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特開2022-34129自動車用衝突エネルギー吸収部品、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034129
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】自動車用衝突エネルギー吸収部品、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20220224BHJP
【FI】
B62D21/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137778
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】玉井 良清
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BA06
3D203CA23
3D203CA26
3D203CA43
3D203CA67
3D203CA73
3D203CA86
3D203CB04
3D203CB24
(57)【要約】
【課題】車体の前方又は後方から衝突荷重が入力して軸圧壊する際に、衝突エネルギーの吸収効果が向上し、かつ、追加の生産工程を少なくでき生産コストが大きく上昇することのない自動車用衝突エネルギー吸収部品、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、天板部7aと縦壁部7bを有するハット断面部材を用いて形成された筒状部材3と、天板部7aと縦壁部7bの外面における天板部7aと縦壁部7bを連結するコーナー部7cを含む部分に、天板部7a外面および縦壁部7b外面およびコーナー部7c外面と0.2mm以上3mm以下の隙間11を空けて配設され、筒状部材3より強度の低い材質からなる塗膜形成部材5と、隙間11に形成された電着塗料による塗膜13とを有することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部又は後部に設けられ、該車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品であって、
天板部と縦壁部を有するハット断面部材を用いて形成された筒状部材と、前記天板部と前記縦壁部の外面における前記天板部と前記縦壁部を連結するコーナー部を含む部分に、前記天板部外面および前記縦壁部外面および前記コーナー部外面と0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設され、前記筒状部材より強度の低い材質からなる塗膜形成部材と、前記隙間に形成された電着塗料による塗膜とを有することを特徴とする自動車用衝突エネルギー吸収部品。
【請求項2】
車体の前部又は後部に設けられ、該車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法であって、
天板部と縦壁部を有するハット断面部材を用いて形成された筒状部材と、該筒状部材の外面における前記天板部と前記縦壁部を連結するコーナー部を含む部分に前記天板部外面および前記縦壁部外面および前記コーナー部外面と0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設され、前記筒状部材より強度の低い材質からなる塗膜形成部材と、を有する塗装前部品を製造する部品製造工程と、
該塗装前部品を、前記車体に取り付けた状態において、前記隙間を含む部品表面に、電着塗装による電着工程で塗料層を形成し、これに続く塗料焼付処理で前記塗料層を熱硬化させて塗膜を形成する塗膜形成工程とを備えたことを特徴とする自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用衝突エネルギー吸収部品、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法に関し、特に、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に、軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突エネルギー吸収性能を向上させる技術として、自動車部品の形状・構造・材料等の最適化など多くの技術が存在する。さらに、近年では、閉断面構造を有する自動車部品の内部に樹脂を発泡させて充填することで、該自動車部品の衝突エネルギー吸収性能の向上と軽量化を両立させる技術が数多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サイドシル、フロアメンバー、ピラー等のハット断面部品の天板方向を揃えフランジを重ねて内部に閉鎖空間を形成した構造の自動車用構造部材において、その内部に発泡充填材を充填することにより、重量増を抑制しつつ該自動車用構造部材の曲げ強度、ねじり剛性を向上させ、車体の剛性及び衝突安全性を向上させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ハット断面部品を対向させてフランジ部を合わせたピラー等の閉断面構造の内部空間内に高剛性発泡体を充填するに際し、該高剛性発泡体の充填および発泡による圧縮反力により高剛性発泡体を固定し、振動音の伝達を抑制する防振性の向上を図るとともに、強度、剛性、衝突エネルギー吸収性能を向上させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献3は、複数の繊維層を積層したCFRP製の補強材を熱硬化性接着剤で金属部材の表面に接着したものであり、接着後に金属部材と補強材の線膨張係数差によって熱硬化性接着剤に生じる残留剪断応力を緩和させるために、補強材の本体部から端縁に向けて徐々に厚さが減少する残留剪断応力緩和部からなる構造を有した金属-CFRP複合材が開示されている。
【0006】
さらに特許文献4には、軸方向からの入力荷重により入力端側から逐次圧壊を起こす筒状断面のFRP製エネルギー吸収部と、これに連なりFRPで形成されて車体部品と接合される支持部と、からなるフロントサイドメンバーを備え、前記エネルギー吸収部はフロントサイドメンバーの長手方向とそれに直角な方向とに等分に強化繊維が配向され、前記支持部は等方性を持って強化繊維が配向された一体成形が可能な自動車部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-240134号公報
