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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033728
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】改変細胞、調製方法、及び構築物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/90 20060101AFI20220222BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220222BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220222BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C12N15/90 100Z
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/90 104Z
C12N5/10
C12P21/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177200
(22)【出願日】2021-10-29
(62)【分割の表示】P 2019534282の分割
【原出願日】2017-12-19
(31)【優先権主張番号】62/436,714
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515269718
【氏名又は名称】ディベロップメント センター フォー バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】DEVELOPMENT CENTER FOR BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シュアン-プー
(72)【発明者】
【氏名】ルー,シン-リン
(72)【発明者】
【氏名】リン,チエン-イー
(72)【発明者】
【氏名】ルー,シュエ-リン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,タオ-ティエン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】改変細胞、その調製方法、及び、外因性核酸分子を宿主細胞のゲノムにおける発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物を提供する。
【解決手段】本発明の改変細胞は、改変細胞のゲノムに挿入された外因性核酸分子を備える。改変細胞は外因性核酸分子を宿主細胞のゲノム内の発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物を宿主細胞に導入することを含むプロセスにより得られ、発現増強配列は特定の配列である。本発明の外因性核酸分子を含む改変細胞の調製方法は、外因性核酸分子を宿主細胞のゲノム内の発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物を宿主細胞に導入するステップを備え、発現増強配列は前記特定の配列である。本発明の構築物は、外因性核酸分子を宿主細胞のゲノムにおける発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物であって、発現増強配列は前記特定の配列である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変細胞であって、前記改変細胞のゲノムに挿入された外因性核酸分子を備え、前記改変細胞は前記外因性核酸分子を宿主細胞のゲノム内の発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物を前記宿主細胞に導入することを含むプロセスにより得られ、前記発現増強配列は配列番号7から10から選択される配列である、改変細胞。
【請求項2】
前記構築物は第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームが側面に位置する前記外因性核酸分子を含む相同的組み換え構築物であり、前記第1のホモロジーアームは前記標的部位の上流の配列と相同であり、前記第2のホモロジーアームは前記標的部位の下流の配列と相同である、請求項1に記載の改変細胞。
【請求項3】
前記発現増強配列は配列番号8及び10から選択される、請求項2に記載の改変細胞。
【請求項4】
前記宿主細胞はCHO細胞である、請求項1から3の何れか一項に記載の改変細胞。
【請求項5】
前記改変細胞は前記標的部位に前記外因性核酸分子を含む、請求項4に記載の改変細胞。
【請求項6】
前記改変細胞は前記標的部位外の部位に前記外因性核酸分子を含み、前記改変細胞は対照細胞と比較してより高レベルに前記外因性核酸分子を発現する、請求項4に記載の改変細胞。
