(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034102
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シート、多層体、および、カード
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20220224BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220224BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220224BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20220224BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220224BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220224BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220224BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220224BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/22
C08K3/013
C08L67/04
C08L67/02
C08K3/04
C08J5/18 CFD
B32B27/20 A
B32B27/36 102
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137706
(22)【出願日】2020-08-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔太朗
(72)【発明者】
【氏名】武田 聖英
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 守
(72)【発明者】
【氏名】冨田 恵介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA43
4F071AA50
4F071AA81
4F071AA86
4F071AA88
4F071AB03
4F071AB18
4F071AC17
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4F071AE09
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4F071AF39Y
4F071AG12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
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4F071BC12
4F071BC16
4F071BC17
4F100AA21A
4F100AA37A
4F100AK42A
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4F100YY00A
4J002CF052
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4J002FD016
4J002FD078
4J002FD097
4J002FD119
4J002FD206
4J002GC00
4J002GF00
4J002GS00
(57)【要約】
【課題】 光遮蔽能に優れ、かつ、酸化チタンが十分に分散している樹脂シートを提供可能な樹脂組成物、ならびに、これを用いた樹脂シート、多層体、および、カードの提供。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂30~95質量部、および、酸化チタン5~40質量部を含む樹脂組成物であって、走査電子顕微鏡(SEM)観察による画像により計測した、前記酸化チタン の平均一次粒子径が0.22~0.26μmであり、前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量が1.0~1.8質量%であり、Alの含有量が1.6~2.2質量%である樹脂組成物。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂30~95質量部、および、酸化チタン5~40質量部を含む樹脂組成物であって、
走査電子顕微鏡(SEM)観察による画像により計測した、前記酸化チタンの平均一次粒子径が0.22~0.26μmであり、
前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量が1.0~1.8質量%であり、Alの含有量が1.6~2.2質量%である樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸化チタンがその表面に有機物層を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸化チタンは、蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量と、700℃で2時間焼成した際に蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量との差が、0.3~0.8質量%である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量とAlの含有量の質量比率(Si/Al)が、0.5~1.0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、ポリエステルを0.5~47.5質量部の割合で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエステルが、ラクトン化合物由来の構成単位を含む、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリエステルが、テレフタル酸由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位と、シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位を含む、請求項5または6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記酸化チタンの含有量が20~40質量部である、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、酸化チタン以外の他の着色剤を、樹脂組成物中、5~150質量ppmの割合で含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記他の着色剤が波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤を含む、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記他の着色剤がカーボンブラックを含む、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記他の着色剤が染料を含む、請求項9または10に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
さらに、酸化防止剤を、前記樹脂組成物中、0.01~0.2質量%の割合で含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
さらに、帯電防止剤を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
カード用である、請求項1~14のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された樹脂シート。
【請求項17】
厚みが20~2000μmである、請求項16に記載の樹脂シート。
【請求項18】
全光線透過率が0~20%である、請求項16または17に記載の樹脂シート。
【請求項19】
前記樹脂シートの少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmである、請求項16~18のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項20】
前記樹脂シートの第一の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmであり、第二の面の表面粗さが、第一の面の表面粗さよりも、0.1~2.5μm小さい、請求項16~19のいずれか1項に記載の樹脂シート。
【請求項21】
請求項16~20のいずれか1項に記載の樹脂シートを有する、多層体。
【請求項22】
前記多層体の総厚みが、0.2~2.0mmである、請求項21に記載の多層体。
【請求項23】
前記多層体の少なくとも1層がレーザー発色剤を含む、請求項21または22に記載の多層体。
【請求項24】
