(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033851
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】癌マーカーおよび治療標的としてのグリピカン2
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220222BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220222BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220222BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220222BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220222BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220222BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220222BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220222BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20220222BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220222BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220222BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220222BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220222BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220222BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220222BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20220222BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220222BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20220222BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
A61K39/395 T ZNA
A61K39/395 E
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/04
A61K47/68
A61K9/127
A61K9/14
A61K9/51
A61P43/00 105
C07K16/46
C07K19/00
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
C07K16/30
C07K16/28
C07K14/705
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194050
(22)【出願日】2021-11-30
(62)【分割の表示】P 2018543286の分割
【原出願日】2016-11-08
(31)【優先権主張番号】62/253,000
(32)【優先日】2015-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/350,976
(32)【優先日】2016-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(71)【出願人】
【識別番号】305056858
【氏名又は名称】ザ ガバメント オブ ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マーリス ジョン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ボッセ クリストファー アール.
(72)【発明者】
【氏名】ディミトロフ ディミーター
(72)【発明者】
【氏名】チュ チョンユ
(72)【発明者】
【氏名】ジェレヴ ドンチョ ブイ.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グリピカン2陽性癌を処置するための薬学的組成物を提供する。
【解決手段】癌細胞関連グリピカン2に選択的に結合する抗体または抗体派生物を含む、対象においてグリピカン2陽性癌を処置するための薬学的組成物であって、前記癌が、前記対象におけるグリピカン2陽性癌細胞に前記抗体または抗体派生物が接触することによって処置され、かつ前記抗体または抗体派生物が、特定のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび特定のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、薬学的組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞関連グリピカン2に選択的に結合する抗体または抗体派生物を含む、対象においてグリピカン2陽性癌を処置するための薬学的組成物であって、
前記癌が、前記対象におけるグリピカン2陽性癌細胞に前記抗体または抗体派生物が接触することによって処置され、かつ
前記抗体または抗体派生物が、
(a) SEQ ID NO: 5のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメイン、または
(b) SEQ ID NO: 25のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 26のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 27のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 30のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメイン
を含む、前記薬学的組成物。
【請求項2】
グリピカン2陽性癌細胞が、
(a) 固形腫瘍癌細胞、
(b) 肺癌細胞、脳癌細胞、頭頸部癌細胞、乳癌細胞、皮膚癌細胞、肝臓癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞、結腸癌細胞、腎臓癌細胞、直腸癌細胞、子宮癌細胞、子宮頸癌細胞、卵巣癌細胞、精巣癌細胞、もしくは食道癌細胞である固形腫瘍癌細胞、または
(c) 胚性癌細胞、または
(d) 肉腫細胞、神経芽細胞腫細胞、ラブドイド癌細胞、髄芽細胞腫細胞もしくは神経芽細胞腫細胞
である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
第2の抗癌剤または処置と組み合わせて使用される、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
(a) 第2の抗癌剤もしくは処置が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、もしくは毒素療法より選択される、かつ/または
(b) 第2の剤もしくは処置の前に薬学的組成物が与えられる、もしくは第2の剤もしくは処置が、薬学的組成物と同時、もしくは薬学的組成物の前および/もしくは後に与えられる、
請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
(a) グリピカン2陽性癌細胞が、転移癌細胞、多剤耐性癌細胞、もしくは再発性癌細胞である、かつ/または
(b) 抗体が、単鎖抗体、シングルドメイン抗体もしくはキメラ抗体である、もしくは抗体派生物がFab断片である、かつ/または
(c) 抗体が、癌細胞関連グリピカン2および異なる癌細胞表面抗原に対して特異性を有する組換え抗体である、
請求項1~4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
抗体が、
(a) マウス抗体もしくはIgGであるマウス抗体、または
(b)ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはIgGであるヒト化抗体
である、請求項1~5のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
薬学的組成物が、
(a) 抗体に連結された抗腫瘍薬物をさらに含む、または
(b) 抗体に連結された抗腫瘍薬物をさらに含み、前記抗腫瘍薬物が感光性リンカーもしくは酵素によって切断されるリンカーを介して前記抗体に連結されている、または
(c) 抗体に連結された抗腫瘍薬物をさらに含み、前記抗腫瘍薬物が毒素、放射性同位体、サイトカイン、もしくは酵素である、
請求項1~6のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
抗体が、
(a) 標識、もしくはペプチドタグ、酵素、磁気粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、もしくは色素である標識をさらに含む、かつ/または
(b) リポソームもしくはナノ粒子に結合されている、かつ/または
(c) 細胞死を誘導する、もしくは抗体依存性細胞毒性もしくは補体を介した細胞毒性によって細胞死を誘導する、
請求項1~7のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項9】
抗体派生物がキメラ抗原受容体または二重特異性抗体である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項10】
(i)癌細胞関連グリピカン2に選択的に結合する第1の単鎖抗体であって、
(a)IgG抗体であり、
(b)癌細胞増殖を阻害し、
(c)癌細胞死を誘導する
第1の単鎖抗体と、
(ii)T細胞またはB細胞に結合する第2の単鎖抗体と
を含む、融合タンパク質であって、
前記第1の単鎖抗体が、
(a) SEQ ID NO: 5のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメイン、または
(b) SEQ ID NO: 25のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 26のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 27のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 30のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメイン
によって特徴付けられる、前記融合タンパク質。
【請求項11】
(i) 第2の単鎖抗体が、CD3を介してT細胞に結合する、または
(ii)融合タンパク質が、標識もしくは治療部分をさらに含む、
請求項10記載の融合タンパク質。
【請求項12】
(i)癌細胞関連グリピカン2に選択的に結合する単鎖抗体可変領域を含むエクトドメインであって、該単鎖抗体が、
(a)IgG抗体であり、
(b)癌細胞増殖を阻害し、
(c)癌細胞死を誘導し、
該単鎖抗体可変領域のC末端に取り付けられた可動性ヒンジを有する、
エクトドメインと、
(ii)膜貫通ドメインと、
(iii)エンドドメインと
を含む、キメラ抗原受容体であって、該単鎖抗体可変領域が癌細胞関連グリピカン2と結合した場合に該エンドドメインがシグナル伝達機能を含み、
前記単鎖抗体可変領域が、
(a) SEQ ID NO: 5のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメイン、または
(b) SEQ ID NO: 25のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 26のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 27のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 30のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメイン
によって特徴付けられる、前記キメラ抗原受容体。
【請求項13】
(a) 膜貫通ドメインおよびエンドドメインが同じ分子に由来する、または
(b) エンドドメインがCD3ζドメインもしくは高親和性FcεRIを含む、または
(c) 可動性ヒンジがCD8αもしくはIgに由来する、
請求項12記載の受容体。
【請求項14】
請求項12もしくは13記載のキメラ抗原受容体、または請求項10記載の融合タンパク質を発現する、細胞。
【請求項15】
(a) 請求項12もしくは13記載のキメラ抗原受容体のエンドドメインが、CD3ζドメインもしくは高親和性FcεRIを含む、または
(b) 請求項12もしくは13記載のキメラ抗原受容体の可動性ヒンジが、CD8αもしくはIgに由来する、または
(c) 請求項10記載の融合タンパク質の第2の単鎖抗体が、CD3、T細胞、もしくはB細胞に結合する、
請求項14記載の細胞。
【請求項16】
抗体もしくは抗体断片が、
(a) SEQ ID NO: 5のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメインによって特徴付けられる、または
(b) SEQ ID NO: 25のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 26のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 27のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 30のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメインによって特徴付けられる、または
(c) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片によって特徴付けられ、かつ重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO:1および3、ならびに21および23に示されるヌクレオチド配列によってコードされる、または
(d) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片によって特徴付けられ、かつ重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO:1および3、ならびに21および23に対して少なくとも70%、80%、もしくは90%の同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる、または
(e) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片によって特徴付けられ、かつ重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO:1および3、ならびに21および23に対して少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる、または
(f) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片、ならびにそれぞれSEQ ID NO:2および4、ならびに22および24として示される重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列によって特徴付けられる、または
(g) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片によって特徴付けられ、かつそれぞれSEQ ID NO:2および4、ならびに22および24に対して95%の同一性を有する重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、
モノクローナル抗体。
【請求項17】
(a) 抗体断片が、組換えScFv(単鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片、もしくはFv断片である、もしくは抗体がキメラ抗体もしくは二重特異性抗体である、かつ/または
(b) 抗体が、IgGである、および/もしくは標識に結合されている、および/もしくは治療剤に結合されている、かつ/または
(c) 抗体もしくは抗体断片が標識をさらに含む、
請求項16記載のモノクローナル抗体。
【請求項18】
抗体もしくは抗体断片をコードする、ハイブリドーマもしくは操作された細胞であって、前記抗体もしくは抗体断片が、
(a) SEQ ID NO: 5のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 7のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 9のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメインによって特徴付けられる、または
(b) SEQ ID NO: 25のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 26のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 27のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変ドメイン、ならびにSEQ ID NO: 28のアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO: 29のアミノ酸配列を含むCDR2、およびSEQ ID NO: 30のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変ドメインによって特徴付けられる、または
(c) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片によって特徴付けられ、かつ重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO:1および3、ならびに21および23のヌクレオチド配列によってコードされる、または
(d) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片によって特徴付けられ、かつ重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO:1および3、ならびに21および23に対して少なくとも70%、80%、もしくは90%の同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる、または
(e) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片によって特徴付けられ、かつ重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列が、それぞれSEQ ID NO:1および3、ならびに21および23に対して95%の同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる、または
(f) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片、ならびにそれぞれSEQ ID NO:2および4、ならびに22および24を含む重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列によって特徴付けられる、または
(g) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片、ならびにそれぞれSEQ ID NO:2および4、ならびに22および24に対して少なくとも70%、80%、もしくは90%の同一性を有する重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列によって特徴付けられる、または
(h) (a)もしくは(b)の抗体もしくは抗体断片、ならびにそれぞれSEQ ID NO:2および4、ならびに22および24に対して95%の同一性を有する重鎖可変領域アミノ酸配列および軽鎖可変領域アミノ酸配列によって特徴付けられる、
ハイブリドーマもしくは操作された細胞。
【請求項19】
(a) 抗体断片が、組換えScFv(単鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab') 2断片、もしくはFv断片である、かつ/または
(b) 抗体がキメラ抗体、二重特異性抗体、もしくはIgGである、
請求項18記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項20】
請求項16または17記載のモノクローナル抗体を含む、薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金交付の記載
本発明は、米国立衛生研究所により付与された助成金番号Genetics T32 T32GM008638およびACC T32 32CA009615による政府支援を得てなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
優先権の主張
本願は、2015年11月9日に出願された米国仮出願第62/253,000号および2016年6月16日に出願された同第62/350,976号の優先権恩典を主張する。各出願の全内容は参照により組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
1.分野
本開示は、概して、医学、腫瘍学および免疫療法の分野に関する。さらに詳細には、本開示は、グリピカン2(GPC2)陽性癌の検出および処置において使用するための免疫試薬の開発に関する。
【0004】
2.関連技術
高リスク神経芽細胞腫をもつ小児は強化集学的化学放射線療法(intensive multimodal chemoradiotherapy)を受けても予後不良である。ジシアロガングリオシドGD2を標的とするモノクローナル抗体は神経芽細胞腫におけるアウトカムを改善するが、この療法は、かなり大きな「腫瘍に向かわず、標的に向かう(on target-off tumor)」毒性と関連している。従って、正常小児組織と比較して腫瘍発現が特有のものであること、好ましくは、新規の細胞表面分子が腫瘍維持に必要とされることを含む、現代の免疫療法剤の厳格な判断基準に適合する新規の細胞表面分子の特定には大きな課題が依然としてある。
【発明の概要】
【0005】
概要
従って、本開示によれば、対象におけるグリピカン2陽性癌細胞を、グリピカン2に選択的に結合する抗体または抗体派生物と接触させる工程を含む、癌を処置する方法が提供される。グリピカン2陽性癌細胞は固形腫瘍癌細胞でもよい。固形腫瘍癌細胞は、肺癌細胞、脳癌細胞、頭頸部癌細胞、乳癌細胞、皮膚癌細胞、肝臓癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞、結腸癌細胞、腎臓癌細胞、直腸癌細胞、子宮癌細胞、子宮頸癌細胞、卵巣癌細胞、精巣癌細胞、皮膚癌細胞、または食道癌細胞でもよい。グリピカン2陽性癌細胞は胚性癌細胞でもよい。固形腫瘍癌細胞は肉腫細胞、神経芽細胞腫細胞、ラブドイド癌細胞、髄芽細胞腫細胞、または神経芽細胞腫細胞でもよい。癌細胞は小児癌細胞でもよい。
【0006】
前記方法は、前記グリピカン2陽性癌細胞を第2の抗癌剤または処置と接触させる工程をさらに含んでもよい。第2の抗癌剤または処置は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法より選択されてもよい。グリピカン2抗体は第2の薬剤または処置の前に与えられてもよい。第2の抗癌剤または処置は前記第1の薬剤と同時に与えられてもよく、前記第1の薬剤の前および/または後に与えられてもよい。グリピカン2陽性癌細胞は、転移癌細胞、多剤耐性癌細胞、または再発性癌細胞でもよい。前記抗体は単鎖抗体でもよく、前記抗体はシングルドメイン抗体でもよく、前記抗体はキメラ抗体でもよく、前記抗体はFab断片でもよい。前記抗体は、グリピカン2および異なる癌細胞表面抗原に対して特異性を有する組換え抗体でもよい。前記抗体はマウス抗体、例えば、IgGでもよい。前記抗体は、IgGなどのヒト化抗体または完全ヒト抗体でもよい。
【0007】
さらに、前記抗体は、それに連結された抗腫瘍薬物をさらに含んでもよい。抗腫瘍薬物は感光性リンカーを介して抗体に連結されてもよい。抗腫瘍薬物は、酵素によって切断されるリンカーを介して抗体に連結されてもよい。抗腫瘍薬物は毒素、放射性同位体、サイトカイン、または酵素でもよい。前記抗体は、標識、例えば、ペプチドタグ、酵素、磁気粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、または色素をさらに含んでもよい。前記抗体はリポソームまたはナノ粒子に結合されてもよい。前記抗体または抗体派生物は、例えば抗体依存性細胞毒性または補体を介した細胞毒性によって、細胞死を誘導してもよい。前記抗体派生物はキメラ抗原受容体でもよい。前記抗体は二重特異性抗体でもよい。
【0008】
(i)グリピカン2に選択的に結合する第1の単鎖抗体であって、(a)IgG抗体であり、(b)癌細胞増殖を阻害し、(c)癌細胞死を誘導する第1の単鎖抗体と、(ii)T細胞またはB細胞に結合する第2の単鎖抗体とを含む、融合タンパク質も提供される。第2の単鎖抗体はCD3に結合してもよく、T細胞に結合してもよく、B細胞に結合してもよい。融合タンパク質は標識または治療部分をさらに含んでもよい。第1の単鎖抗体は、CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられてもよい。さらに別の態様は、上記で定義された融合タンパク質を発現する細胞を含む。
