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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033751
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】改善されたナノ粒子送達系
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20220222BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220222BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20220222BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220222BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K31/337
A61K31/4184
A61K31/496
A61K45/06
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K47/34
A61K47/54
A61P43/00 123
A61K47/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021181961
(22)【出願日】2021-11-08
(62)【分割の表示】P 2018500438の分割
【原出願日】2016-07-14
(31)【優先権主張番号】62/192,973
(32)【優先日】2015-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/252,396
(32)【優先日】2015-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507250966
【氏名又は名称】セレーター ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン, レオン
(72)【発明者】
【氏名】ルイ, ウィニー
(72)【発明者】
【氏名】ターディ, ポール
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー, ローレンス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】治療剤の組合せの送達を改善し、また毒性を低減するための組成物を提供する。
【解決手段】ナノ粒子を含む医薬組成物のセットを含む医薬組成物であって、前記ナノ粒子が80nm未満の平均直径を有し、a)各治療剤がリンカーを介して疎水性成分とカップリングしてプロドラッグを形成している、少なくとも2種類の治療剤、及びb)疎水性部分及び親水性部分を含む両親媒性安定剤であって、疎水性部分と親水性部分との重量比が8:5~12:5の範囲であり、かつ、疎水性部分の分子量が8kD~15kDである、両親媒性安定剤を含む、医薬組成物とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を含む医薬組成物のセットを含む医薬組成物であって、前記ナノ粒子が80nm未満の平均直径を有し、
a)各治療剤がリンカーを介して疎水性成分とカップリングしてプロドラッグを形成している、少なくとも2種類の治療剤、及び
b)疎水性部分及び親水性部分を含む両親媒性安定剤であって、疎水性部分と親水性部分との重量比が8:5~12:5の範囲であり、かつ、疎水性部分の分子量が8kD~15kDである、両親媒性安定剤
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記両親媒性安定剤がジブロックコポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記両親媒性安定剤において、疎水性部分がポリ乳酸(PLA)またはポリ(乳酸-co-グリコール酸(PLGA)を含み、親水性部分がポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも2種類の治療剤が同じナノ粒子に含まれている、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
一方の治療剤がタキサンであり、かつ、他方の治療剤がHSP阻害剤であるか、または、一方の治療剤がPI3K/AKT/mTOR阻害剤であり、かつ、他方の治療剤がRAS/RAF/MEK/ERK阻害剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記プロドラッグのそれぞれにおいて、疎水性成分がコレステロールであり、かつ/またはリンカーがジグリコール酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、水相と有機相とを混合することによって形成され、前記有機相が前記コポリマー及び前記プロドラッグを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記混合が、一方が水相を含み、他方が有機相を含むジェット流の急速混合によって実施される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ナノ粒子が20~80nmの平均直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
更に第3の治療剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第3の治療剤が、プロドラッグとして供給され、前記ナノ粒子にカプセル化されている、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
2種類以上の治療剤の組合せを投与する方法であって、請求項1に記載の組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項13】
前記投与が非経口投与により行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
対象が、ヒト、または非ヒト哺乳類、または鳥類である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の組成物を調製する方法であって、水相と、前記コポリマー及び前記プロドラッグを含む有機相とを急速混合することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
本出願は、2015年7月15日に出願された米国特許出願第62/192,973号、及び2015年11月6日に出願された同第62/252,396号の利益を主張し、これらの出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、治療剤の組合せの送達を改善し、また毒性を低減するための組成物及び方法、ならびにそのような組合せを含む市販用パッケージまたは製品に関する。
【背景技術】
【0003】
がん、AIDS、感染性疾患、免疫障害、及び心血管障害などの多くの生命を脅かす疾患の進行は、複数の分子機構からの影響を受ける。この複雑性により、単一の薬剤で治癒を達成しようとする試みは、限られた成功しか収めていない。したがって、疾患と戦うため、特にがんの治療のために、しばしば薬剤の組合せが使用されてきた。急性リンパ性白血病及び転移性結腸直腸がんなどのがんにおいて、投与された薬剤の種類と治癒率との間に強い相関関係があると考えられている(Freiら、Clin. Cancer Res.(1998)4:2027~2037;Fisher,M.D.、Clin.Colorectal Cancer(2001)1:85~86)。特に、化学療法剤をヒートショックプロテイン阻害剤などの増強剤と組み合わせることにより、治療現場で多数のがん治療が成功している。
【0004】
タキサンは、広く使用されている抗がん剤である。タキサンは、天然においてTaxus属(例えば、イチイ)に属する植物により生成される。「タキサン」には、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、及び他のタキサン類縁体またはそれらの誘導体が含まれる。
【0005】
本明細書に記載されている増強剤は、多くの場合はアポトーシスを調節することによって、腫瘍形成に影響を与える分子標的剤である。これらの増強剤には、ヒートショックプロテイン(HSP)阻害剤、特にHSP90阻害剤(HSPi)が含まれる。HSP90は、がん細胞の生存に必要な様々なタンパク質を安定化する分子シャペロンである。いくつかの種類のがんでHSP90が過剰発現していることが見出されていることから、HSP90の阻害が、複数の種類の悪性腫瘍を治療において効果を奏する可能性が示された。
【0006】
研究者らは、いくつかのタキサン/HSP90阻害剤(HSP90i)の組合せの遊離薬物カクテルを投与することにより、がん治療に有望な改善をもたらすことを実証してきた。これらの遊離薬物カクテルの使用は、利点がある一方で、広範囲にわたる胃腸及び眼に対する毒性を含む、有効性を制限する様々な欠点が存在する。更に、遊離薬物カクテルを投与すると、多くの場合において薬剤の一方または両方が標的部位に到達する前に急速に排出される。
【0007】
RAS/RAF/MEK/ERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)経路は、最も周知の細胞内経路の1つであり、受容体チロシンキナーゼ、サイトカイン、及びヘテロ三量体Gタンパク質共役受容体により制御される。この経路を構成する一連のタンパク質は、受容体と共に細胞表面上にあり、後に続くタンパク質を介して、細胞内で情報を核内DNAに伝達する。経路は、MAPK(ERKとも呼ばれる、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)などのタンパク質を含み、これらのタンパク質は近隣のタンパク質にリン酸基を付加することによって情報伝達し、それにより「オン」または「オフ」スイッチとして作用する。経路のタンパク質のうちの1つが突然変異すると、「オン」または「オフ」の位置から動かなくなる可能性があり、このことは多くのがんの発生にとって必要なステップである。MAPK/ERK経路の構成成分は、これらががん細胞において見出されたときに発見された。「オン」または「オフ」スイッチを逆転させるいくつかの薬物が、がん治療のために調査されている。
