(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033663
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】二酸化塩素発生剤および二酸化塩素発生剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 11/02 20060101AFI20220222BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C01B11/02 F
A61L9/01 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020147873
(22)【出願日】2020-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小山 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】小林 準次
(72)【発明者】
【氏名】石川 陽一
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180CA01
4C180EA22Y
4C180EA25Y
4C180EA26Y
4C180EA29Y
4C180EA57X
4C180EB22Y
4C180EB38Y
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全で取り扱いやすい二酸化塩素発生剤、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】安定化二酸化塩素を含有するゼオライトまたはシリカゲルの粒子の表面に、フッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂よりなる撥水剤を塗布する。これにより水滴がしみ込むことを防止することができ、急激に高濃度の二酸化塩素を発生することおよび強アルカリ性の水滴を生じることを防止することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸塩を担持してなる無機質担持体の表面に、
フッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂よりなる撥水剤を有する
ことを特徴とする二酸化塩素発生剤。
【請求項2】
請求項1に記載の二酸化塩素発生剤において、
前記撥水剤が、
前記無機質担持体の表面の1平方メートル当たり0.3グラム以上30グラム以下の量だけ存在すること
を特徴とする二酸化塩素発生剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二酸化塩素発生剤において、
前記撥水剤が、前記無機質担持体の表面に部分的に存在すること
を特徴とする二酸化塩素発生剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤において、
前記無機質担持体が球形の粒子であること
を特徴とする二酸化塩素発生剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の二酸化塩素発生剤において、
前記無機質担持体が、ゼオライト、シリカゲル、セピオライト、モンモリロナイト(酸性白土)、珪藻土、タルクのいずれかよりなること
を特徴とする二酸化塩素発生剤。
【請求項6】
亜塩素酸塩を担持してなる無機質担持体を用意する工程と、
前記無機質担持体の表面にフッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂を付着せしめる工程と、
を有することを特徴とする二酸化塩素発生剤の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の二酸化塩素発生剤の製造方法において、
前記フッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂を付着せしめる工程は、
