調整して、その弾性回復量により所望の曲率半径R1,R2を得ることができる。例えば、曲げ加工部14A,14Bの曲率半径R3,R4が、目標とするルーフレール100の曲げ部10A,10Bの曲率半径R1,R2に対して1%以上5%以下の範囲で小さくなるように設定しておけばよく、目標の曲率半径R1,R2が曲げ部10A,10Bに得られるように、曲げ加工時の引っ張り力によって微調整すればよい。このようにして曲げ型13の曲げ加工部14A,14Bを設計することにより、事前の試行錯誤の回数を減らすことができ、効率的である。
【0038】
また、被加工材11に付与する引っ張り力P1,P2は、変形抵抗測定工程で測定した変形抵抗に応じて設定される。この被加工材11の変形抵抗と曲げ加工工程で付与する引っ張り力との関係は、種々の変形抵抗の被加工材を用いた予備試験等により、曲げ加工工程後の弾性回復量(又は弾性回復率)が一定となる関係を見出しておく。基本的には
図5に示すものと同様であるが、曲げ部10A,10Bの曲率半径R1,R2が異なるので、曲げ部10A,10Bごとに異なる回帰直線L1,L2となる。
つまり、
図8に示すように、回帰直線L1,L2は、曲げ部10A,10Bの異なる各曲率半径R1,R2ごとにそれぞれ設定している。そして、測定した変形抵抗σ2に対して、回帰直線L1,L2で導き出される引っ張り力P2,P3を付与する。
【0039】
そして、被加工材11の曲げ加工に際しては、被加工材11に付与する引っ張り力P2,P3を曲げ部10A,10Bごとに調整する必要があるが、曲げ加工機の二つのチャック12にロードセル等の荷重センサをそれぞれ組み込んでおき、各チャック12に作用する引っ張り力を確認しながら、これらを調整する。曲げ型13の両曲げ加工部14A,14Bの間の中央部15は平坦部となっており、被加工材11を曲げ型13に押付けながら曲げ加工する際に、平坦な中央部15と被加工材11との間に摩擦力が作用し、両曲げ加工部14A,14Bにおいて曲げられる被加工材11に付与される引っ張り力を異なるものとすることができる。
この場合、曲げ型130において、両曲げ加工部14A,14Bの間の中央部15が平坦部であるよりも、わずかに外側に膨らむ曲面部である方が被加工材11との間の摩擦力を確実に生じさせることができて好ましい。例えば、中央部15を曲げ加工部14A,14Bの曲率半径R3,R4の約100倍大きい曲率半径の曲面部とするとよい。
【0040】
[変形例の製造方法]
第1実施形態では変形抵抗として被加工材11を引っ張ったが、被加工材の表面硬度を測定して変形抵抗を求めるようにしてもよい。
つまり、
図9に示すように、アルミニウム合金の押出加工により被加工材を形成する被加工材形成工程と、その被加工材の表面硬度を測定して被加工材の変形抵抗を求める変形抵抗測定工程(表面硬度測定工程)と、その変形抵抗に応じて調整した引っ張り力を被加工材に付与した状態で曲げ加工を施す曲げ加工工程と、両端部加工工程と、を有する。
【0041】
(被加工材形成工程)
第1実施形態と同様、曲げ加工機のチャックに把持される長さ分のみ、ルーフレールとしての最終長さより大きく設定した被加工材を形成する。
【0042】
(変形抵抗測定工程)
被加工材について、ウエブスター硬度、バーコル硬度等の表面硬度を測定する。また、予め、種々の表面硬度の被加工材を用いた予備試験等により、引っ張り試験機を用いて測定した被加工材の変形抵抗と、その表面硬度との相関関係を確認しておく。そして、測定した表面硬度から、前記の相関関係を用いて、被加工材の変形抵抗を算出する。
この場合、硬度の測定は、被加工材の表面に硬度計の圧子を押圧することにより行うことができる。また、曲げ加工機のチャックで把持される部分により硬度を測定することができる。硬度計の圧子を押圧することにより、打痕が生じるが、その後の曲げ加工には支障なく、かつ、曲げ加工工程後に切断により除去される部位であるため、ルーフレールの製品外観への影響はない。また、表面硬度の測定は、曲げ加工機に被加工材を取り付けた後に、そのチャックで把持される端部において硬度計を用いて行うことができる。
【0043】
(曲げ加工工程)
第1実施形態のように、予備試験等により、被加工材の変形抵抗と被加工材に付与すべき引っ張り力との関係について、弾性回復量が一定となる関係を見出しておき、曲げ加工機の制御部にプログラムとして組み込んでおく。
そして、先の変形抵抗測定工程で求めた変形抵抗に応じて弾性回復量が一定となる引っ張り力を求めて、その引っ張り力を被加工材に付与しながら曲げ加工する。
なお、被加工材を曲げ加工機のチャックにより把持した状態で硬度測定しているので、この曲げ加工工程において、チャックの付け替え等の作業は必要ない。チャックにより把持する前に被加工材の表面硬度を測定した後に、被加工材を曲げ加工機に取付けても良い。その場合でも、曲げ加工機のチャックにより把持される被加工材の両端部は、変形抵抗測定工程で表面硬度が測定された部分となる。ただし、本発明においては、表面硬度を測定した部分を切り落として、チャックに取付けることを妨げない。
