(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033628
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】植物微生物燃料電池及び植物微生物燃料電池キット
(51)【国際特許分類】
H01M 8/16 20060101AFI20220222BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20220222BHJP
H01M 8/24 20160101ALI20220222BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20220222BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20220222BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220222BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20220222BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20220222BHJP
A01G 9/02 20180101ALI20220222BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/02
H01M8/24
H01M8/0202
H01M4/96 M
H01M4/86 M
H01M8/04 Z
A01G7/00 605A
A01G9/02 101W
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137626
(22)【出願日】2020-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】モハメド アジズル モクスド
【テーマコード(参考)】
2B327
5H018
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
2B327ND01
2B327VA20
5H018DD05
5H018DD06
5H018EE05
5H126AA02
5H126AA14
5H126AA22
5H127AA00
5H127BA06
5H127BB02
(57)【要約】
【課題】本発明は、アノード電極の回収が容易な植物微生物燃料電池、及び前記植物微生物燃料電池を作製できるキットを提供することを課題とする。
【解決手段】植物を利用した微生物燃料電池であって、微生物を含む植栽部、前記植栽部中に設置されたアノード電極、及びカソード電極を備え、前記微生物は、有機物を分解して水素イオンと電子を放出する微生物であり、前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、前記植栽部に植物が植えられている植物微生物燃料電池。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を利用した微生物燃料電池であって、
微生物を含む植栽部、前記植栽部中に設置されたアノード電極、及びカソード電極を備え、
前記微生物は、有機物を分解して水素イオンと電子を放出する微生物であり、
前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、
前記植栽部に植物が植えられている
植物微生物燃料電池。
【請求項2】
カソード電極が複数に分割され、
アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部が直列又は並列に接続されている請求項1記載の植物微生物燃料電池。
【請求項3】
植物微生物燃料電池を作製するためのキットであって、
アノード電極、カソード電極及び前記アノード電極とカソード電極を接続する部品を備え、
前記アノード電極が複数に分割された炭素電極である
植物微生物燃料電池キット。
【請求項4】
植物微生物燃料電池のアノードのために使用する電極であって、
複数の分割された炭素電極が電気的に接続されている植物微生物燃料電池用アノード電極。
【請求項5】
アノード電極を、微生物を含む植栽部中に設置し、
カソード電極を、前記植栽部と少なくとも接する位置に設置して、
前記植栽部に植えられた植物の根から排出される有機物を前記微生物に分解させ、
前記微生物が放出する電子を前記アノード電極からカソード電極に外部回路を通じて移動させて発電する方法であって、
前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、
前記アノード電極、前記カソード電極、前記微生物、前記植栽部及び前記植物で構成される植物微生物燃料電池を直列に接続して発電する、又は