前記無機質担持体にフッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂を含む溶液をスプレー塗布する工程を含むことを特徴とする二酸化塩素発生剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化塩素発生剤に関するもので、さらに詳しくは、亜塩素酸塩を担持した担持体を利用して空間に二酸化塩素ガスを放出するものに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素は、その強力な酸化作用により、ウイルス除去、悪臭除去、除菌等の効果があり広く用いられている。二酸化塩素を発生する二酸化塩素発生剤としては、水中で二酸化塩素を発生するものと、空気中で二酸化塩素を発生するものが知られている。水中で発生するものとしては、固体の亜塩素酸塩と酸を混合して錠剤としたものが広く用いられており、水中に投入すると酸と亜塩素酸塩が反応して速やかに二酸化塩素を発生する。
【0003】
特許文献1にはこのような錠剤の例が開示されている。このようにして発生した二酸化塩素を空気中に放出する場合には、二酸化塩素を含む水に空気を吹き込むことにより空中に放出するための装置等が利用されることが一般的である。
【0004】
空気中で二酸化塩素を発生させるものとしては、ゼオライト等の無機質担持体(顆粒状の担持体)に亜塩素酸塩を吸着させた二酸化塩素発生剤(顆粒状二酸化塩素発生剤)が知られている。ところで、この二酸化塩素発生剤の製造にあたっては、二酸化塩素発生剤の保存安定性を確保するために、強アルカリ性に調整した亜塩素酸塩水溶液を無機質担持体に含侵して乾燥させることが知られている。この二酸化塩素発生剤を空気中に置くと、水蒸気と二酸化炭素を吸着することにより、気体の二酸化塩素を徐々に放出する。
【0005】
特許文献2には二酸化塩素発生剤が水に触れて急速に二酸化塩素が発生することを防ぐために、防水透湿性フィルムよりなる袋に収納することが開示されている。
特許文献3には、長期間にわたって二酸化塩素を発生するために、二酸化塩素発生剤をアクリル系樹脂等の樹脂でコーティングしてガス透過率を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2013-518799号公報
【特許文献2】特開2012-36072号公報
【特許文献3】特開平4-247213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ゼオライトまたはシリカゲルに亜塩素酸塩を吸着させた二酸化塩素発生剤(顆粒状二酸化塩素発生剤)に水滴が付着すると、高濃度のガスが急激に発生する現象や、亜塩素酸塩の成分が水滴に溶出する現象が発生することがある。これを防止するため、顆粒状二酸化塩素発生剤は、撥水加工された通気性の高い素材(不織布)で作られた袋に封入されて利用されることが多いが、直接水滴が付着した場合でも、上記のような現象が起こりにくい顆粒状二酸化塩素発生剤を製造することができれば、より安全性が高く取り扱いが容易な二酸化塩素発生剤を提供することができる。
【0008】
本発明の目的の一つは、安全で取り扱いやすい二酸化塩素発生剤、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の二酸化塩素発生剤に係る第1の形態は、亜塩素酸塩を担持してなる無機質担持体の表面に、フッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂よりなる撥水剤を有する二酸化塩素発生剤である。
【0010】
本発明の二酸化塩素発生剤によると、その表面が撥水性になるため、たとえ水滴が付着しても、その水滴が担持体内部に浸透することが防止され、水滴が亜塩素酸塩に接触しにくくなることから、高濃度ガスが急激に発生する現象や、亜塩素酸塩の成分が水滴に溶出する現象を起こしにくくすることができる。また、本発明の二酸化塩素発生剤によると、撥水剤としてフッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂を主成分とするものが選定されるため、撥水剤によって二酸化塩素の発生及び拡散が妨げられることを防止することができ、二酸化塩素の発生量を容易にコントロールすることが可能になる。すなわち本発明によると、取り扱い及び二酸化塩素の発生量のコントロールが容易な二酸化塩素発生剤を提供することができる。
【0011】
本発明の二酸化塩素発生剤に係る第2の形態は、前記撥水剤が、前記無機質担持体の表面の1平方メートル当たり0.3グラム以上30グラム以下の量だけ存在する二酸化塩素発生剤である。
【0012】
本発明の二酸化塩素発生剤に係る第3の形態は、前記撥水剤が、前記無機質担持体の表面に部分的に存在する二酸化塩素発生剤である。
【0013】
本発明の二酸化塩素発生剤に係る第4の形態は、前記無機質担持体が球形の粒子である二酸化塩素発生剤である。
【0014】