【0009】
別の態様は、(i)グリピカン2に選択的に結合する単鎖抗体可変領域を含むエクトドメインであって、前記抗体が(a)IgG抗体であり、(b)癌細胞増殖を阻害し、(c)癌細胞死を誘導し、前記単鎖抗体可変領域のC末端に取り付けられた可動性ヒンジを有する、エクトドメインと、(ii)膜貫通ドメインと、(iii)エンドドメインとを含む、キメラ抗原受容体であって、前記単鎖抗体可変領域がグリピカン2と結合した場合に前記エンドドメインがシグナル伝達機能を含む、キメラ抗原受容体を含む。膜貫通ドメインおよびエンドドメインは同じ分子に由来してもよい。エンドドメインはCD3ζドメインまたは高親和性FcεRIを含んでもよい。可動性ヒンジはCD8αまたはIgに由来してもよい。単鎖GPC2抗体は、CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられてもよい。さらに別の態様は、上記で定義されたキメラ抗原受容体を発現する細胞を含む。
【0010】
さらに別の態様において、モノクローナル抗体であって、抗体または抗体断片がCDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられる、モノクローナル抗体が提供される。前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされてもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23である。または、前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされてもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して少なくとも70%、80%、または90%の同一性を有する。または、前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされてもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して少なくとも95%の同一性を有する。前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列を含んでもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24を含む。または、前記抗体または抗体断片は軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含んでもよく、軽鎖可変配列および重鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24に対して95%の同一性を有する。前記抗体断片は、組換えScFv(単鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab') 2断片、またはFv断片でもよい。前記抗体はキメラ抗体でもよい。または前記抗体は二重特異性抗体である。前記モノクローナル抗体はIgGでもよい。前記抗体または抗体断片は標識をさらに含んでもよい。前述の抗体が、薬学的に許容される緩衝液、媒体、もしくは希釈剤の中に分散されているか、または凍結乾燥されている薬学的組成物も提供される。
【0011】
なおさらに別の態様において、CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられる抗体または抗体断片をコードする、ハイブリドーマまたは操作された細胞が提供される。前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされてもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23である。または、前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされてもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して少なくとも70%、80%、または90%の同一性を有する。または、前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされてもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して少なくとも95%の同一性を有する。前記抗体または抗体断片は重鎖可変配列および軽鎖可変配列を含んでもよく、重鎖可変配列および軽鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24を含む。または、前記抗体または抗体断片は軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含んでもよく、軽鎖可変配列および重鎖可変配列は、それぞれ、SEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24に対して95%の同一性を有する。ハイブリドーマまたは操作された細胞は、組換えScFv(単鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片、またはFv断片である抗体断片を産生してもよく、キメラ抗体または二重特異性抗体である抗体を産生してもよく、IgGである抗体を産生してもよい。
【0012】
本明細書に記載の任意の方法または組成物が、本明細書に記載の他の任意の方法または組成物について実行できることが意図される。
【0013】
「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において「含む(comprising)」という用語と一緒に用いられる場合には「1つの(one)」を意味することがあるが、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」、および「1つまたは1より多い」という意味とも一致する。「約」という言葉は、明記された数の+5%または-5%を意味する。
【0014】
[本発明1001]
対象におけるグリピカン2陽性癌細胞を、グリピカン2に選択的に結合する抗体または抗体派生物と接触させる工程を含む、癌を処置する方法。
[本発明1002]
グリピカン2陽性癌細胞が固形腫瘍癌細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
固形腫瘍細胞が、肺癌細胞、脳癌細胞、頭頸部癌細胞、乳癌細胞、皮膚癌細胞、肝臓癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞、結腸癌細胞、腎臓癌細胞、直腸癌細胞、子宮癌細胞、子宮頸癌細胞、卵巣癌細胞、精巣癌細胞、皮膚癌細胞、または食道癌細胞である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
グリピカン2陽性癌細胞が胚性癌細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
癌細胞が、肉腫細胞、神経芽細胞腫細胞、ラブドイド癌細胞、髄芽細胞腫細胞または神経芽細胞腫細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
グリピカン2陽性癌細胞を第2の抗癌剤または処置と接触させる工程をさらに含む、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
第2の抗癌剤または処置が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法より選択される、本発明1006の方法。
[本発明1008]
グリピカン2抗体が第2の薬剤または処置の前に与えられる、本発明1006の方法。
[本発明1009]
第2の抗癌剤または処置が第1の薬剤と同時に与えられる、本発明1006の方法。
[本発明1010]
第1の薬剤の前および/または後に第2の抗癌剤または処置が与えられる、本発明1006の方法。
[本発明1011]
グリピカン2陽性癌細胞が、転移癌細胞、多剤耐性癌細胞、または再発性癌細胞である、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
抗体が単鎖抗体である、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
抗体がシングルドメイン抗体である、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1014]
抗体がキメラ抗体である、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1015]
抗体派生物がFab断片である、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1016]
抗体が、グリピカン2および異なる癌細胞表面抗原に対して特異性を有する組換え抗体である、本発明1011~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
抗体が、IgGなどのマウス抗体である、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
抗体がヒト抗体である、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1019]
抗体がヒト化抗体である、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1020]
ヒト化抗体がIgGである、本発明1018~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
抗体が、抗体に連結された抗腫瘍薬物をさらに含む、本発明1001~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
抗腫瘍薬物が感光性リンカーを介して抗体に連結されている、本発明1021の方法。
[本発明1023]
抗腫瘍薬物が、酵素によって切断されるリンカーを介して抗体に連結されている、本発明1021の方法。
[本発明1024]
抗腫瘍薬物が、毒素、放射性同位体、サイトカイン、または酵素である、本発明1021の方法。
[本発明1025]
抗体が標識をさらに含む、本発明1001~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
標識が、ペプチドタグ、酵素、磁気粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、または色素である、本発明1025の方法。
[本発明1027]
抗体がリポソームまたはナノ粒子に結合されている、本発明1001~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
抗体が、例えば抗体依存性細胞毒性または補体を介した細胞毒性によって、細胞死を誘導する、本発明1001~1027のいずれかの方法。
[本発明1029]
抗体派生物がキメラ抗原受容体または二重特異性抗体である、本発明1001の方法。
[本発明1030]
抗体または抗体断片が、CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられる、本発明1001の方法。
[本発明1031]
(i)グリピカン2に選択的に結合する第1の単鎖抗体であって、
(a)IgG抗体であり、
(b)癌細胞増殖を阻害し、
(c)癌細胞死を誘導する
第1の単鎖抗体と、
(ii)T細胞またはB細胞に結合する第2の単鎖抗体と
を含む、融合タンパク質。
[本発明1032]
第1の抗体または抗体断片が、CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられる、本発明1031の融合タンパク質。
[本発明1033]
第2の単鎖抗体が、例えばCD3を介して、T細胞に結合する、本発明1031の融合タンパク質。
[本発明1034]
第2の単鎖抗体がB細胞に結合する、本発明1031の融合タンパク質。
[本発明1035]
標識または治療部分をさらに含む、本発明1031の融合タンパク質。
[本発明1036]
(i)グリピカン2に選択的に結合する単鎖抗体可変領域を含むエクトドメインであって、該抗体が、
(a)IgG抗体であり、
(b)癌細胞増殖を阻害し、
(c)癌細胞死を誘導し、
該単鎖抗体可変領域のC末端に取り付けられた可動性ヒンジを有する、
エクトドメインと、
(ii)膜貫通ドメインと、
(iii)エンドドメインと
を含む、キメラ抗原受容体であって、該単鎖抗体可変領域がグリピカン2と結合した場合に該エンドドメインがシグナル伝達機能を含む、キメラ抗原受容体。
[本発明1037]
第1の単鎖抗体が、CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられる、本発明1036の受容体。
[本発明1038]
膜貫通ドメインおよびエンドドメインが同じ分子に由来する、本発明1036の受容体。
[本発明1039]
エンドドメインがCD3ζドメインまたは高親和性FcεRIを含む、本発明1036の受容体。
[本発明1040]
可動性ヒンジがCD8αまたはIgに由来する、本発明1036の受容体。
[本発明1041]
本発明1036~1040のいずれかのキメラ抗原受容体を発現する、細胞。
[本発明1042]
エンドドメインがCD3ζドメインまたは高親和性FcεRIを含む、本発明1041の細胞。
[本発明1043]
可動性ヒンジがCD8αまたはIgに由来する、本発明1041の細胞。
[本発明1044]
本発明1031の融合タンパク質を発現する、細胞。
[本発明1045]
第2の単鎖抗体が、CD3、T細胞、またはB細胞に結合する、本発明1044の細胞。
[本発明1046]
抗体または抗体断片が、CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられる、モノクローナル抗体。
[本発明1047]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23である重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされる、本発明1046のモノクローナル抗体。
[本発明1048]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して少なくとも70%、80%、または90%の同一性を有する重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされる、本発明1046のモノクローナル抗体。
[本発明1049]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変配列および軽鎖可変配列によってコードされる、本発明1046のモノクローナル抗体。
[本発明1050]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24を含む重鎖可変配列および軽鎖可変配列を含む、本発明1046のモノクローナル抗体。
[本発明1051]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、本発明1046のモノクローナル抗体。
[本発明1052]
抗体断片が、組換えScFv(単鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片、またはFv断片である、本発明1046~1051のいずれかのモノクローナル抗体。
[本発明1053]
キメラ抗体または二重特異性抗体である、本発明1046~1051のいずれかのモノクローナル抗体。
[本発明1054]
IgGである、および/または標識に結合されている、および/または治療剤に結合されている、本発明1046~1053のいずれかのモノクローナル抗体。
[本発明1055]
抗体または抗体断片が標識をさらに含む、本発明1046~1054のいずれかのモノクローナル抗体。
[本発明1056]
CDR配列SEQ ID NO:5~10、15~20、または25~30によって特徴付けられる抗体または抗体断片をコードする、ハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1057]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23である軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、本発明1056のハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1058]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して少なくとも70%、80%、または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、本発明1056のハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1059]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:1および3、11および13、ならびに21および23に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、本発明1056のハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1060]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24を含む軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、本発明1056のハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1061]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24に対して少なくとも70%、80%、または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、本発明1056のハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1062]
抗体または抗体断片が、それぞれSEQ ID NO:2および4、12および14、ならびに22および24に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、本発明1056のハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1063]
抗体断片が、組換えScFv(単鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab') 2断片、またはFv断片である、本発明1056~1062のいずれかのハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1064]
抗体がキメラ抗体または二重特異性抗体である、本発明1056~1063のいずれかのハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1065]
抗体がIgGである、本発明1056~1063のいずれかのハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1066]
本発明1046~1055のいずれかのモノクローナル抗体を含む、薬学的組成物。
本開示の他の目的、特徴、および利点は以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は本開示の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から、本開示の精神および範囲の中での様々な修正および変更が当業者に明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
以下の図面は本明細書の一部をなし、本開示のある特定の局面をさらに証明するために含まれる。これらの図面の1つまたは複数を、本明細書において示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによって、本開示をさらに深く理解することができる。
【
図1】
神経芽細胞腫におけるGPC2発現のドライバーの特定。高リスク神経芽細胞腫において高発現しており、かつ異なって発現している推定細胞表面遺伝子を特定するための優先順位付けパイプライン。
【
図2】
GPC2は神経芽細胞腫対正常組織において異なって発現している。高リスク神経芽細胞腫(n=126; TARGET, ocg.cancer.gov/programs/target)と、GTExコンソーシアムによってプロファイリングされた正常組織RNA配列決定データ(31種類の固有の正常組織全体にわたるn=7859個の試料。1種類の組織につきn=5~1152個の試料;GTEx, gtexportal.org)において、優先順位が付けられた候補GPC2発現を示すプロット。
【
図3】
GPC2は推定細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンである。GPC2は、細胞外細胞表面との推定グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)連結を有するヘパラン硫酸プロテオグリカンシグナル伝達コレセプターである。グリピカンは、いくつかの増殖促進シグナル伝達経路の内在性促進物質であり、癌細胞移動、浸潤、および転移においても重要な役割を果たしている。GPC2はミッドカインおよびソニックヘッジホッグに結合することが知られている。GAG=グリコサミノグリカン。
【
図4】
図4A~H:
GPC2は、ほとんどの神経芽細胞腫において発現している細胞表面分子である。(
図4A~D)GPC2は、天然型(62kDa)と、ヘパラン硫酸修飾のある形(約80kDa)で存在する。GPC2ウエスタンブロットは、神経芽細胞腫原発性腫瘍(
図4A)、患者由来異種移植片(PDX;
図4B)、および細胞株(
図4C)における発現を示す。GPC2は、膜抽出後のウエスタンブロットによって細胞株(
図4D)で、IHCによって原発性腫瘍、PDX(
図4E)、および細胞株(
図4F)で、免疫蛍光によって細胞株(
図4G)で示されるように原形質膜に関連する。(
図4H)髄芽細胞腫もIHCによって高レベルのGPC2を発現する。IR=中リスク、HR=高リスク、S=可溶性画分、M=膜画分、Na/K=ナトリウム/カリウム輸送体=膜対照、TMA=腫瘍マイクロアレイ。
【
図5】
GPC2は、公知の神経芽細胞腫細胞外細胞表面タンパク質と共存している。GPC2は、公知の神経芽細胞腫細胞表面タンパク質であるカドヘリンと共存している。
【
図6】
GPC2は髄芽細胞腫において有意に発現している。小児髄芽細胞腫の50%超でもIHCによってGPC2が陽性染色され、これにより他の小児癌での高レベル発現が示唆される。
【
図7】
GPC2は他の小児新生物において有意に発現している。示したように、複数の小児癌においてGPC2 mRNAが高レベルで見出される。
【
図8A】
図8A~B:
GPC2の正常組織発現は制限され、神経芽細胞腫と正常組織との間には差次的なGPC2エキソン発現がある。37種類の小児正常組織のTMAから、IHCによって小児正常組織におけるGPC2発現は少ないことが分かる。小児食道は、有意な原形質膜関連GPC2発現がある唯一の組織である。2=弱いIHC染色、3=強いIHC染色。5つの小児食道標本および5つの代表的な原発性神経芽細胞腫からのSashimiプロットは差次的なGPC2エキソン3発現を示す。
【
図9】
図9A~F:
GPC2枯渇によって神経芽細胞腫細胞のアポトーシスが生じる。(
図9A~E)RNAiを介したGPC2(GPC2-2、GPC2-4)ノックダウンによってアポトーシスが誘導され、神経芽細胞腫細胞の増殖が減少する。アポトーシス誘導は、ウエスタンブロットによって切断型PARPまたは切断型カスパーゼ-3の上昇(
図9A、
図9D)、またはルミネセンスアッセイによってカスパーゼ3/7の上昇で示された(
図9B)。細胞株パネルからの代表的な神経芽細胞腫細胞株の例であるNb-ebc1(n=12)を
図9A~Cに示し、さらなる例を
図9D~Eに示した。(
図9F)神経芽細胞腫細胞株Kelly(GPC2遺伝子座にヘテロ接合性欠失がある)におけるGPC2過剰発現によって細胞増殖の増加が誘導される。NTC=非標的対照shRNA、
*p<0.001、
**p<0.0001。
【
図10A】
図10A~B:
GPC2 CAR操作の進歩:結合剤の開発。神経芽細胞腫細胞上にあるGPC2に特異的に結合する複数の断片-抗原結合(Fab)タンパク質が特定されている。
【
図11】
神経芽細胞腫対正常組織において差次的なGPC2 mRNA変種発現がある。正常組織のGPC2発現が概して低いだけでなく、差次的なGPC2 mRNA変種(従って)エピトープ発現もある。精巣は、神経芽細胞腫において発現しているものと同じGPC2変種を主として発現する唯一の正常組織である。従って、免疫療法を用いて、N末端に由来するGPC2エピトープを標的化すると、神経芽細胞腫と正常組織との間で共通するGPC2エピトープを標的化するのと比べて、治療指数はさらに大きくなる可能性がある。
【
図12】
GPC2枯渇によって、ほとんどの神経芽細胞腫においてアポトーシスが誘導される。GPC2機能喪失インビトロアッセイを12の神経芽細胞腫細胞株のパネルに拡大した。これから、GPC2は神経芽細胞腫細胞において広く細胞増殖を動かすことが明らかになった。
【
図13】
GPC2過剰発現によって神経芽細胞腫細胞の増殖増加が誘導される。GPC2低発現の神経芽細胞腫細胞株(Kelly;GPC2遺伝子座にヘテロ接合性欠失がある)において強制GPC2過剰発現すると、これらの細胞は、空のベクターでトランスフェクトされた細胞よりも有意に速く増殖するように誘導される。これらの結果から、GPC2は神経芽細胞腫細胞の増殖において重要な役割を果たしていることがさらに裏付けられる。
