(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033735
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の危険性と関連するAPOEプロモーターの一塩基多型およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20220222BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20220222BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220222BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220222BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220222BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6883 Z ZNA
C12Q1/02
C12N15/09 Z
G01N33/53 M
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021178702
(22)【出願日】2021-11-01
(62)【分割の表示】P 2019536313の分割
【原出願日】2018-01-15
(31)【優先権主張番号】10-2017-0060225
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】PCT/KR2017/005137
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】519236664
【氏名又は名称】インフォメディテック・カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INFOMEDITECH CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】7F,9,Teheran-ro 20-gil Gangnam-gu Seoul 06236 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】クンホ・リ
(72)【発明者】
【氏名】キュヨン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンジェ・リ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血液または生物試料から採取したゲノムDNAにおいて、遺伝的変異を解析することにより、認知症の危険性に対するより正確な予測を可能にする方法を提供する。
【解決手段】一塩基多型(SNP)rs405509をアルツハイマー病の危険性の予測に使用する。APOE E4/E4とともにrs405509 T/T多型の確認をすることにより、アルツハイマー病および/またはアルツハイマー病による認知症を診断するかまたは危険性予測をすることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から単離された核酸を含む試料において軽度認知機能障害またはアルツハイマー病(AD)を示す遺伝的変異を検出することによって、軽度認知機能障害またはアルツハイマー病の診断をするかまたは危険性を予測するための方法であって、
(a)APOE E4アレルをコードする遺伝子から選択される遺伝子またはそれらの遺伝子産物中の遺伝的変異の有無を検出することができる試薬と前記試料を接触させる工程と、
(b)APOEプロモーターのrs405509 Tアレルをコードする遺伝子またはそれらの遺伝子産物から選択される遺伝的変異の有無を検出することができる試薬と前記試料を接触させる工程と
を含み、
APOE E4/E4およびrs405509 T/T遺伝的変異の存在が、前記対象が軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病を有する患者であること、または軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病の危険性を有することを示す、方法。
【請求項2】
APOE E4/E4およびrs405509 T/T遺伝的変異の有無を検出する方法が、前記対象から単離された前記試料から一本鎖形態の核酸を得、前記核酸を相補的プライマーセットと複合体を形成させ、次いで、前記複合体中の前記遺伝的変異の有無を解析することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合体中の前記APOE E4/E4およびrs405509 T/T遺伝的変異の有無を解析することが、ポリメラーゼ連鎖反応、ヌクレアーゼ消化、ハイブリダイゼーション、サザンブロッティング、制限酵素断片多型分析、シークエンシング、プライマー伸長法もしくは一本鎖高次構造多型分析を使用して、またはそれらの組み合わせを使用して解析を実施することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象から単離された前記試料から得られた前記核酸を増幅する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記対象から単離された前記試料から得られた前記核酸がゲノムDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記対象から単離された前記試料から得られた前記核酸がRNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記対象の大脳皮質厚の画像を得る工程
をさらに含み、
前記大脳皮質厚の萎縮が、前記対象が軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病を有する患者であること、または軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病の危険性を有することを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記大脳皮質厚の画像がMR脳画像である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
神経心理学的検査、脳脊髄液(CSF)検査、およびアミロイドPET検査からなる検査の1つ以上を実施する工程
をさらに含む、請求項1、7および8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
軽度認知機能障害またはアルツハイマー病を診断または予測するためのキットであって、APOE E4/E4遺伝的変異の有無を、APOE E4アレルをコードする遺伝子から選択される遺伝子またはそれらの遺伝子産物において検出し、APOEプロモーターのrs405509 Tアレルをコードする遺伝子またはそれらの遺伝子産物から選択されるrs405509 T/T遺伝的変異の有無をさらに検出する、キット。
【請求項11】
前記APOE E4アレルおよび前記APOEプロモーターの前記rs405509 Tアレルに相補的なプライマーセット、ならびに
反応酵素
を含む、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記遺伝的変異を解析するための解析方法が含まれる、請求項10に記載のキット。
【請求項13】
核酸を増幅するための方法が含まれる、請求項10に記載のキット。
【請求項14】
