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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033569
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】植物病害防除剤及び植物病害防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/22 20200101AFI20220222BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
A01N63/22
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137542
(22)【出願日】2020-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000108616
【氏名又は名称】タカノフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】池澤 将也
(72)【発明者】
【氏名】西川 宗伸
(72)【発明者】
【氏名】中島 雅己
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011BB21
4H011DA12
4H011DC05
4H011DD07
(57)【要約】
【課題】植物病害防除作用に優れる新規のバチルス属細菌を含有する植物病害防除剤、及び前記植物病害防除剤を用いた植物病害防除剤方法を提供する。
【解決手段】植物病害防除剤は、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2111株(NITE P-03227)及びバチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2122株(NITE P-03228)からなる群より選択される1種以上の枯草菌の菌体又は培養物を有効成分として含有する。植物病害防除方法は、前記植物病害防除剤を対象植物に施用することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2111株(NITE P-03227)及びバチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2122株(NITE P-03228)からなる群より選択される1種以上の枯草菌の菌体又は培養物を有効成分として含有する、植物病害防除剤。
【請求項2】
植物病害が、灰色かび病、緑かび病、青かび病及びうどんこ病からなる群より選択される、請求項1に記載の植物病害防除剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の植物病害防除剤を対象植物に施用することを含む、植物病害防除方法。
【請求項4】
バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2111株(NITE P-03227)。
【請求項5】
バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2122株(NITE P-03228)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害防除剤及び植物病害防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、病害虫や病害菌による被害を最小限に抑え農作物の生産性を高めるために、効果や経済性の面で優れる化学合成農薬が使われてきた。しかしながら、近年、環境や人畜への影響等の観点から、生物そのものや生物由来の物質を有効成分とする生物農薬への関心が高まっている。
【0003】
生物農薬は、天敵昆虫、天敵線虫、微生物(ウイルス、細菌、糸状菌、原生動物等)、生物産生物質(フェロモン、ホルモン、酸性毒素、抽出物等)の4種類に大別される。中でも、微生物農薬は、農作物の病害を防除する微生物を利用した農薬であり、化学合成農薬に比べて環境への負担の軽減できること、さらに、化学合成農薬の耐性菌や耐性害虫の発生抑制効果が期待されている。
【0004】
例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)は、植物病害をもたらす病原菌を直接攻撃する力は有しないが、ある種の病原菌と拮抗するため、野菜類等の灰色かび病、うどんこ病等の防除剤として農薬登録されている。
【0005】
また、バチルス属細菌を用いた植物病害防除に関する技術として、特許文献4及び5には、バチルス・ズブチリスの特定の株を有効成分として含有する植物病害防除剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-51305号公報
【特許文献2】特開平6-133763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、植物病害防除作用に優れる新規のバチルス属細菌、前記バチルス属細菌を含有する植物病害防除剤、及び前記植物病害防除剤を用いた植物病害防除方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2111株(NITE P-03227)及びバチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2122株(NITE P-03228)からなる群より選択される1種以上の枯草菌の菌体又は培養物を有効成分として含有する、植物病害防除剤。
(2) 植物病害が、灰色かび病、緑かび病、青かび病及びうどんこ病からなる群より選択される、請求項1に記載の植物病害防除剤。
(3) 請求項1又は2に記載の植物病害防除剤を対象植物に施用することを含む、植物病害防除方法。
(4) バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2111株(NITE P-03227)。
(5) バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2122株(NITE P-03228)。
