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特開2022-33605構造体、テラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置
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  • 特開-構造体、テラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033605
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】構造体、テラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/22 20060101AFI20220222BHJP
【FI】
H01L39/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137591
(22)【出願日】2020-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】特許業務法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】柏木 隆成
(72)【発明者】
【氏名】門脇 和男
(72)【発明者】
【氏名】南 英俊
(72)【発明者】
【氏名】辻本 学
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AA01
4M113AA60
4M113AC13
4M113AD32
4M113AD36
4M113BA01
4M113BA04
4M113BA11
4M113CA35
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、高強度の電磁波放射を可能とする構造体、テラヘルツ波帯電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するため、超伝導素子と、第一及び第二の支持基板とを備え、超伝導素子、第一及び第二の支持基板が、超伝導素子の厚さ方向に電気的に導通するよう積層し、第一及び第二の支持基板には、超伝導素子から発生する電磁波を反射する反射機構を各々備えた構造体、テラヘルツ波帯電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置を提供する。
これによれば、超伝導素子から発生した電磁波を、第一及び第二の支持基板の間で反射することで、電磁波を2つの支持基板の間に閉じ込めることが可能となる。そして、閉じ込めた電磁波を超伝導素子にフィードバックすることで、超伝導素子で発生する電磁波の位相同期を高め、高強度の電磁波放射が可能になる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導体を含む超伝導素子と、
第一の支持基板と、
第二の支持基板と、を備え、
前記超伝導素子、前記第一の支持基板及び前記第二の支持基板が、前記超伝導素子の厚さ方向に電気的に導通するように積層して配置され、
前記第一及び第二の支持基板には、前記超伝導素子から発生する電磁波を反射する反射機構を各々備えることを特徴とする、構造体。
【請求項2】
前記超伝導体は、層状超伝導体BSCCOの単結晶を含むことを特徴とする、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記第一及び第二の支持基板の屈折率は、前記超伝導素子の屈折率との差が大きくないことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記第一及び第二の支持基板の屈折率と、前記超伝導素子の屈折率との差分の絶対値が、前記超伝導素子の屈折率の30%以内となることを特徴とする、請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記第一及び第二の支持基板は、超伝導素子より高い熱伝導率を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項6】
前記反射機構は、前記第一及び第二の支持基板の屈折率とは異なる屈折率を有する領域を前記構造体の積層方向とは直交する面に形成することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項7】
前記反射機構は、前記第一及び第二の支持基板の表面を金属薄膜で被覆したものを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項8】
前記反射機構は、前記第一及び第二の支持基板の外側に配置され、電磁波を反射する構造物を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項9】
前記反射機構は、前記第一及び/又は第二の支持基板の一面に半球面を備えるものを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項10】
前記反射機構は、前記超伝導素子からの距離が調整可能であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項11】
前記第一及び第二の支持基板、並びに前記超伝導素子をユニットとして形成し、前記ユニットを積層することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項12】
前記第一及び第二の支持基板は、各々異なる厚さを有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項13】
前記超伝導素子は、平面上に前記超伝導素子を複数個並べたアレイ構造を形成していることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項14】
前記超伝導素子は、平面上に前記超伝導素子を複数個並べたアレイ構造をさらに積層していることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の構造体を備え、
交流ジョセフソン効果を利用して複数のジョセフソン接合が協調して動作することによりテラヘルツ帯域電磁波を発振することを特徴とする、テラヘルツ帯域電磁波発振素子。
【請求項16】