【特許文献2】特開2000-318075号公報
【特許文献3】特開2017-61068号公報
【特許文献4】特開2005-271875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に開示されている技術によれば、自動車部品の内部に発泡充填材又は発泡体を充填することにより、該自動車部品の曲げ変形に対する強度や衝突エネルギー吸収性能、さらには捻り変形に対する剛性を向上することができ、当該自動車部品の変形を抑制することが可能であるとされている。
【0009】
しかしながら、フロントサイドメンバーやクラッシュボックスのように、自動車の前方又は後方から衝突荷重が入力して軸圧壊する際に、蛇腹状に座屈変形して衝突エネルギーを吸収する自動車部品に対しては、該自動車部品の内部に発泡充填材や発泡体を充填する技術を適用したとしても、単に自動車部品の内部に充填しただけであり、自動車部品と発泡充填材や発泡材との接着力が不足する。その結果、衝突時に部品の接合部に生じた隙間などから部品内部の発泡充填材や発泡剤が噴出して、衝突エネルギーの吸収性能を向上させることが困難であるという課題があった。
また、発砲樹脂を隙間なく充填するという追加工程が発生し、自動車部品製造における生産コストが上昇するという問題もあった。
【0010】
また、特許文献3、特許文献4に開示されている技術によれば、金属表面にCFRPを接着することで、曲げ耐力を向上することが可能であったり、CFRPそのものの配向性を考慮して部品を一体製造することで、部品組立工数の低減や締結部品の削減による重量増加の削減が可能であるとされている。
【0011】
しかしながら、CFRPを変形が伴う軸圧壊部品へ適用しても、CFRPは強度が高い反面、延性が著しく低いため、蛇腹状の変形を開始した途端にCFRPの折れ・破断が発生し、衝突エネルギー吸収性能は向上しない課題があった。また、CFRPはコストが著しく高い課題もあった。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、フロントサイドメンバーやクラッシュボックスのような車体の前方又は後方から衝突荷重が入力して軸圧壊する際に、外面に塗料の厚い膜を形成して衝突エネルギーの吸収効果を向上するとともに、車体に生じた振動を吸収する制振材として機能することができ、かつ、追加の生産工程を少なくできるため、生産コストが大きく上昇することのない自動車用衝突エネルギー吸収部品、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、上記課題を解決する方法を鋭意検討し、自動車製造の塗装工程で一般的に用いられている電着塗料を活用することによって、発泡樹脂等の充填材を隙間なく充填するという追加工程を必要とせずに衝突エネルギーの吸収効果を向上させることができるという知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0014】
(1)本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品は、車体の前部又は後部に設けられ、該車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収するものであって、天板部と縦壁部を有するハット断面部材を用いて形成された筒状部材と、前記天板部と前記縦壁部の外面における前記天板部と前記縦壁部を連結するコーナー部を含む部分に、前記天板部外面および前記縦壁部外面および前記コーナー部外面と0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設され、前記筒状部材より強度の低い材質からなる塗膜形成部材と、前記隙間に形成された電着塗料による塗膜とを有することを特徴とするものである。
【0015】
(2)本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法は、車体の前部又は後部に設けられ、該車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法であって、天板部と縦壁部を有するハット断面部材を用いて形成された筒状部材と、該筒状部材の外面における前記天板部と前記縦壁部を連結するコーナー部を含む部分に前記天板部外面および前記縦壁部外面および前記コーナー部外面と0.2mm以上3mm以下の隙間を空けて配設され、前記筒状部材より強度の低い材質からなる塗膜形成部材と、を有する塗装前部品を製造する部品製造工程と、該塗装前部品を、前記車体に取り付けた状態において、前記隙間を含む部品表面に、電着塗装による電着工程で塗料層を形成し、これに続く塗料焼付処理で前記塗料層を熱硬化させて塗膜を形成する塗膜形成工程とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する筒状部材が圧縮変形する過程において、該筒状部材の座屈耐力を向上させるとともに、該筒状部材の変形抵抗を低下させることなく蛇腹状に座屈変形を発生させることができ、かつ、前記筒状部材の前記座屈変形における曲げ部の破断を防止することができ、衝突エネルギーの吸収性能を大幅に向上させることができる。
また、自動車エンジンからの振動や自動車走行時に各方向から車体に入力する振動を吸収し、制振性を向上することができる。
さらに、本発明においては塗膜形成部材を有するので、自動車製造の塗装工程で一般的に行われている電着塗装において目標とする厚みの塗膜が形成でき、従来の自動車製造ラインのまま製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品に塗膜が形成される前の状態を示す斜視図である。
図3】鋼板の引張強度と、鋼板の破断限界曲げ半径と板厚との比、との関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態2に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の製造方法の説明図である。
図5】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その1)。
