(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033480
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】自動車用ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220222BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20220222BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20220222BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20220222BHJP
【FI】
C03C27/12 R
B60J1/00 H
B32B17/10
B32B7/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137394
(22)【出願日】2020-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】平田 泰
(72)【発明者】
【氏名】三輪 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】江本 麗未
(72)【発明者】
【氏名】水向 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】古市 渉
(72)【発明者】
【氏名】河合 昂平
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AG00C
4F100AK01B
4F100AK23B
4F100AK52D
4F100EC03B
4F100EH46D
4F100GB31
4F100JK07D
4F100JK12D
4F100YY00A
4F100YY00D
4G061AA04
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CB20
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA23
(57)【要約】
【課題】自動車用ガラスとしての十分な耐久性を備え、車外側からの飛来物の衝突に対する耐衝撃性と、車内外の両側からの物体の衝突に対する衝撃吸収性とを向上させる。
【解決手段】車外側の非強化ガラス11aと、車内側の非強化ガラス11bとが樹脂層12を介して接合され、車外側の非強化ガラス11aにおける車外側の表面に、ポリシロキサンを含む厚さが3~6μmの保護層20が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外側の非強化ガラスと、車内側の非強化ガラスとが樹脂層を介して接合され、
前記車外側の非強化ガラスにおける車外側の表面に、ポリシロキサンを含む厚さが3~6μmの保護層が形成されていることを特徴とする自動車用ガラス。
【請求項2】
前記保護層の硬さは、0.3GPa以下である請求項1に記載の自動車用ガラス。
【請求項3】
前記保護層の弾性率は、3~4GPaである請求項1又は2に記載の自動車用ガラス。
【請求項4】
前記車外側の非強化ガラスは、厚さが0.3~2mmである請求項1~3のいずれか1項に記載の自動車用ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のガラスには、安全ガラスが用いられている。安全ガラスとしては、樹脂フィルムを挟んで複数のガラスを接合した合わせガラス、強化ガラス、部分強化ガラスなどが使用されている。
【0003】
自動車用のフロントガラスは、外側からは飛び石などにさらされるため高い耐衝撃性が求められる一方、内側からの物体の衝突を緩和する低い耐衝撃性が求められる。
特許文献1には、強化ガラスシートの内側耐衝撃性と外側耐衝撃性とを切り離して、外側からの衝突に対する高い耐衝撃性と、内側からの衝突に対する低い耐衝撃性とを有する強化ガラス積層体が記載されている。強化ガラス積層体は、第1の表面及び第1の表面の反対に配置された第2の表面を有する。強化ガラス積層体は、強化ガラスの少なくとも1つの層、並びに強化ガラスの第1の表面に接着された1つ以上のコーティングを備える。1つ以上のコーティングは、強化ガラスの少なくとも1つの層に非対称耐衝撃性を付与する。
【0004】