請求項15に記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子と、
電圧印加手段と、を備え、
前記電圧印加手段は、前記第一及び前記第二の支持基板を介して、前記超伝導素子に電圧を印加するものであることを特徴とする、テラヘルツ帯域電磁波発振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導素子を備える構造体に関するものである。また、本発明は、特にテラヘルツ帯域電磁波を発振するテラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電波と光の中間領域の波長をもつテラヘルツ波(0.1THz~10THz)が着目されている。テラヘルツ波は、光のような直進性をもち、電波のように紙やプラスチックといった物質を透過する性質を持つ。また、テラヘルツ帯の周波数は、分子の回転や振動、結晶格子の振動、タンパク質などの高分子の振動などの周波数と等しい。そのためテラヘルツ波は、様々な物質の同定に利用できるのみならず、イメージングなどの非破壊検査、セキュリティ、高速通信、天文学、医療等の幅広い産業分野への利用が期待され、注目を集めている。
【0003】
テラヘルツ波を発生する小型素子の1つとして、近年、高温超伝導体の単結晶を用いた発振素子が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、高温超伝導体に積層された超伝導層と絶縁体層を利用したテラヘルツ波発振素子が提案されている。
【0004】
絶縁体層を超伝導層でサンドイッチした構造は、ジョセフソン接合として知られる。ここに電圧が発生すると、印加電圧に比例した高周波電流が発生する。この効果は、交流ジョセフソン効果として知られている。高温超伝導体の単結晶には、ジョセフソン接合を自然に内包したものがあり、固有ジョセフソン接合として知られている。そのため、このような単結晶に電圧を印加することで、交流ジョセフソン効果を原理とする高周波電流の発生が可能になる。
【0005】
更に、特許文献3では、この高温超伝導発振素子の発振特性を改善する技術が提案されている。この特許文献3では、超伝導素子を複数の基板で挟み込むことで、素子からの発熱を逃がす構造や、複数の発振素子を挟み込む形状などについて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-251863号公報
【特許文献2】特開2009-43787号公報
【特許文献3】特開2016-51871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、テラヘルツ波は幅広い分野への応用利用が考えられる。また、上記特許文献1~3に記載されるようなテラヘルツ波発振素子により、テラヘルツ帯の電磁波の発生が可能となることも知られている。
一方、テラヘルツ波の応用利用に際しては、小型で簡便なテラヘルツ波の発振素子やテラヘルツ波の検出器が求められるが、未だ十分な機能を有するものは得られていないという現状が、テラヘルツ波の電磁波を様々な産業分野に応用利用する際の発展を妨げる要因の1つになっている。特に、1~2テラヘルツ近辺で高強度な単色連続電磁波を得る小型発振器の実現については、特許文献1~3に記載されたテラヘルツ波発振素子を含め、未だ至っていないという現状がある。
【0008】
特許文献1~3に記載されたテラヘルツ波発振素子のように、従来の電磁波発振素子では、超伝導体の単結晶自体が電流発生源、共振器、アンテナの機能を有し、超伝導体の単結晶が形成するメサ構造の形状及びサイズに応じて特定の周波数波(テラヘルツ波)を発振することが行われている。
しかしながら、従来の電磁波発振素子構造のように、超伝導体の単結晶が形成するメサ構造の形状及びサイズに応じた電磁波放射では、電磁波の高強度化を行うためには加工精度等の技術的な困難がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、高強度の電磁波放射を可能とする構造体、テラヘルツ波帯電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、超伝導体の単結晶からなる超伝導素子の外部に反射機構を設け、超伝導素子から発生した電磁波を反射機構で反射させ、超伝導素子へ電磁界をフィードバックすることで、高強度な電磁波放射が可能となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するための構造体、テラヘルツ波帯電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の構造体は、超伝導体を含む超伝導素子と、第一の支持基板と、第二の支持基板と、を備え、超伝導素子、第一の支持基板及び第二の支持基板が、超伝導素子の厚さ方向に電気的に導通するように積層して配置され、第一及び第二の支持基板には、超伝導素子から発生する電磁波を反射する反射機構を各々備えることを特徴とする。
この特徴によれば、超伝導素子から発生した電磁波を、第一の支持基板と第二の支持基板の間で反射することで、2つの支持基板の間に定在波を発生させ、電磁波を閉じ込めることが可能となる。これにより、電磁波が超伝導素子にフィードバックすることで、超伝導素子で発生する電磁波の位相同期を高め、高強度の電磁波発生が可能になる。また、電磁波の位相同期が高くなることで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0012】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、超伝導体は、層状超伝導体BSCCOの単結晶を含むという特徴を有する。
この特徴によれば、高温超伝導体の固有ジョセフソン接合を有する単結晶を用い、交流ジョセフソン効果を利用した電磁波発生が可能になる。これにより、超伝導素子から高周波の電磁波を安定して発生させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、第一及び第二の支持基板の屈折率は、超伝導素子の屈折率との差が大きくないという特徴を有する。