さらに、紫外光または赤外光を照射することによって、可視光を発光する着色剤を含む層を有する、請求項21~23のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項25】
さらに紫外光または赤外光を照射することによって、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層を有する、請求項24に記載の多層体。
【請求項26】
請求項16~20のいずれか1項に記載の樹脂シート、または、請求項21~25のいずれか1項に記載の多層体を含むカード。
【請求項27】
セキュリティカードである、請求項26に記載のカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂シート、多層体、および、カードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IDカード、e-パスポート、および、非接触型ICカード等のセキュリティカードにおいて、樹脂シートや樹脂シートを含む多層体を用いたカードが使用され始めている。
ここで、セキュリティカードの層構成の一例として、
図1に示す多層体が知られている。
図1(A)、(B)において、それぞれ、10は多層体を、11はオーバーレイ層(透明樹脂シート)を、12・13はホワイトコア層を示している。多層体10は、さらに、レーザーマーキング層などを含む場合もある。また、ホワイトコア層12・13の層中または層間には、通常、ICチップやアンテナなどが組み込まれる。そして、遮蔽性を有するホワイトコア層12・13を用いることによって、ICチップやアンテナ等がカードの外側から見えない構成とすることができる。これらの各層(
図1(A))は、例えば、熱プレスにより、接合されて多層体となる(
図1(B))。このようなセキュリティカードについては、例えば、特許文献1に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のセキュリティカードは有益であるが、遮蔽性を達成するために配合する酸化チタンが凝集してしまう場合があることが分かった。酸化チタンが凝集してしまうと、樹脂シートやカード製品に凹凸に起因する外観不良が発生してしまう。
また、近年、クリアウィンドウを有するセキュリティカードも検討されている。
図2は、クリアウィンドウを有するセキュリティカード(多層体)の一例を示すものである。
図2(A)~(C)において、それぞれ、20はセキュリティカード(多層体)を、21はオーバーレイ層(透明樹脂シート)を、22はホワイトコア層を、23は透明樹脂シートを、24はクリアウィンドウを示している。ここで、クリアウィンドウ24は、セキュリティカードに、例えば、偽造防止や意匠性のために設けられるものであり、カードのカード面の一部に導入される透明な窓部である。クリアウィンドウ24を有する多層体を製造する方法としては、各層を積層する際に、ホワイトコア層22に開口部(ホワイトコア層が存在しない領域)25を設けて配置し(
図2(A))、熱プレスして各層を接合する方法がある。そうすると、熱プレスの際に、オーバーレイ層(透明樹脂シート)21や透明樹脂シート23の透明樹脂の一部が前記開口部25に流入し(
図2(B))、クリアウィンドウ24が形成される(
図2(C))。この方法でクリアウィンドウを製造する場合、開口部25に十分に透明樹脂を充填させるために、ホワイトコア層22を薄くする必要性がある。しかしながら、ホワイトコア層22を薄くすると、ホワイトコア層22が本来的に求められる光遮蔽性が劣る場合がある。特に、クリアウィンドウ24を設けるには、ホワイトコア層22に隣接する層(
図2の符号23の層)をホワイトコア層とすることができず、透明樹脂シート23とする必要がある。すなわち、ホワイトコア層22の光遮蔽性が劣ると、セキュリティカード(多層体)の内部に組み込まれるICチップやアンテナも透けてしまう。遮蔽性を向上させる手段として、酸化チタンの配合量を多くすることが考えられるが、そうすると、酸化チタンの凝集がさらに問題になりやすい。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、光遮蔽能に優れ、かつ、酸化チタンが十分に分散している樹脂シートを提供可能な樹脂組成物、ならびに、これを用いた樹脂シート、多層体、および、カードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリカーボネート樹脂30~95質量部、および、酸化チタン5~40質量部を含む樹脂組成物であって、走査電子顕微鏡(SEM)観察による画像により計測した、前記酸化チタンの平均一次粒子径が0.22~0.26μmであり、前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量が1.0~1.8質量%であり、Alの含有量が1.6~2.2質量%である樹脂組成物。
<2>前記酸化チタンがその表面に有機物層を有する、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記酸化チタンは、蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量と、700℃で2時間焼成した際に蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量との差が、0.3~0.8質量%である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量とAlの含有量の質量比率(Si/Al)が、0.5~1.0である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>さらに、ポリエステルを0.5~47.5質量部の割合で含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記ポリエステルが、ラクトン化合物由来の構成単位を含む、<5>に記載の樹脂組成物。
<7>前記ポリエステルが、テレフタル酸由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位と、シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位を含む、<5>または<6>に記載の樹脂組成物。
<8>前記酸化チタンの含有量が20~40質量部である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>さらに、酸化チタン以外の他の着色剤を、樹脂組成物中、5~150質量ppmの割合で含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記他の着色剤が波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤を含む、<9>に記載の樹脂組成物。
<11>前記他の着色剤がカーボンブラックを含む、<9>に記載の樹脂組成物。
<12>前記他の着色剤が染料を含む、<9>または<10>に記載の樹脂組成物。
<13>さらに、酸化防止剤を、前記樹脂組成物中、0.01~0.2質量%の割合で含む、<1>~<12>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<14>さらに、帯電防止剤を含む、<1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<15>カード用である、<1>~<14>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<16><1>~<15>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された樹脂シート。
<17>厚みが20~2000μmである、<16>に記載の樹脂シート。
<18>全光線透過率が0~20%である、<16>または<17>に記載の樹脂シート。
<19>前記樹脂シートの少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmである、<16>~<18>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<20>前記樹脂シートの第一の面の表面粗さRaが0.4~3.0μmであり、第二の面の表面粗さが、第一の面の表面粗さよりも、0.1~2.5μm小さい、<16>~<19>のいずれか1つに記載の樹脂シート。
<21><16>~<20>のいずれか1つに記載の樹脂シートを有する、多層体。
<22>前記多層体の総厚みが、0.2~2.0mmである、<21>に記載の多層体。
<23>前記多層体の少なくとも1層がレーザー発色剤を含む、<21>または<22>に記載の多層体。
<24>さらに、紫外光または赤外光を照射することによって、可視光を発光する着色剤を含む層を有する、<21>~<23>のいずれか1つに記載の多層体。
<25>さらに紫外光または赤外光を照射することによって、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層を有する、<24>に記載の多層体。
<26><16>~<20>のいずれか1つに記載の樹脂シート、または、<21>~<25>のいずれか1つに記載の多層体を含むカード。