【発明の効果】
【0009】
上記態様の植物病害防除剤及び植物病害防除方法によれば、植物病害を有効に防除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例3におけるミカンの病害発生率を示すグラフである。
図2】実施例4におけるエンドウうどんこ病菌のコロニーあたりの平均胞子数を示すグラフである。
図3】実施例4におけるエンドウうどんこ病菌の分生子の発芽率を示すグラフである。
図4】実施例5におけるプリムラ花弁1cm当たりの病斑数を示すグラフである。
図5】実施例6におけるキュウリうどんこ病の発病度を示すグラフである。
図6】実施例7におけるキュウリうどんこ病の発病度を示すグラフである。
図7】実施例8におけるキュウリうどんこ病の発病度を示すグラフである。
図8】実施例10におけるキュウリ葉の病斑直径を示すグラフである。
図9】実施例10におけるベゴニア葉の病斑直径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<植物病害防除剤>
本発明の一実施形態に係る植物病害防除剤は、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2111株(NITE P-03227)(以下、単に「TTCC2111株」と称する場合がある)及びバチルス・エスピー(Bacillus sp.)TTCC2122株(NITE P-03228)以下、単に「TTCC2122株」と称する場合がある)からなる群より選択される1種以上の枯草菌の菌体又は培養物を有効成分として含有する。
【0012】
なお、本発明において、「枯草菌の菌体又は培養物を有効成分として含有する」とは、枯草菌の菌体又は培養物を、植物病害を防除する効果を奏する成分として含有することを意味する。
【0013】
本実施形態の植物病害防除剤によれば、植物に病気を引き起こす幅広い病原菌の増殖や活動を効率的に抑制することができる。
本実施形態の植物病害防除剤は、植物に対する毒性や病原性がなく、植物病害に対して高い防除効果を有する。また、自然界に存在する細菌を有効成分とする微生物農薬であることから安全性が高く、化学農薬と比較して環境に対する影響が小さい。施用しても人畜への危険性や、環境汚染や農作物への残留等の問題もない。よって、消費者に安全で薬害のない農作物を提供することができる。また、化学農薬と比較して標的である病原菌の耐性菌出現率が非常に低い。
【0014】
後述する実施例に示すように、バチルス・エスピーTTCC2111株は、灰色かび病菌(Botrytis cinerea)に対する生育抑制作用を有する枯草菌のスクリーニングを行い、また、バチルス・エスピーTTCC2122株は、カンキツ緑かび病菌(Penicillium digitatum)に対する生育抑制作用を有する枯草菌のスクリーニングを行い、それぞれ灰色かび病菌に対する生育抑制作用を有する枯草菌、及び、カンキツ緑かび病菌に対する生育抑制作用を有する枯草菌として選抜された。
【0015】
バチルス・エスピーTTCC2111株及びバチルス・エスピーTTCC2122株(以下、総じて「本実施形態の枯草菌」と称する場合がある)は、新規に単離同定された枯草菌であり、植物病害を防除する効果を有する非常に有用な新規枯草菌である。そこで、発明者らは、これらの枯草菌を、2020年5月28日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に新規菌株として寄託した。受託番号は、バチルス・エスピーTTCC2111株がNITE P-03227、バチルス・エスピーTTCC2122株がNITE P-03228である。
【0016】
本実施形態の枯草菌の菌体は、生菌であることが好ましい。なお、ここでいう「生菌」とは、細菌が代謝、分裂、増殖等が可能な状態をいう。そのため、枯草菌における芽胞も発芽力を有する限り、生菌に含まれる。但し、本実施形態の植物病害防除剤は、枯草菌の死菌を含んでいてもよい。
【0017】
本実施形態の枯草菌の菌体は、菌末として用いることができる。菌末を調製する方法としては、特に限定されず、例えば、フリーズドライ(凍結乾燥)法、スプレードライ法、ドラムドライ法等の一般的に枯草菌の菌末を調製する方法から適宜選択することができる。生菌の状態で菌末とし得ることから、フリーズドライ法により調製することが好ましい。
【0018】
本実施形態の枯草菌の培養物は、枯草菌を培地中で培養して得られるものであれば特に限定されず、菌体を培地中で増殖させて得られる培養液であってもよく、培養液の上清(遠心分離処理等により培養液から菌体等の固形成分を除いたもの)であってもよく、培養液の濃縮物であってもよく、培養液に菌体破砕処理等を施したものであってもよく、培養液から菌体内成分を抽出したものであってもよい。すなわち、本実施形態の植物病害防除剤は、有効成分として、本実施形態の枯草菌の代謝物やその調製物(例えば、乾燥物、濃縮物、抽出物等)を含有していてもよい。なお、遠心分離処理、濃縮方法、菌体破砕処理、抽出方法、発酵方法等は、公知の方法から適宜選択して常法により行うことができる。
【0019】
本実施形態の枯草菌を培養する培地は、各枯草菌が生育し得る培地であれば、特に限定されるものではなく、枯草菌の培養において一般的に用いられる培地やその改変培地等から適宜選択して用いることができる。具体的には、Tryptic Soy Agar平板培地、Potato Sucrose Broth(PSB)培地等が挙げられる。
【0020】
培養形式は、特に限定されるものではなく、培養スケール、植物病害防除剤の剤形等を考慮して適宜決定することができる。例えば、寒天平板培地に塗布して培養してもよく、液体培地中で培養してもよい。液体培地における培養形式として、静置培養、回分培養等が挙げられる。例えば、継代培養の場合には、簡便であるため、寒天平板培地上で培養することや、適当な液体培地中で静置培養、回分培養することが好ましい。
【0021】