図6】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その2)。
図7】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その3)。
図8】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その4)。
図9】本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品の他の態様を示す図である(その5)。
図10】実施例における軸圧壊試験方法を説明する図である。
図11】実施例における打撃振動試験方法を説明する図である。
図12】実施例における打撃振動試験方法による振動特性評価において固有振動数算出の対象とした振動モードを示す図である。
図13】実施例において発明例として用いた試験体の構造を示す図である。
図14】実施例において比較例として用いた試験体の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態1]
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品について、以下に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1(図1)は、車体の前部又は後部に設けられ、該車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収するものであり、前記車体に取り付けられた状態において、表面に、電着塗料による塗料層が形成され、塗料焼付処理で前記塗料層が硬化し、塗膜が形成されるものである。図1に示すように、ハット断面部材を用いて形成された筒状部材3の外面側に塗膜形成部材5を設けており、ハット断面部材と塗膜形成部材5の間の隙間に電着塗料による塗膜13が形成されている。
図2は自動車用衝突エネルギー吸収部品1の電着塗装前の状態(以降、塗装前部品2という)を示すものである。図1及び図2に基づいて、以下、各部材について説明する。
【0020】
<筒状部材>
筒状部材3は鋼板等の金属板からなり、天板部7a、縦壁部7b及び天板部7aと縦壁部7bをつなぐコーナー部7cを有するハット断面形状のアウタ部品7(本発明におけるハット断面部材)と、平板状のインナ部品9が、アウタ部品7のフランジ部である接合部10で接合されて筒状に形成されたものである。
このような筒状部材3を有する自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、自動車用衝突エネルギー吸収部品1の軸方向先端に衝突荷重を入力し、筒状部材3が座屈耐力を越えて軸圧壊する過程において、筒状部材3に蛇腹状に座屈変形を繰り返し発生させることで衝突エネルギーを吸収するものである。
【0021】
<塗膜形成部材>
塗膜形成部材5は鋼板等の金属板からなり、アウタ部品7の外面側であって、コーナー部7cを含む部分に0.2mm以上3mm以下の隙間11が形成されるように配置され、接合部12でスポット溶接等により接合されている(図2参照)。
塗膜形成部材5は、アウタ部品7の軸方向の全長に亘って設けてもよいが、自動車用衝突エネルギー吸収部品1における蛇腹変形をさせたい範囲にのみ設けるようにしてもよい。
例えば自動車用衝突エネルギー吸収部品1を車体の前部に設置し、前端から軸方向中程までの範囲を蛇腹変形させたい場合には、アウタ部品7のこの範囲に塗膜形成部材5を設ければよい。そして、アウタ部品7における塗膜形成部材5を設けていない部分、例えば軸方向の中程から後端までの範囲は、変形強度を高めるために例えば軸方向に延びるビード形状を形成する、あるいは板厚を厚くするようにすればよい。
【0022】
この隙間11には、自動車製造の一般的な塗装工程のひとつである電着塗装の際に、電着塗料による塗膜13が形成される(図1参照)。電着塗料の種類としては例えば、ポリウレタン系カチオン電着塗料、エポキシ系カチオン電着塗料、ウレタンカチオン電着塗料、アクリル系アニオン電着塗料、フッ素樹脂電着塗料などが挙げられる。
電着塗装については後述する実施の形態2にて具体的に説明する
【0023】
通常電着塗装を行うと、鋼板の表面には0.05mm程度の塗膜が形成されるが、本実施の形態においては塗装前部品2におけるアウタ部品7の外面側に塗膜形成部材5を設けたことにより、隙間11に電着塗料が入り込み塗料層が形成され、これが熱処理されることで、図1に示すような0.2mm以上3mm以下の厚みをもった塗膜13を形成させることができる。
このような塗膜13を形成することで自動車用衝突エネルギー吸収部品1の衝突エネルギー吸収効果が向上する理由について以下に説明する。
【0024】
鋼板等の金属板で形成された筒状部材を有する自動車用衝突エネルギー吸収部品は、該自動車用衝突エネルギー吸収部品の軸方向先端に衝突荷重を入力し、該筒状部材が座屈耐力を越えて軸圧壊する過程において、該筒状部材に蛇腹状の座屈変形を繰り返し発生させることで衝突エネルギーを吸収する。
【0025】
しかしながら、蛇腹状の曲がり部分は金属板固有の小さな曲げ半径となるため、曲がり部分の外面に応力が集中して割れが発生しやすく、軸圧壊する過程で曲がり部分に割れが発生してしまうと、衝突エネルギーの吸収効果が著しく低減してしまうものであった。したがって、衝突エネルギーの吸収効果を向上するには、蛇腹形状に座屈変形する筒状部材に発生する割れを防止する必要があった。
【0026】
特に、近年、衝突特性と軽量化の両立を目的として自動車部品に採用されている高強度鋼板は、従来の強度の鋼板に比較して延性が小さいものである。表1及び図3に示す鋼板引張強度レベルと鋼板の破断限界曲げ半径R/板厚tの関係(下記の参考文献1参照)は、同じ板厚の場合、鋼板の引張強度TSが大きいほど大きな曲げ半径であっても破断が発生しやすいことを示している。
つまり、高強度鋼板を用いた自動車用衝突エネルギー吸収部品が蛇腹状に座屈変形すると、鋼板強度の増加に伴って蛇腹形状の曲がり先端に割れが発生しやすくなるということであり、これは、自動車車体の軽量化のために鋼板のさらなる高強度化を進展させることを阻害する要因ともなっていた。
(参考文献1)長谷川浩平、金子真次郎、瀬戸一洋、「キャビン周りの車体部品の軽量化に貢献する高強度冷間圧延・合金化溶融亜鉛めっき(GA)鋼板」、JFE技報、No.30(2012年8月)、p.6-12.