本発明の二酸化塩素発生剤に係る第5の形態は、前記無機質担持体が、ゼオライト、シリカゲル、セピオライト、モンモリロナイト(酸性白土)、珪藻土、タルクのいずれかよりなる二酸化塩素発生剤である。
【0015】
本発明の二酸化塩素発生剤の製造方法は、亜塩素酸塩を担持してなる無機質担持体を用意する工程と、前記無機質担持体の表面にフッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂を付着せしめる工程と、を有する二酸化塩素発生剤の製造方法である。
【0016】
一方、本発明の二酸化塩素発生剤のさらなる製造方法は、前記フッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂を付着せしめる工程は、前記無機質担持体にフッ素樹脂およびまたはシリコーン樹脂を含む溶液をスプレー塗布する工程を含む二酸化塩素発生剤の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の二酸化塩素発生剤を、試作例に基づいて説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲に限定するものではない。
【0018】
本発明の二酸化塩素発生剤は、亜塩素酸塩を担持してなる担持体の表面に、フッ素樹脂やシリコーン樹脂よりなる撥水剤を有するものである。ここで、亜塩素酸塩を担持した担持体(二酸化塩素発生剤粒子)は、無機質担持体をアルカリで処理したのち、亜塩素酸塩を吸着(担持)させることで製作することができる。具体的な一例としては、球状のゼオライトの顆粒に水酸化カリウム水を含浸させて乾燥させた後、亜塩素酸ナトリウム水を含浸させて乾燥させることで、この二酸化塩素発生剤粒子を製作することができる。そして、この二酸化塩素発生剤粒子を平らな容器に入れ、攪拌しながら撥水剤を含有する溶液をスプレーした後、該溶液に含まれる溶剤を揮発させて乾燥させることにより、担持体の表面に撥水剤を付着させることができる。なお、該溶液はフッ素樹脂およびシリコーン樹脂を含み、溶剤としてアセトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコールを含むものである。以上の工程により、本発明の二酸化塩素発生剤を製造した。
【0019】
試作例において、撥水剤を塗布する前の二酸化塩素発生剤粒子を20グラム用意し、撥水剤を塗布し溶剤を揮発させた後にその重量を測定したところ20.10グラムであった。したがって、二酸化塩素発生剤全体の0.50重量%の撥水剤が付着していることがわかる。
【0020】
球状のゼオライト粒子の直径は1.5mmないし2.5mmで平均直径は2mm程度であり、20グラムあたり約3000粒であった。ゼオライト粒子の球の表面に、1平方メートル当たり約2.7グラムの撥水剤が塗布されたことになる。塗布された撥水剤の平均厚みはおよそ2ないし3マイクロメートル程度である。
【0021】
ただしフッ素樹脂およびシリコーン樹脂(すなわち撥水剤)は必ずしも均一な膜厚の被膜ではなく、担持体の表面に部分的に(島状、網目状、縞状)になって付着していると考えられる。しかしながら、撥水剤の隙間は水滴の大きさに比べて十分に小さいので、この状態で十分な撥水作用を発揮する。なお、一つの担持体に、島状に撥水剤が付着している領域と、網目状に撥水剤が付着している領域、及び、縞状に撥水剤が付着している領域のいずれが存在していても(混在していても)、本発明の目的を達成することができる。
【0022】
また、フッ素樹脂やシリコーン樹脂の撥水剤は、水蒸気、二酸化炭素、二酸化塩素などのガスの分子が通過することの妨げにはならない。仮にほぼ均一に被膜を形成して塗布された場合であっても、本実施例のように、溶剤を含む撥水剤を塗布して溶剤を揮発させて除去した場合には、溶剤が揮発する際に溶剤のガスが透過するに十分な大きさの微細な穴が生じるので(撥水剤が顆粒の表面の一部にのみ付着した状態(すなわち部分的に付着した状態)となるので)、ガスの透過を妨げる被膜にはならない。
【0023】
この二酸化塩素発生剤に空気中に大気を送り二酸化塩素ガスの発生量を測定したところ、1時間当たり15.5マイクログラム/グラムの二酸化塩素が発生した。一方、撥水剤を塗布していないものは1時間当たり14.8マイクログラム/グラムの二酸化塩素が発生し、ばらつきの範囲内で、同等の発生量であった。二酸化塩素の発生量を測定する方法としては、発生した二酸化塩素でヨウ化カリウムを酸化し、生成するヨウ素をチオ硫酸ナトリウム滴定することで測定する、ヨウ素滴定法を用いた。
【0024】