本実施形態の枯草菌の培養条件は、特に限定されず、枯草菌を培養する場合に一般的に用いられる条件により培養することができる。例えば、培養温度は20℃以上40℃以下であることが好ましく、25℃以上37℃以下であることがより好ましい。また、培地のpHは3.5以上8.0以下であることが好ましく、4.0以上7.0以下であることがより好ましい。その他、本実施形態の枯草菌は、他の枯草菌と同様に好気的条件で培養することが好ましい。
【0022】
本実施形態の植物病害防除剤の有効成分である枯草菌の菌体又は培養物は、TTCC2111株及びTTCC2122株のいずれか1種類の枯草菌のみの菌体又は培養物からなるものであってもよく、これら2種類の枯草菌の菌体又は培養物の混合物であってもよい。中でも、より広範な植物病害への有効性が期待できることから、TTCC2122株単独の菌体又は培養物を有効成分とすることが好ましい。
【0023】
本実施形態の植物病害防除剤は、本実施形態の枯草菌の菌体又は培養物のみからなるものであってもよく、本実施形態の枯草菌の菌体又は培養物による植物病害に対する防除効果を阻害しない程度において、所望の剤形に応じて、その他の物質を更に含有する植物病害防除組成物(以下、単に「本実施形態の組成物」と称する場合がある)とすることができる。
【0024】
その他の物質としては、農薬製剤上許容可能な担体、界面活性剤、分散剤、補助剤、保護剤等が挙げられる。
【0025】
「農薬製剤上許容可能な担体」とは、植物病害防除剤の施用を容易にし、枯草菌の生存や植物病原菌に対する拮抗作用又は抑制作用を維持する物質及び/又は植物病害防除剤の作用速度を制御する物質であって、土壌若しくは水質等の環境、及び/又は、動物(特にヒト)に対する有害性がない若しくは低い物質をいう。
【0026】
このような担体として具体的には、例えば、タルク、ベントナイト、カオリン、クレー、珪藻土、ホワイトカーボン、バーミキュライト、消石灰、硫安、珪砂、尿素等の多孔質な固体担体;水、イソプロピルアルコール、メチルナフタレン、キシレン、シクロヘキサノン、アルキレングリコール等の液体担体等が挙げられる。
【0027】
界面活性剤及び分散剤としては、例えば、ジナフチルメタンスルホン酸塩、アルコール硫酸エステル塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等が挙げられる。
【0028】
補助剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、アラビアゴム、キサンタンガム等が挙げられる。
保護剤としては、例えば、スキムミルク、pH緩衝剤等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の組成物は、有効成分の枯草菌に影響しない範囲において、他の薬理作用を有する有効成分、具体的には、除草剤、殺菌剤、殺虫剤、肥料(例えば、尿素、硝酸アンモニウム、過リン酸塩)等を更に含有することもできる。
【0030】
剤形としては、有効成分である枯草菌を生菌の状態で保持できれば、特に限定されず、例えば、液体状態、固体状態又はその組み合わせとすることができる。
液体状態としては、例えば、顆粒水和剤、水和剤、水溶剤、懸濁製剤、乳剤等が挙げられる。液体状態の場合における菌体を懸濁する溶剤としては、例えば、水(滅菌水、脱イオン水、超純水を含む)、生理食塩水、緩衝液(リン酸緩衝液、炭酸緩衝液を含む)、その細菌の培地等が挙げられる。
固体状態としては、例えば、粒剤、粉剤、ゲル剤等が挙げられる。
【0031】
本実施形態の植物病害防除剤の所定量あたりにおける枯草菌の菌体又は培養物の含有量は、各枯草菌の種類やその組み合わせ、施用対象植物の種類、剤形、及び施用方法等の諸条件によって異なる。通常は、本実施形態の植物病害防除剤を施用する際に枯草菌が植物病原菌に対する拮抗作用又は抑制作用を発揮する上で十分な量を含んでいることが好ましい。この含有量は、当該分野の技術常識の範囲において枯草菌の菌体又は培養物が施用後に施用対象植物の処理対象領域の所定の面積あたりに所望の(存在)量となるように各条件を勘案し、決定すればよい。本実施形態の植物病害防除剤における枯草菌の含有量は、例えば、菌体濃度として10cfu/g以上1011cfu/g以下程度の範囲とすることができる。或いは、本実施形態の植物病害防除剤が液体状態である場合に、枯草菌の含有量は、例えば、菌体濃度として、10cells/mL以上1010cells/mL以下程度の範囲とすることができる。この場合、必要に応じて施用時に、水、生理食塩水、緩衝液等で2倍以上1000倍以下に希釈することもできる。
【0032】
<植物病害防除方法>
本発明の一実施形態に係る植物病害防除方法は、上述した植物病害防除剤を対象植物に施用すること(以下、「施用工程」と称する場合がある)を含む。
【0033】
本明細書において、「対象植物」とは、植物病害防除剤の施用対象となる植物を示す。対象植物は、病原菌の感染によって病害を発病し得る植物であれば、その種類は問わない。被子植物又は裸子植物のいずれであってもよい。被子植物としては、双子葉植物であってもよく、単子葉植物であってもよい。
単子葉植物としては、例えば、イネ科(Poaceae)植物等が挙げられる。
双子葉植物としては、例えば、ヒルガオ科(Convolvulaceae)、バラ科(Rosaceae)植物、セリ科(Apiaceae)、ナス科(Solanaceae)植物、ユリ科(Liliaceae)、マメ科(Fabaceae)植物、ウリ科(Cucurbitaceae)植物、アブラナ科(Brassicaceae)植物等が挙げられる。
【0034】
具体的な対象植物としては、例えば、エンドウ(Pisum sativum)、キュウリ(Cucumis sativus)、ピーマン(Capsicum annuum Group)、トマト(Solanum lycopersicum)、ナス(Solanum melongena)、イチゴ(Fragaria ananassa)、ミカン(Citrus unshiu)、ベゴニア(Begonia)、プリムラ(Primula)等が挙げられる。
【0035】
[施用工程]
施用工程では、上述した植物病害防除剤を対象植物に施用する。