前記カソード電極は複数に分割され、
前記アノード電極における分割された電極と前記カソード電極における分割された電極の一対からなる電池部を直列に接続して発電する
発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を利用した微生物燃料電池である植物微生物燃料電池、植物微生物燃料電池を作製するための植物微生物燃料電池キット、植物微生物燃料電池用アノード電極及び植物と微生物を利用した発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物を利用した発電が検討されている。これは、ある種の微生物が有機物を分解する際に、水素イオンと電子を放出することを利用したものであり、この性質を利用した電池は微生物燃料電池(MFC:Microbial Fuel Cell)と呼ばれている。微生物燃料電池では、アノードにおいて、有機物の分解により電子、水素イオン及び二酸化炭素が発生し、発生した電子は外部回路を通ってアノードからカソードに移動し、カソードにおいて、酸素、水素イオン及び電子から水が生成される。こうして回路が成立し、電気が流れる。この微生物燃料電池の1つの形態として、植物を利用した微生物燃料電池である植物微生物燃料電池が検討されている。これは、微生物が分解する有機物の供給源として植物を利用するものである。植物は光合成を行うことにより炭水化物を生成することができ、過剰な量の炭水化物は根域近くの土壌に排出される。植物微生物燃料電池とは、植物から排出された炭水化物を微生物が分解して発電を行う微生物燃料電池であり、いくつかの提案がなされている(特許文献1~3)。
【0003】
しかしながら、植物を利用するにあたり、いずれも従来の微生物燃料電池の構造をそのまま使用したものであり、植物の使用に適したものではなかった。特許文献1~3では、アノード電極としてカーボンフェルトやメッシュ状の材料が使用されているため、植物の根がアノード電極に絡みつく。そのため、アノード電極を再利用しようとしても、植物の根がアノード電極に絡みつき、アノード電極を使用できる状態で取り外すことは困難であった。また、植物微生物燃料電池は農地で使用することが可能であると共に、植物を利用して身近で発電ができるため、家庭で住居内や庭等のエクステリアで楽しみながら発電したり、発電の仕組みを学ぶ教材として学校等で使用したりすることも検討されているが、家庭や学習教材等で簡易に植物微生物燃料電池を作製できるキットは開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-54048号公報
【特許文献2】特開2018-181581号公報
【特許文献3】特開2020-5577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、アノード電極の回収が容易な植物微生物燃料電池、前記植物微生物燃料電池を作製できるキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アノード電極を根の絡みつきから容易に回収できる植物微生物燃料電池の検討を開始した。検討を進める中で、アノード電極を分割することで回収が容易になることを見いだし、さらに分割することにより表面積が増えても炭素電極であれば錆等による劣化が少なく電池特性を維持できることを見いだした。本発明は、こうして完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)植物を利用した微生物燃料電池であって、微生物を含む植栽部、前記植栽部中に設置されたアノード電極、及びカソード電極を備え、前記微生物は、有機物を分解して水素イオンと電子を放出する微生物であり、前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、前記植栽部に植物が植えられている植物微生物燃料電池。
(2)カソード電極が複数に分割され、アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部が直列又は並列に接続されている上記(1)記載の植物微生物燃料電池。
(3)植物微生物燃料電池を作製するためのキットであって、アノード電極、カソード電極及び前記アノード電極とカソード電極を接続する部品を備え、前記アノード電極が複数に分割された炭素電極である植物微生物燃料電池キット。
(4)植物微生物燃料電池のアノードのために使用する電極であって、複数の分割された炭素電極が電気的に接続されている植物微生物燃料電池用アノード電極。