この特徴によれば、超伝導素子と第一及び第二の支持基板間の屈折率の差による電磁波の反射を抑え、超伝導素子で発生した電磁波を効率よく反射機構にて反射することが可能となる。これにより、安定した定在波を発生させ、超伝導素子へのフィードバックを効果的に行い、高強度な電磁波放射を行うことが可能となる。また、超伝導素子へのフィードバックが効果的に行われることで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0014】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、前記屈折率との差が大きくないことについて望ましくは、第一及び第二の支持基板の屈折率と、超伝導素子の屈折率との差分の絶対値が、超伝導素子の屈折率の30%以内となるという特徴を有する。
この特徴によれば、超伝導素子と第一及び第二の支持基板間の屈折率の差による電磁波の反射をより一層抑え、超伝導素子で発生した電磁波を効率よく反射機構にて反射することが可能となる。これにより、安定した定在波を発生させ、超伝導素子へのフィードバックを効果的に行い、高強度な電磁波放射を行うことが可能となる。また、超伝導素子へのフィードバックが効果的に行われることで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0015】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、第一及び第二の支持基板は、絶縁体又は半絶縁性の基板であり、超伝導素子より高い熱伝導率を有するという特徴を有する。
この特徴によれば、超伝導素子の動作時のジュール熱を第一及び第二の支持基板を介して効率的に逃がすことが可能となるとともに、超伝導素子に対して効率的に電流を流すことが可能になる。
【0016】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、反射機構は、第一及び第二の支持基板の屈折率とは異なる屈折率を有する領域を構造体の積層方向とは直交する面に形成するという特徴を有する。
この特徴によれば、屈折率の異なる領域を設けることのみで、電磁波を反射することが可能となり、電磁波を簡便に閉じ込めることが可能になる。
【0017】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、反射機構は、第一及び第二の支持基板の表面を金属薄膜で被覆したものを含むという特徴を有する。
この特徴によれば、簡易な構造により、電磁波を反射させることが可能になる。また、支持基板と反射機構を一体化することで、構造体の小型化やコスト削減が容易になる。さらに、反射効率の高い金属薄膜を用いることで、第一及び第二の支持基板の間に電磁波を効果的に閉じ込めることが可能になる。
【0018】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、反射機構は、第一及び第二の支持基板の外側に配置され、電磁波を反射する構造物を含むという特徴を有する。
この特徴によれば、支持基板と反射機構とを別体として設けることにより、構造体内部で電磁波を反射させる範囲を調整することが容易となる。これにより、構造体内部に閉じ込める電磁波の波長を調整することが可能になる。
【0019】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、反射機構は、第一及び/又は第二の支持基板の一面に半球面を備えるものを含むという特徴を有する。
この特徴によれば、反射機構として半球面を備える支持基板を用いることで、支持基板と電磁波を外部に発振する際のレンズとを一体化して機能させることが可能となる。これにより、部品点数を少なくすることが可能となる。
【0020】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、反射機構は、前記超伝導素子からの距離が調整可能であるという特徴を有する。
この特徴によれば、超伝導素子と反射機構により形成される電磁波の定在波の位置関係を調整することが可能となる。これにより、超伝導素子に対する電磁波のフィードバック量を調整することが可能になる。
【0021】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、第一及び第二の支持基板、並びに超伝導素子をユニットとして形成し、ユニットを積層するという特徴を有する。
この特徴によれば、支持基板と超伝導素子をユニット化することで、構造体の形成が容易になる。また、ユニットを積層することで、積層したユニット内に含まれる複数の超伝導素子から発生する電磁波の位相を同期させることが容易となり、強い電磁波の発生が可能になる。さらに、電磁波の位相が同期することで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0022】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、第一及び第二の支持基板は、各々異なる厚さを有するという特徴を有する。
この特徴によれば、支持基板の組み合わせにより、超伝導素子と反射機構により形成される電磁波の定在波の位置関係を容易に調整することが可能となる。これにより、電磁波のフィードバック量を調整することが可能になる。
【0023】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、超伝導素子は、平面上に超伝導素子を複数個並べたアレイ構造を形成しているという特徴を有する。
この特徴によれば、超伝導素子のアレイ構造間で発生した電磁波の位相同期が可能になり、高強度の電磁波発生が可能になる。また、電磁波の位相が同期することで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0024】
また、本発明の構造体の一実施態様としては、超伝導素子は、平面上に超伝導素子を複数個並べたアレイ構造をさらに積層しているという特徴を有する。
この特徴によれば、超伝導素子が3次元的に配置されることで、さらに強い電磁波発生が可能となる。
【0025】
上記課題を解決するための本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振素子は、上記構造体を備え、交流ジョセフソン効果を利用して複数のジョセフソン接合が協調して動作することによりテラヘルツ帯域電磁波を発振するという特徴を有する。
この特徴によれば、反射機構を設けた構造体により、電磁波が超伝導素子にフィードバックすることで、超伝導素子で発生した電磁波の位相同期が可能になり、高強度の電磁波発生が可能になる。このため、従来の超伝導体を用いたテラヘルツ帯域電磁波発振素子と比べて、格段の発振出力の向上が可能となる。
