IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 第一稀元素化学工業株式会社の特許一覧

特開2022-34289黒色系ジルコニア焼結体、黒色系ジルコニア粉末、及び、黒色系ジルコニア粉末の製造方法
<>
  • 特開-黒色系ジルコニア焼結体、黒色系ジルコニア粉末、及び、黒色系ジルコニア粉末の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034289
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】黒色系ジルコニア焼結体、黒色系ジルコニア粉末、及び、黒色系ジルコニア粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20220224BHJP
【FI】
C04B35/488 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138015
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 昌生
(72)【発明者】
【氏名】國貞 泰一
(57)【要約】
【課題】 着色元素の添加量を少なくしても良好な色味を有し、且つ、高強度を有する黒色系ジルコニア焼結体を提供すること。
【解決手段】 ジルコニアと、イットリアと、アルミナと、着色元素とを含み、着色元素がFe、Ti、Co、及び、Crを含み、イットリアの含有量が、ジルコニアに対して1.5mol%以上3mol%以下であり、アルミナの含有量が、ジルコニア、及び、イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、着色元素の含有量が、ジルコニア、及び、イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.75質量%以上2.4質量%以下である黒色系ジルコニア焼結体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアと、イットリアと、アルミナと、着色元素とを含み、
前記着色元素がFe、Ti、Co、及び、Crを含み、
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.5mol%以上3mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色元素の含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.75質量%以上2.4質量%以下であることを特徴とする黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項2】
表色系で規定されるLが7以上9.5以下であり、aが-10以上-5以下であり、bが-2.5以上1以下であることを特徴とする請求項1に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項3】
表色系で規定されるLが7.5以上9以下であり、aが-9.5以上-5.5以下であり、bが-2以上0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項4】
前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリア合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記Tiの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.05質量%以上0.4質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.2質量%以上0.8質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.2質量%以上0.8質量%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項5】
前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.15質量%以上0.37質量%以下であり、
前記Tiの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.08質量%以上0.37質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.25質量%以上0.7質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.25質量%以上0.7質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項6】
前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.18質量%以上0.35質量%以下であり、
前記Tiの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.10質量%以上0.35質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.3質量%以上0.65質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.3質量%以上0.65質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項7】
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.7mol%以上2.5mol%以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項8】
3点曲げ強度が1200MPa以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項9】
前記3点曲げ強度が1300MPa以上であることを特徴とする請求項8に記載の黒色系ジルコニア焼結体。
【請求項10】
イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
アルミナと、
着色剤とを含み、
前記着色剤が、Feを含む化合物、Tiを含む化合物、Coを含む化合物、及び、Crを含む化合物を含み、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色剤の含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下であることを特徴とする黒色系ジルコニア粉末。
【請求項11】
前記着色剤は、Fe、TiO、Co、及び、Crを含み、
前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記TiOの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.4質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.8質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.8質量%以下であることを特徴とする請求項10に記載の黒色系ジルコニア粉末。
【請求項12】
前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.15質量%以上0.37質量%以下であり、
前記TiOの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.08質量%以上0.37質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.25質量%以上0.7質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.25質量%以上0.7質量%以下であることを特徴とする請求項11に記載の黒色系ジルコニア粉末。
【請求項13】
前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.18質量%以上0.35質量%以下であり、
