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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034057
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】補体活性の変調
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/00 20060101AFI20220222BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20220222BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220222BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220222BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220222BHJP
   C12N 9/99 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C07K5/00 ZNA
C07K7/00
C12Q1/37
A61K38/10
A61P29/00
A61P17/02
A61P37/02
A61P9/00
A61P25/00
A61P13/12
A61P27/02
A61P7/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/60
C12N9/99
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212477
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2020085588の分割
【原出願日】2015-06-12
(31)【優先権主張番号】62/011,368
(32)【優先日】2014-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/077,460
(32)【優先日】2014-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/108,772
(32)【優先日】2015-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516372114
【氏名又は名称】ラ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RA PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】アラタ、ミッシェル デニス
(72)【発明者】
【氏名】ダームナスカール、ケトゥキ アショク
(72)【発明者】
【氏名】エルバーム、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフソン、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ラーソン、ケリー クロニン
(72)【発明者】
【氏名】マー、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ニムス、ネイサン エゼキエル
(72)【発明者】
【氏名】リカルド、アロンソ
(72)【発明者】
【氏名】セイブ、キャスリーン
(72)【発明者】
【氏名】タン、グォ-クィン
(72)【発明者】
【氏名】トレコ、ダグラス エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジャオリン
(72)【発明者】
【氏名】イー、ピン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ホン
(72)【発明者】
【氏名】パールマター、サラ ジャクリーン
(72)【発明者】
【氏名】ハマー、ロバート ポール
(57)【要約】
【課題】補体活性のモジュレーターを提供する。また、かかるモジュレーターを治療剤として利用する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るポリペプチドは、配列番号1~201または211に示される配列を有しうる。それらは線状であっても環状であってもよく、2つのアミノ酸間の架橋部分により形成された環状ループを含んでいてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R-Xaa0-Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5-Xaa6-Xaa7-Xaa8-Xaa9-Xaa10-Xaa11-Xaa12-Xaa13-Xaa14-Xaa15-Xaa16-Xaa17-Xaa18-R(配列番号212)(式中、
a.Rは、不在であるか、またはH、アセチル基、1~20個の炭素原子の線状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素鎖を含有するアシル基、ヘプタノイル基、アミド、カルバメート、ウレア、PEG、ヒドロキシアルキルデンプン、およびポリペプチドからなる群から選択され、
b.Xaa0は、不在であるか、またはMetおよびノルバリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、
c.Xaa1は、不在であるか、または(S)-2-アミノ-5-アジドペンタン酸、クロロ酢酸、(S)-2-アミノヘプト-6-エン酸、4-アミノ酪酸、5-アミノペンタン酸、5-アミノヘキサン酸、オルニチン、Lys、ホモリシン、Glu、Asp、3-チオプロピオン酸、およびCysからなる群から選択され、
d.Xaa2は、不在であるか、またはAla、D-Ala、tertブチル-グリシン、Lys、Ser、Cys、およびValからなる群から選択され、
e.Xaa3は、不在であるか、またはAla、ノルバリン、Val、およびGluからなる群から選択され、
f.Xaa4は、不在であるか、またはAla、Cys、Arg、Ser、Glu、フェニルグリシン、およびノルバリンからなる群から選択され、
g.Xaa5は、不在であるか、またはTyr、Arg、Cys、Phe、N-メチル-チロシン、およびAlaからなる群から選択され、
h.Xaa6は、不在であるか、またはGlu、N-メチル-グルタミン酸、シクロヘキシルグリシン、Lys、Tyr、Pro、N-メチル-セリン、tertブチル-グリシン、Val、ノルロイシン、ノルバリン、7-アザトリプトファン、Asn、Asp、(S)-2-アミノペント-4-イン酸、(S)-2-アミノペント-4-エン酸、Cys、およびAlaからなる群から選択され、
i.Xaa7は、不在であるか、またはAsn、N-メチル-アスパラギン、N-メチル-グリシン、N-メチル-セリン、ホモシステイン、Thr、Tyr、フェニルグリシン、tert-ブチルグリシン、α-メチルL-アスパラギン酸、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、N-メチル-アスパラギン酸、シクロロイシン、4-アミノ-テトラヒドロ-ピラン-4-カルボン酸、Arg、Glu、Asp、Cys、およびAlaからなる群から選択され、
j.Xaa8は、不在であるか、またはtert-ブチルグリシン、フェニルグリシン、D-フェニルグリシン、シクロヘキシルグリシン、D-シクロヘキシルグリシン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-1-カルボン酸、Tyr、tert-ブチルグリシン、Asn、Cys、N-メチル-4-フルオロフェニルアラニン、2-O-メチルフェニルグリシン、Phe、Val、およびAlaからなる群から選択され、
k.Xaa9は、Tyr、N-メチル-チロシン、Thr、Glu、ノルバリン、Lys、Ala、D-Ala、His、Cys、フェニルグリシン、N-メチル-セリン、N-メチル-グリシン、アミノイソ酪酸、およびArgからなる群から選択され、
l.Xaa10は、3-アミノメチル-L-フェニアラニン、7-アザトリプトファン、N-メチル-トリプトファン、1-メチル-トリプトファン、5-フルオロトリプトファン、Phe、D-Trp、5-メチル-O-トリプトファン、Ala、His、Leu、tert-ブチルグリシン、Cys、およびTrpからなる群から選択され、
m.Xaa11は、Glu、D-Glu、N-メチル-グルタミン酸、Asn、Asp、Gln、tert-ブチルグリシン、Cys、N-メチル-4-フルオロフェニルアラニン、N-メチル-セリン、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、およびAlaからなる群から選択され、
n.Xaa12は、不在であるか、またはTrp、ホモフェニルアラニン、m-クロロホモフェニルアラニン、2-ナフチルアラニン、3-アミノメチル-L-フェニアラニン、Tyr、N-メチル-チロシン、Cys、Phe、Ala、Glu、Gly、N-メチル-グリシン、フェニルグリシン、4-フルオロフェニルアラニン、O-メチル-チロシン、ホモフェニルアラニン、3-クロロフェニルアラニン、およびノルバリンからなる群から選択され、
o.Xaa13は、不在であるか、またはプロパルギル-グリシン、Pro、Ala、N-メチル-グリシン、Ser、N-メチル-セリン、N-メチル-アラニン、ノルバリン、Cys、およびTbgからなる群から選択され、
p.Xaa14は、不在であるか、またはアミノイソ酪酸、tert-ブチルグリシン、Cys、Pro、Asn、フェニルグリシン、D-フェニルグリシン、N-メチル-フェニルグリシン、ノルバリン、His、Ala、D-Ala、およびシクロヘキシルグリシンからなる群から選択され、
q.Xaa15は、不在であるか、またはノルバリン、Lys、N-ε-カプリル酸リシン、N-ε-カプリルリシン、N-ε-ラウリルリシン、N-ε-パルミトイルリシン、Pro、Cys、Tyr、Gly、プロパルギル-グリシン、ホモCys、N-メチル-セリン、およびtert-ブチルグリシンからなる群から選択され、
r.Xaa16は、不在であるか、またはノルバリン、Cys、Lys、およびAlaからなる群から選択され、
s.Xaa17は、不在であるか、またはPro、Glu、およびNvlからなる群から選択され、
t.Xaa18は、不在であるかまたはノルバリンであり、かつ
u.Rは、不在であるか、またはB20、B28、K14、-NH、および-N(CHからなる群から選択される)
で示されるポリペプチド。
【請求項2】
2つのアミノ酸間に架橋部分をさらに含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記架橋部分が、構造I~XIX
【化1】

(式中、各Xは、独立して、環が3個以上のNを含有しないようにNまたはCHであり、各Zは、独立して、結合、NR、O、S、CH、C(O)NR、NRC(O)、S(O)NR、NRS(O)であり、各mは、独立して、0、1、2、および3から選択され、各vは、独立して、1および2から選択され、各Rは、独立して、HおよびC~Cから選択され、かつ各架橋部分は、独立して選択されたC~Cスペーサによりポリペプチドに結合される)
からなる群から選択される構造を含む、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記架橋部分が、ジスルフィド結合、アミド結合(ラクタム)、チオエーテル結合、芳香環、不飽和脂肪族炭化水素鎖、飽和脂肪族炭化水素鎖、およびトリアゾール環からなる群から選択されるフィーチャを含む、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項5】
環状ループが、1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、および16アミノ酸からなる群から選択される長さである、請求項2~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
残基Xaa1がシステインであり、かつ前記架橋部分が、残基Xaa1と、Xaa4、Xaa5、Xaa6、Xaa7、Xaa8、Xaa9、Xaa10、Xaa11、Xaa12、Xaa13、Xaa14、Xaa15、およびXaa16からなる群から選択される残基と、を連結する、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記フィーチャが芳香環を含み、かつ前記架橋部分がポリ(ブロモメチル)ベンゼンとの反応により形成される、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリ(ブロモメチル)ベンゼンが、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、および1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼンからなる群から選択される、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記試薬が1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼンである、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記フィーチャが2つのシステイン残基間のジスルフィド結合を含む、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記フィーチャが芳香環を含み、かつ前記架橋部分が、2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン、(E)-1,4-ジブロモブト-2-エン、および1,2-ビス(ブロモメチル)-4-アルキルベンゼンからなる群から選択される化合物との反応により生成される、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項12】
Xaa8がtert-ブチルグリシンであり、Xaa9がTyrであり、Xaa10が7-アザトリプトファンであり、Xaa11がGluであり、かつXaa12がTyrである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項13】
2つのアミノ酸間に架橋部分を含む、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項14】
前記架橋部分が、構造I~XIX
【化2】

(式中、各Xは、独立して、環が3個以上のNを含有しないようにNまたはCHであり、各Zは、独立して、結合、NR、O、S、CH、C(O)NR、NRC(O)、S(O)NR、NRS(O)であり、各mは、独立して、0、1、2、および3から選択され、各vは、独立して、1および2から選択され、各Rは、独立して、HおよびC~Cから選択され、かつ各架橋部分は、独立して選択されたC~Cスペーサによりポリペプチドに結合される)
からなる群から選択される構造を含む、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
前記架橋部分が、ジスルフィド結合、アミド結合(ラクタム)、チオエーテル結合、芳香環、不飽和脂肪族炭化水素鎖、飽和脂肪族炭化水素鎖、およびトリアゾール環からなる群から選択されるフィーチャを含む、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項16】
前記架橋部分がポリ(ブロモメチル)ベンゼンとの反応により形成される、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項17】
前記ポリペプチドが配列番号1~201および211からなる群から選択される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項18】
前記ポリペプチドがC5からC5aおよびC5b切断産物への切断を阻害する、請求項17に記載のポリペプチド。
【請求項19】
前記ポリペプチドが抗体の一部である、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項20】
請求項1に記載のポリペプチドと許容可能な担体または賦形剤とを含む組成物。
【請求項21】
前記ポリペプチドが親水性ポリマーにコンジュゲートされる、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記親水性ポリマーが、ポリアルキレンオキシドホモポリマー、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリオール、およびそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記水溶性ポリマーがポリエチレングリコール(PEG)である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記ポリペプチドが、配列番号202~204からなる群から選択されるアルブミン結合性ポリペプチドにコンジュゲートされる、請求項20~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記ポリペプチドが、配列番号205~210からなる群から選択される細胞透過性ポリペプチドにコンジュゲートされる、請求項20~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
賦形剤を含み、前記賦形剤が薬学的に許容可能な賦形剤を含む、請求項20~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
細胞系においてC5切断を阻害する方法であって、
請求項20~26のいずれか一項に記載の組成物または請求項1~19のいずれか一項に記載のポリペプチドと前記細胞系とを接触させることを含む、方法。
【請求項28】
C5aレベルが低減される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
膜侵襲複合体(MAC)の形成が低減される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ポリペプチドが約50nM~約200nMのIC50でC5の切断を阻害する、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記ポリペプチドが50nM未満のIC50でC5の切断を阻害する、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞系がin vitro系、in vivo系、およびex vivo系からなる群から選択される、請求項27~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
in vivo系を含み、前記in vivo系が対象を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記対象がヒト対象である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記ヒト対象が、補体関連疾患、障害、および病態の少なくとも1つを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記接触が、頬腔内投与、鼻腔内投与、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経真皮投与、および硝子体内投与からなる群から選択される投与方法を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記補体関連疾患、障害、および病態の少なくとも1つが、炎症性適応症、創傷、傷害、自己免疫性疾患、血管適応症、神経学的適応症、腎臓関連適応症、眼疾患、発作性夜間ヘモグロビン尿症、および非定型溶血性尿毒症症候群からなる群から選択される、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
細胞系におけるトロンビン誘導補体活性化を阻害する方法であって、
請求項1~19のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項20~26のいずれか一項に記載の組成物と、細胞系とを接触させることを含む、方法。
【請求項39】
対象における溶血の治療方法であって、
請求項1~19のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項20~26のいずれか一項に記載の組成物を、前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項40】
前記溶血がトロンビン誘導補体活性化により引き起こされる、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体活性の阻害剤および/またはアンタゴニストとして有用な、ポリペプチドを含む化合物に関する。また、こうした阻害剤を治療剤として利用する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物の免疫反応は、適応免疫成分と先天性免疫成分とで構成される。適応免疫反応は、特定の病原体に対して選択的でありかつ反応が遅いが、先天性免疫反応の成分は、広範囲の病原体を認識しかつ感染すると迅速に反応する。先天性免疫反応のかかる成分の1つは補体系である。
【0003】
補体系は、主に肝臓により合成される約20種の循環タンパク質を含む。この特定の免疫反応の成分は、細菌の破壊で抗体反応を補うことが観測されたため最初に「補体」と名付けられた。これらのタンパク質は、感染に反応して活性化される前は不活性形態を維持する。活性化は、病原体認識により開始されるタンパク質分解切断の経路を介して行われ、病原体破壊をもたらす。補体系では3つのかかる経路が知られており、古典経路、レクチン経路、および代替経路と呼ばれる。古典経路は、IgGまたはIgM分子が病原体の表面に結合したときに活性化される。レクチン経路は、細菌細胞壁の糖残基を認識するマンナン結合レクチンタンパク質により開始される。代替経路は、特定の刺激がなんら存在しなくても低レベルで活性状態を維持する。3つの経路はすべて開始イベントに関しては異なるが、3つの経路はすべて補体成分C3の切断に収斂する。C3は、C3aおよびC3bと称される2つの産物に切断される。これらのうち、C3bは病原体表面に共有結合され、一方、C3aは炎症の促進および循環免疫細胞の動員のための拡散性シグナルとして作用する。表面関連C3bは、他の成分との複合体を形成して補体系のより後段の成分間のカスケード反応を開始する。表面結合が要件となるため、補体活性は局在状態を維持し、非標的細胞の破壊を最小限に抑える。
【0004】
病原体関連C3bは2つの方法で病原体破壊を促進する。一経路では、C3bは食細胞により直接認識されて病原体の貧食をもたらす。第2の経路では、病原体関連C3bは膜侵襲複合体(MAC)の形成を開始する。第1の工程では、C3bは他の補体成分と複合体化してC5コンバターゼ複合体を形成する。初期補体活性化経路に依存して、この複合体の成分は異なりうる。補体古典経路の結果として形成されるC5コンバターゼは、C3bのほかにC4bおよびC2aを含む。代替経路により形成される場合、C5コンバターゼは、C3bさらには1つのBb成分の2つのサブユニットを含む。
【0005】
補体成分C5は、いずれかのC5コンバターゼ複合体によりC5aおよびC5bに切断される。C5aはC3aとほぼ同様に、循環系に拡散して炎症を促進し、炎症細胞に対する化学誘引剤として作用する。C5bは細胞表面に結合された状態を維持し、C6、C7、C8、およびC9との相互作用を介してMACの形成をトリガーする。MACは細胞膜全体に存在する親水性細孔であり、細胞へのおよび細胞からの流体の自由流動を促進することにより細胞を破壊する。
【0006】
すべての免疫活性の重要な要素は、自己細胞と非自己細胞とを識別する免疫系の能力である。免疫系がこの識別を行えない場合に病理状態を生じる。補体系の場合、脊椎動物細胞は、補体カスケードの影響から自己を保護するタンパク質を発現する。これにより補体系の標的が病原細胞に限定されることが保証される。多くの補体関連の障害および疾患は、補体カスケードによる自己細胞の異常破壊が関係している。一例では、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に罹患している対象は、造血幹細胞上の補体調節タンパク質CD55およびCD59の機能体を合成することができない。この結果、補体媒介溶血およびさまざまな下流の合併症を生じる。他の補体関連の障害および疾患としては、自己免疫性の疾患および障害、神経性の疾患および障害、血液性の疾患および障害、ならびに感染性の疾患および障害が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実験的証拠は、多くの補体関連障害が補体活性の阻害を介して軽減されることを示唆する。したがって、補体媒介細胞破壊を選択的にブロック可能な化合物を開発する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリペプチド(たとえば、ペプチドミメティック、環状ポリペプチド、および環状ペプチドミメティック)、低分子、抗体、抗体フラグメント、およびアプタマーを含む化合物、ならびに補体を変調するための前記化合物の使用方法を提供する。本発明によれば、ポリペプチドは、配列番号1~201または211に示される配列を有しうる。それらは線状であっても環状であってもよく、2つのアミノ酸間の架橋部分により形成された環状ループを含んでいてもよい。架橋部分は、ジスルフィド結合、アミド結合(ラクタム)、チオエーテル結合、芳香環、不飽和脂肪族炭化水素鎖、飽和脂肪族炭化水素鎖、トリアゾール環、またはそれらの組合せからなる群から選択されるフィーチャを含みうる。さらに、環状ループは、長さがさまざまでありうるとともに、1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9、アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、またはそれ以上でありうる。
【0009】
架橋部分は、2個のシステイン残基間のジスルフィドまたはポリ(ブロモメチル)ベンゼンとの反応により生成された芳香環を含みうる。かかるポリ(ブロモメチル)ベンゼンは、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、および1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼンからなる群から選択されうる。
【0010】
架橋部分はまた、2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン、(E)-1,4-ジブロモブト-2-エン、および1,2-ビス(ブロモメチル)-4-アルキルベンゼンからなる群から選択される化合物との反応により生成された芳香環を含みうる。
【0011】
架橋部分はまた、次のアミノ酸対、すなわち、リシンとグルタミン酸、リシンとアスパラギン酸、オルニチンとグルタミン酸、オルニチンとアスパラギン酸、ホモリシンとグルタミン酸、ホモリシンとアスパラギン酸、アミノ酸、非天然アミノ酸、または第1級アミンとカルボン酸とを含む非アミノ酸残基の他の組合せ、の側鎖の反応により生成されたアミド結合を含みうる。
【0012】
本発明によれば、ポリペプチドは、補体C5阻害活性を呈しうるという点で有用である。いくつかの場合には、かかる活性は、半値阻害濃度(IC50)換算で約50nM~約200nMまたは50nM未満の範囲内でありうる。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、アミノ酸配列内にトリプトファンがまたは5-フルオロトリプトファン、5-メチル-O-トリプトファン、1-メチルトリプトファン、D-トリプトファン、および7-アザトリプトファンからなる群から選択される1種以上のトリプトファンアナログが存在するポリペプチドを提供する。かかる化合物は、とくに、配列番号3、9、11、19、45、46、50、および59のものを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドはC5上の領域に結合しうる。前記領域はC5a-C5b切断部位の遠位にある。いくつかの場合には、本発明に係るポリペプチドはC5からC5aおよびC5b切断産物への切断を阻害しうる。
【0015】
いくつかの場合には、本発明に係るポリペプチドは抗体の一部でありうる。
本発明に係るポリペプチドは組成物に含まれうる。かかる組成物は1種以上の許容可能な担体または賦形剤を含みうる。かかるポリペプチドは、たとえば水溶性ポリマーなどの他の非ポリペプチド部分にコンジュゲートしうる。こうしたポリマーは親水性または疎水性でありうる。いくつかの実施形態では、親水性ポリマーは、ポリアルキレンオキシドホモポリマー、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリオール、およびそれらのコポリマーからなる群から選択される。それはまたポリエチレングリコール(PEG)を含みうる。組成物は、配列番号202~204からなる群から選択されるアルブミン結合性ポリペプチドにコンジュゲートされたポリペプチドをさらに含みうる。いくつかの場合には、組成物は、配列番号205~210からなる群から選択される細胞透過性ポリペプチドにコンジュゲートされたポリペプチドを含みうる。組成物は、脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドをさらに含みうる。脂質部分としては、脂肪酸、リン脂質、およびステロールが挙げられうるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、脂質部分は、本発明に係るポリペプチドに直接コンジュゲートしうるかまたはポリペプチド-PEGコンジュゲートに結合しうる。いくつかの組成物は薬学的に許容可能な賦形剤を含みうる。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明は、以上に記載されるような本発明に係る組成物の使用を含む、細胞系でのC5切断の阻害方法を提供する。いくつかのかかる方法はC5aレベルを低下させうる。さらなる方法は膜侵襲複合体(MAC)の形成を低減しうる。
【0017】
本発明に係るいくつかの方法は、約50nM~約200nMのIC50でC5切断阻害をもたらしうる。いくつかの場合には、本発明に係る方法は、50nM未満のIC50でC5切断阻害を含みうる。
【0018】
本発明に係るいくつかの方法は、in vitro系、in vivo系、およびex
vivo系から選択される細胞系に適用しうる。いくつかのin vivo系は、ヒト対象などの対象を含みうる。いくつかの場合には、ポリペプチドおよびポリペプチド組成物は、対象において補体関連の疾患、障害、および/または病態の治療または予防に使用しうる。対象への投与は、経頬、鼻腔内、経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経真皮、および硝子体内からなる群から選択しうる。いくつかの場合には、組成物は、発作性夜間ヘモグロビン尿症および/または非定型溶血性尿毒症症候群を治療するために使用しうる。いくつかの場合には、本発明に係る組成物は、炎症性適応症、創傷、傷害、自己免疫性疾患、血管適応症、神経学的適応症、腎臓関連適応症、および眼疾患の1つ以上を治療するために使用しうる。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、細胞系を本発明に係るポリペプチドに接触させることを含む、かかる系でのトロンビン誘導補体活性化の阻害方法を提供する。さらに、本明細書に記載のポリペプチドを投与することを含む、対象における溶血の治療方法を提供する。いくつかのかかる方法によれば、治療される溶血はトロンビン誘導補体活性化により引き起こされるものである。
【0020】
いくつかの実施形態では、ヒトを含む哺乳動物における疾患、障害、および/または病態の診断、予後予測、予防、または治療のためのキットが提供される。かかるキットは、1種以上の本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物と、任意選択で試薬および/または使用説明書と、を含むであろう。かかるキットでは、ポリペプチドは、検出可能な標識を含みうるかまたは検出可能な標識に結合して検出可能な複合体を形成する能力を含みうる。一実施形態によれば、標識はBODIPY-TMR標識を含む。
【0021】
上記および他の目的、特徴、および利点は、添付の図面に例示される本発明の特定の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。図中、同一の参照文字は異なる図全体を通じて同一の部分を意味する。図面は、必ずしも原寸通りとは限らず、その代わりに本発明の種々の実施形態の原理を例示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】漸増濃度の阻害剤R3002(配列番号3)およびR3008(配列番号9)を用いたヒト赤血球(RBC)溶血アッセイからの上清中のC5aを検出するための酵素免疫アッセイ(EIA)の結果を表すグラフ。C5aのレベルは補体活性と相関があるので、補体活性を阻害する試験化合物の能力の指標である。溶血アッセイからの上清は1:50希釈してC5aレベルに関してアッセイした。ヒト溶血アッセイ上清サンプル中のC5aレベルは、アッセイしたいずれの阻害剤でもそのレベルの増加に伴って低下した。R3002(配列番号3)は5.4nMのIC50を有し、一方、R3008(配列番号9)は54.5nMのIC50を有していた。本明細書で用いられる場合、「IC50」という用語は、半値阻害濃度、すなわち、所与の反応またはプロセスを半減するのに必要とされる阻害剤の量を表すために使用される値を意味する。
図2】漸増濃度のR3008(配列番号9)を用いたヒトRBC溶血アッセイからの上清中の膜侵襲複合体(MAC)を検出するためのEIAの結果を表すグラフ。MACのレベルは補体活性と相関があるので、補体活性を阻害するR3008(配列番号9)の能力の指標である。溶血アッセイからの上清は1:5希釈してMACレベルに関してアッセイした。溶血アッセイ上清サンプル中のMACレベルは、アッセイした阻害剤のレベルの増加に伴って低下し、33nMのIC50を有していた。
図3】試験品R3003(配列番号4)、R3011(配列番号31)、R3014(配列番号55)、R3023(配列番号104)、R3043(配列番号50)、およびR3050(配列番号23)での競合蛍光偏光(FP)データを表すグラフ。FPは均一溶液で結合イベントの測定を可能にする。蛍光タグを有する化合物R3076(配列番号40)の25nM溶液を漸増量の試験品と組み合わせてFP(ミリ偏光度単位、mP)の変化に関して測定する競合結合アッセイを行った。mPレベルの低下は、C5に対する試験品による奏功する競合と相関がある。トリプリケート方式で行った2回の独立した実験の平均(+/-標準偏差)が示されている。試験品のうち、R3003(配列番号4)は最も効力があり、一方、R3023(配列番号104)対照ポリペプチドは試験した最高濃度で活性を示さなかった。
図4】カニクイザルでの試験の結果を示す図。カニクイザルでの単回3mg/kg IV投与後のR3152(配列番号153)の血漿中濃度の変化(丸印)を示している。また、同一の時間点で溶血活性の変化(四角)を示している。
図5】雄スプラーグ・ドーリーラットで2mg/kgのR3152(配列番号153)の静脈内(IV、四角)または皮下(SC、丸印)投与後の血漿中化合物をモニターした結果を示す図。モニタリングは、R3152(配列番号153)さらにはその等効力C末端脱アミド化代謝物R3201(配列番号211)の組合せ血漿中濃度の決定を含んでいた。
図6】ラットでの本発明に係る化合物の薬動学的挙動を示す図。左側:雄スプラーグ・ドーリーラット(n=3)に単回2mg/kg用量で静脈内注射した。指定の時間点で血液サンプルを採取し、血漿への変換処理を行い、そしてLC-MSにより指定の化合物を分析した。黒丸:R3176(配列番号177)(非脂質化化合物)、白丸:R3183(配列番号184)(C16脂質化化合物)。右側:雄スプラーグ・ドーリーラット(n=3)に単回15mg/kg用量で皮下注射した。指定の時間点で血液サンプルを採取し、血漿への変換処理を行い、そしてLC-MSにより指定の化合物を分析した。黒丸:R3176(配列番号177)(非脂質化化合物)、白丸:R3183(配列番号184)(C16脂質化化合物)。
図7】トロンビン誘導補体経路の溶血の阻害に及ぼすR3183(配列番号184)(C16脂質化化合物)またはエクリズマブ(ECULIZUMAB)(登録商標)に類似した抗C5モノクローナル抗体の影響を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、新規なC5変調化合物の発見に関する。かかる化合物は、限定されるものではないが、ポリペプチド(たとえば、環状ポリペプチド、ペプチドミメティック、および環状ペプチドミメティック)、低分子、抗体、抗体フラグメント、およびアプタマーを含みうる。いくつかの場合には、C5変調化合物は、補体活性化の阻害が望まれる疾患の診断および/または治療に有用な、環状ポリペプチド、ペプチドミメティック、環状ペプチドミメティックなどのポリペプチドである。いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドは補体成分C5に特異的に結合する。さらなる実施形態では、本発明に係るポリペプチドは、C5からC5aおよびC5bフラグメントへの切断を防止することにより補体媒介細胞溶解を低減する。
【0024】
本明細書で用いられる場合、「ミメティック」とは、他の分子の性質または特徴のいくつかを呈する分子を意味する。「ペプチドミメティック」または「ポリペプチドミメティック」とは、分子が天然ポリペプチド(すなわち、20種のタンパク質構成アミノ酸のみで構成されたポリペプチド)には見いだされない構造エレメントを含有するミメティックのことである。好ましい実施形態では、ペプチドミメティックは、天然ペプチドの生物学的作用の再現または模倣が可能である。ペプチドミメティックは、骨格構造の変化および天然に存在しないアミノ酸の存在をはじめとする多くの点で天然ポリペプチドとは異なりうるが、これらに限定されるものではない。いくつかの場合には、ペプチドミメティックは、公知の20種のタンパク質構成アミノ酸には見いだされない側鎖、分子の末端間または内部間で環化を行うために使用される非ポリペプチド系架橋部分、メチル基(N-メチル化)または他のアルキル基によるアミド結合水素部分の置換、化学的または酵素的な処理に対して耐性のある化学基または化学結合とのペプチド結合の交換、N末端およびC末端の修飾、ならびに非ペプチド延長部(たとえば、ポリエチレングリコール、脂質、炭水化物、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ヌクレオシド塩基、種々の低分子、またはホスフェート基もしくはスルフェート基)とのコンジュゲーションを有するアミノ酸を含みうる。