【0008】
PI3K/AKT/mTOR経路、またはホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)/AKT/哺乳類ラパマイシン標的経路は、細胞の成長と生存、細胞周期制御、及びプログラム細胞死の中心となる、別の周知の細胞内シグナル伝達経路である。このシグナル伝達カスケードの異常な活性化は、ほとんどのヒトがんを含むいくつかの疾患状態と関係し、そのためこの経路を構成するタンパク質の多くが治療標的となっている。PI3K/AKT/mTOR経路は、細胞の増殖、接着、遊走、浸潤、代謝、及び生存、ならびに血管新生において主要な役割を果たす。EGF、shh、IGF-1、インスリン、及びCaMを含む、この経路を促進させる公知の因子が多く存在し、PTEN、GSK3B、及びHB9を含む、この経路を阻害することが知られている因子も多く存在する。
【0009】
研究者らは、これらの経路に対するいくつかの阻害剤の遊離薬物カクテルを投与することにより、がん治療に有望な改善をもたらすことを実証してきた。これらの遊離薬物カクテルの使用は、利点をもたらす一方で、広範囲にわたる胃腸及び眼に対する毒性を含む、有効性を制限する様々な欠点が存在する。更に、遊離薬物カクテルを投与すると、多くの場合において薬剤の一方または両方が標的部位に到達する前に急速に排出される。
【0010】
排出を改善するため、一般に多くの抗がん薬が、血流からの急速な排出をもたらす機構から「遮蔽」されるように設計された送達ビヒクルに組み込まれている。ナノ粒子が、この「遮蔽」効果をもたらすことができることは周知であり、これらは、多くの場合に治療剤の半減期を延長すると共に、毒性及び/または関連する薬剤耐性を低減させることができる。適切に設計された送達ビヒクルにカプセル化することにより、カプセル化された薬物の協調した薬物動態をもたらすこともできる。しかし、特定の薬物または1種類以上の薬物の送達ビヒクル内への製剤化は、ビヒクルのポリマー組成物が個々の薬物の薬物動態に異なる影響を与えるため困難であることが証明されている。したがって、1種類の薬物の保持及び放出に適している組成物が、第2の薬物の保持及び放出に適していないことがある。現在、これらの経路に対する阻害剤のいくつかの活性的な組合せが臨床試験で有効性を示しているが、これらの薬物の毒性を低減し、かつ薬物動態を制御することにより腫瘍への送達が制御されるように設計された医薬品製剤は記載されていない。
【0011】
PCT公報WO2006/014626(‘626)は、様々な種類の活性剤の放出のために粒子状構築物を記載している。この公報のナノ粒子は、治療部分がリンカーを介して疎水性成分にカップリングしているプロドラッグを、両親媒性安定剤を使用してナノ粒子にアッセンブルさせている。この製剤は、遊離薬物を粒子から放出するように切断され得るリンカーの結合が加水分解されることによって、遊離薬物が協調して粒子から放出されるように設計されている。これは、本発明のナノ粒子が後の血流中の加水分解によりインタクトなプロドラッグを放出するように設計されているのと対照的である。この‘626公報に記載されているナノ粒子のサブセットは、コポリマー、及び疎水性部分と親水性部分との特定の比、ならびに疎水性部分の分子量の要求量、及びナノ粒子のサイズの適切な選択の結果得られる。これは、‘626公報のナノ粒子が焦点を合わせているものと異なる挙動をもたらす。
【0012】
本発明者らは、インビボで投与されたときに、半減期が延長され、毒性が低減され、薬剤耐性が低減され、かつ/または優れた有効性をもたらす、薬物組合せを含む特定のナノ粒子製剤を初めて見出した。特に例示的な薬物組合せは、タキサンまたはその誘導体及びHSP90阻害剤、ならびにRAS/RAF/MEK/ERK阻害剤及びPI3K/AKT/mTOR阻害剤の組合せを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
2つ以上の治療剤を、前記治療剤にリンカーを介してカップリングしている疎水性成分のプロドラッグコンジュゲートとしてそれぞれ供給すること、前記プロドラッグを適切な比の疎水性部分及び親水性部分のコポリマーと混合して、前記プロドラッグを適切なサイズのナノ粒子にカプセル化すること、並びに、前記混合物を水相と混合して、前記ナノ粒子を形成することによって、多様な治療剤を対象に提供できるような組成物が得られ、最大忍容量が増加し、長期間にわたって血漿濃度を所望のレベルに維持できることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって一態様において、本発明は、ナノ粒子を含む医薬組成物であって、該ナノ粒子の平均直径は、80nm未満、好ましくは20~80nm、より好ましくは40~80nmであり、該ナノ粒子は少なくとも2種類の治療剤を含み、ここで、各治療剤はリンカーを介して疎水性成分にカップリングしてプロドラッグを形成し、かつ、前記ナノ粒子は疎水性部分及び親水性部分のコポリマーを含み、ここで、前記疎水性部分と親水性部分との重量比は8:5~12:5の範囲であり、かつ、疎水性部分の分子量が8kD~15kDである、医薬組成物に関する。
【0015】
プロドラッグは、同じナノ粒子にカプセル化してもよいし、別のナノ粒子にカプセル化してもよい。同じナノ粒子もしくはそれぞれ別のナノ粒子のいずれかにカプセル化した前記薬剤の組合せを単一の組成物として投与することもできるし、または各プロドラッグ含有するナノ粒子の別々の組成物を投与してもよい。したがって、本明細書において「組成物」は、単一組成物それ自体のみならず、組成物の「セット」も含まれ、セットは、組み合わせて使用される複数の治療剤のプロドラッグを含む複数のナノ粒子を含む。したがって、「セット」は、それぞれ治療剤のプロドラッグを含むナノ粒子を含む個別の組成物を事前に混合する必要なく薬剤の組合せを提供する、単なる代替的な方法である。したがって、「組成物」には、投与前に混合することなく別々の製剤として組合せを対象に適用する場合が含まれる。組成物の「セット」で提供される場合、投与は、同時または逐次でありうる。
【0016】
タキサンと熱ショック阻害剤の組合せ、または様々なキナーゼ経路の阻害剤の組合せが例に用いられているが、本発明の組成物は、治療剤の任意の望ましい組合せを容易に含むことができ、2種類より多い種類の治療剤を含んでもよい。
【0017】
例示的な一実施形態において、本発明は、少なくとも1つのタキサン及び1つのHSP90iと安定して結合しているナノ粒子を使用して、有効かつ低毒性量のタキサン/HSP90i薬物の組合せを投与するための組成物及び方法に関する。これらの組成物は、2つ以上の薬剤を協調して疾患部位に送達することができ、それによって、有効性を強化するために、薬剤が治療活性を示す濃度で疾患部位に存在することを確実にする。薬剤が、ナノ粒子もしくはミセル系送達ビヒクルに一緒にカプセル化されていても、あるいは、疾患部位において各薬剤の治療活性を示す濃度が達成されるように投与されるナノ粒子もしくはミセル系送達ビヒクルにそれぞれ別々にカプセル化されていても、この効果を得ることができる。組成物の薬物動態(PK)は、送達ビヒクルそれ自体によって協調して送達されるように制御される(但し、送達系のPKが同等であることが条件である)。一態様において、タキサンとHSP90iは、薬物コンジュゲートとして製剤化される。
【0018】
この特定の態様において、本発明は、本発明の組成物を投与することにより、所望の標的に治療に有効な量のタキサン/HSP90i薬物の組合せを送達する方法に関する。
【0019】
本発明はまた、本発明の組成物を投与することにより、タキサン/HSP90i薬物の組合せの副作用プロファイルを低減させる方法に関する。「低減された副作用プロファイル」は、本発明のナノ粒子に結合していない、タキサンまたはタキサン/HSP90i薬物の組合せ製品に関連する、胃腸、眼、及び/または他の副作用の低減から測ることができる。タキサン/HSP90iの組合せの遊離薬物カクテルまたはナノ粒子カプセル化タキサンそれ自体のいずれかに関連する副作用は当業者に公知であり、本発明の製剤を使用することにより改善される副作用プロファイルは容易に測定することができる。したがって、タキサン/HSP90i薬物の組合せを含むより安全かつ/またはより毒性の低い組成物が、本明細書において提供される。
【0020】
本発明は更に、本発明のタキサン/HSP90i薬物の組合せの組成物を投与することによる、薬剤耐性を低減させる方法も対象とする。したがって、薬剤耐性が低減されたタキサン/HSP90i薬物の組合せを含む組成物が、本明細書において提供される。好ましくは、前記薬剤耐性は、タキサン特異的薬剤耐性である。
【0021】
本発明はまた、送達ビヒクルに安定して結合しているタキサンの送達前、送達と同時、または送達後に、HSP90iを投与することにより、治療に有効な量のタキサン/HSP90i薬物の組合せを送達する方法に関する。好ましい態様において、タキサン及び/またはHSP90iは、それぞれ疎水性成分にコンジュゲートされている。
【0022】
本発明の別の例示的な態様において、RAS/RAF/MEK/ERK(「ERK」)経路及び/またはPI3K/AKT/mTOR(「AKT」)経路の阻害剤の組合せの有効かつ低毒性量を、これらの阻害剤の少なくとも2種類に安定して結合しているナノ粒子を用いて投与するための組成物及び方法が開示される。これらの組成物は、2種類以上の薬剤を協調して疾患部位に送達させることができ、それによって、有効性を強化するために、薬剤が治療活性を示す濃度で疾患部位に存在することを確実にする。薬剤が、ナノ粒子(ミセルを含む)系送達ビヒクルに一緒にカプセル化されていても、あるいは、疾患部位において各薬剤の治療活性が示される濃度が達成されるように投与されるナノ粒子もしくはミセル系送達ビヒクルにそれぞれ別々にカプセル化されていても、この効果を得ることができる。組成物の薬物動態(PK)は、送達ビヒクルそれ自体によって、協調して送達されるように制御される(但し、送達系のPKが同等であることが条件である)。一態様において、ERK及び/またはAKT阻害剤は、薬物コンジュゲートとして製剤化される。
【0023】
この例示的な態様において、本発明は、本発明の組成物を投与することにより、所望の標的に治療に有効な量のERK/AKT阻害剤の薬物組合せを送達する方法に関する。
【0024】