前記TiOの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.10質量%以上0.35質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.3質量%以上0.65質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.3質量%以上0.65質量%以下であることを特徴とする請求項12に記載の黒色系ジルコニア粉末。
【請求項14】
前記ジルコニアは、イットリアを1.7mol%以上2.5mol%以下の範囲内で含むことを特徴とする請求項10~13のいずれか1に記載の黒色系ジルコニア粉末。
【請求項15】
成型圧1t/cmで成型した後、大気圧下、1400℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上となることを特徴とする請求項10~14のいずれか1に記載の黒色系ジルコニア粉末。
【請求項16】
イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、アルミナと、着色剤とを混合する混合工程を含み、
前記着色剤が、Feを含む酸化物、Tiを含む酸化物、Coを含む酸化物、及び、Crを含む酸化物を含み、
前記アルミナの混合量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色剤の混合量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下であることを特徴とする黒色系ジルコニア粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色系ジルコニア焼結体、黒色系ジルコニア粉末、及び、黒色系ジルコニア粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体、特に正方晶相ジルコニア焼結体は、その高い強度と鏡面研磨後の表面光沢の美しさから、刃物等の家庭用品やゴルフシューズスパイク等のスポーツ用品への応用が進んでおり、さらに時計ケースやアクセサリー等の装飾部材への応用にも広がりをみせている。こうした用途拡大に対応するためには、各種のカラーを持ったジルコニアが強く要望されている。特に時計などの装飾性の高い製品の場合、黒や黒に近い色のカラーが高級感を呈し好まれる。
【0003】
特許文献1には、着色元素がFe、Co及びCrを酸化物換算で3重量%以上6重量%未満含んでなり、なおかつ安定化剤が4mol%未満、アルミナ含有量が6重量%未満であり、JISZ8729に規定された色彩パラメーターの明度Lが10未満、焼結密度が99%以上、単斜晶率が20%以下である黒色ジルコニア焼結体が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5158298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、着色元素の含有量が多いほど焼結しにくくなり、焼結体の特性、特に機械的強度が低下するという問題がある。一方で、着色元素の含有量が少ないと、意図した色味が得られないという問題がある。特許文献1では、所望の色味を得るために着色元素を酸化物換算で3重量%以上含んでおり、機械的強度が充分であるとはいえない。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、着色元素の添加量を少なくしても良好な色味を有し、且つ、高強度を有する黒色系ジルコニア焼結体を提供することにある。また、当該黒色系ジルコニア焼結体を容易に製造することを可能とする黒色系ジルコニア粉末を提供することにある。また、当該黒色系ジルコニア粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、黒色系ジルコニア焼結体について鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、下記構成を採用することにより、着色元素の添加量を少なくしても良好な色味を有し、且つ、高強度を有する黒色系ジルコニア焼結体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る黒色系ジルコニア焼結体は、
ジルコニアと、イットリアと、アルミナと、着色元素とを含み、
前記着色元素がFe、Ti、Co、及び、Crを含み、
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.5mol%以上3mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色元素の含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.75質量%以上2.4質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
前記構成によれば、着色元素としてFe、Ti、Co、及び、Crの4元素を含むため、着色元素の含有量を少なくしても良好な色味を有する。具体的には、着色元素の含有量を、酸化物換算で0.75質量%以上2.4質量%以下としても、良好な色味を有する。このことは、実施例の結果からも明らかである。
また、アルミナとイットリアとを特定量含むため、常圧焼結することができ、焼結温度を比較的低くすることができる。つまり、常圧、且つ、比較的低温の焼結条件であっても、機械的強度の高い黒色系ジルコニア焼結体が得られる。
このように、本発明によれば、着色元素の添加量を少なくしても良好な色味を有し、且つ、高強度を有する黒色系ジルコニア焼結体が得られる。
【0010】
前記構成においては、L表色系で規定されるLが7以上9.5以下であり、aが-10以上-5以下であり、bが-2.5以上1以下であることが好ましい。
【0011】
前記L表色系で規定されるL、a、bが前記数値範囲内であると、赤色が制御され、審美性の高い黒色を発することができる。
【0012】
前記構成においては、L表色系で規定されるLが7.5以上9以下であり、aが-9.5以上-5.5以下であり、bが-2以上0.5以下であることが好ましい。
【0013】
前記L表色系で規定されるL、a、bが前記数値範囲内であると、審美性のより高い黒色を発することができる。
【0014】
前記構成においては、前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記Tiの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.05質量%以上0.4質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.2質量%以上0.8質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.2質量%以上0.8質量%以下であることが好ましい。
【0015】
前記構成においては、前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.15質量%以上0.37質量%以下であり、
前記Tiの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.08質量%以上0.37質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.25質量%以上0.7質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.25質量%以上0.7質量%以下であることが好ましい。
【0016】
前記構成においては、前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.18質量%以上0.35質量%以下であり、
前記Tiの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.10質量%以上0.35質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.3質量%以上0.65質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.3質量%以上0.65質量%以下であることが好ましい。
【0017】
前記Fe、前記Ti、前記Co、及び、前記Crの含有量が、前記数値範囲内であると、審美性のより高い黒色を発することができる。
【0018】
前記構成においては、前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.7mol%以上2.5mol%以下であることが好ましい。