また、非特許文献1(窓ガラスの技術基準)にはこのような自動車用ガラスに関する耐衝撃試験の基準が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】道路運送車両の保安基準の細目を定める告示(2003.09.26)別添37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車用ガラスには、車外側からの飛び石などの飛来物の衝突に対する耐衝撃性のさらなる向上が求められている。また、車内側からのみならず木の枝や大型の鳥など車外側からの物体の衝突に対して、自動車用ガラスが割れても車内に入ってこないよう衝撃吸収性の向上も求められている。本発明は、こうした事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、自動車用ガラスとしての十分な耐久性を備え、車外側からの飛び石などの飛来物の衝突に対する耐衝撃性と、車内外の両側からの木の枝や大型の鳥など大きな物体の衝突に対する衝撃吸収性の両方が向上した自動車用ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の自動車用ガラスは、車外側の非強化ガラスと、車内側の非強化ガラスとが樹脂層を介して接合され、上記車外側の非強化ガラスにおける車外側の表面に、ポリシロキサンを含む厚さが3~6μmの保護層が形成されていることを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、車外側の非強化ガラスにおける車外側の表面に、ポリシロキサンを含む厚さが3~6μmの保護層が形成されていることによって、車外側からの飛び石などの軽く硬い飛来物の衝撃をポリシロキサンを含む保護層が直接受けて、ガラスの破損につながる局所的な歪みを緩和することができる。そのため、自動車用ガラスの耐衝撃性をより向上させて、自動車用ガラスの割れを防止することができる。
【0010】
保護層の厚さが3μm以上であると、飛び石などの飛来物が衝突した際に、下地である非強化ガラスにひずみが到達しにくくなる。保護層によって衝撃を吸収しやすくなるため、自動車用ガラスの耐衝撃性を好適に向上させることができる。保護層は塗布後硬化する際に寸法収縮が生じる。保護層の厚さが6μm以下であると、非強化ガラスとの界面で発生する硬化の際の歪の影響を小さくすることができる。そのため、保護層を剥がれにくくすることができる。
【0011】
また、自動車用ガラスとして非強化ガラスを用いているため、車内外の両側から大きな物体が衝突した際に、相対的に小さな力で割れて物体に大きな衝撃が加わらないようにすることができる。また、車外側の非強化ガラスと車内側の非強化ガラスとが樹脂層を介して接合されていることによって、非強化ガラスが割れた際に、非強化ガラスの破砕を抑制することができる。また、樹脂層の弾力によって物体の衝突エネルギーを吸収することができるため、物体の衝突に対する衝撃吸収性を向上させることができる。これにより、物体の貫通を抑制することができる。また、保護層はポリシロキサンを含むため紫外線に強く、耐候性に優れている。そのため、自動車用ガラスとして十分な耐久性を備えたものとなる。
【0012】
本発明の自動車用ガラスについて、上記保護層の硬さは、0.3GPa以下であることが好ましい。上記構成によれば、保護層の硬さが0.3GPa以下であると、保護層が所定の柔らかさを有するものとなるため、硬い飛び石などが衝突した際に発生する応力をエネルギーとして蓄えやすくなる。また、発生した応力が保護層の硬度を超えた際に、保護層の破壊が生じることによってエネルギーを開放することができる。これにより、非強化ガラスを好適に保護することができる。
【0013】
本発明の自動車用ガラスについて、上記保護層の弾性率は、3~4GPaであることが好ましい。保護層の弾性率が上記数値範囲であると、飛び石などの小さく硬い飛来物の衝撃エネルギーを効率良く吸収することができる。
【0014】
本発明の自動車用ガラスについて、上記車外側の非強化ガラスは、厚さが0.3~2mmであることが好ましい。本発明の自動車用ガラスは、合わせガラスであるため飛び石が衝突した際に樹脂層がクッションとなって局所的な変形が生じやすくなる。車外側の非強化ガラスの厚さが0.3mm以上であると、局所的な変形が生じにくく、車外側の非強化ガラスの割れを発生しにくくすることができる。車外側の非強化ガラスの厚さが2mm以下であると、重く軟らかい物体の衝突に際して相対的に小さな力で割れるため、物体に大きな衝撃が加わらないようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の自動車用ガラスによれば、自動車用ガラスとしての十分な耐久性を備え、車外側からの飛来物の衝突に対する耐衝撃性と、車内外の両側からの物体の衝突に対する衝撃吸収性とを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】自動車用ガラスに物体が衝突したときの応力の発生個所を示し、(a)はケースB、(b)はケースCの場合である。