本発明はまた、本発明の組成物を投与することにより、ERK/AKT阻害剤薬物の組合せの副作用プロファイルを低減させる方法に関する。「低減された副作用プロファイル」は、本発明のナノ粒子に結合していないERK/AKT阻害剤薬物の組合せ製品に関連する、丘疹膿疱性発疹、胃腸、眼、及び/または他の副作用の低減から測ることができる。ERK/AKT阻害剤薬物の組合せ、またはそれぞれ個別の阻害剤のいずれかの遊離薬物カクテルに関連する副作用は当業者に公知であり、本発明の製剤を使用することにより改善される副作用プロファイルは容易に測定することができる。したがって、ERK/AKT阻害剤薬物の組合せを含むより安全かつ/またはより低毒性の組成物が、本明細書において提供される。
【0025】
本発明は更に、本発明のERK/AKT阻害剤薬物の組合せの組成物を投与することによる、薬剤耐性を低減させる方法も含む。したがって、薬剤耐性が低減されたERK/AKT阻害剤薬物の組合せを含む組成物が、本明細書において提供される。
【0026】
本発明はまた、送達ビヒクルに安定して結合しているAKT阻害剤の送達前、送達と同時、または送達後に、ERK阻害剤を投与することにより、治療に有効な量のEKR/AKT阻害剤薬物の組合せを送達する方法も含む。好ましい態様において、ERK阻害剤及び/またはAKT阻害剤は、それぞれ疎水性成分にコンジュゲートされている。
【0027】
ある実施形態において、本発明の組成物と共に追加的な治療剤が投与される。
【0028】
本発明の組合せのうちのいくつかは、増殖性疾患の治療に有用である。増殖性疾患は、主に腫瘍疾患(または、がん)(及び/または任意の転移)である。本発明の組合せは、固形腫瘍である腫瘍の治療に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】インビボで投与されたときの、ナノ粒子カプセル化ドセタキセル(丸)及びナノ粒子カプセル化AUY922(四角)と比較した、遊離ドセタキセル(逆三角)、遊離AUY922(三角)の血漿濃度(注射用量のパーセントとして測定)を示すグラフである。
図2】個別に及び組合せて投与されたドセタキセル及びAUY922の遊離薬物の最大忍容量(MTD)と比較した、ナノ粒子の組合せとして投与されたドセタキセル及びAUY922の相対的忍容性を示すグラフである。
図3】本発明のナノ粒子に同時カプセル化されたドセタキセルとAUY922の組合せを、wt/wt比でドセタキセル:AUY922が1:2となるように、10mgのドセタキセル用量(四角形)または20mgのドセタキセル用量(三角形)のいずれかでタキサン耐性があると特徴づけられているST996PDX腫瘍担持マウスモデルに投与したときの有効性を示すグラフである。
図4】遊離薬物の組合せと比較して、本発明のナノ粒子に一緒にカプセル化されたドセタキセルとAUY922の組合せを、タキサン耐性があると特徴づけられているHCT15腫瘍担持マウスモデルにMTDで投与したときの有効性を示すグラフである。
図5A】セルメチニブとイパタセルチブ(ipatasertib)について、遊離薬物の組合せ(丸)と比較した、本発明のナノ粒子に一緒にカプセル化された組合せをHCT116腫瘍担持マウスモデルに投与したときの有効性を示すグラフである。セルメチニブは、遊離薬物組合せでは10mg/kg用量で、カプセル化された場合には50mg/kg用量で投与する。イパタセルチブは、遊離薬物組合せでは20mg/kg用量で、本発明のナノ粒子に同時カプセル化された場合には、50mg/kg用量(逆三角)または100mg/kg用量(菱形)で投与する。
図5B】セルメチニブとイパタセルチブについて、遊離薬物組合せ(丸)と比較した、本発明のナノ粒子に同時カプセル化された組合せをHCT116腫瘍担持マウスモデルに投与したときの有効性を示すグラフである。セルメチニブは、遊離薬物組合せでは20mg/kg用量で、カプセル化された場合には50mg/kg用量で投与する。イパタセルチブは、遊離薬物組合せでは40mg/kg用量で、本発明のナノ粒子に一緒にカプセル化された場合には、50mg/kg用量(逆三角)または100mg/kg用量(菱形)で投与する。
図6】セルメチニブとイパタセルチブについて、遊離薬物の組合せ(丸)と比較した、本発明のナノ粒子に一緒にカプセル化された組合せをHCT-15腫瘍担持マウスモデルに投与されたときの有効性を示すグラフである。セルメチニブは、遊離薬物組合せでは20mg/kg用量で、カプセル化された場合には50mg/kg用量で投与する。イパタセルチブは、遊離薬物組合せでは40mg/kg用量で、本発明のナノ粒子に同時カプセル化された場合には100mg/kg用量で投与する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書で適用する好ましい薬物送達アプローチは、2つの周知の概念、すなわち、プロドラッグの使用及びミセルまたはナノ粒子送達ビヒクルの利用を組み合わせたものである。大部分のプロドラッグ技術の目的は、典型的には疎水性薬物をより親水性にして、水性環境における溶解度を上昇させることである。しかし、そのような薬剤をより疎水性にしてポリマーベースの送達系との適合性を高めることによって、2つの別個の薬物の特性を、有効放出速度が合致するように調整することができる。個別の薬物はそれ自体が不溶性であるため、ミセルまたは親油性ナノ粒子担体を使用することでこれらのプロドラッグを水性環境に維持することができる。
【0031】
このような系の設計を最適化する際に薬物のインビボ利用可能性に影響を与える可能性があるパラメーターには、(1)担体粒子の血漿からの除去、(2)粒子からの薬物の分配速度、及び(3)プロドラッグの加水分解速度が含まれる。理想的な系では、粒子はi.v.投与時にはインタクトなままであり、中心血液コンパートメント(central blood compartment)から比較的ゆっくりと排出され、かつ、プロドラッグの加水分解は比較的速く、製剤の安定性の問題を回避するため、好ましくはpHではなく酵素的に分解される。本発明の組成物の薬物利用可能性に影響を与える律速プロセスは、粒子から血漿へのプロドラッグの分配速度である。タキサン/HSP90iまたはERK/AKT阻害剤の薬物組合せのインビボにおける薬物動態挙動の制御を達成するための本発明の一般的な手法を検証するため、ドセタキセルとAUY922、及びセルメチニブとイパタセルチブに基づく一連のプロドラッグについて調べた。
【0032】
抗新生物剤の性能を改善するための機能的な親油性がんプロドラッグを生成するため、または当該薬物に関連する製剤化の問題に対処するために、多くの試みがなされてきた。これらには、リン脂質、コレステロール、αブロモ脂肪酸、オレイン酸、フラーレン、及びドコサヘキサエン酸とのコンジュゲートが含まれる。プロドラッグは、リポソーム、油エマルション、またはミセルなどの脂質ビヒクルに製剤化されてきた。これらの報告のいくつかは、インビボモデルにおいて非プロドラッグ形態より改善された有効性を示している。しかし大部分の場合において、これらは血漿からの除去について何も情報を示していないか、あるいは分布相ではなく薬物の除去相に焦点を合わせて、投与後の数日間にわたるインビボデータを示している。の薬物除去情報のうち投与後の最初の24時間は、ナノ粒子状担体で観察されているように、細網内皮系(RES)により透過性と保持(EPR)が亢進し、かつ排出が減少することから、腫瘍送達の観点から最も関心の高い期間である。本発明は、血漿循環半減期の延長及び最大薬物負荷能を提供できることから、ミセルまたはナノ粒子に基づく。加えて、ミセルは、他の組織と比べて高いレベルで腫瘍に蓄積することが示されている。
【0033】
次に、典型的な薬物組合せとして本明細書に例示されている実施形態について一般的に述べる。
【0034】
タキサン、特にパクリタキセル及びドセタキセルは、一連の癌腫の治療に広く使用されている化学療法剤である。臨床的な材料としてのパクリタキセルは、Cremophor(登録商標)EL/エタノールとして製剤化されており、投与前に緩衝液で希釈される。ミセル、リポソーム、またはエマルションを使用してパクリタキセルの製剤化を改善することを試みたことが記載されている多くの報告が文献として存在する。しかし、ほぼ全てにおいて、これらの担体はパクリタキセルを製剤化しているが、数分間オーダーの半減期で担体から薬物が急速に分配されるので、インビボにおける真の送達ビヒクルとして作用しないことが、報告された薬物動態データから明らかである。
【0035】
上述した原理は、タキサンとの併用療法のためにナノ粒子に含まれるHSP90iコンジュゲートを製剤化すること、ならびに併用療法のためにAKT及び/またはERK阻害剤コンジュゲートを製剤化することにも適用される。一例において、一連のドセタキセル及びAUY922プロドラッグ、ならびに関連するミセル/ナノ粒子製剤の開発が本発明に含まれる。別の例示的な実施形態において、例えば、セルメチニブ及びイパタセルチブプロドラッグ、ならびに関連するミセル/ナノ粒子製剤の開発が記載される。
【0036】
本発明は、循環半減期が延長された粒子状送達ビヒクルの設計に関し、両薬剤の放出は、ナノ粒子コポリマーの組成、及び/または脂質アンカー疎水性の程度、及び/または架橋剤の不安定性を操作することによって調節される。インビボにおけるプロドラッグの薬物動態は、コポリマーの各ブロックの性質とサイズに大きく依存することが示された。同様に、インビボにおけるプロドラッグの有効性は、コポリマーの性質、結合、及び/または脂質アンカーの相対的な分配速度に依存することを示している。
【0037】
特に、広範囲の治療剤の組合せにわたって、製剤は最も有効であるのは、ナノ粒子のサイズが80nm未満、好ましくは20~80nm、より好ましくは40~80nmの平均直径であるときであり、かつ、該ナノ粒子は、治療剤がリンカーを介して疎水性成分にカップリングしているプロドラッグと、疎水性部分と親水性部分を重量比が8:5~12:5の範囲、好ましくは10:5(または2:1)となるように含み、該疎水性部分が8kD~15kDの分子量を有するコポリマーとを粒子状にアッセンブルさせて形成されるときであることが見出された。これにより、プロドラッグが血流に遊離されたときに、治療剤それ自体の放出が比較的急速であるため、プロドラッグの粒子からインタクトな状態で容易に分配される。
【0038】
上述のように、2つの例は、タキサンとHSP90iのプロドラッグ、またはAKTとERK阻害剤のプロドラッグ、及びミセルまたはナノ粒子送達ビヒクルを用いて、薬物動態の制御を促進している。これらの薬物をより疎水性にしてポリマーに基づく送達系との適合性を高めることによって、薬物組合せ組成物の薬物動態を制御することができる。追加の抗新生物剤を含有する製剤の特性を、該追加の抗新生物剤のインビボでの有効放出速度が2つの薬物組合せと合致するように調整することも可能である。ミセルまたは親油性ナノ粒子担体を使用して、これらのプロドラッグ及び他の薬剤を水性環境中に懸濁させることもできる。