【0027】
【表1】
【0028】
これに対し本発明は、衝突時に筒状部材3が蛇腹形状に座屈変形する際に、凹状に変形した曲げ部において、金属板と金属板との間に物を介在させ挟んで圧縮させることで、凹状の曲げ部の曲げ半径を大きくし、曲がり先端の割れを防止するものである。
ここで、金属板と金属板との間に介在する物としては、部品の重量増を避けるために可能な限り軽量なものが好ましく、さらに、従来例の発泡樹脂等のように部品製造において材料や工程の追加を要するものではなく、従来の自動車製造ラインのまま製造できるものが好ましい。そこで本発明は、自動車製造で一般的に行われている電着塗装の塗料を活用することとした。
【0029】
また、筒状部材3において衝突エネルギーを吸収する能力が高い部位は、天板部7aと縦壁部7bをつなぐコーナー部7cであるが、コーナー部7cはアウタ部品7をプレス成形する際に、最も加工を受けやすく加工硬化する部位でもあり、加工硬化によって延性がさらに低下している。よってコーナー部7cにおける蛇腹形状の曲がり部分が特に割れが発生しやすい部位である。
【0030】
そこで、本発明では、アウタ部品7のコーナー部7cを含む外面側に、該外面との間に0.2mmから3mmの隙間11が生じるように塗膜形成部材5を設けることで、電着塗装時に隙間11に電着塗料が入り込んで所定の厚みを有する塗料層を形成できるようにした。塗料層は電着塗装の焼付工程で硬化して隙間11に定着して塗膜13となる。
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、衝突時に筒状部材3が座屈変形した際、蛇腹形状の凹状曲げ部の内側に塗膜13が介在することで曲げ半径を大きくして割れの発生を抑制することができるので、衝突エネルギー吸収効果が向上する。
なお、塗膜13の適切な厚みが0.2mmから3mmであることについては、後述する実施例で説明する。
【0031】
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1における塗膜13は、振動を吸収する制振材としても機能する。
例えば、軸圧壊させて衝突エネルギーを吸収する部品であるフロントサイドメンバーとして自動車用衝突エネルギー吸収部品1を用いる場合においては、該フロントサイドメンバーに搭載される自動車エンジンの振動を塗膜13が吸収し、制振性が向上する。この制振性向上の効果についても後述する実施例にて説明する。
【0032】
上述したように、塗膜形成部材5は、電着塗装時に所定厚みの塗膜13を形成させることを目的とし強度が不要であるため、アウタ部品7及びインナ部品9に比べて強度が低く、板厚が薄いものでもよい。さらに言えば、強度が高すぎると円滑な蛇腹変形を阻害することになるため、例えば440MPa級以下が好ましい。
【0033】
[実施の形態2]
本実施の形態では、実施の形態1で説明した自動車用衝突エネルギー吸収部品1の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1の製造方法は、筒状部材3に塗膜形成部材5を設けた塗装前部品2を製造する部品製造工程と、塗装前部品2を車体に取り付けた後に、塗装前部品2に塗料層を形成し、焼付処理によって塗料層を熱硬化させて塗膜13を形成する塗膜形成工程とを備えるものである。
各工程について図1及び図2に示した自動車用衝突エネルギー吸収部品1の断面図である図4を用いて以下に具体的に説明する。
【0034】
<部品製造工程>
部品製造工程は、アウタ部品7及びインナ部品9が接合されてなる筒状部材3の外面側に塗膜形成部材5を設けた塗装前部品2を製造する工程である。
図4(a)に例を示すように、アウタ部品7のコーナー部7cを含む範囲の外側に、アウタ部品7の外面との間に0.2mm~3mmの隙間11を空けて塗膜形成部材5を設置し、縦壁部7bの外面にスポット溶接等により接合する。また、塗膜形成部材5をアウタ部品7の天板部7aに接触させて、さらに接合してもよい(図6(b)、図7(b)参照)。
アウタ部品7とインナ部品9の接合及びアウタ部品7と塗膜形成部材5の接合は、どちらを先に行ってもよい。
【0035】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程は、隙間11に塗膜13を形成させる工程である。上述した部品製造工程で製造した塗装前部品2が車体に取り付けられた状態において、自動車の製造過程で一般的に行われている電着塗装が施されることで、隙間11に塗膜13が形成される。