【
図2】亀裂先端の変形の3つのモードを示し、(a)は開口型のモードI、(b)は面内せん断型のモードII、(c)は面内せん断型のモードIIIの模式図である。
【
図3】本発明の実施の形態の自動車用ガラスの端面図。
【
図4】実施例および比較例のチッピング試験による割れ確率の結果を示すグラフ。
【
図5】実施例および比較例の割れ確率、割れ起点数、小石の個数を示す図。
【
図6】実施例1の保護層の表面に圧子を押し当てていく際の接触剛性の解析図。
【
図7】実施例2の保護層の表面に圧子を押し当てていく際の接触剛性の解析図。
【
図8】比較例1の保護層の表面に圧子を押し当てていく際の接触剛性の解析図。
【
図9】比較例2の保護層の表面に圧子を押し当てていく際の接触剛性の解析図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
自動車用ガラスは、衝撃の種類、大きさによって要求される性能が異なる。表1は、衝撃の種類、大きさごとに4つのケースに分類し、それぞれのケースで求められる要求性能と、その試験方法、対象面を示している。なお、それぞれのケースを分ける境界は厳密なものではなく、大まかな傾向を示している。
【0018】
【表1】
ケースAは、運動量の大きな構造物など硬い物体との衝突であり、ガラスの基本的な性能を大きく超える領域である。自動車用ガラスだけで衝撃を吸収するのではなく、ボディとともに衝撃を吸収する必要があり、本発明では扱わない。
【0019】
ケースBでは、運動量が大きく軟らかい物体との衝突であり、木の枝や、大型の鳥など車外からの衝突だけでなく、急ブレーキ時の車内の荷物の衝突などがあり、ガラスの両面に対して要求される。衝突する物体はガラスよりも軟らかく、大面積にわたってガラスに力が加わる。運動量、破壊エネルギーとも大きく、脆性材料であるガラスの強度を大きく超えるため割れる。ケースBでは、ガラスが割れつつもエネルギーを吸収して、ガラスを貫通させないことが要求される。非特許文献1には、フェルトで覆った直径20cm、質量10kgの木製球体を4mの高さから落下させて、ガラスの割れ方を評価する方法が開示されている。この評価方法では、ガラスに亀裂が生じることが前提になっており、亀裂の生じ方、中間膜の裂け目の生じ方が評価される。
【0020】
ケースBでは、車内側、車外側とも自動車の速度程度の衝撃が発生しうる。
ケースCでは、運動量が小さく硬い物体との衝突である。例えば、衝突する物体は、ガラスよりも硬く軽い小石(飛び石)である。運動量が小さいため、割れることなく跳ね返すことさえできればよい。なお、ケースCで想定される物体の大部分が10mm以下の小石である。
【0021】
飛び石は発生源がタイヤであるため上方に飛ぶことが多いうえに、交通量の多い道路では、発生源も多く距離も近いため、自動車用ガラスにもっとも当たりやすい飛来物である。このため、ケースCの衝撃に対しては、飛び石を前提に想定することが合理的である。
【0022】
また、自動車用ガラスに飛来する飛び石のサイズ、成分、相対速度は次のような理由から非常に限られている。このため、自動車用ガラスは限られた飛び石に対する耐衝撃性を前提に検討すればよい。
【0023】
飛び石の発生源の大部分は、タイヤの溝に挟まった石が接地した衝撃で溝から分離したものである。このため、飛び石のサイズはタイヤの溝の間隔と同等、成分は一般的な石英、石灰岩に他の成分が混ざったものである。
【0024】
また飛び石は、タイヤの地面と接触した直後に発生した場合、対地速度はほとんどなく、ほぼ飛び石が当たる自動車の速度で自動車用ガラスに向かって飛来する。
以上より、飛び石のサイズは5~10mm程度、成分は石英または石灰ベース、速度は最大30~40m/sを前提に考えればよい。
【0025】
ケースDでは、運動量が小さく、軟らかいため衝突してもガラスにダメージを与えるような衝撃はない。そのため考慮しなくてもよい。
ケースBとケースCについては、ガラスの強度に関する要求性能でありながら、全く異なる性能が求められる。
【0026】
図1(a)は、軟らかく運動量の大きな物体が自動車用ガラスに衝突する場合(ケースB)を模式的に示した図である。この場合には、大きな軟らかい物体が単純に自動車用ガラスを曲げるように力を加えるだけであるので、せん断力が加わりにくく、衝突した側と反対側の面で単純な引張応力を発生させ、破壊強度を超えたときに自動車用ガラスにクラックが入る。加わる変形モードは開口型変形のモードIが中心であり(
