IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部興産株式会社の特許一覧

特開2022-34108シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034108
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 136/06 20060101AFI20220224BHJP
   G01N 21/73 20060101ALI20220224BHJP
   G01N 21/25 20060101ALI20220224BHJP
   C08F 6/02 20060101ALI20220224BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20220224BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C08F136/06
G01N21/73
G01N21/25
C08F6/02
C08K3/10
C08L9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137737
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒石 景友
(72)【発明者】
【氏名】下川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】服部 一生
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏之
【テーマコード(参考)】
2G043
2G059
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043EA06
2G043EA08
2G043JA01
2G043JA02
2G059AA01
2G059EE13
2G059JJ01
4J002AC041
4J002DA086
4J002DE096
4J002FD206
4J002GH01
4J002GJ01
4J002GK01
4J100AS02P
4J100CA01
4J100CA12
4J100CA16
4J100EA05
4J100EA09
4J100FA04
4J100FA08
4J100FA19
4J100FA28
4J100GA02
4J100GA06
4J100GA19
4J100GC26
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA11
(57)【要約】
【課題】金属含有量が低減された着色を少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子及びその製造方法を提供すること。また、金属含有量が低減された着色が少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を得ることができるシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法を提供すること。
【解決手段】本発明のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子は、ICP発光分光分析装置により測定した金属含有量が600ppm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICP発光分光分析装置により測定した金属含有量は、600ppm以下である、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子。
【請求項2】
レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した平均粒子径(D50)は、1~500μmである、請求項1に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子。
【請求項3】
分光色彩計により測定したL値は70以上であり、a値の絶対値は3以下であり、b値の絶対値は12以下である、請求項1又は2に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を含む、樹脂組成物。
【請求項5】
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法であって、アルコールと炭化水素と酸とを含む洗浄液でシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を洗浄する脱灰工程を含む、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
【請求項6】
前記酸は、塩酸及び/又は硫酸である、請求項5に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
【請求項7】
前記炭化水素は、炭素数5~10の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項5又は6に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
【請求項8】
前記アルコールは、炭素数1~5の脂肪族アルコールである、請求項5~7のいずれか一項に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
【請求項9】
洗浄液中の炭化水素の濃度は、0.01~5Mである、請求項5~8のいずれか一項に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
【請求項10】
洗浄液に過酸化水素水を更に含む、請求項5~9のいずれか一項に記載のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
【請求項11】