【請求項7】
前記外因性核酸分子はポリペプチドをコード化する、請求項1から6の何れか一項に記載の改変細胞。
【請求項8】
外因性核酸分子を含む改変細胞の調整方法であって、前記外因性核酸分子を宿主細胞のゲノム内の発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物を前記宿主細胞に導入するステップを備え、前記発現増強配列は配列番号7から10から選択される配列であり、それにより前記外因性核酸分子が前記宿主細胞内のゲノム部位に挿入されて前記改変細胞となる、調整方法。
【請求項9】
前記構築物は第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームが側面に位置する前記外因性核酸分子を含む相同的組み換え構築物であり、前記第1のホモロジーアームは前記標的部位の上流の配列と相同であり、前記第2のホモロジーアームは前記標的部位の下流の配列と相同である、請求項8に記載の調製方法。
【請求項10】
前記発現増強配列は配列番号8及び10から選択される、請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
前記宿主細胞はCHO細胞である、請求項8から10の何れか一項に記載の調製方法。
【請求項12】
前記導入するステップの後、対照細胞と比較してより高レベルに前記外因性核酸分子を発現する前記改変細胞を選択するステップを更に備える、請求項8から11の何れか一項に記載の調製方法。
【請求項13】
前記外因性核酸分子はポリペプチドをコード化する、請求項8から12の何れか一項に記載の調製方法。
【請求項14】
外因性核酸分子を宿主細胞のゲノムにおける発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物であって、前記発現増強配列は配列番号7から10から選択される配列である、構築物。
【請求項15】
前記標的部位の上流の配列と相同である第1のホモロジーアームと、前記標的部位の下流の配列と相同である第2のホモロジーアームとを含む相同的組み換え構築物である、請求項14に記載の構築物。
【請求項16】
前記発現増強配列は配列番号8及び10から選択される、請求項15に記載の構築物。
【請求項17】
前記宿主細胞はCHO細胞である、請求項14から16の何れか一項に記載の構築物。
【請求項18】
前記第1のホモロジーアーム及び前記第2のホモロジーアームが側面に位置する外因性核酸分子を更に備える、請求項15から17の何れか一項に記載の構築物。
【請求項19】
前記外因性核酸分子に操作可能に結合されたプロモータを更に備える、請求項18に記載の構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改変細胞、調製方法、及び構築物に関する。
【背景技術】
【0002】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は通常、グリコシル化のような適切な翻訳後修飾部位を有する治療用タンパク質を生成するのに使用される。生産性の高い細胞を生成するための、従来のランダムインテグレーションによる細胞株開発(CLD)方法は、多くの細胞の検査を必要とする、多大な時間を必要とし且つ労力を要するプロセスである。タンパク質発現のための細胞株の開発の基本的な目標は、何世代にもわたって高い生産性及び安定性を有するタンパク質を発現させることである。導入遺伝子の活性の安定した染色体領域への標的組み込み(TI)が、組み換えタンパク質の安定した発現のためには望ましい。理想的には、標的組み込みされた細胞株の発現力価及び安定性は、ほとんど組み込み部位に依存するはずである。よって、生産性の高いクローンのためにTI-CLD手法を使用して何百個もの細胞を検査することのみが必要になるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は改変細胞、調製方法、及び構築物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの態様において、改変細胞が提供される。その細胞は改変細胞のゲノムに挿入された外因性核酸分子を備え、改変細胞は外因性核酸分子を宿主細胞のゲノム内の発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物を宿主細胞に導入することを含むプロセスにより得られ、発現増強配列は配列番号7から10から選択される配列である。例えば、発現増強配列は配列番号1から16から選択され得る。
【0005】
構築物は第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームが側面に位置する外因性核酸分子を含む相同的組み換え構築物であり、第1のホモロジーアームは標的部位の上流の配列と相同であり、第2のホモロジーアームは標的部位の下流の配列と相同である。
【0006】