【0039】
以下に示すように、長期循環プロドラッグナノ粒子は、最大忍容量で非カプセル化薬物の組合せよりも有意に改良された治療活性を提供し、したがって、これらの種類の製剤はそれ自体有益である。
【0040】
例示的な医薬組成物は、タキサンのプロドラッグ及びHSP90iのプロドラッグ、またはAKT阻害剤のプロドラッグ及びERK阻害剤のプロドラッグから形成されたナノ粒子またはミセルを含み、プロドラッグは、それぞれリンカーを介して疎水性成分にカップリングしている該薬剤のコンジュゲートであり、ここで、前記プロドラッグは、脂質及び/または両親媒性安定剤と結合している。一部の実施形態においては、脂質を必要としない。
【0041】
本発明はまた、本発明の組成物をもちいて、上記の組合せまたは他の薬物の組合せを投与する方法、本発明の組成物を追加の抗新生物剤の製剤と組み合わせてこれらを投与する方法、ならびにこれらの組成物及び製剤を調製する方法も含む。
【0042】
本発明のナノ粒子送達ビヒクルは、治療目的もしくは医用画像化などのために、非経口投与のみならず、局所、経鼻、皮下、腹腔内、筋肉内、エアロゾルもしくは経口送達で、または標的部位もしくはそれに近接した位置にある、天然もしくは合成のインプラント装置の表面又は内部に送達ビヒクルを適用することによっても使用することができる。好ましくは、本発明のナノ粒子送達ビヒクルは非経口投与、最も好ましくは静脈内投与により使用される。
【0043】
本明細書に記載される好ましい実施形態は、網羅することまたは開示された正確な形態に本発明の範囲を限定することを意図するものではない。これらは、本発明の原理及びその適用、ならびに実践的な使用を最良の方法で説明して、本発明が示すところを当業者が理解できるようにるすために選択及び記載されている。
【0044】
例示的な薬物
タキサン
タキサンは、広く使用されている抗がん薬の一種で、Taxus属(例えば、イチイ)に属する植物により天然に生成されるジテルペンである。本明細書において「タキサン」は、パクリタキセル(Taxol(商標))、ドセタキセル(Taxotere(商標))、カバジタキセル、及び他のタキサン類縁体またはその誘導体を含む。パクリタキセルは、元はイチイの木由来で、その類縁体にドセタキセル及び類似の構造の他の化合物が含まれる。Taxol(商標)は、Cremophor(商標)により製剤化されたパクリタキセルの市販化された形態である。つい最近、別のタキサンであるカバジタキセルが、ホルモン抵抗性前立腺がんの治療用としてFDAにより認可された。
【0045】
パクリタキセルは、上述の一連の癌腫の治療に広く使用されている化学療法剤である。
【0046】
ドセタキセルは、細胞分裂を妨げることにより作用する、臨床的に十分に確立された抗有糸分裂抗がん剤である。局所進行性または転移性の乳がん、頭頸部がん、胃がん、ホルモン抵抗性前立腺がん、及び非小細胞肺がんの治療用途でFDAにより認可されている。ドセタキセルは、パクリタキセルの約2倍の効力があるが(有糸分裂紡錘体の中心体に対するドセタキセルの効果による)、パクリタキセルと同等の有効性である。これはドセタキセルが多数の異なる機構で細胞の薬剤耐性を引き起こしやすいためと思われる。
【0047】
本発明で用いられるドセタキセルプロドラッグの例を以下に示す。
【0048】
【化1】
【0049】
HSP90阻害剤
本明細書において「増強剤」または「分子標的増強剤」は、アポトーシス活性の調節を含む、腫瘍形成を標的とする化合物を指し、これに限定されるものではないが、熱ショックタンパク質(HSP)阻害剤を含む。本発明のHSP阻害剤は、これらに限定されるものではないが、HSP90阻害剤、HSP70阻害剤、HSP60阻害剤、HSP27阻害剤、及びHSP10阻害剤を含む。好ましくは、HSP90阻害剤(HSP90i)が用いられる。
【0050】
いくつかの細胞現象、標的化経路、及びより重要な疾患進行にHSP90が関与していることから、熱ショックタンパク質の中でもHSP90への注目が高まっている。HSP90は、その多くが腫瘍形成において必須の役割を果たす大多数のタンパク質の翻訳後折り畳みに関与するマルチシャペロン複合体の主要な構成成分である。悪性形質転換の維持や、がん細胞の生存、成長、及び浸潤能の増加に必須の多くの重要な発癌性タンパク質の立体構造、安定性、及び機能をHSP90が調節する。HSP90阻害剤は、これらのタンパク質の分解を誘導する。
【0051】
HSP90を特異的標的とし、その機能を阻害してクライアントタンパク質の枯渇をもたらす薬物が利用可能となったことにより、HSP90はがん治療における新規で期待される標的となった。現在多数のHSP90阻害剤が様々ながんについて臨床試験中である。HSP90阻害剤は、天然産物であるゲルダナマイシン及びラディシコール、ならびに半合成誘導体の17-N-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン(17AAG)を含む。AUY922(または、ルミネスピブ(luminespib)として知られる「NVP-AUY922」)は、がん治療の実験的薬物候補である。
【0052】
これらのHSP90阻害剤の多くは、それ自体強い毒性がある。例えば、ゲルダナマイシンは有効なHSP90阻害剤であるが、その強い毒性及び肝臓損傷能のためにインビボで使用することができない。半合成誘導体の17AAGは、幾分かより弱い毒性でありながらゲルダナマイシンと同じ効力を有し、現在臨床試験中である。AUY922も、それ自体が低用量で強い毒性を有することが示されている。
【0053】
本発明で用いられるHSP90iプロドラッグの例を以下に示す。
【0054】
【化2】
【0055】
RAS/RAF/MEK/ERK阻害剤
本明細書において「RAS/RAF/MEK/ERK阻害剤」、または「MEK阻害剤」、または「ERK阻害剤」は、RAS/RAF/MEK/ERK経路の任意のポイントで活性を調節するいかなる阻害剤をも含む。そのような阻害剤は、例えば、セルメチニブ、GSK1120212、TAK-733、RDEA119、U0126、PD98059、及びD-87503を含む。PD98059などのこれらの阻害剤の多くは、MEK1及び/またはMEK2に高度に選択的な阻害剤である。一部の阻害剤はアロステリック阻害により作用し、一部は非ATP競合的阻害剤であり、一部は可逆的阻害剤であるが、他はそうではない。
【0056】
セルメチニブは、AZD6244としても知られ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MEKまたはMAPK/ERKキナーゼ)1及び2を阻害することにより作用する、臨床的に十分に確立された抗がん剤である。
【0057】
本発明で用いられるセルメチニブプロドラッグの例は、グリコレートまたはスクシネート連結のいずれかを介して連結しているセルメチニブ-コレステロールプロドラッグであり、以下に例を示す。
【0058】
【化3】
【0059】
PI3K/AKT/mTOR阻害剤
本明細書において「PI3K/AKT/mTOR阻害剤」、または「AKT阻害剤」は、PI3K/AKT/mTOR経路の任意のポイントで活性を調節するいかなる阻害剤をも含む。該阻害剤は、例えば、イパタセルチブ、ウォルトマンニン、GCK690693、ペリフォシン、及びSC79を含む。
【0060】
ステロイド代謝産物であるウォルトマンニンなどの一部の阻害剤は、PI3Kを共有結合的に阻害することにより作用する。イパタセルチブなどの他の阻害剤はAKTを標的とする。上述と同様に一部はATP競合的阻害により作用し、他は非ATP阻害剤である。
【0061】
本発明で用いられるPI3K/AKT/mTOR阻害剤プロドラッグの例は、グリコレートまたはスクシネート連結のいずれかを介して連結しているイパタセルチブ-コレステロールプロドラッグであり、以下に例を示す。
【0062】
【化4】
【0063】
プロドラッグの組合せのためのナノ粒子送達ビヒクルの調製
送達ビヒクルには、ポリマーナノ粒子、ポリマー微粒子、ブロックコポリマーミセル、ポリマー脂質ハイブリッド系、誘導体化単鎖ポリマー、脂質ミセル、リポタンパク質ミセル、脂質安定化エマルション、シクロデキストリンなどが含まれうる。
【0064】
ナノ粒子及び微粒子は、ポリマーシェルに囲まれた薬物の濃縮コア(ナノカプセル)を含んでいてもよいし、またはポリマーマトリックスの全体にわたって分散されている固体もしくは液体(ナノ球体)として含むことができる。ナノ粒子及び微粒子を調製する一般的な方法は、Soppimathら.(J.Control Release(2001)70:1~20)に記載されており、その内容は本明細書に組み込まれる。使用できる他のポリマー送達ビヒクルには、親水性シェルに囲まれた疎水性コアを含む、薬物含有ブロックコポリマーミセルが含まれ、これは一般に疎水性薬物の担体として利用され、Allenら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces(1999)16:3~27に示される方法で調製することができる。ポリマー-脂質ハイブリッド系は、脂質単層に囲まれたポリマーナノ粒子からなる。ポリマー粒子は、疎水性薬物を組み込む積荷スペースとして機能し、一方、脂質単層は、疎水性コアと外部水性環境の間を安定化させるように遮る。ポリカプロラクトン及びポリ(d,l-ラクチド)などのポリマーを使用することができ、一方、脂質単層は、典型的には脂質の混合物から構成される。適切な調製方法は、ポリマーナノ粒子について上述したものと同様である。誘導体化単鎖ポリマーは、生物学的に活性な薬剤と共有結合してポリマー-薬物コンジュゲートを形成するのに適合したポリマーである。ポリアミノ酸、デキストリンまたはデキストランなどの多糖、及びN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コポリマーなどの合成ポリマーを含むポリマー-薬物コンジュゲートの合成のために、多数のポリマーが提案されている。適切な調製方法は、Veronese及びMorpurgo、IL Farmaco(1999)54:497~516に詳述されており、これらは本明細書に組み込まれる。
【0065】