【0025】
本発明に係るいくつかのポリペプチドは環状でありうる。環状ポリペプチドは、その構造の一部としてループ、架橋部分、および/または内部結合などの1つ以上の環状フィーチャを有する任意のポリペプチドを含む。本明細書で用いられる場合、「架橋部分」という用語は、ポリペプチド中の2個の隣接するまたは隣接しないアミノ酸、非天然アミノ酸、または非アミノ酸の間で形成された架橋の1つ以上の成分を意味する。架橋部分は任意のサイズまたは組成でありうる。いくつかの実施形態では、架橋部分は、2個の隣接するまたは隣接しないアミノ酸残基、非天然アミノ酸残基、非アミノ酸残基またはそれらの組合せの間の1つ以上の化学結合を含みうる。いくつかの実施形態では、かかる化学結合は、隣接するまたは隣接しないアミノ酸残基、非天然アミノ酸残基、非アミノ酸残基またはそれらの組合せにある1個以上の官能基間に存在しうる。架橋部分は、アミド結合(ラクタム)、ジスルフィド結合、チオエーテル結合、芳香環、トリアゾール環、および炭化水素鎖をはじめとする1つ以上のフィーチャを含みうるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、架橋部分は、アミノ酸残基、非天然アミノ酸残基、または非アミノ酸残基の側鎖にそれぞれ存在するアミン官能基とカルボキシレート官能基との間のアミド結合を含む。いくつかの実施形態では、アミン官能基またはカルボキシレート官能基は、非アミノ酸残基または非天然アミノ酸残基の一部である。いくつかの場合には、架橋部分は、(S)-2-アミノ-5-アジドペンタン酸(本明細書では「X02」としても参照される)、(S)-2-アミノヘプト-6-エン酸(本明細書では「X30」としても参照される)、(S)-2-アミノペント-4-イン酸(本明細書では「X31」としても参照される)、および(S)-2-アミノペント-4-エン酸(本明細書では「X12」としても参照される)を含みうる残基間で形成された結合を含みうるが、これらに限定されるものではない。架橋部分は、オレフィンメタセシスを用いた環化反応を介して形成しうる。いくつかの場合には、かかる架橋部分は、X12残基とX30残基との間に形成しうる。いくつかの実施形態では、架橋部分は、2個のチオール含有残基間で形成されたジスルフィド結合を含む。いくつかの実施形態では、架橋部分は1つ以上のチオエーテル結合を含む。かかるチオエーテル結合は、シクロチオアルキル化合物に見いだされるものを含みうる。これらの結合は、クロロ酢酸(本明細書では「X35」としても参照される)N末端修飾基とシステイン残基との間の化学環化反応時に形成される。いくつかの場合には、架橋部分は1個以上のトリアゾール環を含む。かかるトリアゾール環としては、X02とX31との間の環化反応により形成されたものが挙げられうるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、架橋部分は、環式環(限定されるものではないが芳香環構造(たとえばキシリル)を含む)をはじめとする非タンパク質系部分または非ポリペプチド系部分を含むが、これに限定されるものではない。かかる架橋部分は、ポリ(ブロモメチル)ベンゼン、ポリ(ブロモメチル)ピリジン、ポリ(ブロモメチル)アルキルベンゼン、および/または(E)-1,4-ジブロモブト-2-エンをはじめとする複数の反応性ハロゲン化物を含有する試薬との反応により導入しうるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、本発明に係る架橋部分は、以下の構造:
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、各Xは、独立して、環が3個以上のNを含有しないようにNまたはCHであり、各Zは、独立して、不在であるか、または結合、NR、O、S、CH2、C(O)NR、NRC(O)、S(O)vNR、およびNRS(O)vから選択され、各mは、独立して、0、1、2、および3から選択され、各vは、独立して、1および2から選択され、各Rは、独立して、H、C1~C6から選択され、かつ各架橋部分は、独立して選択された結合またはC1~C6スペーサによりポリペプチドに結合される)
を含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明のある特定の実施形態では、ポリペプチドは、線状ポリペプチド内に存在する原子と架橋部分の原子との間の共有結合の形成により大環状化される。この架橋部分は、環状ポリペプチド生成物を与えるように線状ポリペプチド上の2つの反応部位を化学的にテザー結合する目的に役立つ。本発明の実施形態は、芳香族6員環を含有する架橋部分を含む以上に挙げた方法で環化されたポリペプチドを含む。これらの実施形態では、架橋部分との明確な化学結合を形成する線状ポリペプチドの原子は、ヘテロ原子(窒素、酸素、および硫黄を含むが、これらに限定されるものではない)または飽和もしくは不飽和の炭素原子でありうる。本発明のこれらの実施形態のそれぞれで、ポリペプチド側鎖の原子は、架橋部分の芳香環内の炭素原子に直接結合しうる。代替形態では、ポリペプチド側鎖の原子は飽和-CH2-基に結合しうるとともに、この基はさらに架橋部分の芳香環内の炭素原子に直接結合される。ある特定の場合には、架橋部分内の芳香族6員環は以下の構造のようにベンゼンである。式中、Zは、NH、S、O、および(CH)から選択しうる。
【0029】
【化2】
【0030】
本発明の代替形態では、架橋部分を含む芳香族6員環は、ヘテロ環式でありかつ1個以上の窒素原子を含有する。これらの実施形態では、芳香族ヘテロ環は、芳香環中に単一の窒素原子を含有するピリジンでありうる[たとえば、ZがNH、S、O、および(CH)から選択されうる以下の構造のいずれか]。
【0031】
【化3】
【0032】
芳香族ヘテロ環は、他の選択肢として、芳香環内の1,2-位に2個の隣接窒素原子を含有するピリダジンでありうる[たとえば、ZがNH、S、O、および(CH)から選択されうる以下の構造のいずれか]。
【0033】
【化4】
【0034】
他の実施形態では、芳香族ヘテロ環は、芳香環内の1,3-位に2個の窒素原子を含有するピリミジンでありうる[たとえば、ZがNH、S、O、および(CH)から選択されうる以下の構造のいずれか]。
【0035】
【化5】
【0036】
他の選択肢として、芳香族ヘテロ環は、芳香環内の1,4-位に2個の窒素原子を含有するピラジンでありうる[たとえば、ZがNH、S、O、および(CH)から選択されうる以下の構造のいずれか]。
【0037】
【化6】
【0038】
本発明の代替形態では、ポリペプチドは、線状ポリペプチドの原子とヘテロ環式芳香族5員環からなる架橋部分の原子との間の共有結合の形成の結果として大環状化される。これらの実施形態では、架橋部分との明確な化学結合を形成する線状ポリペプチドの原子は、ヘテロ原子(窒素、酸素、および硫黄を含むが、これらに限定されるものではない)または飽和もしくは不飽和の炭素原子でありうる。本発明のこれらの実施形態のそれぞれで、ポリペプチド側鎖の原子は、架橋部分の芳香環内の炭素原子または窒素原子に直接結合しうる。代替形態では、ポリペプチド側鎖の原子は飽和-CH2-基に結合しうるとともに、この基はさらに架橋部分の芳香環内の炭素原子または窒素原子に直接結合される。ある特定の場合には、架橋部分内のヘテロ環式芳香族5員環は1,2,3-トリアゾールである。これらの実施形態では、芳香環は、テザー結合される線状ポリペプチドの化学官能基により1位および4位で置換しうる。他の選択肢として、1,2,3-トリアゾールスキャフォールドは、テザー結合される線状ポリペプチドの原子に直接結合される-CH2-基により1位および4位で置換しうる[たとえば、ZがNH、S、O、および(CH)から選択されうる以下の構造のいずれか]。
【0039】
【化7】
【0040】
本発明の他の実施形態では、架橋部分を含むヘテロ環式芳香族5員環はピラゾールである。これらの実施形態では、芳香環は、テザー結合される線状ポリペプチドの化学官能基により1位および3位または1位および4位のいずれかで置換しうる。他の選択肢として、ピラゾールスキャフォールドは、テザー結合される線状ポリペプチドの原子に直接結合される-CH2-基により1位および3位または1位および4位のいずれかで置換しうる[たとえば、ZがNH、S、O、および(CH)から選択されうる以下の構造のいずれか]。
【0041】
【化8】
【0042】
とくに定義がない限り、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されているものと同一の意味を有する。本発明で特徴付けられた環状ポリペプチドおよび方法を実施または試験する際、本明細書に記載したものと類似のまたは等価な方法および材料を使用可能であるが、好適な方法および材料を以下に記載する。
【0043】
薬剤としてのポリペプチド
サイズおよび複雑性のおかげで、ポリペプチドは、その生物学的標的との多くのきわめて特異的な接触を形成可能であり、同一のファミリー内の関連性の高い標的と比較して、適正な標的または所望の標的に対する高レベルの選択性を示すことが可能である。オフターゲット効果(副作用としても知られる)はしばしば、安全性の懸念により、きわめて有効な薬剤が規制当局の認可を得られない原因となる。
【0044】
多くのポリペプチド(限定されるものではないが、ペプチドミメティックを含む)は有効な薬剤として開発されてきた。これらは、限定されるものではないが、インスリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、ソマトスタチン、バソプレシン、シクロスポリンAなどを含む。治療用ポリペプチドは、天然に存在する分子(すなわち、ヒトにおいて循環し、ヒト集団で「野生型」とみなされるもの)と同一でありうる。多くの他の場合には、ポリペプチドは、しばしば体内での代謝不安定性が原因で循環半減期が短いため、治療用としては好適でも準最適でもない。こうした場合には、薬動学的および薬力学的な挙動の改善をもたらすポリペプチド(ペプチドミメティック)の修飾体または変異体が使用される。他の場合には、天然源から誘導されたポリペプチドは、等価な作用機序および好ましい医薬プロファイルを有し、治療剤として使用可能である。たとえば、エキセナチド(エキセジン-4の合成体)は、ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)に類似した生物学的性質を有するが薬動学的挙動が改善されており、2型糖尿病の治療用としてFDAにより認可された。他の例として、サケカルシトニン(サケの鰓後腺から抽出されたカルシトニン)は、ヒトカルシトニンに類似しているがヒトカルシトニンよりも活性が高く、閉経後骨粗鬆症、高カルシウム血症、パジェット病、骨転移、および幻肢痛を治療するために使用しうる。
【0045】
ポリペプチドは、典型的には、非経口投与経路に限定される。ほぼすべての場合に、ポリペプチドは注射により送達しなければならない。なぜなら、非常に短いポリペプチド(たとえば、4~10アミノ酸残基を有するポリペプチド)でさえも、腸管の内側を覆う細胞膜を通り抜けることができないかまたはできても不十分であるからである。効率的な経口利用率を得るために、薬剤は、典型的には、体循環に進入するように消化管上皮細胞の管腔膜および側底膜の両方を通り抜ける必要がある。ポリペプチドの不十分な膜透過率および経口生物学的利用率の欠如は、その治療的使用を著しく制限する。
【0046】
薬剤としてのポリペプチドの有効性は、そのタンパク質分解安定性により影響を受けうる。生体内では、ポリペプチドは酵素により修飾または分解されうるので、意図された標的との相互作用の有効性が制限されうる。
【0047】
ポリペプチドの代謝性安定性は、その全体的柔軟性、分子内揺動、種々の内部動的プロセス、さらには多くの生物学的機能に関係するので、重要である。ポリペプチドの代謝性安定性は、薬剤のクリアランス、半減期、生物学的利用率(これらに限定されるものではない)などのパラメータに影響を及ぼすので、医薬の開発にきわめて重要でありうる。
【0048】
体内または血流中の治療用ポリペプチドを所与のレベルに維持することは、流出が起こるので困難でありうる。生体からのポリペプチドの流出量は変動しうるので、治療用ポリペプチドの投与を考える場合にはモニターすべきである。
【0049】
きわめて効力が高くかつきわめて特異的な補体活性化阻害剤または補体活性阻害剤および阻害剤製剤の著しい医療上の必要性が依然として存在する。
ペプチドミメティックの発見
ペプチドミメティックはさまざまな手段により同定しうる。いくつかの場合には、天然に存在するペプチドまたは天然タンパク質に見いだされる配列が開始点として使用される。これらの例では、出発ペプチド配列は、所望の標的分子と物理的に相互作用することが知られていることから選択されてきた。天然ペプチドは、レセプターのアゴニストもしくはアンタゴニストであるか、酵素を阻害するか、またはチャネルを変調することから選択しうる。天然タンパク質に見いだされる配列は、ヒトまたは動物において他のタンパク質またはなんらかの他の分子との相互作用に関与するドメインを含むことから選択しうる。多くの場合、相互作用するタンパク質に関する構造データは、公共データベース(たとえば、RCSBプロテイン・データ・バンク(RCSB Protein Data Bank);H.M.バーマン(H.M.Berman)、J.ウェストブルック(J.Westbrook)、Z.フェング(Z.Feng)、G.ギリランド(G.Gilliland)、T.N.バト(T.N.Bhat)、H.ウェイスシグ(H.Weissig)、I.N.シンジアロデ(I.N.Shindyalov)、P.E.ブルネ(P.E.Bourne)著、2000年、プロテイン・データ・バンク・ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Protein Data Bank Nucleic Acids Research)、第28巻、p.235-242)から入手可能であり、所望の標的と相互作用するタンパク質の特異的領域は、タンパク質複合体に関する結晶データから同定可能である。他の場合には、タンパク質の種々の部分に対応するポリペプチドを調製して、目的の標的への結合に関して試験することが可能である。同定したら、その安定性および効力を改善するために化学修飾を導入し、得られるペプチドミメティックが改善された薬動学的または薬力学的パラメータを有するようにする。
【0050】
他の場合には、ポリペプチドは、特異的な標的のタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、または全細胞に対する親和性に基づいてポリペプチドのライブラリーからポリペプチド配列を単離するためのいくつかの方法の1つにより単離される。かかる方法は、ファージディスプレイ、mRNAディスプレイ、リボソームディスプレイ、DNAディスプレイ、DNAコードアセンブリー、およびツーハイブリッドスクリーニング、さらにはそれらの修正版を含む(たとえば、タカハシ,T.T(Takashashi,T.T)ら著、2003年、トレンド・イン・バイオケミカル・サイエンス(Trends in Biochem.Sci.)、第28巻、第3号、p.159-165;ケイ,B.K.(Kay,B.K.)ら著、2001年、メソッズ(Methods)、第24巻、p.240-246;ヒー,M(He,M)およびタウスシグ,M(Taussig,M)著、2002年、ブリーフス・イン・ファンクショナル・ゲノミクス・アンド・プロテオミクス(Briefs in Functional Genomics and Proteomics)、第1巻、第2号、p.204-212;ロセ,A.(Rothe,A.)ら著、2006年、FASEBジャーナル(FASEB Journal)、第20巻、第10号、p.1599-1610を参照されたい;それらはすべてその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0051】
ポリペプチドは、ある特定の親和度および特異度で他の生物学的分子に結合可能な三次元構造をとりうる。いくつかは、非常に高い親和性および特異性で結合するであろう。ランダムポリペプチド配列のライブラリーは、多種多様な三次元構造を有する分子により構成されるであろう。特異的な標的タンパク質と相互作用するコンフォメーションを有するポリペプチドを単離するために、ライブラリーから個々の配列を調製して標的への親和性に関して試験またはスクリーニングすることが可能である。しかしながら、非常に大きなライブラリー(>10メンバー)では、結合親和性に関する個々の配列のスクリーニングは実現可能ではない。この制限を克服するために、標的への結合親和性によりきわめて大きな複合混合物から新規なポリペプチドを選択するいくつかの技術が開発されてきた。高親和性結合性ポリペプチドは集団内に非常に低頻度で存在すると予想されるので、これらの選択方法は、ポリペプチドとポリペプチドをコードする遺伝子材料(一般的にはDNAやRNAなどの核酸)との間の物理的リンクの維持に依拠する。したがって、ポリペプチドの選択は、それをコードする核酸の選択を自動的に含みうる。選択されたポリペプチドをコードする核酸を増幅して配列決定し、核酸およびポリペプチドの両方の配列を明らかにすることが可能である。一方法のファージディスプレイ(クワーラ,S.E.(Cwirla,S.E.)ら著、1990年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)、第87巻、p.6378-6382;ドウワー,W.J.(Dower,W.J.)およびクワーラ,S.E.(Cwirla,S.E.)著、米国特許第5,427,908号明細書および同第5,580,717号明細書を参照されたい)では、ライブラリーの各ランダムポリペプチドメンバーは、ポリペプチドとファージコートタンパク質の1つとの融合タンパク質の一部としてバクテリオファージ粒子の表面上に提示される。ファージ粒子は、同一の物理的エンティティー内にそれらを共局在化することによりポリペプチドとコードDNAとの間のリンクを提供し、続いて、選択されたファージを細菌に感染させることによりコードDNAを増幅することが可能である。他の方法のリボソームディスプレイ(カワサキ,G.H.(Kawasaki,G.H.)著、米国特許第5,658,754号明細書および同第5,643,768号明細書を参照されたい))では、メッセンジャーRNA(mRNA)分子の混合物は、混合物中の各mRNAについて、リボソームとmRNAとリボソームから突出する新たに合成されたポリペプチドとの安定化複合体を産生するようにin vitroで翻訳される。複合体の安定化は、ポリペプチドが目的の標的への結合に関してスクリーニングされる間の一体的保持を可能にする。選択されたポリペプチドをコードするmRNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて増幅可能であり、次いで、たとえば配列決定により特徴付け可能である。
【0052】
さらに他の方法のmRNAディスプレイ(スゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)およびロバーツ,R.W.(Roberts,R.W.)著、米国特許第6,258,558号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)では、ライブラリーの各mRNA分子はその3’末端がピューロマイシン様部分の共有結合付加により修飾される。ピューロマイシン様部分は、ペプチジルアクセプターとして機能するアミノアシルtRNAアクセプターステムアナログであり、mRNAを翻訳するリボソームのペプチジルトランスフェラーゼ活性により成長中のポリペプチド鎖に付加可能である。in vitro翻訳時、mRNAおよびコードポリペプチドはピューロマイシン様部分を介して共有結合された状態になり、RNA-ペプチド融合体を生成する。融合分子を標的へのそのポリペプチド成分の結合により選択した後、選択された融合分子のRNA成分はPCRを用いて増幅可能であり、次いで特徴付け可能である。いくつかの他の方法は、ポリペプチドとそのコード核酸との間の物理的リンクを生成して選択および増幅を容易にするように開発されてきた(ヤナガワ,H(Yanagawa,H)、ネモト,N.(Nemoto,N.)、ミヤモト,E.(Miyamoto,E.)、およびフシミ,Y(Husimi,Y)著、米国特許第6,361,943号明細書;ネモト,H(Nemoto,H)、ミヤモト-サトウ,E.(Miyamoto-Sato,E.)、フシミ,H(Husimi,H)、およびヤナガワ,H(Yanagawa,H)著、1997年、FEBSレター(FEBS Lett.)、第414巻、p.405-408;ゴールド,L.(Gold, L.)、ツエーク,C.(Tuerk,C.)、プリブノウ,D.(Pribnow,D.)、およびスミス,J.D.(Smith,J.D.)著、米国特許第5,843,701号明細書および同第6,194,550号明細書;ウィリアム,R.B.(Williams,R.B.)、米国特許第6,962,781号明細書;バスカービレ,S.(Baskerville,S.)およびバーテル,D.P.(Bartel,D.P.)著、2002年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第99巻、p.9154-9159;バスカービレ,S.(Baskerville,S.)およびバーテル,D.P.(Bartel,D.P.)著、米国特許第6,716,973号明細書;サーギーバ,A.(Sergeeva,A.)ら著、2006年、(Adv.Drug Deliv.Rev.)、第58巻、p.1622-1654(それぞれの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0053】
mRNAディスプレイは、ポリペプチドの大きなライブラリーを作製するのにとくに有用な方法である。したがって、本明細書には、補体タンパク質C5と相互作用するポリペプチド(またはポリペプチドをコードするmRNA)に関して選択する方法が提供される。ライブラリーは、一般に少なくとも102メンバー、より好ましくは少なくとも106メンバー、より好ましくは少なくとも109メンバーを含有するであろう(たとえば、mRNA-ポリペプチド複合体のいずれか)。いくつかの実施形態では、ライブラリーは、少なくとも1012メンバーまたは少なくとも1014メンバーを含むであろう。一般に、メンバーは互いに異なるであろうが、いずれのライブラリーにもある程度の重複が存在するであろうと予想される。ライブラリーは、すべてのメンバーの単一混合物として存在しうるか、もしくは、各々がライブラリーのサブセットを含有する個別の容器またはウェルに保持されるいくつかのプールに分割されうるか、またはライブラリーは、各容器またはウェルがライブラリーの1メンバーのみまたは少数のメンバーを含有する一群の容器またはプレート上のウェルでありうる。
【0054】
ライブラリーの各mRNAは、好ましくは、翻訳開始配列と、開始コドンと、たとえばヌクレオチドのランダムまたはセミランダムアセンブリーにより生成されかつライブラリーのmRNAによって異なるさまざまなポリペプチド(たとえば、タンパク質または短いペプチド)コード領域(にもかかわらず、ライブラリー内にはおそらくある程度の重複が存在するであろう)と、を含むであろう。翻訳開始配列、開始コドン、およびさまざまなポリペプチドコード領域は、たとえば選択後、mRNAのPCR増幅に使用可能な公知の固定配列によりフランキング可能である。存在可能な他の固定配列は、産生されたポリペプチドを翻訳後に修飾もしくは誘導体化できるように化学的もしくは酵素的な架橋反応に関与可能なアミノ酸をコードする配列、またはペプチド-mRNA融合体の精製を容易にしうるポリペプチドタグなどの固定C末端伸長部をコードする配列に対応するものを含む。
【0055】
ピューロマイシンで誘導体化されたmRNAのライブラリーを作製したら、ライブラリーは翻訳可能である。得られるポリペプチド(たとえば、提示されたポリペプチド)は、本明細書に記載されるようにその対応するmRNAに結合されるであろう(たとえば、mRNA-ポリペプチド複合体として)。
【0056】
多くのin vitro翻訳系が文献に記載されている。最も一般的な系は、ウサギ網状赤血球溶解物、コムギ胚芽抽出物、またはE.コリ(E.coli)抽出物を利用するものであり、キットの形態でいくつかの供給業者から入手可能である(たとえば、テキサス州オースティンのアビオン(Ambion)、ウィスコンシン州マディソンのプロメガ(Promega)、ニュージャージー州ギブズタウンのノバゲン/EMDケミカルズ(Novagen/EMD Chemicals)、カリフォルニア州バレンシアのキアゲン(Qiagen))。
【0057】
細胞内の翻訳に依拠するファージディスプレイまたは他の系とは異なり、mRNAディスプレイは、非天然または非標準のアミノ酸を用いてin vitro翻訳を行うことによりペプチドミメティックのライブラリーを直接作製するように適合化可能である。20種の天然タンパク質構成アミノ酸は、本明細書では、一文字または三文字のいずれかの表示により次のように同定および参照される:アスパラギン酸(Asp:D)、イソロイシン(Ile:I)、トレオニン(Thr:T)、ロイシン(Leu:L)、セリン(Ser:S)、チロシン(Tyr:Y)、グルタミン酸(Glu:E)、フェニルアラニン(Phe:F)、プロリン(Pro:P)、ヒスチジン(His:H)、グリシン(Gly:G)、リシン(Lys:K)、アラニン(Ala:A)、アルギニン(Arg:R)、システイン(Cys:C)、トリプトファン(Trp:W)、バリン(Val:V)、グルタミン(Gln:Q)、メチオニン(Met:M)、アスパラギン(Asn:N)。天然に存在するアミノ酸は、その左旋性(L)のステレオアイソマーの形態で存在する。本明細書で参照されるアミノ酸は、とくに指定がない限りL-ステレオアイソマーである。
【0058】
非天然アミノ酸は、以上に列挙した20種の天然アミノ酸に存在しない側鎖または他のフィーチャを有し、限定されるものではないが、当技術分野で公知のN-メチルアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、α,α-置換アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシアミノ酸、D-アミノ酸、および他の非天然アミノ酸を含む(たとえば、ジョセフソン(Josephson)ら著、2005年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、p.11727~11735;フォスター,A.C.(Forster,A.C.)ら著、2003年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第100巻、p.6353~6357;サブテルニル(Subtelny)ら著、2008年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第130巻、p.6131~6136;ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)ら著、2007年、プロス・ワン(PLoS ONE)、2:e972;およびハーマン(Hartman)ら著、2006年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第103巻、p.4356~4361を参照されたい)。
【0059】
適切なtRNAに結合する場合、天然または変異体のリボソームによりポリマーにアセンブル可能な本質的に任意のアミノ酸を使用可能である(サンド,S.(Sando,S.)ら著、2007年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第129巻、p.6180~6186;デドコバ,L.(Dedkova,L.)ら著、2003年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第125巻、p.6616~6617;ジョセフソン,K.(Josephson,K.)、ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)、およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)、2005年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、p.11727~11735;フォスター,A.C.(Forster,A.C.)ら著(2003年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第100巻、p.6353~6357;スブテルニー,A.O.(Subtelny,A.O.)、ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)、およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)、2008年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第130巻、p.6131~6136;およびハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)ら著、2007年、プロス・ワン(PLoS
ONE)、2:e972を参照されたい)。
【0060】
非天然アミノ酸が望まれる場合、内因性アミノアシル化tRNAの欠如した精製翻訳系を使用することが有利でありうる(シミズ,Y.(Shimizu,Y.)ら著、2001年、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nat.Biotech.)、第19巻、p.751~755;ジョセフソン,K.(Josephson,K.)、ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)、およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)、2005年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、p.11727~11735;フォスター,A.C.(Forster,A.C.)ら著、2003年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第100巻、p.6353~6357)。ライセートまたは抽出物に基づくin vitro翻訳系で非天然アミノ酸を使用する場合、以上に記載したように内因性tRNAの抽出物を枯渇させることが望ましいこともある(ジャクソン,R.J.(Jackson,R.J.)、ナプチン,S.(Napthine,S.)、およびブリエーレイ,I.(Brierley,I.)、2001年、RNA、第7巻、p.765~773)を参照されたい)。精製E.コリ(E.coli)翻訳因子に基づく系は市販されている(ピュレクスプレス(PUREXPRESS)(商標)、マサチューセッツ州イプスウィッチのニュー・イングランド・バイオラボ(New England Biolabs))。これらの系は、非天然アミノ酸を用いた翻訳によりペプチドミメティックを産生するのにとくに有用である。
【0061】
ライセートまたは抽出物に基づくin vitro翻訳系で天然アミノ酸を使用する場合、翻訳はtRNAシンテターゼによるtRNA上へのアミノ酸の酵素的付加に依存する。それらはすべて抽出物の成分である。他の選択肢として、精製された翻訳因子およびリボソームまたはtRNAが枯渇した抽出物を使用するin vitro翻訳系は、アミノアシル化tRNAの提供を必要とする。これらの例では、精製tRNAまたはin vitro合成tRNAは、化学的手順(フランケル,A(Frankel,A)、ミルワード,S.W.(Millward,S.W.)、およびロバーツ,R.W.(Roberts,R.W.)著、2003年、ケミカル・バイオロジー(Chem.Biol.)、第10巻、p.1043~1050)または酵素的手順(ジョセフソン,K.(Josephson,K.)、ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)、およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)、2005年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、p.11727~11735;ムラカミ,H.(Murakami,H.)ら著、2006年、ネイチャー・メソッズ(Nat.Methods)、第3巻、p.357~359を参照されたい)を用いてアミノ酸を付加可能である。
【0062】
多くの出版物には翻訳複合体からのmRNA提示ポリペプチドの回収が記載されており、これらは本明細書に記載の方法で使用するのに好適である(リュー,R.(Liu,R.)ら著、2000年、メソッズ・イン・エンツァイモロジー(Methods Enzymol.)、第318巻、p.268~293;バッギオ,R.(Baggio,R.)ら著、2002年、ジャーナル・オブ・モレキュラー・リコグニション(J.Mol.Recognit.)、第15巻、p.126~134;米国特許第6,261,804号明細書)。mRNA提示ポリペプチドの回収は、ポリペプチドコード配列の固定配列の翻訳によりポリペプチドに組み込まれて特異的な基質または分子に結合する種々の「タグ」を用いることにより促進しうる。Hisタグ、FLAGタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ、strepタグ、HSVタグ、T7タグ、Sタグ、DsbAタグ、DsbCタグ、Nusタグ、mycタグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、またはTrxタグをキャプチャーするための試薬をはじめとして、かかるタグをキャプチャーするための多くの試薬が市販されている(ニュージャージー州ギブズタウンのノバゲン(Novagen);イリノイ州ロックフォードのピアース(Pierce))。mRNA提示ポリペプチドはまた、ポリdT樹脂へのmRNA上のポリAテールの結合によりまたはポリAテールとHisタグとの組合せにより単離可能である。
【0063】
in vitro翻訳反応を行った後かつ選択工程の前に、官能基化RNAのmRNA部分は、典型的には、逆転写されてRNA-DNAハイブリッド分子を生成する。これはRNAを分解から保護する役割があり、さらには不適切な生成物の選択(たとえば、ポリペプチドアプタマーではなくRNAアプタマーの選択)をもたらすおそれのある、選択標的に結合可能な二次構造へのRNAのフォールディングを防止する。
【0064】
ポリペプチド-mRNA融合体のin vitro翻訳および単離の後、ポリペプチド部分は、分子内もしくは分子間架橋、化学的コンジュゲーション、酵素的切断、トランケーション、または追加のアミノ酸モノマーによる伸長により修飾しうる。これを達成する一方法は、ライブラリーを構成するポリペプチド中に反応性側鎖を有する非天然アミノ酸を組み込むことによるものである。翻訳後、新たに形成されたポリペプチドは、組み込まれたアミノ酸の反応性側鎖と特異的に反応する分子と反応させることが可能である。たとえば、末端アルキン側鎖を有するアミノ酸をポリペプチドライブラリーに組み込み、続いて、アジド糖と反応させて、アルキニル側鎖の位置で結合された糖を有する提示されたポリペプチドのライブラリーを作製すことが可能である(ジョセフソン,K.(Josephson,K.)、ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)、およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)、2005年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、p.11727~11735)。かかる翻訳後コンジュゲーションのために、アミン、カルボキシル基、アジド、末端アルキン、アルケン、およびチオールをはじめとするさまざまな反応性側鎖を使用することが可能である。
【0065】
とくに有用な修飾の1つは、環構造を生成するアミノ酸の架橋に基づく。ポリペプチドの環状領域は剛性ドメインを含有し、コンフォメーション柔軟性および回転自由度を低減するので、標的タンパク質への非常に高い親和性結合をもたらす。ポリペプチドを環化するいくつかの方法は当業者に利用可能であり、参照により本明細書に組み込まれる。典型的には、ポリペプチドの特異的なアミノ酸側鎖および/またはカルボキシル末端もしくはアミノ末端の化学反応性は、ポリペプチドの2つの部位を架橋して環状分子を生成するために活用される。一方法では、システイン残基のチオール基は、他のシステイン残基と架橋してジスルフィド結合を形成する。いくつかの実施形態では、システイン残基のチオール基は、ポリ(ブロモメチル)ベンゼン分子のブロモメチル基と反応して安定な結合を形成する(ティマーマン,P.(Timmerman,P.)ら著、2005年、ケムバイオケム(ChemBioChem)、第6巻、p.821~824(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。本発明に係るポリ(ブロモメチル)ベンゼン分子としては、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、および1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼンが挙げられうるが、これらに限定されるものではない。たとえば、ビス、トリス、およびテトラキス(ブロモメチル)ベンゼン分子は、それぞれ、1、2、または3つのループを有するポリペプチドを生成する架橋部分を形成するために使用可能である。ポリ(ブロモメチル)ベンゼン分子のブロモメチル基は、ベンゼン環の隣接する環炭素(オルト-またはo-)上に、2つの基を分離する環炭素(メタ-またはm-)を有して、または対向する環炭素(パラ-またはp-)上に配置しうる。いくつかの実施形態では、m-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(本明細書ではm-ジブロモキシレンとしても参照される)は環状ポリペプチドの形成に利用される。いくつかの実施形態では、o-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(本明細書ではo-ジブロモキシレンとしても参照される)またはp-ビス(ブロモメチル)ベンゼン(本明細書ではp-ジブロモキシレンとしても参照される)は、環状ポリペプチドの形成に利用される。いくつかの実施形態では、システイン残基のチオール基は、1個以上のブロモ官能基を含む他の試薬と反応して安定な結合を形成する。かかる試薬としては、ポリ(ブロモメチル)ピリジン(限定されるものではないが、2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジンを含む)、ポリ(ブロモメチル)アルキルベンゼン(限定されるものではないが、1,2-ビス(ブロモメチル)-4-アルキルベンゼンを含む)、および/または(E)-1,4-ジブロモブト-2-エンが挙げられうるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