(5)アノード電極を、微生物を含む植栽部中に設置し、カソード電極を、前記植栽部と少なくとも接する位置に設置して、前記植栽部に植えられた植物の根から排出される有機物を前記微生物に分解させ、前記微生物が放出する電子を前記アノード電極からカソード電極に外部回路を通じて移動させて発電する方法であって、前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、前記アノード電極、前記カソード電極、前記微生物、前記植栽部及び前記植物で構成される植物微生物燃料電池を直列に接続して発電する、又は前記カソード電極は複数に分割され、前記アノード電極における分割された電極と前記カソード電極における分割された電極の一対からなる電池部を直列に接続して発電する発電方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の植物微生物燃料電池は、植物の根の絡みつきからアノード電極を容易に取り外し回収できる。本発明の植物微生物燃料電池キットは前記植物微生物燃料電池を作製することができる。本発明の植物微生物燃料電池用アノード電極は、植物の根の絡みつきからの取り外し回収が容易である。本発明の発電方法は、植物と微生物を利用して発電することができ、アノード電極の回収が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の植物微生物燃料電池における各箇所での反応を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の植物微生物燃料電池の一実施形態を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の植物微生物燃料電池の一実施形態を示す図である。
【
図4】
図4は、アノード電極とカソード電極を直列接続した本発明の植物微生物燃料電池の一実施形態を示す図である。
【
図5】
図5は、アノード電極とカソード電極を直列接続した本発明の植物微生物燃料電池の一実施形態を示す図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す植物微生物燃料電池における電子の流れ及び得られる電圧を示す図である。
【
図7】
図7は、アノード電極とカソード電極を並列接続した本発明の一実施形態を示す図である。
【
図8】
図8は、アノード電極とカソード電極を並列接続した本発明の一実施形態を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例で使用したアノード電極の写真である。
【
図10】
図10は、実施例で使用したカソード電極の写真である。
【
図15】
図15は、実施例1と実施例3の測定結果を示す図である。
【
図16】
図16は、サトイモを用いて、抵抗値を変えながら発生電圧を測定した結果を示す図である。
【
図17】
図17は、稲の根がカーボンフェルトに絡んだ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の植物微生物燃料電池は、植物を利用した微生物燃料電池であって、微生物を含む植栽部、前記植栽部中に設置されたアノード電極、及びカソード電極を備え、前記微生物は、有機物を分解して水素イオンと電子を放出する微生物であり、前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、前記植栽部に植物が植えられている。本発明において、植物微生物燃料電池とは、微生物が分解する有機物の供給源として植物を利用する微生物燃料電池のことをいう。本発明における微生物としては、有機物を分解して水素イオンと電子を放出する微生物であれば特に限定されるものではないが、例えば、シュワネラ(Shewanella)菌、ゲオバクター(Geobacter)菌等を挙げることができる。本発明における植栽部とは、植物を植える部分をいう。前記植栽部は、植物を植えることができれば特に限定されるものではないが、例えば、土、人工土、樹脂シート、ロックウール、脱脂綿、溶液栽培のための溶液等から構成することができる。本発明において植えるとは、土、人工土等に植物の根を埋めることのみでなく、樹脂シート、ロックウール、脱脂綿等に植物の根を固定すること、溶液栽培のための溶液中に植物の根を浸すこと等を含む。
【0011】
本発明におけるアノード電極は、植栽部中に設置される。さらに、本発明におけるアノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割されている。本発明において、炭素電極とは炭素を主成分とする電極のことをいう。ここで主成分とは、電極全体の質量に対して50質量%以上含まれている成分をいい、炭素を主成分とする電極であれば特に限定されない。本発明における炭素電極は、電極全体の質量に対する炭素の含有量が70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。また、本発明における炭素電極の炭素の結晶構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、グラファイト構造、ダイヤモンド構造、無定形(非晶質)構造等を挙げることができる。本発明においては、アノード電極を構成する炭素電極は1つではなく複数に分割されている、すなわちアノード電極を構成する炭素電極は1つではなく分離された複数の炭素電極からなる。
