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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034243
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】評価装置、及び評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20220224BHJP
   G10L 25/51 20130101ALI20220224BHJP
   G10L 25/18 20130101ALI20220224BHJP
【FI】
A61B5/11 310
G10L25/51
G10L25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137947
(22)【出願日】2020-08-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和1年8月21日 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等) 日本音響学会2019年秋季研究発表会論文集、p.1071~1072 発行元:一般社団法人 日本音響学会 〔刊行物等〕 開催日 令和1年9月4日~6日(発表日:令和1年9月5日) 集会名、開催場所 日本音響学会2019年秋季研究発表会 立命館大学びわこ・くさつキャンパス 〔刊行物等〕 発行日 令和2年6月10日 刊行物(刊行物名、巻数、号数、該当ページ、発行所/発行元等) Innovation in Medicine and Healthcare,Proceedings of 8th KES-InMed 2020 p.171-177 発行元:KES International 〔刊行物等〕 開催日 令和2年6月17日~19日(発表日:令和2年6月17日) 集会名、開催場所 KES-INMED-20 オンラインでの開催
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】西村 雅史
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 眞吾
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB09
(57)【要約】
【課題】簡便に、かつ、安定して嚥下機能の低下の兆候である食物残留の有無を評価すること。
【解決手段】評価装置1は、ユーザの咽喉における食物残留の有無を評価する装置であって、ユーザの頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際に接話型マイクMを用いて第1の音声信号を取得し、ユーザの頭部を横向きにさせた状態で発声させた際に接話型マイクMを用いて第2の音声信号を取得し、第1の音声信号及び第2の音声信号のそれぞれを周波数解析して、第1のスペクトル信号及び第2のスペクトル信号を取得し、第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、食物残留の有無を評価及び出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の咽喉における食物残留の有無を評価する評価装置であって、
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記被験者の頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第1の音声信号を取得し、
前記被験者の頭部を横向きにさせた状態で発声させた際に前記マイクを用いて第2の音声信号を取得し、
前記第1の音声信号及び第2の音声信号のそれぞれを周波数解析して、第1のスペクトル信号及び第2のスペクトル信号を取得し、
前記第1のスペクトル信号と前記第2のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、前記食物残留の有無を評価及び出力する、
評価装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのプロセッサは、
所定の周波数帯における前記距離を基に、前記食物残留の有無を評価する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記所定の周波数帯は、4.5kHzを含む、
請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記被験者の頭部を横向きにさせた後に正面向きに戻した状態で発声した際に前記マイクを用いて第3の音声信号を取得し、
前記第3の音声信号を周波数解析して、第3のスペクトル信号を取得し、