図2(a)参照)、加わる破壊エネルギーが大きいことから、クラックのみに留まらず自動車用ガラス全体の破壊に及び易い。
【0027】
図1(b)は、硬く軽量の飛び石が自動車用ガラスに衝突する場合(ケースC)を模式的に示した図である。この場合には、自動車用ガラスが撓むほどのエネルギーがないため、自動車用ガラスには、飛び石の当たった面で、開口型の変形(モードI)に加え、面内せん断型の変形(モードII)、面外せん断型の変形(モードIII)が起こりやすい(
図2(b)、(c)参照)。
【0028】
これらの破壊モードをまとめると表2のようになる。
【0029】
【表2】
自動車用ガラスに加わる破壊モードは、ケースBでは反対側で発生するモードIの破壊であり、ケースCでは、主に当たった側で発生するモードI、モードII、モードIIIの破壊である。
【0030】
本発明では、自動車用ガラスに加わる衝撃の種類、発生する応力のモードを分類し、衝撃の種類に応じた対策を実施することにより、軟らかく重いケースBに対しては、衝突エネルギーを吸収するとともに貫通を防ぎ、ケースCに対して割れにくい自動車用ガラスを実現したものである。
【0031】
以下、自動車用ガラスの一実施形態を説明する。
図3に示すように、自動車用ガラス10は、車外側の非強化ガラス11aと、車内側の非強化ガラス11bとが樹脂層12を介して接合されており、所謂、合わせガラスとして構成されている。自動車用ガラス10は、全体として略一定の曲率で湾曲した湾曲面を有している。湾曲面における凸面側が車外側として構成され、凸面側の反対側の面である凹面側が車内側として構成されている。車外側の非強化ガラス11aにおける車外側の表面に、ポリシロキサンを含む厚さが3~6μmの保護層20が形成されている。自動車用ガラス10は、フロントガラスとして用いられる。
【0032】
ここで、非強化ガラス11とは、強化ガラスではないガラスを意味するものとする。具体的には、表面に圧縮応力層が形成されていないガラスを意味するものとする。非強化ガラス11としては、例えば、テンパックス(ショット社の登録商標)等の硼珪酸ガラスやソーダガラス等の、自動車用グリーンガラスを用いることができる。
【0033】
非強化ガラス11の厚さは、特に限定されないが、各非強化ガラス11の厚さ、すなわち、車外側の非強化ガラス11aと車内側の非強化ガラス11bの厚さとが、それぞれ、0.3~2mmであることが好ましく、0.3~1.6mmであることがより好ましい。各非強化ガラス11の厚さが0.3mm以上であることにより、自動車用ガラス10の強度を向上させることができる。各非強化ガラス11の厚さが2mm以下であることにより、自動車用ガラス10を軽量化することができる。
【0034】
非強化ガラスを用いているため、ケースBの衝突に際して非強化ガラスは相対的に小さな力で割れる。そのため、物体に対して相対的に大きな力が加わることを抑制することができる。また、2枚の非強化ガラスを接合する樹脂層の弾力によって、物体への衝撃を軟らかく吸収して、物体の貫通を抑制することができる。
【0035】
樹脂層12の厚さは、特に限定されないが、0.01~2.0mmであることが好ましい。樹脂層の厚さが0.01mm以上であると、自動車用ガラスが割れたときに破れることなく伸びることにより、衝撃エネルギーを吸収しやすくなる。そのため、自動車用ガラス10の衝撃吸収性を向上させることができる。樹脂層の厚さが2.0mm以下であると、樹脂層が伸びやすくなるため、緩やかに衝撃エネルギーを吸収することができる(ケースB)。
【0036】
樹脂層を構成する樹脂としては、特に限定されず、合わせガラスの中間膜として用いられる樹脂を適宜採用することができる。合わせガラスの中間膜に用いられる樹脂としては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。その中でも、ポリビニルアセタール樹脂であるポリビニルブチラール樹脂を用いると、非強化ガラスの接合力をより向上させることができるため好ましい。
【0037】
樹脂層12には、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、接着力調整剤、耐湿剤、顔料、染料、赤外線吸収剤等の添加剤を含んでいてもよい。
非強化ガラス11の表面に形成された保護層20は、ポリシロキサンを含んでいる。
【0038】
ポリシロキサンとしては、シロキサン結合を有する高分子であれば特に限定されず、例えば、下記T2~T3で表される含ケイ素結合単位が結合して得られるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0039】
