(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033452
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】プレス成形品の形状変化予測方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
B21D22/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137339
(22)【出願日】2020-08-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】卜部 正樹
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA04
4E137AA05
4E137AA21
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CB01
4E137CB03
4E137EA01
4E137GA03
4E137GA08
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】上面視で湾曲したハット型断面形状のプレス成形品の時間経過による形状変化を予測する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形品の形状変化予測方法は、天板部と縦壁部とフランジ部とを有してなるハット型断面形状であり、上面視で長手方向に沿って湾曲した形状を含むプレス成形品について、金型から離型してスプリングバックした後の時間経過に伴う応力緩和による長手方向端部側が捩れる形状変化を予測するものであって、スプリングバックした直後のプレス成形品の形状及び残留応力を取得する工程(S1)と、スプリングバックした直後のプレス成形品の少なくとも湾曲内側フランジ部及び/又は湾曲外側フランジ部に対し、スプリングバック直後の残留応力よりも緩和減少した応力の値を設定する工程(S3)と、緩和減少した応力の値を設定したプレス成形品について力のモーメントが釣り合う形状を求める工程(S5)と、を含むものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部と該天板部から連続する縦壁部と該縦壁部から連続するフランジ部とを有してなるハット型断面形状であり、上面視で長手方向に沿って湾曲した形状を含むプレス成形品について、金型から離型した瞬間にスプリングバックした後の時間経過に伴う応力緩和による長手方向端部側が捩れる形状変化を予測するプレス成形品の形状変化予測方法であって、
前記プレス成形品のスプリングバック解析により、スプリングバックした直後の前記プレス成形品の形状及び残留応力を取得するスプリングバック直後の形状・残留応力取得工程と、
スプリングバックした直後の前記プレス成形品の少なくとも湾曲内側フランジ部及び/又は湾曲外側フランジ部に対し、スプリングバックした直後の残留応力よりも緩和減少した応力の値を設定する残留応力緩和減少設定工程と、
緩和減少した応力の値を設定した前記プレス成形品について力のモーメントが釣り合う形状を求める残留応力緩和形状解析工程と、を含むことを特徴とするプレス成形品の形状変化予測方法。
【請求項2】
前記残留応力緩和減少設定工程において、スプリングバックした直後の残留応力よりも10%以上緩和減少した応力の値を設定することを特徴とする請求項1記載のプレス成形品の形状変化予測方法。
【請求項3】
前記プレス成形品のプレス成形に供するブランクは、引張強度が150MPa級以上2000MPa級以下の金属板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形品の形状変化予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の形状変化予測方法に関し、特に、天板部と縦壁部とフランジ部を有してなるハット型断面形状であり上面視で長手方向に沿って湾曲した形状を含むプレス成形品について、金型から離型してスプリングバックした後の時間経過に伴って生じる形状変化を予測するプレス成形品の形状変化予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形は金属部品を低コストかつ短時間に製造することができる製造方法であり、多くの自動車部品の製造に用いられている。近年では、自動車の衝突安全性と車体の軽量化を両立するため、より高強度な金属板が自動車部品のプレス成形に利用されている。
【0003】