宿主細胞はCHO細胞である。
【0007】
改変細胞は標的部位における外因性核酸分子を含むことが出来る。代替的又は付加的に、改変細胞は標的部位外の部位に外因性核酸分子を含み、改変細胞は対照細胞と比較してより高レベルに外因性核酸分子を発現する。
【0008】
ある実施形態では、外因性核酸はポリペプチドをコード化し得る。
【0009】
他の態様では、外因性核酸分子を含む改変細胞の調製方法が記載される。その方法は外因性核酸分子を宿主細胞のゲノム内の発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物を宿主細胞に導入するステップを備え、発現増強配列は配列番号7から10から選択される配列であり、それにより外因性核酸分子が宿主細胞内のゲノム部位に挿入されて改変細胞となる。
【0010】
ある実施形態では、外因性核酸はポリペプチドをコード化し得る。
【0011】
構築物は第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームが側面に位置する外因性核酸分子を含む相同的組み換え構築物であり、第1のホモロジーアームは標的部位の上流の配列と相同であり、第2のホモロジーアームは標的部位の下流の配列と相同である。
【0012】
宿主細胞はCHO細胞である。
【0013】
ある実施形態では、その方法は上記の導入するステップの後、対照細胞と比較してより高レベルに外因性核酸分子を発現する改変細胞を選択するステップを更に備え得る。
【0014】
更に他の態様では、外因性核酸分子を宿主細胞のゲノムにおける発現増強配列内の標的部位に挿入するための構築物が記載され、その発現増強配列は配列番号1又は2である配列を含む。
【0015】
例えば、構築物は標的部位の上流の配列と相同である第1のホモロジーアームと、標的部位の下流の配列と相同である第2のホモロジーアームとを含む相同的組み換え構築物であり得る。
【0016】
ある実施形態では、その構築物は第1のホモロジーアーム及び第2のホモロジーアームが側面に位置する外因性核酸分子を更に備える。
【0017】
その構築物は外因性核酸分子に操作可能に結合されたプロモータを更に備え得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は配列番号7の1001から5537位を含む配列である。ランダムインテグレーションされたクローンにおいて、2つの黒いボックス(白抜き文字、以下同じ)間の配列が削除され、ハーセプチン遺伝子を有するpCHO1.0ベクターがその間に挿入された。2つのPAM配列が四角で囲まれ、2つのCRISPR標的配列がグレーで強調されている。遺伝子の標的組み込みに使用される2つのホモロジーアームが太字のフォントで示されている。下線のある配列はプライマー配列である。
図2図2は配列番号9の1100位から5208位を含む配列である。黒いボックスは、ランダムインテグレーションされたクローンにおけるハーセプチン遺伝子の組み込み部位を示す。PAM配列は四角で囲まれている。遺伝子の標的組み込みに使用される2つのホモロジーアームが太字のフォントで示されている。下線のある配列はプライマー配列である。
図3図3はCHO-S細胞内のTenm3部位に挿入されたハーセプチン遺伝子の発現(mg/L/コピー)を示すグラフである。グラフは以下の表2に示されるデータに基づく。
図4図4はDXB11細胞内のTenm3部位で挿入されたハーセプチン遺伝子の発現(mg/L/コピー)を示す。グラフは以下の表3に示されるデータに基づく。10P、50P及び100Pの各々は細胞を選択するのに使用されるピューロマイシン及びMTXの濃度を示す。10Pは10μg/mlのピューロマイシン及び100nMのMTXであり、50Pは50μg/mlのピューロマイシン及び500nMのMTXであり、100Pは100μg/mlのピューロマイシン及び1000nMのMTXである。
図5図5はTenm3部位で挿入されたハーセプチン遺伝子を有するDXB11細胞の個々のクローンの発現力価(mg/L)を示すグラフである。
図6図6はSiva1部位で挿入されたハーセプチン遺伝子を有するDXB11細胞の個々のクローンの発現力価(mg/L)を示すグラフである。
図7図7はSiva1部位で挿入されたハーセプチン遺伝子を有するDXB11細胞の個々のクローンの特定生産性(QP;mg/106セル/日)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
CHO細胞における所定のゲノム配列内の、部位(すなわち標的部位)に挿入された遺伝子が、発現が増強されたことを示すことが予想外に発見された。更に、遺伝子を、これらのゲノム配列のうちの1つに特定的に挿入するように設計された相同的組み換え構築物を介して標的外のゲノム部位に挿入された遺伝子も、発現の増加したことを示すことが発見された。従って、これらのゲノム配列は、発現増強配列である。
【0020】