前記第1のスペクトル信号と前記第3のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、前記食物残留の有無を再評価及び出力する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのプロセッサは、
食物摂取前の前記被験者の頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第4の音声信号を取得し、
食物摂取前の前記被験者の頭部を横向きにさせた状態で発声させた際に前記マイクを用いて第5の音声信号を取得し、
前記第4の音声信号及び第5の音声信号のそれぞれを周波数解析して、第4のスペクトル信号及び第5のスペクトル信号を取得し、
前記第1のスペクトル信号と前記第2のスペクトル信号の距離と、前記第4のスペクトル信号と前記第5のスペクトル信号の距離から決まる閾値とを比較することにより、前記食物残留の有無を評価する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記被験者の頭部を複数回横向きに振った後の正面向きの状態で発声した際に前記マイクを用いて第6の音声信号を取得し、
前記第6の音声信号を周波数解析して、第6のスペクトル信号を取得し、
前記第1のスペクトル信号と前記第6のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、前記食物残留の有無を再評価及び出力する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の評価装置。
【請求項7】
被験者の咽喉における食物残留の有無を評価するための評価プログラムであって、
コンピュータを、
前記被験者の頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第1の音声信号を取得する取得部、
前記被験者の頭部を横向きにさせた状態で発声させた際に前記マイクを用いて第2の音声信号を取得する取得部、
前記第1の音声信号及び第2の音声信号のそれぞれを周波数解析して、第1のスペクトル信号及び第2のスペクトル信号を取得する解析部、及び
前記第1のスペクトル信号と前記第2のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、前記食物残留の有無を評価及び出力する評価部、
として機能させる評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の咽喉における食物残留の有無を評価する評価装置、及び評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、嚥下障害は誤嚥につながり、誤嚥は誤嚥性肺炎の原因となる。嚥下機能の低下の早期発見は嚥下障害の進行を防ぐために重要である。従来から、嚥下機能の低下を評価する方法は多数提案されている。例えば、嚥下造影検査(VF)あるいは嚥下内視鏡検査(VE)と呼ばれる方法は、放射線あるいはマイクロスコープを用いた評価方法である。頸部聴診法と呼ばれる方法は、嚥下音あるいは呼吸音等を聴診することで嚥下障害を評価する方法である。また、下記特許文献1に記載の装置のように、嚥下が行われたことをユーザに確認させる装置も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-007723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来のVF法あるいはVE法では侵襲性が高いため、被験者に負担をかけない簡便な評価方法が求められる。頸部聴診法は、医師が患者の嚥下前後の呼吸音あるいは声を聴き、それらに含まれる音響的特徴(詰まり音、泡立ち音、湿性嗄声など)を聞き分けて嚥下障害の有無を診断する方法であり、医師の主観に基づく評価がなされる方法であるため、熟練した医師でないと正確な評価が困難である。また、特許文献1に記載の装置によっても、嚥下機能の低下を評価することは実現されていない。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、簡便に、かつ、安定して嚥下機能の低下の兆候である食物残留の有無を評価することが可能な評価装置、及び評価プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、被験者の咽喉における食物残留の有無を評価する評価装置であって、少なくとも1つのプロセッサを備え、少なくとも1つのプロセッサは、被験者の頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第1の音声信号を取得し、被験者の頭部を横向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第2の音声信号を取得し、第1の音声信号及び第2の音声信号のそれぞれを周波数解析して、第1のスペクトル信号及び第2のスペクトル信号を取得し、第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、食物残留の有無を評価及び出力する。