参照対照が含まれる、請求項10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病を早期診断するための、およびアルツハイマー病の危険性を予測するための、一塩基多型に関する。さらに本発明は、一塩基多型を使用して、アルツハイマー病を早期診断するための、およびアルツハイマー病の危険性を予測するための方法に関する。本発明は、アルツハイマー型認知症に特異的な脳損傷を調べMRIに基づく脳地図を作成するという課題を実施することによって得られた結果に基づき、これは、韓国のMinistry of Science, ICT and Future PlanningのBrain Science Source Technology Developmentプロジェクトの支援を受けている。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、認知低下および脳の老人斑を特徴とする進行性神経変性疾患である。アルツハイマー病は高齢者の認知症の最も一般的な原因であり、認知症の60%~80%を占める(Barnes and Yaffe, 2011)。65歳以上の高齢者の約13%および85歳以上の高齢者の約45%がアルツハイマー病患者であると推定される。アルツハイマー病(AD)は、記憶喪失および他の認知障害だけでなく脳の構造変化も引き起こす複雑な神経変性疾患である(Ballard et al., 2011;Forero et al., 2006)。AD患者は、脳の後部帯状皮質(PCC)、内側前頭前皮質および海馬におけるアミロイド斑の増大、ならびに海馬体積の低下を示す。さらに、患者は、ベータアミロイドレベルの低下ならびにCSF中のタウおよびp-タウのレベルの増大を示す(Jack, 2012;Trojanowski et al., 2010)。
【0003】
アルツハイマー型認知症の治療剤は開発中であるが、注目すべき治療剤は現在まで存在していない。したがって、アルツハイマー型認知症の早期診断および早期予測に関する必要性は高い。アルツハイマー型認知症の診断技術としては、神経心理学的検査、MRI脳イメージング検査、専門家の意見による臨床診断、脳脊髄液およびフロルベタベンに基づくアミロイドPETによる病理検査などが挙げられる。臨床診断は、認知症または軽度認知機能障害の発症を診断することができるが、それらを他の脳疾患と区別することが困難である場合があり得る。臨床診断は、症状が発生した後でしか診断が可能でないことから、早期診断の目的には適切ではない。脳脊髄液検査は、定量分析、例えばベータアミロイドタンパク質およびタウタンパク質の分析を介して実施され、したがって、これは、認知症に対する信頼できる診断尺度である。しかし、侵襲的な脳脊髄液採取の理由から、対象はこの検査に非常に抵抗する。アミロイドPETによる病理検査は信頼できるが、費用がかかる。MRI脳イメージングの場合は、認知症と関連する脳損傷、例えば、大脳皮質の萎縮および海馬の萎縮を調べるための、および早期診断のための技術が開発中であるが、診断が早い時点で行われないということが現在知られている。さらに、血液を介する認知症の診断技術の開発が活発に進行中である。しかし、実験のための集団の規模および正確性に対する制限があり、したがって、信頼性の検証が臨床的使用について必要とされる。
【0004】
遺伝因子では、アミロイド前駆体タンパク質、プレセニリン-1およびプレセニリン-2が、家族歴が理由の早発性のアルツハイマー病についての主な因子である(Blennow et al., 2006; Hardy and Selkoe, 2002)。APOEでは、e4アレルが遅発性の孤発性アルツハイマー病の最も強い危険因子である(Bu, 2009; Corder et al., 1993; Huang and Mucke, 2012)。APOE遺伝子は、世界的観点から見ると、それぞれ8.4%、77.9%、および13.7%の頻度で、3つの多型、e2、e3、およびe4を有する(Farrer et al., 1997)。アルツハイマー病におけるe4の頻度は約40%に劇的に増加する(Farrer et al., 1997)。APOEは第19染色体の長腕(19q13.2)に位置する。APOEは3つのアレル、すなわち、e2、e3、およびe4を有し、これらは、アミノ酸位置112(Cys/Arg)および158(Arg/Cys)の変化により形成され、3つのアレルの組み合わせにより、6つの遺伝子型(E2/E2、E2/E3、E3/E3、E2/E4、E3/E4、E4/E4)多型が存在する。これらの中で、APOE e4は、AD患者の50%以上で通常見出される。しかし、APOE e4は認知的に正常な対照の15%未満でしか見出されない(Ward et al., 2012)。以前の研究によって、APOE e4がADの発症時期を5~15年短くし得ることが報告された(Corder et al., 1993; Gomez-Tortosa et al., 2007)。さらに、認知低下に対するAPOE e4の影響が報告された。しかし、いくつかの研究によって、APOE e4は認知能力を低下させることが報告され、その一方で、他の研究によって、APOE e4は認知能力の低下に影響を与えないことが報告され、さらに他の研究の結果によって、APOE e4は認知能力をゆっくりと低下させることが示唆された(Anstey and Christensen, 2000; Beaudreau et al., 2013; Caselli et al., 2009; Craft et al., 1998; Deary et al., 2002; Jorm et al., 2007; Kleiman et al., 2006; Mayeux et al., 2001; Van Gerven et al., 2012)。議論を要するそのような結果にもかかわらず、APOE e4ホモ接合体を有する健常個体は海馬体積の低下を示し、一方で、健常な高齢者群において、APOE e4ヘテロ接合体を有する健常個体は、e4を保有しない対象と違いを示さなかった(Crivello et al., 2010; Farlow et al., 2004; Lemaitre et al., 2005)。さらに、APOE e4は、健常な高齢者において、軽度認知機能障害のアルツハイマー病への転換に関与することが示された(Wang et al., 2011)。e4アレルの危険性は、人種群の間で変動することが報告されている(Brainerd et al., 2013; Farrer et al., 1997; Heun et al., 2010; Hsiung and Sadovnick, 2007; Hsiung et al., 2004; Rose, 2005)。しかし、APOE e4に基づいて予測が行われる場合でさえも、認知症に対する遺伝的影響の程度の20%以内でしか説明することができない。したがって、アルツハイマー病に対するe4媒介性の危険性および可能な誘導因子は、依然として不明なままである。その一方で、韓国特許第10-1335021号は、アルツハイマー病または軽度認知機能障害を有する患者とAPOE rs405509のT/Gヘテロ接合性との間の関連を記載している。
【0005】
したがって、本発明者らはAPOE E4の遺伝的変異を研究しただけでなく、認知症に対するAPOE E4の危険性に影響を及ぼし得る、APOE遺伝子周辺の遺伝的変異も研究した。さらに、APOE E4/E4ホモ接合体の場合では、本発明者らは、認知症に対する危険性の人種差が存在することを確認し、その原因を解析することを目的とした。その結果、驚くべきことに本発明者らは、APOEプロモーターに位置する一塩基多型が、APOE E4/E4ホモ接合体の認知症に対する危険性の人種差を説明するだけでなく、大脳皮質厚がアレルに応じて変動することを確認した。さらに、本発明者らは、大脳皮質厚および海馬体積を解析することによって、脳構造に対するAPOE多型の影響を確認した。
【発明の開示】
【技術的問題】
【0006】
本発明の一目的は、アルツハイマー病および/またはアルツハイマー病に起因する認知症に対する危険性を予測するための一塩基多型(SNP)遺伝的変異を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、一塩基多型(SNP)遺伝的変異を検出することによってアルツハイマー病および/またはアルツハイマー病に起因する認知症に対する危険性を予測するための方法を提供することである。
【問題に対する解決策】
【0008】