本明細書で使用される、「挿入部位」、「ゲノム部位」及び「標的部位」の「部位」という用語は、1つ又は複数のヌクレオチド(例えば1から500のヌクレオチド)を含む領域を指す。
【0021】
「外因性核酸分子」という用語は、核酸分子にとって自然な部位ではない細胞内の部位に位置する核酸分子を指す。例えば、核酸分子は異なる部位の細胞内に自然に存在しても良い。或いは、核酸分子は異なる細胞から生じても良い。
【0022】
特に断りのない限り、本明細書で言及されるCHOゲノムはチャイニーズハムスターの2013年アセンブリを指す(C_griseus_v1.0/criGri1)。
【0023】
発現増強配列は、配列番号1から16から選択される配列、又はその断片(例えば100から2000、150から1500、200から2000、100から500、250から500、200から750、500から1000、500から1500、800から1500、1000から1500又は1000から2000ヌクレオチド)と少なくとも80%(例えば85%、90%、95%、98%又は99%)同じ配列から選択され得る。
外因性の核酸分子を挿入するための標的部位は、発現増強配列内、又はその近く(例えば500ヌクレオチド上流又は下流以内)のどこに配置されても良い。
ある実施形態では、標的部位は配列番号1、3、5、7、9、11、13又は15内の1から500位、200から500位、50から1000位、100から1000位、200から1000位、300から1000位、400から1000位、500から1000位、100から2000位、500から2000位、700から2000位、1000から2000位、500から3000位、1000から3000位、1500から3000位、2000から3000位、2500から3000位、500から4000位、1000から4000位、2000から4000位、1500から5000位、2500から5000位、3500から5000位、4500から5000位、2000から6000位、3000から6000位、4500から6000位、5000から6000位又は5500から6000位内である。
【0024】
これらの発現増強配列は、改変細胞のゲノムに挿入された1つ又は複数の外因性核酸分子を高度に発現する改変細胞を生成するために使用され得る。ある実施形態では、改変細胞は外因性核酸をCHO細胞のゲノムに組み込むことにより生成される。改変細胞は対照細胞と比較して外因性核酸分子の高度な(例えば1倍以上)発現レベルを示す。
【0025】
「対照細胞」はランダムインテグレーションにより異なる部位に挿入された同じ核酸分子を含む細胞であっても良い。例えば、対照細胞は核酸分子を含むpCHO1.0ベクターをCHO宿主細胞のゲノムにランダムインテグレーションすることにより生成され得る。
CHO共同体(The CHO Consortium、以下同じ)はまた様々な潜在的ゲノム部位を特定した。対照細胞は核酸分子をこれらの部位の1つに特異的に挿入することにより生成され得る。発現レベルはmRNAレベル又はタンパク質レベルで計測され得る。改変細胞又は対照細胞は、挿入された核酸分子の1つ以上のコピーを含み得るため、比較はコピー当たりの発現レベルを決定することにより正常化され得る。
【0026】
発現増強配列の1つ内、又はその近くの標的部位が核酸分子の発現を高めるか否かは、業界の熟練者により決定され得る。発現増強配列内、又はその近くの標的部位の詳細な位置は、その部位が発言を増強可能であり、且つ核酸分子の安定した組み込みを可能にする限り重大ではない。部位の選択は、遺伝子を挿入するのに使用されるゲノム編集技術にも依存する。
【0027】
本明細書に記載される改変細胞は、宿主細胞のゲノムにおいて発現増強配列内の標的部位に外因性核酸分子を挿入する構造体を宿主細胞へ導入することを含むプロセスにより得られる。
【0028】
方法及び構造体は、発現増強配列の1つ内に核酸分子を特異的に挿入するのに使用され得るにも拘わらず、部位外への挿入がなお起こり得る。その様な部位外への挿入を含む改変細胞もまた挿入された核酸分子の発現増加を示すことが分かった。理論に制約されることを意図することなく、そのような部位外への挿入は、発現増強配列から派生する相同的組み換え構築物におけるホモロジーアーム(又はその断片)を運搬するものと考えられている。従って、本明細書に記載された改変細胞は、発現増強配列の1つの内の標的部位、又は異なる部位に挿入される外因性核酸分子を有しても良い。
【0029】
様々な方法が、ゲノム部位で外因性核酸分子を挿入するのに使用され得る。その様な方法には、相同組み換え修復、非相同末端結合、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を基礎とする方法、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)を基礎とする方法、及びCRISPR(クラスター化され、規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し)/Cas9法が含まれる。
【0030】