【0019】
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.7mol%以上2.5mol%以下であると、常圧焼結をより容易とすることができ、焼結温度を比較的低くすることができる。
【0020】
前記構成においては、3点曲げ強度が1200MPa以上であることが好ましい。
【0021】
前記構成においては、3点曲げ強度が1300MPa以上であることが好ましい。
【0022】
前記3点曲げ強度が前記数値範囲内であると、当該黒色系ジルコニア焼結体は、高強度なものといえる。
【0023】
また、本発明に係る黒色系ジルコニア粉末は、
イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
アルミナと、
着色剤とを含み、
前記着色剤が、Feを含む化合物、Tiを含む化合物、Coを含む化合物、及び、Crを含む化合物を含み、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色剤の含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下であることを特徴とする。
【0024】
前記構成によれば、着色剤としてFe、Ti、Co、及び、Crの4元素を含むため、着色剤の含有量を少なくしても良好な色味を有する。具体的には、着色剤の含有量を、0.75質量%以上2.4質量%以下としても、良好な色味を有する。このことは、実施例の結果からも明らかである。
また、アルミナとイットリアとを前記数値範囲内で含むため、常圧焼結することができ、焼結温度を比較的低くすることができる。つまり、常圧、且つ、比較的低温の焼結条件であっても、機械的強度の高い黒色系ジルコニア焼結体が得られる。
このように、本発明によれば、着色元素の添加量を少なくしても良好な色味を有し、且つ、高強度を有する黒色系ジルコニア焼結体が得られる黒色系ジルコニア粉末を提供することができる。
【0025】
前記構成において、前記着色剤は、Fe、TiO、Co、及び、Crを含み、
前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記TiOの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上0.4質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.8質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上0.8質量%以下であることが好ましい。
【0026】
前記構成において、前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.15質量%以上0.37質量%以下であり、
前記TiOの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.08質量%以上0.37質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.25質量%以上0.7質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.25質量%以上0.7質量%以下であることが好ましい。
【0027】
前記構成において、前記Feの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.18質量%以上0.35質量%以下であり、
前記TiOの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.10質量%以上0.35質量%以下であり、
前記Coの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.3質量%以上0.65質量%以下であり、
前記Crの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.3質量%以上0.65質量%以下であることが好ましい。
【0028】
前記Fe、前記TiO、前記Co、及び、前記Crの含有量が、前記数値範囲内であると、審美性のより高い黒色を発することができる。
【0029】
前記構成において、前記ジルコニアは、イットリアを1.7mol%以上2.5mol%以下の範囲内で含むことが好ましい。
【0030】
前記イットリアの含有量が、1.7mol%以上2.5mol%以下であると、常圧焼結をより容易とすることができ、焼結温度を比較的低くすることができる。
【0031】
前記構成においては、成型圧1t/cmで成型した後、大気圧下、1400℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上となることが好ましい。
【0032】
成型圧1t/cmで成型した後、大気圧下、1400℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上であると、当該ジルコニア粉末を用いて製造される焼結体は、低圧で成型されたとしても高強度なものとなる。
【0033】
また、本発明に係る黒色系ジルコニア粉末の製造方法は、
イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、アルミナと、着色剤とを混合する混合工程を含み、
前記着色剤が、Feを含む酸化物、Tiを含む酸化物、Coを含む酸化物、及び、Crを含む酸化物を含み、
前記アルミナの混合量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色剤の混合量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下であることを特徴とする。
【0034】
前記構成によれば、着色剤としてFe、Ti、Co、及び、Crの4元素を混合するため、着色剤の含有量を0.75質量%以上2.4質量%以下と少なくしても、良好な色味を有するジルコニア焼結体を得ることが可能な黒色系ジルコニア粉末が得られる。このことは、実施例の結果からも明らかである。
また、アルミナとイットリアとを前記数値範囲内で混合するため、得られる黒色系ジルコニア粉末は、常圧焼結することができ、焼結温度を比較的低くすることができる。つまり、当該黒色系ジルコニア粉末の製造方法により得られる黒色系ジルコニア粉末は、常圧、且つ、比較的低温の焼結条件であっても、機械的強度の高い黒色系ジルコニア焼結体が得られる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、着色元素の添加量を少なくしても良好な色味を有し、且つ、高強度を有する黒色系ジルコニア焼結体を提供することができる。また、当該黒色系ジルコニア焼結体を容易に製造することを可能とする黒色系ジルコニア粉末を提供することができる。また、当該黒色系ジルコニア粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】靭性値を求める際の、クラック長さの平均値を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニアとは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。また、本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0038】
[黒色系ジルコニア粉末]
本実施形態に係る黒色系ジルコニア粉末(以下、ジルコニア粉末ともいう)は、
イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、
アルミナと、
着色剤とを含み、
前記着色剤が、Feを含む酸化物、Tiを含む酸化物、Coを含む酸化物、及び、Crを含む酸化物を含み、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色剤の含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下である。
【0039】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニアを含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニア粉末を100質量%としたとき、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、特に好ましくは94.3質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは97.2質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは96.9質量%以下である。