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法であって、1,3-ブタジエンを懸濁重合する重合工程と、前記重合工程で得られたシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を請求項5~10のいずれか一項に記載の洗浄方法で洗浄する洗浄工程を含む、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエンは、フィルム、繊維、塗料、接着剤、各種のエラストマーの補強用やポリマーアロイの原料として広い工業的用途を有している。特許文献1には、1,3-ブタジエンを懸濁重合して得られたシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-130334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、先行文献1には触媒残渣(金属含有量)が低減された着色の少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子は開示されていない。
本発明は、触媒残渣(金属含有量)が低減された着色の少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、触媒残渣(金属含有量)が低減された着色が少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を得ることができるシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に関する。
[1]ICP発光分光分析装置により測定した金属含有量は、600ppm以下であるシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子。
[2]レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した平均粒子径(D50)は、1~500μmである、[1]のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子。
[3]分光色彩計により測定したL値は、70以上、a値の絶対値は、3以下、b値の絶対値は、12以下である、[1]又は[2]のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子。
[4][1]~[3]のいずれかのシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を含む、樹脂組成物。
[5]シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法であって、アルコールと炭化水素と酸とを含む洗浄液でシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を洗浄する脱灰工程を含む、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
[6]前記酸は、塩酸及び/又は硫酸である、[5]のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
[7]前記炭化水素は、炭素数5~10の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[5]又は[6]のシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
[8]前記アルコールは、炭素数1~5の脂肪族アルコールである、[5]~[7]のいずれかのシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
[9]洗浄液中の炭化水素の濃度は、0.01~5Mである、[5]~[8]のいずれかのシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法。
[10]洗浄液に過酸化水素水を更に含む、[5]~[9]のいずれかのシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法。
[11]シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法であって、1,3-ブタジエンを懸濁重合する重合工程と、前記重合工程で得られたシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を[5]~[10]のいずれかの洗浄方法で洗浄する洗浄工程を含む、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金属含有量が低減された着色が少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子及びその製造方法を提供することができる。また、金属含有量が低減された着色が少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を得ることができるシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子>
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン(以下、単にSPBともいう)粒子とは、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエンを含む粒子である。シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエンは、1,3-ブタジエンをシンジオタクティック-1,2-重合することで得られる。
【0008】
(SPB粒子の金属含有量)
ICP発光分光分析装置により測定したシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子中の金属含有量は、600ppm以下であり、500ppm以下であることが好ましく、450ppm以下であることがより好ましく、400ppm以下であることが特に好ましい。金属含有量を600ppm以下とすることで、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の着色を低減することができる。