本明細書に記載された発現増強配列の1つの内、又はその近くの標的部位に外因性核酸分子を挿入するための相同的組み換え(HR)構築物が設計され得る。その構築物は標的部位の上流の配列と相同の第1のホモロジーアームと、標的部位の下流の配列と相同の第2のホモロジーアームを含む。
各ホモロジーアームは、例えば200から1500のヌクレオチド(例として200から250、200から400、250から500、300から500、400から600、450から650、500から800、550から750、650から900、800から1000、950から1200又は1000から1500ヌクレオチド)を含み得る。
HR構築物は更に、ゲノムに挿入される遺伝子が構築物内に結合されるように、2つのホモロジーアームの間に多数のクローニング部位を含み得る。或いは、2つの相同的配列が側面に位置する遺伝子を含むHR構築物は、PCR等の業界に知られた技術を使用して構築され得る。
【0031】
HR構築物は、TALEN法又はCRISPR/Cas9法において使用され得、それにより核酸分子が細胞のゲノムに挿入される。
標的部位は、使用されるゲノム編集方法に応じて選択されても良い。TALEN法及びCRISPR/Cas9法は両方とも、標的部位においてゲノム内に二本鎖DNAの切断を導入することにより機能する。選択された部位に基づき、標的部位において挿入される核酸分子を含むHR構築物が設計且つ構築され得る。
【0032】
TALEN法は、転写活性化様エフェクター(TALE)タンパク質の人工のDNA結合ドメイン及び制限エンドヌクレアーゼFokIの触媒ドメインを含むキメラヌクレアーゼを利用する。TALEタンパク質によるDNA認識のコードが解明されると、任意のDNA配列の認識のための人工のDNA結合ドメインが設計され得る。部位外の効果を最小限にするため、TALEN法は各々が二本鎖DNAの切断部位の何れかの側の配列を認識する一対のキメラヌクレアーゼを使用できる。熟練者は、選択された部位に向けられたTALEN構築物を設計することが出来るであろう。
【0033】
CRISPR/Cas9法は標的部位に特有のgRNA及びエンドヌクレアーゼCas9を必要とする。標的部位はゲノムの残りと比較して特有なものであり、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)のすぐ上流にある任意の配列(約20ヌクレオチド)であっても良い。Cas9/gRNA複合物を標的部位に結合すると、Cas9はDNAを切断する。配列番号7内の例示的な2つのPAMが図1に示され、配列番号9内の例示的なPAMが図2に示される。熟練者は、標的部位に向けられたCRISPR/Cas9構築物を設計できるであろう。
【0034】
挿入される外因性核酸は、改変細胞内で機能的なプロモータに、操作可能に結合されたポリペプチドをコード化する配列を含み得る。プロモータ配列はコード化配列に対して内因性であり得る。ある実施形態では、コード化配列は異種プロモータ配列に操作可能に結合される。
外因性核酸分子の発現は業界に知られた技術を使用して更に最適化され得る。例えば、発現は、核酸分子を強いプロモータ及び/又は1つ又は複数の転写エンハンサーエレメントに結合させることにより更に高められ得る。
【0035】
外因性核酸分子の細胞のゲノムへの組み込みは、業界に知られた方法を使用して検証され得る。改変細胞は、適切な条件の下で培養され、核酸分子を発現させ得る。改変細胞が発現が増強されていることを示すか否かは、ELISA又はRT‐PCR等の、業界に知られた方法を使用して決定され得る。
【0036】
更に、発現増強配列は、自然のゲノム遺伝子座にあろうと他の遺伝子座にあろうと発現増強効果を発揮できるため、それらは一時的な遺伝子の発現のための発現ベクターに含まれ得る。例えば、発現ベクターは遺伝子と、1つ又は複数の発現増強配列とを含み得る。1つ以上の発現増強配列が含まれる場合、それらは間にスペーサーを設け又は設けずに縦一列に配置され得る。ベクターは、一時的に遺伝子を発現させるため、宿主細胞に導入され得る。
【0037】
業界に知られた様々な宿主細胞が、本明細書に記載された改変細胞を発生させるために使用され得る。その様な宿主細胞は、任意の哺乳類細胞を含み得る。好ましくは、宿主細胞はCHO細胞である。
【0038】
本明細書に記載された改変細胞は、様々な商業的及び実験的な応用に使用され得る。特に細胞は、治療用タンパク質を生成するのに使用され得る。
【0039】
1つ又は複数の実施形態の詳細が、添付の図面及び以下の説明において述べられる。実施形態の他の特徴、目的及び利点は、明細書及び図面、並びに請求項により明らかになるであろう。なお、以下の具体的な実施例は、単に例示的なものとして解釈されるべきであり、如何なる方法であれ、本明細書の残りの部分を制限しない。当業者は更なる詳細説明を必要とせずに、本明細書の記載に基づき、本開示を最大限に利用可能であると考えられる。
【0040】
(実施例)