植物病害防除剤をそのまま直接施用してもよく、或いは、水等の溶剤に希釈して使用してもよい。植物病害防除剤の施用方法として具体的には、例えば、直接植物に散布する方法、土壌に散布する方法、植物の種子に直接塗布する方法、植物や土壌に添加する水や肥料に添加する方法等が挙げられる。植物病害防除剤の施用量及び施用回数は、対象病害、対象作物、施用方法、発生傾向、被害の程度、環境条件、使用する剤形等によって、適宜調整することができる。また、植物病害防除剤の施用時期についても、特に限定されず、病害発生前に防除作用を発揮させることを目的として施用してもよく、或いは、病害発生後に病原菌の増殖を抑制し、病害を治療することを目的として施用してもよい。
【0036】
本実施形態の植物病害防除剤は、広範囲の種類の細菌及び糸状菌に対して、優れた防除効果を発揮する。本実施形態の植物病害防除剤により防除可能な植物の病原菌としては、例えば、「カンキツ」の黒点病菌(Diaporthe citri)、そうか病菌(Elsinoe fawcettii)、褐色腐敗病菌(Phytophthora citrophthora)、緑かび病菌(Penicillium digitatum)、青かび病菌(Penicillium italicum);
「ウリ類」のうどんこ病菌(Sphaerotheca fuliginea)、つる枯病菌(Didymella bryoniae)、炭そ病菌(Colletotrichum lagenarium);
「トマト」の輪紋病菌(Alternaria solani)、葉かび病菌(Cladosporium fulvum)、うどんこ病菌(Oidium neolycopersici、Oidiopsis sp.、Leveillula taurica);
「ナス」の褐紋病菌(Phomopsis vexans)、うどんこ病菌(Erysiphe cichoracearum);
「イチゴ」のうどんこ病菌(Sphaerotheca humuli)、炭そ病菌(Glomerella cingulata);
「ピーマン」のうどんこ病菌(Oidiopsis sicula);
「エンドウ」のうどんこ病菌(Erysiphe pisi);
「種々の作物」の灰色かび病菌(Botrytis cinerea)等が挙げられ、これらに限定されない。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
(緑かび病を防除する納豆菌の選抜)
1.納豆菌培養液の調製
納豆菌としては、タカノフーズ株式会社が保有する納豆菌720菌株を用いた。納豆菌培養液は、以下の方法を用いて調製した。まず、各菌株はTrypticase Soy Agar(TSA)平板培地を用いて37℃で16時間培養したものを白金耳でTrypticase Soy Broth(TSB)培地に懸濁し、28℃、105rpmで24時間振とう培養した。培養後、納豆菌を遠心分離(3000rcf、8分間、22℃)により集菌し、上清を除去した後に滅菌水に懸濁した。この作業を3回繰り返して培地成分を除去した後に、分光光度計を用いて培養液濃度をOD600=1となるように調整し、実験に供試した。
【0039】
2.分生子懸濁液の調製
カンキツにおける緑かび病菌Penicillium digitatumは、茨城大学農学部で保存しているIUPd2株を用いた。分生子形成は、本菌をPotato Sucrose Agar(PSA)平板培地で3日間培養後、ブラックライトブルーランプを3日間照射し、その後3日間暗所に置くことで誘導した。培地上の分生子は滅菌水に懸濁した後に、滅菌ティッシュペーパーでろ過することで菌糸を除去した、分生子を遠心分離(1700rcf、5分間、22℃)により回収し、上澄みを除去した後に滅菌水に再懸濁した。この作業を3回繰り返すことで分生子を洗浄した。分生子懸濁液は血球計算盤を用いて濃度を1.0×10conidia/mLに調製し、実験に供試した。
【0040】
3.対峙培養試験
PSA平板培地にP. digitatum分生子懸濁液を100μL滴下し、コンラージ棒で塗布した後、納豆菌培養液に浸漬したペーパーディスク(径5mm)を平板培地の中央に置床した。これを25℃の暗所で3日間培養後、ペーパーディスクの周囲に形成された阻止円の直径を測定した。試験は2反復行った。
【0041】
対峙培養試験の結果、供試した全ての菌株でP. digitatumの菌糸生育に対する抑制効果が見られ、中でも、TTCC2122株が他の株と比べて強い抑制効果を示した。
なお、優れた抑制効果が確かめられたTTCC2122株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2020年5月28日付けで、受託番号NITE P-03228として寄託されているものである。
【0042】
[実施例2]
(灰色かび病を防除する納豆菌の選抜)
1.納豆菌培養液の調製
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、720種の納豆菌について納豆菌培養液を調製した。
【0043】
2.分生子懸濁液の調製
灰色かび病菌Botrytis cinereaは、茨城大学農学部で保存しているTV335株を用いた。実施例1の「2.」と同様の方法を用いて、分生子懸濁液を調製した。
【0044】
3.対峙培養試験
PSA平板培地にB. cinerea分生子懸濁液を100μL滴下し、コンラージ棒で塗布した後、納豆菌培養液に浸漬したペーパーディスク(径5mm)を平板培地の中央に置床した。これを25℃の暗所で3日間培養後、ペーパーディスクの周囲に形成された阻止円の直径を測定した。試験は2反復行った。
【0045】
対峙培養試験の結果、供試した全ての菌株でB. cinereaの菌糸生育に対する抑制効果が見られ、中でも、TTCC2111株が他の株と比べて強い抑制効果を示した。
なお、優れた抑制効果が確かめられたTTCC2111株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センター(住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2020年5月28日付けで、受託番号NITE P-03227として寄託されているものである。
【0046】
[実施例3]
(貯蔵時のみかんにおける保存性向上確認試験)