【
図14】
統合されたRNA配列決定に基づくスクリーニングによって、高リスク神経芽細胞腫における異なって発現している細胞表面分子および推定免疫療法標的としてGPC2が特定された。プロットは、高リスク神経芽細胞腫において296個の異なって発現している遺伝子が特定されたことを示す。
【
図15】
図15A~E:
神経芽細胞腫におけるGPC2発現のドライバーの特定。(
図15A)染色体7q/GPC2遺伝子座増加およびMYCN増幅によって層別化された、Huex(左)およびNRC(右)神経芽細胞腫腫瘍におけるGPC2発現。Aにある神経芽細胞腫データセットはTARGETコンソーシアム(n=seqおよびmRNAアレイ)から得られた。P値は、GraphPad Prismバージョン5.01を用いて独立t検定によって導き出された。(
図15B)MYCN ChIPプロットから、MYCNが、MYCNで増幅された神経芽細胞腫細胞株KellyおよびNGPにおいてGPC2プロモーターの上流にあるEboxモチーフに結合することが分かる。矢印はEbox(CACGTGモチーフ)を示す。(
図15C)SHEP神経芽細胞腫および293T細胞における、MYCN強制過剰発現のあるGPC2レポーターアッセイと、MYCN強制過剰発現のないGPC2レポーターアッセイ。ウエスタンブロットのある挿入図は、SHEPおよび293T細胞におけるMYCN過剰発現を示している。(
図15D)2種類の固有のshRNAを用いたMYCN枯渇後の、MYCNで増幅された神経芽細胞腫細胞株KellyにおけるMYCN/GPC2定量PCR。(
図15E)4種類の固有のshRNAの拡大セットを用いたMYCN枯渇後の、MYCNで増幅された神経芽細胞腫細胞株KellyおよびNGPにおけるMYCNおよびGPC2のウエスタンブロット。shNTC、非標的shRNA対照。
図24A~Eも参照されたい。
【
図16】
図16A~I:
GPC2は、ほとんどの神経芽細胞腫において発現しており、原形質膜に局在している。(
図16A~C)神経芽細胞腫原発性腫瘍(n=11;
図16A)、PDX(n=12;
図16B)、および細胞株(n=24;
図16C)のパネルにおけるGPC2のウエスタンブロット。
図25Aも参照されたい。(
図16D)神経芽細胞腫細胞株のGPC2 IHC染色(高いGPC2発現-SMS-SAN、中程度-NBLS、および低-RPE1)。
図25Bも参照されたい。(
図16E)多様なGPC2発現のある神経芽細胞腫細胞株のGPC2フローサイトメトリー分析。(
図16F)神経芽細胞腫細胞株のパネル(n=7)における差次的な膜抽出実験後のGPC2のウエスタンブロット。NaKは、ウエスタンブロット原形質膜タンパク質の正の対照を示す。(
図16G)神経芽細胞腫細胞株NB-Ebc1およびSMS-SANにおけるGPC2免疫蛍光染色。(
図16H)PDXおよび原発性腫瘍TMA(それぞれ、n=32およびn=98の腫瘍)のGPC2 IHCの膜染色Hスコアの概要。(
図16I)PDXおよび原発性腫瘍TMAからの代表的な膜染色Hスコアの例(Hスコアを右下隅に示した)。スケールバーは、30μM(
図16D)、10μM(
図16G)、60μM(
図16I)を示す。HR、高リスク;IR、中程度のリスク;S、可溶性(非膜)タンパク質抽出物;M、膜タンパク質抽出物。PDX(
図16B)ならびに細胞株(
図16Cおよび
図16F)の特定については表S1も参照されたい。
【
図17】
図17A~B:
GPC2発現は正常組織において制限されている。(
図17A)大きな小児正常組織アレイ(n=36の固有の正常組織)のGPC2 IHC染色から得られた膜Hスコアの概要。比較のために、
図3Hおよび
図3Iからの、神経芽細胞腫原発性腫瘍およびPDXに由来するGPC2 IHC染色膜Hスコアを示した。P値はGraphPad Prismバージョン5.01を用いて独立t検定によって導き出された。(
図17B)原発性神経芽細胞腫ならびに低レベルGPC2を発現する正常組織である皮膚および食道におけるGPC2発現のmRNA転写物特異的分析(n=126のHR神経芽細胞腫、TARGET; n=201の食道試料、およびn=684の皮膚試料、GTEx)。
図26A~Cおよび
図27A~Cならびに表S2も参照されたい。
【
図18】
図18A~I:
GPC2は神経芽細胞腫細胞の増殖に必要とされる。(
図18A~B、上)神経芽細胞腫細胞株NB-EBC1において、GPC2エキソン4およびGPC2 3'UTRを標的とする2種類の固有のshRNA構築物のレンチウイルス形質導入を行った後の、GPC2定量PCRおよびGPC2ウエスタンブロット分析。(
図18B、下)NB-EBC1における、このGPC2枯渇後の切断型PARPおよびカスパーゼ3のウエスタンブロット。Bに示したGPC2ウエスタンブロットの正の対照を、120時間および168時間のNB-EBC1時点と同じブロット上で移動させた。(
図18C)NB-EBC1におけるGPC2枯渇後に測定したカスパーゼ3/7活性。(
図18D~F)shRNAによって誘導されたGPC2枯渇後のNB-EBC1細胞増殖を、(
図18D)CellTiter-Gloルミネセンスアッセイ、(
図18E)RT-CES、および(
図18F)コロニー形成アッセイによって示した。(
図18G)神経芽細胞腫細胞株の拡大したパネル全体にわたる(n=11)、GPC2エキソン4(
図18G、上)およびGPC2 3'UTR(
図18G、下)を標的とする2種類の固有のshRNA構築物を用いたGPC2枯渇後の、CellTiter-Gloルミネセンスアッセイおよびカスパーゼ3/7上昇によって測定した細胞増殖のプロット。r、ピアソン相関係数およびスチューデントt検定によるp値を、それぞれのGPC2 shRNAについて示した。(
図18H)Kellyにおける強制GPC2過剰発現後の神経芽細胞腫細胞の増殖。
図18I)SKNDZ(右)。Kellyには、GPC2遺伝子座を含む染色体腕7qのヘテロ接合性欠失がある。GraphPadPrismバージョン5.01によって計算した時のスチューデントt検定による、
*=p<0.0001、
**=p<0.001。NTC、非標的shRNA対照。空、空のpLenti CMV puro ベクター対照。
【
図19】
図19A~E:
GPC2は他の高リスク小児癌において発現している。(
図19A)臨床グループ分けと、染色体7q/GPC2遺伝子座ならびにMYCおよびMYCN遺伝子座での増幅状態によって層別化した、さらなる髄芽細胞腫腫瘍(n=91)のGPC2 RNA配列決定データ。(
図19B)髄芽細胞腫TMA(n=63)のGPC2 IHC染色からの膜Hスコアの概要。(
図19C)髄芽細胞腫TMAからの代表的な膜染色Hスコアの例(Hスコアを右下に示した)。(
図19Dおよび
図19E)中枢神経系転移(
図19Dおよび
図19E)、脊髄転移(
図19D)、ならびに肝臓転移(
図19D)の評価を含む、GPC2のあるヒト転移性髄芽細胞腫異種移植片マウスモデルにおけるGPC2 IHC染色。
図19C、
図19D(上および右)、ならびに
図19E(右)にあるスケールバーは60μMを示し、
図19D(左)にあるスケールバーは5μMを示し、
図19E(左)にあるスケールバーは4μMを示し、
図19D(上の真ん中; 脊髄)にあるスケールバーは500μMを示し、
図19D(下の真ん中; 肝臓)にあるスケールバーは300μMを示す。(
図19F)原発性髄芽細胞腫(n=91)におけるGPC2発現のmRNA転写物特異的分析。
図29A~Cおよび表S3も参照されたい。
【
図20】
GPC2を標的とするADCであるD3-GPC2-PBDは、GPC2を発現する神経芽細胞腫細胞に対して細胞毒性である。IC
50曲線。
【
図21】
GPC2は、神経芽細胞腫と正常組織との間で異なって発現している唯一のグリピカンである。高リスク神経芽細胞腫(n=126; TARGET、ocg.cancer.gov/programs/target)におけるGPC1-6 FPKMと、GTExコンソーシアムによってプロファイリングされたRNA配列決定データからの、対になった(paired)正常組織GPC1-6 FPKM(31種類の固有の正常組織全体にわたるn=7859の試料。1種類の組織につきn=5~1152の試料; GTEx、gtexportal.org)を示すプロット。
図1~2および
図14も参照されたい。
【
図22】
図22A~C:
GPC2は、神経芽細胞腫において発現している最も優勢なグリピカンであり、GPC2発現は、GPC3発現ならびに神経芽細胞腫腫瘍ストローマ細胞および免疫細胞の含有量と逆相関する。(
図22A)GPC1-6 FPKMを、神経芽細胞腫原発性腫瘍(左、n=126の高リスク腫瘍、TARGET; 右、全てのリスク群全体にわたるn=498の腫瘍、seqC)からプロットした。(
図22B)GPC3 FPKMに対してGPC2 FPKMをプロットした(左、n=126、TARGET; 右、n=498、seqC)。r、ピアソン相関係数およびp値を、それぞれのデータセットについて示した。(
図22C)ストローマ細胞および免疫細胞の含有量に対してGPC2 FPKMをプロットした(左、n=126、TARGET; 右、n=498、seqC)。r、ピアソン相関係数およびp値を、それぞれのデータセットについて示した。
【
図23】
図23A~C:
高いGPC2発現は神経芽細胞腫において全生存期間が悪いことと関係する。(
図23A~C、左)Genomics Analysis and Visualization Platformによって分析した、3種類の神経芽細胞腫データセットの全生存期間曲線(R2; r2.amc.nl; (
図23A)Kocak; n=649、(
図23B)seqC; n=498、および(
図23C)Versteeg; n=88)。
58-60 (
図23A~C、右)MYCN増幅のない腫瘍をもつ患者に限定した3種類の同じ神経芽細胞腫データセットの全生存期間曲線。
【
図24】
図24A~C:
MYCNはGPC3-6に有意に結合しない。 (
図24A~C)GPC1(
図24A)、GPC3およびGPC4(
図24B)、GPC5およびGPC6(
図24C)を対象とした、MYCNで増幅された神経芽細胞腫細胞株NGPおよびKellyからのMYCN ChIP配列決定。
図15A~Eも参照されたい。
【
図25】
図25A~C:
GPC2は神経芽細胞腫では細胞表面に局在している。(
図25A)抗体検証のための、GPC2モノクローナルマウス抗体(sc-393824)を用いたGPC2を対象としたウエスタンブロット。CHP134、NBSD、およびSMS-SANはGPC2を高発現する3種類の代表的な野生型神経芽細胞腫細胞株である。抗体検証を完了するために、レンチウイルスshRNAによって形質導入した細胞(NBSDおよびSMS-SAN)ならびにGPC2 plenti puro CMVを過剰発現する細胞(Kelly)も示した。(
図25B)神経芽細胞腫細胞株のパネルからのGPC2 IHC(n=8)。(
図25C)神経芽細胞腫細胞株NBEBC1およびSMS-SANからのGPC2免疫蛍光研究。Ex4およびUTRは、それぞれ、GPC2エキソン4およびGPC2 3'UTRを標的とするshRNA構築物であった。NTC、非標的shRNA対照。空、空のpLenti CMV puroベクター対照。スケールバー、60μM(B)、10μM(
図25C)。
図16A~Iも参照されたい。
【
図26】
図26A~C:
IHCによって、GPC2の正常組織発現は制限されている。(
図26Aおよび
図26B)食道(
図26A)および皮膚(
図26B)における代表的なGPC2 IHC。膜染色Hスコアを示した。(
図26C)主なヒト臓器からの代表的なGPC2 IHC。スケールバー、60μM。
【
図27】
図27A~C:
高分解能質量分析法によって、GPC2の正常組織発現は制限されている。(
図27A~C)GPC2(
図27A)、L1CAM(
図27B)、およびCD19(
図27C)のスペクトルカウントを正常組織パネル(n=30)全体にわって示した。
【
図28】
図28A~J:
GPC2は、ほとんどの神経芽細胞腫において細胞増殖に必要とされる。(
図28A~G)細胞株パネル(n=10)における、GPC2エキソン4(Ex4)およびGPC2 3'UTR(UTR)を標的とする2種類の固有のshRNA構築物を用いた、レンチウイルスshRNAによって誘導されたGPC2枯渇。各パネルは、指示されたshRNAを用いたGPC2 Wb(左)、RT-CES細胞増殖プロット(右上)、およびコロニー形成アッセイ(右下;NLFについては利用できない、E)を示す。(
図28H~J)RT-CES増殖アッセイの利用を妨げる、単に単層として増殖しなかった神経芽細胞腫細胞株については、コロニー形成アッセイのみを行った。コロニー形成アッセイを左に示し、GPC2ウエスタンブロットを右に示した。
*=p<0.0001、
**=p<0.001、
***=p<0.01。NTC、非標的対照shRNA。
図18A~Iも参照されたい。
【
図29】
図29A~C:
他の小児新生物全体にわたるGPC2発現プロファイリングによって、髄芽細胞腫および網膜芽細胞腫において高いGPC2レベルが特定された。 (
図29A)Therapeutically Applicable Research to Generate Effective Treatments プロジェクト(TARGET; ocg.cancer.gov/programs/target)プロジェクトおよびSt. Jude Children's Research Hospital Pediatric Cancer Data Portal(PeCan; pecan.stjude.org)からのデータを含む、小児新生物アレイ全体にわたるGPC2 RNA配列決定データ(合計n=1608、個々のnを図のx軸に示した)。
*TARGETプロジェクトからのRNA配列決定データを示す。
**比較のために、GTEx portalからの正常組織を含めた(各組織の平均FPMKを示した。31種類の固有の正常組織全体にわたる合計n=7859の試料。1種類の組織につきn=5~1152の試料; GTEx、gtexportal.org)。(
図29B)Genomics Analysis and Visualization Platform(R2; http://r2.amc.nl; 個々のnを図のx軸に示した)からの、神経芽細胞腫、髄芽細胞腫、および網膜芽細胞腫を対象にした検証的GPC2 mRNAアレイデータ。(
図29C)ヒト原発性および転移性の対になった髄芽細胞腫試料からのlog2 GPC2発現。p値は独立t検定によって導き出された。NB、神経芽細胞腫;RB、網膜芽細胞腫;MB、髄芽細胞腫;ALL、急性リンパ球性白血病;HGG、高悪性度神経膠腫;RHB、横紋筋肉腫;MLL、混合型白血病;CPC、脈絡叢癌;WT、ウィルムス腫瘍;LGG、低悪性度神経膠腫;AML、急性骨髄性白血病;OS、骨肉腫;EPD、上衣腫;MEL、メラノーマ;ACT、副腎皮質癌;悪性ラブドイド腫瘍;正常、正常組織。
図19A~Eも参照されたい。
【
図30】
ヒト抗体m201の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列。CDRを太字のイタリック体で示した。
【
図31】
ヒト抗体m202の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列。CDRを太字のイタリック体で示した。
【
図32】
ヒト抗体m203の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列。CDRを太字のイタリック体で示した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
例示的な態様の説明
本発明者らは、グリピカン2(GPC2)は、高リスク神経芽細胞腫と、ことによると他の小児癌における細胞表面免疫療法標的の候補と推定癌遺伝子であることを確かめた。さらに包括的には、ここで示したデータから、ゲノム検証および機能検証と一体化したゲノムワイドトランスクリプトーム分析は、魅力的な免疫療法標的になり得る異なって発現する細胞表面癌遺伝子を特定できることが分かる。本開示のこれらの局面および他の局面は下記でさらに詳細に説明される。
【0017】
I.グリピカン2
グリピカン2(GPC2)はセレブログリカン(cerebroglycan)とも知られ、ヒトではGPC2遺伝子によってコードされるタンパク質である。セレブログリカンは、発達中の神経系において見出される、グリコホスファチジルイノシトールが連結している内在性膜ヘパラン硫酸プロテオグリカンである。セレブログリカンは細胞接着に関与し、軸索の成長および誘導を調節すると考えられている。セレブログリカンはラミニン-1に対して特に高い親和性を有する。ヒトグリピカン2 mRNA配列およびタンパク質配列のアクセッション番号は、それぞれ、参照により本明細書に組み入れられるNM_152742およびNP_689955である。
【0018】
II.モノクローナル抗体の作製
A.一般的な方法
グリピカン2に対する抗体は、当技術分野において周知のように標準的な方法によって作製することができる(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988; 米国特許第4,196,265号を参照されたい)。モノクローナル抗体(MAb)を作製する方法は、一般的に、ポリクローナル抗体を調製する方針と同じ方針に沿って始まる。これらの両方法の第1の工程は、適切な宿主を免疫化する工程、または以前の自然感染により免疫のある対象を特定する工程である。当技術分野において周知のように、ある特定の免疫化用組成物は免疫原性の点で異なる場合がある。従って、ペプチドまたはポリペプチド免疫原を担体にカップリングすることによって成し遂げられるように宿主免疫系を追加免疫することが必要な場合が多い。例示的な、かつ好ましい担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンも担体として使用することができる。ポリペプチドを担体タンパク質に結合するための手段は当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびbis-ビアゾ化(biazotized)ベンジジンを含む。これも当技術分野において周知なように、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる免疫応答の非特異的刺激物質を用いることによって増強することができる。例示的な、かつ好ましいアジュバントには、完全フロイントアジュバント(不活化した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する、免疫応答の非特異的刺激物質)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが含まれる。
【0019】
ポリクローナル抗体の作製において用いられる免疫原組成物の量は、免疫原がどういったものか、および免疫化に用いられる動物によって変わる。免疫原を投与するために様々な経路(皮下、筋肉内、皮内、静脈内、および腹腔内)を使用することができる。ポリクローナル抗体の産生は、免疫された動物の血液を、免疫化後の様々な時点でサンプリングすることによってモニタリングされてもよい。第2の追加免疫注射もなされてもよい。適切な力価に達するまで、追加免疫および力価測定のプロセスが繰り返される。望ましいレベルの免疫原性が得られたら、免疫された動物を採血し、血清を単離および選別することができる、ならびに/またはその動物を用いてMAbを作製することができる。
【0020】
免疫化後に、MAb作製プロトコールにおいて使用するために、抗体を産生する能力がある体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)が選択される。これらの細胞を、生検によって得られた脾臓またはリンパ節から得てもよく、循環血液から得てもよい。次いで、免疫された動物に由来する抗体産生Bリンパ球が、不死ミエローマ細胞、一般的には、免疫された動物と同じ種の不死ミエローマ細胞、またはヒト細胞もしくはヒト/マウスキメラ細胞の不死ミエローマ細胞の細胞と融合される。ハイブリドーマ作製融合手順において使用するのに適したミエローマ細胞株は好ましくは抗体を産生せず、高い融合効率と、望ましい融合細胞(ハイブリドーマ)しか増殖を支持しない、ある特定の選択培地における増殖を不可能にする酵素欠損を有する。
【0021】
当業者に公知なように(Goding, pp. 65-66, 1986; Campbell, pp. 75-83, 1984)、多くのミエローマ細胞のうちどの細胞も使用することができる。例えば、免疫された動物がマウスである場合、P3-X63/Ag8、X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7、およびS194/5XX0Bulが用いられることがある。ラットの場合、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983F、および4B210が用いられることがある。ヒト細胞融合に関して、U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、およびUC729-6は全て有用である。特定のマウスミエローマ細胞の1つはNS-1ミエローマ細胞株であり(P3-NS-1-Ag4-1とも呼ばれる)、細胞株リポジトリ番号GM3573を請求することによってNIGMS Human Genetic Mutant Cell Repositoryから容易に入手することができる。使用され得る別のマウスミエローマ細胞株は、8-アザグアニン耐性マウスマウスミエローマSP2/0非産生細胞株である。つい最近、KR12(ATCC CRL-8658; K6H6/B5(ATCC CRL-1823 SHM-D33(ATCC CRL-1668)、およびHMMA2.5(Posner et al., 1987)を含む、ヒトB細胞と使用するための、さらなる融合パートナー株が述べられた。本開示における抗体は、SP2/0株のIL-6分泌派生物であるSP2/0/mIL-6細胞株を用いて作製された。
【0022】
抗体を産生する脾臓細胞またはリンパ節細胞とミエローマ細胞のハイブリッドを作製するための方法は、通常、体細胞をミエローマ細胞と2:1の比率で混合する工程を含むが、この比率は、細胞膜融合を促進する作因(化学的または電気的)の存在下では、それぞれ、約20:1~約1:1まであってもよい。センダイウイルスを用いた融合方法がKohler and Milstein(1975; 1976)によって述べられており、37%(v/v)PEGなどのポリエチレングリコール(PEG)を用いた融合方法がGefter et al(1977)によって述べられている。電気的に誘導される融合方法の使用も適している(Goding, pp.71-74,1986)。
【0023】
融合手順によって、通常、低頻度、約1x10-6~1x10-8で、生存可能なハイブリッドが生じる。しかしながら、このことは、選択培地中で培養することによって、生存可能な融合ハイブリッドが、注入された親細胞(特に、通常、無期限に分裂し続ける、注入されたミエローマ細胞)から分化するので問題を投げかけるものではない。選択培地は、一般的には、組織培養培地中でのヌクレオチド新規合成をブロックする薬剤を含有する培地である。例示的な、かつ好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキセート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートはプリンおよびピリミジン両方の新規合成をブロックするのに対して、アザセリンはプリン合成しかブロックしない。アミノプテリンまたはメトトレキセートが用いられる場合、培地には、ヌクレオチドの供給源としてヒポキサンチンおよびチミジンが加えられる(HAT培地)。アザセリンが用いられる場合、培地にはヒポキサンチンが加えられる。B細胞供給源がエプスタイン-バーウイルス(EBV)形質転換ヒトB細胞株であれば、ミエローマと融合していないEBV形質転換株を無くすために、ウアバインが添加される。
【0024】
好ましい選択培地は、HATまたはウアバインを含むHATである。HAT培地中では、ヌクレオチドサルベージ経路を動かすことができる細胞しか生き残ることができない。ミエローマ細胞はサルベージ経路の重要な酵素、例えば、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に欠損があり、生き残ることができない。B細胞は、この経路を動かすことができるが、培養状態では寿命は限られており、一般的に、約2週間以内に死ぬ。従って、選択培地中で生き残ることができる唯一の細胞は、ミエローマ細胞とB細胞から形成されたハイブリッドである。融合に用いられるB細胞の供給源が、本明細書中のように、EBVで形質転換されたB細胞の株である場合、EBVで形質転換されたB細胞が薬物による死滅に対して感受性があるために、ハイブリッドの薬物選択にウアバインも用いられる。これに対して、使用されるミエローマパートナーはウアバイン耐性があることで選択される。
【0025】
培養するとハイブリドーマ集団が得られ、この集団から特定のハイブリドーマが選択される。典型的に、ハイブリドーマの選択はマイクロタイタープレート内でのシングルクローン希釈によって細胞を培養し、その後に、望ましい反応性について個々のクローン上清を(約2~3週間後に)試験することによって行われる。このアッセイは、感度が高く、簡単で、迅速でなければならず、例えば、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなどがある。
。
【0026】