【0012】
本発明の植物微生物燃料電池では、植栽部に植えられた植物の根から光合成により生成された有機物(炭水化物)が植栽部中に排出される。この有機物を植栽部に含まれる微生物が分解して電子と水素イオンを放出する。植栽部中にはアノード電極が設置されているので、微生物が放出した電子はアノード電極に収集され、外部回路を通じてカソード電極への電子の移動がおこる。カソード電極では、酸素と微生物が放出した水素イオンにカソード電極から電子が供給され水が生成する。こうして電気の流れる回路が成立し発電が行われる。本発明では、植栽部中に設置されるアノード電極が複数に分割された炭素電極であるので、アノード電極に植物の根が絡みついても容易に電極を根からとりはずすことができる。さらに、炭素電極は錆が発生しないので、時間が経過しても電子を集める導電性が低下しない。本発明における炭素電極としては、例えば、竹炭、木炭、カーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンファイバー等を挙げることができる。従来、カーボンフェルトは植物の根が絡みつくため回収することが難しかったが、本発明においては、小片に分割して使用するため回収しやすくできる。カーボンファイバーも同様に根が絡みつくため回収することが難しかったが、例えば短く切断してカーボンクロスに包む(縫合する)ことにより使用できる。竹炭は、多孔質であり表面積が大きいため電子が移動しやすく、微生物の増殖にも好適であるため好ましい。分割された炭素電極は、炭素電極同士が電気的に接続するようにして使用することができ、例えば、炭素電極同士を接触させて結束する、炭素電極同士を導電性部材でつなぐ等の使用方法を挙げることができる。電極を回収するときは、結束や導電性部材の接続を解くことにより電極が分割された小片に分かれるため、絡みついた根から電極を容易に取り外すことができる。そのため、植物の廃棄の際に電極と分離して植物を廃棄することができ、また電極を再利用可能な状態で回収することができる。また、後述するように分割された炭素電極のそれぞれとカソード電極を導線でつないで使用することもできる。植栽部中におけるアノード電極の設置位置は、微生物が放出する電子を収集できる位置であれば特に限定されず、例えば、植物の根の下部に設置してもよく、根の側部に設置してもよい。微生物及び有機物と接触する位置が好ましい。本発明の植物微生物燃料電池における植物としては、特に限定されるものではないが、例えば、稲、トウモロコシ、サトイモ、タロイモ、サツマイモ、ジャガイモ、ナス、カヤツリグサ、モンステラ、ヨシ、フクド等を挙げることができる。本発明の植物微生物燃料電池は、水中のような嫌気性下だけでなく酸素のある雰囲気でも発電が可能であるので、稲(水稲)のような水性植物だけでなく、サトイモのような非水性植物にも使用することができる。また、本発明における植栽部には、導電性を向上させるために酸化第二鉄を加えてもよい。
【0013】
本発明におけるカソード電極としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、炭素、各種金属等を挙げることができる。カソード電極では、酸素を使用した反応を生じさせる必要がある。そのため、カソード電極の設置位置は、酸素と触れられる位置であれば特に限定されるものではないが、カソード電極の少なくとも一部が植栽部の表面付近にあることが好ましい。また、カソード電極は分割されていてもよい。カソード電極が分割されている場合、アノード電極の場合と同様に、分割された電極同士が電気的に接続するようにして使用することができ、例えば、電極同士を接触させて結束する、電極同士を導電性部材でつなぐ等の使用方法を挙げることができる。本発明の植物微生物燃料電池の一実施形態は、カソード電極が複数に分割され、アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部が直列又は並列に接続されている。アノード電極とカソード電極を共に分割すると、分割されたアノード電極とカソード電極の一対からなる電池部が複数できる。これらの電池部を直列又は並列に接続し、接続された端部を外部回路でつなぐことにより、アノード電極とカソード電極で形成される電池の内部があたかも複数の電池が直列又は並列に接続されているようになるため、直列の場合は、得られる電気の出力を大きくでき、並列の場合は、安定した出力を得ることができる。直列接続は、例えば、1つの電池部のアノード電極と他の電池部のカソード電極とを導線でつなぐことを繰り返し、端部の他の電池部の電極と接続されていないカソード電極とアノード電極を外部回路でつなぐことにより接続することができる。並列接続は、例えば、1つの電池部と他の電池部のアノード電極同士とカソード電極同士を導線でつなぐことを繰り返し、端部の電池部のカソード電極とアノード電極を外部回路でつなぐことにより接続することができる。本発明の植物微生物燃料電池は、直列又は並列に接続して使用することができ、上記のとおり電池内の電極を直列又は並列に接続して使用することもできる。
