(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034296
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】漬物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/10 20060101AFI20220224BHJP
【FI】
A23B7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138029
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】391001619
【氏名又は名称】長野県
(72)【発明者】
【氏名】水谷 智洋
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169DA05
4B169DA08
4B169HA01
4B169HA09
4B169HA11
4B169KC18
4B169KC24
4B169KC38
(57)【要約】
【課題】着色料や重金属を用いずに、緑色を保持しており、かつ機能性成分のGABAを高含有した、緑色野菜および緑色果物の少なくとも一方を材料とした乳酸発酵漬物の製造方法を提供すること。
【解決手段】グルタミン酸脱炭酸酵素を保持した乳酸菌と、グルタミン酸およびグルタミン酸の塩類の少なくとも一方とを前記材料に添加して、乳酸発酵させることで、緑色を保持し、かつGABAを高含有した乳酸発酵漬物を製造できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑色野菜および緑色果物の少なくとも一方を材料として、スターターとしてのグルタミン酸脱炭酸酵素を保持した乳酸菌と、グルタミン酸およびグルタミン酸の塩類の少なくとも一方とを前記材料に添加して、乳酸発酵させることを特徴とする漬物の製造方法。
【請求項2】
前記グルタミン酸脱炭酸酵素を保持した乳酸菌として,長野県工業技術総合センターが保有するLactobacillus buchneri LB107株およびLB130株の少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1記載の漬物の製造方法。
【請求項3】
前記材料に対して、前記グルタミン酸脱炭酸酵素を保持した乳酸菌を105個/g以上を用いることを特徴とする請求項1または2記載の漬物の製造方法。
【請求項4】
前記材料に対して、前記グルタミン酸脱炭酸酵素を保持した乳酸菌を106個/g以上を用いることを特徴とする請求項3記載の漬物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミン酸脱炭酸酵素を保有する乳酸菌をスターターとして用いることを特徴とする漬物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漬物には、調味液に短時間漬け込む発酵を伴わない浅漬けと、乳酸菌などにより発酵させた乳酸発酵漬物がある。菜類や胡瓜の浅漬けは、乳酸発酵させないことで、緑色を保持させている。一方、乳酸発酵漬物は、発酵により浅漬けにはない独特の風味を持たせることができるが、発酵によりpHが低下すると、緑色物質のクロロフィル中のマグネシウムが外れ、黄褐色のフェオフィチンに変化し、緑色が失われる。
【0003】
緑色野菜の退色防止技術として、着色料を添加する方法や、クロロフィル中のマグネシウムを銅、鉄、亜鉛等の重金属で置換して、安定化する方法が知られている。例えば、特許文献1では、塩蔵野菜を、亜鉛イオンを主成分とする加熱溶液に浸漬して、緑色を復元させる方法が提案されている。特許文献2では、退色した漬物を、金属イオンを含有した酵母を接触させることで、緑色を復元させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-298958号公報
【特許文献2】特開昭2006-314300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、着色料あるいは銅や鉄などの重金属は、健康志向の消費者に敬遠される傾向にある。また、重金属の添加は金属臭などの発生により風味の悪化を伴う可能性があり、依然として、改良の余地がある。
【0006】
本発明は、着色料や重金属を用いずに、野沢菜などの乳酸発酵漬物の緑色の退色を抑制して、緑色を保持した漬物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、グルタミン酸脱炭酸酵素を保有する乳酸菌をスターターとし、さらにグルタミン酸を添加して発酵させることで、乳酸発酵が進んでも緑色の退色を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、乳酸発酵後の緑色の退色が低減された菜類などの緑色野菜や緑色果物の乳酸発酵漬物を提供できる。さらに、同時に血圧降下作用や精神安定作用などの生理作用を有することが知られている、機能性成分のγ-アミノ酪酸(以下、GABAとする)を高含有した乳酸発酵漬物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0010】