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、TTCC2122株の培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。参考として茨城大学で保有していた納豆菌No.2株についても同様に培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。また、カンキツにおける緑かび病菌P. digitatum分生子懸濁液(1.0×10conidia/mL)についても、実施例1の「2.」と同様の方法を用いて、準備した。さらに、カンキツにおける青かび病菌P. italicum(茨城大学農学部で保存、IUPi1株)についても同様に、分生子懸濁液(1.0×10conidia/mL)を調製した。
【0047】
次いで、みかんの表面に4か所の深さ1mm、幅3mmの傷を付け、TTCC2122株の培養液を1か所あたり15μl滴下処理した。処理16時間後、P. digitatum及びP. italicum(茨城大学農学部で保存、IUPi1株)の分生子懸濁液(1.0×10conidia/mL)をそれぞれ傷1か所あたり15μl滴下接種した。分生子の接種から4日後にみかんの表面を観察し、接種試験に供したみかんの傷に対する、かびが観察された傷の割合(百分率)を病害発生率(%)として算出した。結果を図1に示す。なお、図1において「コントロール」群は、TTCC2122株の培養液の滴下処理を行なわずに、緑かび病菌(P. digitatum)又は青かび病菌(P. italicum)を接種したみかんである。
【0048】
図1に示すように、TTCC2122株の培養液による滴下処理を施した傷では、緑かび病菌(P. digitatum)又は青かび病菌(P. italicum)のいずれを接種した場合においても病害発生率が顕著に抑制されていた。この抑制効果は、参考として使用した納豆菌No.2株と比較しても顕著であった。
【0049】
[実施例4]
(納豆菌培養液のエンドウうどんこ病に対する治療効果及び防除効果確認試験)
TTCC2111株及びTTCC2122株はTrypticase Soy Agar(TSA)平板培地を用いて37℃で16時間培養したものを白金耳でPotato Sucrose Broth(PSB)培地に懸濁した。これらを28℃、105rpmで24時間振とう培養し、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液(各菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。
【0050】
予めうどんこ病菌を2週間前に接種したエンドウ葉から多くの分生子を形成している葉を選び、絵筆を用いて葉面上の分生子を掃い落とした。次いで、調製したTTCC2122株の培養液をスプレーで噴霧した。培養液の噴霧量は、エンドウ葉1枚当たり0.3mL以上0.5mL以下程度であった。コントロールには、培養液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から2日後に、エンドウ葉を固定液に浸漬させて固定した。固定液としては、FAA(Formalin/Acetic acid/Alcohol)固定液を用いた。FAA固定液の組成は、容量比でホルマリン:酢酸:エタノール=1:1:1である。次いで、固定後のエンドウ葉についてエンドウうどんこ病菌の菌体をメチルブルーで染色した。葉1枚当たり10コロニーをランダムに選び、コロニー当たりに形成された分生子数を数えた。結果を図2に示す。
【0051】
図2に示すように、TTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、コントロール群と比較して、形成された分生子数の減少が確認された。また、TTCC2122株の培養液を噴霧処理した葉におけるエンドウうどんこ病菌の菌糸を観察したところ、細胞死様の染色箇所が見られた(図示せず)。
以上のことから、TTCC2122株の培養液は、エンドウうどんこ病に対する治療効果を有することが示唆された。
【0052】
次いで、1週齢のエンドウ葉表面に、調製したTTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液をそれぞれスプレーで噴霧した。培養液の噴霧量は、エンドウ葉1枚当たり0.3mL以上0.5mL以下程度であった。コントロールには、培養液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。翌日、充分にエンドウ葉表面を乾かした後、罹病エンドウ葉に形成された分生子を絵筆で処理葉全体に乗せて接種した。接種から3日後に接種葉をFAA固定液で固定した後、エンドウうどんこ病菌の菌体をメチルブルーで染色した。分生子よりも長い発芽管を形成したものを「発芽」とした。分生子数に対する発芽数の割合(百分率)を発芽率(%)として算出した。結果を図3に示す。図3において、各群について独立した試験を2回行った結果を示している。
【0053】
図3に示すように、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、コントロール群と比較して、発芽率の減少が確認された。また、TTCC2122株の培養液の噴霧処理した葉におけるエンドウうどんこ病菌の発芽管を観察したところ、細胞死様の染色箇所が見られた(図示せず)。
以上のことから、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液は、エンドウうどんこ病に対する防除効果を有することが示唆された。
【0054】
[実施例5]
(納豆菌培養液のプリムラ花弁での灰色かび病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例1の「1.」と同様の方法を用いて、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液(各菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。次いで、プリムラ花弁の表面に、調製したTTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液をそれぞれスプレーで噴霧した。各培養液の噴霧量は、プリムラ花弁1枚当たり0.3mL以上0.5mL以下程度であった。コントロールには、培養液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から16時間後に、灰色かび病菌の分生子懸濁液(1×10conidia/mL)を用いて噴霧接種した。接種から24時間後に形成されたプリムラ花弁1cm当たりの病斑数(個)を算出した。結果を図4に示す。