本発明は、アルツハイマー病および/またはアルツハイマーに起因する認知症に対する危険性を予測するのに使用することができる一塩基多型(SNP)を提供する。より具体的には、SNPは、ヒトゲノム地図のGRCh38.p7バージョンに基づくと、第19染色体上の44905579に位置するrs405509であり、そのアレルはTおよびGである。このSNPは、マイナーアレル頻度(MAF)の人種差を示した。
【0009】
本発明の一態様では、本発明は、対象から単離された試料、例えば、細胞、組織、血液または体液からゲノムDNAを単離および精製し、APOEプロモーターのrs405509一塩基多型およびAPOE遺伝子型を解析および特定することによって、認知症に対する危険性を予測する。
【0010】
本発明の別の態様では、APOEイプシロン遺伝的変異(rs429358およびrs7412)ならびにrs405509遺伝的変異を使用するアルツハイマー型認知症の予測についての情報を提供するための方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、対象から単離された核酸を含む試料において軽度認知機能障害またはアルツハイマー病を示す遺伝的変異を検出することによって、軽度認知機能障害またはアルツハイマー病(AD)の診断をするかまたは危険性を予測するための方法であって、(a)APOE E4アレルをコードする遺伝子から選択される遺伝子またはそれらの遺伝子産物中の遺伝的変異の有無を検出することができる試薬と試料を接触させる工程と、(b)APOEプロモーターのrs405509 Tアレルをコードする遺伝子またはそれらの遺伝子産物から選択される遺伝的変異の有無を検出することができる試薬と試料を接触させる工程とを含み、APOE E4/E4およびrs405509 T/T遺伝的変異の存在が、対象が軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病を有する患者であること、または軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病の高い危険性を有することを示す方法が提供される。ここで、危険性を予測するための方法は、対象から単離された核酸を増幅することによって実施されてもよく、核酸はゲノムDNAまたはRNAであってもよい。
【0012】
本発明のさらになお別の態様では、方法は、対象の大脳皮質厚について、画像、例えば、磁気共鳴(MR)脳画像を得る工程をさらに含み、大脳皮質厚の萎縮は、対象が軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病を有する患者であること、または軽度認知機能障害もしくはアルツハイマー病の高い危険性を有することを示し得る。
【0013】
本発明のさらになお別の態様では、方法は、神経心理学的検査、脳脊髄液(CSF)検査、およびアミロイドPET検査からなる検査の1つ以上を実施する工程をさらに含んでもよい。
【0014】
本発明の一態様では、遺伝的変異の有無を検出する方法は、対象から単離された試料から得られた一本鎖形態の核酸が相補的プライマーセットと複合体を形成するように供され、次いで、複合体において遺伝的変異の有無が解析される方法である。複合体中の遺伝的変異の有無は、ポリメラーゼ連鎖反応、ヌクレアーゼ消化、ハイブリダイゼーション、サザンブロッティング、制限酵素断片多型分析、シークエンシング、プライマー伸長法もしくは一本鎖高次構造多型分析を使用して、またはそれらの組み合わせを使用して解析されてもよい。
【0015】
本発明のさらになお別の態様では、軽度認知機能障害またはアルツハイマー病を診断または予測するためのキットが提供され、キットは、APOE E4アレルをコードする遺伝子から選択される遺伝子またはそれらの遺伝子産物中の遺伝的変異の有無を検出することができ、キットは、APOEプロモーターのrs405509 Tアレルをコードする遺伝子またはそれらの遺伝子産物をさらに含んでもよい。したがって、本発明の一態様では、キットは、APOEの一塩基多型APOE E4およびAPOEプロモーターの一塩基多型rs405509 T/T、T/G、およびGGに相補的なプライマーセット、ならびに反応酵素を含むキットであってもよい。
【0016】
本発明において遺伝子産物は、遺伝子の発現によって生じる産物であり、RNA、例えば、tRNA、mRNA、rRNA、miRNAおよびsiRNA、ポリペプチドならびにタンパク質を含むと理解される。
【0017】
本発明の別の態様では、キットは、遺伝的変異を解析するための解析方法、核酸を増幅するための方法、または参照対照を含むキットであってもよい。
【0018】
本発明のさらに別の態様では、APOE E4アレルをコードする遺伝子から選択される遺伝子またはそれらの遺伝子産物中の遺伝的変異の有無を検出することができる相補的プライマーセットが提供され、rs405509 Tアレルをコードする遺伝子またはそれらの遺伝子産物が一緒に提供されてもよい。したがって、本発明の一態様では、プライマーセットは、APOEの一塩基多型APOE E4ならびにAPOEプロモーターの一塩基多型rs405509 T/T、T/G、およびGGに相補的なプライマーセットであってもよい。
【0019】
本発明の別の態様では、プライマーセットは、標識、例えば、放射性同位体、フルオロフォアまたは化学誘導体が結合しているプライマーセットであってもよい。
【発明の有利な効果】
【0020】
本発明によれば、孤発性アルツハイマー型認知症についての予測的遺伝的変異として、APOE遺伝子型、特にAPOE E4/E4に加えて、遺伝的変異rs405509を調べることによって、アルツハイマー型認知症の危険性をより正確に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、APOE e4/4の危険性を調節する多型候補をスクリーニングするためのストラテジーを図示する(
図1A)。
図1Bは、APOEの遺伝子構造を概略的に図示する。rs449647(-491 A/T)、rs405509(-219 T/G)、rs440446(+113 G/C)、rs429358およびrs7412のSNPをパネルBに示した。
図1Cは、東アジア人、コーカサス人およびアフリカ人系統からの全ケース調節された対象(whole case-regulated subjects)またはe4ホモ接合体に関して、rs405509、rs449647、rs440446について遺伝子型頻度の分布を評価することにより得られた結果を図示する。ここで、遺伝子型頻度は、各ケースおよび対照における平均頻度として計算した。
【
図2】
図2は、東アジア人およびコーカサス人における皮質厚の減少を示す地図を図示する(
図2A)。一般線形モデルを適用し、固定因子としてAPOE e4/4およびe3/3を、ならびに共変量として年齢、性別および場の強度を使用することによって、皮質厚のポイントごとの違いを推定した。数は統計的差異(p<0.05)を表す。黒丸は内側嗅内および海馬傍回領域内の脳萎縮を表し、赤丸は楔前部領域内の脳萎縮を表す(
図2A)。内側側頭皮質(内側嗅内および海馬傍回領域)内(
図2B)ならびに楔前部内(
図2C)の平均皮質厚を、東アジア人およびコーカサス人におけるAPOE遺伝子型に応じて比較した。データはe3/3に対して正規化し、95%信頼区間を有するエラーバーとともに%として表した。棒グラフは、東アジア人およびコーカサス人におけるAPOE遺伝子型間で海馬体積を比較することによって得られた結果である(
図2D)。
【
図3】
図3は、rs405509 T-アレルがAPOEタンパク質の発現を低下させることを図示する。ヒト血清を抗APOEおよび抗トランスフェリン(TF)とともにウエスタンブロッティングにかけて、APOEタンパク質のrs405509依存的血清発現を調べる(
図3A)。APOE e3/3ホモ接合体におけるrs405509(G/G、G/TおよびT/T)遺伝子型について血清試料を選択する。棒グラフはAPOE発現の相対強度を示す(
図3B)。参照としてGG遺伝子型を使用した。正規化された対照としてトランスフェリン(TF)を使用した。データは平均±SEMである(
*p<0.05、
***p<0.001)。
【
図4】
図4は、APOE e4/4媒介性アルツハイマー病の発症に対するアジア人の感受性を図示する。アルツハイマー病については、e3/3を参照してAPOE e4/4のオッズ比を異なる人種群の間で比較した。棒グラフは、臨床診断に基づいたアルツハイマー病に対する(