高強度な金属板をプレス成形する場合の主な課題の一つにスプリングバックによる寸法精度の低下がある。プレス成形により金属板を変形させる際にプレス成形品に発生した残留応力が駆動力となり、金型から離型したプレス成形品がプレス成形前の金属板の形状にバネのように瞬間的に戻ろうとする現象をスプリングバックと呼ぶ。
【0004】
プレス成形時に発生する残留応力は高強度な金属板(例えば、高張力鋼板)ほど大きくなるため、スプリングバックによる形状変化も大きくなる。したがって、高強度な金属板ほどスプリングバック後の形状を規定の寸法内におさめることが難しくなる。そこで、スプリングバックによるプレス成形品の形状変化を精度良く予測する技術が重要となる。
【0005】
スプリングバックによる形状変化の予測には、有限要素法によるプレス成形シミュレーションの利用が一般的である。当該プレス成形シミュレーションにおける手順としては、まず、金属板を成形下死点までプレス成形する過程のプレス成形解析を行い、プレス成形下死点での残留応力を予測する第1段階(例えば特許文献1)と、金型から離型した(取り出した)プレス成形品がスプリングバックにより形状が変化する過程のスプリングバック解析を行い、離型したプレス成形品における力のモーメントと残留応力との釣り合いがとれる形状を予測する第2段階(例えば特許文献2)に分けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5795151号公報
【特許文献2】特許5866892号公報
【特許文献3】特開2013-113144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでに、前述した第1段階のプレス成形解析と第2段階のスプリングバック解析とを統合したプレス成形シミュレーションを行うことにより、金型から離型してスプリングバックした直後のプレス成形品の形状が予測されてきた。
しかしながら、発明者らは、プレス成形シミュレーションにより予測されたプレス成形品の形状と実際にプレス成形されたプレス成形品の形状とを比較した際、プレス成形シミュレーションによる形状予測精度が低くなるプレス成形品があることに気づいた。
【0008】
そこで、プレス成形シミュレーションによる形状予測精度が低くなるプレス成形品に関して調査したところ、一例として
図2に示すような、天板部3と縦壁部5とフランジ部7とを有してなるハット型断面形状であり、上面視で長手方向に沿って湾曲したプレス成形品1においては、離型して数日経過した後では、長手方向中央部に対して長手方向端部側が捩れるような変形が生じてしまい、プレス成形直後と数日経過後とではプレス成形品1の形状が異なることを発見した。
【0009】
このようなプレス成形品の時間単位の経過に伴う経時変化は、クリープ現象のように外部から高い荷重を受け続ける構造部材が徐々に変形する現象(例えば、特許文献3)と類似しているように思われるが、外部から荷重を受けていないプレス成形品において起こる形状の変化はこれまでに知られていなかった。
【0010】
さらに、従来のプレス成形シミュレーションにおける第2段階(スプリングバック解析)は、金型から取り出した瞬間にスプリングバックした直後のプレス成形品の形状を予測するものである。そのため、本願が目的とするスプリングバックしたプレス成形品について、例えば数日経過した後の形状変化を予測することに関しては、これまでに何ら検討されていなかった。
その上、スプリングバックしたプレス成形品の時間単位の経過による形状変化は、前述したように、外部からの荷重を受けずに生じるものである。そのため、プレス成形品の時間単位の経過による形状変化の予測を試みたとしても、クリープ現象による形状変化を取り扱う解析手法を適用することはできなかった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、天板部と該天板部から連続する縦壁部と該縦壁部から連続するフランジ部とを有してなるハット型断面形状であり上面視(天板部方向から見た場合)で長手方向に沿って湾曲した形状を含むプレス成形品について、金型から離型した瞬間にスプリングバックした後の時間単位の経過による前記プレス成形品の形状変化を予測するプレス成形品の形状変化予測方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係るプレス成形品の形状変化予測方法は、天板部と該天板部から連続する縦壁部と該縦壁部から連続するフランジ部とを有してなるハット型断面形状であり、上面視で長手方向に沿って湾曲した形状を含むプレス成形品について、金型から離型した瞬間にスプリングバックした後の時間経過に伴う応力緩和による長手方向端部側が捩れる形状変化を予測するものであって、
前記プレス成形品のスプリングバック解析により、スプリングバックした直後の前記プレス成形品の形状及び残留応力を取得するスプリングバック直後の形状・残留応力取得工程と、