金属含有量は、次の方法により求める。まず、最初にシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を酸で加熱分解して水溶液化する。シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を加熱分解する方法は、特に制限されず、例えば、硫酸、硝酸、過酸化水素水等を用いた加熱分解が挙げられる。また、加熱分解の方法は、特に制限されず、解放系酸分解法、密閉系酸分解法(例えば、加圧酸分解やマイクロウェーブ分解装置)等が挙げられる。
次に、ICP発光分光分析装置により、水溶液(加熱分解により得られた溶液)中の金属含有量を測定する。測定方法は、特に制限されず、一般的な測定条件で測定することができるが、各金属の標準液を用いて検量線法により測定することが好ましい。測定装置としては、例えば、エスエスアイ・ナノテクノロジー製SPS5100型を使用することができる。
【0009】
(SPB粒子の粒子径)
レーザー回折粒度分布装置により測定したシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の平均粒子径(D50)は、1~500μmであることが好ましく、1~400μmであることがより好ましく、1~300μmであることが特に好ましい。平均粒子径を1μm以上とすることで、成形加工時のハンドリング性が向上する。また、平均粒子径を500μm以下とすることで、比表面積が大きくなり、金属含有量を低減させた着色が少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を得ることができる。
SPB粒子の平均粒子径(D50)は、次の方法により求める。湿式分散ユニットを用いてエタノール中にSPB粒子を分散させ、レーザー回折式粒度分布装置を用いてSPB粒子の粒度分布を測定する。測定データから、SPB粒子の体積基準の累積分布における50%累積値の粒径(D50)を求める。測定装置としては、例えば、マルバーン製マスターサイザー3000型を使用することができる。
【0010】
(SPB粒子のL値、a値、b値)
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子は、分光色彩計により測定したL値は70以上であり、a値の絶対値は3以下であり、b値の絶対値は12以下であることが好ましい。L値、a値の絶対値及びb値の絶対値を前記範囲とすることで、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の着色をより低減することができる。
値、a値及びb値は、分光色彩計を用いて次の方法により求める。粉体用標準白板を用いて、分光色彩計の標準校正を行った後、乾燥状態のSPB粒子を粉末試料用セルケースに入れ、蓋をかぶせた状態で、L表色系における測定値(L値、a値、b値)を測定する。分光色彩計としては、例えば、日本電色工業製SD3000を使用することができる。
【0011】
<シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法>
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法は、1,3-ブタジエンを懸濁重合する重合工程と、前記重合工程で得られたシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子をアルコールと炭化水素と酸とを含む洗浄液で洗浄する洗浄工程を含む。
【0012】
(1,3-ブタジエンを懸濁重合する重合工程)
1,3-ブタジエンを懸濁重合する重合工程は、1,3-ブタジエンと触媒等を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物中の1,3-ブタジエンを懸濁重合してシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエンを得る工程を含むことが好ましい。
【0013】
(1,3-ブタジエンと触媒等を混合する混合工程)
混合工程では、1,3-ブタジエンと、触媒と、水と、分散剤と、混合剤とを混合する。触媒は、遷移金属化合物と1~3族の有機金属化合物とを含むことが好ましい。遷移金属化合物としては、コバルト化合物及び/又はニッケル化合物が好ましく、コバルト化合物をがより好ましく、オクタン酸コバルトが特に好ましい。1~3族の有機金属化合物の有機金属化合物としては、有機アルミニウム化合物が好ましく、トリエチルアルミニウムがより好ましい。
【0014】
水は、特に制限されないが、酸素を除去したイオン交換水や蒸留水が好ましい。
分散剤とは、分散剤混合物中で、1,3-ブタジエンおよび触媒との混合液(液滴)が会合により凝集することを防止する機能を有する化合物である。分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、ポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。
混合剤とは、1,3-ブタジエンおよび触媒を効率よく分散させる機能を有する化合物である。混合剤としては、アルコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸エステル、ニトリル、スルホキシド、アミド、燐酸エステルが挙げられる。
混合工程は、溶媒下で行ってもよく、無溶媒下で行ってもよいが、1,3-ブタジエンや触媒との反応性が低い不活性溶媒の存在下で行うことが好ましく、シクロヘキサンの存在下で行うことがより好ましい。混合の順序は特に制限されないが、触媒と1,3-ブタジエンとの混合物と、水と分散剤と混合剤との混合物とを混合することが好ましい。
【0015】
(1,3-ブタジエンを懸濁重合してシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエンを得る工程)
1,3-ブタジエンを懸濁重合してシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエンを得る工程では、前記混合工程で得られた混合物(本混合物)に重合開始剤を添加して、1,3-ブタジエンを懸濁重合する。
【0016】
重合開始剤としては、特に限定されないが、二硫化炭素、イソチオシアン酸フェニル、キサントゲン酸化合物等が挙げられるが、二硫化炭素が好ましい。
【0017】