【0007】
あるいは、本発明の他の側面は、被験者の咽喉における食物残留の有無を評価するための評価プログラムであって、コンピュータを、被験者の頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第1の音声信号を取得する取得部、被験者の頭部を横向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第2の音声信号を取得する取得部、第1の音声信号及び第2の音声信号のそれぞれを周波数解析して、第1のスペクトル信号及び第2のスペクトル信号を取得する解析部、及び第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、食物残留の有無を評価及び出力する評価部、として機能させる。
【0008】
上記いずれかの側面によれば、被験者から、頭部を正面向きにさせた状態での音声を録音した第1の音声信号と、頭部を横向きにさせた状態での音声を録音した第2の音声信号とが取得され、第1の音声信号から周波数分析することで取得される第1のスペクトル信号と、第2の音声信号から周波数分析することで取得される第2のスペクトル信号との距離と閾値との比較結果により、被験者の咽喉における食物残留の有無が評価・出力される。これにより、非侵襲で安定して嚥下機能の低下の1つの兆候である食物残留の有無を評価することができる。
【0009】
上記一側面においては、少なくとも1つのプロセッサは、所定の周波数帯における距離を基に、食物残留の有無を評価する、ことが好適である。また、所定の周波数帯は、4.5kHzを含む、ことも好適である。本発明者らは、食物残留が無い場合には、被験者の正面向きにおける音声信号のスペクトルにおける4.5kHz付近の周波数帯に反共振の特徴が現れることを見出した。このような特徴を利用し、所定の周波数帯に4.5kHzの周波数を含めることにより、食物残留の有無をより安定して評価することができる。
【0010】
また、少なくとも1つのプロセッサは、被験者の頭部を横向きにさせた後に正面向きに戻した状態で発声した際にマイクを用いて第3の音声信号を取得し、第3の音声信号を周波数解析して、第3のスペクトル信号を取得し、第1のスペクトル信号と第3のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、食物残留の有無を再評価及び出力する、ことが好適である。本発明者らは、被験者に頭部を横向きにさせた後に正面向きに戻した状態で取得した音声信号のスペクトルは、食物残留が存在しない場合に被験者に正面を向かせた状態に取得した音声信号のスペクトルに特徴が近いことを見出した。このような現象を利用し、第1のスペクトル信号と第3のスペクトル信号との距離を用いて再評価することにより、食物残留の有無をより安定して評価することができる。
【0011】
また、少なくとも1つのプロセッサは、食物摂取前の被験者の頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第4の音声信号を取得し、食物摂取前の被験者の頭部を横向きにさせた状態で発声させた際にマイクを用いて第5の音声信号を取得し、第4の音声信号及び第5の音声信号のそれぞれを周波数解析して、第4のスペクトル信号及び第5のスペクトル信号を取得し、第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号の距離と、第4のスペクトル信号と第5のスペクトル信号の距離から決まる閾値とを比較することにより、食物残留の有無を評価する、ことも好適である。この場合、食物残留が無い場合の2つの状態におけるスペクトル信号の距離により閾値を効率的かつ適切に設定することができ、食物残留の有無を一層安定して評価することができる。
【0012】
さらに、少なくとも1つのプロセッサは、被験者の頭部を複数回横向きに振った後の正面向き状態で発声した際にマイクを用いて第6の音声信号を取得し、第6の音声信号を周波数解析して、第6のスペクトル信号を取得し、第1のスペクトル信号と第6のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、食物残留の有無を再評価及び出力する、ことも好適である。本発明者らは、被験者に頭部を複数回横向きに振った後の正面向きの状態で取得した音声信号のスペクトルは、食物残留が存在しない場合に被験者に正面を向かせた状態に取得した音声信号のスペクトルに特徴が近いことを見出した。このような現象を利用し、第1のスペクトル信号と第6のスペクトル信号との距離を用いて再評価することにより、食物残留の有無をより安定して評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、簡便に、かつ、安定して嚥下機能の低下の兆候である食物残留の有無を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態にかかる評価装置1の概略構成を示すブロック図である。