<27>セキュリティカードである、<26>に記載のカード。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、光遮蔽能に優れ、かつ、酸化チタンが十分に分散している樹脂シートを提供可能な樹脂組成物、ならびに、これを用いた樹脂シート、多層体、および、カードを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】従来のセキュリティカードの層構成の一例を示す概略図である。
【
図2】クリアウィンドウを有するセキュリティカード(多層体)の層構成の一例を示す概略図である。
【
図3】クリアウィンドウを有するセキュリティカード(多層体)の層構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における「シート」および「多層体」は、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいい、「フィルム」も含む趣旨である。また、本明細書における「シート」は、単層であっても多層であってもよいが、単層が好ましい。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂30~95質量部、および、酸化チタン5~40質量部を含む樹脂組成物であって、走査電子顕微鏡(SEM)観察による画像により計測した、前記酸化チタンの平均一次粒子径が0.22~0.26μmであり、前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量が1.0~1.8質量%であり、Alの含有量が1.6~2.2質量%であることを特徴とする。このような構成を採用することにより、光遮蔽能に優れ、かつ、酸化チタンが十分に分散している樹脂シートを提供可能な樹脂組成物が得られる。特に、樹脂シートの厚さが薄くても、および/または、樹脂シート中の酸化チタンの含有割合が多くても、光遮蔽能に優れ、かつ、酸化チタンが十分に分散している樹脂シートを提供可能な樹脂組成物が得られる。
このメカニズムは推定であるが、用いる酸化チタンの種類を限定したことにあると推測される。すなわち、第一に、上記平均一次粒子径を有する酸化チタンを採用することにより、酸化チタンの凝集を抑制することができたと推測された。第二に、樹脂シートの分野に用いられる酸化チタンは、通常、その表面に、順に、シリカ層やアルミナ層等の無機酸化物層と、シリコーン層等の有機物層を有する。そして、本発明者が検討を行ったところ、シリカ層の領域を減らすことにより、酸化チタンの分散を向上させることができると推測された。そのため、本実施形態で用いる酸化チタンは、従来、本実施形態の技術分野で用いられていた酸化チタンよりも、焼成後のSiの量が少なくなっている。ここで、上記構成の酸化チタンを焼成したとき、表面の有機シリコーン層は燃えてしまってほぼ残らないが、内側にシリカ層がある場合、そのSi成分は残る。よって本実施形態で用いられる酸化チタンは無機酸化物層であるシリカ層が少ないということが言える。以上の結果、本実施形態の樹脂組成物は、酸化チタンの分散性を向上させることに成功したと推測される。
【0010】
<ポリカーボネート樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を含む。ポリカーボネート樹脂は樹脂シートの基質としての役割を果たす。
ポリカーボネート樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-構成単位(Rは、炭化水素基(例えば、脂肪族基、芳香族基、または脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの))を含むものであれば、特に限定されるものではなく、種々のポリカーボネート樹脂を用いることができる。
【0011】
本実施形態においては、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂がより好ましい。ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂とは、ポリカーボネート樹脂を構成する構成単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が、ビスフェノール型および/またはその誘導体由来のカーボネート構成単位であることをいう。
ビスフェノール型ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0012】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、特に定めるものではないが、通常、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、10,000~50,000であれば問題なく使用できる。前記粘度平均分子量の下限値は、20,000以上であることが好ましく、より好ましくは21,000以上であり、さらに好ましくは、25,000以上である。また、前記粘度平均分子量は、好ましくは35,000以下、より好ましくは32,000以下、さらに好ましくは29,000以下である。粘度平均分子量を上記下限値以上とすることにより、溶融混練時の粘度が向上し、押出機内部における樹脂組成物の原料の均一分散性が向上する傾向にあり、原料の混練不良に起因する異物が発生しにくくなる傾向にある。また、粘度平均分子量を上記上限以下とすることにより、成形加工性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態においては、粘度平均分子量の異なる2種以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネートを混合してもよい。
ここで、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0013】
その他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、本実施形態の趣旨を逸脱しない限り、特開2012-144604号公報の段落0011~0020の記載、特開2019-002023号公報の段落0014~0035の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0014】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を、樹脂組成物中、30~95質量%の割合で含むことが好ましく、40~90質量%の割合で含むことがより好ましい。特に、樹脂シートの厚さを薄くしたい場合には、41~79質量%の割合で含むことがさらに好ましく、55~75質量%の割合で含むことが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
<酸化チタン>
本実施形態の樹脂組成物は、走査電子顕微鏡(SEM)観察による画像により計測した、平均一次粒子径が0.22~0.26μmであり、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量が1.0~1.8質量%であり、Alの含有量が1.6~2.2質量%である酸化チタンを含む。酸化チタンを含むことにより、遮蔽性に優れた樹脂シートを提供可能になる。
本実施形態で用いる酸化チタンは、走査電子顕微鏡(SEM)観察による画像により計測した平均一次粒子径が0.22~0.26μmである。このような平均一次粒子径の酸化チタンを用いることにより、酸化チタンの樹脂成分(特に、ポリカーボネート樹脂)中での分散性を向上させることができるとともに、遮光性に優れる樹脂シートが得られる。酸化チタンの平均一次粒子径は、0.23μ以上であることが好ましい。また、酸化チタンの数平均粒子径は、0.25μm以下であることが好ましい。酸化チタンの平均一次粒子径は後述する実施例の記載に従って測定される。
【0016】
本実施形態で用いる酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量が1.0~1.8質量%であり、アルミナの含有量が1.6~2.2質量%である。前記Si含有量は、1.2~1.6質量%であることが好ましい。また、前記アルミナの含有量は、1.7~2.0質量%であることが好ましい。
焼成後のSiの含有量が少ないことは、例えば、シリカ層が薄いことによって達成される。そして、このようにSiの含有量が少ないことにより、酸化チタンのポリカーボネート樹脂中での分散性が向上する傾向にある。
【0017】
また、本実施形態で用いる酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量とアルミナの含有量の質量比率(Si/Al)が、0.5~1.0であることが好ましく、0.6~0.9であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、酸化チタンのポリカーボネート樹脂中での分散性が向上する傾向にある。
【0018】