図4A)、および神経病理学的に特定された系列に対する(
図4B)、e4/4のオッズ比を表す。
*データセットは、ロジスティック回帰によって解析し、†は以前の研究結果の引用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において、本発明者らは、大規模な研究を通して、異なる人種群の間でAPOE e4媒介性ADに対する感受性を解析した。その結果、e4ホモ接合体は、コーカサス人およびアフリカ人系統と比較して、東アジア人においてアルツハイマー病にかかりやすかった。さらに、本発明者らは、神経病理学的にアルツハイマー病と診断された患者および対照に対する関連研究によって、そのような人種差を確認した。少数の以前の研究によって、様々な集団における異なるAPOE e4アレル分布が報告されている(Farrer et al., 1997; Singh et al., 2006)。e4アレルの頻度はアフリカ、ヨーロッパおよびアジアの順番に高く、これは、アルツハイマー病に対するe4の危険性の順番と逆である。
【0023】
APOE e4プロモーターが嗅内皮質、海馬傍回皮質および楔前部の皮質厚の減少を促進することが報告されている(Donix et al., 2010; Foley et al., 2016; Thompson et al., 2011)。認知的に正常な対象における別の研究によって、e4を有する個体も皮質厚の減少があることが示唆された(Fouquet et al., 2014)。さらに、e4アレルを有する個体は、記憶機能に重要な役割を果たす海馬における重度の萎縮、および記憶障害を示した(Alexopoulos et al., 2011)。本発明では、本発明者らは、東アジア人とコーカサス人の両方において、APOE e3ホモ接合体と比較して、APOE e4ホモ接合体が、嗅内皮質、海馬傍回皮質および楔前部領域における皮質厚の激しい減少ならびに海馬の萎縮と関連することを発見し、この結果は以前の研究と矛盾がなかった(Donix et al., 2010; Foley et al., 2016; Thompson et al., 2011)。驚くべきことに、e4/4対象で観察されたこれらの皮質および海馬の萎縮は、コーカサス人よりも東アジア人で重度であることが確認された。本発明は、APOE e4/4を有する東アジア人は、コーカサス人と比較して、アルツハイマー病ならびに脳における皮質厚の減少および海馬の萎縮に対する危険性が高いことを示唆する。
【0024】
本発明者らは、集団間のe4/4媒介性ADに対する危険性の違いは、遺伝的背景、特に、APOE遺伝子周辺の多型の人種差のためであると仮定した。APOE e4はアルツハイマー病と関連する唯一のAPOE多型ではない。APOEプロモーターおよびイントロン領域内の多型が、ADの発症に対するAPOE e4の影響を調節することが報告されている(Bertram et al., 2007; Lambert et al., 2002; Lambert et al., 1998b; Lescai et al., 2011)。プロモーター中の2つのSNP(rs449647およびrs405509)ならびにイントロン中の1つのSNP(rs440446)は、アルツハイマー病に対するAPOEイプシロン変異の影響を調節することが評価された。-491AAおよび219TT遺伝子型がAPOEイプシロン遺伝子型とは無関係にADの危険性を増大させることが報告されている(Lambert et al., 2002; Lambert et al., 1998a; Lambert et al., 1998b; Limon-Sztencel et al., 2016; Wang et al., 2000)。さらに、rs405509が、認知能力への影響においてAPOE e4と相乗作用を有することが報告されている(Ma et al., 2016)。本発明者らは、これらのSNPが、異なる人種集団において異なるアレル頻度を示すことを解析した。本発明者らは、これらのSNPの中のrs405509の場合、韓国人および日本人を含めた東アジア人が、コーカサス人およびアフリカ人系統と比較して、全集団とe4ホモ接合体保有群の両方において、高頻度のrs405509-T(これはリスクアレルである)を保有することを確認した。このことは、e4ホモ接合体が、他の人種群と比較して、東アジア人においてアルツハイマー病の高い危険性を有することを支持する。同様に、コーカサス人は、アフリカ人系統と比較してrs405509-Tに対して高いアレル頻度を有すること、およびコーカサス人は、アフリカ人系統と比較して高いe4/4ホモ接合体オッズ比も有することが確認された。
【0025】
いくつかの神経イメージング研究によって、脳萎縮に対するAPOE e4ホモ接合体の影響が報告されているが、APOEプロモーター多型の影響は、まだはっきりとは解明されていない。以前の研究によって、中国人集団の非認知症関連の老化過程において、ヒトの脳に対するAPOEプロモーター領域中のrs405509多型の影響が報告されている。APOE e4とともにrs405509-TTを有する個体が、rs405509 G-アレルを有する個体と比較して、年齢依存的に皮質厚の萎縮を示すことが発見された(Chen et al., 2015a)。本発明者らは、rs405509-TT遺伝子型を有する個体が、e4ホモ接合体の中で、G-アレルを有する個体と比較して、アルツハイマー病と非常に関連しており、皮質厚および海馬体積の激しい萎縮を引き起こすことを発見した。特に、このパターンの皮質厚の減少は、内側側頭皮質(嗅内および海馬傍回領域)ならびに楔前部で観察され、海馬傍回領域の萎縮は以前の研究(Chen et al., 2015a)と類似している。本発明者らは、APOE e4ホモ接合体およびrs405509-TTを有する個体で、嗅内皮質、海馬傍回皮質および楔前部領域における皮質厚の激しい減少ならびに海馬の萎縮を確認した。本発明では、本発明者らは、アルツハイマー病およびe4/4媒介性脳萎縮の危険性の人種差は、rs405509多型の人種多様性のためであることを確認した。
【0026】
さらに、本発明者らは、rs405509-TTが、ヒトの脳および血清においてAPOEの発現低下を誘導することを実証した。rs405509 TまたはGアレルにおけるアレル置換を使用するレポーター遺伝子アッセイにおいて、本発明者らは、プロモーター中にrs405509-Tアレルを有するAPOE遺伝子はあまり発現していないことを実証し、これは、rs405509-Tを含有する危険性はAPOEタンパク質の減少のためであることを示唆する。
【0027】
上記のように、本発明者らは、東アジア人におけるAPOE e4ホモ接合体は、コーカサス人およびアフリカ人系統よりもアルツハイマー病にかかりやすいことを確認した。人種群の間のAPOEプロモーター多型の異なるアレル頻度は、APOE e4を有する個体に対して、アルツハイマー病の発症を差別的に起こしやすくするであろう。APOEタンパク質レベルの調節とのrs405509の関連性を考慮すると、rs405509-TTを有するe4 APOE個体におけるAPOEレベルの低下が、アルツハイマー病の危険性の増大を誘導することが示唆される。
【発明の形態】
【0028】
以下に、本発明を例により記載する。以下の例は例示目的のみであり、本発明の範囲はそれらに限定されない。
【0029】
材料および方法
(1)試料およびデータ