図2図1の評価制御1のハードウェア構成を示す図である。
図3図1の評価装置1による評価処理における動作手順を示すフローチャートである。
図4図1の評価装置1による評価処理における動作手順を示すフローチャートである。
図5図1のスペクトル取得部13によって取得された第1のスペクトル信号S及び第2のスペクトル信号S,Sの波形を示す図である。
図6】実施形態の評価プログラムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、実施形態の評価装置1の概略構成を示すブロック図である。図1に示されるように、評価装置1は、ユーザ(被験者)の咽喉内の梨状窩における食物の残留の有無を評価するための装置である。なお、評価装置1の評価対象の食物摂取には水分摂取も含む。評価装置1は、ユーザの口に近づけて装着された音響マイクである接話型マイクMからアナログ信号である音声信号を、ケーブルを介して受信可能に構成され、接話型マイクMから受信した音声信号を用いて評価処理を実行する機能を有する。ただし、評価装置1は、ブルートゥース(登録商標)、無線LAN等の無線信号を用いて、接話型マイクMから音声信号を受信可能に構成されていてもよい。接話型マイクMは、ユーザの口に近づけて使用され、発声に応じた口付近の空気の振動を検出することにより音声信号を生成する検出機器である。ただし、接話型マイクMは、発声を大気を介した振動として検出できる音響マイクであれば他の種類のマイクに置換されてもよく、ピンマイク、ボーカルマイク等の集音マイクに置換されてもよい。
【0017】
ここで、評価装置1は、機能的な構成要素として、指示信号出力部11、音声取得部(取得部)12、スペクトル取得部(解析部)13、距離算出部14、評価部15、及び評価結果出力部16を含んで構成されている。
【0018】
図2は、評価装置1のハードウェア構成を示すブロック図である。図2に示すように、評価装置1は、スマートフォン、タブレット端末、コンピュータ端末等に代表される演算装置50によって実現される。演算装置50は、物理的には、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)101、記録媒体であるRAM(Random Access Memory)102又はROM(Read Only Memory)103、通信モジュール104、及び入出力デバイス等を含んだコンピュータ等であり、各々は内部で電気的に接続されている。入出力デバイス105は、キーボード、マウス、ディスプレイ装置、タッチパネルディスプレイ装置、スピーカ等である。上述した評価装置1の各機能部は、CPU101及びRAM102等のハードウェア上に実施形態の評価プログラムを読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで、通信モジュール104、及び入出力デバイス105等を動作させるとともに、RAM102におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0019】
評価装置1は少なくとも1台の演算装置50で構成されるが、2台以上の演算装置50で構成されてもよい。複数台の演算装置50を用いる場合には、これらの演算装置50がインターネット、イントラネット等の通信ネットワークを介して接続されることで、論理的に一つの評価装置1が構築される。
【0020】
以下、図1に戻って、評価装置1の各機能部の機能について詳細に説明する。
【0021】
指示信号出力部11は、ユーザを対象にした評価時にそのユーザに対して指示信号を出力する。すなわち、指示信号出力部11は、ユーザの音声信号の取得に際して、当該ユーザに対して頭部姿勢及び発声を指示する指示信号を出力する。指示信号の出力の形態としては、ディスプレイ装置等を利用した文字情報等の画面出力、あるいは、スピーカ等を利用した音声出力等が挙げられる。具体的には、指示信号出力部11は、食物摂取後に頭部を正面向きにした後に所定音(例えば、定常母音)を発声するように指示する第1の指示信号、食物摂取後に頭部を横向き(右向きあるいは左向き)にした後に所定音を発声するように指示する第2の指示信号、食物摂取後に頭部をいったん横向きにした後に正面向きにしてから所定音を発声するように指示する第3の指示信号、食物摂取前に頭部を正面向きにした後に所定音を発声するように指示する第4の指示信号、食物摂取前に頭部を横向きにした後に所定音を発声するように指示する第5の指示信号、あるいは、食物摂取後に頭部を複数回横向きに振った後に所定音を発声するように指示する第6の指示信号を、評価処理の開始後に、所定の順序及び所定のタイミングで出力する。ここで、指示信号出力部11の指示によって制御されるユーザの頭部姿勢は、ユーザの上体の正面向きを基準にした頭部の姿勢である。
【0022】