さらに、本実施形態で用いる酸化チタンは、蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量と、700℃で2時間焼成した際に蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量との差(ΔSi)が、0.3~0.8質量%であることが好ましく、0.4~0.6質量%であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、酸化チタンのポリカーボネート樹脂中での分散性が向上する傾向にある。
【0019】
本実施形態で用いる酸化チタンは、その表面に有機物層を有することが好ましい。ポリカーボネート樹脂は、通常、表面を有機物処理されていない酸化チタンを用いると、分解してしまうが、表面を有機物処理した有機物層を有することにより、ポリカーボネート樹脂の分解を効果的に抑制することが可能にある。特に、溶融押出時のポリカーボネート樹脂の分解を効果的に抑制することができる。有機物(表面処理剤)は、高分子が例示され、シロキサン化合物が好ましく、特に水素メチルシロキサンやジメチルシロキサンなどが好ましい。有機物(表面処理剤)は、酸化チタン表面に物理的に吸着していてもよく、化学的に結合していてもよい。なお、有機物層は、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、無機物を含んでいてもよいことは言うまでもない。
本実施形態においては、酸化チタンはルチル型の酸化チタンであることが好ましい。ルチル型酸化チタンを使用することにより、樹脂組成物の分解を抑制することができる。
【0020】
さらに、酸化チタンは、コアの酸化チタンと有機物層の間に、シリカ層やアルミナ層等の無機酸化物層を有していてもよい。無機酸化物層は、粒子状の形状を保持することや樹脂の分解抑制などに寄与する。
また、本実施形態では、酸化チタンの表面において、無機酸化物層としてのシリカ層が薄いことが好ましい。このような構成とすることにより、酸化チタンにおける、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量を1.0~1.8質量%に、アルミナの含有量を1.6~2.2質量%とすることができる。もちろん、上記以外の方法によって、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定される酸化チタンにおけるSiおよびアルミナの含有量を調整してもよい。
本実施形態で用いる酸化チタンは、粒子状であることが好ましい。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物は、酸化チタンを、樹脂組成物中、5~40質量%の割合で含むことが好ましく、10~35質量%の割合で含むことがより好ましい。特に、樹脂シートの厚さを薄くしたい場合には、20~40質量%の割合で含むことがさらに好ましく、25~35質量%の割合で含むことが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、酸化チタンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0022】
<ポリエステル>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステルを含んでいてもよい。本実施形態の樹脂組成物は、ポリエステルを含むことにより、樹脂シートのラミネーション性を向上させることができる。
ポリエステルは、その種類等特に定めるものではなく、脂肪族ポリエステルであっても、芳香環を含む芳香族系ポリエステルであってもよい。
【0023】
本実施形態において、脂肪族ポリエステルは、その種類等特に定めるものではないが、ラクトン化合物由来の構成単位を含むことが好ましい。このような脂肪族ポリエステルは、ガラス転移点が極めて低く、ポリカーボネート樹脂との相溶性に優れるため少量の添加で良好なラミネーション特性が得られ、ポリカーボネート樹脂の化学特性・機械物性低下を効果的に抑制することができる。本実施形態において、脂肪族ポリエステルのうちラクトン化合物由来の構成単位の割合は、末端基を除く全構成単位の70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが一層好ましく、99モル%以上であることがより一層好ましい。
前記ラクトン化合物は、ε-カプロラクトン、β-プロピオンラクトン、δ-バレロラクトン等が例示され、ε-カプロラクトンが好ましい。また、これらのラクトン化合物の2種以上の共重合体であってもよい。
本実施形態で用いる脂肪族ポリエステルは、ポリカプロラクトンが好ましい。
【0024】
本実施形態で用いる脂肪族ポリエステル化合物の重量平均分子量は、5,000~90,000であることが好ましい。より好ましくは、7,000~60,000であり、特に好ましくは、8,000~40,000である。前記下限値以上とすることにより、フィルム成形性がより向上する傾向にある。また、前記上限値以下とすることにより、ラミネート性がより向上する傾向にある。ここでの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値である。
【0025】
本実施形態の樹脂組成物が脂肪族ポリエステルを含む場合、樹脂組成物中、脂肪族ポリエステルを0.5質量%以上の割合で含むことが好ましく、1.0質量%以上の割合で含むことがより好ましく、2.0質量%以上の割合で含むことがさらに好ましい。本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物中、脂肪族ポリエステルを9.0質量%以下の割合で含むことが好ましい。前記下限値以上とすることにより、ラミネート性が向上する傾向にある。前記上限値以下とすることにより、樹脂シート成形時の成形性がより向上する傾向にある。
【0026】
本実施形態において、芳香族系ポリエステルは、その種類等特に定めるものではないが、テレフタル酸由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位と、シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位を含むポリエステル(PCTG)であることが好ましい。前記ポリエステル(PCTG)は、ポリカーボネート樹脂との相溶性に優れた熱可塑性樹脂であり添加によるポリカーボネート樹脂の耐久性能の低下が小さく、本ポリエステルを用いることにより、ラミネーション性に加え、耐久性に優れた樹脂組成物が得られる。前記ポリエステル(PCTG)は、ポリエチレンテレフタレートの原料モノマーのうち、エチレングリコールの一部をシクロヘキサンジメタノールに置き換えたポリエステルである。本実施形態においては、エチレングリコール由来の構成単位とシクロヘキサンジメタノール由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位の割合が、50モル%以上100モル%未満であることが好ましく、60~90モル%であることがより好ましい。PCTGは、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、テレフタル酸由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位と、シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位以外の原料モノマーを含んでいてもよい。本実施形態では、PCTGは、テレフタル酸由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位と、シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位の合計が末端基を除く全構成単位の90モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがより好ましく、99モル%以上を占めることがさらに好ましい。
【0027】
本実施形態で用いる芳香族系ポリエステル化合物の固有粘度(キャピラリー粘度計により測定したIV値:ISO1628-1 1998)は、0.5~1.0であることが好ましい。より好ましくは、0.6~0.9であり、特に好ましくは0.7~0.8である。前記範囲とすることにより、フィルム成形性がより向上する傾向にある。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物が芳香族系ポリエステルを含む場合、樹脂組成物中、芳香族系ポリエステルを10質量%以上の割合で含むことが好ましく、20質量%以上の割合で含むことがより好ましく、30質量%以上の割合で含むことがさらに好ましい。本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物中、芳香族系ポリエステルを47.5質量%以下の割合で含むことが好ましく、45質量%以下の割合で含むことがより好ましく、43質量%以下の割合で含むことがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、ラミネート性が向上する。前記上限値以下とすることにより、シート成形時の成形性がより向上する傾向にある。
【0029】