【0055】
図4に示すように、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、灰色かび病の発病抑制効果がみられた。その効果はやや弱いものであったが、これは、花弁表面が疎水性であることから、培養液が一様に広がらないことが原因であるものと推察された。灰色かび病菌による感染行動を観察したところ、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、発芽菌糸の伸長が抑制されていることが確認された(図示せず)。よって、培養液の組成及び処理方法を改善することで、灰色かび病の発病抑制効果を向上できるものと考えられる。
【0056】
[実施例6]
(納豆菌培養液のキュウリうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液(各菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。次いで、2週齢のキュウリ苗の子葉に培養液をそのまま噴霧処理した。各培養液の噴霧量は、子葉全体が培養液で覆われるまで行った。コントロールには、培養液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から24時間後に、うどんこ病菌の胞子を絵筆で処理葉全体に乗せて、接種を行った。接種後のキュウリ苗は25℃で栽培した。接種から2週間後に各子葉に発生したコロニー数及び面積を調査し、以下に示す基準によって発病指数を判定した。コロニー面積はimageJソフトを用いて計測した。
【0057】
(基準)
0:発病なし
1:コロニーが1個以上2個以下認められる
2:コロニーが葉面積の1/4未満を占める
3:コロニーが葉面積の1/4以上1/2未満を占める
4:コロニーが葉面積の1/2以上を占める
【0058】
次いで、判定した発病指数に基づいて、次の式を用いて発病度を算出した。結果を図5に示す。なお、各群の調査葉数(N)は10枚である。
【0059】
発病度=[Σ{(発病指数)×(葉数)}/{4×(調査葉数)}]×100
【0060】
図5に示すように、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、キュウリうどんこ病の発病抑制効果がみられた。特に、TTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、キュウリうどんこ病の発病抑制効果が顕著であった。
【0061】
[実施例7]
(納豆菌培養液のキュウリうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験2)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液(各菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。また、参考として、市販のバチルス属菌製剤の1000倍希釈液(推奨希釈率、推定菌体濃度:1×10cells/mL)も準備した。次いで、これらを用いて、実施例6と同様の方法で、キュウリうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験を行った。各群の調査葉数(N)は10枚である。結果を図6に示す。
【0062】
図6に示すように、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、キュウリうどんこ病の発病抑制効果がみられた。一方で、市販のバチルス属菌製剤の希釈液を噴霧処理した群では、コントロール群と比べて、大きな差が見られず、キュウリうどんこ病の発病抑制効果が確認できなかった。
また、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液を噴霧処理した葉、並びに、滅菌水を噴霧処理した葉(コントロール群)をFAA固定液で固定した後、キュウリうどんこ病菌の菌体をメチルブルーで染色した。これら葉におけるキュウリうどんこ病菌の発芽管を光学顕微鏡で観察したところ、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液の噴霧処理群では、分生子の発芽が抑制されていることが確認された(図示せず)。
以上のことから、TTCC2111株の培養液及びTTCC2122株の培養液は、キュウリうどんこ病に対する発病抑制効果を有することが示唆された。
【0063】
[実施例8]
(納豆菌培養液及び培養上清のキュウリうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例4と同様の方法を用いて、得られた培養液をTTCC2122株の培養液(菌体含有、菌体濃度:1×10cells/mL)として、培養上清をTTCC2122株の培養上清(菌体不含)として用いた。また、参考として、市販のバチルス属菌製剤の1000倍希釈液(推奨希釈率、推定菌体濃度:1×10cells/mL)も準備した。次いで、2週齢のキュウリ苗の第一本葉に培養液(菌体含有)又は培養上清(菌体不含)をそのまま噴霧処理した。各処理液の噴霧量は、葉全体が培養液で覆われるまで行った。コントロールには、培養液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から24時間後及び1週間後に、うどんこ病菌の胞子を絵筆で処理葉全体に乗せて、接種を行った。接種後のキュウリ苗は25℃で栽培した。接種から2週間後に各子葉に発生したコロニー数及び面積を調査し、実施例6と同様の方法を用いて、発病度を算出した。各群の調査葉数(N)は10枚である。結果を図7に示す。
【0064】