次いで、選択されたハイブリドーマは連続希釈されるか、フローサイトメトリー選別によってシングル細胞選別され、個々の抗体産生細胞株にクローニングされる。次いで、クローンはmAbを供給するように無期限に増殖することができる。これらの細胞株は2つの基本的なやり方でMAb産生に利用され得る。ハイブリドーマ試料は、動物(例えば、マウス)に(多くの場合、腹腔内に)注射することができる。任意で、注射前に、動物は、炭化水素、特に、油、例えば、プリスタン(テトラメチルペンタデカン)を用いて初回刺激される。このようにヒトハイブリドーマが用いられる場合、腫瘍拒絶反応を阻止するために、免疫無防備状態のマウス、例えば、SCIDマウスに注射することが最適である。注射された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生する。次いで、血清または腹水液などの動物の体液を軽くたたいて、高濃度のMAbを得ることができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、この場合、MAbは天然で培養培地に分泌され、培養培地から高濃度で容易に入手することができる。または、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで用いて、細胞上清中に免疫グロブリンを産生することができる。この細胞株は、高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収する能力を最適化するために無血清培地中で増殖するように合わせることができる。
【0027】
どちらの手段で産生されたMAbも、所望であれば、濾過、遠心分離、および様々なクロマトグラフィー方法、例えば、FPLCまたはアフィニティクロマトグラフィーを用いてさらに精製される場合がある。本開示のモノクローナル抗体の断片は、ペプシンもしくはパパインなどの酵素を用いた消化を含む方法によって、および/または化学的還元でジスルフィド結合を切断することによって精製モノクローナル抗体から得ることができる。または、本開示に包含されるモノクローナル抗体断片は自動ペプチド合成機を用いて合成することができる。
【0028】
モノクローナルを作製するために分子クローニングアプローチが用いられる場合があることも意図される。このために、ハイブリドーマ株からRNAを単離し、抗体遺伝子をRT-PCRによって入手し、免疫グロブリン発現ベクターにクローニングすることができる。または、細胞株から単離されたRNAからコンビナトリアル免疫グロブリンファージミドライブラリーが調製され、適切な抗体を発現するファージミドが、ウイルス抗原を用いてパニングすることによって選択される。従来のハイブリドーマ技法より優れた、このアプローチの利点は、およそ約104倍の抗体を1回で産生およびスクリーニングすることができ、H鎖とL鎖の組み合わせによって新しい特異性が生まれ、それにより、適切な抗体を発見する可能性がさらに高まることである。
【0029】
本開示において有用な抗体の作製を開示する他の米国特許には、コンビナトリアルアプローチを用いたキメラ抗体の作製について説明する米国特許第5,565,332号;組換え免疫グロブリン調製物について説明する米国特許第4,816,567号;および抗体-治療剤結合体について説明する米国特許第4,867,973号が含まれ、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる。
【0030】
B.本開示の抗体
本開示に従う抗体は、第1の場合では、結合特異性によって、この場合ではグリピカン2に対する結合特異性によって定義される場合がある。一態様において、抗体は免疫グロブリンG(IgG)抗体アイソタイプである。IgGはヒトにおける血清免疫グロブリンの約75%に相当し、循環中に見出される最も豊富な抗体アイソタイプである。IgG分子は血漿B細胞によって合成および分泌される。ヒトには、血清中での存在量の順で名付けられた4種類のIgGサブクラス(IgG1、2、3、および4)がある(IgG1が最も豊富である)。これらは、Fc受容体に対して高親和性から親和性なしまで及ぶ。
【0031】
IgGは、血液および細胞外液において見出される主要な抗体アイソタイプであり、そのため、身体組織への感染を食い止めることができる。多くの種類の病原体(ウイルス、細菌、および菌類に相当する)を結合することによって、IgGは感染から身体を保護している。それは、以下のいくつかの免疫機構を介して、これを行っている:IgGを介して病原体を結合すると、凝集することで病原体が固定化および結合される;病原体表面がIgGでコーティングされることで(オプソニン化として知られる)、食細胞免疫細胞が病原体を認識および摂取できるようになる;IgGは、病原体を排除する免疫タンパク質産生カスケードである補体系の古典経路を活性化する;IgGはまた毒素も結合および中和する。IgGはまた、抗体依存性細胞毒性(ADCC)および細胞内抗体を介したタンパク質分解において重要な役割も果たしている。細胞内抗体を介したタンパク質分解では、印を付けられたビリオンをサイトゾル内のプロテアソームに向けるために、IgGはTRIM21(ヒトにおいてIgGに対して最大の親和性をもつ受容体)に結合する。IgGはまたII型過敏症およびIII型過敏症とも関連する。IgG抗体はクラススイッチおよび抗体応答成熟の後に生成され、従って、主として二次免疫応答に関与する。IgGは、サイズが小さな単量体として分泌されるので、組織の中を容易に灌流することができる。それは、ヒト胎盤通過を容易にする受容体をもつ唯一のアイソタイプである。母乳に分泌されたIgAと共に、胎盤を通過して吸収された残留するIgGは、新生児自身の免疫系が発達する前に体液性免疫を新生児に与える。初乳、特に、ウシ初乳には高い割合のIgGが含まれる。病原体に対する以前の免疫がある個体では、抗原刺激の約24~48時間後にIgGが現れる。
【0032】
さらに、抗体配列は、任意で、下記でさらに詳細に議論される方法を用いて、上記で提供された配列から変化する場合がある。例えば、アミノ配列は、(a)可変領域が軽鎖の定常ドメインから分離されている場合がある、(b)アミノ酸が、上記で示したアミノ配列と異なるが、それによって残基の化学的特性に劇的に影響を及ぼさない場合がある(いわゆる保存的置換)、(c)アミノ酸が、上記で示したアミノと、ある特定のパーセント分だけ、例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の相同性だけ異なる場合がある点で上記で示したアミノ配列と異なる場合がある。または、抗体をコードする核酸は、(a)軽鎖の定常ドメインから分離されている場合がある、(b)上記で示した核酸と異なっているが、それによってコードされる残基を変えない場合がある、(c)上記で示した核酸と、ある特定のパーセント分だけ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の相同性だけ異なる場合がある、または(d)低い塩および/もしくは高い温度条件によって例示されるように、例えば、約0.02M~約0.15M NaCl、約50℃~約70℃の温度によって示されるように、高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする能力によって、上記で示した核酸と異なる場合がある。
【0033】
アミノ酸配列に保存的変化を作る際には、アミノ酸のヒドロパシー指数が考慮される場合がある。相互作用的な生物機能をタンパク質に付与する際のヒドロパシーアミノ酸指数の重要性が当技術分野において一般に理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的なヒドロパシー特徴は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、その結果として、これが、タンパク質と、他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を定義すると受け入れられている。
【0034】
親水性に基づいて、類似するアミノ酸を効果的に置換できることも当技術分野において理解される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号には、隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所平均親水性(greatest local average hydrophilicity)はタンパク質の生物学的特性と相関関係にあることが述べられている。米国特許第4,554,101号に詳述されるように、アミノ酸残基には以下の親水性値が割り当てられている:塩基性アミノ酸:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、およびヒスチジン(-0.5);酸性アミノ酸:アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)、およびグルタミン(+0.2);親水性、非イオン性アミノ酸:セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、およびトレオニン(-0.4)、含硫黄アミノ酸:システイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3);疎水性非芳香族アミノ酸:バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、およびグリシン(0);疎水性芳香族アミノ酸:トリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)、およびチロシン(-2.3)。
【0035】
アミノ酸は、類似の親水性を有する別のアミノ酸で置換することができ、生物学的または免疫学的に改変されたタンパク質を生成することができると理解される。このような変化では、親水性値が±2以内のアミノ酸置換が好ましく、親水性値が±1以内のアミノ酸置換が特に好ましく、±0.5以内のアミノ酸置換がさらに特に好ましい。
【0036】
上記で概説したように、アミノ酸置換は、一般的に、アミノ酸の側鎖置換基の相対的類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいている。様々な前述の特徴を考慮に入れた例示的な置換が当業者に周知であり、アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびトレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。
【0037】
C.抗体配列の操作
様々な態様では、発現の改善、交差反応性の改善、オフターゲット結合の低下、または1つもしくは複数の天然エフェクター機能、例えば、補体活性化もしくは免疫細胞(例えば、T細胞)動員の抑止などの様々な理由で、特定された抗体の配列を操作することが選ばれる場合がある。特に、IgM抗体がIgG抗体に変換される場合がある。以下は、抗体を操作するための関連する技法の大まかな議論である。
【0038】
ハイブリドーマを培養し、次いで、細胞を溶解し、全RNAを抽出することができる。RTと一緒にランダムヘキサマーを用いてRNAのcDNAコピーを作製し、次いで、全てのヒト可変遺伝子配列を増幅することが予想されるPCRプライマーの多重混合物を用いてPCRを行うことができる。PCR産物をpGEM-T Easyベクターにクローニングし、次いで、標準的なベクタープライマーを用いた自動DNA配列決定によって配列決定することができる。結合および中和のアッセイは、ハイブリドーマ上清から収集し、プロテインGカラムを用いたFPLCによって精製した抗体を用いて行うことができる。組換え完全長IgG抗体は、重鎖および軽鎖Fv DNAをクローニングベクターからLonza pConIgG1またはpConK2プラスミドベクターにサブクローニングし、293 Freestyle細胞またはLonza CHO細胞にトランスフェクトし、CHO細胞上清から収集および精製することによって作製することができる。
【0039】
最後のcGMP製造プロセスと同じ宿主細胞および細胞培養プロセスにおいて産生される抗体が迅速に入手できることには、プロセス開発プログラムの期間を短くする可能性がある。Lonzaは、少量(50gまで)の抗体をCHO細胞において迅速に産生するために、CDACF培地中で増殖させた、プールしたトランスフェクタントを用いる一般的な方法を開発した。本当の一過的なシステムよりもわずかに遅いが、この利点には、産物濃度が高いこと、産生細胞株と同じ宿主およびプロセスが用いられることが含まれる。使い捨てバイオリアクターにおける、モデル抗体を発現するGS-CHOプールの増殖および生産性の例:フェドバッチモードにおいて動作する使い捨てバックバイオリアクター培養(5L作業容積)では、トランスフェクションの9週間以内に2g/Lの収集抗体濃度を実現した。
【0040】
pConベクター(商標)は、抗体全体を再発現する簡単な方法である。この定常領域ベクターは、pEEベクターにクローニングされた広範囲の免疫グロブリン定常領域ベクターを提供する一組のベクターである。これらのベクターは、ヒト定常領域を有する完全長抗体の簡単な構築と、GS System(商標)の便利さを提供する。
【0041】
抗体分子は、断片、例えば、mAbのタンパク質分解切断によって生じた断片(例えば、F(ab')、F(ab')2)、または単鎖免疫グロブリン、例えば、組換え手段によって作製可能な単鎖免疫グロブリンを含む。このような抗体派生物は一価である。一態様において、このような断片は互いに、または他の抗体断片もしくは受容体リガンドと組み合わされて、「キメラ」結合分子を形成することができる。重大なことに、このようなキメラ分子は、同じ分子の異なるエピトープと結合することができる置換基を含有する場合がある。
【0042】
ヒト療法で用いられた時の免疫反応を減弱するために、非ヒト宿主において産生された抗体を「ヒト化」することが望ましい場合がある。このようなヒト化抗体はインビトロの状況で研究されてもよく、インビボの状況で研究されてもよい。ヒト化抗体は、例えば、抗体の免疫原性部分を、対応するが、非免疫原性の部分と交換することによって作製される場合がある(すなわち、キメラ抗体)。PCT出願PCT/US86/02269; EP出願184,187; EP出願171,496; EP出願173,494; PCT出願WO86/01533; EP出願125,023; Sun et al. (1987); Wood et al.(1985);およびShaw et al.(1988)。これらの参考文献は全て参照により本明細書に組み入れられる。「ヒト化」キメラ抗体の大まかな総説は、これも参照により本明細書に組み入れられるMorrison(1985)によって示されている。または、「ヒト化」抗体はCDRまたはCEA置換によって作製することができる。Jones et al. (1986); Verhoeyen et al. (1988); Beidler et al. (1988)。これらは全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0043】
関連する態様において、抗体は、開示された抗体の派生物、例えば、開示された抗体にあるCDR配列と同一のCDR配列を含む抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはCDRが移植された抗体)である。なおさらなる態様において、抗体は完全ヒト組換え抗体である。
【0044】
本開示はまたアイソタイプ改変も意図する。異なるアイソタイプを持つようにFc領域を改変することによって、異なる機能性を実現することができる。例えば、IgG4に変えることによって、他のアイソタイプに関連する免疫エフェクター機能を低減することができる。
【0045】
改変抗体は、標準的な分子生物学的技法による発現またはポリペプチドの化学合成を含む当業者に公知の任意の技法によって作製することができる。組換え発現のための方は本文書の他の箇所で取り扱う。
【0046】
D.発現
本開示に従う核酸は、抗体、任意で、他のタンパク質配列と連結した抗体をコードする。本願において用いられる「グリピカン2抗体をコードする核酸」という用語は、全ての細胞核酸が無い状態で単離されている核酸分子を指す。ある特定の態様では、本開示は、本明細書において示された任意の配列によってコードされる抗体に関する。
【0047】
【0048】
本開示のDNAセグメントは、前記の配列の生物学的に機能する等価なタンパク質およびペプチドをコードするものを含む。このような配列は、核酸配列と、このようにコードされるタンパク質の中に天然に生じることが分かっているコドンの冗長性(redundancy)およびアミノ酸の機能的等価性の結果として生じる場合がある。または、機能的に等価なタンパク質またはペプチドは組換えDNA技術を適用することによって作り出されてもよい。組換えDNA技術では、アミノ酸の特性が交換されるという考えに基づいてタンパク質構造の変化を操作することができる。人間によって設計される変化は、下記で説明するように、部位特異的変異誘発法を適用することによって導入されてもよく、ランダムに導入され、望ましい機能があるかどうか後でスクリーニングされてもよい。
【0049】
本願全体を通して、「発現構築物」という用語は、遺伝子産物をコードする核酸を含有し、この核酸の中にある核酸コード配列の一部または全てが転写可能である、任意のタイプの遺伝子構築物を含むことが意図される。転写物はタンパク質に翻訳されてもよいが、タンパク質である必要はない。ある特定の態様では、発現には、遺伝子の転写と、mRNAから遺伝子産物への翻訳が含まれる。他の態様において、発現は、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写しか含まない。
【0050】
「ベクター」という用語は、核酸配列を、複製可能な細胞に導入するために挿入することができる担体核酸分子を指すために用いられる。核酸配列は「外因性」でもよい。「外因性」とは、核酸配列が、ベクターが導入される細胞にとって外来のものであること、または細胞内の配列と相同であるが、通常見られない宿主細胞核酸内の位置にあることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者であれば、Sambrook et al., (1989)およびAusubel et al., (1994)に記載の標準的な組換え技法によってベクターを構築するのに十分な装備を持っていると考えられ、これらの文献は両方とも参照により本明細書に組み入れられる。
【0051】
「発現ベクター」という用語は、遺伝子産物の少なくとも一部をコードする転写可能な核酸配列を含有するベクターを指す。場合によっては、次に、RNA分子はタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。他の場合では、これらの配列は翻訳されず、例えば、アンチセンス分子またはリボザイムが生成される。発現ベクターは、ある特定の宿主生物における機能的に連結されたコード配列の転写に必要であり、おそらくその翻訳に必要な核酸配列を指す様々な「制御配列」を含有してもよい。ベクターおよび発現ベクターは、転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、他の機能も果たし、下記で説明される核酸配列を含有してもよい。
【0052】
1.調節エレメント
「プロモーター」とは、転写の開始および速度が制御される核酸配列の一領域である制御配列である。「プロモーター」は、調節タンパク質および調節分子、例えば、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子が結合することができる遺伝因子を含有してもよい。「機能的に配置された」、「機能的に連結された」、「制御下にある」、および「転写制御下にある」という句は、プロモーターが、核酸配列の転写開始および/または発現を制御するために、核酸配列に対して正しい機能的な位置および/または方向にあることを意味する。プロモーターは「エンハンサー」と共に用いられてもよく、「エンハンサー」と共に用いられなくてもよい。「エンハンサー」とは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用調節配列を指す。
【0053】
プロモーターは、遺伝子または配列と天然に関連するプロモーターでもよく、同様に、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって得られてもよい。このようなプロモーターは「内因性」と呼ばれることがある。同様に、エンハンサーは、核酸配列の下流または上流に位置する、核酸配列と天然に関連するエンハンサーでもよい。または、コード核酸セグメントを組換えプロモーターまたは異種プロモーターの制御下に置くことによって、ある特定の利益が得られる。組換えプロモーターまたは異種プロモーターとは、天然環境において核酸配列と通常関連していないプロモーターを指す。
【0054】
組換エンハンサーまたは異種エンハンサーはまた、天然環境において核酸配列と通常関連していないエンハンサーも指す。このようなプロモーターまたはエンハンサーは、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意の原核細胞、ウイルス細胞、または真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然」にはないプロモーターまたはエンハンサー、すなわち、異なる転写調節領域の異なるエレメントを含有する、および/または発現を変える変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーを含んでもよい。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により作製することに加えて、配列は、本明細書において開示される組成物と共に、組換えクローニング技術および/またはPCR(商標)を含む核酸増幅技術を用いて作製されてもよい(米国特許第4,683,202号、同第5,928,906号を参照されたい。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。さらに、核でない細胞小器官、例えば、ミトコンドリア、葉緑体などの中で配列の転写および/または発現を誘導する制御配列も使用できることが意図される。
【0055】
もちろん、発現のために選択された細胞タイプ、細胞小器官、および生物においてDNAセグメントを効果的に発現させるプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することが重要である。分子生物学の当業者であれば、タンパク質を発現させるために、プロモーターと、エンハンサーと、細胞タイプの組み合わせを用いることを通常知っている。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Sambrook et al.(1989)を参照されたい。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、ならびに/または導入されたDNAセグメントを高レベルに発現させるのに適切な条件下で有用な、例えば、組換えタンパク質および/もしくはペプチドの大規模生産において有利なプロモーターでよい。プロモーターは異種プロモーターでもよく、内因性プロモーターでもよい。組織特異的なプロモーターまたはエレメントの身元(identity)ならびにこれらの活性を特徴付けるためのアッセイは当業者に周知である。このような領域の例には、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al. 1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et al., 1998)、マウス精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al., 1999)、ヒトCD4(Zhao-Emonet et al., 1998)、マウスα2(XI)コラーゲン(Tsumaki, et al., 1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee, et al., 1997)、インシュリン様増殖因子II(Wu et al., 1997)、ヒト血小板内皮細胞接着分子-1(Almendro et al., 1996)が含まれる。
【0056】
ある特定の開始シグナルもコード配列の効率的な翻訳に必要とされる場合がある。これらのシグナルにはATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルを設けることが必要な場合がある。当業者であれば、このことを確かめ、必要なシグナルを設けることができるだろう。インサート全体の翻訳を確実にするために、開始コドンが、望ましいコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことは周知である。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは天然のものでもよく、合成のものでもよい。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメントを含めることによって増強される場合がある。
【0057】
2.IRES
本開示のある特定の態様では、多重遺伝子のメッセージまたはポリシストロニックなメッセージを作り出すために、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用が用いられる。IRESエレメントは5'メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルス科の2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)に由来するIRESエレメントが述べられおり(Pelletier and Sonenberg, 1988)、哺乳動物メッセージに由来するIRESも述べられている(Macejak and Sarnow, 1991)。IRESエレメントは異種オープンリーディングフレームと連結することができる。それぞれIRESによって分けられた複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写して、ポリシストロニックなメッセージを作り出すことができる。IRESエレメントによって、それぞれのオープンリーディングフレームは効率的な翻訳のためにリボソームに接近することができる。1種類のプロモーター/エンハンサーを用いて1本のメッセージを転写するように、複数の遺伝子を効率的に発現させることができる(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照されたい)。
【0058】