音声取得部12は、指示信号出力部11による第1~第6の指示信号のそれぞれの出力タイミングに応じて、接話型マイクMからユーザの音声信号を、第1~第6の音声信号として取得(受信)する。すなわち、音声取得部12は、第1の指示信号の出力によって食物摂取後のユーザの頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際の第1の音声信号を取得する。また、音声取得部12は、第2の指示信号の出力によって食物摂取後のユーザの頭部を横向きにさせた状態で発声させた際の第2の音声信号を取得する。また、音声取得部12は、第3の指示信号の出力によって食物摂取後のユーザに頭部をいったん横向きにさせた後に正面向きに戻した状態で発声させた際の第3の音声信号を取得する。また、音声取得部12は、第4の指示信号の出力によって食物摂取前のユーザの頭部を正面向きにさせた状態で発声させた際の第4の音声信号を取得する。また、音声取得部12は、第5の指示信号の出力によって食物摂取前のユーザの頭部を横向きにさせた状態で発声させた際の第5の音声信号を取得する。また、音声取得部12は、第6の指示信号の出力によって食物摂取後にユーザの頭部を複数回横向きに振った後の状態で発声させた際の第6の音声信号を取得する。
【0023】
スペクトル取得部13は、音声取得部12によって取得された第1~第6の音声信号のそれぞれを対象にして周波数解析を実行することにより、第1~第6の音声信号を時間領域から周波数領域に変換したパワースペクトルである第1~第6のスペクトル信号を取得する。例えば、スペクトル取得部13は、第1~第6の音声信号をフーリエ変換することによって第1~第6のスペクトル信号を取得する。
【0024】
距離算出部14は、食物残留の評価の基となる距離を計算する。詳細には、距離算出部14は、第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号との間の所定の周波数帯における距離の平均値(あるいは、最大値、最小値)を距離として計算する。この所定の周波数帯は、例えば、4.0kHz~5.0kHzであり、少なくとも4.5kHzを含む周波数帯である。距離算出部14は、例えば、所定の周波数帯を一定間隔で区切った複数の周波数における距離の平均値(あるいは、最大値、最小値)を計算する。このとき、距離算出部14は、距離を計算する際には、周波数(例えば、4.5kHz付近の周波数)に重み付けをして計算してもよい。同様にして、距離算出部14は、第1のスペクトル信号と第3のスペクトル信号との間の距離、第4のスペクトル信号と第5のスペクトル信号との間の距離、あるいは、第1のスペクトル信号と第6のスペクトル信号との間の距離を計算する。
【0025】
なお、距離算出部14は、上述したようにスペクトル間の距離(例えばスペクトル間の対数ユークリッド距離)を直接計算する方法以外に,一般的にパターン識別に用いられる方法(例えば、SVM(support vector machine))を利用してもよい。
【0026】
評価部15は、距離算出部14によって計算される距離を基に、ユーザの梨状窩における食物の残留の有無を評価する。ここで、評価部15による評価の原理を説明する。本発明者らにより、ユーザの梨状窩と呼ばれる食道入り口脇の部位に食物残留が起きた状態が声道モデルを用いて模擬して分析された結果、その状態のユーザのスペクトル信号において、4.5kHz付近の反共振にその状態に対応した音響特徴が現れることが見出された。具体的には、食物残留が起きた状態では4.5kHz付近の極小値が消失する傾向があることが分かった。一方で、本発明者により、ユーザが頭部を左右に捻った状態でも、梨状窩が押しつぶされた状態となり、声道モデルを用いて梨状窩での食物残留を模擬した場合と同様な音響特徴が現れることも見出された。評価部15では、これらの音響特徴を利用した評価が実行される。
【0027】
詳細には、評価部15は、第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号との間の距離と所定の閾値とを比較し、その距離が所定の閾値以下である場合には、梨状窩での食物残留があるものと評価する。このとき、所定の閾値は、予め、食物摂取前において取得された第4のスペクトル信号と第5のスペクトル信号との距離を基に決定される。例えば、この距離の一定割合の値が閾値に設定される。また、所定の閾値は評価装置1のオペレータ等により予め設定された値であってもよい。一方で、評価部15は、第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号との間の距離が所定の閾値を超えている場合には、梨状窩での食物残留がないものと評価する。
【0028】
また、評価部15は、第1のスペクトル信号と第3のスペクトル信号との距離を別の閾値と比較し、その距離が閾値以下である場合には、梨状窩での食物残留がないものと再評価し、その距離が閾値を超えている場合には梨状窩での食物残留があるものと再評価する。この評価は、食物残留が存在する状態のユーザがいったん頭部を横向きにしてから正面向きに戻した状態においては食物残留が除去される傾向が強いことを利用している。そして、評価部15は、第1及び第2のスペクトル信号を利用した評価結果と、第1及び第3のスペクトル信号を利用した再評価結果とを加味した最終評価結果を生成する。例えば、評価部15は、評価結果と再評価結果とが一致した場合に、それらの一致した結果を最終評価結果として生成する。また、評価部15は、評価結果と再評価結果との一致有無に応じた確度情報を最終評価結果に含めてもよい。