本発明では、完全長ゲノム情報、MRI脳画像情報および臨床診断情報を利用した。認知症コホートにおける2,075人の研究対象(主に朝鮮大学病院および他の協力病院から;正常対象の平均年齢:73.45±5.30(平均±SD)、アルツハイマー病患者の平均年齢:71.65±5.65(平均±SD)、正常対象の女性の割合:62.4%、アルツハイマー病患者の女性の割合:61.5%)については、完全長ゲノムの情報は血液を使用して獲得し、脳画像情報は各研究対象のMRIスキャン(3T MRI、Skyra, Siemen)によって獲得した。各研究対象は、認知症の診断に必要である神経心理学的検査(K-MMSEおよびSeoul Neuropsychological Screening Battery(SNSB))を受けた。その結果、正常、軽度認知機能障害または認知症の診断は、認知症クリニックの専門医によって行われた。診断結果によって、1,145人の対象が正常であり、930人の対象が認知症の患者であることが示された。さらに、韓国、光州広域市のthe National Research Center for Dementia(NRCD)のデータベースを使用した。本発明のすべての実験および研究のプロトコールは、朝鮮大学病院の役員会によって承認された。すべての志願者および患者の親族は、実験に参加する前に準備された同意書を提出した。東アジア人の対象は、2,309人の認知的に正常な個体および1,886人のAD患者からなっていた。コーカサス人のゲノムは、the Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI;http://adni.loni.usc.edu/)データベースから獲得し、コーカサス人の脳画像もADNIデータベースから得た。コーカサス人は、515人の正常対象および320人のAD患者からなっていた。
【0030】
ADの臨床診断は、the National Institute of Neurological and Communication Disorders and Stroke/Alzheimer's Disease and Related Disorders Association(NINCDS-ADRDA)のAD評価基準に従って行った(McKhann et al., 1984b)。軽度認知機能障害(MCI)は、現在同意されている基準に従って診断した(Winblad et al., 2004)。認知的に正常な群は、神経学的疾患がない、認知機能の障害がない、または日常生活において問題がない群である。脳MRI上で、局所性病変、頭部外傷歴または知能に影響を及ぼす可能性がある精神病を有する対象は、除外した。軽度の医学的異常(例えば、本態性高血圧、重度の合併症を伴わない糖尿病、または軽度の難聴)を有する対象は含めた。
【0031】
rs405509の危険性(オッズ比)に使用したコーカサス人のゲノムについては、the National Institute of Aging-Late Onset Alzheimer's Disease(NIA-LOAD)、the National Cell Repository for Alzheimer's Disease(NCRAD)、およびthe Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)からのデータセットを使用した。2つのデータセットまたは3つのデータセットを組み合わせ、解析した。E4/E4遺伝子型を有する個体のAPOEプロモーターの一塩基(single nucleotide)を使用した。NIA-LOAD、NCRADおよびADNIを組み合わせ、解析する場合は、E4/E4遺伝子型を有する個体は全体で395人であり、その中で、330人はアルツハイマー型認知症の患者であり、65人は正常対象であった。
【0032】
(2)脳アミロイドイメージング
18F-フロルベタベンPETイメージングを、従来の方法(Osama Sabri, 2015, ClinTrans1 Imaging, Barthel, 2011, Lancet_neurology)に従って実施した。アミロイドの病状を、脳アミロイド-βプラーク量(BAPL)スコアによって決定した。4つの脳領域(前頭皮質、後部帯状、外側側頭皮質、および頭頂葉皮質)のフロルベタベン(18F)PET画像を、設定領域皮質のトレーサー取り込み(RCTU)スコアリングシステム(1=取り込みなし、2=微量の取り込み、3=著しい取り込み)に従って評価した。次に、前頭皮質、後部皮質、外側側頭皮質、および頭頂葉皮質に対するRCTUスコアを、各PETスキャンについて、シングルプリセット3段階スコアリングシステムにおける脳アミロイド-βプラーク量(BAPL)スコア(1=アミロイド量なし、2=微量のアミロイド量、および3=有意なアミロイド量)によってまとめた。ピッツバーグ化合物B(PiB)を使用して陽電子放出断層撮影法(PET)で、インビボのアミロイドイメージングを実施した。脳内の関心領域(ROI)へのPiB沈着を、FreeSurfer version5.1ソフトウェア(Martinos Center for Biomedical Imaging)を使用して測定し、部分体積効果について補正した標準化された取り込み値の比(SUVR)を、各関心領域について計算した。前頭皮質、後部皮質、外側側頭皮質、および頭頂葉皮質領域の平均大脳皮質SUVRを、FreeSurferによって計算した。参照のための領域として小脳皮質を使用した。PiB陽性は1.42のSUVRと定義し、これは、PiB陽性について以前に定義された0.18の平均大脳皮質結合能に対応する。18F-フロルベタピルと11C-PiBの両方に対するコーカサス人のアミロイドPETデータは、ADNIデータベース(http://adni.loni.usc.edu)から得た。
【0033】
(3)データ生成および解析
SNPジェノタイピング
ゲノムDNAを、EDTAチューブ中に採取した全血液細胞から単離した末梢血白血球から抽出した。血液試料を1500×gで10分間遠心分離して血漿を除去し、血中白血球をDNA抽出に使用した。韓国人に最適化されたAffymetrixゲノムワイドジェノタイピングアレイ(Affymetrix(登録商標)Axiom KORV1.0)を使用して、試料をジェノタイピングした。KORV1.0は、Korea National Institute of HealthのGenome Science Centerによって設計され、Korean Chip Consortiumから得た。さらに、TaqmanまたはSNP type(Fluidigm)方法によるジェノタイピング解析を実施して、チップベースSNPジェノタイピングの正確性を評価した。ADNIのジェノタイピングデータは、ADNIデータベース(http://adni.loni.usc.edu)から得た。
【0034】
ゲノムワイドなデータインピュテーション
NRCDからの研究データセットは6,413個体からなっていた。ADNIからのデータセットは、ADNI-1データセット由来の818個体、ADNI-GO/2データセット由来の432個体、およびADNI-WGSデータセット由来の818個体からなっていた。試料の品質管理は、<95%の個体コールレート、性別ミスマッチ、ヘテロ接合性(平均から±3SD)、重複性または双生児、<95%のコールレートを有するSNP、<10-6のHWEP値を有するSNP、および<1%のMAFを含んでいた。HRCリファレンスパネルversion 1.1を使用して、各データセットを別々にインピュテーションした。NRCDからのHRCインピュテーションは、参照集団として東アジア人を選択することによって、プレフェーズ研究のハプロタイプとともに実施した。ADNIデータセットについては、インピュテーションは、参照集団として、HRCインピュテーションサーバー中のヨーロッパ人を選択することによって、プレフェーズ研究のハプロタイプとともに、別々に実施した。インピュテーション後に、低品質でインピュテーションされたSNP(info<0.5)をさらなる研究から除外した(McCarthy et al., 2016; Nagy et al., 2017; Surakka et al., 2016)。
【0035】
(4)イメージングプロトコール
韓国人対象からのMR画像の獲得
2,443人の韓国人対象について、1.5TのMRスキャナー(Magnetom Avanto, Siemens)(TR=1800ms;TE=3.43ms;TI=1100ms;15フリップ角;FoV=224×224;マトリックス=256×256;スライス数=176)を用いて、脳全体の、0.9mm付近のアキシャル磁化準備型高速グラディエントエコー(magnetization prepared rapid gradient-echo)(MPRAGE)画像を獲得した。3TのMRスキャナー(Skyra, Siemens)(TR=2300ms;TE=2.143ms;TI=900ms;9フリップ角;FoV=256×256;マトリックス=320×320;スライス数=178.体積)を用いて、0.8mm付近のサジタルMPRAGE体積を獲得した。すべての画像は、韓国、光州広域市、朝鮮大学病院にあるMRスキャナーを用いて獲得した。
