(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033848
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】β-カテニン関連疾患又は障害の治療のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20220222BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220222BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220222BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220222BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220222BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220222BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K31/713
A61K31/519
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P43/00 121
C12N15/113 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021193759
(22)【出願日】2021-11-30
(62)【分割の表示】P 2018568165の分割
【原出願日】2017-03-15
(31)【優先権主張番号】62/365,164
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/309,449
(32)【優先日】2016-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/318,529
(32)【優先日】2016-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518329930
【氏名又は名称】ディセルナ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エイブラムス マーク
(72)【発明者】
【氏名】ガネッシュ シャンティ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】β-カテニン遺伝子の発現を低下させる核酸インヒビター分子及び下流β-カテニンエフェクターを使用する組み合わせ療法を提供する。
【解決手段】癌を治療する方法であって、被験体にβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子を投与することを含む、方法とする。さらに、治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、治療的有効量のMEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子と、少なくとも1種の医薬用担体とを含む医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のMEKインヒビターと、
を投与することを含む、方法。
【請求項2】
β-カテニン関連癌の治療において使用するためのβ-カテニン核酸インヒビター分子を含む医薬組成物であって、MEKインヒビターと組み合わせて投与される、組成物。
【請求項3】
前記MEKインヒビターはトラメチニブである、請求項1に記載の方法又は請求項3に記載の組成物。
【請求項4】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のc-Myc核酸インヒビター分子と、
を投与することを含む、方法。
【請求項5】
β-カテニン関連癌の治療において使用するためのβ-カテニン核酸インヒビター分子を含む医薬組成物であって、c-Myc核酸インヒビター分子と組み合わせて投与される、組成物。
【請求項6】
前記β-カテニン関連癌は、結腸直腸癌、肝細胞癌、又は黒色腫である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項7】
前記被験体はヒトである、請求項1、3、4、又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記β-カテニン核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項9】
前記β-カテニン核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子であり、該分子の二本鎖領域の長さは、15ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項10】
前記β-カテニン核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに18ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間の二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、前記センス鎖の長さは25ヌクレオチド~34ヌクレオチドであり、かつ前記アンチセンス鎖の長さは26ヌクレオチド~38ヌクレオチドであり、かつ該アンチセンス鎖は、その3’末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項11】
前記センス鎖は、配列番号1の配列を含む、請求項10に記載の方法又は組成物。
【請求項12】
前記アンチセンス鎖は、配列番号2の配列を含む、請求項10又は11に記載の方法又は組成物。
【請求項13】
前記c-Myc核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子である、請求項4~12のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項14】
前記c-Myc核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子であり、該分子
の二本鎖領域の長さは、15ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である、請求項4~13のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項15】
前記c-Myc核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに18ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間の二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、前記センス鎖の長さは25ヌクレオチド~34ヌクレオチドであり、かつ前記アンチセンス鎖の長さは26ヌクレオチド~38ヌクレオチドであり、かつ該アンチセンス鎖は、その3’末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含む、請求項14に記載の方法又は組成物。
【請求項16】
前記c-MycのdsRNAiインヒビター分子のセンス鎖は、配列番号3の配列を含む、請求項15に記載の方法又は組成物。
【請求項17】
前記c-MycのdsRNAiインヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号4の配列を含む、請求項15又は16に記載の方法又は組成物。
【請求項18】
前記c-MycのdsRNAiインヒビター分子のセンス鎖は、配列番号5の配列を含む、請求項15に記載の方法又は組成物。
【請求項19】
前記c-MycのdsRNAiインヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号6の配列を含む、請求項15又は18に記載の方法又は組成物。
【請求項20】
前記β-カテニン核酸インヒビター分子及び/又は前記c-Myc核酸インヒビター分子は、脂質ナノ粒子を用いて製剤化される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項21】
前記脂質ナノ粒子はカチオン性脂質及びペグ化脂質を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項22】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のMEKインヒビターと、
を投与することを含み、前記β-カテニン核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子である、方法。
【請求項23】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のMEKインヒビターと、
を投与することを含み、前記β-カテニン核酸インヒビター分子は、配列番号1を含むセンス鎖及び配列番号2を含むアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子である、方法。
【請求項24】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のMEKインヒビターと、
を投与することを含み、前記β-カテニン核酸インヒビター分子は、配列番号1からなるセンス鎖及び配列番号2からなるアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子である、方法。
【請求項25】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のc-Myc核酸インヒビター分子と、
を投与することを含み、前記β-カテニン核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子であり、かつ前記c-Myc核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子である、方法。
【請求項26】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のc-Myc核酸インヒビター分子と、
を投与することを含み、
前記β-カテニン核酸インヒビター分子は、配列番号1を含むセンス鎖及び配列番号2を含むアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子であり、かつ、
前記c-Myc核酸インヒビター分子は、配列番号3又は5を含むセンス鎖及び配列番号4又は6を含むアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子である、方法。
【請求項27】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のc-Myc核酸インヒビター分子と、
を投与することを含み、
前記β-カテニン核酸インヒビター分子は、配列番号1からなるセンス鎖及び配列番号2からなるアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子であり、かつ、
前記c-Myc核酸インヒビター分子は、配列番号3又は5からなるセンス鎖及び配列番号4又は6からなるアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子である、方法。
【請求項28】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のMEKインヒビターと、
を投与することを含み、前記β-カテニン核酸インヒビター分子の投与前に、前記被験体は、β-カテニン関連癌のための事前処置を受けており、その処置に対する耐性を発生している、方法。
【請求項29】
前記事前処置はMEKインヒビターの投与である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記事前処置のMEKインヒビターはトラメチニブである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記被験体に投与されるMEKインヒビターはトラメチニブである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記被験体に投与されるMEKインヒビターはトラメチニブである、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に、
治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、
治療的有効量のMEKインヒビターと、
を投与することを含み、前記β-カテニン核酸インヒビター分子の投与前に、前記被験体はβ-カテニン関連癌のための事前処置の適用を少なくとも2回受けている、方法。
【請求項34】
前記事前処置は、MEKインヒビターの投与である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記事前処置のMEKインヒビターはトラメチニブである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記被験体に投与されるMEKインヒビターはトラメチニブである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記被験体に投与されるMEKインヒビターはトラメチニブである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記β-カテニン核酸インヒビター分子は、配列番号1を含むセンス鎖及び配列番号2を含むアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子、又は配列番号1からなるセンス鎖及び配列番号2からなるアンチセンス鎖を有するdsRNAiインヒビター分子である、請求項33~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記β-カテニン核酸インヒビター分子を投与する前に、前記被験体はβ-カテニン関連癌のための事前処置の適用を少なくとも3回、4回、5回、又は6回受けている、請求項33~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記β-カテニン関連癌は転移したものである、請求項1、22、23、24、28若しくは33~39のいずれか一項に記載の方法、又は請求項2に記載の組成物。
【請求項41】
前記β-カテニン関連癌は、結腸直腸癌である、請求項40に記載の方法又は組成物。
【請求項42】