【0029】
評価結果出力部16は、評価部15によって生成された最終評価結果を、出力する。例えば、評価結果出力部16は、梨状窩での食物残留の有無の評価結果及びその確度情報を、ディスプレイ装置等を利用した文字情報等の画面出力、あるいは、スピーカ等を利用した音声出力等によって出力する。
【0030】
次に、上述した評価装置1の評価処理における動作の流れを説明する。図3及び図4は、評価装置1による評価処理における動作手順を示すフローチャートである。
【0031】
ユーザの梨状窩における食物残留に関する評価処理は、ユーザ等による評価装置1に対する指示入力に応じてその都度開始される。まず、図3を参照して、指示信号出力部11により、ユーザの食物摂取前のタイミングにおいて、第4の指示信号と第5の指示信号とが所定の時間を空けて順番に出力される(ステップS101)。これによって、ユーザによって、頭部を正面向きにした状態での所定音の発声が為された後に、頭部を横向きにした状態での所定音の発声が為される。それに応じて、音声取得部12により、第4の音声信号及び第5の音声信号が順に取得される(ステップS102)。
【0032】
次に、指示信号出力部11により、ユーザの食物摂取後のタイミングにおいて、第1の指示信号、第2の指示信号、及び第3の指示信号が、所定の時間を空けて順番に出力される(ステップS103)。これによって、ユーザによって、頭部を正面向きにした状態での所定音の発声が為された後に、頭部を横向きにした状態での所定音の発声が為され、その後に、頭部を横向きにした後に正面向きに戻した状態での所定音の発声が為される。それに応じて、音声取得部により、第1の音声信号、第2の音声信号、及び第3の音声信号が順に取得される(ステップS104)。
【0033】
さらに、スペクトル取得部13により、ここまでで取得された第1~第5の音声信号が周波数解析された結果、第1~第5のスペクトル信号が取得される(ステップS105)。その後、距離算出部14により、第4のスペクトル信号と第5のスペクトル信号との所定の周波数帯における距離が計算され、その距離の一定割合の値が第1の閾値THに設定される(ステップS106)。
【0034】
次に、距離算出部14により、第1のスペクトル信号と第2のスペクトル信号との所定の周波数帯における距離が計算される(ステップS107)。そして、評価部15により、その距離が第1の閾値THを超えているかが判定される(ステップS108)。判定の結果、距離が第1の閾値THを超えている場合には(ステップS108;Yes)、評価部15により、“ユーザの梨状窩における食物残留なし”と評価される(ステップS109)。一方、距離が第1の閾値TH以下である場合には(ステップS108;No)、評価部15により、“ユーザの梨状窩における食物残留あり”と評価される(ステップS110)。
【0035】
図4に移って、その後、距離算出部14により、第1のスペクトル信号と第3のスペクトル信号との所定の周波数帯における距離が計算される(ステップS111)。そして、評価部15により、その距離が予め設定されている第2の閾値THを超えているかが判定される(ステップS112)。判定の結果、距離が第2の閾値THを超えている場合には(ステップS112;Yes)、評価部15により、“ユーザの梨状窩における食物残留あり”と再評価される(ステップS113)。一方、距離が第2の閾値TH以下である場合には(ステップS112;No)、評価部15により、“ユーザの梨状窩における食物残留なし”と再評価される(ステップS114)。
【0036】
そして、評価部15により、評価の結果及び再評価の結果を基に最終評価結果が生成され、評価結果出力部16により最終評価結果が出力される(ステップS115)。最終評価結果としては、上記の評価の結果が、確度情報と共に出力される。確度情報としては、例えば、評価の結果と再評価の結果との一致/不一致に応じて、“高”、“低”等の評価の確度を示す情報が出力される。
【0037】
図5には、ユーザによって母音/e/を発声させた際にスペクトル取得部13によって取得された第1のスペクトル信号S及び第2のスペクトル信号S,Sの波形を示している。第2のスペクトル信号Sは、ユーザが右向きの状態のときに取得される波形を示し、第2のスペクトル信号Sは、ユーザが左向きの状態のときに取得される波形を示している。この例においては、第1のスペクトル信号Sにおいては、4.2kHz付近において顕著な極小点が現れている。これに対して、ユーザが横向きの状態で取得される第2のスペクトル信号S,Sにおいては、4.2kHz付近における極小点が消失している。このような第1のスペクトル信号Sの波形と第2のスペクトル信号S,Sとの間の波形の差異を評価することにより、評価部15は、ユーザの梨状窩における食物残留がないと評価することができる。