スプリングバックした直後の前記プレス成形品の少なくとも湾曲内側フランジ部及び/又は湾曲外側フランジ部に対し、スプリングバックした直後の残留応力よりも緩和減少した応力の値を設定する残留応力緩和減少設定工程と、
緩和減少した応力の値を設定した前記プレス成形品について力のモーメントが釣り合う形状を求める残留応力緩和形状解析工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0013】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記残留応力緩和減少設定工程において、スプリングバックした直後の残留応力よりも10%以上緩和減少した応力の値を設定することを特徴とするものである。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記プレス成形品のプレス成形に供するブランクは、引張強度が150MPa級以上2000MPa級以下の金属板であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、天板部と該天板部から連続する縦壁部と該縦壁部から連続するフランジ部とを有してなるハット型断面形状であり上面視で長手方向に沿って湾曲した形状を含むプレス成形品について、該プレス成形品のスプリングバック解析により、スプリングバックした直後の前記プレス成形品の形状及び残留応力を取得するスプリングバック直後の形状・残留応力取得工程と、該取得したスプリングバックした直後のプレス成形品の少なくとも湾曲内側フランジ部及び/又は湾曲外側フランジ部に対し、スプリングバックした直後の残留応力よりも緩和減少した応力の値を設定する残留応力緩和減少設定工程と、緩和減少した応力の値を設定した前記プレス成形品について力のモーメントが釣り合う形状を求める残留応力緩和形状解析工程と、を含むことにより、金型から離型してスプリングバックした後の時間経過に伴う前記プレス成形品の形状変化を精度良く予測することができる。その結果、自動車部品や車体等の製造工程において、従来よりもさらに寸法精度の優れたプレス成形品を得て、製造能率を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係るプレス成形品の形状変化予測方法の処理の流れを示すフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態で対象とした上面視で長手方向に沿って湾曲したハット型断面形状のプレス成形品を示す図である((a)斜視図、(b)上面図)。
【
図3】ひずみを付与した後に一定に保持した状態で時間の経過とともに応力が緩和して減少する応力緩和現象を説明する図である。
【
図4】上面視で長手方向に沿って湾曲したハット型断面形状のプレス成形品の湾曲内側フランジ部及び湾曲外側フランジ部における応力緩和による形状変化を説明する図である((a)プレス成形直後の成形下死点、(b)スプリングバック直後、(c)時間経過後)。
【
図5】実施例で対象とした上面視で長手方向に沿って湾曲したハット型断面形状のプレス成形品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<発明に至るまでの検討>
発明者らは、前述の課題を解決するために、
図2に一例として示すプレス成形品1について、金型から離型した瞬間にスプリングバックした後のさらなる時間経過に伴う応力緩和による形状変化を予測する手法を確立するために、その前段階として、プレス成形品1の形状が時間経過に伴って変化する原因について検討した。
【0018】
検討の対象としたプレス成形品1は、
図2に一例を示すように、天板部3と、天板部3から連続する一対の縦壁部5と、一対の縦壁部5のそれぞれから連続するフランジ部7とを有してなるハット型断面形状であり、上面視で長手方向に沿って湾曲した形状を含み、天板部3と縦壁部5とはパンチ肩R部9を介して連続し、縦壁部5とフランジ部7とはダイ肩R部11を介して連続する。また、フランジ部7には、湾曲の内側に位置する湾曲内側フランジ部7aと、湾曲の外側に位置する湾曲外側フランジ部7bとがある。なお、湾曲の内側とは、上面視において湾曲の曲率中心と同じ側とし、湾曲の外側とは、上面視において湾曲の曲率中心と反対側とする。
【0019】
そして、このようなプレス成形品1について上記を検討した結果、発明者らは、
図3の応力―ひずみ線図に示すように、ひずみを付与した後に一定に保持したまま時間の経過とともに応力が徐々に緩和する応力緩和現象に着目した。そして、スプリングバックした後のプレス成形品1においても、湾曲内側フランジ部7aと湾曲外側フランジ部7bの残留応力が時間の経過とともに徐々に緩和することで、プレス成形品1の力のモーメントと釣り合う形状が変化することを突き止めた。