【0040】
前記ジルコニア粉末は、前記ジルコニアの全mol量に対して1.5mol%以上3mol%以下のイットリアを含む。イットリアは、安定化剤として機能する。イットリアはジルコニアと固溶体を形成して存在してもよく、混合物として存在してもよい。焼結時の元素分散性の観点から、イットリアはジルコニアと固溶体を形成して存在することが好ましい。つまり、イットリアは、イットリア安定化ジルコニアの形態で存在することが好ましい。イットリアの含有割合が1.5mol%以上3mol%以下であるため、高強度な焼結体を得ることができる。
【0041】
前記イットリアの含有量は、1.7mol%以上が好ましく、1.8mol%以上がより好ましく、1.9mol%以上がさらに好ましく、2mol%以上が特に好ましい。前記イットリアの含有量は2.7mol%以下が好ましく、2.5mol%以下がより好ましく、2.3mol%以下がさらに好ましく、2.2mol%が特に好ましく、2.1mol%が特別に好ましい。
【0042】
前記ジルコニア粉末は、イットリアの一部の代替として他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、カルシア、マグネシアなどのアルカリ土類金属酸化物や、セリアなどの希土類酸化物が例示される。
【0043】
前記ジルコニア粉末は、酸化アルミニウム(アルミナ)を含む。前記アルミナの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下である。アルミナを前記数値範囲内で含有するため、粒成長を抑制し、ジルコニア粉末の焼結性を向上させることができる。
【0044】
前記アルミナの含有量は、0.15質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.23質量%以上がさらに好ましく、0.25質量%以上が特に好ましい。前記アルミナの含有量は、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
アルミナの形態は、特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時のハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、アルミナ粉末が好ましい。
【0046】
アルミナ粉末を添加する場合、その一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、0.02~0.4μmとすることができ、より好ましくは0.05~0.3μm、さらに好ましくは0.07~0.2μmである。
【0047】
前記ジルコニア粉末は、イットリアとアルミナとを前記数値範囲内で含むため、常圧焼結することができ、焼結温度を比較的低くすることができる。つまり、常圧、且つ、比較的低温の焼結条件であっても、機械的強度の高い黒色系ジルコニア焼結体が得られる。
【0048】
前記ジルコニア粉末は、着色剤を含む。前記着色剤は、Feを含む化合物、Tiを含む化合物、Coを含む化合物、及び、Crを含む化合物を含む。特に、Tiを含む化合物は赤色の制御に寄与し、強度を保ちつつ審美性を向上させることができる。なお、前記着色剤には、稀少金属であるMnを含む化合物を用いない。Mnは、希少金属であり、且つ、人体親和性に乏しいためである。着色剤として添加するFeを含む化合物、Tiを含む化合物、Coを含む化合物、Crを含む化合物にはジルコニアの焼結助剤としての働きがある(例えば、特開昭60-239356号公報参照)。従って、少量の添加でもジルコニアの焼結温度を下げる効果がある。しかしながら、着色という目的に対して、いずれか単独での添加では発色に制限がある。そこで、これらを複合的に添加することにより、審美性を向上させることができる。
【0049】
Feを含む化合物、Tiを含む化合物、Coを含む化合物、Crを含む化合物としては、Fe、Ti、Co、Crを含む酸化物や塩化物などが挙げられる。前記Feを含む酸化物としてはFe、前記Tiを含む酸化物としてはTiO、前記Coを含む酸化物としてはCo、前記Crを含む酸化物としてはCrが挙げられる。
前記ジルコニア粉末は、着色剤としてのFe、TiO、Co、Crを混合物として含んでもよい。また、前記ジルコニア粉末は、着色剤としてFe、Ti、Co、Crを含む複合酸化物として含んでもよい。つまり、前記ジルコニア粉末は、全体としてFeを含む化合物、Tiを含む化合物、Coを含む化合物、Crを含む化合物を含んでいればよく、着色剤の形態は特に限定されない。
【0050】
前記着色剤の含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下である。前記着色剤の含有量は、0.8質量%以上が好ましく、0.9質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、1.1質量%以上が特に好ましく、1.2質量%以上が特別に好ましい。前記着色剤の含有量は、2.2質量%以下が好ましく、2.1質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下がさらに好ましく、1.9質量%以下が特に好ましく、1.8質量%以下が特別に好ましく、1.7質量%以下が格別に好ましい。着色剤としてFe、Ti、Co、及び、Crの4元素を含むため、着色剤の含有量を少なくしても良好な色味を有する。具体的には、着色剤の含有量を、0.75質量%以上2.4質量%以下としても、良好な色味を有する。このことは、実施例の結果からも明らかである。
【0051】
前記着色剤として、Fe、TiO、Co、及び、Crを含む場合、前記Feの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.18質量%以上がさらに好ましく0.2質量%以上が特に好ましく、0.26質量%以上が特別に好ましい。また、前記Feの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.4質量%以下が好ましく、0.37質量%以下がより好ましく、0.35質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以下が特に好ましく、0.27質量%以下が特別に好ましい。
【0052】
前記着色剤として、Fe、TiO、Co、及び、Crを含む場合、前記TiOの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.05質量%以上が好ましく、0.08質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上がさらに好ましく、0.15質量%以上が特に好ましく、0.18質量%以上が特別に好ましい。前記TiOの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.4質量%以下が好ましく、0.37質量%以下がより好ましく、0.35質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以下が特に好ましく、0.2質量%以下が特別に好ましい。
【0053】
前記着色剤として、Fe、TiO、Co、及び、Crを含む場合、前記Coの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上が好ましく、0.25質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.33質量%以上が特に好ましく、0.45質量%以上が特別に好ましい。前記Coの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.8質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.65質量%以下がさらに好ましく、0.6質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が特別に好ましい。
【0054】