重合工程における重合温度は、-20℃以上100℃以下の温度下であることが好ましく、-10℃以上50℃以下であることがより好ましい。重合工程における圧力は、常圧下又は10気圧(ゲージ圧)程度までの加圧下であることが好ましい。重合工程における重合時間は、10分~12時間であるのが好ましく、30分~6時間であることがより好ましい。
【0018】
(シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を洗浄する洗浄工程)
洗浄工程は、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を、アルコールと、炭化水素と、酸とを含む洗浄液でシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を洗浄する脱灰工程を含む。シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子中の触媒残渣を低減させ、着色の少ないシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を得る工程である。
洗浄工程は、前記脱灰工程で得られたシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を、水又は/及びアルコールを含む酸除去液により前記脱灰工程で使用した酸を除去する酸除去工程を含むことが好ましい。
【0019】
(脱灰工程)
アルコールと、炭化水素と、酸とを含む洗浄液により、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を洗浄する。
【0020】
(アルコール)
アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキサノール、オクタノールなどの脂肪族アルコール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロドデカノールなどの脂環式アルコール、ベンジルアルコール、ジフェニルカルビノール、シンナミルアルコール、o-アニスアルコール、m-アニスアルコール、p-アニスアルコールなどの芳香族アルコール、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのジオールやグリセリンなどの多価アルコールが挙げられる。触媒残渣(金属含有量)の低減効果の観点から、炭素数1~5の脂肪族アルコールを用いるのが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールを用いるのが特に好ましい。なお、アルコールは複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
(炭化水素)
炭化水素としては、ペンタン、ネオペンタン、ノルマルヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、1,1-ジクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が挙げられるが、炭素数5~10の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ノルマルヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエンが特に好ましい。シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を適度に膨潤させ、洗浄効果(触媒残渣の低減効果)を高めることができる。なお、炭化水素は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(酸)
酸としては、有機酸、無機酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸などが挙げられる。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、リン酸、次亜塩素酸、フッ化水素等が挙げられるが、塩酸及び/又は硫酸が好ましい。洗浄効果(触媒残渣の低減効果)を高めることができる。なお、酸は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
(その他の成分)
洗浄工程には上記に記載した炭化水素及び無機酸以外の成分を含んでもよく、過酸化水素を含むことが好ましい。SPB粒子の臭気を低減することができる。
【0024】
(洗浄液中の各成分の割合)
洗浄液中の炭化水素の濃度は、0.01~5mоl/Lであることが好ましく、0.01~3mоl/Lであることがより好ましく、0.01~2mоl/Lであることが更に好ましく、0.1~2mоl/Lであることが特に好ましい。炭化水素濃度を0.01mоl/L以上とすることでSPB粒子を適度に膨潤させ、金属含有量を低減することができる。また、炭化水素濃度を5mоl/L以下とすることでSPB粒子同士の凝集を抑制し、SPB粒子の粒子径の増加を抑制することができる。特に、炭化水素の濃度を3mоl/L以下、2mоl/L以下とすることで、SPB粒子同士の凝集をより効果的に抑制することが可能であり、SPB粒子の粒子径の増加をより効果的に抑制することができる。SPB粒子の粒子径の増加を抑制することで、パウダースラッシュ成形や流動浸漬等の成形加工時に粉体の流動性が向上し、成形加工性を向上させることができる。
【0025】
洗浄液中の酸の濃度は、0.005~20mоl/Lであることが好ましく、0.005~5mоl/Lであることがより好ましい。酸濃度を0.005mоl/L以上とすることで触媒残渣の低減効果を高めることができ、酸濃度を20mоl/L以下とすることでSPB粒子の形状を球状に維持することができる。
また、洗浄液に過酸化水素水を含む場合、洗浄液中における過酸化水素の濃度は、0.005~10mоl/Lであることが好ましい。SPB粒子の臭気を効果的に低減することができる。
洗浄液の量は、SPB粒子100gに対し、0.1~10Lであることが好ましく、0.3~3Lであることがより好ましい。
【0026】
(洗浄方法)
洗浄方法は、特に制限されず、洗浄液とSPB粒子を混合した後に、攪拌、気体によるバブリング、超音波洗浄等を行う洗浄方法、SPB粒子に洗浄液をシャワーする洗浄方法、洗浄液を循環させた系内にSPB粒子を入れて洗浄する方法等が挙げられる。