【0020】
プレス成形品1における残留応力の緩和による形状変化について、
図4に示す模式図を用いて説明する。なお、
図4(a)(ii)、
図4(b)(ii)及び
図4(c)(ii)中の破線は、プレス成形品1の長手方向端部の断面における天板部3の傾きを示す線である。
【0021】
プレス成形品1のプレス成形において、金属板(ブランク)は
図2に示すように上面視で湾曲した形状に曲げられるため、成形下死点では、
図4(a)(i)に示すように、湾曲内側フランジ部7aではブランク端部の線長が伸びる伸びフランジ変形が生じて引張応力が発生し、湾曲外側フランジ部7bではブランク端部の線長が縮まる縮みフランジ変形が生じて圧縮応力が発生する。
【0022】
次に、金型からプレス成形品1を取り外すと、プレス成形時に発生した残留応力を駆動力としてスプリングバックが発生する。このスプリングバックにおいて、湾曲内側フランジ部7aは縮もうとし、湾曲外側フランジ部7bは伸びようとする。しかしながら、湾曲内側フランジ部7a及び湾曲外側フランジ部7bの面内での縮みや伸びといった変形は剛性が大きくて生じにくいため、
図4(b)に示すように面外変形となる長手方向端部側の捩れが生じる。そして、成形下死点での湾曲内側フランジ部7a及び湾曲外側フランジ部7bの残留応力(引張応力及び圧縮応力)は、絶対値が小さくなるか、場合によっては、
図4(b)(i)に示すように残留応力が反転した状態となり力のモーメントが釣り合う形状となる。
【0023】
その後、スプリングバックした直後の湾曲内側フランジ部7aにおける圧縮応力と湾曲外側フランジ部7bにおける引張応力は、
図4(b)(i)から
図4(c)(i)に示すように、時間経過とともに外部からの強制を受けないまま緩和して減少する。これにより、力のモーメントと釣り合う形状が変化するため、プレス成形品1の長手方向端部においてはさらに捩れが発生し、成形下死点形状からさらに乖離する。
【0024】
このように、上面視で湾曲した形状のハット型断面形状のプレス成形品1においては、プレス成形してスプリングバックした後のさらなる時間の経過に伴って湾曲内側フランジ部7aと湾曲外側フランジ部7bの残留応力が緩和することに起因して、長手方向端部側に捩れが発生し、成形下死点からさらに乖離した形状になるという知見が得られた。
【0025】
そこで、発明者らは、上記の新たな知見に基づいて、例えば、
図2に示すようなプレス成形品1についてスプリングバックした後の時間経過に伴う応力緩和による形状変化を予測する方法について検討をすすめた。その結果、前述したプレス成形シミュレーションの第2段階(スプリングバック解析)で得られるスプリングバックした直後のプレス成形品1の少なくとも湾曲内側フランジ部7a及び/又は湾曲外側フランジ部7bの残留応力を緩和させ、プレス成形品1の力のモーメントと釣り合う形状を求める第3段階の解析をさらに行うことで、前述したようなプレス成形品1の時間経過に伴う形状変化(長手方向端部の捩れ)を予測できるということを見い出した。
【0026】
本発明は、このような検討及び知見に基づいてなされたものであり、以下に具体的な構成の一例を説明する。
【0027】
<プレス成形品の形状変化予測方法>
本発明の実施の形態に係るプレス成形品の形状変化予測方法は、一例として
図2に示すように、天板部3と天板部3から連続する縦壁部5と縦壁部5から連続するフランジ部7とを有してなるハット型断面形状であり、上面視で長手方向に沿って湾曲した形状を含むプレス成形品1について、金型から離型しスプリングバックした後の時間経過に伴う応力緩和による長手方向端部側が捩れる形状変化を予測するものであって、
図1に示すように、スプリングバック直後の形状・残留応力取得工程S1と、残留応力緩和減少設定工程S3と、残留応力緩和形状解析工程S5と、を備えるものである。以下、上記の各工程について説明する。
【0028】
≪スプリングバック直後の形状・残留応力取得工程≫
スプリングバック直後の形状・残留応力取得工程S1は、プレス成形品1のスプリングバック解析により、スプリングバックした直後のプレス成形品1の形状及び残留応力を取得する工程である。
【0029】
スプリングバックした直後のプレス成形品1の形状及び残留応力を取得する具体的な処理の一例としては、実際のプレス成形品1のプレス成形に用いる金型をモデル化した金型モデルを用いて、金属板を成形下死点までプレス成形する過程のプレス成形解析を行い、成形下死点におけるプレス成形品1の形状及び残留応力を求める第1段階と、該求めた成形下死点におけるプレス成形品1を金型モデルから離型した後のプレス成形品1の力のモーメントの釣り合いが取れる形状及び残留応力を求めるスプリングバック解析を行う第2段階と、を有する有限要素法によるプレス成形シミュレーションが挙げられる。