オルガノポリシロキサンのT2:T3比に関して、例えばT2:T3=10:90~40:60であることが好ましい。
T2:R-Si(OX)(-O*-)2
T3:R-Si(-O*-)3
(T2、T3において、Rは水素原子、又は炭素数が1~10の置換もしくは非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基を表し、O*は2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す。)
また、ポリシロキサンは、ケイ素原子の側鎖の一部が変性基によって変性された変性シリコーンであってもよい。
【0040】
変性シリコーンとしては、例えば、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
【0041】
ポリシロキサンは、直鎖状、環状であってもよいし、架橋されてゲル状であってもよい。
保護層20の厚さは、3~6μmである。保護層20の厚さが3μm以上であることにより、飛び石などの飛来物が衝突した際に、下地である非強化ガラスにひずみが到達しないように吸収して、車外側からの飛来物の衝突に対する耐衝撃性を好適に向上させることができる。
【0042】
保護層の厚さが6μm以下であることにより、非強化ガラスとの界面で発生する硬化の際の歪の影響を小さくすることができる。そのため、保護層を剥がれにくくすることができる。
【0043】
保護層20の厚さや、樹脂層12の厚さは、公知の光学顕微鏡や、電子顕微鏡を用いて標準スケールと比較することにより測定することができる。
保護層20の硬さは、特に限定されないが、0.3GPa以下であることが好ましい。保護層20の硬さが0.3GPa以下であることにより、車外側からの硬い飛び石などの飛来物の衝突エネルギーを効率良く吸収して、車外側の非強化ガラスの損傷を防止することができる(ケースC)。
【0044】
また、保護層の硬さは、0.05GPa以上であることが好ましい。保護層の硬さが0.05GPa以上であることにより、耐久性を向上させることができる。
保護層の弾性率は、特に限定されないが、3~4GPaであることが好ましい。保護層の弾性率が上記数値範囲であると、飛び石などの小さく硬い飛来物の衝撃エネルギーを効率良く吸収することができる。
【0045】
保護層中のポリシロキサンの含有量は、特に限定されないが、保護層中に30質量%以上含有することが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲内において、残部に上記樹脂層と同様の添加剤、あるいはフィラーを含んでいてもよい。
【0046】
自動車用ガラス10の製造方法について説明する。
自動車用ガラス10は、以下に示す保護層形成工程、合わせガラス形成工程を順に経ることによって製造される。
【0047】
(保護層形成工程)
加熱してあらかじめ所定の曲面に曲げられた非強化ガラスの凸面側にポリシロキサン前駆体を含むコート液を塗布する。コート液を塗布した非強化ガラスを加熱してポリシロキサンを形成することによって、非強化ガラスにおける車外側となる凸面側の表面に保護層を形成する。コート液の塗布方法は特に限定されず、例えば、ディップ法、スプレー法、フローコート法等を適宜選択することができる。
【0048】
なお、保護層は、車外側の非強化ガラスの車外側に限定されず両面に形成されていてもよいが、樹脂層との接合性を確保するため車外側のみに形成されていることが望ましい。保護層の厚さは、塗布の方法、条件を選択することにより、適宜変更することが可能となる。保護層は、破断面を電子顕微鏡で観察することにより識別することができる。
【0049】
(合わせガラス形成工程)
保護層形成工程で保護層を被覆した非強化ガラスを車外側とし、同一形状で保護層が形成されていない非強化ガラスを車内側としてこれらの非強化ガラスの間に樹脂シートを介在させ、加熱しながら加圧する。各非強化ガラスと樹脂シートとを一体化して、所定の湾曲面を有する合わせガラスが形成される。
【0050】
以上の工程を経ることによって、自動車用ガラス10を得ることができる。
本実施形態では、保護層形成工程の後に合わせガラス形成工程を行なっていたが、これらの工程の順序は特に限定されない。合わせガラス形成工程の後に保護層形成工程を行なってもよい。
【0051】
本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)車外側の非強化ガラスと、車内側の非強化ガラスとが樹脂層を介して接合され、車外側の非強化ガラスにおける車外側の表面に、ポリシロキサンを含む厚さが3~6μmの保護層が形成されている。