<ブレンド比>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂30~95質量部、および、酸化チタン5~40質量部(好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、また、好ましくは、35質量部以下)を含む。このようなブレンド比とすることにより、遮蔽性に優れた樹脂シートが得られる。特に、酸化チタンの含有量を20質量部以上とすることにより、樹脂シートの厚さを薄くしても遮蔽性に優れた樹脂シートが得られる。さらに、ポリエステルを0.5~47.5質量部(好ましくは3.0~45質量部)含んでいてもよい。このようなブレンド比とすることにより、ラミネート性に優れた樹脂シートが得られる。さらに、後述する、酸化防止剤、他の着色剤、帯電防止剤、その他の成分を含んでいてもよい。
本実施形態の樹脂組成物においては、ポリカーボネート樹脂の含有量と酸化チタンの含有量の差(ポリカーボネート樹脂の含有量-酸化チタンの含有量)が10質量部以上であることが好ましく、また、90質量部以下であることが好ましい。このような範囲とすることにより、フィルムの成形性がより向上する傾向にある。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物のブレンド比の第一の実施形態は、ポリカーボネート樹脂71~95質量部、および、酸化チタン5~20質量部を含み、さらに、ポリエステル(好ましくは脂肪族ポリエステル)を0~9質量部(好ましくは1~9質量部)含む形態である。このようなブレンド形態の樹脂組成物から得られる樹脂シートは、反射シートやカード製品などに好適に用いられる。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物のブレンド比の第二の実施形態は、ポリカーボネート樹脂41~79質量部(好ましくは58~73質量部)、酸化チタン20~40質量部(好ましくは25~35質量部)、ポリエステル(好ましくは脂肪族ポリエステル)0~9質量部(好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上)を含む形態である。このようなブレンド形態の樹脂組成物から得られる樹脂シートは、クリアウィンドウを有するカードのホワイトコア層に好適に用いられる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、酸化チタンの分散性が高いので、極薄の樹脂シートとしても、十分な遮蔽性を達成できるため好ましい。
【0032】
本実施形態の樹脂組成物のブレンド比の第三の実施形態は、ポリカーボネート樹脂32.5~85質量部(好ましくは35~55質量部)、および、酸化チタン5~20質量部を含み、さらに、ポリエステル(好ましくは芳香族系ポリエステル)を10~47.5質量部(好ましくは20質量部以上)含む形態である。このようなブレンド形態の樹脂組成物から得られる樹脂シートは、反射シートやカード製品などに好適に用いられる。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、酸化チタンおよび、必要に応じて配合されるポリエステルの合計を100質量部としたときに、上記比率を満たすことが好ましい。
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂の含有量が、ポリエステルの含有量よりも多いことが好ましく、1質量部以上多いことが好ましい。また、ポリカーボネート樹脂の含有量とポリエステルの含有量の差の上限値は、76質量部以下である。このような範囲とすることにより、光遮蔽能を高く維持しつつ、薄くて、よりラミネーション性能に優れた樹脂組成物が得られる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と酸化チタン、ならびに、必要に応じて配合されるポリエステルについて、それぞれ1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
<他の着色剤>
本実施形態の樹脂組成物は、また、酸化チタン以外の他の着色剤を含んでいてもよい。他の着色剤を添加することにより、樹脂組成物に多少の色味を持たせることができ、樹脂シートの外観(意匠性)が向上する傾向にある。また、光遮蔽性能をより向上させることも可能になる。
前記他の着色剤としては、無機顔料、有機顔料、有機染料等が挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
有機顔料および有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染料または顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染料または顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染料または顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染料または顔料などが挙げられる。
【0035】
前記他の着色剤の具体例としては、波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤が挙げられる。ヒトが鋭敏に知覚することが可能な波長である550nm付近の光を効果的に吸収する波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤を配合することにより、樹脂シートの遮蔽性を向上させることができる。
さらに、前記他の着色剤が染料である態様も挙げられる。染料としては、前記波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤が例示される。
また、前記他の着色剤の具体例として、上述のカーボンブラックも挙げられる。カーボンブラックを配合することにより、樹脂シートの光遮蔽性能をより向上させることができる。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物が、他の着色剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、5質量ppm以上であることが好ましく、7質量ppm以上であることがより好ましく、10質量ppm以上であることがさらに好ましく、15質量ppm以上であることが一層好ましく、20質量ppm以上であってもよい。前記他の着色剤の含有量の上限値は、150質量ppm以下であることが好ましく、120質量ppm以下であることがより好ましく、100質量ppm以下であることがさらに好ましく、80質量ppm以下であることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、得られる樹脂シートの外観がより向上し、また、光遮蔽性能がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、他の着色剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
<各種添加剤>
本実施形態の樹脂組成物は、また、各種添加剤を含んでいてもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、酸化防止剤を含むことが好ましい。本実施形態の樹脂組成物は、酸化防止剤を、前記樹脂組成物中、0.01~0.2質量%の割合で含むことが好ましく、0.02~0.1質量%の割合で含むことがより好ましい。酸化防止剤を含むことにより、加工時の熱分解を抑制し、色調変化や溶融粘度の低下を防止できる傾向にある。酸化防止剤としては、その種類等特に定めるものではないが、ホスファイト、ホスホナイトが例示され、ホスファイトが好ましい。酸化防止剤は、特開2018-090677号公報の段落0059~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物は、また、帯電防止剤を含むことが好ましい。本実施形態の樹脂組成物は、帯電防止剤を、前記樹脂組成物中、0.01~1.5質量%の割合で含むことが好ましく、0.1~0.8質量%の割合で含むことがより好ましい。このような範囲で用いることにより、塵芥の付着防止性や搬送性がより向上する傾向にある。
帯電防止剤としては、その種類等特に定めるものではないが、ホスホニウム塩化合物が例示される。帯電防止剤の具体例としては、特開2016-108424号公報および国際公開第2020/122055号に記載のホスホニウム塩化合物が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0039】
本実施形態の樹脂組成物は、上記以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、および、離型剤からなる群から選択された少なくとも1種の添加剤などである。また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、抗ウィルス剤等を添加してもよい。
本実施形態の樹脂組成物における上記他の成分の含有量は、含有する場合、樹脂組成物の質量を基準として、例えば0.001質量%以上であり、また、例えば、5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0040】
<樹脂組成物の物性値>