【0026】
上記課題を解決するための本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振装置は、上記テラヘルツ帯域電磁波発振素子と、電圧印加手段とを備え、電圧印加手段は、第一の支持基板及び第二の支持基板を介して、超伝導素子に電圧を印加するものであるという特徴を有する。
この特徴によれば、上記したテラヘルツ帯域電磁波発振素子をテラヘルツ帯域電磁波発振装置として、動作させることが可能になる。これにより、高周波数・高強度の電磁波を発振する電磁波発振装置として効果的に機能させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高強度の電磁波放射を可能とする構造体、テラヘルツ波帯電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施態様に係る構造体の概略説明図(平面図)である。
図2】本発明の第1の実施態様に係る構造体の別の態様を示す概略説明図(平面図)である。
図3】本発明の第2の実施態様に係る構造体の概略説明図(平面図)である。
図4】本発明の第3の実施態様に係る構造体の概略説明図(平面図)である。
図5】本発明の第4の実施態様に係る構造体の概略説明図(平面図)である。
図6】本発明の第4の実施態様に係る構造体の別の態様を示す概略説明図(平面図)である。
図7】本発明の第5の実施態様に係る構造体の概略説明図(平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る構造体、テラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する内容と図面については、本発明に係る特徴をわかりやすく説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。また、図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際とは異なっていることがある。
【0030】
本発明の構造体は、特に超伝導素子の実装のために使用される。超伝導素子の使用に係る一例としては、例えば、テラヘルツ波を発振することができるテラヘルツ帯域電磁波発振素子等が挙げられる。また、超伝導素子の実装に係る一例としては、例えば、テラヘルツ帯域電磁波発振装置等が挙げられる。
【0031】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様における構造体及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置の概略説明図(平面図)である。
【0032】
図1に示すように、本実施態様の構造体10Aは、第一の支持基板1と、第二の支持基板2と、超伝導素子3と、反射機構4と、シリコン半球レンズ5と、配線6と、を備える。また、図1に示すように、本実施態様のテラヘルツ帯域電磁波発振装置20は、構造体10Aにおける配線6に対し、電流・電圧印加手段として外部電源7を設置したものである。
【0033】
(構造体(テラヘルツ帯域電磁波発振素子))
本実施態様の構造体10Aは、超伝導体からなる超伝導素子3から放射された電磁波を反射機構4で反射して定在波を発生させ、超伝導素子3と、第一の支持基板1及び第二の支持基板2の厚さの合計で決定される共振周波数の電磁波を閉じ込めるものである。
これにより、閉じ込められた電磁波が超伝導素子3に影響を及ぼすことで、超伝導素子3で発生する電磁波の位相同期に係る環境を好適化し、その結果共振周波数の電磁波を高強度で発振させることが可能になる。
【0034】
本実施態様の構造体10Aとしては、超伝導素子3に直流電流・電圧が印加できるように適切に配置するとともに、第一の支持基板1と第二の支持基板2の外側に向けて適当なビーム形状となるように電磁波を発振させることが、利用上の観点から好ましい。その一例として、図1には、第二の支持基板2の右側面にシリコン半球レンズ5を取り付けた様子を示している。これにより、シリコン半球レンズ5を通して、電磁波が発振する。シリコン半球レンズ5のサイズ等については特に限定されず、支持基板のサイズに合わせて適宜設定することが可能である。例えば、図1で示した構造体10Aの具体的な実施例としては、第二の支持基板2(縦7mm×横7mm)に対し、シリコン半球レンズ5の直径を4mm、厚さ(高さ)を2mmとするものが挙げられる。
なお、図1に示したシリコン半球レンズ5は、構造体10A外に電磁波を発振させる際の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。シリコン半球レンズ5を設けること以外の例としては、例えば、第二の支持基板2(あるいは第一の支持基板1)の一面に半球面を備え、半球レンズと第二の支持基板2を同一材料で一体化した構造が挙げられる。これにより、部品点数が少なくなるという効果も奏する。
【0035】
本実施態様における構造体10Aは、図1に示すように、第一の支持基板1と第二の支持基板2の間に超伝導素子3が積層するように配置される。また、第一の支持基板1と第二の支持基板2には、電流を導入するための配線6が接続されている。これにより、第一の支持基板1、第二の支持基板2及び超伝導素子3が、超伝導素子3の厚さ方向に電気的に導通できるように構成される。
【0036】
以下、構造体10Aの各構成要素について説明する。
【0037】
本実施態様における第一の支持基板1及び第二の支持基板2は、それぞれの表面に超伝導素子3へ電流を導入するための配線6を備え、超伝導素子3を支持するものでもある。
本実施態様における第一の支持基板1及び第二の支持基板2は、材質や形状、サイズについては同一のものを用いるものとする。これにより、支持基板の入手や加工に係るコストを削減することが可能となる。
なお、第一の支持基板1と第二の支持基板2に配置された配線6は、金線や銅線などの線材や、真空蒸着やスパッタ等にて金属などの薄膜を堆積させることで形成したものなどが挙げられる。
【0038】
本実施態様における第一の支持基板1と第二の支持基板2は、超伝導素子3で発生する電磁波が効率よく支持基板内を透過することが求められる。そのため、第一の支持基板1と第二の支持基板2としては、電磁波を透過しやすい材質、かつ超伝導素子3と屈折率の差が大きくない材質を用いることが好ましい。より具体的には、第一の支持基板1と第二の支持基板2の屈折率は、超伝導素子3の屈折率との差分の絶対値が、超伝導素子3の屈折率の30%以内となるものとすることが好ましい。これにより、超伝導素子3と第一の支持基板1及び第二の支持基板2間の屈折率の差による電磁波の反射を抑え、超伝導素子3で発生した電磁波は効率よく反射機構4に導入される。