【0036】
ADNIからのMR画像
認知的に正常な463人の対象、軽度認知機能障害を有する796人の対象、および310人のAD患者由来のベースラインの1.5Tおよび3TのMR画像を、ADNIデータベース(ADNI、http://adni.loni.usc.edu/)からダウンロードした。対象に関するすべてのMR画像は、標準的なADNI MPRAGEプロトコールに従って、1.5Tまたは3TのGE、PhilipsおよびSiemensの機器を用いて獲得した。1.5Tスキャナーについては、MPRAGEプロトコールに対する公称パラメーターは、以下の通りである:サジタル面、マルチコイルフェーズドアレイコヘッドコイルに対してTR=2300~2400ms(バードケージまたはボリュームヘッドコイルに対してTR=3000ms)、最小フルTE、TI=1000ms、フリップ角8°、FOV=240×240mm、192×192インプレーンマトリックスおよび1.2mmスライス厚。3Tスキャナーについては、MPRAGEプロトコールに対する公称パラメーターは、以下の通りである:サジタル面、TR=2300または3000ms、最小フルTE、T1=853~900ms、フリップ角8°~9°、FOV=256~260×240mm、256×256インプレーンマトリックスおよび1.2mmスライス厚(Jack et al., 2008)。AD対象は、MMSEについて20~26のスコア(Burns et al., 1998)およびCDR=0.5または1(Morris, 1993)に基づいて含めた。さらに、選択されたAD群は、可能性の高い(probable)ADに対する基準であるNINCDS/AARDA基準を満たしていた。健常対照については、CDRが0であり、認知症を有していない個体を含めた(Wolz et al., 2011)。
【0037】
(5)画像データの処理および解析
MR画像データ処理
画像処理は、脳構造解析(Dale et al., 1999; Fischl and Dale, 2000; Fischl et al., 2004)に使用されるパブリックドメインソフトウェアのFreeSurferソフトウェア(FreeSurfer 5.3.0)(FreeSurfer, http://surfer.nmr.mgh.harvard.edu/)を用いて実施した。FreeSurfer処理のための自動化パイプラインでDICOMフォーマットのMR画像を使用して、脳皮質表面の3次元モデルを構築した(Dale et al., 1999; Dale and Sereno, 1993; Fischl et al., 1999a)。処理において、画像の強度を正規化し、正規化した画像から頭蓋骨を除去した。次に、連結コンポーネントアルゴリズムを用いて皮質下セグメンテーション処理を開始し、発見された如何なる穴も、両方の大脳皮質半球について白質の単一充填体積を表すように充填した。さらに、テッセレーションおよび表面平滑化を用いて、如何なるメトリック歪みも減少させた。次に、精密化プロセスを実施して灰白質/白質の境界を作成し、次いで、最初の表面モデル構築を実施した。次に、表面を外側に変形させて、軟膜表面を形成した。最初に、灰白質/白質の表面上の各ポイントから軟膜表面までの最短距離を計算し、軟膜表面上のポイントから灰白質/白質までの最短距離を計算し、これによって、脳皮質の厚さの測定値を得た。次に、特定のポイントにおけるこれら2つの値の平均から最終的な皮質厚を得た。皮質厚は、三角グリッドを用いて、皮質外套内の任意のポイントまたは頂点を表す別の位置から約1mm離れた、各半球の163,842個の頂点について測定した。皮質の折りたたみパターンは、0mm、5mm、10mm、15mm、20mmおよび25mmの半値全幅ガウシアンカーネルを用いて地図を平滑化し、非剛体高次元球状平均化方法(non-rigid high-dimensional spherical averaging method)を用いて対象について平均を得ることによって、調整した。調整した地図は、対象の間のmm以下の違いさえ検出することができ、ボクセル解像度によって制限されない。さらに、FreeSurferを使用する自動化体積測定方法(Dale et al., 1999; Fischl and Dale, 2000; Fischl et al., 1999b)によって、皮下体積を獲得した。
【0038】
(6)画像の統計解析
異なるAPOEアレルを有する群の間の皮質厚の違いを、MATLAB(登録商標)用のSurfstat(http://www.math.mcgill.ca/keith/surfstat/)ツールボックス(R2012a, The Mathworks, Natick, MA, USA)を使用して統計的に解析した。本発明者らは、軟膜表面上の各々の非マスクポイントを統計的に試験した。固定因子としてAPOEアレル(e4/4対e3/3)を、ならびに共変量として性別、年齢、教育レベルおよび場の強度を使用して、一般線形モデル(GLM)を用いて、皮質厚のポイントごとの違いを特定した(Fan et al., 2010)。rs405509アレルの違いを評価するために、T/T-E4/4およびG/T-e4/4+G/G-e4/4のハプロタイプを有する対象を、e3/3を有する対象とは別に比較した。rs405509のGLMでは、本発明者らは、固定因子としてAPOEアレル(rs405509-e4/4ハプロタイプ対e3/3)を、ならびに共変量として性別、年齢、教育レベルおよび場の強度を使用して、皮質厚のポイントごとの違いを特定した(Chen et al., 2015b)。すべての皮質厚解析では、複数のポイントごとの皮質厚の比較のためのランダム場理論(RFT)に基づく補正を、クラスターレベルで適用し、p<0.05の偽発見率(FDR)補正値を通過したクラスターを有意とみなした(Taylor and Adler, 2003)(http://www.math.mcgill.ca/keith/surfstat/)。さらに、Rプログラム(R version 3.3.1)を使用して、APOEアレルを保有する群について、海馬体積および解剖学的な関心領域を統計的に比較した。固定因子としてAPOEアレル(e4/4対e3/3、rs405509-e4/4ハプロタイプ対e3/3)を、ならびに共変量として性別、年齢、教育レベル、診断および頭蓋内体積(ICV)を使用して、共分散解析(ANCOVA)を用いて、海馬体積の違いを評価した(Hickie et al., 2005; Zierhut et al., 2013)。次に、共変量として年齢、性別、教育レベルおよび診断を使用して、異なる群(e4/4対e3/3、rs405509-e4/4ハプロタイプ対e3/3)の間の関心領域(ROI)の違いを比較した。解析では、有意性レベルはp<0.05で考慮し、FDR補正がp<0.05のレベルであった場合、結果を有意とみなした(Stricker et al., 2013; Ye et al., 2016)。
【0039】
(7)統計解析
対照およびAD群の対象の割合をカイ二乗検定によって比較した。調整した(性別および年齢)解析と未調整の解析の両方について、95%信頼区間でロジスティック回帰分析を使用して、事象に対するオッズ比を計算した(Basaria et al., 2010)。SPSS(version 23.0)とRプログラム(version 3.3)の両方を使用して、すべての統計的検定を実施した。
【0040】
(8)ヒト血液試料からのAPOE遺伝子の発現
ウエスタンブロッティング