前記着色剤として、Fe、TiO、Co、及び、Crを含む場合、前記Crの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.2質量%以上が好ましく、0.25質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.33質量%以上が特に好ましく、0.45質量%以上が特別に好ましい。前記Crの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.8質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.65質量%以下がさらに好ましく、0.6質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が特別に好ましい。
【0055】
前記Fe、前記TiO、前記Co、及び、前記Crの含有量が、前記数値範囲内であると、審美性のより高い黒色を発することができる。
【0056】
前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、特に限定されない。例えば、前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、0.3μm以上0.8μm以下とすることができる。ジルコニア粉末の平均粒子径が上記範囲であれば、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。前記ジルコニア粉末の平均粒子径は、好ましくは0.35μm以上0.75μm以下、さらに好ましくは0.4μm以上0.7μm以下とすることができる。
ジルコニア粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2000」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。より詳細には、実施例に記載の方法による。
【0057】
前記ジルコニア粉末の比表面積は、好ましくは、5m/g以上20m/g以下である。前記ジルコニア粉末の比表面積が5m/g以上20m/g以下であると、高い成型密度をもつ成型体が得られやすく、焼結性及び焼結密度の低下が抑制されやすい。前記ジルコニア粉末の比表面積は、より好ましくは6m/g以上、さらに好ましくは7m/g以上、特に好ましくは8m/g以上、特別に好ましくは9m/g以上である。前記ジルコニア粉末の比表面積は、より好ましくは18m/g以下、さらに好ましくは16m/g以下、特に好ましくは15m/g以下、特別に好ましくは14m/g以下、格別に好ましくは13m/g以下である。
本明細書において、ジルコニア粉末の比表面積は、BET比表面積のことを指し、比表面積計「フローソーブ-II」(マイクロメリティクス社製)を用いて測定した値である。
【0058】
前記ジルコニア粉末は、成型圧1t/cmで成型した後、大気圧下、1400℃2時間の条件で焼結した焼結体の3点曲げ強度が1200MPa以上であることが好ましく、1300MPa以上であることがより好ましく、1350MPa以上であることがさらに好ましく、1400MPa以上であることが特に好ましい。また、前記3点曲げ強度は、大きいほど好ましいが、例えば、1700MPa以下、1650MPa以下、1600MPa以下、1500MPa以下等とすることができる。前記3点曲げ強度が1200MPa以上であると、当該ジルコニア粉末を用いて製造される焼結体は、高強度なものとなる。
前記3点曲げ強度の測定方法の詳細は、実施例に記載の方法による。
なお、「成型圧1t/cmで成型した後、大気圧下、1400℃2時間の条件で焼結」との条件は、低圧成型後に焼結されるという製造条件を想定して、ジルコニア粉末の物性を評価するための成型、焼結条件であり、当該ジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を製造する場合に、この条件で成型、焼結することを意味するものではない。
【0059】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0060】
[黒色系ジルコニア粉末の製造方法]
以下、黒色系ジルコニア粉末の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明の黒色系ジルコニア粉末の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0061】
本実施形態に係る黒色系ジルコニア粉末の製造方法は、
イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、アルミナと、着色剤とを混合する混合工程を含み、
前記着色剤が、Feを含む酸化物、Tiを含む酸化物、Coを含む酸化物、及び、Crを含む酸化物を含み、
前記アルミナの混合量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色剤の混合量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下である。
【0062】
まず、ジルコニアの準備方法について説明する。
【0063】
ジルコニアを製造するために、まず、ジルコニウム原料を溶媒に溶解させる。
【0064】
ジルコニアを製造するためのジルコニウム原料としては、ジルコニウムイオンを供給できるものであれば特に限定されず、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム等のジルコニウム無機酸塩;ジルコニウムテトラブトキシド等のジルコニウム有機酸塩などが挙げられる。ジルコニウム原料は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
ジルコニアを製造する際の溶媒としては、ジルコニウム原料を溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、水等の水系溶媒;メタノール、エタノール等の有機溶媒;などが挙げられる。溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0066】
ジルコニウム原料と溶媒との組み合わせに関して、以下に具体例を挙げる。溶媒として水等の水系溶媒を用いる場合は、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム等のジルコニウム無機酸塩を用いることができる。また、メタノール、エタノール等の有機溶媒を用いる場合は、ジルコニウムテトラブトキシド等のジルコニウム有機酸塩を用いることができる。工業的規模での生産性等の見地より、水系溶媒(特に水)とオキシ塩化ジルコニウムとを用いることが好ましい。
【0067】
前記溶媒に前記ジルコニウム原料を溶解させたジルコニウム塩溶液の濃度は、特に限定されず、用いる塩類の種類(溶解度)等に応じて適宜設定すれば良い。一般的には、溶媒1000g中に酸化ジルコニウム(ZrO)換算で5~200g程度となるようにジルコニウム原料が含まれることが好ましく、酸化ジルコニウム換算で10~100gとなるようにジルコニウム原料が含まれることがより好ましい。
【0068】
次に、ジルコニウム系の沈殿物を生成させて塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを得る。ジルコニウム系の沈殿物を生成させて塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを得る方法としては、例えばジルコニウム塩溶液に対して硫酸塩化剤を混合した後に65℃以上100℃未満(好ましくは70~98℃)に昇温することが挙げられるが、65℃以上100℃未満(好ましくは70~98℃)の前記ジルコニウム塩溶液に対して硫酸塩化剤を混合してもよい。
【0069】
前記硫酸塩化剤としては、ジルコニウムイオンと反応して硫酸塩を生成させるもの(すなわち、硫酸塩化させるもの)であれば良く、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等が例示される。硫酸塩化剤は、例えば粉末状、溶液状等のいずれの形態であっても良い。
【0070】
前記塩基性硫酸ジルコニウムスラリーは、必要に応じて固液分離して塩基性硫酸ジルコニウムを得て、当該塩基性硫酸ジルコニウムを水洗しても良い。固液分離の方法としては、例えば濾過、遠心分離、デカンテーション等の公知の方法に従えば良い。水洗処理した塩基性硫酸ジルコニウムを水等の分散媒に再分散し、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーとしても良い。
【0071】
次に、前記塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを塩基で中和し、水酸化ジルコニウムスラリーを得る。