【0039】
また、本実施態様における第一の支持基板1と第二の支持基板2は、超伝導素子3を支持するとともに、超伝導素子3で発生した熱は支持基板を介して排熱することが求められる。そのため、第一の支持基板1と第二の支持基板2としては、超伝導素子3よりも熱伝導率が高い材料を用いることが好ましい。これにより、超伝導素子3の動作時のジュール熱を第一の支持基板1及び第二の支持基板2を介して効率的に排熱することが可能となり、超伝導素子3の安定した動作が可能となる。
【0040】
さらに、本実施態様における第一の支持基板1と第二の支持基板2は、超伝導素子3の厚さ方向に直流電流・電圧を印加するための導入部の役割を担う。そのため、第一の支持基板1と第二の支持基板2としては、高抵抗又は絶縁性を有する材料を用いることが好ましい。これにより、超伝導素子3に対し効率的に電流を流すことが可能となる。
【0041】
したがって、本実施態様における第一の支持基板1及び第二の支持基板2としては、超伝導素子3に対して屈折率の差があまり大きくなく、高抵抗の半導体もしくは絶縁性の基板であり、超伝導素子3より高い熱伝導率を有する材質を用いるものが特に好ましい。
例えば、超伝導素子3として、層状超伝導体BSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・銅酸化物)の単結晶であるBiSrCaCu8+δ(Bi2212)を例にとると、Bi2212のテラヘルツ帯での屈折率は4.2、室温での熱伝導率は1~5W/m・Kであることが知られている(以下、屈折率を「n」、室温での熱伝導率を「κ」とする)。したがって、このときの第一の支持基板1及び第二の支持基板2の材質の具体例としては、半絶縁性のガリウム-ヒ素基板(n=3.6、κ=55W/m・K)、サファイア基板(n=3、κ=27W/m・K)、ゲルマニウム基板(n=4、κ=640W/m・K)、高抵抗シリコン基板(n=3.4、κ=163W/m・K)、などが挙げられ、超伝導素子3と支持基板(第一の支持基板1及び第二の支持基板2)の屈折率の差分の絶対値が30%以内の材料が好適に用いられる。なお、屈折率差は大きくなるが、窒化アルミニウム基板(n=2.2、κ=150W/m・K)、ダイヤモンド基板(κ=2000W/m・K)などの熱伝導性の高い基板も用いることが可能である。
【0042】
本実施態様における第一の支持基板1及び第二の支持基板2の形状やサイズについては特に限定されず、超伝導素子3を支持し、超伝導素子3から発生する電磁波を十分に透過させることができるものであればよい。例えば、図1で示した構造体10Aの具体的な実施例としては、第一の支持基板1及び第二の支持基板2の平面部分を、縦7mm×横7mmの正方形とし、厚さを0.5mmとするものが挙げられる。なお、第一の支持基板1及び第二の支持基板2の平面部分の形状は正方形に限定されるものではなく、長方形や円形としてもよい。また、第一の支持基板1及び第二の支持基板2の厚さは、構造体10Aから電磁波を発振させる上で重要な要素となるが、この厚さを規定する手段は特に限定されない。例えば、第一の支持基板1及び第二の支持基板2の間に閉じ込める周波数の波長に応じて厚さを適宜設計することや、超伝導素子3から発生する電磁波の波長や強度に応じ、電磁波が透過可能な厚さを適宜選択することなどが挙げられる。
【0043】
本実施態様における超伝導素子3は、超伝導体の単結晶あるいは多結晶を用いた超伝導素子であり、台地形状や柱状形状を形成しているものを指す。超伝導素子3としては、特に、2つの超伝導体を弱く結合させることで発現するジョセフソン効果を利用したジョセフソン接合を有するもの(ジョセフソン素子と呼ばれることもある)が挙げられる。なお、このようなジョセフソン素子の構造の一例としては、2つの超伝導体が金属や絶縁体層で隔てられる構造や、2つの超伝導体の間に細いくびれや段差を形成する構造等が挙げられる。
【0044】
また、本実施態様における超伝導素子3の具体的な例としては、例えば、多重積層型ジョセフソン接合を有する層状超伝導体BSCCO(ビスマス・ストロンチウム・カルシウム・銅酸化物)の単結晶に含まれる固有ジョセフソン接合を用いたもの等が挙げられる。なお、BSCCO単結晶としては、交流ジョセフソン効果を生じることができるものであればよく、このような化学式の一例としては、BiSrCaCu8+δ(Bi2212)やBiSrCaCu10+δ(Bi2223)などが挙げられる。
【0045】
本実施態様における超伝導素子3の形状は、平板形状あるいは柱状形状であれば特に限定されない。例えば、超伝導素子3の上下底面の形状は、正方形や長方形などの他の多角形や円形などであってもよい。
【0046】
本実施態様における超伝導素子3は、直流電流・電圧が印加されることにより交流電流を発生する電流発生源として機能するものである。さらに超伝導素子3自体は、形状で決定される共振器やアンテナの機能も有することで、第一の支持基板1と第二の支持基板2へ電磁波を放出することが可能となる。
【0047】
図2は、本実施態様における構造体10Aの別の態様を示す概略説明図(平面図)である。また、図1で示した配線6及び外部電源7に関しては、図2における図示については省略している。
【0048】
図2に示すように、第一の支持基板1と第二の支持基板2において、支持する超伝導素子3に対して反対側の端部表面に金属薄膜を被覆し、反射機構4としてそれぞれ金属蒸着膜40A、40Bが設けられている。これにより、支持基板と反射機構4を一体化し、第一の支持基板1と第二の支持基板2の両端での電磁波を反射させることが可能になる。また、それぞれの支持基板(第一の支持基板1及び第二の支持基板2)と反射機構4を一体化することで、構造体10Aの小型化やコスト削減が容易になる。
また、支持基板と反射機構4を一体化する他の例としては、図2に示したシリコン半球レンズ5を用いる代わりに、第二の支持基板2(あるいは第一の支持基板1)に半球面を備えるものを用い、半球面ごと第二の支持基板2上に金属薄膜を被覆することが挙げられる。この場合、部品点数を少なくすることが可能となる。また、上述したように、半球面を備える支持基板(第一の支持基板1及び/又は第二の支持基板2)は電磁波を外部に発振する際のレンズが一体化された構造となるため、部品点数を少なくできるという効果がより一層発揮される。