以下に、電着塗装及び自動車製造におけるその他の塗装工程について概説しながら本工程について説明する。
【0036】
一般的に自動車の車体には、耐候性や意匠性、防食性等を高めるために、鋼板に対して順に電着塗装、中塗り塗装、上塗りベース塗装、上塗りクリア塗装が施される。中でも鋼板に対して最初に施される電着塗装は、車体の防錆性を高めるのに重要な工程であり広く用いられている。
電着塗装は電着によって鋼板に塗料層を形成させる処理と乾燥炉(オーブン)等によって塗料層を硬化させる処理が施される。以下に電着塗装の一例を説明し、本実施の形態の塗膜形成工程との対応を示す。
【0037】
一般的な電着塗装ではまず、鋼板のプレス成形などによって形成された車体部品に対し、前処理として脱脂、水洗や化成処理などの表面処理が行われ、表面処理が行われた車体部品はその後、電着塗料が入った電着槽に浸漬させて、被塗物(車体部品)を陰極、電着塗料を陽極にして通電することで、鋼板表面に電着塗料による塗料層が形成される(カチオン電着塗装)。
電着槽内における通電によって表面に電着塗料の塗料層が形成された車体部品は、その後の水洗などの処理を経て高温の乾燥炉(オーブン)に運ばれ、焼付処理によって塗料層を硬化させる。
【0038】
本実施の形態における部品製造工程で製造された塗装前部品2(図4(a)参照)も、車体骨格に取り付けられた状態で上述した電着槽に浸漬されると、電着塗料が隙間11に入り込み、その後の通電によって塗料層が形成される。
隙間11以外の他の部位にも鋼板表面に電着塗料による塗料層が形成されるが、その厚みは0.05mm程度と薄いため図示を省略する。
【0039】
塗料層が形成された自動車用衝突エネルギー吸収部品1はその後に前述したような焼付処理を経て塗料層が硬化し、隙間11に所定厚みの塗膜13が定着する(図4(b))。
なお、塗膜13は隙間11内の全領域に亘って中実状態で形成されるのが好ましいが、隙間11の一部に空隙が存在した状態で塗膜13が形成される場合も考えられ、このような場合であっても塗膜13のない場合に比較して本発明の効果を奏することができるので、隙間11の一部に空隙が存在する場合を排除するものではない。
【0040】
電着塗装は被塗物に対するつき廻り性(未塗装部へ塗料が広がる性能)が高いため、凹凸の多い内板部材(車体骨格部分やエンジンルームなど)に対して特に効果的である。電着塗料には様々な種類があり、塗装対象や要求機能(つき廻り性、省エネルギー性、防食性など)によって使い分けられている。
本発明の自動車用衝突エネルギー吸収部品1には、主に内板(内装)用に使用される軟質塗料による電着塗装の適用を想定しており、その種類としては例えば、ポリウレタン系カチオン電着塗料、エポキシ系カチオン電着塗料、ウレタンカチオン電着塗料、アクリル系アニオン電着塗料、フッ素樹脂電着塗料などが挙げられる。
【0041】
電着塗装が施された車体部品は、中塗り塗装、上塗りベース塗装、上塗りクリア塗装が施される。これらは主に静電塗装と呼ばれる帯電した塗料をスプレー等で被塗物に噴射する方法で行われており、中塗り塗装は電着塗装面の粗度隠蔽や光線透過抑制、上塗りベース塗装及び上塗りクリア塗装は着彩等の意匠性や耐久性などの機能を有するものである。
中塗り塗装、上塗りベース塗装及び上塗りクリア塗装に使用される塗料の例としてはポリエステル-メラミン系塗料、アクリルーメラミン系塗料、アクリルーポリエステルーメラミン系塗料、アルキド・ポリエステルメラミン系塗料などが挙げられる。
【0042】
以上のように、本実施の形態で説明した自動車用衝突エネルギー吸収部品1の製造方法によれば、筒状部材3に塗膜形成部材5を設けたことで、自動車製造の塗装工程で一般的に行われている電着塗装の際に、筒状部材3と塗膜形成部材5との間の隙間11に電着塗料による塗膜13が形成されるので、生産コストを大きく上昇させることなく衝突エネルギーの吸収効果が高い自動車用衝突エネルギー吸収部品1を製造することができる。
【0043】
実施の形態1及び2では、図4に断面図を示したような、アウタ部品7の縦壁部7bに塗膜形成部材5の接合部12を設け、天板部7a、コーナー部7c及び縦壁部7bの一部の外面に亘って塗膜13を形成する例を説明したが、本発明はこれに限るものではない。
例えば図5に示すように、縦壁部7bがわずかであって天板部7a及びコーナー部7cを主体とする外面に塗膜を形成するようにしてもよい。