他の例示的な方法では、側鎖アミノ基および末端アミノ基はジスクシンイミジルグルタレートで架橋される(ミルワード,S.W.(Millward,S.W.)ら著、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、p.14142~14143、2005年を参照されたい)。他の方法では、環化はポリペプチドの2つの部位間にチオエーテル結合を形成することにより達成される(ティマーマン,P.(Timmerman,P.)ら著、2005年、ケムバイオケム(ChemBioChem)、第6巻、p.821~824)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。酵素法は、ランチビオテックシンテターゼにより触媒される(1)システイン基と(2)デヒドロアラニン基またはデヒドロブチリン基との間の反応に依拠し、チオエーテル結合を形成する(レベングッド,M.R.(Levengood,M.R.)およびファン・デル・ドンク,W.A.(Van der Donk,W.A.)著、バイオオーガニック・アンド・メディシナル・ケミストリー・レターズ(Bioorg.and Med.Chem.Lett.)、第18巻、p.3025~3028、2008年を参照されたい)。デヒドロ官能基もまた、翻訳時に組み込まれたセレン含有アミノ酸側鎖の酸化により化学的に生成可能である(シーベック,F.P.(Seebeck,F.P.)およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)著、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、2006年)を参照されたい)。
【0067】
翻訳後修飾(たとえば、以上に記載されるポリペプチドの環化)に付されていてもいなくてもよい以上に記載の方法を用いて形成されたmRNA-ポリペプチド融合体のライブラリー(本明細書ではmRNAディスプレイライブラリーとしても参照される)は、望ましいポリペプチドを提示する複合体を単離するためにバッチ選択工程に付すことが可能である。
【0068】
典型的には、C5は、アガロースビーズや合成ポリマービーズなどの固体基材にコンジュゲートされる。固体担体にC5を固定するために多くの方法が利用可能である。とくに有用な方法の1つでは、C5はビオチンにコンジュゲートされ、このタンパク質を固定するためにストレプトアビジンビーズが使用される。固定化C5を含むビーズは、mRNAディスプレイライブラリーと混合され、ライブラリーの特異的なメンバーを標的に結合可能にする条件下(たとえば、温度、イオン強度、2価カチオン、および競合結合分子)でインキュベートされる。他の選択肢として、ビオチン化酵素は溶液中で遊離状態でありうるとともに、適切なポリペプチドへの結合後、C5に結合されたmRNA-ポリペプチド融合体は、適切に修飾されたビーズによりキャプチャーされる。
【0069】
結合条件は、選択のストリンジェンシーを変化させるために変更可能である。たとえば、低濃度の競合結合剤を添加して、選択されたポリペプチドが比較的高い親和性を有することを確認可能である。他の選択肢として、高いkon速度(会合の速度)を有するポリペプチドのみが単離されるように、非常に短いインキュベーション時間を選択可能である。このように、インキュベーション条件は、選択されるポリペプチドの性質の決定に重要な役割を果たす。負の選択も利用可能である。この場合、標的が結合される基質(たとえばセファロース)への親和性を有するポリペプチドを除去する選択は、標的タンパク質の欠如した基質ビーズに提示ライブラリーを適用することにより行われる。この工程により、標的タンパク質に特異的でないmRNAおよびそのコードポリペプチドを除去可能である。選択実験をいかに行うかを記載した多くの参照文献を利用可能である。(たとえば、米国特許第6,258,558号明細書、スミス,G.P.(Smith,G.P.)およびペトレンコ,V.A.(Petrenko,V.A.)著、1997年、ケミカル・レビューズ(Chem.Rev.)、第97巻、p.391~410;ケーフェ,A.D.(Keefe,A.D.)およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)著、2001年、ネイチャー(Nature)、第15巻、p.715~718;バッギオ,R.(Baggio,R.)ら著、2002年、ジャーナル・オブ・モレキュラー・レコグニション(J.Mol.Recog.)、第15巻、p.126~134;およびセーギーバ,A.(Sergeeva,A.)ら著、2006年、アドバンスド・ドラッグ・デリバリー・レビューズ(Adv.Drug Deliv.Rev.)、第58巻、p.1622~1654(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0070】
ランダム配列のライブラリー中に結合分子が存在する頻度は非常に低いと予想される。したがって、初期選択工程では、選択基準を満たすごくわずかなポリペプチド(およびその関連mRNA)を回収しなければならない。典型的には、選択は、第1ラウンドの選択から選択されたmRNAを用いて繰り返される。これは、第一ラウンドで選択されたmRNAまたは対応するcDNAを増幅するPCR、続いて、mRNAの新しいライブラリーを作製するためのin vitro転写により達成される。ライブラリーのmRNAの5’末端および3’末端に対応するPCRプライマーが使用される。典型的には、5’プライマーは、T7プロモーターなどの細菌性プロモーターが各増幅分子の5’末端に付加されるようにmRNAの末端を超えて5’方向に延在するであろう。増幅したら、二本鎖DNAは、後続の選択ラウンドのためのmRNAを形成するためにin vitro転写反応で使用可能である。
【0071】
選択プロセスは、典型的には、いくつかのラウンドまたはサイクルを含み、各ラウンドの終了時、選択された分子のプールは、特異的な配列セットで漸進的に富化される。選択条件は、各ラウンドで同一であってもよく、または条件は、たとえば、より後段のラウンドで選択のストリンジェンシーを増加させるように変化させてもよい。選択の進行は、35Sメチオニンなどの同位体標識アミノ酸を用いてモニターしうる。標的に結合された放射性標識ポリペプチドの量は各ラウンドで測定され、回収された放射性標識の漸進的増加は、標的への結合親和性を有するポリペプチドをコードするRNA分子の漸進的富化の指標となる。任意のラウンド後、PCR産物はクローニングおよび配列決定を行いうる。一般に、クローニングおよび配列決定は、認知可能な量(たとえば、固定化C5の欠如したビーズのバックグラウンドを>2%超える量)の放射性標識ポリペプチドが標的結合プールに回収されるラウンドの後に行われる。複数の単離物に見いだされる配列は、標的に特異的に結合するポリペプチドをコードする配列の候補である。他の選択肢として、初回または後続のラウンドの後、何千ものクローンの高スループット配列決定を行うことが可能である。たとえば、第3および第4のラウンド間で頻度が増加する配列は、標的に特異的に結合するポリペプチドをコードする配列の候補である。任意の配列によりコードされるポリペプチドを翻訳または合成して、選択に使用した最初の標的タンパク質への結合親和性に関して試験しうる。
【0072】
本発明に係るライブラリーおよび方法は、ポリペプチドの機能または性質を最適化するために使用しうる。一方法では、突然変異誘発PCR(ケーフェ,A.D.(Keefe,A.D.)およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)著、2001年、ネイチャー(Nature)、第15巻、p.715~718)は、ある特定のレベルの結合親和性を有するポリペプチドが富化された集団のライブラリーに配列変異を導入するために使用される。他の選択肢として、規定の結合性を有するが規定のレベルの突然変異を有するポリペプチドをコードする単一のRNA配列を複製可能であるか、または突然変異誘発PCRを行って突然変異分子のプールを作製することが可能である。in vitro翻訳の際、かかるプールから生成されたmRNA分子の得られた混合物は、出発配列と比較して改善された、類似の、または低減された一連の親和性を有するポリペプチドをコードすると予想されるので、かかるプールからのmRNAに対して行われる選択は、選択時に適切なストリンジェンシーレジメンを使用すれば、改善された親和性を有するポリペプチドを同定すると予想する。
【0073】
第2方法では、最適化は指向的に行われる。確立された結合性または機能性を有するポリペプチドをコードする配列を部位指向突然変異誘発に付すことにより、各配列の1つのコドンがたとえばアラニンコドンで置き換えられた一連の配列を生成する。セット中の配列の数は、突然変異されるアミノ酸残基の数に等しい。in vitro翻訳後、各「アラニンスキャニング」突然変異体のポリペプチド産物は、結合性または機能性に関して試験される。アラニン置換がポリペプチドの結合または機能に影響を及ぼす部位は、きわめて重要な残基であると見なされる。同様に、各残基がN-メチル誘導体で置き換えられるようにN-メチルスキャンを行いうるとともに、N-メチル置換に耐えうるポリペプチド骨格中の位置を同定することが可能である。
【0074】
他の選択肢として、配列をプールし、高ストリンジェンシー選択の1回以上のラウンドに付し、高親和性結合性ポリペプチドを提示する配列のプールを単離することが可能である。きわめて重要な残基は、回収されたDNAのDNA配列決定後、活性を損なうことなくアラニン残基による置換を行うことができないものとして同定される。きわめて重要な残基を同定したら、それぞれのきわめて重要な位置に多種多様な天然(または非天然)アミノ酸をコードするmRNA分子のプールを作製する。得られたプールは、高ストリンジェンシー選択の1回以上のラウンドに付され(天然または非天然アミノ酸が付加されたtRNAの適切な混合物を用いる)、高親和性結合性ポリペプチドを提示する配列は、in
vitro翻訳後に単離される。このようにして、最適ポリペプチドを同定することが可能である。最適配列は必ずしも個々の部位の最適残基の組合せにより同定されるとは限らないので、組み合わされた複数の部位で突然変異を試験することが有用である。
【0075】
アラニンスキャニングおよびN-メチルスキャニングは両方とも、固相ポリペプチド合成などの化学合成法を用いて行うことが可能である(たとえば、コイン,I(Coin,I)ら著、2007年、ネイチャー・プロトコルズ(Nature Protocols)、第2巻、第12号、p.3247~56(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
【0076】
ポリペプチドのプール、集団、またはサブセットを同定したら、改善された薬動学的および/または薬力学的な性質を含めて、治療または診断の用途に関して評価しうる。
一実施形態では、ポリペプチドは、標的結合親和性、生化学的アッセイまたは細胞ベースのアッセイでの活性、プロテアーゼ耐性、in vitroまたはin vivoの透過性、医薬剤としての使用適性に関連する性質、たとえば、血漿タンパク質結合、代謝(ミクロソーム、肝細胞、または血漿で)、P糖タンパク質(Pgp)阻害、およびシトクロムP450阻害の1つ以上に関して評価される。本発明に係るポリペプチドはまた、疾患の動物モデルで経口生物学的利用率、毒性、ヒトether-a-go-go関連遺伝子産物(hERG)阻害、循環半減期、他の薬動学的および薬力学的なパラメータ、および有効性に関して試験を行いうる。
【0077】
本発明に係るポリペプチド
本発明によれば、単一のポリペプチドまたは候補ポリペプチド分子のプールを同定したら、標準的な化学合成技術およびポリペプチド合成技術を用いて構造活性相関(SAR)最適化の1回以上のラウンドを行いうる。かかる最適化は、細胞透過を阻害するおそれのある荷電極性側鎖(Asp、Glu、Arg、Lys)の回避、代謝負担を呈する側鎖(Tyr、Met、Trp、Cys)の回避、溶解性の向上、不要な分子量の回避、回転可能な結合の回避、親油性の改変などの要件を含みうる。
【0078】
一実施形態では、本発明の目的は、代謝安定性、細胞透過性、および/または経口利用性となるように設計された環状ペプチドミメティックを提供することである。
アミノ酸変異体
本明細書で用いられる場合、「アミノ酸」という用語は、非天然アミノ酸さらには天然アミノ酸の残基を含む。この用語はまた、従来のアミノ保護基(たとえば、アセチルまたはベンジルオキシカルボニル)を有するアミノ酸、さらにはカルボキシ末端が保護された天然および非天然アミノ酸(たとえば、(C1~C6)アルキル、フェニル、もしくはベンジルエステルもしくはアミドとして、またはα-メチルベンジルアミドとして)を含む。他の好適なアミノ保護基およびカルボキシ保護基は当業者に公知である(たとえば、グリーネ,T.W.(Greene,T.W.)、ウッツ,P.G.M.(Wutz,P.G.M.)著、有機合成の保護基(Protecting Groups In Organic Synthesis)、第2版、1991年、ニューヨーク、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & sons,Inc.)、およびそれらに引用された文書を参照されたい)。本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物はまた、修飾アミノ酸を含みうる。
【0079】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物の最適化に有用な非天然アミノ酸としては、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-1-カルボン酸、1-アミノ-2,3-ヒドロ-1H-インデン-1-カルボン酸、ホモリシン、ホモアルギニン、ホモセリン、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、5-アミノペンタン酸、5-アミノヘキサン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、デスモシン、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモプロリン、ヒドロキシリシン、アロ-ヒドロキシリシン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルペンチルグリシン、ナフチルアラニン、オルニチン、ペンチルグリシン、チオプロリン、ノルバリン、tert-ブチルグリシン、フェニルグリシン、アザトリプトファン、5-アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、4-フルオロフェニルアラニン、ペニシラミン、サルコシン、ホモシステイン、1-アミノシクロプロパンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、4-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-カルボン酸、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、シクロペンチルグリシン、シクロヘキシルグリシン、シクロプロピルグリシン、η-ω-メチル-アルギニン、4-クロロフェニルアラニン、3-クロロチロシン、3-フルオロチロシン、5-フルオロトリプトファン、5-クロロトリプトファン、シトルリン、4-クロロ-ホモフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、4-アミノメチル-フェニルアラニン、3-アミノメチル-フェニルアラニン、オクチルグリシン、ノルロイシン、トラネキサム酸、2-アミノペンタン酸、2-アミノヘキサン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノオクタン酸、2-アミノノナン酸、2-アミノデカン酸、2-アミノウンデカン酸、2-アミノドデカン酸、アミノ吉草酸および2-(2-アミノエトキシ)酢酸、ピペコリン酸、2-カルボキシアゼチジン、ヘキサフルオロロイシン、3-フルオロバリン、2-アミノ-4,4-ジフルオロ-3-メチルブタン酸、3-フルオロ-イソロイシン、4-フルオロイソロイシン、5-フルオロイソロイシン、4-メチル-フェニルグリシン、4-エチル-フェニルグリシン、4-イソプロピル-フェニルグリシン、(S)-2-アミノ-5-アジドペンタン酸(本明細書では「X02」としても参照される)、(S)-2-アミノヘプト-6-エン酸(本明細書では「X30」としても参照される)、(S)-2-アミノペント-4-イン酸(本明細書では「X31」としても参照される)、(S)-2-アミノペント-4-エン酸(本明細書では「X12」としても参照される)、(S)-2-アミノ-5-(3-メチルグアニジノ)ペンタン酸、(S)-2-アミノ-3-(4-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(3-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-4-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-ロイシノール、(S)-バリノール、(S)-tert-ロイシノール、(R)-3-ヘチルブタン-2-アミン、(S)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミン、および(S)-N,2-ジメチル-1-(ピリジン-2-イル)プロパン-1-アミン、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、および(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)ブタン酸、および(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)ブタン酸、2-(2’MeOフェニル)-2-アミノ酢酸、テトラヒドロ3-イソキノリンカルボン酸、およびそれらのステレオアイソマー(限定されるものではないが、DおよびL異性体を含む)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化に有用なそのほかの非天然アミノ酸としては、1個以上の炭素結合水素原子がフッ素で置き換えられたフッ素化アミノ酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。含まれるフッ素原子の数は、水素原子1個~全部の範囲内でありうる。かかるアミノ酸の例としては、3-フルオロプロリン、3,3-ジフルオロプロリン、4-フルオロプロリン、4,4-ジフルオロプロリン、3,4-ジフルロプロリン、3,3、4,4テトラフルオロプロリン、4-フルオロトリプトファン、5-フルロトリプトファン、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、およびそれらのステレオアイソマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化に有用なさらなる非天然アミノ酸としては、α-炭素が二置換されたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、α-炭素上の2個の置換基が同一であるアミノ酸、たとえば、α-アミノイソ酪酸および2-アミノ-2-エチルブタン酸、さらには置換基が異なるもの、たとえば、α-メチルフェニルグリシンおよびα-メチルプロリンを含む。さらに、α-炭素上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、たとえば、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、3-アミノテトラヒドロフラン-3-カルボン酸、3-アミノテトラヒドロピラン-3-カルボン酸、4-アミノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸、3-アミノピロリジン-3-カルボン酸、3-アミノピペリジン-3-カルボン酸、4-アミノピペリジン-4-カルボン酸、およびそれらのステレオアイソマーであってもよい。
【0082】
本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化に有用なそのほかの非天然アミノ酸としては、N、O、またはSから独立して選択される0、1、2、3、または4個のヘテロ原子を含む他の9または10員二環式環系によりインドール環系が置き換えられたトリプトファンのアナログが挙げられるが、これらに限定されるものではない。各環系は、飽和、部分不飽和、または完全不飽和でありうる。環系は、任意の置換可能な原子が0,1、2、3、または4個の置換基により置換されうる。各置換基は、独立して、H、F、Cl、Br、CN、COOR、CONRR’、オキソ、OR、NRR’から選択される。各RおよびR’は、独立して、H、C1~C20アルキル、C1~C20アルキル-O-C1~20アルキルから選択される。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化に有用なトリプトファンのアナログ(本明細書では「トリプトファンアナログ」としても参照される)としては、5-フルオロトリプトファン[(5-F)W]、5-メチル-O-トリプトファン[(5-MeO)W]、1-メチルトリプトファン[(1-Me-W)または(1-Me)W]、D-トリプトファン(D-Trp)、アザトリプトファン(限定されるものではないが、4-アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、および5-アザトリプトファンを含む)、5-クロロトリプトファン、4-フルオロトリプトファン、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、およびそれらのステレオアイソマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。逆の指示がある場合を除いて、本明細書で用いられる「アザトリプトファン」という用語およびその略号「アザTrp」は、7-アザトリプトファンを意味する。
【0084】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物の最適化に有用で修飾アミノ酸残基としては、N末端アミノ基またはその側鎖基が化学的にブロックされているか、可逆的もしくは不可逆的または化学的に修飾されているもの、あるいはアミド骨格が化学的に修飾されているもの、たとえば、N-メチル化されているもの、D(非天然アミノ酸)およびL(天然アミノ酸)ステレオアイソマー、あるいは側鎖官能基が化学的に修飾されて他の官能基になっている残基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。たとえば、修飾アミノ酸としては、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルホン、アスパラギン酸-(β-メチルエステル)、アスパラギン酸の修飾アミノ酸、N-エチルグリシン、グリシンの修飾アミノ酸、またはアラニンカルボキサミドおよびアラニンの修飾アミノ酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。非天然アミノ酸は、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州セントルイス)、バッケム(Bachem)(カリフォルニア州トーランス)、または他の供給業者から購入しうる。非天然アミノ酸は、米国特許出願公開第2011/0172126号明細書(それらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)の表2に列挙されたものをいずれもさらに含みうる。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物のアミノ酸配列は、天然に存在するアミノ酸のみを含みうる。ペプチド、ポリペプチド、および/またはそれらのフラグメントという用語が相対サイズを意味することは当技術分野で公知であるが、本明細書で用いられるこれらの用語は、本明細書で参照される種々のポリペプチド系分子のサイズに関して限定するもと見なすべきではなく、とくに断りのない限り、それらは本発明の範囲内に包含される。本発明のいくつかの実施形態では、ポリペプチドは、天然に存在するアミノ酸および天然に存在しないアミノ酸の両方および/または修飾アミノ酸を含みうるか、または排他的に天然に存在しないアミノ酸で構成されうる。
【0086】
ポリペプチド変異体
本発明によれば、アミノ酸系分子(天然または非天然)はいずれも「ポリペプチド」と称しうるとともに、この用語は「ペプチド」、「ペプチドミメティック」、および「タンパク質」を包含する。ポリペプチドはタンパク質のカテゴリーでもあり、伝統的には約4~約50アミノ酸の範囲内のサイズであると見なされる。ジペプチドは、2個のアミノ酸残基を有するもので、ポリペプチドのカテゴリーであり、トリペプチド(3個のアミノ酸を含むポリペプチド)も同様である。約50アミノ酸よりも大きなポリペプチドは一般に「タンパク質」と称される。ポリペプチド配列は線状であっても環状であってもよい。たとえば、環状ポリペプチドは調製可能であるかまたは配列中の2個のシステイン残基間のジスルフィド結合の形成により得られうる。ポリペプチドは、カルボキシ末端、アミノ末端、または任意の他の便利な結合点を介して、たとえば、システインの硫黄またはアミノ酸残基の任意の側鎖を介して、または限定されるものではないが、マレイミド結合、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオールエーテル結合、ヒドラゾン結合、またはアセトアミド結合をはじめとする他の結合を介して、環化可能である。いくつかの実施形態では、分子がポリペプチドの2つ以上の領域を結合する架橋部分として作用する場合、環状ポリペプチドが形成される。
【0087】
「アミノ酸配列変異体」という用語は、出発配列、参照配列、または天然配列と比較して、そのアミノ酸配列にいくつかの差異を有するポリペプチドを意味する。アミノ酸配列変異体は、アミノ酸配列内のある特定の位置に置換、欠失、および/または挿入を有しうる。通常、変異体は、天然配列または出発配列に対して少なくとも約70%の相同性を有するであろう。好ましくは、天然配列または出発配列に対して少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の相同性であろう。
【0088】
アミノ酸配列に適用される「相同性」は、最大パーセントの相同性を達成するように配列のアライメントおよび必要であればギャップの導入を行った後、第2の配列のアミノ酸配列中の残基と同一である候補アミノ酸配列中の残基のパーセントとして定義される。アライメントの方法およびコンピュータープログラムは当技術分野で周知である。相同性は同一性パーセントの計算に依存するが、計算に導入されたギャップおよびペナルティーに起因して値が異なりうるものと理解される。
【0089】
アミノ酸配列に適用される「ホモログ」とは、第2の種の第2の配列に対して実質的な同一性を有する他の種の対応する配列を意味する。
「アナログ」とは、1つ以上のアミノ酸変化、たとえば、アミノ酸残基の置換、付加、または欠失を有する点で異なるが、依然として親ポリペプチドまたは出発ポリペプチドの性質の1つ以上を維持するアミノ酸配列変異体を含むことを意味する。
【0090】
本発明は、変異体および誘導体を含むポリペプチドを含むいくつかのタイプの組成物を企図する。これらは、置換、挿入、欠失、および共有結合の変異体および誘導体を含む。「誘導体」という用語は、「変異体」という用語と同義的に用いられ、参照分子または出発分子と比較してなんらかの修飾または変化を受けた分子を意味する。
【0091】
このため、置換、挿入、および/または付加、欠失、ならびに共有結合修飾を含有するポリペプチドは、本発明の範囲内に含まれる。たとえば、1個以上のリシンなどの配列タグまたはアミノ酸は、本発明に係るポリペプチド配列に付加可能である(たとえば、N末端またはC末端に)。配列タグは、ポリペプチドの精製または局在化に使用可能である。リシンは、ポリペプチドの溶解性を向上させるために、または限定されるものではないが、ビオチン化やPEG化などの部位特異的修飾を可能にするために使用可能である。いくつかの場合には、ポリペプチドはデスチオビオチン化されうる。本明細書で用いられる場合、デスチオビオチン化されたポリペプチドは、リシン残基のε-アミノ基にコンジュゲートされたデスチオビオチン(Dtb)部分を含みうる。かかるリシン残基は、いくつかの場合にはC末端残基でありうる。他の選択肢として、ポリペプチドのアミノ酸配列のカルボキシ末端領域およびアミノ末端領域に位置するアミノ酸残基は、任意選択で欠失されてトランケート配列を提供しうる。ある特定のアミノ酸(たとえば、C末端残基またはN末端残基)は、他の選択肢として、可溶性のまたは固体担体に結合されたより大きな配列の一部としての配列の発現のような配列の使用に依存して欠失されうる。
【0092】
ポリペプチドを参照するときの「置換変異体」とは、天然配列または出発配列中の少なくとも1個のアミノ酸残基が除去されてその代わりに同一位置に異なるアミノ酸が挿入されたものである。置換は、単一でありうる(分子中の1個のアミノ酸のみが置換された場合)、または複数でありうる(同一分子中の2個以上アミノ酸が置換された場合)。
【0093】
本明細書で用いられる場合、「保存的アミノ酸置換」という用語は、類似のサイズ、荷電、または極性を有する異なるアミノ酸により配列中に通常存在するアミノ酸を置き換えることを意味する。保存的置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシンなどの非極性(疎水性)残基により他の非極性残基を置き換えることが挙げられる。同様に、保存的置換の例としては、アルギニンとリシンとの間、グルタミンとアスパラギンとの間、グリシンとセリンとの間などで、一方の極性(親水性)残基により他方の残基を置き換えることが挙げられる。そのほかに、リシン、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性残基により他の残基を置き換えたり、またはアスパラギン酸やグルタミン酸などの一方の酸性残基により他方の酸性残基を置き換えたりすることも、保存的置換のそのほかの例である。非保存的置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、メチオニンなどの非極性(疎水性)アミノ酸残基によりシステイン、グルタミン、グルタミン酸、リシンなどの極性(親水性)残基を置き換えたり、および/または極性残基により非極性残基を置き換えたりすることが挙げられる。
【0094】
「アイソスター」とは、同一の構成で同数の全電子または価電子を有する結果として生物学的性質のいくつかの類似性を呈し、かつ必ずしも同数の原子とは限らず、異なる原子からなる2つ以上の分子の1つである。古典的および非古典的の2つのクラスのアイソスターが存在する。古典的アイソスターは、同数の原子および/または同数の価電子を有し、一方、非古典的アイソスターは、in vivoで類似の生物学的作用を生じるが同数の原子および/または価電子を有していない分子である。
【0095】
本発明によれば、「ペプチド結合アイソスター」は、ペプチド結合に類似した性質を有するアイソスターとして定義される。ペプチド結合アイソスターは、少なくとも1つのペプチド結合交換を含む線状タイプでありうるかまたは環状でありうるとともに、アミン機能とカルボン酸機能とを含む。かかる交換は、分子の物理化学的、構造的、または機能的な性質を改善する任意の部分を用いたものでありうる。ペプチド結合の交換は、ポリペプチドの代謝性安定性の向上および柔軟性の低減または増加をもたらしうる。本明細書に記載のペプチド結合アイソスターは、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、セクスタ-、セプタ-、オクタ-、ノナ-、またはデカ-ペプチド結合アイソスターでありうる。このことは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のペプチド結合を交換しうることを意味する。アミド(ペプチド)結合に対する線状ジペプチド結合アイソスターの例は、限定されるものではないが、チオアミド、スルホンアミド、スルホネート、ホスホンアミド、ホスホネート、ホスホチオエート、ホスフィネート、アルカン、1または2ヒドロキシエチレン、ジヒドロキシルエチレン、C-C単結合(アルカン)、C-C二重結合(アルケン)、C-C三重結合(アルキン)、C-O結合(メチレンオキシ)、O-NまたはN-O結合、(メチレネミノ)、トリアゾール、ヒドラジド、ウレア、ケトン、ウレタン結合、(ジ)ハロアルケン、メチレンメルカプト、メチレンアミノ、トリフルオロエチルアミノ、ヒドラジド、アミドオキシ、および当業者に公知の他のものを含む。
【0096】
ペプチド結合アイソスターはまた、アミン機能およびカルボン酸機能で修飾された環状分子でありうる。さまざまな環サイズを有する環状ペプチド結合アイソスターの例は、限定されるものではないが、カルバ環、アザ環、およびオキサ環を含む。アザ環は、二環状構造アイソスターを形成するアルカロイド核に基づきうる。アザ環状アイソスターの例は、銅触媒アジド-アルキン付加環化により形成されるトリアゾール環に基づくアイソスターを含む。本明細書に記載の環状ペプチド結合アイソスターは、ビ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、セクスタ-、セプタ-、オクタ-、ノナ-、デカ-ペプチド環状アイソスターでありうる。
【0097】
ポリペプチドを参照するときの「挿入変異体」とは、天然配列または出発配列中の特定の位置のアミノ酸に直接隣接して挿入された1個以上のアミノ酸を有するものである。アミノ酸に「直接隣接して」とは、アミノ酸のα-カルボキシ官能基またはα-アミノ官能基のいずれかに結合されることを意味する。
【0098】
ポリペプチドを参照するときの「欠失変異体」とは、天然アミノ酸配列または出発アミノ酸配列中の1個以上のアミノ酸が除去されたものである。通常、欠失変異体は、分子の特定の領域に欠失した1個以上のアミノ酸を有するであろう。
【0099】
ポリペプチドを参照するときの「トランケート変異体」とは、天然アミノ酸配列または出発アミノ酸配列中の1個以上のアミノ酸がポリペプチドのいずれかの末端から除去されたものである。
【0100】
本発明によれば、ポリペプチドは1個以上のコンジュゲート基の付加により修飾されうる。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは1種以上の追加の分子と組み合わせて投与されうる。
【0101】
本明細書で用いられる場合、「コンジュゲート」とは、他の分子に付加された任意の分子または部分を意味する。本発明では、コンジュゲートは、ポリペプチド(アミノ酸)に基づくものであってもなくてもよい。コンジュゲートは、脂質、低分子、RNA、DNA、ポリペプチド、ポリマー、またはそれらの組合せを含みうる。機能的には、コンジュゲートは標的化分子として機能しうるか、または細胞、器官、もしくは組織に送達されるペイロードとして機能しうる。コンジュゲートは、典型的には、ポリペプチドの標的アミノ酸残基または末端と、選択された側鎖または末端残基と反応可能な有機誘導体化剤と、の反応により導入された共有結合修飾である。かかる修飾は、当技術分野の通常の技術の範囲内であり、過度の実験を伴うことなく行われる。
【0102】
コンジュゲーションプロセスは、PEG化、脂質化、アルブミン化、ビオチン化、デスチオビオチン化、他のポリペプチドテールの付加、または抗体Fcドメイン、無傷抗体のCDR領域、もしくは任意の数の手段により生成された抗体ドメインへのグラフト化を含みうる。コンジュゲートは、コレステロールオレエート部分、コレステリルラウレート部分、α-トコフェロール部分、フィトール部分、オレエート部分、もしくは不飽和コレステロールエステル部分を含むアンカー、またはアセトアニリド、アニリド、アミノキノリン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、環状ポリペプチド、ジベンゾアゼピン、ジギタリスグリコシド、麦角アルカロイド、フラボノイド、イミダゾール、キノリン、マクロライド、ナフタレン、オピエート(たとえば、限定されるものではないが、モルフィナンもしくは他の向精神薬剤)、オキサジン、オキサゾール、フェニルアルキルアミン、ピペリジン、多環式芳香族炭化水素、ピロリジン、ピロリジノン、スチルベン、スルホニル尿素、スルホン、トリアゾール、トロパン、およびビンカアルカロイドから選択される親油性化合物を含みうる。
【0103】
本明細書で用いられる場合、ポリペプチドを参照するときの「共有結合誘導体」という用語は、有機タンパク質もしくは非タンパク質誘導体化剤による天然ポリペプチドもしくは出発ポリペプチドの修飾および/または翻訳後修飾を含む。共有結合修飾は、伝統的には、ポリペプチドの標的アミノ酸残基と、選択された側鎖または末端残基と反応可能な有機誘導体化剤と、を反応させることにより、または選択された組換え宿主細胞で機能する翻訳後修飾の機序を利用することにより、導入される。得られる共有結合誘導体は、生物学的活性、免疫アッセイ、または組換えタンパク質の免疫アフィニティー精製用の抗タンパク質抗体の調製に重要な残基の同定を目的とするプログラムに有用である。かかる修飾は、当技術分野の通常の技術の範囲内であり、過度の実験を伴うことなく行われる。
【0104】
ある特定の翻訳後修飾は、発現されたポリペプチドに対する組換え宿主細胞の作用の結果である。グルタミニル残基およびアスパラギニル残基は、多くの場合、翻訳後に脱アミド化されて対応するグルタミル残基およびアスパルチル残基になる。他の選択肢として、これらの残基は、弱酸性条件下で脱アミド化される。これらの残基のいずれの形態も、本発明に従って生成されたポリペプチド中に存在しうる。
【0105】
他の翻訳後修飾としては、プロリンおよびリシンのヒドロキシル化、チロシニル残基、セリル残基、またはトレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リシン側鎖、アルギニン側鎖、およびヒスチジン側鎖のα-アミノ基のメチル化が挙げられる(クレイトン,T.E.(Creighton,T.E.)著、タンパク質:構造および分子の性質(Proteins:Structure and Molecular Properties)、W.H.フリーマン& Co.(W.H.Freeman & Co.)、サンフランシスコ、1983年、p.79-86)。
【0106】