【0014】
本発明の植物微生物燃料電池キットは、植物微生物燃料電池を作製するためのキットであって、アノード電極、カソード電極及び前記アノード電極とカソード電極を接続する部品を備え、前記アノード電極が複数に分割された炭素電極である。本発明の植物微生物燃料電池キットにおけるアノード電極及びカソード電極は、本発明の植物微生物燃料電池と同じものを使用することができる。本発明の植物微生物燃料電池キットの使用者は、バケツやプランター等の容器に土を入れ、土の中にキット中のアノード電極を設置する。そして、土に植物を植え、土の表面にキット中のカソード電極を設置する。アノード電極とカソード電極をキット中の接続部品で接続すれば、発電が行える。また、植物が枯れた後、あるいは他の植物で発電を試みる場合などは、アノード電極が複数に分割されているため、絡みついた根から電極を容易に取り外して回収でき、再利用が可能となる。バケツやプランター等の容器を使用せずに庭に直接アノード電極とカソード電極を設置して植物を植えてもよい。アノード電極とカソード電極を接続する部品としては、導電性があり植物微生物燃料電池の外部回路を形成できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、導線と抵抗の組合せを挙げることができる。発電したことが分かるように、導線中に取り付けるLED等の発光部品、センサー等をキット中に含んでもよく、電流計をキット中に含んでもよい。また、本発明のキットは、使用者が手間をかけることなく、しかも効果的に発電できるように、有機物を分解して水素イオンと電子を放出する微生物を備えてもよく、前記微生物を含んだ土を備えてもよい。また、通常の土のかわりに、人工土、樹脂シート、ロックウール、脱脂綿、溶液栽培のための溶液等を備えてもよい。さらに、アノード電極とカソード電極を設置し植物を植えるための容器を備えてもよい。
【0015】
本発明のキットでは、カソード電極が複数に分割されていてもよい。これにより、本発明の植物微生物燃料電池で述べたとおり、アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部を直列又は並列に接続することができ、直列の場合は大きな出力が、並列の場合は安定した出力が得られる。直列又は並列に接続する場合、1つの容器内にアノード電極を設置して複数の電池部を形成してもよい。また、本発明のキットを用いて別々の容器で作成した複数の植物微生物燃料電池を直列又は並列に接続してもよい。本発明のキットは、前記電池部や植物微生物燃料電池の電極間を接続する導線等の導電性部材を備えてもよい。直列に接続すると発生電圧が上昇するので、キットを使用する楽しみが増加する。本発明の植物微生物燃料電池キットを使用すれば、家庭であるいは個人で簡易に本発明の植物微生物燃料電池を作製でき、植物を栽培しながら24時間発電したり、室内やエクステリアでLEDを発光させたり、温度計等のセンサーの電源としての利用も可能となる。
【0016】
本発明の発電方法は、アノード電極を、微生物を含む植栽部中に設置し、カソード電極を、前記植栽部と少なくとも接する位置に設置して、前記植栽部に植えられた植物の根から排出される有機物を前記微生物に分解させ、前記微生物が放出する電子を前記アノード電極からカソード電極に外部回路を通じて移動させて発電する方法であって、前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、前記アノード電極、前記カソード電極、前記微生物、前記植栽部及び前記植物で構成される植物微生物燃料電池を直列に接続して発電する方法である。この場合、直列に接続するには、接続する植物微生物燃料電池の一方のアノード電極と他方のカソード電極を、導線等の導電性部材により電気的に接続すればよい。また、本発明の発電方法は、アノード電極を、微生物を含む植栽部中に設置し、カソード電極を、前記植栽部と少なくとも接する位置に設置して、前記植栽部に植えられた植物の根から排出される有機物を前記微生物に分解させ、前記微生物が放出する電子を前記アノード電極からカソード電極に外部回路を通じて移動させて発電する方法であって、前記アノード電極は炭素電極であり、前記炭素電極は複数に分割され、さらに前記カソード電極が複数に分割され、前記アノード電極における分割された電極と前記カソード電極における分割された電極の一対からなる電池部を直列に接続して発電する方法である。ここで、植栽部と少なくとも接する位置に設置するとは、カソード電極の少なくとも一部が植栽部と接する位置にカソード電極を設置する場合、及びカソード電極の少なくとも一部が植栽部中となる位置に設置する場合を含む。本発明の発電方法は、本発明の植物微生物燃料電池で述べたものと同様の構成要素を用いて、同様の仕組みで発電を行うことができる。したがって、簡易に発電を行うことができ、直列接続を行うことにより、より大きな出力を得ることができる。さらに、アノード電極を容易に回収できる。