ミセルは、疎水性コアに存在する難溶性薬剤の送達に利用される両親媒性脂質またはポリマー構成成分から構成される、自己組織化粒子である。ミセル送達ビヒクルの様々な調製方法が利用でき、当業者は容易に実施できる。例えば、脂質ミセルは、Perkinsら、Int.J.Pharm.(2000)200:27~39(参照により本明細書に組み込まれる)に記載された方法で調製することができる。リポタンパク質ミセルは、低密度及び高密度のリポタンパク質及びカイロミクロンを含む天然または人工リポタンパク質から調製することができる。脂質安定化エマルションは、脂質の単層または二重層などの乳化構成成分により安定化された油充填コアを含むように調製されたミセルである。コアは、トリアシルグリセロール(トウモロコシ油)などの脂肪酸エステルを含んでいてもよい。単層または二重層は、DSPE-PEGなどの親水性ポリマー脂質コンジュゲートを含むことができる。これらの送達ビヒクルは、ポリマー脂質コンジュゲートの存在下で油を均質化することにより調製することができる。脂質安定化エマルションに組み込まれる薬剤は、一般に難水溶性である。ステアリン酸エステルまたはポリ(エチレンオキシド)ブロック-ポリ(ヒドロキシエチル-L-アスパルトアミド)及びポリ(エチレンオキシド)ブロック-ポリ(ヒドロキシエチル-L-アスパルトアミド)のミセルなどのリポタンパク質に類似した特性を示す合成ポリマー類縁体も、本発明を実施するために用いることができる(Lavasanifarら、J.Biomed.Mater.Res.(2000)52:831~835)。
【0066】
本発明の好ましい態様において、ナノ粒子は自己組織化する。ある実施形態において、ナノ粒子は追加の安定剤を必要とせず、自己安定性である。
【0067】
よって、送達ビヒクルは、上記組合せの治療濃度について一定の送達を達成する。したがって、各薬剤の血漿濃度は、該組成物を含むビヒクルに薬剤を一緒にカプセル化するのみで維持することができ、またはビヒクルが組成物の薬物動態を制御して同じように血漿薬物濃度を維持する場合、薬剤は別々のビヒクルにカプセル化することができる。
【0068】
プロドラッグ送達
本発明は、治療剤の組合せの送達特性が改善された組成物であって、前記治療剤がプロドラッグとして製剤化された組成物を提供する。本発明のプロドラッグは、薬物を疎水性成分にコンジュゲートすることにより作製される。製剤の薬物動態は、疎水性成分の性質を操作することで、ならびに、ミセルまたはナノ粒子、特にコポリマーの構成成分を操作することで制御できるため、薬物送達の望ましい特徴を達成することができる(例えば、タキサンプロドラッグの薬物動態を、HSP90iプロドラッグ及び/または他の抗新生物剤を含有する製剤の薬物動態に合致させて、改善された協調薬物送達系を与えることができ、それによって、腫瘍に送達されたHSP90i及びタキサンの濃度を実質的に投与されたままとなる)。したがって、HSP90iの適合可能な製剤と組み合わせた、改善されたタキサンプロドラッグ製剤を使用して、インビトロで決定されるタキサン:HSP90iの相乗作用比を、1.5または2の係数内に維持することができる。同じ方法及び組成物を使用して、AKT阻害剤及びMEK阻害剤の組合せについて類似した結果が得られる。これらの製剤は、がん及び他の過剰増殖性適応症の治療に有用である。治療剤濃度の維持は、血液または血漿中の薬剤レベルを経時的に決定することにより、容易に測定することができる。協調組成物は、血液または血漿中で測定される投与濃度を、少なくとも1時間、または4時間、または更には24時間にわたって、前述の限度内に維持する。
【0069】
本発明のナノ粒子状組成物において、脂質がプロドラッグと結合してもよい。そのような脂質は、典型的には、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスホコリンなどのリン脂質、及び対応するホスファチジルエタノール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロールなどである。脂肪酸鎖は不飽和であってもよく、例えばオレイン酸及びリノレイン酸を含む。脂肪酸が同一である必要はない。加えて、脂質部分はスフィンゴミエリンなどのスフィンゴシン、またはそれ自体、ビタミンEコハク酸エステルまたはビタミンEアジピン酸エステルなどのトコフェロールエステルでありうる。
【0070】
プロドラッグ及び疎水性成分
本発明のプロドラッグの生成に使用される疎水性成分は、ポリマーまたは天然生成物を含んでいてもよい。適切な疎水性ポリマー部分の例としては、これに限定するものではないが、以下のポリマー:メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート(BA)、イソブチルアクリレート、2-エチルアクリレート、及びt-ブチルアクリレートを含むアクリレート;エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、及びイソブチルメタクリレートを含むメタクリレート;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;酢酸ビニル、ビニルバーサテート(vinylversatate)、プロピオン酸ビニル、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、ビニルピリジン、及びビニルイミダゾールを含むビニル;アミノアルキルアクリレート、アミノアルキルメタクリレート、及びアミノアルキル(メタ)アクリルアミドを含むアミノアルキル;スチレン;セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びポリマーのポリ(D,Lラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(アルキルカーボネート)、及びポリ(オルトエステル)、ポリエステル、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサノン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリ酸無水物(polyanhydride)、ポリホスファゼン(polyphosphazene)、ポリ(アミノ酸)、ならびにこれらのコポリマー(一般に、Illum,L.、Davids,S.S.(編)Polymers in Controlled Drug Delivery、Wright、Bristol、1987;Arshady、J.Control.Release(1991)17:1~22;Pitt、Int.J.Phar.(1990)59:173~196;Hollandら、J.Control.Release(1986)4:155~180参照);ポリ(L-アミノ酸)に基づいた疎水性ペプチド系ポリマー及びコポリマー(Lavasanifar,A.ら、Adv.Drug Deliver.Rev.(2002)54:169~190)、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)(「EVA」)コポリマー、シリコーンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリジエン(ポリブタジエン、ポリイソプレン、及びこれらのポリマーの水素化形態)、ビニル-メチルエーテル及び他のビニルエーテルの無水マレイン酸コポリマー、ポリアミド(ナイロン6,6)、ポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(エーテルウレタン)、ポリ(エステル-尿素)を挙げることができる。特に好ましいポリマー疎水性物質には、ポリ(エチレン酢酸ビニル)、ポリ(D,L-乳酸)オリゴマー及びポリマー、ポリ(L-乳酸)オリゴマー及びポリマー、ポリ(グリコール酸)、乳酸とグリコール酸のコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(バレロラクトン)、ポリ酸無水物、ポリ(カプロラクトン)またはポリ(乳酸)のコポリマーが含まれる。非生物学的な利用に特に好ましいポリマー担体は、ポリスチレン、ポリアクリレート、及びブタジエンを含む。ポリマーは、1つまたは複数の官能基化できる基を含んでいなければならず、官能基は誘導体化によりポリマーに組み込まれてもよいし、またはポリマー化合物がそもそも有していてもよい。疎水性成分としてのポリマーは、800~200,000の分子量を持たなければならず、一価または二価官能部位を有するポリマーの好ましい分子量の範囲は1,000~10,000である。複数の誘導体化のための官能基部位を有するポリマーの好ましい分子量は、コンジュゲート薬物当たり1,000~10,000である。
【0071】
コンジュゲートのための官能基または官能基に変換可能な基を有する天然物としては、疎水性ビタミン(例えば、ビタミンE、ビタミンK及びA)、カロテノイド及びレチノール(例えば、ベータカロテン、アスタキサンチン、トランス及びシスレチナール、レチノイン酸、葉酸、ジヒドロ葉酸、レチニル酢酸エステル、レチニルパルミチン酸エステル)、コレカルシフェロール、カルシトリオール、ヒドロキシコレカルシフェロール、エルゴカルシフェロール、α-トコフェロール、α-トコフェロール酢酸エステル、α-トコフェロールニコチン酸エステル、及びエストラジオールが挙げられる。好ましい天然物は、コレステロールまたはC22炭素鎖であり、これらは容易に得ることができる。
【0072】
疎水性成分の性質に応じて、1つより多い、これには実質的に1つより多い場合を含む、薬物を複数の連結部位を介して収容できることがある。ポリマー部分は、薬物が連結することができる100個もの部位を有することができる。ビタミンEなどのより単純な疎水性成分は、そのような部位を1個だけ有する。このように単一疎水性成分にカップリングする薬物の数は、1つのみであり得、または2、5、10、25、100個、及びそれ以上、ならびにその間の全ての整数でありうる。例えば、薬物とのカップリングのために、多数の官能基を有する上述のポリマーを容易に調製することができる。二官能性疎水性成分は、2つのOH、COOH、またはNH基末端を有する上に列挙した疎水性ポリマー鎖を含む。多官能性疎水性成分は、ポリマー主鎖のいくつかまたは全てのモノマー単位に、複数のOH、COOH、またはNH基を有する、上に列挙した全てを含む。これらの官能基は単なる例示であり、連結のために官能基を形成することができる他の部分には、フェニル置換基、ハロ基などが含まれる。典型的には、疎水性成分が疎水性ポリマーである場合、連結のための複数の部位を有することができる。疎水性成分が比較的小さな分子の場合、該分子が有する利用可能な官能基の数だけリンカーを収容する。