共有結合修飾は、具体的には、本発明に係るポリペプチドへの非タンパク質ポリマーの結合を含む。非タンパク質ポリマーは、親水性合成ポリマー、すなわち、天然には見いだされないポリマーを含みうる。しかしながら、天然に存在しかつ組換え法またはin vitro法により生成されるポリマーは、天然から単離されるポリマーと同様に有用である。親水性ポリビニルポリマー、たとえば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンは、本発明の範囲内に含まれる。ポリペプチドは、米国特許第4,640,835号明細書、同第4,496,689号明細書、同第4,301,144号明細書、同第4,670,417号明細書、同第4,791,192号明細書、または同第4,179,337号明細書に示されるように、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンなどの種々の非タンパク質ポリマーに結合されうる。
【0107】
ポリペプチドを参照するときの「フィーチャ」は、分子の識別可能なアミノ酸配列ベースの要素として定義される。本発明に係るポリペプチドのフィーチャは、表面性状、局所コンフォメーション形状、フォールド、ループ、ハーフループ、ドメイン、ハーフドメイン、部位、末端、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0108】
本明細書で用いられる場合、ポリペプチドを参照するときの「フォールド」という用語は、エネルギー最小化時に得られるアミノ酸配列のコンフォメーションを意味する。フォールドは、二次または三次レベルのフォールディングプロセスで生じうる。二次レベルのフォールドの例としては、βシートおよびαヘリックスが挙げられる。三次レベルのフォールドの例としては、物理化学的に識別可能な領域の凝集または分離に起因して形成されるドメインおよび領域が挙げられる。このようにして形成される領域は、疎水性および親水性のポケットなどを含む。
【0109】
本明細書で用いられる場合、タンパク質のコンフォメーションに関する「ターン」という用語は、ポリペプチドの骨格の方向を変化させる曲げを意味し、1、2、3個、またはそれ以上のアミノ酸残基を含みうる。
【0110】
本明細書で用いられる場合、ポリペプチドを参照するときの「ループ」という用語は、ポリペプチドの骨格の方向を逆転するように機能するポリペプチドの構造上の特徴を意味する。ループがポリペプチド中に見いだされ、かつ骨格の方向のみを変化させる場合、それは4個以上のアミノ酸残基を含みうる。オリーバ(Oliva)らは、少なくとも5クラスのタンパク質ループを同定した(オリーバ,B.(Oliva,B.)ら著、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J Mol Biol.)、1997年3月7日、第266巻、第4号、p.814~30(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。ループは開いていても閉じていてもよい。2個のアミノ酸が架橋部分により結合される場合、閉ループまたは「環状」ループが形成されうる。環状ループは、架橋アミノ酸間に存在するポリペプチドに沿ってアミノ酸を含む。環状ループは、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、またはそれ以上のアミノ酸を含みうる。
【0111】
本明細書で用いられる場合、ポリペプチドを参照するときの「ハーフループ」という用語は、その由来源のループのアミノ酸残基の数の少なくとも半分を有する同定されたループの一部を意味する。ループは必ずしも偶数のアミノ酸残基を含むとは限らないものと理解される。したがって、ループが奇数のアミノ酸を含むかまたは含むと同定される場合、奇数のループのハーフループは、ループの整数部分またはその次の整数部分を含むであろう(ループのアミノ酸の数/2+/-0.5アミノ酸)。たとえば、7アミノ酸ループとして同定されるループは、3アミノ酸または4アミノ酸のハーフループを生成しうる(7/2=3.5+/-0.5は3または4である)。
【0112】
本明細書で用いられる場合、タンパク質を参照するときの「領域」という用語はゾーンまたは一般領域を意味する。いくつかの実施形態では、タンパク質を参照するときの領域は、タンパク質に沿ってアミノ酸の線状配列を含みうるか、または特異的な二次構造もしくは三次構造および/または1つ以上のフィーチャもしくはタンパク質ドメインを含みうる。
【0113】
本明細書で用いられる場合、タンパク質を参照するときの「ドメイン」という用語は、1つ以上の同定可能な構造上の特徴もしくは性質(たとえば二次構造もしくは三次構造)または機能上の特性もしくは性質(たとえば、結合能、タンパク質-タンパク質相互作用部位としての機能)を有するポリペプチドのモチーフを意味する。
【0114】
本明細書で用いられる場合、タンパク質を参照するときの「ハーフドメイン」という用語は、その由来源のドメインのアミノ酸残基の数の少なくとも半分を有する同定されたドメインの一部を意味する。ドメインは必ずしも偶数のアミノ酸残基を含むとは限らないものと理解される。したがって、ドメインが奇数のアミノ酸を含むかまたは含むと同定される場合、奇数のドメインのハーフドメインは、ドメインの整数部分またはその次の整数部分を含むであろう(ドメインのアミノ酸の数/2+/-0.5アミノ酸)。たとえば、7アミノ酸ドメインとして同定されるドメインは、3アミノ酸または4アミノ酸のハーフドメインを生成しうる(7/2=3.5+/-0.5は3または4である)。また、サブドメインはドメイン内またはハーフドメイン内に同定されうるものと理解される。これらのサブドメインは、それらの由来源のドメインまたはハーフドメインで同定される構造上または機能上の性質をすべてではないが満たす。また、本明細書のドメインタイプのいずれかを含むアミノ酸は、ポリペプチドの骨格に沿って隣接している必要はないものと理解される(すなわち、非隣接アミノ酸は、構造的にフォールディングしてドメイン、ハーフドメイン、またはサブドメインを生成しうる)。
【0115】
本明細書で用いられる場合、アミノ酸に基づく実施形態に関してポリペプチドを参照するときの「部位」という用語は、「アミノ酸残基」および「アミノ酸側鎖」と同義的に用いられる。部位は、本発明に係るポリペプチド系分子内で修飾、操作、改変、誘導体化、または変異が行われていてもよいポリペプチド内の位置を表す。
【0116】
本明細書で用いられる場合、ポリペプチドを参照するときの「末端」という用語は、ポリペプチドの末端を意味する。かかる末端は、ポリペプチドの最初または最後の部位のみに限定されるものではなく、末端領域のそのほかのアミノ酸を含みうる。本発明に係るポリペプチド系分子はN末端およびC末端の両方を有するものとして特徴付けられうる。本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、いくつかの場合、ジスルフィド結合または非共有結合力により一体化された複数のポリペプチド鎖で構成される(マルチマー、オリゴマー)。これらの種類のタンパク質は複数のN末端およびC末端を有するであろう。他の選択肢として、ポリペプチドの末端は、場合により、有機コンジュゲートなどの非ポリペプチド系部分で開始または終了するように修飾されうる。
【0117】
一実施形態では、本発明に係るポリペプチドは末端領域を含みうる。本明細書で用いられる場合、「末端領域」とは、システインを含んでいてもよいアミノ酸の末端領域である。末端領域は、N末端領域および/またはC末端領域でありうる。いくつかの実施形態では、末端領域は、架橋部分を用いて親ポリペプチドに結合されうる。本明細書で用いられる場合、「親ポリペプチド」とは、末端領域を含まないポリペプチドの部分を意味する。末端領域は、1,2、3,4、5,6、7,8、9,10個、またはそれ以上の残基により親ポリペプチドから分離されうる。付加される残基は、限定されるものではないが、任意の天然または非天然アミノ酸、任意の天然または非天然アミノ酸のN-メチル化形態、任意の天然または非天然アミノ酸のD-ステレオアイソマー、ノルバリン、tert-ブチルグリシン、フェニルグリシン、アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、4-フルオロフェニルアラニン、ペニシラミン、サルコシン、ホモシステイン、1-アミノシクロプロパンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、4-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-カルボン酸、アミノイソ酪酸、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、シクロペンチルグリシン、シクロヘキシルグリシン、シクロプロピルグリシン、η-ω-メチルアルギニン、4-クロロフェニルアラニン、3-クロロチロシン、3-フルオロチロシン、5-フルオロトリプトファン、5-クロロトリプトファン、シトルリン、4-クロロ-ホモフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、4-アミノメチル-フェニルアラニン、3-アミノメチル-フェニルアラニン、オクチルグリシン、ノルロイシン、トラネキサム酸、2-アミノペンタン酸、2-アミノヘキサン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノオクタン酸、2-アミノノナン酸、2-アミノデカン酸、2-アミノウンデカン酸、2-アミノドデカン酸、アミノ吉草酸、および2-(2-アミノエトキシ)酢酸、ピペコリン酸、2-カルボキシアゼチジン、ヘキサフルオロロイシン、3-フルオロバリン、2-アミノ-4,4-ジフルオロ-3-メチルブタン酸、3-フルオロ-イソロイシン、4-フルオロイソロイシン、5-フルオロイソロイシン、4-メチル-フェニルグリシン、4-エチル-フェニルグリシン、4-イソプロピル-フェニルグリシン、(S)-2-アミノ-5-(3-メチルグアニジノ)ペンタン酸、(S)-2-アミノ-3-(4-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(3-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-4-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-ロイシノール、(S)-バリノール、(S)-tert-ロイシノール、(R)-3-ヘチルブタン-2-アミン、(S)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミン、および(S)-N,2-ジメチル-1-(ピリジン-2-イル)プロパン-1-アミン、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、および(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸から選択されうる。
【0118】
本発明に係るポリペプチドの最適化に有用なそのほかの非天然アミノ酸としては、1個以上の炭素結合水素原子がフッ素で置き換えられたフッ素化アミノ酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。含まれるフッ素原子の数は、水素原子1個~全部の範囲内でありうる。かかるアミノ酸の例としては、3-フルオロプロリン、3,3-ジフルオロプロリン、4-フルオロプロリン、4,4-ジフルオロプロリン、3,4-ジフルロプロリン、3,3、4,4テトラフルオロプロリン、4-フルオロトリプトファン、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、およびそれらのステレオアイソマーを、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
本発明に係るポリペプチドの最適化に有用なさらなる非天然アミノ酸としては、α-炭素が二置換されたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、α-炭素上の2個の置換基が同一であるアミノ酸、たとえば、α-アミノイソ酪酸および2-アミノ-2-エチルブタン酸、さらには置換基が異なるもの、たとえば、α-メチルフェニルグリシンおよびα-メチルプロリンを含む。さらに、α-炭素上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、たとえば、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、3-アミノテトラヒドロフラン-3-カルボン酸、3-アミノテトラヒドロピラン-3-カルボン酸、4-アミノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸、3-アミノピロリジン-3-カルボン酸、3-アミノピペリジン-3-カルボン酸、4-アミノピペリジン-4-カルボン酸、およびそれらのステレオアイソマーであってもよい。
【0120】
本発明に係るポリペプチドの最適化に有用なそのほかの非天然アミノ酸としては、N、O、またはSから独立して選択される0、1、2、3、または4個のヘテロ原子を含む他の9または10員二環式環系によりインドール環系が置き換えられたトリプトファンのアナログが挙げられるが、これらに限定されるものではない。各環系は、飽和、部分不飽和、または完全不飽和でありうる。環系は、任意の置換可能な原子が0,1、2、3、または4個の置換基により置換されうる。各置換基は、独立して、H、F、Cl、Br、CN、オキソ、COOR、CONRR’、OR、NRR’から選択される。各RおよびR’は、独立して、H、C1~C20アルキル、C1~C20アルキル-O-C1~20アルキルから選択される。
【0121】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化に有用なトリプトファンのアナログ(本明細書では「トリプトファンアナログ」としても参照される)としては、5-フルオロトリプトファン[(5-F)W]、5-メチル-O-トリプトファン[(5-MeO)W]、1-メチルトリプトファン[(1-Me-W)または(1-Me)W]、D-トリプトファン(D-Trp)、7-アザトリプトファン(限定されるものではないが、4-アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、および5-アザトリプトファンを含む)、5-クロロトリプトファン、4-フルオロトリプトファン、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、およびそれらのステレオアイソマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。逆の指示がある場合を除いて、本明細書で用いられる「アザトリプトファン」という用語およびその略号「アザTrp」は、7-アザトリプトファンを意味する。
【0122】
一実施形態では、本発明に係るポリペプチドは、末端領域に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、またはそれ以上の残基および/またはシステインの付加を有する、N末端またはC末端の末端修飾を含みうる。付加される残基は、限定されるものではないが、任意の天然または非天然アミノ酸、任意の天然または非天然アミノ酸のN-メチル化形態、任意のアミノ酸のD-ステレオアイソマー、ノルバリン、tert-ブチルグリシン、フェニルグリシン、アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、4-フルオロフェニルアラニン、ペニシラミン、サルコシン、ホモシステイン、1-アミノシクロプロパンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、4-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-カルボン酸、アミノイソ酪酸、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、シクロペンチルグリシン、シクロヘキシルグリシン、シクロプロピルグリシン、η-ω-メチルアルギニン、4-クロロフェニルアラニン、3-クロロチロシン、3-フルオロチロシン、5-フルオロトリプトファン、5-クロロトリプトファン、シトルリン、4-クロロ-ホモフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、4-アミノメチル-フェニルアラニン、3-アミノメチル-フェニルアラニン、オクチルグリシン、ノルロイシン、トラネキサム酸、2-アミノペンタン酸、2-アミノヘキサン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノオクタン酸、2-アミノノナン酸、2-アミノデカン酸、2-アミノウンデカン酸、2-アミノドデカン酸、アミノ吉草酸、および2-(2-アミノエトキシ)酢酸、ピペコリン酸、2-カルボキシアゼチジン、ヘキサフルオロロイシン、3-フルオロバリン、2-アミノ-4,4-ジフルオロ-3-メチルブタン酸、3-フルオロ-イソロイシン、4-フルオロイソロイシン、5-フルオロイソロイシン、4-メチル-フェニルグリシン、4-エチル-フェニルグリシン、4-イソプロピル-フェニルグリシン、(S)-2-アミノ-5-(3-メチルグアニジノ)ペンタン酸、(S)-2-アミノ-3-(4-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(3-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-4-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-ロイシノール、(S)-バリノール、(S)-tert-ロイシノール、(R)-3-ヘチルブタン-2-アミン、(S)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミン、および(S)-N,2-ジメチル-1-(ピリジン-2-イル)プロパン-1-アミン、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、および(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸から選択されうる。
【0123】
本発明に係るポリペプチドは、血漿タンパク質結合を増加または減少させるポリペプチド、限定されるものではないが、デニス,M.S.(Dennis,M.S.)ら著、タンパク質の薬動学的挙動を改善するための一般的戦略としてのアルブミン結合(Albumin binding as a general strategy for improving the pharmacokinetics of proteins)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J Biol Chem.)、2002年9月20日、第277巻、第38号、p.35035~43;ニューエン,A.(Nguyen,A.)ら著、アルブミン結合Fab(AB Fab)の薬動学的挙動はアルブミンへの親和性の関数として調整できる(The pharmacokinetics of an albumin-binding Fab (AB Fab) can be modulated as a function of affinity for albumin)、プロテイン・エンジニアリング・デザイン・アンド・セレクション(Protein Eng Des Sel.)、2006年7月、第19巻、第7号、p.291~7;およびランガーヘイム,J.F.(Langerheim,J.F.)ら著、合成アルブミン結合性ポリペプチドへの融合によるプロラクチン、GH、およびそれらのアンタゴニストの薬動学的/薬力学的挙動の改善(Improving
the pharmacokinetics/pharmacodynamics of prolactin, GH, and their antagonists by fusion to a synthetic albumin-binding polypeptide)、ジャーナル・オブ・エンドクリノロジー(J Endocrinol.)、2009年12月、第203巻、第3号、p.375~87に記載のものにコンジュゲートされうる。いくつかの実施形態では、かかるポリペプチドは血清アルブミンに結合する(本明細書では「アルブミン結合性ポリペプチド」として参照される)。いくつかの実施形態では、アルブミン結合性ポリペプチドは、そのポリペプチド配列中に存在するシステイン残基間のジスルフィド結合形成により環化される。いくつかの実施形態では、アルブミン結合性ポリペプチドはそのN末端またはC末端のいずれかによりコンジュゲートされる。いくつかの実施形態では、アルブミン結合性ポリペプチドへのコンジュゲーションは、本発明に係るポリペプチドが対象において無傷状態を維持する時間を変調する。好ましい実施形態では、アルブミン結合性ポリペプチドへのコンジュゲーションは、本発明に係るポリペプチドが対象の血液中に残留する時間を増加させる。本発明に係るポリペプチドは、細胞透過性を有するポリペプチド(本明細書では「細胞透過性ポリペプチド」として参照される)、限定されるものではないが、ミレッティ,F.(Milletti,F.)著、細胞透過性ペプチド:クラス、起源、および現状(Cell-penetrating peptides: classes, origin, and
current landscape)、ドラッグ・ディスカバリー・トゥデイ(Drug Discov Today)、2012年8月、第17巻、第15~16号、p.850~60に開示されるものにコンジュゲートされうる。そのほかの細胞透過性ポリペプチドは当業者に公知である。本発明に係るポリペプチドは、たとえば、米国特許出願公開第20110172126号明細書または同第20030040472号明細書(それらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されるポリペプチドコンジュゲートのいずれかにコンジュゲートされうる。本発明に係るポリペプチドは、血漿タンパク質結合を増加させる親油性分子、たとえば、米国特許第6,268,343号明細書または米国特許出願公開第2013/0053311号明細書(それらの各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示される親油性置換基にコンジュゲートされうる。
【0124】
ポリペプチドの所望の成分としてフィーチャのいずれかが同定または規定されたら、移動、交換、逆転、欠失、ランダム化、または重複により、これらのフィーチャのいくつかの操作および/または修飾のいずれかを行いうる。さらに、フィーチャの操作は本発明に係る分子に対する修飾と同一のアウトカムを生じうるものと理解される。たとえば、ドメインの欠失を含む操作は、全長未満の分子をコードする核酸の修飾とまったく同様に分子の長さの変化をもたらすであろう。
【0125】
修飾および操作は、当技術分野で公知の方法により、たとえば、限定されるものではないが、部位指向突然変異誘発により、達成可能である。次いで、得られた修飾分子は、本明細書に記載されるようなvitroもしくはin vivoアッセイまたは当技術分野で公知の任意の他の好適なスクリーニングアッセイを用いて、活性に関して試験しうる。
【0126】
本発明によれば、ポリペプチドは、実験のラウンドを介して発見されるコンセンサス配列を含みうる。本明細書で用いられる場合、「コンセンサス」配列とは、1つ以上の部位での変異を許容して配列の全集団を代表する単一の配列のことである。
【0127】
当技術分野で公知の「同一性」という用語は、配列比較により決定される2つ以上のポリペプチドの配列間の関係を意味する。当技術分野では、「同一性」はまた、2つ以上のアミノ酸残基の鎖間の一致数により決定されるポリペプチド間の配列関連度を意味する。同一性は、特定の数学的モデルまたはコンピュータープログラム(すなわち「アルゴリズム」)により扱われるギャップアライメント(もしあれば)を用いた2つ以上の配列のより小さい部分間の完全一致パーセントで見積られる。関連ポリペプチドの同一性は、公知の方法により容易に計算可能である。かかる方法としては、他者によりすでに記載されたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない(レスク,A.M.(Lesk,A.M.)編、(Computational Molecular Biology)、オックスフォード・ユニバーシティ・プレス(Oxford University Press)、ニューヨーク、1988年;スミス,D.W.(Smith,D.W.)編、コンピューティング:インフォマティクス・アンド・ゲノム・プロジェクト(Biocomputing:Informatics and Genome Projects)、アカデミック・プレス(Academic Press)、ニューヨーク、1993年;グリフィン,A.M.(Griffin,A.M.)ら編、 コンピュータ・アナリシス・オブ・シーケンス・データ(Computer Analysis of Sequence Data)、第1部、フマナ・プレス(Humana Press)、ニューヨーク、1994年;フォン・ヘインジェ,G.(von Heinje,G.)著、シーケンス・アナリシス・イン・モレキュラー・バイオロジー(Sequence Analysis in Molecular Biology)、アカデミック・プレス(Academic Press)、1987年;グリブスコブ,M.(Gribskov,M.)ら編、シーケンス・アナリシス・プライマー(Sequence Analysis Primer)、M.ストックトン・プレス(M.Stockton Press)、ニューヨーク、1991年;およびカリロ(Carillo)ら著、アプライド・マセマティクス,SIAMジャーナル(Applied Math,SIAM J)1988年、第48巻、p.1073)。
【0128】
いくつかの実施形態では、ポリペプチド変異体は、参照ポリペプチドと同一または類似の活性を有しうる。他の選択肢として、変異体は、参照ポリペプチドに対して変化した活性(たとえば、増大または減少した)を有しうる。一般的には、本発明に係る特定のポリペプチドの変異体は、本明細書に記載のおよび当業者に公知の配列アライメントプログラムおよびパラメータにより決定した場合、特定の参照ポリペプチドに対して、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、ただし、100%未満の配列同一性を有するであろう。アライメント用のかかるツールとしてはBLASTスイートのものが挙げられる(アルトシュル,S.F.(Altschul,S.F.)ら著、ギャップ付きBLASTおよびPSI-BLAST:新世代のタンパク質データベース検索プログラム(Gapped BLAST and PSI-BLAST:new generation of protein database
search programs)、ニュクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)、1997年、第25巻、p.3389~3402)。他のツールは、本明細書に、具体的には「同一性」の定義のところに記載されている。
【0129】
BLASTアルゴリズムのデフォルトパラメータは、たとえば、期待閾値10、ワードサイズ28、マッチ/ミスマッチスコア1,-2、ギャップコストLinearを含む。任意のフィルター、さらには種特異的リピートの選択(たとえば、ホモ・サピエンス(Homo sapiens))の適用が可能である。
【0130】
ポリペプチドで使用される略号
本明細書で用いられる場合、略号は次の意味を有する。「Ac」および「NH2」は、それぞれ、アセチルおよびアミド化末端を表し、「Nvl」はノルバリンの略であり、「Phg」はフェニルグリシンの略であり、「Tbg」はtert-ブチルグリシンの略であり、「Chg」はシクロヘキシルグリシンの略であり、「(N-Me)X」は、N-メチル-Xとして記された変数「X」の代わりとして一文字または三文字アミノ酸コードにより表されたアミノ酸のN-メチル化形態の略であり[たとえば、(N-Me)Aまたは(N-Me)Alaは、アラニンのN-メチル化形態またはN-メチル-アラニンの略である]、「アザTrp」はアザトリプトファンの略であり、「(4-F)Phe」は4-フルオロフェニルアラニンの略であり、「Tyr(OMe)」はO-メチルチロシンの略であり、「Aib」はアミノイソ酪酸の略であり、「(ホモ)F」または「(ホモ)Phe」はホモフェニルアラニンの略であり、「(2-OMe)Phg」は2-O-メチルフェニルグリシンを意味し、「(5-F)W」は5-フルオロトリプトファンを意味し、「D-X」は所与のアミノ酸「X」のD-ステレオアイソマーを意味し[たとえば、(D-Chg)はD-シクロヘキシルグリシンの略である]、「(5-MeO)W」は5-メチル-O-トリプトファンを意味し、「ホモC」はホモシステインを意味し、「(1-Me-W)」または「(1-Me)W」は1-メチルトリプトファンを意味し、「Nle」はノルロイシンを意味し、「Tiq」はテトラヒドロイソキノリン残基を意味し、「Asp(T)」は(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸を意味し、「(3-Cl-Phe)」は3-クロロフェニルアラニンを意味し、「[(N-Me-4-F)Phe]」または「(N-Me-4-F)Phe」はN-メチル-4-フルオロフェニルアラニンを意味し、「(m-Cl-ホモ)Phe」はメタ-クロロホモフェニルアラニンを意味し、「(デス-アミノ)C」は3-チオプロピオン酸を意味し、「(α-メチル)D」はα-メチル-L-アスパラギン酸を意味し、「2Nal」は2-ナフチルアラニンを意味し、「(3-アミノメチル)Phe」は3-アミノメチル-L-フェニアラニンを意味し、「Cle」はシクロロイシンを意味し、「Ac-ピラン」は4-アミノ-テトラヒドロ-ピラン-4-カルボン酸を意味し、「(Lys-C16)」はN-ε-パルミトイルリシンを意味し、「(Lys-C12)」はN-ε-ラウリルリシンを意味し、「(Lys-C10)」はN-ε-カプリルリシンを意味し、「(Lys-C8)」はN-ε-カプリル酸リシンを意味し、「[xキシリル(y,z)]」は2個のチオール含有アミノ酸間のキシリル架橋部分を意味し、式中、xはm、p、またはoでありうるとともに、架橋部分を形成するために(それぞれ)メタ-、パラ-、またはオルト-ジブロモキシレンを使用することを表し、数値識別子yおよびzは、環化に関与するアミノ酸のポリペプチド内のアミノ酸位置を決定し、「[シクロ(y,z)]」は2個のアミノ酸残基間の結合の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定し、「[シクロ-オレフィニル(y,z)]」はオレフィンメタセシスによる2個のアミノ酸残基間の結合の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定し、「[シクロ-チオアルキル(y,z)]」は2個のアミノ酸残基間のチオエーテル結合の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定し、「[シクロ-トリアゾリル(y,z)]」は2個のアミノ酸残基間のトリアゾール環の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定する。「B20」はN-ε-(PEG2-γ-グルタミン酸-N-α-オクタデカン二酸)リシン[(1S,28S)-1-アミノ-7,16,25,30-テトラオキソ-9,12,18,21-テトラオキサ-6,15,24,29-テトラアザヘキサテトラコンタン-1,28,46-トリカルボン酸としても知られる]を意味する。
【0131】
B20
【0132】
【化9】
【0133】
「B28」はN-ε-(PEG24-γ-グルタミン酸-N-α-ヘキサデカノイル)リシンを意味する。
B28
【0134】
【化10】
【0135】
「K14」はN-ε-1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキス-1-イリデン)-3-メチルブチル--L-リシンを意味する。他の記号はすべて標準的な一文字アミノ酸コードを意味する。
【0136】
抗体
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および/または組成物は抗体またはそのフラグメントを含みうる。本明細書で用いられる場合、「抗体」という用語は、最広義で参照され、具体的には、限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(たとえば、少なくとも2つの無傷抗体から形成される二重特異的抗体)、および所望の生物学的活性を呈する限りダイアボディーなどの抗体フラグメントをはじめとする種々の実施形態をカバーする。本発明に係る抗体はまた、ヒト抗体またはヒト化抗体を含みうる。抗体は主にアミノ酸系分子であるが、1つ以上の修飾(限定されるものではないが、糖部分、蛍光部分、化学的タグなどを含む)を含んでいてもよい。
【0137】
本明細書で用いられる場合、「抗体フラグメント」という用語は無傷抗体の任意の部分を意味する。いくつかの実施形態では、抗体フラグメントは無傷抗体の抗原結合領域を含む。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、およびFvフラグメント、ダイアボディー、線状抗体、一本鎖抗体分子、ならびに抗体フラグメントから形成された多重特異的抗体が挙げられうるが、これらに限定されるものではない。抗体のパパイン消化により「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合性フラグメントが生成され、それぞれ、単一の抗原結合部位を有する。また、残留物「Fc」フラグメントも生成され、その名称は容易に結晶化するその能力を反映している。ペプシン処理により2つの抗原結合部位を有するとともに依然として抗原を架橋できるF(ab’)フラグメントが生成される。本発明に係る化合物および/または組成物はこれらフラグメントの1つ以上を含みうる。本明細書の目的では、「抗体」は重鎖および軽鎖の可変ドメインさらにはFc領域を含みうる。
【0138】
本明細書で用いられる場合、「天然抗体」という用語は、通常、2本の同一の軽(L)鎖と2本の同一の重(H)鎖とで構成された約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質を意味する。各軽鎖は、1つのジスルフィド共有結合により重鎖に結合されるが、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖および軽鎖はまた、規則的に離間した鎖内ジスルフィド架橋を有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)および続いていくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)およびその他端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインにアライメントされ、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインにアライメントされる。
【0139】
本明細書で用いられる場合、「可変ドメイン」という用語は、抗体間で配列が大きく異なりかつ各特定の抗体がその特定の抗原に対して結合性および特異性を有するように使用される特異的抗体ドメインを意味する。本明細書で用いられる場合、「Fv」という用語は、完全な抗原認識・抗原結合部位を含む抗体フラグメントを意味する。これらの領域は、堅固な非共有結合性会合状態の1つの重鎖と1つの軽鎖可変ドメインとの二量体からなる。
【0140】
本明細書で用いられる場合、「軽鎖」という用語は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてκおよびλと呼ばれる2つの明確に異なるタイプの1つに帰属される任意の脊椎動物種に由来する抗体の成分を意味する。
【0141】
抗体は、その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、さまざまなクラスに帰属可能である。IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMの5つの主要クラスの無傷抗体が存在し、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgA2にさらに分割されうる。
【0142】
本明細書で用いられる場合、「一本鎖Fv」または「scFv」という用語は、VH抗体ドメインとVL抗体ドメインとの融合タンパク質を意味し、これらのドメインは結合一体化されて単一ポリペプチド鎖になっている。いくつかの実施形態では、Fvポリペプチドリンカーを用いれば、scFvは抗原結合に望まれる構造の形成が可能になる。
【0143】
本明細書で用いられる場合、「ダイアボディー」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントを意味する。ダイアボディーは、同一のポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメインVLに結合された重鎖可変ドメインVHを含む。同一の鎖上の2つのドメイン間で対合できないほど短いリンカーを用いることにより、ドメインを他の鎖の相補的ドメインに対合させ、2つの抗原結合部位を形成する。たとえば、欧州特許第404,097号明細書、国際公開第93/11161号パンフレット、およびHollingerら(ホリンジャー,P.(Hollinger,P.)ら著、“ダイアボディー”:小さな二価および二重特異的抗体フラグメント(“Diabodies”:Small bivalent and bispecific antibody fragments)、米国科学アカデミー紀要(PNAS)、1993年、第90巻、p.6444~8)(それぞれの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)には、ダイアボディーがより完全に記載されている。
【0144】
本明細書で用いられる場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な細胞(またはクローン)の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、集団を構成する個々の抗体は同一でありかつ/または同一のエピトープに結合する。ただし、モノクローナル抗体の作製時に変異体を生じる可能性があるが、かかる変異体は一般に副次量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に指向する。
【0145】
「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均一な集団から得られる抗体の特性を意味し、いかなる特定の方法による抗体の産生も必要とみなすべきではない。本明細書でのモノクローナル抗体は「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を含む。この場合、重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種に由来するかまたは特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であり、一方、鎖の残りの部分は、他の種に由来するかまたは他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である。