また、前述したように、衝突時に特に割れが発生しやすいコーナー部7cの外面に塗膜を形成するようにすれば衝突エネルギー吸収効果の向上が期待できるため、図6に示すようにコーナー部7cを主体とする外面に塗膜13を形成するようにしてもよい。このとき、二つの塗膜形成部材5を用いて天板部7aと縦壁部7bにそれぞれ接合部12を設けてもよいし(図6(a))、一つの塗膜形成部材5を用いて天板部7aの中央と接触させ、さらに接合して、縦壁部7bに接合部12を設けてもよい(図6(b))。
【0044】
また、図7に示すように、縦壁部7b及びコーナー部7cの外面に塗膜13を形成するようにしてもよい。図6と同様に、二つの塗膜形成部材5を用いて天板部7aと縦壁部7bにそれぞれ接合部12を設けてもよいし(図7(a))、一つの塗膜形成部材5を用いて天板部7aの中央と接触させ、さらに接合して、縦壁部7bに接合部12を設けてもよい(図7(b))。
さらに、図8に示すようなハット断面型の塗膜形成部材5をアウタ部材7とインナ部材9と合わせて接合部10で接合するようにしてもよい。
【0045】
本実施の形態ではハット断面形状のアウタ部品7と平板形状のインナ部品9からなる筒状部材3を例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく、図9に例を示すハット断面部材を対向させてフランジ部を合わせてなるような筒状部材にも適用可能である。
図9(a)は、対向したハット断面部材のそれぞれに図5に示した態様の塗膜形成部材5を設けた例である。同様に、図9(b)は図6(a)に示した態様、図9(c)は図7(b)に示した態様、図9(d)は図8に示した態様の塗膜形成部材5を設けた例である。
なお、図9においては、アウタ部品7については図4図8と同じ符号を付し、インナ部品9についてはアウタ部品7に対応する符号を付している。
また、図9ではアウタ部品7とインナ部品9が同形状のハット断面部材である例を示したが、インナ部品9はアウタ部品7と異なる形状のハット断面部材であってもよい。
【実施例0046】
本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1の効果を確認するための実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0047】
本実施例では、本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品を試験体とし、軸圧壊試験による衝突エネルギーの吸収特性の評価と、打撃振動試験における周波数応答関数の測定と固有振動数の算出による制振特性の評価を行った。
【0048】
軸圧壊試験においては、図10に示すように筒状部材3を有する試験体21の軸方向に試験速度17.8m/sで荷重を入力して、試験体長(試験体21の軸方向長さL0)を200mmから120mmまで80mm軸圧壊変形させたときの荷重とストローク(軸圧壊変形量)の関係を示す荷重-ストローク曲線を測定するとともに、高速度カメラによる撮影を行い変形状態と筒状部材3における破断発生の有無を観察した。さらに、測定した荷重-ストローク曲線から、ストロークが0~80mmまでの吸収エネルギーを求めた。
【0049】
一方、打撃振動試験においては、図11に示すように、吊り下げた試験体21に加速度センサー(小野測器製:NP-3211)をアウタ部品7の天板部7a内側のエッジ付近に取り付け、インパクトハンマ(小野測器製:GK-3100)で試験体21のアウタ部品7の縦壁部7b内側を打撃加振し、加振力と試験体21に発生した加速度をFFTアナライザ(小野測器製:CF-7200A)に取り込み、周波数応答関数を算出した。ここで、周波数応答関数は、5回の打撃による平均化処理とカーブフィットにより算出した。そして、算出した周波数応答関数により振動モード解析を行い、同一モードにおける固有振動数を求めた。図12に、対象とした振動モードを示す。
【0050】
図13に、前述した実施の形態1及び2に係る塗膜13が形成された自動車用衝突エネルギー吸収部品1(図1及び図4(b))である試験体21の構造及び形状を示す。
試験体21は、アウタ部品7とインナ部品9とがスポット溶接により接合された筒状部材3を有し、塗膜形成部材5がアウタ部品7の縦壁部7bの外面に接合されている。アウタ部品7と塗膜形成部材5の間には塗膜13が形成されている。
【0051】