3.多目的クローニングサイト
ベクターはマルチクローニングサイト(MCS)を含んでもよい。マルチクローニングサイトは、複数の制限酵素部位を含有する核酸領域であり、どの制限酵素部位も、ベクターを消化するために標準的な組換え技術と共に使用することができる。参照により本明細書に組み入れられる、Carbonelli et al., 1999、Levenson et al., 1998、およびCocea, 1997を参照されたい。「制限酵素消化」とは、核酸分子の特定の位置でしか機能しない酵素による核酸分子の触媒切断を指す。これらの制限酵素の多くは市販されている。このような酵素の使用は当業者に広く理解されている。外因性配列がベクターに連結できるように、MCS内で切断する制限酵素を用いてベクターは直線化または断片化されることが多い。「連結」とは、2つの核酸断片間でホスホジエステル結合を形成するプロセスを指し、2つの核酸断片は互いに連続してもよく、連続してなくてもよい。制限酵素および連結反応を伴う技法は組換え技術の当業者に周知である。
【0059】
4.スプライシング部位
転写されたほとんどの真核生物RNA分子は、一次転写物からイントロンを取り除くRNAスプライシングを受ける。タンパク質発現のために転写物が正しく処理されるためには、ゲノム真核生物配列を含むベクターにはドナースプライシング部位および/またはアクセプタースプライシング部位が必要とされることがある(参照により本明細書に組み入れられる、Chandler et al., 1997を参照されたい)。
【0060】
5.終結シグナル
本開示のベクターまたは構築物は、一般的に、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写物の特異的な終結に関与するDNA配列で構成される。従って、ある特定の態様では、RNA転写物の生成を終了させる終結シグナルが意図される。望ましいメッセージレベルを実現するために、ターミネーターがインビボで必要な場合がある。
【0061】
真核生物システムにおいて、ターミネーター領域はまた、新たな転写物を部位特異的に切断してポリアデニル化部位を曝露するのを可能にする特定のDNA配列も含んでよい。これは、約200個のA残基(ポリA)の配列を転写物の3'末端に付加するように特殊な内因性ポリメラーゼにシグナルを送る。このポリAテールで修飾されたRNA分子は安定性が高いように見られ、より効率的に翻訳される。従って、真核生物を伴う他の態様では、ターミネーターはRNA切断のためのシグナルを含むことが好ましく、ターミネーターシグナルはメッセージのポリアデニル化を促進することがより好ましい。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを増強するのに、および/またはカセットから他の配列への読み過ごしを最小限にするのに役立る可能性がある。
【0062】
本開示における使用が意図されるターミネーターには、本明細書に記載のまたは当業者に公知の、任意の公知の転写ターミネーターが含まれる。これには、例えば、遺伝子終結配列、例えば、ウシ成長ホルモンターミネーター、またはウイルス終結配列、例えば、SV40ターミネーターが含まれるが、これに限定されない。ある特定の態様では、終結シグナルは、転写可能な配列または翻訳可能な配列が欠けたもの、例えば、配列が切断されたために転写可能な配列または翻訳可能な配列が欠けたものでもよい。
【0063】
6.ポリアデニル化シグナル
発現、特に、真核生物での発現において、典型的には、転写物の適切なポリアデニル化をもたらすためにポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化シグナルがどういったものであるかは本開示の実施の成功に重要だと考えられていない、および/またはこのような任意の配列を使用することができる。好ましい態様には、便利な、および/または様々な標的細胞において良好に機能することが知られているSV40ポリアデニル化シグナルおよび/またはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルが含まれる。ポリアデニル化は転写物の安定性を高めてもよく、細胞質への輸送を容易にしてもよい。
【0064】
7.複製起点
宿主細胞内でベクターを増殖させるために、ベクターは1つまたは複数の複製起点部位(「ori」と呼ばれることが多い)を含有してもよい。複製起点は、複製が開始する特定の核酸配列である。または、宿主細胞が酵母であれば、自己複製配列(ARS)を使用することができる。
【0065】
8.選択マーカーおよびスクリーニングマーカー
本開示のある特定の態様では、本開示の核酸構築物を含有する細胞は、発現ベクター内にマーカーを含めることによってインビトロまたはインビボで同定することができる。このようなマーカーは特定可能な変化を細胞に付与し、それにより、発現ベクターを含有する細胞を容易に特定できるようになる。一般的に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。正の選択マーカーは、マーカーが存在すると細胞の選択が可能になるものであるのに対して、負の選択マーカーは、マーカーが存在すると細胞の選択が妨げられるものである。正の選択マーカーの一例は薬物耐性マーカーである。
【0066】
通常、薬物選択マーカーの含有は形質転換体のクローニングおよび特定を助ける。例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン(zeocin)、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が有用な選択マーカーである。条件実施に基づいて形質転換体の識別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色分析を基本原理とするGFPなどのスクリーニングマーカーを含む他のタイプのマーカーも意図される。または、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのスクリーニング可能な酵素を使用することができる。当業者であれば、免疫マーカーを、おそらくFACS分析と共に使用する方法も知っているだろう。使用されるマーカーは遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現できさえすれば、重要だと考えられていない。選択マーカーおよびスクリーニングマーカーのさらなる例は当業者に周知である。
【0067】
9.ウイルスベクター
ある特定のウイルスベクターは効率的に細胞に感染するか、または入り、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、ウイルス遺伝子を安定して発現することができるので、多くの異なるウイルスベクターシステムが開発および適用された(Robbins et al., 1998)。エクスビボ遺伝子導入用およびインビボ遺伝子導入用のベクターとして使用するためのウイルスシステムが現在開発されている。例えば、癌、嚢胞性線維症、ゴーシェ病、腎臓病、および関節炎などの疾患を処置するために、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、およびアデノ随伴ウイルスベクターが現在評価されている(Robbins and Ghivizzani, 1998; Imai et al., 1998; 米国特許第5,670,488号)。本開示において使用するために、他のウイルスベクター、例えば、ポックスウイルス;例えば、ワクシニアウイルス(Gnant et al., 1999; Gnant et al., 1999)、アルファウイルス; 例えば、シンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルス(Lundstrom, 1999)、レオウイルス(Coffey et al., 1998)、およびインフルエンザAウイルス(Neumann et al., 1999)が考えられ、目的のシステムの必要な性質に応じて選択することができる。
【0068】
10.非ウイルス形質転換
本開示と共に使用するために、細胞小器官、細胞、組織、または生物を形質転換するための核酸送達に適した方法は、本明細書に記載のように、または当業者に公知なように核酸(例えば、DNA)を細胞小器官、細胞、組織、または生物に導入することができる実質的に任意の方法を含むと考えられる。このような方法には、例えば、マイクロインジェクション(参照により本明細書に組み入れられる、Harland and Weintraub, 1985; 米国特許第5,789,215号)を含む注射(米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号、および同第5,580,859号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる); エレクトロポレーション(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,384,253号);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973; Chen and Okayama, 1987; Rippe et al., 1990); DEAE-デキストランに続く、ポリエチレングリコールの使用(Gopal, 1985);ダイレクトソニックローディング(direct sonic loading)(Fechheimer et al., 1987); リポソームを介したトランスフェクション(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979; Nicolau et al., 1987; Wong et al., 1980; Kaneda et al., 1989; Kato et al., 1991); 微粒子銃(PCT出願番号WO94/09699および95/06128; 米国特許第5,610,042号;同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号、および同第5,538,880号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);炭化ケイ素繊維を用いた攪拌(Kaeppler et al., 1990; 米国特許第5,302,523号および同第5,464,765号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);またはPEGを介したプロトプラスト形質転換(Omirulleh et al., 1993; 米国特許第4,684,611号および同第4,952,500号。それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);乾燥/阻害を介したDNA取り込み(Potrykus et al., 1985)によるDNAの直接送達が含まれるが、これに限定されない。これらの技法などの技法を適用することによって、細胞小器官、細胞、組織、または生物が安定して形質転換されてもよく、一過的に形質転換されてもよい。
【0069】
11.発現システム
上記で議論した組成物の少なくとも一部または全てを含む非常に多くの発現システムが存在する。本開示と共に使用して核酸配列、またはそのコグネイトポリペプチド、タンパク質、およびペプチドを生成するために、原核生物および/または真核生物に基づくシステムを使用することができる。多くのこのようなシステムが商業的にかつ広く入手することができる。
【0070】
昆虫細胞/バキュロウイルスシステムは、例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,871,986号および同第4,879,236号に記載のように、異種核酸セグメントの高レベルタンパク質発現を生じることができ、例えば、Invitrogen(登録商標)からMaxBac(登録商標)2.0の名前で、Clontech(登録商標)からBacPack(商標)バキュロウイルス発現システムの名前で購入することができる。
【0071】
発現システムの他の例には、合成エクジソン誘導性受容体を含む、Stratagene(登録商標)のComplete Control(商標)誘導性哺乳動物発現システム、または大腸菌発現システムである、そのpET発現システムが含まれる。Invitrogen(登録商標)からは、完全長CMVプロモーターを用いる誘導性哺乳動物発現システムであるT-Rex(商標)(テトラサイクリンによって調節される発現)システムを運ぶ誘導性発現システムの別の例が入手可能である。Invitrogen(登録商標)はまた、ピキア・メサノリカ(Pichia methanolica)発現システムと呼ばれる酵母発現システムも提供する。このシステムはメチロトローフ酵母ピキア・メサノリカにおいて組換えタンパク質を高レベル産生するために設計されている。当業者であれば、発現構築物などのベクターを発現させて、核酸配列またはそのコグネイトポリペプチド、タンパク質、もしくはペプチドを産生するやり方を知っているだろう。
【0072】
初代哺乳動物細胞培養物は様々なやり方で調製することができる。細胞がインビトロで、かつ発現構築物と接触しながら生存し続けるためには、確実に、正しい比の酸素および二酸化炭素および栄養分との接触を維持しているが、微生物汚染から保護されることが必要である。細胞培養法は十分に記録に残っている。
【0073】
前述の一態様は、タンパク質を産生するために遺伝子導入を用いて細胞を不死化することを伴う。関心対象のタンパク質の遺伝子を前記のように適切な宿主細胞に導入し、その後に、適切な条件下で細胞を培養することができる。このように、実質的に任意のポリペプチドの遺伝子を使用することができる。組換え発現ベクターおよびその中に含まれるエレメントの作製は上記で議論した。または、産生しようとするタンパク質は、問題となっている細胞が通常合成する内因性タンパク質でもよい。
【0074】
有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、Vero細胞およびHeLa細胞ならびにチャイニーズハムスター卵巣細胞株、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、NIH3T3、RIN、およびMDCK細胞である。さらに、挿入された配列の発現を調整する宿主細胞株、または遺伝子産物を望ましいやり方で修飾もしくは処理する宿主細胞株が選択される場合がある。タンパク質産物の、このような修飾(例えば、グリコシル化)および処理(例えば、切断)はタンパク質の機能にとって重要な場合がある。様々な宿主細胞が、タンパク質の翻訳後処理および翻訳後修飾のための特徴的かつ特異的な機構を持っている。適切な細胞株または宿主システムを選択して、発現される外来タンパク質の正しい修飾および処理を保証することができる。
【0075】
HSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むが、これに限定されない多くの選択システムを、それぞれ、tk-細胞、hgprt-細胞、またはaprt-細胞において使用することができる。また、代謝拮抗物質耐性も、以下に対する耐性を付与するdhfr、ミコフェノール酸耐性を付与するgpt、アミノグリコシドG418耐性を付与するneo、およびハイグロマイシン耐性を付与するhygroに対する選択の基盤として使用することができる。
【0076】
E.精製
ある特定の態様では、本開示の抗体は精製されてもよい。本明細書で使用する「精製された」という用語は、他の成分から単離可能な組成物を指すことが意図され、この場合、タンパク質は、天然に入手可能な状態と比べて任意の程度まで精製される。従って、精製されたタンパク質はまた、天然に生じ得る環境を含まないタンパク質も指す。「実質的に精製された」という用語が用いられる場合、この表示は、タンパク質またはペプチドが組成物の主要成分を形成している、例えば、組成物中にあるタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれより多くを構成する組成物を指す。
【0077】
タンパク質精製法は当業者に周知である。これらの技法は、あるレベルで、細胞環境をポリペプチド画分および非ポリペプチド画分に粗分画(crude fractionation)することを伴う。他のタンパク質からポリペプチドを分離した後に、部分的もしくは完全に精製するために(または均一になるまで精製するために)クロマトグラフィー法および電気泳動法を用いて、関心対象のポリペプチドがさらに精製されてもよい。純粋なペプチドの調製物に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点電気泳動である。タンパク質精製のための他の方法には、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈殿、または熱変性と、それに続く遠心分離による沈殿;ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティクロマトグラフィー;ならびにこのような技法と他の技法の組み合わせが含まれる。
【0078】
本開示の抗体を精製する際に、原核生物発現システムまたは真核生物発現システムにおいてポリペプチドを発現させ、変性条件を用いてタンパク質を抽出することが望ましい場合がある。ポリペプチドは、ポリペプチドのタグ化部分に結合するアフィニティカラムを用いて他の細胞成分から精製されてもよい。当技術分野において一般に公知なように、様々な精製工程を行う順序は変えられてもよく、またはある特定の工程は省かれてもよく、それでもなお、実質的に精製されたタンパク質またはペプチドを調製するために適切な方法をもたらすと考えられている。
【0079】
通常、完全な抗体は、抗体のFc部分に結合する薬剤(すなわち、プロテインA)を利用して分画される。または、適切な抗体の精製と選択を同時に行うために抗原が用いられることがある。このような方法では、多くの場合、カラム、フィルター、またはビーズなどの支持体に結合した選択薬剤が利用される。抗体は支持体に結合され、汚染物質は除去され(例えば、洗い流され)、条件(塩、熱など)を適用することによって抗体は放出される。
【0080】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量するための様々な方法は本開示を考慮すれば当業者に公知である。これらの方法は、例えば、活性画分の比活性を求める工程、またはSDS/PAGE分析によって画分の中にあるポリペプチドの量を評価する工程を含む。画分の純度を評価するための別の方法は、画分の比活性を計算し、これと初回抽出物の比活性と比較し、従って、純度の程度を計算する方法である。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、もちろん、発現されたタンパク質またはペプチドが、検出可能な活性を示しても示さなくても、精製を追跡するために選択された特定のアッセイ技法によって決まる。
【0081】
ポリペプチドの移動は、SDS/PAGEの異なる条件によって、時として大きく変化する場合があることが知られている(Capaldi et al., 1977)。従って、異なる電気泳動条件下では、精製されたまたは部分的に精製された発現産物の見かけの分子量は変化する場合があることが理解される。
【0082】
F.単鎖/シングルドメイン抗体
単鎖可変断片(scFv)は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域が短い(通常、セリン、グリシン)リンカーと一緒に連結されて融合したものである。このキメラ分子はシングルドメイン抗体とも知られ、定常領域が除去され、リンカーペプチドが導入されていても、元々の免疫グロブリンの特異性を保持している。この改変があっても、通常、特異性は変化しないままである。これらの分子は、ファージディスプレイを容易にするために歴史を通して作り出された。ファージディスプレイは、1本のペプチドとして抗原結合ドメインを発現させることが極めて便利である。または、ハイブリドーマに由来するサブクローニングされた重鎖および軽鎖から直接、scFvを作り出すことができる。シングルドメインまたは単鎖可変断片には、完全な抗体分子に見出される定常Fc領域が無く、従って、抗体を精製するために用いられる共通の結合部位(例えば、プロテインA/G)が無い(単鎖抗体はFc領域を含む)。これらの断片は、多くの場合、プロテインLを用いて精製/固定化することができる。なぜなら、プロテインLはκ軽鎖の可変領域と相互作用するからである。
【0083】
可動性リンカーは、一般的に、ヘリックスを促進するアミノ酸残基と、ターンを促進するアミノ酸残基、例えば、アラニン、セリン、およびグリシンで構成される。しかしながら、他の残基も機能することができる。Tang et al.(1996)は、タンパク質リンカーライブラリーから、単鎖抗体(scFv)に合わせられたリンカーを迅速に選択する手段としてファージディスプレイを使用した。重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインの遺伝子が、組成が異なる18アミノ酸ポリペプチドをコードするセグメントによって連結されたランダムリンカーライブラリーが構築された。scFvレパートリー(約5x106個の異なるメンバー)が繊維状ファージ上にディスプレイされ、ハプテンを用いたアフィニティ選択に供された。選択された変種の集団は著しい結合活性増加を示したが、かなりの配列多様性を保持した。その後に、1054の変種を1つ1つスクリーニングすることによって、可溶型で効率的に産生された触媒活性のあるscFvが得られた。配列分析から、選択されたテザー(tether)の唯一の共通する特徴として、VHC末端の2残基後ろにリンカーの中に保存プロリンがあることと、他の位置にたくさんのアルギニンとプロリンがあることが明らかになった。
【0084】
本開示の組換え抗体はまた、受容体の二量体化または多量体化を可能にする配列または部分を伴ってもよい。このような配列には、J鎖と共に多量体形成を可能にするIgAに由来する配列が含まれる。別の多量体化ドメインはGal4二量体化ドメインである。他の態様において、これらの鎖は、2つの抗体の組み合わせを可能にするビオチン/アビジンなどの薬剤を用いて改変されてもよい。
【0085】
異なる態様では、単鎖抗体は、非ペプチドリンカーまたは化学ユニットを用いて受容体の軽鎖および重鎖をつなげることによって作り出すことができる。一般的に、軽鎖および重鎖は別個の細胞で産生され、精製され、その後に、適切なやり方で一緒に連結される(すなわち、適切な化学架橋を介して重鎖N末端が軽鎖C末端に取り付けられる)。
【0086】
架橋結合試薬は、2つの異なる分子、例えば、安定化剤および凝固剤の官能基を結び付ける分子架橋を形成するのに用いられる。しかしながら、同じ類似体の二量体もしくは多量体または異なる類似体で構成されるヘテロマー複合体を作り出すことができることが意図される。2つの異なる化合物を段階的に連結するためには、不必要なホモポリマー形成を排除するヘテロ二官能性架橋剤を使用することができる。
【0087】
例示的なヘテロ二官能性架橋剤は2つの反応基、一方は一級アミン基と反応する反応基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)、他方はチオール基と反応する反応基(例えば、ピリジルジスルフィド、マレイミド、ハロゲンなど)を含有する。架橋剤は、一級アミン反応基を介して、あるタンパク質(例えば、選択された抗体または断片)のリジン残基と反応することができ、既に第1のタンパク質と結び付いている架橋剤は、チオール反応基を介して、他のタンパク質(例えば、選択薬剤)のシステイン残基(遊離スルフヒドリル基)と反応する。
【0088】
血中で妥当な安定性を有する架橋剤が用いられること好ましい。標的化薬剤と治療/予防薬剤と結合するのに首尾よく使用することができる非常に多くのタイプのジスルフィド結合含有リンカーが公知である。立体妨害されているジスルフィド結合を含有するリンカーはインビボで高い安定性を付与することが分かっていることがあり、そのため、作用部位に到達する前の標的化ペプチドの放出が妨げられる。従って、これらのリンカーは、薬剤を連結する基の1つである。
【0089】
別の架橋結合試薬は、隣接するベンゼン環およびメチル基によって「立体妨害」されているジスルフィド結合を含有する二官能性架橋剤であるSMPTである。ジスルフィド結合の立体障害は、組織および血液に存在し得るチオラートアニオン、例えば、グルタチオンによる攻撃から結合を守り、それによって、取り付けられた薬剤が標的部位に送達される前に結合体が分離しないように役立つ機能を果たすと考えられている。
【0090】
SMPT架橋結合試薬は他の多くの公知の架橋結合試薬と同様に、官能基、例えば、システインのSHまたは一級アミン(例えば、リジンのεアミノ基)を架橋する能力を与える。別の可能性のあるタイプの架橋剤には、切断可能なジスルフィド結合を含有するヘテロ二官能性光反応性フェニルアジド、例えば、スルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミノ)エチル-1,3'-ジチオプロピオネートが含まれる。N-ヒドロキシ-スクシンイミジル基は一級アミノ基と反応し、フェニルアジドは(光分解すると)任意のアミノ酸残基と非選択的に反応する。
【0091】
妨害されている架橋剤に加えて、妨害されていないリンカーも本明細書に従って使用することができる。保護されたジスルフィドを含有するか、または生成すると考えられていない他の有用な架橋剤には、SATA、SPDP、および2-イミノチオラン(Wawrzynczak & Thorpe, 1987)が含まれる。このような架橋剤の使用は当技術分野において良く理解されている。別の態様は可動性リンカーの使用を伴う。
【0092】
米国特許第4,680,338号は、リガンドと、アミンを含有するポリマーおよび/またはタンパク質との結合体を生成するのに有用な、特に、キレート剤、薬物、酵素、検出可能な標識などとの抗体結合体を形成するのに有用な二官能性リンカーについて説明する。米国特許第5,141,648号および同第5,563,250号は、様々な穏やかな条件下で切断可能な不安定結合を含む切断可能な結合体を開示する。このリンカーは、関心対象の薬剤をリンカーに直接結合することができ、切断されると活性薬剤が放出されるので特に有用である。特定の用途には、遊離アミノ基または遊離スルフヒドリル基をタンパク質、例えば、抗体、または薬物に付加することが含まれる。