【0073】
両親媒性安定剤コポリマー
本発明において使用される「両親媒性安定剤」は、好ましくは、親水性部分及び疎水性部分を含むポリマー化合物である。より好ましくは、疎水性ブロックとカップリングした親水性ブロックのコポリマーである。「疎水性」は、上述に定義されたとおりである。本発明において「親水性」は、水溶液(すなわち、上述において定義された生理溶液)中に少なくとも1.0mg/mlの溶解度で溶解する部分を指す。したがって、両親媒性安定剤において、疎水性領域は、単独では水性媒体に0.05mg/ml未満の溶解度を示し、親水性領域は、単独では水性媒体に1mg/mlを超える溶解度を示す。例えば、ポリエチレングリコールとポリ乳酸、またはポリ(乳酸-co-グリコール酸)、またはポリスチレンとのコポリマーが含まれる。典型的な疎水性ポリマーには、ポリスチレン、及びポリメタクリレートの疎水性誘導体、ならびにポリビニル誘導体が含まれる。典型的な親水性構成成分には、ポリエチレングリコール、及び疎水性ポリマーの親水性誘導体、ならびにデキストラン及びデキストラン誘導体、及びポリアミノ酸が含まれる。この列挙は、例示であり、網羅するものではない。本発明の方法により形成されるナノ粒子は、グラフト、ブロック、またはランダム両親媒性コポリマーにより形成することができる。これらのコポリマーは、500g/モル~50,000g/モル以上の間、または約3,000g/モル~約25,000g/モルの間、または少なくとも2,000g/モルの分子量を有することができる。
【0074】
両親媒性安定剤の適切な疎水性ブロックの例としては、以下のものが含まれるが、これらに限定されない:メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート(BA)、イソブチルアクリレート、2-エチルアクリレート、及びt-ブチルアクリレートを含むアクリレート;エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、及びイソブチルメタクリレートを含むメタクリレート;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;酢酸ビニル、ビニルバーサテート、プロピオン酸ビニル、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、ビニルピリジン、及びビニルイミダゾールを含むビニル;アミノアルキルアクリレート、アミノアルキルメタクリレート、及びアミノアルキル(メタ)アクリルアミドを含むアミノアルキル;スチレン;セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートスクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリ(D,Lラクチド)、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(アルキルカーボネート)、及びポリ(オルトエステル)、ポリエステル、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリジオキサノン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(タルトロン酸)、ポリ酸無水物、ポリホスファゼン、ポリ(アミノ酸)、ならびにこれらのコポリマー(一般に、Illum,L.、Davids,S.S.(編)Polymers in Controlled Drug Delivery、Wright、Bristol、1987;Arshady、J.Control.Release(1991)17:1~22;Pitt、Int.J.Phar.(1990)59:173~196;Hollandら、J.Control.Release(1986)4:155~180参照);ポリ(L-アミノ酸)に基づいた疎水性ペプチド系ポリマー及びコポリマー(Lavasanifar,A.ら、Adv.Drug Deliver.Rev.(2002)54:169~190)、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)(EVA)コポリマー、シリコーンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリジエン(ポリブタジエン、ポリイソプレン、及びこれらのポリマーの水素化形態)、ビニルメチルエーテル及び他のビニルエーテルの無水マレイン酸コポリマー、ポリアミド(ナイロン6,6)、ポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(エーテルウレタン)、ポリ(エステル-尿素)。特に好ましいポリマーブロックには、ポリ(エチレン酢酸ビニル)、ポリ(D,L-乳酸)オリゴマー及びポリマー、ポリ(L-乳酸)オリゴマー及びポリマー、ポリ(グリコー」ル酸)、乳酸とグリコール酸のコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(バレロラクトン)、ポリ酸無水物、またはポリ(乳酸)が含まれる。
【0075】
両親媒性安定剤の適切な親水性ブロックの例としては、以下が含まれるが、これらに限定されない:ポリビニルアルコール;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びマレイン酸を含むカルボン酸;ポリオキシエチレンまたはポリエチレンオキシド;ポリアクリルアミド、ならびにジメチルアミノエチルメタクリレート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びスチレンスルホネートとのコポリマー、ポリビニルピロリドン、デンプン及びデンプン誘導体、デキストラン及びデキストラン誘導体;ポリリシン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸などのポリペプチド;ポリヒアルロン酸、アルギン酸、ポリラクチド、ポリエチレンイミン、ポリイオネン、ポリアクリル酸、及びポリイミノカルボキシレート、ゼラチン、及び不飽和エチレンモノまたはジカルボン酸。ポリビニルアルコールなどのポリマー安定剤を、それ自体で使用することもできる。
【0076】
好ましいブロックは、ジブロックまたはトリブロックリピートである。好ましくは、本発明のブロックコポリマーは、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ乳酸、乳酸とグリコール酸の混合物、ポリカプロラクトン、ポリアクリル酸、ポリオキシエチレン、及びポリアクリルアミドのブロックを含む。適切な親水性ポリマーの列は、Handbook of Water-Soluble Gums and Resins、R.Davidson、McGraw-Hill(l980)に記載されている。
【0077】
グラフトコポリマーでは、グラフト部分の長さは変わりうる。好ましくは、グラフトセグメントは炭素数12~32個のアルキル鎖の長さ、または6~16個のエチレン単位と同等の長さである。更に、ポリマー主鎖のグラフト化は、溶媒化またはナノ粒子安定化特性を強化に役立つ。ポリエチレンとポリエチレングリコールのジブロックコポリマーにおける疎水性主鎖のグラフトブチル基は、ポリエチレンブロックの溶解度を増加させる。コポリマーのブロック単位をグラフト化するのに適した化合物部分は、アミド、イミド、フェニル、カルボキシ、アルデヒド、またはアルコール基などの種類の基を有するアルキル鎖を含む。市販の安定剤の一例は、Uniqema Coから市販されているHypermerファミリーである。両親媒性安定剤は、また、動物または魚コラーゲン由来のゼラチンなどのゼラチンファミリーであってもよい。
【0078】
本発明のある実施形態において、コポリマーは、ポリ乳酸(PLA)-PEG、ポリスチレン(PS)-PEG、またはポリ(乳酸-co-グリコール酸(PLGA)-PEGコポリマーである。ある実施形態において、コポリマーはPLAを含む。PLA含有ナノ粒子は、より長い半減期を持ち得る。他の実施形態において、コポリマーは、PLGA構成成分が10,000~15,000ダルトンであるPLGA-PEGコポリマーである。ある実施形態において、コポリマーは、PLGA構成成分が10,000~15,000ダルトンであり、PEG構成成分がおよそ5,000ダルトン以下であるPLGA-PEGコポリマーである。ある実施形態において、PLA、PS、またはPLGAは、8,000~14,000ダルトンの分子量を有する。本発明の特定の実施形態において、コポリマーの疎水性成分と親水性成分の構成比は、ナノ粒子の平均サイズを決める。PEGを使用する場合、疎水性構成成分:PEGの重量:重量比は少なくとも約2:1であり、すなわち、8:5~12:5の範囲である。好ましくは、ナノ粒子の平均サイズは、80nm未満、例えば、40~80nmである。より好ましくは、ナノ粒子の平均サイズは、75nm未満である。あるケースでは、ナノ粒子の平均サイズは、約20~80nm、約20~75nm、または約50~75nmである。ある実施形態において、タキサンプロドラッグ:HSP90iプロドラッグ:コポリマーの比は、1:1:4~1:1:16、または1:1:4~1:1:12であり、AKT阻害剤プロドラッグ:ERK阻害剤プロドラッグ:コポリマーの比は、1:1:4~1:1:16、または1:1:4~1:1:12である。
【0079】
本発明のナノ粒子を作製するとき、混合前にプロドラッグが溶媒に適切に溶解することを確実にすることが重要である。特定の実施形態では、溶媒の性質がナノ粒子の平均サイズを変える。PLGAによるコポリマーでは、アセトニトリルが好ましい溶媒である。PLAを用いたコポリマーでは、ジメチルホルムアミド(DMF)が好ましい溶媒である。ある実施形態において、本発明のナノ粒子を製造する温度はナノ粒子の平均サイズを変えない。ある実施形態において、本発明のナノ粒子は、4℃、-20℃、及び-80℃もの低温で安定している。ある実施形態において、本発明のナノ粒子は、少なくとも1回の凍結/解凍後に、平均サイズ及び薬物負荷量を維持する(90%を超える薬物負荷量が保持された10nm未満の粒径変化として測定される)。
【0080】
本発明の組成物のインビボ投与