前記結腸直腸癌は肝臓に転移したものである、請求項41に記載の方法又は組成物。
【請求項43】
前記MEKインヒビターはトラメチニブである、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【請求項44】
前記治療は前記被験体における転移を減らす、請求項40~43のいずれか一項に記載の方法又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2016年3月16日付で出願された米国仮特許出願第62/309,449号、2016年4月5日付で出願された米国仮特許出願第62/318,529号、及び2016年7月21日付で出願された米国仮特許出願第62/365,164号の利益を主張し、その出願日に依拠し、その開示全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
[配列表]
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含み、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。2017年3月10日付けで作製された上記ASCIIコピーの名前は0243_0005-PCT_SL.txtであり、1979キロバイトのサイズである。
【0003】
本開示は概して、β-カテニン遺伝子の発現を低下させる核酸インヒビター分子及び下流β-カテニンエフェクター、例えばc-Mycのインヒビター又はRAS/RAF/MEK/ERKシグナル伝達カスケードの少なくとも1種のインヒビター、例えばMEKインヒビターを使用する組み合わせ療法に関する。
【背景技術】
【0004】
発癌遺伝子であるβ-カテニンは、細胞におけるWntシグナル伝達の主要なメディエーターである。β-カテニンは、形質膜(そこではβ-カテニンは細胞間接着複合体の安定化に寄与する)、細胞質(そこではβ-カテニンレベルが調節される)、及び核(そこではβ-カテニンは転写調節及びクロマチン相互作用に関与する)を含む多数の細胞部位で幾つかの細胞機能を果たす。
【0005】
β-カテニン(ヒトにおいてはCTNNB1遺伝子によりコードされる)における突然変異は、具体的には結腸直腸癌、類腱腫、子宮内膜癌、胃癌、肝細胞癌、肝芽細胞腫、腎臓癌(ウィルムス腫瘍)、髄芽細胞腫、黒色腫、卵巣癌(類子宮内膜癌)、膵臓癌、石灰化上皮種、前立腺癌、甲状腺(未分化)癌及び子宮(子宮内膜)癌と関連している(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18、非特許文献19、非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22、非特許文献23、非特許文献24、非特許文献25、非特許文献26、非特許文献27)。
【0006】
β-カテニン/Wnt経路(例えば、
図1を参照)は、80%を超える結腸直腸癌において一貫して活性化されている。結腸直腸癌の発症におけるβ-カテニンの役割は、APC(結腸腺腫性ポリポーシス)遺伝子の発現産物、つまりは腫瘍サプッレサーにより調節されることが示されている(非特許文献28、非特許文献29)。上記APCタンパク質は、通常はTCF/LEFと一緒にβ-カテニンに結合して、転写因子複合体を形成する。Morinら(非特許文献29)は、APCタンパク質が、結腸癌におけるβ-カテニン及
びTcf-4により媒介される転写活性化を下方調節することを報告している。それらの結果は、β-カテニンの調節がAPCの腫瘍抑制効果と関連すること、そしてこの調節がAPC又はβ-カテニンのいずれかにおける突然変異により迂回され得ることを指摘するものであった。
【0007】
β-カテニン遺伝子における突然変異は、β-カテニンのN末端の一部の欠失をもたらす欠損(truncations)、又は細胞質破壊複合体の構成要素、例えばβ-カテニンのリン
酸化を媒介し、プロテオソームによるその分解を対象とするGSK3α/β若しくはCKIαにより標的とされるセリン残基及びトレオニン残基に作用する点突然変異のいずれかであり得る。これらの突然変異β-カテニンタンパク質は、リン酸化を受けにくいため、プロテオソーム分解を回避する。したがって、β-カテニンは罹患細胞内に蓄積する。核に局在する安定化されたβ-カテニンは、結腸癌のほぼ全ての事例の際だった特徴である(非特許文献30)。Morinらは、リン酸化部位を改変するβ-カテニンの突然変異によ
り、細胞がβ-カテニンのAPCに媒介される下方調節の影響を受けなくなること、そしてこの機構の破壊が結腸直腸の腫瘍形成に重要であることを実証した(非特許文献29)。
【0008】
またKRAS遺伝子は、結腸直腸癌において大抵は突然変異されている(約30%~40%)。KRASは、発癌遺伝子のRasファミリーの一員である。KRASは、細胞内シグナル伝達経路に関与するGTPアーゼをコードする。活性化されると、KRASはc-Raf及びPI 3-キナーゼのようなその他のシグナル伝達分子を動員する。またKRASの突然変異は、90%を超える膵臓癌において存在する。
【0009】
β-カテニン/Wnt経路は、50%を超える肝細胞癌(HCC)患者において一貫して活性化されている。活性化されたWntシグナル伝達及び核内β-カテニンは、疾患の再発及び予後不良と相関している(非特許文献31)。HCC患者の17%~66%において、核内β-カテニン染色の増加が記録されている(非特許文献32、非特許文献33)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Polakis P. Genes Dev. 14: 1837-51
【非特許文献2】Samowitz et al. Cancer Res. 59: 1442-4
【非特許文献3】Iwao et al. Cancer Res. 58: 1021-6
【非特許文献4】Mirabelli-Primdahl et al. Cancer Res. 59: 3346-51
【非特許文献5】Shitoh et al. J Clin Path. 52: 695-6
【非特許文献6】Tejpar et al. Oncogene 18: 6615-20
【非特許文献7】Kitaeva et al. Cancer Res. 57: 4478-81
【非特許文献8】Sparks et al. Cancer Res. 58: 1130-4
【非特許文献9】Miyaki et al. Cancer Res. 59: 4506-9
【非特許文献10】Park et al. Cancer Res. 59: 4257-60
【非特許文献11】Huang et al. Am J Pathol. 155: 1795-801
【非特許文献12】Nhieu et al. Am J Pathol. 155: 703-10
【非特許文献13】Legoix et al. Oncogene 18: 4044-6
【非特許文献14】Jeng et al. Cancer Lett. 152: 45-51
【非特許文献15】Koch et al. Cancer Res. 59: 269-73
【非特許文献16】Wei et al. Oncogene 19: 498-504
【非特許文献17】Koesters et al. Cancer Res. 59: 3880-2
【非特許文献18】Maiti et al. Cancer Res. 60: 6288-92
【非特許文献19】Zurawel et al. Cancer Res. 58: 896-9
【非特許文献20】Gamallo et al. Am J Pathol. 155: 527-36
【非特許文献21】Palacios and Gamallo Cancer Res. 58: 1344-7
【非特許文献22】Wright et al. Int J Cancer 82: 625-9
【非特許文献23】Gerdes et al. Digestion 60: 544-8
【非特許文献24】Chan et al. Nat Genet. 21: 410-3
【非特許文献25】Voeller et al. Cancer Res. 58: 2520-3
【非特許文献26】Garcia-Rostan et al. Cancer Res. 59: 1811-5
【非特許文献27】Fukuchi et al. Cancer Res. 58: 3526-8
【非特許文献28】Korinek et al., Science, 1997, 275:1784-1787
【非特許文献29】Morin et al., Science, 1997, 275:1787-1790
【非特許文献30】Clevers, H., 2006, Cell 127:469-480
【非特許文献31】Takigawa et al. 2008, Curr Drug Targets November; 9 (11):1013-24
【非特許文献32】Zulehner et al. 2010, Am J Pathol. January; 176 (1):472-81
【非特許文献33】Yu et al. 2009, J Hepatol. May; 50 (50):948-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
β-カテニンがどのようにして細胞内のWntシグナル伝達の主要なメディエーターとして機能しているか、そしてβ-カテニンの突然変異及び/又は発現の変化が腫瘍形成にどのような役割を果たし得るかの理解が進んでいるにもかかわらず、依然としてCTNNB1発現と関連する疾患、例えば癌を治療し得る組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定の治療アプローチとβ-カテニンの核酸の阻害とを組み合わせることで、腫瘍成長の相乗的阻止がもたらされ得ることを見出した。特に、β-カテニン阻害とMEK阻害との組み合わせ、又はβ-カテニン阻害とc-Myc阻害との組み合わせは、効果的な腫瘍阻止をもたらす(例えば、実施例4及び実施例5並びに
図4~
図6を参照)。
【0013】
本明細書では、β-カテニン関連疾患又は障害を治療する方法であって、被験体に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビター(例えば、トラメチニブ)又はc-Myc核酸インヒビター分子を投与することを含む、方法が開示される。β-カテニン核酸インヒビター分子及びMEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子の投与は、それぞれの作用物質の個別の投与と比較して相乗効果をもたらし得る。
【0014】
特定の実施の形態においては、被験体はヒトである。
【0015】
またβ-カテニン関連疾患又は障害の治療において使用するためのβ-カテニン核酸インヒビター分子を含む医薬組成物であって、MEKインヒビター(例えば、トラメチニブ)又はc-Myc核酸インヒビター分子と組み合わせて投与される、組成物も提供される。特定の実施の形態においては、上記β-カテニン関連疾患又は障害は、癌、例えば結腸直腸癌、肝細胞癌、又は黒色腫である。
【0016】
β-カテニン関連疾患又は障害の治療において使用するための上記方法及び組成物の特定の実施の形態においては、上記β-カテニン関連疾患又は障害は、β-カテニン関連癌、例えば結腸直腸癌、肝細胞癌、又は黒色腫である。特定の実施の形態においては、上記β-カテニン関連癌は転移したものである。特定の実施の形態においては、上記β-カテニン関連癌は転移した結腸直腸癌である。特定の実施の形態においては、上記結腸直腸癌は肝臓に転移したものである。β-カテニン関連疾患又は障害の治療において使用するための上記方法及び組成物の特定の実施の形態においては、上記MEKインヒビターは、トラメチニブ(GSK1120212)、セルメチニブ、ビニメチニブ(MEK162)、コビメチニブ(XL518)、レファメチニブ(BAY 86-9766)、ピマセルチ
ブ、PD-325901、RO5068760、CI-1040(PD035901)、AZD8330(ARRY-424704)、RO4987655(CH4987655)、RO5126766、WX-554、E6201、及びTAK-733である。1つの実施の形態においては、上記MEKインヒビターはトラメチニブである。
【0017】
β-カテニン関連疾患又は障害の治療において使用するための上記方法及び組成物の特定の実施の形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子又は上記c-Myc核酸インヒビター分子は、脂質ナノ粒子を用いて製剤化される。
【0018】
さらに本明細書では、治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子と、治療的有効量のMEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子と、少なくとも1種の医薬用賦形剤とを含む医薬組成物が開示される。
【0019】
本発明の特定の実施の形態は、被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビターを投与することを含み、上記β-カテニン核酸インヒビター分子の投与前に、上記被験体は、β-カテニン関連癌のための事前処置を受けており、その事前処置に対する耐性を発生している、方法を提供する。特定の実施の形態において、上記事前処置はMEKインヒビターの投与である。特定の実施の形態において、上記事前処置のMEKインヒビターはトラメチニブである。特定の実施の形態において、上記被験体に投与されるMEKインヒビターはトラメチニブである。
【0020】
本発明の特定の実施の形態は、被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、該被験体に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビターを投与することを含み、上記β-カテニン核酸インヒビター分子の投与前に、上記被験体はβ-カテニン関連癌のための事前処置の適用(administrations
)を少なくとも2回受けている、方法を提供する。それらの実施の形態の幾つかにおいては、上記被験体は、事前処置の適用を少なくとも3回、4回、5回、6回、又は7回受けている。特定の実施の形態においては、上記事前処置は、MEKインヒビターの投与である。特定の実施の形態においては、上記事前処置のMEKインヒビターはトラメチニブである。特定の実施の形態においては、上記被験体に投与されるMEKインヒビターはトラメチニブである。
【0021】
本発明の特定の実施の形態は、被験体においてβ-カテニン関連癌を治療する方法であって、その被験体に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビターを投与することを含み、ここで上記β-カテニン関連癌(例えば、結腸直腸癌)が、例えば肝臓に転移したものである、方法を提供する。特定の実施の形態においては、上記被験体に投与されるMEKインヒビターはトラメチニブである。