最初に、血清を全血(NRCDから得た)から回収した。SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングは、若干の変更を加えて、製造者の指示書に従い実施した(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)。0.1%Tween(登録商標)20を加えたPBS中の5%脱脂粉乳で膜を1時間ブロッキングし、続いて、一次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。一次抗体は、以下のように希釈し、使用した:1:1,000ウサギ抗APOE(D719N;Cell Signaling);1:1,000ウサギ抗トランスフェリン(ab109503;Abcam)。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート二次抗体は1:5,000で使用した。免疫活性はEZ-Western Lumi Plus(DoGen)で測定した。
【0041】
(9)レポーター遺伝子アッセイ
APOE遺伝子(位置1,983~+935)プロモーター領域を、正常対象およびAD患者から得た血液細胞由来のゲノムDNAから、以下のプライマーを使用して増幅した:フォワード、5’-GGGGTACCGAAAGCAGCGGATCCTTGAT3’(配列番号1);リバース、5’-CCCCTCGAGCTTCCTGCCTGTGATTGGC3’(配列番号2)。増幅したDNAをKpnIおよびXhoIで切断し、pGL3.ベーシックベクター(Promega)中にライゲーションした。以下のプライマーを使用して、rs405509(219G/T)のPCRベースの部位特異的変異誘発を使用するG→TおよびT→Gアレル置換を実施した:T→Gフォワード、5’-GAGGAGGGTGTCTGGATTACTGGGCGAG-3’(配列番号3);リバース、5’-CTCGCCCAGTAATCCAGACACCCTCCTC3’(配列番号4);G→Tフォワード、5’-GAGGAGGGTGTCTGTATTACTGGGCGAGG-3’(配列番号5);リバース、5’-CCTCGCCCAGTAATACAGACACCCTCCTC-3’(配列番号6)。アッセイは、PfuUltra High-Fidelity DNAポリメラーゼ(Agilent)を使用して実施した。
【0042】
(10)ルシフェラーゼアッセイ
HEK293T細胞を12ウェルプレート中で培養した。24時間後に、TransFectin(商標名)脂質試薬を使用して、0.25μgのホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子を有する0.25μgのpGL3(Promega)と0.25μgのpCMV-β-ガラクトシダーゼ(Clontech)とを、この細胞に24時間かけてコトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞をレポーター溶解バッファー(Promega)で溶解した。ルシフェラーゼ活性およびβ-ガラクトシダーゼ活性を、それぞれ、GloMax(商標名)ルミノメーター(Promega)およびEpochマイクロプレート分光光度計(BioTek)を使用して定量化した。ルシフェラーゼ活性をβ-ガラクトシダーゼ活性に対して正規化した。結果は3つの独立した実験を表す。
【0043】
(11)完全長ゲノム情報
完全長ゲノム情報は以下のように得た:正常対象、アルツハイマー型軽度認知機能障害を有する患者、およびアルツハイマー型認知症の患者と診断された対象の血液から単離したバフィーコートを使用して、QIAGEN DNAミニキットを用いて、gDNAを抽出し、次いで、これを定量化した。定量化は、ND-1000分光光度計ならびにQuant-iT PicoGreen dsDNA試薬およびキットを使用して実施した。次に、アガロース1.0%トリス-ホウ酸-EDTA(TBE;Invitrogen)ゲルで電気泳動を実施することによってDNAの品質を検査し、次いで、DNA品質管理を通過した試料について、マイクロアレイベースのジェノタイピングを実施した。AffymetrixのAxiom Koreanチップを製造者の指示書に従って使用して、各遺伝子型に関する情報を得た。マイクロアレイ化されていないSNPについて、インピュテーション方法によってジェノタイピングを実施した。完全長ゲノムインピュテーションのためにPlink、EIGENSTRAT、Shapeit、impute2、GTOOL、EAGLETOOLおよびminimac3プログラムを使用し、リファレンスパネルとして、1000ゲノム(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/variation/tools/1000genomes/)およびMichiganインピュテーションサーバー(https://imputationserver.sph.umich.edu/index.html)を使用して、インピュテーションを実施した。
【0044】
結果
APOE e4/4とアルツハイマー病の関連
アルツハイマー病との関連性の点から、本発明者らは、東アジア人、コーカサス人、およびアフリカ人系統という異なる人種群においてAPOE変異の危険性を解析した。対照およびアルツハイマー病と臨床的に診断された患者を含むすべての人種群において、対照とアルツハイマー病患者群との間で、APOE遺伝子型の分布およびアレル頻度の大きな違いが示された。これらの結果は、対照よりも、アルツハイマー病群のe4を有する対象で顕著であった。APOE e4はアルツハイマー病の重要な危険因子であるが、e4媒介性の危険性の人種差は確認されていなかった。アルツハイマー病の可能性が高いと臨床的に診断された患者、および正常対照を使用した解析において、東アジア人であるe4/4対象は、コーカサス人と比較して非常に高いオッズ比を示した(東アジア人およびコーカサス人について、それぞれ、オッズ比:e4/4=33.40および15.86)(表1)。表1では、オッズ比は、e3/3を参照してロジスティック回帰によって解析した。
【0045】
【0046】
e4/4媒介性の危険性が人種群に依存的であること、およびこの危険性が東アジア人およびコーカサス人の順番で高かったことは非常に驚くべき結果であった。本発明の結果は、APOE遺伝子型とアルツハイマー病との関連性を解析した以前の研究と矛盾がなかった(表1)。以下の表2は、臨床診断に基づくアルツハイマー病群および対照群の対象を示す。
【0047】
【0048】
アルツハイマー病のe4/4媒介性の発症における人種差を特定するために、本発明者らは、韓国人およびコーカサス人からの神経病理学的診断データセットを使用して、それらの間の関連を解析した(表3)。
【0049】
【0050】
両方の人種群において、アミロイド陰性群よりもアミロイド陽性群で多くのe4保因者が特定された(表4)。
【0051】
【0052】
APOE遺伝子型とアミロイド蓄積との関連に関する研究では、韓国人のe4/4対象は、コーカサス人と比較して著しく高いオッズ比を示し(韓国人およびコーカサス人について、それぞれ、e4/4に対するオッズ比=125.1および20.92)、これは、臨床的に診断された対象からの結果と矛盾がなかった(表1および5)。これらの結果は、東アジア人のe4ホモ接合体は、他の人種群よりもアルツハイマー病にかかりやすいことを示唆する。
【0053】
【0054】
APOE遺伝子周辺の多型のスクリーニング
東アジア人、コーカサス人、およびアフリカ人系統の順番である、人種的に異なるe4/4の危険性は、APOE周辺の遺伝子多型のためであることが推定された。原因となるメカニズムを調べるために、本発明者らは、異なる人種群の間のアレル頻度と関連する、APOE周辺の遺伝子の40kb領域内のSNPをスクリーニングした(
図1A)。40kbにわたる630個のインピュテーションされたSNPのうち、基準、すなわち、例えば東アジア人、コーカサス人、およびアフリカ人系統の順番またはその逆の順番のアレル頻度などの基準に従って、72個のSNPを選択した。続いて、本発明者らは、APOEの調整なしで、アルツハイマー病との有意な関連性およびマイナーアレル頻度に従って、SNPを取り出した。その結果、3つのSNP、rs449647、rs405509、およびrs440446が得られた。これらの多型は、APOEプロモーターおよびイントロン領域に位置した(
図1B)。これらは、東アジア人、コーカサス人、およびアフリカ人系統の間で、アレル(rs449647-A、rs405509-T、およびrs440446-G)頻度の大きな違いを示した(