【0044】
(両端部加工工程)
曲げ加工後に、被加工材の両端部(曲げ加工機のチャックにより把持されていた部分)を切り落とし、その先端に樹脂製のブラケットを取り付けることにより、ルーフレールが製造される。
【0045】
なお、被加工材で測定した表面硬度と変形抵抗との相関をもとに表面硬度から変形抵抗を算出し、また、変形抵抗から曲げ加工時に付与すべき引っ張り力を求めたが、被加工材の表面硬度と曲げ加工時に付与すべき引っ張り力との相関を求めることができる場合には、表面硬度から変形抵抗への算出を省略して、表面硬度から直接引っ張り力を求めればよい。この場合、変形抵抗測定工程では、変形抵抗に代えて表面硬度を測定し、曲げ加工工程では、その表面硬度に応じて調整した引っ張り力を被加工材に付与した状態で曲げ加工を施す。
【0046】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、ルーフレールを製造する例を示したが、ルーフレールに限らず、長尺な被加工材に対して引っ張り力を付与しながら曲げ加工する際に本発明を適用することができる。その曲げ加工部位も実施形態のような2箇所に限らず、1箇所以上あればよい。
また、実施形態では変形抵抗と曲げ加工時の引っ張り力との相関として回帰直線を求めて、変形抵抗から回帰直線によって引っ張り力を求めたが、両者の相関が確認できるものであれば、必ずしも回帰直線でなくてもよい。
また、各実施形態では中空形状の被加工材としたが、中実形状の被加工材にも本発明を適用することができる。
また、変形抵抗測定工程の後、曲げ加工工程の前に、形材の真直度を向上させるための引っ張り変形を与えることもできる。その場合、変形抵抗測定工程で測定した変形抵抗に対して、真直度向上のための引っ張り変形による加工硬化分を加えればよい。
さらに、曲げ部の断面形状を所望の形状範囲に収めるために必要であれば、曲げ加工による断面形状変化を考慮して、曲げ加工前の初期断面形状を調整しておく方法と、本発明を組み合わせて曲げ加工を行うことも可能である。
【実施例0047】
JIS A6063のT5材と、JIS A6061のT6材との二種類のアルミニウム合金材料を用いて長さ2000mmの押出形材からなる被加工材を複数作製した。断面形状は、長辺が35mm、短辺が25mmの長方形とし、板厚を2mmとした。この被加工材を曲げ加工機に取り付け、1000N/秒の速度で引っ張り力を付与し、単位時間当たりの伸びの増加量が0.4mm/秒となった時点の引っ張り力から変形抵抗を測定した。各被加工材の変形抵抗は表1の通りであった。
【0048】
そして、被加工材に表1に示す引っ張り力を付与しながら長手方向の中央部を曲げ型に押し付けることにより曲げ加工した。曲げ後の被加工材の曲率半径の狙い値が300mm、および800mmの2種類の狙い形状について曲げ加工を行った。曲げ型としては、被加工材が押し付けられる部分の曲率半径が270mmのものと、285mm、及び720mmの三種類を用意した。そのときの引っ張り力としては、アルミニウム合金種及び曲げの曲率半径の組み合わせごとに、曲げ加工後の弾性回復量が一定となる関係を求めておき、その関係に沿う引っ張り力とした。
また、比較例として、特開2000-237825号公報に記載の方法で伸びを測定して、一定伸び量での荷重から変形抵抗を判定し、その結果に基づいて「曲げ加工後の弾性回復量が一定となる関係」に照らして曲げ時の引っ張り力を設定した。
【0049】
そして、曲げ加工後に、得られた曲げ製品の曲率半径の実績を測定評価した。測定された製品の実績曲率半径と、製品の狙い曲率半径からの誤差率を下式で算出し、誤差率が0.4%未満となる場合に良品と判定し、0.4%以上となる場合に不合格品と判定した。
誤差率(%)=|1-製品実績曲率半径/製品狙い曲率半径|×100
その結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
表1から明らかなように、実施例の場合には、それぞれの曲げ曲率半径において、変形抵抗のばらつきにかかわらず加工後の曲率半径がほぼ一定となっている。いずれの実施例も誤差率は0.4%未満であった。
これに対して、比較例の方法では、変形抵抗を精度良く測定できないため、結果として弾性回復量が一定となる関係の引っ張り力を選択できず、相関直線から離れた引張力を与えてしまうため、曲げ形状の精度が悪くなっている。誤差率は0.4%以上であった。
したがって、この結果から、本実施形態の曲げ加工方法によれば、曲げ加工後の弾性回復量がほぼ一定となり、均一な曲げ加工を施すことができる。