【0022】
上述の一般的な概要も以下の詳細な説明も両者とも例示的なものにすぎず、本開示を限定するものではない。
【0023】
引用することにより本明細書の一部をなす添付の図面は、特定の実施形態を解説し、本明細書と共に本明細書に開示される組成物及び方法の特定の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】Wntシグナル伝達経路の簡略図である。左側は、Wntリガンドがその表面受容体に結合されておらず、β-カテニンが破壊複合体中に封じ込まれ、分解に向けられており、標的遺伝子が抑制されている細胞を示す。右側は、Wntリガンドがその表面受容体に結合した後の細胞を示しており、そこでは、破壊複合体がばらばらになり、安定化されたβ-カテニンが放出され、それが核に移動し、そして標的遺伝子が活性化される。
【
図2A】Wnt活性LS411N腫瘍における種々の投与量及び投与頻度でのBCAT1抗腫瘍効力を示す図である。BCAT1を、1.0mg/kgで毎日3日間にわたり(2サイクル)投与した(
図2A)。
【
図2B】Wnt活性LS411N腫瘍における種々の投与量及び投与頻度でのBCAT1抗腫瘍効力を示す図である。BCAT1を、3mg/kgで毎週(2サイクル)投与した(
図2B)。
【
図2C】Wnt活性LS411N腫瘍における種々の投与量及び投与頻度でのBCAT1抗腫瘍効力を示す図である。BCAT1を、0.3mg/kgで毎日3日間にわたり(2サイクル)投与した(
図2C)。
【
図2D】Wnt活性LS411N腫瘍における種々の投与量及び投与頻度でのBCAT1抗腫瘍効力を示す図である。BCAT1を、3mg/kgで毎日3日間にわたり(2サイクル)投与した(
図2D)。
【
図3A】BCAT1がWntシグナル伝達を選択的に標的とすることを示す図である。BCAT1の投与は、Wnt活性腫瘍細胞:SW403(APC及びKRAS突然変異;
図3A)において腫瘍容積を効果的に減らす。
【
図3B】BCAT1がWntシグナル伝達を選択的に標的とすることを示す図である。BCAT1の投与は、Wnt活性腫瘍細胞:LS174t(CTNNB1及びKRAS突然変異;
図3B)において腫瘍容積を効果的に減らす。
【
図3C】BCAT1がWntシグナル伝達を選択的に標的とすることを示す図である。BCAT1の投与は、野生型APC及びβ-カテニン遺伝子を有するRKO結腸直腸腫瘍(
図3C)においては腫瘍容積を効果的に減らさない。
【
図4A】BCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法が、BCAT1又はトラメチニブのいずれかでの個別の処置と比較して抗腫瘍効力を増大させることを示す図である。
【
図4B】BCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法が、BCAT1又はトラメチニブのいずれかでの個別の処置と比較して抗腫瘍効力を増大させることを示す図である。
【
図4C】BCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法が、LS174t腫瘍細胞においてc-MycのmRNAの大幅な下方調節を引き起こしたことを示す図である。c-MycのmRNAを、組み合わせ療法の適用から72時間後に測定した。
【
図5A】より低い投与量でのBCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法が、ヒトLS411N腫瘍細胞を使用するCRCのモデルにおいて相乗的な抗腫瘍効力を発揮することを示す図である。
【
図5B】より低い投与量でのBCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法が、ヒトLS411N腫瘍細胞を使用するCRCのモデルにおいて相乗的な抗腫瘍効力を発揮することを示す図である。
【
図5C】より低い投与量でのBCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法が、ヒトSW403腫瘍細胞を使用するCRCのモデルにおいて相乗的な抗腫瘍効力を発揮することを示す図である。
【
図5D】より低い投与量でのBCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法が、ヒトSW403腫瘍細胞を使用するCRCのモデルにおいて相乗的な抗腫瘍効力を発揮することを示す図である。
【
図5E】SW403腫瘍細胞を使用するCRCのモデルにおけるトラメチニブに対する耐性は、トラメチニブとBCAT1とを組み合わせて投与することにより克服されることを示す図である。該データは、処置群全体の平均腫瘍容積(
図5E)を表す。
【
図5F】SW403腫瘍細胞を使用するCRCのモデルにおけるトラメチニブに対する耐性は、トラメチニブとBCAT1とを組み合わせて投与することにより克服されることを示す図である。該データは、該処置群におけるそれぞれの個々のマウスの平均腫瘍容積(
図5F)を表す。
【
図6A】BCAT1及びMYC1による組み合わせ療法が、BCAT1又はMYC1のいずれかでの個別の処置と比較して抗腫瘍効力を増大させることを示す図である。BCAT1とMYC1とを組み合わせて投与する場合に、それらの用量は、それぞれが個々に投与される場合に使用される用量の1/2であることに留意する。
【
図6B】BCAT1及びMYC1による組み合わせ療法が、BCAT1又はMYC1のいずれかでの個別の処置と比較して抗腫瘍効力を増大させることを示す図である。BCAT1とMYC1とを組み合わせて投与する場合に、それらの用量は、それぞれが個々に投与される場合に使用される用量の1/2であることに留意する。
【
図6C】BCAT1及びMYC1による組み合わせ療法が、BCAT1又はMYC1のいずれかでの個別の処置と比較して抗腫瘍効力を増大させることを示す図である。BCAT1とMYC1とを組み合わせて投与する場合に、それらの用量は、それぞれが個々に投与される場合に使用される用量の1/2であることに留意する。
【
図7】センス(又はパッセンジャー)鎖(配列番号1)及びアンチセンス(ガイド)鎖(配列番号2)を有する、二本鎖のβ-カテニン核酸インヒビター分子の1つの非限定的な実施形態を示す図である。このβ-カテニン核酸インヒビター分子は、本明細書ではBCAT1と呼ばれる。
【
図8】センス(又はパッセンジャー)鎖(配列番号3)及びアンチセンス(ガイド)鎖(配列番号4)を有する、二本鎖のc-Myc核酸インヒビター分子の1つの非限定的な実施形態を示す図である。このc-Myc核酸インヒビター分子は、本明細書ではMYC2と呼ばれる。
【
図9】センス(又はパッセンジャー)鎖(配列番号5)及びアンチセンス(ガイド)鎖(配列番号6)を有する、二本鎖のc-Myc核酸インヒビター分子の1つの非限定的な実施形態を示す図である。このc-Myc核酸インヒビター分子は、本明細書ではMYC1と呼ばれる。
【
図10】β-カテニン核酸インヒビター分子又はc-Myc核酸インヒビター分子を製剤化するために使用することができる脂質ナノ粒子の1つの非限定的な実施形態を示す図である。LNPは、以下のコア脂質:DL-048(カチオン性脂質)及びDSG-MPEG(ペグ化脂質)、並びに以下のエンベロープ脂質:DL-103(カチオン性脂質)、DSPC、コレステロール、及びDSPE-MPEG(ペグ化脂質)を含む。
【
図11A】BCAT1の投与(qdx3、3mg/kg/投与、3サイクル)が、Ls174tのCRC肝臓転移モデル(
図11A)においてPBS又はプラセボと比較して生存を改善することを示している。
【
図11B】BCAT1の投与(qdx3、3mg/kg/投与、3サイクル)が、LS411NのCRC肝臓転移モデル(
図11B)においてPBS又はプラセボと比較して生存を改善することを示している。
【
図11C】トラメチニブの投与(qdx3、1mg/kg/投与又は3mg/kg/投与、3サイクル)が、Ls174tのCRC肝臓転移モデルにおいてPBSと比較して生存を改善することを示す図である。
【
図11D】BCAT1及びトラメチニブによる組み合わせ療法(qdx3、2mg/kg/用量、3サイクル)とBCAT1又はトラメチニブによる個別処置とを、Ls174tのCRC肝臓転移モデルにおいて比較しており、該組み合わせ療法に関する相乗的応答を示唆している図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本開示のより容易な理解のために、幾つかの用語を初めに下記に規定する。以下の用語及び他の用語の付加的な定義は本明細書を通して示され得る。以下に示される用語の定義が、引用することにより本出願の一部をなす出願又は特許における定義と一致していない
場合には、本出願に示される定義を使用して、その用語の意味を理解するべきである。
【0026】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合に、文脈上他に明らかに指示されない限り、数量を特定していない単数形(the singular forms "a," "an," and "the")は複数の指示対象を含む。このため、例えば「方法(a method)」への言及には1
つ以上の方法、及び/又は本明細書に記載される及び/又は本開示を読むことで当業者に明らかとなるタイプの工程等が含まれる。
【0027】
投与する:本明細書で使用される場合に、組成物を被験体に「投与する」ことは、被験体に組成物を与える、適用する又は被験体を組成物と接触させることを意味する。投与は例えば局所、経口、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、髄腔内及び皮内を含む多数の経路のいずれかによって達成することができる。
【0028】
およそ:本明細書で使用される場合に、「およそ」又は「約」という用語は対象の1つ以上の値に適用される場合、述べられる参照値と同様の値を指す。特定の実施形態では、「およそ」又は「約」という用語は、他に指定のない限り又は文脈から明らかでない限りにおいて(かかる数が可能な値の100%を超える場合を除いて)、述べられる参照値のいずれかの方向で(それを上回る又は下回る)25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ以下に含まれる値の範囲を指す。
【0029】
β-カテニン:本明細書で使用される場合に、「β-カテニン」は、ポリペプチド、又はそのようなβ-カテニンタンパク質をコードする核酸配列のいずれかを指す。ポリペプチドに関する場合に、「β-カテニン」は、β-カテニン遺伝子/転写物(CTNNB1)(Genbankアクセッション番号NM_001904.3(ヒトβ-カテニン転写変異体1)、NM_001098209.1(ヒトβ-カテニン転写変異体2)、NM_001098210.1(ヒトβ-カテニン転写変異体3)、並びにNM_007614.2及びNM_007614.3(マウスβ-カテニン)のポリペプチド遺伝子産物を指す。
【0030】
β-カテニン関連:本明細書で使用される場合に、「β-カテニン関連」疾患又は障害は、変化したβ-カテニン発現、濃度及び/又は活性と関連する疾患又は障害を指す。「β-カテニン関連」疾患又は障害には、結腸直腸癌、類腱腫、子宮内膜癌、胃癌、肝細胞癌、肝芽細胞腫、腎臓癌(ウィルムス腫瘍)、髄芽細胞腫、黒色腫、卵巣癌(類子宮内膜癌)、膵臓癌、石灰化上皮種、前立腺癌、甲状腺(未分化)癌及び子宮(子宮内膜)癌を含む癌及び/又は増殖性疾患、状態若しくは障害が含まれる。1つの実施形態においては、上記β-カテニン関連疾患又は障害は、結腸直腸癌、肝細胞癌、又は黒色腫である。
【0031】
BCAT1:本明細書で使用される場合に、「BCAT1」は、β-カテニン遺伝子を標的とし、配列番号1からなる核酸配列を有するセンス鎖及び配列番号2からなる核酸配列を有するアンチセンス鎖を有する核酸インヒビター分子を指す。
【0032】
c-Myc:本明細書で使用される場合に、「c-Myc」は、ポリペプチド、又はそのようなc-Mycタンパク質をコードする核酸配列(例えば、Genbankアクセッション番号NP_002458.2及びNP_034979.3)のいずれかを指す。c-Myc転写物には、Genbankアクセッション番号NM_002467.4及びNM_010849.4の配列が含まれる。
【0033】
MYC1:本明細書で使用される場合に、「MYC1」は、c-Myc遺伝子を標的とし、配列番号5からなる核酸配列を有するセンス鎖及び配列番号6からなる核酸配列を有
するアンチセンス鎖を有する核酸インヒビター分子を指す。
【0034】
MYC2:本明細書で使用される場合に、「MYC2」は、c-Myc遺伝子を標的とし、配列番号3からなる核酸配列を有するセンス鎖及び配列番号4からなる核酸配列を有するアンチセンス鎖を有する核酸インヒビター分子を指す。
【0035】
MEKインヒビター:本明細書で使用される場合に、用語「MEKインヒビター」は、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ酵素MEK1及び/又はMEK2の活性を低下させる化合物又は作用物質を指す。
【0036】
賦形剤:本明細書で使用される場合に、用語「賦形剤」は、例えば所望の粘稠度又は安定化効果をもたらす又はそれに寄与する、組成物中に含まれ得る非治療剤を指す。
【0037】
核酸インヒビター分子:本明細書で使用される場合に、用語「核酸インヒビター分子」は、標的遺伝子のmRNA中の配列を特異的に標的とする領域を含む、標的遺伝子の発現を低下させる又は無くすオリゴヌクレオチド分子を指す。一般的に、核酸インヒビター分子の標的領域は、該核酸インヒビター分子の効果を特定された標的遺伝子に向けるために、標的遺伝子のmRNA上の配列に十分に相補的である配列を含む。例えば、「β-カテニン核酸インヒビター分子」は、CTNNB1遺伝子の発現を低下させるか又は無くし、そして「c-Myc核酸インヒビター分子」は、c-Myc遺伝子の発現を低下させるか又は無くす。上記核酸インヒビター分子には、天然のリボヌクレオチド、天然のデオキシリボヌクレオチド、及び/又は修飾ヌクレオチドが含まれ得る。修飾ヌクレオチドは、修飾、例えば糖環上の位置の置換、ヌクレオチド間のホスホエステル結合の修飾、非天然の塩基、及び非天然の代替炭素構造、例えばロックド核酸(「LNA」)(以下参照)及びアンロックド核酸(「UNA」)(以下参照)を含む。
【0038】
低下させる:本明細書で使用される用語「低下させる」("reduce" or "reduces")は
、当該技術分野で一般的に認められるその意味を指す。例示的な核酸インヒビター分子(例えば、β-カテニン及びc-MycのsiRNA分子)又は例示的なインヒビター(例えば、MEKインヒビター)に関しては、上記用語は概して、核酸インヒビター分子又はインヒビターの不存在下に観察されるものを下回る、遺伝子の発現の低下、又はRNA分子若しくは1種以上のタンパク質若しくはタンパク質サブユニットをコードする同等のRNA分子の濃度の低下、又は1種以上のタンパク質若しくはタンパク質サブユニットの活性の低下を指す。
【0039】