【0049】
本実施態様における金属蒸着膜40A、40Bは、いわゆる反射板として機能するものである。このような金属蒸着膜40A、40Bとしては、電磁波の反射率が高い金属を用いることが好ましく、特にテラヘルツ帯の電磁波の反射率が高いものがより好ましい。このような金属としては、具体的には、金や銀などが挙げられる。
【0050】
また、本実施態様における反射機構4は、発生した電磁波の一部をシリコン半球レンズ5側に透過する必要がある。このため、第一の支持基板1側に設ける金属蒸着膜40Aと第二の支持基板2側に設けられる金属蒸着膜40Bは異なる透過率を有することが好ましい。ここで、透過率は反射率に置き換えるものとしてもよい。例えば、金属蒸着膜40Aの透過率をゼロ、あるいは反射率を略100%とし、金属蒸着膜40Bの透過率を数%、あるいは反射率を90%台とすることなどが挙げられる。
金属蒸着膜40A、40Bの透過率や反射率を異なるものとするための手段は、特に限定されない。例えば、第二の支持基板2に設けられる金属蒸着膜40Bの厚さを、第一の支持基板1に設けられる金属蒸着膜40Aの厚さに比べて薄くすることや、金属蒸着膜40A、40Bの材質を異なるものとすることなどが挙げられる。
なお、金属蒸着膜40A、40Bの透過率を膜の厚さで制御する手段は特に限定されない。例えば、スキンデプスを考慮して金属蒸着膜40A、40Bそれぞれの膜の厚さを設計することなどが挙げられる。
【0051】
(テラヘルツ帯域電磁波発振装置)
図1に示すように、本実施態様のテラヘルツ帯域電磁波発振装置20は、テラヘルツ帯域電磁波発振素子としての構造体10Aにおける配線6に対し、電流・電圧印加手段として外部電源7を設置することで、テラヘルツ帯域電磁波発振装置として動作する様にしたものである。また、本実施態様のテラヘルツ帯域電磁波発振装置20は、温度制御機構を備えることが好ましい(不図示)。
【0052】
外部電源7については、構造体(テラヘルツ帯域電磁波発振素子)10A内部の超伝導素子3に対して印加する電流及び電圧を制御できるものであればよく、具体的な構成については特に限定されない。外部電源7としては、例えば、プログラマブル電源(可変電源)を用いることなどが挙げられる。
また、温度制御機構については、超伝導素子3を構成する超伝導体を、超伝導転移温度Tc以下とし、電磁波発振に好適な温度範囲を制御・維持することができるものであればよく、具体的な構成については特に限定されない。温度制御機構としては、例えば、温度設定が可能な冷凍機などが挙げられる。
【0053】
外部電源7及び温度制御機構により、超伝導転移温度Tc以下の超伝導体(ジョセフソン素子)に所定の電圧を印加することで、構造体(テラヘルツ帯域電磁波発振素子)10Aを動作させる。これにより、テラヘルツ帯域電磁波発振装置20からテラヘルツ帯の電磁波を得ることが可能になる。また、本実施態様におけるテラヘルツ帯域電磁波発振装置20は、構造体(テラヘルツ帯域電磁波発振素子)10Aが交流ジョセフソン効果を利用して複数のジョセフソン接合が協調して動作する構成として、BSCCO単結晶の高温超伝導体の固有ジョセフソン接合を用いているため、外部電源7から印加する電流及び電圧を制御することで、発振する周波数を変化させることも可能となる。
【0054】
また、本実施態様のテラヘルツ帯域電磁波発振装置20として、構造体10Aを保持・収納が可能な支持体を設けるものとしてもよい。これにより、構造体10Aからの電磁波放射を安定して行うことが可能となる。
このとき、支持体には構造体10Aからの電磁波の出射及び構造体10Aへの電磁波の入射が可能な電磁波透過口を設けることが好ましい。さらに、電磁波透過口に電磁波の出射あるいは入射効率を高める構造を設けるものとしてもよい。このような構造としては、例えば、図1に示すように、構造体10Aに設けたシリコン半球レンズ5を利用することや、シリコン半球レンズ5以外の形状、素材からなる集光レンズを設けることなどが挙げられる。これにより、テラヘルツ帯域電磁波発振装置20から発振する電磁波の出射効率あるいはテラヘルツ帯域電磁波発振装置20への電磁波の入射効率を向上させることが可能となる。また、テラヘルツ帯域電磁波発振装置20は、テラヘルツ帯域電磁波の発振器だけではなく、テラヘルツ帯域電磁波の検出器として好適に利用することも可能である。
【0055】
以上のように、本実施態様の構造体10Aをテラヘルツ帯域電磁波発振素子として用い、高周波数かつ高強度の電磁波発振が可能なテラヘルツ帯域電磁波発振装置20を作製することが可能となる。
【0056】
[第2の実施態様]
図3は、本発明の第2の実施態様における構造体を示す概略説明図(平面図)である。
【0057】
図3に示すように、本実施態様における構造体10Bは、第1の実施態様の構造体10Aにおいて、反射機構4として第一の支持基板1と第二の支持基板2の外側に反射板41A、41Bを設けたものである。
なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。また、第1の実施態様における配線6及び外部電源7に関しては、図3における図示については省略している。
【0058】
本実施態様における構造体10Bは、第一の支持基板1及び第二の支持基板2の外側に、反射機構4として電磁波を反射する構造物を設けるものであり、図3に示すように、第一の支持基板1と第二の支持基板2とは別体として反射板41A、41Bを設けるものである。これにより、反射機構4と超伝導素子3の距離を調整することが容易になるため、構造体10B内部に閉じ込める電磁波の波長を調整することが可能となる。
【0059】
本実施態様における反射板41A、41Bは、電磁波の反射率が高い金属を用いることが好ましく、特にテラヘルツ帯の電磁波の反射率が高いものがより好ましい。このような金属としては、具体的には、金や銀などが挙げられる。また、反射板41A、41Bは、表面で電磁波の反射が生じるものであればよく、例えば、金や銀などからなる金属構造物のほか、金や銀などを表面に被覆した非金属構造物であってもよい。
【0060】
本実施態様における反射板41A、41Bの形状は、図3に示すように、平板とすることで、加工が容易となるという利点を有するが、これに限定されるものではない。反射板41A、41Bの他の形状の例としては、例えば、集光作用を示す形状として凹面を有する構造などが挙げられる。なお、凹面を有する構造としては、反射板41A、41Bのいずれか片方のみを凹面とすることや、両方を凹面とすることが挙げられる。