本発明の発明者らは、ハーセプチン遺伝子を含むpCHO1.0ベクターのCHO-S宿主細胞のゲノムへのランダムインテグレーションにより、2つのCHO細胞株、3C8及び3G7を事前に作製した。3C8及び3G7はそれぞれ12個及び5個の遺伝子のコピーを含み、3g/L及び2.5g/Lの遺伝子産物を生成する。
これらの2つの細胞株の組み込み部位を分析した。以下の表1を参照されたい。Srxn1、Adh5、Asphd/Josd2、Tenm3、Siva1、Syne1、Smarcc1及びRsg19の部位が、それぞれ配列番号2、4、6、8、10、12,14及び16内に配置された。
【0041】
【表1】
【0042】
3C8細胞株のTenm3組み込み部位を図1に示す。3C8細胞株において、2つの黒いボックス間の配列が削除され、ハーセプチン遺伝子を有するpCHO1.0ベクターがその間に挿入された。
3G7細胞株におけるSiva1内の組み込み部位を図2に示す。
【0043】
本発明の発明者らは、CRISPR法を使用して、ハーセプチン遺伝子をCHO宿主細胞のゲノムに挿入することにより、Tenm3組み込み部位を検査した。
図1を参照すると、使用された2つのCRISPR標的配列がグレーで強調され、PAMが四角で囲まれている。ハーセプチン遺伝子を組み込むために使用された上流及び下流の相同配列を図1において太字のフォントで示されている。
【0044】
CRISPRベクター及び相同組み換え用ドナーベクターがCHO-S及びDXB11宿主細胞に導入された。細胞は分類され、トランスフェクション後に48時間回復された。異なる濃度のピューロマイシン(10、50又は100μg/ml)及びMTX(100、500又は1000nM)が、組み込まれた遺伝子を含む細胞を選択するために使用された。
以下の表2及び3を参照されたい。FACS又は制限された希釈物が単一の細胞を選択して単一の細胞培養を確立するために使用された。ハーセプチン遺伝子の予め選択された部位への組み込みはT7E1アッセイ及びジャンクションPCRアッセイを使用して検証された。
【0045】
ピューロマイシン及びMTXにより選択された、プールされたCHO細胞における、挿入されたハーセプチン遺伝子の発現がELISAを使用して分析された。本発明の発明者らは、遺伝子を、予めCHO共同体により特定された、3つの活性のある組み込み部位のそれぞれに挿入することにより、3つの対照群を生成した(対照群1、対照群2、対照群3)。Tenm3組み込み部位の中に挿入された遺伝子1コピー当たりの発現力価(mg/L/コピー)は、3つの対照群より大いに高かった。表2、表3、図3及び図4を参照のこと。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
本発明の発明者らは、6日間のバッチ培養においてDXB11細胞から派生した単一のクローンを検査し、それらが挿入された遺伝子の増強発現を示すことを発見した。図5を参照のこと。特に、クローンDXB11-1E8、DXB11-1E2及びDXB11-1G5は増強発現を失わずに60世代にわたって培養出来た。
【0049】
本発明の発明者らは又、CRISPR法を使用して、ハーセプチン遺伝子をDXB11宿主細胞内のSiva1、Syne1、Smarcc1及びRgs19部位に挿入して、改変細胞を生成した。MTX無しの750μg/mlのジェネティシンが、望ましい挿入がされた細胞を選択するために使用された。この条件により、挿入のコピー数が少ない細胞が選択された。
少ないコピー数に拘わらず、これらの改変細胞も、ランダムインテグレーション(力価=約80mg/L)により生成された細胞と比較して、遺伝子の発現の増加を示した。表4を参照のこと。特に、Siva1部位を標的にすることにより生成された選択された細胞プールは、235mg/L/コピーの力価を有していた。
図2は遺伝子をSiva1部位に挿入するのに使用されるPAM配列と2つのホモロジーアームを示す。
【0050】
【表4】
【0051】
Siva1プールからの個々のクローンも検査された。図6及び図7に示されるように、これらのクローンは全てハーセプチン遺伝子の増加した発現を示した。分析から示されたことは、これらのクローンのうち、標的外の挿入を有するものや、多数の挿入のコピーを有するものもあったが、多くは標的内の挿入の1つのコピーのみを有していたことである。
【0052】
(他の実施例)
本明細書に記載された特徴の全ては、任意の組み合わせで組み合わされても良い。本明細書に記載された各特徴は、同一、同等、又は同様の目的を果たす他の特徴と置換されても良い。従って、明示的に別段の定めをした場合を除き、本明細書に記載された各特徴は、包括的な一連の同一又は同様の特徴の例示に過ぎない。
【0053】
上記の説明から、当業者は記載された実施形態の本質的特徴を容易に確認でき、その精神及び範囲から逸脱せずに実施形態に様々な変更及び修正を付加し、それを様々な用途及び状況に適用することができる。よって、それらの他の実施形態も請求項の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7