耐性:本明細書で使用される用語「耐性」は、被験体において腫瘍成長を事前に低下又は阻止した処置が、その被験体における腫瘍成長をもはや低下又は阻止しない場合に生ずる状態を指す。
【0040】
RNAiインヒビター分子:本明細書で使用される用語「RNAiインヒビター分子」は、(a)センス鎖(パッセンジャー)及びアンチセンス鎖(ガイド)を有し、該アンチセンス鎖がアルゴノート2(Ago2)エンドヌクレアーゼにより標的mRNAの開裂において使用される二本鎖核酸インヒビター分子(「dsRNAiインヒビター分子」)、又は(b)Ago2により使用される単一アンチセンス鎖を有する一本鎖核酸インヒビター分子(「ssRNAiインヒビター分子」)のいずれかを指し、ここでRNAiインヒビター分子は、標的遺伝子の発現を低下させるか又は無くすための細胞のRNA干渉(「RNAi」)装置の少なくとも一部を利用する。
【0041】
被験体:本明細書で使用される場合に、用語「被験体」は、マウス、ウサギ、及びヒトを含む任意の哺乳動物を意味する。1つの実施形態においては、被験体はヒトである。用
語「個体」又は「患者」は、「被験体」と置き換え可能であると解釈される。
【0042】
核酸インヒビター分子
核酸インヒビター分子のために様々な構造が使用されている。例えば、初期の研究では、各々の鎖が19ヌクレオチド~25ヌクレオチドのサイズを有し、1ヌクレオチド~5ヌクレオチドの少なくとも1つの3’突出を有する二本鎖核酸分子に着目されていた(例えば、米国特許第8,372,968号を参照)。その後に、ダイサー酵素によりin vivoでプロセシングされて活性siRNA分子となるより長い二本鎖RNA分子が開発された(例えば、米国特許第8,883,996号を参照)。近年の研究では、少なくとも一方の鎖の少なくとも一方の端部が該分子の二本鎖標的領域を超えて伸長されており、一方の鎖が熱力学的に安定しているテトラループ構造を含む構造を有する伸長された二本鎖核酸インヒビター分子が開発された(例えば、米国特許第8,513,207号、米国特許第8,927,705号、及び国際公開第2010/033225号を参照、それらの上記二本鎖核酸インヒビター分子の開示は、引用することにより本出願の一部をなす)。それらの構造は、一本鎖伸長(分子の片側又は両側での)及び二本鎖伸長を含む。さらに、最近の取り組みでは、一本鎖RNAi分子の活性が実証された(例えばMatsui et al. (2016), Molecular Therapy, accepted article preview online February 23 2016;
doi: 10.1038/mt.2016.39を参照)。そして、アンチセンス分子は、何十年にもわたり特定の標的遺伝子の発現を低下させるために使用されている。これらの構造の共通のテーマにおける多数の変形形態が、様々な標的に関して開発されている。本発明のβ-カテニン及びc-Myc核酸インヒビター分子は、上記構造のいずれか及び文献に記載されるそれらの変形形態を基礎とするものであり得る。またβ-カテニン及びc-Myc核酸インヒビター分子には、マイクロRNA(miRNA)及びショートヘアピンRNA(shRNA)分子、例えば米国特許出願公開第2009/0099115号に記載される分子も含まれる。
【0043】
一般的に、核酸インヒビター分子のヌクレオチドサブユニットの多くは、ヌクレアーゼに対する耐性又は免疫原性の低下のような分子の様々な特性を改善するように修飾される(例えば、Bramsen et al. (2009), Nucleic Acids Res., 37, 2867-2881を参照)。特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子の全てのヌクレオチドが修飾されている。特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子のほぼ全てのヌクレオチドが修飾されている。特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子の半分より多くのヌクレオチドが修飾されている。特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子の半分より少ないヌクレオチドが修飾されている。特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子のどのヌクレオチドも修飾されていない。修飾はオリゴヌクレオチド鎖上に群をなして存在していてもよく、又は種々の修飾されたヌクレオチドが散在していてもよい。
【0044】
多くのヌクレオチド修飾は、オリゴヌクレオチドの分野で使用されている。糖部、ホスホエステル結合、及び核酸塩基を含むヌクレオチドの任意の部分で修飾がなされ得る。ヌクレオチド修飾の一般的な例には、限定されるものではないが、2’-フルオロシトシン、2’-Oメチルシトシン、及び5-メチルシトシンが含まれる。特定の実施形態においては、本発明の核酸インヒビター分子は、1つ以上のデオキシリボヌクレオチドを含む。一般的に、該核酸インヒビター分子は、4つ以下のデオキシリボヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、本発明の核酸インヒビター分子は、1つ以上のリボヌクレオチドを含む。
【0045】
特定の実施形態においては、糖部の環構造が修飾されており、限定されるものではないが、ロックド核酸(「LNA」)(例えば、Koshkin et al. (1998), Tetrahedron 54, 3607-3630を参照)及びアンロックド核酸(「UNA」)(例えば、Snead et al. (2013),
Molecular Therapy - Nucleic Acids, 2, e103 (doi: 10.1038/mtna.2013.36)を参照)
が含まれる。
【0046】
上記オリゴヌクレオチドの5’末端は、しばしば修飾された位置である。特定の実施形態においては、本発明の核酸インヒビター分子のオリゴヌクレオチドの5’末端にはヒドロキシル基が結合されている。特定の実施形態においては、本発明の核酸インヒビター分子のオリゴヌクレオチドの5’末端にはリン酸基が結合されている。特定の実施形態においては、その5’末端は、リン酸基の静電特性及び立体特性を模倣する化学的部分(「リン酸模倣体」)に結合されている(例えば、Prakash et al. (2015), Nucleic Acids Res., advance access published March 9, 2015 (doi: 10.1093/narlgkv162)を参照)。5’末端に結合され得る多くのリン酸模倣体が開発されている(例えば、米国特許第8,927,513号を参照)。オリゴヌクレオチドの5’末端のためにその他の修飾が開発されている(例えば、国際公開第2011/133871号を参照)。
【0047】
β-カテニン核酸インヒビター分子
本明細書に開示されるように、β-カテニン核酸インヒビター分子は、β-カテニン関連疾患又は障害、例えば癌の治療のためにMEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子と組み合わされ得る。本発明者らは、これらの組み合わせがそれぞれの作用物質の個別の投与と比較して相乗効果を奏し得ることを実証した。
【0048】
β-カテニン核酸インヒビター分子は、例えば米国特許出願公開第2015/0291954号及び同第2015/0291956号、並びに米国特許第6,066,500号、同第8,198,427号、同第8,835,623号又は同第9,243,244号に開示されるように知られており、それらの上記β-カテニン核酸インヒビター分子の開示は、引用することにより本出願の一部をなす。特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、米国特許第9,243,244号に開示される分子である。
【0049】
特定の実施形態においては、本発明のβ-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、該分子の二本鎖領域の長さが15ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記二本鎖領域の長さは、20ヌクレオチドから30ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記二本鎖領域の長さは、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、又は26ヌクレオチドである。
【0050】
特定の実施形態においては、本発明のβ-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、そのセンス鎖の長さが18ヌクレオチドから66ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記センス鎖の長さは、25ヌクレオチドから45ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記センス鎖の長さは、30ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記センス鎖の長さは、36ヌクレオチド、37ヌクレオチド、38ヌクレオチド、39ヌクレオチド、又は40ヌクレオチドである。特定の実施形態においては、上記センス鎖の長さは、25ヌクレオチドから30ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記センス鎖の長さは、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、又は27ヌクレオチドである。
【0051】
特定の実施形態においては、本発明のβ-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、そのアンチセンス鎖の長さが18ヌクレオチドから66ヌクレオチドの間である。一般的に、上記アンチセンス鎖は、上記核酸インヒビター分子の効果を標的遺伝子に向けるために、標的遺伝子のmRNA中の配列に十分に相補的である配列を含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、上記標的遺伝子のmR
NA中に含まれる配列と完全に相補的である配列であって、その完全に相補的な配列の長さが18ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である、配列を含む。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記アンチセンス鎖の長さは、20ヌクレオチドから50ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖の長さは、20ヌクレオチドから30ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖の長さは、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、27ヌクレオチド、又は28ヌクレオチドである。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖の長さは、35ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記アンチセンス鎖の長さは、36ヌクレオチド、37ヌクレオチド、38ヌクレオチド、又は39ヌクレオチドである。
【0052】
特定の実施形態において、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに18ヌクレオチドから34ヌクレオチドの間の二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、上記センス鎖の長さは25ヌクレオチド~34ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖の長さは26ヌクレオチド~38ヌクレオチドであり、かつ該アンチセンス鎖は、その3’末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、その3’末端に2個の一本鎖ヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、その3’末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含み、かつその5’末端に5個~12個の一本鎖ヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、その3’末端に2個の一本鎖ヌクレオチドを含み、かつその5’末端に10個の一本鎖ヌクレオチドを含む。
【0053】
特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに26ヌクレオチドの二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、上記センス鎖の長さが26ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖の長さが38ヌクレオチドであり、かつその3’末端に2個の一本鎖ヌクレオチドを含み、かつその5’末端に10個の一本鎖ヌクレオチドを含む。
【0054】
特定の実施形態においては、本発明のβ-カテニン核酸インヒビター分子は、ssRNAiインヒビター分子である。
【0055】
特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号2の配列を含む。特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号2の配列からなる。特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号1の配列を含む。特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号1の配列からなる。特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号1の配列を含み、かつそのアンチセンス鎖は、配列番号2の配列を含む。特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、上記センス鎖は、配列番号1の配列からなり、かつ上記アンチセンス鎖は、配列番号2の配列からなる。
【0056】
β-カテニンRNAの濃度又は活性は、当該技術分野で現在知られる適切な方法又は後に開発される適切な方法によって測定することができる。標的RNA及び/又は標的遺伝子の「発現」の測定のために使用される方法は、標的遺伝子及びそのコードされるRNAの性質に依存し得るものと認識され得る。例えば、標的β-カテニンRNA配列がタンパク質をコードする場合には、用語「発現」は、β-カテニン遺伝子(ゲノム由来又は外来