図7に示すように、TTCC2122株の培養液(菌体含有)及びTTCC2122株の培養上清(菌体不含)の噴霧処理群では、いずれにおいてもキュウリうどんこ病の発病抑制効果がみられた。噴霧処理から1週間後にうどんこ病菌を接種した場合も、噴霧処理から24時間後に接種した場合と同様に、キュウリうどんこ病の発病抑制効果がみられた。特に、噴霧処理から1週間後にうどんこ病菌を接種した場合において、TTCC2122株の培養上清(菌体不含)の噴霧処理群では、キュウリうどんこ病の発病抑制効果が顕著であった。
【0065】
[実施例9]
(納豆菌培養液のキュウリうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験3)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2122株の培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。調製した培養液に滅菌水を加えて、5倍、10倍及び20倍希釈液を調製した。これらを用いて、実施例6と同様の方法で、キュウリうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験を行った。また、防除価を次の式を用いて算出した。結果を表1に示す。
【0066】
防除価={1-(噴霧処理群での発病度の平均)/(無処理(コントロール)群での発病度の平均)}×100
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液、10倍希釈液及び20倍希釈液の噴霧処理群において、防除価が35.5以上であり、キュウリうどんこ病の発病抑制効果がみられた。
【0069】
[実施例10]
(納豆菌培養液のキュウリ及びベゴニアでの灰色かび病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2122株の培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。調製した培養液に滅菌水を加えて、5倍、10倍及び20倍希釈液を調製した。また、参考として、市販のバチルス属菌製剤の1000倍希釈液(推奨希釈率、推定菌体濃度:1×10cells/mL)も準備した。次いで、これらを3週齢のキュウリ第一本葉及びベゴニアの切り葉にスプレーを用いて噴霧処理した。各液の噴霧量は、液が葉から滴るまで行った。コントロールには、培養液及び希釈液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理後、25℃の人工気象器内で維持し、キュウリは噴霧処理から24時間後に処理葉を切り取った。これら処理葉にPSA平板培地で2日間培養したB. cinereaの菌叢プラグ(径5mm)を処理葉1枚あたり2箇所に接種した。接種葉は、イオン交換水で湿らせたペーパータオルを敷いたプラスチックボックスに入れて22℃で維持し、接種から2日後に病斑直径を測定した。試験には各処理群について3葉を用い、同様の試験を3反復行った。結果を図8(キュウリでの病斑直径)及び図9(ベゴニアでの病斑直径)に示す。
【0070】
図8に示すように、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液、10倍希釈液及び20倍希釈液の噴霧処理群では、コントロール群と比べて、病斑直径の大きさが抑えられており、キュウリ灰色かび病に対する発病抑制効果が見られた。一方で、市販のバチルス属菌製剤の希釈液を噴霧処理した群では、コントロール群と比べて、病斑直径の大きさに差が見られず、キュウリ灰色かび病に対する発病抑制効果が確認できなかった。また、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液及び10倍希釈液の噴霧処理群において、キュウリ灰色かび病に対する発病抑制効果が特に顕著であった。
【0071】
図9に示すように、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液、10倍希釈液及び20倍希釈液の噴霧処理群では、コントロール群と比べて、病斑直径の大きさが抑えられており、ベゴニア灰色かび病に対する発病抑制効果が見られた。一方で、市販のバチルス属菌製剤の希釈液を噴霧処理した群では、コントロール群と比べて、病斑直径の大きさに差が見られず、ベゴニア灰色かび病に対する発病抑制効果が確認できなかった。また、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液、10倍希釈液及び20倍希釈液の噴霧処理群いずれにおいても、ベゴニア灰色かび病に対する発病抑制効果が顕著であった。
【0072】
[実施例11]
(納豆菌培養液のイチゴうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2122株の培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。調製した培養液に滅菌水を加えて、5倍及び10倍希釈液を調製した。これらをイチゴ(品種:ローズベリーレッド)の小葉裏面にスプレーを用いて噴霧処理した。小葉はイチゴ苗の展葉後間もない(1週間から2週間程度)複葉から切り取って実験に供試した。各液の噴霧量は、小葉裏面を処理液が覆うまで行った。コントロールには、培養液及び希釈液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から24時間後に、イチゴうどんこ病罹病葉の病斑から分生胞子を絵筆で払い落とし、処理葉全体に接種を行った。接種後のイチゴ葉は湿らせた濾紙を敷いたプラスチックトレイ内に並べて密閉し、20℃、蛍光灯照明下(1日当たり12時間の照明)に維持した。接種から2週間後に葉に発生したコロニー数及び面積を実体顕微鏡下で調査し、実施例6と同様の方法で、発病度を算出し、実施例9と同様の方法で、防除価を算出した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液及び10倍希釈液の噴霧処理群において、防除価が54.2以上であり、十分なイチゴうどんこ病の発病抑制効果がみられた。
【0075】
また、各処理群の葉の裏面を実体顕微鏡で観察したところ、5倍希釈液の噴霧処理群及び10倍希釈液の噴霧処理群の葉面には毛茸の下にうどんこ病菌のコロニーが観察できるが、それらは、滅菌水の噴霧処理群(コントロール群)で見られるコロニーよりも菌糸密度が低いことが明らかとなった(図示せず)。