【0146】
本明細書で用いられる場合、「ヒト化抗体」という用語は、1つ以上の非ヒト(たとえば、ネズミ科動物)抗体源に由来する最小部分と、1つ以上のヒト免疫グロブリン源に由来する残りの部分と、を含むキメラ抗体を意味する。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの抗体の超可変領域の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長動物などの非ヒト種の抗体(ドナー抗体)の超可変領域の残基により置き換えられた、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。
【0147】
本明細書で用いられる場合、「超可変領域」という用語は、抗原結合に関与するアミノ酸残基を含む抗体の抗原結合ドメイン内の領域を意味する。超可変領域内に存在するアミノ酸は、相補性決定領域(CDR)の構造を決定する。本明細書で用いられる場合、「CDR」という用語は、その標的抗原またはエピトープに相補的な構造を含む抗体の領域を意味する。
【0148】
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および/または組成物は抗体ミメティックでありうるかまたはそれを含みうる。本明細書で用いられる場合、「抗体ミメティック」という用語は、抗体の機能または作用を模倣するとともに特異的にかつ高い親和性でその分子標的に結合する任意の分子を意味する。いくつかの実施形態では、抗体ミメティックは、タンパク質スキャフォールドとしてフィブロネクチンIII型ドメイン(Fn3)を組み込むように設計されたモノボディーでありうる(米国特許第6,673,901号明細書および米国特許第6,348,584号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。いくつかの実施形態では、抗体ミメティックとしては、アフィボディー分子、アフィリン、アフィチン、アンチカリン、アビマー、センチリン(Centyrin)、ダーピン(DARPIN)(商標)、フィノマー(Fynomer)、アドネクチン(Adnectin)、およびクニッツ(Kunitz)ドメインペプチドをはじめとする当技術分野で公知のものが挙げられうるが、これらに限定されるものではない。他の実施形態では、抗体ミメティックは1つ以上の非ペプチド領域を含みうる。
【0149】
本明細書で用いられる場合、「抗体変異体」という用語は、天然抗体と比較してそのアミノ酸配列、組成、または構造にいくつかの差異を含む、構造および/または機能が抗体に類似したバイオ分子を意味する。
【0150】
抗体の調製物は、モノクローナルであるかポリクローナルであるかにかかわらず、当技術分野で公知である。抗体の作製技術は、当技術分野で周知であり、たとえば、ハーロウ(Harlow)およびレイン(Lane)著、“抗体,実験室マニュアル”(“Antibodies,A Laboratory Manual”)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、1988年、ならびにハーロウ(Harlow)およびレイン(Lane)著、“抗体の使用:実験室マニュアル”(“Using Antibodies:A Laboratory Manual”)、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、1999年に記載されている。
【0151】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供されるポリペプチド配列は1つ以上の抗体の作製に利用しうる。いくつかの場合には、かかるポリペプチド配列は抗体可変ドメインに組み込みうる。かかる可変ドメインは、抗体、抗体ミメティック、または抗体変異体に組み込みうる。
【0152】
低分子
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物は低分子でありうる。かかる化合物は、約100~約2000ダルトン(たとえば、約100~約200、約300~約400、約500まで、約600まで、約700まで、約800まで、約900まで、約1000まで、約1100まで、約1200まで、約1300まで、約1400まで、約1500まで、約1600まで、約1700まで、約1800まで、約1900まで、または約2000ダルトンまで)のサイズを含みうる。低分子は、非ペプチドでありうるか、またはアミド結合、環構造、およびアミノ酸様置換基をはじめとするポリペプチドおよび環状ポリペプチドのいくつかのもしくは多くの特徴を共有しうる。
【0153】
アプタマー
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物はアプタマーを含みうる(ケーフェ,A.D.(Keefe,A.D.)、パイ,S.(Pai,S.)、およびエリングトン,A.(Ellington,A.)著、2010年、ネイチャー・レビューズ・ドラッグ・ディスカバリー(Nat.Rev.Drug Discovery)、第9巻、p.537-550)。本明細書で用いられる場合、「アプタマー」という用語は、特異的な標的分子に結合可能なオリゴ核酸分子またはポリペプチド分子を意味する。いくつかのアプタマーは、高い親和性および特異性で標的分子に結合可能な3次元コンフォメーションをとりうる。
【0154】
同位体変異
本発明に係るポリペプチドは、同位体である1個以上の原子を含みうる。本明細書で用いられる場合、「同位体」という用語は、1個以上の追加の中性子を有する化学元素を意味する。一実施形態では、本発明に係るポリペプチドはジュウテリウム化されうる。本明細書で用いられる場合、「ジュウテリウム化」という用語は、ジューテリウム同位体により置き換えられた1個以上の水素原子を有する物質を意味する。ジューテリウム同位体は水素の同位体である。水素の核は1個のプロトンを含有するが、ジュウテリウム核はプロトンおよび中性子の両方を含有する。本発明に係る化合物および医薬組成物は、安定性などの物理的性質を変化させるためにまたは診断用途および実験用途で使用できるようにするために、ジュウテリウム化しうる。
【0155】
製剤および送達
「医薬組成物」という用語は、活性成分が治療上有効になる形態および量で少なくとも1種の活性成分(たとえば、ポリペプチドなど)を含む組成物を意味する。
【0156】
本発明に係るポリペプチド製剤は、制御十二指腸放出製剤、時限放出製剤、浸透圧制御放出送達系、マイクロエマルジョン剤、マイクロスフェア剤、リポソーム剤、ナノ粒子剤、パッチ剤、ポンプ剤、デポ剤などを含む。とくに本発明に包含されるのは、粉末剤、ソフトゲル剤、ジェルキャップ剤、カプセル剤、丸剤、錠剤などの固体経口製剤である。
【0157】
本発明に係る医薬組成物は、治療上有効なアウトカムをもたらす任意の経路により投与しうる。こうした経路としては、腸内、経胃腸、硬膜外、経口、硬膜上、脳内(大脳の中へ)、気管内(肺への送達のために気道の中へ)、脳室内(脳室の中へ)、皮膚上(皮膚の上への適用)、真皮内(皮膚自体の中へ)、皮下(皮膚の下へ)、経鼻投与(鼻を介して)、静脈内(静脈の中へ)、動脈内(動脈の中へ)、筋肉内(筋肉の中へ)、心臓内(心臓の中へ)、骨内注入(骨髄の中へ)、髄腔内(脊柱管の中へ)、腹腔内(腹膜の中へ注入もしくは注射)、膀胱内注入、硝子体内(眼後房の中へ)、空洞内注入(陰茎基部の中へ)、膣内投与、子宮内、羊膜外投与、経真皮(全身分布のための無傷皮膚を介する拡散)、経粘膜(粘膜を介する拡散)、吹送(経鼻吸入)、経頬、舌下、唇下、浣腸、点眼(結膜上へ)、または点耳が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0158】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドは無菌水性溶液中に製剤化される。いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドは脂質製剤または非脂質製剤として製剤化される。他の実施形態では、本発明に係るポリペプチドはカチオン性または非カチオン性脂質製剤として製剤化される。いずれの実施形態でも、無菌水性溶液は追加の活性成分または不活性成分を含有しうる。本明細書では「賦形剤」としても参照される不活性成分は、限定されるものではないが、生理学的に適合性のある塩、糖、バルキング剤、界面活性剤、または緩衝剤を含みうる。
【0159】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、1種以上の担体剤を含みうるか、またはそれと組み合わせて製剤化もしくは送達されうる。本明細書で用いられる場合、「担体」という用語は、送達を促進するかまたは本発明に係るポリペプチドおよび/もしくはポリペプチド組成物の有効性を向上させる物質を意味する。担体剤は、タンパク質(たとえば、ヒト血清アルブミン(HSA)、低密度リポタンパク質(LDL)、またはグロブリン)、炭水化物(たとえば、デキストラン、プルラン、キチン、キトサン、イヌリン、シクロデキストリン、またはヒアルロン酸)、脂質などの天然に存在する物質でありうる。担体分子はまた、組換え分子または合成分子たとえば合成ポリマーたとえば合成ポリアミノ酸でありうる。ポリアミノ酸の例としては、ポリ-L-リシン(PLL)、ポリ-L-アスパラギン酸、およびポリ-L-グルタミン酸、さらにはこれらのアミノ酸のD-ステレオアイソマーを含むポリマーが挙げられる。他の担体としては、ポリ(L-ラクチド-co-グリコリド)コポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(2-エチルアクリル酸)、およびN-イソプロピルアクリルアミドポリマーが挙げられる。他の有用な担体分子はルーチン法により同定可能である。
【0160】
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物は、1種以上の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わされて医薬組成物を形成しうる。本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容可能」という用語は、妥当な便益/リスク比に見合って、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、もしくは他の問題、または合併症を伴うことなく、健全な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび動物の組織に接触させて使用するのに好適な化合物、材料、組成物、および/または製剤を意味する。本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容可能な賦形剤」という語句は、本明細書に記載の本発明に係る化合物以外で患者において実質的に非毒性かつ非炎症性の性質を有する任意の成分を意味する(たとえば、活性化合物の懸濁または溶解が可能な媒体)。賦形剤としては、たとえば、抗接着剤、抗酸化剤、結合剤、コーティング剤、圧縮助剤、崩壊剤、色素(着色剤)、皮膚軟化剤、乳化剤、充填剤(希釈剤)、膜形成剤またはコーティング剤、風味剤、香気剤、滑剤(流動促進剤)、滑沢剤、保存剤、プリントインク、収着剤、懸濁化剤または分散剤、甘味剤、および水和水が挙げられうる。例示的な賦形剤としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム(第2)、カルシウムステアレート、クロスカルメロース、架橋ポリビニルピロリドン、クエン酸、クロスポビドン、システイン、エチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラクトース、マグネシウムステアレート、マルチトール、マンニトール、メチオニン、メチルセルロース、メチルパラベン、微結晶セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポビドン、α化デンプン、プロピルパラベン、パルミチン酸レチニル、シェラック、二酸化ケイ素、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、クエン酸ナトリウム、ナトリウムデンプングリコレート、ソルビトール、デンプン(トウモロコシ)、ステアリン酸、スクロース、タルク、二酸化チタン、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、およびキシリトールが挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、エタノール、トウモロコシ油-モノ-ジトリグリセリド、水素化ヒマシ油、DL-トコフェロール、プロピレングリコール、ゼラチン、グリセロール、着色剤、風味剤、および甘味剤と共に、1種以上の活性ポリペプチド成分を含む。
【0161】
他の実施形態では、医薬組成物は、4-(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアミド)ブタン酸(または米国特許第7,744,910B2号明細書に記載の送達剤のいずれか(それらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))、薬学的に許容可能な緩衝剤、崩壊剤、界面活性剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、着色剤、風味剤、および甘味剤などの送達剤と共に、1種以上の活性ポリペプチド成分を含む。
【0162】
他の実施形態では、医薬組成物は、エタノール、ダイズホスファチジルコリン、グリセロールジオレートと共に1種以上の活性ポリペプチド成分を含む。これは米国特許出願公開第2008/0146490A1号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるように過剰の生理食塩水溶液に注入される。
【0163】
必要とされる対象への1種以上のポリペプチドの送達は、多くの異なる方法で達成可能である。in vivo送達は、1種以上のポリペプチドを含む組成物を対象に投与することにより直接行うことが可能である。他の選択肢として、送達は、ポリペプチドをコードしかつその発現を誘導する1種以上のベクターを投与することにより間接的に行うことが可能である。
【0164】
局所送達は消化管透過および全身暴露を回避する。たとえば、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、点眼剤として眼に使用しうるかまたは直接注射により眼の後部に使用しうる。それらは消化管に適用して酵素を標的としうる。それらは皮膚科学的用途で局所的に使用しうる(たとえば、クリーム剤、軟膏剤、経真皮パッチ剤)。
【0165】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、1種以上の膜融合剤を含みうるかまたはそれと共に製剤化されうる。本明細書で用いられる場合、「膜融合剤」という用語は、たとえば環境のpH変化などの変化に反応する作用剤を意味する。エンドソームのpHに遭遇すると膜融合剤は物理的変化を起こしうる。たとえば、エンドソーム膜の透過を撹乱または増加させる浸透性変化を起こしうる。好ましくは、膜融合剤は荷電を変化させる。たとえば、生理学的範囲よりも低いpHでプロトン化された状態になる。たとえば、膜融合剤はpH4.5~6.5でプロトン化された状態になりうる。膜融合剤は、組成物がたとえばエンドサイトーシスを介して細胞に取り込まれた後、細胞の細胞質中にポリペプチドを放出させるように機能することにより細胞でポリペプチドの細胞内濃度を増加させうる。
【0166】
いくつかの実施形態では、膜融合剤は、特定のpH範囲に暴露された場合に変化たとえば荷電変化たとえばプロトン化を起こす部分たとえばアミノ基を有しうる。膜融合剤の電荷変化は、小胞たとえばエンドサイト小胞たとえばエンドソームで変化たとえば浸透圧変化をトリガー可能である。たとえば、膜融合剤は、エンドソームのpH環境に暴露されると、エンドソーム膜の多孔度の増加(好ましくは破壊)をもたらすのに十分な実質的な溶解性変化または浸透圧変化を起こすであろう。
【0167】
膜融合剤は、ポリマー、好ましくはポリアミノ鎖たとえばポリエチレンイミン(PEI)でありうる。PEIは、線状、分岐状、合成、または天然のものでありうる。PEIは、たとえば、アルキル置換PEIまたは脂質置換PEIでありうる。
【0168】
他の実施形態では、膜融合剤は、ポリヒスチジン、ポリイミダゾール、ポリピリジン、ポリプロピレンイミン、メリチン、またはポリアセタール物質、たとえば、カチオン性ポリアセタールでありうる。いくつかの実施形態では、膜融合剤はαヘリックス構造を有しうる。膜融合剤は、膜破壊剤たとえばメリチンでありうる。当業者であれば他の好適な膜融合剤の試験および同定を行うことが可能である。
【0169】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、1種以上の縮合剤を含みうるかまたはそれと共に製剤化されうる。本明細書に記載の組成物の縮合剤は、ポリペプチドとの相互作用(たとえば、求引、保持、または結合)を行いうるとともに、(a)ポリペプチドの縮合、たとえば、サイズもしくは荷電の低減、および/または(b)ポリペプチドの保護、たとえば、分解からのポリペプチドの保護を行うように作用しうる。縮合剤は、イオン性相互作用によりポリペプチドとの相互作用が可能な部分たとえば荷電部分を含みうる。縮合剤は、好ましくは荷電ポリマーたとえばポリカチオン鎖であろう。縮合剤は、ポリリシン(PLL)、スペルミン、スペルミジン、ポリアミン、プソイドペプチド-ポリアミン、ペプチドミメティックポリアミン、デンドリマーポリアミン、アルギニン、アミジン、プロタミン、カチオン性脂質、カチオン性ポルフィリン、ポリアミンの第4級塩、またはαヘリックスペプチドでありうる。
【0170】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドは二環状ポリペプチドでありうる。本明細書で用いられる場合、「二環状ポリペプチド」という用語は2つのループを有するポリペプチドを意味する。例としては、C5の二環状ポリペプチド阻害剤をコンビナトリアルライブラリーとして生成しうるが、これに限定されるものではない。二環状ポリペプチドは、1ループ当たり2、3、4、5、6個、またはそれ以上のアミノ酸を有しうる。
【0171】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物はプロドラッグとして提供しうる。本明細書で用いられる場合、「プロドラッグ」という用語は、投与後のある時点で活性になる不活性形態で提供される薬剤を意味する。ポリペプチドがプロドラッグの形態で投与されるいくつかの実施形態では、ポリペプチド阻害活性にきわめて重要なアミノ酸は、可逆的化学結合たとえばエステル結合に起因して標的と相互作用することができない。投与されると、かかるプロドラッグは、たとえば、胃、血液、および/または所与の標的組織の細胞で酵素的加水分解または酸加水分解を介して、可逆的化学結合の切断に付されうる。
【0172】
C5阻害剤
本発明に係るいくつかのポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、補体成分C5のレベルで補体活性化を阻害し、本明細書では「C5阻害剤」として参照される。いくつかのC5阻害剤は、C5から切断産物C5aおよびC5bへの切断を防止することにより機能し、かかる阻害剤は、本明細書では「C5切断阻害剤」として参照される。いくつかの実施形態では、本発明に係る方法は、系内でのC5切断の阻害を含みうる。本明細書で用いられる場合、「系」とは、一緒に機能する関連部分の一群を意味する。かかる系はC5を含むものを含み、この場合は「C5系」として参照される。C5系は、溶液、基質、細胞、組織、器官、および体液(限定されるものではないが、血液を含む)を含みうるが、これらに限定されるものではない。いくつかの場合には、C5系は細胞系でありうる。本明細書で用いられる場合、「細胞系」という用語は、1つ以上の細胞または細胞の1つ以上の成分もしくは産物を含む系を意味する。いくつかの場合には、C5系はin vivo系、in vitro系、およびex vivo系を含みうる。in vivo
C5系は対象を含みうるかまたはそれに含まれうる。本明細書で用いられる場合、「対象」という用語は、たとえば、実験、診断、予防、および/または治療の目的で、本発明に係る化合物が投与されうる任意の生物を意味する。典型的な対象は、動物(たとえば、哺乳動物、たとえば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長動物、およびヒト)を含む。
【0173】
いくつかの場合には、本発明に係るC5阻害剤は、表1に列挙されたポリペプチドのいずれかを含みうる。
【0174】
【表1】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
C5系では、C5および系の他の成分は溶液中に存在しうるかまたはたとえばアッセイウェルなどに固定しうる。C5系は、他の補体成分をさらに含みうるとともに、いくつかの場合には膜侵襲複合体(MAC)の形成に必要な成分をすべて含みうる。いくつかの場合には、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、ヒト対象においてC5切断を阻害するために使用しうる。かかるポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、種々の補体関連の障害および/または疾患さらには付随する炎症病態を治療するのに有用でありうる。ある特定のC5阻害剤は当技術分野で公知であり、米国特許第7,348,401号明細書および同第6,355,245号明細書(両方ともその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されている。
【0184】
C5が切断されるとタンパク質分解産物C5aおよびC5bを生じる。切断されてこれらの産物を生じるC5の切断部位は、本明細書ではC5a-C5b切断部位として参照される。C5bは膜侵襲複合体(MAC)の形成に寄与し、一方、C5aは免疫系および炎症反応を刺激する。いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物はC5の切断を防止するので、限定されるものではないが、炎症細胞(たとえば、マクロファージ、マスト細胞、好中球、および血小板)の走化性および活性化、内皮細胞および浮腫の増殖をはじめとする炎症性イベントの阻害を介して炎症を治療するのに有用でありうる。
【0185】
限定されるものではないが、C3、C4、およびC5をはじめとする補体系の多くの成分は、複数の活性成分への切断の標的となるまでその天然の状態では機能的に不活性である。C3またはC4が切断されるとコンフォメーション変化を起こして内部チオエステルドメインが露出する。このドメイン内のシステイン残基側鎖とグルタミン残基側鎖との間の内部チオエステル結合は、細胞表面および/または生物学的分子に結合するC3およびC4の能力を付与する化学反応活性結合である。また、C3およびC4が切断されるとC3bC4bC2aまたは(C3b)2BbのいずれかのC5コンバターゼの成分が提供される。(ロウ,S.K.(Law,S.K.)ら著、1997年、プロテイン・サイエンス(Protein Science)、第6巻、p.263~274;ファン・デン,J.M.H.(van den Elsen,J.M.H.)著、2002年、ジャーナル・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)、第322巻、p.1103~1115(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。
【0186】
C5の複数のドメイン構造はC3およびC4に類似している。C5コンバターゼはC5を成分C5aおよびC5bに切断する。C5が切断されるとコンフォメーション変化を起こしてC5とC6との結合の役割を果たすC5bチオエステル様ドメインが露出し、続いてC7およびC8と相互作用して細胞溶解性MACが形成される。C5のドメイン構造は、補体の処理および下流活性にきわめて重要な調節フィーチャを含む。(フレドスルンド,F.(Fredslund,F.)ら著、2008年、ネイチャー(Nature)、第9巻、p.753~760;ハダーズ,M.A.(Hadders,M.A.)ら著、2012年、セル・レポーツ(Cell Reports)第1巻、p.200~207)。
【0187】
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物はC5に結合してC5からC5aおよびC5b切断産物への切断を防止しうる。
最近、トロンビンがこれまで未同定のC5産物を生成して最終補体活性化経路を支援するという発見に基づいて、補体活性化の新しいパラダイムが提案された(クリシンガー(Krisinger)ら著、2014年、ブラッド(Blood)、第120巻、第8号、p.1717~1725)。
【0188】
トロンビンは第2の循環系プロセスである凝固カスケードで作用する。これにより、生物は、傷害に反応して出血の抑制、血管完全性の回復、および治癒の促進を行うことが可能である。血管損傷後、組織因子が循環系に暴露されてタンパク質分解反応のカスケードが開始され、これにより重要な凝固酵素トロンビンが生成されてフィブリノーゲンがフィブリン塊に変換される。
【0189】
歴史的には、補体活性化経路は凝固カスケードとは独立して観察されてきた。しかしながら、これらの2つの系の相互作用は新たに考慮する価値がある。凝固および補体は、共通の病態生理学的刺激に反応して時空間が重なって協調的に活性化されることにより恒常性を維持し、そしてたとえば、アテローム硬化症、発作、冠性心疾患、糖尿病、虚血再灌流傷害、外傷、発作性夜間ヘモグロビン尿症、加齢黄斑変性、および非定型溶血性尿毒症症候群により実証されるように、先天性免疫および凝固反応の活性化の抑制が利かないと疾患が現れる。実際に、補体阻害剤を導入すると、これらの疾患のいくつかに伴う炎症性および血栓性の障害が同時に治療されることが見いだされている。
【0190】
以上に述べたように、補体系は3つの主要経路を介して活性化され、それらはすべて中心的な補体成分C3のタンパク質分解活性化に収斂する。続いて、C5コンバターゼの形成によりC5がアルギニン751(R751)で切断されて、走化性およびアナフィラトキシン性のC5aフラグメントが遊離されかつC5bが形成される。C5bは、損傷細胞および病原体の破壊に関与するC5b依存性溶解性膜侵襲複合体(C5b-9としても知られるMAC)のアセンブリーの開始因子である。
【0191】
補体と凝固との間のいくつかの分子的関連が同定されてきてた。新しい補体活性化経路として記載されたものの中で最も注目すべきこととして、トロンビンは、C5をおそらくR751で切断してC3の不在下でC5aを放出することにより補体活性化を直接促進可能であることが見いだされた(フーバー-ラング(Huber-Lang)ら著、2006年、ネイチャー・メディスン(Nature Med.)、第12巻、第6号、p.682~687)。しかしながら、これらの研究ではトロンビンと真のC5コンバターゼとの比較がなされずに、ごく限られた生化学分析が行われたにすぎないので、経路の生理学的妥当性は評価できなかった。
【0192】
精製血漿系を用いてアナフィラトキシンC5aの放出およびMACの成分C5bの生成を測定することにより、C5に対するトロンビンおよびC5コンバターゼの作用が評価された。トロンビンはR751ではC5を不十分に切断して最低限のC5aおよびC5bを生成したが、新たに同定された高度に保存されたR947部位では効率的にC5を切断してこれまで記載されなかった中間体C5TおよびC5bTを形成することが発見された。血漿の組織因子誘導凝固は、R751ではなくこの新しいR947部位に対応するトロンビン感受性部位でC5のタンパク質分解をもたらした。C5とトロンビンおよびC5コンバターゼとの組合せ処理ではC5aおよびC5bTが生成され、後者はC5b-9よりも有意に高い溶解活性を有するC5bT-9膜侵襲複合体を形成した。したがって、トロンビンは、2種の酵素による協同的タンパク質分解を介して形成されるこれまで同定されなかったC5産物を介してより活性なMACの形成を開始するうえでC5コンバターゼの不変のきわめて重要なパートナであるという新しいパラダイムが、補体活性化に対して提案された。こうした発見は、多くの疾患で起こる凝固活性化との関連で先天性免疫の調節に新たな知見を提供する。(クリシンガー(Krisinger)ら著、2014年、ブラッド(Blood)、第120巻、第8号、p.1717~1725)。
【0193】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物はトロンビン誘導補体活性化を阻害しうる。したがって、かかるポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、トロンビン誘導補体活性化により生じる溶血を治療するために使用しうる。
【0194】
補体経路と凝固経路との間の分子的関連の知見を考慮して、補体は凝固および/または炎症カスケードの追加の成分により活性化されうると考えられる。たとえば、わずかに異なる基質特異性を有する他のセリンプロテアーゼは同様に作用しうる。フーバー-ラング(Huber-Lang)ら(2006年)は、トロンビンがC5を切断するだけでなく天然C3と共にインキュベートした場合にin vitro生成C3aをも切断することを示した(フーバー-ラング(Huber-Lang)ら著、2006年、ネイチャー(Nature)メディスン(Med.)、第12巻、第6号、p.682~687(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。同様に、FXa、FXIa、プラスミンなどの凝固経路の他の成分も、C5およびC3の両方を切断することが見いだされた。
【0195】
とくに、トロンビン活性化を介して観測されたものに類似した機序で、プラスミン、FXa、FIXa、およびFXIaは、C5を切断してC5aおよびC5bを生成可能であることが観測された(アマラ(Amara)ら著、2010年、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J.Immunol.)、第185巻、p.5628~5636;アマラ(Amara)ら著、2008年、“凝固系と補体系との間の相互作用”(“Interaction Between the Coagulation and Complement System”)、補体の現状II(Current Topics in Complement II)、J.D.ラムブリス(J.D.Lambris)編、p.71~79)。産生されたアナフィラトキシンは、好中球およびHMC-1細胞のそれぞれの用量依存性走化性反応より示されるように生物学的に活性であることが見いだされた。プラスミン誘導切断活性は、セリンプロテアーゼ阻害剤アプロチニンおよびロイペプチンにより用量依存的にブロック可能であった。こうした知見から、凝固系に属する種々のセリンプロテアーゼは確立された経路に依存せずに補体カスケードを活性化可能であることが示唆される。更に、両方とも炎症反応に決定的に関与することが知られている機能性C5aおよびC3aが形成される(免疫ブロットおよびELISAにより検出される)。
【0196】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、凝固経路のプラスミン、FXa、FIXa、FXIa、および他のプロテアーゼによるC5の活性化を阻害しうる。
【0197】
炎症プロセス時に好中球およびマクロファージにより分泌される酵素であるヒト白血球エラスターゼ(HLE)もまた、C5から走化性C5a様フラグメントを放出することが以前から知られている。しかしながら、このC5a様フラグメントはC5aと同一ではない。なぜなら、HLEは、補体コンバターゼへの暴露後に通常はC5をC5aおよびC5bに切断する切断部位でペプチド結合を切断しないからである。それどころか、HLEによる補体C5の切断は、MAC生成に関与しうる機能活性C5b様分子を生成するが見いだされた(ボグト(Vogt)著、1999年、イムノロジー(Immunobiology)、第201巻、p.470~477)。
【0198】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、HLEおよび炎症カスケードの他のプロテアーゼによるC5の活性化を阻害しうる。
【0199】
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、C5切断が疾患、障害、および/または病態の進行をもたらす、疾患、障害、および/または病態の治療に有用でありうる。かかる疾患、障害、および/または病態としては、免疫性および自己免疫性、神経性、心血管性、肺性、および眼性の疾患、障害、および/または病態が挙げられうるが、これらに限定されるものではない。免疫性および自己免疫性の疾患および/または障害としては、急性播種性脳脊髄炎(ADEM)、急性壊死性出血性白質脳炎、アジソン病、無γグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、臓器移植後急性抗体媒介拒絶、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)、自己免疫性血管性浮腫、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性自律神経失調症、自己免疫性肝炎、自己免疫性高脂血症、自己免疫性免疫不全、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、自己免疫性甲状腺疾患、自己免疫性蕁麻疹、軸索型・神経型ニューロパチー、細菌性敗血症および敗血症性ショック、バロー病、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、キャッスルマン病、セリアック病、シャーガス病、慢性疲労症候群、慢性炎症性脱髄性多発性神経症(CIDP)、慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡/良性粘膜類天疱瘡、クローン病、コーガン症候群、寒冷凝集素症、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、クレスト病、本態性混合型クリオグロブリン血症、脱髄性ニューロパチー、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、I型糖尿病、円板状狼瘡、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、実験的アレルギー性脳脊髄炎、エバンス症候群、線維筋痛症、線維化性胞隔炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発性血管炎性肉芽腫症(GPA)(ウェゲナー病を参照されたい)、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本脳炎、橋本甲状腺炎、溶血性貧血(非定型溶血性尿毒症症候群および血漿療法耐性非定型溶血性尿毒症症候群を含む)、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、妊娠ヘルペス、低γグロブリン血症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、免疫調節性リポタンパク質、封入体筋炎、インスリン依存性糖尿病(1型)、間質性膀胱炎、若年性関節炎、若年性糖尿病、川崎症候群、ランバート・イートン症候群、大血管症、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質性結膜炎、線状IgA病(LAD)、狼瘡(SLE)、ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発性血管炎、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性硬化症、多巣性運動ニューロパチー、筋炎、重症筋無力症、ナルコレプシー、視神経脊髄炎(デビック病)、好中球減少症、眼性瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、骨関節炎、回帰性リウマチ、PANDAS(連鎖球菌関連小児自己免疫性神経精神障害)、傍腫瘍性小脳変性症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー・ロンベルク症候群、パーソネージ・ターナー症候群、扁平部炎(周辺性ブドウ膜炎)、天疱瘡、末梢性ニューロパチー、静脈周囲脳脊髄炎、悪性貧血、POEMS症候群、結節性多発性動脈炎、I型、II型、およびIII型自己免疫性多腺性症候群、多腺性内分泌症、リウマチ性多発性筋痛症、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、プロゲステロン皮膚炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、乾癬、乾癬性関節炎、特発性肺線維症、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、レイノー現象、反応性関節炎、反射交感神経ジストロフィー、ライター症候群、再発性多発性軟骨炎、下肢静止不能症候群、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、志賀毒素産生性大腸菌による溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)、シェーグレン症候群、小血管血管症、精子・精巣自己免疫病、全身硬直症候群、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、トロサ・ハント症候群、横断性脊髄炎、管状自己免疫障害、潰瘍性結腸炎、未分化結合組織疾患、ブドウ膜炎、水疱性皮膚病、血管炎、白斑症(UCTD)、およびウェゲナー肉芽腫症(多発性血管炎性肉芽腫症(GPA)としても知られる)が挙げられうるが、これらに限定されるものではない。神経性の疾患、障害、および/または病態としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、および多発性硬化症が挙げられうるが、これらに限定されるものではない。心血管性の疾患、障害、および/または病態としては、アテローム硬化症、心筋梗塞、発作、血管炎、心血管介入(限定されるものではないが、心臓バイパス手術、動脈移植、および血管形成を含む)から生じる外傷および病態が挙げられうるが、これらに限定されるものではない。肺性の疾患、障害、および/または病態としては、喘息、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および成人呼吸窮迫症候群が挙げられうるが、これらに限定されるものではない。眼関連用途としては、加齢黄斑変性、アレルギーおよび巨大乳頭結膜炎、ベーチェット病、脈絡膜炎症、眼内手術に関連する合併症、角膜移植拒絶、角膜潰瘍、サイトメガロウイルス網膜炎、ドライアイ症候群、眼内炎、フックス病、緑内障、免疫複合体血管炎、炎症性結膜炎、虚血性網膜疾患、角膜炎、黄斑浮腫、眼性寄生虫感染/移行、網膜色素変性、強膜炎、シュタルガルト病、網膜下線維症、ブドウ膜炎、硝子体網膜炎症、およびフォークト・小柳・原田症候群が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0200】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、C5への抗体の結合を防止するC5遺伝子の突然変異に基づくエクリズマブ(ECULIZUMAB)(登録商標)療法などのモノクローナル抗体療法に対して不十分な反応を示すPNH患者の治療にとくに有用でありうる(ニシムラ,J-I.(Nishimura,J-I.)著、2012年、第54回米国血液学会年会講演要旨集(54th ASH Annual Meeting,Abstract)、p.3197)。