由来のいずれか)から得られるタンパク質又はβ-カテニンのRNA/転写物を指し得る。そのような場合に、標的β-カテニンRNAの発現は、β-カテニンRNA/転写物の量を直接計測するか、又はβ-カテニンタンパク質の量を計測することにより測定することができる。タンパク質は、タンパク質アッセイにおいて、例えば染色若しくはイムノブロッティングによって、又は該タンパク質が計測可能な反応を触媒する場合には、反応速度を計測することにより計測することができる。全てのそのような方法は、当該技術分野で知られており、使用することができる。標的β-カテニンRNA濃度が測定される場合、当該技術分野で認識されるRNA濃度の検出方法を使用することができる(例えば、RT-PCR、ノーザンブロッティング等)。β-カテニンRNAのターゲティングにおいて、被験体、組織、細胞中のin vitro若しくはin vivoのいずれかでの、又は細胞抽出物中のβ-カテニンRNA又はタンパク質の濃度の低下における上記核酸インヒビター分子の効力の測定を使用して、β-カテニン関連表現型(例えば、疾患又は障害、例えば癌又は腫瘍形成、成長、転移、伝播等)の低下の程度を測定することができることも認識される。上記測定は、細胞、細胞抽出物、組織、組織抽出物、又はその他の適切な起源の材料に対して行われ得る。
【0057】
MEKインヒビター
本明細書で記載される場合に、用語「MEK」は、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ酵素MEK1及び/又はMEK2を指す。MEKはまた、MAP2K及びMAPKKとしても知られる。MEKは、特定の癌、例えば黒色腫において活性化されているRAS/RAF/MEK/ERKシグナル伝達カスケードの一員である。その経路は、多数の成長因子及びサイトカインの細胞表面上の受容体への結合により活性化され、それらは受容体チロシンキナーゼを活性化する。受容体チロシンキナーゼの活性化は、RASの活性化をもたらし、それは次いでRAFを動員し、RAFはまた多数のリン酸化イベントにより活性化される。
【0058】
活性化されたRAFは、MEKキナーゼをリン酸化及び活性化させ、そのMEKキナーゼはまたERKキナーゼ(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ「MAPK」としても知られる)をリン酸化及び活性化する。次いで、リン酸化されたERKは核に移動することができ、そこで該ERKは、様々な転写因子、例えばc-Myc及びCREBを直接的又は間接的にリン酸化及び活性化する。この過程は、細胞成長及び増殖のために重要な遺伝子の遺伝子転写の改変をもたらす。
【0059】
RAS/RAF/MEK/ERKシグナル伝達カスケードにおける関連として、MEK1及びMEK2は、腫瘍形成、細胞増殖、及びアポトーシスの阻害において重要な役割を担う。MEK1/2自体はめったに突然変異されないが、試験された原発腫瘍細胞系統の30%超において構成的に活性なMEKが見出される。このカスケードを止める方法の1つは、MEKの阻害である。MEKが阻害されると、細胞増殖は妨げられ、アポトーシスが誘導される。したがって、MEKの阻害は、薬物療法の開発のための魅力的な標的である。
【0060】
MEKインヒビターには、限定されるものではないが、トラメチニブ(GSK1120212)、セルメチニブ、ビニメチニブ(MEK162)、コビメチニブ(XL518)、レファメチニブ(BAY 86-9766)、ピマセルチブ、PD-325901、RO5068760、CI-1040(PD035901)、AZD8330(ARRY-424704)、RO4987655(CH4987655)、RO5126766、WX-554、E6201、及びTAK-733が含まれる。1つの実施形態においては、上記MEKインヒビターはトラメチニブである。
【0061】
トラメチニブは、小分子キナーゼインヒビターであり、単独の作用物質として、又はダ
ブラフェニブと組み合わせて、BRAF遺伝子にV600E突然変異又はV600K突然変異を有する切除不可能な又は転移性の黒色腫を伴う被験体の治療に使用するために承認されている。BRAFは、B-Rafと呼ばれる、細胞内シグナル伝達に関与するセリン/トレオニンキナーゼをコードする。
【0062】
c-Myc核酸インヒビター分子
上記c-Myc遺伝子は、細胞成長及び分化の主要な分子調節因子である。c-Mycタンパク質は、コンセンサス配列(エンハンサーボックス配列(E-ボックス))の結合及びヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の動員により多くの遺伝子の発現を活性化する転写因子である。c-Mycタンパク質は、転写リプレッサーとしても作用し得る。Miz-1転写因子に結合し、p300コアクチベーターを追い出すことにより、Mycは、Miz-1標的遺伝子の発現を阻害する。さらに、MycはDNA複製の制御において直接的な役割を果たす(Dominguez-Sola et al. Nature 448 (7152): 445-51)
。
【0063】
Wnt、Shh及びEGFを含む様々なマイトジェンシグナル伝達経路(RAS/RAF/MEK/ERK経路を介する)は、c-Mycを活性化すると実証されている。c-Mycのその標的遺伝子の発現の調節における役割は、多くの生物学的効果を引き起こすことであると示されている。最初に見つけられたのは、その細胞増殖を駆動する能力(サイクリンを上方調節し、p21を下方調節する)であったが、c-Mycはまた、細胞成長(リボソームRNA及びタンパク質を上方調節する)、アポトーシス(BcI-2を下方調節する)、分化、及び幹細胞自己再生の調節に重要な役割も担っている。c-Mycは、強力な癌原遺伝子であり、その上方調節は、多くの癌の型において記載されている。c-Myc過剰発現は、DNA過剰複製を伴うと考えられる機構を介して、遺伝子増幅を刺激する(Denis et al. Oncogene 6 (8): 1453-7)。
【0064】
本明細書に開示されるように、β-カテニン核酸インヒビター分子は、c-Myc核酸インヒビター分子と組み合わされ得る。先で論じられたように、様々なオリゴヌクレオチド構造が核酸インヒビター分子として使用されており、それらは当該技術分野で知られている。特定のc-Myc核酸インヒビター分子は、例えば米国特許出願公開第2014/0107178号及び同第2009/0099115号に開示されるように知られており、それらの上記c-Myc核酸インヒビター分子の開示は、引用することにより本出願の一部をなす。
【0065】
特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、米国特許出願公開第2014/0107178号に開示される分子である。
【0066】
特定の実施形態においては、本発明のc-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、該分子の二本鎖領域の長さが15ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記二本鎖領域の長さは、20ヌクレオチドから30ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記二本鎖領域の長さは、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、又は26ヌクレオチドである。
【0067】
特定の実施形態においては、本発明のc-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、そのセンス鎖の長さが18ヌクレオチドから66ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記センス鎖の長さは、25ヌクレオチドから45ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記センス鎖の長さは、30ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記センス鎖の長さは、36ヌクレオチド、37ヌクレオチド、38ヌクレオチド、3
9ヌクレオチド、又は40ヌクレオチドである。特定の実施形態においては、上記センス鎖の長さは、25ヌクレオチドから30ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記センス鎖の長さは、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、又は27ヌクレオチドである。
【0068】
特定の実施形態においては、本発明のc-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、そのアンチセンス鎖の長さが18ヌクレオチドから66ヌクレオチドの間である。一般的に、上記アンチセンス鎖は、上記核酸インヒビター分子の効果を標的遺伝子に向けるために、標的遺伝子のmRNA中の配列に十分に相補的である配列を含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、上記標的遺伝子のmRNA中に含まれる配列と完全に相補的であり、その完全に相補的な配列の長さが18ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である配列を含む。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記アンチセンス鎖の長さは、20ヌクレオチドから50ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖の長さは、20ヌクレオチドから30ヌクレオチドの間である。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖の長さは、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、27ヌクレオチド、又は28ヌクレオチドである。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖の長さは、35ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である。それらの実施形態の幾つかにおいては、上記アンチセンス鎖の長さは、36ヌクレオチド、37ヌクレオチド、38ヌクレオチド、又は39ヌクレオチドである。
【0069】
特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに18ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間の二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、上記センス鎖の長さは25ヌクレオチド~34ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖の長さは26ヌクレオチド~38ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖は、その3’末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、その3’末端に2個の一本鎖ヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、その3’末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含み、かつその5’末端に5個~12個の一本鎖ヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、上記アンチセンス鎖は、その3’末端に2個の一本鎖ヌクレオチドを含み、かつその5’末端に10個の一本鎖ヌクレオチドを含む。
【0070】
特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに26ヌクレオチドの二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、上記センス鎖の長さが26ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖の長さが38ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖は、その3’末端に2個の一本鎖ヌクレオチドを含み、かつ上記アンチセンス鎖は、その5’末端に10個の一本鎖ヌクレオチドを含む。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに25ヌクレオチドの二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、上記センス鎖の長さが25ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖の長さが27ヌクレオチドであり、かつ上記アンチセンス鎖は、その3’末端に2個の一本鎖ヌクレオチドを含む。
【0071】
特定の実施形態においては、本発明のc-Myc核酸インヒビター分子は、ssRNAiインヒビター分子である。
【0072】
特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号4の配列を含む。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号4の配列からなる。特定の実施形態においては、上
記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号3の配列を含む。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号3の配列からなる。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号3の配列を含み、かつそのアンチセンス鎖は、配列番号4の配列を含む。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、上記センス鎖は、配列番号3の配列からなり、かつ上記アンチセンス鎖は、配列番号4の配列からなる。
図8を参照のこと。
【0073】
その他の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号6の配列を含む。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子のアンチセンス鎖は、配列番号6の配列からなる。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号5の配列を含む。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号5の配列からなる。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号5の配列を含み、かつそのアンチセンス鎖は、配列番号6の配列を含む。特定の実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子であり、かつそのセンス鎖は、配列番号5の配列からなり、かつそのアンチセンス鎖は、配列番号6の配列からなる。