【0038】
次に、図6を参照して、コンピュータを上記評価装置1として機能させるための評価プログラムを説明する。
【0039】
評価プログラムP1は、メインモジュールP10、指示信号出力モジュールP11、音声取得モジュールP12、スペクトル取得モジュールP13、距離算出モジュールP14、評価モジュールP15、及び評価結果出力モジュールP16を備えている。
【0040】
メインモジュールP10は、評価装置1の動作を統括的に制御する部分である。指示信号出力モジュールP11、音声取得モジュールP12、スペクトル取得モジュールP13、距離算出モジュールP14、評価モジュールP15、及び評価結果出力モジュールP16を実行することにより実現される機能は、それぞれ、指示信号出力部11、音声取得部12、スペクトル取得部13、距離算出部14、評価部15、及び評価結果出力部16の機能と同様である。
【0041】
評価プログラムP1は、例えば、CD-ROM、DVDもしくはROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体または半導体メモリによって提供される。また、評価プログラムP1は、搬送波に重畳されたコンピュータデータ信号としてネットワークを介して提供されてもよい。
【0042】
上述した評価装置1によれば、ユーザから、頭部を正面向きにさせた状態での音声を録音した第1の音声信号と、頭部を横向きにさせた状態での音声を録音した第2の音声信号とが取得され、第1の音声信号から周波数分析することで取得される第1のスペクトル信号と、第2の音声信号から周波数分析することで取得される第2のスペクトル信号との距離と閾値との比較結果により、ユーザの梨状窩における食物残留の有無が評価・出力される。これにより、非侵襲で安定して嚥下機能の低下の1つの兆候である食物残留の有無を評価することができる。特に、評価装置1を用いれば、同一のユーザを対象に短期間に発声させて得られる音声信号を用いて食物残留の有無を評価でき、障害者から予め大量の学習データを収集する必要はない。これにより、機器、環境、あるいはユーザの体調の変化の影響を受けることなく、簡易かつ安定した評価を実現できる。その結果、評価装置1により、嚥下機能低下の早期発見に資することができる。つまり、ユーザにおいてむせなどの顕著な症状が現れる前の段階でのスクリーニングを実現することができる。
【0043】
本実施形態の評価装置1は、所定の周波数帯、特に、4.5kHzを含む周波数帯における距離を基に、食物残留の有無を評価している。このように、梨状窩における食物残留による音響特徴が表れやすい4.5kHz付近の周波数を含めることにより、食物残留の有無をより安定して評価することができる。
【0044】
また、本実施形態の評価装置1は、第1のスペクトル信号と第3のスペクトル信号の距離と閾値とを比較することにより、食物残留の有無を再評価している。本発明者らは、ユーザに頭部を横向きにさせた後に正面向きに戻した状態で取得した音声信号のスペクトルは、食物残留が存在しない場合にユーザに正面を向かせた状態に取得した音声信号のスペクトルに音響特徴が近いことを見出した。このような現象を利用し、第1のスペクトル信号と第3のスペクトル信号との距離を用いて再評価することにより、食物残留の有無をより安定して評価することができる。
【0045】
また、本実施形態の評価装置1は、第4のスペクトル信号と第5のスペクトル信号の距離から第1の閾値THを設定している。この場合、食物残留が無い場合の2つの状態におけるスペクトル信号の距離により閾値を効率的かつ適切に設定することができ、食物残留の有無を一層安定して評価することができる。
【0046】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0047】
例えば、評価装置1の評価部15は、再評価を実行する際に、第1のスペクトル信号と第6のスペクトル信号との所定の周波数帯における距離を用いて、距離を規定の閾値と比較することにより、食物残留の有無を再評価してもよい。本発明者らは、ユーザに頭部を複数回横向きに振った後の正面向きの状態で取得した音声信号のスペクトルは、食物残留が存在しない場合にユーザに正面を向かせた状態に取得した音声信号のスペクトルに特徴が近いことを見出した。このような現象を利用し、第1のスペクトル信号と第6のスペクトル信号との距離を用いて再評価することにより、食物残留の有無をより安定して評価することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…評価装置、12…音声取得部(取得部)、13…スペクトル取得部(解析部)、14…距離算出部、15…評価部、M…接話型マイク、P1…評価プログラム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6