【0201】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、たとえば感染を有する対象において、感染性の疾患、障害、および/または病態の治療に有用でありうる。いくつかの好ましい実施形態では、対象は感染を有し敗血症または敗血症候群を発症するリスクを有している。本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は敗血症の治療にとくに有である。
【0202】
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物はまた、補体阻害が望まれる臨床手順のアウトカムを改善するために投与しうる。かかる手順としては、グラフト、移植、留置、カテーテル挿入、挿管などが挙げられうるが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物は、かかる手順で使用されるデバイス、材料および、/またはバイオマテリアルを被覆するために使用される。いくつかの実施形態では、in vivoまたはex vivoのいずれかで、たとえば、体外シャンティング、たとえば、透析および心臓バイパスで、たとえば、チューブを通り抜ける体液内の補体活性化を防止するために、ポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物でチューブの内表面を被覆しうる。
【0203】
使用方法
治療適応症
本発明は、特定的には、障害、病態、または疾患の治療のためのポリペプチド(たとえば、ペプチドミメティックおよび環状ポリペプチド)および少なくとも1種のポリペプチドを含有す組成物の使用に関する。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に罹患している対象を治療するために使用しうる。PNHの対象は、造血幹細胞で補体調節タンパク質CD55およびCD59の機能体を合成することができない。この結果、補体媒介溶血およびさまざまな下流の合併症を生じる。他の補体関連の障害および疾患としては、自己免疫性の疾患および障害、神経性の疾患および障害、血液性の疾患および障害、ならびに感染性の疾患および障害が挙げられるが、これらに限定されるものではない。多くの補体関連障害は補体活性の阻害を介して軽減されることが実験的証拠から示唆される。
【0204】
複能性造血幹細胞に由来するホスファチジルイノシトールグリカンアンカー生合成クラスA(PIG-A)遺伝子の後天的突然変異は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)として知られる奇病をもたらす(ピュ,J.J.(Pu,J.J.)ら著、発作性夜間ヘモグロビン尿症ベンチツーベッドサイド(Paroxysmal nocturnal hemoglobinuria from bench to bedside)、クリニカル・アンド・トランスレイショナル・サイエンス(Clin Transl Sci.)、2011年6月 、第4巻、第3号、p.219~24)。PNHは、骨髄障害、溶血性貧血、および血栓症により特徴付けられる。PIG-A遺伝子産物は、タンパク質を形質膜にテザー結合するために利用される糖脂質アンカーであるグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)の生産に必要である。2つの補体調節タンパク質(CD55およびCD59)はGPIの不在下では機能しない状態になる。これによりこれらの細胞の補体媒介破壊が引き起こされる。本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物はPNHの治療にとくに有用である。本明細書で用いられる場合、「治療する」、「治療」などという用語は、病理学的プロセスからの解放またはその軽減を意味する。本発明との関連では、以下で本明細書に挙げられた他の病態に関するかぎり、「治療する」、「治療」などという用語は、かかる病態に関連する少なくとも1つの症状の解放もしくは軽減、またはかかる病態の進行もしくは予想される進行の遅延もしくは逆転、たとえば、悪性腫瘍もしくは癌の進行の遅延、または感染性生物のクリアランスを促進することによる、感染により引き起こされる症状、たとえば、肝炎ウイルスの感染により引き起こされる肝炎の軽減/低減、または発作性夜間ヘモグロビン尿症により生じる赤血球の破壊の低減(輸液要件の低減またはヘマトクリットレベルもしくはヘモグロビンレベルの増加により測定される)を意味する。
【0205】
疾患マーカーまたは症状に関連する「低下」または「低減」とは、かかるレベルの統計的に有意な減少を意味する。減少は、たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、またはそれ以上でありうるとともに、好ましくは、かかる障害のない個体の正常な範囲内にあると認められるレベルまで低下する。
【0206】
疾患マーカーまたは症状に関連する「増加」または「上昇」とは、かかるレベルの統計的に有意な上昇を意味する。増加は、たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、またはそれ以上でありうるとともに、好ましくは、かかる障害のない個体の正常な範囲内にあると認められるレベルまで上昇する。
【0207】
本明細書で用いられる場合、「治療上有効量」および「予防上有効量」という語句は、病理学的プロセスまたは1つ以上の病理学的プロセスの明白な症状の治療、予防、または管理で治療効果を提供する量を意味する。治療上有効な特定量は、普通の医師であれば、容易に決定可能であり、当技術分野で公知の因子、たとえば、病理学的プロセスのタイプ、患者の病歴および年齢、病理学的プロセスの段階、ならびに病理学的プロセスを阻害する他の作用剤の投与などに依存してさまざまでありうる。
【0208】
本明細書で用いられる場合、「医薬組成物」は、薬理学的有効量のポリペプチドと薬学的に許容可能な担体とを含む。本明細書で用いられる場合、「薬理学的有効量」、「治療上有効量」、または単に「有効量」とは、意図された薬理学的、治療的、または予防的な結果を生じるのに有効なポリペプチドの量を意味する。たとえば、疾患または障害に関連する測定可能なパラメータが少なくとも10%の変化(増加または減少)を生じた場合に所与の臨床治療が有効であると見なされる場合、その疾患または障害の治療のための薬剤の治療上有効量は、そのパラメータが少なくとも10%の変化を生じるのに必要な量である。たとえば、治療上有効量のポリペプチドは、その天然の結合パートナへの標的の結合を少なくとも10%変化させるものでありうる。
【0209】
「薬学的に許容可能な担体」という用語は、治療剤を投与するための担体を意味する。かかる担体としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この用語は細胞培養培地を特定的に排除する。経口投与される薬剤では、薬学的に許容可能な担体としては、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、甘味剤、風味剤、着色剤、保存剤などの薬学的に許容可能な賦形剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好適な不活性希釈剤としては、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸カルシウム、ならびにラクトースが挙げられ、一方、トウモロコシデンプンおよびアルギン酸は好適な崩壊剤である。結合剤としては、デンプンおよびゼラチンが挙げられうるとともに、存在する場合、滑沢剤は、一般に、マグネシウムステアレート、ステアリン酸、またはタルクであろう。所望により、錠剤は、胃腸管内での吸収を遅らせるためにグリセリルモノステアレートやグリセリルジステアレートなどの材料で被覆しうる。薬剤製剤に含まれる作用剤は、以下で本明細書にさらに説明される。
【0210】
治療の有効性または疾患の改善は、たとえば、疾患の進行、疾患の寛解、症状の重症度、疼痛の低減、生活の質、治療効果を持続するのに必要とされる医薬の用量、疾患マーカーのレベル、または治療もしくは予防対象の所与の疾患に適した任意の他の測定可能なパラメータを測定することにより、評価可能である。かかるパラメータのいずれか1つまたはパラメータの任意の組合せを測定することにより治療または予防の有効性をモニターすることは、十分に当業者の能力の範囲内にある。ポリペプチドまたはその医薬組成物の投与との関連では、疾患または障害「に対して有効」とは、臨床的に適切な方法で投与された結果として、患者の少なくとも一部で、などの有益な効果が得られること、症状の改善、治癒、疾患負荷の低減、腫瘍塊もしくは腫瘍細胞数の低減、寿命の延長、生活の質の向上、輸血の必要性の低減、または特定のタイプの疾患もしくは障害の治療を熟知している医師により好ましいものとして一般に認められる他の作用を意味する。
【0211】
疾患状態の1つ以上のパラメータに統計的に有意な改善が見られる場合、または他の状況下で予想される症状の悪化や発症が見られない場合、治療効果または予防効果は明らかである。例として、疾患の測定可能なパラメータの変化が少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%、またはそれ以上である有利な変化は、有効な治療の指標となりうる。所与のポリペプチド薬剤またはその薬剤の製剤の有効性はまた、当技術分野で公知のように所与の疾患の実験動物モデルを用いて判断可能である。実験動物モデルを使用する場合、マーカーまたは症状の統計的に有意な変調が観測されるときに治療の有効性が実証される。
【0212】
ポリペプチドおよび追加の治療剤は、同一の組成物中で組み合わせてたとえば非経口的に投与可能であるか、または追加の治療剤は、個別の組成物の一部として、もしくは本明細書に記載の他の方法により投与可能である。
【0213】
炎症性適応症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、炎症に関連する疾患、障害、および/または病態を有する対象を治療するために使用しうる。炎症は、補体系のタンパク質分解カスケード時にアップレギュレートされうる。炎症は有益な効果でありうるが、過剰の炎症はさまざまな病理状態をもたらすおそれがある(マーキエウスキー(Markiewski)著、2007年、アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am J Pathol.)、第17巻、p.715~27)。したがって、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化に関連する炎症を低減または排除するために使用しうる。
【0214】
無菌性炎症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、無菌性炎症の発症の治療、予防、または遅延のために使用しうる。無菌性炎症は、感染以外の刺激に反応して起こる炎症である。無菌性炎症は、物理的、化学的、または代謝的な侵害刺激により引き起こされるゲノムストレス、低酸素ストレス、栄養ストレス、小胞体ストレスなどのストレスに対する通常の反応でありうる。無菌性炎症は、多くの疾患、たとえば、限定されるものではないが、虚血誘発傷害、関節リウマチ、急性肺傷害、薬剤誘導肝傷害、炎症性腸疾患、および/または他の疾患、障害、もしくは病態の病理発生に寄与しうる。無菌性炎症の機序ならびに無菌性炎症の症状の治療、予防、および/または遅延のための方法および組成物は、ルバーテリ(Rubartelli)著、フロンティアズ・イン・イムノロジー(Frontiers in Immunology)、2013年、第4巻、p.398-99、ロック(Rock)ら著、アニュアル・レビュー・オブ・イムノロジー(Annu Rev Immunol.)、2010年、第28巻、p.321~342、または米国特許第8,101,586号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されるいずれかを含みうる。
【0215】
全身性炎症反応(SIRS)および敗血症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療および/または予防のために使用しうる。SIRSは全身に影響を及ぼす炎症である。SIRSが感染により引き起こされる場合、敗血症として参照される。SIRSはまた、外傷、傷害、火傷、虚血、出血、および/または他の病態などの非感染性イベントにより引き起こされうる。敗血症時およびSIRS時、補体活性化は、対象において多器官不全(MOF)を引き起こすおそれのある補体活性化産物の過剰生成をもたらす。本発明に係る化合物および組成物は、SIRS、敗血症、および/またはMOFの予防および治療のために、補体活性化の制御および/またはバランス調整のために使用しうる。SIRSおよび敗血症を治療するための補体阻害剤の適用方法は、リッチルシュ(Rittirsch)ら著、クリニカル・アンド・ディベロップメンタル・イムノロジー(Clin Dev Immunol)、2012年、p.962927、米国特許出願公開第2013/0053302号明細書、または米国特許第8,329,169号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示されたものを含みうる。
【0216】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症の治療および/または予防のために使用しうる。ARDSは、肺の広汎性炎症であり、外傷、感染(たとえば敗血症)、重篤な肺炎、および/または有害物質の吸入により引き起こされうる。ARDSは典型的には重篤な命にかかわる合併症である。好中球は肺の傷害された肺胞および間質組織での多形核細胞の蓄積に影響を及ぼすことによりARDSの発症に寄与しうることが試験により示唆される。したがって、本発明に係る化合物および組成物は、肺胞好中球での組織因子の産生を低減および/または予防するために投与しうる。本発明に係る化合物および組成物はさらに、いくつかの場合には、国際公開第2009/014633号パンフレット(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法のいずれかに従ってARDSの治療、予防、および/または遅延のために使用しうる。
【0217】
歯周炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、歯周炎および/または関連症状の発症を治療または予防するために使用しうる。歯周炎は、歯を取り囲んで支持している組織である歯周組織の破壊をもたらす広汎性慢性炎症である。病態はまた、歯槽骨損失(歯を保持する骨)を含む。歯周炎は、歯垢としても知られる歯肉線での細菌の蓄積をもたらす口腔衛生の欠如により起こりうる。ある特定の健康状態、たとえば、糖尿病または栄養失調および/または喫煙などの習慣は、歯周炎のリスクを増加させうる。歯周炎は、発作、心筋梗塞、アテローム硬化症、糖尿病、骨粗鬆症、早産、さらには他の健康上の問題のリスクを増加させうる。研究により歯周炎と局所補体活性との間の相関が実証されている。歯周細菌は、補体カスケードのある特定の成分を阻害または活性化しうる。したがって、本発明に係る化合物および組成物は、歯周炎ならびに関連する疾患および病態を予防および/または治療するために使用しうる。補体活性化阻害剤および治療方法は、ハジシェンガリス(Hajishengallis)著、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem Pharmacol.)2010,15;80(12):1およびラムブリス(Lambris)または米国特許出願公開第2013/0344082号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示されたいずれかを含みうる。
【0218】
創傷および傷害
本発明に係る化合物および組成物は、さまざまなタイプの創傷および/または傷害の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。本明細書で用いられる場合、「傷害」という用語は、典型的には物理的外傷を意味するが、限局性の感染または疾患のプロセスを含みうる。傷害は、生体部分および/または器官に影響を及ぼす外部イベントにより引き起こされる損害、損傷、または破壊により特徴付けられうる。創傷は、皮膚の破壊または損傷をもたらす切傷、打撲傷、熱傷、および/または皮膚への他の衝撃に関連する。創傷および傷害は、多くの場合、急性であるが、適正に治癒されないと慢性の合併症および/または炎症を引き起こすおそれがある。
【0219】
創傷および熱傷創傷
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、創傷の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。健常皮膚は、病原体および他の環境作用因子に対する防水性保護障壁を提供する。皮膚はまた体温および流体蒸発を制御する。皮膚が損傷した場合、これらの機能が破壊されて皮膚の治癒が困難になる。損傷は、組織を回復および再生する免疫系に関連する一群の生理学的プロセスを開始させる。補体活性化はこれらのプロセスの1つである。ファン・デ・グート(van de Goot)ら著、ジャーナル・オブ・バーン・ケア・アンド・リサーチ(J Burn Care Res)、2009年、第30巻、p.274~280、およびカザンダー(Cazander)ら著、クリニカル・アンド・ディベロップメンタル・イムノロジー(Clin Dev Immunol)、2012年、第2012巻、p.534291(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示されるように、補体活性化の研究から創傷治癒に関与するいくつか補体成分が同定されてきた。いくつかの場合には、補体活性化は過度になって細胞死および炎症亢進を引き起こすおそれがある(創傷治癒障害および慢性創傷をもたらしうる)。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、かかる補体活性化を低減または排除して創傷治癒を促進するために使用しうる。本発明に係る化合物および組成物による治療は、国際公開第2012/174055号パンフレット(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示された創傷の治療方法のいずれかに従って行いうる。
【0220】
頭部外傷
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、頭部外傷の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。頭部外傷は、頭皮、頭蓋、または脳への傷害を含む。頭部外傷の例としては、脳震盪、挫傷、頭蓋骨骨折、外傷性脳傷害、および/または他の傷害が挙げられるが、これらに限定されるものではない。頭部外傷は軽症または重篤でありうる。いくつかの場合には、頭部外傷は、長期の物理的および/もしくは精神的な合併症または死をもたらすおそれがある。頭部外傷は不適切な頭蓋内補体カスケード活性化を誘発するおそれがあり、そのため局所炎症反応を起こして脳浮腫および/またはニューロン死の発症による二次的脳損傷の原因となるおそれがあることが研究から示唆される(スタヘル(Stahel)ら著、ブレイン・リサーチ・レビューズ(Brain Research Reviews)、1998年、第27巻、p.243~56(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。本発明に係る化合物および組成物は、頭部外傷の治療および/または関連する二次合併症の低減もしくは予防のために使用しうる。頭部外傷での補体カスケード活性化を制御するための本発明に係る化合物および組成物の使用方法は、米国特許第8,911,733号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)にホラーズ(Holers)らにより教示されたいずれかを含みうる。
【0221】
挫滅傷害
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、挫滅傷害の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。挫滅傷害は、身体に加わる力または圧力により引き起こされる傷害であり、出血、打撲傷、骨折、神経傷害、創傷、および/または身体の他の損傷を引き起こす。本発明に係る化合物および組成物は、挫滅傷害後に補体活性化を低減することにより挫滅傷害後の治癒の促進(たとえば、神経再生の促進、骨折治癒の促進、炎症および/または他の関連合併症の予防または治療)を行いうるために使用しうる。本発明に係る化合物および組成物は、米国特許第8,703,136号明細書、国際公開第2012/162215号パンフレット、国際公開第2012/174055号パンフレット、または米国特許出願公開第2006/0270590号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法のいずれかに従って治療を促進するために使用しうる。
【0222】
自己免疫性疾患
本発明に係る化合物および組成物は、自己免疫性疾患および/または障害を有する対象を治療するために使用しうる。免疫系は、それぞれ非特異的即時防衛機序およびより複雑な抗原特異的系を表す先天性系および適応系に分けられうる。補体系は、先天性免疫系の一部であり、病原体を認識して排除する。そのほかに、補体タンパク質は、適応免疫を変調して、先天性反応と適応反応とを結び付けうる。自己免疫性の疾患および障害は、系が自己の組織および物質を標的とする免疫異常である。自己免疫性疾患は、生体のある特定の組織または器官を含みうる。本発明に係る化合物および組成物は、自己免疫性疾患の治療および/または予防の際に補体を変調するために使用しうる。いくつかの場合には、かかる化合物および組成物は、バランティ(Ballanti)ら著、イムノロジック・リサーチ(Immunol Res)、2013年、第56巻、p.477~491(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に提示された方法に従って使用しうる。
【0223】
抗リン脂質症候群(APS)および劇症型抗リン脂質症候群(CAPS)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化の制御により抗リン脂質症候群(APS)を予防および/または治療をするために使用しうる。APSは、血液を凝固させる抗リン脂質抗体により引き起こされる自己免疫性状態である。APSは、器官では再発性静脈または動脈血栓症を引き起こすおそれがあり、胎盤循環では合併症を引き起こして、妊娠関連合併症、たとえば、流産、死産、子癇前症、早産、および/または他の合併症をもたらすおそれがある。劇症型抗リン脂質症候群(CAPS)は、同時にいくつかの器官で静脈の閉塞をもたらす類似の病態の極限の急性状態である。補体活性化は、妊娠関連合併症、血栓(凝固)合併症、および血管合併症をはじめとするAPS関連合併症に寄与しうることが研究から示唆される。本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化を低減または排除することによりAPS関連病態を治療するために使用しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、サルモン(Salmon)ら著、アナルズ・オブ・ザ・リューマチック・ディジーズ(Ann Rheum Dis)、2002年、第61巻(Suppl II)、ii46~ii50、およびマックワース-ヤング(Mackworth-Young)著、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin Exp Immunol)、2004年、第136巻、p.393~401)により教示された方法に従ってAPSおよび/またはAPS関連合併症を治療するために使用しうる。
【0224】
寒冷凝集素症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、寒冷凝集素媒介溶血としても参照される寒冷凝集素症(CAD)を治療するために使用しうる。CADは、低温領域の体温で赤血球と相互作用する高濃度のIgM抗体により生じる自己免疫性疾患である[エンゲルハーツ(Engelhardt)ら著、ブラッド(Blood)、2002年、第100巻、第5号、p.1922~23]。CADは、貧血、疲労、呼吸困難、ヘモグロビン尿症、および/または先端チアノーゼなどの病態をもたらすおそれがある。CADは、ロバストな補体活性化に関連し、CADは、補体阻害剤療法で治療しうることが研究から示されている。したがって、本発明は、本発明に係る化合物および組成物を用いてCADを治療する方法を提供する。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、ロス(Roth)ら著、ブラッド(Blood)、2009年、第113巻、p.3885-86、または国際公開第2012/139081号パンフレット(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法に従ってCADを治療するために使用しうる。
【0225】
血管適応症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、血管(たとえば、動脈、静脈、および毛細血管)に影響を及ぼす血管適応症を治療するために使用しうる。かかる適応症は、血液循環(血圧)、血流、器官機能、および/または、他の身体機能に影響を及ぼすおそれがある。
【0226】
血栓性微小血管症(TMA)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、血栓性微小血管症(TMA)および関連疾患を治療および/または予防するために使用しうる。微小血管症は、身体の微小血管(毛細血管)に影響を及ぼして、毛細血管壁を厚く弱くし、出血および遅い血液循環を起こしやすくする。TMAは、血管血栓、内皮細胞損傷、血小板減少、および溶血の発症をもたらすために傾向がある。脳、腎臓、筋肉、胃腸系、皮膚、肺などの器官が罹患するおそれがある。TMAは、限定されるものではないが、造血幹細胞移植(HSCT)、腎障害、糖尿病、および/または他の病態をはじめとする医療操作および/または病態から生じうる。TMAは、メリ(Meri)ら著、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インターナル・メディスン(European Journal of Internal Medicine)、2013年、第24巻、p.496~502(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により記載されるように、根底にある補体系機能不全により引き起こされうる。一般に、TMAは、血栓症をもたらすある特定の補体成分のレベルの増加に起因しうる。いくつかの場合には、これが補体タンパク質または関連する酵素の突然変異により引き起こされうる。生じる補体機能不全は、内皮細胞および血小板の補体標的化を引き起こし、血栓症の増加もたらしうる。いくつかの実施形態では、TMAは、本発明に係る化合物および組成物を用いて予防および/または治療しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物を用いてTMAを治療する方は、米国特許出願公開第2012/0225056号明細書または米国特許出願公開第2013/0246083号明細書、その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載に従って行いうる。
【0227】
播種性血管内凝固(DIC)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化を制御することにより播種性血管内凝固(DIC)を治療および/または予防するために使用しうる。DICは、血液中で凝固カスケードが広範に活性化され、とくに毛細血管で血餅の形成をもたらす病理学的病態である。DICは、組織の血流の妨害を引き起こして最終的には器官を損傷するおそれがある。そのほかに、DICは、血液凝固の正常プロセスに影響を及ぼして重篤な出血を引き起こすおそれがある。本発明に係る化合物および組成物は、補体活性を変調することによりDICの治療、予防、または重症度の低下を行いうるために使用しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、米国特許第8,652,477号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたDICの治療方法のいずれかに従って使用しうる。
【0228】
血管炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、血管炎を予防および/または治療するために使用しうる。一般に、血管炎は、白血球が組織を攻撃して血管の膨張を引き起こすことにより特徴付けられる、静脈および動脈を含めて血管の炎症に関連する障害である。血管炎は、ロッキー山紅斑熱または自己免疫病の場合のように感染に関連しうる。自己免疫関連血管炎の例は、抗好中球細胞質自己抗体(ANCA)血管炎である。ANCA血管炎は、身体の自己細胞および組織を攻撃する異常抗体により引き起こされる。ANCAは、ある特定の白血球および好中球の細胞質を攻撃して、生体のある特定の器官および組織で血管壁の攻撃引き起こす。ANCA血管炎は、皮膚、肺、眼、および/または腎臓に影響を及ぼしうる。ANCA疾患は補体副経路を活性化し、血管損傷をもたらす炎症増幅ループを形成するある特定の補体成分を生成することが研究から示される(ジャネット(Jennette)ら著、2013年、セミナーズ・イン・ネフロロジー(Semin Nephrol.)、第33巻、第6号、p.557~64(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化を阻害することによりANCA血管炎を予防および/または治療するために使用しうる。
【0229】
神経学的適応症
本発明に係る化合物および組成物は、限定されるものではないが、神経変性疾患および関連障害をはじめとする神経学的適応症の症状の予防、治療、および/または緩和のために使用しうる。神経変性は、一般に、ニューロンの死をはじめとするニューロンの構造または機能の損失に関連する。こうした障害は、本発明に係る化合物および組成物を用いてニューロン細胞に対する補体の作用を阻害することにより治療しうる。神経変性関連障害としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、およびアルツハイマー病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0230】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、ALSの予防、治療、および/または症状の緩和のために使用しうる。ALSは、脊髄ニューロン、脳幹、および運動皮質の変性により特徴付けられる致命的な運動ニューロン疾患である。ALSは、最終的には呼吸不全に至る筋力低下を引き起こす。補体機能不全はALSに寄与しうるので、補体活性を標的とする本発明に係る化合物および組成物を用いた療法により、ALSの予防、治療を行いうるとともに症状の低減を行いうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は神経再生を促進するために使用しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、米国特許出願公開第2014/0234275号明細書または米国特許出願公開第2010/0143344号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法のいずれかに従って補体阻害剤として使用しうる。
【0231】
アルツハイマー病
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性を制御することによりアルツハイマー病を予防および/または治療するために使用しうる。アルツハイマー病は、失見当識、記憶喪失、気分変動、行動上の問題、および最終的には身体機能の損失を含みうる症状を有する慢性神経変性疾患である。アルツハイマー病は、補体タンパク質などの炎症関連タンパク質に関連するアミロイドの細胞外脳蓄積物により引き起こされると考えられる(ショカバーグ(Sjoberg)ら著、2009年、トレンズ・イン・イムノロジー(Trends in Immunology)、第30巻、第2号、p.83~90(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、米国特許出願公開第2014/0234275号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたアルツハイマー病治療法のいずれかに従って補体阻害剤として使用しうる。
【0232】
腎臓関連適応症
本発明に係る化合物および組成物は、いくつかの場合には、補体活性を阻害することにより、腎臓に関連するある特定の疾患、障害、および/または病態を治療するために使用しうる。腎臓は、血流から代謝老廃物を除去することに関与する器官である。腎臓は、血圧、泌尿器系、および恒常性機序を制御するので、さまざまな身体機能に不可欠である。腎臓は、特異な構造上の特徴および血液への暴露に起因して炎症による影響をより深刻に受けるおそれがある(他の器官と比較して)。腎臓はまた、感染、腎疾患、および腎臓移植により活性化されうる独自の補体タンパク質を産生する。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、クイッグ(Quigg)著、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J Immunol)、2003年、第171号、p.3319~24(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示された方法に従って、腎臓のある特定の疾患、病態、および/または障害の治療で補体阻害剤として使用しうる。
【0233】
ループス腎炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性を阻害することによりループス腎炎を予防および/または治療するために使用しうる。ループス腎炎は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)と呼ばれる自己免疫性疾患により引き起こされる腎臓炎症である。ループス腎炎の症状としては、高血圧、泡状尿、脚、足、手、または顔の膨張、関節痛、筋肉痛、発熱、および皮疹が挙げられる。ループス腎炎は、本発明に係る化合物および組成物を含めて補体活性を制御する阻害剤により治療されるかもしれない。補体阻害によりループス腎炎を予防および/または治療するための方法および組成物は、米国特許出願公開第2013/0345257号明細書または米国特許第8,377,437号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたいずれかを含みうる。
【0234】
膜性糸球体腎炎(MGN)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、ある特定の補体成分の活性化を阻害することにより膜性糸球体腎炎(MGN)障害を予防および/または治療するために使用しうる。MGNは、炎症および構造変化にもたらしうる腎臓の障害である。MGNは、腎臓毛細血管(糸球体)中で可溶性抗原に結合する抗体により引き起こされる。MGNは、流体濾過などの腎機能に影響を及ぼすおそれがあり、腎不全を引き起こしうる。本発明に係る化合物および組成物は、米国特許出願公開第2010/0015139号明細書または国際公開第2000/021559号パンフレット(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された補体阻害によりMGNを予防および/または治療する方法に従って使用しうる。
【0235】
血液透析合併症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化を阻害することにより血液透析に関連する合併症を予防および/または治療するために使用しうる。血液透析は、腎不全の対象において腎機能を維持するために使用される医療手順である。血液透析では、血液に由来する、クレアチニン、ウレア、遊離水などの老廃物の除去は外部で行われる。血液透析治療の通常の合併症は、血液と透析膜との間の接触により引き起こされる慢性炎症である。他の通常の合併症は、血液循環を妨害する血餅の形成を表す血栓症である。こうした合併症は補体活性化に関連することが研究から示唆されている。血液透析は、腎不全に起因して血液透析を受ける対象において炎症反応および病理状態の制御ならびに/または血栓症の予防もしくは治療を行いうる手段を提供するために補体阻害剤療法と組み合わせうる。血液透析合併症の治療のための本発明に係る化合物および組成物の使用方法は、デアンゲリス(DeAngelis)ら著、イムノロジー(Immunobiology)、2012年、第217巻、第11号、p.1097~1105、またはクーツェリス(Kourtzelis)ら著、ブラッド(Blood)、2010年、第116巻、第4号、p.631~639(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示された方法のいずれかに従って行いうる。
【0236】
眼疾患