【0072】
前記塩基としては、特に制限されず、例えば水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。塩基は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
前記塩基の添加量は、上記溶液から沈殿物を生成させることができれば特に限定されず、通常は水酸化ジルコニウムスラリーのpHが10以上、好ましくは12以上となるようにすれば良い。
【0074】
次に、必要に応じて、固液分離し、得られた水酸化ジルコニウムを水洗しても良い。固液分離の方法は、前記の方法に従えば良い。水洗処理した水酸化ジルコニウムを水等の分散媒に再分散し、水酸化ジルコニウムスラリーとしても良い。さらに水酸化ジルコニウムを焼成し、酸化ジルコニウム(ジルコニア)としてもよい。前記焼成の条件は特に限定されず、例えば、焼成温度を800~1200℃とすることができ、1000~1150℃とすることがより好ましい。焼成時間は2~10時間とすることができ、3~9時間とすることがより好ましい。この焼成は、例えば、大気圧下で行うことができる。
【0075】
以上により、酸化ジルコニウム(ジルコニア)が得られる。なお、ジルコニアは、市販品を用いてもよい。
【0076】
一方、前記ジルコニアに、イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含ませるために、イットリウムイオンを含む溶液を準備する。
【0077】
イットリウムイオンを含む溶液(以下、イットリウム溶液ともいう)としては特に限定されず、例えば塩化イットリウム溶液、硝酸イットリウム溶液、酢酸イットリウム溶液等が挙げられる。このとき、後処理が容易であるという点で、硝酸イットリウム溶液が好ましい。
【0078】
前記イットリウム溶液における溶媒としては、特に限定されず、例えば水、エーテル、エタノール等が挙げられる。
【0079】
前記イットリウム溶液の濃度は、特に限定されないが、イットリウムイオンの酸化物換算で10~20質量%が好ましい。20質量%以下とすることにより、溶液からイットリウム塩が析出してしまうことを防止することができる。また、10質量%以上とすることにより、後述する乾燥処理を短時間とすることができる。
【0080】
前記イットリウム溶液は、ジルコニアに対する含有量が1.5mol%以上3mol%以下となるように、前記塩基性硫酸ジルコニウムスラリーに混合されることが好ましい。この場合、前記焼成工程により、イットリアがジルコニウムに固溶し、安定化ジルコニアとなる。ただし、本発明における「イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニア」は、イットリアがジルコニウムに固溶した安定化ジルコニアの形態に限定されず、ジルコニアとイットリアとの混合物であってもよい。
【0081】
上述したように、本実施形態に係る黒色系ジルコニア粉末の製造方法では、イットリアを1.5mol%以上3mol%以下の範囲内で含むジルコニアと、アルミナと、着色剤とを混合する。ジルコニアと、アルミナと、着色剤との混合方法は特に限定されない。ジルコニアと、アルミナと、着色剤とを同時に混合してもよく、ジルコニアとアルミナとを混合してから、着色剤を混合してもよい。
【0082】
前記アルミナの混合量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下とし、前記着色剤の混合量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.75質量%以上2.4質量%以下とする。
本実施形態では、着色剤として特にCoを含む酸化物、及び、Crを含む酸化物を含む。CoやCrの酸化物はアルミナと明瞭な色を持つスピネル化合物を作り易いので、アルミナは、発色助剤としての働きもする。アルミナの混合は着色剤と同時に混合することが好ましいが、前もって混合していてもよい。
【0083】
本実施形態での着色剤の混合は、不純物や揮発成分の少ない酸化物での混合、粉砕のため、組成の変動が生じにくい。また、着色剤が酸化物であるため、省スペース、化合物安定性、管理容易性の点で優れる。前記粉砕、混合には市販の装置を用いることができる。例えば、混合にはV型混合機、各種ブレンダー、粉砕にはボールミル、振動ミル、ビーズミルなどを用いることができる。粉砕、混合後は、必要に応じてスプレードライ処理等により顆粒粉体としてもよい。
【0084】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法について説明した。
【0085】
[黒色系ジルコニア焼結体]
本実施形態に係る黒色系ジルコニア焼結体(以下、ジルコニア焼結体ともいう)は、
ジルコニアと、イットリアと、アルミナと、着色元素とを含み、
前記着色元素がFe、Ti、Co、及び、Crを含み、
前記イットリアの含有量が、前記ジルコニアに対して1.5mol%以上3mol%以下であり、
前記アルミナの含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下であり、
前記着色元素の含有量が、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.75質量%以上2.4質量%以下である。
【0086】
前記ジルコニア焼結体は、ジルコニアを含有する。前記ジルコニアの含有量は、前記ジルコニア焼結体を100質量%としたとき、好ましく90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは94質量%以上、特に好ましくは94.3質量%以上である。前記ジルコニアの含有量の上限値は、特に制限されないが、前記ジルコニアの含有量は、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは97.2質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、特に好ましくは96.9質量%以下である。
【0087】
前記ジルコニア焼結体は、前記ジルコニアの全mol量に対して1.5mol%以上3mol%以下のイットリアを含む。イットリアの含有割合が1.5mol%以上3mol%以下であるため、高強度な焼結体を得ることができる。
【0088】
前記イットリアの含有量は、1.7mol%以上が好ましく、1.8mol%以上がより好ましく、1.9mol%以上がさらに好ましく、2mol%以上が特に好ましい。前記イットリアの含有量は2.7mol%以下が好ましく、2.5mol%以下がより好ましく、2.3mol%以下がさらに好ましく、2.2mol%が特に好ましく、2.1mol%が特別に好ましい。
【0089】
前記ジルコニア焼結体は、酸化アルミニウム(アルミナ)を含む。前記アルミナの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、0.1質量%以上0.4質量%以下である。アルミナを前記数値範囲内で含有するため、良好な焼結体が得られる。
【0090】
前記アルミナの含有量は、0.15質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.23質量%以上がさらに好ましく、0.25質量%以上が特に好ましい。前記アルミナの含有量は、0.35質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.28質量%以下がさらに好ましい。
【0091】
前記ジルコニア焼結体は、イットリアとアルミナとを前記数値範囲内で含むため、常圧焼結で得ることができ、焼結温度を比較的低くすることができる。つまり、本実施形態の前記ジルコニア焼結体は、常圧、且つ、比較的低温の焼結条件であっても、機械的強度の高い焼結体として得ることができる。
【0092】
前記ジルコニア焼結体は、着色元素を含む。前記着色元素は、Fe、Ti、Co、及び、Crを含む。特に、Tiは赤色の制御に寄与し、強度を保ちつつ審美性を向上させることができる。なお、前記着色剤には、稀少金属であるMnを含まない。
【0093】
前記ジルコニア焼結体は、着色元素を、Fe、Ti、Co、Crを含む複合酸化物として含むことが好ましい。ただし、前記ジルコニア焼結体は、全体としてFe、Ti、Co、Crを含んでいればよく、着色元素の含有形態は特に限定されない。
【0094】