図9を参照のこと。
【0074】
特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子がリガンドに結合されると、標的となる腫瘍への該核酸インヒビター分子の送達に向けられる。使用され得るリガンドには、限定されるものではないが、抗体、ペプチド、小分子、及び炭水化物が含まれる。特定の実施形態においては、上記リガンドは、葉酸塩、RGDペプチド、PSMA結合性リガンド(例えば、国際公開第2010/045598号を参照)、トランスフェリン(例えば、Yhee et al. (2013), Bioconjugate Chem., 24, 1850-1860を参照)、又はアプタマー
(例えば、Dassie (2013), Ther Deliv, 4(12): 1527-1546を参照)であり得る。
【0075】
特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子は、核酸ターゲティング分子、例えばDNA又はRNAアプタマーに共有結合されることで、腫瘍ターゲティングが達成される。特定の実施形態においては、核酸インヒビター分子は、上記ターゲティング核酸分子に、核酸リンカーにより結合される。特定の実施形態においては、上記核酸インヒビター分子及び上記ターゲティング核酸分子の1つの鎖は、連続的なオリゴヌクレオチドを含む。幾つかの実施形態においては、上記ターゲティング核酸分子は、dsRNAiインヒビター分子の2つの鎖を連結する。
【0076】
c-Myc RNAの濃度又は活性は、当該技術分野で現在知られる適切な方法又は後に開発される適切な方法によって測定することができる。標的RNA及び/又は標的遺伝子の「発現」の測定のために使用される方法は、標的遺伝子及びそのコードされるRNAの性質に依存し得るものと認識され得る。例えば、標的c-Myc RNA配列がタンパク質をコードする場合には、用語「発現」は、c-Myc遺伝子(ゲノム由来又は外来由来のいずれか)から得られるタンパク質又はc-MycのRNA/転写物を指し得る。そのような場合に、標的c-Myc RNAの発現は、c-Myc RNA/転写物の量を直接計測するか、又はc-Mycタンパク質の量を計測することにより測定することができる。タンパク質は、タンパク質アッセイにおいて、例えば染色若しくはイムノブロッティングによって、又は該タンパク質が計測可能な反応を触媒する場合には、反応速度を計測することにより計測することができる。全てのそのような方法は、当該技術分野で知ら
れており、使用することができる。標的c-Myc RNA濃度が測定される場合、当該技術分野で認識されるRNA濃度の検出方法を使用することができる(例えば、RT-PCR、ノーザンブロッティング等)。c-Myc RNAのターゲティングにおいて、被験体、組織、細胞中のin vitro若しくはin vivoのいずれかでの、又は細胞抽出物中のc-Myc RNA又はタンパク質の濃度の低下における上記核酸インヒビター分子の効力の測定を使用して、c-Myc関連表現型(例えば、疾患又は障害、例えば癌又は腫瘍形成、成長、転移、伝播等)の低下の程度を測定することができることも認識される。上記測定は、細胞、細胞抽出物、組織、組織抽出物、又はその他の適切な起源の材料に対して行われ得る。
【0077】
医薬組成物
本開示は、β-カテニン核酸インヒビター分子及び薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態においては、β-カテニン核酸インヒビター分子及び薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物は、MEKインヒビター又はc-Myc遺伝子の発現を低下させる核酸インヒビター分子を更に含む。
【0078】
本開示において有用な薬学的に許容可能な賦形剤は、慣用の賦形剤である。Remington's Pharmaceutical Sciences、E. W. Martin著、Mack Publishing Co., Easton, PA, 15th
Edition (1975)は、ワクチンを含む1種以上の治療用組成物及び追加の医薬品作用物質
の医薬品送達のために適した組成物及び製剤を記載している。適切な医薬品用賦形剤には、例えばデンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が含まれる。一般に、上記賦形剤の性質は、使用される特定の投与様式に依存することとなる。例えば、非経口用製剤は、通常は、薬学的に及び生理学的に許容可能な流体、例えば水、生理食塩水、平衡塩溶液、バッファー、水性デキストロース、グリセロール等をビヒクルとして含む注射可能な流体を含む。固形組成物(例えば、粉剤、丸剤、錠剤又はカプセル剤の形)のためには、慣用の非毒性の固形賦形剤には、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、又はステアリン酸マグネシウムが含まれ得る。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物は、少量の非毒性の補助物質、例えば湿潤剤又は乳化剤、表面活性剤、防腐剤、及びpH緩衝剤等、例えば酢酸ナトリウム又はソルビタンモノラウレートを含み得る。特定の実施形態においては、上記薬学的に許容可能な賦形剤は、天然に存在しない賦形剤である。
【0079】
本明細書に開示される特定の実施形態による医薬組成物は、少なくとも1種の崩壊剤、少なくとも1種の希釈剤、及び/又は少なくとも1種の結合剤を含む、同じ又は異なる賦形剤のカテゴリーに属し得る少なくとも1種の成分を含み得る。
【0080】
本明細書に開示される実施形態による医薬組成物に添加され得る少なくとも1種の崩壊剤の典型的な非限定的な例には、限定されるものではないが、ポビドン、クロスポビドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプン、ホルムアルデヒド-カゼイン、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0081】
本明細書に開示される実施形態による医薬組成物に添加され得る少なくとも1種の希釈剤の典型的な非限定的な例には、限定されるものではないが、マルトース、マルトデキストリン、ラクトース、フルクトース、デキストリン、微結晶セルロース、アルファ化デンプン、ソルビトール、スクロース、ケイ化微結晶セルロース、粉末セルロース、デキストレート、マンニトール、リン酸カルシウム、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0082】
本明細書に開示される実施形態による医薬組成物に添加され得る少なくとも1種の結合剤の典型的な非限定的な例には、限定されるものではないが、アラビアゴム(acacia:アカシア)、デキストリン、デンプン、ポビドン、カルボキシメチルセルロース、グァーガム、グルコース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリメタクリレート、マルトデキストリン、ヒドロキシエチルセルロース、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0083】
本明細書に開示される医薬組成物の好適な調製形態としては、例えば錠剤、カプセル、軟カプセル、顆粒、粉末、懸濁液、エアロゾル、エマルション、マイクロエマルション、ナノエマルション、単位投薬形態、リング、フィルム、坐剤、溶液、クリーム、シロップ、経皮パッチ、軟膏又はゲルが挙げられる。
【0084】
上記β-カテニン核酸インヒビター分子及び/又は上記c-Myc核酸インヒビター分子は、例えばリポソーム及び脂質、例えば米国特許第6,815,432号、同第6,586,410号、同第6,858,225号、同第7,811,602号、同第7,244,448号、及び同第8,158,601号に開示されるもの、ポリマー材料、例えば米国特許第6,835,393号、同第7,374,778号、同第7,737,108号、同第7,718,193号、同第8,137,695号、及び米国特許出願公開第2011/0143434号、同第2011/0129921号、同第2011/0123636号、同第2011/0143435号、同第2011/0142951号、同第2012/0021514号、同第2011/0281934号、同第2011/0286957号、及び同第2008/0152661号に開示されるもの、カプシド、カプソイド、又は摂取、分配若しくは吸収を補助するための受容体を標的とする分子を含む、その他の分子、分子構造物、又は化合物の混合物と混合され、それらでカプセル化され、それらと結合され、さもなければそれらと会合され得る。
【0085】
特定の実施形態においては、上記核酸インヒビター分子は、脂質ナノ粒子中で製剤化される。脂質-核酸ナノ粒子は一般的に、脂質と核酸とを混合して複合体が形成されることで自然形成する。所望の粒径分布に依存して、得られたナノ粒子混合物は、任意にポリカーボネート膜(例えば、100nmのカットオフ)を通じて、例えばサーモバレル押出機、例えばLipex押出機(Northern Lipids, Inc社)を使用して押し出され得る。治療用途の脂質ナノ粒子を調製するためには、ナノ粒子の形成に使用される溶剤(例えば、エタノール)及び/又は交換バッファーを除去することが望ましい場合があり、それは、例えば透析若しくはタンジェンシャルフロー濾過により達成することができる。核酸インヒビター分子を含む脂質ナノ粒子の製造方法は、例えば米国特許出願公開第2015/0374842号及び同第2014/0107178号に開示されているように、当該技術分野で知られている。
【0086】
特定の実施形態においては、LNPは、カチオン性リポソーム及びペグ化脂質を含むリポソームを含む。LNPは、1種以上のエンベロープ脂質、例えばカチオン性脂質、構造脂質、ステロール、ペグ化脂質、又はそれらの混合物を更に含み得る。
【0087】
LNPにおいて使用するためのカチオン性脂質は、例えば米国特許出願公開第2015/0374842号及び同第2014/0107178号で論じられているように、当該技術分野で知られている。一般的に、上記カチオン性脂質は、生理学的pHで正味正電荷を有する脂質である。特定の実施形態においては、上記カチオン性リポソームは、DODMA、DOTMA、DL-048、又はDL-103である。特定の実施形態においては、上記構造脂質は、DSPC、DPPC、又はDOPCである。特定の実施形態においては、上記ステロールは、コレステロールである。特定の実施形態においては、上記ペグ化脂質は、DMPE-PEG、DSPE-PEG、DSG-PEG、DMPE-PEG2K
、DSPE-PEG2K、DSG-PEG2K、又はDSG-MPEGである。1つの実施形態においては、上記カチオン性脂質はDL-048であり、上記ペグ化脂質はDSG-MPEGであり、かつ上記1種以上のエンベロープ脂質は、DL-103、DSPC、コレステロール、及びDSPE-MPEGである。
【0088】
これらの医薬組成物は、慣用の滅菌技術により滅菌され得るか、又は濾過滅菌され得る。得られた水溶液は、そのまま使用するために包装され得るか、又は凍結乾燥され得て、凍結乾燥された調剤は、投与前に滅菌水性担体と合わされる。該調剤のpHは一般に、3から11の間、より好ましくは5から9の間、又は6から8の間であり、最も好ましくは7から8の間であり、例えば7~7.5であるものとする。固体形で得られる組成物は、固定量の上述の1種以上の作用物質をそれぞれ含む複数の単一投与単位で、例えば錠剤又はカプセル剤の密封包装において包装され得る。固体形の組成物はまた、フレキシブルな量のための容器中で、例えば局所適用可能なクリーム剤又は軟膏剤のために設計された絞り出し可能なチューブ中に包装され得る。
【0089】
特定の実施形態においては、本明細書に記載される医薬組成物は、β-カテニン関連疾患又は障害の治療において使用するための医薬組成物である。特定の実施形態においては、β-カテニン関連疾患又は障害の治療において使用するための医薬組成物は、β-カテニン核酸インヒビター分子を含み、その際、該組成物は、MEKインヒビター(例えば、トラメチニブ)と組み合わせて投与される。その他の実施形態においては、β-カテニン関連疾患又は障害の治療において使用するための医薬組成物は、β-カテニン核酸インヒビター分子を含み、その際、該組成物は、c-Myc核酸インヒビター分子と組み合わせて投与される。特定の実施形態においては、上記β-カテニン関連疾患又は障害は、癌、例えば結腸直腸癌、肝細胞癌、又は黒色腫である。特定の実施形態においては、上記β-カテニン関連癌は転移したものである。特定の実施形態においては、上記β-カテニン関連癌は転移した結腸直腸癌である。特定の実施形態においては、上記結腸直腸癌は肝臓に転移したものである。
【0090】
投与/処置の方法
一般的に、本発明の核酸インヒビター分子は、静脈内投与又は皮下投与される。しかしながら、本明細書に開示される医薬組成物はまた、当該技術分野で既知の、例えば経口、頬粘膜、舌下、直腸、経膣、尿道内、局所、眼内、鼻内、及び/又は耳介内を含むあらゆる方法により投与され得て、その投与には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、水性懸濁液剤、ゲル剤、スプレー剤、坐剤、膏剤、軟膏剤等が含まれ得る。また投与は、注射を介して、例えば腹腔内、筋内、皮内、眼窩内、嚢内、脊髄内、胸骨内等での注射を介して行われ得る。
【0091】
本明細書に開示される化合物の治療的有効量は、投与経路及び患者の身体特性、例えば全身状態、体重、日常の飲食、及びその他の薬物治療に依存し得る。本明細書で使用される場合に、治療的有効量は、治療される被験体の疾患又は状態症状を予防、緩和又は改善するために有効な1種以上の化合物の量を意味する。治療的有効量の測定は、十分に当業者の能力の範囲内であり、一般的に1患者当たりの用量につき約0.5mgから約3000mgまでの1種以上の小分子作用物質の範囲である。
【0092】
1つの態様においては、本明細書に開示される医薬組成物は、β-カテニン関連疾患又は障害に関連する症状の治療又は予防のために有用であり得る。1つの実施形態は、β-カテニン関連疾患又は障害を治療する方法であって、被験体に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビターを投与することを含む、方法に関する。もう1つの実施形態は、β-カテニン関連疾患又は障害を治療する方法であって、被験体に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効
量のc-Myc核酸インヒビター分子を投与することを含む、方法に関する。
【0093】