洗浄の時間は、特に制限されないが、1分~6時間であることが好ましく、5分~2時間であることがより好ましい。十分な洗浄効果を得ることができる。
また、洗浄液の温度は、洗浄液に含まれる溶媒が揮発しない温度であることが好ましく、例えば、アルコールを洗浄液として用いる場合は、10~60℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。
脱灰工程により得られるSPB粒子は、ろ布またはろ紙を設置したろ過器を用いて洗浄液から分離することができる。
【0027】
(酸除去工程)
酸除去工程とは、脱灰工程で得られたシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子に残存する酸を除去する工程である。
酸除去工程で用いる酸除去液としては、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子に残存した酸を除去できるものであれば特に制限されないが、水又は/及びアルコールが好ましく、アルコールがより好ましい。また、アルコールを用いる場合は、脱灰工程で使用したアルコールを用いることができる。
洗浄液の量は、SPB粒子100gに対し、0.1~10Lであることが好ましく、0.3L~3Lであることがより好ましい。
【0028】
洗浄方法、洗浄時間、洗浄液の温度は、特に制限されず、脱灰工程の条件と同じであってもよい。
酸除去工程により得られるSPB粒子は、ろ布又はろ紙を設置したろ過器を用いて洗浄液から分離することができる。
また、洗浄液から分離したSPB粒子は、必要に応じて乾燥機等を用いて乾燥してもよい。乾燥する際の温度は、80℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましい。80℃以下で乾燥させることにより、SPB粒子の溶解を抑制することができる。
【0029】
<シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法>
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法は、アルコールと炭化水素と酸とを含む洗浄液でシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を洗浄する脱灰工程を含む。
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の洗浄方法の実施形態は、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造方法におけるシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子を洗浄する洗浄工程の実施形態と同様である。
【0030】
<樹脂組成物>
樹脂組成物は、ICPにより測定した金属含有量が600ppm以下であるSPB粒子とSPB粒子以外の樹脂を含む。
樹脂組成物の母材となるSPB粒子以外の樹脂としては、特に限定されないが、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ-ε-カプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ-β-ハイドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシエチレン等のポリエーテル系樹脂;アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体等のポリニトリル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリレート系樹脂;ポリアクリル酸メチルなどのアクリレート系樹脂;ポリアミド11、ポリアミド12等のポリアミド系樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリフッ化ビニリデン樹脂;ポリスルホン樹脂;熱可塑性ポリウレタン系樹脂;trans-1,4-ポリイソプレンなどのポリイソプレン樹脂;cis-1,4-ポリブタジエン、シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン等のポリブタジエン系エラストマー;スチレン系エラストマー;ポリウレタンエラストマー;ポリアミドエラストマー;ポリエステルエラストマー等が挙げられる。その中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましく、上記溶融混練温度での加工性が優れるポリオレフィン系樹脂やポリ乳酸がより好ましい。
【0031】
樹脂組成物は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、離型剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、顔料、染料、香料、補強材などが挙げられる。
【0032】
(各成分の割合)
樹脂組成物に対するシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の割合は、1~60質量%が好ましく、5~30質量%が好ましい。前記添加剤は、樹脂組成物の特性を損なわない範囲で、適宜濃度を調整することができるが、樹脂とシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の質量和を100質量部としたとき、添加剤分の割合は5質量部以下であることが好ましい。
【0033】
(樹脂組成物の製造方法)
樹脂組成物は、SPB粒子とSPB粒子以外の樹脂とを混合し、単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー式溶融混練機、ニーダーなどにより溶融混錬する方法により得ることが好ましい。溶融混錬する温度は、一般に150℃~210℃であることが望ましい。
【実施例0034】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(分光色彩計による測定)