前記着色元素の含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.75質量%以上2.4質量%以下である。前記着色剤の含有量は、0.8質量%以上が好ましく、0.9質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、1.1質量%以上が特に好ましく、1.2質量%以上が特別に好ましい。前記着色剤の含有量は、2.2質量%以下が好ましく、2.1質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下がさらに好ましく、1.9質量%以下が特に好ましく、1.8質量%以下が特別に好ましく、1.7質量%以下が格別に好ましい。着色元素としてFe、Ti、Co、及び、Crの4元素を含むため、着色元素の含有量を少なくしても良好な色味を有する。具体的には、着色元素の含有量を、0.75質量%以上2.4質量%以下としても、良好な色味を有する。このことは、実施例の結果からも明らかである。
【0095】
前記Feの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.1質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.18質量%以上がさらに好ましく0.2質量%以上が特に好ましく、0.26質量%以上が特別に好ましい。また、前記Feの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.4質量%以下が好ましく、0.37質量%以下がより好ましく、0.35質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以下が特に好ましく、0.27質量%以下が特別に好ましい。
【0096】
前記Tiの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.05質量%以上が好ましく、0.08質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上がさらに好ましく、0.15質量%以上が特に好ましく、0.18質量%以上が特別に好ましい。前記Tiの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.4質量%以下が好ましく、0.37質量%以下がより好ましく、0.35質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以下が特に好ましく、0.2質量%以下が特別に好ましい。
【0097】
前記Coの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.2質量%以上が好ましく、0.25質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.33質量%以上が特に好ましく、0.45質量%以上が特別に好ましい。前記Coの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.8質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.65質量%以下がさらに好ましく、0.6質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が特別に好ましい。
【0098】
前記Crの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.2質量%以上が好ましく、0.25質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.33質量%以上が特に好ましく、0.45質量%以上が特別に好ましい。前記Crの含有量は、前記ジルコニア、及び、前記イットリアの合計を100質量%としたときに、酸化物換算で0.8質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.65質量%以下がさらに好ましく、0.6質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が特別に好ましい。
【0099】
前記ジルコニア焼結体は、L表色系で規定されるLが7以上9.5以下であることが好ましく、7.5以上9以下であることがより好ましく、8以上8.6以下であることがさらに好ましい。前記ジルコニア焼結体は、L表色系で規定されるaが-10以上-5以下であることが好ましく、-9.5以上-5.5以下であることがより好ましく、-9以上-6以下であることがさらに好ましい。前記ジルコニア焼結体は、L表色系で規定されるbが-2.5以上1以下であることが好ましく、-2以上0.5以下であることがより好ましく、-1以上0.5以下であることがさらに好ましい。前記L表色系で規定されるL、a、bが前記数値範囲内であると、赤色が制御され、審美性の高い黒色を発することができる。つまり、L、a、bが前記数値範囲内であると漆黒でなく、美術品でも好まれるような、わずかに緑みを帯びた緑墨色系の色味となり非常に審美性が高くなる。用途としては、刃物等の家庭用品やゴルフシューズスパイク等のスポーツ用品、アクセサリー等の装飾部材、さらに携帯電話、モバイル端末の筐体などへの展開が考えられる。前記Lは、ジルコニア焼結体を鏡面研磨した後、測定する。より詳細な測定方法は実施例に記載の方法による。
前記L表色系で規定されるL、a、bが前記数値範囲内であると、赤色が制御され、審美性の高い黒色を発することができる。なお、L表色系は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した色空間であり、CIE1976(L)表色系と称される色空間のことを意味している。また、L表色系は、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。
【0100】
前記ジルコニア焼結体は、表面のビッカース硬度(Hv)が10GPa以上12GPa以下であることが好ましく、より好ましくは11GPa以上12GPa以下である。前記ジルコニア焼結体の表面のビッカース硬度(Hv)が前記数値範囲内であると、高硬度のために表面に傷が生じにくく、長期信頼性に優れる。ビッカース硬度(Hv)はJIS R1610-2003に準拠して測定される値である。より詳細な測定方法は実施例に記載の方法による。
【0101】
前記ジルコニア焼結体は、破壊靱性値(KIC)が、10.0MPa・m0.5以上であることが好ましい。前記破壊靱性値は、JIS R1607に準拠して測定される値である。具体的には、ビッカース圧子を用いて測定したビッカース硬度をHv、ヤング率をE、押込荷重をP、クラック長さの平均値の半分をcとしたときに、以下の式を用いて算出する。
IC=0.018×[E/Hv]^(0.5)×P/[c^(1.5)]
前記ジルコニア焼結体の破壊靱性値は、機械特性がより向上するという観点から、10Pa・m0.5以上12.5MPa・m0.5以下であることが好ましく,11Pa・m0.5以上12.5MPa・m0.5以下であることが特に好ましい。、破壊靱性値(KIC)のより詳細な求め方は実施例記載の方法による。
【0102】
前記ジルコニア焼結体は、3点曲げ強度が1200MPa以上であることが好ましく、1300MPa以上であることがより好ましく、1350MPa以上であることがさらに好ましく、1400MPa以上であることが特に好ましい。また、前記3点曲げ強度は、大きいほど好ましいが、例えば、1700MPa以下、1650MPa以下、1600MPa以下、1500MPa以下等とすることができる。前記3点曲げ強度が1200MPa以上であると、高強度であるといえる。
前記3点曲げ強度の測定方法の詳細は、実施例に記載の方法による。
【0103】
前記ジルコニア焼結体の単斜晶相率は20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%未満である。単斜晶相率が20質量%を超える焼結体では光沢性等が低くなり審美性が劣る。単斜晶相率とはX線回折により測定される回折線から、下式により算出される。
単斜晶相率(%)=(Im(111)+Im(11-1))/(Im(111)+Im(11-1)+It(111))×100
ここで、Im(111)は単斜晶相の(111)の回折線強度、Im(11-1)は単斜晶相の(11-1)の回折強度、It(111)は正方晶相の(111)の回折強度である。X線回折装置は市販のものを用いることができる。
【0104】
前記ジルコニア焼結体は、以下に説明する黒色系ジルコニア焼結体の製造方法により、製造することができる。ただし、前記ジルコニア焼結体の製造方法は、この例に限定されない。