一般的に、上記核酸インヒビター分子は、その核酸インヒビター分子と組み合わされる小分子治療薬とは個別に、かつそれとは異なるスケジュールで投与される。例えば、単一の作用物質として使用される場合に、トラメチニブは、1日経口用量(一般的に、約1mg/日~2mg/日)と現在定められている。他方で、上記核酸インヒビター分子は、静脈内経路又は皮下経路を通じて、1週間に1回、2週間毎に1回、1ヶ月に1回、3ヶ月毎に1回、1年に2回等で与えられる用量で投与される傾向がある。上記被験体は、核酸インヒビター分子の投与開始時点で既に小分子治療薬を摂取している場合がある。その他の実施形態においては、上記被験体は、小分子治療薬及び核酸インヒビター分子の両方の投与をほぼ同時に開始し得る。その他の実施形態においては、上記被験体は、核酸インヒビター分子の投与開始後に小分子治療薬を摂取し始めてもよい。
【0094】
本明細書に開示される治療方法のための特定の実施形態においては、一方の医薬組成物は、β-カテニン核酸インヒビター分子を含み得て、別個の医薬組成物は、MEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子を含み得る。
【0095】
その他の実施形態においては、β-カテニン核酸インヒビター分子は、MEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子と同時に投与され得る。
【0096】
したがって、本明細書に開示される治療方法のための特定の実施形態においては、単一の医薬組成物は、β-カテニン核酸インヒビター分子、及びMEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子の両方を含み得る。このように、本明細書に開示される治療方法の1つの実施形態においては、単一の医薬組成物が被験体に投与され、その際、該単一の医薬組成物は、β-カテニン核酸インヒビター分子、及びMEKインヒビター、例えばトラメチニブの両方を含む。本明細書に開示される治療方法のもう1つの実施形態においては、上記単一の医薬組成物は、β-カテニン核酸インヒビター分子、及びc-Myc核酸インヒビター分子の両方を含む。
【0097】
特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子又はc-Myc核酸インヒビター分子は、1日につき受容者の体重1キログラム当たりに20マイクログラム~10ミリグラムの、1キログラム当たりに100マイクログラム~5ミリグラムの、1キログラム当たりに0.25ミリグラム~2.0ミリグラムの、又は1キログラム当たりに0.5ミリグラム~2.0ミリグラムの投与量で投与される。
【0098】
特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子又はc-Myc核酸インヒビター分子は、1日1回、1週間に1回、2週間毎に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月毎に1回、四半期に1回、1年に2回、又は1年に1回で投与される。特定の実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子又はc-Myc核酸インヒビター分子は、2日毎に、3日毎に、4日毎に、5日毎に、6日毎に、又は7日毎に1回又は2回で投与される。上記組成物(両方の作用物質又は単一の個別の作用物質を含む)は、1ヶ月に1回、1週間に1回、1日に1回(QD)、1日置きに1回で、又は1ヶ月用量、1週間用量若しくは1日用量を複数に分けて、例えば1日に2回、1日に3回、若しくは2週間毎に1回投与され得る。特定の実施形態においては、上記組成物は、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、又は少なくとも7日間にわたり1日1回で投与され得る。上記作用物質は同時に投与され得るが、一般的にそれぞれの作用物質は、特にそれらの作用物質が異なる経路で投与される場合には異なるスケジュールで投与されることとなる。
【0099】
その一方で、血中の治療的有効な濃度を維持するのに十分な連続的な静脈内注入も検討される。当業者であれば、限定されるものではないが、疾患又は障害の重症度、前処置、
該被験体の全身の健康及び/又は年齢若しくは体重、並びにその他の現症を含む特定の要素が、被験体を効果的に治療するために必要とされる投与量及びタイミングに影響を及ぼし得るものと認識するであろう。
【0100】
治療的有効量の作用物質による被験体の治療は、単回の処置を含み得るか、又は好ましくは一連の処置を含み得る。特定の実施形態においては、その治療スケジュールは、一般的により高い投与量又は頻度である初回負荷投与又は段階に引き続き、一般的に該負荷投与/段階よりも低い投与量又は頻度である維持投与又は段階を含む。一般的に、上記処置は、疾患の進行又は許容することができない毒性が生ずるまで続ける。
【0101】
特定の実施形態においては、上記β-カテニン又はc-Myc核酸インヒビター分子は、発現構築物、例えばウイルスベクター、レトロウイルスベクター、発現カセット、又はプラスミドウイルスベクター中に、例えば当該技術分野で既知の方法を使用して挿入され得る。発現構築物は、例えば吸入により、経口的に、静脈注射により、局所投与により(米国特許第5,328,470号を参照)、又は定位的注入により(例えば、Chen et al.(1994),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,3054-3057を参照)被験体に送達され得る。
【0102】
上記発現構築物は、適切な発現系で使用するために適した構築物であり得て、該発現構築物には、限定されるものではないが、当該技術分野で既知のレトロウイルスベクター、線状発現カセット、プラスミド、及びウイルスベクター又はウイルス由来ベクターが含まれる。そのような発現構築物には、1種以上の誘導可能なプロモーター、RNA Pol
IIIプロモーターシステム、例えばU6 snRNAプロモーター、若しくはH1 RNAポリメラーゼIIIプロモーター、又は当該技術分野で既知のその他のプロモーターが含まれ得る。該構築物は、siRNAの一方の鎖又は両方の鎖を含み得る。両方の鎖を発現する発現構築物は、両方の鎖を連結するループ構造を含んでもよく、又はそれぞれの鎖は、同じ構築物内で別個のプロモーターから別々に転写されてもよい。それぞれの鎖は、別個の発現構築物から転写されてもよい(例えば、Tuschl(2002, Nature Biotechnol 20: 500-505))。
【0103】
1つの態様は、β-カテニン関連疾患又は障害を治療する方法であって、被験体(好ましくは、ヒト)に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビター又はc-Myc核酸インヒビター分子を投与することを含む、方法に関する。
【0104】
1つの実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子である。それらの実施形態の幾つかにおいては、そのセンス鎖は、配列番号1の配列を含むか又は該配列からなり、かつそのアンチセンス鎖は、配列番号2の配列を含むか又は該配列からなる。1つの実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、脂質ナノ粒子を用いて製剤化される。1つの実施形態においては、上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、静脈内投与される。
【0105】
1つの実施形態においては、上記治療方法は、被験体(好ましくは、ヒト)に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のMEKインヒビターを投与することを含む。1つの実施形態においては、上記MEKインヒビターはトラメチニブである。1つの実施形態においては、トラメチニブは経口投与される。1つの実施形態においては、トラメチニブは、毎日又は一日置きに約1mg~2mgの投与量で投与される。1つの実施形態においては、トラメチニブは、毎日2mgの投与量で投与される。
【0106】
1つの実施形態においては、上記MEKインヒビターは、経口投与されるトラメチニブであり、かつ上記β-カテニン核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子
であり、ここで該分子の二本鎖領域の長さは15ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間であり、上記dsRNAiインヒビター分子は、例えばセンス鎖及びアンチセンス鎖を有する二本鎖核酸を含み、ここで該センス鎖は、配列番号1の配列を含むか又は該配列からなり、かつ該アンチセンス鎖は、配列番号2の配列を含むか又は該配列からなる。上記β-カテニンdsRNAiインヒビター分子は、脂質ナノ粒子を用いて製剤化され得て、静脈内投与され得る。
【0107】
もう1つの実施形態においては、上記治療方法は、被験体(好ましくは、ヒト)に治療的有効量のβ-カテニン核酸インヒビター分子、及び治療的有効量のc-Myc核酸インヒビター分子を投与することを含む。
【0108】
1つの実施形態においては、上記c-Myc核酸インヒビター分子は、dsRNAiインヒビター分子である。それらの実施形態の幾つかにおいては、そのセンス鎖は、配列番号3の配列を含むか又は該配列からなり、かつそのアンチセンス鎖は、配列番号4の配列を含むか又は該配列からなる。もう1つの実施形態においては、該センス鎖は、配列番号5の配列を含むか又は該配列からなり、かつ該アンチセンス鎖は、配列番号6の配列を含むか又は該配列からなる。1つの実施形態においては、上記c-MycのdsRNAiインヒビター分子は、脂質ナノ粒子を用いて製剤化される。1つの実施形態においては、上記c-MycのdsRNAiインヒビター分子は、静脈内投与される。
【0109】
これらの治療方法の特定の実施形態においては、上記β-カテニン関連疾患又は障害は、癌、例えば結腸直腸癌、肝細胞癌、又は黒色腫であり、かつ上記被験体は、β-カテニン遺伝子中に突然変異を有する。その他の実施形態においては、上記被験体は、β-カテニン遺伝子(又はWntシグナル伝達経路における別の遺伝子、例えばAPC)及びKRAS遺伝子中の突然変異を特徴とする結腸直腸癌を伴う。特定の実施形態においては、該被験体は、BRAF突然変異を有する。特定の実施形態においては、上記被験体は、BRAF突然変異及びWntシグナル伝達経路に関与するタンパク質をコードする遺伝子(例えば、APC)中の突然変異を有する。トラメチニブがMEKインヒビターとして投与される特定の実施形態においては、上記被験体は、BRAF突然変異(例えば、V600E又はV600F)を有する。特定の実施形態においては、該BRAF突然変異を有する被験体は、黒色腫を伴う。
【0110】
これらの治療方法の特定の実施形態においては、上記β-カテニン関連癌は転移したものである。特定の実施形態においては、上記β-カテニン関連癌は転移した結腸直腸癌である。特定の実施形態においては、上記結腸直腸癌は肝臓に転移したものである。特定の実施形態においては、上記治療は、被験体において、限定されるものではないが肝臓における転移を含む転移を減少させる。特定の実施形態においては、β-カテニン核酸インヒビター分子、例えばdsRNAiインヒビター分子及びMEKインヒビター、例えばトラメチニブの組み合わせによる治療は、β-カテニン核酸インヒビター分子又はMEKインヒビターのいずれかで(組み合わせではなく個別に)処置を受けた転移した癌を伴う患者の平均生存を上回って、上記被験体の生存を増大させる。
【実施例0111】
実施例1:BCAT1構築物
β-カテニン遺伝子を標的とする核酸インヒビター分子を構築した(「BCAT1」)。BCAT1は、26塩基対のパッセンジャー鎖と38塩基対のガイド鎖とを有し、それらは26塩基対からなる二本鎖領域を形成する(
図7)。上記パッセンジャー鎖の5’末端は、10塩基対の一本鎖突出からなり、かつ上記ガイド鎖の3’末端は、2塩基対の一本鎖突出からなる(
図7)。
【0112】
BCAT1構築物を、EnCore脂質ナノ粒子(LNP)中で製剤化した。LNPで製剤化されたBCAT1は、核酸搭載物を、皮下異種移植腫瘍、同所性異種移植腫瘍、播種性異種移植腫瘍、及び転移性異種移植腫瘍、患者由来異種移植片(PDX)、並びに遺伝子組換えモデル(GEM)を含む多数の腫瘍型(以下の表Iを参照)に効果的に送達した。
【0113】
【0114】
実施例2:腫瘍研究
6週齢~8週齢のHsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウス(ここに、ヌードマウスと呼称する)に、LS411N(5×106個の細胞)、SW403(5×106個の細胞)、Ls174t(5×106個の細胞)又はHep3B(5×106個の細胞+マトリゲル)を右肩下に皮下注射した。腫瘍成長/抑制を監視するために、腫瘍容積を1週間に2回測定した。投与は腫瘍が200mm3~250mm3に達したときに開始した。
腫瘍成長阻止研究のために、動物を無作為化し、異なるコホートに割り当て、投与サイクルに供した。BCAT1又はLNPを、外側尾静脈を介して10ml/kgの総容量で静脈内投与した。トラメチニブを、10ml/kgの容量で経口投与した。
【0115】
結腸直腸癌(CRC)肝臓転移モデルを、腹部正中切開後にヌードマウスの脾臓中に1×106個~2×106個の細胞を外科手術的に移植することにより作製した。外科手術後に、その腹部切開を5-0~6-0の吸収性の非ブレイド縫合糸で閉じ、皮膚は単一の創傷クリップで閉じた。外科手術の開始前、そして外科手術の間に、マウスをイソフルランにより麻酔した。疼痛軽減のために手術前及び手術後に、ブプレノルフィンを0.1mg/kgで皮下投与した。マウスを、病原体不含環境において保持し、そして動物に関わる全ての手順は、Dicerna Pharmaceuticals社の動物実験委員会(Dicerna-IA
CUC)により承認されたプロトコルに従って実施した。
【0116】
ヒト細胞系統LS411N及びSW403、Ls174t及びHep3BをATCC(バージニア州、マナサス)から取得し、10%FBSを補ったRPMI/DMEM培地中で増殖させた。LS411Nは、結腸腺腫性ポリポーシス(APC)及びBRAF遺伝子中に突然変異を有するヒト結腸直腸細胞系統である。APCは、Wntシグナル伝達経路における破壊複合体の1構成要素である(
図1を参照)。SW403は、APC及びKRAS遺伝子中に突然変異を有するヒト結腸直腸細胞系統である。LS174tは、CTNNB1及びKRAS遺伝子中に突然変異を有するヒト結腸直腸細胞系統である。
【0117】
実施例3:Wnt活性腫瘍において有効なBCAT1
BCAT1の単一作用物質の効力を、種々の結腸直腸癌モデルにおいて種々の用量水準で評価した。1週間に2回の投与サイクル(qdx3、1mg/kg)の後に、BCAT1は、LS411N腫瘍において、ビヒクル処置された動物に対して82%の腫瘍成長阻止をもたらした(
図2A)。投与計画を1週間に1回の投与(qwx1、3mg/kg)に変えた場合に、腫瘍成長阻止は60%へと僅かに低下した(