【0017】
本発明の実施形態を図により説明する。
図1は、本発明の植物微生物燃料電池における各箇所での反応を示す図である(アノード電極の分割状態は省略してある)。植物微生物燃料電池1では、植物15において光合成により12H
2O+6CO
2→C
6H
12O
6+6CO
2+6H
2Oの反応が進行する。植栽部11中では、植物15の根から排出された有機物を微生物14が分解することによりC
6H
12O
6+6H
2O→6CO
2+24e
-+24H
+の反応が進行する。放出されたe
-はアノード電極12に収集され、抵抗を取り付けた外部回路16を通じてアノード電極12からカソード電極13へのe
-の流れが生じ、カソード電極13付近では6O
2+24e
-+24H
+→12H
2Oの反応が生じる。
図2は、
図1に示す植物微生物燃料電池(アノード電極の分割状態は省略)においてアノード電極とカソード電極の距離を示した図である。
図3は、本発明の植物微生物燃料電池の一実施形態を示した図であり、アノード電極を構成する炭素電極が複数に分割された一例を示した図である。
図3に示す植物微生物燃料電池2では、3つに分割された炭素電極がアノード電極22を構成し、分割された炭素電極同士は電気的に接続されている。お互いが電気的に接続された炭素電極とカソード電極23は抵抗等の電気的負荷を取り付けた導線(外部回路26)で接続されている。植物25、植栽部21、アノード電極22及びカソード電極23で生じる反応は
図1の場合と同様である。
【0018】
図4は、カソード電極が複数に分割され、アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部が直列に接続された一実施形態を示す図である。
図4に示す植物微生物燃料電池3では、3つに分割された炭素電極32-1、32-2及び32-3がアノード電極32を構成している。さらにカソード電極33が、33-1、33-2及び33-3の3つに分割されている。植物微生物燃料電池3では、アノード電極32における分割された電極とカソード電極33における分割された電極の一対からなる3つの電池部が形成されている。すなわち、電極32-1と電極33-1からなる左側の楕円の電池部、電極32-2と電極33-2からなる中央の楕円の電池部及び電極32-3と電極33-3からなる右側の楕円の電池部が形成されている。さらに各電池部は、アノード電極である32-1とカソード電極である33-2、アノード電極である32-2とカソード電極である33-3が抵抗等の負荷を取り付けない導線37で接続されることにより、直列に接続されている。そして、アノード電極である32-3とカソード電極である33-1とが抵抗等の電気的負荷を取り付けた外部回路36で接続されている。このような構造とすることにより、アノード電極32とカソード電極33とで構成される電池の内部が、あたかも複数の電池を直列に接続した状態となるため、得られる電気の出力を大きくできる。また、分割された各電極は、分割された電極同士が電気的に接続されたものでもよい。
図5は、カソード電極が複数に分割され、アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部が直列に接続された他の一実施形態を示す図である。
図5に示す植物微生物燃料電池4は、アノード電極42、カソード電極43、負荷を取り付けない導線47及び負荷を取り付けた外部回路46の構造は植物微生物燃料電池3と同じであるが、3つの電池部の箇所それぞれに植物45が植えられている。
図6は、
図5の植物微生物燃料電池4における電子の流れと得られる電圧を示した図である。各電池部を直列に接続すると、各電池部における電圧を足した電圧が得られる。
【0019】
図7は、カソード電極が複数に分割され、アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部が並列に接続された一実施形態を示す図である。
図7に示す植物微生物燃料電池5では、3つに分割された炭素電極52-1、52-2及び52-3がアノード電極52を構成している。さらにカソード電極53が、53-1、53-2及び53-3の3つに分割されている。植物微生物燃料電池5では、アノード電極52における分割された電極とカソード電極53における分割された電極の一対からなる3つの電池部が形成されている。すなわち、電極52-1と電極53-1からなる左側の楕円の電池部、電極52-2と電極53-2からなる中央の楕円の電池部及び電極52-3と電極53-3からなる右側の楕円の電池部が形成されている。さらに各電池部は、アノード電極である52-1と52-2、52-2と52-3が抵抗等の負荷を取り付けない導線57で接続され、カソード電極である53-1と53-2、53-2と53-3が抵抗等の負荷を取り付けない導線57で接続されることにより、並列に接続されている。そして、アノード電極である52-3とカソード電極である53-1とが抵抗等の電気的負荷を取り付けた外部回路56で接続されている。このような構造とすることにより、アノード電極52とカソード電極53とで構成される電池の内部が、あたかも複数の電池を並列に接続した状態となるため、安定した出力を得ることができる。また、分割された各電極は、分割された電極同士が電気的に接続されたものでもよい。