分光色彩計(日本電色工業製SD3000型)を用いてSPB粒子のL値、a値、b値を測定した。粉体用標準白板を用いて、分光色彩計の標準校正を行った後、乾燥状態のSPB粒子を粉末試料用セルケースに0.18g入れ、蓋をかぶせた後、L値、a値、b値を測定した。なお、測定は3回行い、その平均値をサンプルのL値、a値、b値とした。以下の基準でSPB粒子の着色の評価を行った。
SPB粒子の着色評価
〇(着色なし):L値が70以上かつ、a値の絶対値が3以下かつ、b値の絶対値が12以下
×(着色あり):L値が70未満、又はa値の絶対値が3超、又はb値の絶対値が12超
【0035】
(金属含有量)
ICP発光分光分析装置(エスエスアイ・ナノテクノロジー製SPS5100型)を用いてSPB粒子の金属含有量を測定した。SPB粒子を硫酸と硝酸で加熱分解して水溶液化を行った。次に、ICP-AES法により触媒成分であるCo、Alの定量分析を行った。SPB粒子のCo、Al含有量の合計を金属含有量とした。
【0036】
(SPB粒子の平均粒子径)
レーザー回折式粒度分布系(マルバーン製マスターサイザー3000型)を用いてSPB粒子の粒度分布を測定した。湿式分散ユニットを用いてエタノール中にSPB粒子を分散させた。測定データから、SPB粒子の体積基準の累積分布における50%累積値の粒径(D50、平均粒径)を求めた。次に、洗浄前のSPB粒子の粒径を基準(100)に、洗浄後のSPB粒子の粒径を相対値として求め、以下に示す基準でSPB粒子の凝集度合いの評価を行った。数値が小さいほど、SPB粒子は凝集していないことを示す。
SPB粒子の凝集度合いの評価
◎:100以上、115未満
〇:115以上、120未満
△:120以上、200未満
×:200以上
【0037】
<シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の製造例>
(実施例1)
シンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン粒子の合成例:
予め窒素置換した1.5Lのオートクレーブに、1,3-ブタジエン:240mLを供給し、オクタン酸コバルトのシクロヘキサン溶液(オクタン酸コバルト0.1モル/シクロヘキサン1L)を6.0mL加え、更にトリエチルアルミニウムのシクロヘキサン溶液(トリエチルアルミニウム2.0モル/シクロヘキサン1L)を0.9mL加えた後、10℃にて撹拌速度300rpmで5分間攪拌して、触媒混合物を調製した。
【0038】
オートクレーブの内部を窒素置換し、イオン交換水600mLとアセトン200mL、及びポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略す。日本合成化学社製「ゴーセノールKH-17」:けん化度78.5~81.5、20℃における4%水溶液の粘度が32.0~38.0mPa・s)を0.5g、老化防止剤(BASF社製「イルガノックス1076」)のシクロヘキサン溶液(老化防止剤500g/シクロヘキサン1L)2.4mLを供給し、10℃にて撹拌速度300rpmで5分間撹拌して、分散剤混合物とした。
上記触媒混合物を入れたオートクレーブへ分散剤混合物を加え、10℃にて撹拌速度600rpmで5分間攪拌した。
その後、二硫化炭素のシクロヘキサン溶液(二硫化炭素1モル/シクロヘキサン1L)3.0mLを加えて重合を開始した。重合は撹拌速度600rpmで攪拌しながら30℃にて1時間行った。得られた重合物(SPB粒子)は褐色であった。また、分光色彩計による測定値は、L値:69.5、a値の絶対値:3.8、b値の絶対値:16.2であり、ICP発光分光分析装置による金属含有量の測定結果は、730ppmであった。
【0039】
SPB粒子の洗浄例:
合成例で製造したシンジオタクティック-1,2-ポリブタジエン(SPB)粒子50gを、アルコールとしてメタノール300ml、炭化水素としてノルマルヘキサン55ml、酸として塩酸4.3mlを混合した洗浄液中で、40℃にて60分間撹拌し、その後ろ過液を取り除いた。上記の手順を2回繰り返し行った。
上記ろ過物に、酸除去剤としてメタノール300mlを加え、25℃にて5分間撹拌し、ろ液を取り除いた後、80℃にて真空乾燥機中で2時間乾燥した。得られたSPB粒子は白色であった。
【0040】
(実施例2)
洗浄液に35wt%過酸化水素水1.9mlを加えたこと以外は実施例1と同様にして合成例のSPB粒子の洗浄を行った。得られたSPB粒子は白色であり、臭気が低減されていた。
【0041】
(実施例3)
洗浄液の酸として、塩酸4.3mlに代わり、硫酸2.9mlを用いたこと以外は実施例1と同様にして合成例のSPB粒子の洗浄を行った。得られたSPB粒子は白色であった。
【0042】
(実施例4)
洗浄液の炭化水素として、ノルマルヘキサン165mlを用いたこと以外は実施例1と同様にして合成例のSPB粒子の洗浄を行った。得られたSPB粒子は白色であった。
【0043】
(実施例5)
洗浄液の炭化水素として、ノルマルヘキサン275mlを用いたこと以外は実施例1と同様にして合成例のSPB粒子の洗浄を行った。得られたSPB粒子は白色であった。
【0044】
(比較例1)
洗浄液としてノルマルヘキサン55ml、蒸留水300mlを用いた以外は実施例1と同様にして合成例のSPB粒子の洗浄を行った。得られたSPB粒子は褐色であった。。
【0045】
(比較例2)
洗浄液としてメタノール300ml、ノルマルヘキサン55mlを用いた以外は実施例1と同様にして合成例のSPB粒子の洗浄を行った。得られたSPB粒子は褐色であった。
【0046】
実施例および比較例の結果を表1に示す。なお、洗浄液中の各成分の濃度(mоl/L)は、洗浄液合計量に対する濃度を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1~5と、比較例1及び2との比較より、アルコールと炭化水素と酸とをを含む洗浄水を用いることにより、金属含有量を低減させ、着色が少ないSPB粒子を得ることができる。
また、実施例1と実施例4及び5の比較により、洗浄液中の炭化水素の濃度を2M以下とすることで、より効果的にSPB粒子の凝集を抑制することができる。
また、実施例1と実施例3との比較により、酸として塩酸を含む洗浄液を用いることで、より金属含有量を低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のSPB粒子は、金属含有量が低減され着色が少ないので、意匠性が求められるゴム用部材に用いることができる。