【0093】
米国特許第5,856,456号は、融合タンパク質、例えば、単鎖抗体を作製する目的でポリペプチド構成要素を接続する際に使用するためのペプチドリンカーを提供する。このリンカーは長さが約50アミノ酸まであり、荷電アミノ酸(好ましくはアルギニンまたはリジン)に続いてプロリンが少なくとも1回発生することを含み、安定性が大きく、凝集が少ないことを特徴とする。米国特許第5,880,270号は、様々な免疫診断法および分離法において有用なアミノオキシ含有リンカーを開示する。
【0094】
G.改変抗体
1.CAR
人工T細胞受容体(キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、キメラ抗原受容体(CAR)とも知られる)は、任意の特異性を免疫エフェクター細胞に移植する操作された受容体である。典型的に、これらの受容体は、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に移植するのに用いられ、これらの受容体のコード配列の導入はレトロウイルスベクターによって促進される。このように、養子細胞移入のために多数の癌特異的T細胞を作製することができる。このアプローチの第I相臨床研究は効力を示している。
【0095】
これらの分子のうち最も一般的な形は、モノクローナル抗体に由来する単鎖可変断片(scFv)と、CD3ζ膜貫通ドメインおよびエンドドメインが融合したものである。このような分子は、scFvによるその標的の認識に応答してζシグナルを伝える。このような構築物の一例は、(ジシアロガングリオシドGD2を認識する)ハイブリドーマ14g2aに由来するscFvが融合したものである14g2aζである。T細胞が、この分子を発現すると(通常、オンコレトロウイルスベクター形質導入によって成し遂げられる)、GD2を発現する標的細胞(例えば、神経芽細胞腫細胞)を認識し、死滅させる。悪性B細胞を標的とするために、研究者らは、B系列分子であるCD19に特異的なキメラ免疫受容体を用いてT細胞の特異性を向け直した。
【0096】
scFvを形成するために、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変部分は可動性リンカーによって融合される。このscFvの前には、新生タンパク質を小胞体に向け、その後に表面で発現させるシグナルペプチドがある(これは切断される)。可動性スペーサーがあると、scFvは抗原に結合するために様々な方向に向くことが可能になる。膜貫通ドメインは、細胞の中に突き出ており、望ましいシグナルを伝達するシグナル伝達エンドドメインの元々の分子から通常、得られる、典型的な疎水性αヘリックスである。
【0097】
I型タンパク質は、実際には、膜貫通αヘリックスによって連結された2つのタンパク質ドメインである。膜貫通ドメインが貫通している細胞膜脂質二重層は外側部分(エクトドメイン)から内側部分(エンドドメイン)を切り離すように働く。あるタンパク質に由来するエクトドメインを、別のタンパク質のエンドドメインに取り付けることによって、前者の認識を後者のシグナルと組み合わせた分子が生じることはそれほど驚くことではない。
【0098】
エクトドメイン
シグナルペプチドは新生タンパク質を小胞体に向ける。受容体がグリコシル化され、細胞膜に固定されるのであれば、これは必要不可欠である。通常、どんな真核生物シグナルペプチド配列もうまく働く。一般的に、最もアミノ末端側の成分に天然で取り付けられているシグナルペプチドが用いられる(例えば、軽鎖-リンカー-重鎖の方向をもつscFvでは、軽鎖の天然シグナルが用いられる)。
【0099】
通常、抗原認識ドメインはscFvである。しかしながら、多くの選択肢がある。天然T細胞受容体(TCR)α単鎖およびβ単鎖に由来する抗原認識ドメインが述べられており、同様に、単純なエクトドメイン(例えば、HIV感染細胞を認識するCD4エクトドメイン)と、もっと風変わりな認識成分、例えば、連結されたサイトカイン(サイトカイン受容体を有する細胞を認識する)も述べられている。実際には、ある特定の標的に高親和性で結合する、ほぼ全てのものが抗原認識領域として使用することができる。
【0100】
スペーサー領域は抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに連結する。抗原認識を容易にするために、抗原結合ドメインが様々な方向に向くのに十分な可動性がスペーサー領域になければならない。最も簡単な形はIgG1に由来するヒンジ領域である。代わりになるものには、免疫グロブリンのCH2CH3領域およびCD3の一部が含まれる。ほとんどのscFvに基づく構築物の場合、IgG1ヒンジで十分である。しかしながら、最良のスペーサーは経験的に確かめなければならないことが多い。
【0101】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、膜を貫通する疎水性αヘリックスである。一般的に、エンドドメインの最も膜に近い成分に由来する膜貫通ドメインが用いられる。興味深いことに、CD3ζ膜貫通ドメインを用いると、人工TCRが、天然CD3ζ膜貫通荷電アスパラギン酸残基の存在に依存する因子である天然TCRに組み込まれる可能性がある。異なる膜貫通ドメインが異なる受容体安定性をもたらす。CD28膜貫通ドメインを用いると、活発に発現する安定した受容体が生じる。
【0102】
エンドドメイン
これは、受容体の「役目を果たす先端部分(business-end)」である。抗原が認識された後に、受容体はクラスター化し、シグナルが細胞に伝達される。最も一般的に用いられるエンドドメイン成分は、3つのITAMを含むCD3ζである。これは、抗原結合後に活性化シグナルをT細胞に伝達する。CD3ζは、十分に能力がある活性化シグナルを供給しない場合があり、さらなる補助刺激シグナル伝達が必要とされる。例えば、増殖/生存シグナルを伝達するためにCD3ζと共にキメラCD28およびOX40が用いられてもよく、3つ全てが一緒に用いられてもよい。
【0103】
「第一世代」CARには、典型的に、内因性TCRに由来する一次シグナル伝達分子であるCD3ξ鎖に由来する細胞内ドメインがあった。「第二世代」CARでは、さらなるシグナルをT細胞を供給するために、様々な補助刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB、ICOS)に由来する細胞内シグナル伝達ドメインがCARの細胞質テールに加えられている。前臨床研究から、第二世代のCAR設計はT細胞の抗腫瘍活性を改善することが分かっている。最近になって、「第三世代」CARでは、効力をさらに増強するために複数のシグナル伝達ドメイン、例えば、CD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40が組み合わされている。
【0104】
キメラ抗原受容体を発現するT細胞の養子移入は有望な抗癌治療法である。なぜなら、CAR改変T細胞は、実質的に任意の腫瘍関連抗原を標的化するように操作できるからである。このアプローチは、患者に対して個別の癌療法を大いに改善する大きな可能性がある。患者のT細胞が収集された後に、患者の腫瘍細胞上にある抗原に特異的に向けられるCARを発現するように遺伝子操作され、次いで、患者に注入されて戻される。CAR改変T細胞の養子移入はユニークかつ有望な癌治療法であるが、重大な安全問題がある。この療法の臨床試験から、健常組織が腫瘍細胞と同じ標的抗原を発現する場合には、これらのCARには潜在的な毒性作用があり、そのため、アウトカムは移植片対宿主病(GVHD)に似ることが明らかになっている。この問題に対する潜在的な解決策は、自殺遺伝子を操作して改変T細胞に導入することである。このように、GVHDの間に自殺遺伝子を活性化するように設計されたプロドラッグを投与すると、自殺遺伝子によって活性化されたCAR T細胞ではアポトーシスが誘発される。この方法は造血幹細胞移植(HSCT)において安全かつ効果的に用いられてきた。CAR改変T細胞養子細胞移入の臨床用途への自殺遺伝子療法の採用には、抗腫瘍効力全体を改善しながらGVHDを軽減する可能性がある。
【0105】
2.ADC
抗体薬物結合体すなわちADCは、癌のある人を処置するための標的療法として設計された新しいクラスの非常に強力な生物製剤薬物である。ADCは、安定した化学リンカーを介して不安定結合によって、生物学的に活性な細胞毒性(抗癌性)ペイロードまたは薬物に連結された抗体(mAb全体または抗体断片、例えば、単鎖可変断片、またはscFv)で構成される複合分子である。抗体薬物結合体は生物結合体および免疫結合体の例である。
【0106】
モノクローナル抗体の固有の標的化能力を細胞毒性薬物の癌死滅能力と組み合わせることによって、抗体-薬物結合体は健常組織と疾患組織を高感度で区別することができる。このことは、従来の化学療法剤とは対照的に、健常細胞が癌細胞よりも弱く冒されるように、抗体-薬物結合体が癌細胞を標的化および攻撃することを意味する。
【0107】
開発ADCに基づく抗腫瘍療法では、抗癌薬(例えば、細胞毒素または細胞毒)は、ある特定の腫瘍マーカー(例えば、理想的には、腫瘍細胞の中にだけ、または腫瘍細胞上にだけ見出されるタンパク質、この場合はグリピカン2)を特異的に標的化する抗体にカップリングされる。抗体は、体内にある、これらのタンパク質を突き止め、癌細胞の表面に付着する。抗体と標的タンパク質(抗原)との間の生化学反応によって腫瘍細胞内にシグナルが誘発され、次いで、抗体は細胞毒と一緒に吸収または内部移行される。ADCが内部移行された後に、細胞毒性薬物が放出され、癌を死滅させる。この標的化により、理想的なことには、この薬物は他の化学療法剤よりも副作用が少なく、かつ広範囲の治療可能時間域をもたらす。
【0108】
抗体と細胞毒性(抗癌)剤との間の安定な連結はADCの重要な局面である。リンカーは、ジスルフィド、ヒドラゾン、もしくはペプチド(切断可能)、またはチオエーテル(切断不可能)を含む化学モチーフに基づいており、標的細胞への細胞毒性剤の分布および送達を制御する。切断可能なタイプのリンカーおよび切断不可能なタイプのリンカーは前臨床試験および臨床試験において安全なことが分かっている。ブレンツキシマブベドチン(brentuximab vedotin)は、合成抗悪性腫瘍剤である、強力な、かつ毒性が高い微小管阻害剤モノメチルアウリスタチンEすなわちMMAEをヒト特異的CD30陽性悪性細胞に送達する酵素感受性の切断可能なリンカーを含む。この高毒性のために、チューブリン重合をブロックすることによって細胞分裂を阻害するMMAEは単一薬剤化学療法剤として使用することができない。しかしながら、抗CD30モノクローナル抗体(cAC10、腫瘍壊死因子またはTNF受容体の細胞膜タンパク質)に連結されたMMAEの組み合わせは細胞外液体中で安定しており、カテプシンによって切断することができ、療法にとって安全なことが分かった。他の認可されたADCであるトラスツズマブエムタンシンは、安定している切断不可能なリンカーによって取り付けられた、マイタンシンの誘導体である微小管形成阻害剤メルタンシン(DM-1)と抗体トラスツズマブ(Herceptin(登録商標)/Genentech/Roche)の組み合わせである。
【0109】
もっと良く、もっと安定なリンカーが利用できるようになったために化学結合の機能が変わった。切断可能なタイプのリンカーまたは切断不可能なタイプのリンカーは特定の特性を細胞毒性(抗癌)薬物に与える。例えば、切断不可能なリンカーは薬物を細胞内に保つ。結果として、抗体全体とリンカーと細胞毒性(抗癌)剤は標的癌細胞に入り、標的癌細胞において抗体はアミノ酸のレベルまで分解される。その場合には、結果として生じた複合体であるアミノ酸とリンカーと細胞毒性剤は活性薬物になっている。対照的に、切断可能なリンカーは癌細胞内にある酵素によって触媒され、癌細胞内で細胞毒性剤を放出する。この違いは、切断可能なリンカーを介して送達される細胞毒性ペイロードが標的細胞から逃れることができ、「バイスタンダー死滅(bystander killing)」と呼ばれるプロセスにおいて、隣接する癌細胞を攻撃できることである。
【0110】
現在開発されている別のタイプの切断可能なリンカーは細胞毒性薬物と切断部位との間に余分な分子を加える。このリンカー技術を用いると、研究者らは、切断キネティクスを変える心配をすることなく、もっと大きな可動性をもつADCを作り出すことが可能になる。研究者らはまた、ペプチドのアミノ酸を配列決定する方法であるエドマン分解に基づく新しいペプチド切断方法も開発している。ADC開発における将来の方向には、安定性および治療指数をさらに改善するための部位特異的結合化(TDC)の開発ならびにα放射免疫結合体および抗体結合ナノ粒子も含まれる。
【0111】
3.BitE
二重特異性T細胞エンゲージャー(Bi-specific T-cell engager)(BiTE)は、抗癌薬物として使用するために研究されている人工二重特異性モノクローナル抗体の一種である。それらは宿主の免疫系を、具体的にはT細胞の細胞毒性活性を癌細胞に向ける。BiTEはMicromet AGの登録商標である。
【0112】
BiTEは、約55キロダルトンの1本のペプチド鎖上にある、異なる抗体の2つの単鎖可変断片(scFv)、または4つの異なる遺伝子に由来するアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。scFvの一方はCD3受容体を介してT細胞に結合し、他方は腫瘍特異的分子、この場合はグリピカン2を介して腫瘍細胞に結合する。
【0113】
他の二重特異性抗体と同様に、かつ通常のモノクローナル抗体とは異なり、BiTEはT細胞と腫瘍細胞との間に連結を形成する。これにより、MHC Iまたは補助刺激分子の存在とは無関係に、T細胞は、タンパク質に似たパーフォリンおよびグランザイムを産生することによって細胞毒性活性を腫瘍細胞に及ぼす。これらのタンパク質は腫瘍細胞に入り、細胞のアポトーシスを開始する。この働きは、T細胞が腫瘍細胞を攻撃している間に観察される生理学的プロセスによく似ている。
【0114】
2010年7月の時点で臨床試験中であったBiTEには、B細胞上で発現している表面分子であるCD19に対して作られた、非ホジキンリンパ腫および急性リンパ芽球性白血病を処置するためのブリナツモマブ(MT103)、ならびにEpCAM抗原に対して作られた、胃腸癌および肺癌を処置するためのMT110が含まれる。
【0115】
同じ技術を利用して、メラノーマ(MCSP特異的BiTEを用いる)および急性骨髄性白血病(CD33特異的BiTEを用いる)を標的化することができる。この分野における研究は現在進行中である。新規の抗癌療法のための別の手段は、BiTEアプローチを用いて、トラスツズマブ(HER2/neuを標的とする)、セツキシマブおよびパニツムマブ(両方ともEGF受容体を標的とする)のような現在用いられている従来の抗体の一部を再設計することである。CD66eおよびEphA2に対するBiTEも開発中である。
【0116】
III.薬学的製剤および癌の処置
A.癌
癌は、組織に由来する細胞のクローン集団が増殖した結果生じる。発癌と呼ばれる癌の発症は多くのやり方でモデル化し、特徴付けることができる。癌発症と炎症との間には関連性があることが長く認められている。炎症応答は微生物感染に対する宿主防御に関与し、組織の修復および再生の原動力ともなる。かなり多くの証拠から、炎症と癌発症リスクとの間に関係があることが、すなわち、慢性炎症が異形成の原因となり得ることが指摘されている。
【0117】
本開示の方法を適用することができる癌細胞には、一般的に、グリピカン2を発現する任意の細胞、さらに詳細には、グリピカン2を過剰発現する任意の細胞が含まれる。本開示に従って処置され得る癌細胞には、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽腔、頸部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、膵臓、精巣、舌、子宮頸部、または子宮に由来する細胞が含まれるが、これに限定されない。さらに、癌は、具体的には、以下の組織学的タイプの癌:新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨細胞および紡錘体細胞の癌腫;小細胞癌;乳頭状癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;石灰化上皮腫(pilomatrix carcinoma);移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管癌;肝細胞癌;混合型肝細胞癌および胆管癌;小柱腺癌(trabecular adenocarcinoma);腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープ内腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;色素嫌性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基球癌腫;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭状腺癌および濾胞腺癌;非被包性硬化性癌(nonencapsulating sclerosing carcinoma);副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢胞腺癌;乳頭状漿液嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性導管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳房;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;腺癌w/扁平上皮化生;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞腫;ライディッヒ細胞腫、悪性;脂質細胞腫瘍(lipid cell tumor)、悪性;パラガングリオーマ、悪性;乳房外パラガングリオーマ(extra-mammary paraganglioma)、悪性;クロム親和細胞腫;血管球血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑中の悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣型横紋筋肉腫;間質性肉腫;混合腫瘍、悪性;ミューラー混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚細胞腫;胚性癌腫;テラトーマ、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管周囲細胞腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル芽細胞歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;神経膠腫、悪性;上衣腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星状芽細胞腫;グリア芽細胞腫;乏突起神経膠腫;乏突起神経膠芽細胞腫;未分化神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅神経腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫瘍、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、びまん性大細胞性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;明記された他の非ホジキンリンパ腫;悪性組織球症;多発性骨髄腫;マスト細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;プラズマ細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞性白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;マスト細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄肉腫;および毛様細胞性白血病でもよいが、これらに限定されない。ある特定の局面において、腫瘍は、骨肉腫、血管肉腫、横紋肉腫、平滑筋肉腫、ユーイング肉腫、グリア芽細胞腫、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、または白血病を含んでもよい。
【0118】
さらに、本開示の方法は、広範囲の種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスに適用することができる。癌はまた再発性、転移性、および/または多剤耐性でもよい。本開示の方法は、特に、このような癌を切除可能にするために、寛解を延長もしくは再誘導するために、血管形成を阻害するために、転移を阻止もしくは制限するために、および/または多剤耐性癌を処置するために、このような癌に適用されてもよい。細胞レベルでは、これは、癌細胞の死滅、癌細胞増殖の阻害、そうでなければ腫瘍細胞の悪性表現型の逆転もしくは低減という結果になる場合がある。
【0119】
B.製剤および投与
本開示は、抗グリピカン2抗体を含む薬学的組成物を提供する。特定の態様において、「薬学的に許容される」という用語は、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているか、または米国薬局方、もしくは動物において使用するための、さらに詳細には、ヒトにおいて使用するための、一般に認められている他の薬局方に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、治療剤と共に投与される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。このような薬学的担体は、石油、動物、野菜、または合成に由来するもの、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などを含む、滅菌した液体、例えば、水および油でもよい。他の適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、食塩水、デキストロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが含まれる。
【0120】
前記組成物は中性または塩の形で処方されてもよい。薬学的に許容される塩には、陰イオンを用いて形成された塩、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する塩、および陽イオンを用いて形成された塩、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来する塩が含まれる。
【0121】
本開示の抗体は古典的な薬学的調製物を含んでもよい。本開示に従うこれらの組成物の投与は、標的組織が任意の一般的な経路を介して利用可能である限り、この経路を介して行われる。この経路には、経口経路、経鼻経路、頬経路、直腸経路、腟経路、または局部経路が含まれる。または、投与は、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、または静脈内注射によるものでもよい。このような組成物は、通常、前記で述べた薬学的に許容される組成物として投与されるだろう。腫瘍内に投与すること、腫瘍に灌流すること、または腫瘍に局所投与もしくは局部投与すること、例えば、局所もしくは局部の脈管構造もしくはリンパ系、または切除された腫瘍母地(tumor bed)に投与することが特に関心が高い。
【0122】
活性化合物はまた非経口投与されてもよく、腹腔内投与されてもよい。遊離塩基または薬理学的に許容される塩である活性化合物の溶液は、界面活性剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースと適切に混合した水に溶解して調製することができる。分散液も、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびその混合物に溶解して、ならびに油に溶解して調製することができる。保管および使用の通常の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含有する。
【0123】
C.併用療法
本開示の文脈において、本明細書に記載の抗グリピカン2抗体は、化学療法介入もしくは放射線療法介入または他の処置と一緒に同様に使用できることも意図される。特に、抗グリピカン2抗体を、グリピカン2機能の異なる局面を標的とする他の療法と組み合わせることも有効だと分かる場合がある。
【0124】
本開示の方法および組成物を用いて、細胞を死滅させる、細胞増殖を阻害する、転移を阻害する、血管形成を阻害する、そうでなければ腫瘍細胞の悪性表現型を逆転させる、もしくは低減するためには、一般的に、「標的」細胞と、本開示に従う抗グリピカン2抗体および少なくとも1種類の他の薬剤が接触されるだろう。これらの組成物は、細胞を死滅させるのに有効な、または細胞の増殖を阻害するのに有効な組み合わされた量で提供されるだろう。このプロセスは、細胞を、本開示に従う抗グリピカン2抗体および他の薬剤または因子と同時に接触させる工程を伴う場合がある。これは、細胞を、両薬剤を含む1種類の組成物または薬理学的製剤と接触させることによって達成されてもよく、細胞を、一方の組成物が本開示に従う抗グリピカン2抗体を含み、他方の組成物が他の薬剤を含む2つの別個の組成物または製剤と同時に接触させることによって達成されてもよい。
【0125】