【0030】
≪残留応力緩和減少設定工程≫
残留応力緩和減少設定工程S3は、スプリングバック直後の形状・残留応力取得工程S1において取得したスプリングバックした直後のプレス成形品1の少なくとも湾曲内側フランジ部7a及び/又は湾曲外側フランジ部7bに対し、スプリングバックした直後の残留応力よりも緩和減少させた応力の値を設定する工程である。
【0031】
残留応力緩和減少設定工程S3における残留応力とは、スプリングバックした直後のプレス成形品1に残留する引張応力及び圧縮応力のことをいう。
さらに、残留応力緩和減少設定工程S3において残留応力を緩和減少させた応力の値を設定するとは、スプリングバックした直後のプレス成形品1に残留する引張応力(正の値)及び圧縮応力(負の値)の絶対値を緩和減少させることをいう。
【0032】
≪残留応力緩和形状解析工程≫
残留応力緩和形状解析工程S5は、残留応力緩和減少設定工程S3で緩和減少した応力の値を設定したプレス成形品1について、力のモーメントが釣り合う形状を求める解析を行う工程である。
【0033】
残留応力緩和形状解析工程S5における解析には、スプリングバック直後の形状・残留応力取得工程S1におけるスプリングバック解析と同様の解析手法を適用することにより、残留応力を緩和減少させた後のプレス成形品1の形状及び残留応力を得ることができる。
【0034】
このように、本実施の形態に係るプレス成形品の形状変化予測方法によれば、スプリングバック解析により取得した、スプリングバックした直後のプレス成形品1の少なくとも湾曲内側フランジ部7a及び/又は湾曲外側フランジ部7bに対し、スプリングバックした直後の残留応力よりも緩和減少した応力の値を設定し、緩和減少した応力の値を設定したプレス成形品1について力のモーメントと釣り合う形状を求める解析を行うことで、実際のプレス成形品1における時間経過による応力緩和と形状変化を模擬し、金型から離型してスプリングバックした後のプレス成形品1の時間経過に伴う長手方向端部側が捩れる形状変化を予測することができる。
【0035】
なお、上記の説明において、残留応力緩和減少設定工程S3は、プレス成形品1における少なくとも湾曲内側フランジ部7a及び/又は湾曲外側フランジ部7bに対し、それら各部位の残留応力を緩和減少させた応力の値を設定するものであった。
【0036】
もっとも、本発明は、プレス成形品1における湾曲内側フランジ部7aや湾曲外側フランジ部7b以外の他の部位に対しても残留応力を緩和減少させるものであってもよいし、プレス成形品1の全部に対して残留応力を緩和減少させた値を設定してもよい。
さらには、湾曲内側フランジ部7aや湾曲外側フランジ部7b等の部位ごとに残留応力を緩和減少させる割合や値を変えてもよい。
【0037】
なお、上記の説明は、長手方向の全長にわたって上面視で湾曲した形状のプレス成形品を対象とするものであったが、本発明は、長手方向における一部の部位が上面視で長手方向に沿って湾曲した形状のプレス成形品であればよく、例えば、湾曲した湾曲部と、該湾曲部の湾曲の端から長手方向の外方の両側又は片側に直線状に延出する辺部とを含むプレス成形品を対象とすることができる。
【0038】
また、本発明は、残留応力緩和減少設定工程において、スプリングバックした直後の残留応力よりも10%以上緩和減少させることにより、時間経過した後の形状変化を良好に予測できて好ましい。
【0039】
本発明に係るプレス成形品の形状変化予測方法において、プレス成形に供するブランク(金属板)や、プレス成形品の形状、種類には特に制限はないが、プレス成形品の残留応力が高くなる金属板を用いてプレス成形した自動車部品に対してより効果がある。
【0040】
具体的には、ブランクの板厚については、0.5mm以上4.0mm以下であることが好ましい。
また、ブランクの引張強度については、150MPa級以上2000MPa級以下であることが好ましく、440MPa級以上1470MPa級以下であることがより好ましい。
【0041】
引張強度が150MPa級未満の金属板は、プレス成形品に利用されることが少ないため、本発明に係るプレス成形品の形状変化予測方法を用いる利点が少ない。引張強度150MPa級以上の金属板を用いた自動車の外板部品等の剛性が低いものについては、残留応力の変化による形状変化を受けやすいため、本発明を適用する利点が多くなるので本発明を好適に適用できる。
【0042】
一方、引張強度が2000MPa級を超える金属板は延性が乏しいため、例えば、
図2に示すようなハット型断面形状のプレス成形品1のプレス成形過程においてはパンチ肩R部9やダイ肩R部11で割れが発生しやすく、プレス成形することができない場合がある。