【0061】
本実施態様における反射板41A、41Bは、超伝導素子3との距離を調整するための距離調整機能を備えることが好ましい。より具体的には、例えば、図3におけるZ方向の位置を調整する機能を備えていることが好ましい。そのための距離調整機構の一例としては、可動式ステージ、マイクロメーターなどが挙げられる。
【0062】
本実施態様における反射機構4は、上述した第1の実施態様と同様に、発生した電磁波の一部をシリコン半球レンズ5側に透過する必要がある。このため、第一の支持基板1側に設ける反射板41Aと第二の支持基板2側に設けられる反射板41Bは、異なる透過率あるいは反射率を有することが好ましい。より具体的には、第二の支持基板2側に設けられる反射板41Bの厚さを、第一の支持基板1側に設けられる反射板41Aの厚さに比べて薄くすることや、反射板41A、41Bの材質を異なるものとすることなどが挙げられる。
【0063】
本実施態様における構造体10Bでは、反射機構4が超伝導素子3からの距離を調整可能な距離調整機構を備えることで、超伝導素子3と反射機構4により形成される電磁波の定在波の位置関係を調整することが可能となる。これにより、超伝導素子3に対する電磁波のフィードバック量を調整することが可能となる。この結果、超伝導素子3で発生する電磁波の位相同期に係る環境を最適化し、構造体10Bから発振する電磁波の放射強度を向上させることが可能となる。
【0064】
[第3の実施態様]
図4は、本発明の第3の実施態様における構造体を示す概略説明図(平面図)である。
【0065】
図4に示すように、本実施態様における構造体10Cは、第1の実施態様の構造体10Aにおける第一の支持基板1と、第二の支持基板2と、超伝導素子3とをユニット8として、そのユニット8を第一の支持基板1と、第二の支持基板2と、超伝導素子3の中心を通る軸方向に積層したものである。ここで、本実施態様におけるユニット8の積層方向は、図4におけるZ方向に相当する。以下、ユニット8の積層方向をZ方向と呼ぶ。
また、本実施態様における構造体10Cでは、反射機構4は、積層したユニット8の両端部に設けるものとする。
なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。また、第1の実施態様における配線6及び外部電源7に関しては、図4における図示については省略している。
【0066】
本実施態様における構造体10Cは、第一の支持基板1と第二の支持基板2と超伝導素子3で構成されたユニット8をZ方向に積層することで、超伝導素子3の3次元アレイ構造を形成するものである。これにより、超伝導素子3から発生する電磁波の出力を互いに高め合う同期現象が生じ、超伝導素子3全体としての電磁波の発振出力の向上が可能となる。
また、ユニット8を形成することで、構造体10Cの形成が容易になる。
【0067】
図4では、反射機構4として金属蒸着膜40A、40Bを設けるものを示しているが、これに限定されない。反射機構4としては、超伝導素子3から発生する電磁波を反射するものであればよく、上述した反射板41A、41Bを用いるものとしてもよい。
【0068】
また、図4では、ユニット8を3つ積層したものを示しているが、これに限定されない。本実施態様におけるユニット8の積層数、すなわちZ方向の厚さを調整することで、構造体10Cに閉じ込められた電磁波の定在波と超伝導素子3の位置関係を調整し、超伝導素子3に対する電磁波のフィードバック量を調整することが可能となる。この結果、超伝導素子3で発生する電磁波の位相同期に係る環境を最適化し、構造体10Cから発振する電磁波の放射強度を向上させることが可能となる。
【0069】
[第4の実施態様]
図5は、本発明の第4の実施態様における構造体を示す概略説明図(平面図)である。
【0070】
図5に示すように、本実施態様における構造体10Dは、第1の実施態様の構造体10Aにおける第一の支持基板1と第二の支持基板2に代えて、それぞれの厚さを異なるものとした第一の支持基板1´と、第二の支持基板2´を設けるものである。また、第一の支持基板1´と、第二の支持基板2´と、超伝導素子3を、それぞれの中心を通る軸方向に積層するものである。ここで、本実施態様における支持基板1´、2´及び超伝導素子3の積層方向は、図5におけるZ方向に相当する。以下、支持基板1´、2´及び超伝導素子3の積層方向をZ方向と呼ぶ。
また、本実施態様における構造体10Dでは、反射機構4は、支持基板1´、2´のZ方向両端部に設けるものとする。
なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。また、第1の実施態様における配線6及び外部電源7に関しては、図5における図示については省略している。
【0071】
本実施態様における構造体10Dは、第一の支持基板1´と第二の支持基板2´と超伝導素子3をZ方向に積層することで、超伝導素子3の3次元アレイ構造を形成するものである。これにより、超伝導素子3から発生する電磁波の出力を互いに高め合う同期現象が生じ、超伝導素子3全体としての電磁波の発振出力の向上が可能となる。また、同期現象が生じることで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0072】
図5では、反射機構4として金属蒸着膜40A、40Bを設けるものを示しているが、これに限定されない。反射機構4としては、超伝導素子3から発生する電磁波を反射するものであればよく、上述した反射板41A、41Bを用いるものとしてもよい。
【0073】
本実施態様における第一の支持基板1´及び第二の支持基板2´は、図5において、第一の支持基板1´の厚さをZ1、第二の支持基板2´の厚さをZ2としたときに、Z2>Z1が成り立つものとしているが、これに限定されず、Z1>Z2が成り立つものであってもよい。
【0074】
本実施態様の構造体10Dでは、第一の支持基板1及び第二の支持基板2を異なる厚さとすることで、少ない部品点数でZ方向の厚さを調整することが容易となる。そして、Z方向の厚さを調整することで、構造体10Dに閉じ込められた電磁波の定在波と超伝導素子3の位置関係を調整し、超伝導素子3に対する電磁波のフィードバック量を調整することが可能となる。この結果、超伝導素子3で発生する電磁波の位相同期に係る環境を最適化し、構造体10Dから発振する電磁波の放射強度を向上させることが可能となる。また、電磁波の位相同期に係る環境が最適化されることで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0075】