本発明の組成物は、ヒト、ならびに家畜類及び/または鳥類を含む温血動物に投与することができる。医薬組成物に加えて、動物薬使用に適した製剤を調製し、対象に適した方法で投与することができる。動物薬の好ましい対象は、哺乳類の種、例えば非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びニワトリを含む。対象は、実験動物、例えば、特にラット、ウサギ、マウス、及びモルモットも含んでもよい。ヒトの病気の治療では、用量、スケジュール、及び投与経路に関する本発明の組成物の使用法を有資格医師が確立されたプロトコールに従って決定する。本発明の送達ビヒクル組成物にカプセル化された薬剤が、対象の健康な組織により低い毒性を示す場合、その適用において用量を漸増させることもできる。
【0081】
好ましくは、本発明の医薬組成物は非経口的に、すなわち、動脈内、静脈内、腹腔内、皮下、または筋肉内に投与される。より好ましくは、医薬組成物は、静脈内または腹腔内にボーラス注射によって投与される。例えば、参照により組み込まれる、Rahmanらの米国特許第3,993,754号、Searsの米国特許第4,145,410号、Papahadjopoulosらの米国特許第4,235,871号、Schneiderの米国特許第4,224,179号、Lenkらの米国特許第4,522,803号、及びFountainらの米国特許第4,588,578号参照。
【0082】
他の方法において、本発明の医薬または化粧用調合剤は、組織に直接適用することによって、標的組織と接触させることができる。適用は、局所的に、「開放的」または「閉鎖的」方法によって行うことができる。「局所的」とは、皮膚、中咽頭、外耳道などの環境に露出された組織に、多剤調合剤を直接適用することを意味する。「開放的」方法とは、患者の皮膚の切開と医薬調合剤が適用される下層組織の直接的な可視化を含む方法である。これは、一般に、肺にアクセスするための開胸術、腹部内臓にアクセスするための開腹術、または標的組織への他の直接的な外科的アプローチなどの外科的方法によって達成される。「閉鎖的」方法は、内部標的組織は直接可視化されないが、皮膚の小さな創傷を介した機器の挿入によってアクセスする侵襲的方法である。例えば、調合剤を針洗浄術により腹膜に投与することができる。あるいは、調合剤を内視鏡装置によって投与することができる。
【0083】
本発明の送達ビヒクルを含む医薬組成物は標準的な技法によって調製され、水、緩衝水、0.9%食塩水、0.3%グリシン、5%デキストロースなどを含んでもよく、安定性を向上させるためにアルブミン、リポタンパク質、グロブリンなどの糖タンパク質を含んでもよい。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌することができる。得られた水溶液を使用のために包装し、または無菌条件下で濾過して凍結乾燥してもよく、該凍結乾燥調合剤は、投与前に滅菌水溶液と組み合わされる。組成物は、生理的条件に近づける必要がある場合には、pH調整剤及び緩衝剤、浸透圧調整剤などの薬学的に許容される補助物質を含有してもよく、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0084】
医薬製剤における送達ビヒクルの濃度は、例えば、約0.05重量%未満、通常または少なくとも約2~5重量%から、10~30重量%程度まで広範囲に変更することができ、選択された特定の投与様式に従って、主に液量、粘度などにより選択される。例えば、濃度を高くして、治療における流体投与量を減少させることができる。あるいは、刺激性脂質から構成される送達ビヒクルは、低濃度に希釈して投与部位の炎症を和らげることができる。診断では、使用される特定の標識、診断された疾患状態、及び医師の判断によって投与される送達ビヒクルの量が決まる。
【実施例0085】
以下の実施例は説明のために提供されるものであり、本発明を制限するものではない。
【実施例0086】
タキサン/HSP90阻害剤ナノ粒子組合せ用のプロドラッグ合成
プロドラッグの合成
ドセタキセルのヒドロキシル基間の反応速度の差を利用して、ドセタキセル誘導体を選択的に調製した。用いた反応条件下では、TLCでモニターすると、顕著なレベルのジアシル生成物が生成される前に、大部分のドセタキセルが消費された。カラムクロマトグラフィーを使用して、粗反応混合物中の未反応ドセタキセル、ジアシル生成物、及び他の不純物を除去した。最終生成物の純度及び同定は、それぞれHPLC及びNMR分析で確認した。
【0087】
ドセタキセルコンジュゲートの合成では、ドセタキセル(1当量)、脂肪酸(2当量)、及び4-N,N-ジメチルアミノピリジン(3当量)をアルコール非含有クロロホルムに溶解した。次にジイソプロピルカルボジイミド(1.3当量)を加え、溶液を室温で撹拌した。大部分のドセタキセルが消費されるまで(典型的には、2~4時間)、TLCにより反応をモニターした。次に反応混合物を希塩酸で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を除去した後、粗生成物を、メタノール/塩化メチレン勾配を用いてシリカゲルカラムに通した。精製プロドラッグをベンゼンから凍結乾燥し、室温で保存した。
【0088】
AUY922コンジュゲートの合成については、AUY922-コレステロールについての下記の概略図を参照のこと。
【0089】
【化5】
【0090】
工程1:コレステロール-ジグリコール酸の合成:ジグリコール酸無水物(10.20g、87.88mmol)を、ピリジン(100mL)中のコレステロール(1、20.0g、51.70mmol)の撹拌透明溶液に、窒素雰囲気下、室温で15分間にわたって少量ずつ加えた。得られた淡黄色の溶液を室温で18時間撹拌した。ジクロロメタン中5%メタノールを溶出液として使用し、p-アニスアルデヒド染色液と共に噴霧乾燥してTLCにより反応をモニターした。コレステロールが完全に消費された後、混合物をロータリーエバポレーターにより真空下、30℃で濃縮して、大部分のピリジンを留去し、得られたシロップを激しく撹拌しながら氷冷水(500mL)に注いだ。内容物を10分間撹拌してクエンチし、過剰量のジグリコール酸無水物に溶解させた。分離した固体を真空濾過により収集した。次に10%HCl水溶液に懸濁し、時々超音波処理しながら、10分間激しく撹拌した。濾過し、冷水で洗浄して中性pHにし、真空オーブンにより30℃で6時間乾燥して、易流動性粉末を得た。次にジクロロメタン(15mL)に溶解し、シリカゲル(1500g)カラムにロードした。ジクロロメタン中1~3%のメタノール勾配で溶出し、生成物を含有する画分を収集し、濃縮した。得られた固体をジクロロメタン(3×10mL)と共蒸発させ、高真空下で一晩乾燥して、コレステロール-ジグリコール酸(22.8g)を白色粉末として収率87%で得た。1H nmR (400 MHz, CDCl3): δ 5.46-5.40 (m, 1H), 4.83-4.72 (m, 1H), 4.28 (s, 2H), 4.25 (s, 2H), 2.43-2.35 (m, 2H), 2.08-1.96 (m, 2H), 1.95-1.80 (m, 4H), 1.70-1.45 (m, 6H), 1.45-1.25 (m, 4H), 1.25-1.10 (m, 6H), 1.09-0.96 (m, 3H), 0.94 (d, J = 8 Hz, 3H), 0.90 (d, J = 4 Hz, 3H), 0.88 (d, J = 4 Hz, 3H), 0.70 (s, 3H) ppm. ESI-MS Data: m/z = 525.35 [M+Na].
【0091】
工程2:AUY922-ジグリコレート-コレステロールの合成:計量したコレステロール-ジクリコール酸(2、12.0g、23.86mmol)、AUY922(3、10.0g、21.48mmol)、及びN,N-ジメチルアミノピリジン(3.0g、24.55mmol)を高真空下で10分間保存し、窒素でパージした。次に内容物を無水ジクロロメタン(200mL)に溶解し、窒素雰囲気下、19℃で撹拌した。これに、ジクロロメタン(25mL)中のジイソプロピルカルボジイミド(6.0mL、38.98mmol)溶液を、15分間かけて添加し、混合物を19℃で4時間撹拌した。ジクロロメタン中10%メタノールを溶離液として使用し、p-アニスアルデヒド染色液と共に噴霧乾燥して、TLCにより反応をモニターし、またはUV光下で観察した。コレステロール-ジグリコール酸(2)が完全に消費された後、得られた濁り溶液を-15℃に冷却し、分離された固体を、綿パッドで濾過することにより除去し、このバッチ及び再利用AUY922(2.0g)バッチの濾液を合わせて濃縮し、濃密溶液とした。
【0092】
精製:濃密溶液を、ジクロロメタン中の充填済シリカゲルカラム(1500g)にロードした。ジクロロメタン中の1~5%のメタノールにより溶出した。主生成物を含有する画分を濃縮して、淡黄色の固形泡状物(11.50g)を得た。固形泡状物を、ジクロロメタン中の充填済シリカゲルカラム(1500g)にロードして、別のシリカゲルクロマトグラフィー精製に供した。カラムを、溶媒比が3/0.5/96.5のメタノール/イソプロパノール/ジクロロメタンの定組成溶離系によって溶出した。このシリカゲルカラムの精製過程を、HPLC及びH NMRで測定して>95%の純度が達成されるまで繰り返した。あるいは、生成物を、C-18カラムの240gあたり0.5gのロード速度で無溶媒メタノール中の逆相カラム(RP、C-18)に通過させた。純粋な生成物画分を収集し、濃縮した。真空オーブンで18時間乾燥して、純粋なAUY922-ジグリコレート-コレステロール(4)をオフホワイトの粉末(4.95g、収率24%、230nmでのHPLC純度98%)を得た。1H nmR (600 MHz, DMSO-d6): δ 10.42 (s, 1H), 8.86 (t, J = 4 Hz, 1H), 7.23 (ABq, J = 8, 40 Hz, 4H), 6.96 (s, 1H), 6.72 (s, 1H), 5.37 (bs, 1H), 4.58-4.53 (m, 1H), 4.29 (s, 2H), 4.17 (s, 2H), 3.60-3.53 (m, 4H), 2.08 (bs, 2H), 3.33 (bs, 2H), 3.26-3.17 (m, 2H), 3.12-3.00 (m, 1H), 2.40-2.30 (m, 6H), 2.05-1.90 (m, 2H), 1.90-1.75 (m, 3H), 1.65-1.45 (m, 5H), 1.44-1.20 (m, 6H), 1.19-0.95 (m, 17H), 0.94-0.91 (m, 9H), 0.88 (d, J = 4 Hz, 3H), 0.70 (s, 3H) ppm. ESI-MS Data: m/z = 950.59 [M+H].