または、抗グリピカン2抗体療法は、数分から数週間の間隔をあけて他の薬剤処置の前になってもよく、他の薬剤処置の後になってもよい。他の薬剤および抗グリピカン2抗体が細胞に別々に適用される態様では、薬剤および発現構築物が、細胞に対して有利に組み合わされた効果を依然として発揮できるように、一般的には、有効な期間がそれぞれの送達の間に終わらないようにするだろう。このような場合、細胞を両モダリティーと接触させるのは、どちらかのモダリティーを投与して約12~24時間以内に、より好ましくは、どちらかのモダリティーを投与して約6~12時間以内に行うことが意図され、約12時間しか時間が遅れずに行うことが最も好ましい。状況によっては、処置のための期間を大幅に延ばすことが望ましいこともある。しかしながら、それぞれの投与の間の期間は、数日(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)~数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、または8週間)である。
【0126】
抗グリピカン2抗体または他の薬剤のいずれかを複数回投与することが望ましいことも考えられる。以下に例示したように、様々な組み合わせを使用することができる。式中、本開示に従う抗グリピカン2抗体の療法は「A」であり、他の療法は「B」である。
【0127】
他の組み合わせも意図される。これもまた、細胞を死滅させるために、両薬剤とも、細胞を死滅させるのに有効な組み合わされた量で細胞に送達される。癌療法に適した薬剤または因子には、細胞に適用された場合に損傷を誘導する任意の化合物または処置方法が含まれる。このような薬剤および因子には、DNA損傷を誘導する放射線および波動、例えば、放射線照射、マイクロ波、電子発光などが含まれる。「化学療法剤」または「遺伝毒性薬剤」とも述べられる様々な化合物が用いられることがある。これは、局所腫瘍部位に放射線を照射することによって成し遂げられてもよい。または、腫瘍細胞は、治療的有効量の薬学的組成物を対象に投与することによって薬剤と接触されてもよい。併用療法はまた外科手術も含んでもよい。これらの療法の様々なやり方を下記で議論する。
【0128】
1.化学療法
「化学療法」という用語は、癌を処置するための薬物の使用を指す。「化学療法剤」は、癌の処置において投与される化合物または組成物を暗示するために用いられる。これらの薬剤または薬物は、細胞内での活性機序、例えば、細胞周期に影響を及ぼすかどうか、またはどの段階で細胞周期に影響を及ぼすのかによって分類される。または、DNAを直接架橋する能力、DNAの中に挿入される能力、または核酸合成に影響を及ぼすことによって染色体異常および有糸分裂異常を誘導する能力に基づいて薬剤が特徴付けられることがある。ほとんどの化学療法剤は、以下のカテゴリー:アルキル化剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍性抗生物質、有糸分裂阻害剤、およびニトロソ尿素に分類される。
【0129】
化学療法剤の例には、アルキル化剤、例えば、チオテパおよシクロスホスファミド;アルキルスルホナート、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa);アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamime)を含む、エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone));カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)、およびビセレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体KW-2189およびCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード、例えば、クロランブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、特に、カリチアマイシンγ1IおよびカリチアマイシンωI1;ディネミシン(dynemicin)Aを含むディネミシン;ウンシアラマイシン(uncialamycin)およびその誘導体;ビスホスホネート、例えば、クロドロネート;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ユベニメックス、ジノスタチン、またはゾルビシン;代謝拮抗物質、例えば、メトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充剤、例えば、フォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エポシロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン;マイタンシノイド、例えば、マイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocin);ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリニック酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン(sizofiran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)A、およびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル;クロランブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金配位錯体、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸;カペシタビン;シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロランブシル、ブスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン(plicomycin)、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビエン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびメトトレキセート、ならびに前記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が含まれる。
【0130】
2.放射線療法
放射線療法は放射線治療とも呼ばれ、電離放射線を用いた癌および他の疾患の処置である。電離放射線は、細胞を損傷または破壊するエネルギーを、細胞の遺伝物質を傷つけることで処置されている領域に蓄積し、そのために、これらの細胞は増殖し続けることができなくなる。放射線は癌細胞および正常細胞をどちらも傷つけるが、後者はひとりでに修復し、正しく機能することができる。
【0131】
本開示に従って用いられる放射線治療には、γ線、X線の使用、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の有向性の送達が含まれ得るが、これに限定されない。マイクロ波およびUV放射などの他の種類のDNA損傷因子も意図される。これらの因子の全てがDNA、DNA前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の構築および維持に対して広範囲の損傷を誘導するのは、ほぼ間違いない。X線の放射線量範囲は、長期間の場合(3~4週間)、50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単回線量まで及ぶ。放射性同位体の放射線量範囲は様々であり、同位体の半減期、放出される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取り込みに左右される。
【0132】
放射線療法は、ある線量の放射線を癌部位に直接送達するために放射標識抗体を使用することを含むことがある(放射免疫療法)。抗体は、抗原(免疫系が異物と認識する物質)の存在に応答して身体が作る高度に特異的なタンパク質である。腫瘍細胞の中には、腫瘍特異的抗体の産生を誘発する特異的抗原を含有するものもある。多量のこれらの抗体を実験室で作製し、放射性物質に取り付けることができる(放射標識(radiolabeling)として知られるプロセス)。体内に注射されたら、抗体は癌細胞を活発に探し出し、癌細胞は放射線の細胞死滅(細胞毒性)作用によって破壊される。このアプローチを用いると、健常細胞に対する放射線損傷のリスクを最小限にすることができる。
【0133】
原体照射法では、通常の放射線療法処置と同じ放射線療法装置である直線加速器を使用するが、癌の形と一致するようにx線ビームの形を変えるために、x線ビームの通り道に金属ブロックが配置される。これにより、確実に、腫瘍に高い放射線線量が与えられるようになる。健常な周囲の細胞および近くの構造には低線量の放射線が与えられ、そのため、副作用の可能性は小さくなる。多葉コリメータ(multi-leaf collimator)と呼ばれる装置が開発されており、金属ブロックに代わるものとして用いられることがある。多葉コリメータは、直線加速器に固定された多数の金属シートからなる。金属ブロックを必要とせずに、放射線療法ビームが処置領域とぴったりと合うように各層を調整することができる。放射線療法装置の正確な位置決めは原体照射法処置に非常に重要であり、各処置の開始時に、内部臓器の位置をチェックするために特殊なスキャニング装置が用いられる場合がある。
【0134】
高解像度強度変調放射線療法(high-resolution intensity modulated radiotherapy)も多葉コリメータを使用する。この処置の間、処置がなされながら多葉コリメータの層が動かされる。この方法は処置ビームをもっと正確に合わせ、放射線療法の線量が処置領域全体にわたって一定になるのを可能にする可能性が高い。
【0135】
調査研究から、原体照射法および強度変調放射線療法によって放射線療法処置の副作用が少なくなる可能性があることが分かっているが、処置領域をかなり正確に合わせることで、処置領域のすぐ外側にある微少な癌細胞が破壊されなくなる可能性がある。このことは、これらの特殊な放射線療法技法を用いると癌が将来再発するリスクが高くなり得ることを意味する。
【0136】
科学者らはまた、放射線治療の有効性を高める手法も探し求めている。2つのタイプの治験薬が、放射線を受けている細胞に対して効果があるかどうか研究されている。放射線増感剤は、腫瘍細胞が損傷を受ける可能性を高くし、放射線防護剤は放射線の影響から正常組織を保護する。熱の使用である温熱療法もまた、放射線に対する組織の感受性の増加において有効かどうか研究されている。
【0137】
3.免疫療法
癌処置の文脈において、免疫療法は、一般的に、癌細胞を標的化および破壊するために免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子の使用に頼る。このような例はトラスツズマブ(ハーセプチン(商標))である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面にある、何らかのマーカーに特異的な抗体でもよい。抗体が単独で療法のエフェクターとして働いてもよく、実際に細胞死滅に影響を及ぼす他の細胞を動員してもよい。抗体はまた薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合され、単に標的化薬剤として働いてもよい。または、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を運ぶリンパ球でもよい。様々なエフェクター細胞には細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。治療モダリティーの組み合わせ、すなわち、直接的な細胞毒性活性と、ErbB2の阻害または低減を用いると、ErbB2過剰発現癌の処置において治療利益が得られるだろう。
【0138】
免疫療法の一局面において、腫瘍細胞は、標的化の対象となる、すなわち、他の細胞の大多数には存在しない何らかのマーカーを有するはずである。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのうちどれも、本開示の状況において標的化するのに適している可能性がある。よくある腫瘍マーカーには、癌胎児抗原、前立腺特異的抗原、尿中腫瘍関連抗原(urinary tumor associated antigen)、胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erb B、およびp155が含まれる。免疫療法の別の局面は、抗癌作用と免疫刺激作用との組み合わせである。サイトカイン、例えば、IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFN、ケモカイン、例えば、MIP-1、MCP-1、IL-8、および増殖因子、例えば、FLT3リガンドを含む免疫刺激分子も存在する。タンパク質としての免疫刺激分子または遺伝子送達を用いた免疫刺激分子と腫瘍抑制因子との併用は抗腫瘍効果を増強することが示されている(Ju et al., 2000)。さらに、本明細書において議論される抗癌剤を標的化するために、これらの化合物のいずれかに対する抗体が用いられてもよい。
【0139】
現在研究されているか、または使用されている免疫療法の例は、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号; Hui and Hashimoto, 1998; Christodoulides et al., 1998)、サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、β、およびγ;IL-1、GM-CSF、およびTNF(Bukowski et al., 1998; Davidson et al., 1998; Hellstrand et al., 1998)、遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2、p53(Qin et al., 1998; Austin-Ward and Villaseca, 1998; 米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号)、ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗ガングリオシドGM2、抗HER-2、抗p185(Pietras et al., 1998; Hanibuchi et al., 1998;米国特許第5,824,311号)である。1つまたは複数の抗癌療法が本明細書に記載の遺伝子サイレンシング療法と併用され得ることが意図される。
【0140】
能動免疫療法では、抗原性のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質、または自己由来もしくは同種異系の腫瘍細胞組成物、すなわち「ワクチン」が、一般的に、別個の細菌アジュバントと共に投与される(Ravindranath and Morton, 1991; Morton et al., 1992; Mitchell et al., 1990; Mitchell et al., 1993)。
【0141】
養子免疫治療では、患者の循環リンパ球または腫瘍浸潤リンパ球がインビトロで単離され、IL-2などのリンホカインによって活性化されるか、または腫瘍壊死のための遺伝子が導入され、再投与される(Rosenberg et al., 1988; 1989)。
【0142】
4.外科手術
癌がある人のうち約60%が何らかのタイプの外科手術を受ける。外科手術には、予防手術、診断または病期決定のための手術、根治手術、および緩和手術が含まれる。根治手術は、本開示の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替療法などの他の療法と共に用いられ得る癌処置である。
【0143】
根治手術は、癌組織の全てまたは一部が物理的に除去、摘出、および/または破壊される切除を含む。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的な除去を指す。腫瘍切除の他に、外科手術による処置には、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡により管理された手術(モース術)が含まれる。さらに、本開示は、表在型の癌、前癌、または偶発的な量の正常組織の除去と共に用いられ得ることが意図される。
【0144】
癌細胞、癌組織、または腫瘍の一部または全てを摘出する際に体内に空洞が形成されることがある。処置は、この場所に、さらなる抗癌療法を灌流するか、直接注射するか、または局所適用することによって達成される場合がある。このような処置は、例えば、1日ごとに、2日ごとに、3日ごとに、4日ごとに、5日ごとに、6日ごとに、もしくは7日ごとに、または1週間ごとに、2週間ごとに、3週間ごとに、4週間ごとに、および5週間ごとに、または1ヶ月ごとに、2ヶ月ごとに、3ヶ月ごとに、4ヶ月ごとに、5ヶ月ごとに、6ヶ月ごとに、7ヶ月ごとに、8ヶ月ごとに、9ヶ月ごとに、10ヶ月ごとに、11ヶ月ごとに、もしくは12ヶ月ごとに繰り返されてもよい。これらの処置はまた、投与量が異なる処置でもよい。
【0145】
一部の特定の態様において、腫瘍が除去された後に腫瘍の再発を低減するのに、本開示の化合物を用いたアジュバント処置が特に有効だと考えられる。さらに、本開示の化合物はまたネオアジュバントの場で使用することもできる。
【0146】
癌処置において前述の療法はいずれも単独で有用と分かる場合があることも指摘されるはずである。当業者は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版,第33章、特に、624~652頁に向けられる。処置されている対象の状態に応じて、投与量にある程度のばらつきが必ず生じる。投与を担っている人は、何が起きても、対象一人一人に適した用量を決定する。さらに、ヒトへの投与の場合、調製物は、FDAの生物製剤部(Office of Biologics)の基準に求められるように無菌性、発熱性、一般安全性、および純度の基準を満たさなければならない。
【0147】
IV.抗体結合体
抗体は少なくとも1種類の薬剤に連結されて抗体結合体を形成してもよい。診断剤または治療剤として抗体分子の効力を高めるために、少なくとも1つの望ましい分子または部分を連結または共有結合または複合体化することは従来のやり方である。このような分子または部分は少なくとも1つのエフェクターまたはレポーター分子でもよいが、これに限定されない。エフェクター分子は、望ましい活性、例えば、抗癌/一般細胞毒性を有する分子を含む。このような分子の非限定的な例を上記で示した。このような分子は、任意で、このような分子が標的部位で、または標的部位の近くで放出されるように設計された切断可能なリンカーを介して取り付けられる。
【0148】
対照的に、レポーター分子は、アッセイを用いて検出され得る任意の部分と定義される。抗体と結合されたことのあるレポーター分子の非限定的な例には、酵素、放射標識、ハプテン、蛍光標識、リン光分子、化学発光分子、発色団、光親和性分子、着色した粒子またはリガンド、例えば、ビオチンが含まれる。
【0149】
抗体結合体は、一般的に、診断剤として使用するのに好ましい。抗体診断剤は、一般的に、2つのクラス、様々なイムノアッセイなどインビトロ診断において使用するための抗体診断剤と、「抗体特異的画像化(antibody-directed imaging)」として一般に知られるインビボ診断プロトコールにおいて使用するための抗体診断剤に分類される。多くの適切な画像化薬剤が当技術分野において公知であり、同様に、画像化薬剤を抗体に取り付けるための方法も当技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,021,236号、同第4,938,948号、および同第4,472,509号を参照されたい)。使用される画像化部分は、常磁性イオン、放射性同位体、蛍光色素、NMRによって検出可能な物質、およびX線画像化薬剤の場合がある。
【0150】
常磁性イオンの場合、一例として、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、および/またはエルビウム(III)などのイオンが言及される場合があり、ガドリニウムが特に好ましい。X線画像化などの他の状況において有用なイオンには、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、特に、ビスマス(III)が含まれるが、これに限定されない。
【0151】
治療用途および/または診断用途のための放射性同位体の場合、アスタチン211、14炭素、51クロム、36塩素、57コバルト、58コバルト、銅67、152Eu、ガリウム67、3水素、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、59鉄、32リン、レニウム186、レニウム188、75セレン、35硫黄、テクネチウム99m、および/またはイットリウム90が言及される場合がある。ある特定の態様において使用するのに125Iが好ましいことが多いが、テクネチウム99mおよび/またはインジウム111もまた、エネルギーが小さく、長距離検出に適しているために好ましいことが多い。放射活性標識されたモノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法に従って作製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムおよび/またはヨウ化カリウム、ならびに化学的酸化剤、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、または酵素的酸化剤、例えば、ラクトペルオキシダーゼと接触させることによってヨウ素化することができる。モノクローナル抗体は、リガンド交換プロセスによって、例えば、ペルテクナート(pertechnate)をスズ溶液を用いて還元し、還元されたテクネチウムをSephadexカラムでキレート化し、このカラムに抗体を適用することによってテクネチウム99mで標識されてもよい。または、例えば、ペルテクナート、還元剤、例えば、SNCl2、緩衝溶液、例えば、フタル酸ナトリウム-カリウム溶液、および抗体をインキュベートすることによって直接標識する技法が用いられる場合がある。放射性同位体を抗体に結合するために中間官能基が用いられることが多く、金属イオンがジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)であるので存在する。
【0152】
結合体としての使用について考えられる蛍光標識の中には、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、カスケードブルー、Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー(Pacific Blue)、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン(Renographin)、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはテキサスレッドが含まれる。
【0153】
考えられる別のタイプの抗体結合体は、主にインビトロで使用することが意図される抗体結合体である。この場合、抗体は、二次結合リガンド、および/または発色基質と接触すると色のついた生成物を生じる酵素(酵素タグ)に連結される。適切な酵素の例には、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビ)ハイドロゲンペルオキシダーゼ(hydrogen peroxidase)、またはグルコースオキシダーゼが含まれる。好ましい二次結合リガンドはビオチンおよびアビジンおよびストレプトアビジン化合物である。このような標識の使用は当業者に周知であり、例えば、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号、および同第4,366,241号に記載されている。
【0154】
分子を抗体に部位特異的に取り付ける、さらに別の公知の方法は、抗体を、ハプテンに基づく親和性標識と反応させることを含む。本質的に、ハプテンに基づく親和性標識は抗原結合部位にあるアミノ酸と反応し、それによって、この部位を破壊し、特異的な抗原反応をブロックする。しかしながら、このことは、抗体結合体による抗原結合の消失の原因となるので有利でない場合がある。
【0155】
アジド基を含有する分子もまた、低強度紫外線によって生じた反応性ニトレン中間体を介してタンパク質との共有結合を形成するために用いられる場合がある(Potter and Haley,1983)。特に、細胞粗抽出物中のヌクレオチド結合タンパク質を特定するための部位特異的フォトプローブ(photoprobe)として、プリンヌクレオチドの2-アジド類似体および8-アジド類似体が用いられている(Owens & Haley, 1987; Atherton et al., 1985)。2-アジドヌクレオチドおよび8-アジドヌクレオチドはまた精製タンパク質のヌクレオチド結合ドメインをマッピングするのにも用いられており(Khatoon et al., 1989; King et al., 1989; Dholakia et al., 1989)、抗体結合剤として用いられる可能性がある。
【0156】
抗体をその結合体部分に取り付けるか、または結合するための、いくつかの方法が当技術分野において公知である。取り付け方法の中には、例えば、抗体に取り付けられた有機キレート剤、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA);エチレントリアミン四酢酸;N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド;および/またはテトラクロロ-3α-6α-ジフェニルグリコウリル(diphenylglycouril)-3を用いた金属キレート錯体の使用を伴うものもある(米国特許第4,472,509号および同第4,938,948号)。モノクローナル抗体はまた、グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩などのカップリング剤の存在下で酵素と反応されることがある。フルオレセインマーカーとの結合体は、これらのカップリング剤の存在下で、またはイソチオシアネートとの反応によって調製される。米国特許第4,938,948号では、乳腺腫瘍の画像化がモノクローナル抗体を用いて成し遂げられ、検出可能な画像化部分は、メチル-p-ヒドロキシベンズイミダートまたはN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートなどのリンカーを用いて抗体に結合される。