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、ある特定の眼関連の疾患、障害、および/または病態を予防および/または治療するために使用しうる。健常眼では、補体系は低レベルで活性化され、病原体から保護する膜結合性および可溶性の眼内タンパク質により連続的に制御される。したがって、補体活性化は、眼に関連するいくつかの合併症で重要な役割を果たし、かかる疾患を治療するために補体活性化の制御を使用しうる。本発明に係る化合物および組成物は、ジァー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~3908または米国特許第8,753,625号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示された方法のいずれかに従って眼疾患の治療で補体阻害剤として使用しうる。
【0237】
加齢黄斑変性(AMD)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、眼内補体活性化を阻害することにより加齢黄斑変性(AMD)を予防および/または治療するために使用しうる。AMDは、中心視覚障害、中心視覚盲点、および/または最終的な中心視覚損失を引き起こす慢性眼疾患である。中心視覚は、読書、車の運転、および/または顔認識の能力リードに影響を及ぼす。AMDは、一般に、非滲出性(ドライ)および滲出性(ウェット)の2つのタイプに分類される。ドライAMDは、網膜の中心の組織である黄斑の悪化を意味する。ウェットAMDは、血液および流体の漏れをもたらす網膜下の血管不全を意味する。ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8により考察されるように、いくつかのヒトおよび動物の試験では、AMDに関連する補体タンパク質が同定され、新規な治療戦略は補体活性化経路の制御を含むものであった。AMDの予防および/または治療のために本発明に係る化合物および組成物を使用することを含む本発明に係る方法は、米国特許出願公開第2011/0269807号明細書または米国特許出願公開第2008/0269318号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたいずれかを含みうる。
【0238】
角膜疾患
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、眼内補体活性化を阻害することにより角膜疾患を予防および/または治療するために使用しうる。補体系は、病原性粒子および/または炎症性抗原からの角膜の保護に重要な役割を果たす。角膜は、虹彩、瞳孔、および前房を覆って保護する眼の最も外側のフロント部分であるので、外的因子に暴露される。角膜疾患としては、円錐角膜、角膜炎、眼性ヘルペス、および/または他の疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。角膜合併症は、疼痛、霧視、催涙、充血、光過敏、および/または角膜瘢痕を引き起こすおそれがある。補体系は角膜保護にきわめて重要であるが、補体活性化は、ある特定の補体化合物が高度に発現されるので、感染が除去された後、角膜組織の損傷を引き起こすおそれがある。角膜疾患の治療で補体活性を変調するための本発明に係る方法は、ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8により教示されたいずれかを含みうる。
【0239】
自己免疫性ブドウ膜炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、眼のブドウ膜層の炎症であるブドウ膜炎を予防および/または治療するために使用しうる。ブドウ膜は、眼の脈絡膜、虹彩、および毛様体を含む眼の色素沈着領域である。ブドウ膜炎は、充血、霧視、疼痛、癒着を引き起こし、最終的には失明を引き起こすおそれがある。補体活性化産物は自己免疫性ブドウ膜炎の患者の眼内に存在し、補体は疾患発症に重要な役割を果たすことが研究から示唆されている。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)で同定された方法のいずれかに従ってブドウ膜炎を予防および/または治療するために使用しうる。
【0240】
糖尿病性網膜症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、糖尿病患者において網膜血管の変化により引き起こされる疾患である糖尿病性網膜症を予防および/または治療するために使用しうる。網膜症は、血管膨張および流体漏出および/または異常血管成長を引き起こすおそれがある。糖尿病性網膜症は、視覚に影響を及ぼして最終的には失明をもたらすおそれがある。補体活性化は糖尿病性網膜症の進行に重要な役割を果たすことが研究から示唆されている。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載の糖尿病性網膜症の治療方法に従って使用しうる。
【0241】
子癇前症およびHELLP症候群
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物は、補体阻害剤療法により子癇前症および/またはHELLP(1)溶血、2)肝酵素亢進、および3)低血小板数の症候群フィーチャを表す略号)症候群を予防および/または治療するために使用しうる。子癇前症は、血圧上昇、膨張、息切れ、腎機能不全、肝機能障害、および/または低血小板数を含む症状を有する妊娠障害である。子癇前症は、典型的には、高尿中タンパク質レベルおよび高血圧により診断される。HELLP症候群は、溶血と肝酵素亢進と低血小板病態との組合せである。溶血は、赤血球からのヘモグロビンの放出をもたらす赤血球の破裂を含む疾患である。肝酵素亢進は妊娠誘導肝臓病態を表しうる。低血小板レベルは凝固能力の低減をもたらして出血過剰を引き起こす。HELLPは子癇前症および肝臓障害に関連する。HELLP症候群は、典型的には、妊娠のより後の段階または出産後に起こる。それは、典型的には、関与する3つの病態の存在を表す血液テストにより診断される。典型的にはHELLPは分娩の誘導により治療される。
【0242】
HELLP症候群および子癇前症の時に補体活性化が起こり、HELLPおよび子癇前症の時に補体成分が増加レベルで存在するが研究から示唆される。補体阻害剤は、こうした病態を予防および/または治療するために治療剤として使用しうる。本発明に係る化合物および組成物は、ヒーガー(Heager)ら著、(オブステリスク・アンド・ギネコロジーObstetrics & Gynecology)、1992年、第79巻、第1号、p.19~26または国際公開第201/078622号パンフレット、(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示されたHELLPおよび子癇前症の予防および/または治療の方法に従って使用しうる。
【0243】
投与量および投与
ヒト対象の治療として使用するために、ポリペプチドは医薬組成物として製剤化可能である。治療される対象、投与モード、および治療のタイプ(たとえば、防止、予防、または治療)に依存して、所望ポリペプチドは、これらのパラメータに合致した方法で製剤化される。かかる技術の概要は、レミングトン:薬学の科学と実践(Remington:The Science and Practice of Pharmacy)、第21版、リッピンコット・ウイリアムズ・アンド・ウイルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)、2005年;およびエンサイクロペディア・オブ・ファーマシューティカル・テクノロジー(Encyclopedia of Pharmaceutical Technology)、J.スワーブリクス(J.Swarbrick)およびJ.C.ボイラン(J.C.Boylan)編、1988-1999年、マーセル・デッカー(Marcel Dekker)、ニューヨーク(それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)に見いだされる。
【0244】
本発明に係る組成物は、好ましくは、治療上有効量で提供され、たとえば、1日量は、約0.1mg~約100mg、約0.5mg~約200mg、約1mg~約300mg、約5mg~約500mg、約10mg~約750mg、約50mg~約1000mg、または少なくとも1000mgでありうる。一実施形態では、医薬組成物は、たとえばユニット製剤としてカプセル剤を含む。
【0245】
ユニット製剤
本発明に係るポリペプチドは、組成物の全重量に対して合計で0.1~95重量%の量に存在しうる。組成物は経口投与に適した剤形で提供しうる。したがって、医薬組成物は、たとえば、ハードカプセル剤(たとえば、ハードゼラチンカプセル剤またはハードヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセル剤)、ソフトゼラチンカプセル剤、錠剤、カプレット剤、腸溶被覆錠剤、咀嚼錠剤、腸溶被覆ハードゼラチンカプセル剤、腸溶被覆ソフトゼラチンカプセル剤、ミニカプセル剤、ロゼンジ剤、フィルム剤、ストリップ剤、ジェルキャップ剤、糖衣剤、溶液剤、エマルジョン剤、サスペンジョン剤、シロップ剤、またはスプレー剤の形態をとりうる。
【0246】
対象には、0.01mg/kg、1.0mg/kg、15mg/kgなどの治療量のポリペプチドが投与されうる。ヒト対象に投与するために、本発明に係るポリペプチドの投与量は、典型的には0.01~15mg/kg、より好ましくは3~5mg/kgである。しかしながら、投与量レベルは、病態の性質、薬剤有効性、患者の病態、実施者の判断、ならびに投与の頻度およびモードに高度に依存しうる。
【0247】
他の実施形態では、ポリペプチドは、たとえば、4時間ごと、6時間ごと、12時間ごと、18時間ごと、24時間ごと、36時間ごと、72時間ごと、84時間ごと、96時間ごと、5日ごと、7日ごと、10日ごと、14日ごと、3週間ごと、またはそれ以上の頻度で投与される。組成物は、毎日1回投与可能であるか、またはポリペプチドは、1日を通じて適切な間隔で2回分、3回分、またはそれ以上のサブ用量として投与可能であるか、または制御放出製剤を介して送達可能である。その場合、各サブ用量に含まれるポリペプチドは、1日あたりの全投与量に達するようにそれに対応してより少なくなくてはならない。投与ユニットはまた、たとえば、数日間にわたりポリペプチドの持続放出を提供する従来の持続放出製剤を用いて、数日間にわたり送達するように配合可能である。
【0248】
持続放出製剤は当技術分野で周知であり、とくに特定の部位に作用剤を送達するのに有用であり、本発明に係るポリペプチド組成物を用いても同様に使用可能である。単回用量の効果は、後続用量を3、4、もしくは5日以下の間隔でまたは1、2、3、もしくは4週間以下の間隔で投与すれば、長期持続しうる。
【0249】
ポリペプチドは、一定時間にわたり、たとえば、5分間、10分間、15分間、20分間、または25分間にわたり、静脈内注入により投与可能である。投与は、たとえば定期的に、たとえば、1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、またはそれ以上にわたり2週間に1回(すなわち、2週間ごとに)繰り返してもよい。初期治療レジメン後、より少ない頻度で治療剤を投与することが可能である。たとえば、3ヶ月間にわたり2週間に1回投与した後、6ヶ月間、1年間、またはそれ以上にわたり1ヶ月間に1回の投与を繰り返すことが可能である。ポリペプチドまたは組成物の投与は、たとえば、細胞、組織、血液、尿、または患者の他の区画で、結合プロセスまたはいずれかの生理学的に有害なプロセスの低減、低下、増加、または変化を、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれ以上の量で引き起こすことが可能である。
【0250】
ポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物の全用量を投与する前に、より低用量で、たとえば、全用量の5%で患者に投与して、アレルギー反応や注入反応などの有害作用、または脂質レベルもしくは血圧の上昇をモニターすることが可能である。他の例では、サイトカイン(たとえば、TNF-α、Il-1、Il-6、またはIl-10)レベルの増加などの望ましくない免疫刺激作用に関して患者をモニターすることが可能である。
【0251】
遺伝的素因はいくつかの疾患または障害の発症に一定の役割を果たす。したがって、ポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物が必要とされる患者は、家族歴を調べることにより、またはたとえば、1つ以上の遺伝子マーカーもしくは変異体をスクリーニングすることにより、同定してもよい。医者、看護師、家族などの医療提供者は、本発明に係る治療用組成物を処方または投与する前に家族歴を調べることが可能である。
【0252】
キット
本明細書に記載の組成物のいずれかは、キットに含まれうる。限定されるものではないが、例として、ポリペプチドは、疾患を治療するためのキットに含まれうる。キットは、滅菌された乾燥状態のポリペプチド粉末の入ったバイアル、乾燥粉末を溶解させるための滅菌溶液、およびポリペプチドを投与するための注入セット用シリンジを含みうる。
【0253】
ポリペプチドが乾燥粉末として提供される場合、本発明に係るキットに10マイクログラム~1000ミリグラムまたは少なくとももしくは多くともでそれらの量のポリペプチドを提供することが企図される。
【0254】
容器手段は、一般に、ポリペプチド製剤が配置される、好ましくは適切に割り付けられる少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、および/または他の容器手段を含むであろう。キットはまた、滅菌された薬学的に許容可能な緩衝剤および/または他の希釈剤を収容するための第2の容器手段を含みうる。
【0255】
キットは、キット成分の利用さらにはキットに含まれない他のいずれかの試薬の使用のための説明書を含みうる。説明書は、実施可能な変形態様を含み得る。
本発明の種々の実施形態を特定的には提示および説明してきが、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書において形態および細部にさまざまな変更を加えうることは、当業者であれば理解されよう。
【0256】
均等物および範囲
当業者であれば、通常の実験の域を出ることなく、本明細書に記載の本発明に係る特定の実施形態に対する多くの等価形態が分かるであろう。またはそれらを確認できるであろう。本発明の範囲は、以上の説明に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に明記される通りである。
【0257】
特許請求の範囲では、「a」、「an」、「the」などの冠詞は、相反する指示がないがきりまたはとくに文脈から自明でないかぎり、1つ以上を意味しうる。グループの1つ以上のメンバー間に「or(または)」を含む特許請求の範囲または説明は、相反する指示がないがきりまたはとくに文脈から自明でないかぎりに、グループメンバーの1つ、1つ超、またはすべてが、所与のプロダクトまたはプロセスに存在するか、そこで利用されるか、またはそれ以外の形でそれに適合する場合、満たされると考えられる。本発明は、厳密にグループの1つのメンバーが、所与のプロダクトまたはプロセスに存在するか、そこで利用されるか、またはそれ以外の形でそれに適合する、実施形態を含む。本発明は、グループメンバーの1つ超またはすべてが、所与のプロダクトまたはプロセスに存在するか、そこで利用されるか、またはそれ以外の形でそれに適合する、実施形態を含む。
【0258】
また、「comprising(~を含む)」という用語は、オープンであることが意図され、追加の要素または工程の組込みを許容するものであるがそれを必要とするわけではないことにも留意されたい。したがって、「comprising(~を含む)」という用語が本明細書で用いられる場合、「consisting of(~からなる)」および「or including(または~を含む)」という用語もまた包含されて開示される。
【0259】
範囲が与えられた場合、端点が含まれる。さらに、とくに指定がないかぎりまたはとくに文脈および当業者の理解から自明でないかぎり、範囲として表現された値は、文脈上明らかに異なる場合を除いて、範囲の下限の1/10単位まで、本発明のさまざまな実施形態で指定の範囲内の任意の特定の値または部分範囲を仮定しうると理解されるべきである。
【0260】
それに加えて、先行技術に包含される本発明の特定の実施形態はいずれも、請求項の任意の1項以上から明示的に除外されうると理解されるべきである。そのような実施形態は、当業者に公知であるとみなされるので、たとえ本明細書で明示的に除外が明記されていないとしても、それらは除外されうる。本発明に係る組成物の特定の実施形態(たとえば、任意の核酸、それによりコードされたタンパク質、任意の製造方法、任意の使用方法など)はいずれも、先行技術の存在の有無にかかわらず、任意の理由で、いずれか1項以上の請求項から除外しうる。
【0261】
引用された出典、たとえば、本明細書に引用された参考文献、出版物、データベース、データベース項目、および技術はすべて、たとえ引用の中にはっきりと明記されていないとしても、参照により本出願に組み込まれる。引用された出典の記載内容と本出願の記載内容とが矛盾する場合、本出願の記載内容が優先するものとする。
【0262】
セクションおよび表題は限定を意図するものではない。
(実施例)
実施例1.ビオチン化C5の調製
大規模ビオチン化のためにC5対ビオチンの有効最終モル比1:4を使用した。製造業者の説明書に従ってEZ-Link Sulfo-NHS-LC Biotin(サーモ・サイエンティフィック(Thermo Scientific)、マサチューセッツ州ビルリカ)の10mM溶液を調製した。1mgの1mg/ml C5(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Tech)、テキサス州タイラー)に2.1μlの10mMビオチン溶液を添加し、氷上で2時間インキュベートした。100μlの1M Tris HCl pH7.5の添加後、4℃で反応を30分間クエンチした。冷PBST(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)+0.1%Tween80)に対して反応液を一晩透析した。ビオチン化C5をアリコートして-80℃で貯蔵した。還元条件下および非還元条件下でSDS-PAGEによりビオチン化C5を特徴付けし、赤血球溶血アッセイにより活性に関して特徴付けした。ストレプトアビジンビーズ(インビトロジェン(Invitrogen)、ニューヨーク州グランドアイランド )上への回収に関してもビオチン化C5をチェックした。製造業者により推奨された条件下でキャプチャーを行った。100nM溶液から4μgのビオチン化C5をキャプチャーするために、40μlのビーズスラリーを使用して4℃で1時間インキュベートした。NuPage 4~12%Bis-Trisゲル(インビトロジェン(Invitrogen)、ニューヨーク州グランドアイランド)上で既知量のC5を泳動させることにより、キャプチャーされたビオチン化C5の濃度を計算した。
【0263】
実施例2.ビオチン化C5のQCのためのヒト溶血アッセイ
ビオチン化の前後でC5の溶解活性を比較するために、C5枯渇血清とビオチン化C5および非ビオチン化C5とを用いて溶血アッセイを行った。5×10細胞/mlの溶液中の抗体感作ヒツジ赤血球(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)を2,090×重力で3分間遠心分離し、GVB++緩衝液(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)中に再懸濁させた。37℃でC5枯渇ヒト血清(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)を急速に解凍し、GVB++中に希釈されるまで氷上に配置した。37℃で非ビオチン化C5タンパク質(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)およびビオチン化C5タンパク質(インハウスでビオチン化)を迅速に解凍し、GVB++中に希釈されるまでウェット氷スラリー上に配置した。組織培養物処理透明96ウェルマイクロタイタープレート(USAサイエンティフィック(USA Scientific)、フロリダ州オカラ)中で100μlの細胞(2.5×10細胞/mlの最終濃度で)とC5枯渇ヒト血清と50μlのビオチン化C5または非ビオチン化C5(10μg/ml、3μg/ml、または1μg/mlのいずれかの最終濃度を有する)とを組み合わせた。37℃でプレートを1時間インキュベートした。次いで、インキュベーション後、2,090×重力でプレートを2分間遠心分離してから、新しいマイクロタイタープレートに100μlの上清を移した。412nmで吸光度を読み取り、非ビオチン化C5およびビオチン化C5のパーセント溶解活性を比較した。
【0264】
実施例3.C5に結合するポリペプチドの選択
C5阻害剤は、mRNAディスプレイおよび選択を数ラウンド行って同定した。mRNAディスプレイは、本明細書に記載されるように変更を加えて一般的には(ロバーツ,R.W.(Roberts,R.W.)およびスゾスタク,J.W.(Szostak,J.W.)著、1997年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第94巻、p.12297~12302;国際公開第2009067191号パンフレット(その全体が参照により本明細書に組み込まれる))に記載されるように行った。RNAプールは、固定N末端メチオニンコドンおよびシステインコドン、続いて3位置の16コドンホスホロアミダイト混合物、続いて同様にシステインコドンを含有する8位置の第2のコドン混合物を用いて合成されたDNAからin vitro転写により作製した。得られたmRNAライブラリーは、固定開始メチオニン、続いてシステイン残基、続いてシステインの欠如した3位置、続いて12.5%の頻度でシステインを生じる8位置を有する。選択を行うために、第1ラウンドの富化は、表2に列挙された精製翻訳成分を用いて、ピューロマイシンを含有する3’末端UV架橋オリゴヌクレオチドを含有するRNAプールをin vitro翻訳する第1の工程を含んでいた。2つの個別の条件下で翻訳を行ってアミノ酸変動に基づく2つのユニークなライブラリーを作製した。第1の条件は、20種の天然アミノ酸のみを利用し、一方、第2の条件は、天然アミノ酸(0.1mMのヒスチジン、トレオニン、プロリン、リシン、アスパラギン、チロシン、グルタミン酸、およびシステイン)、非天然アミノ酸(2mMのtert-ブチルグリシン(Tbg)、0.8mMの7-アザトリプトファン(この実施例では「アザTrp」と略記した)、および1mMのノルバリン(Nvl)、アザロイシン、およびフェニル-グリシン(Phg)))、およびN-メチルアミノ酸(N-メチル化セリン[(N-Me)S]、アラニン[(N-Me)A]、グリシン[(N-Me)G]、および4-フルオロ-N-メチルフェニルアラニン[(N-Me-4-F)Phe]の450μM混合物)を利用した。1ラウンド当たりのポリペプチド富化をモニターできるように、35S標識システイン残基は両方の条件に含まれていた。
【0265】
【表2】
【0266】
tRNAは、tRNAシンテターゼを用いてそれらのそれぞれのアミノ酸を酵素的に付加した。4つのN-メチルtRNAはあらかじめ付加したが、すべての他のtRNAはin vitro翻訳反応時に酵素的に付加した。tRNAシンテターゼはそれらの濃度に関係なく体積基準で添加された。翻訳時にin-situ付加するために25μlの翻訳反応液に対して0.1μlの各tRNAシンテターゼ(25μlの翻訳反応液当たり0.4μlで添加したメチオニンtRNAシンテターゼを除く)を添加した。架橋mRNAは0.75μMの最終濃度で添加した。翻訳反応は37℃で1時間維持した。翻訳後、翻訳混合物に高濃度塩を添加して37℃で1.5時間インキュベートすることにより、翻訳されたポリペプチドとそれらのそれぞれのmRNAとの融合を行った。天然ポリペプチドの選択用のライブラリーは、位置5~11に固定システインコドンを有する8つの個別ライブラリーから作製した。これらのライブラリー中のランダム位置は、20種のアミノ酸すべてが可能であり、NNS(NはA、G、C、またはTであり、SはGまたはCである)のコドン単位を繰り返してコンビナトリアルに作製した(デブリン,J.J.(Devlin,J.J.)ら著、1990年、サイエンス(Science)、第249巻、p.404~406)。これらのライブラリーの天然ポリペプチドへの翻訳は、以上に記載の再構成系ではなくin vitro翻訳キットでウサギ網状赤血球を用いて行った。
【0267】
mRNA提示ポリペプチドの回収は、ポリA mRNAおよびHisタグ付きポリペプチドの両方を含有する融合分子を単離するために、オリゴdTおよびNi-NTA親和性の両方を用いて行った。次いで、他者により記載されるようにジブロモキシレンを用いてオリゴdTビーズ結合ポリペプチドを環化した(米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、第1号、p.1727、2005年)。
【0268】
次いで、標的親和性によるポリペプチドの直接選択を行った。mRNA提示ポリペプチドは、PBST中のビオチン化C5の100nM溶液中でビオチン化C5に4℃で1時間結合させた。二本鎖DNAプールを形成するために、アフィニティー選択ポリペプチドに対応するRNAの逆転写およびPCR増幅を行った。in vitroでDNAプールを転写してmRNAを生成し、生成されたmRNAは、ピューロマイシン含有オリゴヌクレオチドを用いてその3’末端に以上のときと同様に架橋した。in vitroでmRNAピューロマイシン融合体を翻訳に付して第2ラウンドのライブラリーを作製した。このライブラリーは、この時点では、補体成分C5に結合するポリペプチドが富化されている)。選択サイクルは6ラウンド繰り返した。第6ラウンドの後、選択されたポリペプチドを表すDNAプールのクローニングおよび配列決定を行い、DNA配列に基づいて候補C5阻害剤のアミノ酸配列を決定した。同定されたポリペプチド配列は表3に列挙される。
【0269】
以下のすべての表さらには配列リストで用いられる場合、略号は次の意味を有する。「Ac」および「NH2」は、それぞれ、アセチルおよびアミド化末端を表し、「Nvl」はノルバリンの略であり、「Phg」はフェニルグリシンの略であり、「Sar」はサルコシンの略であり、「Tbg」はtert-ブチルグリシンの略であり、「Trt」はトリチルまたはトリフェニルメチルの略であり、「Chg」はシクロヘキシルグリシンの略であり、「(N-Me)X」は、N-メチル-Xとして記された変数「X」の代わりのアミノ酸として一文字または三文字コードにより表されたアミノ酸のN-メチル化形態の略であり[たとえば、(N-Me)Aおよび(N-Me)Alaは両方とも、アラニンのN-メチル化形態またはN-メチル-アラニンの略である]、「アザTrp」が指定されている場合、7-アザ-トリプトファンが組み込まれており、「(4-F)Phe」は4-フルオロフェニルアラニンの略であり、「Aib」はアミノイソ酪酸の略であり「Tyr(OMe)」はO-メチルチロシンの略であり、「(ホモ)F」または「(ホモ)Phe」はホモフェニルアラニンの略であり、「(2-OMe)Phg」は2-O-メチルフェニルグリシンを意味し、「プロパルギルGly」はプロパルギル-グリシンを意味し、「(5-F)W」または「(5-F)Trp」は5-フルオロトリプトファンを意味し、「D-X」は所与のアミノ酸「X」のD-ステレオアイソマーを意味し、このアミノ酸は一文字または三文字コードを用いて略記されることもあり[たとえば、(D-Chg)はD-シクロヘキシルグリシンの略であり、(D-W)はD-トリプトファンの略である]、「(5-MeO)W」または「(5-MeO)Trp」は5-メチル-Oトリプトファンを意味し、「ホモC」はホモシステインを意味し、「(1-Me-W)」または「(1-Me)W」または「(1-Me-Trp)」または「(1-Me)Trp」は1-メチルトリプトファンを意味し、「Nle」はノルロイシンを意味し、「Tiq」が指定されている場合、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-1-カルボン酸が組み込まれており、「Asp(T)」は(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸を意味し、「(3-Cl-Phe)」は3-クロロフェニルアラニンを意味し、「[(N-Me-4-F)Phe]」または「(N-Me-4-F)Phe」はN-メチル-4-フルオロフェニルアラニンを意味し、「Boc」はtert-ブチルオキシカルボニル保護基であり、「[xキシリル(y,z)]」は2個のシステイン間のキシリル架橋部分を意味し、式中、xはm、p、またはoでありうるとともに、架橋部分を形成するために(それぞれ)メタ-、パラ-、またはオルト-ジブロモキシレンを使用することを表し、数値識別子yおよびzは、環化に関与するシステインのポリペプチド内のアミノ酸位置を決定し、「[シクロ(y,z)]」は2個の残基間の結合の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定し、「[mキシリル-ビシクロ]」は、ポリペプチドが2つの環状ループを含みかつ架橋部分がメタ-ジブロモキシレンとの反応により生成されることを表す。他の記号はすべて標準的な一文字アミノ酸コードを意味する。そのほかに、PEG2000またはBODIPY-TMR-X配列タグを含むポリペプチドが示されている。
【0270】
【表3】
【0271】
実施例4.ポリペプチド合成
ポリペプチドは標準的な固相Fmoc/tBu法を用いて合成する。合成は典型的にはRinkアミド樹脂を用いた標準的プロトコルを用いてLiberty自動マイクロ波ペプチドシンセサイザー(CEM、ノースカロライナ州マシューズ)で行うが、マイクロ波機能を有していない他の自動シンセサイザーを使用してもよい。すべてのアミノ酸はとくに断りのない限り供給業者から入手する。使用したカップリング反応剤は2-(6-クロロ-1-H -ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスフェート(HCTU)であり、塩基はジイソプロピルエチルアミン(DIEA)である。ポリペプチドは、95%TFA、2.5%TIS、および2.5%水を用いて樹脂から3時間かけて切断し、エーテルを用いて沈殿により単離される。粗ポリペプチドは、C18カラムを用いた逆相分取HPLCにより20%~50%のグラジエントのアセトニトリル/水 0.1%TFAを用いて30分かけて精製する。純粋ポリペプチドを含有する画分は捕集および凍結乾燥され、すべてのポリペプチドはLC-MSにより分析される。
【0272】
実施例5.ジスルフィド環化ポリペプチドの形成
ジスルフィド環化ポリペプチドを生成するために、線状ポリペプチドを水とDMSOとの混合物に溶解させ、得られた溶液を空気雰囲気下で激しく12時間撹拌する。
【0273】
実施例6.ジブロモキシレンポリペプチド環化
100mLのフラスコにアセトニトリル(12mL)および水(24mL)を仕込み、アルゴンで約5分間脱ガスする。線状ポリペプチド(0.01ミリモル)および200mM重炭酸アンモニウム(6mL)を添加し、続いて0.012ミリモルの1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン、または(E)-1,4-ジブロモブト-2-エンを添加する。アルゴン下、室温で反応混合物を約2時間撹拌し、LC-MSによりモニターする。反応が終了した後、反応溶液を凍結し凍結乾燥させる。粗凍結乾燥生成物のHPLC精製、続いて、純粋ポリペプチド含有画分の凍結乾燥を行って、最終環化生成物を白色粉末として得る。
【0274】
実施例7.ラクタムポリペプチド環化
固相中でラクタム部分を用いてポリペプチドの環化を行った。最初に標準的なFmoc化学により固体担体Wang樹脂上でポリペプチドを合成した。ラクタム架橋形成用の2つの前駆体モノマーとしてFmoc-ASP(アリル)-OHおよびFmoc-LYS(alloc)-OHを指定位置でポリペプチドに組み込んだ。十分な伸長後、無水ジクロロメタン(3×)で樹脂を洗浄し、乾燥窒素ガスでパージした。アリルおよびalloc保護基を除去するために、5倍モル過剰のフェニルシランで樹脂を処理し、窒素で10分間パージした。無水ジクロロメタンに触媒量のテトラキスPd(0)を溶解させ、樹脂のサスペンジョンに添加した。1時間後、ジクロロメタン(3×)、ジメチルホルムアミド(3×)、ナトリウムジエチルジチオカルバメート三水和物(3×)、ジメチルホルムアミド(3×)、およびジクロロメタン(3×)で樹脂を逐次的に洗浄した。PyAOP(3-ヒドロキシ-3H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジナト-O)トリ-1-ピロリジニル-リンヘキサフルオロホスフェート)およびジイソプロピルエチルアミンで脱保護ポリペプチド含有樹脂を処理することによりジメチルホルムアミド(DMF)中でラクタム環化を達成し、一晩反応させた。DMFで樹脂を濯ぎ、45℃でさらに60分間にわたり新たなPyAOPおよびジイソプロピルエチルアミンで処理した。ジメチルホルムアミドで樹脂を濯いで5回洗浄した。実施例4に記載されるようにポリペプチドの切断および精製を行った。
【0275】
実施例8.トリアゾールポリペプチド環化
アジドおよびアルキン部分を含有するポリペプチドの環化は固相上で行った。ジクロロメタンでポリペプチド含有樹脂(0.05mmol)を処理し、10分間膨潤させた。次いで、溶媒をDMF(3~5mL)に交換し、10分後、Cu-TBTAリガンドの溶液を添加した(125μLの20mM溶液)。アルゴンガスでサスペンジョンをパージし、次いで、アスコルビン酸(5μモル)を添加した。溶液を2時間振盪し、過剰の試薬を除去し、DMF中のEDTAの溶液で樹脂を洗浄して過剰の銅を除去する。実施例4に記載されるようにポリペプチドの切断および精製を行った。
【0276】
実施例9.本発明に係るポリペプチド
本発明に係るポリペプチドを合成した。これらは表4に列挙された化合物を含む。
【0277】
【表4】
【0278】
【0279】
【0280】
【0281】
【0282】
【0283】
【0284】
【0285】
【0286】
ポリペプチドR3183(配列番号184)およびR3193(配列番号194)は、Nvl-NH2をLysで置き換えたこと以外はR3176(配列番号177)のアミノ酸配列に従って合成した。Lys残基の側鎖アミン基をさまざまな親油性部分で修飾して脂質化ポリペプチドを得た。
【0287】
実施例10.C5阻害剤の最適化および試験
実施例3に従って選択され表3に列挙されたポリペプチドは、補体媒介細胞溶解を阻害する能力に関して試験した。そのほかに、実施例4~8の方法に従ってさまざまな最適化ポリペプチドを合成して同様に試験した(表4参照)。最適化ポリペプチド配列は、化合物R3002(配列番号3)、R3008(配列番号9)、およびR3021(配列番号11)に対してさまざまなトランケーション、欠失、付加、および/または置換を行うことによりまたは3つのいずれかから選択された領域の組合せを含むハイブリッドポリペプチドを形成することにより得られたものを含む。
【0288】
ヒト溶血アッセイ(完全ヒト血清を用いたRBC溶解アッセイ)
赤血球溶血アッセイを用いて阻害剤活性に関して表3に列挙されたポリペプチドさらにはそれらの最適化誘導体(表4参照)を評価した。完全ヒト血清(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)およびポリペプチドと共に、抗体感作ヒツジ赤血球(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)を2.5×107細胞/ウェルでプレーティングし、赤血球の溶解に対するポリペプチドの阻害作用を調べた。2,090×重力で細胞を3分間遠心分離し、新たなGVB++緩衝液(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)中に再懸濁させた。37℃でヒト血清を急速に解凍し、次いでGVB++中に希釈されるまで氷上で貯蔵した。DMSO中でポリペプチド(10mMストック、DMSO)の6倍段階希釈を10回行い、次いで緩衝液に添加した。96ウェルの組織培養物処理透明マイクロタイタープレート(USAサイエンティフィック(USA Scientific)、フロリダ州オカラ)の個別ウェル中で50μlの各ポリペプチド希釈液と血清および100μlの細胞とを組み合わせ、ピペット操作により再懸濁させた。37℃でサンプルを1時間インキュベートした。インキュベーション後、2分間2,090×重力でプレートを遠心分離した。100μlの上清を新しいプレートに移して412nmで吸光度を読み取った。log-logit式を用いてデータの当てはめを行って用量-反応曲線およびIC50を得た。本明細書で用いられる場合、「IC50」という用語は、半値阻害濃度、すなわち、所与の反応またはプロセスを半減するのに必要とされる阻害剤の量を表すために使用される値を意味する。試験化合物は表5に列挙されている。
【0289】
【表5】
【0290】
【0291】
【0292】
【0293】
【0294】
実施例11.C5枯渇血清を用いた代替ヒト溶血アッセイ
完全ヒト血清ではなくヒトC5枯渇血清および精製ヒトC5を用いて表6に列挙されたポリペプチドを赤血球溶血アッセイにより機能活性に関して試験した。活性を評価するために、1.5%ヒトC5枯渇血清(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)および0.5nM精製ヒトC5(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)と共に、抗体感作ヒツジ赤血球(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)を2.5×10細胞/ウェルでプレーティングした。2,090×重力で抗体感作ヒツジ赤血球を3分間遠心分離機し、次いで新たなGVB++(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)中に再懸濁させた。37℃でヒトC5枯渇血清および精製ヒトC5を急速に解凍し、次いではそれぞれ氷上またはウェット氷上で貯蔵した。10回の6倍希釈液を得るために、ポリペプチドストック(10mM、DMSO)をDMSO中に段階希釈し、次いでGVB++に添加した。96ウェルの組織培養物処理透明マイクロタイタープレート(USAサイエンティフィック(USA Scientific)、フロリダ州オカラ)の個別ウェル中で、50μlの各ポリペプチド希釈液と、25μlのC5枯渇血清、25μlの精製ヒトC5、および100μlの細胞と、を組み合わせ、ピペット操作により再懸濁させた。37℃でサンプルを1時間インキュベートした。インキュベーションの終了時、2,090×重力でプレートを2分間遠心分離した。100μlの上清を新しいプレートに移して412nmで吸光度を読み取った。log-logit式を用いてデータの当てはめを行って用量-反応曲線およびIC50を得た。