本実施形態の樹脂組成物は、酸化チタンの分散性に優れていることが求められる。本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物から形成された厚み50μmの樹脂シートのシート面1m2中に含まれる大きさ0.1mm以上のブツ状外観不良の個数が0~60個であることが好ましく、0~55個であることがより好ましく、0~50個であることがさらに好ましく、0~45個であることが一層好ましく、0~41個であることがより一層好ましく、0~36個であることがさらに一層好ましい。
【0041】
光学顕微鏡により観察される大きさ0.1mm以上のブツ状外観不良の個数を低減させるための手段としては、上記所定の酸化チタンを用いることが挙げられるが、より低減させるためには、粘度平均分子量が20,000~35,000であるポリカーボネート樹脂を用いること、また酸化チタンの粉砕処理が挙げられる。さらに、溶融混練時の押出条件(溶融温度、スクリュー構成、スクリュー回転数、吐出量)を適切な範囲にすることも好ましい。
ブツ状外観不良の個数の測定は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物は、JIS K7121:1987にて規定される方法(DSC)にて測定したガラス転移温度が90℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましく、140℃以上であることが一層好ましく、145℃以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物の耐久性がより向上する傾向にある。また、前記ガラス転移温度は、160℃以下であることが好ましく、155℃以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、より低温での成形加工が可能となる。
本実施形態の樹脂組成物は、また、JIS K7210に準拠して測定した、300℃、荷重1.2kgfでのメルトボリュームフローレイト(MVR)値が2.0cm3/10min以上であることが好ましく、3.0cm3/10min以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、フィルムの成形がより向上する傾向にある。また、前記MVRの上限値は、20.0cm3/10min以下であることが好ましく、15.0cm3/10min以下であることがより好ましく、12.0cm3/10min以下であることがさらに好ましく、10.0cm3/10min以下であることが一層好ましく、7.0cm3/10min以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、押出機内部における樹脂組成物の原料の均一分散性が向上し、原料の混練不良を要因とする異物がより低減する傾向にある。
ガラス転移温度およびメルトボリュームフローレイトは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0043】
<樹脂シートの物性>
本実施形態の樹脂シートは、樹脂組成物から形成された樹脂シートである。本実施形態の樹脂シートは、カードの構成層として好ましく用いられる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、カード用の樹脂組成物として好適に利用される。
本実施形態の樹脂シートにおいては、その厚み下限値は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましい。また、前記厚さの上限値は、2000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより樹脂シートの光遮蔽性能がより向上する傾向にある。前記上限値以下とすることにより、ラミネート性により優れた樹脂シートが得られる。
また、本実施形態の樹脂シートは、極薄の樹脂シートとすることもできる。極薄の樹脂シートとすることにより、クリアウィンドウを有するカードのホワイトコア層として好適に使用できる。極薄の樹脂シートとする場合、その厚さは、200μm以下であることが好ましく、180μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましく、120μm以下であることが一層好ましく、100μm以下であることがより一層好ましく、80μm以下であることがさらに一層好ましく、70μm以下、60μm以下であってもよい。
【0044】
本実施形態の樹脂シートは、光遮蔽性に優れていることが好ましい。具体的には、全光線透過率Tは、20%以下であることが好ましく、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。全光線透過率の下限値は0%であることが好ましく、1%以上であってもよい。全光線透過率Tの測定は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物は、少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.4μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、0.7μm以上であることがさらに好ましく、さらには、0.9μm以上、1.0μm以上、1.1μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、シートの搬送性やラミネーション性がより優れる傾向にある。また、前記少なくとも一方の面の表面粗さRaの上限値は、3.0μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、さらには、2.0μm以下、1.8μm以下、1.5μm以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、印刷鮮明性がより向上する傾向にある。
さらに、本実施形態においては、樹脂シートの一方の面の表面粗さRaが上記範囲(0.4μm~3.0μm)であり、他方の面の表面粗さが0.4μm~1.9μmであることが好ましい。このような構成とすることにより、シートの搬送性やラミネーション性がより効果的に発揮される。
また、本実施形態の樹脂シートは、第一の面の表面粗さRaが上記範囲(0.4μm~3.0μm)であり、第二の面の表面粗さが、第一の面の表面粗さよりも、0.1~2.5μm(好ましくは0.1~0.5μm、より好ましくは0.15~0.35μm)小さいことが好ましい。このような構成とすることにより、樹脂シートの搬送性やラミネーション性がさらに向上する傾向にある。
表面粗さRaは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0046】
<樹脂シートの製造方法>
本実施形態の樹脂シートの製造方法は、樹脂組成物をシート状に加工する公知の方法を採用できる。具体的には、押出成形、溶液キャスト成形が例示され、押出成形が好ましい。押出成形の例としては、本実施形態の樹脂組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機に投入し、溶融、混練後、Tダイ等から押出し、得られる半溶融状のシートをロールで挟圧しながら、冷却、固化してシートを形成する方法が挙げられる。
【0047】
<多層体>
本実施形態の多層体は、本実施形態の樹脂シートを有する。
本実施形態の多層体は、ホワイトコア層を有する多層体として好ましく用いられる。多層体の具体例としては、国際公開第2018/163889号に記載の多層シートの構成を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
特に、本実施形態の多層体は中間層シートの内少なくとも1つは本実施形態の樹脂シートであり、そのシート面内において少なくとも1つ以上の開口部を有することが好ましい。このような開口部は、例えば、セキュリティカードのクリアウィンドウとして用いることができる。そして、本実施形態の樹脂シートは、極薄にしても光遮蔽性能に優れたものとできるため、クリアウィンドウを有する多層体であっても、十分な光遮蔽性能を達成できる。
本実施形態の多層体は、好ましくは、本実施形態の樹脂シートを少なくとも2枚含み、多層体の断面方向において、樹脂シートの内2枚が、断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面を基準として対称となるように位置していることが好ましい。特に、本実施形態の多層体は断面の厚さ方向において、本実施形態の樹脂シートが存在しない開口部を有する態様において、樹脂シートの内2枚が、断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面を基準として対称となるように位置していることが好ましい。このような多層体の一例が、
図3に示す構成である。
図3(A)は多層体の断面方向(厚さ方向)から見た図であり、(B)は多層体の面(樹脂シートのシート面)方向から見た図である。
図3において、30は多層体を、31はオーバーレイ層(透明樹脂シート)を、32はホワイトコア層(本実施形態の樹脂シート)を、33はクリアウィンドウ(開口部)を、34は透明コア層(透明樹脂シート)を示している。そして、
図3(A)において点線で示される線A-Aが、多層体の断面の厚さ方向に垂直な方向の中心面の位置に相当する。