図13には天板部7aからコーナー部7c、縦壁部7bに至る塗膜形成部材5の間の隙間11を3mmとした例を示したが、本実施例では隙間11を2mm、1mm、0.2mmとした試験体21も用意し、隙間11内に形成される塗膜13の厚みを変えながら試験を行った。
【0052】
さらに比較例として、図14に示すような筒状部材3及び塗膜形成部材5を有し、塗膜13が形成されていない試験体31を用意し、発明例と同様に軸圧壊試験及び打撃振動試験を行った。
表2に、発明例である試験体21及び比較例である試験体31の構造及び塗膜の各条件及び試験体重量、さらに、軸圧壊試験を行ったときの吸収エネルギーの算出結果と、打撃振動試験により求めた固有振動数の結果を示す。
【0053】
【表2】
【0054】
発明例1~発明例5はいずれも、塗膜形成部材5と塗膜13を備えた試験体21(図13)を用いたものであり、アウタ部品7及び塗膜形成部材5の強度(材質)や塗膜13の厚みを変化させたものである。
一方、比較例1~比較例4は、塗膜形成部材5を備えるが、塗膜13が形成されていない試験体31(図14)を用いたものであり、アウタ部品7の強度(材質)及び板厚やアウタ部品7と塗膜形成部材5間の隙間11を変化させたものである。
比較例5は、塗膜形成部材5を備えずに成膜させたものである。
比較例6は、試験体21と同様に塗膜形成部材5と塗膜13を備えるものであるが、塗膜形成部材5の材質がアウタ部品7及びインナ部品9の材質の強度を上回るものである。
【0055】
表2に示す試験体重量は、塗膜13が形成されているものについてはアウタ部品7、インナ部品9、塗膜形成部材5及び塗膜13の各重量の総和であり、塗膜13がないもの(比較例1~比較例4)についてはアウタ部品7、インナ部品9及び塗膜形成部材5の各重量の総和である。
【0056】
比較例1は、試験体重量1.08kgであり、吸収エネルギーは6.5kJであった。さらに、固有振動数は155Hzであった。
【0057】
比較例2は、比較例1に対してアウタ部品7の板厚と、アウタ部品7及び塗膜形成部材5間の隙間を変更したものであり、試験体重量は1.19kg、吸収エネルギーは7.0kJであり、比較例1より増加した。固有振動数は175Hzであった。
【0058】
比較例3は、アウタ部品7を980MPa級の高強度鋼板としたものであり、試験体重量は1.08kgであった。吸収エネルギーは8.1kJであり、比較例2よりもさらに増加したが、筒状部材3に破断が発生した。固有振動数は155Hzであった。
【0059】
比較例4は、アウタ部品7を1180MPa級の高強度鋼板としたものであり、試験体重量は1.09kgであった。吸収エネルギーは8.5kJであり、比較例3よりもさらに増加したが、筒状部材3に破断が発生した。固有振動数は155Hzであった。
【0060】
比較例5は、アウタ部品7を1180MPa級の高強度鋼板とし、塗膜形成部材5を設置せずに成膜させたものであり、塗膜13の厚みは0.05mmであった。試験体重量は0.96kgであり、吸収エネルギーは8.7kJと比較例4より増加したが、筒状部材3に破断が発生した。固有振動数は155Hzであった。
【0061】
比較例6は、塗膜形成部材5の材質がアウタ部品7及びインナ部品9(筒状部材3)の材質の強度を上回るものであり、さらに3mmの厚みの塗膜13が形成されたものである。
試験体重量は1.28kgであり、吸収エネルギーは8.1kJと比較例1よりも増加したが、筒状部材3に破断が発生した。固有振動数は350Hzであった。
【0062】
発明例1は、アウタ部品7を鋼板強度590MPa級の鋼板とし、塗膜13の厚みが3mmである試験体21を用いたものである。
発明例1における吸収エネルギーは、11.1kJであった。塗膜13を形成していない同一材質の比較例1における吸収エネルギー(=6.5kJ)に比べて大幅に向上し、筒状部材3に破断は発生しなかった。その上、アウタ部品7を980MPa級の高強度鋼板とした比較例3(=8.1kJ)や1180MPa級の比較例4(=8.5kJ)と比較しても、吸収エネルギーは大幅に向上した。
発明例1の試験体重量(=1.28kg)は比較例1(=1.08kg)、比較例3(=1.08kg)及び比較例4(=1.09kg)よりも増加しているが、吸収エネルギーを試験体重量で除した単位重量当りの吸収エネルギーは8.7kJ/kgであり、比較例1(=6.0kJ/kg)、比較例3(=7.5kJ/kg)及び比較例4(=7.8kJ/kg)よりも向上した。
また、発明例1における固有振動数は430Hzであり、比較例1、比較例3及び比較例4(=155Hz)よりも大幅に上昇した。