【0076】
[実施例12]
(納豆菌培養液のピーマンうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2122株の培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。調製した培養液に滅菌水を加えて、5倍及び10倍希釈液を調製した。これらをピーマンうどんこ病菌に感受性であるシシトウ葉の裏面にスプレーを用いて噴霧処理した。シシトウの葉は播種後8週齢の苗から切り取って実験に供試した。各液の噴霧量は、葉面を処理液が覆うまで行った。コントロールには、培養液及び希釈液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から24時間後に、ピーマンうどんこ病罹病葉の病斑から分生胞子を絵筆でかき取り、処理葉全体になすりつけて接種を行った。接種後のシシトウ葉は湿らせた濾紙を敷いたプラスチックトレイ内に並べて密閉し、21℃、蛍光灯照明下(1日当たり12時間の照明)に維持した。接種から3週間後に葉に発生したコロニー数及び面積を実体顕微鏡下で調査し、実施例6と同様の方法で、発病度を算出し、実施例9と同様の方法で、防除価を算出した。結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示すように、TTCC2122株の培養液(原液)及び5倍希釈液の噴霧処理群において、防除価が38.6以上であり、ピーマンうどんこ病の発病抑制効果がみられた。一方で、10倍希釈液の噴霧処理群では、ピーマンうどんこ病の発病抑制効果がみられなかった。
【0079】
また、各処理群の葉の裏面を実体顕微鏡で観察したところ、各処理群に形成されたコロニーに顕著な違いは見られなかった(図示せず)。これは、他のうどんこ病菌が表面寄生性であるのに対し、本菌が内部寄生性であるためと推察された。
【0080】
[実施例13]
(納豆菌培養液のトマトうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2122株の培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。調製した培養液に滅菌水を加えて、5倍及び10倍希釈液を調製した。これらを3週齢のトマト(品種:ポンテローザ)の本葉にスプレーを用いて噴霧処理した。各液の噴霧量は、葉面を処理液が覆うまで行った。コントロールには、培養液及び希釈液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から24時間後に、トマトうどんこ病罹病葉の病斑から分生胞子を絵筆でかき取り、処理葉全体になすりつけて接種を行った。接種後のトマト苗は25℃で栽培した。接種から10日後に葉に発生したコロニー数及び面積を実体顕微鏡下で調査し、実施例6と同様の方法で、発病度を算出し、実施例9と同様の方法で、防除価を算出した。結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4に示すように、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液及び10倍希釈液の噴霧処理群において、防除価が36.4以上であり、トマトうどんこ病の発病抑制効果がみられた。
【0083】
また、各処理群の接種葉の表面におけるトマトうどんこ病菌の分生子及び菌糸の形態を目視で観察したところ、TTCC2122株の培養液(原液)の噴霧処理群ではコントロール群と比べて顕著な発芽抑制効果が見られた(図示せず)。また、5倍希釈液の噴霧処理群では、コントロール群に比べてコロニーを形成する菌糸の密度が薄くなっていた(図示せず)。10倍希釈液の噴霧処理群ではコントロール群との差異は見られなかった(図示せず)。
【0084】
[実施例14]
(納豆菌培養液のナスうどんこ病に対する発病抑制効果確認試験)
実施例4と同様の方法を用いて、TTCC2122株の培養液(菌体濃度:1×10cells/mL)を調製した。調製した培養液に滅菌水を加えて、5倍及び10倍希釈液を調製した。これらを3週齢のナス(品種:千両二号)の本葉にスプレーを用いて噴霧処理した。各液の噴霧量は、葉面を処理液が覆うまで行った。コントロールには、培養液及び希釈液の代わりに滅菌水を噴霧処理した。噴霧処理から24時間後にナスうどんこ病罹病葉の病斑から分生胞子を絵筆でかき取り、処理葉全体になすりつけて接種を行った。接種後のナス苗は25℃で栽培した。接種から10日後に葉に発生したコロニー数及び面積を調査し、実施例6と同様の方法で、発病度を算出し、実施例9と同様の方法で、防除価を算出した。結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
表5に示すように、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液及び10倍希釈液の噴霧処理群において、防除価が25.4以上であり、ナスうどんこ病の発病抑制効果がみられた。
【0087】
また、各処理群の接種葉の表面におけるナスうどんこ病菌の分生子及び菌糸の形態を目視で観察したところ、ナスうどんこ病菌は他のうどんこ病菌に比べて感染率が低く、コロニーも他に比べて進展しないものであった。また、TTCC2122株の培養液(原液)、5倍希釈液及び10倍希釈液の噴霧処理群において、ナスうどんこ病の発病抑制効果は見られたものの、これまで検定した他の植物種のうどんこ病菌に対する発病抑制効果に比べて低く見えた。これは、上述したように、ナスうどんこ病菌は他のうどんこ病菌に比べて感染率が低いことから、コントロール群との差異が見にくかったためであると推察された。
【0088】
以上のことから、TTCC2111株及びTTCC2122株は、各種植物病害に対する防除効果を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本実施形態の植物病害防除剤及び植物病害防除方法によれば、植物病害を有効に防除することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9