図3に示す多層体は、多層体の断面方向において、ホワイトコア層(本実施形態の樹脂シート)が存在しない領域がクリアウィンドウ(開口部)33を有している。そして、ホワイトコア層(本実施形態の樹脂シート)32およびクリアウィンドウ(開口部)33が中心面(
図3の点線A-Aで示される線を通る面)を基準として対称となるように位置している。
また、
図3に示す多層体は、
図3(A)に示す多層体の断面方向から見ると、ホワイトコア層32のみが白くなっており、図(B)に示す多層体の面方向から見ると、ホワイトコア層32によって、クリアウィンドウ33以外の部分は、全体が白く見える。
図3に示す多層体は、クリアウィンドウ33は、オーバーレイ層31、ホワイトコア層32、透明コア層34、ホワイトコア層32、オーバーレイ層31を重ねて、熱プレスすることによって製造できる。すなわち、クリアウィンドウは、熱プレスしたときに、オーバーレイ層31や透明コア層34からホワイトコア層32の間の部分(開口部)に透明樹脂シートの一部が入り込む(充填される)ことによって形成される。もちろん、本実施形態の多層体は、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の方法で製造してもよい。
【0048】
一方、オーバーレイ層31や透明コア層34を構成する透明樹脂シートは、熱可塑性樹脂を含む組成物から形成されるものであり、例えば、本実施形態の樹脂組成物を形成するための樹脂組成物から酸化チタンを除いたものが例示される。従って、透明樹脂シートの一例は、ポリカーボネート樹脂シートである。
また、
図3に示す多層体は、本実施形態の樹脂シート(ホワイトコア層)32、透明コア層(透明樹脂シート)34、本実施形態の樹脂シート(ホワイトコア層)32の順に(好ましくは連続して)積層している構造を有するが、これ以外の態様を排除するものではない。
さらには、本実施形態の多層体は、
図3に示した層構成に限定されるものではない。従って、
図3に示す多層体も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を含んでいてもよいことは言うまでもない。
【0049】
本実施形態の多層体は、例えば、少なくとも1層がレーザー発色剤を含むことも好ましい。レーザー発色剤を含む層は、レーザーマーキング層として好ましく用いられる。このようなレーザー発色剤を含む層は、本実施形態の樹脂シートよりも外側に設けることが好ましい。すなわち、
図3における、ホワイトコア層32よりも表面側に設ける態様が挙げられる。レーザー発色剤は、黒色着色剤が好ましく、カーボンブラックがより好ましい。また、金属酸化物系レーザーマーキング剤も用いることができる。レーザーマーキング層の詳細は、特開2020-75487号公報の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0050】
また、本実施形態の多層体は、紫外光または赤外光を照射することによって、可視光を発光する着色剤を含む層を有することも例示される。このような層を設けることにより、真贋判定可能なセキュリティカードとして用いることができる。すなわち、所定の光を照射したときに発光するカードのみを真のカードと認定することができる。
本実施形態においては、さらに、紫外光または赤外光を照射することによって、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層を有する構成であってもよい。この場合、前記可視光を発光する着色剤を含む層と、前記可視光を発光する着色剤と異なる波長の可視光を発光する着色剤を含む層は、異なる層であってもよいし、同じ層であってもよい。すなわち、本実施形態には、可視光を発光する着色剤であって、互いに異なる波長の可視光を発光する着色剤を2種以上同一の層に含む態様も含まれる。
本実施形態の多層体において、可視光を発光する着色剤を含む層は、本実施形態の樹脂シートよりも外側に設けることが好ましい。すなわち、
図3における、ホワイトコア層32よりも表面側に設ける態様が挙げられる。
可視光を発光する着色剤を含む層については、特開2020-75487号公報の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0051】
本実施形態の多層体は、表面粗さRaが、それぞれ、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、多層体の搬送性やラミネーション性がより向上する傾向にある。また、前記多層体の両面の表面粗さRaの上限は、それぞれ、3.5μm以下であることが好ましく、3.2μm以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、印刷鮮明性がより向上する傾向にある。
【0052】
本実施形態の多層体の厚さは、用途に応じて適宜定めることができるが、総厚みが0.2mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、ICチップやアンテナを導入しやすい傾向にある。また、前記総厚みの上限は、2.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、カード収納性がより向上する傾向にある。
【0053】
本実施形態の多層体の製造方法は、上述した、各構成層を熱プレスすることの他、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲内において、接着剤等によって、各層の間の接着性を高めてもよい。また、各層を共押出して、シート状にすることもできる。
【0054】
<用途>
次に、本実施形態の樹脂シートおよび多層体の用途について述べる。本実施形態の樹脂シートおよび/または多層体は、これらを含むカードとして好ましく用いられる。
カードは、セキュリティカードであることが好ましい。本実施形態におけるセキュリティカードとは、身分証明カード(IDカード)、パスポート、運転免許証、バンクカード、クレジットカード、保険証、他の身分証明カードが例示される。
【0055】
また、本実施形態においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、特開2016-108424号公報の段落0048~0059の記載、特開2015-168728号公報の段落0075~0088の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例0056】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0057】
1.原料
<ポリカーボネート樹脂>
E-2000F:界面重合により得られたビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、ユーピロン(登録商標)、粘度平均分子量Mv28,000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製
【0058】
<酸化チタン>
PFC317:酸化チタン粒子の表面にシリカ処理、アルミナ処理およびシロキサン処理が前記順になされたルチル型酸化チタン、石原産業社製、平均一次粒子径0.24μm(240nm)
PFC312:酸化チタン粒子の表面にシリカ処理、アルミナ処理およびシロキサン処理が、前記順になされたルチル型酸化チタン、石原産業社製、平均一次粒子径0.21μm
PC-3:酸化チタン粒子の表面にシリカ処理、アルミナ処理およびシロキサン処理が、前記順になされたルチル型酸化チタン、石原産業社製、平均一次粒子径0.20μm(200nm)
<<平均一次粒子径の測定方法>>
酸化チタンを、スパッタリング装置を用いてスパッタリング処理を実施した。ターゲットは、Ptとし、コーティング時間は30秒とした。上記スパッタリング処理を行った酸化チタンについて、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて観察、撮影した。観察に際し、加速電圧:5kV、観察倍率:3万5000倍の条件で行った。得られた画像について画像解析ソフトウェアを用いて、酸化チタンの長径、短径の合計を測定し、これらの和を2で割った数値を粒子径として求めた。50個以上の粒子について粒子径を測定し、その平均値を算出した。
測定は、3人の専門家が同様の測定をそれぞれ実施し、得られた平均値を平均一次粒子径として求めた。
スパッタリング装置は、E-1030、日立ハイテク社製を用いた。電界放出型走査電子顕微鏡は、FE-SEM(SU8220、日立ハイテク社製)を用いた。画像解析ソフトウェアは、WinROOF2013(三谷商事社製)を用いた。
【0059】
<ポリエステル>
H1P:ポリカプロラクトン(PCL)、ダイセル社製 プラクセル(登録商標)、重量平均分子量10,000
PCTG:テレフタル酸とエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールから構成されたポリエステル、製造元:SKケミカル社、品番:J2003、固有粘度0.75
【0060】
<酸化防止剤>
AS2112:ADEKA社製、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト
S-9228PC:Dover Chemical社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)
PEP-36:ADEKA社製、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン
【0061】
<帯電防止剤>
トリヘキシルテトラデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド:MERCK社製、CAS番号 460092-03-9
【0062】
<他の着色剤>
カーボンブラックM280:キャボットコーポレーション社製、MONARCH280
染料1:Macrolex BlueRR、波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤
染料2:Macrolex Violet3R、波長450~650nmの範囲に極大吸収を有する着色剤
【0063】
2.実施例1~8および比較例1、2
<樹脂ペレットの製造>
下記表1または2に示す組成(各表において含有量は質量部で示した)となるように、各成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30α)の根元から投入し、実施例3、4を除く実施例および比較例については、シリンダー温度280℃にて溶融混練を行い、実施例3、4については、シリンダー温度260℃にて溶融混練を行い、ペレットを製造した。
【0064】
<樹脂組成物のメルトボリュームフローレイト(MVR)>
メルトボリュームフローレイトは、JIS K7210に準拠して測定した。
具体的には、300℃で1.2kgfの荷重をかけたときに、シリンダー底部に設置された標準ダイから10分間あたり押し出される樹脂量からメルトボリュームフローレイト(単位:cm3/10min)を測定した。実施例3、4を除くペレットは測定前に120℃の熱風オーブンにて4時間加熱乾燥させた。実施例3、4のペレットについては90℃の熱風オーブンにて6時間加熱乾燥させた。
【0065】
<樹脂組成物のガラス転移温度>
ガラス転移温度は、JIS K7121:1987にて規定される方法(DSC)にて測定した。
具体的には、示差走査熱量計を使用し窒素雰囲気下、試料約10mgを20℃/分の昇温速度で30℃から260℃まで加熱した。5分間温度を保持した後、30℃まで30℃/分の速度で冷却した。30℃で10分保持し、再び260℃まで10℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSC曲線から算出した補外ガラス転移開始温度に基づき、ガラス転移温度(単位:℃)を求めた。
示差走査熱量計は、日立ハイテクサイエンス社製示差走査熱量計EXSTAR DSC7020を使用した。
【0066】
<Al量およびSi量>
蛍光X線分析を実施した。検出された元素であるAl、Si、Ti、Zrの合計量を100質量%として各元素の質量割合から、ファンダメンタルパラメータ(FP)法にて定量を行った。各試料ともに同一箇所にて3回の測定を行い、その平均値を算出した。測定条件は下記の条件とした。
[分析条件]
分光法:エネルギー分散型X線分光法(ED-XRF)
X線管:Rh
X線検出器:シリコンドラフト検出器(SDD)
エネルギー分解能:Mn半値幅 約150eV
ビーム径:約1.2mm
管電圧:30kV
【0067】
蛍光X線分析の装置は、XGT7200V(堀場製作所社製)を用いた。
上記で得られた結果より、蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量と、700℃で2時間焼成した際に蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量との差(ΔSi)および700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量とアルミナの含有量の質量比率(Si/Al)を算出した。
【0068】
<樹脂シートの製造>
得られたペレットを用いて、以下の方法で樹脂シートを製造した。
ペレットをバレル直径32mm、スクリューのL/D(長さ/直径)=31.5の二軸押出機からなるTダイ溶融フィルム成形押出機を用い、吐出量20kg/h、スクリュー回転数200rpmで、かつ、幅300mmの樹脂シートを成形した。シリンダー・Tダイ温度は280℃とし、押出された溶融シートを、直径250mmで十点平均粗さRzjis(JIS B0601:2013)が21μmであるシリコンゴム製の第一冷却ロールと、十点平均粗さRzjis(JIS B0601:2013)が18μmであるエンボス加工した直径250mmの金属製第二冷却ロールでニップした。次に、エンボス柄が表面に賦形されたシートを、さらに表面が鏡面の金属製第三冷却ロールにシートを通して、引取ロールで引き取りながら表1または表2に示す厚み(平均厚み)の樹脂シートを成形した。この時、第一冷却ロールの温度を50℃、第二、三冷却ロールの温度については、実施例3、4を除く実施例および比較例については120℃、実施例3、4については90℃に設定した。
【0069】
<分散性(凝集物数)>
表1、表2に示す組成(各表において含有量は質量部で示した)となるように、計量しタンブラーにて15分間混合した。その後、ベント付二軸押出機により、シリンダー温度280℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。得られたペレットを、下記条件にて乾燥した後、バレル直径100mm、スクリューのL/D=32であるベント付き単軸押出機からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量150Kg/h、スクリュー回転数40rpmの条件で、厚さ50μmの樹脂シートを作製した。成形時のロールは十点平均粗さRzjis(JIS B0601:2013)が21μmであるシリコンゴム製の第一冷却ロールと、十点平均粗さRzjis(JIS B0601:2013)が18μmであるエンボス加工した金属製第二冷却ロールを使用した。この時、第一冷却ロールの温度を50℃にて、第二、第三冷却ロールの温度は下記条件にて成形した。
上記方法にて作製した樹脂シートについて、長さ3mを目視にて検査し大きさ0.1mm以上のブツ状外観不良の個数をカウントした。ここでの大きさとは、ブツ状外観不良の部分の最長部分の長さをいう。評価は、5人の専門家が行い、平均値について、小数第一位を四捨五入した。
<ペレットの乾燥条件>
実施例3、4以外:120℃の熱風オーブンにて4時間加熱乾燥させた。
実施例3、4 :90℃の熱風オーブンにて6時間加熱乾燥させた。
<シリンダー・ダイ温度>
実施例3、4以外:280℃設定とした。
実施例3、4 :260℃設定とした。
<第二、第三ロール温度>
実施例3、4以外:120℃設定とした。
実施例3、4 :90℃設定とした。
【0070】
<全光線透過率の測定>
ISO-13468-1に準拠して、全光線透過率を測定した(測定条件:D65光源、10°視野)。
測定に際し、村上色彩技術研究所社製 ヘーズメーターHM-150を使用した。
全光線透過率の単位は%で示した。
【0071】
<樹脂シートの表面粗さ(Ra)>
得られた樹脂シート表面の任意の3位置に対しISO 4287:1997に準拠して、表面粗さ(測定条件:λc0.8、λs2.5)を測定し、表面粗さ(Ra)を3位置の平均により算出した。単位は、μmで示した。
測定に際し、ミツトヨ社製 小型表面粗さ測定機 サーフテストSJ-210を使用した。
【0072】
<表面抵抗率>
実施例5の樹脂組成物の帯電防止性は、以下のように評価した。
測定対象の樹脂シートを、温度23℃相対湿度50%の条件下に24時間以上放置したのち、抵抗率計を用いて、直流電圧1000Vを300秒間印加して表面抵抗率(単位:Ω/sq.)を5か所測定し、その平均値を算出した。
実施例5の樹脂シートの表面の表面抵抗率は2.0×1013Ω/sq.、裏面の表面抵抗率は、4.0×1012Ω/sq.であった。
表面抵抗率は、ハイレスタUP MCP-HT450(三菱ケミカルアナリテック社製)でURSプローブを用いて測定した。
【0073】
【0074】
前記酸化チタンは、蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量と、700℃で2時間焼成した際に蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量との差が、0.3~0.8質量%である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量とAlの含有量の質量比率(Si/Al)が、0.5~1.0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
前記ポリエステルが、テレフタル酸由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位と、シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位を含む、請求項5または6に記載の樹脂組成物。
前記酸化チタンは、700℃で2時間焼成した後の蛍光X線(XRF)分析で測定されるSiの含有量とAlの含有量の質量比率(Si/Al)が、0.5~1.0である、請求項1に記載の樹脂組成物。