【0043】
さらに、プレス成形品の種類としては、ルーフサイドレールやフロントピラーアッパなどの上面視で湾曲したハット型断面形状の骨格部品を対象とすることが好ましいが、ハット型断面形状であって上面視で湾曲した形状を含み、プレス成形した後の時間経過により長手方向端部側の捩れが発生して寸法精度が低下する自動車部品に本発明を広く用いることができる。
【0044】
なお、本発明で対象とするプレス成形品のプレス成形方法についても、曲げ成形、フォーム成形又はドロー成形等、特に問わない。
【実施例0045】
実施例では、まず、金属板の一例として、以下の表1に一例を示す機械的特性を持つ鋼板Aを用い、
図5に示す、天板部23と天板部23から連続する縦壁部25と縦壁部25から連続するフランジ部27とを有してなるハット型断面形状であり、上面視で長手方向に沿って湾曲した自動車部品であるプレス成形品21のプレス成形を行った。プレス成形品21の成形下死点形状は、湾曲の曲率半径を170mm、プレス成形方向における縦壁部25の縦壁高さを40mmとした。
【0046】
【0047】
そして、成形下死点までプレス成形した後に金型から離型してスプリングバックした直後と、スプリングバックして3日経過した後において、プレス成形品21の形状を測定し、長手方向中央の天板部23を基準とする長手方向端部の天板部23の傾きを捩れ角として実測した。
【0048】
次に、プレス成形品21の時間経過による長手方向端部の捩れを予測する解析を行った。
解析では、まず、プレス成形に用いる金型をモデル化した金型モデルを用いて、鋼板Aを成形下死点までプレス成形する過程のプレス成形解析を行い、成形下死点におけるプレス成形品21の形状及び残留応力を求めた。
【0049】
続いて、成形下死点におけるプレス成形品21を金型モデルから離型した直後のプレス成形品21の形状及び残留応力を求めるスプリングバック解析を行った。
【0050】
さらに、スプリングバック解析により求めた、スプリングバックした直後のプレス成形品21の湾曲内側フランジ部27a及び/又は湾曲外側フランジ部27bに対し、残留応力の絶対値を所定の割合で低下させた応力の値を設定した。
そして、残留応力を低下させたプレス成形品21について力のモーメントが釣り合う形状を求める解析を行い、長手方向中央の天板部23を基準とする長手方向端部の天板部23の傾きである捩れ角を求めた。
【0051】
実施例では、スプリングバック解析により取得したプレス成形品21の湾曲内側フランジ部27aのみ、又は、湾曲内側フランジ部27a及び湾曲外側フランジ部27bの双方に対し、スプリングバックした直後の残留応力を所定の割合(応力緩和減少率)で低下した応力の値を設定したものを発明例1~発明例3とした。
【0052】
また、比較対象として、発明例1~発明例3と同様にプレス成形品21のプレス成形解析及びスプリングバック解析を行ったものの、残留応力を緩和減少した応力の値を設定して力のモーメントが釣り合う形状を求める解析を行わなかったものを比較例1とした。
【0053】
表2に、発明例1~発明例3及び比較例1における応力緩和減少率と、実験値からの天板部23の長手方向端部における捩れ角の乖離量の結果をまとめて示す。
長手方向中央の天板部23を基準とする長手方向端部の天板部23の傾きである捩れ角の実測値は6.7°であった。
【0054】
【0055】
表2において、予測値は、長手方向中央の天板部23を基準とする長手方向端部の天板部23の傾きである捩れ角を予測した値である。また、実測値と予測値との差分及び実測値に対する予測値の誤差を算出し、合わせて記載した。
【0056】
比較例1においては、捩れ角の予測値は5.8°であり、実測値と予測値との差分は0.9°であり、予測値の誤差は13.4%であった。
【0057】
発明例1は、湾曲外側フランジ部7bのみに対して10%低下させた応力の値を設定したものであり、予測値は6.0°と増加し、実測値と予測値との差分は0.7°、予測値の誤差は10.4%となり、比較例1よりも実測値に近づく結果となった。
【0058】
発明例2は、湾曲外側フランジ部7bと湾曲内側フランジ部7aの双方に対して10%低下させた応力の値を設定したものであり、予測値は6.4°に増加し、実測値と予測値との差分は0.3°、予測値の誤差は4.5%となり、比較例1及び発明例1よりも実測値に近づく結果となり、良好であった。
【0059】
発明例3は、湾曲外側フランジ部7bと湾曲内側フランジ部7aの双方に対して20%低下させた応力の値を設定したものであり、予測値は7.0°に増加し、実測値と予測値との差分は-0.3°、予測値の誤差は-4.5%となり、いずれも負の値であるが、絶対値で比較すると比較例1及び発明例1よりも改善し、発明例3と同じく良好であった。