【0052】
車外側の非強化ガラスにおける車外側の表面に、ポリシロキサンを含む厚さが3~6μmの保護層が形成されていることによって、車外側からの飛び石などの軽く硬い飛来物の衝撃を、ポリシロキサンを含む保護層が直接受けて、ガラスの破損につながる局所的な歪みを緩和することができる。したがって、自動車用ガラスの耐衝撃性をより向上させて、自動車用ガラスの割れを防止することができる。
【0053】
保護層の厚さが3μm以上であると、飛び石などの飛来物が衝突した際に、下地である非強化ガラスにひずみが到達しにくくなる。保護層によって衝撃を吸収しやすくなるため、自動車用ガラスの耐衝撃性を好適に向上させることができる。保護層は塗布後硬化する際に寸法収縮が生じている。保護層の厚さが6μm以下であると、非強化ガラスとの界面で発生する硬化の際の歪の影響を小さくすることができる。したがって、保護層を剥がれにくくすることができる。
【0054】
また、自動車用ガラスとして非強化ガラスを用いているので、車内外の両側から大きな物体が衝突した際に、相対的に小さな力で割れて、物体に大きな衝撃が加わらないようにすることができる。さらに、車外側の非強化ガラスと車内側の非強化ガラスとが樹脂層を介して接合されていることによって、非強化ガラスが割れた際に、非強化ガラスの破砕を抑制することができる。また、樹脂層の弾力によって物体の衝突エネルギーを吸収することができるため、物体の衝突に対する衝撃吸収性を向上させることができる。これにより、物体の貫通を抑制することができる。また、保護層はポリシロキサンを含むので紫外線に強く、耐候性に優れている。したがって、自動車用ガラスとして十分な耐久性を備えたものとなる。
【0055】
(2)保護層の硬さは、0.3GPa以下である。保護層の硬さが0.3GPa以下であると、保護層の柔らかさが好適なものとなるため、硬い飛び石などが衝突した際に発生する応力をエネルギーとして蓄えやすくなる。また、発生した応力が保護層の硬度を超えた際に、保護層の破壊が生じることによってエネルギーを開放することができる。したがって、非強化ガラスを好適に保護することができる。
【0056】
(3)保護層の弾性率は、3~4GPaである。保護層の弾性率が上記数値範囲であると、飛び石などの小さく硬い飛来物の衝撃エネルギーを効率良く吸収することができる。
(4)車外側の非強化ガラスは、厚さが0.3~2mmである。車外側の非強化ガラスは合わせガラスとなっているので飛び石が衝突した際に樹脂層がクッションとなっても局所的な変形が生じやすくなる。車外側の非強化ガラスの厚さが0.3mm以上であると、局所的な変形が生じにくく、車外側の非強化ガラスの割れを発生しにくくすることができる。車外側の非強化ガラスの厚さが2mm以下であると、重く軟らかい物体の衝突に際して、相対的に小さな力で割れるため、物体に大きな衝撃が加わらないようにすることができる。
【0057】
本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。また、上記実施形態の構成や以下の変更例に示す構成を適宜組み合わせて実施することも可能である。
本実施形態では、自動車用ガラスの湾曲面における凸面側が車外側として構成され、凹面側が車内側として構成されていたが、この態様に限定されない。例えば、凸面側が車内側として構成され、凹面側が車外側として構成されていてもよい。また、自動車用ガラスが湾曲面を有さず、平板状に構成されていてもよい。平板状の合わせガラスにおける一方の面が車外側となり、他方の面が車内側となる。
【0058】
本実施形態において、保護層形成工程は、車外側の非強化ガラスにおける車外側のみに保護層を形成していたが、この態様に限定されない。保護層形成工程は、車外側の非強化ガラスにおける車外側と車内側の両方に保護層を形成してもよい。
【0059】
本実施形態において、自動車用ガラスは、フロントガラスとして用いられていたが、この態様に限定されない。サイドガラスや、リアガラスに用いられていてもよい。
【実施例0060】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。
(実施例1)
非強化ガラスとして、自動車用グリーンガラスであるソーダガラスを用いた。車外側となる非強化ガラスと、車内側となる非強化ガラスとの間にポリビニルブチラール樹脂を挟んで、加熱圧着した。なお、車外側の非強化ガラスのサイズは150×67×1.1mm、車内側の非強化ガラスのサイズは150×67×2.0mm、樹脂層の厚さは0.76mmであった。