図5では、図の左側から順に、金属蒸着膜40Aが設けられた第一の支持基板1、超伝導素子3、第二の支持基板2、超伝導素子3、第二の支持基板2、超伝導素子3、金属蒸着膜40Bが設けられた第一の支持基板1となるように積層したものを示しているが、これに限定されない。
【0076】
図6は、本実施態様における構造体10Dの別の態様を示す概略説明図(平面図)である。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。また、第1の実施態様における配線6及び外部電源7に関しては、図6における図示については省略している。
【0077】
図6では、構造体10DのZ方向の厚さを調整するために、第一の支持基板1´及び第二の支持基板2´とは異なる厚さを有する第三の支持基板9を設けている。これにより、Z方向の厚さを微調整することが可能となる。
ここで、反射機構4は、構造体10DのZ方向に積層した支持基板の両端部に設けるものとする。例えば、図6においては、第一の支持基板1が構造体10DのZ方向における左端となるため、第一の支持基板1に金属蒸着膜40Aを設け、一方、第三の支持基板9が構造体10DのZ方向における右端となるため、第三の支持基板9に金属蒸着膜40Bを設けたものを示している。これにより、構造体10DのZ方向において、超伝導素子3から発生する電磁波を反射させることができる。
【0078】
本実施態様における第三の支持基板9は、第一の支持基板1と第二の支持基板2と同じ材質を用いる。
また、本実施態様における第三の支持基板9の厚さZ3は、Z3=Z2-Z1(Z2>Z1)で決定する。
【0079】
本実施態様における構造体10Dは、支持基板として異なる厚さのものを複数種類用いることで、構造体10DのZ方向の厚さを簡便に微調整することが可能となる。これにより、超伝導素子3で発生する電磁波の位相同期に係る環境を最適化し、構造体10Dから発振する電磁波の放射強度を向上させることが可能となる。また、電磁波の位相同期に係る環境が最適化されることで、線幅を狭くできるという効果も奏する。
【0080】
[第5の実施態様]
図7は、本発明の第5の実施態様における構造体を示す概略説明図(平面図)である。
【0081】
図7に示すように、本実施態様における構造体10Eは、第1の実施態様の構造体10Aにおいて、超伝導素子3を支持基板平面(図7におけるXY面)上に複数個設け、アレイを形成させ、さらにその超伝導素子のアレイを、第一の支持基板1と、第二の支持基板2と、超伝導素子3それぞれの中心を通る軸方向(図7におけるZ方向)に積層したものである。
なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。また、第1の実施態様における配線6及び外部電源7に関しては、図7における図示については省略している。
【0082】
本実施態様における構造体10Eは、超伝導素子3を第一の支持基板1と第二の支持基板2の間のXY平面上に複数個並べアレイを形成することで、電磁波放射の高強度化を可能とするものである。また、本実施態様における構造体10Eは、さらにZ方向にアレイを積層することで、電磁波放射の高強度化及び発振線幅の狭帯域化を可能とするものである。すなわち、本実施態様における構造体10Eは、上述した第3の実施態様における構造体10C及び第4の実施態様における構造体10Dと同様に、超伝導素子3を積層化することによる各種効果を発揮することができる。
【0083】
図7では、反射機構4として金属蒸着膜40A、40Bを設けるものを示しているが、これに限定されない。反射機構4としては、超伝導素子3から発生する電磁波を反射するものであればよく、上述した反射板41A、41Bを用いるものとしてもよい。
【0084】
以上のように、本実施態様における構造体10Eは、超伝導素子3を2次元アレイ化及び3次元アレイ化することで電磁波放射の高強度化及び発振線幅の狭帯域化が可能となるものである。
なお、本実施態様における構造体10Eの構成は、第2の実施態様における構造体10B、第3の実施態様における構造体10C、第4の実施態様における構造体10Dに適用するものとしてもよい。これにより、第2~第4の実施態様における構造体10B~10Dの電磁波放射の高強度化及び発振線幅の狭帯域化が可能となる。
【0085】
なお、上述した実施態様は、構造体、テラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置の一例を示すものである。本発明に係る構造体、テラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る構造体、テラヘルツ帯域電磁波発振素子及びテラヘルツ帯域電磁波発振装置を変形してもよい。
【0086】
例えば、本実施態様の構造体に設ける反射機構としては、第1の実施態様及び第2の実施態様に示したものを組み合わせるものとしてもよい。より具体的には、第一の支持基板の外側に反射板を設け、第二の支持基板の右端面は金属蒸着膜を設けるものが挙げられる。これにより、第二の支持基板側は反射機構と支持基板が一体化し、第一の支持基板側では反射機構の位置を容易に調整することが可能となる。この結果、構造体の形成を容易にするとともに、超伝導素子に対する電磁波のフィードバック量を容易に調整することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の構造体及びテラヘルツ帯域電磁波発振素子は、高周波数(テラヘルツ帯域)かつ高強度の電磁波発振が可能な電磁波発振素子として好適に利用することができる。
また、本発明のテラヘルツ帯域電磁波発振装置は、テラヘルツ帯の電磁波を利用した分光器や非破壊イメージング装置のほか、テラヘルツ波の検出器などに適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
10A,10B,10C,10D,10E 構造体、20 テラヘルツ帯域電磁波発振装置、1,1´ 第一の支持基板、2,2´ 第二の支持基板、3 超伝導素子、4 反射機構、40A,40B 金属蒸着膜、41A,41B 反射板、5 シリコン半球レンズ、6 配線、7 外部電源 、8 ユニット、9 第三の支持基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7