【0295】
【表6】
【0296】
実施例12.C5阻害を評価するための酵素免疫アッセイ
酵素免疫アッセイ(EIA)によりC5阻害活性を評価した。MicroVue EIAキット((Quidel Corporation)、カリフォルニア州サンディエゴ)によりC5aおよび膜侵襲複合体(MAC)の産生の阻害を測定した。
C5a EIA
R3002(配列番号3)およびR3008(配列番号9)のヒトRBC溶血アッセイからの上清を1:50希釈し、C5a EIAによりアッセイした(図1)。両方のポリペプチドはC5aの形成を阻害した。R3002(配列番号3)は5.4nMのIC50を有し、R3008(配列番号9)は54.5nMのIC50を有していた。
膜侵襲複合体(MAC)EIA
ヒトRBC溶血アッセイからのR3008(配列番号9)の希釈上清(1:5)でMAC EIAを行った(図2)。このポリペプチドは33nMのIC50でMACの形成を阻害することが示された。
【0297】
実施例13.蛍光偏光によるペプチドミメティック結合の特徴付け
蛍光偏光(FP)により均一溶液中で結合イベントを測定することが可能である(バンクス,P.(Banks,P.)ら著、Gタンパク質結合レセプターの高スループット蛍光偏光アッセイに対するレッドシフト色素標識の効果(Impact of a red-shifted dye label for high throughput fluorescence polarization assays of G protein-coupled receptors)、ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング(J Biomol Screen.)、2000年10月、第5巻、第5号、p.329~34、およびパーカー,G.J.(Parker,G.J.)ら著、蛍光偏光を用いた高スループットスクリーニングアッセイの開発:核レセプター-リガンド結合およびキナーゼ/ホスファターゼアッセイ(Development of
high throughput screening assays using fluorescence polarization:nuclear receptor-ligand-binding and kinase/phosphatase
assays)、ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング(J Biomol Screen.)、2000年4月、第5巻、第2号、p.77~88)。FPの主要概念は、フルオロフォアが光を偏光する程度が分子旋光度と逆相関することであり(リー,W.A.(Lea,W.A.)ら著、低分子スクリーニングでの蛍光偏光アッセイ(Fluorescence polarization assays in small molecule screening)、エキスパート・オピニオン・オン・ドラッグ・ディスカバリー(Expert Opin Drug Discov.)、2011年41月、第6巻、第1号、p.17~32)、非常に大きな標的タンパク質に結合されたフルオロフォアは、未結合フルオロフォアよりもゆっくり回転するので、定量可能な偏光が増加をもたらす。FPは、リガンド-標的結合を測定する方法として(パーカー,G.J.(Parker,G.J.)ら著、蛍光偏光を用いた高スループットスクリーニングアッセイの開発:核レセプター-リガンド結合およびキナーゼ/ホスファターゼアッセイ(Development of high throughput screening assays using fluorescence polarization:nuclear receptor-ligand-binding and kinase/phosphatase assays)、ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング(J Biomol Screen.)、2000年4月、第5巻、第2号、p.77~88)、平衡解離定数(K)決定のために(プリステイ,L.(Prystay,L.)ら著、蛍光偏光での平衡解離定数の決定(Determination of equilibrium dissociation constants in fluorescence polarization)、ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング(J Biomol Screen.)、2001年6月、第6巻、第3号、p.141~50)、高スループットキャンペーンでますます使用されてきており、そして競合結合アッセイによる発見の先頭に立っている(ティアン,W.(Tian,W.)ら著、β-カテニン/Tcf4相互作用を研究するための新規な蛍光偏光に基づくアッセイの開発(Development of novel fluorescence polarization-based assay for studying the β-catenin/Tcf4 interaction)、ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング(J Biomol Screen.)、2012年4月、第17巻、第4号、p.530~4)。
【0298】
材料および方法
C5タンパク質の競合ポリペプチド阻害剤のスクリーニングのためにFPを使用した。DMF(シグマ(Sigma)、ミズーリ州セントルイス)中で4時間にわたりBODIPY-TMR-X,SE(Life Technologies、ニューヨーク州グランドアイランド))と共に親ポリペプチドR3072(配列番号20)をインキュベートすることにより、プローブR3076(配列番号40)を生成した。タンパク質のC末端リシンにBODIPY-TMR色素を結合し、得られた標識プローブをHPLCにより精製した。
【0299】
漸増濃度のC5タンパク質と共に25nMのR3076(配列番号40)の溶液をインキュベートすることにより、ヒトC5タンパク質(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)に対するR3076(配列番号40)の結合の平衡解離定数(K)を決定した。結合が平衡に達するまで経時的に偏光を測定した。Kは、グラフパッドプリズム(Graphpad Prism)を用いて決定した(Kを決定するための曲線当てはめとして「飽和結合曲線、ヒルスロープを用いた一部位特異的結合(Saturating Binding Curves, One Site-Specific Binding With Hill Slope)」を用いた)。平衡は10分後に達成され、K値、ヒルスロープ、および最大結合は60分間にわたり安定な状態を維持した。10~60分のK値を平均することにより8.07nM(標準偏差0.53)の最終K値を決定した。この情報に基づいて、R3076(配列番号40)およびC5タンパク質に対して25nMおよび50nMの濃度をそれぞれ競合アッセイに使用するように選択した。これらの濃度は、C5タンパク質に対する95%プローブ結合に必要なタンパク質の近似的レベルを表した。R3023(配列番号104)はR3002(配列番号3)のスクランブルポリペプチド変異体であり、陰性対照としてすべてのアッセイに含まれた。
【0300】
TBS(EMDミリポア(EMD Millipore)、マサチューセッツ州ビルリカ)+0.005%トリトン-X(Triton-X)(シグマ(Sigma)、ミズーリ州セントルイス)で構成されたアッセイ緩衝液中にヒトC5タンパク質を200nMに希釈した。黒色非結合384ウェルアッセイプレート(グレイナー(Greiner)、ノースカロライナ州モンロー)のすべてのウェルに10μlのアッセイ緩衝液を添加し、実験ウェルおよび所定の対照ウェルに10μlの希釈C5タンパク質ストックを添加した。
【0301】
DMSO(ライフ・テクノロジーズ(Life Technologies)、ニューヨーク州グランドアイランド)中にプローブR3076(配列番号40)を1対10希釈し、そのストックの30μlを3mlのアッセイ緩衝液に希釈して100nMストックを得た。次いでこの使用ストックの10μlをアッセイプレートの各ウェルに添加した。光から保護して室温でアッセイプレートを20分間インキュベートして結合が平衡に達するようにした。
【0302】
続いて、表7に列挙された試験品をDMSO中に希釈し、次いで、10回の2倍希釈液を含めて、アッセイ緩衝液中に希釈し、次いで、トリプリケート方式でアッセイプレートに迅速に添加した。次いで、25℃でパラダイム(Paradigm)(モレキュラー・デバイスイズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州サニーベール)プレートリーダー中でアッセイプレートを60分間インキュベートした。
【0303】
60分間のインキュベーション後、パラダイムFP(Paradigm FP)プロトコル(モレキュラー・デバイスイズ(Molecular Devices)、カリフォルニア州サニーベール)を用いてプレートを読み取り、生の偏光度値をグラフパッドプリズム(Graphpad Prism)にインポートした。グラフパッド(Graphpad)でK(一部位K曲線当てはめモデル、プローブ濃度=25nM、K=8.07nMを使用、0%結合対照の平均をベースラインに規定)およびIC50(log阻害剤vs反応、4パラメータ曲線当てはめ)のログを記録する)を決定した。
【0304】
結果
ヒトC5タンパク質への結合に関してすべての試験品を標識プローブと競合させることが可能であった(図3(表7))。R3003(配列番号4)は試験したポリペプチドのうち最も効力が高く9.54nMのK値を有していた。試験した最大濃度ではR3023(配列番号104)結合は検出されなかった。
【0305】
【表7】
【0306】
表7に示されるデータは、以上に記載のグラフパッドプリズム(Graphpad Prism)ソフトウェアにより行われた曲線当てはめ解析から得られた。トリプリケート値を平均して各実験で示されたデータ点を生成した。試験したポリペプチドのうち、R3003(配列番号4)は、最初にmRNAディスプレイ選択により同定された。C5に対するR3003(配列番号4)の親和性は、IC50値と同様に低いKを呈するFP分析の結果により検証された。阻害剤R3011(配列番号31)およびR3050(配列番号23)もまた、C5に対する比較的強い親和性を呈した。対照ポリペプチド(R3023(配列番号104))はC5に対する親和性を示さなかったが、阻害剤R3014(配列番号55)およびR3043(配列番号50)は弱い親和性を呈した。
【0307】
実施例14.血漿中の化合物安定性の解析
次の条件下でヒト血漿中の安定性に関して化合物をアッセイした。ヒト血漿はバイオレクラメイション(Bioreclamation)(ニューヨーク州ウェストベリー)から入手し、ヘパリンナトリウム中に捕集した。血漿はpH7.4に調整した。試験化合物に対して10mMの濃度のDMSOストックを調製した。10μMの最終試験化合物濃度であらかじめ37℃に加温された1mLの血漿中にDMSO溶液のアリコートは投与した。実験を行っている間、卓上サーモミキサー(THERMOMIXER)(登録商標)(エッペンドルフ(Eppendorf)、ニューヨーク州ハウパウジ)にバイアルを保持した。各時間点でアリコート(100μL)を採取し、内部標準の混合物(各500ng/mLのメトプロロール、プロプラノロール、およびワルファリン)を含有する300μLのアセトニトリルがあらかじめ充填された96ウェルプレートに添加した。実験の終了までサンプルを4℃で貯蔵した。最終時間点でサンプリングした後、プレートを混合し、3,000rpmで10分間遠心分離した。上清のアリコートを取り出してLC-HRAMSにより分析した。液体クロマトグラフィーの設定は表8に列挙されており、質量分析の設定は表9に列挙されている。
【0308】
【表8】
【0309】
【表9】
【0310】
あらかじめ決められた検量曲線との比較により試験化合物R3050(配列番号23)の濃度を決定した(表10)。
【0311】
【表10】
【0312】
これらの条件下ではR3050(配列番号23)はきわめて安定であることが示された。
実施例15.トリプトファンアナログを含むポリペプチド変異体
いくつかの実施形態では、本発明に係るポリペプチドは7-アザトリプトファンを含む。C5阻害におけるこの残基の重要性を決定するためにアミノ酸置換解析を行った。この際、7-アザトリプトファンは、天然トリプトファンにより、さらには、5-フルオロトリプトファン[(5-F)W]、1-メチル-トリプトファン[(1-Me)W]、D-トリプトファン、および5-メチル-O-トリプトファン[(5-MeO)W]を含む種々の他のトリプトファンアナログにより置き換えた。非トリプトファン置換を用いた類似のポリペプチドも同様に解析した。
【0313】
R3002(配列番号3)およびR3008(配列番号9)のポリペプチド変異体を合成して、赤血球溶解を阻害するそれらの能力に関して実施例10に記載されるように試験した(表11および12を参照されたい)。試験した変異体のうち、7-アザトリプトファン残基の置換を含むものはすべて、平均IC50値(半値阻害濃度の尺度であり、所与の反応またはプロセスを半減させるのに必要とされる阻害剤の量の指標となる値)の増加により示唆されるように赤血球溶解を阻害する能力の減少を示した。
【0314】
【表11】
【0315】
【表12】
【0316】
実施例16.ヒト溶血アッセイにより解析されたポリペプチドトランケーションおよびアミノ酸欠失の効果
R3021(配列番号11)のC末端トランケートポリペプチド変異体を合成し、C5依存性赤血球溶解を阻害するそれらの能力に関して実施例10に記載のヒト溶血アッセイによりアッセイした。試験した各ポリペプチドの平均IC50値(半値阻害濃度の尺度であり、所与の反応またはプロセスを半減させるのに必要とされる阻害剤の量の指標となる値)は、表13に列挙されている。トランケートポリペプチドは、赤血球溶解を阻害する能力の減少を示し(IC50値の増加により示される)、トリプトファンの欠如した変異体が最大のIC50値を有する。
【0317】
そのほかに、R3021(配列番号11)の内部アミノ酸欠失ポリペプチド変異体を合成し、実施例10に記載の方法に従ってC5依存性赤血球溶解を阻害するそれらの能力に関してアッセイした(表14参照)。そのほかに、これらの変異体のN末端メチオニンをアセチル基で置き換えた。試験した各ポリペプチドの平均IC50値は表14に列挙されている。興味深いことに、N末端メチオニンのみをアセチル基で置き換えたところ[R3048](配列番号19)、赤血球溶解を阻害するポリペプチドの能力が増加した。内部残基Dの除去[R3124(配列番号130)]または内部残基DVYの除去[R3125(配列番号131)、R3021(配列番号11)の残基8、9、および10に対応する]は、赤血球溶解を阻害するポリペプチドの能力の減少をもたらした。
【0318】
【表13】
【0319】
【表14】
【0320】
実施例17.アルブミン結合性ポリペプチドの組込み
血漿タンパク質結合を変調する1つ以上のポリペプチドにポリペプチドをコンジュゲートする。本明細書では「アルブミン結合性ポリペプチド」として参照されるこれらのポリペプチドは表15に列挙されている。
【0321】
【表15】
【0322】
アルブミン結合性ポリペプチドはシステイン残基でのジスルフィド結合形成により環化される。いくつかの実施形態では、アルブミン結合性ポリペプチドはそのN末端またはC末端のいずれかによりコンジュゲートされるので、わずかに異なる構造(たとえばアセチル基がない)を有する。
【0323】
実施例18.細胞透過性ポリペプチドの組込み
細胞透過性を有するポリペプチドにポリペプチドをコンジュゲートする。これらのポリペプチドは表16に列挙されており、ミレッティ,F.(Milletti,F.)著、細胞透過性ペプチド:クラス、起源、および現状(Cell-penetrating polypeptides: classes, origin, and current landscape)、ドラッグ・ディスカバリー・トゥデイ(Drug Discov Today)、2012年8月、第17巻、第15~16号、p.850~60に記載されている。
【0324】
【表16】
【0325】
実施例19.アミノ酸ステレオアイソマーを含むポリペプチド混合物の解析
それぞれでPhgをD-Phgで置き換えたこと以外はR3085(配列番号90)およびR3082(配列番号116)のアミノ酸配列に従って、それぞれポリペプチドR3136(配列番号137)およびR3137(配列番号138)を合成した(表17参照)。実施例10に記載のヒト溶血アッセイに従って赤血球溶解を阻害する能力に関してR3136(配列番号137)とR3085(配列番号90)またはR3137(配列番号138)とR3082(配列番号116)のいずれかを含む組成物を解析した。R3136(配列番号137)とR3085(配列番号90)とを含む組成物は>50,000の平均IC50(nM)を生じ、一方、R3137(配列番号138)とR3082(配列番号116)とを含む組成物は>100,000の平均IC50(nM)を生じた。
【0326】
【表17】
【0327】
実施例20.非ヒト霊長動物における薬動学的試験
表18に列挙された化合物を用いて非ヒト霊長動物において薬動学的試験を行った。表中、「Cmpd」は化合物を意味し、「Avg」は平均を意味する。
【0328】
【表18】
【0329】
単回静脈内(IV)投与後、ポリペプチドR3152(配列番号153)の血漿中濃度を決定した。3匹の雄動物に3mg/kgのポリペプチドを投与し、シロッコ・プロテイン・プレシピテーション(Sirocco Protein Precipitation)プレート(ウォーターズ・コーポレーション(Waters Corporation)、マサチューセッツ州ミルフォード)を用いてアセトニトリル沈殿および抽出を行った後、LC/MS-MSを用いてポリペプチドの血漿中濃度を決定した。投与直後から投与48時間後まで決定されたR3152(配列番号153)の組合せ血漿中濃度の時間経過(図4参照)から薬動学的(PK)パラメータを計算した。血漿中薬剤レベルは、初期分布段階(<1時間)で急速に低下してからプラトーに達し、48時間まで検出可能であった。R3152(配列番号153)は、10.9±0.8時間の平均終末相半減期を有していた。平均クリアランス量は0.129±0.0122L/hr/kgであった。これは典型的なサルの肝臓血流量(2.6L/hr/kg)の約5%である。平均分布容積は1.49±0.152l/kgであった。これは典型的なサルの全身水分量(0.7L/kg)の約2倍である。平均AUC∞は23319±2120hr*ng/mLであった。
【0330】
R3152(配列番号153)は、霊長動物C5タンパク質に高い親和性で結合し、C5aおよびC5b産物の生成および多量体膜侵襲複合体(MAC)の生成を防止することにより補体経路をブロックする。確立されたex vivoアッセイ(実施例10に記載のヒト溶血アッセイを参照されたい)を用いて、以上のPK試験の血漿サンプル中の補体媒介MAC形成の阻害を試験した。その際、血漿を1:100希釈して活性化ヒツジ赤血球(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)と共にインキュベートした。各時点で活性血清中補体の指標として溶血活性を決定した(図4参照)。>200ng/mLのR3152(配列番号153)を含有する血漿では、補体媒介溶血が明確に阻害されたことからMAC形成阻害が示唆される。正常カニクイザル血漿に添加された外因性R3152(配列番号153)は、IC50=2~20ng/mLを有する。溶血活性は投与の48時間後に正常レベルに戻った。なぜなら、R3152(配列番号153)の血漿中レベルが100ng/ml未満に低下したからである。
【0331】
実施例21.ラットにおける薬動学的試験
静脈内(IV)投与または皮下(SC)投与としてそれぞれ2および30mg/kgでR3152(配列番号153)を雄ラットに送達した(図5)。IV投与後、以上に記載のようにシロッコ・プロテイン・プレシピテーション(Sirocco Protein
Precipitation)プレート(ウォーターズ・コーポレーション(Waters Corporation)、マサチューセッツ州ミルフォード)を用いてアセトニトリル沈殿および抽出を行った後、LC/MS-MSを用いてR3152(配列番号153)をモニターした。R3152(配列番号153)およびその等効力C末端脱アミド化代謝物R3201(配列番号211)の組合せ血漿中濃度の時間経過(図5参照)から薬動学的(PK)パラメータを計算した。
【0332】
R3152(配列番号153)/R3201(配列番号211)は速い分布相を呈し、続いて、t1/2=5.3時間で遅い排出を呈した。30mg/kgのSC投与後、類似の排出速度が観測され、AUCに基づいて用量の約65%の生物学的利用率を有していた。SC投与ではTmaxが4時間および薬剤への暴露が長時間であったことから、血漿中の治療濃度が長時間にわたることになる。R3152(配列番号153)およびR3201(配列番号211)はラットC5に結合しないので、ex vivo溶血アッセイでごくわずかな阻害活性が観測された。
【0333】
雄スプラーグ・ドーリーラットにおける静脈内投与後または皮下投与後の薬動学的性質に関して、脂質化および非脂質化化合物R3183(配列番号184)およびR3176(配列番号177)をそれぞれ評価した。図6は結果を示している。図6の左側パネルは、単回2mg/kg用量で静脈内注射された雄スプラーグ・ドーリーラット(n=3)を示している。指定の時間点で血液サンプルを採取し、血漿への変換処理を行い、そしてLC-MSにより指定の化合物を分析した。黒丸:R3176(配列番号177)(非脂質化化合物)、白丸:R3183(配列番号184)(C16脂質化化合物)。図6の右側パネルは、単回15mg/kg用量で皮下注射された雄スプラーグ・ドーリーラット(n=3)を示している。指定の時間点で血液サンプルを採取し、血漿への変換処理を行い、そしてLC-MSにより指定の化合物を分析した。黒丸:R3176(配列番号177)(非脂質化化合物)、白丸:R3183(配列番号184)(C16脂質化化合物)。曲線下面積(AUC)の決定により評価すると脂質化は暴露の増加をもたらし、静脈内経路では2.1倍および皮下経路では2.7倍になる。
【0334】
実施例22.トロンビン誘導補体経路の溶血の阻害
トロンビンはC5をC5Tに切断することにより補体活性を誘導可能であり、次いで、これはC5aおよびC5bTに切断される。C5bTはC5bのようにC6ならびに補体経路の残りの終末成分C7、C8、およびC9と会合して、赤血球の溶解を引き起こす膜侵襲複合体(MAC)の形成をもたらす(クリシンガー(Krisinger)ら著、2014年、ブラッド(Blood)、第120巻、第8号、p.1717~1725)。したがって、トロンビン誘導補体経路を介して溶血を阻害する能力に関して、R3183およびエクリズマブ(ECULIZUMAB)(登録商標)に類似した抗C5モノクローナル抗体を試験した。
【0335】
阻害剤活性を評価するために、400nMの濃度に達するようにC5(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)を添加し、R3183またはエクリズマブ(ECULIZUMAB)(登録商標)に類似した抗C5モノクローナル抗体の存在下でまたは阻害剤なしで、600nMの最終濃度のC6(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)および50nMの濃度のトロンビン(エンザイム・リサーチ・ラボライツ(Enzyme Research Laborites)、インディアナ州サウスベンド)と共に37℃で30分間インキュベートした。緩衝液GVB+EDTA(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)中のヒルジン(セル・サイエンス(Cell Sciences)、マサチューセッツ州カントン)を150nMまで添加して反応を停止させ、室温で5分間インキュベートした。96ウェルマイクロタイタープレート(USAサイエンティフィック(USA Scientific)、フロリダ州オカラ)中でこれらの希釈サンプルを抗体感作ヒツジ赤血球(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)と混合し、37℃で5分間インキュベートした。次いで、15nMの濃度に達するようにC7(コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)をウェルに添加し、プレートを37℃に15分間戻した。次いで、C8(10nM、コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)とC9(25nM、コンプリメメント・テクノロジー(Complement Technology)、テキサス州タイラー)との複合体をアッセイ混合物に添加し、サンプルを37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、1000×gでプレートを遠心分離し、100μLの上清を新しいマイクロタイタープレートに移し、412nmで吸光度を読み取った。得られるデータを図7に示す。R3183は6ng/mL超の濃度でトロンビン誘導補体経路による溶血を阻害することが見いだされたが、抗C5モノクローナル抗体は阻害しなかった。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、記載する。
[項目1]
配列番号2~55,57~59,139~156,158~175,177,178,180~185,187,189~201および211からなる群から選択されるポリペプチド。
[項目2]
2つのアミノ酸間に架橋部分を含む、項目1に記載のポリペプチド。
[項目3]
前記架橋部分が、構造I~XIX
【化11】

(式中、各Xは、独立して、環が3個以上のNを含有しないようにNまたはCHであり、各Zは、独立して、結合、NR、O、S、CH、C(O)NR、NRC(O)、S(O)NR、NRS(O)であり、各mは、独立して、0、1、2、および3から選択され、各vは、独立して、1および2から選択され、各Rは、独立して、HおよびC~Cから選択され、かつ各架橋部分は、独立して選択されたC~Cスペーサによりポリペプチドに結合される)
からなる群から選択される構造を含む、項目2に記載のポリペプチド。
[項目4]
前記架橋部分が、ジスルフィド結合、アミド結合(ラクタム)、チオエーテル結合、芳香環、不飽和脂肪族炭化水素鎖、飽和脂肪族炭化水素鎖、およびトリアゾール環からなる群から選択されるフィーチャを含む、項目2に記載のポリペプチド。
[項目5]
前記ペプチドが環状ループを含み、該環状ループが、1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、および16アミノ酸からなる群から選択される長さである、項目2~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
[項目6]
前記フィーチャが芳香環を含み、かつ前記架橋部分がポリ(ブロモメチル)ベンゼンとの反応により形成される、項目4に記載のポリペプチド。
[項目7]
前記ポリ(ブロモメチル)ベンゼンが、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、および1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼンからなる群から選択される、項目6に記載のポリペプチド。
[項目8]
前記ポリ(ブロモメチル)ベンゼンが1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼンである、項目7に記載のポリペプチド。
[項目9]
前記フィーチャが芳香環を含み、かつ前記架橋部分が、2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン、(E)-1,4-ジブロモブト-2-エン、および1,2-ビス(ブロモメチル)-4-アルキルベンゼンからなる群から選択される化合物との反応により生成される、項目4に記載のポリペプチド。
[項目10]
前記ポリペプチドが配列番号177である、項目1に記載のポリペプチド。
[項目11]
前記ポリペプチドが配列番号184である、項目1に記載のポリペプチド。
[項目12]
前記ポリペプチドが配列番号194である、項目1に記載のポリペプチド。
[項目13]
配列番号1のポリペプチドを含む、ポリペプチド。
[項目14]
項目1~12のいずれか一項に記載のポリペプチドと許容可能な担体または賦形剤とを含む組成物。
[項目15]
賦形剤を含み、前記賦形剤が薬学的に許容可能な賦形剤を含む、項目14に記載の組成物。
[項目16]
細胞系においてC5切断を阻害するための組成物であって、
前記組成物は、前記細胞系と接触させられる、項目14または15に記載の組成物。
[項目17]
前記ポリペプチドが50nM未満のIC50でC5の切断を阻害する、項目16に記載の組成物。
[項目18]
前記細胞系がヒト対象である、項目16または17に記載の組成物。
[項目19]
前記ヒト対象が、補体関連疾患、障害、および病態の少なくとも1つを含む、項目18に記載の組成物。
[項目20]
前記補体関連疾患、障害、および病態の少なくとも1つが、炎症性適応症、創傷、傷害、自己免疫性疾患、血管適応症、神経学的適応症、腎臓関連適応症、眼疾患、発作性夜間ヘモグロビン尿症、および非定型溶血性尿毒症症候群からなる群から選択される、項目19に記載の組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2022034057000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-01-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R-Xaa0-Xaa1-Xaa2-Xaa3-Xaa4-Xaa5-Xaa6-Xaa7-Xaa8-Xaa9-Xaa10-Xaa11-Xaa12-Xaa13-Xaa14-Xaa15-Xaa16-Xaa17-Xaa18-R(配列番号212)(式中、
a.Rは、不在であるか、またはH、アセチル基、1~20個の炭素原子の線状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素鎖を含有するアシル基、ヘプタノイル基、アミド、カルバメート、ウレア、PEG、ヒドロキシアルキルデンプン、およびポリペプチドからなる群から選択され、
b.Xaa0は、不在であるか、またはMetおよびノルバリンからなる群から選択されるアミノ酸であり、
c.Xaa1は、不在であるか、または(S)-2-アミノ-5-アジドペンタン酸、クロロ酢酸、(S)-2-アミノヘプト-6-エン酸、4-アミノ酪酸、5-アミノペンタン酸、5-アミノヘキサン酸、オルニチン、Lys、ホモリシン、Glu、Asp、3-チオプロピオン酸、およびCysからなる群から選択され、
d.Xaa2は、不在であるか、またはAla、D-Ala、tertブチル-グリシン、Lys、Ser、Cys、およびValからなる群から選択され、
e.Xaa3は、不在であるか、またはAla、ノルバリン、Val、およびGluからなる群から選択され、
f.Xaa4は、不在であるか、またはAla、Cys、Arg、Ser、Glu、フェニルグリシン、およびノルバリンからなる群から選択され、
g.Xaa5は、不在であるか、またはTyr、Arg、Cys、Phe、N-メチル-チロシン、およびAlaからなる群から選択され、
h.Xaa6は、不在であるか、またはGlu、N-メチル-グルタミン酸、シクロヘキシルグリシン、Lys、Tyr、Pro、N-メチル-セリン、tertブチル-グリシン、Val、ノルロイシン、ノルバリン、7-アザトリプトファン、Asn、Asp、(S)-2-アミノペント-4-イン酸、(S)-2-アミノペント-4-エン酸、Cys、およびAlaからなる群から選択され、
i.Xaa7は、不在であるか、またはAsn、N-メチル-アスパラギン、N-メチル-グリシン、N-メチル-セリン、ホモシステイン、Thr、Tyr、フェニルグリシン、tert-ブチルグリシン、α-メチルL-アスパラギン酸、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、N-メチル-アスパラギン酸、シクロロイシン、4-アミノ-テトラヒドロ-ピラン-4-カルボン酸、Arg、Glu、Asp、Cys、およびAlaからなる群から選択され、
j.Xaa8は、tert-ブチルグリシンであり
k.Xaa9は、Tyrであり
l.Xaa10は、3-アミノメチル-L-フェニアラニン、7-アザトリプトファン、N-メチル-トリプトファン、1-メチル-トリプトファン、およびTrpからなる群から選択され、
m.Xaa11は、Gluであり
n.Xaa12は、不在であるか、またはTrp、ホモフェニルアラニン、m-クロロホモフェニルアラニン、2-ナフチルアラニン、3-アミノメチル-L-フェニアラニン、Tyr、N-メチル-チロシン、Cys、Phe、Ala、Glu、Gly、N-メチル-グリシン、フェニルグリシン、4-フルオロフェニルアラニン、O-メチル-チロシン、ホモフェニルアラニン、3-クロロフェニルアラニン、およびノルバリンからなる群から選択され、
o.Xaa13は、不在であるか、またはプロパルギル-グリシン、Pro、Ala、N-メチル-グリシン、Ser、N-メチル-セリン、N-メチル-アラニン、ノルバリン、Cys、およびTbgからなる群から選択され、
p.Xaa14は、不在であるか、またはアミノイソ酪酸、tert-ブチルグリシン、Cys、Pro、Asn、フェニルグリシン、D-フェニルグリシン、N-メチル-フェニルグリシン、ノルバリン、His、Ala、D-Ala、およびシクロヘキシルグリシンからなる群から選択され、
q.Xaa15は、不在であるか、またはノルバリン、Lys、N-ε-カプリル酸リシン、N-ε-カプリルリシン、N-ε-ラウリルリシン、N-ε-パルミトイルリシン、Pro、Cys、Tyr、Gly、プロパルギル-グリシン、ホモCys、N-メチル-セリン、およびtert-ブチルグリシンからなる群から選択され、
r.Xaa16は、不在であるか、またはノルバリン、Cys、Lys、およびAlaからなる群から選択され、
s.Xaa17は、不在であるか、またはPro、Glu、およびNvlからなる群から選択され、
t.Xaa18は、不在であるかまたはノルバリンであり、かつ
u.Rは、不在であるか、またはB20、B28、K14、-NH、および-N(CHからなる群から選択される)で示されるポリペプチド。
【請求項2】
2つのアミノ酸間に架橋部分をさらに含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記架橋部分が、構造I~XIX
【化1】

(式中、各Xは、独立して、環が3個以上のNを含有しないようにNまたはCHであり、各Zは、独立して、結合、NR、O、S、CH、C(O)NR、NRC(O)、S(O)NR、NRS(O)であり、各mは、独立して、0、1、2、および3から選択され、各vは、独立して、1および2から選択され、各Rは、独立して、HおよびC~Cから選択され、かつ各架橋部分は、独立して選択されたC~Cスペーサによりポリペプチドに結合される)からなる群から選択される構造を含む、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記架橋部分が、ジスルフィド結合、アミド結合(ラクタム)、チオエーテル結合、芳香環、不飽和脂肪族炭化水素鎖、飽和脂肪族炭化水素鎖、およびトリアゾール環からなる群から選択されるフィーチャを含む、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項5】
環状ループが、1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、および16アミノ酸からなる群から選択される長さである、請求項2~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
残基Xaa1がシステインであり、かつ前記架橋部分が、残基Xaa1と、Xaa4、Xaa5、Xaa6、Xaa7、Xaa8、Xaa9、Xaa10、Xaa11、Xaa12、Xaa13、Xaa14、Xaa15、およびXaa16からなる群から選択される残基と、を連結する、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記フィーチャが芳香環を含み、かつ前記架橋部分がポリ(ブロモメチル)ベンゼンとの反応により形成される、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリ(ブロモメチル)ベンゼンが、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、および1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼンからなる群から選択される、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記試薬が1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼンである、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記フィーチャが2つのシステイン残基間のジスルフィド結合を含む、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記フィーチャが芳香環を含み、かつ前記架橋部分が、2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン、(E)-1,4-ジブロモブト-2-エン、および1,2-ビス(ブロモメチル)-4-アルキルベンゼンからなる群から選択される化合物との反応により生成される、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項12】
Xaa8がtert-ブチルグリシンであり、Xaa9がTyrであり、Xaa10が7-アザトリプトファンであり、Xaa11がGluであり、かつXaa12がTyrである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のポリペプチドと許容可能な担体または賦形剤とを含む、対象における補体関連疾患、障害、または病態の治療用の組成物。
【請求項14】
賦形剤を含み、前記賦形剤が薬学的に許容可能な賦形剤を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記ポリペプチドが約50nM~約200nMのIC50でC5の切断を阻害する、請求項13または14に記載の組成物
【請求項16】
前記ポリペプチドが50nM未満のIC50でC5の切断を阻害する、請求項15に記載の組成物
【請求項17】
前記補体関連疾患、障害、および病態の少なくとも1つが、炎症性適応症、創傷、傷害、自己免疫性疾患、血管適応症、神経学的適応症、腎臓関連適応症、眼疾患、発作性夜間ヘモグロビン尿症、および非定型溶血性尿毒症症候群からなる群から選択される、請求項13または14に記載の組成物