【0061】
得られた非強化ガラスの合わせガラスの表面に、ポリシロキサンを含む保護層を形成した。ポリシロキサンは、アルコール系溶媒に溶解したオルガノポリシロキサンを用意して、合わせガラスの車外側となる表面に塗布した。合わせガラスを、硬化条件として125℃で1時間加熱して保護層を硬化させた。以上の手順によって、実施例1の自動車用ガラスを得た。
【0062】
保護層の厚さは5μm、硬さは0.34GPa、弾性率は3.93GPaであった。
なお、保護層の硬さと弾性率は、Agilent Technologies社製のナノインデンター(Nano Indenter G200)を用い、バーコビッチ圧子を用いて測定した。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様に非強化ガラスの合わせガラスを形成したのち、ポリシロキサンからなる保護層を形成した。硬化条件は100℃で1時間であった。保護層の厚さは5μm、硬さは0.23GPa、弾性率は3.93GPaであった。
【0064】
(比較例1)
実施例1と同様に非強化ガラスの合わせガラスを形成したのち、ポリシロキサンからなる保護層を形成した。硬化条件は125℃で1時間であった。保護層の厚さは2.5μm、硬さは0.35GPa、弾性率は4.19GPaであった。
【0065】
(比較例2)
実施例1と同様に非強化ガラスの合わせガラスを形成したのち、ポリシロキサンからなる保護層を形成した。硬化条件は100℃で1時間であった。保護層の厚さは2.5μm、硬さは0.30GPa、弾性率は4.35GPaであった。
【0066】
(比較例3)
実施例1と同様に合わせガラスを製作し、表面に保護層を形成することなく、合わせガラスをそのまま比較例3の自動車用ガラスとした。
【0067】
各実施例及び比較例の硬化温度、保護層厚さ、保護層硬さ、保護層弾性率、及び、接触剛性降伏点は、表3に示すとおりである。
【0068】
【表3】
(チッピング試験)
各実施例、比較例の自動車用ガラスについて、チッピング試験を実施した。
【0069】
チッピング試験は以下の方法によって行った。
自動車用ガラスの外周縁から10mmの領域を、両面テープを用いてゴム板に固定した。自動車用ガラスに対して正面から、飛来物として玄武岩の小石240個を、70km/h(約19m/s)の速度で衝突させた。小石は、篩を用いて粒径を4.75mm以上、5.6mm以下の範囲に揃えた。小石を衝突させたことによって発生したクラックの数をカウントした。具体的には、クラックの起点となっている箇所の数をクラックの数としてカウントした。各実施例、比較例について、チッピング試験を10回行った。各チッピング試験における小石240個に対するクラックの数の割合の平均を、割れ確率(%)とした。結果を
図4、5に示す。
【0070】
図4、5より、ポリシロキサンを含む保護層の厚さが5μmである実施例1、2では、チッピング試験による保護層のない比較例3との比較で割れ確率の減少が確認された。
なお、保護層の厚さが2.5μmである比較例1、2において、硬化温度がより高い比較例1において、比較例2よりも割れ確率が減少していた。
【0071】
(接触剛性)
実施例および比較例の自動車用ガラスの保護層の接触剛性の解析図を
図6~9に示す。
図6は実施例1、
図7は実施例2、
図8は比較例1、
図9は比較例2の接触剛性の解析図である。
【0072】
接触剛性は、保護層の硬さ、弾性率を測定したナノインデンターを用いて、ISO14577に従って測定した。解析図中において矢印で示す降伏点は、保護層にクラックが生じているポイントを意味する。降伏点を示す変位の数値が大きいほど、保護層が深く変形してクラックを生じていることを意味しており、飛び石の衝撃を和らげる作用を有しているといえる。
【0073】
表3、及び、
図6より、実施例1では保護層の接触剛性の降伏点が1.8μmにあり、保護層の厚さの約36%と大きな値であった。
表3、及び、
図7より、実施例2では保護層の接触剛性の降伏点が3.2μmにあり、保護層の厚さの約63%と大きな値であった。保護層は深く変形しつつクラックを生じているため、飛び石の衝撃を和らげる作用を好適に発揮していると考えられる。
【0074】
これに対し、表3、及び、
図8、
図9より、比較例1では、接触剛性の降伏点が1.2μmにあり、保護層の厚さの約48%であった。また、比較例2では、明確な降伏点が確認されなかった。
【0075】
以上により、保護層の厚さが3~6μmであることにより、他の要因の影響を受けにくくし、安定的に割れ確率を減少させることができるとともに、飛び石の衝撃を和らげる作用を有していることが確認された。