【0157】
他の態様において、抗体結合部位を変えない反応条件を用いて免疫グロブリンのFc領域にスルフヒドリル基を選択的に導入することによって免疫グロブリンが誘導体化されることが意図される。この方法に従って作製された抗体結合体は、改善した寿命、特異性、および感度を示すことが開示される(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,196,066号)。レポーターまたはエフェクター分子がFc領域にある炭水化物残基に結合される、エフェクターまたはレポーター分子の部位特異的な取り付けも文献に開示されている(O'Shannessy et al., 1987)。このアプローチは、現在、臨床評価されている、診断および治療に有望な抗体を生じると報告されている。
【0158】
V.免疫検出方法
なおさらなる態様において、グリピカン2を結合する、精製する、除去する、定量する、そうでなければおおまかに検出するための免疫検出方法がある。一部の免疫検出方法には、いくつか述べると、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫放射線測定法、フルオロイムノアッセイ(fluoroimmunoassay)、化学発光アッセイ、生物発光アッセイ、およびウエスタンブロットが含まれる。特に、グリピカン2抗体を検出および定量するための競合アッセイも提供される。様々な有用な免疫検出方法の工程は、例えば、Doolittle and Ben-Zeev(1999)、Gulbis and Galand(1993)、De Jager et al(1993)、および Nakamura et al(1987)などの科学文献に記載されている。一般的に、前記の免疫結合方法は、試料を得る工程と、本明細書において議論される態様に従って試料を第1の抗体と、場合によっては免疫複合体を形成するのに有効な条件下で接触させる工程を含む。
【0159】
免疫複合体(一次免疫複合体)を形成するのに有効な条件下で、かつ免疫複合体(一次免疫複合体)を形成するのに十分な期間にわたって、選択された生物学的試料を抗体と接触させる工程は、一般的に、単に抗体組成物を試料に添加し、抗体が免疫複合体を形成するのに、すなわち、試料に存在するグリピカン2に結合するのに十分に長い期間にわたって混合物をインキュベートする事項である。この時間の後に、試料-抗体組成物、例えば、組織切片、ELISAプレート、ドットブロット、またはウエスタンブロットは、一般的に、非特異的に結合した抗体種を除去するために洗浄され、これにより、これらの抗体だけが、検出しようとする一次免疫複合体の中で特異的に結合できるようになる。
【0160】
一般的に、免疫複合体形成の検出は当技術分野において周知であり、非常に多くのアプローチを適用することによって成し遂げられる可能性がある。これらの方法は、一般的に、標識またはマーカー、例えば、放射性タグ、蛍光タグ、生物学的タグ、および酵素タグのいずれかの検出に基づいている。このような標識の使用に関する特許には、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号、および同第4,366,241号が含まれる。もちろん、当技術分野において公知なように、二次結合リガンド、例えば、第2の抗体および/またはビオチン/アビジンリガンド結合配列を用いることによって、さらなる利点が見出される可能性がある。
【0161】
検出において用いられる抗体そのものが、検出可能な標識に連結されてもよい。次いで、この標識が簡単に検出され、それによって、組成物中の一次免疫複合体の量を求めることが可能になる。または、一次免疫複合体の中で結合している第1の抗体は、該抗体に対して結合親和性を有する第2の結合リガンドによって検出されてもよい。これらの場合、第2の結合リガンドは検出可能な標識に連結されてもよい。第2の結合リガンドそのものが抗体であることが多く、従って、この抗体は「二次」抗体と呼ばれることがある。一次免疫複合体は、二次免疫複合体を形成するのに有効な条件下で、かつ二次免疫複合体を形成するのに十分な期間にわたって、標識された二次結合リガンドまたは抗体と接触される。次いで、二次免疫複合体は、一般的に、非特異的に結合した、標識された二次抗体またはリガンドを除去するために洗浄され、次いで、二次免疫複合体の中にある、残っている標識が検出される。
【0162】
さらなる方法は2段階アプローチによって一次免疫複合体を検出することを含む。第2の結合リガンド、例えば、該抗体に対して結合親和性を有する抗体が、前記のように二次免疫複合体を形成するのに用いられる。洗浄後に、二次免疫複合体は、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の結合リガンドまたは抗体と、これも、免疫複合体(三次免疫複合体)を形成するのに有効な条件下で、かつ免疫複合体(三次免疫複合体)を形成するのに十分な期間にわたって接触される。第3のリガンドまたは抗体は検出可能な標識と連結され、これにより、このように形成された三次免疫複合体が検出される。このことが望ましければ、このシステムはシグナルを増幅する可能性がある。
【0163】
免疫検出方法の1つでは、2つの異なる抗体が用いられる。第1のビオチン化抗体は標的抗原を検出するのに用いられ、次いで、第2の抗体は、複合体化ビオチンに取り付けられているビオチンを検出するのに用いられる。この方法では、最初に、試験しようとする試料が、第1の工程の抗体を含有する溶液中でインキュベートされる。標的抗原が存在すれば、抗体の一部は抗原に結合して、ビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。次いで、抗体/抗原複合体は、ストレプトアビジン(またはアビジン)、ビオチン化DNA、および/または相補的ビオチン化DNAの連続溶液中でインキュベートすることによって増幅され、各工程は、さらなるビオチン部位を抗体/抗原複合体に加える。増幅工程は、適切な増幅レベルに達するまで繰り返される。この時に、試料は、ビオチンに対する第2の工程の抗体を含有する溶液中でインキュベートされる。この第2の工程の抗体は、例えば、発色基質を用いた組織酵素学によって抗体/抗原複合体の存在下で検出するのに使用することができる酵素のように標識されている。適切な増幅があれば、巨視的に見える結合体が生じる。
【0164】
別の公知の免疫検出方法では免疫-PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を利用する。PCR法はビオチン化DNAとのインキュベーションまではキャントー(Cantor)法と似ているが、複数回のストレプトアビジンとビオチン化DNAのインキュベーションが用いられるのではなく、DNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体は、抗体を放出する低pH緩衝液または高塩緩衝液を用いて洗い流される。次いで、結果として生じた洗浄溶液を用いて、適切なプライマーと適切な対照を用いたPCR反応が行われる。少なくとも理論上では、PCRの膨大な増幅能力と特異性を利用して1種類の抗原分子を検出することができる。
【0165】
A.ELISA
イムノアッセイは最も簡単な意味では結合アッセイである。ある特定の好ましいイムノアッセイは、当技術分野において公知の様々なタイプの酵素結合免疫測定法(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を用いた免疫組織化学的検出も特に有用である。しかしながら、検出は、このような技法に限定されず、ウェスタンブロッティング、ドットブロッディング、FACS分析なども用いられてもよいことが容易に理解される。
【0166】
ある例示的なELISAでは、本開示の抗体は、タンパク質親和性を示す、選択された表面、例えば、ポリスチレンマイクロタイタープレートにあるウェルに固定化される。次いで、グリピカン2を含有しているのではないかと疑われる試験組成物がウェルに添加される。結合と、非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後に、結合している抗原が検出される可能性がある。検出は、検出可能な標識に連結されている別の抗グリピカン2抗体を添加することによって成し遂げられてもよい。このタイプのELISAは単純な「サンドイッチELISA」である。検出はまた、第2の抗グリピカン2抗体を添加し、その後に、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体を添加することによって成し遂げられてもよく、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0167】
別の例示的なELISAでは、グリピカン2抗原を含有しているのではないかと疑われる試料はウェル表面に固定化され、次いで、抗グリピカン2抗体と接触される。結合と、非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後に、結合している抗グリピカン2抗体が検出される。最初の抗グリピカン2抗体が検出可能な標識に連結されている場合、免疫複合体は直接検出される可能性がある。これもまた、免疫複合体は、第1の抗グリピカン2抗体に対して結合親和性を有する第2の抗体を用いて検出されてもよく、第2の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0168】
使用した形式に関係なく、ELISAには、共通する、ある特定の特徴、例えば、コーティング、インキュベーションおよび結合、非特異的に結合した種を除去するための洗浄、ならびに結合している免疫複合体の検出がある。これらを下記で説明する。
【0169】
プレートを抗原または抗体でコーティングする際には、一般的に、プレートのウェルを、抗原または抗体の溶液と一晩または指定された時間にわたってインキュベートする。次いで、プレートのウェルを、不完全に吸着された材料を除去するために洗浄する。次いで、残っている利用可能なウェル表面を、試験抗血清に関して抗原的に中立な非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉乳溶液が含まれる。コーティングすると、固定化表面にある非特異的吸着部位がブロックされ、従って、表面にある抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドが減る。
【0170】
ELISAでは、直接的な手順ではなく二次検出手段または三次検出手段を使用することは、おそらく普通のことである。従って、タンパク質または抗体がウェルに結合し、バックグラウンドを減らすために非反応性材料でコーティングされ、結合しなかった材料を除去するために洗浄された後に、固定化表面は、免疫複合体(抗原/抗体)を形成するのに有効な条件下で、試験しようとする生物学的試料と接触される。次いで、免疫複合体の検出には、標識された二次結合リガンドまたは抗体、および二次結合リガンドまたは抗体と、標識された三次抗体、または第3の結合リガンドが必要とされる。
【0171】
「免疫複合体(抗原/抗体)を形成するのに有効な条件下で」とは、条件が、好ましくは、抗原および/または抗体を、溶液、例えば、BSA、ウシガンマグロブリン(BGG)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)/Tweenで希釈する工程を含むことを意味する。これらの添加された薬剤はまた非特異的バックグラウンドの低減を助ける傾向もある。
【0172】
「適切な」条件とは、インキュベーションが、有効に結合するのに十分な温度で、または有効に結合するのに十分な期間にわたって行われることも意味する。インキュベーション工程は、典型的に、約1~2~4時間くらい、好ましくは、25℃~27℃程度の温度であるか、または約4℃くらいで一晩でもよい。
【0173】
ELISAにおいて全てのインキュベーション工程の後に、接触された表面は、複合体化しなかった材料を除去するために洗浄される。好ましい洗浄手順は、溶液、例えば、PBS/Tween、またはホウ酸緩衝液を用いた洗浄を含む。試験試料と、最初に結合した材料との間での特異的免疫複合体の形成、その後の洗浄の後に、さらに微量の免疫複合体が発生したことが確かめられてもよい。
【0174】
検出手段を提供するために、第2の抗体または第3の抗体には、検出を可能にする結合した標識がある。好ましくは、これは、適切な発色基質とインキュベートされると発色する酵素である。従って、例えば、さらなる免疫複合体形成の発生に有利な期間にわたって、かつさらなる免疫複合体形成の発生に有利な条件下で、第1の免疫複合体および第2の免疫複合体を、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはハイドロゲンペルオキシダーゼと結合された抗体と接触またはインキュベートすることが望ましい(例えば、PBS含有溶液、例えば、PBS-Tweenの中で室温で2時間インキュベートする)。
【0175】
標識された抗体とのインキュベーションと、結合しなかった材料を除去するための洗浄の後に、標識の量は、例えば、発色基質、例えば、尿素、もしくはブロモクレゾールパープル、または2,2'-アジド-ジ-(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、または酵素標識としてペルオキシダーゼの場合にはH2O2とインキュベートすることによって定量される。次いで、定量は、発色の程度を、例えば、可視スペクトル分光光度計を用いて測定することによって成し遂げられる。
【0176】
B.ウエスタンブロット
ウエスタンブロット(または、タンパク質イムノブロット)は、組織ホモジネートまたは抽出物のある特定の試料中にある特定のタンパク質を検出するのに用いられる分析技法である。ウエスタンブロットでは、ポリペプチドの長さによって(変性条件)、またはタンパク質の3D構造によって(天然/非変性条件)、天然タンパク質または変性タンパク質を分離するためにゲル電気泳動を使用する。次いで、タンパク質は膜(典型的にはニトロセルロースまたはPVDF)に転写され、膜の中で、標的タンパク質に特異的な抗体を用いてプローブ(検出)される。
【0177】
試料は組織全体から採取されてもよく、細胞培養物から採取されてもよい。ほとんどの場合、最初に、固体組織が、ブレンダーを用いて(試料の体積が多い場合)、ホモジナイザーを用いて(体積が少ない場合)、または超音波処理によって機械的に分解される。細胞はまた、上記の機械的方法の1つによって、こじ開けられてもよい。しかしながら、細菌、ウイルス、または環境試料がタンパク質の供給源になる可能性があり、従って、ウェスタンブロッティングが細胞研究のみに制限されないことに留意すべきである。細胞の溶解を促進するために、およびタンパク質を可溶化するために、雑多な界面活性剤、塩、および緩衝液が用いられてもよい。自身の酵素によって試料が消化されないように、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤が添加されることが多い。タンパク質変性を回避するために組織調製は低温で行われることが多い。
【0178】
試料のタンパク質はゲル電気泳動を用いて分離される。タンパク質の分離は、等電点(pI)、分子量、電荷、またはこれらの要因の組み合わせによるものでもよい。分離がどういったものかは、試料の処理およびゲルがどういったものかに左右される。これは、タンパク質を確かめる非常に有用な手法である。単一の試料からタンパク質を2つの寸法に広げる二次元(2D)ゲルを使用することも可能である。タンパク質は、第1の寸法では等電点(中性の正味荷電を有するpH)に従って分離され、第2の寸法では分子量に従って分離される。
【0179】
抗体検出に利用可能なタンパク質を作製するために、タンパク質はゲルの内部から、ニトロセルロースまたはフッ化ポリビニリデン(PVDF)で作られた膜に移される。ゲルの上に膜が配置され、膜の上に、濾紙を積み重ねたものが配置される。濾紙を積み重ねたものが全て緩衝溶液の中に入れられ、緩衝溶液は毛管作用によって濾紙を上昇し、それにより、タンパク質も緩衝溶液と一緒に動く。タンパク質を転写するための別の方法は電気ブロッティングと呼ばれ、タンパク質をゲルからPVDF膜またはニトロセルロース膜に引っ張るために電流を用いる。タンパク質は、ゲルの内部で保っていた構造を維持しながらゲルの内部から膜の上に動く。このブロッディングプロセスの結果として、タンパク質は、検出のために薄い表面層に曝露される(下記を参照されたい)。両種の膜とも非特異的タンパク質結合特性で選択されている(すなわち、全てのタンパク質に等しく結合する)。タンパク質結合は、疎水性相互作用と、膜とタンパク質との間の荷電相互作用に基づいている。ニトロセルロース膜はPVDFよりも安いが、かなり壊れやすく、反復調査に対する耐性があまりない。ゲルから膜へのタンパク質転写の均一性および全体的な有効性は、膜をクーマシーブリリアントブルーまたはポンソーS色素で染色することによってチェックすることができる。タンパク質は転写されたら、標識された一次抗体を用いて検出されるか、または標識されていない一次抗体を使用し、その後に、標識されたプロテインAまたは二次標識抗体と、一次抗体のFc領域との結合を用いて間接的に検出される。
【0180】
C.免疫組織化学
抗体はまた、免疫組織化学(IHC)による研究のために調製された、新鮮凍結した組織ブロックおよび/またはホルマリン固定し、パラフィン包埋した組織ブロックと一緒に用いられる場合がある。これらの粒子標本から組織ブロックを調製する方法は様々な予後因子の以前のIHC研究において首尾良く用いられており、当業者に周知である(Brown et al., 1990; Abbondanzo et al., 1990; Allred et al., 1990)。
【0181】
簡単に述べると、凍結切片は、小さなプラスチックカプセルの中で、50ngの「微粉砕した(pulverized)」凍結組織をリン酸緩衝食塩水(PBS)に室温で再水和する;遠心分離によって粒子をペレット化する;粘性のある包埋剤(OCT)に再懸濁する;カプセルを逆にする、および/もしくは遠心分離によって再ペレット化する;-70℃イソペンタンに入れて瞬間凍結する;プラスチックカプセルを切断する、および/もしくは凍結した円筒形の組織を取り外す;クリオスタットミクロトームチャックに円筒形の組織を固定する;ならびに/またはカプセルから25~50枚の連続切片を切断することによって調製されてもよい。または、連続切片を切断するのに凍結組織試料全体が用いられることがある。
【0182】
永久切片を、50mgの試料をプラスチック微量遠心管に入れて再水和し、ペレット化し、4時間固定するために10%ホルマリンに再懸濁し、洗浄/ペレット化し、温かい2.5%寒天に再懸濁し、ペレット化し、氷水に入れて冷却して寒天を固め、管から組織/寒天ブロックを取り出し、ブロックをパラフィンに浸透および/もしくは包埋し、ならびに/または50枚までの連続永久切片を切断することを含む同様の方法によって調製してもよい。これもまた、組織試料全体が代用されることがある。
【0183】
D.免疫検出キット
なおさらなる態様では、前記の免疫検出方法と共に使用するための免疫検出キットがある。従って、免疫検出キットは、適切な容器手段の中に、グリピカン2抗原に結合する第1の抗体と、任意で、免疫検出試薬を含む。
【0184】
ある特定の態様では、グリピカン2抗体は、固体支持体、例えば、カラムマトリックスおよび/またはマイクロタイタープレートのウェルに予め固定されてもよい。キットの免疫検出試薬は、ある特定の抗体に結合または連結されている検出可能な標識を含む、様々な形式のいずれか1つをとってもよい。二次結合リガンドに結合されている、または取り付けられている検出可能な標識も意図される。例示的な二次リガンドは、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体である。
【0185】
本発明のキットにおいて用いられる、さらに適切な免疫検出試薬は、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体と、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体を含む2成分試薬を含み、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。前記で述べたように、多くの例示的な標識が当技術分野において公知であり、このような全ての標識が、本明細書において議論された態様に関連して用いられてもよい。
【0186】
キットは、標識されていても標識されていなくても、グリピカン2抗原の適切に分注された組成物をさらに備えてもよく、同様に、検出アッセイの検量線を作成するのに用いられてもよい。キットは、抗体標識結合体を、完全に結合された形で、中間体の形で、またはキットの使用者によって結合される別々の部分として含有してもよい。キットの成分は水性培地に溶解した状態で包装されてもよく、凍結乾燥した形で包装されてもよい。
【0187】
キットの容器手段は、一般的に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、注射器、または他の容器手段を備え、この中に抗体が配置されてもよく、好ましくは適切に分注されてもよい。キットはまた、抗体、抗原を含むための手段、および商業販売のために密に閉じ込められた他の任意の試薬容器も備える。このような容器は、望ましいバイアルが保持される射出成型プラスチック容器または吹込成形プラスチック容器を備えてもよい。
【実施例0188】
VI.実施例
以下の実施例は、好ましい態様を証明するために含まれる。以下の実施例に開示される技法は、本発明者らが発見した技法が態様の実施において十分に機能することを示し、従って、本発明を実施するための好ましい態様を構成すると考えられると当業者に理解されるはずである。しかしながら、本開示を考慮すれば、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更を加えることができ、それでもなお、類似または同様の結果を得ることができると当業者に理解される。
【0189】
実施例1
トランスクリプトームに基づいた初期の発見の取り組みから、649個の有意に異なって発現する遺伝子が同定され(各組織について腫瘍対正常のlog倍率変化>1;補正p<0.05)、このうち86個(13%)の遺伝子が潜在的な細胞表面分子だと推定された。本発明者らの分析パイプラインによって、本発明者らは、検証のために、ロバストな差次的RNA発現(腫瘍対正常組織のlog倍率変化=2.1~8.2;p<3x10-10)と、高レベルの絶対RNA発現(中央値FPKM=57; 腫瘍の85%がFPKM>25)と、有意に高いGPC2発現(p<0.0001)と関連する一貫性のあるDNAコピー数増加(原発性神経芽細胞腫の31%;N=177)が示された、細胞外グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)に固定化されたシグナル伝達コレセプター、グリピカン-2(GPC2)に優先順位を付けた。イムノブロット分析によって、遍在性のGPC2タンパク質発現(N=8高リスク神経芽細胞腫および23の細胞株)が確認され、膜抽出、IF、およびIHCによって、神経芽細胞腫細胞株において高密度の原形質膜関連GPC2タンパク質発現が確認された。小児正常組織(N=37)のパラレルアレイ(parallel array)と比較した原発性神経芽細胞腫腫瘍(N=83)のIHC分析によって、GPC2タンパク質発現は膜に関連し、かつ腫瘍特異的であり、正常組織発現は非常に制限されていることがさらに確認された。12の神経芽細胞腫細胞株のパネルにおいて、レンチウイルスを介したRNAiによって誘導したGPC2枯渇によって、一過的なCellTiter-GloおよびCaspase-Gloアッセイの両方において、ならびに細胞増殖の長期リアルタイムモニタリング(RT-CES)を用いて、有意なアポトーシスおよび増殖阻害が認められた(対照に対して、増殖が20~87%減少し、カスパーゼ3/7レベルが1.5~18.4倍増加した)。GPC2過剰発現によって細胞増殖が有意に増加した(対照に対して2.7倍の増殖増加、p<0.0001)。最後に、GPC2はまた、他の胚性癌、特に髄芽細胞腫においても有意に異なって過剰発現することが見出された。
【0190】
癌細胞関連GPC2を特異的に標的化する3種類の完全ヒト抗体(m201、m202、およびm203)のパネルをファージディスプレイ抗体ライブラリーから単離し、親和性成熟した。インビトロでの特徴付けから、これらの抗体には、癌療法用のCAR-T、抗体薬物結合体(ADC)、および二重特異性抗体開発において使用するための有望な治療活性があることが証明された。抗体の配列を
図30~32に示した。
【0191】
本明細書において開示および請求された組成物および/または方法は全て、本開示を考慮すれば過度の実験なく作製および実施することができる。本開示の組成物および方法が好ましい態様に関して説明されたが、本開示の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の組成物および方法ならびに本明細書に記載の方法の工程または工程の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、本明細書に記載の薬剤の代わりに、化学的および生理学的に関連している、ある特定の薬剤を使用することができ、それと同時に、同一の結果または類似の結果が得られることは明らかである。当業者に明らかな、このような類似の代用および変更は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本開示の精神、範囲、および概念の範囲内だと考えられる。
【0192】
VII.参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書に記載のものを補足する他の詳細を示す程度まで、参照により本明細書に特に組み入れられる。