また、この二酸化塩素発生剤(1g)に純水10mlを滴下したところ、水が粒子にしみ込まず、急激に二酸化塩素ガスが発生することはなかった。また、滴下後に回収した水のpHを測定したところ6.39であり、ほぼ純水の値と変わらず、担持体に担持された成分が純水に溶け出すことが防止できていることがわかった。
【0025】
本実施例においては球状(概形が球状)のゼオライト粒子を用いたが、その他の形状の、例えば不定形の粒子とすることも可能である。その場合には粒子の比表面積が大きいので、二酸化塩素発生剤に対する撥水剤の量を多くする必要がある。しかし、球状の粒子に比べて他の形状の粒子は、角の部分に撥水剤が付着しにくいこと、角の部分などが欠けることにより撥水性が失われる可能性があることから、球状の粒子を用いることが好ましい。
【0026】
本実施例においては、担持体としてゼオライトの顆粒を用いたが、その他にシリカゲル、セピオライト、モンモリロナイト(酸性白土)、珪藻土、タルクなどの無機質担持体を用いることができる。これらの物質は多孔質であり内部に多くの亜塩素酸塩を担持することができるだけでなく、酸化されにくく、強力な酸化剤である二酸化塩素を発生する顆粒として好適である。
【0027】
また、本実施例では、撥水剤として、シリコーン樹脂やフッ素樹脂を適用している。一般に、シリコーン樹脂やフッ素樹脂は撥水性を有するため、コーティング剤として利用することで、顆粒の表面を撥水性にすることができる。また、シリコーン樹脂やフッ素樹脂は化学的に安定で酸化されにくいことから、所定期間撥水性を持続させることが可能になる。また、シリコーン樹脂やフッ素樹脂はガス透過を遮断する能力が低いので、撥水剤によって、顆粒内部への水蒸気や二酸化炭素の侵入が過度に妨げられること、及び、顆粒内部で発生した二酸化塩素ガスが顆粒内部に閉じ込められることを防止することができ、二酸化塩素ガスの発生量を容易にコントロールすることが可能になる。
【0028】
一般に、シリコーン樹脂やフッ素樹脂はち密な膜を作らず、ガスの透過を遮断する能力が低いのでかなり多く塗布しても支障はない。また、前述の通り均一な膜とならずに微細な島状、網目状や縞状に塗布されていればガスの透過を妨げることはなく、撥水材の隙間が水滴に比べて十分に小さければ良好な撥水性を発揮する。
【0029】
また、フッ素樹脂およびシリコーン樹脂は、撥水性を有するのみならずガスバリア性が低い物質であり、均一に塗布されて皮膜状になっていた場合であってもガスの分子が通過することが可能であり、二酸化塩素の発生が大幅に妨げられることはなく、本発明の二酸化塩素発生剤に殊に好適である。撥水剤として用いるフッ素樹脂およびシリコーン樹脂はいずれか一方のみであっても、両者を混合したものであっても良い。
【0030】
前述の通り撥水剤が均一な膜とならずに部分的に(微細な島状、網目状、縞状)に塗布されていればガスの透過を妨げることはなく、撥水剤の隙間(担持体が撥水剤から露出している露出領域)が水滴に比べて十分に小さければ良好な撥水性を発揮する。撥水剤をスプレーすることによって塗布した場合、少量を塗布するか、または少量の塗布を繰り返すことによって所定量を塗布すれば、担持体の表面に部分的に(島状、網目状、縞状)に塗布され易いと考えられる。撥水剤を付着させる具体的な方法は、担持体(大きさや形状、材質)や、所望する二酸化塩素の発生量などに応じて、実験的に設定することができる。また、撥水剤として用いるフッ素樹脂およびシリコーン樹脂はいずれか一方のみよりなるものであっても、両者を混合したものであっても良い。
【0031】
撥水剤の塗布量は本試作例では1平方メートル当たり約2.7グラムであったが、1平方メートル当たり0.3グラム程度であっても撥水作用が発揮され、また1平方メートル当たり30グラム程度の塗布量であっても二酸化塩素ガスの発生を妨げない。
【0032】
このようにして作成された二酸化塩素発生剤は、さらに、撥水性を有する材料よりなる袋に入れて用いることもできる。撥水性を有する材料よりなる袋としては、フッ素樹脂フィルムよりなる袋、不織布に撥水処理を施したものよりなる袋などを用いることができる。これにより、二酸化塩素発生剤が直接水滴と接触する確率をさらに下げることができる。
【0033】
また、このようにして作成された二酸化塩素発生剤は収納箱に入れて用いることができる。収納箱は樹脂よりなり網状の通気口がある通気性の良いものが好適である。
【0034】
二酸化塩素発生剤粒子に撥水剤を付着させるその他の方法としては、二酸化塩素を発生する顆粒にフッ素樹脂の微粉末を加えて攪拌する方法がある。この場合フッ素樹脂の微粉末が顆粒の表面に擦りつけられて付着する。余分なフッ素樹脂の微粉末は除去しても良いし二酸化塩素発生剤と混合したまま残留していても支障はない。