【0093】
調製された化合物は、ドセタキセル-コレステロール及びAUY922-コレステロールであり、それぞれグリコレートリンカーを介して連結している。
【実施例0094】
ドセタキセル及びAUY922のプロドラッグナノ粒子製剤は血漿薬物濃度を劇的に増加する
実施例1に記載されたタキサン及びAUY922プロドラッグを組み合わせて、本発明のナノ粒子を生成した。以下の分子量のPLA-PEGまたはPLGA-PEGコポリマーを有するナノ粒子を含む多数の異なるナノ粒子が形成された(「K」は、千を意味する)。
PLA(10K)-PEG(5K)、PLA(8K)-PEG(5K)、PLA(13K)-PEG(2K)、PLA(14K)-PEG(4K)、PLA(11K)-PEG(5K)、PLGA(10K)-PEG(5K)、PLGA(10K)-PEG(2K)、及びPLGA(15K)-PEG(5K)。
【0095】
2:1比で最適なサイズ及び安定性を示すPLA-PEG、すなわち、PLA(10K)-PEG(5K)を含むナノ粒子を、薬物動態試験に使用するドセタキセル-コレステロール及びAUY922-コレステロールプロドラッグにとして形成した。
【0096】
図1に示されているように、各プロドラッグの注射用量のパーセントは、当該技術において急速に排出されることが示されている遊離ドセタキセル及び遊離AUY922と比較して、12時間までほぼ50%、24時間まで20%のままであった。
【実施例0097】
ナノ粒子に製剤化したドセタキセル:AUY922組合せの遊離薬物組合せと比較して改善された忍容性
実施例1のプロドラッグの形態の組合せ、及びPLA(10K)-PEG(5K)コポリマーで形成されたナノ粒子の組合せとしてインビボに投与されたドセタキセルとAUY922の相対的忍容性を、個別に投与された遊離薬物の各最大忍容量(MTD)と比較した。
【0098】
図2に示すように、ドセタキセルとAUY922の組合せは、本発明のナノ粒子に製剤化すると、別々に投与した遊離薬物の忍容性と比較して有意に高い忍容性を示した。
【実施例0099】
ST996PDX腫瘍モデル(タキサン耐性に分類されている)におけるドセタキセル及びHSP90阻害剤の有効性
ドセタキセルとAUY922のプロドラッグの組合せが、非カプセル化で投与される場合と比較して、実施例3のナノ粒子に組み合わされたときに高い忍容性及び/または有効性を示すか調べるため、本発明のナノ粒子組合せを、タキサン耐性ST996PDX腫瘍モデルマウスに投与した。
【0100】
図3に示すとおり、ドセタキセルとAUY922の組合せは、実施例3のナノ粒子に配合することにより、非カプセル化のこれらの薬物を投与したときと比較して高い忍容性/低い毒性を示した。
【0101】
同様の結果が、図4に示すとおり、第2のタキサン耐性腫瘍モデルHCT15において達成された。これは、ドセタキセルとAUY922の組合せは、これらの2種類の遊離薬物をMTDで投与した場合と比較して、実施例3のナノ粒子に製剤化されたときにより有効であることを示す。
【実施例0102】
HCT116ヒト結腸がん腫瘍モデルにおけるセルメチニブ及びイパタセルチブの有効性
セルメチニブとイパタセルチブのプロドラッグ組合せが、非カプセル化で投与した場合と比較して、ナノ粒子に組み合わされたときに高い忍容性及び/または有効性があるかを調べるため、本発明のナノ粒子組合せを、HCT116腫瘍担持モデルマウスに投与した。ナノ粒子は、ポリスチレン-PEG、PS(20K)-PEG(5K)、及び上述のプロドラッグを含み、これらの薬剤は、ジグリコレートリンカーを介してコレステロールに結合している。
【0103】
図5Aに示すとおり、セルメチニブとイパタセルチブの2通りの異なる薬物:薬物比の組合せは、ナノ粒子に製剤化することにより、非カプセル化のこれらの薬物を投与したときと比較して高い忍容性/低い毒性を示した。
【0104】
同様の結果が、遊離薬物カクテルにおけるセルメチニブとイパタセルチブの用量を倍増したときにも達成された(図5B参照)。
【実施例0105】
HCT-15多剤耐性結腸がんモデルにおけるセルメチニブ及びイパタセルチブの有効性
セルメチニブとイパタセルチブのプロドラッグ組合せが、非カプセル化で投与したときと比較して、実施例5のナノ粒子に組み合わされたときに高い忍容性及び/または有効性を示すかを調べるため、実施例5と同様の試験を多剤耐性HCT-15腫瘍モデルにおいて繰り返した。
【0106】
図6に示すとおり、セルメチニブとイパタセルチブの1:2の薬物:薬物比での組合せは、実施例5のナノ粒子に製剤化することで、非カプセル化のこれらの薬物の1:2比の投与と比較して高い忍容性/低い毒性を示した。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-12-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0106
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0106】
図6に示すとおり、セルメチニブとイパタセルチブの1:2の薬物:薬物比での組合せは、実施例5のナノ粒子に製剤化することで、非カプセル化のこれらの薬物の1:2比の投与と比較して高い忍容性/低い毒性を示した。
(付記)
(付記1)
ナノ粒子を含む医薬組成物のセットを含む医薬組成物であって、前記ナノ粒子が80nm未満の平均直径を有し、
a)各治療剤がリンカーを介して疎水性成分とカップリングしてプロドラッグを形成している、少なくとも2種類の治療剤、及び
b)疎水性部分及び親水性部分を含む両親媒性安定剤であって、疎水性部分と親水性部分との重量比が8:5~12:5の範囲であり、かつ、疎水性部分の分子量が8kD~15kDである、両親媒性安定剤
を含む、医薬組成物。
(付記2)
前記両親媒性安定剤がジブロックコポリマーである、付記1に記載の組成物。
(付記3)
前記両親媒性安定剤において、疎水性部分がポリ乳酸(PLA)またはポリ(乳酸-co-グリコール酸(PLGA)を含み、親水性部分がポリエチレングリコール(PEG)を含む、付記1に記載の組成物。
(付記4)
前記少なくとも2種類の治療剤が同じナノ粒子に含まれている、付記1に記載の組成物。
(付記5)
一方の治療剤がタキサンであり、かつ、他方の治療剤がHSP阻害剤であるか、または、一方の治療剤がPI3K/AKT/mTOR阻害剤であり、かつ、他方の治療剤がRAS/RAF/MEK/ERK阻害剤である、付記1に記載の組成物。
(付記6)
前記プロドラッグのそれぞれにおいて、疎水性成分がコレステロールであり、かつ/またはリンカーがジグリコール酸である、付記1に記載の組成物。
(付記7)
前記ナノ粒子が、水相と有機相とを混合することによって形成され、前記有機相が前記コポリマー及び前記プロドラッグを含む、付記1に記載の組成物。
(付記8)
前記混合が、一方が水相を含み、他方が有機相を含むジェット流の急速混合によって実施される、付記7に記載の組成物。
(付記9)
前記ナノ粒子が20~80nmの平均直径を有する、付記1に記載の組成物。
(付記10)
更に第3の治療剤を含む、付記1に記載の組成物。
(付記11)
前記第3の治療剤が、プロドラッグとして供給され、前記ナノ粒子にカプセル化されている、付記10に記載の組成物。
(付記12)
2種類以上の治療剤の組合せを投与する方法であって、付記1に記載の組成物を対象に投与することを含む、方法。
(付記13)
前記投与が非経口投与により行われる、付記12に記載の方法。
(付記14)
対象が、ヒト、または非ヒト哺乳類、または鳥類である、付記13に記載の方法。
(付記15)
付記1に記載の組成物を調製する方法であって、水相と、前記コポリマー及び前記プロドラッグを含む有機相とを急速混合することを含む、方法。
【外国語明細書】