本発明の乳酸発酵漬物とは、その原材料が野沢菜、からし菜などの緑色野菜、あるいはメロン、マスカットなどの緑色果物で、2種類以上混合して用いても良い。
【0011】
本発明に使用するグルタミン酸は、グルタミン酸ナトリウムなどの塩類を用いても良い。また、これらを2種類以上混合して用いても良い。グルタミン酸の添加量は、0.1~2重量%程度が好ましく、より好ましくは、0.3~1重量%程度である。
【0012】
本発明に使用するグルタミン酸脱炭酸酵素を保持した乳酸菌は、Lactobacillus属、Lactococcus属、Leuconostoc属など、グルタミン脱炭酸酵素を保持している乳酸菌であれば、属種は特に限定されない。また、2種類以上を混合して用いても良い。初発添加量は、105個/g以上が好ましく、より好ましくは106個/g以上である。添加する乳酸菌は、培養した菌体でも良いし、凍結乾燥した菌体などでも良い。
【実施例0013】
次に本発明の実施例を以下に示すが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、実施例に使用した乳酸菌は、いずれも野沢菜漬けから単離した長野県工業技術総合センターの保有株であり、長野県工業技術総合センター微生物頒布実施要領に基づき、分譲、入手可能な乳酸菌である。
【0014】
<実施例1>
2.5cm程度にカットした野沢菜4kgを、100ppm次亜塩素ナトリウムで10分殺菌した。水で洗浄後、2kgの6%食塩水を加えて、重しをのせ、4℃で一晩下漬けした。水で洗浄後、野沢菜と食塩水を重量比2:1の割合で混合し、食塩濃度を2.2%に調整した。さらに、予め培養しておいたLactobacilllus buchneri LB107株を107個/gとなるように接種し、0.5%のグルタミン酸ナトリウムを加えて、10℃で2週間発酵させた。
【0015】
<比較例1>
比較例1は、グルタミン酸ナトリウムを無添加とし、それ以外は実施例1と同様である。
【0016】
<実施例2>
実施例2は、接種した乳酸菌がLactobacilllus buchneri LB130株であること以外は、実施例1と同様である。
【0017】
<比較例2>
比較例2は、グルタミン酸ナトリウムを無添加とし、それ以外は実施例2と同様である。
【0018】
緑色度の評価は、緑色のクロロフィルから黄褐色のフェオフィチンへの変化率を用いて評価した。サンプルを凍結乾燥した後、サンプルに20倍量の80%アセトンを加えて抽出した。これをろ過し、10mLずつ採取した。一方は、0.3mLの80%アセトンを加えて、534nmおよび556nmの吸光度を測定した。もう一方は、0.3mLのシュウ酸飽和80%アセトンを加えて、暗所で2時間処理した後、534nmおよび556nmの吸光度を測定した。変化率は次式により求めた。
フェオフィチンへの変化率(%)={(Rx-0.95)/(R100-0.95)}×100
Rx=80%アセトンを加えた、534nmの吸光度/556nmの吸光度
R100=シュウ酸飽和80%アセトンを加えた、534nmの吸光度/556nmの吸光度
【0019】
pHは、卓上pHメーター「F-73」(堀場製作所)を用いて測定した。GABAはアミノ酸自動分析計「L-8900」(日立ハイテクノロジーズ)を用いて測定した。乳酸菌数は、生理食塩水で希釈した漬け汁をMRS培地(50ppmアジ化ナトリウム、10ppmシクロヘキシミド含有)に混釈し、35℃で72時間培養後のコロニー数を測定した。乳酸は、有機酸分析計「Prominence有機酸分析システム」(島津製作所)を用いて測定した。
【0020】
2週間発酵後の、各分析結果を表1に示す。
【0021】
【0022】
表1が示すように、いずれの実施例においても、乳酸菌数は比較例よりやや少ないが、乳酸量は、いずれも実施例の方が多く、乳酸発酵は十分行われた。菌体内に取り込まれたグルタミン酸は、グルタミン酸脱炭酸酵素により脱炭酸され、カルボキシル基が一つ少ないGABAに変換されて菌体外に排出される。このため、いずれの実施例においても、乳酸量が比較例より多いが、pHの低下は抑制された。その結果,緑色のクロロフィルから黄褐色のフェオフィチンへの変化が抑制され、緑色を保持した漬物を製造することが可能となった。また、同時に機能性成分であるGABAを高含有させることができた。
本発明は、緑色野菜や緑色果物を用いた乳酸発酵漬物の製造に利用できる。本発明により、乳酸発酵によるpH低下を抑えることで、緑色を保持した漬物を製造することが可能である。同時に、GABAを高含有させた漬物の製造も可能である。