図8は、カソード電極が複数に分割され、アノード電極における分割された電極とカソード電極における分割された電極の一対からなる電池部が並列に接続された他の一実施形態を示す図である。
図8に示す植物微生物燃料電池は、アノード電極、カソード電極、負荷を取り付けない導線及び負荷を取り付けた外部回路の構造は植物微生物燃料電池5と同じであるが、3つの電池部の箇所それぞれに植物が植えられている。
【実施例0020】
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの具体的実施形態に限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
土100重量部に対し堆肥を湿基準で1重量部加えて植物生育用の土を調製した。調製した土には導電性を上げるために少量の第2酸化鉄を添加した。10Lのバケツに調製した土8Lを入れ、下から10cmのところにアノード電極を設置した。その後、サトイモを植え、土の表面にカソード電極を設置した。アノード電極とカソード電極間を被覆銅線でつなぎ、途中に100Ωの抵抗を設置して植物微生物燃料電池を作製した。アノード電極とカソード電極は、共に竹炭片(縦7cm×横3cm×厚さ0.5cm)を4枚並べて針金で保持し、縦7cm×横12cm×厚さ0.5cm、表面積が84cm
2としたものを用いた。アノード電極とカソード電極は、縦7cm×横12cmの面がバケツの底面とほぼ平行になるように設置し、アノード電極とカソード電極との電極中心間の距離は4cmであった。使用したアノード電極の写真を
図9に、カソード電極の写真を
図10に示す。
【0022】
[実施例2]
サトイモに替えてナスを植えた以外は、実施例1と同じ方法で植物燃料電池を作製した。
【0023】
[実施例3]
サトイモに替えて稲(コシヒカリ)を植え、アノード電極を竹炭片(縦3.5cm×横12cm×厚さ0.5cm)を2枚並べて針金で保持したもの(表面積が84cm2)に、カソード電極をカーボンファイバー(縦3cm×横12cm×厚さ0.5cm)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で植物燃料電池を作製した。
【0024】
実施例1~3での発生電圧及び電流を1日1回、15:00に測定した。また、週に3~4回、14:30に0.5L/回の水をまいた。その結果を、
図11~15に示す。
図11及び12は実施例1の結果を示す図であり、発生電圧の最大値は588.0mV、平均値は440.6mVであり、発生電流の最大値は1.61mA、平均値は1.19mAであった。
図13及び14は実施例2の結果を示す図であり、発生電圧の最大値は20.7mV、平均値は14.6mVであり、発生電流の最大値は15.2μA、平均値は9.8μAであった。
図15は実施例1の結果と実施例3の結果を比較した図であり、稲における発生電圧の最大値は602.0mV、平均値は161.0mVであった。植物により発生電圧及び発生電流は異なるが、いずれの植物においても発電が認められた。また、これらの中ではサトイモが発生電圧、発生電流共に変動が少なく安定性に優れており大きな値が得られた。
図16は、最も発電量が多かったサトイモを用いて、実施例と同様の条件で抵抗の値を変えながら発生電圧を測定した結果である。
図17に、アノード電極として1枚のカーボンフェルトを使用して稲により発電を行った場合の稲の根とカーボンフェルトの状態の写真を示す。
図17に示されるようにカーボンフェルトには、稲の根が絡みつきカーボンフェルトを取り外すことは困難であった。一方、実施例1~3では、アノード電極は分割され、分離された複数の竹炭片を導電性部材(針金)で束ねてアノード電極として使用しているので、竹炭片を束ねている保持用の導電性部材を解くことにより根から容易に電極を取り外すことができた。
本発明の植物微生物燃料電池は、個人が住宅、エクステリア、庭等で、あるいは学校等の教育現場で簡易に発電を行うことができるので、個人での利用、教材としての利用に好適である。また、農地での利用、いわゆるグリーンインフラストラクチャーでの利用等も可能であるので、食料と電力の両方を得ることが可能となり、得られる電力を農業におけるセンサーの電源、公空間における照明やセンサーの電源として活用することもできる。