【0105】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体について説明した。
【0106】
[黒色系ジルコニア焼結体の製造方法]
以下、ジルコニア焼結体の製造方法の一例について説明するが、以下の例示に限定されない。
【0107】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を焼結する工程Yとを有する。
【0108】
<工程X>
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法においては、まず、前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る(工程X)。前記プレス成型圧は通常、0.1t~3t/cmの範囲でよい。好ましくは、0.5t~2.5t/cm、より好ましくは0.8t~2.2t/cm、さらに好ましくは1t~2t/cmである。
【0109】
ジルコニア粉末を成型するにあたっては、市販の金型成型機や冷間等方圧加圧法(CIP)を採用できる。また、一旦、ジルコニア粉末を金型成型機で仮成型した後、CIP等のプレス成型で本成型してもよい。従来、ジルコニア粉末の成型体を作製する場合、高圧条件で行われていたが、本実施形態では、比較的低い成型圧で成型体を作製する。本実施形態では、前記ジルコニア粉末を用いることにより、このような低い成型圧で成型体を作製しても、高強度を有する焼結体を得ることができる。
【0110】
<工程Y>
前記工程Xの後、前記成型体を焼結する(工程Y)。これにより、本実施形態に係るジルコニア焼結体が得られる。
【0111】
前記焼結時の焼結温度は、ジルコニア粉末の比表面積や成形圧力により異なるが、1300℃以上1500℃以下が好ましく、1350℃以上1450℃以下がより好ましい。
常温(25℃)から焼成温度までの昇温速度は、特に制限はないが、50~200℃/時間とすることができ、100~150℃/時間がより好ましい。
前記焼結時の保持時間は、1時間以上10時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下がより好ましい。焼結時の雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中とすることができる。
通常比表面積6mのジルコニア粉末では、成形圧が静水圧1t/cmの場合、1300~1400℃、比表面積15mの粉末で1200~1300℃の焼結温度で理論密度の98%以上の焼結体が得られる。
【0112】
以上、本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法について説明した。
【実施例0113】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において得られたジルコニア粉末中には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0114】
[ジルコニア粉末、及び、ジルコニア焼結体の作製]
(実施例1)
BET比表面積が8m/gの2mol%Y添加ジルコニアの粉末(第一稀元素化学工業株式会社製)を準備した。なお、Yは、ジルコニアに固溶しており、安定化ジルコニアを形成している。
このジルコニアの粉末1kgに対して、Alを0.25質量%、Feを0.26質量%、TiOを0.18質量%、Coを0.49質量%、Crを0.49質量%添加し、さらに、イオン交換水を添加し、ジルコニア製粉砕メディアを充填したポットミルにて湿式混合、粉砕を10時間実施した。その後、得られたスラリーを100℃で乾燥してジルコニア粉末を得た。
【0115】
得られたジルコニア粉末をCIPを用いて静水圧1t/cmで成形し成形体を得た。得られた成形体を、電気炉で昇温速度100℃/時、大気中1400℃で2時間焼結し、ジルコニア焼結体を得た。
なお、表1では、イットリアの含有量については、ジルコニアに対する含有量を、アルミナの含有量については、ジルコニア、及び、イットリアの合計を100質量%としたときの含有量を、着色剤(Fe、TiO、Co、Cr)の含有量については、ジルコニア、及び、イットリアの合計を100質量%としたときの含有量を示している。
【0116】
(実施例2~実施例9、比較例1~比較例3)
イットリアの含有量、アルミナの含有量、着色剤の含有量を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例9、比較例1~比較例3のジルコニア粉末、及び、ジルコニア焼結体を得た。
【0117】
[ジルコニア粉末の平均粒子径]
実施例、比較例で得られたジルコニア粉末の平均粒子径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置「SALD-2000」(島津製作所社製)を用いて測定した。より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で5分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2000」島津製作所社製))に投入して測定した。結果を表1に示す。
【0118】
[ジルコニア粉末の比表面積の測定]
実施例、比較例で得られたジルコニア粉末の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ-II」、マイクロメリティクス社製)を用いてBET法にて測定した。結果を表1に示す。
【0119】
[ジルコニア焼結体の相対焼結密度]
実施例、比較例で得られたジルコニア焼結体の相対焼結密度を下記式(1)に従って求めた。
【0120】
前記相対焼結密度は、下記式(1)で表される相対焼結密度のことをいう。
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+225.81X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、X及びYはそれぞれ、イットリア濃度(mol%)及びアルミナ濃度(質量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は、粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有量が2mol%であれば、6.112g/cmである。なお、この理論焼結密度は、アルミナ量0.25%を加味している。焼結密度は、アルキメデス法にて計測した。
着色剤を添加した場合は、アルミナ添加と同様に計算した。
【0121】
[焼結体の色調]
実施例、比較例で得られたジルコニア焼結体の色調を、色彩色差計(商品名:CM-3500d、コニカミノルタ社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0122】
[ジルコニア焼結体のビッカース硬度]
実施例、比較例で得られたジルコニア焼結体のビッカース硬度を、JIS R 1610 (ファインセラミックスの硬さ試験方法)に準拠して求めた。結果を表1に示す。
【0123】
[ジルコニア焼結体の靭性値]
実施例、比較例で得られたジルコニア焼結体の靭性値を、JIS R1607に準拠して測定した。具体的には、ビッカース圧子を用いて測定したビッカース硬度をHv、ヤング率をE、押込荷重をP、クラック長さの平均値の半分をcとしたときに、以下の式を用いて算出した。結果を表1に示す。
IC=0.018×[E/Hv]^(0.5)×P/[c^(1.5)]
ヤング率Eは、一般的なイットリア安定化ジルコニアの値として知られている210GPaを使用した。
また、押込荷重Pは、20kgfとした。ここで、圧痕を打ちこむ場所によっては、正常な形状の圧痕が形成されない場合があるため、(1)圧痕の形が四角形である、(2)亀裂が圧痕の四角から圧痕の対角線延長上に発生している、(3)直行する2方向のき裂長さの差が、平均亀裂長さの10%以下である、という3つの条件を満たす圧痕を5点選定し、それら5点のビッカース硬度から得られる靱性値の平均値を採用した。
なお、クラック長さの平均値とは、X軸クラック長さとY軸クラック長さとの平均を意味する(図1参照)。
【0124】
[ジルコニア焼結体の3点曲げ強度]
実施例、比較例で得られたジルコニア焼結体の3点曲げ強度を、JIS R 1601の3点曲げ強さに準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0125】
【表1】
図1