【0063】
発明例2は、発明例1と同一材質を用いて、塗膜13の厚みを2mmとしたものである。
試験体重量は1.21kgであり、発明例1(=1.28kg)よりも軽量となった。
発明例2における吸収エネルギーは9.0kJであり、同一形状でアウタ部品7の板厚が厚い比較例2における吸収エネルギー(=7.0kJ)に比べて向上した。筒状部材3に破断は発生しなかった。
さらに、発明例2における単位重量当たりの吸収エネルギーは7.4kJ/kgであり、比較例2(=5.9kJ/kg)よりも向上した。
また、発明例2における固有振動数は、340Hzであり、比較例2(=175Hz)よりも大幅に上昇した。
【0064】
発明例3は発明例2と同様に塗膜13の厚みを2mmとしたものであり、塗膜形成部材5の鋼板強度を440MPa級としたものである。
塗膜形成部材5の鋼板強度がアウタ部品7の鋼板強度を超える780MPaである比較例6では筒状部材3に破断が生じたが、発明例3では破断が生じなかった。
また、発明例3の吸収エネルギーは9.5kJであり、比較例6(=8.1kJ)と比べて向上した。
【0065】
発明例4は、アウタ部品7を鋼板強度1180MPa級の高強度鋼板としたもので、塗膜13の厚みを1mmとしたものである。
発明例4における吸収エネルギーは11.2kJであり、筒状部材3に破断は発生しなかった。アウタ部品7に同一素材の鋼板を用いて、破断が生じていた比較例4(=8.5kJ)よりも吸収エネルギーが大幅に向上した。
また、発明例4における試験体重量は発明例1よりも軽量の1.17kgであり、さらに、単位重量当たりの吸収エネルギー(=9.6kJ/kg)は、発明例1(=8.7kJ/kg)及び比較例4(=7.8kJ/kg)よりも向上した。
さらに、発明例4における固有振動数は310Hzであり、比較例4(=155Hz)よりも大幅に上昇した。
【0066】
発明例5は、発明例4と同一素材のものにおいて、塗膜13の厚みを通常のラミネート鋼板におけるラミネートと同程度である0.2mmとしたものであり、試験体重量は1.10kgであった。
発明例5における吸収エネルギーは10.7kJ、単位重量あたりの吸収エネルギーは9.7kJ/kgであり、塗膜形成部材5を備えずに0.05mmの塗膜を形成した比較例5(=9.1kJ/kg)と比べて向上した。
また、比較例5は筒状部材に破断が生じたが、発明例5は破断が生じなかった。
さらに、発明例5における固有振動数は280Hzであり、比較例5(=155Hz)よりも上昇した。
【0067】
なお、表中に記載はないが、アウタ部品7と塗膜形成部材5の隙間を4mm以上にした場合、すなわち、4mm以上の厚みの塗膜13を形成させた場合には、電着塗装の焼付処理で十分な乾燥を行うことができず、塗料の液だれが生じて乾燥した塗膜が所定隙間まで形成されなかった。よって、本発明における塗膜13の適切な厚みを0.2mm~3mmとした。
【0068】
以上より、本発明に係る自動車用衝突エネルギー吸収部品1は、軸方向に衝突荷重が入力して軸圧壊する場合において、重量の増加を抑えつつ衝突エネルギーの吸収効果を効率良く向上でき、かつ、衝撃を加えたときの固有振動数が上昇して制振性を向上できることが示された。
【0069】
なお、固有振動数が上昇することにより制振性が向上する理由は、以下のとおりである。
上述するフロントサイドメンバーのような衝突部材である筒状部材3の固有振動数が、当該部材に搭載されるエンジンの振動の周波数範囲に入ると、共振して振動が大きくなる。
例えば、エンジンが通常走行の高回転域である4000rpmで回転すると、クランクシャフトは同じ回転数で回り、4サイクルエンジンでは2回転に1回爆発して振動するため、振動の周波数は4気筒エンジンで133Hz、6気筒エンジンで200Hz、8気筒エンジンで267Hzとなる。
従って、本発明の約280Hz以上の固有振動数であれば、上記の共振を確実に防ぐことができて制振性が向上するわけである。
【符号の説明】
【0070】
1 自動車用衝突エネルギー吸収部品
2 塗装前部品
3 筒状部材
5 塗膜形成部材
7 アウタ部品
7a 天板部
7b 縦壁部
7c コーナー部
9 インナ部品
9a 天板部
9b 縦壁部
9c コーナー部
10 接合部(筒状部材)
11 隙間
12 接合部(塗膜形成部材)
13 塗膜
21 試験体(発明例)
31 試験体(比較例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14