図2B)。それは、これらの腫瘍を効果的に治療するために、より積極的な投与計画が必要であることを示唆している。それらのマウスをより低い用量水準(qdx3、0.3mg/kg)で処置した場合に、腫瘍成長阻止は47%へと更に減少した。それにより、精密な用量応答が裏付けられる(
図2C)。治療が2回目のサイクル(qdX3、3mg/kg)後に中断されたコホートにおいては、腫瘍成長は、未処置の被験体とほぼ同等の水準にまで戻った(
図2D)。それは、β-カテニンの長期抑制がこのモデルにおいて効力の維持のために必要とされることを示唆している。何らかの理論により縛られることを意図するものではないが、処置が止められたときに、Wnt経路が再活性化されているように見える。
【0118】
BCAT1は、Wnt活性化を伴うその他のCRC腫瘍において力強い効力を裏付けた。力強い効力は、SW403細胞(
図3A)及びLs174t細胞(
図3B)においてqdx3、3mg/kgの用量水準(2サイクル)でも裏付けられた。β-カテニン/APC野生型RKO腫瘍(
図3C)においては、同じ用量水準では効力は観察されなかった。それは、その腫瘍成長阻止が活性化されたWntシグナル伝達を必要とすることを示唆し、こうして標的依存性が確認される。
【0119】
実施例4:BCAT1及びトラメチニブの組み合わせは、相乗的効力を媒介する
BCAT1及びMEKインヒビター(トラメチニブ)による組み合わせ療法を評価した。トラメチニブ(99%純度)をDMSO中に溶かして、5mg/mlの澄明な溶液を作製した。この溶液を、溶剤混合物(10%のエタノール、10%のクレモホール、80%の水)中で希釈して、種々の希釈物を作製した。組み合わせ研究で使用されるビヒクルは、トラメチニブ用量におけるDMSO濃度に合わせるために、PBS中の10%のDMSOからなる。
【0120】
組み合わせ療法の評価の前に、トラメチニブ単独の効力を結腸直腸癌において試験した。まずLS174t腫瘍を有するマウスを、トラメチニブを用いて3mg/kg又は1mg/kgの用量水準で4日間にわたり経口処置し、腫瘍成長の監視をした(
図4A)。その効力データに基づき、BCAT1と組み合わせて使用するための用量として0.3mg/kgを選んだ。これらの腫瘍における単一作用物質のBCAT1の効力研究に基づき、トラメチニブと組み合わせて使用するための用量として3mg/kgを選んだ。この組み合わせにより、LS174t腫瘍を有するマウスは、単一作用物質の処置のどちらと比較しても効果的に治療された(90%を超える成長阻止)(
図4B)。BCAT1及びMEKインヒビターによる組み合わせ療法は、処置された腫瘍において、単一作用物質で処置された腫瘍と比較して大幅なMYCの下方調節も引き起こした(
図4C)。
【0121】
次いで、単一作用物質のトラメチニブを、LS411N腫瘍を有するマウスにおいて種々の用量水準(3mg/kg、1mg/kg及び0.3mg/kg)で評価し、組み合わせ研究において使用するための用量として0.1mg/kgを選んだ(
図5A)。BCAT1に関して、先の単一作用物質の効力研究から、トラメチニブと組み合わせて使用してLS411N腫瘍を治療するために0.1mg/kgの用量を選んだ。驚くべきことに、BCAT1及びトラメチニブの組み合わせは、LS411N腫瘍において0.1mg/kgという低い用量で、単一作用物質の処置群(それぞれ約20%の成長阻止)のどちらと比較しても相乗的な抗腫瘍効果(80%より大きい成長阻止)をもたらす(
図5B)。
【0122】
組み合わせ治療を、APC及びKRASの突然変異を有する第3のCRCモデル(SW403)においても評価した。その他の2つのモデルについて記載されたように、まず、これらの腫瘍において単一作用物質のトラメチニブの効力を種々の用量水準で確認し、組み合わせ研究のために最適な用量として0.3mg/kgを選んだ(
図5C)。BCAT1を同じ用量(0.3mg/kg)で投与し、トラメチニブと組み合わせて使用した。再び、その合理的な組み合わせは、0.3mg/kgという低い用量で、それぞれの作用物質を単独で投与した場合の20%(BCAT1)及び40%(トラメチニブ)の阻止と比較して90%を超える腫瘍成長阻止で相乗的効力をもたらした(
図5D)。
【0123】
これらのCRCモデルにおいて、腫瘍は概して、時間の経過とともにトラメチニブに対する耐性を生ずる。この耐性を調査するために、SW403腫瘍を、トラメチニブにより3mg/kgの用量(qdx3、3mg/kg×3)で該腫瘍がその処置に応答しなくなるまで連続的に処置した。該腫瘍が応答しなくなり、トラメチニブ処置に対して耐性になったら、その腫瘍をBCAT1及びトラメチニブの組み合わせ(qdx3、3mpk+ qdx3、3mpk)で処置した(およそ42日目)。驚くべきことに、トラメチニブ処置に対して応答しなかった腫瘍は、該組み合わせ処置に対しては見事に応答し、そして結果として、処置群の平均腫瘍容積は、該組み合わせ処置後の数日以内で60%だけ減少した。また、上記処置群におけるどの単発性腫瘍も、腫瘍容積の劇的な減少を伴って上記組み合わせ処置に応答した(
図5E及び
図5F)ことは興味深いことであった。これらの腫瘍が、第1回目の組み合わせ処置が適用されたときとほぼ同じサイズにまで成長してから、組み合わせ療法の第2回目を適用した(およそ60日目)。興味深いことに、これらの腫瘍は、第1回目の組み合わせ処置後に見られたのと同じ程度まで再び応答した。それは、BCAT1/トラメチニブの組み合わせが、トラメチニブ単独で処置された腫瘍により発生された耐性に対処し、したがって二重の経路の活性化を伴うCRC患者においてとても大きな臨床的有益性をもたらすことを示唆している。
【0124】
実施例5:CTNNB1及びMYCの組み合わせ阻害
BCAT1及びc-Myc遺伝子を標的とする核酸インヒビター分子(「MYC1」)による組み合わせ療法も評価した。MYC1は、25塩基対のパッセンジャー鎖及び27
塩基対のガイド鎖を有し、それらの鎖は25塩基対からなる二本鎖領域を形成し、ここで上記パッセンジャー鎖の3’末端及び上記ガイド鎖の5’末端は平滑末端を形成し、かつ上記ガイド鎖の3’末端は、一本鎖の2塩基の突出からなる(
図9)。MYC1構築物を、EnCore LNP中で製剤化した。
【0125】
3mg/kgの投与量でのBCAT1及びMYC1の単一作用物質の効力を、Hep3B腫瘍を有するPDXマウスモデルにおいて評価した(
図6A及び
図6B)。それぞれ1mg/kgの投与量で組み合わせた場合に、BCAT1及びMYC1により、個別に2mg/kgで投与されたMYC1及びBCAT1(それぞれ40%及び47%の成長阻止)と比較して、力強い抗腫瘍効力(86%)が裏付けられた(
図6C)。
【0126】
実施例6:BCAT1及びトラメチニブの組み合わせによる肝臓転移の治療
二重の経路活性化を有する皮下腫瘍におけるBCAT1及びトラメチニブの組み合わせを評価することに加えて、この組み合わせを、CRC肝臓転移を有するマウスにおいても評価した。CRCの初発転移部位は肝臓であり、CRC患者のほとんどは、主としてCRC肝臓転移が原因で死亡すると報告されている。
【0127】
Ls174t及びLS411N細胞を脾臓中に外科手術的に移植することにより、多数のCRC肝臓転移モデルを開発した。2×10
6個の細胞を移植してから2週間~5週間後に、脾臓中で成長した原発Ls174t腫瘍は、自発的に肝臓へと転移した。BCAT1単独療法が原発腫瘍及び転移性腫瘍の両方を治療して、生存を改善するかどうかを確認するために、腫瘍移植から2週間後に、Ls174t腫瘍を有するマウスを、BCAT1又はプラセボにより3mg/kgの用量(qdx3、3mg/kg、3サイクル)で処置した。
図11Aに示されるように、PBS又はプラセボ処置を受けた全てのマウスは42日目に死亡したが、BCAT1処置を受けたマウスは、より長い期間にわたり生存した。対照処置群の平均生存期間(「MST」)は31日であるが、BCAT1処置群のMSTは46日である)。
【0128】
同様に、LS411N肝臓転移を有するマウスも、BCAT1又は対照(プラセボ又はPBS)により同じ用量水準で3週間にわたり処置した。Ls174t腫瘍とは異なり、LS411N腫瘍では、脾臓中に2×10
6個の細胞を移植した後に肝臓に転移するまでにより長い時間がかかった。その処置は、脾臓中でのLS411N細胞の移植から18日後に開始した。対照処置されたマウスが全て死亡するまでには112日間かかった。しかしながら、BCAT1単独療法は、LS411N肝臓転移を有するマウスの生存を、対照処置群と比較して有意に改善した。その際、移植112日後にBCAT1処置されたマウスの75%が生存している(
図11B)。BCAT1処置されたマウスが全て死亡するまでには約6ヶ月間かかった。まとめると、BCAT処置は、LS411N肝臓転移を有するマウスの生存を、対照処置群と比較して2倍まで延長した(PBS/プラセボ処置群のMSTは99日~102日であるが、BCAT1処置群のMSTは181日である)。
【0129】
これらのCRC転移モデルでの組み合わせ方略を評価する前に、Ls174t肝臓転移モデルにおいて単一作用物質のトラメチニブの効力研究を実行した。腫瘍進行の侵襲性を低下させるために、このモデルではより少ない数のLs174t細胞(1×10
6個の細胞)を脾臓中に移植した。移植から18日後に、マウスを無作為に3つの群に分配し、PBS、1mg/kgのトラメチニブ、又は3mg/kgの用量水準のトラメチニブ(qdx3、3サイクル)により処置した。
図11Cに示されるように、より低い用量のトラメチニブ(1mg/kg)は、PBS処置群と比較して生存においてあまり大きな有益性を示さなかったが(47日対54日のMST)、より高い用量のトラメチニブ(3mg/kg)は、PBS処置群と比較して生存を有意に延長した(65日のMST)。
【0130】
次いで、Ls714t肝臓転移を有するマウスにおいては、単一作用物質での効力研究で使用された用量に基づいて組み合わせ効力研究を実行した。今回は、その処置は、2×106個のLs174t細胞の腫瘍移植から3週間後に開始した。BCAT1、プラセボ、及びトラメチニブは、2mg/kgで投与され、組み合わせ群(プラセボ+トラメチニブ又はBCAT1+トラメチニブ)は、2+2mg/kgで投与された。この場合においては、上記処置が転移プロセスの開始の十分に後に開始され、かつ用量水準がわずかに減少されたので、単一作用物質処置のそれぞれは、生存において少しの改善しか示さなかった。両方の対照群(プラセボ及びPBS)におけるマウスは全て、44日以内には死亡した(37日の生存期間中央値)。BCAT1、トラメチニブ、又はプラセボ及びトラメチニブの処置のいずれかを行ったマウスの90%は、およそ48日目で死亡した(45日、44日又は42日の生存期間中央値)。これらの群のそれぞれにおける1匹のマウスは少し長く生存し、64日目に死亡した。際だったことに、BCAT1及びトラメチニブの組み合わせは、劇的な生存的有益性をもたらした(74日の生存期間中央値)。その際、2匹のマウスは、100日間にわたり生存し、1匹のマウスは、200日間にわたり生存した。したがって、進行した肝臓転移を有するマウスは、BCAT1及びトラメチニブの合理的な組み合わせにより効果的に治療された。このように、BCAT1及びトラメチニブの組み合わせは、二重の経路活性化を伴う転移性CRC患者に対してとても大きな臨床的有益性をもたらす。
【0131】
特に指摘されない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される全ての数は、示されるか否かにかかわらず、全ての場合において用語「約」により修飾されると理解されるべきである。全ての範囲及び特定された任意の端点の範囲内の部分範囲と同様に、本明細書及び特許請求の範囲で使用される正確な数値も、本開示の追加の実施形態を形成することも理解されるべきである。さらに、複数の工程が開示される場合に、明示的に述べられていない限り、それらの工程はその順序で実施される必要はないことに留意されるものとする。
【0132】
その他の実施形態は、本明細書及び本開示の実施を考慮すれば当業者には明らかであろう。
被験体におけるβ-カテニン関連癌の治療において使用するための、β-カテニン核酸インヒビター分子(ここで、該β-カテニン核酸インヒビター分子はβ-カテニンmRNAを標的とし、それによってβ-カテニン遺伝子の発現を低下することができる)を含む医薬組成物であって、
c-Myc核酸インヒビター分子と組み合わせて投与される、医薬組成物。
前記β-カテニン核酸インヒビター分子はdsRNAiインヒビター分子であり、該分子の二本鎖領域の長さは、15ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記β-カテニン核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに18ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間の二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、前記センス鎖の長さは25ヌクレオチド~34ヌクレオチドであり、かつ前記アンチセンス鎖の長さは26ヌクレオチド~38ヌクレオチドであり、かつ該アンチセンス鎖は、その3'末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記c-Myc核酸インヒビター分子は、センス鎖及びアンチセンス鎖並びに18ヌクレオチドから40ヌクレオチドの間の二本鎖領域を含むdsRNAiインヒビター分子であり、前記センス鎖の長さは25ヌクレオチド~34ヌクレオチドであり、かつ前記アンチセンス鎖の長さは26ヌクレオチド~38ヌクレオチドであり、かつ該アンチセンス鎖は、その3'末端に1個~5個の一本鎖ヌクレオチドを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記c-Myc dsRNAiインヒビター分子のセンス鎖は配列番号3の配列を含み、かつ前記c-Myc dsRNAiインヒビター分子のアンチセンス鎖は配列番号4の配列を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
前記c-Myc dsRNAiインヒビター分子のセンス鎖は配列番号5の配列を含み、かつ前記c-Myc dsRNAiインヒビター分子のアンチセンス鎖は配列番号6の配列を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
前記β-カテニン核酸インヒビター分子及び/又は前記c-Myc核酸インヒビター分子は、脂質ナノ粒子を用いて製剤化され、該脂質ナノ粒子は、カチオン性脂質及びペグ化脂質を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記被験体は、β-カテニン核酸インヒビター分子の投与前に、β-カテニン関連癌のための事前処置の適用を少なくとも3回、4回、5回、又は6回受けている、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。