図1C)。これらの中で、rs405509は、人種群の間で著しい違いを示した(1000個のゲノムデータベースに基づいて、東アジア人、コーカサス人、およびアフリカ人系統について、それぞれ、T-アレル頻度=0.67、0.48、および0.24)。特に、東アジア人由来のe4ホモ接合体は、90.4%のTT-遺伝子型を有していたが、コーカサス人およびアフリカ人由来のe4ホモ接合体は、それぞれ64.2%および21.3%のTT-遺伝子型を有しており、これは、rs405509のアレル頻度の違いが、異なる人種群の間のe4/4に関して、AD発症に対する感受性の違いをもたらし得ることを示す。rs449647およびrs440446は、異なる人種群の間で異なるアレル頻度を示したが、e4/4におけるそれらの頻度は、人種群の間で大きく違わなかった。
【0055】
rs405509とアルツハイマー病との関連
e3/4およびe4/4においてrs405509のTT遺伝子型がアルツハイマー病の高い危険性を与えるかどうかを調べるために、本発明者らは、e3/4およびe4/4対象においてrs405509の関連性を試験した。予想通り、rs405509-TTは、NRCDデータセット(東アジア人)由来の3/4とe4/4対象群の両方において著しく高いオッズ比を示し(表6)、これは、e4/4の危険性の人種差を示唆する。東アジア人において高いrs405509-TT頻度を有するE4ホモ接合体は、コーカサス人およびアフリカ人系統よりも、アルツハイマー病に対して高い感受性を示した。
【0056】
【0057】
さらに、e3/4およびe4/4媒介性アルツハイマー病の危険性に対するrs405509の影響を確認するために、本発明者らは、他のrs405509遺伝子型背景、すなわち、rs405509-TT、GT、およびGGにおいて、e3/4およびe4/4の関連性を解析した(表7)。その結果、e3/4およびe4/4対象は、NRCDとADNIデータセットの両方において、rs405509-Gアレル背景よりもrs405509-TT遺伝子型に対して高いオッズ比を示した。
【0058】
【0059】
APOE e4/4と脳萎縮との関連
APOE e4/4によって媒介される脳萎縮において人種差が示されるかどうかを確認するために、本発明者らは、東アジア人およびコーカサス人に対して、e4/4とe3/3対象との間で、一般線形モデルによって、ポイントごとの皮質厚解析を実施した。東アジア人とコーカサス人の両方で、e4/4対象は、e3/3よりも薄い皮質領域を示した(
図2A、2B、および2C)。e4/4依存的収縮が生じた領域は、嗅内皮質-海馬傍回-紡錘状回(entorhinal-parahippocampal-fusiform)、楔前部、および下頭頂小葉であった(P<0.05)。驚くべきことに、これらの領域の皮質厚の減少は、コーカサス人と比較して、東アジア人で強く示された。共分散解析(ANCOVA)を実施して、e4/4誘導性皮質萎縮の人種差を測定した。皮質萎縮が生じた領域の相対的平均皮質厚を、e3/3を参照して、e4/4対象について計算した。東アジア人とコーカサス人の両方で、嗅内皮質および海馬傍回皮質を含む内側側頭皮質、ならびに楔前部内の平均皮質厚に関して、e4/4とe3/3の間で大きな違いが示された(
*P<0.05、
**P<0.01)。さらに、東アジア人は、e4/4/とe3/4の間でコーカサス人よりも大きな違いを示した(
図2Bおよび2C)。東アジア人とコーカサス人の間の、e4/4における相対的皮質収縮の直接比較(e3/3に対して正規化)も、有意な結果を示した(
*P<0.05、
**P<0.01)。さらに、本発明者らは、東アジア人およびコーカサス人において、e4/4とe3/3対象の間で海馬体積を解析した。東アジア人とコーカサス人の両方で、海馬の萎縮は、e3/3よりもe4/4で著しく示され、e3/3と比較した場合のe4/4誘導性の海馬萎縮率は、コーカサス人よりも東アジア人で高かった(
**P<0.01)(
図2D)。これらの結果は、東アジア人は、皮質厚の減少および海馬の収縮を含めたAPOE e4/4媒介性脳萎縮に、よりかかりやすいことを示唆する。e4/4ホモ接合体における脳萎縮に対するrs405509の影響を調べるために、本発明者らは、コーカサス人対象において、e3/3を参照して、e4/4ならびにrs405509のそれぞれの遺伝子型の組み合わせ(e4/4-TT、e4/4-GT、およびe4/4-GG)に依存した皮質厚の減少を解析した(
図2E、2Fおよび2G)。rs405509-TTを有するe4/4対象は、内側側頭皮質(嗅内皮質および海馬傍回皮質)ならびに楔前部内で著しいクラスターを示した(P<0.05)。これに反して、rs405509-Gアレルを有するe4/4対象は、そのようなクラスターを示さなかった。ACNOVAを用いた定量的比較解析により、r405509-TT遺伝子型を有するe4/4対象は、e3/3対象と比較して、内側側頭皮質(F=8.38、P<0.01)および楔前部(F=10.707、P<0.01)内で著しい萎縮を示すことが示されたが、rs405509-GGを有するe4/4対象は、皮質領域内で如何なる有意性も示さなかった(
図2Fおよび2G)。本発明者らは、コーカサス人におけるrs405509-TTおよびrs405509-GGを有するe4/4対象において、海馬の萎縮も試験した。rs405509-TTを有するe4/4対象の海馬の収縮は、e3/3対象よりも強く示されたが、rs405509-GGを有するe4/4対象の収縮は顕著でなかった(
図2H)。これらの神経イメージングの結果は、rs405509におけるTT遺伝子型が、e4/4対象において、アルツハイマー病の危険性に影響を及ぼすだけでなく脳収縮にも関連することを支持する。表8は、神経イメージング解析に参加した対象を示す。
【0060】
【0061】
APOEの発現
本発明によれば、rs405509は、e4ホモ接合体において、アルツハイマー病の発症および脳収縮と関連する。したがって、本発明者らは、rs405509とAPOEの調節との生物学的関連性を解析した。rs405509遺伝子型がAPOEタンパク質の発現を調節するかどうかを調べるために、本発明者らは、e3/3対象のrs405509-TT、GT、およびGG遺伝子型のヒト血清に対してウエスタンブロッティングを実施した(
図3A)。rs405509-TTを有する対象のAPOEタンパク質のレベルは、rs405509-GGおよびGTを有する対象のレベルと比較して、驚くべきレベルまで低下した(
図3A)。これらの結果は以前の研究と矛盾がなく、これは、APOEのレベルの低下がアルツハイマー病の危険性の増大と関連することを示唆する。さらに、APOEの転写活性に対するrs405509の影響を、レポーター遺伝子アッセイによって確認した。このアッセイは、rs405509-Tアレルを有するAD患者およびrs405509-Gを有する認知的に正常な個体に由来するAPOEプロモーター断片を使用して実施した。各プロモーター領域のrs405509アレルを別のアレルに変更し、次いで、ルシフェラーゼベースのレポーター遺伝子アッセイを実施した(
図3Cおよび3D)。rs405509位置におけるTからGへの一塩基多型は、APOEプロモーター活性の驚くべき増大をもたらした(対照と比較して160%)が、GからTへの置換は、プロモーター活性の劇的な低下をもたらした(対照と比較して66%)。これは、rs405509-Tアレルが、Gアレルと比較してAPOEの転写を低下させることを示唆する。これらの結果は、rs405509が、APOEタンパク質のレベルを調節することによってe4/4の影響を調節することを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、血液または生物試料から採取したゲノムDNAにおいて、APOE遺伝子型およびAPOEプロモーター中のrs405509の遺伝的変異を解析することにより、認知症の危険性に対するより正確な予測を可能にする方法を提供する。本発明は、複雑な臨床的および病理学的情報、例えばMRI脳画像、神経心理学的検査、脳脊髄液(CSF)検査、およびアミロイドPET検査とともに、認知症に関するビッグデータに基づいて、将来の診断技術に寄与することができる。
【外国語明細書】